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(´・ω・`)は偽りの亡霊を捕まえるようです

1 ◆wPvTfIHSQ6:2018/08/23(木) 01:38:11 ID:qgB33Ij20
 
 
▼シリーズ過去作
(´・ω・`)は偽りの香りを見抜くようです+α
http://boonsoldier.web.fc2.com/ituwari.htm
(´・ω・`)は偽りの根城を突き止めるようです+α
http://boonsoldier.web.fc2.com/ituwariII.htm
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
http://boonsoldier.web.fc2.com/ituwariIII.htm
 
 
逃亡しないことを祈ってる
 
あと作中に過去作に登場した人物の名前が出たりしますけど
特に描写がなければまったくの別人物だと思ってください(スターシステム)
シリーズに複数回登場したAAがかぶることはないです

690名無しさん:2018/10/12(金) 23:45:43 ID:l91x2tpA0
 
 
 
(´・ω・`) 「ミセリから聞いたら、クックル、無口らしいじゃん」
 
(´・ω・`) 「当時は、そうでもなかったんだ?」
 
( ´_ゝ`) 「普段は無口よ」
 
 
( ´_ゝ`) 「ただ、感情を前に出したがらない、ッつーのか」
 
( ´_ゝ`) 「楽しくなったり、気が置けない連中と一緒にいたら、饒舌になるんだ」
 
(´・_ゝ・`) 「見た目あんなンだったのに、可愛い奴だったよね」
 
(´・ω・`) 「ほーん」
 
 聞けば聞くほど、七人の仲の良さが伝わってくる。
 集まりに抵抗を示していたミセリも、普段無口だったクックルも。
 なるほど確かに、なんだかんだ楽しくアウトドアしていたのだろう。
 
 時系列を聞く前に、人物像から固めていったほうがいいのか。
 いや、時系列を追うだけでも、ある程度は人がわかるか。
 
.

691名無しさん:2018/10/12(金) 23:47:07 ID:l91x2tpA0
 
 
 
(´・ω・`) 「ギコは?」
 
( ´_ゝ`) 「あいつな。 いろんなものを見てたぜ」
 
( ´_ゝ`) 「紅葉狩りッつーか、観賞か」
 
( ´_ゝ`) 「無縁な人生を送ってたみたいでよ、新鮮な目で、楽しんでた」
 
 
(´・ω・`) 「というと」
 
( ´_ゝ`) 「野鳥を眺めたり、名前も知らない花を見つめたり」
 
( ´_ゝ`) 「俺もカメラはじめようかな、とか言ってたな」
 
 畢竟、自然を楽しんでいたわけか。
 野鳥にしても、山奥を飛ぶそれらは確かに新鮮なものだろう。
 猛禽類は、近くで見るとなかなか感慨深くなるものだ。
 
 
(´・_ゝ・`) 「カメラ落とした兄者氏見て、撤回してたけどね」
 
( ´_ゝ`) 「うるせえよバカヤロウ」
 
.

692名無しさん:2018/10/12(金) 23:48:57 ID:l91x2tpA0
 
 
 
(´・ω・`) 「きみは?」
 
(´・_ゝ・`) 「僕かい?」
 
(´・_ゝ・`) 「そんなみんながごちゃごちゃしてるのが、楽しかったですよ」
 
(´^_ゝ^`) 「みんなと一緒に、普段見ない景色を眺めるのは……もっと楽しかった」
 
(´・ω・`) 「いいねえ」
 
 ひとりで見るのと、みんなで見るのとでは、全然違うものだ。
 観賞の良さを知っていた兄者、
 大勢の楽しさを知っていたデミタスは、一歩大人びていたと言えるだろう。
 
 
(´・_ゝ・`) 「少しごちゃごちゃしてから、クックルが先にコテージに戻ったね」
 
(´・_ゝ・`) 「といっても、片付けがてら、コテージと往復してたんだけど」
 
(´・ω・`) 「じゃあ、その時のコテージは、貞子とヒッキー、」
 
(´・ω・`) 「ンでたまにクックル……か」
 
( ´_ゝ`) 「つっても一時間もしてないけどな」
 
.

693名無しさん:2018/10/12(金) 23:49:27 ID:l91x2tpA0
 
 
 
( <●><●>) 「クックルに、変わった様子は」
 
( ´_ゝ`) 「特にーーなかったな。 うん」
 
( ´_ゝ`) 「で、クックルが戻って……だ」
 
( ´_ゝ`) 「まあ、みんなぼちぼち戻るかッてなって」
 
 
( ´_ゝ`) 「特に予定もないんだ」
 
( ´_ゝ`) 「トランプとか麻雀あったし、それらで遊ぶもよし」
 
( ´_ゝ`) 「ちょっと山を探検するもよし、だった」
 
 トランプはともかく、麻雀はなかなか渋いな。
 と言うと、最近の大学生はだいたい麻雀が好きだ、と言われた。
 
(´・ω・`) 「完全に、予定とかは一切なかった、と」
 
( ´_ゝ`) 「一応、ギコは予定、考えてたみたいだけど」
 
(´・ω・`) 「予定?」
 
( ´_ゝ`) 「ああ……釣り具持ってきてたんだ、アイツ」
 
( ´_ゝ`) 「渓流釣りとかできたらいいな、ッて」
 
.

694名無しさん:2018/10/12(金) 23:57:40 ID:l91x2tpA0
 
 
 
( ´_ゝ`) 「ただ、めぼしい川はなかったし」
 
( ´_ゝ`) 「そもそも、迷うのが怖くて、結局行かなかったらしいけど」
 
( <●><●>) 「ちなみに、釣り具は」
 
( ´_ゝ`) 「ずっと車のトランクで留守番さ」
 
(´・ω・`) 「他に、留守番してたのはなんかある?」
 
( ´_ゝ`) 「ん? そうだなあ……」
 
 
(´・_ゝ・`) 「誰か知らんが虫取り網とか持ってきてたよな。 百均の」
 
( ´_ゝ`) 「ああ、あれ俺だわ」
 
(´・_ゝ・`) 「え?まじ?」
 
( ´_ゝ`) 「その……ちょっとウケ狙って……」
 
(´・_ゝ・`) 「あのクソほど邪魔だった文字通りのお荷物が??」
 
( ´_ゝ`) 「その……うん、十年前だから時効だ」
 
(´・_ゝ・`) 「反省して」
 
.

695名無しさん:2018/10/12(金) 23:58:04 ID:l91x2tpA0
 
 
 
 持込品にも、めぼしいものはないか。
 もとが突発的な企画だ、殺害を計画して何かを持ってきた線は薄そうだ。
 
 あるいは、自然なものを利用して犯行に転じた可能性もある。
 しかし、当人らの記憶や先入観が邪魔して、手がかりとして得られないかもしれない。
 
(´・ω・`) 「ごはん終わって、一旦みんなコテージに戻ったんだね?」
 
( ´_ゝ`) 「んー……まあ、そうだな」
 
(´・ω・`) 「ん?」
 
 
( ´_ゝ`) 「別に、集団行動とかしてたワケじゃなかったもんで」
 
( ´_ゝ`) 「ギコは結構常に外にいたし」
 
( ´_ゝ`) 「逆にヒッキーはほとんど外に出てなかった」
 
(´・_ゝ・`) 「一回か二回くらい、紅葉見に行った程度だったよね」
 
(´・_ゝ・`) 「セリっちがけしかけたからだけど」
 
.

696名無しさん:2018/10/12(金) 23:59:05 ID:l91x2tpA0
 
 
 
( <●><●>) 「けしかけた?」
 
(´・_ゝ・`) 「そうだなあ……」
 
 
(´・_ゝ・`) 「ウォッホン!」
 
(#´・_ゝ・`) 「そんなンだから童貞なんだよテメーはよォ!」
 
(#´・_ゝ・`) 「ほらせーの!リアジューしようぜ!リアジューしようぜ!ハイッ!」
 
 
(´^_ゝ^`) 「……的な?」
 
 今の唐突な茶番はなんだ。
 まさかミセリの真似とでも言うのか。
 
( <●><●>) 「…」
 
( <●><●>) 「ミセリは、当時は結構やんちゃだったので?」
 
( ´_ゝ`) 「やんちゃ……なのかなァ」
 
( ´_ゝ`) 「まあ、テンション次第で暴走するフシはあったよ」
 
.

697名無しさん:2018/10/13(土) 00:07:37 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
(´・ω・`) 「じゃあ、旦那さんは?」
 
( ´_ゝ`) 「ああ、それ」
 
( ´_ゝ`) 「暴走したセリっちは、クックルしか止められなかったもんでよ」
 
( ´_ゝ`) 「思えばあの子、最初のほうからクックルが結構お気に入りだったみたいだし」
 
(´・_ゝ・`) 「あれさ、明らかセリっちから告白したよね」
 
 ん。
 そういえば、ミセリとクックルの関係は、あまり知られてなかったな。
 
 
(´・ω・`) 「二人が付き合ってたのは、みんな知ってたの?」
 
( ´_ゝ`) 「まあ、知ってたッつーか…」
 
( ´_ゝ`) 「なんとなく察しがつくじゃん、そういうの」
 
.

698名無しさん:2018/10/13(土) 00:10:44 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
(´・ω・`) 「証言によると、だ」
 
(´・ω・`) 「そんな人間関係の話……きみはだいたい知ってるッて聞いたけど」
 
( ´_ゝ`) 「……」
 
(´・ω・`) 「当人らから話はされなかったんだ」
 
( ´_ゝ`) 「……」
 
( ´_ゝ`) 「あーー」
 
 
( ´_ゝ`) 「ごめん。 知ってたわ、俺」
 
( ´_ゝ`) 「クックルから、普通に聞いてたよ」
 
(´・ω・`) 「ん」
 
(´・_ゝ・`) 「え。 そうなんだ」
 
( ´_ゝ`) 「ただ、あんまし言及したら、サークルにいいことないだろ」
 
( ´_ゝ`) 「他人の恋路は邪魔しちゃいけないもんだ」
 
.

699名無しさん:2018/10/13(土) 00:13:34 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
 当時からの、あまり触れようとしない性格が残っていたのか。
 無意識のうちに、二人の関係を知らない芝居を打っていた。
 
 これは少し、面倒だなと思った。
 兄者は、他意なく重要な情報を隠してしまうかもしれない、ということ。
 
 また、兄者は、隠し事が非常にうまい、ということ。
 貞子の件は、最初から見当がついていたからいい。
 まだ僕らが一切知らないでいる情報を得るのは、やや骨が折れそうだ。
 
 
( ´_ゝ`) 「クックル、根が真面目だからさ」
 
( ´_ゝ`) 「俺に、相談してきたんだ。 サークル内で付き合っていいのか」
 
(´・_ゝ・`) 「なんて返したの?」
 
( ´_ゝ`) 「そりゃあおめ、悪いことはない」
 
( ´_ゝ`) 「うまくやれよ、とだけ言ったさ」
 
.

700名無しさん:2018/10/13(土) 00:15:29 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
(´・ω・`) 「ドロドロになるッてのは、警戒しなかったんだ?」
 
( ´_ゝ`) 「いやーー、そりゃあするよ」
 
( ´_ゝ`) 「根暗なサークルの、恋愛沙汰だぜ。 最悪、崩壊するかもしれん」
 
 ただ。
 兄者は続けた。
 
( ´_ゝ`) 「クックルは、波風を立てるようなキャラじゃないし」
 
( ´_ゝ`) 「セリっちも、性格を考えたら、人前でそんな露骨にはイチャつかんだろ」
 
( ´_ゝ`) 「だったら、こっちからは余計なことは言わんでいい」
 
( ´_ゝ`) 「実際、多少察されるにせよ、問題なく付き合ってたしな」
 
 
( <●><●>) 「念のためですが、」
 
( <●><●>) 「クックル以外に、ミセリのことを好いていた人はいないのですか?」
 
.

701名無しさん:2018/10/13(土) 00:16:47 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
 それは、僕も気になる点だ。
 サークル内恋愛となると、そういったところからいざこざが発生し、
 その延長で亡霊の怨恨に繋がってしまったということもある。
 
( ´_ゝ`) 「いやあ、どうだろうね」
 
( ´_ゝ`) 「そりゃ見た目は可愛いし、体形もいいんだ、華はあったね」
 
( ´_ゝ`) 「ただ、それとこれとは違う。 わかるだろう」
 
 目の保養、というのか。
 アイドルを応援するファンに近い感じかもしれない。
 
 よく思う気持ちは、なにも恋愛感情にしか結びつかないわけではない。
 多少下心があっても、恋愛感情なしで当人を気に入るのは自然な話だ。
 それこそ、兄者が言う華、のような感情だろう。
 
 
(´・ω・`) 「もう一人の、女性」
 
(´・ω・`) 「貞子は、どんな感じだったんだい?」
 
.

702名無しさん:2018/10/13(土) 00:17:10 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
( ´_ゝ`) 「もともと、うちはインドアなサークルだ」
 
( ´_ゝ`) 「セリっちが例外すぎるだけで、貞子はイメージそのままだぜ」
 
( ´_ゝ`) 「おとなしいインドア女子よ」
 
( <●><●>) 「ちなみに、彼女の写真などは」
 
( ´_ゝ`) 「ううん……ないかなァ」
 
( ´_ゝ`) 「さっきも言ったけど、部員の写真は撮らないからブログには残ってないし」
 
 さすがに、十年前だと考えると、
 ケータイにも残っていることはないだろう。
 ただ、だいたいのイメージはついた。
 
( ´_ゝ`) 「典型的なインドア派で、散髪すら億劫に思う始末だね」
 
( ´_ゝ`) 「おっと。 なにも悪口じゃないぜ」
 
( ´_ゝ`) 「俺もこいつも、ヒッキーもそんな感じなんだ。 むしろ同志と言えよう」
 
(´・ω・`) 「ほほん」
 
.

703名無しさん:2018/10/13(土) 00:17:40 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
(´・_ゝ・`) 「刑事さんはわかりづらいかな」
 
(´・_ゝ・`) 「髪を切るその数千円で、好きなものが買える」
 
(´^_ゝ^`) 「……ッてな具合でね。 まあ、そんなもんなんだよ」
 
(´・ω・`) 「まあ、理解はできる」
 
 朝食をとる時間があったら少しでも寝ていたい、というような心地だろう。
 僕に当てはめれば、お見合いをするくらいなら酒を呷りたくなるようなものだ。
 
 
( ´_ゝ`) 「俗にいう、ボーイズラブとかが好き……えっと。」
 
( ´_ゝ`) 「なんにせよ、化粧を意識したり、ファッションに拘るような性格ではなかった」
                      、、 、 、
( ´_ゝ`) 「……ま、典型的な、こっち側の人間なワケですよ」
 
 
(´・_ゝ・`) 「でも、ふつうにスタイルよかったし、顔立ちも整ってたのになァ」
 
( ´_ゝ`) 「俺、しょっちゅう言ってたじゃん。 もったいないッて」
 
.

704名無しさん:2018/10/13(土) 00:19:42 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
 よく聞く話ではあった。
 容姿、素材はいいのに、自分に自信を持てず、
 そういった自分磨きに意欲を持てないタイプの女性だ。
 
 女性の美しさは、化粧の巧さだ。
 揶揄でもなんでもなく、化粧が巧い女性は、
 すなわち自分を魅せるのが巧い女性である。
 
 そしてそれは、自分の持つ美しさを引き立てることに長けているわけだ。
 自身の美しさを知らなければそれはできないし、
 自身ですら知らない美しさを、他人が知れるはずもない話でしかない。
 
 
(´・ω・`) 「性格は、どんな感じだった?」
 
( ´_ゝ`) 「まあ、おとなしくはある」
 
( ´_ゝ`) 「ただ、毛色は違うにせよ、クックルと一緒よ」
 
(´・ω・`) 「ほう」
 
( ´_ゝ`) 「普段は無口だけど、スイッチが入ると暴走するタイプね」
 
(´・ω・`) 「……それは、むしろミセリじゃあ?」
 
( ´_ゝ`) 「それはそれ、これはこれ」
 
.

705名無しさん:2018/10/13(土) 00:20:24 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
( ´_ゝ`) 「自分の好きな話になると、途端に饒舌になるんだ」
 
( ´_ゝ`) 「まあ、それはこっち側の人間共通だがな」
 
( ´_ゝ`) 「あの子の場合、人と話すのに慣れてないもんで」
 
 ぎょろ目の話を思い出した。
 昔はよく息子の話を聞かされたものだが、
 息子は引っ込み思案なくせに、電車の話となると食事も忘れ夢中になるらしい。
 咀嚼していた米粒なんかを飛ばしながら、語ったそうだ。
 
 
( ´_ゝ`) 「ほら。」
 
( ´_ゝ`) 「人って、話し方で、ああ、慣れてるな慣れてないな、ッてわかるじゃん」
 
(´・ω・`) 「そうだね」
 
(´・ω・`) 「僕も、おたくが話し慣れてることはすぐにわかった」
 
(´・ω・`) 「すごく落ち着いた、でも抑揚の利いた巧い話し方だ」
 
( ´_ゝ`) 「そいつはありがとうございます」
 
.

706名無しさん:2018/10/13(土) 00:20:59 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
( ´_ゝ`) 「早口だったり、会話が成り立ってなかったり」
 
( ´_ゝ`) 「ま、俗にいうコミュ障、ってのかい」
 
 兄者の巧いところは、ワンクッション置くときの言い回しだったりもそうだ。
 相槌を入れたり、質問を挟んでも、流れを崩さず話し続けていられるところにある。
 
 そしてそれは、それだけ精神体がしっかりしている、ということ。
 なるほど確かに、信頼に足る人物だろう。
 ミセリたちが彼に惹かれて入部したというのも、わかる話だ。
 
 
( ´_ゝ`) 「あの子の場合、昔から人付き合いが浅かったそうで」
 
( ´_ゝ`) 「人と接する青春を、趣味に費やしてきたんだ、」
 
( ´_ゝ`) 「会話にせよ仕草にせよ、マ、そんな感じの女の子よ」
 
( ´_ゝ`) 「ただ、万が一にも悪いやつではなかった」
 
.

707名無しさん:2018/10/13(土) 00:21:27 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
(´・ω・`) 「ほう」
 
( ´_ゝ`) 「自分に自信がない分、随分と繊細でよ」
 
 
( ´_ゝ`) 「ほら……あれ。」
 
( ´_ゝ`) 「自分が傷つくようなことは、他人にするな、ッてあれ」
 
( ´_ゝ`) 「あれを素でゆく人物さ。 むしろ、かなり心配性だったとも言えるね」
 
 だいたいの人物像は掴めた。
 引っ込み思案、おとなしい、繊細。
 付け加えるならば、きっとかなりメンタルが弱かった女性だろう。
 
 その実根性があったかもしれないが、この際どちらでもいい。
 大まかの人がわかっただけで十分だ。
 
 
( <●><●>) 「貞子は、ミセリのような色恋沙汰はなかったので?」
 
( ´_ゝ`) 「好きですねえ、刑事さんも」
 
 訂正しよう。
 兄者は確かにクチが巧いが、喧嘩を売る相手を見極める能力はない。
 こいつは上司のいじりにすら舌打ちを欠かさない、クソ真面目の野郎なんだぞ。
 
.

708名無しさん:2018/10/13(土) 00:22:30 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
( ´_ゝ`) 「なんてのはいいとして」
 
( ´_ゝ`) 「まあ……なかったと思うよ」
 
(´・ω・`) 「思う、ッてのは」
 
 さっきの今だ。
 ミセリとクックルの件よろしく、自然に隠されてはならない。
 
 
( ´_ゝ`) 「ヒッキーと、繋がりはあったんじゃないかな、とは」
 
( ´_ゝ`) 「思ってたよ」
 
(´・_ゝ・`) 「え。 まじ?」
 
( ´_ゝ`) 「いやあ……怪しいんだけどさ」
 
( <●><●>) 「何か、根拠が?」
 
( ´_ゝ`) 「根拠がないから、怪しい……ッて感じですね」
 
.

709名無しさん:2018/10/13(土) 00:26:14 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
( ´_ゝ`) 「ヒッキーと貞子、って見ると、確かにお似合いだな、とは思うんだ」
 
( ´_ゝ`) 「どっちも、太陽の下よりは、木陰で生きてきた二人だ」
 
( <●><●>) 「ヒッキーは、どんな人だったのでしょうか」
 
( ´_ゝ`) 「文字通り、こっち側、ッてね」
 
 
( ´_ゝ`) 「中学の頃、いじめが原因で不登校になったそうで」
 
( ´_ゝ`) 「その頃にネット始めて、いろいろ変わったみたいだ」
 
(´・ω・`) 「ん?」
 
 ちょっと引っかかるな。
 
(´・ω・`) 「確か、おたくとヒッキーって、昔からの仲だよね」
                        、 、、
(´・ω・`) 「不登校になった……そうで、ッてのは?」
 
.

710名無しさん:2018/10/13(土) 00:42:55 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
( ´_ゝ`) 「あれ。 言ってなかったか」
 
( ´_ゝ`) 「俺とやつは、ネットで知り合ったんだ」
 
(´・_ゝ・`) 「え、そうなの!」
 
( ´_ゝ`) 「あれ? もしや誰も知らんかった?」
 
(´・_ゝ・`) 「てっきり、腐れ縁とかそんなもんかと」
 
 同い年で昔からの知り合い、というだけで勘違いしていた。
 まあ、彼らのコミュニティを考えれば、納得はできる話だ。
 
 
( ´_ゝ`) 「まあいいや」
 
( ´_ゝ`) 「ネットで知り合って、意気投合してな」
 
( ´_ゝ`) 「ちょいちょい実際に会ったりもしたぜ」
 
(´・_ゝ・`) 「って、じゃあヒッキーって半値だったの?」
 
( ´_ゝ`) 「いや?」
 
.

711名無しさん:2018/10/13(土) 00:43:16 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
(´・ω・`) 「ハンネ、ってのは?」
 
( ´_ゝ`) 「ああ。 ネットで使う名前、だよ」
 
( ´_ゝ`) 「ラジオネームみたいなもん」
 
 おじさんにも伝わりやすい、実にわかりやすい例えだ。
 インターネットでは本名は晒さないものだ、と聞いていたが、そういうことか。
 
 
(´・_ゝ・`) 「あの人本名勢だったん?w」
 
( ´_ゝ`) 「いやいや、さすがに」
 
( ´_ゝ`) 「スカイプでやり取りしてる時にな、聞いたんだよ」
 
(´・_ゝ・`) 「出会い厨かよ〜」
 
( ´_ゝ`) 「ちがくて」
 
( ´_ゝ`) 「むっちゃ長い厨二ネームで、略しようもなかったんよ」
 
(´・_ゝ・`) 「ちなみに、なんて名前?」
 
( ´_ゝ`) 「退き際知らぬ若人よ汝は誰ぞ愛すか」
 
(´・_ゝ・`) 「文章wwwwwまさかの文章wwwwwwww」
 
.

712名無しさん:2018/10/13(土) 00:43:55 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
( ´_ゝ`) 「そらで言えた自分につい笑ってしまうわ」
 
(´・_ゝ・`) 「まあまあ、若気の至りすな(笑)」
 
( ´_ゝ`) 「で、名前聞いたら、ヒッキーって聞いて」
 
(´・_ゝ・`) 「ああ、それで退き際云々……」
 
(´・_ゝ・`) 「だめだくそ笑うwwww」
 
( ´_ゝ`) 「wwwww」
 
 
( ´_ゝ`) 「……ま、そんな感じで」
 
( ´_ゝ`) 「大学もアルプスのとこに行ったらしいけど、」
 
( ´_ゝ`) 「サークル作るぞッて言ったら来てくれたわ」
 
(´・ω・`) 「まあまあめんどくさそうなのにね」
 
( ´_ゝ`) 「むしろ、俺ら以外に友だちもいなかったらしいし」
 
( ´_ゝ`) 「授業とかあろうが、全力で無視してくれてたわ」
 
.

713名無しさん:2018/10/13(土) 00:46:49 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
(´・ω・`) 「でも、紅葉狩りには乗り気じゃなかったんだ」
 
( ´_ゝ`) 「見るだけやん、ッてうるさかったよ」
 
( ´_ゝ`) 「あいつ、見た目のわりに体を動かすのが好きだったんだ」
 
 見た目のわりにか。
 なかなかしっかりとした体幹の男だった印象だが。
 
 建設業に勤める過程で、体つきが変わったのか。
 と思ったが、男は二十八を超えれば体型はすっかり変わるものだ。
 兄者も、骨格からして昔は痩身だったとうかがえるが、腹が出ている。
 
 
( <●><●>) 「しかし、そんな小森ですが」
 
( <●><●>) 「クックルとミセリのような関係ではなかった、と」
 
( ´_ゝ`) 「まあ……あいつはニヒルなとこがあるからな」
 
( ´_ゝ`) 「もしそうだったとしても、表に出すようなことはなかったわ」
 
.

714名無しさん:2018/10/13(土) 00:47:13 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
(´・_ゝ・`) 「でも、それが何か関係あるのですか?」
 
( <●><●>) 「事件のキッカケの多くは、愛憎劇かカネが多いですから」
 
(´・_ゝ・`) 「そもそも、事件じゃなかったんだけど……」
 
( <●><●>) 「もしそれが本当に事件だったら、亡霊は成仏していますが」
 
( ´_ゝ`) 「………成仏、ねえ」
 
 兄者がつまらさなそうな声を出した。
 登場人物の相関図と位置関係は把握できた。
 そろそろ、その 「事故」 の背景を洗う必要がある。
 
 
(´・ω・`) 「まあ、日中の行動はわかった」
          、 、
(´・ω・`) 「事故が起こったのは、あくまで深夜だったんだね?」
 
( ´_ゝ`) 「ああ」
 
(´・ω・`) 「それは、みんなが寝た後、かい?」
 
.

715名無しさん:2018/10/13(土) 00:47:53 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
( ´_ゝ`) 「断言こそできねえが、少なくともだいたいは寝てたと思うぜ」
 
( ´_ゝ`) 「俺が寝たのは日付が変わった後だから、それ以降だ」
 
(´・ω・`) 「変わる前くらい……二十三時頃からのみんなの動向は?」
 
( ´_ゝ`) 「コテージでみんな適当にだべってたな」
 
(´・ω・`) 「みんな、というと、誰も外には出ていなかった?」
 
( ´_ゝ`) 「まあ」
 
 特に証言できるようなことはない、ということか。
 夜も更けている、全員がコテージにいたのはあまり疑う余地もない。
 
 
( ´_ゝ`) 「俺とセリっち、クックル、デミやんは騒いでよ」
 
( ´_ゝ`) 「貞子、ギコ、ヒッキーは軽く雑談しながら、のんべんだらり」
 
( ´_ゝ`) 「……そうだな。 騒いでた組が、先に寝たぜ」
 
.

716名無しさん:2018/10/13(土) 00:48:21 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
( <●><●>) 「具体的には、どう騒いでいたのでしょうか」
 
( ´_ゝ`) 「ん……どう、ッて言われてもな」
 
(´・_ゝ・`) 「大したことでもないよ」
 
(´・_ゝ・`) 「死生観と下ネタと将来が飛び交う、大学生らしい感じ」
 
( <●><●>) 「なにか、気になった点、変わった点は」
 
(´・_ゝ・`) 「さすがにない、ですね」
 
 
(´・_ゝ・`) 「……あー」
 
(´・_ゝ・`) 「強いて言えば、ヒッキー氏がたまにキレてたな」
 
(´・ω・`) 「キレてた?」
 
(´・_ゝ・`) 「あの人は、寛いでる隣で騒がれるのが嫌いなんすよ」
 
.

717名無しさん:2018/10/13(土) 00:52:40 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
( <●><●>) 「コテージ、と言ってますが」
 
( <●><●>) 「大部屋に人数分の寝床があった、ということでよろしいですか?」
 
( ´_ゝ`) 「ああ。 つっても寝床で寝たやつは少ないけど」
 
 
(´・ω・`) 「こう……上面図的なものがあれば、嬉しいんだけど」
 
( ´_ゝ`) 「さすがに無いな」
 
( <●><●>) 「では、覚えている限りで証言してください」
 
 と、ワカッテマスがペンを立てながら言った。
 ここらの準備は早い。
 兄者は一瞬言葉を詰まらせつつも、応じた。
 
( ´_ゝ`) 「ええと……寝床だけでいいのかい?」
 
( <●><●>) 「現状は。 室内での事故でもありませんし」
 
( ´_ゝ`) 「そうだな。 まず、でっかい長方形を描いてくれ」
 
.

718名無しさん:2018/10/13(土) 00:53:18 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
 言われるがまま、ワカッテマスは図を作成していった。
 寝床、とは言ったが、要はリビングだったらしい。
 横長の長方形のうち、左半分がバルコニーで、テレビが北西に位置する。
 
 テレビの右隣に暖炉、手前に広いローテーブルが。
 ローテーブルとは言うが、要はコタツだ。
 そのコタツを覆うようにロングソファーがある。
 
 長方形右半分は、キッチンダイニングだった。
 彼らは、夕食は野外ではなく、このキッチンを利用して済ませたらしい。
 
 
 描き終えて、ワカッテマスは首を傾げた。
 
( <●><●>) 「……ベッドの類はなかったのですか?」
 
( ´_ゝ`) 「ここは一階でよ、個室は二階だ」
 
( ´_ゝ`) 「それぞれに二段ベッドがあって、本当はそこで寝るはずだったんだ」
 
(´・ω・`) 「察するに、リビングで全員寝たんだ?」
 
( <●><●>) 「それはどうして、ですか」
 
.

719名無しさん:2018/10/13(土) 00:54:39 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
( ´_ゝ`) 「……いやあ」
 
(´・_ゝ・`) 「大丈夫さ。 刑事さん、くだらない話の耐性はできてるから」
 
( ´_ゝ`) 「だったらいいんだけどさ」
 
 勘弁してくれ。
 密室鉄道でもそうだったが、こいつの言う 「くだらない」 は本当にくだらない。
 
 
( ´_ゝ`) 「ほら。 下ネタ混じりで騒いでたッつったじゃん」
 
( ´_ゝ`) 「で、二階の個室は、全部ふたり用でさ」
 
(´・_ゝ・`) 「クックルとセリっちの仲はおわかりですよね?」
 
(´・ω・`) 「んーー……」
 
 だいたいの察しは、ついた。
 ミセリとクックルの関係は、暗黙の了解だった。
 そして、兄者を筆頭に、ミセリは茶化し茶化されのポジションだったと聞く。
 
 
( ´_ゝ`) 「わたくしが、深夜テンションでふたりを茶化してたんですよ」
 
( ´_ゝ`) 「そしたら、デミやんも巻き込んで、壮大な大乱闘……」
 
 死生観、将来の話はなんだったんだ。
 
.

720名無しさん:2018/10/13(土) 00:55:21 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
(´・_ゝ・`) 「セリっちが、兄者氏と対峙しながらクックルに寄るんだよ」
 
(´・_ゝ・`) 「個室じゃなくてもいいよねー、とか言い出してさ」
 
(´・ω・`) 「ほっとけばいいものを……」
 
( ´_ゝ`) 「面白いはすべてに優先する。 ……座右の銘さ」
 
 何もかっこよくはない。
 ただ、情景は容易に想像ついた。
 
 
(´^_ゝ^`) 「で、その流れもあって、僕ら四人はくたばるように雑魚寝だよ」
 
(´・_ゝ・`) 「四人がそこで横たわるもんだから、残りも一階で、と」
 
( ´_ゝ`) 「俺の知る限り、みんなソファーやら絨毯、コタツで寝たね」
 
( ´_ゝ`) 「貸切コテージなだけあって、リビングもすげえ広いから」
 
(´・ω・`) 「暖炉もあるくらいだしね」
 
( <●><●>) 「……暖炉、ですか」
 
.

721名無しさん:2018/10/13(土) 00:56:03 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
 ワカッテマスが、意味深に呟く。
 
( <●><●>) 「時期は秋ですが」
 
( <●><●>) 「夜は寒かったのでしょうか」
 
( ´_ゝ`) 「あんたらの想像する以上に、寒かった」
 
( ´_ゝ`) 「なにぶん、山奥、それもかなり標高の高いところだ」
 
 アルプスは、温暖な気候で知られている。
 しかし、夏も去った季節の山奥ともなれば、話は別だ。
 
 
( ´_ゝ`) 「最初、暖炉やコタツを見て笑ってたんだがな」
 
( ´_ゝ`) 「結果的に、夜は使ってたぜ、コタツ」
 
(´・ω・`) 「暖炉は使わなかったんだ」
 
( ´_ゝ`) 「まあ、オプションだったし」
 
.

722名無しさん:2018/10/13(土) 00:57:10 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
( ´_ゝ`) 「まず、セリっちが、クックルに寄り掛かるようにしてそのまま寝た」
 
( ´_ゝ`) 「クックルもそのまま横たわって」
 
(´・_ゝ・`) 「僕と兄者氏も、一気に疲れて、絨毯の上に倒れたね」
 
( ´_ゝ`) 「ああ……思えば、ふたりで一緒の毛布をかぶったな」
 
(´^_ゝ^`) 「うふふ……」
 
( ´_ゝ`) 「よせやい」
 
 
(´・ω・`) 「あんたらが寝たッてことは、」
 
(´・ω・`) 「残りの三人がその後どうしたか、まではわからないか」
 
(´・_ゝ・`) 「ア、目は瞑ったけど、そんなすぐには寝なかったよ」
 
 まあ、言われたらそうか。
 
 
(´・_ゝ・`) 「僕らは絨毯だし、セリっちやクックルはソファーにもたれかかってた」
 
(´・_ゝ・`) 「えっと……残りも、ソファーやらコタツに寝たはず」
 
.

723名無しさん:2018/10/13(土) 00:59:41 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
(´・ω・`) 「みんなが、一緒の空間で寝た。 それはわかった」
 
(´・ω・`) 「……重要なのは、ここからだ」
 
 時系列や状況を整理していたワカッテマスも、ここで一旦線を引いた。
  「事故」 はあくまで深夜、それも貞子が散歩に出かけたところから始まる。
 
 
( ´_ゝ`) 「……」
 
( ´_ゝ`) 「先に言っておくが、厳密な時間はわからねえ」
 
(´・ω・`) 「もっともだ」
 
(´・ω・`) 「わかってる、覚えてる範囲でいい」
 
 
(´・ω・`) 「……次にみんなに動きがあったのは、」
 
(´・ω・`) 「貞子がひとりで散歩に行ったところから、なんだね?」
 
.

724名無しさん:2018/10/13(土) 01:00:28 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
 兄者もデミタスも、即答はしなかった。
 無理もない。
 当時は寝ていた上に、それは十年も前の話だ。
 
 少しすると兄者が話の口を切った。
 
( ´_ゝ`) 「……物音はした」
 
 
( ´_ゝ`) 「ほら、わかるだろうが、不慣れな場所で寝る時って、眠り、浅いだろ」
 
( <●><●>) 「まあ」
 
( ´_ゝ`) 「ただ、気には留めなかった」
 
( ´_ゝ`) 「まさか、それがそのまま事故に繋がるなんて思うまい」
 
( ´_ゝ`) 「単にトイレに行った程度にしか思わんだろ」
 
 特に気にはしなかった。
 そしてそれはつまり、前兆のようなものもなかった、ということだ。
 
 事故は、本当に突発的なものだったのだろうか。
 
.

725名無しさん:2018/10/13(土) 01:01:06 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
(´・ω・`) 「いいか」
 
(´・ω・`) 「ここは、重要なところだ」
 
(´・ω・`) 「その、物音……布ずれの音?」
 
 
(´・ω・`) 「それ以外に、変わったことはあったか?」
 
 そんなものがあったら、それは既に十年前に言われているかもしれない。
 しかし、当時と明確に違う点がある。
 
 当時は、あくまで事故として捜査され、処理された。
 それを十年越しに、事件の可能性があったとして見ている。
 
 十年前の初動捜査や取調では、必要以上の追究などなかっただろう。
 事件性が認められなかったため、最低限の状況を聞き出した程度に違いない。
 
      '_
(´・ω・`) 、
 
.

726名無しさん:2018/10/13(土) 01:01:33 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
 すると、着信音が鳴った。
 僕だ。
 
 先ほど、アルプス県警の知り合いに雑なメールを送っておいた。
 個人的な繋がりの強い警部だ。
 今となっては、正式な警部でこそないらしいけど。
 
 名前は三月ウサギという。
 本名なのかは定かでない。
 
 
(´・ω・`) 「はい、ショボーン」
 
 懐かしい声が聞こえてくる。
 定年を超えてなお、刑事の道を選んだ生粋の刑事だ。
 
 県警同士のやり取りともなると、面倒な手順を踏まされる。
 こういう時、個人的な繋がりというものは非常に便利だ。
 わざわざ刑事部長を通して協力を要請するのは、かなりの労力を要する。
 
 連続予告殺人事件は、国中に知られる大事件だ。
 当然アルプス県警にも広まっていたようで、手短に要件を伝えてくれた。
 
.

727名無しさん:2018/10/13(土) 01:02:18 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
 まず、データがこちら側に送られてきた。
 加え、現場となるコテージ、崖の位置情報。
 現場までの案内役も、必要ならば用意してくれるらしい。
 
 ただ、担当した捜査官は既に退職しているそうだ。
 僕としては、そちらからの情報も期待したのだが、仕方ない。
 
(´・ω・`) 「ちなみに、調べようと思えば現場は調べられますか?」
 
 コネというコネは利用してやる。
 オオカミ鉄道も然り。
 
 現場へのアプローチは、アルプス県警に任せることにした。
 地主を特定し、ガサ入れの取っ掛かりまで作ってくれればそれでいい。
 言うと物臭そうに溜息を吐かれたが、協力を約束してくれた。
 
 
 
(´・ω・`) 「頼みますよ、三月殿」
 
  『……ああ』
 
.

728名無しさん:2018/10/13(土) 01:02:38 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
 ┏━─
    午後二〇時一六分  アルプス県警
                          ─━┛
 
 
 
 受話器を置いて、大きく伸びをした。
 久々に新鮮な気持ちになった。
 
 伸びをした衝動で、デスクの上のファイルスタンドが床に落ちた。
 部屋に誰もいない時、つい足をデスクにかけてしまう。
 これが一番楽な姿勢なのだ。
 
(メ._⊿,) 「……」
 
 拾うのも億劫だ。
 ただぼんやり眺めていると、誰かが音を聞きつけたのか、部屋に入ってきた。
 
イ(゚、ナリ从 「……?」
 
イ(゚、ナリ从 「…!」
 
.

729名無しさん:2018/10/13(土) 01:03:25 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
 会議に出ていたはずのイナリが、扉口から俺を睨む。
 一番見つかりたくない奴に見つかってしまった。
 イナリはそのまま、つかつかと音を立てて、俺の隣に立った。
 
(メ._⊿,) 「……」
 
イ(゚、ナリ从 「……」
 
(メ._⊿,) 「……」
 
 腕を組んで、俺を見下ろす。
 気まずくなり、俺から先に話の口を切った。
 
(メ._⊿,) 「……ちょうどよかった」
 
(メ._⊿,) 「……それ……戻してく」
 
 言葉を遮るように咳払いをされた。
 まったく許してくれそうにない。
 
.

730名無しさん:2018/10/13(土) 01:07:38 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
 重い体を起こして、しぶしぶファイルをデスクに戻した。
 腰が鈍い音を立てる。
 
(メ._⊿,) 「……随分と早かったじゃねえか」
 
(メ._⊿,) 「会議は……終わったのか……?」
 
イ(゚、ナリ从 「無事に」
 
 ご立派なことに、イナリは警部になって以来、休みがない。
 日々会議に駆り立てられるばかりだ。
 優秀な人材に悩まされる警察において、
 頭脳明晰なキャリア組というものはそれだけ価値があるものなのだろう。
 
イ(゚、ナリ从 「……」
 
イ(゚、ナリ从 「?」
 
 ふう、と胸に溜まっていた憤りの溜息を吐くと、
 見慣れない水色のファイルを見て首を傾げた。
 
.

731名無しさん:2018/10/13(土) 01:11:40 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
 黙って手に取り、ぺらぺらとページを繰る。
 ついさっき、ヴィップ県警に送った事故案件のデータファイルだ。
 
 文面を軽く目で追って、不思議そうな顔をした。
 鉄仮面と揶揄される彼女は、俺の前では多少感情の紐を緩める。
 
イ(゚、ナリ从 「なんですか、これ」
 
(メ._⊿,) 「さあ……な」
 
イ(゚、ナリ从 「……」
 
 ふーん、と鼻を鳴らす。
 まったく腑に落ちていない様子だ。
 
 
イ(゚、ナリ从 「まあ、いいです」
 
イ(゚、ナリ从 「それより、手伝ってほしい案件があるのですが」
 
(メ._⊿,) 「惜しいな……」
 
(メ._⊿,) 「一時間前に言っていたなら……手を貸してやったが……」
 
.

732名無しさん:2018/10/13(土) 01:12:05 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
イ(゚、ナリ从 「何か担当、ありましたっけ」
 
(メ._⊿,) 「たった今……できた……」
 
イ(゚、ナリ从 「ふーん」
 
 もはや、俺の言葉に耳を傾けない。
 身を乗り出して、勝手に俺の旧式のパソコンを触りだした。
 
 ヴィップ県警にデータを送り、そのままにしていた。
 しまった。
 
イ(゚、ナリ从 「……?」
 
イ(゚、ナリ从 「  えっ……?」
 
 宛先は、ヴィップ県警。
 ではない。
 あくまで、個人に送った、個人的なメールだ。
 
 その宛先と文面を見て、イナリは素っ頓狂な声を挙げた。
 
.

733名無しさん:2018/10/13(土) 01:12:43 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
 刑事部長には黙っていてもらいたかったのだが。
 見られてしまったなら仕方がない。
 
(メ._⊿,) 「ちっくら……面倒事を請け負っちまった」
 
(メ._⊿,) 「何……兎の恩返しッてやつだ……」
 
イ(゚、ナリ从 「……」
 
 イナリも、懐かしい名前を見たのだ、感傷的になるだろう。
 俺にしても、イナリにしても、ある種の因縁を持つ男なのだ。
 
 
イ(゚、ナリ从 「……」
 
イ(゚、ナリ从 「合同捜査、ではないので?」
 
 少し気を遣わせてしまったようだ。
 柄にもなく、優しい声になっている。
 
.

734名無しさん:2018/10/13(土) 01:15:43 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
(メ._⊿,) 「合同捜査なら……お上サマが勝手に決めるもんだ……」
 
(メ._⊿,) 「……こいつァ個人的なやつよ」
 
(メ._⊿,) 「さしずめ……兎の恩がえ」
 
イ(゚、ナリ从 「だったらちょうどいいですね」
 
(メ._⊿,) 「……」
 
 イナリが、ふふんと鼻を鳴らす。
 何歳になっても可愛いものだ。
 
 
イ(゚、ナリ从 「くだんの連続予告殺人ですが」
 
イ(゚、ナリ从 「ご存じの通り、私も一枚、噛まされることになりまして」
 
(メ._⊿,) 「……?」
 
イ(゚、ナリ从 「……?」
 
.

735名無しさん:2018/10/13(土) 01:19:13 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
イ(゚、ナリ从 「あの……昼渡した、会議資料は……」
 
(メ._⊿,) 「朝……?」
 
 今日は、十三時頃にデスクについた。
 そういえばその時、イナリに出会いがしらになにか渡された。
 
(メ._⊿,) 「……」
 
(メ._⊿,) 「……ああ、あの鼻かみ……」
   ,_
イ(゚、ナリ从 「鼻ッ  ………」
 
 イナリが眉間にひびを刻み込む。
 
 
(メ._⊿,) 「……」
 
(メ._⊿,) 「………ごめん……」
   ,_
イ(゚、ナリ从 「……」
 
.

736名無しさん:2018/10/13(土) 01:24:46 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
 概要は、こうだ。
 国民の信頼、安心が問われる局面に、警察組織は悩まされているらしい。
 テレビでは報道されていなかったが、くだんの犯人は四人目を始末したそうだ。
 
 その顛末に、ついに管轄外の県警も動きを見せた。
 アルプスにまで、ヴィップの大事件の余波が飛んできたということだ。
 イナリが頭となり、適宜応援を遣わせたりすることが決まった。
 
イ(゚、ナリ从 「もっとも、大々的なことはできないのですが」
 
イ(゚、ナリ从 「とにかく人手が問われる局面、というわけです」
 
(メ._⊿,) 「……」
 
 
 天井を仰いだ。
 一度、大きく深呼吸する。
 
(メ._⊿,) 「だったら……精々頑張ってくれ……」
 
イ(゚、ナリ从 「……」
 
イ(゚、ナリ从 「は?」
 
.

737名無しさん:2018/10/13(土) 01:25:46 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
 ゆっくり、デスクから、イナリから離れ、廊下に向かう。
 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
 トコトコ、と音を立てて俺の後ろについてくる。
 
(メ._⊿,) 「どうせ……俺ァはぐれ刑事よ」
 
イ(゚、ナリ从 「……また拗ねた」
 
 拗ねてなんかいねえ。
 ちいさく言ったが、イナリには聞こえなかったようだ。
 
(メ._⊿,) 「俺は……兎の恩返しに忙しい」
 
(メ._⊿,) 「こっちはこっちで……やるべきことをやるだけ……」
 
イ(゚、ナリ从 「私にも、共有を」
 
(メ._⊿,) 「……」
 
 肩を掴まれる。
 情けないことに、スタイルのいいイナリのほうが俺より背が高い。
 子に背を抜かれるというのは、なかなかどうして複雑な心境になるものだ。
 
.

738名無しさん:2018/10/13(土) 01:26:55 ID:eKkjmBvA0
支援
今から読む

739名無しさん:2018/10/13(土) 01:27:35 ID:V8JiJ4eE0
 
 
 
(メ._⊿,) 「……」
 
(メ._⊿,) 「なあ、イナリ……」
 
イ(゚、ナリ从 「はい」
 
 
(メ._⊿,) 「登山……好きか?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

740名無しさん:2018/10/13(土) 01:33:31 ID:V8JiJ4eE0
序幕    >>2-69
第一幕  >>82-211
第二幕  >>218-296
第三幕  >>304-388
第四幕  >>398-468
第五幕  >>477-528
第六幕  >>539-624
第七幕  >>640-739

741名無しさん:2018/10/13(土) 01:36:55 ID:/tcg0WQ.0
乙!三日月きたな!!

742名無しさん:2018/10/13(土) 01:44:02 ID:SVfpo2GY0
乙!!

743名無しさん:2018/10/13(土) 01:56:44 ID:eKkjmBvA0
読み終わった
少しずつ解決の糸口がこれから見えてくるのだろうか


744名無しさん:2018/10/13(土) 12:41:32 ID:VNarJfqM0


745名無しさん:2018/10/13(土) 13:30:36 ID:nhipiLd60
年寄りの登山か乙

746名無しさん:2018/10/13(土) 20:22:06 ID:UDm/n8nY0


747名無しさん:2018/10/15(月) 00:59:24 ID:lXcORFmQ0
ttp://boonsoldier.web.fc2.com/ituwariIV.htm
イケメンのブーン芸神が再臨なさった 皆崇めろ
7年越しのおつきあい本当に本当にありがとうございます、、、

748名無しさん:2018/10/15(月) 01:58:06 ID:BuY.j94Y0
orz

749名無しさん:2018/10/15(月) 05:20:40 ID:SpZbt18g0
ありがたや…ありがたや…

750名無しさん:2018/10/15(月) 15:16:38 ID:yo3KqSdU0
10年前のことよく覚えてんな
俺なんて今日の朝飯なに食ったかすら忘れちゃうのに

751名無しさん:2018/10/15(月) 15:18:56 ID:BuY.j94Y0
よしこさんや、飯はまだかい?

752名無しさん:2018/10/15(月) 17:52:16 ID:/ElhCeLk0
偽り最高愛してる
続きが楽しみ

753名無しさん:2018/10/16(火) 00:40:29 ID:kWcmSbYs0
お爺さんや、ご飯は三日前食べたでしょう

754名無しさん:2018/10/16(火) 00:59:45 ID:giOua07M0
毎日食わせてやれよ…

755名無しさん:2018/10/16(火) 07:39:39 ID:DI18ffgQ0
乙ー

756名無しさん:2018/10/23(火) 07:22:17 ID:ZMU2VkO20
はぐれ刑事純情派!!!

757名無しさん:2018/10/27(土) 23:11:52 ID:9y4TR9Iw0
 
 
 
 ┏━─
    五月七日  午前七時三七分  アルプス警察署
                                    ─━┛
 
 
 
 因縁だ。
 貧乏くじを引かされたと思えば、立て続けに懐かしい顔ぶれと会わされる。
 
 オオカミ鉄道は僕からコンタクトを取ったからいい。
 昔の密室鉄道と対面した。
 アスキーミュージアムとの繋がりがあった。
 
 今度は、アルプスだ。
 アルプスといえば、その序列体系に若干の歪みが生じている。
 アルプス県警捜査一課、三月の名を持つ親子警部と言えば有名な話であった。
 
 
(´^ω^`) 「久しぶりだね!イナリちゃん!」
 
イ(゚、ナリ从 「去年会議で会ったばかりですが」
 
(;´・ω・`) 「一年も空いてたら久しぶりじゃん!」
 
.

758名無しさん:2018/10/27(土) 23:12:36 ID:9y4TR9Iw0
 
 
 
 昨日の晩、刑事部長に内密に呼び出された。
 最初、個人的にアルプス県警を利用しようとしていたのがばれ、
 それを咎められるのかと思っていたのだけど。
 
 実際は真逆で、秘密裏にアルプス県警との協力が結ばれていたようだ。
 別に敵対しているわけではないが、大々的に動けばマスコミの餌食となる。
 
 パパラッチに嗅ぎつかれないよう、うまく協力してくれ、と言われた。
 個人的にこっそり協力してもらおうと思っていたのは、とんだ心労だった。
 
 
(メ._⊿,) 「……部下はどうした」
 
(´・ω・`) 「走らせてますね」
 
 久しぶりに会ったのだけど、三月殿の風貌は一切変わっていなかった。
 人間、六十を超えると、容姿は大して変化しないらしい。
 逆に、若いイナリちゃんはまた美人になっていた。
 
(メ._⊿,) 「若手のやつもか……?」
 
(´・ω・`) 「同じ場所に、そう何人もエースは要りませんよ」
 
.

759名無しさん:2018/10/27(土) 23:13:21 ID:9y4TR9Iw0
 
 
 
 三月殿は、ワカッテマスやぎょろ目のような突出した能力はない。
 ただ、あるとすれば、その圧倒的な経験だ。
 現役刑事で見れば、警察で一番キャリアを積んでいる男である。
 
 エースというのは、イナリちゃんのことだ。
 ワカッテマスに比肩する、あるいは頭脳面のみで見れば凌駕している、エース。
 
 昔、研修の一環で、僕の部下としてヴィップ県警に配属されていた。
 その時は、若い女のキャリア組ということで気まずそうにしていたが、
 今では一警部として顔を利かせているらしい。
 その証拠に、口数も多くなっていた。
 
 
イ(゚、ナリ从 「でしたら、警部も要らなかったのでは」
 
(;´・ω・`) 「だったら誰が現場を見るんだい!」
 
(メ._⊿,) 「で……」
 
( ;´_ゝ`)
 
(;´・_ゝ・`)
 
(メ._⊿,) 「代わりが……この二人かい……」
 
.

760名無しさん:2018/10/27(土) 23:13:45 ID:9y4TR9Iw0
 
 
 
 三月殿の威圧感、イナリちゃんの冷たいオーラに、
 兄者もデミタスもすっかり気圧されていた。
 
(´・ω・`) 「まあまあ、話は走らせながら」
 
 アルプス県警から、所轄署の刑事をふたり、鑑識をひとり借りた。
 一人は僕と三月殿、イナリちゃんを。
 一人は兄者とデミタス、鑑識をパトカーに乗せた。
 
 先に兄者とデミタスを乗せたパトカーを走らせた。
 その後ろを僕たち警部組が追う。
 
 やはり、親子警部に僕が同席していたら、運転手は気苦労が絶えないだろう。
 見るからに、完全に気配を消し、運転手としての役割を果たすのに勤めていた。
 
 
 助手席にイナリちゃんが、僕と三月殿が後ろに座っている。
 単におじさんの隣に座りたくなかったのか、上下関係を意識してくれたのか。
 
(´・ω・`) 「とりあえず、捜査の一部始終から伝えます」
 
.

761名無しさん:2018/10/27(土) 23:14:38 ID:9y4TR9Iw0
 
 
 
イ(゚、ナリ从 「結構です」
 
(´・ω・`) 「え、え?」
 
イ(゚、ナリ从 「必要なことは会議ですべて共有されています」
 
(メ._⊿,) 「……」
 
(´・ω・`) 「そ、そうなんです?」
 
 おかしい。
 僕はまだ情報をまとめたりしていないし、
 部下のみんなも、上層部や他の部署には頼りたがらない気質なのに。
 
イ(゚、ナリ从 「そちらの刑事部長を招いての、会議です」
 
イ(゚、ナリ从 「別に今更、共有など」
 
(´・ω・`) 「そ、そう?」
 
 言いあぐねていると、三月殿がちいさく俯いた。
 
.

762名無しさん:2018/10/27(土) 23:15:13 ID:9y4TR9Iw0
 
 
 
(メ._⊿,) 「……久々にショボに会ったんだ……」
 
(メ._⊿,) 「虚勢張って……アピールしてえだけさ……」
 
イ(゚、ナリ从 「……」
 
 イナリちゃんは、小さく 「ふん」 と鼻を鳴らした。
 それに、三月殿の性格を考えると、大してこちらの情報など調べていない。
 
 これだから困るんだ。
 親子警部は、かなり我が強いというか、色が濃いというか。
 初っ端からペースが崩されてしまう。
 
(;´・ω・`) 「……」
 
(´・ω・`) 「うぉっほん!」
 
 
(´・ω・`) 「だったら、大まかな時系列は、いいでしょう」
 
(´・ω・`) 「どうして、アルプスと共同戦線が組まれることになったか」
 
(´・ω・`) 「そこから話しますね」
 
.

763名無しさん:2018/10/27(土) 23:16:16 ID:9y4TR9Iw0
 
 
 
(´・ω・`) 「ヴィップで起こってる、連続予告殺人ですが」
 
(´・ω・`) 「捜査の結果、大きく、三点」
 
(´・ω・`) 「アルプスが噛んでいることがわかりました」
 
(メ._⊿,) 「三点……?」
 
 全員が、ヴィップで殺されている。
 地下鉄もホテルもライブも滝公園も、ヴィップだ。
 全土を揺るがす大事件ではあるが、見た目はヴィップで完結しているのだ。
 
 
(´・ω・`) 「まず、二件目の被害者、ヒッキー小森」
 
(´・ω・`) 「この連続予告殺人は、ヴィップ大学に昔あった、」
 
(´・ω・`) 「某サークル内で、うちうちに起こっているものです」
 
 三月殿が興味深そうな顔で頷く。
 まるで知らなかったと言わんばかりに。
 
.

764名無しさん:2018/10/27(土) 23:16:59 ID:9y4TR9Iw0
 
 
                          、 、
(´・ω・`) 「そのサークルの構成員は、六人」
 
(´・ω・`) 「うち一名、ヒッキー小森以外の全員がヴィップの人で」
 
(´・ω・`) 「ヒッキー小森のみが、アルプス出身アルプス育ちです」
 
(メ._⊿,) 「……?」
 
 
(´・ω・`) 「ポイントは、殺される日もアルプスにいたことです」
 
(´・ω・`) 「オオカミ鉄道の在来線で、ヴィップ、現場のホテルに到着」
 
(メ._⊿,) 「……」
 
イ(゚、ナリ从 「こちらでも伺っております」
 
 イナリちゃんが、前を向いたまま言った。
 バッグから資料を取り出して、目を落としている。
 
イ(゚、ナリ从 「害者は監視カメラに捉えられていましたが、」
 
イ(゚、ナリ从 「アルプス時点では、付き添いの類はいなかったようで」
 
(´・ω・`) 「……え?」
 
.

765名無しさん:2018/10/27(土) 23:17:21 ID:9y4TR9Iw0
 
 
 
イ(゚、ナリ从 「えっ」
 
 こちらを振り返る。
 
(´・ω・`) 「……それ、どこの情報?」
 
(´・ω・`) 「僕、知らないんだけど」
 
イ(゚、ナリ从 「どこ……ッて」
 
イ(゚、ナリ从 「オオカミ鉄道に問い合わせました」
 
 そんな情報がでたなら、総裁はすぐに僕に回すはずだけど。
 結構重要なところだ。
 僕は一旦話を中断し、総裁に個人的に電話をかけた。
 
( ´・ω・) 「もしもし、県警のショボーンですゥ」
 
 総裁は、別段焦っている様子ではなかった。
 しかし、一発 「すぐに情報は回してもらわないと」 と入れると、態度が一変した。
 
 掘り下げていくと、結論、総裁は知らなかったようだ。
 部下が調査し、害者を見つけ出したまではいいが、総裁には回さなかった。
 至急ご自身で確認していただき、県警までデータを送るよう頼んだ。
 電話を切る頃、総裁は焦っていた。
 
.

766名無しさん:2018/10/27(土) 23:17:50 ID:9y4TR9Iw0
 
 
 
(´・ω・`) 「……」
 
 むすッとしていると、イナリが申し訳なさそうに少し頭を下げた。
 林ちゃんもそうだが、情報はすぐにこちらまで回してもらいたいものだ。
 
(´・ω・`) 「失礼……ええと、イナリちゃん」
 
イ(゚、ナリ从 「はい」
 
 
 貸してくれ、と手を伸ばすと、A4を二枚くれた。
 ヒッキー小森がアルプスで乗車時点、同行者はいなかった。
 服装や持ち物に変化はない。
 
 その時の車両はロングシート、ボックスシートしか備わっていないものだ。
 誰かが落ち合って、害者の目を盗みオイルを盛ることは容易かったかもしれない。
 
 ただ、案の定車両内に監視カメラはなかったようで、
 乗車時に同行者がいなかったことを考えると、そちらの線は薄いだろう。
 
.

767名無しさん:2018/10/27(土) 23:18:13 ID:9y4TR9Iw0
 
 
 
 となると、ヴィップに到着後認められた、空白の時間。
 犯人はそこで害者と合流し、オイルを盛った可能性が高い。
 
 如何せんそちらは、大した情報が上がっていない。
 店に入った可能性は低いため、公園か路地か、どこかでたむろしていたのか。
 
(´・ω・`) 「ありがとう」
 
イ(゚、ナリ从 「何か」
 
(´・ω・`) 「いや、なんでもないよ」
 
 
(´・ω・`) 「とにかく」
 
(´・ω・`) 「二点目」
 
(´・ω・`) 「三月殿、アルプス神経病院はご存じですか」
 
(メ._⊿,) 「神経……病院……」
 
 言われて少し、三月殿は押し黙った。
 
.

768名無しさん:2018/10/27(土) 23:18:37 ID:9y4TR9Iw0
 
 
 
イ(゚、ナリ从 「はい」
 
(メ._⊿,) 「……え」
 
イ(゚、ナリ从 「ふたりともよく存じています」
 
(メ._⊿,) 「……え」
 
 ペニー曰く、普通に大きな病院らしい。
 ヴィップ県警よりも大きい建物だったそうだ。
 
イ(゚、ナリ从 「……」
 
(メ._⊿,) 「……」
 
 
イ(゚、ナリ从 「私も、掛かっていましたから」
 
(メ._⊿,) 「……あ」
   ,_
イ(゚、ナリ从 「……」
 
(´・ω・`) 「!」
 
.

769名無しさん:2018/10/27(土) 23:19:07 ID:9y4TR9Iw0
 
 
 
 イナリちゃんが、露骨にふてくされる。
 三月殿が、しゅんと肩を落とした。
 
 三月イナリ。
 三月ウサギの娘と知られる彼女だが、過去に凶悪な事件に巻き込まれている。
 彼女はそこで、記憶をなくしている。
 
   ,_
イ(゚、ナリ从 「………最ッ低」
 
(メ._⊿,) 「ち……違う……これはその……」
 
 かなり威圧的に、ぼそっと放たれた一言に、三月殿は恐縮した。
 また 「親子警部」 のペースに持っていかれる。
 
(´・ω・`) 「イナリちゃん、許したげてよ」
 
(´・ω・`) 「その人、もう六十超えた、じいちゃんだぜ?」
   ,_
イ(゚、ナリ从 「……」
 
 若くして記憶をなくしたイナリちゃんと、
 歳を取りすぎて物忘れが激しい三月殿。
 なんとも皮肉な話だ。
 
 誰にだって、忘れたい記憶は、あるのさ。
 
.

770名無しさん:2018/10/27(土) 23:19:27 ID:9y4TR9Iw0
 
 
   ,_
イ(゚、ナリ从 「続けてください」
 
(メ._⊿,) 「その病院が……どうした……」
 
(´・ω・`) 「さて、どこから話そうか」
 
 結構ややこしい話になる。
 この話には、くだんの 「亡霊」 が一枚噛んでくるのだ。
 
 
(´・ω・`) 「イナリちゃん」
 
(´・ω・`) 「亡霊……ッて、わかるかい?」
 
イ(゚、ナリ从 「亡霊」
 
 きょとんとした。
 記憶になかったようで、バッグを太ももの上に置き、
 それを下敷きに資料をずらっと広げだした。
 
(´・ω・`) 「いや、いい」
 
イ(゚、ナリ从 「え」
 
.

771名無しさん:2018/10/27(土) 23:19:48 ID:9y4TR9Iw0
 
 
 
 もし亡霊を知っているなら、絶対に、忘れるなんてことはない。
 この事件の犯人で、アウトドアサークルの隠された七人目なのだ。
 
(´・ω・`) 「さて、ヴィップ大学の某サークル、と言いましたが」
                             、 、
(´・ω・`) 「最初の捜査では、構成員は六人と認識していました」
 
(´・ω・`) 「フッサール擬古からはじまった四人の被害者」
 
( ´・ω・) 「残り二人が……」
 
 前を走るパトカーを指さす。
 兄者とデミタスを加え、六人だ。
 
(メ._⊿,) 「……」
 
 
(メ._⊿,) 「……六人?」
 
(´・ω・`) 「しかし、正確には違った」
 
(´・ω・`) 「七人目が、いたのです」
 
.

772名無しさん:2018/10/27(土) 23:20:26 ID:9y4TR9Iw0
 
 
 
イ(゚、ナリ从 「……」
 
 知らなかった、と言わんばかりに資料にメモを書き足していく。
 思った通りだ。
 
 僕の知らないところで勝手に組まれた共同戦線だが、
 どうせ刑事部長や一課長が勝手に決めたことだ。
 昨晩判明した新事実など、大して共有できていないだろう。
 
(´・ω・`) 「どうして、初動捜査で七人目が割れなかったか、ですが」
 
(´・ω・`) 「生存していた構成員が、みんなして隠していたのです」
 
(メ._⊿,) 「……」
 
 一応ヴィップ大学にも問い合わせたが、
 非公認サークルの名簿なんて、一切管理していないらしかった。
 そのため、構成員が口を揃えれば、内部事情は隠ぺいできるのだ。
 
 
(´・ω・`) 「それはなぜか」
                            、 、 、、 、
(´・ω・`) 「その七人目は、実質的に死んでいたからです」
 
.

773名無しさん:2018/10/27(土) 23:20:53 ID:9y4TR9Iw0
 
 
 
イ(゚、ナリ从 「!」
 
(メ._⊿,) 「……そういうことか」
 
 三月殿には、昨日、メールや口頭でさわりだけ伝えている。
 対するイナリちゃんは、目を少し見開いていた。
 
 昨日の時点では、まだ一課長に進捗は共有していない。
 イナリちゃんですら知らなかった以上、世間的にはまだ知られていない情報と言える。
 知り得るのは、ショボーン班と兄者、デミタス、そして亡霊だけだ。
 
(´・ω・`) 「昨日三月殿にお願いした、十年前の事故」
 
(´・ω・`) 「それで、七人目は植物状態に陥った」
 
(´・ω・`) 「マ、昨日三月殿にお話しした通りですな」
 
イ(゚、ナリ从 「…。」
 
   ,_
イ(゚、ナリ从 「………共有して、ッて、言ったじゃない……」
 
(メ._⊿,) 「……」
 
 三月殿がイナリちゃんに弱いのは、彼を知る人は皆知っていることである。
 表情では平生を保とうと努めているが、額に脂汗がびっしょり浮かび上がっている。
 
.

774名無しさん:2018/10/27(土) 23:21:17 ID:9y4TR9Iw0
 
 
   ,_
イ(゚、ナリ从 「その七人目が、アルプス神経病院に掛かっていた、と」
 
 じろりと三月殿を睨みつける。
 蛇に睨まれた蛙ならぬ、狐に睨まれた兎だ。
 三月殿はだらだらと汗を垂らしながら、硬直している。
 
(´・ω・`) 「ああ」
 
(´・ω・`) 「その名は、山村貞子」
 
 
(´・ω・`) 「またの名を、亡霊」
 
イ(゚、ナリ从 「…!」
 
 高級そうな万年筆を、次々滑らせる。
 イナリちゃんからすれば、どれも垂涎の的だろう。
 
(´・ω・`) 「となると、こんな話も知らないだろう」
 
(´・ω・`) 「昨日の夜のことだ」
 
(´・ω・`) 「これは、僕に個人的にかけられた電話なんだけどね」
 
.

775名無しさん:2018/10/27(土) 23:22:13 ID:9y4TR9Iw0
 
 
 
 昨日の、亡霊との通話内容は、録音してある。
 口頭で説明するのも面倒だ、黙ってその音声を再生した。
 
イ(゚、ナリ从 「……」
 
(メ._⊿,) 「……」
 
 自らを亡霊と称し、それまでの連続殺人、四件を自供。
 加え、残り二人も殺害する旨を告げる。
 
イ(゚、ナリ从 「………!」
 
(メ._⊿,) 「亡霊……か……」
 
(´・ω・`) 「その亡霊だけど」
                  、 、
(´・ω・`) 「十年前の事故でね、その病院に送られた」
 
 
(´・ω・`) 「ハズ、なんだ」
 
.

776名無しさん:2018/10/27(土) 23:22:42 ID:9y4TR9Iw0
 
 
 
(メ._⊿,) 「向こうさんに……手は回っているのか……?」
 
(´・ω・`) 「それが、対応が面倒なのか、面白い情報はくれなかった」
 
イ(゚、ナリ从 「わかりました」
 
イ(゚、ナリ从 「アルプスのほうからも、アプローチしてみましょう」
 
 さすがイナリちゃん、
 話の裏を汲み取って、すぐにノートパソコンを開いた。
 アルプス県警から正式に干渉してくれるのだろう。
 
 ワカッテマスとイナリちゃんは、共通点が多い。
 歳も近く、非常に頭が切れる。
 仕事の速さ、無駄口の少なさ、冗談の通じなさ。
 
 そして何より、期間は違えど僕が面倒を見てきたふたりだ。
 ふたりがヴィップ県警で共存した期間は短いが、
 その時は、間違いなく全土で見てもトップクラスの実力を誇っていた。
 ヴィップ県警黄金期、というものだ。
 
.

777名無しさん:2018/10/27(土) 23:23:06 ID:9y4TR9Iw0
 
 
 
(´・ω・`) 「わかっていることをお伝えすると」
 
(´・ω・`) 「少なくとも、今は在籍していないこと」
 
(´・ω・`) 「それも、おそらくは移転……たらい回しにされたのだろう、ということ」
 
イ(゚、ナリ从 「……」
 
 自身も掛かっていたイナリちゃんだ、思い当たる節があるのだろう。
 言うと、イナリちゃんは少し、深めの息を吐いた。
 
 
(´・ω・`) 「さて、三点目ですが」
 
(´・ω・`) 「これも昨日、お伝えした通り」
 
(´・ω・`) 「十年前の事故は……アルプスで起こったんだ」
 
.

778名無しさん:2018/10/27(土) 23:23:30 ID:9y4TR9Iw0
 
 
 
イ(゚、ナリ从 「把握しております」
 
イ(゚、ナリ从 「アルプス山脈、有無山の某所」
 
(´・ω・`) 「そうそう」
 
 アルプスは、その名を持つ大きな山脈が連なっている。
 そのうちのひとつ、アルム山で事故は起こった。
 
 昨日、三月殿に調べてくれ、と頼んだ案件だ。
 イナリちゃんにも、その情報は回っているようだ。
 ちょっと安心した。
 
(メ._⊿,) 「……」
 
 昨日の今日で、場所を特定し、干渉まで漕ぎ着けられている。
 三月殿個人に任せていた場合、あと一日はかかっただろうか。
 と考えると、イナリちゃん含むアルプス県警の力を借りられたのは大きいぞ。
 
 パトカーはいま、真っ直ぐ現場に向かって山道を走っている。
 確かに辺境と呼べる場所だったようで、一番近い署からでも一時間はかかるらしい。
 
.

779名無しさん:2018/10/27(土) 23:25:16 ID:9y4TR9Iw0
 
 
 
 警部三人に、当事者二人。
 万が一に備えた警官二人と、念のために鑑識。
 八人を乗せて、パトカーは十年前に向かって走っている。
 
(´・ω・`) 「以上が、アルプス県警と協力することになった主な理由ですね」
 
イ(゚、ナリ从 「警部」
 
(´・ω・`) 「ん」
 
 四人いるパトカーの、うち三人が警部なんだ。
 唐突に警部なんて言われたら、ちょっと混乱するな。
 
イ(゚、ナリ从 「しかし、事故は事故」
 
イ(゚、ナリ从 「察するに、その事故に事件性がなかったか、を検証したいのでしょうが」
 
イ(゚、ナリ从 「果たして、可能なのでしょうか」
 
(´・ω・`) 「わからない」
 
イ(゚、ナリ从 「……」
 
.

780名無しさん:2018/10/27(土) 23:25:46 ID:9y4TR9Iw0
 
 
 
 当然、事故のあと、コテージは掃除されるだろう。
 仮に十年前の指紋が検出できたとして、残っているものはなかろう。
 加え、いまはコテージの貸出も終了している。
 
 現場となる崖は、いわば自然そのままだ。
 十年前と様相を変えていないほうがおかしい話である。
 ここで何かが掴めるかは、はっきり言って博打ですらあった。
 
(´・ω・`) 「わからない、けど」
 
(´・ω・`) 「前に乗せた二人」
 
(´・ω・`) 「彼らに現場をもっかい見せて、そのうえで検討したいんだ」
 
 人間の記憶というものは面白いもので、
 何かキッカケさえあれば、芋づる式に記憶が蘇ることがある。
 それも、藁を掴むような話ではない。
 じゅうぶん起こり得る、期待の持てる確率で、だ。
 
 
イ(゚、ナリ从 「まあ、わかりました」
 
イ(゚、ナリ从 「ところで」
 
(´・ω・`) 「はいよ」
 
.

781名無しさん:2018/10/27(土) 23:26:13 ID:9y4TR9Iw0
 
 
 
イ(゚、ナリ从 「現場……山奥ですが、」
 
イ(゚、ナリ从 「ネットの電波は、届くのですか?」
 
(´・ω・`) 「……」
 
 三月殿を見やる。
 
(メ._⊿,) 「……」
 
 まったくわからない、といった顔をされた。
 水を打ったようになった。
 
 
イ(゚、ナリ从 「…。」
 
(´・ω・`) 「………」
 
(´^ω^`) 「ま、まあ……届くんじゃない?」
 
イ(゚、ナリ从 「…。」
 
 科学の進歩は素晴らしいものだ。
 昔の携帯電話には、アンテナがついていて、
 それを伸ばさないと電話なんてできなかったものだ。
 
.

782名無しさん:2018/10/27(土) 23:26:39 ID:9y4TR9Iw0
 
 
 
 イナリちゃんが訝しげな顔をするなか、
 五月のアルプスは、随所で葉桜が山々を彩っていた。
 三月殿とともに臨んだ事件を思い出す。
 
 因縁だ。
 密室鉄道だったり、イナリちゃんだったり、連続殺人だったり。
 今度は葉桜という因縁が僕の前に現れた。
 
 どうする。
 嫌な予感を信じるならば、次にはいよいよ、あの女の子が出てくるぞ。
 
 
イ(゚、ナリ从 「……警部は、葉桜はお好きで?」
 
(´・ω・`) 「ん。 え。」
 
イ(゚、ナリ从 「ずっと、葉桜を見ていたので」
 
 おや、と思った。
 以前のイナリちゃんなら、そんな雑談、決して交わそうとしなかった。
 
 精神的に大人になって、心の余裕ができたのか。
 あるいは、単なる気まぐれだろうか。
 
.

783名無しさん:2018/10/27(土) 23:27:15 ID:9y4TR9Iw0
 
 
 
(´・ω・`) 「いやあ」
 
(´・ω・`) 「三月殿との思い出を、ちょっと」
 
(メ._⊿,) 「……ふん」
 
 何年前だろうか。
 少なくとも、三月殿がまだ六十の山を登りきる前だった。
 
イ(゚、ナリ从 「……」
 
( ´・ω・) 「確か、こんな季節でしたよね」
 
(メ._⊿,) 「……忘れたな」
 
 腕を組んで、適当にあしらわれる。
 三月という男は、なかなか人が掴めない。
 
 はたから見れば、黒いボロ衣を着た無口な隻眼の爺さんなのだが、
 そのわりに背が低かったり、目がくりっと大きかったりと、可愛らしい一面もある。
 
.

784名無しさん:2018/10/27(土) 23:27:43 ID:9y4TR9Iw0
 
 
 
イ(゚、ナリ从 「そうですよね、忘れますものね」
 
(メ._⊿,) 「いや……忘れては……」
 
 隻眼といえば、イナリちゃんもだ。
 別に、単なる偶然には違いない。
 
 イナリちゃんは、記憶を失った事件で。
 三月殿は、それとはまったく別の、大昔の事件で、目に傷を負っている。
 もっとも、犯人の凶刃による傷、という点では共通するが。
 
(´・ω・`) 「どうしたんだい、イナリちゃん」
 
(´・ω・`) 「結構ノリ気じゃない」
 
イ(゚、ナリ从 「……」
 
(´^ω^`) 「久々の現場に、胸が躍るッてやつかな?」
 
イ(゚、ナリ从 「……」
 
.

785名無しさん:2018/10/27(土) 23:28:13 ID:9y4TR9Iw0
 
 
 
 なかなか可哀想な女の子だとも思った。
 キャリア組は、結構まわりから妬まれたりするのだ。
 現場一辺倒のぎょろ目なんかとは、特に相容れない部分があるだろう。
 
 しかし一方で、警察でも随一の美貌を持っている。
 詳しい話は知らないが、少なくとも僕の下にいた頃は、
 キャリア組の女であることを面白く思わない層と、
 その美貌を、眼福と言わんばかりに支持する層とで分かれていたものだ。
 
イ(゚、ナリ从 「いろいろと、新鮮ですから」
 
(´・ω・`) 「新鮮」
 
 イナリちゃんが好んで着ているのかはわからないけど、
 体のラインがよく表れる、異常に細いスーツを着込んでいる。
 男性の支持層を勝ち得たともいえる線の細さは、未だ健在であった。
 
イ(゚、ナリ从 「私が現場に出るのも、そう」
 
イ(゚、ナリ从 「おふたりが一緒にいるのもそうですし」
 
(´^ω^`) 「あ。 僕に会えたのがそもそも新鮮? 嬉しい?」
 
.

786名無しさん:2018/10/27(土) 23:28:34 ID:9y4TR9Iw0
 
 
 
イ(゚、ナリ从 「………まあ」
 
(´・ω・`) 「うへっ」
 
 ちょっとドキッとした。
 なるほど確かに、以前より遥かに心の余裕を持っているようだ。
 からかってやろうと思ったのが、カウンターされてしまった。
 
(´・ω・`) 「えっと、ああ」
 
(´^ω^`) 「キャンディー、なめる?」
 
イ(゚、ナリ从 「……」
 
(メ._⊿,) 「……」
 
(´・ω・`) 「……」
 
 ポケットからふたつ、キャンディーを取り出した。
 ミセリにもあげた花飴は、しかし受け取ってもらえなかった。
 
.

787名無しさん:2018/10/27(土) 23:28:57 ID:9y4TR9Iw0
 
 
 
 ┏━─
    午前九時二九分  アルプス山脈  有無山
                                ─━┛
 
 
 
 パトカーはやがて、十年前の現場に到着した。
 兄者が言っていたように、確かに辺境で、
 しかし雄大に広がるアルプス山脈の景色は、見事であった。
 
 ただ、季節は五月。
 紅葉は当然だがうかがえないし、
 それ以上に、想像を超える寒さに見舞われた。
 
イ(゚、ナリ从 「……」
 
 パトカーを降りて、イナリちゃんは思わず体をさすった。
 僕は、トレンチコートを着込んでいるから大丈夫だけど。
 
イ(゚、ナリ从 「……」
 
(メ._⊿,) 「……」
 
 三月殿も肌寒さを感じたようだ。
 そんな、穴だらけのボロ衣なんか着ているからだ。
 
.

788名無しさん:2018/10/27(土) 23:29:17 ID:9y4TR9Iw0
 
 
 
( ´_ゝ`) 「あーー」
 
(´・_ゝ・`) 「……間違いないね」
 
      '_
(´・ω・`) 、
 
 一方の兄者、デミタスは肌寒さなど感じなかったようだ。
 一足先に着いて、周囲を見て回っていたらしい。
 
 歩み寄ると、ふたりが振り返った。
 
 
( ´_ゝ`) 「ここですよ、ここ」
 
(´・ω・`) 「この、崖」
 
( ´_ゝ`) 「間違えるわけがありません」
 
( ´_ゝ`) 「貞子は……この崖から、落ちました」
 
.

789名無しさん:2018/10/27(土) 23:29:59 ID:9y4TR9Iw0
 
 
 
 崖は、確かに切り立った、危険なものだった。
 柵など当然なく、雨が降ってしまえば思わず滑り落ちてしまいそうだ。
 
 なにより、風が強い。
 体幹がしっかりしていなければそれだけでバランスを崩しかねない。
 
 絶壁から、随所で突出した岩や木が窺える。
 当時がどうだったかはわからないが、貞子は確かに、半ば転がり落ちていったのだろう。
 
(´・ω・`) 「………ふむ」
 
(´・_ゝ・`) 「僕らがごはん食べてたのは、あっちらへん」
 
(´・ω・`) 「どれ」
 
 デミタスが指を差したのは、崖際から十メートルほど向こうの開けた場所だった。
 草が生えておらず、平坦な岩肌が露出している。
 
 もう少し向こうにいくと、深緑のトンネルとなる。
 危険なわけではなく、太陽光を浴びながら景色を一望できるため、
 食事をするとなれば適した場所であることには違いなかった。
 
.


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