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('A`)と( ^ω^)は異世界で絆と出会うようです
1
:
名無しさん
:2018/07/10(火) 19:35:07 ID:X.bQi/M20
http://boonsoldier.web.fc2.com/kizuna.htm
250
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 20:09:42 ID:vp.cEk020
雪を文字通り蹴散らしながら走る背を眺めながら、
内藤はあの、宿で聞いた言葉を反芻する。
『お前は管理者ではない』
(;^ω^)「は? それは……」
(;^ω^)「……まだ、あの時のこと怒ってるのかお?」
『違う、そうじゃないんだ、もっとずっと前から』
『お前が最初にこの剣を手にした、あの瞬間から、ずっとだ』
(;^ω^)「いやいや、そんな、だって今までちゃんと…!」
『分かったんだ、思い出したんだよ』
『奴の言うとおりこの剣は壊れている、その原因は』
『俺だ、俺だったんだ』
『俺という存在が、この剣をおかしくしている』
『お前の言うとおりなんだ、俺さえ消えれば、お前は本当の――――』
251
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 20:10:11 ID:vp.cEk020
(;^ω^)「やめてくれお! 何馬鹿なこと言ってんだお!?」
『聞くんだ内藤、そしてもう一度願ってくれ、俺を……消してくれ』
(;^ω^)「嫌に決まってんだろ!? また僕にそんな真似させる気なのか!!」
『だが…このままでは、奴には!』
(#^ω^)「うるさい! 必要ないお、何が何でも僕達で勝つんだ!!」
『内藤…!』
( ゚ω゚)「アーアー聞こえなーい! ブロックブロックブロック」
『え、そんな―ア――――――』
………。
('A`)「ブーン?」
(;^ω^)「はっ、え? 何?」
252
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 20:11:12 ID:vp.cEk020
(;'A`)「いや、なんか急に遠くを見てるから何かと」
( ^ω^)「……や、大丈夫」
( ^ω^)「大丈夫だお……!」
瀬川が何かを思い出したのは、恐らくあの、ロマネスクとして生きた時間の中、
内藤自身も見たあの、見たことも無いような記憶によるものだろう。
今でも、おぼろげではあるが覚えている。
確かにロマネスクと共に戦っていた、相手は異様な姿の化物。
ただ、奴だけじゃない、何人もの人が一緒に戦っていた。
そこには、彼女の姿もあったように見えた。
あれは一体、どういうことなのだろう。
しかし何よりも、よく思い返してみれば、その視点はどこか変で、
側でというよりも、たとえるならば誰かの腕の先、そう、剣から見た世界のような。
そして自らの持つ、この黄金の柄をした剣が、違う名で呼ばれていたこと。
( ^ω^)(……セイオウケン)
253
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 20:12:10 ID:vp.cEk020
奴に勝つためには、その真の力が必要なのかもしれない、
だけどそれは、彼を消滅させる必要があるという。
そもそもそんな事ができるのかも定かではないが、迷いがあるのは事実だ。
これ以上何も失いたくはない、だけど、力が及ばなければ、
もっと沢山のものを失ってしまうかもしれない。
どちらにせよ、選択を迫られることはわかっていた。
しかし今はまだ、その答えを出すことができないまま、
巨馬に引かれた船が駆けていく、既に先を行ったものたちの元へ。
最後の戦場へ。
そして、最後の戦いの舞台へと。
つづく。
254
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 20:22:00 ID:vp.cEk020
特に意識してなかったけどDEENのひとりじゃないって曲の歌詞が、
ここまでの話にベストマッチしててヤベーイでした。
自分勝手に思い込んで裏目にでること、よくあるけど生きて生きたい今日より明日へ。
そんなお話の10話。
次回は11話になるか最終話になるか怪しいところ。
まだ未完成の区切ったシナリオが5つ、正直短いから纏めたら1、2話に収まりそう。
でも極限一閃ってタイトルかっこいいから使いたい、悩ましい。
あとはおまけというかエピローグではないエピローグがあるだけ。
長々続いたというか放置されてただけのこの話もついに完結しそう。
そんなわけで次はちょっとかかりそうですよ。
255
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 20:25:40 ID:elgOGm5I0
乙
完結まで毎日投下するのかと冷や冷やしてた
終わってしまうとなると寂しいな
続きも楽しみにしてる
256
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 22:07:17 ID:Vouvhi4M0
乙
257
:
名無しさん
:2018/07/13(金) 20:11:40 ID:hTsutaC60
おいおい たまに覗いてみたら異世界の続きが読めるなんて ・・・
どんだけ待たすんだよ このオバカチン
帰ってきてくれてありがとう
続きを期待しまくる 乙おつ
258
:
名無しさん
:2018/07/14(土) 00:42:45 ID:shP/1BTc0
おい、遅えよバカ!
でも、お前最高だぜ
259
:
名無しさん
:2018/07/15(日) 17:46:18 ID:uvrg5PVs0
高校生の時にドクオが異世界で出会うようですにハマったオレも今年三十のおっさんですよ
まさか続きが読めるとは思えなかったお帰りなさい
260
:
名無しさん
:2018/07/16(月) 18:35:32 ID:rtAaltUg0
ざっくりいつくらいに次の投下できそうです?
261
:
名無しさん
:2018/07/17(火) 00:25:59 ID:s5wwmaHA0
うっわマジか完全に続きは諦めてたからすっごい嬉しい
もっかい読み直してから来るわ
262
:
名無しさん
:2018/07/20(金) 08:44:19 ID:b/fQdqV20
懐かしのと嬉しいので、おっぱいと覗きで気持ちが揺れてるブーンにツッコミ入れる
の忘れてたw
263
:
名無しさん
:2018/07/23(月) 02:06:21 ID:TnTgooV20
気がついたのが金曜この週末暇を見つけっては読み進めやっと追いついたぜ。
264
:
名無しさん
:2018/07/23(月) 02:38:26 ID:Z6grLVnY0
おいおいおいおい!!
異世界とか8年前ぶりやんけ!!
復活とか胸熱すぎるぜよ!!!!
超期待やで!!
265
:
名無しさん
:2018/07/25(水) 07:38:42 ID:wyjV0g4I0
おいおい復活とかマジかよ…!
266
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 21:41:26 ID:ODOo7f.g0
11ヶ「生まれゆく光」
陽が昇り、日差しもより強くなり始めた頃。
街道が続く荒野には、また大勢の人並みが列を成して歩いている。
そんな彼らの手元からは、剣や珠が燦然と日を反射して輝いていた。
目指す先はヒルト、その麓に集結しているという敵集団。
前回の争いにおいて、管理者含め被害は大きいものではあったが、今尚士気は高い。
なにせ結果だけを見れば敵は無様にも敗走した、数の点で言えば当然の事だ、
あれから更に管理者も増員し、体制は磐石、それぞれ最後となるのを感じながら前を向く。
じきに相手の姿も見えるだろう、また同じような人の垣根が現れる。
それが、これまでの定石、覚悟をしてきた戦場の光景だ。
しかしその日は、何処か様子が違った。
遥か遠い先に、何も居ないのだ。
大群である筈の姿が、どれだけ進み、どれだけ目を凝らそうとも見えてこない。
267
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 21:41:57 ID:ODOo7f.g0
いつしか、まるで決められていたように先頭をゆく者たちが足を止めた。
何故ならこれ以上進めば、人の生活圏に踏み込むことになる。
侵略や略奪、更には殺戮が目的ではない彼らにとって、
そもそも戦の決まりごとにおいても、集落や街中を戦場とするのは良しとされない。
特異な場合を除いて、公的に宣言したものは特に、示し合わせたように無人の荒野を選ぶ。
そして踏み込む時というのは、全てに決着がついたその時に。
今回もそんな伝統に則って、彼らは迎え撃つべく足を止めたのだ。
街道の先に、相変わらず人の姿は無い。
やがて進軍か待機かと、ざわめき立つ集団の中、一人が声を荒げた。
混乱、あるいは困惑ともとれる声だった。
示すのは街道の先、そこに大きな煙を上げながら大地を駆ける姿があった。
船である事は理解できるが、しかし感嘆と悲鳴の入り混じったような声が上がる。
何故なら周りの物と比較しても、明らかにサイズがおかしい、まるで走る城砦。
その陸船と思わしき存在から比べれば、木々はまるで道端の雑草のよう、
更によく見れば、船の上にはまた小さな影が大量に蠢いている。
268
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 21:42:36 ID:ODOo7f.g0
そしてその巨大な船が、真っ直ぐに自陣に向けて突っ込んでくるのだ。
あれが何であるかは最早関係なく、混乱はすぐに波紋のように広がっていく。
向かってくる姿に先頭をゆく集団はすぐさま散り散りに、そんな様を見た後方もまた同様に、
訳もわからないまま、釣られるように右往左往、戦列は瞬く間に崩れてしまう。
しかしすぐに号令が飛ぶ、声は言う、避けろと。
そして一切速度を落とすことなく船は、ついに彼らの目の前までやってきた。
まるで地震、土砂崩れを前にしたような感覚だった。
砂塵を巻き上げ、後部の煙突状の箇所から大量の煙を上げ、しかし帆を張り、
車輪の音は轟と鳴り、地面に深く大きな跡を残し、船が横切る。
だがすぐに通り過ぎることはなく、巨大過ぎる船体は中々尾を見せない。
いくつも並んだ巨大な車輪が通るたび、がたんたんと規則正しい音が鼓膜を叩く。
そしてようやく船尾を見送った頃、呆然とそれを眺める人々は、己が生に遅れて安堵すると共に、
あの船が敵国のものである事、そしてそんな彼らの向かった先が何処であるかを思い出し、
未だパニックを起こす後方へと呼びかけながら、その船の後を追いかけた。
269
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 21:43:37 ID:ODOo7f.g0
前回の戦いで自分達がそうしたように、目的は殲滅ではなく、
その中心となるもの、王とその居城の制圧にあるのだと叫び急ぐ。
だが船はその巨体にも関わらず、あまりにも速く、みるみる遠ざかっていく。
そんな奇妙な追いかけっことなった、追われる側。
船上では見下ろす光景に目を奪われながらも、大きな歓声を上げていた。
「こいつはやべーい!」
「すげーい!」
「ものすげーい!!」
<_フ*゚Д゚)フ「ははっ見ろよ、慌てふためきようったらないぜ」
( 凸)「そりゃそうだろ、こんな状況誰が想像できるよ」
( 凸)「ああ、バーニング、サンダーと来たらアイスもソードかと思ったらスケートだったみたいな」
( 凸)「バーニングアイスが極大消滅系かと思ったら対消滅オチだったみたいな」
火<_フ;゚ー゚)フ「そのカービィネタは分かり辛いんじゃねぇかな?」
('、`;川「ここまで来てもそのノリは続くのね」
火<_プー゚)フ「ま、余裕ってのは大事じゃん? なんつーか、それが俺らなりの覚悟みたいな」
270
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 21:44:26 ID:ODOo7f.g0
('、`*川「余裕があっても視野が狭くちゃ意味ないわね…うしろ見なさいよ、燃えてるわよ」
炎_フ;゚Д゚)フ「は? なn…ぶわちゃちゃちゃ! あっちぃーーーー!!」
( 凸)「おお、エクストのやつ燃えてんな」
( 凸)「これが 火属性付与(エンチャントファイア)…気合入りすぎだろ」
メ_フ;゚д゚)フ「死にそうなんですけど!?」
('、`*川「さあお遊びはそこまでにして、消化と迎撃用意、いいわね?」
<_プー゚)フ「ま、流石にすんなり通してはくれねーか……!」
甲板の際から見えるのは、流れていく景色と、いくつもの火球。
目下からはいくつもの発光と、駆動音に混ざって破裂音が響いていた。
混乱はあれども、その船が敵の操るものである事は明白であり、
ただ追いかけ、あるいは見逃すばかりではなく、早々に気付いたものたちは、
すぐさま迎撃の姿勢をとり、船を止めるべく攻撃を開始した。
とは言え船体は装甲に覆われているため、一度や二度の攻撃ではびくともしていない。
だが全てが防火されている訳ではなく、そこかしこに穴はある、
特に大きな存在は、大量の風珠を取り付けた巨大マスト。
これがやられたら大きく速度を落とすことになってしまう。
271
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 21:44:57 ID:ODOo7f.g0
と、そんな最中に大きく響き渡る声があった。
同時に、声の主が手にした剣を大きく振るえば、
降り注いでいた火球が、突風によってかき消されていく。
おお、というどよめき、視線は一点へと向かう。
ノパ⊿゚)「皆見えているな、ここは敵陣ど真ん中通り越して奥地だ」
ノパ⊿゚)「最早退路は無い、進み、この身果てるまで戦うのみ」
ノパ⊿゚)「だが、それも今回は、討ち倒すための戦いではない」
ノパ⊿゚)「これより我らの戦いとは、守ること、この船を―――その時が来るまで守り続ける事にある」
ノパ⊿゚)「皆も知っての通り、その時がいつ訪れるのかもわからない、終わり無きものとなるやもしれない」
ノパ⊿゚)「言わばこれより始まるのは、最後の消耗戦だ、どうあっても厳しい戦いになる」
ノパー゚)「―――けれど、王としてこれだけは達する、生き延びることを自覚しなさい」
ノパ⊿゚)「今ここに居るのは、これまで決して同じ道を歩んできたわけじゃない」
ノパ⊿゚)「異なる世界の者も、他国の者も、かつては争っていた者も、争いによって帰る場所を失った者すらも」
ノパ⊿゚)「そう、奇せずして集まった我らだが、こうして同じ先を見据えている」
272
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 21:46:56 ID:ODOo7f.g0
ノパ⊿゚)「誰の命令でも無い、各々の意思で、それを選んでここまで来た」
ノパ⊿゚)「彼の王には、世を纏め上げ平和を掲げる様は確かに正義であるのだろう」
ノパ⊿゚)「世界が何を望んでいるのか、そんなのものは私にはわからない」
ノパ⊿゚)「だが、その為に他を悪と断じ、世を、人をも手中にせんとする行為、私は許容できない」
ノパ⊿゚)「あの日、あの者が言った、我らは世界の希望なのだと」
ノパ⊿゚)「ならば我らは、真実を知るものとして、この世界に問わねばならない」
ノパ⊿゚)「続く世界に、人に、心に、問いかけ続けなければならない、その為に今はこの剣に全てを込めよう」
ノパ⊿゚)「生きること、目指すもの、明日を――各々が剣に誓いを立てよ!!」
ノパ⊿゚)「我らが剣は―――」
「「「「「 誓約の下に!!! 」」」」」
雄々しく叫んだ声が、大地を抉る轟音よりも強く響く。
幾度も掲げられた剣が、何度も何度も反射しては煌いた。
こうして船上にいるものたちの、最初の戦場が始まった。
273
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 21:48:33 ID:ODOo7f.g0
(´・ω・`)「上は盛り上がってますね」
ξ゚⊿゚)ξ「あの女、自国の問題を片付けるために小細工をしていたそうだが……」
ξ-⊿゚)ξ「最初からああしていればよかったのではないのか?」
(´・ω・`)「伝統的なものだったようですし、そう簡単じゃなかったんでしょう」
(´・ω・`)「それに……殷鑑遠からずってのも、あるかと」
_,
ξ゚⊿゚)ξ「なんだそれは?」
(´・ω・`)「僕らに会って、何か思う所があったんでしょうね、って話ですよ」
ξ゚⊿゚)ξ「まあ、何かしら覚悟を決めた人間の姿ではあるが」
それにしても、と続け。
ξ-⊿-)ξ「ここの女はどうにも肝の据わった者が多いな」
ξ゚⊿゚)ξ「なあ、そこのお前も、これから死地に向かうというのに随分と落ち着いたものじゃないか」
川 ゚ -゚)「…いや、そんな事はない」
川 ゚ -゚)「とても恐ろしいよ、ただ…」
布で巻かれた赤い剣の欠片を握り締め、唇には真っ直ぐな横線を描きながら、
時折感じる小さな振動と、遠くから響く人の声や破裂音、
そういった喧騒の中にありながら、真っ直ぐな目で、見つめ返す。
274
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 21:49:24 ID:ODOo7f.g0
川 ゚ -゚)「それ以上に……私でも、役に立てるかもしれないと思う気持ちが」
川 ゚ -゚)「色んな思いを少しだけ、上回っているんだと、思う」
ξ゚⊿゚)ξ「……そうか、いや愚問だったな」
ξ゚⊿゚)ξ「お前もまた、国家間に振り回されてきた口だったか」
彼女とて、一度は折れながらも、立ち上がった一人である。
特別な何かがあった訳じゃない、それでも歩き続けた果てに確立した意思がある。
きっかけは何だったのか、今となっては彼女自身も定かではない。
ただ、共にあろうとした少年が、誰かと重ねて居ただけのその者が、
いつしか彼女の中で本当の、本物になっていたこと。
そして懸命に生きようともがく人たちに触れ、広い世界に触れたことで、
遠い日に、彼に説かれた生きる意味が何なのか、同じ思いに至れた事こそが。
人が言う、強さとなって今の彼女を支えていた。
川 ゚ -゚)「それに、もう一度ドクオに会えたときに、ちゃんと言いたいんだ」
川 ゚ー゚)「もう、大丈夫だってな」
ξ-⊿-)ξ「やれやれ最後はノロケ話か」
川 ゚ -゚)「いけないのか?」
275
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 21:50:41 ID:ODOo7f.g0
ξ゚ー゚)ξ「いいや、そういう覚悟も嫌いじゃない」
(´・ω・`)「じゃあその為にも、段取りは覚えてるよね?」
川 ゚ -゚)「わかっている、大丈夫だ、これは……私だけの勇気じゃないのだから」
そして船は街道を行く。
いつしか攻撃の手は止み、追手を一時的でも撒いた頃。
ついに目的地である岩の城砦が、その姿を覗かせた。
大きな岩山に、いくつもの穴が空くシルエット。
正面には入り口を覆うようにして、木組みの城門が立ちはだかる。
だが船はお構い無しに進んでいく、速度に緩みは一切ないまま。
門付近には番兵が点在し、迫る船を見つけるなり慌てた様子で駆け回っていた。
突如として城門よりも大きな船が、あろうことか突撃してくるのだ、
対処法などあるはずも無く、どんどん迫ってくる大きな影を前にして、
すぐに退避の一手をたどることになった。
散り散りに逃げていく姿がある。
その合間を縫うようにして船はついに、城門への突撃を敢行した。
木組みの門は一瞬たりともその勢いを受け止めること叶わず、
ぶつかるなり大きく形を歪ませ、そのまま弾かれる様に吹き飛んだ。
いくつもの木端が宙を舞い、巻き起こる粉塵が周囲を埋めていく。
276
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 21:51:25 ID:ODOo7f.g0
砂煙を纏いながら、減速を始めた船が門と城砦の中央付近で動きを止めた。
そんな有様を眺める人々は、戸惑いながら遠巻きに、
なんだあれは、船なのか、大きすぎる、等と口々に漏らしている。
と、そんな煙の奥に、更なる変化が起きた。
影だ、それも大量の、巨大な船の周囲を埋め尽くさんばかりの影が、
今この瞬間にもその数を増やしながら、蠢いている。
そもそもが異様な光景だ、誰かは怪物が襲ってきたのかとも問う。
しかし続いて聞こえてきた声と、煙の合間に覗く帆に描かれた模様に、その正体を知る。
「あれは…ヒルトの…まさかこれは!?」
『進め!』
『制圧せよ!!』
雄々と叫ぶ声が、文字通りに轟く。
踏み抜く足が地を鳴らす。
現れたのは人の群れ、何百という数が一斉にその空間を埋めていく。
巨大船から比べれば、まるで虫の群れが溢れるような光景だ。
城砦に残っていたのは、最低限の人数のみ。
そんなおぞましくもおそろしい光景に、まともな抵抗を示せたのはほんの僅かであった。
277
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 21:52:23 ID:ODOo7f.g0
('、`*川「門の制圧は完了したわ」
(´・ω・`)「敵の本隊はどう?」
('、`*川「もう見えているよ、衝突は時間の問題ね」
(´・ω・`)「うん、それじゃあ、次は船の防衛を、手筈通りに」
('、`*川「わかったわ」
<_プー゚)フ「門ぶっ壊したのは勿体無かったんじゃねぇかなー」
(´・ω・`)「……止め方、実は知らないんですよねぇ」
<_フ;゚ー゚)フ「そんな理由かよ!?」
ノパ⊿゚)「付近の詰め所もすぐに、と言いたいが何分多い、まだかかるな」
(´・ω・`)「充分です、一度集まってもらって……あとは……」
正面にある、一際大きな岩山の、その最上部を見上げる。
そこに、誰かが見下ろすように立っていた。
('、`;川「……あれを相手に…ツン、本当に一人で……」
(´・ω・`)「本人が大丈夫だって言うんだから、信じるしかない」
(´・ω・`)「それに、あくまで時間稼ぎなんだから」
ノパ⊿゚)「ああ、大体殺す気がないという輩の相手より、むしろこちらの方がよほど危険かもしれんぞ」
('、`*川「……そうね、それじゃあショボン君、私も行くわ」
(´・ω・`)「うん、日陽の件もよろしく……それと、なんだ、幸運と」
('、`*川「勝利を、ね、お互いに」
278
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 21:53:22 ID:ODOo7f.g0
ペニサスはそう言って背を向けた、その進みにもはや迷いもなく、
歩む先にはエクストら同郷のものたちと、ツンの下にいた兵達が集う。
( 凸)「大将」
('、`*川「ええ、それで見えた?」
( 凸)「案の定、今回は道がてらに合流しちまってるみたいだ」
<_プー゚)フ「ま、いくら陣形組んでたってこうなっちまえばなぁ」
('、`*川「前回は意図的に避けられてたようだけど、今度は逃がさないように、ね」
<_プー゚)フ「おうよ、野郎共、説得コマンド忘れんなよ!」
( 凸)( 凸)( 凸)「「「「「おー!!!」」」」」
こうして船を中心とした、防衛のための陣が敷かれた。
そう、こうまで大胆な策を講じておきながら、何故か拠点攻略に踏み込むことなく、
遠方より迫る集団を待ち受けるように、彼らは足を止めた。
城砦内に未だ残る一部のものたちは、そんな異様さに困惑を示しつつも、
じきに到着するであろう本隊を待つことを選んだ。
ゆえに、警戒も薄く、あっさりとその場へたどり着いた者が居た。
279
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 21:54:00 ID:ODOo7f.g0
ξ゚⊿゚)ξ「見張りもつけないとは、無用心ではないか?」
いくつもの天窓から明かりが差し込む空間、その奥に、
目下を眺めながら佇む姿へ、ツンは軽い口調で問いかけた。
( ФωФ)「はは、先日も入り込まれたばかりでな、他の者にも言われたよ」
( ФωФ)「だが不要なのだ、ここは神である我が居城、余分なものは必要がない」
ξ゚⊿゚)ξ「余分……人間を、そう称するか」
( ФωФ)「ふむ、ところで一人か?」
ξ゚⊿゚)ξ「ああ、今のところな」
( ФωФ)「何をしに来た?」
ξ゚ー゚)ξ「わかりきった事に答える必要があるのか?」
( ФωФ)「そうであるな」
ツンは手にした水晶剣を地に突き立てる。
同じように、ロマネスクも黒線纏う大剣を突き刺した。
踏み込んだのは、ほぼ同時だった。
……………。
280
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 21:55:27 ID:ODOo7f.g0
ほどなくして、追いついた本隊との戦いが始まった。
人が次から次へと押し寄せてくる、その様はまさに津波のよう。
文字通り、門から船とつづく街道は人で埋め尽くされていく。
ノパ⊿゚)「我に続け!!」
「「「オオオオオオオオオオオオオオオオ」」」
<_プー゚)フ「よし、やるぜ!」
('、`*川「日陽の人間たちは、どのあたり?」
(;凸)「まだ、見えないっす!」
('、`*川「仕方ないわね、今は……!」
('、`*川「皆、声を張りなさい、剣の誓いを今こそ!!」
<_プД゚)フ( 凸)「「「「応!!!」」」」
そして集団が、更に大きな集団に呑み込まれていく。
だが潰されはしない、一度は収縮しかけた形は、
すぐに押し返すように広がりを見せた。
そればかりか、楕円に広がる互いの境界線より奥地、
戦線より後方に、どこからか接続による攻撃が飛来する。
見れば巨大船の甲板や、胴体にはいくつもの珠が取り付けられており、
それぞれ配置した人々が後方より、前線の支援を開始したのだ。
281
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 21:56:10 ID:ODOo7f.g0
こうして崩れかけた前線は、しかし更に後方から第二第三の波が迫る、
波状攻撃と、三次元からの攻防、戦場はこうして消耗だけがつづく膠着状態となった。
雄叫びと、悲鳴が響く。
金属音と、割れ音が連なる。
轟音と、爆音がそれらを覆う。
川;゚ -゚)「………っ」
川 ゚ -゚)(………これが、戦場、か)
川 - )(わかっては……いた、のに)
そんな音は船内にも届いていた、クーは身を抱くように小さくなりながら、
震える身体に止まれと念じる、あまりにも、自分が場違いであると思う。
今も外では殺し合いが行われている。
顔でも出そうものなら、その瞬間に火に焼かれ、雷に撃たれるかもしれない。
しかし何より恐ろしいのは、状況がわからない事だ。
今甲板に響いた足音は、果たしてどちらの物なのか。
聞こえる喧騒が一つの残酷な結果による物ではないか、想像するだけで恐ろしい。
こんな世界に身を投じられる者たちの、なんと勇敢なことか。
祈るように目を閉じる、しかし震えは止まらない。
282
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 21:58:06 ID:ODOo7f.g0
どれほど時間が流れたのだろう。
その間、どれだけの音があっただろう。
幾度と無く響くそれら一つ一つが、誰か一人の結末だったのかもしれない。
やがて必死に握り締めていた手のひらに、刺すような痛みが走る、
思わず手放した物が床を転がっていく、すぐには動けず、目でそれを追いかけた。
力を込めすぎて、刃で切ったのかと思ったが、しかしすぐに違うと知る。
川;゚ -゚)「……なんだ……光って…?」
剣の欠片は、これまで見たこともないほど赤い光を強め、
陽炎をもまとうほどに、その熱量も高めていた。
その原因が何であるか、何が起きているのか、思い当たるのはただ一つ。
川 ゚ -゚)「……あ、ぁ、まさか、これは…っ」
川 ゚ー゚)「………お前、なのか?」
「ドクオ」
………………。
283
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 21:59:48 ID:ODOo7f.g0
( 凸)「あ!」
「あ、お前ら…!?」
<_プー゚)フ「お、やっと見つけたぞ!」
均衡を保つ戦場の最中に、しかし動き回る遊撃隊があった。
ペニサス率いる日陽と湖鏡の混在する兵達だ。
彼らは戦地を駆けながら、ある集団を探していた。
その目的は、同郷の者たちの誤解を解くために。
「くそ、本気で、お前ら!!」
<_プー゚)フ「居たぞ大将!!」
('、`*川「ええ、聞きなさい日陽の者達!!」
「え、ペニサス……さん!?」
「どうして…なんであんたまでそっちに!!」
('、`*川「事情は後で伝える、今は、戦いをやめなさい!!」
('、`*川「我が国の神具をもつ彼らは、私たちを裏切ってなどいなかった」
('、`*川「全ては仕組まれた事だったのよ!」
「何を…何を言ってるんです!?」
「だってそもそも、ペニサスさん、あんたがそう言って…!」
284
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 22:01:46 ID:ODOo7f.g0
「そうだ、巫女さまのお二人を、あんな……許される事じゃない!!」
('、`*川「違う、違うわ……巫女さまを手にかけたのは………」
('、`*川「私、この私が、あのロマネクスの配下に操られて犯したこと!!」
('、`*川「……とにかく、真実はもうじきにわかる!」
('、`*川「今は戦いをやめなさい、これ以上……こんな戦いで命を捨てては駄目!!」
必死の懇願に、少なくとも戦意は失った日陽の人間たちではあったが、
しかし困惑の色がつよく、どうしたらいいのかと戸惑うばかり、
と、そんな中に一人、ペニサスへ歩み寄る者が居た。
「……俺、あいつらと、宴会で騒いだり、色々、話したりしたよ」
「正直言って……悪い奴らには、思えなかった」
<_プー゚)フ「ああ、俺もそう思う」
( 凸)「少なくとも、友人を平気で傷つけられるような連中じゃないよな」
('、`*川「あなた自身は、どう見えていたの、彼らのことを」
「……………」
「エクスト、ペニサスの大将、俺は……俺たちは、騙されていたのか?」
<_プ -゚)フ「そうだ、裏切っていたのは……お前ら……いや、俺たちの方、だ」
285
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 22:02:12 ID:ODOo7f.g0
「……本当のこと、話してくれるんだよな?」
('、`*川「その為に、私たちはここに居るのよ」
「…………」
「わかった、どうすればいい?」
('、`*川「まずは同郷の者達すべてに伝えなさい、剣を捨てよと」
('、`*川「他の皆も、まだ信じなくてもいい、だけど真実はじきに明かされる、今は戦いをやめなさい」
カランと、いくつもの剣が地に落ちる音が連なった。
そんな姿に、ペニサスは笑みを浮かべ、頷いた。
<_プー゚)フ「ん? なんだあれ……」
と、そんな折、エクストは遠方に砂煙を引く影を見た。
遠目にも、普通の陸船とは思えないような速度で向かってくる。
( 凸)「増援か…? まだ来る?」
<_プー゚)フ「いやでも一隻…しかも、変だぞ、何かに引かれて…?」
( 凸)「つか、こっち来るぞ!!」
('、`*川「いえあの船、ヒルトのものよ、紋章がある」
<_プー゚)フ「ヒルトから!? ってーことは……」
('、`*川「ええ、きっと――――」
286
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 22:02:58 ID:ODOo7f.g0
そして四本足で駆ける大きな生物に引かれた船が、勢いそのままに戦場へと飛び込んだ。
生物と船はしかし怯むことなく駆け抜ける、突然の奇襲に敵味方問わず飛び退く人によって、
一本の道が整形され、やがて到達点、巨大船へと突っ込んでいった。
ノハ;゚⊿゚)「な、何だ!?」
(*‘ω‘ *)「ポヒヒヒィィィーーーン!!!!!」
「ひ、ひえええ!?」
「ちょ、ぶつかるお!!?」
馬がその場で旋回しつつ急停止、後を引かれた陸船は勢いを止めることなく、
ついには振り回されるような形で、巨大船へと衝突し、事故を起こした。
ひしゃげた船が大きく傾き、ひっくり返った。
しかし寸での所で飛び降りた影が二つ。
甲板に立つショボンは、その一部始終に苦笑を浮かべた。
(´・ω・`)「何をやってるんだか」
相当な勢いからの着地にも関わらず、難なく立ち上がる二人の姿がある。
下で歓待を受けているが、すぐにこちらを見るなり下部の入り口へ、
そして、甲板の扉が勢いよく開かれた。
(;'A`)「ごめんショボン、遅くなった!」
(´・ω・`)「うん、大丈夫だよ、それよりまた会えてよかった」
('A`)「と、そっか、心配かけた、でももう大丈夫だから」
(´・ω・`)「そうみたいだね、なんだか見違えたよ」
287
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 22:04:52 ID:ODOo7f.g0
('A`)「クーは? 来てるって聞いたけど」
(´・ω・`)「船内に居るよ、会ってくかい?」
('A`)「ん……いや、今はまだ」
('A`)「クーもきっと、自分の意思でここに居るんだろうから」
('A`)「全部終わらせてから、ゆっくりと会いに行くさ」
(´・ω・`)「そうか、うん、でも来た事は伝えておくよ」
(;^ω^)「その……ええと、ショボン?」
(´・ω・`)「………」
( ^ω^)「ごめん……今更って思うかもしれないけど、だけど、僕も、もう一度…」
(´・ω・`)「ああ、本当に今更だよ、言ったろ、君の事なんか信じちゃいないって」
( ^ω^)「……それでも、僕も決めたんだ、もうn」
(´・ω・`)「君みたいな考え無しの大馬鹿者が、何もかも諦めて来ないなんて、思っちゃいないさ」
(;^ω^)「にげな………え?」
('A`)「馬車用の道具、ショボンが用意させてたんだろ?」
(´・ω・`)「ああ、ブーンを追いかけて来てたの知ってたからね」
(;^ω^)「………な、なんだお、それ」
288
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 22:05:18 ID:ODOo7f.g0
(´・ω・`)「それにしたって遅い、ドクオの方は事情がわかるけど君はダメダメだね」
(;^ω^)「ひ、贔屓が、ここまで来て尚贔屓が酷い!」
(´・ω・`)「遅刻の罰としてほら」
言って、指すのは最上部、彼の王が居る場所。
(´・ω・`)「決着をつけてきなよ、今度こそね」
( ω )「―――――」
( ^ω^)b「がってん承知!」
(´・ω・`)「ドクオも、悪いけど、道を作ってあげてくれるかい?」
('A`)「道を……ああ、わかった」
(´・ω・`)「ちなみに今回の狙いは聞いてるよね?」
(;^ω^)「一応……でも、何時の間にそんなこと進めてたんだお」
(´・ω・`)「子供の喧嘩じゃないんだから、争いの間にだって政策は進むさ、当然だろ」
(´・ω・`)「とは言え、ヒルトっていう国に属しているからこそではあるけどね」
何にせよ、じきに人の戦いは終わる、この戦争はそういうものだと。
(´・ω・`)「というわけで、頼んだよ二人とも」
(´・ω・`)「ああそうだ、あとこれが終わったら、ご飯でも食べに行こうか」
( ^ω^)「おお、行く行く!」
289
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 22:07:08 ID:ODOo7f.g0
('A`)「飯か…何なら俺作ろうか」
(;´・ω・`)「え、ドクオって料理できたの?」
('∀`)「今ならすげーうまいもんできるぞ、お墨付きだよ」
(;^ω^)「それって……記憶の?」
('A`)「ああ、あの人の生きた証、皆にも、知ってほしいんだ」
( ^ω^)「そりゃ楽しみが増えたお、どんなのだろう」
('A`)「ギンギーとか」
(;^ω^)「ギンギー?」
(´・ω・`)「いいけど、男の手料理を楽しみにするとはこれいかに」
(´・ω・`)「……ま、そんな感じでよろしく」
( ^ω^)「うぃ、そんじゃ、行ってくるとしますか!!」
('A`)「ああ、今度こそ…終わらせよう!」
言って、二人は甲板から下へと伸びるスロープに手をかけ、一気に降下。
かけられた声に応えながら、人並みを抜けて駆けていく。
城砦へ続く道も、すでに人が壁となっている。
けれど、もはや管理者としてもある種の到達点へ達した二人。
ただの一瞬とて、止められる者は居なかった。
290
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 22:08:22 ID:ODOo7f.g0
そして城砦の入り口へと、あっという間にたどり着いた。
だがそこは重厚な石の扉によって閉ざされている。
二人はそこで一度立ち止まった。
後ろからは、王の下へと向かう二人を止めるべく、また人の群れが押し寄せる。
けれど見向きもしないまま、一人は赤い剣の輝きを強め、もう一人が風を起こす。
次いで、耳をつんざく爆裂音と共に、石の扉は文字通り爆発した。
吹き飛ばされた瓦礫が、長く宙を泳いで地を抉りながら落ちる。
残された扉だった箇所は、ところどころ未だ赤熱し、黒煙を立ち上らせた。
(;^ω^)「相変わらずトンデモ火力だお…!」
('A`)「……よし、道は開いたぞ、行ってくれブーン」
(;^ω^)「へ? ドクオは?」
('A`)「俺はここに残るよ、邪魔されないように、あいつら止めておくからさ」
言って、ドクオは再びこちらへ向かってくる人波を見る。
確かにここで止めなければ、王の下へ向かっても止められてしまう、
それにそんな状況下で奴とまもとにやり合えるとも思えない。
言い分は正しい、だが。
291
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 22:09:44 ID:ODOo7f.g0
(;^ω^)「そんな、一人じゃ…!」
言いかけて、もう何度も見たあの威力を思う。
あれなら確かに、とは思うが、それでも。
( ^^ω)『むしろお前が居たんじゃ邪魔になるだけだろ』
( ^^ω)『それに、気付いていないのか、船から降りた時もそうだったが』
( ^^ω)『ドクオの奴……今のお前の本気の動きに、ついてきているんだぞ』
それも、息も切らさず。
神具によって人外の力を得ている内藤に対し、ドクオの持つ神具にはそういった能力はない。
しかし、今はもう一つ、その腰にはもう一本の剣が下げられている。
紫色の水晶剣、人の血を吸い、かつて赤く染まっていた呪いの剣だ。
その忌むべく力によって蘇ったドクオは、その恩恵を未だ得たまま、
自覚も無く、常人を遥かに越える体力を身に付けていた。
加えてあの炎の剣だ、もはや囲まれた程度で遅れを取ることはないだろう。
しかし内藤が思うのは、その心配だけではなく。
(;^ω^)「いいのかお、だって、ドクオにとっても、あいつは……」
('A`)「正直なとこ、一緒に行っても、足を引っ張っちまうよ」
('A`)「わかるんだ、一度は相手をして、そして……傍で、見ていたから」
(;^ω^)「だけど…っ」
292
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 22:10:35 ID:ODOo7f.g0
('A`)「それに、いいんだ、俺はもう……恨みだとか、憎しみでこの剣は振るわない」
('A`)「そう、決めたんだ」
('A`)「お前だって、そうだろ?」
( ^ω^)「………!」
('A`)「だから俺の願いも、お前に託す、そして今は、よく聞くこの言葉を言うよ」
('∀`)「ここは、俺に任せて先に行け」
( ^ω^)「……ずるい、それ、僕だって言ってみたいのに」
('∀`)「だろ?」
( ^ω^)「うん、だけど、託されたお」
('A`)「ああ、頼んだ」
入り口の方からも、爆発の音を聞きつけて人が姿を見せた。
ドクオはその方向へと火柱を飛ばす、合間には道がある、
もはや言葉もなく、互いに頷き、内藤は友が作った道を駆けた。
そして再び、あの日も歩んだ通路を走る。
同じ目的を。
違う想いで。
白銀に輝く剣を手に、その先を目指した。
293
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 22:12:59 ID:ODOo7f.g0
('A`)「さて、と……」
右手には折られながらも、その輝きを失わない赤い剣。
左手には彼の生き方を象徴するような、今は空っぽの紫晶剣。
どちらも勝手に受け継いだだけの、借り物の力。
けれどその思い出は今も、確かにこの胸に宿る。
例えるならば、それは光、いつでも道を示してくれる輝き。
どんな暗闇の最中でも、どんな景色が見えても、どんな険しい道であっても、
進むべき道を照らしてくれる光、だからもう、二度と迷わないで進める。
そう、思える。
迫る人波を見据え、剣を構えてドクオは言う。
('A`)「俺たちの狙いは、敵将ロマネスクただ一人!!」
('A`)「この先へは、誰も通さない…!」
輝く赤い剣を一振り。
半円を描いた炎の道が、集団とドクオを隔てるように広がった。
駆けてくる群れは、突然燃え広がった熱に足を止める。
どよめきが起こる、その原因は燃え続ける炎の、その輝きにあった。
何故なら炎は、見たことのないような、幻想的なまでに蒼い光を放っているから。
('A`)「命が惜しければこの線を越えるな、さもなくば、この破壊の剣……炎の風が相手だ!」
294
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 22:14:22 ID:ODOo7f.g0
伝え聞くその管理者の名、そして先の石扉を一撃で消し飛ばした力。
怯む者は少なくなかったが、すぐに怒声が飛ぶ。
それでも、相手は一人だと。
進めという声に押されるようにして、人波は炎を乗り越え、再び駆ける。
中には異様な形の武器を手にした者も居る、あれも管理者なのだろう。
虹の輝きを放つ剣、光刃を纏う槍など見るからに特別な代物もあった。
更には珠を手にする者たちも大勢居る、それら全てが今、ドクオに向かってくる。
不思議と恐れはなかった。
それよりも、むしろ、今も心の奥底から湧き上がってくるものが。
ドクオの足を死地とも見えるその先、前へと進ませた。
力が漲る、魂が燃える、心のマグマが迸る。
('A`)「今の俺は…!」
(,,゚Д゚) ミ,,゚Д゚彡( ・∀・)( ´∀`)
(#'A`)「負ける気がしない…!!」
雄々と叫び、いつしか眩く輝く光剣を振るう。
黒煙を内包する爆炎がばら撒かれ、呼吸するだけで喉を焼くほどの熱流が起きた。
ドクオを中心に発生したその熱によって、周囲の石はドロドロに溶けて流れ始める。
295
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 22:16:17 ID:ODOo7f.g0
空間が歪む、黒煙があちらこちで立ち昇る。
肌を焦がすような熱風に当てられた集団には、尻餅をついて後退する姿もあった。
同時に、どうなってるんだと疑問が沸く。
それほどの被害を出しながら、中心に立つドクオはまるで何事もなかったように、
光り輝く剣を携え、今尚熱風を纏いながら、集団に向けて更に一歩を踏み出した。
そして進むたびに、歩いた跡が赤熱していく。
化物と、誰とも無く呟いた。
現に歩みを止めないドクオの姿は、熱でぐにゃぐにゃに歪む背景と相成って異様なものとなっている。
「ひ、引くな! 押せ、行け行け!!!」
勇気によるものか脅えからくるものか、そんな声に応え、集団が行動を開始する。
珠を構える姿がある、それに続いて突撃すべく剣を構えるものが居た。
次いで、一斉に接続の力がドクオ目掛けて放たれた。
突風が砂塵を巻き上げ、数え切れない火球が飛来し、雷が散らばり地をも焦がす。
だが、それらは一つたりとも彼の下へ到達しない。
まるで見えない何かに守られているように、何らかの圧力が近づくだけで炎が爆ぜる。
黒煙纏う炎が幾度も広がり、中空で発生した爆発によって全てが掻き消されてしまう。
296
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 22:19:05 ID:ODOo7f.g0
更に進む。
そこへ一人、駆けてくる姿がある。
光刃を纏う槍を持つ人間だった、周囲には同じような輝きを放つ光球が浮かび、
槍の一振りに合わせ、ドクオに向かっていくつかの光が尾を引いて飛翔する。
だが先と同様に、近づくだけで光は爆発に飲み込まれ消滅した。
予想はしていたが、男は戸惑いを隠せない、
その隙をつくように、ドクオは距離を詰めていた。
「な、早い…!?」
('A`)「神具…こんな物があるから…」
防御すべく槍を構える男に向けて、もはや太陽と見紛うほどの輝きを放つ剣を振るう。
衝突は、もはや音にすらならなかった。
男は握る手のひらに感じた強烈な痛みに手を離す。
二つに分かれた槍が、断面を融解させながら地を転がる。
「そんな―――馬鹿な!!?」
('A`)「消えろ…!」
そして転がった槍へと剣をかざす。
発光。
突然のことに目が眩み、再び視界に入ってきたのは、
原型を留めないほどにドロドロに溶けた槍だった物の姿だった。
297
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 22:21:19 ID:ODOo7f.g0
あまりの事態に、男はその場で固まった。
そんな隙だらけの身体を、ドクオは蹴り飛ばした。
軽く数メートルは吹き飛ばされ、集団にその姿が止められる。
戦慄に、最早動けないのは蹴飛ばされた者だけはなかった。
一体目の前で何が起きているのか、理解できずにざわめきが起こる。
そしてそんな合間に、再び蒼い炎による線が敷かれた。
('A`)「もう一度だけ言う、命が惜しい者は、この線を決して越えない事だ!!」
そしてそんな光景を、巨大船から眺める者たちが居た。
あまりの光景に、防衛にまわる事すら忘れ見入ってしまう。
(;凸)「なにあれぇ……こわぁ」
(;凸)「もうあいつ一人でいいんじゃないかな」
ノパ⊿゚)「お前たち、余所見をするな!」
(;凸)「あ、サーセン!」
(´・ω・`)「………」
ノパ⊿゚)「…あれがVIPの炎の風か、一国を滅ぼす力というのも伊達ではないな」
(´・ω・`)「いえ、きっとあれは、その伝説を上回るものですよ、それも遥かに……」
298
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 22:22:07 ID:ODOo7f.g0
ノパ⊿゚)「それでどうする、今こそ好機と見るが?」
(´・ω・`)「いえ、まだですよ、後は……」
言って、見据えるは砦の最上部。
このまま行けば地上は目論見どおり、残る問題は神を名乗るあの男。
先ほど見たように、神具をも消滅させる程の力をもつレーヴァテイン、
その剣でさえ、奴のもつ神具には及ばなかった。
そんな剣を持つ男が、あの時の内藤以上の力を持つというのだ。
恐らく、今の戦局とて奴が出てきたその瞬間に一転する。
裸の王とし、世界の意識を変える事ができたとして、全てが無意味になるかもしれない、
ゆえに残るはロマネスクという最大の難問を、どうするのか。
この点において、ショボンは考えることをやめた。
そしてただ、一人に託すことを決めていた。
これは賭けになる、そう知りながらも。
様々な事実と、要素が教えている、あの二人の関係性。
おそらく唯一対抗できるのは、その友人だけだと、不思議なことに確信をもち。
(´・ω・`)(ここまで道を作ったんだ、意地でも何とかしてもらうよ)
友の名を心で呼びかけながら、その場所を見つめていた。
…………。
299
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 22:24:15 ID:ODOo7f.g0
あれだけの人数を揃える敵の親玉、そのラスボスが住まう居城にしては、
いっそ不気味なまでに人の気配がしない、思えば以前の潜入の際もそうだった。
それゆえに逃亡ができたのだと、今更ながら知った。
そうして、いくつものランプが描く、多重の影を引き連れて内藤は走る。
だが、それにしても静かすぎる。
聞けばツンが一人で足止めに向かっているはず。
にも関わらずこの静寂。
少なくとも今も戦いが続いているとは思えない。
( ^ω^)「………」
嫌な予感が、おそらくは確信なのだろうと思う。
そもそもが無謀な作戦だ、あの男を一人で相手にするなど不可能だ。
自分がもっと早く来ていれば、いやそもそも、馬鹿な行動さえしていなければ。
口惜しさに歯噛みし、それでも先を急いだ。
やがて、その場所の入り口が見えた。
飛び込んでいく。
いくつもの天窓から差し込む光が美しい大広間。
そこにいくつも、無数の傷痕が刻まれている。
300
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 22:26:12 ID:ODOo7f.g0
恐らくは剣戟の跡なのだろう、至るところに見えるそれが、激戦の後を思わせる。
だがそれ以上に、正面、その最奥に二つの人影がある。
目を凝らし、ようやく見えたその先には。
思わず声を失うような光景が、広がっていた。
つづく。
301
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 22:28:04 ID:oe0A9Qos0
おつおつ
302
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 22:36:16 ID:ODOo7f.g0
おしまい、実際のところドクオ君が本気出せば城ごと焼き殺せるけどそこはご愛嬌。
いやあ今まで無力な子だったり空気だったりしたけど、しょうがないね、
魔力つきないめぐみんみたいな状態だし、作中最強キャラは本当に扱いが難しい。
というわけで次回は12ヶ「極限一閃」事実上の最終話、あとはエピローグ。
土日の間に89%くらいの確率で投下するかもしれないし、ないかもしれない。
303
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 22:50:53 ID:3TYdgo1I0
おつ
未完だった作品が戻ってくるとうれしいね
それが好きな作品だったら尚更だ
304
:
◆QksyqzmdbE
:2018/07/28(土) 10:22:00 ID:hKDJBMdM0
乙です。
私、RPBと言うブーン系RPGの製作をしているものです。
よろしければこちらの作品の使用許可を頂けないでしょうか?お返事頂ければ幸いです。
305
:
名無しさん
:2018/07/29(日) 17:58:48 ID:W2IAUIy60
使用許可いうてもトリ無くしたから、今こうして書いてるのも続き書いてるのも本人かなんてわからないし
権利なんてないんだから好きにしていいと思いますよ。
まあしいて言うなら、これに出てくるのって基本技名も武器も元ネタありきだから、
この作品のというてもなんていうか、なんていうかですね。
306
:
◆QksyqzmdbE
:2018/07/30(月) 08:03:32 ID:lcK6gcSo0
なるほど把握です。
お返事ありがとうございます〜
307
:
名無しさん
:2018/07/30(月) 18:06:38 ID:EyjdF6r60
まさかの続き来てたのか!?
全部読み直してきたわ!
308
:
名無しさん
:2018/08/03(金) 19:14:40 ID:odiXiEFk0
ようやく過去作読み返しも含め読み終えたぜ・・・
ほんっとドックンがかっこよくて最高だわ
次回最終回か・・・なんだろうな、ずっと見たかったはずなのに今はすごく見たくないわ・・・
309
:
名無しさん
:2018/08/08(水) 19:50:30 ID:747n7cEA0
11%をすり抜けてまた5年後とかやめろよぉぉお?!
310
:
名無しさん
:2018/08/08(水) 19:52:40 ID:M3.TJHpU0
>>309
何月の土日とは言ってないよな?
311
:
名無しさん
:2018/08/09(木) 00:31:21 ID:OoHTyhqk0
モチベが足りない、どうして書く側は続きを知っているんだろう
知らなければ気になって続きを書こうと思うのに、世は不条理である
312
:
名無しさん
:2018/08/16(木) 01:17:37 ID:/F8oanmY0
まだかしら
313
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 18:32:53 ID:mUoFvK1k0
今だ!
うおおおお最終話とはいったけどエピローグのほうはまだ書いてない最終話の投下行っけえええ!!
314
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 18:33:15 ID:mUoFvK1k0
終話「極限一閃」
外に出張った部位につながる大窓を逆光に、その一つが振り返る。
影はゆっくりと内藤の方へと向き、手にした物を掲げる。
ξ゚⊿゚)ξ「遅かったな」
そして湯気が立つティーカップに口をつけた。
優雅に午前のお茶をたしなむ姿だった。
あまりにも想像の斜め下をゆく光景に、内藤は思わず固まってしまう。
(;゚ω゚)「な……なっ」
( ФωФ)「どうした、呆然として?」
ξ゚⊿゚)ξ「そうだぞ、お前もどうだ、この飲み物は中々だぞ」
( ФωФ)「ふはは、当然であろう、我が口にするものぞ」
(#゚ω゚)「いや何しとんじゃーーーい!!!」
ξ゚⊿゚)ξ「茶だ」
(#゚ω゚)「それは見ればわかるお、ていうか見たまんまか!」
ξ゚⊿゚)ξ「わめくな、何が言いたいんだ」
(;゚ω゚)「だから何で、ツン、おま、だって時間稼ぎをって…!」
ξ゚⊿゚)ξ「ああ、無論挑んだとも、そして敗れた」
315
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 18:33:48 ID:mUoFvK1k0
( ^ω^)「……それで?」
ξ゚⊿゚)ξ「ああ、それで仕方なく、こうしてお茶を頂くことになったのだ」
( ^ω^)「意味がわからないんだけど」
( ФωФ)「何、この余興を楽しむのにちょうどよい手合いであったのだ」
( ^ω^)「……余興?」
( ФωФ)「そうだ、お前も見るがよい」
様々な覚悟の上にやってきたはずがこの始末。
しばし二人を交互に見やり、やがて観念するように内藤は歩み寄った。
石造りのテーブルが鎮座するテラスに出れば、先ほどまでの薄暗さから一変、
陽光に目を細めながら、内藤はロマネスクが示したものを見る。
黒煙と、赤く染まる大地が覗く戦場の風景だった。
(;゚ω゚)「あれって……ドクオ…? ドクオがやってるのかお?」
もはやそこに、争いは存在しなかった。
内藤を追いかけようとしていた者たちは、軒並み足止めをくらい。
船を中心とした戦いにまで影響を及ぼしたのか、あるいはペニサスたちの説得が上手くいったのか、
わからないが、そこかしこで文字通りの火花が散るものの、明らかに数は少なく、小競り合いとも取れる程度。
しかし終わった訳では無い、あくまで膠着状態に陥っているだけだ。
何か切欠があれば、それはすぐにでも崩壊する。
316
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 18:34:23 ID:mUoFvK1k0
そう、良くも、悪くも。
( ФωФ)「うむ、見事であるな」
( ^ω^)「……何が、だお」
( ФωФ)「幾度もの試練を越えた、美しくも儚い、人の命の輝き」
( ФωФ)「それが、この光景を造ったのだ」
( ω )「……」
( ФωФ)「鍵の担い手は、あらゆる惑いを捨て去り、真なる管理者となった」
( ФωФ)「数千年の時を経ても成しえなかった偉業だ、見事である」
(# ω )「……お前が…」
(#゚ω゚)「お前が、それを言うんじゃ……っ…くそ!」
激情に駆られそうになるのを堪え、内藤は壁を殴りつけた。
何よりも、その言葉をその通りだと受け入れてしまう自分に気がついて。
ξ゚⊿゚)ξ「ふん……それで貴様はどうするつもりだロマネスク王」
( ФωФ)「うむ、そろそろ頃合か」
( ФωФ)「神の力というものを、下々の者達に教えてやらねばな」
ξ゚⊿゚)ξ「ほう…」
(;^ω^)「…っ!」
317
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 18:35:21 ID:mUoFvK1k0
ロマネスクは、ゆっくりとした動作で大剣を振るう。
内藤もすぐさま相手取るため構えを取るが、ツンの声は続く。
ξ゚⊿゚)ξ「だが、最早手遅れだな」
( ФωФ)「?」
ξ゚⊿゚)ξ「此方が何の考えもなしに来たとでも?」
( ФωФ)「ああ――――」
(;^ω^)「そ、そうだお、今頃もう」
( ФωФ)「王国と双国の同時発起の件だな?」
(;^ω^)「っ……な!?」
( ФωФ)「珠と交易の要となる二国が同時に真実を語り」
( ФωФ)「各国へ秘密裏に行われた書文と合わせ、国交会議の場を造る事で戦争を締結させる」
( ФωФ)「その為に消耗戦を選び、誘き寄せるように国へ篭った、いわば全てが時を稼ぐ為の事」
( ФωФ)「今頃世界は混乱の渦中であろうな、最早、この戦場の勝敗すら無意味」
( ФωФ)「誓賢の担い手の画策であろう?」
ξ゚⊿゚)ξ「……知っていたのか」
( ФωФ)「知らぬはずがあるまい? うむ、こちらも見事であるな」
( ФωФ)「流石は賢たる者、戦争というもの…いや、その歴史すら熟知していると見える」
ξ゚⊿゚)ξ「そこまで分かっていて、何もしなかったのか? 何故だ?」
318
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 18:36:20 ID:mUoFvK1k0
( ФωФ)「言ったであろう、人の輝きだ、我はそれを否定せぬ」
( ФωФ)「抗うことは罪ではない、そこにあるのはただ、乗り越えるか、潰れるかだ」
( ФωФ)「そして彼らは越えて見せた、この光景こそがその証明であろう」
( ^ω^)「……なんだ」
内藤は思う。
敵意は未だある、だがこの話が、物言いが、先ほどまでの状況と合致した。
つまり既に、戦う意思をなくしている。
戦争は既に、話し合いという次のステージへ向かっていて、
ロマネスクという男はそれを理解している、ゆえの行為なのだと。
かつて同じ名で過ごした時に感じた、理解のある人物だと。
許す許さないではなく、少なくとも分かり合おうとできる。
それなら、と。
いつしか内藤は剣を下げていた。
( ФωФ)「では、行くとしよう」
( ^ω^)「……」
どうあるべきなのかは分からない、だけど、これでひとまず終わるなら。
内藤は歩き始めた姿を、複雑な思いを込めながら見送った。
ロマネスクは何も言わず、出口へ向かう。
319
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 18:36:47 ID:mUoFvK1k0
ξ゚⊿゚)ξ「……太陽の、何をしている?」
(;^ω^)「何って?」
ξ゚⊿゚)ξ「何を突っ立っている、お前は、奴を止めに来たのではないのか?」
(;^ω^)「そう…だけど、これで、あの戦いが止まるなら……」
ξ-⊿-)ξ「愚か者が、言葉に惑わされおって」
(;^ω^)「…え?」
( ^^ω)(……思い出せ、その前に奴は何と言った?)
問われ、背筋を走る冷たさに促されるように内藤は彼の背を追った。
そして駆けながら名を呼び、名の主はそこで立ち止まる。
( ФωФ)「どうした?」
(;^ω^)「……どこに、何しに行く気だお?」
( ФωФ)「言ったであろう?」
( ФωФ)「神の力というものを教えにいくと」
(#^ω^)「…だから、それがどういう意味かって言ってんだお!!」
( ФωФ)「痴れた事、我に反目する者達を、これより皆殺しとするのだ」
( ω )「っ……―――」
320
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 18:37:33 ID:mUoFvK1k0
( ФωФ)「如何な策を講じたところで、真実の語り部無くしては意味もあるまい」
( ФωФ)「誓賢も、詰めが甘いという所か、いや、人間にしてはよく働いておるがな」
( ФωФ)「そもそも彼奴ならば、相手を虐殺する手段など幾らでも講じられたろうに」
( ФωФ)「あれだけ人を弄んでいながら、そうせんとは不思議よの?」
(#゚ω゚)「…!!!!!」
( ゚ω゚)「…っ」
( ‐ω‐)「………」
( ω )「………っ、…………ふーーーーー」
( ФωФ)「む?」
( ^ω^)「違う……」
( ^ω^)「ショボは、この戦争に巻き込まれた人を、少しでも助けたいと思ってるから」
( ^ω^)「敵も味方も関係なく、生きるために、これからを、未来を目指すそのために」
( ^ω^)「僕を信じてくれたんだお」
321
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 18:38:22 ID:mUoFvK1k0
ロマネスクを追い抜き、扉の前に立ち。
思う。
怒りに呑まれてはいけない、激情のままに戦えば、
それは自分さえも見失う、それだけは繰り返してはならない。
ドクオ、彼の心の強さには未だ届かないままだけれど、
憎しみや、怒りだけで力を振るわないと言った、彼の言葉に倣って。
成すべきを成す、その為に。
…だけど許せない。
怒声を張り上げてしまいたい。
だけど許されない。
だから、と。
( ^ω^)「……ええと、こういう時、なんだったかな」
( ^ω^)「仇をとるときには……そう」
剣を、切っ先を向け。
( ^ω^)「僕の名は内藤ホライゾン」
( ^ω^)「僕らを助け、救ってくれた亡き英雄達の名誉のために」
( ^ω^)「僕をここまで導いてくれた、友の絆に、信頼に応えるために」
( `ω´)「お前が神を名乗るなら、あるべき場所へ、あの世に送ってやる!!」
決意を、高らかに叫んだ。
322
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 18:38:51 ID:mUoFvK1k0
( ФωФ)「お前もまた、人として立ち向かおうと言うのだな」
( ФωФ)「ならばよかろう、足掻いてみせよ、欠けし我が半身よ」
( ФωФ)「……それで? お前はどうする、再び挑むか?」
ξ゚⊿゚)ξ「む…」
( ФωФ)「二人でも構わんぞ」
と、ロマネスクは振り向き、テラスに佇んだままのツンへと声をかける。
しかしツンは首だけを小さく横へ振り、自分は既に負けた身であると告げた。
ξ-⊿-)ξ「口惜しいが、私ではそこの太陽にすら及ぶまい」
(;^ω^)「ツン……」
ξ゚⊿゚)ξ「だから代わりに見届けさせてもらう、この戦争の終結を」
( ФωФ)「そうか、うむ、許そう、しかと見届けよ」
ロマネスクが黒剣を振るい、地を掠めた切っ先に火花が散る。
構えれば、いくつかの黒い線が浮かび上がり、空間を歪ませた。
( ^^ω)『来るぞ』
頭に響いてくる声、内藤は小さく頷き、剣を両手に構えなおす。
差し込む光は弱い、しかし刀身は鋭く、白銀の輝きを携えている。
心臓の鼓動が、やけに大きく聞こえていた。
323
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 18:39:30 ID:mUoFvK1k0
ξ゚⊿゚)ξ「…ああ、そうさせてもらおう」
言って、ツンは手にしていたカップを放る。
小さく弧を描きながら、回転し、やがて地に落ちる。
パリンとした割れ音に、すぐさま剣戟の音が重なった。
ツンはその姿を目で追いかけるが、秒に行われる攻防の苛烈さに、
やがて嫌気がさしたのか目を伏せため息をついた。
ξ-⊿-)ξ(……まったく腹立たしいことだ)
視線を下げた間にも、耳には連続した音が響いてくる。
子供がお遊びにカップを叩くような、ふざけた剣戟音。
しかしかと思えば、金属音が止み、風切り音だけが鳴る瞬間がある。
見れば互いに、高速の一閃に対して身をひねり、屈み、迫る剣を避けていた。
(;^ω^)「―――……っ」
( ФωФ)「……む」
行動の読み合いすら見て取れず、その速度はただひたすらに、馬鹿げていた。
だが、そんな凄まじさの中にあって、しかし疑問が浮かぶ。
互角の戦いが未だ続いている、ように見える。
ξ゚⊿゚)ξ(……何故、神具を、能力を使わない?)
ひたすら速度を上げていく内藤に対し、ロマネスクはただ合わせるばかり、
聞いた話では、あの黒い大剣には強化の類の能力はない、
つまりロマネスクは、元々の身体能力だけで戦っているということ。
324
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 18:40:23 ID:mUoFvK1k0
そしてそれは、対峙する内藤自身が一番に理解していた。
(; ω )(……こ、の…!!!)
手加減されている。
いや、相手にされていない。
相手をしているだけで、していない。
一度距離を取った。
剣は届く、速度も劣っていない、むしろ得物の差で僅かながら上回る。
とはいえ同じ理由から、こちらもあの大剣をいなすので精一杯だった。
( ФωФ)「ふむ……やはり、この程度か」
(;^ω^)「…っ」
( ^ω^ω)「『そう言う割には、てこずってるじゃないか?』」
(;^ω^)(何を…! てかなんかこれ久しぶりっ!)
( ФωФ)「うむ、では少しばかり手を抜くことをやめよう」
(;^ω^)「む…っ」
( ФωФ)「ではゆくぞ、これで終わるような真似はしてくれるでないぞ?」
言うなり、ロマネスクが地を蹴り、大剣を打ち下ろす。
内藤がその行動に反応できたのは、頭上に刀身が落ちる寸前だった。
咄嗟に地面を転がるようにして、ギリギリ避けきった。
しかしそれだけ、反撃など考える暇もなかった。
325
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 18:41:20 ID:mUoFvK1k0
目では追えた、それが限界だった。
(;゚ω゚)(な、なんだ今のは…!!)
( ФωФ)「さあ立ち上がるがよい、もう一度だ」
言われるがまま、内藤は剣を支えに立ち上がる、
しかし正面、ロマネスクの姿が、その距離が瞬く間に詰められ。
横、薙ぎ払いの一閃。
避ける、暇はない。
受けるべく剣を振るう。
金属音、だが均衡は生まれることなく、押し込まれる。
それも当然、圧倒的速度を乗せた一撃は、同様の威力をも見せた。
内藤は地を蹴り、圧に身を任せるように投げ出し、大剣に振り回されるようにして、
吹き飛ばされ、幾度か地面を転がって、やがて壁に衝突することで停止した。
ξ-⊿-)ξ「………」
(;゚ω゚)「ぐっ……う」
(;゚ω゚)「そんな……こ、ここまで…?」
( ;^^ω)『差があるのか…!?』
( ФωФ)「何を驚いている、当然であろう」
(;^ω^)「ま、まだだ…!」
(#^ω^)「瀬川、もっと力を…! サンバースト!!」
326
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 18:42:54 ID:mUoFvK1k0
( ФωФ)「無駄だ、そんなバラバラな意思で、神化などできるものか」
(;^ω^)「…っ」
( ФωФ)「剣と一体と成り、蓄えた力を身に宿す、それがその剣の本質だ」
( ФωФ)「だがお前は、恐れている、そればかりか距離を置こうとしている」
(;^ω^)「そんな、こと…!」
( ФωФ)「先ほども奴の人格が浮き出ていたな、一体となっていればああはならぬ」
( ^^ω)『………』
(;^ω^)「っ……!!」
( ФωФ)「能力だけの話ではない、己が手足とすべき剣を恐れ、感情にすら躊躇する」
( ФωФ)「そのような弱き心で、力を制する事なぞ、できるものか」
違うと言いたかった、しかし言葉の通り、湧き上がる力は微々たる物で、
先ほどまでとそう変わらず、頭にはどこか遠く、彼の声が響いていた。
( ФωФ)「…もう、諦めよ、内藤ホライゾン」
(;^ω^)「……だ、誰が! ふざけんなお!!」
( ФωФ)「真価も出せず、出した所で自我も保てず、そもそもが無謀なのだ」
(;^ω^)「………」
( ФωФ)「ここまでを歩んだ命の輝きは、素晴らしい物であった、それでよかろう?」
( ω )「……………」
( ФωФ)「我と共に来るも良し、去りたければ去れ」
327
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 18:43:33 ID:mUoFvK1k0
( ФωФ)「あるいは……お前達、みな、もとの世界に帰してやる事もできる」
( ω )「……そんなこと、できるのかお」
( ФωФ)「何、簡単な話よ、召還者を殺せばよいのだ」
( ^ω^)「はっ……聞いた僕がバカだったお」
( ^^ω)『……だが内藤、奴の……言うとおりだ』
(;^ω^)(……お前も、さっきから何を言ってんだお!)
( ^^ω)『このままでは、無理だ、だから……』
( ^ω^)(それは嫌だって言ったお……)
( #^^ω)『状況を見ろ! もうそんな場合じゃ…!!』
(#゚ω゚)「焦って状況が見えてないのはお前の方だ瀬川!」
( ФωФ)「む?」
ξ;゚⊿゚)ξ「…!?」
(;^^ω)『な、何を…!』
(#゚ω゚)(お前を消すだって? そもそもお前、どうやって消せってんだお!?)
(#゚ω゚)(僕が願えば消えるとでも思ってるのか? それならお前、とっくに消えてるだろ!)
(;^^ω)『っ!!』
( ゚ω゚)(この場所で、僕はお前に消えろと言った、でもお前は居るじゃないか)
328
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 18:45:21 ID:mUoFvK1k0
( ω )(そうした所で、消えたのは繋がり、力だけだ)
( ω )(今この場で、また戦う力を失くせってのかお…!)
(;^^ω)『………あ、ああ…そう、だな』
(;^^ω)『……すまん』
( ω )「いいお…だけど、もう、わかったお」
( ФωФ)「相談は終わりか?」
( ^ω^)「ここからさ」
( ω )「…………瀬川」
( ω )「覚悟、決めろ、僕は決めたぞ」
(;^^ω)『…お前…!!』
もう、やるしかない。
それ以外の手はない。
内藤は目を閉じ、剣を構える。
思い出せと。
自分を失ったあの日、それでも尋常ならざる力を感じたあの感覚を。
自分を失ったその間、当然のようにその力を制し戦ったあの感覚を。
目を閉じているのに、周囲の様子が理解できる。
全身の存在がわからなくなるほど、手足が軽くなる。
けれど感触は、感覚は鋭く、額から頬にかけて熱が走る。
手足にも痺れのような、軋むような感覚、体格すらも書き換えて。
329
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 18:46:36 ID:mUoFvK1k0
( メω-)「……」
ξ;゚⊿゚)ξ「あれは……」
( ФωФ)「愚かな……同じ事だとわからんのか」
(#メωФ)「同じかどうか、確かめてみろ!!」
言葉と同時に、その場に砂埃だけを残して、内藤の姿が掻き消えた。
次いで重厚な金属音がロマネスクの振るう剣との間で響く。
(#メωФ)「…は、あっ!!」
( ФωФ)「ほう…」
大剣が反対方向へと弾かれる、その隙を逃すまいと追撃の一閃、
ロマネスクはスウェーのような動作でそれを避けた。
更に着地と同時に身を回し、遠心力も加えての連斬、
そして今度は、互いの剣が中空でぶつかりあい、弾きあう。
弾きあった剣線は距離を取り、また衝突する。
一度、二度、と今度は奇妙な間を置いて、音と閃光が弾ける。
まるで空中でぶつかりあうボールのように、
瞬間的な衝突が、その回数を速めながら続いていく。
(#メωФ)「見える…動ける…! そうだ、これなら…!!」
( ФωФ)「うむ、確かにこれは我に匹敵する力よ」
( ФωФ)「だがいつまで持つかな」
330
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 18:47:56 ID:mUoFvK1k0
(#メωФ)「……そんなもの」
(#メωФ)「お前を、ぶっ倒すまでだ!!!」
激しい金属音は、石造りの空間によく反響し包んでいく。
もはや居るだけで鼓膜を叩かれ苦痛を感じる場となった。
しかしツンは平然としたまま、その戦いの様子を眺めていた。
どれだけぶつかり合ったのだろう、やがて変化が起きた。
( メωФ)「…」
ξ゚⊿゚)ξ(止まった?)
(;メωФ)「っ…!!」
弾かれ距離を取った内藤の動きが、僅かな間ではあるが停止したのだ。
それも、どこか不思議そうに、周囲を伺いながら。
すぐに行動を再開したものの、徐々に、その頻度があがっていく。
(;メωФ)「く、そ……また…っ!」
頭を振るう、しかし頭にかかる靄のようなものは晴れない。
先ほどから時折、内藤は踏み出す理由を見失いそうになっていた。
原因はわかっている。
覚悟の上だった。
331
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 18:49:08 ID:mUoFvK1k0
だからその前に、と。
けれど、すべての力を振り絞ろうとする、その度に。
(#メωФ)「でやあああああああああああああああああ!!!!!!」
(;ФωФ)「……むっ…!!」
その度に、欠けていく。
自分が欠けていく。
もう、友人がつけてくれた呼び名も思い出せない。
それを恐ろしいと思う自分すら、見失ってしまった。
けど、わかっている、わかっていた、だから今回は大丈夫。
(;ФωФ)「くっ……何故、まだ戦う、どうなるか分かっているのか?」
自分はどうなっても、ロマネスクを倒す。
そう、それだけを、ただ忘れないよう願い続けた。
そしてもう少し、もう少しで届く。
現に奴にも疲れが見える、力が上回る瞬間もある。
先ほども剣を押し切り、体を掠めた。
次で決める、それで駄目だならその次で、今度こそ。
死ぬ訳では無いのだ、一度は帰る事が出来た、
ならもう一度、すぐには無理でも、何時の日か。
何のために、倒さなければならないのかも、もうわからないけれど。
希望の為なのだから、大丈夫だと。
332
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 18:50:40 ID:mUoFvK1k0
更に剣を振るう。
誤算だったのは。
未だ倒しきれないほど、ロマネスクの底が見えない事と。
( ФωФ)「このままでは、記憶や人格では済まぬ、廃人となろう」
( ФωФ)「それでは、あまりにも惨めであるな……仕方が無い」
( ФωФ)「侵断の剣、世界を分かつ銛よ」
ここまで、未だ神具を使用していなかったという、現実。
( ФωФ)「我が前にその力を示すがよい!」
そして、大剣からおびただしい数の黒い線があふれ出した。
ロマネスクを中心に、それらは一度広がり天井や床に張り付いては蠢く。
(;メωФ)「う…うわっ!?」
ξ;゚⊿゚)ξ「なん……だ、これは!?」
黒線の隙間から覗く向こうの景色は、すべてがズレて、歪んでいる。
まるで、割れて散らばったガラスに映りこむ世界のよう。
333
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 18:51:25 ID:mUoFvK1k0
次いで、広がった黒線が今度は収束を始め、大剣に纏わりついていく。
ロマネスクは一度、剣を振る。
何の力も込めていない、軽い所作だった。
そんな剣線をなぞる様に、複数の黒線が飛び、壁に張り付いた。
瞬間、その境目ともいえる箇所が上下左右にずれた。
もう一度、返す刃で同じ剣線がなぞられる。
傍目に見れば、ただ剣を上下に振っただけ。
たったそれだけの動作で、城砦の重厚な石壁と天井の一角が切り抜かれ、
瓦礫となった石が崩れ、大きな穴が開いてその一角に陽が差した。
( ФωФ)「さて…」
ロマネスクは対する相手を改めて見据え、踏み出す。
対する内藤は、思わず後退、あとずさりして距離を取ってしまう。
あの結果を見て、壁を斬るだけだなど思えない。
もしもあの線が人体に触れ、剣を振るえば、距離すら関係なく、
恐らくは当然のように、あの瓦礫と同じ末路を辿るだろう。
どうすればいい、どうすれば、そう思う間もなく。
( ФωФ)
ロマネスクが、目の前に立っていた。
今度は、何の挙動も見えなかった。
しいて言うなら足元に剣を向けた程度のこと。
334
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 18:53:15 ID:mUoFvK1k0
だがもっとおかしな事実に気付く、ロマネスクは先の位置から移動していない。
つまり移動しているのは、内藤自身のほう、ということ。
(;メωФ)「……は?」
( ФωФ)「慌てるな、お前との間の世界を、空間を断っただけのこと」
(;メωФ)「く、空…間…? な、なに、言って…」
そして、動揺し後ずさる内藤が手にした剣へと、大剣が突きつけられた。
同時に渦巻く黒線が伸びゆき、白銀の刀身へと巻き付いていく。
不味い、反射的に身を引くが、それも遅く。
キン、と澄んだ音を響かせながら、折れた剣が地面に向かい、
切っ先を小さく地面に差し込んでから、カランと倒れた。
根元から折られた刀身が、みるみる輝きを失っていくのを、
内藤は震える体を止められないまま、呆然と眺めていた。
(;メωФ)「あ…あ、あ……そ、んな……」
自分の手に残る部分も、すぐにくすんだ色となり、
刃こぼれがいくつも生まれ、更に崩れていく。
( ФωФ)「我が半身よ、せめて人のまま、眠るがよい」
( ФωФ)「お前は神である我に最後まで抗い、立ち向かったのだと、誇りながら」
(;メωФ)「……う、うう…っ」
ロマネスクが、ゆっくりと剣を持ち上げていく。
それはまるで、断頭台の刃のよう。
335
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 18:55:17 ID:mUoFvK1k0
ξ゚⊿゚)ξ「……なるほどな」
ツンは遠巻きに眺めながら、思う。
あれが、奴の求めた力、あれだけ神具を集めて尚、求めた神具。
ロマネスクという男の身体能力に加えて、あの理不尽そのものといえる能力の剣。
成程、神を名乗るのも伊達ではないと。
もはやこの世界に、あの男に敵う者は存在しないのだと、理解しながら。
ξ゚⊿゚)ξ(……だが)
ξ゚⊿゚)ξ「気に入らんな」
ξ#゚⊿゚)ξ「……太陽、いや、内藤ホライゾン!!!」
( ФωФ)「む?」
(;メω )「……え、な、いとう…?」
ξ#゚⊿゚)ξ「貴様は、いったい何をしに来た、こんな結末でいいのか!」
ξ#゚⊿゚)ξ「その身を捧げた英雄達の名誉と、お前が言ったのだぞ!」
ξ#゚⊿゚)ξ「それがその様は何だ! それで、お前は向こうで会った者たちに何と言うつもりだ!!」
(;メω )「う……く、で、でも……もう」
ξ#゚⊿゚)ξ「同じ事を繰り返し、何も果たせず、無気力に殺されるつもりか、恥を知れ!!」
ξ#゚⊿゚)ξ「死ぬなら、その前に、せめて最後まで彼らに誇れるよう、抗ってみせろ!!」
336
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 18:58:24 ID:mUoFvK1k0
叫びと共に、割れ音が響いた。
音の正体は、ツンが握っていた水晶剣の砕けた音だった。
(;メω )「…これは…」
そして、内藤の目の前に、先ほど砕けたはずの水晶剣が浮かんでいた。
ξ゚⊿゚)ξ「月鏡アロンダイト、私の命と共に、お前に預ける!!」
ξ゚⊿゚)ξ「剣が必要なら、それを使え!」
ξ゚⊿゚)ξ「そしてそれでもお前が敗北し、息絶えたなら、返してもらおう」
ξ゚ー゚)ξ「その後は、私も命を賭ける、安心して死ね」
(;メω )「命って…」
ξ゚⊿゚)ξ「元より時間稼ぎが目的、それを果たすだけだ」
( ω )「………」
ξ゚⊿゚)ξ「さあ、剣を取れ! 初めて相対したあの頃と違うというのなら、見せてみろ!!」
( ω )「……ああ」
なんてことだと、笑みを浮かべて内藤は顔を上げた。
安心して、戦って死ね、そんな、あまりにも雑で、乱暴な言葉に、
これほどまでに勇気を得て、そして力が沸くのを感じてしまうなんて。
( ^ω^)「ああっ……遠慮なく借りるお! ツン!!」
337
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 18:59:29 ID:mUoFvK1k0
( ФωФ)「………そうか、ここで、お前がその剣を手にするか、そう…か」
( ФωФ)「…ふ」
(#^ω^)「ロマネスク、お前の言う人間の、最後の輝きってやつを…!!」
(*ФωФ)「ふふ、はははっ、面白い!! いいだろう…!!」
(#^ω^)「みせ――――――――――――」
浮かぶ剣を握り、両手に剣を携えて、頭上の剣に視線を向けて、
内藤は立ち上がりながら、迎え撃つべく剣を。
今。
338
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 19:01:16 ID:mUoFvK1k0
その瞬間。
刃を失った剣と。
刃を生み出す剣が。
その手に、握られた。
339
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 19:02:01 ID:mUoFvK1k0
『内藤』
声がした。
( ^ω^) ……?
『約束の……今がその時だ』
(;^ω^) 何言ってるんだお、はせが…
( ^ω^)……
( ^ω^) はせがわ……?
ふと思う、何をしていたのだろう。
精々、まばたきをした、ほんの一瞬視界が暗くなって。
そして。
そして?
340
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 19:05:30 ID:mUoFvK1k0
『ああ、俺の名はハセガワ』
『理解したんだ、すべて、思い出したんだよ、内藤』
『俺が誰で、そして何故、お前だったのかも』
( ^ω^) 僕であった理由…?
『ああ、悠久の時の中、もはやどちらが俺だったのかも定かではなくなってしまったが』
( ^ω^) どちら…ってどういう意味だお
『だが確かなのは、俺と奴がかつて同じ、一人の人間として、この剣を手に戦ったこと』
( ^ω^) 奴……?
『続く戦乱に心折れ、欠けた刃と共に二つに分かれたモノ』
『故にこの剣は、今も管理者と繋がっている、故に他の誰も、この剣を手にすることはできない』
『はずだった』
(;^ω^) ちょっと話が難しくてよくわからんお! ちょっと、いい加減姿を…!
341
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 19:07:27 ID:mUoFvK1k0
『そう』
振り向いた先に、彼は居た。
その姿に、内藤は凍りついた。
( ^ω^)『違う世界から、もう一人の自分がやってくる、その日までは』
(;゚ω゚) …ハセ…ガワ……? え、その、顔…は…
( ^ω^)『そうだ、奴も言ったろう、半身と』
( ^ω^)『そう、奴は、ロマネスクという男は……』
( ^ω^)『かつての俺自身、そして、同時に、俺は―――お前だ、内藤ホライゾン』
( ^ω^)『違う世界に存在し、更に同じ時間軸に存在する、本来出会うはずの無い存在、それが』
(;^ω^) もう一人の…異世界、僕…?
( ^ω^)『そうだ、それゆえに、お前はこの剣に選ばれた』
( ^ω^)『いや、既に、管理者となっていた』
( ^ω^)『この―――――成王剣のな』
342
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 19:08:46 ID:mUoFvK1k0
(;^ω^) その……せいおうけん、って、何だお、太陽の剣…ガラティン、じゃないのかお?
( ^ω^)『それは分かたれた時につけられた仮の名だ』
( ^ω^)『失われた刃の輝きを、光を求める剣として』
( ^ω^)『そしてもう片方、折れた刃は時を経て別の形となった』
( ^ω^)『自らの帰る場所を探すように、刃を生み出し続けながら』
( ^ω^)『そして今、それらは一つとなった』
(;^ω^) それが……成王剣…?
( ^ω^)『そうだ、選定の意思によって手にする事ができる剣』
( ^ω^)『手にしたその人間を、王とする剣』
( ^ω^)『名を、成王剣コールブランド』
( ^ω^)『お前は意思の台座よりこの剣を引き抜いた』
( ^ω^)『これで、今度こそ正真正銘、お前はこの剣の、成王の管理者となった』
343
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 19:11:49 ID:mUoFvK1k0
(;^ω^)……それって…ハセガワ、お前は…
( ^ω^)『俺は、かつて剣と一体となった、その残滓に過ぎない』
( ^ω^)『真の管理者が生まれ、剣と一つとなったなら、消え往くが定めよ』
( ω ) そんな……
( ^ω^)『……やれやれだ』
( ^ω^)『お前なぁ、忘れてないか? お前たちは、神具をこの世界からなくすのが目標だろ』
( ^ω^)『ならどのみち、これが終わったらお別れなんだ、何を悲しむことがある?』
(;^ω^)それは……でも、そんな急すぎるお
( ^ω^)『……ああ、でもまあ、この意思がある限り、お前の戦いを見守っているから』
( ^ω^)『もう、こうして合間見えることはなくても、それは絶対だ、ここに居る、見ているから』
( ^ω^)『だから、最後に見せてくれ、お前が打ち勝つ、その先を、お前のこれからってやつをさ』
344
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 19:13:44 ID:mUoFvK1k0
( ω )………
( ^ω^)わかったお、どのみち消える、それが、お前の……望みなら
( ^ω^)「今すぐに…!」
(#^ω^)「――――て、やるおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
両手には、いつしか一振りの剣が握られている。
金色の柄と、眩い金色の刀身が輝く剣だった。
振り下ろされる黒い大剣に、黄金の剣が重なった。
ぶつかりあった剣戟が、押し合う形で止まる。
体勢を見れば圧倒的不利であるはずの内藤だが、押し負ける気配は無く。
頭上にて交差する剣の向こう、対するロマネスクを見据えた。
( ФωФ)「その輝き…この力…まさに、かつての我が神具」
( ^ω^)「そうだ、かつてお前が切り捨てた、そして、その剣に対抗できる唯一のものだお」
( ФωФ)「どうかな、いかな神具とて……このエアの前では!」
345
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 19:15:30 ID:mUoFvK1k0
距離をとるロマネスクと、それを追う内藤、
その間にも幾度かの剣戟が繰り返された。
しかし先ほどまでとは様子が違う。
弾かれながら、ようやく防いでいた大剣の一撃を、
今は体制もそのまま、ついには片手で捌いてみせている。
そんな姿に、ロマネスクはついに攻撃の手を止めた。
( ФωФ)「…そうであったな、衝撃すらも、取り込んでしまう、それが」
( ^ω^)「ああ、ハセガワが教えてくれた、この剣の本当の力を…!」
太陽と呼ばれていた頃の、光を吸収して力に変える能力とは、
いわば本来の能力の、こぼれだす様なほんの一滴でしかなかった。
この、黄金の聖剣がもつ本来の能力は、吸収。
王たる者が他者から富を奪う事で大きく、強くなるように、
この剣もまた、他者の力を奪うことで王たる抜き手に力を与える。
あの雪国の闘技場の舞台で、剣が打ち砕かれるほどの威力を受けた事で不完全に発現し、
衝撃自体を取り込み、わが身の力と変えて彼の女王を打ち倒したように。
あるいは戦場で、敵対する者が放つ雷を取り込んだように。
力となるエネルギーを、質量の有無に関係なく吸収し、己が力とする。
戦えば戦うほど、剣にダメージを与えれば与えるほど、
どこまでも強く、無限進化を促す究極のカウンター能力をもつ神具。
それが神具たるコールブランド、その真価であり。
ハセガワと、そしてショボンが内藤ならばと託した理由。
346
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 19:16:45 ID:mUoFvK1k0
( ФωФ)「だが、空間、そして事象すらも断ち切る、このエアの前ではどうだ…!」
(;^ω^)「っ…!?」
黄金の剣に、蠢く黒線がふたたび絡み付いていく。
振りほどこうとするも、質量もなく、ただのホログラムのような存在は、
引き剥がすことも、能力によって吸収することもできない。
見れば刀身は、絡みついた箇所からズレが徐々に大きく。
( ФωФ)「神は二人と要らぬ、これ以上力を高める前に……消えよ!」
ロマネスクが剣を振るう。
(#^ω^)「いや、いいや…! 僕は、僕らは……もう折れたりしない! するもんか!!」
内藤は迷うことなく前に踏み出し、受けるべく剣を眼前に。
瞬間。
衝撃が、圧力となって空間を満たす。
火薬の炸裂音にも似た音が響いた。
347
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 19:21:04 ID:mUoFvK1k0
( ω )「………」
( ω )「………うぅ」
( ФωФ)「……まさか、な」
( ФωФ)「驚いたぞ、よもや、この世界を裂く力までも……」
たしかに、あの黒線は防ぐ術がない、あの割断も不可視の現象ゆえ避ける術も無い。
だが、剣が折られるその瞬間は、その一瞬だけは、確かに、世界をも裂くという『衝撃』が発生する。
故に今、内藤が剣から感じているのは、まさに究極の力。
そして放たれる剣は。
(#メω゚)「う、ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
極限まで高められた、一閃となる。
昂ぶる力を抑えきれず放ったそれは、ただ虚空を切り裂くだけの結果となった。
しかし斜めの剣線は、天井から床までを真っ直ぐに刻み、幾度かの砂埃と地鳴りの音を響かせ、
その空間のおよそ半分が文字通りに切り取られ、ゆっくりと落ちていった。
見れば、下は一階層分まるまる切り取られており、二階層の半ばまで覗いている。
そして地上では、突如として、最上部が真っ二つに断たれる異常を目撃し、
どよめきが広がっていく、見れば大穴が斜めに空いている、そんな突然の異変と、
落ちてきた巨大な瓦礫に動揺する声が上がっていた。
348
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 19:23:27 ID:mUoFvK1k0
ξ;゚⊿゚)ξ「……き、斬った、のか、城ごと…!」
(;メω゚)「っ…づ、う」
( ФωФ)「く、くく……いいぞ、久しく感じていなかった感覚だ」
( ФωФ)「流石は我が半身……我が全力で相手をするに相応しき者よ!」
(;メω゚)「ふー…う、ううう…!!!」
( ФωФ)「どうした、何を堪えている、神化の力を解き放ってみよ」
( ФωФ)「そして挑んでくるがよい、かつて神々を制し世界を救ったこの我に!!」
(;メω゚)「うる、さい…! 僕は、お前と同じになんか……ならない…!」
(#゚ω゚)「なってたまるか! 僕は、人間として、お前を……倒す!!!」
(#゚ω゚)「そうだ、今度こそ……本当の、究極進化を…!!!」
額から浮かんでいた、赤い腫れが引いていく。
神化の証と言わんばかりに浮かんでいたその痕が、中心、内藤の目に向かって。
代わりに、その黒い瞳の色を、鮮烈なまでの赤い輝きに変えて。
(#^ω^)「行くぞ、ロマネスク…! 千年越しの決着を、ここでつけてやる!!!」
( ФωФ)「フフ、フハハハ!! いいだろう、受けて立つぞ人間!!!」
どちらともなく駆け出し、最初の斬りあい、その一撃で、砦の最上部は崩壊した。
下の階層へ崩れ落ちる瓦礫の上、ツンは外を見る。
ξ-⊿゚)ξ「やれやれ、見物人のことも考えてほしいものだ」
349
:
名無しさん
:2018/08/20(月) 19:24:18 ID:mUoFvK1k0
二人は宙に投げ出され、落ちていく。
その過程でまた斬り合って、また離れた。
( ФωФ)「下で待っているぞ」
ロマネスクは宙を切る、黒い歪が生まれるや否や、その姿が掻き消えた。
姿を探せば、地上の岩場、その一角から内藤を見上げている。
(;^ω^)「くそっ…ズルい…!」
(#^ω^)「エアロバリア、オン…!!」
その場所へ向けて、渦巻く風の道を造れば、
砂を巻き上げ、茶色い巨大な竜巻が生まれ両者の姿を覆い隠す。
続けざまに起きた城砦の崩壊と、巨大竜巻の発生。
既に収まりかけていた戦場は、それで完全に停戦状態と化した。
代わりに場はひたすら騒然とし、あちらこちらで混乱が起きている。
(;'A`)「おわわっ、また瓦礫が! 石が!」
(;'A`)「って……あれは…ブーンか!?」
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