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ξ゚⊿゚)ξ物語の終わりかたのようです
1
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 21:27:31 ID:f7zg8F5c0
ツンちゃんはむかし、勇者だった。
.
65
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 22:46:50 ID:f7zg8F5c0
ツンちゃんが本当は、誰が好きかを知っていた。
ツンちゃんは、西川くんのことを決して好きと言おうとしない。
西川くんのことを話しながら、口にしているのは別の誰かのことだ。
ツンちゃんの浮かべる表情は、別の誰かを思う顔と同じだ。
ブーン。
あちら側の世界の、こちら側にはいない人。
やさしくって、人に何を言われても笑っている。
おっとりとしているけど、誰より周りのこと見てて。自分は損ばっかりしてる。
……それは西川くんじゃなくて、ブーンのことだ。
ツンちゃんは西川くんを通して、ブーンくんを見ている。
腕輪を握って自分を支えるように、西川くんを見てほっとしているだけだ。
だけど、それを私は言わない。
66
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 22:48:45 ID:f7zg8F5c0
('、`*川「だったら、好きになっちゃってもいいの」
ξ゚⊿゚)ξ「そう、なのかな? ……いいの、かな?」
ツンちゃんは腕輪を、ぎゅっと握っている。
揺れている。弱気になっている。その顔は、泣きそうに頼りない。
ツンちゃんはいつだって、強くてかっこいい勇者で、綺麗なお姫様でいてほしいのに、いつだって世界は残酷だ。
ξ゚⊿゚)ξ「あたし、あっちのことをもう諦めてもいいのかな」
('、`*川「ツンちゃんは、楽になったっていいと思う」
ξ゚⊿゚)ξ「好きになってもいいのかな……」
ツンちゃんは、もう諦めると言った。だけど、諦められてはいなかった。
ツンちゃんは、気になる人ができたと言った。だけど、その人を通して、別の人を見ていた。
諦められない、忘れられない。
それを知っていて。それでも、諦めるのだと、別の人が気になるのだと、今日はじめて口にした。
それはツンちゃんにとって、こちら側の世界を受け入れる決意表明みたいなものだったのだろう。
67
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 22:49:37 ID:f7zg8F5c0
ツンちゃんは傷つきながら、前に進もうとしていている。
だとしたら私は、たとえ嘘をついてでも、それを支えるだけだ。
それがツンちゃんの背中を押すこともできない弱虫で嘘つきな私のできる、唯一の手助けだ。
私がツンちゃんのたった一人の友だちじゃなくなるのだとしても、私はやらなきゃいけない。
……ああ、この綺麗な理由が最初から、出てくればよかったのに。
やっぱり私は自分勝手なひどいやつだ。
ツンちゃんのように綺麗には、私はなれない。
('、`*川「いいのいいの! そんなこと言われたら、私なんてどうなの?
好きになってはフラれの、悲しい無限ループよ。
好きになった人だけで、山ができるわ。誰も彼氏になってくれなかったけど……」
ξ゚⊿゚)ξ「……もう、」
('、`*川「で、西川くんはどうなの? かっこいいんでしょ?」
ξ;゚⊿゚)ξ「かっこいいって言うよりは……えっと、やさしそうっていう感じ?」
ツンちゃんは、口ごもりながらも西川くんとやらについて話してくれる。
今は似ているだけでも、ツンちゃんが西川くんのことを気にしているのは本当だ。
このまま何の邪魔もなければ、ツンちゃんはきっと彼に恋をする。
68
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 22:50:09 ID:f7zg8F5c0
ξ゚⊿゚)ξ「西川くん、ご飯いっぱい食べるの。
男の子って、あんなにいっぱい食べるんだね。知らなかった」
('、`*川「んー、どうなんだろうね……なんであんなに食べるんだろうとは思うけど」
ξ*゚⊿゚)ξ「不思議よね〜」
西川くんについて話すツンちゃんの顔には、さっきまでみたいな泣きそうな気配はない。
少しだけ気になる相手を話す、当たり前の表情。
その口元には笑顔がもどってきていて、それだけで嬉しくなる。
こうやって笑って、男の子の話をしていると、ツンちゃんは普通の女の子みたいだ。
勇者様でも、お姫様でもない、ごくごく普通の。私もまだ知らないツンちゃんの顔。
69
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 22:51:25 ID:f7zg8F5c0
私は、ツンちゃんのことをずっと勇者様や、お姫様だと思ってきた。
だけど、本当はそうじゃないのかもしれない。
ツンちゃんは特別なところのない普通の女の子で、私はその友だち。
私はツンちゃんと、ずっとこんなふうに話がしたかったのかもしれない。
ごくごく普通の。こんな当たり前のやり取りを、ツンちゃんとしたくて。
それでこんなふうに、ややこしい遠回りをしてしまった。
……なんだ、答えはこんなに簡単だったのか。
70
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 22:52:37 ID:f7zg8F5c0
('、`*川「よしっ、今日はお祝いよ!
じゃんじゃん奢ってあげるから、もっと注文しちゃって!」
ξ;゚⊿゚)ξ「そんなこと言っても、食べられない」
('、`*川「夕飯ぬいたらいけるいける!
ツンちゃん、せっかくだし今日は水じゃなくてお抹茶とか行ってみない? それから、こっちの葛切りと……」
普通の女の子のツンちゃんと、当たり前のことを普通に話すのは、こんなにも楽しい。
あれから9年もたった、来年になればもう10年になる。
過去の冒険を遠い思い出にしても、誰にも責める権利はない。
ツンちゃんが早く心の整理をつけて、あの腕輪を外してくれればいいのに。
――そんな、イジワルなことを考えた。
71
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 22:54:37 ID:f7zg8F5c0
── ──‐‐‐─ ‐ ‐‐── ──── ───‐‐───── ‐‐‐‐─ ‐ ‐‐──
('、`;川「食べすぎた……」
ξ;゚⊿゚)ξ「そりゃあ、あれだけ食べればね……」
店を出たときには、空はすっかりオレンジの色に染まっていた。
夏の日暮れは遅いから、たぶんもう結構な時間になっているのだろう。
(-、-;川「いいのよ、たまには」
ξ゚⊿゚)ξ「ぜんぜん、いいのよって顔してないわよ」
('、`;川「後悔するときくらいあるわ、にんげんだもの」
あれからはしゃいだ私は、デザートの追加を三皿した。うち一皿はかき氷だった。
水分のとりすぎで重たい胃を抱えて、私はよろよろと歩く。
飲み物と、軽めのデザートしか頼まなかったツンちゃんはといえば、余裕の表情だ。
72
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 22:57:42 ID:f7zg8F5c0
ξ゚⊿゚)ξ「このあとどうする? ペニちゃんもう、食べたり飲んだりは無理よね」
('、`*川「これ以上食べたら、死ぬ……」
ξ゚⊿゚)ξ「今日はそろそろ帰る? もう、いい時間だし」
('、`;川「名残惜しいけど、そうなるわね……」
駅といろんな店のあるメインストリートは反対方面だ。
この先を決めるなら、そろそろ急がないといけない。
('、`*川「ほんとはもう少し遊びたいんだけど、今日はこのくらいにしよっか」
ξ゚⊿゚)ξ「そうね。次はいつにする?」
('、`*川「また近いうちに、遊びたいよね」
73
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:00:18 ID:f7zg8F5c0
私は駅の方へと、道を変える。
ツンちゃんも私につづいて、足を踏み出そうとして――、
ξ;゚⊿゚)ξ「わっ!」
ツンちゃんの体が、ぐらりと揺れる。
何かに足を取られたように、体勢を大きく崩して――、
⊂('、`;川「ツンちゃんっ!」
ξ;>⊿<)ξ
.
74
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:01:00 ID:f7zg8F5c0
その瞬間、私は腕を伸ばしていた。
とっさに伸ばした腕が、ツンちゃんの手をなんとか掴む。
下に引っ張られる力に逆らって、思いっきり力を込めてツンちゃんをひっぱった。
ξ;゚⊿゚)ξ「びっくりしたぁ……」
⊂(゚、゚;川「……」
ξ;゚⊿゚)ξ「どうしたの?」
ツンちゃんの声が聞こえた頃には、私の心臓はバクバクと大きな音をたてていた。
体がガクガクと震える。
ツンちゃんは倒れず、目の前に立っている。
75
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:02:35 ID:f7zg8F5c0
⊂(゚、゚;川「……」
そこにちゃんと、ツンちゃんは居る。
いて、くれた。
当たり前のように、そこにいてくれる。
⊂('、`;川「ううん。なんでもない……」
心臓の音は止まらない。
気づけば額から、ぬるい汗がこぼれていた。
ξ゚⊿゚)ξ「顔、真っ青よ」
⊂('、`;川「だいじょうぶ、……びっくりした、だけ」
.
76
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:03:04 ID:f7zg8F5c0
掴んだままの、ツンちゃんの手を強く握る。
少しだけ冷たくて、でも暖かいその手はたしかにここにある。
そっと、手を放す。
それでもツンちゃんはまだそこにいて、それで何とか息をつけた。
('、`*川「……せっかくだし、もうちょっと遊んでいかない?」
ξ;゚⊿゚)ξ「本当に、大丈夫?」
声を上げる。
その声に、ツンちゃんは当たり前のように答えてくれる。
まったく普通のいつもの光景。ただ、私の心臓だけが早い音をたてて騒ぎ続けている。
77
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:04:39 ID:f7zg8F5c0
('、`*川「大丈夫。よく考えたら、もうちょっと残ってもいいかなって。
帰り家まで送ってあげるから、いいでしょ?」
ξ゚〜゚)ξ「あたしは別にいいけど……」
もう少しツンちゃんと、話していたかった。
そうしていないと、ツンちゃんが消えてしまうような気がした。
止まらない心臓の鼓動を抑えて、私は勢いのままに言葉を続ける。
('ー`*川「よしっ、だったら決まり!
せっかくだし、例の西川くんの話もっと聞かせてよ!」
ξ;゚⊿゚)ξ「いいけど、急にどうしたの?」
⊂('ー`*川「いいから、行こ? 場所は……とりあえず、カラオケでいい?
ファミレスとかでもいいわよ。お腹はいっぱいなんだけど、まぁいけるでしょ」
口早に告げた私は、なんとか笑顔を作ってツンちゃんに手を差し出す。
どうか手を取ってくれますように。
心の中はその言葉でいっぱいだ。
動揺を隠しながら、私はツンちゃんの言葉を待つ。
.
78
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:05:52 ID:f7zg8F5c0
ξ゚⊿゚)ξ「ペニちゃんは、たまに強引よね」
呆れたように応えながら、ツンちゃんは白い手を伸ばす。
木のような石のような不思議な感触の腕輪が、その動きにあわせて揺れる。
ξ*^ー^)ξ「いいわ、行きましょう?」
('、`*川「うん」
私の手に、ツンちゃんの手が重なる。
少しだけ冷たくて暖かい手。その感触は、たしかにそこにあった。
なんでもないその感触が、むしょうに嬉しかった。
.
79
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:07:16 ID:f7zg8F5c0
── ──‐‐‐─ ‐ ‐‐── ──── ───‐‐───── ‐‐‐‐─ ‐ ‐‐──
ξ゚⊿゚)ξ「私、カラオケがいいかな」
('、`*川「このあたりだと、どこにあったっけ?」
ξ゚⊿゚)ξ「ブンツンドーなら割引きくわよ」
('、`*川「じゃあ、そこで!」
なんでもない話をしながら、街を歩く。
世界はオレンジ色で、いつもと違う別の世界みたいに見える。
ツンちゃんがいなくなったあの日も、こんな空の色をしていた。
ξ*^ー^)ξ「こっちこっち!」
夕焼けの方に向かって、一歩先を行くツンちゃん。
その体からは長い影が伸びている。
.
80
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:13:08 ID:f7zg8F5c0
('、`*川「……」
長い影法師。
なんでもないその影が、――ぶるりと、震えた。
見間違いじゃない。見間違えなんかのはずがない。
('、` 川「……絶対に、許さないから」
ふつうのぼんやりとした影よりも、黒く見える影。
見ていると背中がゾクリとするような、変な感じのするツンちゃんの影。
ツンちゃんを追いかけながら、私は力を込めてそれを思いっきり踏みつけた。
.
81
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:13:42 ID:f7zg8F5c0
( 、 ;川「……っ」
何かを訴えるような、叫ぶような、怒るような、泣くような声が、頭に響く。
その声は今日、店で何度も聞いた気がしたような、あるはずのない声と似ている。
背中がぞくぞくするような、全身が冷えるような不快感。
それに耐えながらも、何度も何度も足に体重をかけて、ツンちゃんの影を踏む。
82
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:14:35 ID:f7zg8F5c0
ξ゚⊿゚)ξ「ええと、道はあっちだから……」
ツンちゃんは気づかない。
気付かないで前だけを見ている。
このまま気づかないで、笑っていてくれればいいのに――そんなことを、思う。
地面を――影を、何度も何度も、踏みつける。
心のなかで私は、声を上げる。
( д #川(いらない。アンタたちはいらない!)
それは誰にも、ツンちゃんにも言えない、言葉だった。
.
83
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:15:05 ID:f7zg8F5c0
── ──‐‐‐─ ‐ ‐‐── ──── ───‐‐───── ‐‐‐‐─ ‐ ‐‐──
――気づいたのは、つい最近だ。
話している途中のツンちゃんの足元が、揺れた気がした。
地面がじゃない、ツンちゃんが動いているわけでもない。
ツンちゃんの影だけが、動いた。
('、`*川「……?」
はじめは、気のせいかと思った。
そうでないなら、雲か光かなにかの加減。
だけど、そうじゃなかった。
84
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:16:50 ID:f7zg8F5c0
('、` 川「あんなに、黒かったっけ?」
いつからか並んで立つ、ツンちゃんの影が黒く見えるようになった。
ツンちゃんの影だけ。
私の影も、他の人の影も普通なのに、ツンちゃんの影だけがやけに黒い。
ξ゚⊿゚)ξ「どうしたの?」
('、`;川「目が悪くなったのかな、なんか変な風に見えて?」
ξ゚⊿゚)ξ「……そう?」
.
85
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:17:57 ID:f7zg8F5c0
次に、変な声が聴こえるようになった。
はじめはどこか遠くで、誰かが話しているのかと思った。
だけどそれが、ちゃんとした言葉じゃなくて。耳から聞こえているのでもないことに、私は気づいた。
('、`;川「――あれ?」
ξ*゚ー゚)ξ「いい曲でしょ、これ! もう最高で!」
('、`;川「ちょっと音量が小さいのかな? へんな雑音が……」
ξ゚〜゚)ξ「うーん。あたしは、聞こえないけど……」
ヘッドホンから流れる音楽に紛れて聞こえてきた、変な声。
その声は自宅で借りたCDを聴き返したときには、消えていた。
86
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:18:32 ID:f7zg8F5c0
変なことは、重なる。
ツンちゃんが何かに呼ばれたように、どこかを見ていることが増えた。
それは決まって、あの変な声が聞こえたときだった。
('、`*川「ツンちゃん?」
ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、今。誰かが、私に話しかけなかった?」
('、`*川「音は聞こえたような気はするけど、呼んでたって?」
ξ;゚⊿゚)ξ「えっと、はっきりと聞こえたわけじゃないけど――こっちへ、来てって」
その時、はじめて怖いと思った。
あのよくわからない声が、ツンちゃんにも聞こえるようになっている。
それから、気づいた。
.
87
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:19:48 ID:f7zg8F5c0
('、`iii川「……」
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっと、顔真っ青じゃない。大丈夫!?」
あの変な声が聞こえるのは、ツンちゃんと会ってるときだけだ。
影が妙に黒く見えるのも、ツンちゃんだけ。
全部が、全部。ツンちゃんの周りでだけ、起こっている。
('、` 川「ツンちゃん。何かあったら、絶対に私に教えて」
ξ゚⊿゚)ξ「どうしたのよ、急に?」
( 、 川「お願い。絶対に!」
ξ;゚⊿゚)ξ「……」
ξ゚ー゚)ξ「ペニちゃんが言うならいいよ。教える。
ペニちゃんは、私の大切な親友だもの」
ツンちゃんは、笑って言ってくれた。
だから、その時はそれでいいと思った。
88
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:20:51 ID:f7zg8F5c0
('、` 川「なんで」
――だけど、全然ダメだった。
('、`;川「……どうして!!」
異変は止まなかった。
ツンちゃんの影が動いて見えることが、増えるようになった。
あの変な声は、とうとうその感情らしきものさえもわかるようになっていた。
89
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:23:25 ID:f7zg8F5c0
ξ゚⊿゚)ξ「どうしたの?」
('、`*川「……なんか、変な声が聞こえた気がして」
ξ;゚⊿゚)ξ「なにそれ、怖いんだけど……」
怒っているみたいな声がする。恨みと、憎しみ……? 絶対に、お前だけは許さないと言いたそうな声。
祈るような声がする。言葉は聞こえなくても、何かを心配して案じるような。優しい、声。
声がする。愛おしくて、愛おしすぎて、切なくて、苦しくて、おかしくなりそうな声。
切ない。会いたい。欲しい。壊したい。殺したい。どうか幸福で。閉じ込めたい。好きだ。愛している。
声が聴こえる。
声が……いや、違う。いくつもの思いを感じる。
一人じゃない。たくさんの、たくさんの声――それはきっと、ツンちゃんだけに向けられている。
90
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:24:15 ID:f7zg8F5c0
ツンちゃんにもはっきりとした、異変が起こった。
ξ゚⊿゚)ξ「……なんだろう。最近、なかなか寝れなくて」
('、`;川「大丈夫なの、それ?」
ξ;-⊿-)ξ「なんか、呼ばれてるーって感じがしてすぐに起きちゃうのよね」
ツンちゃんにも、声は届いていた。
もっとはっきりと、ちゃんとした言葉として。あの沢山の、おかしくなりそうな想いたちが……ツンちゃんへと向かって。
.
91
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:25:07 ID:f7zg8F5c0
そして、今日。
それは、起こった。
.
92
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:26:04 ID:f7zg8F5c0
ξ;゚⊿゚)ξ「わっ!」
あのとき。
店を出て歩いて、ツンちゃんが転びかけたとき。
ツンちゃんは何かに足を取られたように、ガクンと体勢を崩した。
.
93
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:26:31 ID:f7zg8F5c0
ξ;>⊿<)ξ
その時、私だけは――見た。
ツンちゃんの足元の黒い、黒い影。それが、手のように伸びて、ツンちゃんの足に絡みついたのを。
.
94
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:27:10 ID:f7zg8F5c0
⊂('、`;川「ツンちゃんっ!」
ξ;>⊿<)ξ
とっさに体が動いていた。
手を伸ばして、ツンちゃんの体を引っ張る。
夢中だった。必死だった。
ツンちゃんを連れていかないで。……頭の中は、それだけだった。
.
95
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:28:18 ID:f7zg8F5c0
夢中で引っ張って、それでツンちゃんの体の動きは止まった。
影から伸びた黒い手は、いつの間にか消えていた。
ξ;゚⊿゚)ξ「びっくりしたぁ……」
⊂(゚、゚;川「……」
ξ;゚⊿゚)ξ「どうしたの?」
ツンちゃんは、気づかなかった。
黒い手にも、自分がどうなろうとしていたのかも。
それでようやく、私は何が起こっているのか気づいた。
考えてみれば、答えは一つしかなかった。
.
96
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:28:50 ID:f7zg8F5c0
ずっと聞こえていたあの声、あれはあちら側から届く声なのだ。
そして、あの影。
やけに黒く見えたツンちゃんの影、――そこから伸びた、黒い手。
あれは、
――あれは、あちらの世界の何かが、ツンちゃんを連れ戻そうとしたのだ。
.
97
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:30:03 ID:f7zg8F5c0
ξ*゚⊿゚)ξ「その、ね。気になる人が、できたの」
ξ゚⊿゚)ξ「私ね、もう諦めることにしたの」
ξ-⊿-)ξ「今でも、あっちのことは大切だけど。でもね、もうおしまいにするの」
今に、なって。
ずっと苦しい思いをしてきたツンちゃんが、自分の心にフタをして、やっと心の整理をつけはじめようとした、今になって。
新しい恋はまだできていないけど、それでも大人になって。これから、やっとこれから。
みんなの勇者でも、クラスのお姫様でもなくて、ツンちゃんは、普通のツンちゃんとして、やっと幸せになろうとしたのに。
98
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:36:30 ID:f7zg8F5c0
('、`#川「絶対に、アンタたちだけは許さない」
私はあちら側の話が嫌いだ。
それだけじゃない。あちら側の人間も大嫌いだ。
ブーンも、ドクオも、クーも。王子様も、王様も、お姫様も、大神官も、魔王も――神様も。
ツンちゃんを勝手に不幸にして、救われて。
なのに、ツンちゃんが一番苦しいときには何もしない。
声さえもかけやしない。
それなのに、いつもツンちゃんの心の真ん中にいて。なによりも大切にされている。
('、`#川「許さないんだから」
ツンちゃんは、あんなにもあちら側を想っていたのに……。
それが、すべてを諦めて、ようやく進もうとした今になって、都合よく現れるのが許せない。
99
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:36:54 ID:f7zg8F5c0
勝手だと思った。
私もひどいやつだけど、それ以上にあいつらは理不尽で、勝手で、ひどい。
あいつらはツンちゃんを何だと思っているのだろう。
愛しいという思いがあった。大切だという思いがあった。
欲しいという思いも――憎くて憎くて、絶対に殺してやるという呪いもあった。
――あいつらは、いつか絶対にツンちゃんを食い尽くす。
.
100
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:38:33 ID:f7zg8F5c0
物語はどうやったら終わるのだろう。
異世界から現れた勇者が、世界を救ってめでたしめでたし。
それで幸せ。ハッピーエンドで終わるというのなら、そこから先はもう何もないはずだ。
物語は終わった、はずだった。
ツンちゃんがこちら側にもどってきた時点で、すべてが幸せに「めでたし、めでたし」で終わるはずだった。
なのに、ツンちゃんの物語は中途半端に続いてしまった。
物語がまだおわっていないとしたら、この話はいつまで続くのだろう。
もし、これからも話が続くのならば――あの、黒い手はいつか、ツンちゃんをあちら側に連れ戻す。
.
101
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:39:13 ID:f7zg8F5c0
('、`#川「絶対に、ゆるさない」
私は、きっと物語の脇役だ。
物語の主役、キレイなツンちゃんにはどうやったって届かない、いてもいなくても変わらない脇役。
脇役の私には、物語の終わらせ方はわからない。
だけど――、それでも――、
ξ゚⊿゚)ξ「ペニちゃーん、どうしたの?」
('、`*川「なんでもない! 早く、行こう!」
.
102
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:40:08 ID:f7zg8F5c0
私は何度だって、ツンちゃんを引き戻す。
相手が誰だって、たとえ何を犠牲にしたって、絶対にやめてやらない。
ツンちゃんは普通の女の子だ。
勇者でもお姫様でもない、私の大切な友だちだ。
私は自分勝手な最低なやつだけど、それでも友だちが泣くのはイヤだ。
だから、
ξ* ⊿ )ξつと( 、 *川
まだ小さかったあの日。
いじめられていた私に、ツンちゃんがそうしたように。
私は、何度だってツンちゃんに手を伸ばし続けるのだろう。
.
103
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:40:30 ID:f7zg8F5c0
物語が本当に終わる、その時まで――。
.
104
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:41:02 ID:f7zg8F5c0
ξ゚⊿゚)ξ物語の終わりかたのようです
了
105
:
訂正 >>24と>>25の間にこのレスが入ります
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:43:44 ID:f7zg8F5c0
誇らしそうに、楽しそうに。
ツンちゃんはむこうの世界での冒険を話した。
ツンがいなくなっている間にした冒険を、私はたくさんたくさん聞いた。
ξ#゚⊿゚)ξ「だけどね、そのままじゃダメだって。二人で神様をやっつけることにしたの!」
从*'ー'从「ツンちゃん、すごいよぉ〜」
ξ*-⊿-)ξ「とちゅうで、冒険者のドクオ兄ちゃんと、しんかん?のクーお姉ちゃんが仲間になったの。
お城にいた王子のお兄ちゃんもね、助けてくれたの!」
('、`*川「すごい。いっぱい仲間いるんだ」
ξ*゚⊿゚)ξ「そうなの。あたし、みんなのこと大好き!!」
私はツンちゃんの話が大好きだった。
勇者みたいにかっこよくて、お姫様みたいにかわいいツンちゃんは、本当に勇者だった。
アニメや漫画のヒーローよりもかっこいい。
そんなツンちゃんが、私の友だちで、すごく誇らしかった。
从*'ー'从「ワタシも、ツンちゃんのことスキだよぉ〜」
('、`;川「あ、わたしも!」
ξ*゚ー゚)ξ「うん。あたしも、みんなのこと好き」
106
:
◆4PbhmcDoVc
:2017/08/25(金) 23:47:41 ID:f7zg8F5c0
これで投下完了
読んでくれた人ありがとう
107
:
名無しさん
:2017/08/25(金) 23:55:03 ID:RgyA82QQ0
乙
ノスタルジーの光と闇を見た気がした
108
:
名無しさん
:2017/08/26(土) 02:03:32 ID:/qjbKhy60
乙
何事もハッピーエンドじゃ終わらせてくれないのね
109
:
名無しさん
:2017/08/26(土) 04:15:17 ID:h7Lv8eyM0
こええよお
110
:
名無しさん
:2017/08/26(土) 07:13:33 ID:CeUsE.Do0
乙、異世界その後ってのは面白いな
111
:
◆TflJu3mvXc
:2017/08/27(日) 01:17:48 ID:lOhL5Rcw0
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112
:
名無しさん
:2017/08/30(水) 18:38:37 ID:HYH52WIk0
乙
何であっちの世界に呼ばれてるんだろうなあ、またツンがいないとまずい状況なんだろうか
113
:
名無しさん
:2017/08/30(水) 23:33:12 ID:q5QXiFLk0
あ、これすごい好きだ
このままホラー的に区切られるのももちろんいいけど、
こよ先の結末まで見届けたい気もする
とにかく乙!すごい良かった!
114
:
名無しさん
:2017/08/31(木) 05:51:56 ID:PweAoL5k0
おつ
描写的にもういつあっちに連れていかれてもおかしくない状況なのだろう。
何年後かしてまた呼ばれるってのはよくある話だけれど、必ずしもそれが良いことではないと思い知らされた感じ。その人が望んでなかったり、ペニサスみたいに友人や親の立場ならそりゃあね。
正直その後の話が凄く気になる、つづきもとい本当の終わりがあるなら是非読みたい。
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