したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。

(´・ω・`)は偽りの亡霊を捕まえるようです

1 ◆wPvTfIHSQ6:2018/08/23(木) 01:38:11 ID:qgB33Ij20
 
 
▼シリーズ過去作
(´・ω・`)は偽りの香りを見抜くようです+α
http://boonsoldier.web.fc2.com/ituwari.htm
(´・ω・`)は偽りの根城を突き止めるようです+α
http://boonsoldier.web.fc2.com/ituwariII.htm
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
http://boonsoldier.web.fc2.com/ituwariIII.htm
 
 
逃亡しないことを祈ってる
 
あと作中に過去作に登場した人物の名前が出たりしますけど
特に描写がなければまったくの別人物だと思ってください(スターシステム)
シリーズに複数回登場したAAがかぶることはないです

352名無しさん:2018/09/04(火) 22:16:44 ID:vj1roGtw0
 
 
 
 これは、ワカッテマスの話術だった。
 何度も話されたような、わかりきっている内容も、
 確認だ、と言って話させるところから始まる。
 
 相手は、答えなれたそれらを饒舌に繰り返す。
 ある程度温めてから、本題にしれっと入るのだ。
 
 そうすれば、聞かれている側に負担をかけることなく、
 あわよくば、それまで思い出せなかったことを思い出させられることがある。
 
ミセ*゚-゚)リ 「ただ、」
 
( <●><●>) 「はい」
 
ミセ*゚-゚)リ 「私と、話しなれてる感じはした」
 
ミセ*゚-゚)リ 「あんまり、話してて、違和感とかぎこちなさが、なかったから」
 
( <●><●>) 「なるほど」
 
 加えてもう一点、
 相手が核心を突くことをポロッと言っても、動じない。
 ですよね、といった具合で相槌を打つ。
 
 もっとも、予想外すぎることを聞かされると、
 キャラに見合わないオーバーリアクションを取るのだけども。
 
.

353名無しさん:2018/09/04(火) 22:17:10 ID:vj1roGtw0
 
 
 
( <●><●>) 「ふたりで話したい、と言ってきたわけですが」
 
( <●><●>) 「芹澤さんとしては、どんな話をされるか予測つきますか?」
 
ミセ*゚-゚)リ 「………さあ」
 
 心当たりは、なくは、ない。
 ただ確信に至る材料が少ないから、言いあぐねている。
 そんな口ぶりだ。
 
( <●><●>) 「既に、旦那が奴の手によって殺されています」
 
( <●><●>) 「その妻と密談がしたい、なんて申し出……」
 
ミセ*゚-゚)リ 「会ってみれば、わかるかもしれませんが」
 
( <●><●>) 「…!」
 
         '_
( ´・ω・)y- 、
 
.

354名無しさん:2018/09/04(火) 22:17:30 ID:vj1roGtw0
 
 
 
( <●><●>) 「つかぬ事をお聞きしますが」
 
( <●><●>) 「明後日……犯人の要求通り、公園に行くつもりですか?」
 
ミセ*゚-゚)リ 「………」
 
 ミセリの不意を突いた一言に、多少ワカッテマスが焦った様子を見せた。
 その証拠に、コーヒーを飲んで一呼吸置いている。
 
 
ミセ*゚-゚)リ 「実感は、ありませんが」
 
ミセ*゚-゚)リ 「主人を殺した相手が、会いたがってるんですよね」
 
( <●><●>) 「おそらくは」
 
ミセ*゚-゚)リ 「……」
 
( <●><●>) 「ただ、呼び出すだけ呼び出して、」
 
( <●><●>) 「話す前にあなたを襲う可能性も、高い」
 
.

355名無しさん:2018/09/04(火) 22:18:59 ID:vj1roGtw0
 
 
 
 自然な会話の流れを潰さないように、しかし説得を試みている。
 ただ、ミセリの目はどこか虚ろで、ワカッテマスに焦点を合わせていなさそうに見える。
 
ミセ*゚-゚)リ 「……」
 
( <●><●>) 「既に、相手は三人も殺してるんです」
 
ミセ*゚-゚)リ 「でも、自首しようと思ってる、って」
 
( <●><●>) 「自首する、と言って本当に自首する犯人は、滅多にいません」
 
ミセ*゚-゚)リ 「……まあ。」
 
 その空虚な瞳に気づいたのか、
 ワカッテマスは、もう一度コーヒーを飲んで、前傾姿勢になった。
 
 
( <●><●>) 「………そういえば」
 
( <●><●>) 「本件は、連続殺人です」
 
( <●><●>) 「ご主人のクックル三階堂は、三人目なのですが…」
 
.

356名無しさん:2018/09/04(火) 22:19:28 ID:vj1roGtw0
 
 
 
( <●><●>) 「フッサール擬古、ならびにヒッキー小森」
 
( <●><●>) 「彼らの名前に、心当たりは?」
 
ミセ*゚-゚)リ 「…!」
 
 
( <●><●>) 「!」
 
( ´・ω・)y- 「!」
 
 
 ワカッテマスが、目を見開いた。
 僕も、ついラテを飲んでお茶を濁した。
 
 感情的になっていたミセリを前に、そのことはまだ、聞かないでいた。
 
 
( <●><●>) 「……ご存じ、ですか?」
 
ミセ*゚-゚)リ 「……」
 
( <●><●>) 「ご存じ、ですか?」
 
.

357名無しさん:2018/09/04(火) 22:20:10 ID:vj1roGtw0
 
 
 
ミセ*゚-゚)リ 「え、あっ」
 
 ワカッテマスが、語調を強めて再三尋ねる。
 少し放心状態だったようで、ミセリはぽかんとしていた。
 
ミセ*゚-゚)リ 「………え、その。」
 
ミセ*゚-゚)リ 「連続殺人……殺されたのッて……」
 
 
( <●><●>) 「フッサール擬古」
 
( <●><●>) 「ヒッキー小森」
 
( <●><●>) 「そして……あなたの、ご主人です」
 
ミセ;゚-゚)リ 「…………えっ?」
 
 
.

358名無しさん:2018/09/04(火) 22:20:33 ID:vj1roGtw0
 
 
 
ミセ;゚-゚)リ 「ちょ……まじで言ってンの?」
 
( <●><●>) 「逆に、散々ニュースで報じられていますが…」
 
ミセ;゚-゚)リ 「ごめん、全然、ニュース見てなくって…」
 
( <●><●>) 「と、いうと…」
 
 
(´・ω・`) 「ミセリさん」
 
ミセ;゚-゚)リ 「!」
 
(´・ω・`) 「これは、重要なことです」
 
 
(´・ω・`) 「フッサール擬古と、ヒッキー小森」
 
(´・ω・`) 「いったい、誰なんですか?」
 
.

359名無しさん:2018/09/04(火) 22:21:08 ID:vj1roGtw0
 
 
 
ミセ;゚-゚)リ 「誰、って……」
 
ミセ;゚-゚)リ 「……」
 
 
ミセ;゚-゚)リ 「大学時代の……」
 
( <●><●>) 「!」
 
ミセ;゚-゚)リ 「サークルの……友だち……だけど」
 
 
 
(´・ω・`) 「……そうか」
 
 ヴィップ大学、という読みは、的中していた。
 しかし、ヒッキー小森だけ違うところがネックでこそあったが。
 
( <●><●>) 「しかし、ヒッキー小森はヴィップ大学ではないと聞きますが」
 
ミセ;゚-゚)リ 「そう、ですけど」
 
.

360名無しさん:2018/09/04(火) 22:21:30 ID:vj1roGtw0
 
 
 
ミセ;゚-゚)リ 「部長の、知り合いで」
 
( <●><●>) 「部長…」
 
ミセ;゚-゚)リ 「流石、って人…ご存じですか?」
 
( <●><●>) 「サスガ、ですか」
 
 ワカッテマスが眉間にヒビを刻み、捜査手帳を開く。
 僕の記憶が正しければ、そんな名前の人間は、本件には関わっていない。
 
 ただ、重要な手がかりとなり得るのは明白だった。
 ワカッテマスは、記憶をあてにせず、過去のデータと参照した。
 
 
( <●><●>) 「…」
 
( <●><●>) 「いえ。 警察は、把握していませんね」
 
ミセ;゚-゚)リ 「そう…ですか」
 
.

361名無しさん:2018/09/04(火) 22:22:07 ID:vj1roGtw0
 
 
 
(´・ω・`) 「僕、大学は出てないから」
 
(´・ω・`) 「その、サークルっていうのが、よくわかんないんですけど」
 
(´・ω・`) 「クラブ活動、みたいなもの?」
 
( <●><●>) 「要は、同じ趣味趣向を持つ人たちが、」
 
( <●><●>) 「プライベートの時間を共にする集まりですね」
 
(´・ω・`) 「クラブ活動、みたいなものか」
 
 
ミセ*゚-゚)リ 「私たちは…」
 
ミセ*゚-゚)リ 「いわゆる、アウトドアサークル、ですね」
 
ミセ*゚-゚)リ 「バーベキューとか、スキーとかを、楽しんでました」
 
 
( <●><●>) 「アウトドア、ということは、釣りなども?」
 
ミセ*゚-゚)リ 「そうです、ね」
 
ミセ*゚-゚)リ 「みんな好きだったワケじゃないけど、何人かは」
 
( <●><●>) 「…」
 
(´・ω・`) 「釣り、か…」
 
.

362名無しさん:2018/09/04(火) 22:22:36 ID:vj1roGtw0
 
 
 
 ペニーが見つけてきてくれた。
 一件目、地下鉄殺人のフッサール擬古は、釣りが好きだった。
 
 釣りも、むろんアウトドアの範疇にある趣味だ。
 バーベキューの傍らで楽しんだりすることもある。
 アウトドアサークル、となると、合点がいく情報だった。
 
 
 足音がしたので振り返ると、後ろから主人がフレンチトーストを持ってきてくれた。
 僕とミセリはそれに気が付いたが、ワカッテマスだけ、険しい顔をしていた。
 
( <●><●>) 「その、アウトドアサークルについて」
 
( <●><●>) 「少し、詳しく教えていただけないでしょうか」
 
ミセ*゚-゚)リ 「ア……はい。」
 
 
(´・ω・`) 「そう慌てなさんな」
 
( <●><●>) 「なんですか、これ」
 
(´・ω・`) 「食え」
 
( <●><●>) 「……」
 
.

363名無しさん:2018/09/04(火) 22:23:05 ID:vj1roGtw0
 
 
 
 ワカッテマスは、出来立てのそれを訝しげな顔で見つめた。
 少し、呆気にとられたような顔をしている。
 
 
(´・ω・`) 「僕から、聞きましょう」
 
(´・ω・`) 「そうだなァ……」
 
 煙草に手をやる。
 緊張がほぐれてきたのか、逆に緊張が押し迫ってきたのか、
 ミセリがそれを物欲しそうな目で見つめてきた。
 なるほど、甘え上手な女性らしい。
 
 
ミセ*゚-゚)リ 「ども…」
 
(´・ω・`) 「昔話をするには、酒と煙草、ッて相場がキマっている」
 
( <●><●>) 「…いただきます」
 
(´・ω・`) 「まだ食ってなかったのかよ、さっさと食え」
 
( <●><●>) 「…」
 
.

364名無しさん:2018/09/04(火) 22:23:31 ID:vj1roGtw0
 
 
 
 少し躊躇うワカッテマスを見て、
 そういえば奴がパンの類を一切食さない男であることを思い出した。
 時間に余裕がない時の食事は、決まってエネルギーを補給するタイプのゼリーだ。
 
(´・ω・`) 「さて」
 
(´・ω・`) 「えっと、ヴィップ大学の人らで組まれたサークルだった?」
 
ミセ*゚-゚)リ 「そうですね」
 
ミセ*゚-゚)リ 「小森さん以外…は」
 
 
(´・ω・`) 「で、その小森サンは、部長の知り合いだった」
 
ミセ*゚-゚)リ 「うん」
 
(´・ω・`) 「サスガ、さんだっけ」
 
(´・ω・`) 「どんな人なんですか?」
 
 互いに煙草を持つと、心なしか、距離が縮まる心地がする。
 ミセリも、少し砕けつつあった。
 
.

365名無しさん:2018/09/04(火) 22:23:52 ID:vj1roGtw0
 
 
 
ミセ*゚-゚)リ 「変…な人ですね」
 
(´・ω・`) 「変」
 
 第一の印象がそれか。
 
 
ミセ*゚-゚)リ 「なんか変なんだけど……憎めない人」
 
ミセ*゚-゚)リ 「みんなより二歳上だったけど、そんな感じはしなかった」
 
(´・ω・`) 「みんな……フッサール擬古もだったか」
 
ミセ*゚-゚)リ 「部長と小森さん以外、みんな同い年なんです」
 
(´・ω・`) 「…ふむ」
 
 これは、帰ってからホワイトボードに書く内容が一気に増えるぞ。
 人物の相関図は、ワカッテマスに書かせることにしよう。
 
.

366名無しさん:2018/09/04(火) 22:24:14 ID:vj1roGtw0
 
 
 
ミセ*゚-゚)リ 「背が高くて、細くて、でも声は太くて…」
 
ミセ*゚-゚)リ 「いじられ役を買って出る、まとめ役…って感じで」
 
ミセ*゚-゚)リ 「基本的に、あの人がいないと、サークルは回らなかったですね」
 
(´・ω・`) 「なるほど」
 
 
(´・ω・`) 「まとめると、イイ人、だったんだ」
 
ミセ*゚-゚)リ 「まあ…そうなりますね」
 
 いるよな、そういう人。
 言いながらワカッテマスのほうを見ると、奴はもうフレンチトーストを平らげていた。
 ハムスターのように膨らんだ頬を見るに、一気に食べようとして失敗したらしい。
 
 写真だけ撮っておいた。
 ワカッテマスが露骨に嫌そうな顔をしたが、これは面白いものが手に入ったぞ。
 
.

367名無しさん:2018/09/04(火) 22:24:46 ID:vj1roGtw0
 
 
 
(´・ω・`) 「続けて」
 
ミセ*゚-゚)リ 「ア…はい」
 
 
ミセ*゚-゚)リ 「部長でしょ、小森さんでしょ、ギコくんでしょ…」
 
ミセ*゚-゚)リ 「旦那に、私に……あと、盛岡さん」
 
(´・ω・`) 「盛岡さんも、同い年で」
 
ミセ*゚-゚)リ 「はい」
 
 
(´・ω・`) 「どんな人だったの?」
 
ミセ*゚-゚)リ 「……オタク?」
 
(´・ω・`) 「オタク」
 
 もっとマシな第一印象はないのか。
 
.

368名無しさん:2018/09/04(火) 22:25:11 ID:vj1roGtw0
 
 
 
ミセ*゚-゚)リ 「その……なんていうか」
 
ミセ*゚-゚)リ 「サークル自体が、インドアなみんなでアウトドアしようぜ…」
 
ミセ*゚-゚)リ 「そんなコンセプトのサークルだった…んで」
 
(´・ω・`) 「インドア、っていうと、読書とか」
 
ミセ*゚-゚)リ 「まあ、そうですね」
 
 隣で、せき込む音が聞こえた。
 ワカッテマスがぎょろッと目を開いて、コーヒーを流し込んでいる。
 
 実に愉快だ。
 次は、ベーカリーのバイキングにでも連れていってやろう。
 
 
ミセ*゚-゚)リ 「アニメキャラがどう、とか」
 
ミセ*゚-゚)リ 「そんな話を、部長や小森さんと盛り上がってました」
 
(´・ω・`) 「そ、そうなの」
 
.

369名無しさん:2018/09/04(火) 22:25:33 ID:vj1roGtw0
 
 
 
 確かに、インドアが集うアウトドアサークル、というのはありそうだ。
 ただ、偏見かもしれないけど、ミセリがそのインドアに属する人間とは思えなかった。
 
 休日には、友人とのランチを楽しみそうな、
 比較的活発な趣味を持つイメージを持たせられる。
 
(´・ω・`) 「奥さんも、そういったものが好きで?」
 
ミセ*゚-゚)リ 「いや、全ッ然」
 
(´・ω・`) 「そ、そうなんですか」
 
 
ミセ*゚-゚)リ 「しょーじき、無理でした」
 
(´・ω・`) 「え、じゃあなんでサークルにいたの?」
 
( <●><●>) 「…」
 
 ワカッテマスが、ハンカチで涙を拭く。
 想像以上に咽たらしい。
 
.

370名無しさん:2018/09/04(火) 22:25:53 ID:vj1roGtw0
 
 
 
ミセ*゚-゚)リ 「部長に勧誘されて」
 
(´・ω・`) 「知り合いだったの?」
 
ミセ*゚-゚)リ 「いや…」
 
ミセ*゚-゚)リ 「……そういえば、どうしてだろう」
 
(´・ω・`) 「思い出すのは、ゆっくりでいいよ」
 
 そうすれば、煙草も自然に吸える。
 思えば最近、喫茶店で羽を伸ばすことも少なかった。
 サボリと言えば聞こえは悪いが、深刻な事件の傍らで寛ぐのも、大切なのだ。
 
 
 
( <●><●>) 「…サークル、ですか」
 
(´・ω・`) 「何か、閃いた?」
 
( <●><●>) 「いや」
 
( <●><●>) 「自分には縁がなかったな、と思い」
 
.

371名無しさん:2018/09/04(火) 22:26:17 ID:vj1roGtw0
 
 
 
(´・ω・`) 「まあ、あんたがサークルってのも、想像できんわ」
 
(´・ω・`) 「ちなみに、大学でサークルに入るのって、普通なの?」
 
( <●><●>) 「大学にもよりますが、全然珍しくはないです」
 
 
ミセ*゚-゚)リ 「あ、そうだ」
 
ミセ*゚-゚)リ 「ビラ撒きで何回か会って、」
 
ミセ*゚-゚)リ 「顔を覚えられたのか、あの時の人かい? って声かけられて」
 
(´・ω・`) 「サスガ、さんが」
 
 
ミセ*゚-゚)リ 「で、少し話して、」
 
ミセ*゚-゚)リ 「気がついたら加入させられてた…ッて感じです」
 
(´・ω・`) 「結構なヤリ手だね。 クチがうまかったんだ」
 
ミセ*゚-゚)リ 「実際、あの人、かなり話がうまいですから」
 
.

372名無しさん:2018/09/04(火) 22:26:40 ID:vj1roGtw0
 
 
 
(´・ω・`) 「インドアが集まる、とかは知らなかったんだ」
 
ミセ*゚-゚)リ 「いや、予想はできましたね」
 
ミセ*゚-゚)リ 「ただ、無理に酒を飲まされるとか、メンドウなことはないから楽だよ、って」
 
(´・ω・`) 「無理に?」
 
 
( <●><●>) 「サークルのなかには、無理やり酒を飲ませたりするところもあります」
 
( <●><●>) 「浮かれた大学生のノリ、というのですかね」
 
ミセ*゚-゚)リ 「そうそう」
 
ミセ*゚-゚)リ 「確かに、アウトドアには興味あったけど、」
 
ミセ*゚-゚)リ 「どこも、面倒臭そうな感じだったから…」
 
(´・ω・`) 「奥さんは、それがイヤだったんだ」
 
ミセ*゚-゚)リ 「ナンパされたり、ホテル誘われたりが、本当に、だるかった」
 
.

373名無しさん:2018/09/04(火) 22:27:04 ID:vj1roGtw0
 
 
 
 大学生、話には聞くけど、想像以上に浮かれているらしい。
 僕のなかの、博士号をとる場所というイメージからは随分離れていた。
 
ミセ*゚-゚)リ 「で、部長は、クチが達者だから」
 
ミセ*゚-゚)リ 「私としても、気楽に遊べるならいいかな、ッて乗せられて」
 
(´・ω・`) 「でも、すぐ抜けなかったんだ?」
 
ミセ*゚-゚)リ 「まあ…」
 
 というと、少しミセリは口ごもった。
 
 
ミセ*゚-゚)リ 「なんだかんだ言って、居心地は、よかったので」
 
ミセ*゚-゚)リ 「旦那とも、そこで出会って」
 
(´・ω・`) 「そうだ、旦那さん」
 
(´・ω・`) 「旦那さんは、どんな人だった?」
 
.

374名無しさん:2018/09/04(火) 22:27:33 ID:vj1roGtw0
 
 
 
ミセ*゚-゚)リ 「当時はお調子者、でしたね」
 
ミセ*゚-゚)リ 「部長と一緒にイジられる感じ」
 
 クックルは、免許証の写真で見た感じ、好青年そうだった。
 インドアのイメージがつかない、整った顔立ちだったと記憶している。
 
 
(´・ω・`) 「旦那さんも、アニメとか好きだったの?」
 
ミセ*゚-゚)リ 「いやあ…サッパリでしたね」
 
(´・ω・`) 「ほう」
 
 
ミセ*゚-゚)リ 「旦那も、部長に乗せられて入ってきたクチです」
 
ミセ*゚-゚)リ 「ただ、ノリがいい人だから。」
 
ミセ*゚-゚)リ 「趣味は合わなくても、溶け込んでましたよ」
 
.

375名無しさん:2018/09/04(火) 22:27:56 ID:vj1roGtw0
 
 
 
( <●><●>) 「趣味は合わなくても、ですか」
 
( <●><●>) 「アウトドアの趣味はなかったのですか?」
 
ミセ*゚-゚)リ 「お祭りごとは好き、ッて感じでしたね」
 
ミセ*゚-゚)リ 「バーベキューとか、スポーツはどれも好きだし」
 
ミセ*゚-゚)リ 「野外ライブとかも、彼が率先して人を集めてました」
 
(´・ω・`) 「野外ライブ?」
 
 
ミセ*゚-゚)リ 「アウトドアサークル、なんて言ってるけど」
 
ミセ*゚-゚)リ 「要は、部屋に引きこもってないで、遊ぼうぜ、ってトコなので」
 
ミセ*゚-゚)リ 「場所が野外なら、なんでもありでしたよ」
 
(´・ω・`) 「へえ…」
 
.

376名無しさん:2018/09/04(火) 22:28:22 ID:vj1roGtw0
 
 
 
( <●><●>) 「じゃあ、小森の」
 
( <●><●>) 「ギター趣味というのも、そこから?」
 
ミセ*゚-゚)リ 「ギター?」
 
( <●><●>) 「どうやらギター趣味があったようですが
 
ミセ*゚-゚)リ 「ふうん……そうだったんだ」
 
(´・ω・`) 「家でしか弾いてなかったのかな」
 
(´・ω・`) 「キャンプなんかの傍らで弾いてても、おかしくないものの」
 
ミセ*゚-゚)リ 「あいつ、名前のとおり、引きこもりだから」
 
 
ミセ*゚-゚)リ 「で…どこまで言ったっけ」
 
( <●><●>) 「メンバーについてですが、」
 
( <●><●>) 「あなた、擬古、小森、三階堂、、流石、盛岡」
 
( <●><●>) 「以上の六人、だったのですか?」
 
ミセ*゚-゚)リ 「…」
 
.

377名無しさん:2018/09/04(火) 22:28:51 ID:vj1roGtw0
 
 
 
( <●><●>) 「サークル、となると」
 
( <●><●>) 「OBだったり、新入生だったりが考えられますが」
 
ミセ*゚-゚)リ 「…」
 
 ミセリは、煙草を根本まで吸いきった。
 
ミセ*゚-゚)リ 「六人だけ、ですよ」
 
ミセ*゚-゚)リ 「部長が創ったサークルで、」
 
ミセ*゚-゚)リ 「その六人の代で、終わったので」
 
 
( <●><●>) 「終わったのは、部長が卒業して、」
 
( <●><●>) 「取りまとめ役がいなくなったから、でしょうか」
 
ミセ*゚-゚)リ 「そんなとこです」
 
.

378名無しさん:2018/09/04(火) 22:29:15 ID:vj1roGtw0
 
 
 
( <●><●>) 「わかりました」
 
( <●><●>) 「メンバーについて、もっと詳しく聞きたいのですが…」
 
ミセ*゚-゚)リ 「後日じゃあ、ダメでしょうか」
 
( <●><●>) 「どうしてでしょう」
 
(´・ω・`) 「…?」
 
 ここにきて、ミセリの態度が変わったな、と思った。
 いや、表情は変わっていない。
 声色というか、声に含まれる感情が、険しいものになった。
 
 もとより、そのアウトドアサークルというコミュニティで、
 このたびの連続予告殺人が起こっている。
 
 何もない、はずはないのだ。
 逆に捉えると、ここで言い渋るのは、確実に何か裏があった、ということ。
 
.

379名無しさん:2018/09/04(火) 22:29:47 ID:vj1roGtw0
 
 
 
ミセ*゚-゚)リ 「思い出したくないこと、思い出しちゃって」
 
( <●><●>) 「思い出したくないこと、とは」
 
ミセ*゚-゚)リ 「旦那殺されたんですよ、私。」
 
( <●><●>) 「……失礼」
 
 食い気味だったワカッテマスが引いた。
 しくじったか、と言わんばかりに、コーヒーカップを手に取る。
 
 
( <●><●>) 「連絡先が残っていたら、教えていただきたいのですが」
 
ミセ*゚-゚)リ 「何もないですよ」
 
( <●><●>) 「……はい?」
 
 
ミセ*゚-゚)リ 「卒業して、連絡とらなく、なって」
 
ミセ*゚-゚)リ 「いま、どこで何してるかも、知らないんですよ」
 
.

380名無しさん:2018/09/04(火) 22:30:11 ID:vj1roGtw0
 
 
 
( <●><●>) 「そう、ですか」
 
(´・ω・`) 「マ、そんなもんよなァ」
 
(´・ω・`) 「僕だって、高校時代の友だちと、一切連絡ないもん」
 
( <●><●>) 「…まあ」
 
 腑に落ちないのは、わかる。
 だが、今は突っ張る場面じゃないぞ、と目配せした。
 ワカッテマスも汲み取ってくれたようで、これ以上食い下がりはしなかった。
 
 
ミセ*゚-゚)リ 「…あの」
 
ミセ*゚-゚)リ 「話は、終わりでしょうか」
 
( <●><●>) 「今日のところは、とりあえず」
 
ミセ*゚-゚)リ 「…」
 
.

381名無しさん:2018/09/04(火) 22:30:40 ID:vj1roGtw0
 
 
 
( <●><●>) 「ただ」
 
( <●><●>) 「本件の、犯人」
 
ミセ*゚-゚)リ 「…」
 
( <●><●>) 「間違いなく、そのサークルの誰かだとは思うのですが」
 
( <●><●>) 「心当たりは、ありますか」
 
ミセ*゚-゚)リ 「…」
 
 ミセリの言葉を信じるなら、残るは、盛岡と流石の二人だけだ。
 ただ、言い渋っているのを察するに、まだいる可能性も高い。
 
ミセ*゚-゚)リ 「あったら、とっくに言ってます」
 
( <●><●>) 「では、不明、と」
 
 わざとらしく、手帳に書き込む仕草を見せる。
 ワカッテマスの、何か心理的な作戦だろう。
 
.

382名無しさん:2018/09/04(火) 22:31:20 ID:vj1roGtw0
 
 
 
( <●><●>) 「本件は、当該サークル内の犯行だと思われますが」
 
( <●><●>) 「動機になり得る何かに、心当たりは」
 
ミセ*゚-゚)リ 「…」
 
ミセ*゚-゚)リ 「ありません」
 
( <●><●>) 「ふむ…不明、と」
 
 ワカッテマスをよく知る僕から見れば、不自然な演技だ。
 ただ、初対面のミセリには気づかれないか。
 
 少し緊張しているのか、
 これ以上追究しない、という姿勢を見せているつもりか。
 
 
( <●><●>) 「最後」
 
( <●><●>) 「犯人の呼び出しに、応じるつもりは」
 
.

383名無しさん:2018/09/04(火) 22:31:40 ID:vj1roGtw0
 
 
 
ミセ*゚-゚)リ 「 …。」
 
( <●><●>) 「………、」
 
 
 さて、どう出るか。
 ワカッテマスとしては、首を横に振ってもらいたいところだろう。
 
 ただ、僕の経験と勘で言えば。
 ミセリは、縦にも横にも、振らない。
 
 
ミセ*゚-゚)リ 「わかりません」
 
( <●><●>) 「ッ」
 
ミセ*゚-゚)リ 「そもそも、今回の電話すら、信じられないので。 私。」
 
(´・ω・`) 「イタズラなのかどうか、ッてこと?」
 
ミセ*゚-゚)リ 「犯人なのか、自首するのか、話したいだけなのか」
 
ミセ*゚-゚)リ 「なにもわからない」
 
.

384名無しさん:2018/09/04(火) 22:32:07 ID:vj1roGtw0
 
 
 
ミセ*゚-゚)リ 「だから、また折り返し、電話しようと思います」
 
( <●><●>) 「…!」
 
 
 そう来たか。
 確かに、ミセリの視点からすれば、そう動くのが自然になるか。
 
( <●><●>) 「犯人が、素直に電話に応じるかわかりません」
 
( <●><●>) 「むしろ、折り返し電話こそが狙いの可能性もある」
 
ミセ*゚-゚)リ 「そもそも、本当に犯人なのか、が怪しいんですよ」
 
( <●><●>) 「それは、そうですが  」
 
 
ミセ*゚-゚)リ 「……詳しいことは」
 
ミセ*゚-゚)リ 「それから、また、警察に相談しようかと」
 
(´・ω・`) 「そだね。 じゃあ、コレ」
 
ミセ*゚-゚)リ 「…?」
 
 
 僕は、そっと名刺とキャンディーを渡した。
 
.

385名無しさん:2018/09/04(火) 22:32:29 ID:vj1roGtw0
 
 
 
(´・ω・`) 「110に電話するのって、実は結構メンドウなんだ」
 
(´・ω・`) 「僕に直接かける方が、信用もできるでしょ?」
 
ミセ*゚-゚)リ 「それはいいんですが、コッチ…」
 
 紫色の包みを指さした。
 
 
(´・ω・`) 「僕、キャンディーが好きでね」
 
ミセ*゚-゚)リ 「あ…飴?」
 
(´・ω・`) 「これは、アネモネって花の味がするんだ」
 
(´・ω・`) 「……アネモネ、食ったことねーけど」
 
ミセ*゚-゚)リ 「…」
 
 ミセリは少し、難しい顔をしたが、
 少しすると顔を歪めて、噴き出して笑った。
 
.

386名無しさん:2018/09/04(火) 22:32:52 ID:vj1roGtw0
 
 
 
ミセ*゚-゚)リ 「アネモネ、ですか」
 
(´・ω・`) 「僕も、妻を、事件で亡くしたんだ」
 
( <●><●>) 「…!」
 
 
ミセ*゚-゚)リ 「え…」
 
(´・ω・`) 「その妻は、花が、好きだった」
 
(´・ω・`) 「いろんな花を知っていて、いろんな花言葉を知っていて」
 
( <●><●>) 「……警部」
 
 部下の前でしたい話ではなかったな。
 だけど、ミセリには、先に言っておきたかった。
 
 
(´・ω・`) 「塩見製菓ッて知ってる?」
 
ミセ*゚-゚)リ 「大福とか売ってるとこですよね」
 
.

387名無しさん:2018/09/04(火) 22:33:22 ID:vj1roGtw0
 
 
 
(´・ω・`) 「これ、あそこの花飴ってやつなんだ」
 
(´・ω・`) 「お徳用のが、通販でしか売られてないんだけど」
 
 
(´・ω・`) 「いろんな花の味があるから、オススメしとくよ」
 
ミセ*゚-゚)リ 「…」
 
 ミセリは、顔を俯けた。
 
 
ミセ* ー)リ 「……いい花言葉のがあったら、旦那の墓に備えとく」
 
(´・ω・`) 「マ、そこまで美味しくないけどね」
 
ミセ* ー)リ 「お、美味しくないんですか、コレ…!」
 
(´;ω;`) 「ぶひゃ、ひゃひゃ!」
 
 
 
 
.

388名無しさん:2018/09/04(火) 22:33:45 ID:vj1roGtw0
 
 
 
 そして、ミセリとはそこで別れた。
 明言はされてないけど、おそらく彼女は、犯人に会うだろう。
 
 すぐに、対策を進めておかないといけない。
 暮れに、みんなを招集した。
 
 眠気がすっかり取れたぎょろ目、
 進展を前に俄然やる気になっているペニー、
 冷静に大局をうかがっている壁、と。
 
 それぞれが持ち寄った情報や推理で会議は長引いたが、
 唯一、ワカッテマスだけは、口数が少なかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

389名無しさん:2018/09/04(火) 22:34:10 ID:vj1roGtw0
序幕    >>2-69
第一幕  >>82-211
第二幕  >>218-296
第三幕  >>304-388

390名無しさん:2018/09/04(火) 22:55:38 ID:2bIoUUME0

情報が集まってきたな

391名無しさん:2018/09/04(火) 23:01:22 ID:D2EwEJdw0
一気に進んできた

392名無しさん:2018/09/05(水) 00:05:03 ID:Pp0uLn8c0
乙です

393名無しさん:2018/09/05(水) 19:49:09 ID:dvb8WGGA0

進んできたな

394名無しさん:2018/09/09(日) 23:51:16 ID:0jcXCX0o0


395名無しさん:2018/09/13(木) 04:15:56 ID:32UxlRa20
デミタス生きてたのか

396名無しさん:2018/09/15(土) 05:28:43 ID:FkYkPNxg0
ひさびさに覗いたらイツワリ来てた…!
超乙!
一気に読み返してたら朝になっちまったよ
今後も期待してるぜ!

397名無しさん:2018/09/20(木) 03:01:47 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 ┏━─
    五月六日  午後十二時三七分  ファミレス
                                ─━┛
 
 
 
 十年ほど前に、ヴィップ大学に存在したサークル。
 インドア趣味を持つ内向的な人達で、アウトドアを楽しむために結成された。
 
 芹澤ミセリに情報を聞き、翌日より詳細な捜査がはじまった。
 もとよりペニーと壁は、各被害者の情報を集めるために奔走していた。
 
 それらと並行してサークルに探りを入れることになるため、
 時間と手数が要求される局面だったと言える。
 
 
 犯人がミセリに要求した日時は、五月六日、十六時、ヴィップの滝公園。
 会議の結果、現場に警備は配置しないことにした。
 代わりに、私服に扮した警官を多数、呼び寄せることとなった。
 
 これはぎょろ目の発案だった。
 ワカッテマスは、人命がかかっているから強硬手段を取ろうと最後まで否定していた。
 ペニーは逆に、数を集めた時のデメリットを嫌い、犯人とのタイマンを望んでいた。
 
.

398名無しさん:2018/09/20(木) 03:02:21 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 争点となったのは、犯人の殺意の有無だ。
 現状、全員が全員、あると睨んでいた。
 
 しかし、あるにしては疑問点が浮かんだのも事実だった。
 ずばり、予告ではない点にあった。
 また、人目のつく公園が舞台、という点も怪しかった。
 
 それまでの犯行手口と、まるで違うこと。
 予告しないのであれば、ひっそりと殺せばいいだけのこと。
 
 ワカッテマスはこれに、公園から人目のつかない場所、
 それこそミセリ宅に上がりこむなどを懸念事項として挙げた。
 
 
 抗ったのは、ぎょろ目だった。
 そこまで人命を警戒するなら、そもそも接触を許すべきではない。
 
 犯人を刺激せず、監視の目を行き渡らせるには、
 警官に私服を着せ、一般市民に見せるのが一番効率的だ。
 ワカッテマスもその点は認めていた、というのが最終的な決め手だった。
 
.

399名無しさん:2018/09/20(木) 03:02:55 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 会議がひとまずの結論を導き出し、
 明くる日より求められたのが、サークル人員の徹底的な洗い上げ。
 流石、盛岡、というふたりの人物を調べなければならない。
 
 場合によっては、片方が犯人、片方が次なる被害者、となり得る。
 事態は急を要したが、盛岡という人物についてはすぐさまアプローチを仕掛けることが叶った。
 
 
(;´・_ゝ・`) 「……まさか」
 
(;´・_ゝ・`) 「こんな形で、再会することになるなんて」
 
(;´・ω・`) 「まったくだ…」
 
 
 かつて、オオカミ鉄道がリリースした特急列車にて事件が起こった。
 そこは特殊な密室となっていて、偶然、僕も乗り合わせていた。
 
 盛岡、と名前を聞いた時は、まだピンと来ていなかった。
 別段珍しくない名前だったためだ。
 
.

400名無しさん:2018/09/20(木) 03:04:09 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(;´・_ゝ・`) 「さ、最近……どうですか!」
 
(;´・ω・`) 「ぼちぼちだね……ウン、そうそう……」
 
 
 あの時の密室にも。
 盛岡という名前を持つ男が、乗り合わせていた。
 
 盛岡。 オタク。
 デミタスという名前を聞いた時、もしや、とは思ったのだ。
 
 ヴィップ大学、在籍年代、名前。
 個人を特定するには十分すぎるほどのデータが、あった。
 そのため、当時の 「盛岡」 という人物を割り出すまでは容易かったのだが、
 そのデータを警察で照会した時、想定外すぎるハプニングが起こった。
 
 
 ヒットしたのだ。
 この男は、過去に事件に関わったことが、あった。
 
 ひょっとすると、そこから事件解決の糸口が。
 と思ったところで、担当の事務員が、目を丸くして言ったのだ。
 
  「イツワリさんが……扱った事件ですね……」
 
.

401名無しさん:2018/09/20(木) 03:05:02 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「…」
 
(´・_ゝ・`) 「…」
 
 不思議な心地に見舞われた。
 このたびの、連続する事件。
 かつて担当した、誘拐事件を彷彿とさせる。
 
 続けて、かつて担当した、密室鉄道の関係者が現れた。
 他方、本件の関係者であるミセリが、自分と似たような境遇にあるのだ。
 
 
 デミタスに捜査協力を頼むと、快諾してくれた。
 彼が連続予告殺人を知っていたのももちろんだが、
 何より、彼が僕、ショボーンのことを知っていたのが大きかった。
 
(´・_ゝ・`) 「いまでも、たまに思い出すんですよ」
 
(´・ω・`) 「あの時の?」
 
(´・_ゝ・`) 「そそ」
 
(´・_ゝ・`) 「刑事さんは、そうでもないんですか」
 
(´・ω・`) 「……どうだろうね」
 
.

402名無しさん:2018/09/20(木) 03:05:27 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 最初、デミタスは警戒していた。
 犯人が、警察を装っておびき寄せようとしているかもしれない、と。
 
 事件を知り、デミタスは、田舎に逃げていた。
 ヴィップにいると殺されかねない、と思ったらしい。
 
 しかし、話していると、互いに妙な違和感に包まれた。
 デミタスが、もう一度お名前、よろしいですかと聞いたところで発覚したわけだ。
 
 
(´^_ゝ^`) 「ふーん……そんなもん、なんですかね」
 
(´・ω・`) 「妙に落ち着いてますね」
 
(´・_ゝ・`) 「そりゃあ」
 
 デミタスの希望で、人の少ない落ち着ける場所で会うことになった。
 結果が、ファミレスだった。
 確かに、落ち着ける場所でこそあるが。
 
 喫煙ルームの、一番端のテーブルである。
 周りをついたてや壁が囲っている、個室のような印象のテーブルだった。
 
.

403名無しさん:2018/09/20(木) 03:05:57 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・_ゝ・`) 「目の前に、いますから」
 
(´^_ゝ^`) 「あの事件を、鮮やかに解決した…あの刑事さんが」
 
(;´・ω・`) 「そりゃあどうも」
 
 すんなり話が聞けそうなのはありがたいことだが、
 妙にくすぐったくて、嫌だ。
 
 
(´・ω・`) 「そうだな…」
 
(´・ω・`) 「最近、お仕事などは何を?」
 
(´^_ゝ^`) 「しがないフリーターですよ。 トホホ…」
 
(´・ω・`) 「というと」
 
(´・_ゝ・`) 「普段はコンビニで……たまに、日雇いで」
 
.

404名無しさん:2018/09/20(木) 03:06:20 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 話しているうちに、当時の景色が脳裏をかすめていく。
 確か、当時もこの男は、フリーターだった。
 
(´・ω・`) 「結構、厳しそうですね」
 
(´・_ゝ・`) 「まあ、将来なんてありませんが…」
 
(´^_ゝ^`) 「でも、自由に生きてる感じがして、楽しいですよ」
 
 盛岡も、ミセリの話にあった通り、三十二だ。
 独身で、定職にも就いていない。
 しかし、とてもそうは思わせない楽観的な姿勢が窺える。
 
 
(´・ω・`) 「大学時代、例のサークルに参加してたんだって?」
 
(´・_ゝ・`) 「ですね。 ハイ。」
 
(´・_ゝ・`) 「ギコも、クックルも、セリっちも、ヒッキー氏も」
 
(´・_ゝ・`) 「全員、知ってますよ」
 
.

405名無しさん:2018/09/20(木) 03:06:40 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 デミタスがサークルの一員であることは、疑う余地もなさそうだ。
 実に流暢で、砕けた様子で話している。
 
(´・ω・`) 「確か、アウトドアサークル、だっけ」
          、 、、 、、 、、
(´^_ゝ^`) 「リア充しようぜ!」
 
(´・_ゝ・`) 「が、合言葉のサークルですね」
 
 
(´・ω・`) 「リアジュウ?」
 
(´・_ゝ・`) 「リアル……現実を、充実させようッてこと」
 
(´・ω・`) 「なるほど」
 
 インドアによるアウトドアサークル。
 なるほど確かに、この男が言うと説得力がある。
 
 
(´・ω・`) 「じゃあ、あんたの趣味も、釣りとか旅行とか?」
 
(´^_ゝ^`) 「みんなでワイワイするのは、好きですよ」
 
(´・_ゝ・`) 「そこに、インかアウトかは関係ないです」
 
.

406名無しさん:2018/09/20(木) 03:07:03 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 趣味、趣味か。
 おぼろげだった記憶が、蘇ってくる。
 
 盛岡デミタス、この男は確か、特殊な趣味をしていた。
 なるべく触れたくはないが、事件のためだ。
 
(´・ω・`) 「確か、漫画…とか好きじゃなかったっけ?」
 
(´・_ゝ・`) 「そりゃあもう!」
 
(´・_ゝ・`) 「あの時も、刑事さんに見られたっけ」
 
(;´・ω・`) 「僕みたいな中年には、理解しかね……エット。」
 
 
(´^_ゝ^`) 「いいですよ、いいですよ」
 
(´^_ゝ^`) 「他人に理解されないッてのは、昔ッから、わかってます」
 
(´・_ゝ・`) 「だからこそ、わかる人らで、アウトドアしてたんですよ」
 
(´・ω・`) 「ほう」
 
.

407名無しさん:2018/09/20(木) 03:07:44 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 内容がどんなものであれ。
 趣味が合う人同士のアウトドアは、さぞかし楽しいことだろう。
 そう考えると、インだろうがアウトだろうが、というのは説得力がある話だ。
 
(´・ω・`) 「となると、フッサール擬古やヒッキー小森も」
 
(´・ω・`) 「その……まあ、そんな趣味が共通していたんだね」
 
(´・_ゝ・`) 「ううん……ギコは違うかなァ」
 
(´・ω・`) 「あら」
 
 
 デミタスは少し、言葉を濁した。
 ギコは、か。
 
(´^_ゝ^`) 「ヒッキー氏、兄者氏とは盛り上がりましたよ」
 
(´・_ゝ・`) 「ただ、クックルとかギコは、そうでもなかった」
 
(´・ω・`) 「ギコって、どんな人だったの?」
 
.

408名無しさん:2018/09/20(木) 03:08:28 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・_ゝ・`) 「どんな……か。」
 
 名は体を表す、とでも言うのだろうか。
 デミタスは、コーヒーを好んで飲んでいた。
 それも、これで三杯目、すべてブラックである。
 
 平日の昼間に、若くはない男ふたりがコーヒーを飲んでいるんだ。
 はたから見ても、別段違和感はないだろう。
 マスコミの視線などは、一切なかった。
 
 
(´・_ゝ・`) 「クックルもだけど、兄者氏が誘った人だよ」
 
(´・_ゝ・`) 「学生ホールで、ひとりで本読んでたところに声をかけたらしい」
 
(´・ω・`) 「本、か」
 
(´^_ゝ^`) 「あ。 いかがわしい本じゃないよ」
 
(;´・ω・`) 「なんでもいいよ!」
 
.

409名無しさん:2018/09/20(木) 03:08:54 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・_ゝ・`) 「兄者氏はなァ」
 
(´・_ゝ・`) 「むちゃくちゃ、むちゃくちゃコミュ力高いんですよ」
 
(´・ω・`) 「コミュ力はわかるぞ。 コミュニケーション能力だ」
 
(´・_ゝ・`) 「はあ」
 
 
(´・_ゝ・`) 「セリっちとは、もう会ったんですか?」
 
(´・ω・`) 「むしろ、彼女からあんたのことを聞いたよ」
 
(´・_ゝ・`) 「え!なんて言ってましたか?」
 
(´・ω・`) 「や、名前しか聞いてないね…」
 
(´・_ゝ・`) 「そっか…」
 
 デミタスも、部員とは仲良くしていたのだろう。
 懐かしそうに、寂しそうに目を細めた。
 
.

410名無しさん:2018/09/20(木) 03:09:25 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・_ゝ・`) 「マ、いいや」
 
(´・_ゝ・`) 「あの子、パッと見、ばりばりなパリピ、陽キャじゃん」
 
(´・ω・`)  ???
 
 
(´・_ゝ・`) 「オタクの集まりに、全然似つかわしくない」
 
(´・_ゝ・`) 「でも、兄者氏の勧誘で、入った」
 
(´・ω・`) 「その話は、聞いたな」
 
(´・ω・`) 「なんだかんだ、楽しかった、ッて」
 
(´^_ゝ^`) 「なんだかんだ……か」
 
(´・_ゝ・`) 「マ、それだけ、一緒にいて楽しい人なんだ」
 
 オタク、というものに対しての嫌悪感は、強かった。
 しかし察するに、彼女もデミタス同様馴染んでいたのだろう。
 そして、それは部長の功績でもある。
 
.

411名無しさん:2018/09/20(木) 03:09:58 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「当時の彼女は、どんな人だったんだい?」
 
(´・_ゝ・`) 「女王様、だね」
 
(´・ω・`) 「はァ?」
 
 
(´・_ゝ・`) 「最初は、むっちゃ距離置かれてたけど」
 
(´・_ゝ・`) 「気がついたら、野郎どもの背中を踏んで、ケラケラ笑ってたかな」
 
(;´・ω・`) 「それはそれは……」
 
 
(*´・_ゝ・`) 「あの子、すんごいドエスなの!」
 
(;´・ω・`) 「わかった、それはいいよ」
 
(;´^_ゝ^`) 「おっと……今の話は、ナイショでお願いしますね」
 
(´・ω・`) 「ハハハ」
 
 誰がするか、こんな話。
 
.

412名無しさん:2018/09/20(木) 03:10:49 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「で、同じサークルだったクックルと結婚したんだよね」
 
(´・_ゝ・`) 「それ、実は知らなかったんだよね」
 
(´・ω・`) 「え、まじ?」
 
(´・_ゝ・`) 「エット………」
 
 
(´^_ゝ^`) 「ああ、確かに付き合ってはいたな」
 
(´・ω・`) 「ゴールイン自体は、知らされてなかったんだ」
 
(´・_ゝ・`) 「マ、サークル終わってからは連絡もなかったしね」
 
(´・ω・`) 「うん……、……」
 
 
 サークルが、終わってからか。
 部長の卒業で自然消滅したのか、はたまた、違う理由か。
 
.

413名無しさん:2018/09/20(木) 03:11:14 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「まあ、それはいいや」
 
(´・ω・`) 「サークルそのもの……について、聞かせてほしい」
 
(´・_ゝ・`) 「いいですよ。 どこから?」
 
 どこから、か。
 この調子だと、隠し事なしで教えてくれるだろうか。
 
 ミセリは、どこか何かを言いあぐねている様子だった。
 デミタスに、それはあるのだろうか。
 
 
(´・ω・`) 「そうだな」
 
(´・ω・`) 「まず、部員だ」
 
(´・ω・`) 「フッサール擬古、ヒッキー小森、クックル三階堂、芹澤ミセリ」
 
(´・ω・`) 「あんたと、部長の流石兄者……で全員なんだね?」
 
(´・_ゝ・`) 「…」
 
.

414名無しさん:2018/09/20(木) 03:11:55 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「…?」
 
 即答、しないのか。
 ちょっと、嫌な予感がした。
 
 
(´・_ゝ・`) 「……」
 
(´・_ゝ・`) 「そうだ、ね。 ウン」
 
(´・_ゝ・`) 「その六人しかいないよ」
 
(´・ω・`) 「…」
 
 何か、隠しているのか。
 それとも、幽霊部員やすぐに辞めた人をカウントするか悩んだのか。
 
 
(´・ω・`) 「幽霊部員とかも、勘定してほしい」
 
(´・_ゝ・`) 「ヤ、そんなのはいなかったよ」
 
(´・ω・`) 「じゃあ、六人でウソじゃないんだな?」
 
(´^_ゝ^`) 「……………ウソじゃ、ないな」
 
.

415名無しさん:2018/09/20(木) 03:12:42 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 嘘じゃない。
 妙に引っかかる言い回しだ。
 
(´・ω・`) 「解散前に辞めた人とかは?」
 
(´・_ゝ・`) 「いや、それもないよ」
 
(´・_ゝ・`) 「兄者氏がほんとうにコミュ強でね」
 
(´・_ゝ・`) 「在籍した人はみんな、楽しそうに活動に参加してたよ」
 
(´^_ゝ^`) 「なんだかんだ、ね」
 
(´・ω・`) 「……そう、か」
 
 嘘を吐いている様子は、ない。
 兄者がクチ達者だ、という話は何度も聞いた。
 なんだかんだ、という言い回しも、ミセリを脳裏に浮かべての発言だろう。
 
 だったら、今のわだかまりはなんだ。
 幽霊部員も、辞めた人もいない。
 ほんとうに六人なのか、語られざる七人目がいるのか。
 
.

416名無しさん:2018/09/20(木) 03:13:24 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「……」
 
 煙草をクチに加えた。
 部長はどうやら愛煙家だったようで、
 デミタスの前でもよく吸っていたらしい。
 煙草に気遣わなくていいのは、ありがたい事だ。
 
 
(´・ω・`) 「何も、隠してはいないな?」
 
(´・_ゝ・`) 「どうしたんですか。 何か、あったの?」
 
(´‐ω‐`) 「ヤ……思いすぎだったらいいんだけどね」
 っ “
 
( ´・ω・)y- 「ミセリもあんたも、何か含みのある言い方をするんだ」
 
(´・_ゝ・`) 「…」
 
( ´・ω・)y- 「人数……そう。」
 
 
( ´・ω・)y- 「人数だ」
 
( ´・ω・)y- 「その話をする時だけ、あんたらは、言葉を濁す」
 
.

417名無しさん:2018/09/20(木) 03:14:06 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・_ゝ・`) 「…」
 
(´・_ゝ・`) 「あんたら…セリっちも、だね」
 
( ´・ω・)y- 「忘れちゃダメだぜ、デミタスくん」
 
 一発、オドシ、入れるか。
 
 
( ´・ω・)y- 「現状、容疑者は、部長かあんただ」
 
 
 
 それは、オーバーに効いた。
 デミタスは、飲んでいたコーヒーを、漫画みたいにぶちまけた。
 
( ;´゚_ゝ゚) ,;・’:
 
( ´・ω・)y-
 
(´・ω・`)y-
 
 
.

418名無しさん:2018/09/20(木) 03:15:57 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(;´・_ゝ・`) 「お、驚かさないでよ!」
 
(´・ω・`) 「こ、コーヒーを飲みながら聞くほうが悪い」
 
 おしぼりで、テーブルを拭く。
 スーツにまでかからなかったのは、せめてもの救いだ。
 
 
(´・_ゝ・`) 「そうか、容疑者、か」
 
(´・_ゝ・`) 「僕、こう見えて、アリバイはばっちりだと思うよ」
 
(´・ω・`) 「………ああ、そういえば」
 
 事件を聞きつけて、田舎に逃げたんだっけか。
 聞きつけて、なんだから、地下鉄殺人やホテル殺人ができたとしても、
 デミタスが犯人なら、今日のミセリとの密会がネックとなる。
 
 デミタスがヴィップに戻ってきたのは、
 他でもない僕が呼び寄せたからだ。
 
.

419名無しさん:2018/09/20(木) 03:16:50 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「となると、部長が?」
 
 聞くと、デミタスは長考した。
 引っかかったのは、もし何か隠し事をしているなら、
 ここでその深層心理が現れるというのに、
 
(;´・_ゝ・`) 「あの人が……?」
 
(;´・_ゝ・`) 「………いや、でも……」
 
 この長考に、含みはなさそうだったのだ。
 もちろん、隠し事も込みで、僕の推量でしかないのだけど。
 
 
(´・ω・`) 「でも、消去法だと、部長になるぞ」
 
(´・ω・`) 「三人は既に殺されて、嫁にもアリバイはある」
 
(;´・_ゝ・`) 「です、よね…」
 
(;´・_ゝ・`) 「え、兄者氏が…?」
 
 消去法、という言葉にも引っかからない。
 もし七人目を隠しているなら、そこでまたリアクションがあるはずなのに。
 
.

420名無しさん:2018/09/20(木) 03:18:03 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(;´・_ゝ・`) 「いや、考えられない」
 
 デミタスは、断言した。
 
(;´・_ゝ・`) 「え、でも、だったら誰が…?」
 
(´・ω・`) 「他に、候補、心当たりはいないの?」
 
(;´・_ゝ・`) 「いませんよ。 他に誰もいないんだから」
 
(´・ω・`) 「な……」
 
 
 隠された七人目というのは、いなかったのか?
 デミタスに、嘘を吐いている様子は一切見受けられない。
 
 また、サークル外の犯行、というわけでもなさそうだ。
 もとよりコミュニティ内の犯行だし、
 当事者のデミタスも、まるで思いつかないでいる。
 
.

421名無しさん:2018/09/20(木) 03:19:20 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(;´・_ゝ・`) 「待って……怖くなってきた……」
 
(´・ω・`) 「落ち着いてほしい」
 
 図太いように見えるデミタスが、動揺している。
 知り合い、というのもあって油断していたが、奴も当事者の一人で、
 それはすなわち、ターゲット候補の一人でもあるのだ。
 
 
(´・ω・`) 「あんたが求めるなら、警察はあんたを保護するし」
 
(´・ω・`) 「何より僕は、あの密室鉄道を、解決した男だぜ」
 
(´・_ゝ・`) 「…!」
 
 
.

422名無しさん:2018/09/20(木) 03:19:41 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 自分で言っててなかなかに歯がゆかったが、デミタスには効いたようだ。
 現場を共にしたんだ、説得力は折り紙つきだろう。
 
 
(´・_ゝ・`) 「……そうですね」
 
(´^_ゝ^`) 「それに、まだ、僕んとこには、予告とか来てないし」
 
(´・ω・`) 「万が一来たとしても、ゼッタイに、殺させない」
 
(´・_ゝ・`) 「ありがとう。 信じられるよ」
 
(´・ω・`) 「………」
 
 確信した。
 デミタスは、嘘は吐いていない。
 
 この一連の流れで、犯人になり得る七人目を隠し通せているはずがない。
 デミタスはどちらかと言えば不器用な男だ。
 まして僕は、人がなにか偽ろうとするのを見抜くのが、得意だ。
 
 その僕が確信するんだ、七人目はいないのだろう。
 しかし、だとすると、犯人は部長、流石兄者となる。
 
.

423名無しさん:2018/09/20(木) 03:20:58 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 いやに引っかかるのが、デミタスの反応だ。
 部長の犯行は考えられない、と断言している。
 
 ミセリの話と重ねてみても、なかなか人望のあった男だと聞く。
 部長が犯人だったとして、どうして十年後になって犯行に及んだのかが説明つかない。
 
 
(´・_ゝ・`) 「……で」
 
(´・_ゝ・`) 「何を話せば、いいんでしたっけ」
 
(´・ω・`) 「ん。 そうだな…」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

424名無しさん:2018/09/20(木) 03:22:24 ID:T8wS26JU0
 
 
      '_
(´・ω・`) 、
 
 
 聞きたい話は、山ほどある。
 デミタスは貴重な、まだ犯人が接触していない関係者だ。
 
 先回りできているのは、大きなアドバンテージとなる。
 加え、知り合いということもあり、
 初対面だと話してもらえなさそなことも、聞き出せる。
 
 
(´・ω・`) 「失礼」
 
(´・_ゝ・`) 「どうぞ」
 
 時間も限られている局面だ、
 手短に、簡潔に、重要そうなことだけを聞かなければならない。
 
 というのに、着信音が横やりを入れてきた。
 誰だ、と思うと、少し嫌な予感がした。
 ワカッテマスからかかってきたのだ。
 
.

425名無しさん:2018/09/20(木) 03:23:45 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「僕だ」
 
 ヤマを追っている時のワカッテマスからの着信は、
 得てして不吉の前兆となっている。
 
 その嫌な予感は、的中しそうだ。
 ワカッテマスは少し、声が弾んでいた。
 
  「芹澤ミセリの動向について、なにか聞かされていますか」
 
(´・ω・`) 「…どうした?」
 
(´・ω・`) 「僕は、なにも聞いてないけど」
 
  「いま、彼女のアパートにいるのですが」
  「インターホンの呼びかけに、一切応答しません」
 
 
(´・ω・`) 「………」
 
(´・ω・`) 「電話にも、か」
 
  「それが…」
  「コールすら、かかりません」
 
.

426名無しさん:2018/09/20(木) 03:25:23 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「コールすら?」
 
  「電波の届かないところにいるか、電源が切られているか…」
  「とにかく、一切つながらないのです」
 
(´・ω・`) 「なに?」
 
       '_
(´・_ゝ・`) 、
 
 思わず、眉がつりあがった。
 事前に、ミセリには電源は切らないよう忠告してある。
 
 ミセリは、いつ、なんどき襲われるかわからない身だ。
 そのため、電源が切れていたら緊急事態と判断する、と伝えた。
 
 それは無論犯人の知らないやり取りである。
 最近のスマホは、GPS機能で簡単に居場所を割り出せる。
 近年の殺人犯は、それを警戒してスマホを破壊することが多いのだ。
 
.

427名無しさん:2018/09/20(木) 03:26:53 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「大家に一報入れて、無理にでも部屋に入れ」
 
(´・ω・`) 「ぎょろ目には、僕から連絡入れておく」
 
  「わかりました」
 深刻な声色を最後に、電話は切られた。
 
 不吉だ。
 事前に約束してあるんだ、ミセリが電源を切るとは考えにくい。
 
 もうひとつ不吉だったのは、
 いま、現場にはぎょろ目しか控えていない。
 ペニーと壁はいまは情報収集に回しているし、私服警官もまだ到着していないのだ。
 
 
(´・ω・`) 「もしもし、僕だ」
 
(´・ω・`) 「いま、公園か?」
 
 ぎょろ目は、ワンコールで応答した。
 事件中の奴は、電話にはワンコールで出るよう徹底している。
 もし応じなかった場合は、なにかがあった、ということだ。
 
.

428名無しさん:2018/09/20(木) 03:27:50 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 ぎょろ目は、散歩するふりをして、現場の地理を把握しているところだった。
 不吉なものはまだ感じ取っていないのだろう、いつも通りの声だ。
 
(´・ω・`) 「ワカッテマスから、共有だ」
 
(´・ω・`) 「ミセリが、こちらの呼びかけに応答しない」
 
 僕がワカッテマスから聞いた時と同様に、
 奴も嫌なものを感じ取ったのか、一瞬声を詰まらせた。
 
 
(´・ω・`) 「インターホンには対応せず、電話もつながらない」
 
(´・ω・`) 「いま、ワカッテマスに部屋に乗り込むよう言ってある」
 
  「つながらない、というのは、コールが続くということですか」
 
 
(´・ω・`) 「いや、コールすら鳴らない」
 
(´・ω・`) 「電源が切れただけか……破壊されたか。」
 
.

429名無しさん:2018/09/20(木) 03:28:48 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 ぎょろ目が押し黙る。
 さまざまなケースが考えられるのだ。
 
 あれから犯人が、公園とは別の時間と場所を指定して、
 ミセリが警察に共有せずに応じたケース。
 
 あるいは、もう既に、殺されてしまったという可能性もある。
 考えたくはないが。
 
 
(´・ω・`) 「そっちは、どうだ」
 
(´・ω・`) 「何か、変わった出来事は」
 
  「現状、騒ぎなどは、特に」
 
 と言いながら、断続的に息の弾む音が聞こえた。
 公園内を、走って巡回しだしたのだろう。
 
(´・ω・`) 「なにかあったら、すぐ連絡しろ」
 
(´・ω・`) 「ワカッテマスからの連絡も、すぐに回す」
 
.

430名無しさん:2018/09/20(木) 03:30:12 ID:T8wS26JU0
 
 
 
  「わかりました」 とだけ残して、電話は切れた。
 時刻は、まだ十三時だ。
 アクションを起こすには、いささか早い気もする局面。
 
 アパートには、ワカッテマスが。
 公園には、ぎょろ目が先回りしたはずだったが。
 
 既に、犯人に先手を打たれたのか?
 しかし、犯人からのアクションがあったとして、
 ミセリから連絡が入っていないのが妙だ。
 
 連絡する間もなく、なにか事態に発展したのか。
 だとすると、犯人はアパートに向かった可能性もある。
 この上なく不吉で、不愉快だ。
 
 
(´・ω・`) 「……」
 
(´・_ゝ・`) 「何か、あったんですか」
 
(´・ω・`) 「ん。 ああ…」
 
.

431名無しさん:2018/09/20(木) 03:31:29 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 ここは、公園からもアパートからも、やや離れた位置にある。
 急行したところで、数十分のラグが発生する。
 
 すぐに向かうべき、なのだろうか。
 しかし、公園で何かあったとは考えにくいところでもある。
 
(´・_ゝ・`) 「セリっちが……いないんですか?」
 
(´・ω・`) 「うん」
 
(´・ω・`) 「電話も、つながらないらしい」
 
 と言いながら、僕も電話をかける。
 しかし、ワカッテマスの言っていたように、コールすらかからない。
 
 急行準備だ。
 コーヒーを飲み干して、目下優先すべきことを考える。
 
 
(;´・_ゝ・`) 「……まさか、もう…?」
 
(´・ω・`) 「ん」
 
(;´・_ゝ・`) 「殺され……たんですか?」
 
(´・ω・`) 「それは、わからない」
 
.

432名無しさん:2018/09/20(木) 03:32:01 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「わからないけど…」
 
(´・ω・`) 「ひとまず、僕は戻ろうかと思う」
 
(;´・_ゝ・`) 「…」
 
 さて。
 悩むのは、デミタスをどうするか、だ。
 
 デミタスを同行させるのは、容易い。
 デミタスがそれを拒んでも、警察のほうで保護させればいいだけだ。
 
 
 問題は、現場まで同行させるか、どうか。
 デメリットは、言うまでもなく、犯人の目に晒すことになる点。
 
 しかし裏を返せば、犯人もデミタスにその姿を晒すことになる、とも取れる。
 サークルの内外問わず、当時の関係者がそこにいれば、
 デミタスは、すぐに見つけることができるだろう。
 
 この諸刃の剣は、警察側の数少ない武器だ。
 取り扱いを誤れば、最悪の展開すら考えられる。
 
.

433名無しさん:2018/09/20(木) 03:33:19 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「そこで、だ」
 
(´・ω・`) 「あんたも、連れていこうかと思う」
 
(;´・_ゝ・`) 「!」
 
(;´・_ゝ・`) 「………。」
 
 
 押し黙るのは、自分も殺され得るから、に他ならない。
 しかしすぐに拒まないのを見るに、奴もわかっているのだろう。
 自分なら、犯人を見つけ出すことができる、と。
 
 そうでなくても、デミタスを、近くに置いておきたいという気持ちが強い。
 いつでも自ら保護に回れるし、
 話をするのにこの近辺にいられちゃあ不都合だ。
 
 
(;´・_ゝ・`) 「………。」
 
(´・ω・`) 「拒むなら、強制はできないけどね」
 
.

434名無しさん:2018/09/20(木) 03:34:27 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(;´・_ゝ・`) 「………。」
 
(;´・_ゝ・`) 「……拒み……は、しないよ」
 
(´・ω・`) 「!」
 
 違うのか。
 来るかどうか、を悩んでいたのではないのか。
 
 だとしたら、この沈黙はなんだ。
 保護されるか、現場まで来るかを考えているのか、あるいは。
 
 
(;´・_ゝ・`)
 
(;´・_ゝ・`) 「……」
 
(´・ω・`) 「時間がもったいない、行くぞ」
 
(;´・_ゝ・`) 「……」
 
 デミタスは、ちいさく頷いた。
 
.

435名無しさん:2018/09/20(木) 03:35:13 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 覆面パトカーに乗り込んで、すぐに着信はきた。
 ワカッテマスからだ。
 
 ミセリの部屋に押し掛けたはいいが、
 案の定、とでも言うべきなのか。
 無人だったらしい。
 
 また、部屋の様子からして、連れ去られたなどといったことでもないそうだ。
 洗濯機がまわっていたり、照明がつきっぱなしでも、なく。
 ミセリの意思で外出したであろうことは明白だった、と。
 
 
 立会人の大家は、彼女がいつ頃出掛けたのか、はわからないらしい。
 もとより、大家は彼女を監視していたわけでもない。
 仕方ないこととはいえ、その情報がわかるだけでも助かったのだが。
 
 アパートはワカッテマスに任せて、僕は公園に向かうことにした。
 奴も、すぐに公園に向かうべきか聞いてきたが、
 僕の指示で、先に軽く室内を漁らせることにした。
 
 
 しかし、時間もない。
 ワカッテマスの捜査能力は、高いとはいえ。
 空回りする時間が惜しいのは言うまでもない。
 
 奴が、どこを漁るべきか、指示を仰いでくる。
 調べるべき、ものか。
 
.

436名無しさん:2018/09/20(木) 03:35:42 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「書置きの類は、ないんだね?」
 
  「真っ先に確認しました」
 
(´・ω・`) 「そうか……だったら。」
 
 
(´・ω・`) 「家から紛失している、」
 
(´・ω・`) 「凶器になり得る、なにか」
 
 
 ワカッテマスが息を呑むのが窺えた。
 
  「凶器になり得る…?」
 
(´・ω・`) 「考えても見ろ」
 
(´・ω・`) 「犯人に会いにいくッつーのは、つまり」
 
(´・ω・`) 「自分の夫を殺した野郎に会いにいく…ッてことだぞ」
 
.

437名無しさん:2018/09/20(木) 03:36:55 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 ワカッテマスは黙った。
 早足で室内を歩く音が聞こえる。
 
 凶器になり得るもの。
 若い女性なのだから、スタンガンの類を買っていてもおかしくない。
 近頃では、一般向けの警棒もさまざまなものがあると聞く。
 
 
 しかし、僕もワカッテマスも、真っ先に浮かんだものは違った。
 一般人が、殺意を抱くときに携えるもの。
 
  「ありました」
  「いや  なかった、と言えばいいのか……とにかく。」
 
(´・ω・`) 「……ひょっとして」
 
 
  「包丁が、ひとつもありません」
 
 
.

438名無しさん:2018/09/20(木) 03:38:07 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(;´・ω・`) 「………」
 
 確定した。
 ミセリは、犯人に、会いに行った。
 
 ここで、何も情報が上がらなければ、
 買い物にでも行った矢先、うっかり充電が切れたか、落としたか、があり得た。
 
 ただ、包丁のない家庭というのは、あり得ない。
 包丁を持って出かけることも、あり得ない。
 
 一般人が 「凶器」 と考えて、真っ先に思い浮かぶもの。
 間違いなく、包丁だ。
 
 
(;´・ω・`) 「……部屋の捜査は、所轄に任せろ」
 
(;´・ω・`) 「令状はいらん、大家に立ち会わせておけ」
 
  「なら、私は」
 
 
(;´・ω・`) 「公園だ」
 
(;´・ω・`) 「ヴィップの滝公園」
 
(;´・ω・`) 「応援要請は僕がしておく」
 
.

439名無しさん:2018/09/20(木) 03:39:06 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 自然と、アクセルを踏む力も強くなる。
 ハンドルを握る手に、汗が滲んできた。
 
 彼女が、いつ、部屋を出たのかがわかれば。
 それも、つい少し前、というのであれば、まだ事態を防ぐことはできる。
 
 
 この上なく嫌な予感がしやがるのは、
 電話がつながらない、ということだ。
 
 犯人と会って、電話がつながらない事態に発展した。
 その時点で、半分望み薄ではあった。
 
 あり得るとするならば、
 電話をかけようとして犯人に叩き落され、電話だけが壊れたケース。
 あるいは、滝壺にでも水没したのか。
 
 そのどちらも、状況を考えれば十分に考えられることだ。
 そして、それを考えるのではなく、祈らなければならない。
 
.

440名無しさん:2018/09/20(木) 03:39:26 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「…僕だ」
 
  「はい」
 
 すぐに、ぎょろ目にも共有だ。
 僕の声色を察して、奴も声のトーンをひどく落とした。
 
(´・ω・`) 「要点は、ふたつ」
 
(´・ω・`) 「まず、ミセリは自宅にはいなかった」
 
 
(´・ω・`) 「もう一つ」
 
(´・ω・`) 「彼女は、包丁を持って出掛けている」
 
 ぎょろ目は、何か言いかけたのを堪えて、舌打ちだけした。
 おそらく、眉間にシワを寄せているだろう。
 考えたくない事態が、発生したからだ。
 
 警察への相談なしに、彼女は独断で、犯人と会いにいった。
 しかし、だったらどうして、何時間も早い今に。
 あるいは、もっと早くに。
 
.

441名無しさん:2018/09/20(木) 03:40:30 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 考えるまでもなかった。
 あれから、犯人との更なるやり取りがあったのだ。
 それも、指定していた十六時よりも、早くの合流。
 
 早くする理由は、警察を撒く以外に考えづらい。
 しかしそれは、ミセリが提案したことかもしれない。
 警察の介入なく、真剣な話をしたく思ったかもしれないのだ。
 
 
(´・ω・`) 「所轄もすぐさま配置させる」
 
 当初、警官を配置するのは控えておくつもりだった。
 ただ、事態が事態だ。
 リスクなど考えていられる余裕はない。
 
 ここまできたら、ぎょろ目もワカッテマスも、反対しようとしなかった。
 むしろ、一刻も早く、一人でも多くの応援を求める。
 
 
(´・ω・`) 「あんたは、とにかく写真を持って聞き込みに回れ」
 
(´・ω・`) 「身分も明かして構わん」
 
.

442名無しさん:2018/09/20(木) 03:40:56 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 こうなると、兎にも角にも時間が惜しい。
 言うだけ言って電話を切り、僕もパトランプを装着した。
 サイレンを鳴らしながら、無線機を握る。
 
(´・ω・`) 「こちら、捜査一課ショボーン」
 
(´・ω・`) 「至急、ヴィップの滝公園に応援を要請する」
 
 頬を、汗が伝う。
 思わず、僕まで眉をしかめてしまう。
 
 
 これでも、捜査一課の警部だ。
 ヴィップの警官にはだいたい名が知られている。
 
 そんな僕が、急遽応援を要請するのだ、
 公園に近い署から順に、現場に到着するだろう。
 
 懸念事項があるとすれば、ヴィップの滝公園が現場である可能性だ。
 最初の指示は、滝公園だった。
 しかし、後日再度やり取りがあった時に、指定場所が変わっているかもしれない。
 
.

443名無しさん:2018/09/20(木) 03:42:05 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 となると、いよいよ犯人に出し抜かれることになる。
 重要なのは、そもそもどうして、犯人はヴィップの滝公園に呼び出したのか。
 
 犯人が言っていたことは、要は以下の二点。
 自首しようと思う。
 その前に、ふたりで話がしたい。
 
 殺すつもりであることも、公園側への殺人予告もない。
 犯人の意図が、ここにきて汲み取れなくなっている。
 
 
 再三話し合ったが、やはりミセリを殺すつもりだろうという見解は変わらない。
 ここで、犯人が隠し持つ殺意と、ミセリへの電話内容が食い違う。
 
 この食い違いも加味するとなると、
 犯人は、その殺意が気づかれないようにミセリを殺す必要があるわけだ。
 
 そして、その要素が滝公園に
 含まれている点から先回りして、推理を進めなければならない。
 
.

444名無しさん:2018/09/20(木) 03:43:09 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 滝公園は、地元民には知られている名所であり
 一ヴィップ民である僕も、当然よく知っている。
 
 しかし、あそこに、その要素はあるのか。
 滝公園にあるものは、広場、自然、出店、そして滝。
 
 滝がある以上、滝壺はあり、そこから園内を巡る川もある。
 真っ先に思い浮かぶのは、溺死だが。
 
 
 溺死か。
 溺死の線は、薄くはない。
 
 場所を滝公園に指定した時点で犯人側に殺意があった場合、
 犯人側は、どうにかして足のつかないような殺人方法を用意する。
 
 その点、溺死は、指紋を残さず、凶器も必要としない点で優秀だ。
 逆に、即死という概念がない以上、時間と手間がかかる。
 ミセリは細腕の女性だ、難しくはなかろうが、抵抗が懸念される。
 その過程で水を浴びてしまうと、そこから足がつく可能性もある。
 
.

445名無しさん:2018/09/20(木) 03:44:21 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「…」
 
(;´・ω・`) 「クソッ!」
 
 考えが、いまいちまとまらない。
 犯人は目の前まで迫っているのに、未だに、霞がかっている。
 
 近年、時代の流れか、覆面パトカーも全車禁煙にすべきだ、と言われている。
 だが、この際そんなものはどうでもいい。
 煙草のフィルターを噛み、乱暴に火をつけた。
 
 思いっきり吸い込む。
 一気に一センチほど燃焼した。
 
 
(;´・ω・`) 「考えろ…」
 
(;´・ω・`) 「考えろ…」
 
 現時点での武器は、ずばりぎょろ目が現場に既にいる、ということ。
 奴を使えば、あるいは犯人を確保できるかもしれないし、
 そもそも殺人そのものを未然に防げるかもしれない。
 
.

446名無しさん:2018/09/20(木) 03:44:58 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 東風ミルナという刑事の容姿が、脳裏に浮かぶ。
 白髪が目立ってきた、渋い古風な刑事だ。
 
 僕以上のキャリアを持ち、あらゆる能力はワカッテマスに負けるとも劣らない。
 老いてもなお頭は冴えているし、現場から証拠を取りこぼすことはないのだ。
 
 ただひとつ弱点が、鋭い推理力が備わっていない。
 僕が、奴を差し置いて警部に成り上がっているのも、
 僕自身の功績以外に、奴自身が上に立つのを嫌った背景がある。
 
 
 捜査スキルが高い。
 上に立ち、下を巧みに操る技術にも長けている。
 情報を一から七、八にするのは得手だし、
 七、八ある情報から事件を解決するのも得手だ。
 
 ただ、一しかない情報、
 あるいはまったくのゼロから、ロジックを構築できない。
 
 そして現況、情報は一、二程度しかない。
 ミセリが共有してくれた、犯人とのやり取り。
 加え、犯人の思惑の矛盾と現場状況の照らし合わせくらいか。
 
 
 だとすると。           、 、
 聞き込みと並行して奴に見てもらうべきものは?
 
.

447名無しさん:2018/09/20(木) 03:45:20 ID:T8wS26JU0
 
 
            、
(;´・ω・`) 「    水かッ! 」
 
 すぐさま電話を手に取る。
 既に、答えは出していた。
 犯人は、水を利用した犯行を企んでいた可能性が否定できない。
 
 それが溺死なのか、あるいは滝の上からの転落死か。
 どちらにせよ、関わってくるのは水である。
 
 滝の上か、その先の滝壺か、滝壺から続く川か。
 ぎょろ目は走りながら電話にすぐさま応じた。
 
 
(;´・ω・`) 「現況ッ」
 
  「今のところヒットなしッ」
 
(;´・ω・`) 「オーケー」
 
(;´・ω・`) 「聞き込みは、滝から末端の川までを沿うようにしてくれ!」
 
.

448名無しさん:2018/09/20(木) 03:45:46 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 ぎょろ目は、意図を汲み取り損ねたのか、一瞬黙った。
 だが、すぐさま頷いて電話を切った。
 
 滝公園の、園内を渡る川は、一本だけだ。
 幅数メートルある大きなもので、丁寧な装飾が施されている。
 
 川近辺に人は集まりやすい。
 文明の発展においても、観光名所においてもだ。
 
 
(;´・ω・`) 「間に合ってくれよ……」
 
 万が一を考え、覆面パトカーで来ていてよかった。
 パトカーなら、多少は法定速度を無視しても咎められない。
 もっとも、法を破るものを追うのに法に縛られるのは本末転倒と思わなくもないが。
 
 アクセルを深く踏んで、信号も無視して、とにかく前へ。
 あと十分ほどで、公園が見えてくる。
 
.

449名無しさん:2018/09/20(木) 03:46:10 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(;´・ω・`) 「!」
 
 こちらからかけてばかりだった電話が、震えた。
 ワカッテマスではない。
 ぎょろ目からだ。
 
(;´・ω・`) 「僕だ」
 
  「目撃証言ッ」
 
(´・ω・`) 「ッ!」
 
 
  「少し前に、滝壺になにか大きなものが落ちた音がしたッ」
  「鯉が跳ねたにしては大袈裟すぎたと、市民が証言ッ」
 
(;´・ω・`)
 
 
 全身に、悪寒が走った。
 滝壺に、大きなものが落ちた音がした。
 鯉が跳ねた程度ではない音。
 
.

450名無しさん:2018/09/20(木) 03:46:39 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(;´・ω・`) 「    いつ頃だッ!」
 
  「五分か、十分か前、とのこと」
 
 
(;´・ω・`) 「沈んだのか? 流されたのか?」
 
  「これより検証、しばらく応答できませんッ」
 
(;´・ω・`) 「…!」
 
 
 これより検証?
 何を言っている?
 
(;´・ω・`) 「わかった、川下のほうに向かっていけ!」
 
(;´・ω・`) 「僕もすぐにそっちに着く!」
 
 がちゃがちゃ、と何かを外すような音が聞こえてきた。
 茂みにいるであろう音も併せて聞こえてくる。
 
 検証、か。
 鉄砲などを外して茂みに隠し、滝壺に潜るつもりか。
 
.

451名無しさん:2018/09/20(木) 03:47:10 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(;´・ω・`) 「      ………。」
 
 これが、ぎょろ目の強さだった。
 夏に向かっているとはいえ、まだ暑くはない気候。
 
 歳も増すばかりで、冷水に飛び込むのは危険も伴う。
 それでも、躊躇などなしに、その程度のことをやってのける男なのだ。
 
 
(;´・ω・`) 「………」
 
(;´‐ω‐`) 「……」
 
 
 拳を、強く握りしめた。
 僕のまわりには、優秀な刑事が集まっている。
 
 日頃は、どこか気の抜けた連中ばかりだが
 それが今この瞬間、この上なく心強く思えた。
 
 
(´・ω・`) 「飛ばすぞ」
 
(;´・_ゝ・`) 「…え?」
 
(´・ω・`) 「ケーサツには、黙っててくれよ」
 
.


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板