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余命一ヶ月の大魔王様
1
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 00:49:56 ID:5sRP9lVM0
この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
19
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:02:10 ID:5sRP9lVM0
大したことではない。ほんの少し注目を集めてしまっただけだ。
それでも嫌な思い出という奴は、いつまでたっても胸に残る。
アクセルを踏み込み、エンジンを吹かした。
七夕祭りの幟が排気ガスに蒔かれるのを確認すると
ようやく見つけた細い農道に強引に割り込み国道に出た。
渋滞に並ぶ車は未だに遅々として進まなかった。
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
20
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:02:42 ID:5sRP9lVM0
(-、-トソン
(-@∀@)「・・・・・・」
アパートの、僕の部屋の扉には
見知らぬ女性が寄りかかっていた。
パンツスーツには折り目が綺麗についている。
社会人一、二年目か、あるいは就活中の学生か。
いずれにせよ、僕よりさほど年は離れていないようだ。
ただし、見覚えはない。
(-、-トソン「う、う〜ん」
21
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:03:12 ID:5sRP9lVM0
'_
(-@∀@)、
(゚、゚トソン「あ」
一瞬息が詰まった。
赤みがかった瞳はこの国では物珍しくて
それ以上に、なぜだか不安に駆られた。
深く関わるのはやめた方が良いのかもしれない。
それが僕の、彼女に対する第一印象だった。
22
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:03:43 ID:5sRP9lVM0
(゚、゚;トソン「す、すいません! 私、疲れてて」
その人は焦った様子で首を振り、深々と頭を下げてくれた。
(-@∀@)「あ、いや、そんなお気になさらず。
まだ顔色悪いみたいですけど大丈夫ですか」
(゚、゚トソン「平気です。元々青白っぽい感じなので」
(;@∀@)「・・・・・・そうですか。とりあえずそこ、どいて」
(゚、゚トソン「ああ! はい、すいませんでした」
また頭を下げるその人を横目に、扉の鍵を差し込んだ。
まさか押し入ろうとしないよな、と怖々しながら振り向くと、
女性の赤みがかった双眸が僕の瞳の位置にあった。
23
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:04:27 ID:5sRP9lVM0
(;@∀@)「ひっ!」
(゚、゚トソン「・・・・・・」
悲鳴は確実に聞こえただろうに、女性は無反応でいる。
(-@∀@)「な、なんですか」
開きかけていた扉を強めに閉める。
僕と女性の背丈は近い。が、体格差はある。
万が一のときに備えて腕に力を込めた。
(゚、゚トソン「すいません、あの」
(-@∀@)「はい」
(゚、゚トソン「元気すぎません?」
24
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:05:00 ID:5sRP9lVM0
(;@∀@) ・・・・・・???
(゚、゚トソン「えっと、これ、聞いたらショックかもしれないんですが」
(゚、゚トソン「あなた、一ヶ月後に死にますよ」
(-@∀@)「・・・・・・はい」
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン「はい?」
(゚、゚;トソン「え?? 一ヶ月ですよ!?」
(-@∀@)「ちゃんと聞こえましたよ」
25
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:05:31 ID:5sRP9lVM0
(゚、゚;トソン「なんでそんなに冷静なんですか?」
(-@∀@)「そりゃあ、知ってるからですね」
(゚、゚;トソン「??? どういうことですか?」
(-@∀@)「ええと」
病気に関する事情はなるべく秘匿すべきことなのだろうか。
頭の中に過ぎる不安を感じながら、なるべく端的に、
呆けた様子の女性に対し、自分の病状を説明した。
26
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:06:08 ID:5sRP9lVM0
(゚、゚トソン「はー、死の花ですか」
感心した様子で女性は言った。
(-@∀@)「知ってました?」
(゚、゚トソン「いや全然。また随分変な病気が出てきましたね」
(-@∀@)「また?」
(-、-トソン「死の直前まで動ける病気。なるほどこりゃわからんわけだ」
首を傾げる僕を無視して女性は一人腕を組み、
十分わかったとでもいうように頷きを続けていた。
当然僕には何のことだかさっぱりわからない。
27
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:06:39 ID:5sRP9lVM0
(-@∀@)「で、あなたいったい何なんですか」
気持ち力を込めて、続けた。
(-@∀@)「突然余命のことを当てられて驚きましたけど、占いかなにかですかね。
だとしたら大したものだと思います。駅前で露天でも開いたら良さそうです。
でも今の僕は別に占いとかそういうの信じないんで。求めてないですので。
あ、まさか今占ったから支払えとかバカのこと言わないでくださいよね。
僕に用が無いんだったら早いところいなくなってください。はっきりいって迷惑」
(゚、゚トソン「あなたに会いに来たんですよ」
28
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:07:10 ID:5sRP9lVM0
(-@∀@)「は?」
(゚、゚トソン「申し遅れました。私、こういうものです」
スーツのポケットから掌サイズのケースを取り出し
小気味よい音とともに開く。中には名刺が詰まっていた。
そのうちの一枚が僕の胸もとにに突きつけられた。
┌───────────────────┐
│ 命の最期のお力添えを ..│
│ 収集運搬処分業(産業廃棄魂・一般廃棄魂)│
│ (株)フォーチュン・クーリエ ..│
│ │
│ 営業 兎村トソン ∩∩ ..│
│ USAGIMURA TOSON (・×・)<にゃあ.│
└───────────────────┘
29
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:07:57 ID:5sRP9lVM0
(-@∀@)「・・・・・・なんすかこれ」
ρ
(^、^トソン「あ、それですか〜、実はですね、これはですねえ、
うふふ、う・さ・ぎ なんですよお。かわいいでしょ」
(#@∀@)「ちっげーよ! 絵ピンポイントじゃねえよ、全部だよ全部!!」
(゚、゚;トソン「え、え、な、全部って言われても、どこから」
(-@∀@)「この、なに、おたく廃棄物業者ってこと?」
30
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:08:31 ID:5sRP9lVM0
(゚、゚トソン「いえ、廃棄魂業者です」
(-@∀@)「コン・・・・・・魂? タマシイ?」
(゚、゚トソン「ですです」
(-@∀@)□「あー、ほんとだ。魂だ」
(-@∀@)「・・・・・・ごめん、やっぱりよくわからないんだけど」
(゚、゚トソン「はあ、驚かせないようこっちの方式に則ったんですが、だめですか」
(-@∀@)「残念ながらいたずらにしか見えませんが」
31
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:09:06 ID:5sRP9lVM0
(゚、゚トソン「うーん」
(゚、゚トソン「じゃあ、もっとはっきり言います」
(゚、゚トソン「昔ながらの言い方をするなら」
(゚、゚トソン「死神です」
(-@∀@)
(-@∀@)「え、本気?」
(゚、゚トソン「残念ながら」
あなたはあと一ヶ月で死にます。
今日一日で何度も聞いた宣告をトソンは生真面目に繰り返した。
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
32
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:09:37 ID:5sRP9lVM0
(-@∀@)「いやだから死ぬことはもうわかったって」
伝えたいことがあるから、とトソンが散々いうものだから
最終的には勢いに負かされて、部屋の中に入れてしまった。
なるべく綺麗な座布団にトソンを座らせる。
他の座布団は黴びているため、僕は畳に直で座った。
(゚、゚トソン「なんか、すっきりした部屋ですね」
(-@∀@)「物欲がないもので」
六畳間の中央に卓袱台、壁際に箪笥と三段の本棚。
パソコン机に置いたノートパソコンは埃を被っている。
余計な物は置かない。掃除は時折で間に合っていた。
33
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:10:12 ID:5sRP9lVM0
淹れ立てのお茶を卓袱台の上に二つ並べると、
スマートフォンを充電器のケーブルに差し込んた。
(-@∀@)「で、話って?」
(゚、゚トソン「焦らないでくださいよ」
旦⊂
(#@∀@)
(^、^トソン「お茶、久しぶりなんですよ〜、嬉しいなあ」
旦⊂
ズズッ
34
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:10:43 ID:5sRP9lVM0
(-@∀@)
(-@∀@) ズズッ
つ旦
トソンは目を細めながらお茶を嗜み
会話らしい会話はまったく起きず
僕は静かに窓の外を眺めていた。
日はゆっくり沈んでいき、名残惜しげな夕空は、
トソンの瞳と同じような赤を最後に残して消えていった。
35
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:11:26 ID:5sRP9lVM0
夜になった。
街の灯りが遠くにずらっとならんで見える。
夏休みにはまだ早い、平日の七時過ぎ。
世間はまだまだ通常稼働だ。
(゚、゚トソン「朝日向さん」
(-@∀@)「名乗りましたっけ、僕?」
(゚、゚トソン「表札」
(-@∀@)「ああ」
36
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:11:58 ID:5sRP9lVM0
(゚、゚トソン「一日目が終わりましたね」
(-@∀@)「・・・・・・そうだね」
(゚、゚トソン「あと一ヶ月、何をして過ごすおつもりですか」
何も考えてない。
はっきり答えればそうなってしまう。
言い訳を考えても、頭の中は真っ白だ。
(-@∀@)「でもさ、実際何もできねえって」
37
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:12:28 ID:5sRP9lVM0
卓袱台に肘を突き立てると、貧弱な脚部が軋んだ。
頬杖になり、大きめに溜息を漏す僕に向かって、
トソンは湯吞を啜ったまま瞳をじっくり向けていた。
(-@∀@)「貯金を叩けば、そりゃそれなりに遊べるだろうけど
飲める込めるほどのことがあるわけじゃないですし
もうじき死ぬってのに遊ぶのも虚しさだらけじゃないですか」
(゚、゚トソン「そのわりには悲しんでもなさそうですけど」
(-@∀@)「悲しむだけの心残りがないんですよね」
38
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:13:07 ID:5sRP9lVM0
一人暮らしをして間もない頃は、意味もなく夜更けに歩いたこともあった。
遊びほうけるわけでもなく、酔っ払って足下のおぼつかない連中や
怒鳴ったり叫んだりしている輩を下に見ながら、音を聞いて歩いて進む。
楽しかったとはおぼろげながらに思うけど
何が楽しかったかと言われるとうまく答えられない。
誰にも親しくなれない自分を錯覚で慰めていただけだ。
(-@∀@)「ていうか、トソンさん死神なんですよね?
それって早回しできないんですか?」
39
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:13:43 ID:5sRP9lVM0
(゚、゚トソン「死を、ですか?」
(-@∀@)「ええ。もうなんか、一ヶ月も長いんですよ。正直」
仕事という居場所も捨てる。趣味の世界は元々ない。
何者でもない自分には、もはや何も残っていない。
だから。
(-@∀@)「廃棄してくれません? これ、もういらないんで」
40
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:14:13 ID:5sRP9lVM0
胸を指差しにやける俺に
(゚、゚トソン「無理ですね」
と、トソンは断じた。
(-@∀@)「死んでないからっすか?」
(゚、゚トソン「そうですね。無理に引き剥がすような力ないですし」
(-@∀@)「ふうん」
41
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:14:47 ID:5sRP9lVM0
だったら、と僕は立ち上がる。
鼓動がまた早まっている。
勢いつきすぎ、ふらつきながら、台所へ。
(゚、゚;トソン「朝日向さん!」
トソンは叫び、俺の裾を握った。
(-@∀@)「なんです、トソンさん」
(゚、゚;トソン「包丁は、痛いですよ。切腹だって介錯人がいるでしょ」
(-@∀@)「・・・・・・他に得物がないんですよね」
(゚、゚#トソン「だから、死のうとしないでくださいって!」
42
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:15:25 ID:5sRP9lVM0
トソンに引っ張られ、僕は畳に尻餅をついた。
鈍い痛みが腰のあたりに広がった。
(-@∀@)「いって・・・・・・」
(゚、゚#トソン「いいですか、自殺した魂は、汚いんですよ」
指を一本突き立てて、トソンは教え諭すような口調になった。
(゚、゚トソン「飛び降りてばらけたら魂も土地にばらけますし
自傷しまくったら死んだのに気づかず呻き続けるし
もう、本当に、錯乱した魂って汚くて嫌いなんですよ」
43
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:16:27 ID:5sRP9lVM0
(-、-トソン「それなのに仕事だから運ばなきゃいけないし。
はぁー、ほんとやだやだ。自殺大国の死神なんて」
(-@∀@)「なんだよ、自分のことばっかりじゃねえか」
(゚、゚トソン「へ? だから何です? それの何がいけないんです?
あ、もしかして死神が同情でもすると思ったんですか?」
(-@∀@)「……まあ」
(-、-トソン「バカバカしい。種族が違うのに同情なんて。
ゴミを捨てるときに別れを惜しんで泣く人がいます?」
44
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:17:04 ID:5sRP9lVM0
(-@∀@)「ゴミ、ね」
(゚、゚トソン「ですよ。だからせめて綺麗なゴミでいてください。
病死なんて本人の意志関係ないから最高でしてね。
とくに未練のないゴミはそれこそ珠のように綺麗で、うふふ」
微笑むトソンは両手を口元に寄せていたものだから
今なら突き飛ばして台所に駆け込むこともできたけど
気力も何も消えていて俺はぼーっと座ったままでいた。
45
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:18:02 ID:5sRP9lVM0
遠くで花火の音がする。
七夕祭りだろうか。
空は晴れわたっているけれど、
天の川は都会の灯りに薄れてしまっていた。
主役も見えないのに人間たちは勝手に騒いでいて、
今夜も夜遅くまで無駄にエネルギーをまき散らすのだろう。
(゚、゚トソン「だから、朝日向さん」
(゚、゚トソン「未練があったら言ってください。私がお手伝いしますよ」
46
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:18:30 ID:5sRP9lVM0
(-@∀@)「……いやだから、ねえって」
話を聞いてなかったのかこの人。
(^、^トソン「いやいや〜、そんな人いませんよ。
生きている限り、どこかに縁があるんです。
恨み辛みを掘り起こしてください。完璧な魂になりましょうよ」
(;@∀@)「んなこと言われてもなあ」
ないものはない。
47
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:19:02 ID:5sRP9lVM0
(゚、゚トソン「ていうか、本当に無いと私、やることないんですけど」
(-@∀@)「それでもいいんじゃないの? 別に」
(゚、゚;トソン「ええ〜、よくないですよ! せっかく久しぶりに顕現したのに」
(^、^トソン「あ、じゃあ私から提案してもいいですか? フランスのカタコンベ巡りとかどうで」
(-@∀@)「却下」
(゚、゚#トソン「……未練のない分際で嫌がるんですか?」
(#@∀@)「なんで未練ないだけで人格軽視されなきゃならないんでしょうねえ?」
48
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:19:51 ID:5sRP9lVM0
睨み合っているうちに、話が進めば良かったが、あいにくそんなことはなく。
トソンは飽きもせず俺を睨み続けていて、俺の方が先に疲れて目を逸らした。
何をやっているのだろう。
せっかく肩の荷が下りたのに、こんなところで疲れている。
人と、まあ違うんだろうけど、関わるのは
やっぱり疲れることだ。僕にはとことん向いてない。
何もするにも疲れていて、ほとんど思考停止のまま
コンセントの傍に放っておいたスマートフォンに手を伸ばした。
充電残量は七割ほど。そのままでいいか、と手を放す。
その瞬間、音が鳴った。
49
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:20:30 ID:5sRP9lVM0
(-@∀@)「え?」
低く呻くような音。
一瞬壊れたのかと思った。
あるいは怪しいウイルスとか。
ピンときて、トソンを振り向いたら、
(゚、゚トソン「うわ、なんですその音。趣味悪」
ほぼ同時に顔を顰められた。
(;@∀@)「着信音じゃねーよ! え、てかトソンも知らないの?」
50
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:21:03 ID:5sRP9lVM0
(゚、゚トソン「はあ?」
(-@∀@)「なんか、ポルターガイスト的なものかなと」
(゚、゚トソン「できなくもないけど、唐突すぎるでしょ」
(-@∀@)「……まあ、うん」
スマートフォンの画面を再度開く。
充電残量は表示されず、代わりに紅い大きな字。
スマートフォンの音は消した。
なのに音はまだ響いている。
部屋の外から、それはずっと聞こえてきている。
51
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:21:51 ID:5sRP9lVM0
(゚、゚トソン「警報っぽいですね。ここ、テレビないんですか?」
(-@∀@)「ないだろ見りゃわかんだろ」
(゚、゚#トソン イラッ
(-@∀@)「ちょっと待ってろ」
鍵を開けて、SNSを開く。
表示される文字はなだれのように進んでいっている。
警報を怖がる声、逃げる指示を出すコメントも。
(-@∀@)「これ、あれか」
52
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:22:20 ID:5sRP9lVM0
この島国から直線距離にして1,300キロメートル。
さほど遠くない、むしろ近くにある位置に、軍事的独裁国家のN国がある。
そのN国が時折開催する研究結果発表の余波を恐れての警報が、
数年前に何度か繰り返されていたた時期があった。
久しぶりなので忘れていたが、聞いているうちに記憶が蘇ってきた。
SNSの画面を消し、ニュースサイトを漁る。
有象無象のコメントよりは信頼が置けるのだろうそれらにも
大陸間弾道ミサイルだとかICBMだとか、不穏な文字が躍っていた。
ミサイルはすでにこの国の上空を飛び越えているらしい。
53
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:22:54 ID:5sRP9lVM0
(゚、゚トソン「ひゃあ、荒れてますねえ」
(-@∀@)「どうせ何も起きねえよ」
かつて、その警報が高らかに鳴り響いていたとき。
期待していた時期もあった。もう10年くらい前だろうか。
何かが起きて、世の中が騒ぎ出すのを夢想して
この世の秩序がどうにかなってしまえばいいと
勝手に願うだけ願い、何度も裏切られ続けてきた。
54
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:23:24 ID:5sRP9lVM0
今ではもちろん、思わない。
そんなこと口にできるはずもない。
常識のある大人はそういうことを
考えてはいけないと教え込まれてきたのだから。
(゚、゚トソン「……起きてほしいですか?」
トソンがぽつりと呟いた。
(-@∀@)「え?」
(゚、゚トソン「起きないって言いながら苛ついてるってことは、そういうことでしょ?」
55
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:24:00 ID:5sRP9lVM0
(;@∀@)「いやいや、何言ってんの、トソンさんww」
(-@∀@)「ジョーック、イッツジョーク、ジョークアベニューでーす、オーケー?」
(゚、゚トソン「欧米か」
(-@∀@)「ふっる」
(゚、゚トソン「てめえもだろ」
ニュースサイトを漁る指は、いつの間にか止まっていた。
目に映る文字を読み取るのに、集中力が注げない。
俺はトソンに今一度目を向けた。
(-@∀@)「え、できるの?」
56
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:24:39 ID:5sRP9lVM0
(゚、゚トソン「できますよ」
(-@∀@)「だよねー、できないよねー」
(-@∀@)「……は?」
(゚、゚#トソン「その『は?』っていうのやめてくれません?」
(-@∀@)
(-@∀@)「ごめん」
(-@∀@)「説明してもらっていい?」
57
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:25:19 ID:5sRP9lVM0
(゚、゚トソン「ええとですね」
(゚、゚トソン「私は死に向かう人の願いを叶えてあげられます」
(-@∀@)「ふんふん」
(゚、゚トソン「具体的に言えば五次元的に干渉するんですけど」
(-@∀@)「は?」
(゚、゚#トソン「おい」
(-@∀@)「ごめんごめん、うんうん五次元ね。ちょっとよくわからないから詳細どうぞ」
58
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:25:56 ID:5sRP9lVM0
(゚、゚トソン「まったく。つまりですね。
まず、四次元ってわかります?」
(-@∀@)「……空間に、時間の流れも含まれるとか、そんな感じ?」
(゚、゚トソン「ま〜〜、そんなもんか。ですよね〜〜〜」
(#@∀@)
(゚、゚トソン「わかるように言いますよ」
(゚、゚トソン「まずこの世界には、時間が一定方向に流れていますよね」
(-@∀@)「はい」
59
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:26:36 ID:5sRP9lVM0
(゚、゚トソン「通常私達は、四次元的に、つまり時間の流れがひとつの方向にのみ進んでいくんですけど」
(゚、゚トソン「五次元的には遡行が可能になります」
(-@∀@)「タイムリープ?」
(゚、゚トソン「まあそうですね。で、遡行が可能になると変化が起こせます」
(゚、゚トソン「ある特定の時間にある分岐点を観測可能になるんです」
(-@∀@)「……あ〜〜」
(-@∀@)「あのときああしておけばこうなったのになあ、的な?」
(゚、゚トソン「そうですそうです」
(-@∀@)「わかりづらっ!」
60
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:27:11 ID:5sRP9lVM0
(゚、゚#トソン「……続ける?」
(-@∀@)「すいませんでした」
(゚、゚トソン「はいはい」
(゚、゚トソン「で、五次元的干渉ってのは、その分岐点に干渉するんですね」
(゚、゚トソン「なので別方向に向かう時間の流れも観測可能になります」
(-@∀@)「並行世界?」
(゚、゚#トソン「そうで――今言おうとしたんですけど!?」
(-@∀@)「もういいよそれで」
(^、^トソン
61
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:27:48 ID:5sRP9lVM0
(゚、゚トソン「んでね、私は高次元にいるので、いくらでも分岐点に干渉可能です」
(゚、゚トソン「例えば100分の1の確率で起こることには、
99の類似する並行世界と1の特異な並行世界があるわけですけど
私の手に掛かればその1だけにすることができるんですよ」
(-@∀@)
(;@∀@)「えっ、待って」
(;@∀@)「それすっげえ怖くない?」
(゚、゚トソン「怖い? まあ、人間から見たらそうでしょうね」
(゚、゚トソン「運命が純粋だと信じているから、宗教みたいな精神安定剤が発達するんでしょうし」
62
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:28:25 ID:5sRP9lVM0
(;@∀@)「……え、なに? トソンって神なの?」
(゚、゚#トソン「死神だっつの」
(;@∀@)「へ、へえ……」
(゚、゚トソン「あ、ちなみに代償とか対価とか世知辛いものはないですよ」
(゚、゚トソン「神なので」
(;@∀@)「ふうん」
(゚、゚トソン「発動も、まあ、それが具体的に想像できればいけます」
(;@∀@)「うん」
63
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:29:28 ID:5sRP9lVM0
(゚、゚トソン「この能力でご奉仕します」
(;@∀@)「……」
(゚、゚トソン「運命全部、弄れます」
::(;@∀@)::
(゚、゚トソン「どうです?」
(^、^トソン
「これでもまだ、未練がないって言えますか?」
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
64
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:30:00 ID:5sRP9lVM0
たとえば将来の夢は何ですか、と
問われたとき、僕が思い浮かぶのは、
やっぱり小学校三年生の7月7日のことだ。
みんなの夢を短冊に書きましょう。
先生の号令にしたがって、休み時間にみんながこっそり筆を執った。
どうせあとで掲示されるのだから、隠したって意味はないだろうに
秘め事ってのは嬉しいらしくて、僕もみんなに倣って隠し続けた。
やがて七夕飾り用の竹が調達されてきて
先生が放課後に、みんなの短冊を飾ってくれた。
僕の短冊は、飾られなかった。
65
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:31:01 ID:5sRP9lVM0
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
(゚、゚トソン「――こんな具合で大丈夫ですか?」
スマートフォンの画面を閉じながら、説明を終えた僕は一息ついた。
(-@∀@)「正直、素人だからわからんけどさ。
確実に何かが起こると思うんだよね」
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
66
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:31:33 ID:5sRP9lVM0
僕の願い事は、先生の期待には添えなかった。
健全な小学生が願ってはいけないことだったらしい。
一人職員室に呼び出され、説教を垂れる先生の顔を
僕は見つめられなくて、ずっと俯いて震えていた。
ごめんなさい、と何百回繰り返して、先生の怒りが収まるのを待った。
その間、ずっと僕の手は握られたままだった。
あまりにもきつく握りしめていたものだから
爪の端が肉を切り、血に滲んでしまっていた。
67
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:32:14 ID:5sRP9lVM0
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
(-@∀@)「昔さ、歴史の教科書を見るのが好きだったんだよ」
(-@∀@)「あそこに載っている人たちって、自分の行いが後生に残ってるじゃん。
それがめっちゃ羨ましくてさ。僕もいつか影響を残したいって思ったんだよね」
(゚、゚トソン「何だかんだ言って、人って生き延びようとしますからね。
なるべく長く、深く、生きてきた証拠を残したいって」
(-@∀@)「嫌?」
(゚、゚トソン「だから、そういうの気にしなくていいですよ」
(^、^トソン「いずれにしろ、やることやった人の魂は綺麗です。
だから、やらないよりはやっちゃいましょうよ」
(-@∀@)「……へへ」
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
68
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:32:45 ID:5sRP9lVM0
僕は納得ができなかった。
願い事に正不正が決められていたことも嫌だったし
僕の願い事がばっさりと不正と決めつけられたのも嫌だった。
いつかの七夕祭りの日、飾られている短冊に目を通すと
自分と同じような願い事を書いた人がやっぱりいて、
しかも結構な数存在していて、理不尽に思ったものだ。
僕は間違っていない。
その思いは今でも変わっていない。
ただ、忘れていただけだ。
69
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:33:55 ID:5sRP9lVM0
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
(-@∀@)「それじゃ、トソン」
(゚、゚トソン「はいはい」
トソンは頭に両手を載せた。
大袈裟な正解のマークのような、巫山戯た姿勢を
僕はもう笑えなかった。
一番速くニュースが届くのはSNSだ。
だからスマートフォンをそこに会わせ、文字を目で追っていった。
反応は、動画付きのコメントによってすぐにわかった。
朝焼けの静かな空に、一閃。
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
70
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:34:30 ID:5sRP9lVM0
ヽ,.
ヽ.
..\
...\
. ヽ.
ヽ,.
.\.
\
\
ヽ.
ヽ,.
、
..ヽ,
ヽ
. ヽ
.ヽ
ヽ
ヽ
ヽ
.ヽ
__ヽ__
`、、゛、
’--
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
71
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:35:33 ID:5sRP9lVM0
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
20XX 7/7
N国の発射した大陸間弾道ミサイルがA国西海岸に着弾。
過去最高威力の核爆発を観測。
死傷者XX万XXXX 放射能拡散地域XXXXkm^2
着弾から30分後、A国、N国に宣戦布告する。
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
72
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:36:14 ID:5sRP9lVM0
僕の夢は、たった一言。
┏━━━━━ ┓
┃ 世 ┃
┃ 界 ┃
┃ 征 ┃
┃ 服 ┃
┃ し ┃
┃ た ┃
┃ い ┃
┃朝 ┃
┃日 ┃
┃向 ┃
┃守 ┃
┃良 ┃
┗━━━━━ ┛
それがこの世の未練だと、僕は信じることにした。
73
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:37:30 ID:5sRP9lVM0
第一話 降臨
終
74
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 01:39:32 ID:5sRP9lVM0
紅白投下作品の反応が芳しくなさそうなのがつらくてつらくてしかたなく
悲しみと怒りとなけなしのダウナーを盛り込んで書きました。即興です。
続きはこれから考える。それじゃ。
75
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 02:24:09 ID:dyk8HXnI0
乙。続き気になる楽しみにしてる
76
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 07:25:06 ID:6FQ2aB7I0
乙
はよ!!!!
77
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 19:56:14 ID:WOMS5nJAO
めっちゃ好き
78
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 20:20:12 ID:kb1.q1GA0
乙
79
:
名無しさん
:2017/09/11(月) 20:38:11 ID:UwyHSwG.0
面白いぞ安心したまへ
80
:
名無しさん
:2017/09/12(火) 01:24:31 ID:pJN0iO/s0
これは楽しみ
81
:
第二話
:2017/09/14(木) 21:53:20 ID:YYGpB8GA0
※※※
あなたは18歳以上ですか
はい いいえ
↓ ↓
↓ ↓
↓
https://www.yahoo.co.jp
↓
↓
↓
82
:
第二話
:2017/09/14(木) 21:54:24 ID:YYGpB8GA0
(´・_ゝ・`)「ふうん、難病ね」
(-@∀@)「はい。手紙のとおりです」
(´・_ゝ・`)「久しぶりに顔を出したかと思ったら」
(´-_ゝ-`)「ご冥福を」
(-@∀@)「それは死んだときですよ」
(´・_ゝ・`)「わざとだよ、わかれよ」
(-@∀@)「はは、すいませんでした。察し悪くて」
83
:
第二話
:2017/09/14(木) 21:55:21 ID:YYGpB8GA0
(´・_ゝ・`)「で、仕事の方はどうなの」
(-@∀@)「辞めるんですよ?」
(´・_ゝ・`)「ちげえよ、どれだけ残ってるのかってこと」
(-@∀@)「ああそれですか。引継ぎ書類作ってありますんで」
(´・_ゝ・`)「後任は?」
(-@∀@)「木戸貢男くんに話してあります」
(´・_ゝ・`)「あの新人か」
(-@∀@)「二年目ですよ」
84
:
第二話
:2017/09/14(木) 21:56:12 ID:YYGpB8GA0
(´・_ゝ・`)「手早いな」
(-@∀@)「入院中もSNSのメッセージは送れましたからね」
(´・_ゝ・`)「そんなに元気なら仕事できるだろ」
(-@∀@)ゞ「いやあ、みすみす命縮めたくないですわ。はは」
(´・_ゝ・`)「仕事辞めて何するんだ?」
(-@∀@)「それ聞いてどうするんですか」
85
:
第二話
:2017/09/14(木) 21:56:47 ID:YYGpB8GA0
(-@∀@)「関係ないですよね? 室長とは」
(-@∀@)「もう二度と会うこともないんでしょうし」
(-@∀@)「プライバシーの侵害だって言いふらしても」
(´・_ゝ・`)「雑談だよ、わかれよ」
(-@∀@)「ああ、すいませんでした。察しが悪くて」
(´・_ゝ・`)「君は結局物覚えが悪いままだったね」
(-@∀@)「ええ、すいませんでした」
86
:
第二話
:2017/09/14(木) 21:57:20 ID:YYGpB8GA0
(´・_ゝ・`)「協調性もないし」
(-@∀@)「まったく」
(´・_ゝ・`)「やる気も感じられなかった」
(-@∀@)「だと思います、自分でも」
(´・_ゝ・`)「……言いたいことわかる?」
(-@∀@)「辞めてほしかったって言ってるように聞こえますね」
(´・_ゝ・`)「……」
87
:
第二話
:2017/09/14(木) 21:58:00 ID:YYGpB8GA0
(-@∀@)「良かったじゃないですか、思い通りになったでしょ?」
(-@∀@)「これからどうぞ、よりよい職場を作ってくださいな」
(-@∀@)「僕はここにいたことを完全に記憶から抹消するんで」
(´-_ゝ-`) =3
(´・_ゝ・`)「恥ずかしい男だ」
(-@∀@)「そうでしょうね」
88
:
第二話
:2017/09/14(木) 21:58:58 ID:YYGpB8GA0
(´・_ゝ・`)「もういいよ、僕は君のことが嫌いだ」
(´・_ゝ・`)「調べたわけじゃないけど、多分同僚もみんな嫌いだ」
(´・_ゝ・`)「二度と私達の前に現われないでくれ」
(-@∀@)「言われなくてもこっちから
(´・_ゝ・`)「と、言われれば嬉しいのか?」
(-@∀@)「……」
(´・_ゝ・`)「嬉しいんだろ?」
89
:
第二話
:2017/09/14(木) 21:59:41 ID:YYGpB8GA0
(-@∀@)「……」
(´・_ゝ・`)「だんまりか」
(´・_ゝ・`)「まあいい」
(´・_ゝ・`)「被虐嗜好をまき散らすのも好きにすれば良い」
(´・_ゝ・`)「ここはもう君の居場所ではない」
(´・_ゝ・`)「どこへでもいけ」
(-@∀@)「……さっきと同じ事言ってますよね?」
(´・_ゝ・`)「そうだっけ?」
90
:
第二話
:2017/09/14(木) 22:00:18 ID:YYGpB8GA0
(-@∀@)「大した中身もないのに人のこと貶すとか」
(-@∀@)「最低だと思うんですが」
(´-_ゝ-`)「はいはい」
(-@∀@)「社会が許しませんよ」
(´-_ゝ-`)「ふうん、そう」
(´-_ゝ-`)「怖いね」
91
:
第二話
:2017/09/14(木) 22:00:48 ID:YYGpB8GA0
(-@∀@)「でしょう?」
(´-_ゝ-`)「帰れ」
(-@∀@)「言われなくても僕は」
(´・_ゝ・`)「黙って帰れよ、クズ」
(-@∀@)「……」
92
:
第二話
:2017/09/14(木) 22:01:30 ID:YYGpB8GA0
面接試験のとき、志望動機を訊かれなかった。
必ず訊かれるものだと思っていた僕は拍子抜けして
適当な受け答えを繰り返し、過去を捏造してことなきを得た。
もしも質問されていたら、きっと口ごもってしまっていただろう。
想定問答はしていたものの、抽象性は脱却できなかった。
つまりは大した夢もないまま、L県庁に勤め始めた。
配属されたのは環境整備課だった。
大学時代に環境行政の単位を取得していたことと
県西部の川の保全活動に参加したことが功を奏したのだろう。
93
:
第二話
:2017/09/14(木) 22:02:57 ID:YYGpB8GA0
田舎にいって自然の保護活動を支援したり
都心で自然の再生や緑地活動でもできればいいな、と
軽い気持ちでいたのだが、実際に任されたのは廃棄物処理関係業務だった。
許可証の発行はもちろん、不法投棄の業者の取り締まりも主に扱い
事前防止としてのヒアリングに県内部をぐるぐる巡ることも多かった。
制度自体が不明瞭なこともあり、調整会議がほとんど毎週開かれ、
土地の権力者と結託したヤクザみたいな連中に怒鳴り込まれたりもした。
94
:
第二話
:2017/09/14(木) 22:03:55 ID:YYGpB8GA0
疲労の原因は外部だけじゃない。
中にいる人間たちだって歪んでいる。
今日、改めて中に入り、見渡せば
濁った目をした半笑いの顔ばかり。
正視しなければ面倒事を避けられる。
余裕を見せれば周りを安心させられる。
だからこその半笑いだ。
95
:
第二話
:2017/09/14(木) 22:04:49 ID:YYGpB8GA0
その気持ち自体は、実は僕にもよくわかる。
僕だってきっと同じ顔をしていたのだろう。
この灰色の庁舎の中にて業務するうえで、
それが一番効率の良いスタイルだから。
僕は仕事で倒れたわけじゃない。
でも倒れた先輩はすでに何人も見てきた。
奉仕の精神などという幻想はとっくの昔に破れていた。
96
:
第二話
:2017/09/14(木) 22:05:24 ID:YYGpB8GA0
せめて緑の近くがいいと、願った僕に与えられたのは
ゴミを捨てる権利の付与と剥奪、再交付に監視取り締まり。
実感はなく、すべては書類のうえで行われる。
時間の流れで揺らぐ日光くらいしか、感じられる自然はない。
そうして気がつけば五年も経っていた。
椅子に座り続け、腹には無駄に贅肉が溜った。
それ以外に何も得られたものはない。
考えれば考えるほど、本当に、何もない。
97
:
第二話
:2017/09/14(木) 22:06:07 ID:YYGpB8GA0
車は庁舎脇の駐車場に止めてあった。
エンジンは稼働している。クーラーが効いているのだ。
車内ではトソンがうつろな目をしていた。
(-@∀@)「おい、起きろ」
(-、-トソン「んー、まだ朝には早いはず」
(-@∀@)「昼過ぎだっつの、起きろ。降りるぞ」
(-、-トソン「ふぇ?」
鍵を開け、トソンをつまみ出すと、強引に腕を引いて高架下を歩き進めた。
98
:
第二話
:2017/09/14(木) 22:07:00 ID:YYGpB8GA0
(゚、゚トソン「どこにいくんですかー?」
(-@∀@)「駅」
(゚、゚トソン「遠出?」
(-@∀@)「ん、そのまま帰りたくなくて」
行き先は首都だ。
二十分もあれば到着できる。
99
:
第二話
:2017/09/14(木) 22:07:36 ID:YYGpB8GA0
入庁して間もない頃は、仕事で嫌なことがあるたびに
週末電車で首都に降り、夜通し遊び歩いたりもした。
体力が衰えて、ついでに金のありがたみがわかるにつれて
目的のない、無駄な遠出は次第にしなくなっていった。
(゚、゚トソン「……」
(^、^トソン
(-@∀@)「なんだよ、声も出さずに笑いやがって」
(^、^トソン「いやあ、だって」
100
:
第二話
:2017/09/14(木) 22:08:15 ID:YYGpB8GA0
(^、^トソン「遊びに行くなら一人でいいじゃないですか」
(^、^トソン「それをわざわざ私を起こして連れて行くなんて、いやあ」
(-@∀@)「……」
(-@∀@) =3
(^、^トソン ?
(#@∀@)「ガソリンがもったいないからに決まってんだろーがバーカ!!!」
...(゚、゚;トソ>⊂(#@∀@)「もっとキビキビ歩けコラ」
「痛い痛い、それは痛い」
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
101
:
第二話
:2017/09/14(木) 22:09:01 ID:YYGpB8GA0
7月8日
N国軍、南に隣接したK国へ侵攻開始。
大延坪島周辺にて大規模な戦闘が発生する。
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
102
:
第二話
:2017/09/14(木) 22:11:14 ID:YYGpB8GA0
ミセ*゚ー゚)リ「おにーさーん」
首都の繁華な駅前で、甲高い声に呼び止められた。
制服姿の女の子が明るい笑顔で僕を見ていた。
(-@∀@)「僕ですか?」
ミセ*゚ー゚)リ「そです。ちょっとお時間ありません?」
(-@∀@)「……何の用でしょう」
ミセ*゚ー゚)リ「えっとお、お見かけしたときビビッときちゃったんですけど」
喋りながら女子は片手で素早くスマートフォンを操作した。
ミセ*゚ー゚)リ「こういうの興味ありません?」
103
:
第二話
:2017/09/14(木) 22:11:46 ID:YYGpB8GA0
見せてくれた画面には、30分、1時間、2時間以上、それに対する価格の羅列。
オプション欄には手つなぎ、腕組み、写真撮影、マッサージ、カラオケ・漫画喫茶などが続く。
(-@∀@)「マッサージとかどこでするんですかww」
ミセ*゚ー゚)リ「え? どこでしょー、お客さん次第ですよそこは」
(-@∀@)「へえ」
ミセ*゚ー゚)リ「あ、興味出ちゃった感じですか? そう捉えてだいじょぶですか?」
104
:
第二話
:2017/09/14(木) 22:12:49 ID:YYGpB8GA0
(-@∀@)「…………」
(゚、゚トソン「良さそうじゃないですか、セッk」
(-@∀@)「あ゛あ゛ーーーーー!! こんなところで言うなバカ!」
ミセ;゚ー゚)リ !?
ミセ;゚ー゚)リ「あ、お連れさんいた感じ、っすか? すいませ」
(-@∀@)「あー、気にすることないよ」
105
:
第二話
:2017/09/14(木) 22:13:49 ID:YYGpB8GA0
(@∀@-)「な?」
(゚、゚トソン「はいはい」
ミセ*゚ー゚)リ ???
(゚、゚トソン「別に興味ないですし」
(゚、゚トソン「わたし適当に散策して部屋戻ってるんで」
(-@∀@)「鍵要る?」
(゚、゚トソン「いやいいですよ。頃合い見計らいます」
(^、^トソン「だから気にせず、楽しんで」
106
:
第二話
:2017/09/14(木) 22:14:23 ID:YYGpB8GA0
心底嬉しそうな顔でトソンは遠ざかっていった。
思い通り、とでも言いたげな様子が癪だったけど
今は気にしないこととする。
(-@∀@)「前払い?」
ミセ*゚ー゚)リ「あ、はい! そうですね〜」
財布から万札をいくらか、数も碌に数えずに渡した。
ミセ;゚ー゚)リ「へ? こんなにですか!?」
107
:
第二話
:2017/09/14(木) 22:14:59 ID:YYGpB8GA0
(-@∀@)「大丈夫、金ならある」
(-@∀@)「さっきパチンコで50万稼いだから」
ミセ;゚ー゚)リ「マジで!!?」
(-@∀@)「叫ぶのやめて」
ミセ;゚ー゚)リ「あう……」
ミセ;゚ー゚)リ「でもこのお金、オプション全載せしてやっとなんですけど」
108
:
第二話
:2017/09/14(木) 22:16:08 ID:YYGpB8GA0
ミセ;゚ー゚)リ「ぶっちゃけ疲れるというか、もうちょっと絞りたいなあ〜なんて」
(-@∀@)「一カ所でいいよ」
ミセ*゚ー゚)リ「えっ」
(-@∀@)「良い部屋取るから」
ミセ*゚ー゚)リ「あ〜〜〜……」
109
:
第二話
:2017/09/14(木) 22:16:38 ID:YYGpB8GA0
ミセ*゚ー゚)リ「あのでも、制服っぽいままだとまずいですかね」
(-@∀@)「買うよ、服」
ミセ*゚ー゚)リ「マジで!!?」
(-@∀@)「やめてって」
彼女は名前をミセリと名乗った。
好きな映画からつけた名だという。
110
:
第二話
:2017/09/14(木) 22:17:15 ID:YYGpB8GA0
服飾のことは僕にはさっぱりわからないので全ての判断を彼女に任せた。
ホテルの料金だとか、JKビジネスのオプション料金だとかよりも
はるかに多い金額が湯水のごとく支払われていく。
恐怖を感じ、最終的には途中で止めさせた。
ミセ*゚ー゚)リ「これでも十分だよ、ありがとっ」
やたらに波打つ薄手のブラウスに、花弁のような短いスカート。
金の掛かる服の価値は、僕にはわからないけれど
腕を組んでみたら、びっくりするくらい優しい触感を味わった。
軍資金はすでに半分になっていた。
111
:
第二話
:2017/09/14(木) 22:17:58 ID:YYGpB8GA0
(-@∀@)「マジかよ……」
ミセ*^ー^)リ 〜♪
駅から延びる大通りの喧噪から離れ、路地をいくつか折れ曲がった。
スマートフォンで検索すれば情報は洪水のように押し寄せてくる。
料金単価を気にする必要もなく、むしろ普通よりも高めの場所を選んだ。
長めに時間を設定して、渡されたカードキーを頼りに部屋に入る。
何の変哲もない一室は、淡いオレンジの光に満ちていた。
112
:
第二話
:2017/09/14(木) 22:18:38 ID:YYGpB8GA0
ミセ*^ー^)リ「よっしゃー! 補導されなかった!」
甲高い声を上げながらミセリはダブルベッドに横から飛び込んだ。
翻ったシーツに早速皺が刻まれていく。
(-@∀@)「……靴くらい脱ぎなよ」
ミセ*゚ー゚)リ「え〜、いいよこのままで。面倒だもん」
ミセ*^ー^)リ「おにーさん溜ってたんでしょ? 焦らさない方がいいよ」
113
:
第二話
:2017/09/14(木) 22:19:10 ID:YYGpB8GA0
ミセリは僕を招き入れるように両腕を広げた。薄目の奥で瞳が光る。
つり上がった薄い唇の透き間から、尖った歯先の並ぶのが見えた。
(-@∀@)
(-@∀@)「それじゃ、遠慮なく」
片膝をベッドの端に載せ、力を込めてもう一方の膝も載せる。
座高の分だけ影が生まれ、ミセリの全身を覆い尽くした。
ミセリは目を見開かせた。
上気した頬に赤みが差している。
114
:
第二話
:2017/09/14(木) 22:20:09 ID:YYGpB8GA0
初めてではないのだろう。
冷めた感想を喉の奥に仕舞い
彼女の細く小さな左肩に手をかけた。
ミセ*゚ー゚)リ 〜♪
小刻みな鼻歌を彼女は弾ませる。
艶の乗った唇に舌がちらりと顔を見せた。
彼女は笑っている。
何の含みもなく衒いもなく
僕に相対するその顔目がけて
僕は思い切り平手を張った。
115
:
第二話
:2017/09/14(木) 22:20:46 ID:YYGpB8GA0
鼻歌は唐突に途切れる。
僕が無理矢理横に向かせた頬が
先ほどまでとは別の意味で赤みを帯びていく。
'つ д )リ「……え?」
困惑に揺らいだ瞳で彼女は僕を見つめ返した。
歪んだ口に無理に笑みを浮かべる彼女の
漸進的な変化を僕はじっくり観察した。
116
:
第二話
:2017/09/14(木) 22:21:21 ID:YYGpB8GA0
ミセ;゚ー゚)リ「な、なに? どうかした? 何かその、嫌だったり?」
(-@∀@)「うん」
ミセ;゚ー゚)リ「えと、どこかな? ごめん、ちょっとよくわからなくt」
舌の先っぽが歯先に見えたとき、僕はまた彼女を叩いた。
今度は彼女も素早く身をひいて、頬を狙ったのに鼻を掠めて終わってしまった。
117
:
第二話
:2017/09/14(木) 22:22:18 ID:YYGpB8GA0
ミセ;゚д゚)リ「ちょ、なんなの!?」
ミセリがベッドの上に立とうとしたので
僕はその骨張った腕を強く握った。
ミセ;゚д゚)リ「ひっ」
また甲高い声が聞こえてきそうだった。
だから力強く腕を引き、倒れた彼女の上に乗った。
118
:
第二話
:2017/09/14(木) 22:22:58 ID:YYGpB8GA0
叫ぶこともできたはずだが
彼女は喘ぐだけでいてくれた。
(-@∀@)「君さあ」
あんまり脅すつもりもないので、なるべく普通の声色にした。
もっともそんな器用な真似ができるわけじゃない。
なおさら怖がらせてしまったなら申し訳ない。
別にどうこうなるわけじゃないが。
(-@∀@)「なんで僕に声をかけたの?」
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