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('A`)と( ^ω^)は異世界で絆と出会うようです
1
:
名無しさん
:2018/07/10(火) 19:35:07 ID:X.bQi/M20
http://boonsoldier.web.fc2.com/kizuna.htm
178
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:06:39 ID:DAgs3L120
壁にはいくつも、鳥避けで見たような、目を模した飾りが見える、
幸運を願うお守りのような物だと、誰かが言っていた。
また、対面から歩いてくる一人の人間がこちらへ声をかけてくる。
ただの挨拶だ、会釈だけしてやり過ごす。
耳を澄ませば、笑い声すら聞こえてくる。
ここにも、人が、生きている。
ただそれだけの事が、当たり前のことが、なぜか胸に痛みを与えた。
( メω )「……いつまで、ついて来るんだ?」
(#゚;;-゚)「王の下までご一緒します」
( メω )「なぜ、ちょっと報告してくるだけだぞ……」
(#゚;;-゚)「何か不都合が?」
( メω )「……ああ、いや、相談が…も、あるから」
(#゚;;-゚)「成程、では一つだけ聞いても?」
( メω )「なんだ」
(#゚;;-゚)「あなた」
(#゚;;-゚)「本当にロマネスク様ですか?」
179
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:07:28 ID:DAgs3L120
言葉に、内藤は全身が冷えていくのを感じた。
動揺もある、がそれ以上に、こうなったら、という諦めを含めて。
しかしギリギリの所で、剣に伸ばしかけた手を止め、
平静を装いながら半身だけで振り返る。
( メω )「質問の意味がわからないな」
(#゚;;-゚)「……先ほど、お会いした時から思ってましたが」
(#゚;;-゚)「今、あなたの近くにいると、それだけで背筋が寒くなります」
(#゚;;-゚)「率直に申しまして、今のあなたが恐ろしい」
(#゚;;-゚)「まるで――――」
内藤自身、それを意識した事も無かったが、いわゆる、殺気という物だろうか。
あるいは戦場で命をかける物がもつ直感のようなものか。
どちらにせよ、ここまでか、と。
振り返りながら柄で一度突き、続けて抜き放った剣の腹で殴りつけた。
でぃは小さな呻き声を上げながら、壁に衝突。
うなだれたまま、動かなくなった。
さらに衝撃で明かりのランプが落下して、音を立てて砕ければ、
溢れ出た油に火がついて、すぐさま廊下の一部が炎に包まれていく。
180
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:08:39 ID:DAgs3L120
すぐさまその場に背を向けて、内藤は駆け出した。
こうなったら、騒ぎが大きくなる前に、仕留めるしかない。
いくつもの通路を越え、そしていくつかの階段を越えると、
やがて広まった場所に出た、外を覗く穴からは、遠い空に日の出の兆候を映している。
そんなまだ小さな明かりを背景にして、その男がふりかえる。
( ФωФ)「戻ったか、我が半身よ」
それを見て、声を聞き、内藤は口を開いて笑みを作る。
手には抜き放ったままの剣が、薄明かりを浴びて徐々に輝きを取り戻し、
歩みは真っ直ぐに、段々と速度をあげながら。
明らかに様子のおかしい姿だが、対する男はただ見据えるばかり。
( メω゚)「――――ああ」
これを好機と、もう一度強く、地を蹴り。
( メω゚)「死ね……!!」
憎き人間を殺すべく、駆け出し。
181
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:10:53 ID:DAgs3L120
「オーッホホホホ!!!!」
気色悪い声色と共に、内藤とロマネスクの間に割り込む姿があった。
フリルのついたドレスから、すね毛を覗かせる巨漢。
顔は化粧にまみれ、目元はどこからが目なのかわからないほど濃い目のアイシャドー。
変態がそこに居た。
( <●><●>)「本性を現したわね!! この裏切り者!!!」
( <●><●>)「アンタの事は、ずっと怪しいと思っていたのよ!!」
( <●><●>)「見張っていて正解だったわ!!」
( メω゚)「………」
( <●><●>)「調べはついているのよ! アンタ、逆賊の仲間ね」
( <●><●>)「どうやって麗しき我が王にとりなしたか知らないけど…ここまでよ!」
( メω゚)「……け…」
( <●><●>)「ご覧ください王よ、こやつは今、王に剣を向けるばかりか」
( <●><●>)「つい今しがたにも、でぃに暴力を働いてここにおります」
( メω )「……ま…を……」
( <●><●>)「完全な裏切り行為、しかしご安心くださいませ!」
(*<●><●>)「このワタクシが、これ以上の不埒は許しません!!」
182
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:11:47 ID:DAgs3L120
( ФωФ)「ふむ、いや―――」
(*<●><●>)「見ていてください…! 真に忠誠を誓う姿を、そしてワタクシこそがあなたの傍に相応しい―――」
( ФωФ)「よいのだ、下がっておれ」
(;<●><●>)「!?」
(;<●><●>)(な、なぜ…!? 許すというの!? まさかそれでも、それでもあいつの事を!?)
(#<●><●>)「ぐ、ぬ、ぬぬぬ、いいいいい…!!!」
ぎぎ、と音を立てんばかりの勢いで、壊れた人形のようにオカマが振り返る。
そこには内藤が、伏目がちにこちらを睨み付けていた。
そして目と目が合う瞬間、お互いの激情が弾けた。
( メω゚)「そこを……退け…!!」
(#<●><●>)「この、アンタ、目障りなのよ…!!」
切っ先を互いに向け。
(#<●><●>)「消え失せ(#メω゚)「邪魔をするなああああああああああああああああああああああああ!!!!」
た、瞬間。
オカマは身体の感覚がなくなった事を知る。
183
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:12:42 ID:DAgs3L120
そして奇妙な浮遊感、景色がぐるりと回って床が近づいてくる。
口は動く、しかし呼吸の仕方も、声の出し方もわからなくなってしまった。
やがて地面だけが見える視界に、赤い液体が広がっていく頃、
未だわけもわからず、急速に消えていく景色に困惑しながら意識も失くし。
そんな傍らには、首から先、頭の無い身体が横たわっていた。
( ФωФ)「なんと愚かな…命を粗末にするとは」
( メω゚)「次はお前だ……今度こそ、今度こそ殺してやる…!!」
( ФωФ)「はは、まるでいつかの再現ではないか」
( ФωФ)「どうやら自分を取り返したようだな、うむ、見事だ」
( ФωФ)「ならば我も神として、その努力に応えよう、かかってくるがよい」
(#メω゚)「うる、せぇ、言われなくても…!!」
( ФωФ)「今度は、せめて届かせてみよ」
言って、ロマネスクは剣を構える。
しかし何時か見た、あの黒線をまとう大剣ではない。
神具ですら無い、特に装飾もないような簡素な一振り。
184
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:14:40 ID:DAgs3L120
他に武器らしきものは見当たらない。
よくよく見れば、服装も軽装でお休み前といった風貌。
どうやら、本当に不意打ちとなったようだ。
これなら、今度こそはと、勝利を確信する。
地を蹴る、間合いはすぐに無くなった。
その時、背後から何か叫ぶ声がした。
もう遅い、ロマネスクは当然のように反応してくるが、
得物の差は明らかだ、このままならあの剣ごと叩き斬れる。
斬りかかる、もう止められない。
が。
「ロマネスク様!!」
先ほど背中に響いていた声が、突如として眼前から響いてきた。
(;メω゚)(なっ…!?)
内藤は一連の動作の、その刹那に起きた事態に驚愕した。
185
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:15:17 ID:DAgs3L120
対峙する内藤とロマネスクの間。
誰も、何も居なかったはずのその隙間に。
(#゚;;-゚)
でぃが、ロマネスクを庇うように現れたのだ。
そうなれば当然、内藤の剣は彼女へと向かう。
剣は肩口から袈裟切りに、深く、その身を斬り裂いた。
破裂したように、吹き出た血が降りかかる。
むせかえるような鉄の匂い、文字通り血の雨が降る。
剣を、身体を染めていく。
でぃはそのまま後ろへ倒れこむ。
ロマネスクはその身を受け止めた。
「ご無事ですか」
そんなか細い声が響く。
186
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:16:28 ID:DAgs3L120
( ω )「―――――ぅ」
情景が。
何の因果か、偶然か。
あの瞬間の光景と重なって。
( ゚∀゚)
(; ω゚)「う、うぶ」
内藤はその場に膝をつき、呻きながらその場で嘔吐した。
あの感触が蘇ってくる、肉を千切り、骨を砕き、内臓を潰していく感触。
そしてそれ以上に、大事な存在に自ら手をかけた、その事実が。
今の今まで、恨みつらみで誤魔化していた感情が、
過剰なストレスが、ついには限界を超え身体に影響を与えた。
187
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:17:30 ID:DAgs3L120
嗚咽が止まらない、震えも止まらない。
手の感覚が無くなって、しかし握った指が開かない、剣を手放すこともできない。
しかし握った剣がまた、その感触を髣髴とさせ恐怖が襲う
それら全てが堪えきれず。
(; ω゚)「ぜっ――ぜっ――は、あ、あ―――」
「あああああああああああああ―――――――――――――――――」
悲鳴にも似た叫びをあげながら、ついにはその場から。
またしても、逃げることを選んでいた。
そして内藤が裏切った事、管理者が二人殺された事は、すぐに砦に広まった。
城砦の中、外はともにすぐさま警戒態勢となり、その足取りを探す人間達であふれた。
あちらこちらで、人の声や足音が響く。
居たか、どこにいった、あちらを探せと。
内藤は、そんな喧騒が響く城砦の中。
その奥深くの一室にて、しゃがみこんでいた。
188
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:17:31 ID:uEssAFl60
登場からほとんど出番なくワカッテマス退場か
189
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:18:59 ID:DAgs3L120
未だ、剣は指から離れない、まるで呪われた道具のよう。
嘔吐感は引いたものの、身体の震えは止まらない。
見つかれば、抵抗もできずに殺されるだろう。
覚悟をしていた筈なのに、それがとても恐ろしい。
そんな自分が、あまりにも無様で涙が出る。
それでも。
死ぬのが怖い。
死にたくない。
人は平気で殺してきたくせに、自分の番になったらこれだ。
そんな言い分は通らない、そうでなければならないのに。
それでも、恐怖のあまり、立ち上がることもできずにいた。
(; ω )(死にたく……ない……)
ずっと考えてきた、英雄のありかたも、その果てに得た答えも。
命はかけずに皆を守るなんていうのも、誰かが悲しむなんて詭弁だ、
結局はただ、自分が死にたくなかっただけなんじゃないか。
自分が安全だから、言えただけなんじゃないのか。
こうして命の危機に晒されてみればよくわかる。
要は、死にたくない、だけ。
190
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:20:07 ID:DAgs3L120
なんて、みっともない人間だろう。
こんな奴が、誰かを救うとか、守るとか、できるわけが無かったんだ。
最初から間違っていた。
(; ω )(なんで、どうして……こんなことに…)
とまで考えて。
(; ω )(そもそも僕は……人を………)
既に、もう何人も、この手にかけている事を思い出した。
それなのに、どうしてこうまで心を揺さぶられるのだろう。
いや、それ以前に。
いつから、そんな真似ができる人間になった?
平和な時代、世界に生まれ育ち、殺し合いなど映画や漫画でしか知らない自分が、
どうして、今まで気にもかけずに、行えてきたのか、戦えたのか。
191
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:21:23 ID:DAgs3L120
ゾ、と背筋にうすら寒いものを感じた。
神具を使ううちに、自分を失った、それは理解している。
ならそれは、いつから?
以前にも、戦いの中で記憶をなくした事はあった。
そして気付けば、自然と闘うことを受け入れるようになっていた。
それは、つまり。
(;^^ω)『……う……』
( ゚ω゚)「………!!」
(;^^ω)『内藤…? ああ、やっと声が…』
(;゚ω゚)「お前……か?」
(;゚ω゚)「お前が……僕を、そうさせた…!!」
(;^^ω)『何…? 何を言って』
(#゚ω゚)「お前が僕を、人殺しにしたんだな!!?」
192
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:24:23 ID:DAgs3L120
(;^^ω)『…それは…』
(#゚ω゚)「何が…何が進化だ、何が神具だ! 何が太陽の管理者だ!!」
(#゚ω゚)「大層な言葉を並べて、人を狂わせるのがお前の、この剣の力か!!」
(;^^ω)『……落ち着け、パニックを起こすな』
(;^^ω)『気持ちはわかるが、今は』
(#゚ω゚)「気持ちだと!? お前に僕の何がわかるっていうんだ!」
(#゚ω゚)「大体気持ちが悪いんだよ、何なんだお前は!?」
(# ω )「お前のせいで僕は……ジョルジュさん……を、僕が…」
(#^^ω)『……待て、お前、それは違うぞ』
(# ω )「もういい、もう、やめてくれ」
(#^^ω)『あいつが願ったのは、その行為は、そんなことじゃないだろ!?』
(#゚ω゚)「うるさい…うるさい、うるさいうるさいんだよ…!!!」
(#^^ω)『ジョルジュは、お前をしん』
(#゚ω゚)「黙れ、黙れよ! この化物が!!!!!」
(#゚ω゚)「僕に話しかけるなああああああああああああああああ!!!!!」
193
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:24:57 ID:DAgs3L120
ザ
ばつん。
ザザ ザ
194
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:25:52 ID:DAgs3L120
(;´ω`)「――――あ…れ?」
気付けば、内藤は自分を支えきれずに横たわっていた。
何か、身体の、頭の奥底で、何かが千切れる様な感覚があった。
今は凄まじい脱力感に襲われ、全身に力が入らない。
なんとかして身を起こす。
人の体とは、こんなにも重たい物だったのだろうか。
手足が重い、腰に下げた鉄の塊は、本気で力をこめないと上がらない。
今まで、こんな重いものを振り回していたのかと、今更感心してしまう。
今、自分に起きていること、内藤はすぐに理解した。
先ほど自分でそう言ったのだから、当然の話だ。
与えられていた力を失い、本来の体力に戻っただけ。
要するに内藤は、管理者では無くなったのだ。
195
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:26:47 ID:DAgs3L120
頭に響く声もしない。
不思議と、何も感じなかった。
金属の擦れる音を鳴らしながら、足音が近づいてきても。
あれだけ騒いだのだ、当然誰かしら気付く者が居るのも必然。
そして抵抗する力は、存在しない。
待っているのは、死、だけだ。
当然の、結果だと。
ただ、ただ全てを諦めるように。
目の前に現れた人影を、ぼんやりと眺めていた。
196
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:27:53 ID:DAgs3L120
……………。
一つの検問所に一隻の陸船が通りがかった。
舵を握るのは初老の男、奥にはさらに二人同乗している。
このご時勢だ、どこで誰が何を企んでいるかもわからない。
精々水と食料が積まれているだけにしか見えない、ただの旅行者であっても、
お決まりの台詞として、木製の簡易的な門にたつ一人が、その船をひき止めた。
「この先に何の用だ?」
(´・_ゝ・`)「用って程じゃないが、順に国を巡っているところさ」
(´・_ゝ・`)「今の目的をしいて言うなら、エッダを目指したい」
(´・_ゝ・`)「あそこのヨジデーは良いものだからな」
「ふむ、だが残念ながら…今はエッダはもう、人が居ないと聞くぞ」
(´・_ゝ・`)「全ての集落がってわけじゃないだろう?」
「まあ、だがどちらにせよ……まだ、先日の争いの跡が残っている」
「すまないがこの先は危険だ、一介の旅人を通すわけにはいかない」
(´・_ゝ・`)「大丈夫だって、戦場は避ければいいんだろ?」
197
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:28:54 ID:DAgs3L120
多少ごねてみるが、門番の男は首をよこに振るばかり、
やがて諦めたのか、船は反転してその場を離れていく。
そして門が遠く小さくなった頃。
男は無精髭をなでながら小さく唸る。
イ从゚ ー゚ノi、「オイなんだデミのおっさん、諦めよすぎだろ」
そんな背中へ声をかけたのは、ローブ姿の子供だった。
やけに可愛らしい声色とは裏腹に、態度は大きく、ついには足で小突いている。
イ从゚ ー゚ノi、「また逆戻りとか、いつんなったら先に進めんだよ!」
(´・_ゝ・`)「いてぇな糞ガキ、しょうがねぇだろ」
イ从゚ ー゚ノi、「早くしねぇと腐っちまうぜ、なあ?」
悪態つきながら、少女はもう一人の同乗者へ声をかける。
汚れたマントを頭から被るその人物は、傍らの人が入れるほどの箱を見る。
「いや、もう血も抜かれてミイラ状態だから、それはたぶん大丈夫」
イ从;゚ ー゚ノi、「ほら、またなんか怖いこと言い出したし!!」
イ从゚ ー゚ノi、「てか、お前も急いでるんじゃねぇの?」
('A`)「そうだけど……」
('A`)「いや、デミタスさんにはここまでお世話になってるし、これ以上無茶は…」
198
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:29:58 ID:DAgs3L120
イ从゚ ー゚ノi、「あ? じゃあどうすんだよ?」
歩いてでも、そう言いかけるドクオだったが、
デミタスは二人の前までやってくると、大きな紙面を広げて見せた。
(´・_ゝ・`)「今いるのがここだ」
太い線で塗られた長い道、その一点を指して言った。
続けて指を向かわせるのは、道を外れた先、連なる山を表すマークの場所。
イ从;゚ ー゚ノi、「山越え!? マジで言ってんの!?」
(´・_ゝ・`)「いいや、この麓のところ」
('A`)「ここは?」
(´・_ゝ・`)「そこそこ大きな河がある、ここへ向かう」
(´・_ゝ・`)「ちょいと迂回することになるが、ここを抜ければあとは一本道だ」
イ从゚ ー゚ノi、「いや川なんかどうすんだよ?」
(´・_ゝ・`)「船がどういうもんかも知らねぇのか糞ガキ、少しは勉強しろ」
('A`)「そこまで…いいんですか?」
(´・_ゝ・`)「好いも悪いもねぇよ、行くのに必要なだけだろうが」
ドクオが乗っているこの船は、デミタスという旅人のものだ。
あれから、不思議なことに身体はどんどん全快していき、
怪我の痛みどころか、手足が今まで以上に軽くなり、
人を担いだままでも歩けるほどに回復した。
199
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:30:58 ID:DAgs3L120
ドクオは動かなくなった姿を破れた布で覆い隠し、
ついでにズタボロになった自分の衣服も捨て、マントを羽織ると、
皆のところへ帰るべく、遺体を背負いながら一路、街道を目指した。
歩き始めた当初は、行き先もわからないのにと不安になるが、
いざ進んでみればどの道も、景色も、見覚えがあった。
どう行けばいいのか、どこへ行けばいいのか、そういったものが頭にある。
奇妙な感覚だった。
そうして、不思議な記憶に導かれるように、先を急ぐ。
しかし、歩けど歩けど、遠い山にすら近づけない。
世界が広い、流石に息が切れて、ついにはその場で座り込んだ。
と、そんな時だ、一隻の船がやってきたのは。
船はドクオの横で停止すると、男が顔を覗かせる。
(´・_ゝ・`)「なんだ兄ちゃん、こんな何もないとこを一人で散歩かい?」
言いよどむドクオを、男は物色するように見据える。
ボロ切れに巻かれた妙な物を傍らに、薄汚れたマントを羽織る姿。
怪しいことこの上ないが、意外にもその男は、親指で自分の船を指す。
(´・_ゝ・`)「乗りな」
200
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:32:55 ID:DAgs3L120
(;'A`)「え、でも…」
(´・_ゝ・`)「あ? ああ、そうか、どこ行きてぇんだ?」
(;'A`)「とりあえず、エッダに」
(´・_ゝ・`)「ああ、この道に居るならそうなんだろうけどよ」
(´・_ゝ・`)「けどお前、今あそこ行っても何もねぇだろ?」
(;'A`)「何もない…? それ、どういう意味ですか?」
(´・_ゝ・`)「どうもこうも……今がどういう状況か、知らんのか?」
(;'A`)「……聞いても、いいですか?」
そうしてドクオは、今の自分が、そして他の仲間達が置かれた状況を知る。
暢気にしている場合じゃない、急いで合流しなければと思う。
思うが、荷物を抱えて、徒歩で行くにはあまりにも時間がかかる。
かといって、今の話を聞いてヒルトへ行きたいとも言えない、
口ごもるドクオだったが、男はそんな内心を見透かしたように言った。
(´・_ゝ・`)「じゃ、行き先はヒルトでいいんだな?」
(;'A`)「はい―――えっ!?」
201
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:34:43 ID:DAgs3L120
(´・_ゝ・`)「ほれ、とっとと行くぞ」
(;'A`)「ど、どうして? 今の話が本当なら…」
(´・_ゝ・`)「別に、他所の国がどこで戦争してようが、俺には関係のない話だ」
(´・_ゝ・`)「そよれり、ここで無視したらお前さん、野垂れ死にそうじゃねぇか」
(´・_ゝ・`)「そうなったら、なんか俺のせいみてぇで、寝覚めが悪いんだよ」
(´・_ゝ・`)「どうせ風任せの旅だ、送るだけしてやるから、後は好きにしろ」
(;'A`)「……はあ、えと、それじゃあ……はい、お願いします」
(´・_ゝ・`)「ああ、それと……その横の、そいつは……なんだ、家族か?」
問われて思う、その関係性とは。
助けられ、裏切られ、憎んで、傷つけあい、そして――――命を救われた。
今では自分がどう思っているのか、それもわからなくなってしまった。
歪な関係だ。
しかし今のこの瞬間だけを切り取ったなら、それを言葉にしたならば。
('A`)「……恩人、だと思います」
202
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:35:23 ID:DAgs3L120
(´・_ゝ・`)「そうかい」
(´・_ゝ・`)「まあ、このご時勢だ、人の命も自然と軽くなる、容易く消えちまう」
男はどこか遠くを見るように、何かを思い出すように口にした。
しかしすぐに意識を戻し、ふたたびドクオと、横の物体を見やる。
(´・_ゝ・`)「とにかく野ざらしは色々とよくねぇ、ちょうどいい箱があるから棺桶代わりに使え」
('A`)「すみません、なんか」
(´・_ゝ・`)「どうせやかましい先客も居るからな、今更増えたとこで変わらねぇさ」
('A`)「先客…? 他にも誰か?」
船に足を踏み入れ、テント状の幕に覆われた奥を見る。
たしかに、そこには大の字で横になる姿があった。
見るからに小さい、身なりも同じようなローブを羽織った子供だ。
少し近づいてみる、容姿こそとても可愛らしいものだったが。
「んあー……くそっ、が……」
しかし丸出しのお腹を今もボリボリとかき、とても口の悪い寝言を呟き、
いびきを掻きながら寝ている姿は、おっさんにしか見えなかった。
(;'A`)「……えーと、お子さんで?」
(´・_ゝ・`)「いいや、知らんガキだ、いつの間にか居ついちまった」
203
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:36:47 ID:DAgs3L120
(´・_ゝ・`)「起きろ、邪魔だ」
イ从;゚ ー゚ノi、「うおっ!? いってーなぁ! 何しやがる!?」
(´・_ゝ・`)「寝たけりゃせめてもっと隅にしろ、荷物取るのに邪魔だろうが」
イ从゚ ー゚ノi、「はあ? 何をいきなり……」
イ从゚ ー゚ノi、「あれ、なんだ? 誰だ兄ちゃん?」
イ从;゚ ー゚ノi、「つーか、うしろの……うわっ!? 死体!?」
そんなこんなで、ドクオは彼、デミタスの船に同乗させてもらう事になった。
何にせよ、これで合流できると安心するのも束の間、
今度は街道が閉鎖されているため、どこも通ることができないという事態に陥った。
しかし、これは先に話したとおり、迂回路を通ることで解決を見る。
広大で緩やかに流れる川を、船が本来の役目をまっとうし、帆を張り上っていく。
しばらく進んでから上陸すると、林を抜け、再び街道へ出た。
先には真っ白い山が、先端に雲を被せている。
更に進めば冷えた空気が流れてきて、その場所が近づいている事を教えていた。
そういえば、この服装ではとても不味いと思ったが、
デミタスは荷物の中から厚手の服を用意してくれた。
どうやら、このヒルトには何度も訪れているらしい。
204
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:38:27 ID:DAgs3L120
そして夕暮れを過ぎて暗くなった頃、軽めの食事を済ませ、
テント内にこもって明かりを囲む、外はやけに静かだ、
覗けばすでに雪が積もり始めていた、このままなら夜明け前には到着できる。
イ从;゚ д゚ノi、「うおお……さ、ささ、さみぃ……!!」
(´・_ゝ・`)「我慢しろ」
ドクオはふと思いついて、荷物の中からある物を取り出す。
刀身が半分以上失われた、波打つ刃の赤い剣だ。
(´・_ゝ・`)「……………」
イ从゚ ー゚ノi、「それ、まだ持ってんの? んな折れたもん使いもんに……」
('A`)「いや、大丈夫」
言って、念じる。
力と思いを込めて、灯れと。
すぐに赤い剣はうっすらと輝きを放ち、陽炎のような揺らぎをつくる。
テント内を薄明かりが照らすと、同時に熱が空間を満たしていく。
イ从;゚ ー゚ノi、「は? あったかくなった…? え、なんじゃそりゃ!?」
イ从;゚ ー゚ノi、「なにそれ!? なにそれすげぇ! 欲しい!!」
(´・_ゝ・`)「火珠の剣か、ヒルトじゃよく見るもんだな」
イ从;゚ ー゚ノi、「そうなんか、へー」
205
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:39:32 ID:DAgs3L120
こうして暖かな空気に包まれたテント内は、穏やかな時間に包まれる。
少女は眠気に襲われたのか、重そうな瞼をやがて閉ざし、寝息を立てた。
滑車と、船底のソリ部分だけが音を立てる。
ドクオは剣の輝きをぼんやりと眺めていた。
すぐ側で、地図をめくる音がした。
('A`)「……デミタスさん」
ヒルトにもうすぐ到着する。
その前に、尋ねておかなければいけない事があった。
これまで聞くに聞けなかったこと、この、今を作る理由。
('A`)「どうして……俺を乗せてくれたんですか?」
(´・_ゝ・`)「……言ったろ、寝覚めが悪いって」
('A`)「………」
(´・_ゝ・`)「ふぅ……ああ、そうだ、もういっこある」
(´・_ゝ・`)「お前が今持ってる、その剣……俺が聞いた代物に、よく似てたからだ」
(;'A`)(まさか……)
この人が、果たしていつから、どこからこうして旅を始めたのか分からない。
だけどもしかしたらと、そう思っていた。
206
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:40:20 ID:DAgs3L120
そして今、この剣を知るなら、それは、もしかしたら。
VIPの、と言い掛けて、男の口からは違う言葉が放たれた。
(´・_ゝ・`)「俺は、アース国の人間だった」
ドクオは息を飲んだ、その名は、確かに聞かされてはいた、
けれど今はそれ以上に、実感として、記憶として、覚えている。
ギコと、フサギコが戦い、そして滅ぼしたという国。
民も領土もVIPが物とした、敗戦国。
(´・_ゝ・`)「祖国を滅ぼす原因を作ったとされる、炎の風、破壊の剣」
(´・_ゝ・`)「炎を操り、燃えるように赤く、波打つ刀身をもつ片刃の剣」
(´・_ゝ・`)「よく似ていると思わないか?」
('A`)「……」
ぼ、と赤い輝きだけを見せていた剣から、小さな炎が溢れる。
まるで心の惑いを、そのまま表現するかのように。
(´・_ゝ・`)「何故そんなことを知っているかというとな」
(´・_ゝ・`)「俺の弟が、その国の兵達を纏める存在だったからだ」
(´・_ゝ・`)「俺と違って出来の良い奴でな、王からの覚えもよく、おかげで良い暮らしもさせてくれたよ」
(´・_ゝ・`)「だからずっと思っていた」
(´・_ゝ・`)「あいつを殺した破壊の管理者を、この手で殺してやりたいと、ずぅっとだ…!!」
207
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:43:39 ID:DAgs3L120
デミタスはそう言って、ドクオを睨み付けたまま動かない。
表情にも変化は見られない、真顔で、まっすぐに見据えている。
今までの自分なら、きっと恐怖で固まって、何も言えなかった。
だけど今は、たくさんの心が、勇気と、この状況の意図を伝えてくれていた。
だから一度目を閉じて、ドクオはふと笑みすら浮かべ。
('A`)「…立派な、人でした」
(´・_ゝ・`)「何?」
('A`)「敵ながら尊敬できる、堂々とした、とても強い人でした」
('A`)「そして……まだ、何もわかっていないあの人に、戦うことの意味を」
('A`)「その痛みを、教えてくれた人でした」
('A`)「ミルナさん、その名は、決して忘れません」
(;´・_ゝ・`)「お前…なぜ、その名を……」
そう言ったドクオの姿に、デミタスは驚きに固まった。
しばしの間があって、今度は表情をくずし、大声で笑い始めた。
(´・_ゝ・`)「ははは!! こりゃ参った、まさかそう返されるとはなぁ!!」
(´・_ゝ・`)「驚かすつもりがこっちが驚かされたわ!! くく、はははは!!!」
208
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:44:52 ID:DAgs3L120
('A`)(ああ、やっぱり……試されていたのか)
(´・_ゝ・`)「強かった、か……そうか、破壊の管理者が、そうまで言うほどに立派だったか」
('A`)「ええ、管理者にしか、止められない手合いでした」
(´・_ゝ・`)「そうか、ならば奴も、きっとそうは悔やまずに逝けたのだろうな……」
(;´・_ゝ・`)「て、ちょっと待て、何でお前がそんなの知ってるんだ?」
(;´・_ゝ・`)「見たとこそう年もとってねぇだろ? 」
(;'A`)「ええと……色々と事情がありまして…」
ドクオは、これまでの経緯と、VIPに纏わる全てを、できる限り説明をした。
あの戦争において隠されていた真実を、そして今それを自分が知る理由を。
(´・_ゝ・`)「そうか……本当の管理者は、終結時にはすでに…」
(´・_ゝ・`)「………」
(´・_ゝ・`)「国があんな事になっちまって、それが原因で家族もみな居なくなっちまった」
(´・_ゝ・`)「上が勝手に始めた事とは言え、そもそもこっちから仕掛けた戦争だ」
(´・_ゝ・`)「これでVIPを恨むのは……まあ、ちぃと筋が違うわな」
209
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:47:21 ID:DAgs3L120
(´・_ゝ・`)「ああ、俺が根無し草になったのも、それが嫌になっちまったのさ」
(´・_ゝ・`)「恨みは……まあ、無かったとは言わねぇ、例の管理者の名はよく聞いたし、この手でとも本気で考えた」
(´・_ゝ・`)「だがな、結局は……どんな恨みも、憎しみも……それを思い続けなければ消えてしまう」
(´・_ゝ・`)「あれから、いくつもの国を渡った、数え切れないほど人に出会ってきた」
(´・_ゝ・`)「良い奴も、悪い奴も居た、腹がたってしょうがない奴も居た」
(´・_ゝ・`)「でもな、その全て、誰とだって会話ができたんだ」
(´・_ゝ・`)「当たり前のことだけどな、今こうしているように、どこの誰かもわからん奴等でも寝食共にできる」
(´・_ゝ・`)「そういう連中と会う度に、そういう連中と過ごす度に、そんな時間まで、憎しみを思い続けられやしなかった」
(´・_ゝ・`)「良くも悪くも、だがな、きっとそれはどんな思いもそうだ」
(´・_ゝ・`)「俺には世界がどうとか、今更興味もないが、お前は今何か、理由があってあの場へ行きたいんだろう?」
210
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:49:46 ID:DAgs3L120
(´・_ゝ・`)「ああ、それなら言うまでも無いだろうが、想う事をやめない事だ」
(´・_ゝ・`)「思い続ける限り、想いは消えない、それが今居る誰かの為なら決してな」
(´・_ゝ・`)「……ん、お前を拾った理由を聞いてない?」
(´・_ゝ・`)「ただ、聞いてみたかったのさ、弟のこと、ミルナのことを」
(´・_ゝ・`)「………ありがとな」
陸船が行く。
雪上に三つの跡を作りながら、どこまでも線を伸ばしていく。
その先には、いつしか小さな灯りが見え始める。
巨大な渓谷と、その上に聳え立つ天空都市。
やがて船はその場所へ、ヒルトの国へとたどり着いた。
211
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:51:28 ID:DAgs3L120
…………。
時は遡り。
ロマネスクの居城、岩山に造られた城砦の内部。
震えながら座り込む内藤の前に、一つの影が現れた。
その男は肩で息をしながら、内藤を見据え、笑みを浮かべて言った。
( ><)「やっと、見つけたんです……」
男が手を伸ばす、殺されると察した内藤は目を閉じる、
だが、両肩を掴まれる感触にふと前を見れば、男が頭を下げていた。
(;´ω`)「…え?」
( ><)「ありがとう、君のおかげで…ようやく自由になれた!」
( ´ω`)「なに……言って」
( ><)「君が倒してくれたあの変態……ワカッテマス、僕はあいつに脅されていたんだ」
212
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:52:20 ID:DAgs3L120
( ><)「でも、こうなればもうこんな所に居る必要もない」
( ><)「だから今度は僕が君を助ける、さあ、こっちへ…!」
だけど、そう言いかける内藤だったが、引かれる力に一切抵抗できない。
引き摺られるようにして、内藤は隠れていた空間から廊下へ。
人気は今のところ見当たらない。
ここはかなり入り組んだ、その先のようだった。
無意識にでも、安全と思われる場所へと逃げていたのかと思ったが。
( ><)「違う塔で見かけたって誘導もしてきた、だから今の内です」
どうやら彼は、本気で内藤を助けようとしているようだった。
助かるのかと期待している自分に、足を止めたい衝動にかられるが、
それ以上に今は力が入らない、内藤は引かれるまま、さらに進んでいく。
( ><)「よし、この先だ……」
(;´ω`)「………はぁ、はぁ…」
( ><)「…実は、助ける代わりにと言ったら何ですが、頼みがあるんです」
( ><)「僕はここに、大切な子を幽閉されていたんです」
( ><)「あいつは、あの変態はそれを理由に僕を脅していた……」
( ><)「だから、君にその子を任せたいんです、守ってあげてほしいんです」
213
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:54:59 ID:DAgs3L120
大切な存在を、守って欲しいと、男はそう嘆願する。
しかし内藤は冷め切った心でそれを否定した。
( ´ω`)「無理だお」
(;><)「え?」
( ´ω`)「それが……大切なら、僕には無理だお」
( ´ω`)「大事なものは、僕には守れない……無理、なんだお」
(;><)「そんな…そんなことはない、だって君は、あれだけの力を…!!」
( ´ω`)「無い、力なんて無い、できない、無理なんだお…」
(;><)「何故そんな………いや、それでも…!」
男は再び手を引いて、その部屋の奥へと進む。
いくつもの木柵が並ぶ、妙な匂いが充満する空間だった。
( ><)「ぽっぽちゃん…!! 助けに来たんです!!」
その先に、それは居た。
一目には巨大な黒い塊が、動いたように見えた。
しかし薄明かりの中、立ち上がった姿はよく見覚えのあるものだった。
214
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:55:43 ID:DAgs3L120
(*'ω' *)「ぽヒヒヒーーン、ブルル…」
(;゚ω゚)「う、馬…!?」
( ><)「そう、馬の、ぽっぽちゃんです」
( ><)「この子は……特別な馬なんです、決して死なせたくない…」
( ><)「死なせちゃいけない子なんです!」
黒い体毛に、赤茶色のたてがみとしっぽが映える、
大きな、身の丈を軽くこえるような馬だった。
男が近づくと、馬は頬を摺り寄せ甘えたような声を発する。
( ><)「待たせてごめんよ、今自由にしてあげるから…!」
(*'ω' *)「ぽっぽ」
( ><)「そしてぽっぽちゃん……彼と一緒に、先にここを出てほしいんです」
(*'ω' *)「ぽひん?」
( ><)「まだ、追手をもう少し誤魔化さないといけない、まだ僕は行けない」
( ><)「だから、さあ、君も一緒に…!」
( ´ω`)「いや、だから僕は……」
ぽっぽと呼ばれた馬が、内藤の前でしゃがみこんだ。
まるで、本当に彼の言葉を理解しているような動きだった。
215
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:56:42 ID:DAgs3L120
(*'ω' *)「ぽぽ!!」
そして乗れ、と言わんばかりに嘶く。
内藤は促されるまま、その背にしがみついた。
上からはシーツのような物が被せられる。
( ´ω`)(どうして…)
カツ、と立ち上がった馬はすぐさま歩き出す。
ちょうどその先には、出口があって、荒野がどこまでも続いている。
人の気配が、いつしかすぐ近くに来ている。
(;><)「さ、さあぽっぽちゃん、早く!」
(;*'ω' *)「ぽっ……ぽひぃん」
馬が振り返りながら男を見る。
何度かそんな動作を繰り返してから、やがて意を決したように地を蹴った。
風が、景色がものすごい速度で流れていく、蹄が地面を叩く音が響く。
しばらく駆け抜けると、被っていたシーツが外れ視界が開ける。
背に揺られながら振り向けば、
あの要塞は、とうに小さくなっていた。
216
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:57:31 ID:DAgs3L120
( ´ω`)「………」
生きている。
生き延びた。
死ななかった。
助かった。
助けられた。
助けを求める手を、振り払っておきながら。
( ゚ω゚)「………!!」
こうして救われた事に、命があることに、安堵している。
どこまでも、どこまでも最低な、自分がそこに居た。
217
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 21:58:34 ID:DAgs3L120
何も守れず。
人を裏切り。
人を傷つけ。
何も成せず。
力も失くし。
信じた願いも虚。
帰る場所も無い。
そして最後には。
誰かを助けたいという意思すら投げ捨てた。
死ねないでいるだけの、無為な存在がここに居る。
全て、本当に何もかも、失くしてしまった。
その大きな背に揺られながら、内藤は絶望感に身を委ねるように、やがて目を閉じた。
つづく。
218
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 22:00:13 ID:s7KTsW/U0
ちんぽっぽが馬とはこれいかに
219
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 22:03:07 ID:s7KTsW/U0
おつ
ドクオとブーンは次で合流かな
220
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 22:03:34 ID:DAgs3L120
ブーンを虐めるだけのお話はこれでおわり、次回でなんたらかんたら。
ドクオはあらゆる過去を紡いで歩いていく、いやあ実に主人公だなー。
ちなみに分かり辛いけど時間軸は大きく、大きく? 割とずれてます、同時ではないです。
次回は10話「ありがとうのかわりに」
帰ってきたドクオとブーンのお話、タイトル回収するお話。
そしてまた明日。
221
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 22:14:56 ID:kfyKYIGs0
乙!
芸さんのところに投下報告した方がいいかね
222
:
名無しさん
:2018/07/11(水) 23:52:37 ID:tRaYS1lU0
乙
223
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 08:37:09 ID:K6h.fAtA0
乙 読み直す
224
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 19:30:30 ID:vp.cEk020
10ヶ「ありがとうのかわりに」
空も明るくなり始めた夜明け前。
降り続いた雪がようやくやんで、晴れ間がのぞいてきた。
同時にふもとからの船がやってきて、そこにはドクオの姿があった。
(´・_ゝ・`)「さて、巻き込まれる前に逃げるとすっかね」
('A`)「ありがとうございました、また、どこかで」
イ从゚ ー゚ノi、「じゃぁーな! もう迷子になんなよ!?」
(´・_ゝ・`)「糞ガキ、おめぇはここで降りてもいいんだぞ」
イ从゚ ー゚ノi、「寒いからやだ」
こうしてお世話になった陸船に別れを告げ、街を行く。
もっと活気があると思っていたが、どうにも人が見当たらない。
225
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 19:31:03 ID:vp.cEk020
(;'A`)「みんな、どこに居るんだろ……あっちの、でかい城みたい方かな」
通りは屋台跡のような物こそあれど、どれも閉まってる。
ときおり見かける人も、そそくさと家の中へ入っていくばかり。
朝早くとはいえ、こんなものだろうか。
不安になりながら進んでいくと、やがて開けた場所に出た。
そこに人だかりができている、近づくと、そこに見知った姿を見る。
从;゚∀从「え……は!? うそ、お前…!? ドクオか!?」
(;'A`)「よかった…やっと見つけた」
/ ,' 3 「おお、本当に無事じゃったのか…!」
('A`)「ええ、なんとか……助けられまして」
从;゚∀从「てかお前、ここに居るんじゃ……そうか、すれ違っちゃったか」
(;'A`)「え、どういう……そうだ、他の皆は?」
从;゚∀从「ああ……皆、開戦の準備にって麓へ集まってるぜ」
('A`)「そっか……遅かったのか、なら俺も……」
言いかけて、ふと気付く。
226
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 19:31:36 ID:vp.cEk020
(;'A`)「あれ、クーは…?」
从 ゚∀从「ああ、クーなら……てか、そうだ、まず話しておく事があるんだ」
聞けば最後の戦い、最終目的を果たすための準備は整っており、
クーはその要として共に向かっている、ということ。
ジョルジュの事だけじゃない、沢山の犠牲があったこと。
そして、内藤のこと。
一度はまた行方不明になったが、すぐに麓の集落で発見され、
ここまで運び込まれてきたらしい、それも、憔悴しきった様子で。
今は宿に閉じこもったまま、以前とは見る影もない状態だそうだ。
そうなった発端は、ジョルジュさんの事だろうと言っていた。
けれどその先に、何があったのかは分からない。
ただ、まるで、死を待っているようだと、誰かが言った。
('A`)「……」
从 ゚∀从「夜明けが来たら、麓の連中はきっと出発しちまうと思う」
从 ゚∀从「合流するなら、もうすぐにでも向かった方がいい」
从 ゚∀从「………だけど、できれば、その前に…あいつを」
从 ゚∀从「……何か、内藤に、お前からも言ってやってくれないか?」
从 ゚∀从「皆、何とかしてやろうとしたんだよ、だけど……駄目だった」
227
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 19:32:45 ID:vp.cEk020
恐らくは自分のした事の重さに、潰れてしまったのだろう。
ドクオには、その気持ちが理解できた、同じ事をした覚えがある。
他の誰が許しても、自分がそれを許せない。
何よりも自分が、憎くて仕方ない。
从 ゚∀从「……でもお前なら、友達の言葉なら、もしかしたら」
('A`)「……いや、きっと、無理だと思う」
友達の言葉、じゃ、きっと届かない。
もしも届くものがあるなら、それは失くした存在からの言葉だけ。
でもそんなのは、不可能だ。
運よく、しかしそれでも数多の犠牲の上で自分は叶ったが、
そんな真似は本来、どうあってもできやしない。
だから届くのは、自分自身の言葉だけ。
自分がそれを許し、あるいは理由にできなければ意味が無い。
ただ。
それに、自分に近い言葉なら、あるいは違うのかもしれない。
('A`)「でも、行ってみるよ、俺も話したいことがあるから」
228
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 19:33:10 ID:vp.cEk020
…………。
<_フ ー )フ『お前を助けてくれたんだろ』
誰かがそう言った。
わかっている、だけどそれは行動の結果だけを見たものだ。
何の悔いもなかったと言うのだろうか、苦しまなかったと言うのだろうか。
それはない、それはなかった。
謝りながら、悔やみながら行ってしまった。
それに助けられたなら、言わなければいけなかった。
なのにそれすら、自分はできなかった、何も何も何も何も伝えられなかった。
謝罪も感謝も何も、お別れすらも告げられず。
それは、もはや殺したのと何が違うのか。
そうなるまで、追い詰めたのは自分だ。
内藤という人間が、彼を死なせたのだ。
助けたなんて綺麗な言葉で取り繕ってもこれだけは変わらない。
229
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 19:34:38 ID:vp.cEk020
ζ( 、 *ζ『どうして……そんな、酷いことを…!』
そうして謝罪を告げた時、彼女に頬を打たれた。
目に涙を溜めて、初めて見る、恨みを込めた視線で。
様、と呼ばれる事を望んでいたわけじゃないけれど、
ブーンと呼んだことで、大きな亀裂ができたのを思い知らされた。
攻められることでせめて安心する、なんて事はなく。
ただただ、痛みだけが増していく。
叩かれた跡も、その言葉も、頬を伝う涙さえ。
ほかに何も言える事が無くて、もう一度謝罪を告げた。
罵声と共に、彼女は背を向けて去っていった。
その姿にさえ、何も言う事ができなかった。
追いかけることさえしなかった。
230
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 19:35:22 ID:vp.cEk020
(´ ω `)『僕は、君のことなんか信用しちゃいない、今も"昔"も』
決別の言葉は、思ったよりもすぐに受け入れることができた。
それとも、もう何も感じなくなってしまったのだろうか。
ほどなくして、宿の一室に放り込まれた。
一晩を灯りをつけずにそのまま過ごす。
闇夜の中に溶けて消えてしまいたいけれど、
目が慣れたその空間は、むしろ輪郭を浮かび上がらせる。
自分がここに居るということを、より強く教えてくる。
そうして、どれほどの時間が過ぎただろう。
廊下に足音、そして小さくノックが響く。
続いて聞こえてきた声に、戸惑った。
聞き覚えがある、聞き間違いか、あるいは夢でも見ていたのか。
('A`)「ブーン、居るか?」
231
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 19:36:59 ID:vp.cEk020
(; ω )「ど…ドク…オ…なの、かお?」
(; ω )「まさか、本物……生きて…?」
('A`)「ああ、なんとか無事、帰ってこれたよ」
(; ω )「そんな………ああ」
( ω )「よかった……本当に…よかった」
('A`)「んで、まあ……大体のことは聞いたよ」
('A`)「ジョルジュさんの事も………きつい、よな」
扉の向こうで、ドクオが何か言いよどんでいる。
彼はとても優しい人間だから、攻めたりはしない、できないだろう。
生きていてくれたのは嬉しく思う、だけど今は、放っておいてほしい。
慰めは、いらないのだと、身構えていた内藤だったが。
続く言葉はまるで違うものだった。
('A`)「………まさか、俺と同じ事してるとは思わなかったよ」
('A`)「ごめんな、ちょっとだけ、ほっとしちまった」
232
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 19:39:25 ID:vp.cEk020
( ω )「………?」
('A`)「俺ら二人揃って、何やってるんだろうな……」
( ω )「…………なに、を」
('A`)「………なあ、聞いてくれよ……」
( ω )「……」
掠れ気味の喉から発せられる言葉が、静かな空間に小さく響く。
それはもはや、内藤に対して語るものというよりは、独白。
説得どころか自ら許しを請うような、そんな悲痛さをも含んでいた。
('A`)「俺のせいで…また、一人、優しい人が死んだよ」
('A`)「……俺が、死なせたんだ」
('A`)「俺なんかよりよほど苦しんで、助けを求めていたくせに」
('A`)「それなのに、俺を助けるために、傷ついて、苦しんで、死んでいった」
('A`)「その人はさ、酷いことをしたんだ、誰が聞いても、誰が見ても、悪いことをした」
('A`)「俺もその人を恨んだ、恨んで……憎んで、この手で、と……思ってた」
('A`)「悪者には、当然の報いがあるべきだって……そう信じていたよ」
233
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 19:41:15 ID:vp.cEk020
('A`)「だけど、この世には……どうやら悪者っていう概念は存在しないみたいでさ」
誰も彼もを救う正義のヒーローが居ないように。
誰も彼もが認める、やっつけられる悪者も、この世には存在していない。
優しいことも、正しいことも、悪いことも、悲しいことも、その全てに意味が、理由がある。
一つの目だけでは、決してその答えは出せないのだと。
('A`)「…もう、その人がどうなるべきだったのか…わからないんだ」
('A`)「だってさ、意味わかんないくらい、酷い目にあってたんだよ、とっくに…」
今も、覚えている。
孤独感も、恐怖も、そして………後悔も。
今すぐに自分を殺したいけど、その前にやるべき事があるからまだ生きる。
はやく ころしてしまいたい
らくに なりたい
そんな事を思いながら生きる時間は、今も思い出すたび泣きそうになる。
234
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 19:44:35 ID:vp.cEk020
そんな独白を聞きながら、ぼんやりと扉を眺めていた内藤は。
続く言葉に、胸を痛め、息を飲んだ。
('A`)「……ごめん、て言われたよ…」
('A`)「俺を助けておいて……ごめんだって」
('A`)「俺はまだ、ありがとうも言っていないのに…」
('A`)「……また守れなかった」
('A`)「……俺は、また、見殺しに……した」
('A`)「その人が、どれほど苦しんだのか……知ってしまったのに」
('A`)「何も……何もしてあげられなかった……」
('A`)「………俺は……悔しいよ……何も返せない事が、こんなにも辛くてしょうがない」
( ω )(………ああ)
( ω )(わか…る……お)
その悔しさも、後悔も、ごめんという言葉の痛みも、よく知っている。
だからその悔しさを力に変えようとした、でも駄目だった。
から回りしただけ、何も報いることができなかった。
235
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 19:47:23 ID:vp.cEk020
そしてついには全部こぼれ落ちてしまった、もう何も残っていない。
だから駄目だと、それでは駄目だったのだと内藤は目を伏せるが、言葉は尚も続く。
でも、と続く。
('A`)「最後にごめんって言ったのは、きっと『これまで』の全てにじゃない」
('A`)「『これから』を、共に進めない事に対して」
('A`)「そしてそれは俺たちの―――――『これから』を信じてくれているから、ごめんなんだ」
ふと、内藤は伏せていた顔を正面に向けた。
陰りに曇った瞳に、差し込む光が少しだけ映りこむ。
それは、夜明けの始まりを示すものだった。
(―――信じてるからさ)
( ω )「……これ……から……?」
236
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 19:49:27 ID:vp.cEk020
伝えてくれと言った、その言葉を、今になってようやく、飲み込んだ。
最後の最後に残したのは、願いや希望じゃなく。
頼みでも、託すでも、懇願でもなく。
ただ、何も不安はないとでも言うような。
そんな一言だった。
果たして彼は何を信じたのか?
内藤のことを?
内藤の何を?
これから。
その―――先(理想)を。
( ω )「………」
( ω )「………僕を、僕なんかを……信じて、くれたのかお」
( ω )「一緒に、歩けなくて、ごめん、て……そう…言ってくれたのかお」
237
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 19:51:59 ID:vp.cEk020
みんなと共に、歩いていく未来を。
けれど、今更だ。
どこに信じられる要素があるというのか。
誰が信じてくれるというのか。
今も立ち止まったままの自分を。
何もかもを失った、今の自分を。
それでも―――――。
('A`)「俺も、お前のこと信じてるから」
('A`)「だから今は先に行くよ、何をどれだけ失っても、消えないものがあるから」
('A`)「心が知ってる、言葉にすれば簡単でちっぽけな理由、『それでも』」
('A`)「俺たちが出会ったこの――"絆"は、何がどうなっても、無くなったり、しないんだから」
238
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 19:53:26 ID:vp.cEk020
( ω )(――――――………)
いつだってそう、一人で成し得たものなんてなかった。
積み上げたきた、誰かと。
紡いできたのだ、誰かと。
歩いてきたのだ、誰かと。
自分だけじゃない、みんなと、ここまで来たんだ。
それこそが―――――。
( ;ω;)(………ああ、あああ………)
( ;ω;)(……ジョルジュ…さん………僕は……許されても…いいんですか)
239
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 19:54:43 ID:vp.cEk020
( ;ω;)(みんなと、生きていく道を……選んでも、いいですか)
( ;ω;)(もう一度……その先を、目指しても、いいんですか)
( ;ω;)(まだ…………信じて……くれますか?)
朝陽が昇っていく。
窓から差し込んだ光に、舞う埃が反射して、まるで神聖な何かが光臨するよう。
そんな光が広がって、いつしか壁にかけられた剣に届いた。
黄金の装飾がされた、綺麗な柄の部分に反射して、きらりと眩しく。
ゆっくりと、内藤は手を触れた。
握り締めると、馴染んだ感触がした。
吐き気は、もうしなかった。
240
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 19:55:37 ID:vp.cEk020
( ω )「………瀬川」
( ^^ω)『………ああ』
( ω )「…………ごめん、瀬川……僕が、バカだったんだお」
( ^^ω)『……いいのか? また、繰り返すことになるかもしれんぞ』
( ^^ω)『奴の言うとおりだ、俺は……いや、この剣は、壊れている』
( ω )「それでも……」
( ^^ω)『今度こそ……次は無いかもしれんぞ』
( ω )「それでも、あの人が信じてくれた僕には、必要なんだ…!」
( ^ω^)「だから僕はお前を、この剣を信じるお、今度こそ……もう、間違えない」
剣を抜き放てば、相変わらずみすぼらしい外見の刀身が現れるが、
すぐに陽の光を浴びて、輝くような白銀の姿へと変わる。
同時に、脱力感が消え、力が漲ってくるのを内藤は感じた。
241
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 19:57:00 ID:vp.cEk020
( ^ω^)「これが、きっと最後だから」
( ^^ω)『わかった……なら、その前に一つ』
( ^^ω)『お前に、言っておかなければならない事がある』
( ^^ω)『内藤……お前は』
『この剣の管理者ではない』
……………。
242
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 19:57:38 ID:vp.cEk020
从;゚∀从「ぐぬぬ……」
( ^ω^)「この人、あんな声出すんだって目で見られてたお」
(;'A`)「あんなに驚かなくても……」
从;゚∀从「うっさいなー、知らずにあんなの見たら誰だってなー」
細長い、人が入るほど、どいうか入っている箱を運ぶ三人。
先ほど合流した際、ハインは中を覗いて濁点のつかない悲鳴をあげた。
付近のお仲間と思わしき白衣の人たちは、そんな様子にぎょっとしていた。
そうしてやってきたのは、街外れにある丘の上。
開けたその場所には、乱雑に石が並んでいたり、
石柱だったり石造だったりと、とにかく纏まりがないが、
どれも名前が彫られ、いくつもの枯れた花が見える。
その一角に、座り込む姿があった。
(;^ω^)「あ」
ひとまず箱をその場に置くと、内藤は二人に背を押されて前に出る。
最後に会った時は、なかなかに酷い別れ方をしてしまった。
なんて声をかけたらいいのか、戸惑いながらも近づいていく。
243
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 19:59:02 ID:vp.cEk020
(;^ω^)「デレ……その、隣、いいかお」
ζ(゚、゚*ζ「……どうぞ」
屈んで手を合わせる、その先には名が彫られた石碑がある。
チクリと痛みが走るが、目を閉じ今度は本当に祈った。
ζ(゚、゚*ζ「………私が、あなたに言ったのは」
ζ(゚、゚*ζ「ブーンに、怒ったのは……」
ζ(゚、゚*ζ「まるで……お兄ちゃんが、間違ってるみたいに、言ったからですよ」
( ^ω^)「………」
ζ(゚、゚*ζ「苦しみながら、悔やみながら、そう言いましたけど」
ζ(゚ー゚*ζ「お兄ちゃんの……表情、安心して、寝てるみたいでした」
ζ(゚、゚*ζ「それなのに……まるで、余計な事をされたように」
ζ(゚、゚*ζ「そして、その行為を……本当に、無意味な物にしようとした」
ζ(゚、゚*ζ「私はそれが………許せなかったんです」
( ω )(……ああ、そうか……)
244
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 20:01:17 ID:vp.cEk020
ζ(゚、゚*ζ「お兄ちゃんの事を……私は、信じたいんです、今度こそ」
ζ(゚ー゚*ζ「だからお願いします、その行為に、その心に、意味があったんだって」
ζ(゚ー゚*ζ「こうして祈る事しかできない私に、教えてください」
ζ(゚ー゚*ζ「お兄ちゃんのした事は、成すべきを成した、立派な行為だって」
( ω )(………本当に、僕は、何も見えてなかったんだな)
いつしか向き合っていた二人、内藤は深く頷いて。
( ^ω^)「約束する、証明してみせる……これだけは、違えない」
ζ(゚ー゚*ζ「…はい!」
もう一度、見失いかけたユメを追いかける決意をした。
これは強制じゃない、使命でもない、ただ、そうしたいから、
もう、英雄になる資格はなくても、それでも、こんな自分を見守ってくれるすべてのために。
みんなの、力になりたい。
空を見る、晴れやかな青空に雲が流れていく。
もう一度、誰にともなく頷いて。
245
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 20:03:09 ID:vp.cEk020
( ^ω^)「よし…行こうドクオ」
('A`)「おう!」
从;゚∀从「あ、いや……盛り上がってるとこ悪いんだけどさ……」
(;^ω^)「え?なに?」
从;゚∀从「実はその……移動、手段が……だな?」
从;゚∀从「雪風つくるのに珠も大量につかっちゃって、今ある陸船は全部……」
(;'A`)「…走れるのが無い、と?」
从;゚∀从「お、おう……」
(;^ω^)「じゃあ、今すぐ行かなきゃ!」
(;'A`)「ても、どうすんだ!?」
(;^ω^)「走っていくしかないでしょ!」
(;'A`)「マジか…」
(;^ω^)「とにかく、麓まで行けば……」
从;゚∀从「いやいや! 無理だって! 言ったろ、今回は陸船で強襲するって」
从;゚∀从「ほぼ全員で乗り込んで、拠点まで一点突破だ、走っても追いつけねぇよ!?」
246
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 20:05:00 ID:vp.cEk020
ζ(゚ー゚;ζ「そ、そんな……じゃあ、今こんなところに来てる場合じゃ」
从;゚∀从「いや、だって、まさか行く流れになるなんて思わなくて……」
ζ(゚ー゚;ζ「……? て、あれは何!?」
从;゚∀从「何だ今度は?」
ζ(゚ー゚;ζ「あそこ、今、木の間に何か大きいのが通り過ぎて…!」
从;゚∀从「は? どこに……うわ!?」
デレが指差す先、そこには確かに、何か大きな生き物が蠢いていた。
それはこちらを見つけるなり、地を蹴って向かってくる。
二人は悲鳴を上げ、見覚えのある姿にもう二人はあ、と驚いた。
(*'ω' *)「ぽひひひぃーーーん!!」
(;^ω^)「ぽっぽちゃん!?」
(;'A`)「馬!? しかもでかっ!」
内藤をあの要塞から連れ出し、そして麓で保護された際に別れた馬だった。
それが何故かこの場に現れ、内藤の側までやってくると小さく嘶いた。
(;^ω^)「ついて来ちゃったのかお……」
(;'A`)「あれ……珍しいな」
247
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 20:06:15 ID:vp.cEk020
ζ(゚ー゚;ζ「ななな、何なんですか! その生き物!?」
(;^ω^)「あれ、馬って知らないのかお?」
考えてもみれば、今までに移動手段というものを考えたとき、
動物という選択肢がなかった、その結果が、あの陸船という変わった形だ、
今更ながら不思議に思う内藤だったが、その答えは意外にもドクオの口から語られた。
('A`)「ほら、こっちだと接続で自然を操ったりするだろ」
('A`)「野生動物ってそういうの敏感だからさ、馬なんて特に、普通、寄り付かないんだよ」
( ^ω^)「へえ……」
( ^ω^)「ああ、そういえば……この子の飼主が言ってたお、特別な馬なんだって」
从;゚∀从「って、何でお前そんなこと知ってるんだよ」
('A`)「いや、まあ…色々と…」
そう言う間にも、ぽっぽは内藤の服のすそをくわえ、引っ張る素振りを見せる。
何かを訴えている、今も幾度と無く地を蹴り地均しをした。
(;^ω^)「もしかして……連れてってくれる、のかお?」
(*'ω' *)「ぽひん!!」
( ^ω^)「……この子は、僕なんかより余程賢いのかもしれないな」
(*'ω' *)「ぽ?」
248
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 20:07:02 ID:vp.cEk020
( ^ω^)「いや、ありがとうぽっぽちゃん、じゃあ頼んだお、一緒に行こう!!」
(*'ω' *)「ぽヒヒィーーーーン!!!!」
空に握った手のひらを突き出すと、応えるように馬が前足を上げて嘶いた。
とは言え手綱もないような自然な姿、二人どころか一人でも乗っていくのは無理がある、
急ぐとあらば尚のことだ、そこで動力を無くした船に軽量化を加え馬車の代わりを用意した。
そして、さてどうやって繋げればいいものか、と考えたところで、
ハインはそういえば、と倉庫の中に居る仲間の技術者に声をかける。
从 ゚∀从「昨日頼まれてたのってどうなってる?」
「できてますけど、あの人、忘れちゃったんですかね?」
「急ぎとか言ってたのになぁ」
从 ゚∀从「ああ、ちょっと持ってきてくれるか」
「ええ、どうぞ」
そうして渡されたのは、革製の太いベルトが三つ、ロープで繋がった奇妙な物だ。
引っ張り出せば、いくつもの金具や鉄の棒がカラカラと音を立てる。
249
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 20:08:12 ID:vp.cEk020
从 ゚∀从「……やっぱりそうだ」
(*'ω' *)「?」
(;^ω^)「あれ、これって、あの…馬車とか繋いでるやつ?」
( ^ω^)「なんだ、ちゃんとあるんじゃないかお」
从 ゚∀从「いや、これは―――」
从 ゚∀从「……まったく、素直じゃないねぇ」
('A`)「ほんとにな」
ζ(゚ー゚*ζ「そうですね」
(;^ω^)「?」
こうして出立ちの準備は整った、街の入り口まで見送る姿に手を振って、
二人と一匹は飛び出すようにして、その場を後にした。
見送る姿が徐々に小さくなっていく。
今度は前を見た。
思ったより速度が出ていることに脅えつつも、二人揃って前を向く。
250
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 20:09:42 ID:vp.cEk020
雪を文字通り蹴散らしながら走る背を眺めながら、
内藤はあの、宿で聞いた言葉を反芻する。
『お前は管理者ではない』
(;^ω^)「は? それは……」
(;^ω^)「……まだ、あの時のこと怒ってるのかお?」
『違う、そうじゃないんだ、もっとずっと前から』
『お前が最初にこの剣を手にした、あの瞬間から、ずっとだ』
(;^ω^)「いやいや、そんな、だって今までちゃんと…!」
『分かったんだ、思い出したんだよ』
『奴の言うとおりこの剣は壊れている、その原因は』
『俺だ、俺だったんだ』
『俺という存在が、この剣をおかしくしている』
『お前の言うとおりなんだ、俺さえ消えれば、お前は本当の――――』
251
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 20:10:11 ID:vp.cEk020
(;^ω^)「やめてくれお! 何馬鹿なこと言ってんだお!?」
『聞くんだ内藤、そしてもう一度願ってくれ、俺を……消してくれ』
(;^ω^)「嫌に決まってんだろ!? また僕にそんな真似させる気なのか!!」
『だが…このままでは、奴には!』
(#^ω^)「うるさい! 必要ないお、何が何でも僕達で勝つんだ!!」
『内藤…!』
( ゚ω゚)「アーアー聞こえなーい! ブロックブロックブロック」
『え、そんな―ア――――――』
………。
('A`)「ブーン?」
(;^ω^)「はっ、え? 何?」
252
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 20:11:12 ID:vp.cEk020
(;'A`)「いや、なんか急に遠くを見てるから何かと」
( ^ω^)「……や、大丈夫」
( ^ω^)「大丈夫だお……!」
瀬川が何かを思い出したのは、恐らくあの、ロマネスクとして生きた時間の中、
内藤自身も見たあの、見たことも無いような記憶によるものだろう。
今でも、おぼろげではあるが覚えている。
確かにロマネスクと共に戦っていた、相手は異様な姿の化物。
ただ、奴だけじゃない、何人もの人が一緒に戦っていた。
そこには、彼女の姿もあったように見えた。
あれは一体、どういうことなのだろう。
しかし何よりも、よく思い返してみれば、その視点はどこか変で、
側でというよりも、たとえるならば誰かの腕の先、そう、剣から見た世界のような。
そして自らの持つ、この黄金の柄をした剣が、違う名で呼ばれていたこと。
( ^ω^)(……セイオウケン)
253
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 20:12:10 ID:vp.cEk020
奴に勝つためには、その真の力が必要なのかもしれない、
だけどそれは、彼を消滅させる必要があるという。
そもそもそんな事ができるのかも定かではないが、迷いがあるのは事実だ。
これ以上何も失いたくはない、だけど、力が及ばなければ、
もっと沢山のものを失ってしまうかもしれない。
どちらにせよ、選択を迫られることはわかっていた。
しかし今はまだ、その答えを出すことができないまま、
巨馬に引かれた船が駆けていく、既に先を行ったものたちの元へ。
最後の戦場へ。
そして、最後の戦いの舞台へと。
つづく。
254
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 20:22:00 ID:vp.cEk020
特に意識してなかったけどDEENのひとりじゃないって曲の歌詞が、
ここまでの話にベストマッチしててヤベーイでした。
自分勝手に思い込んで裏目にでること、よくあるけど生きて生きたい今日より明日へ。
そんなお話の10話。
次回は11話になるか最終話になるか怪しいところ。
まだ未完成の区切ったシナリオが5つ、正直短いから纏めたら1、2話に収まりそう。
でも極限一閃ってタイトルかっこいいから使いたい、悩ましい。
あとはおまけというかエピローグではないエピローグがあるだけ。
長々続いたというか放置されてただけのこの話もついに完結しそう。
そんなわけで次はちょっとかかりそうですよ。
255
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 20:25:40 ID:elgOGm5I0
乙
完結まで毎日投下するのかと冷や冷やしてた
終わってしまうとなると寂しいな
続きも楽しみにしてる
256
:
名無しさん
:2018/07/12(木) 22:07:17 ID:Vouvhi4M0
乙
257
:
名無しさん
:2018/07/13(金) 20:11:40 ID:hTsutaC60
おいおい たまに覗いてみたら異世界の続きが読めるなんて ・・・
どんだけ待たすんだよ このオバカチン
帰ってきてくれてありがとう
続きを期待しまくる 乙おつ
258
:
名無しさん
:2018/07/14(土) 00:42:45 ID:shP/1BTc0
おい、遅えよバカ!
でも、お前最高だぜ
259
:
名無しさん
:2018/07/15(日) 17:46:18 ID:uvrg5PVs0
高校生の時にドクオが異世界で出会うようですにハマったオレも今年三十のおっさんですよ
まさか続きが読めるとは思えなかったお帰りなさい
260
:
名無しさん
:2018/07/16(月) 18:35:32 ID:rtAaltUg0
ざっくりいつくらいに次の投下できそうです?
261
:
名無しさん
:2018/07/17(火) 00:25:59 ID:s5wwmaHA0
うっわマジか完全に続きは諦めてたからすっごい嬉しい
もっかい読み直してから来るわ
262
:
名無しさん
:2018/07/20(金) 08:44:19 ID:b/fQdqV20
懐かしのと嬉しいので、おっぱいと覗きで気持ちが揺れてるブーンにツッコミ入れる
の忘れてたw
263
:
名無しさん
:2018/07/23(月) 02:06:21 ID:TnTgooV20
気がついたのが金曜この週末暇を見つけっては読み進めやっと追いついたぜ。
264
:
名無しさん
:2018/07/23(月) 02:38:26 ID:Z6grLVnY0
おいおいおいおい!!
異世界とか8年前ぶりやんけ!!
復活とか胸熱すぎるぜよ!!!!
超期待やで!!
265
:
名無しさん
:2018/07/25(水) 07:38:42 ID:wyjV0g4I0
おいおい復活とかマジかよ…!
266
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 21:41:26 ID:ODOo7f.g0
11ヶ「生まれゆく光」
陽が昇り、日差しもより強くなり始めた頃。
街道が続く荒野には、また大勢の人並みが列を成して歩いている。
そんな彼らの手元からは、剣や珠が燦然と日を反射して輝いていた。
目指す先はヒルト、その麓に集結しているという敵集団。
前回の争いにおいて、管理者含め被害は大きいものではあったが、今尚士気は高い。
なにせ結果だけを見れば敵は無様にも敗走した、数の点で言えば当然の事だ、
あれから更に管理者も増員し、体制は磐石、それぞれ最後となるのを感じながら前を向く。
じきに相手の姿も見えるだろう、また同じような人の垣根が現れる。
それが、これまでの定石、覚悟をしてきた戦場の光景だ。
しかしその日は、何処か様子が違った。
遥か遠い先に、何も居ないのだ。
大群である筈の姿が、どれだけ進み、どれだけ目を凝らそうとも見えてこない。
267
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 21:41:57 ID:ODOo7f.g0
いつしか、まるで決められていたように先頭をゆく者たちが足を止めた。
何故ならこれ以上進めば、人の生活圏に踏み込むことになる。
侵略や略奪、更には殺戮が目的ではない彼らにとって、
そもそも戦の決まりごとにおいても、集落や街中を戦場とするのは良しとされない。
特異な場合を除いて、公的に宣言したものは特に、示し合わせたように無人の荒野を選ぶ。
そして踏み込む時というのは、全てに決着がついたその時に。
今回もそんな伝統に則って、彼らは迎え撃つべく足を止めたのだ。
街道の先に、相変わらず人の姿は無い。
やがて進軍か待機かと、ざわめき立つ集団の中、一人が声を荒げた。
混乱、あるいは困惑ともとれる声だった。
示すのは街道の先、そこに大きな煙を上げながら大地を駆ける姿があった。
船である事は理解できるが、しかし感嘆と悲鳴の入り混じったような声が上がる。
何故なら周りの物と比較しても、明らかにサイズがおかしい、まるで走る城砦。
その陸船と思わしき存在から比べれば、木々はまるで道端の雑草のよう、
更によく見れば、船の上にはまた小さな影が大量に蠢いている。
268
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 21:42:36 ID:ODOo7f.g0
そしてその巨大な船が、真っ直ぐに自陣に向けて突っ込んでくるのだ。
あれが何であるかは最早関係なく、混乱はすぐに波紋のように広がっていく。
向かってくる姿に先頭をゆく集団はすぐさま散り散りに、そんな様を見た後方もまた同様に、
訳もわからないまま、釣られるように右往左往、戦列は瞬く間に崩れてしまう。
しかしすぐに号令が飛ぶ、声は言う、避けろと。
そして一切速度を落とすことなく船は、ついに彼らの目の前までやってきた。
まるで地震、土砂崩れを前にしたような感覚だった。
砂塵を巻き上げ、後部の煙突状の箇所から大量の煙を上げ、しかし帆を張り、
車輪の音は轟と鳴り、地面に深く大きな跡を残し、船が横切る。
だがすぐに通り過ぎることはなく、巨大過ぎる船体は中々尾を見せない。
いくつも並んだ巨大な車輪が通るたび、がたんたんと規則正しい音が鼓膜を叩く。
そしてようやく船尾を見送った頃、呆然とそれを眺める人々は、己が生に遅れて安堵すると共に、
あの船が敵国のものである事、そしてそんな彼らの向かった先が何処であるかを思い出し、
未だパニックを起こす後方へと呼びかけながら、その船の後を追いかけた。
269
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 21:43:37 ID:ODOo7f.g0
前回の戦いで自分達がそうしたように、目的は殲滅ではなく、
その中心となるもの、王とその居城の制圧にあるのだと叫び急ぐ。
だが船はその巨体にも関わらず、あまりにも速く、みるみる遠ざかっていく。
そんな奇妙な追いかけっことなった、追われる側。
船上では見下ろす光景に目を奪われながらも、大きな歓声を上げていた。
「こいつはやべーい!」
「すげーい!」
「ものすげーい!!」
<_フ*゚Д゚)フ「ははっ見ろよ、慌てふためきようったらないぜ」
( 凸)「そりゃそうだろ、こんな状況誰が想像できるよ」
( 凸)「ああ、バーニング、サンダーと来たらアイスもソードかと思ったらスケートだったみたいな」
( 凸)「バーニングアイスが極大消滅系かと思ったら対消滅オチだったみたいな」
火<_フ;゚ー゚)フ「そのカービィネタは分かり辛いんじゃねぇかな?」
('、`;川「ここまで来てもそのノリは続くのね」
火<_プー゚)フ「ま、余裕ってのは大事じゃん? なんつーか、それが俺らなりの覚悟みたいな」
270
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 21:44:26 ID:ODOo7f.g0
('、`*川「余裕があっても視野が狭くちゃ意味ないわね…うしろ見なさいよ、燃えてるわよ」
炎_フ;゚Д゚)フ「は? なn…ぶわちゃちゃちゃ! あっちぃーーーー!!」
( 凸)「おお、エクストのやつ燃えてんな」
( 凸)「これが 火属性付与(エンチャントファイア)…気合入りすぎだろ」
メ_フ;゚д゚)フ「死にそうなんですけど!?」
('、`*川「さあお遊びはそこまでにして、消化と迎撃用意、いいわね?」
<_プー゚)フ「ま、流石にすんなり通してはくれねーか……!」
甲板の際から見えるのは、流れていく景色と、いくつもの火球。
目下からはいくつもの発光と、駆動音に混ざって破裂音が響いていた。
混乱はあれども、その船が敵の操るものである事は明白であり、
ただ追いかけ、あるいは見逃すばかりではなく、早々に気付いたものたちは、
すぐさま迎撃の姿勢をとり、船を止めるべく攻撃を開始した。
とは言え船体は装甲に覆われているため、一度や二度の攻撃ではびくともしていない。
だが全てが防火されている訳ではなく、そこかしこに穴はある、
特に大きな存在は、大量の風珠を取り付けた巨大マスト。
これがやられたら大きく速度を落とすことになってしまう。
271
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 21:44:57 ID:ODOo7f.g0
と、そんな最中に大きく響き渡る声があった。
同時に、声の主が手にした剣を大きく振るえば、
降り注いでいた火球が、突風によってかき消されていく。
おお、というどよめき、視線は一点へと向かう。
ノパ⊿゚)「皆見えているな、ここは敵陣ど真ん中通り越して奥地だ」
ノパ⊿゚)「最早退路は無い、進み、この身果てるまで戦うのみ」
ノパ⊿゚)「だが、それも今回は、討ち倒すための戦いではない」
ノパ⊿゚)「これより我らの戦いとは、守ること、この船を―――その時が来るまで守り続ける事にある」
ノパ⊿゚)「皆も知っての通り、その時がいつ訪れるのかもわからない、終わり無きものとなるやもしれない」
ノパ⊿゚)「言わばこれより始まるのは、最後の消耗戦だ、どうあっても厳しい戦いになる」
ノパー゚)「―――けれど、王としてこれだけは達する、生き延びることを自覚しなさい」
ノパ⊿゚)「今ここに居るのは、これまで決して同じ道を歩んできたわけじゃない」
ノパ⊿゚)「異なる世界の者も、他国の者も、かつては争っていた者も、争いによって帰る場所を失った者すらも」
ノパ⊿゚)「そう、奇せずして集まった我らだが、こうして同じ先を見据えている」
272
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 21:46:56 ID:ODOo7f.g0
ノパ⊿゚)「誰の命令でも無い、各々の意思で、それを選んでここまで来た」
ノパ⊿゚)「彼の王には、世を纏め上げ平和を掲げる様は確かに正義であるのだろう」
ノパ⊿゚)「世界が何を望んでいるのか、そんなのものは私にはわからない」
ノパ⊿゚)「だが、その為に他を悪と断じ、世を、人をも手中にせんとする行為、私は許容できない」
ノパ⊿゚)「あの日、あの者が言った、我らは世界の希望なのだと」
ノパ⊿゚)「ならば我らは、真実を知るものとして、この世界に問わねばならない」
ノパ⊿゚)「続く世界に、人に、心に、問いかけ続けなければならない、その為に今はこの剣に全てを込めよう」
ノパ⊿゚)「生きること、目指すもの、明日を――各々が剣に誓いを立てよ!!」
ノパ⊿゚)「我らが剣は―――」
「「「「「 誓約の下に!!! 」」」」」
雄々しく叫んだ声が、大地を抉る轟音よりも強く響く。
幾度も掲げられた剣が、何度も何度も反射しては煌いた。
こうして船上にいるものたちの、最初の戦場が始まった。
273
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 21:48:33 ID:ODOo7f.g0
(´・ω・`)「上は盛り上がってますね」
ξ゚⊿゚)ξ「あの女、自国の問題を片付けるために小細工をしていたそうだが……」
ξ-⊿゚)ξ「最初からああしていればよかったのではないのか?」
(´・ω・`)「伝統的なものだったようですし、そう簡単じゃなかったんでしょう」
(´・ω・`)「それに……殷鑑遠からずってのも、あるかと」
_,
ξ゚⊿゚)ξ「なんだそれは?」
(´・ω・`)「僕らに会って、何か思う所があったんでしょうね、って話ですよ」
ξ゚⊿゚)ξ「まあ、何かしら覚悟を決めた人間の姿ではあるが」
それにしても、と続け。
ξ-⊿-)ξ「ここの女はどうにも肝の据わった者が多いな」
ξ゚⊿゚)ξ「なあ、そこのお前も、これから死地に向かうというのに随分と落ち着いたものじゃないか」
川 ゚ -゚)「…いや、そんな事はない」
川 ゚ -゚)「とても恐ろしいよ、ただ…」
布で巻かれた赤い剣の欠片を握り締め、唇には真っ直ぐな横線を描きながら、
時折感じる小さな振動と、遠くから響く人の声や破裂音、
そういった喧騒の中にありながら、真っ直ぐな目で、見つめ返す。
274
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 21:49:24 ID:ODOo7f.g0
川 ゚ -゚)「それ以上に……私でも、役に立てるかもしれないと思う気持ちが」
川 ゚ -゚)「色んな思いを少しだけ、上回っているんだと、思う」
ξ゚⊿゚)ξ「……そうか、いや愚問だったな」
ξ゚⊿゚)ξ「お前もまた、国家間に振り回されてきた口だったか」
彼女とて、一度は折れながらも、立ち上がった一人である。
特別な何かがあった訳じゃない、それでも歩き続けた果てに確立した意思がある。
きっかけは何だったのか、今となっては彼女自身も定かではない。
ただ、共にあろうとした少年が、誰かと重ねて居ただけのその者が、
いつしか彼女の中で本当の、本物になっていたこと。
そして懸命に生きようともがく人たちに触れ、広い世界に触れたことで、
遠い日に、彼に説かれた生きる意味が何なのか、同じ思いに至れた事こそが。
人が言う、強さとなって今の彼女を支えていた。
川 ゚ -゚)「それに、もう一度ドクオに会えたときに、ちゃんと言いたいんだ」
川 ゚ー゚)「もう、大丈夫だってな」
ξ-⊿-)ξ「やれやれ最後はノロケ話か」
川 ゚ -゚)「いけないのか?」
275
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 21:50:41 ID:ODOo7f.g0
ξ゚ー゚)ξ「いいや、そういう覚悟も嫌いじゃない」
(´・ω・`)「じゃあその為にも、段取りは覚えてるよね?」
川 ゚ -゚)「わかっている、大丈夫だ、これは……私だけの勇気じゃないのだから」
そして船は街道を行く。
いつしか攻撃の手は止み、追手を一時的でも撒いた頃。
ついに目的地である岩の城砦が、その姿を覗かせた。
大きな岩山に、いくつもの穴が空くシルエット。
正面には入り口を覆うようにして、木組みの城門が立ちはだかる。
だが船はお構い無しに進んでいく、速度に緩みは一切ないまま。
門付近には番兵が点在し、迫る船を見つけるなり慌てた様子で駆け回っていた。
突如として城門よりも大きな船が、あろうことか突撃してくるのだ、
対処法などあるはずも無く、どんどん迫ってくる大きな影を前にして、
すぐに退避の一手をたどることになった。
散り散りに逃げていく姿がある。
その合間を縫うようにして船はついに、城門への突撃を敢行した。
木組みの門は一瞬たりともその勢いを受け止めること叶わず、
ぶつかるなり大きく形を歪ませ、そのまま弾かれる様に吹き飛んだ。
いくつもの木端が宙を舞い、巻き起こる粉塵が周囲を埋めていく。
276
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 21:51:25 ID:ODOo7f.g0
砂煙を纏いながら、減速を始めた船が門と城砦の中央付近で動きを止めた。
そんな有様を眺める人々は、戸惑いながら遠巻きに、
なんだあれは、船なのか、大きすぎる、等と口々に漏らしている。
と、そんな煙の奥に、更なる変化が起きた。
影だ、それも大量の、巨大な船の周囲を埋め尽くさんばかりの影が、
今この瞬間にもその数を増やしながら、蠢いている。
そもそもが異様な光景だ、誰かは怪物が襲ってきたのかとも問う。
しかし続いて聞こえてきた声と、煙の合間に覗く帆に描かれた模様に、その正体を知る。
「あれは…ヒルトの…まさかこれは!?」
『進め!』
『制圧せよ!!』
雄々と叫ぶ声が、文字通りに轟く。
踏み抜く足が地を鳴らす。
現れたのは人の群れ、何百という数が一斉にその空間を埋めていく。
巨大船から比べれば、まるで虫の群れが溢れるような光景だ。
城砦に残っていたのは、最低限の人数のみ。
そんなおぞましくもおそろしい光景に、まともな抵抗を示せたのはほんの僅かであった。
277
:
名無しさん
:2018/07/27(金) 21:52:23 ID:ODOo7f.g0
('、`*川「門の制圧は完了したわ」
(´・ω・`)「敵の本隊はどう?」
('、`*川「もう見えているよ、衝突は時間の問題ね」
(´・ω・`)「うん、それじゃあ、次は船の防衛を、手筈通りに」
('、`*川「わかったわ」
<_プー゚)フ「門ぶっ壊したのは勿体無かったんじゃねぇかなー」
(´・ω・`)「……止め方、実は知らないんですよねぇ」
<_フ;゚ー゚)フ「そんな理由かよ!?」
ノパ⊿゚)「付近の詰め所もすぐに、と言いたいが何分多い、まだかかるな」
(´・ω・`)「充分です、一度集まってもらって……あとは……」
正面にある、一際大きな岩山の、その最上部を見上げる。
そこに、誰かが見下ろすように立っていた。
('、`;川「……あれを相手に…ツン、本当に一人で……」
(´・ω・`)「本人が大丈夫だって言うんだから、信じるしかない」
(´・ω・`)「それに、あくまで時間稼ぎなんだから」
ノパ⊿゚)「ああ、大体殺す気がないという輩の相手より、むしろこちらの方がよほど危険かもしれんぞ」
('、`*川「……そうね、それじゃあショボン君、私も行くわ」
(´・ω・`)「うん、日陽の件もよろしく……それと、なんだ、幸運と」
('、`*川「勝利を、ね、お互いに」
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