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灰色の青空のようです
80
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 21:41:42 ID:whrL/yB20
ξ゚⊿゚)ξ 「……いいえ、気にしていないわ。もう少し寝ていなさい」
ζ(゚ー゚*ζ 「そうするー」
寝息の聞こえだした背中を気にしながら、さらに上を目指す。
落下地点から考えると、頭の上の光は何倍にも大きくなっていた。
もはや地上はさして遠くはない。
未だに通信不能エリアを出ないが、それも時間の問題だろう。
通信ができる様になれば、きっと本部から連絡が届くはずだ。
恐らくは待機命令として。
黙って従っていれば、そのままスクラップ工場行きは免れまい。
ξ゚⊿゚)ξ 「だったら抗ってやる」
二本の鉄骨片を壁に突き立てた。
そうして創り出した足場に座って一息つく。
機械都市の階層略図を空間に投影した。
階層間の行き来は基本的には弾道エレベーターで行われている。
81
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 21:44:27 ID:whrL/yB20
一つ二つ上位階層に向かうくらいなら、
それぞれの階層にあるエレベーターでも可能であるが、
私たちは今いる百三十階層から一番上のゼロ階層を目指さなければならい。
エッグの使用は必要不可欠である。
もし私たちの生存がバレれば、エッグは一瞬で使用不可能な状態になるだろう。
私程度がハックして無理やり動かしたところで、せいぜい十階層が限界だ。
だが、デレならどうだろうか。
一瞬で私のプログラムにも割り込めるほどの技術があれば、
並みのリサーチャーでは歯が立つまい。
実際にハインの秘匿回線にも容易く割り込んで見せた。
油断していたとはいえ、少なくともそのレベルにまではデレの力は通じる。
なら厄介なのは、二十階層よりも上。
私たちの機能を遠隔的に制限・停止できると言われているオペレーター。
戦闘力なら私たちメカニックをゆうに凌ぐセンチネル。
これらの壁を突破しなければならない。
嘘か真か、機械都市はその保有している戦力を常に明らかにしてきた。
私のデータにもそれは残っている。
82
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 21:45:06 ID:whrL/yB20
オペレーターが三人、センチネルは五百機。
それに加えて、リサーチャー百五十一名、メカニック三百八十五名。
警戒すべき敵戦力はこれですべてなはずだ。
もう一つ厄介なのは、二十階層より上の移動手段を知らないという事。
恐らくは上位階層を貫くエレベーターも存在するのだろうが、
一番警戒されかねないそれを私たちが利用することは難しいはずだ。
となれば、階段でもなんでも見つけて地道に登っていくしかない。
二十階層以上の地図は、一般公開されていない。
どこで待ち伏せられるか、何処に罠が仕掛けらえているのか、
私たちは事前に知りようがないのだ。
ξ゚⊿゚)ξ 「行き当たりばったりってことね。最高にスリリングじゃない」
強がりは暗がりに飲み込まれた。
地図上で逃走ルートを確認する指先が震える。
武者震いではないことは自分が一番わかっていた。
これから相手取るのは都市そのもの。
万の軍勢よりもなお恐ろしい。
逃げ切れる可能性はほとんどないし、
逃げ切れたところでゼロ階層がどうなっているのか皆目見当もつかない。
83
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 21:45:50 ID:whrL/yB20
身体の多くを機械のパーツに頼っている私たちは、
この機械都市という鳥かごの中でしか生きていくことを許されていないのだから。
ζ(-〜-*ζ 「ん……」
ξ゚⊿゚)ξ 「大丈夫」
首元に回された手に自分の手を重ねる。
デレへの励ましの言葉を自らへの勇気と変えて、真上を向いて立つ。
目指すゴールは遥か先。
手を伸ばしたくらいでは簡単に届かない。
ξ゚⊿゚)ξ 「大丈夫!」
足場を取り払って、壁面の凹凸に指を引っかけて身体を支える。
自由な地上を目指して跳んだ。
ただひたすらに同じ作業を繰り返す。
一歩ずつ確実に出口に向かって。
崩落しかかった望遠鏡の残骸が確認できるほどに近づいていた。
ある地点を超えた時、差出人が同じ大量のメッセージが同時に届いた。
84
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 21:47:49 ID:whrL/yB20
ξ゚⊿゚)ξ 「通信不能エリアを出たわ」
ζ(゚ー゚*ζ 「うん! もうすぐだね」
ξ゚⊿゚)ξ 「ハインね。心配かけたみたい」
適当な二、三枚を視界の端で開く。
文面はどれも変わり映えのしないもであったが、彼女の心配は伝わった。
そして最後の一枚。件名からして堅苦しく嫌な雰囲気が漂っている。
機械都市の管理を行っているオペレーターからによるもの。
ξ゚⊿゚)ξ 「っ……!」
生存している場合は出頭すること。
短い一文が逃れようのない運命を示していた。
理由も、経緯も書く必要はない。
この都市では出頭のその意味は処刑と同義だ。
裁判など許されるわけもない。
言い訳も弁護もする時間は与えられず、私の身体と記憶は廃棄される。
85
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 21:49:12 ID:whrL/yB20
ζ(゚ー゚*ζ 「ツン、どうしたの?」
身体の震えに気付いたのか、デレの優しい言葉が耳元で囁かれる。
ξ-⊿-)ξ 「もう、決めたことだから」
ζ(゚ー゚*ζ 「予定は?」
ξ゚⊿゚)ξ 「まだ事故からそんなに時間が経ったわけじゃない。
向こうは私が死んだと思ってるはず。この隙に五十一階層までは登れる。
比較的セキュリティが緩いからね。問題はそこから先」
ζ(゚ー゚*ζ 「何かあるの?」
ξ゚⊿゚)ξ 「単純に上位階層に侵入できるだけのコードが必要なんだけど、
私本来のIDは当然使えない。となると、誰かのIDを利用しないといけなんだけど」
ζ(゚ー゚*ζ 「うーん、それなら私が何とかできると思う」
ξ゚⊿゚)ξ 「ばれたら終わりの大仕事よ?」
ζ(゚ー゚*ζ 「まっかせて!」
86
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 21:49:37 ID:whrL/yB20
ふんぞり返って小さな胸を自信満々に叩くデレ。
そのせいでバランスを崩して深い穴の底に落ちそうになる。
ζ(゚ー゚;ζ 「うわわっ!」
ξ゚⊿゚)ξ 「ちょっと!」
慌てて小さな身体を引き戻す。
ζ(゚ー゚*ζ 「えっへへ、危なかった」
ξ゚⊿゚)ξ 「あなただけが頼りなんだから。
そろそろ外に出るわ。ステルスモード、オン!」
ζ(゚ー゚*ζ 「隠密モード起動!」
日の当たる場所に飛びだす直前に、背景に溶け込む。
誰の目にも見えなくなっているはずでも、眼下の事故処理を行っている人々を見ると肝が冷える。
対物センサーが一つでも仕掛けられていれば、この時点で私たちの逃避行は終わっていた。
87
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 21:50:17 ID:whrL/yB20
ξ゚⊿゚)ξ 「目標は弾道エレベーター乗り場」
ζ(゚ー゚*ζ 「結構動いてるよ」
ξ゚⊿゚)ξ 「事故処理部隊のスイーパーがメインね」
知り合いの顔が浮かび、胸が痛む。
私が殺した彼女は、もうこの世にはいない。
ζ(゚ー゚*ζ 「一番向こう、丁度空いたかも」
ξ゚⊿゚)ξ 「掴まって! 飛び込むわ」
天井からぶら下がっているワイヤーを利用して方向転換をする。
目標地点であるエッグの扉があいた瞬間を狙って飛び込んだ。
すぐさま有線で接続して機能をマヒさせた。
情報端末に並ぶコードを幾つか弄り、強制的に再起動させる。
ξ゚⊿゚)ξ 「これで、五十階層までは大丈夫」
88
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 21:50:51 ID:whrL/yB20
ζ(゚ー゚*ζ 「後は私の番ね! いっくわよ!」
掌をかざしたデレは真剣な眼差しで見つめる。
その瞳に流れていく大量の情報をコンマ以下の時間で処理しながら、
両手の指はピアノを弾くかのようにリズミカルに動く。
誰にも気づかれずにエッグの管理者権限を奪うために。
ζ(゚ー゚*ζ 「ふむふむ……」
ξ゚⊿゚)ξ 「どう?」
ハッキングの内容はデレにしか見えていない。
もっとも、隣でのぞき込んでいたとしてもわかりはしないだろうが。
彼女の持つ技術は機械都市の標準では計り知れない。
ζ(゚ー゚*ζ 「単純ね。これなら地上まで一直線かな」
ξ゚⊿゚)ξ 「そう、なら少しゆっくりさせてもらいましょうか」
ζ(゚ー゚*ζ 「うん、大船に乗ったつもりでいて」
89
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 21:55:09 ID:whrL/yB20
エッグの階層表示はみるみる小さくなっていく。
ζ(゚ー゚*ζ 「しまっ……!」
数字は、二十で止まっていた。
心臓が高鳴る。エッグが目的の階層以外で止まることは無い。
つまり、外にいる何者かの手によって止められたという事。
中に誰かがいるのはドアの外からでも明らかであり、もはやステルスモードは意味を為さない。
私の願いとは真逆に、扉はゆっくりと開く。
戦闘態勢をして構えていた私は、目の前に現れた人物に拍子抜けした。
ξ゚⊿゚)ξ 「ハイン……!」
ζ(゚ー゚;ζ 「ツンっ!」
心の緩みが生んだ一瞬の隙。
デレがその刃を掴んでいなければ、私は喉元を貫かれていたであろう。
从 ゚∀从 「馬鹿な真似しやがって」
90
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 21:55:36 ID:whrL/yB20
ハインは剣を握る力を緩めない。
それどころか、彼女の背後には無数の銃器が並んでいた。
从 ゚∀从 「せめて私の手で……一斉射撃!」
エッグの周囲を跡形も無く消滅させるほどの大火力。
ひとえに私が助かったのは、デレの対物フィールドのおかげであった。
ξ;゚⊿゚)ξ 「お願い、止めないで!」
从 ゚∀从 「この機械都市から逃げられるわけがないだろ!」
ζ(゚ー゚*ζ 「殺す?」
彼女の右腕がいつの間にか銃器仕様になっていた。
その銃口は一直線にハインの額を狙う。
ξ;゚⊿゚)ξ 「待って!」
从 ゚∀从 「じきにセンチネルが来る。私を殺したところで、エッグごと吹き飛ばされるのがおちだ」
ξ゚⊿゚)ξ 「退いて!ハイン!」
从 ゚∀从 「退けない!」
91
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 21:56:00 ID:whrL/yB20
ξ゚⊿゚)ξ 「このっ……分からず屋!」
振り抜いた右拳は容赦なくハインの頬を打ち抜いた。
抵抗を予想していた私は、その呆気なさに驚いて動きが鈍った。
脳内に流れ込む情報量に溺れて膝をついた瞬間、
彼女の背後に並んでいた自動機銃が一斉に襲い掛かって来た。
ξ゚⊿゚)ξ 「なっ!?」
銃器の攻撃方法ではない。
質量に任せただけのただの体当たり。
ハインに限って、そんなプログラミングミスをするなんて考えられなかった。
ζ(゚ー゚*ζ 「なにこれ」
デレのハッキングは瞬く間に機械を従えた。
何の前触れもなく自動機銃は内部に収納されていた、薄型の金属の直方体を吐き出す。
いきなりのことで受取ることは出来ず、その機械は足元に転がった。
ζ(゚ー゚*ζ 「こんな無茶苦茶なプロテクト……っ! 伏せて!」
92
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 21:56:43 ID:whrL/yB20
青白い光が大気を焦がした。
デレのフィールドと反発して飛び散った超高熱の熱線は、ニ十階層を大きく抉る。
ξ゚⊿゚)ξ 「センチネル……っ!」
人間の二倍の巨体。
全身を超高密度の金属で覆った戦闘機械センチネル。
武装は主に二種類に分かれており、
近距離型はブレードによる格闘が主軸、遠距離型はエネルギー砲による射撃が主軸となっている。
目の前に現れたのは恐らく遠距離型だ。まだ私たちをさほど警戒していないのだろう。
踏み込めば届く距離まで近づいてきている。
運が良かった。遠くから狙撃されていては手も足も出ない。
機械的な赤い瞳がこちらに無事を確認し、エネルギーの再充填を始める。
ζ(゚ー゚*ζ 「このっ……」
ξ゚⊿゚)ξ 「デレ、待って! さっきの機械のキーコードを頂戴!」
ζ(゚ー゚*ζ 「え? うん!」
転送されてきたキーコードと、手に入れたばかりの情報を照らし合わせる。
現状の敵に対して最も有効な機械を選択した。
93
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 21:57:23 ID:whrL/yB20
転送されてきたキーコードと、手に入れたばかりの情報を照らし合わせる。
現状の敵に対して最も有効な装備を選択した。
ξ゚⊿゚)ξ 「コード:ブレイド」
金属の直方体は私の与えたコードで大きくその姿を変化させる。
巨大な刃となり、私の右腕の後を追うように動く。
その使い方は、考えるまでも無かった。
ξ゚⊿゚)ξ 「ふっ……!」
センチネルの懐にまで潜りこみ、全力で腕を薙いだ。
その後を追うようにして奔った大刀が装甲を食い破った。
ξ;゚⊿゚)ξ 「うっそ」
ζ(゚ー゚;ζ 「凄い威力……」
咄嗟に振り返るも、仰向けにひっくり返ったままのハインは動かない。
一撃でセンチネルを戦闘不能にまで追い込む破壊力。
天才と呼ぶにふさわしい発明だった。
94
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 21:59:57 ID:whrL/yB20
ξ゚⊿゚)ξ 「やっぱりあんたは……天才ね。行くわよ、デレ」
ζ(゚ー゚*ζ 「放っておいていいの?」
寝転がっているハインを指さす。
気絶しているふりだろうが、私から話しかけることはできない。
彼女の優しさを無駄にするわけにはいかないのだから。
ξ゚⊿゚)ξ 「いいわ。上の階層を目指すわよ」
ハインを殴った時に受け渡しされたのは、機械武器のキーコードだけではない。
彼女が知っているであろう上位階層のデータと、資材運搬用のエレベーターの存在。
ξ゚⊿゚)ξ 「無事なエッグで十一階層まで行って、その後はまた別の手段をとるわよ」
ζ(゚ー゚*ζ 「りょーかい!」
先程の戦闘の余波で数基のエッグは機能不良に陥っていた。
うるさい位に警報音が鳴り響く。
赤く光る警告灯の下で、暢気にデレは鼻歌を歌っていた。
95
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:00:33 ID:whrL/yB20
ξ゚⊿゚)ξ 「カメラなんかは無い筈なんだけど、急がないと!」
ζ(゚ー゚*ζ 「うーん……困った」
ξ゚⊿゚)ξ 「どうしたの?」
ζ(゚ー゚*ζ 「今システムに侵入したんだけど、
どのエッグもニ十階層より上に勧めない様に更新されてる。」
無線で機械都市のシステムに侵入するだけでも大したものだが、
デレはそこからさらに必要な情報を引っこ抜いてきた。
彼女がいなければ、この逃避行は絶対に成功しないだろう。
そもそも逃げるようになったのも彼女のせいと言えば、そうなのだが。
ξ゚⊿゚)ξ 「解除は出来そう?」
ζ(゚ー゚*ζ 「出来るけど、時間がかかるかも」
ξ゚⊿゚)ξ 「それなら、私が時間を稼ぐ。
とにかく十一階層まではエレベーターで行かないと、絶対に抜けられないよ」
ζ(゚ー゚*ζ 「はーい」
96
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:01:24 ID:whrL/yB20
隣のブロックにあるはずの資材運搬用エレベーター乗り場まで走る。
既に報告を受けたのであろう、完全武装をしたスイーパーが道を塞ぐ。
ξ゚⊿゚)ξ 「邪魔よ、死にたくない奴は下がりなさい」
下がる者は一人もいない。当然だろう。
機械都市では緊急命令に従わないことは死を意味する。
例え敵わないと知っていても、彼女たちに逃げ出すという選択肢はない。
ぐずぐずしている間にスイーパーは五機、六機と増えていく。
ξ゚⊿゚)ξ 「そうよね、殺さないであげる」
向こうから攻め来るつもりはないようだ。
彼女たちの目的は私たちをこの場所に足止めすること。
いずれ来るセンチネルの増援を待つのが作戦だろう。
だから飛び込んだ。
合図もなく駆けたにもかかわらず、デレは小柄な体躯でしっかりと横についてきていた。
ξ゚⊿゚)ξ 「頭は破壊しないで」
ζ(゚ー゚*ζ 「そんな甘いことを言っていていいの?」
ξ゚⊿゚)ξ 「決めたことだから」
97
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:01:53 ID:whrL/yB20
ζ(゚ー゚*ζ 「分かった……よっ!」
デレの無慈悲な一撃は正面にいたスイーパー数機の脚部を纏めて薙ぎ払った。
機動部を失って地面に転がった彼女らを跨いで、デレは駆ける。
ξ゚⊿゚)ξ 「スイーパー程度なら余裕よ」
ζ(゚ー゚*ζ 「ツン」
ξ゚⊿゚)ξ 「わかってる」
目の前に現れた二人のスイーパー。
それぞれの握っている剣は、私の身体を傷つけるには十分な鋭さがある。
ほとんど同時に振り下ろされた二つの刃。
その側面を左右の拳で強く叩いた。
「っ!」
「なっ!?」
武器と腕をあらぬ方向に流された隙だらけの二人。その腹部に一撃ずつ。
ただの一撃すらも耐えられずにスイーパーは昏倒した。
焦りと緊張で包囲網がわずかに揺らぐ。
98
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:02:43 ID:whrL/yB20
ζ(゚ー゚*ζ 「ツン、強いのね」
ξ゚⊿゚)ξ 「当然でしょ!」
機械の身体とはいえ衝撃全てを逃がすことは出来ない。
腹部や頭部への強力な一撃で充分に戦闘不能に追い込むことができる。
スイーパー程度が相手なら造作もない。
包囲網を割って飛び込んできた三つの影。
よく見たことのある、身体の起伏を強調する黒と赤いラインのスーツ。
単純な身体能力の強化と、その他の便利な機能を詰め込んだメカニック専用の戦闘服。
ζ(゚ー゚*ζ 「あれは?」
ξ゚⊿゚)ξ 「ちょっと苦戦するかも」
スイーパーとは違い機動力に特化した装備。
それ故に、今の私たちには面倒な相手ともいえる。
ζ(゚ー゚*ζ 「二人任せて」
ξ゚⊿゚)ξ 「助かるわ」
99
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:03:14 ID:whrL/yB20
こちらに向かい合ったメカニックは顔見知りではない。
それに安心して、拳を構える。
メカニックと戦ったことは無い。それでも、負ける気はしなかった。
こちらが地面を蹴った瞬間、相手も動いた。
拳を受けて、その腕を掴む。
地面に叩き付けようとした目論見は外された。
眼球を狙う容赦のない突きに、思わず手を放してしまう。
ξ゚⊿゚)ξ 「殺りにきてるなぁ。まぁいいわ」
息つく暇もないほどの連撃。そのくせ一撃一撃が的確に急所を狙って来る。
流石にメカニックの戦闘技術は甘くはない。
ξ゚⊿゚)ξ 「でも……っ!」
腹部を狙った手刀を抑え込む。喉を穿とうとする二撃目を紙一重で躱し、
両手で掴んだ手首をねじ切った。
素体の金属骨が砕ける嫌な音が響く。
ξ゚⊿゚)ξ 「もう抵抗しないでね」
「ふざけるな!!」
100
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:03:36 ID:whrL/yB20
無事な方の左手にスーツから供給されたエネルギーを乗せた殴打。
鈍く光る拳は当たれば鉄をも砕く。
当たりさえすれば、ね。
右手が壊れている分だけ拳には力が入っていない。
それを躱すのは難しいことではなかった。
わざと拳が掠る距離で攻撃を避け、潜り込んだ懐から顎に向けて掌底。
メカニックとは言え、バランス感覚を失ってしばらくは立つことすらできない。
ξ゚⊿゚)ξ 「ふぅ!」
ζ(゚ー゚*ζ 「終わったー?」
両手両足を失ったメカニック二体の上に腰を下ろしていたデレ。
彼女の性能を考えれば必然ともいえたが、自分の笑みが引き攣っているのを感じた。
とんだ化け物を扱っているのかもしれないと。
ξ゚⊿゚)ξ 「生きてるの?」
ζ(゚ー゚*ζ 「殺してないよー」
ξ゚⊿゚)ξ 「そ、それなら。厄介なのが来る前に上に行きましょうか」
101
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:06:12 ID:whrL/yB20
ζ(゚ー゚*ζ 「はーい」
目の前でメカニックを打ち倒されたスイーパーには、戦意はほとんど残っていなかった。
妨害する者だけを行動不能にして、隣のブロックを目指す。
無事なエレベーターを見つけ、それに乗り込もうとした瞬間に目の前を横切ったエネルギー砲。
デレが腕を掴んでくれなければ、頭が消し飛んでいたであろう。
こちらを攻撃してきた位置を見れば、一機のセンチネルが向かってきていた。
ζ(゚ー゚*ζ 「向こうからも来てる」
逆方向、挟み撃ちをするかのように現れた三つの影。
ξ゚⊿゚)ξ 「デレ! これの管理者権限を乗っ取って! 私が時間を稼ぐ」
ζ(゚ー゚*ζ 「大丈夫?」
ξ゚⊿゚)ξ 「これがあるからね」
ハインから貰った、否、奪ってきた機械武器。
センチネルを一撃で屠ったことからも、その破壊力は折り紙付きだ。
そもそもなぜこれほどの威力のあるものを彼女が所有していたのかは不明だが、
有難く使わせてもらうことにしよう。
102
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:07:13 ID:whrL/yB20
ξ゚⊿゚)ξ 「コード:ライフル」
弾道エレベーターのプロテクト解析に取り掛かったデレを背に護る様に、
直方体の機械武器を起動した。
ハインから受取った資料によると、直方体の武器化コードは全部で五つ。
射程を持つのはその中で一つしかなかった。
武器から現れたケーブルがスーツの腕部と接続される。
プロトタイプのスーツには過ぎたエネルギー保有量に得心がいった。
この機械武器を使いこなすためのバッテリーでもあるということか。
銃口を一番遠くにいる遠距離型センチネルに合わせる。
ロックオンを確認して引き金をひく。
放たれた青白い光は距離で減衰することなく金属の鎧を貫いた。
スーツの保有しているエネルギーの一割を使って。
ξ゚⊿゚)ξ 「燃費悪いわね」
それが限界だったんだ、と怒るハインの声が聞こえた気がした。
正面に着陸した三機の近距離型センチネル。
その重厚なブレードがこちらを両断しようと振り下ろされた。
103
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:11:01 ID:whrL/yB20
質量差がある分受けるのは効率が悪い。
切っ先がデレに届かないことを認識して攻撃を避けた。
捲れ上がった鉄板の地面の下で、いくつものパイプが両断される。
噴き出した蒸気に視界を奪われ、動きが遅れた。
胴体を分断しようとする横振りの一撃を転がって避けた。
三体目の突きは身体を斜め前に投げ出すことで、狙いを外させる。
髪の毛を一房持って行かれたが、今はそんなことを気にしている余裕はない。
機械武器を再起動し、離れた場所で回避する右手の動きを追っていた剣を呼び戻す。
目の前の一体を上段から斬り降ろした。
敵の大剣に阻まれ肩口の一部を削ったところで、残る二機の攻撃がデレに向かっていることに気付く。
引き抜いたブレードを一回転させる。
いち早くこちらの動きに気付き、攻撃をやめて防御の態勢をとった二機。
盾ごと深い切り傷を与える。
その隙をついて、目の前の鎧を蹴って上空へと浮かび上がり、
足蹴にした機体を頭上から串刺しにした。
赤い瞳が消えたのを確認し、背後に残る二体へと向き直る。
戦闘機械であるセンチネルに驚きなどの感情は無い筈なのに、
私と向き合った二機の鈍い動きは、戦闘手段を決めかねているようにも思えた。
104
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:11:54 ID:whrL/yB20
ξ゚⊿゚)ξ 「壊れろッ!」
それを隙ととった私の過ちは、一秒と経たたずに結果となって現れた。
二刀の連撃。横から脇腹を抉る様な切り上げと、逃げ道を塞ぐかのような剣側面での叩き付け。
ξ゚⊿゚)ξ 「なっ!?」
後ろは先ほどの一機が邪魔で下がれない。
正面には二機、辛うじて逃げられるのは右側に跳ぶことだけに思えた。
考える時間もなく、そこに飛び込んだ私を襲ったのは、エネルギー砲。
右手の周辺で浮いていた剣を軸に身体を捻ったことで、なんとか致命傷を回避した。
左腕を代償にして。
ξ゚⊿゚)ξ 「まだ壊れてなかったのね……」
肘から先を失った左腕から発せられる痛みの信号をシャットアウトする。
動きと思考の妨害をさせないために。
遠距離型のセンチネルは破壊を確認したわけではない。
あれだけの威力を持つエネルギー砲であれば、当然仕留めたと考えていた私のミス。
失った左腕の違和感を無視して、目の前の二機を削り切った。
105
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:13:43 ID:whrL/yB20
ξ゚⊿゚)ξ 「コード:ライフル」
狙撃してきた遠距離型に再度照準を合わせたところで、
デレの声がかかり人差し指を止めた。
ζ(゚ー゚*ζ 「その必要はないよ」
ξ゚⊿゚)ξ 「デレ」
スコープの先で、センチネルは爆発炎上した。
ζ(゚、゚*ζ 「ツン、腕が……」
ξ゚⊿゚)ξ 「このくらい大丈夫」
ζ(゚ー゚*ζ 「ちょっと待ってて」
地面に転がっていたセンチネルの腕を圧し折り、私の腕から先へと強制的に接合した。
数十秒で元通り、というわけでもないが、身体に似合わない大きな左腕は私の意思通りに動く。
ζ(^ー^*ζ 「えへへ」
ξ゚⊿゚)ξ 「ほんと、敵じゃなくてよかったわ」
106
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:14:41 ID:whrL/yB20
ζ(゚ー゚*ζ 「エレベーターのシステムは乗っ取ったわ。待たせてごめんなさい」
ξ゚⊿゚)ξ 「それじゃ、行きましょうか」
ζ(゚ー゚*ζ 「うん!」
二人には広すぎる乗り物に乗り込む。
デレの簡単な音声指示で、エレベーターは上昇し始めた。
数字が小さくなっていくのに反比例して、心臓の鼓動が強くなっていく。
十一階、人間が侵入できる最高の階層。
静かに、何の異変もなく止まった。
それが私の不安を煽る。大きくなってしまった手を、デレの腕に優しく添わせる。
開いたドアの向こうには、センチネルの群れどころか鼠一匹いなかった。
最低でもハイ・リサーチャーとハイ・メカニックが待ち構えていると思っていた私の予想は、
大きく裏切られた。
ζ(゚ー゚*ζ 「さて、残り十階層! この調子なら余裕ね!」
ξ゚⊿゚)ξ 「いえ、ここから先は手さぐりになるわ。
あまり悠長にしている時間は無いの」
107
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:15:04 ID:whrL/yB20
ζ(゚ー゚*ζ 「んっへっへー。私を誰だとお思い?
超優秀なデレちゃんは、さっきの間にこの階層図まで全部ぶっこ抜きました」
ξ゚⊿゚)ξ 「……え?」
我ながら間抜けな返事をしてしまった。
人間は誰も目にしたこのとの無いはずの機械都市最上位十層の地図。
それを簡単に手に入れたいうデレに。
厳重なセキュリティに護られていようと、彼女であれば不可能ではないとすら思わせる。
ξ゚⊿゚)ξ 「どうすればゼロ層に……地上に行けるの?」
ζ(゚ー゚*ζ 「うーん……ここから先はこれまでと比べてかなり狭いみたい。
これかな、階段がある」
ξ゚⊿゚)ξ 「階段?」
階層移動にそこまで旧時代的なものがあるとは俄かに信じられない。
それでも、デレがホログラム化した十層の地図には、確かにそう記されていた。
つまり、デレの言うように十層よりも上は徒歩で脱出可能だという事。
これは私たちにとって願ったり叶ったりだ。
ζ(゚ー゚*ζ 「こっちみたい!」
108
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:15:47 ID:whrL/yB20
デレに引っ張られてその後に続く。
重厚な扉を拳一つで破壊した先にあったのは、
巨人が歩くために創られたのかと思えるほど大きな階段。
一段一段が人間の身長ほどもあるり、吹き抜けの空間が遥か上空まで続いている。
見上げた先には、大きな数字が見えた。
それらは上の階になるごとに一つずつ小さくなっていく。
ξ゚⊿゚)ξ 「ここを登れば、ゼロ階層に……」
ζ(゚ー゚*ζ 「一気に登るわよ!」
小柄な体でありながら、自身の二倍以上もある段差を優雅に昇っていく。
その後を追って階段を駆け上った。
まだまだ余力を残してるデレを追いかけるのがやっと。
技術や知識だけではなく、身体能力の差もまた顕著だった。
十階層から九階層へ。そしてすぐに八階層へ。
少しの休憩も挟まずにどんどん登っていくデレ。
109
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:16:30 ID:whrL/yB20
ζ(゚ー゚*ζ 「ついてきてる? ツン」
ξ゚⊿゚)ξ 「っ……デレっ!」
こちらを振り返った瞬間、デレの横の壁が膨張し、粉々に吹き飛んだ。
大穴から頭を出したのは、重装甲の機械。
右腕には大仰な鋏、左腕には分厚い盾。
その背には全長を超えるほどの鋭く長い剣のような装備。
ξ゚⊿゚)ξ 「センチネル!? ……じゃない!」
ζ(゚ー゚*ζ 「大きいだけでは……」
デレの蹴りは、盾をへこませるにとどまった。
ただの適当に放たれた一撃であっても、それを受け止めることができた機械はない。
ζ(>ー<;ζ 「堅ったい! 足が痺れる……」
ξ゚⊿゚)ξ 「厄介そうね」
ζ(゚ー゚*ζ 「少し本気を出せば余裕よ!」
110
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:17:00 ID:whrL/yB20
ξ゚⊿゚)ξ 「あなただって無限に動けるわけじゃないでしょ。
効率よく倒さないと……」
緩慢な動きでこちらへと向き直る機械。
空いたままの大穴から、次々とセンチネルが現れた。
ξ゚⊿゚)ξ 「とか言ってる余裕は無さそうね」
ζ(゚ー゚*ζ 「大丈夫! まだ十パーセントだって使ってないわ!
一気に殲滅するからね!」
デレが前に突き出した両腕。
その先端部へと高密度のエネルギーが集中していく。
機械でも恐怖を感じるのか、間髪おかずにデレへと飛びかかって来た近距離型センチネル。
その胴体を断ち切ったハインのブレ―ド。
分離した上半身が地面に落ちる前に、
彼女が必要だと考えただけのエネルギーが、収束し放たれた。
ζ(゚ー゚*ζ 「壊れちゃ……えっ!」
魔法のステッキから降り注ぐ流星の如く、実際にはもっと恐るべきエネルギーの奔流が、
並みいるセンチネルを片っ端から蒸発させた。
111
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:17:47 ID:whrL/yB20
ζ(゚ー゚*ζ 「えへへ、褒めてー」
ξ゚⊿゚)ξ 「全く、えらいえらい」
胸元に飛び込んで来た少女の髪を優しく撫でる。
暫くして満足したのか、デレはに散歩下がって上空を見上げた。
ζ(゚ー゚*ζ 「さっきの強化センチネル? 見たことある?」
ξ゚⊿゚)ξ 「聞いたことすらないわ。センチネルは近距離型と遠距離型の二種類だけとしか」
ζ(゚ー゚*ζ 「私たちが一番困るのが、数の暴力による消耗戦なのに……」
ξ゚⊿゚)ξ 「機械都市がそれを仕掛けてこない理由があるってこと?」
ζ(゚ー゚*ζ 「うん」
漠然とした不安は、ずっと胸の中にあった。
私たちが暴れ出してからどれくらいの時間が経っただろうか。
仮にセンチネルが都市中に散らばっていたとしても、十分に集合させるだけの時間はあったはずだ。
112
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:18:17 ID:whrL/yB20
なのに、一向に物量作戦で来る様子がない。
センチネルを呼び寄せなくとも、私たちを止められるという自信があるということか。
だったら正面から打ち破ってやるまで。
階層は残り七つ。罠も戦略も一気に突破する。
ξ゚⊿゚)ξ 「デレ、掴まって」
ζ(゚ー゚*ζ 「わかった」
少女を胸に抱いて、コードを起動した。
ハインの置き土産である便利武装に組み込まれていた移動手段を。
ξ゚⊿゚)ξ 「コード:スキャフォルド」
スーツのエネルギーを使って浮かぶボード。
空中で方向転換をするときに使う足場としての機能がメインではあるが、
エネルギーを供給し続ければ、波に乗るよりも簡単に空を滑ることができる。
ξ゚⊿゚)ξ 「飛ばすわよっ!」
ζ(゚ー゚*ζ 「いっけぇー!!」
113
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:20:07 ID:whrL/yB20
上昇していくボードからは、扉に描かれた大きな数字が良く見えた。
一つ小さくなるごとに胸が高鳴る。
ξ゚⊿゚)ξ 「7……6……5……」
眼下ではこちらを待ち伏せしていたであろうセンチネルの群れ。
ロックオンの警告音は慣れるほど鳴り響いている。
足元からの射撃は、全てデレの電磁フィールドが阻む。
私たちを止められるものは誰もいないかのように思えた。
ξ゚⊿゚)ξ 「……ようやくお出ましね」
3の数字の下に立っていた男。
醸し出す雰囲気が、ただの人間ではないと雄弁に語っていた。
ボードによる上昇をやめ、その正面に着地する。
倒さずして上に進むことは出来ないと、頭ではなく身体で理解した。
ζ(゚ー゚*ζ 「ふぅん」
さしものデレも、余裕が表情から消えた。
向き合ってはじめてわかる重圧。
114
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:22:04 ID:whrL/yB20
( <●><●>) 「初めましてだ、ツン。それともMEC-081714と呼んだほうが良いかね?」
ξ゚⊿゚)ξ 「どちらでも結構よ」
( <●><●>) 「そうか、ではメカニックのツン。今すぐ自分のいるべきところに戻りなさい」
その口調は丁寧であったが、有無を言わせぬ圧があった。
ξ゚⊿゚)ξ 「嫌よ」
それに屈してしまわぬように歯を食いしばって吐き出した返答は拒否。
( <●><●>) 「そうか、優秀なメカニックを失うのは残念なのだが」
ξ゚⊿゚)ξ 「そんなこと、これっぽっちも思ってないくせに……」
( <●><●>) 「では、そちらの少女に伺うが」
ζ(゚д゚*ζ 「嫌よ!」
問いかけの中身を聞くことすらなくデレは断った。
例え自身が利する取引であっても、聞くつもりは無いとでも言うように。
115
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:22:53 ID:whrL/yB20
問いかけの中身を聞くことすらなくデレは断った。
例え自身が利する取引であっても、聞くつもりは無いとでも言うように。
( <●><●>) 「やれやれ、どうやら嫌われてしまったようだね」
ζ(゚ー゚*ζ 「そう、あなたがオペレーターね」
( <●><●>) 「ええ、この機械都市の統括管理者のうちの一人。
オペレーター、ワカッテマス・レグロック。
以後お見知りおきを」
ζ(゚ー゚*ζ 「あなたからは腐った油の臭いがする」
( <●><●>) 「はて、最高級の純正オイルしか利用していないはずだが。
まあいいか。二人とも引くつもりがないのなら、ここで分解してしまおう」
ζ(゚ー゚*ζ 「屍を晒すのはあんたの方!」
出し抜けに放ったデレの砲撃は、ワカッテマスに届く前に拡散されて消えた。
ζ(゚ー゚;ζ 「っ!?」
116
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:24:12 ID:whrL/yB20
( <●><●>) 「成程脅威だ。センチネル程度では足止めにすらならんな」
ξ゚⊿゚)ξ 「余裕ぶってるのも……今のうちだけよ!」
ごつい腕は邪魔だが、力を込めれば相応の破壊力を持つ。
脳天から叩き潰してやろうと、デレの攻撃のすぐ後に飛び込んだ。
振り抜いた左腕は空を穿った。
ξ;゚⊿゚)ξ 「なっ!?」
ζ(゚ー゚;ζ 「ツン!」
残像さえ見えなかった。
いつの間にか背後にいたワカッテマスの攻撃を、デレが受け止める。
( <●><●>) 「あまり時間はかけたくない。これで諦めてくれるかな?」
ζ(゚ー゚*ζ 「えっ?」
ワカッテマスの武器は細身の剣。
無造作に振るわれた刃は、易々と対物電磁フィールドと突き破り、
デレの両腕を跳ね飛ばした。
117
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:25:04 ID:whrL/yB20
ξ゚⊿゚)ξ 「なっ!?」
( <●><●>) 「強制命令:フリーズ」
ξ゚⊿゚)ξ 「……!!」
声は出せず、指先すら動かせない。
身体の全ての機能が停止しているのに、思考だけがはっきりと働いている。
( <●><●>) 「まずは規律違反のメカニックをスクラップに」
頭部を狙って振り下ろされる刃。
決して速いわけではなく、むしろ剣筋は見えているのに避けられない。
私の頭蓋を半分にするために、ゆっくりと近づいてくる刃。
ワカッテマスは、その口角を釣り上げて笑っていた。
心の底から嫌悪感が沸き上がってくる邪悪な笑み。
それは、上位者であることの証。
瞼を閉じて恐怖から逃れることすら許されない絶対的な権限。
メカニック如きが機械都市に、ひいてはオペレーターに逆らうなんてことはあってはならなかったのだ。
私は目前に迫った死を受け入れた。
118
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:25:42 ID:whrL/yB20
ζ(゚ー゚*ζ 「させないっ!」
両腕を失ったデレは、ワカッテマスの剣を弾き飛ばした。
( <●><●>) 「さすが古代機械。一撃でもう見抜いたか」
ζ(゚ー゚*ζ 「私はツンと外に行くの。邪魔しないで」
ξ;゚⊿゚)ξ 「はっ……はっ……」
何の前触れもなく身体に心が引き戻された。
早鐘よりも細かく刻む胸の鼓動。
ζ(゚ー゚*ζ 「ごめん、正直油断してた」
ξ゚⊿゚)ξ 「デレ、腕が……」
ζ(゚ー゚*ζ 「大丈夫、どうでもいいわ……なんてね」
ξ゚⊿゚)ξ 「あー……」
ζ(゚ー゚*ζ 「うん、聞かなかったことにして頂戴」
119
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:26:20 ID:whrL/yB20
( <●><●>) 「ふざけている余裕があるとはな!」
ワカッテマスの剣が喉に突き出された。
やはりそれは、デレの電磁フィールドが防ぐ。
一枚、二枚と割られ、三枚目が完全に阻んだ。
( <●><●>) 「厄介だ……本当に厄介だな。いらいらとさせてくれる」
ζ(゚ー゚*ζ 「仕組みが分かれば大したことは無いわ。
不完全な電磁阻害因子を一時的に放出してるだけ。
それなら、こちらは電磁フィールドの展開を連続させれば何ら問題は無い」
( <●><●>) 「だが、これを防げはしまい!
二人纏めて消え去れ!」
頭上から、光が落ちてきた。
そう錯覚するほどに輝く砲撃は、上層に向かうための階段を全て飲み込んだ。
ζ(゚ー゚*ζ 「っ!!」
デレの電磁フィールドは、光と衝突して大きく軋んだ。
五秒に一度のペースで砕けては再度新しい防御を張る。
120
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:29:36 ID:whrL/yB20
( <●><●>) 「ははははは!!
愚かな。オペレーターであるこの私と戦うということが、どういう事か知らなかったのか!?」
目も眩む光の中から、上機嫌な男の声が響く。
声高々に、得意げに演説をしているであろう姿が容易に想像できる。
ζ(゚、゚*ζ 「ぐぅ……ぬぬ……!!」
まだ何とか天井の砲撃と、デレのシールドは均衡を保っている。
それも時間の問題だということは、私ですら気づいていた。
( <●><●>) 「オペレーターである私に逆らうということは、
この機械都市を相手にしているという事と同義だ。
いくら優秀な古代の機械人形と言えど、所詮は人形。
膨大なエネルギーの前に、圧壊しろ!」
ζ( ー゚*ζ 「ツン……お願いがあるの」
ただ護られていただけの私は、まだ諦めていないデレの瞳に強くうなずいた。
ζ(゚ー゚*ζ 「私が護るから、ツンがとどめを」
ξ゚⊿゚)ξ 「わかった」
121
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:30:17 ID:whrL/yB20
ζ(゚ー゚*ζ 「近くに来て」
ξ゚⊿゚)ξ 「なに?」
デレの隣で向き合う。
額がくっつくほどに顔が寄せられ、宝石のように綺麗な碧眼が良く見えた。
ζ(゚ー゚*ζ 「私を信じてくれる?」
ξ゚⊿゚)ξ 「勿論よ!」
彼女は無言のまま、私のデータに触れている。私の身体を構成する機械の部分。
それを動かすプログラムが、とても優しく書き換えられていく。
数十秒の沈黙の後、私はデレの電磁フィールド内に閉じ込められた。
ζ(゚ー゚*ζ 「ツン、行くよ!」
ξ゚⊿゚)ξ 「任せて」
122
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:30:49 ID:whrL/yB20
半球状だった電磁フィールドは、デレの一言で錘状に変化した。
それ故に、私たちから見れば光の圧力が増したようにも見える。
不均等な編を持つ四角錘によって真上からの砲撃は分散され、
攻撃の威力に不均等が生まれた。
六面体の電磁フィールドに囲まれた私は、その直後に大砲の如く射出された。
護られていてもなお、頬を焼くほどの熱量を持つ光を切り裂く。
(;<●><●>) 「なにっ!?」
ξ゚⊿゚)ξ 「コード:ブレイド!」
光の中から飛び出した時、ワカッテマスは目の前にいた。
背負っていた機械武器を起動する。
呼び出した大刀を上段に振りかぶり、ワカッテマスの首を狙って飛び込む。
( <●><●>) 「無駄だ! 強制命令:フリーズ」
ξ゚⊿゚)ξ 「……!」
空中で剣を振りかぶったまま動きを停止した。
飛び込んだ勢いのままに、身体は重力に引かれて落下していく。
123
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:31:22 ID:whrL/yB20
( <●><●>) 「ふん、メカニック風情がっ! 貫け!」
ワカッテマスが振るった腕に操られた金属槍が、一直線に私の胸へ向かって来る。
幾ら頑強な機械に護られていても、心臓を破壊されてしまえば行動は出来ない。
だから、これで終わりだと。
そう思わせた。
ξ゚ー゚)ξ 「なんてね!」
( <●><●>) 「あ?」
胸に突き刺さる直前に、左腕で穂先を思いっきり殴りつけた。
その勢いのまま、伸び続ける槍の上を駆ける。
狙うはワカッテマスの首。
振り抜いた刀は、思考する猶予すら与えることなくその頭部を切り落とした。
ξ゚⊿゚)ξ 「ふん、あんたがメカニックである私に対して、
優位権限を持ってることさえわかっていれば、
デレならそのくらいどうとでもできるのよ」
124
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:32:09 ID:whrL/yB20
頭上には、未だに光の奔流を迸らせる巨大な水晶が五つ。
四方の水晶が中央にエネルギーを供給し、中央の水晶がそれを放出していた。
ξ゚⊿゚)ξ 「これを壊せばいいのね」
両断しようと煌めいた刀身は、目には見えない力に弾かれた。
水晶には傷一つついておらず、依然として階下に向けてエネルギーを放つ。
ξ;゚⊿゚)ξ 「なっ」
( <●><●>) 「少々油断したか」
( <●><●>) 「戦いに赴くには、私のこの身体は弱すぎる」
( <●><●>) 「替えはいくらでもあるのだから嘆く必要もないか」
ξ;゚⊿゚)ξ 「嘘……」
刀を弾き飛ばしたのは、今し方首を切り落とした男。
それに瓜二つの男たちが、当たり前のように佇んでいた。
( <●><●>) 「言ってなかったか。この身体は汎用機人だ。
特定の身体を持たず、意識のみを共有しているのが私たちオペレーターだという事を」
125
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:32:45 ID:whrL/yB20
ξ゚⊿゚)ξ 「聞いて……無かったわね」
( <●><●>) 「そうか、では今教えた。
まだ無駄な抵抗をするか?」
いつの間にか、多数の熱源反応が周囲を埋め尽くしていた。
背後には壁面を登って来たセンチネルの大軍。
目の前には機械都市のエネルギー源を自由に操る不死身のオペレーター。
頼みの綱のデレは直下で動きを阻害されたまま。
投了ものの盤面に対しても、諦めるつもりは無い。
ξ゚⊿゚)ξ 「ふん、最後まで抗ってやるわ」
( <●><●>) 「そうか、お前の死体は残す必要がない。やれ」
合図とともに、轟音をあげたセンチネルの砲。
背後に活路は無く、正面にいる三体のワカッテマスに向かった。
( <●><●>) 「思い切りはいいな」
( <●><●>) 「ここしか逃げ道は無かったはずだ」
126
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:33:20 ID:whrL/yB20
( <●><●>) 「追い込まれているとも知らずに」
ξ゚⊿゚)ξ 「ふっ!」
空間ごと切り裂かんばかりの横薙ぎ。
三人のワカッテマスがそれぞれ避けたせいで、
2と書き込まれた背後の鉄扉を大きく切り裂いた。
割れ目から中に飛び込むことで、センチネルの砲撃は全て無駄打ちとなったはずだ。
爆発の衝撃でさらに歪んで拡がった壁面の穴から、
一体ずつ、あるいは二体同時に入り込もうとするセンチネルを潰す。
前にいる残骸が、後続を防ぐためのバリケードとなる。
( <●><●>) 「私には無意味だがな」
ξ゚⊿゚)ξ 「だろうと思っていたわ!」
背後から聞こえた声に向けて振り払った太刀筋は、大きな容器を一つ切り裂くにとどまった。
中に満たされていた水と一緒に流れ出てきたのは、人型をした義体。
黒く長い髪を持ち、豊満な胸を持つ女性。
ξ;゚⊿゚)ξ 「あ……あぁ……」
127
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:34:01 ID:whrL/yB20
( <●><●>) 「これも予想できたか?」
それはよく知っている女性の身体。
スイーパー時代からの友人であるクールに間違いなかった。
( <●><●>) 「はっはは! この二階層はな、機械都市に居住している人間のうち、
サブメモリーシステムに登録している人間の身体を保存しておく階層だ。
つまり、足元寝転がっているのはお前の知人で間違いない」
( <●><●>) 「声も仕草も、全く一緒だ。はは! どうだ!
特別に今の記憶をインストールしてやろうか」
ξ゚⊿゚)ξ 「やめろっ!」
足元にある友人の姿をした人形の頭部を叩き潰した。
( <●><●>) 「別に一つくらい好きにしろ、まだまだある」
ワカッテマスが両腕をひろげた途端に、部屋のライトが全て灯る。
そこには、保管庫が遥か向こうにまで並んでいた。
ξ#゚⊿゚)ξ 「ふざけるな!!」
128
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:34:33 ID:whrL/yB20
( <●><●>) 「ふざけてなどいない。彼女らは、皆望んでサブメモリーシステムに登録したのだ。
感謝されこそすれ、批難されるいわれはないな」
( <●><●>) 「死んで終わりの人生を、続きからやり直せるのだ。
それほど幸福なことがあろうか」
ξ#゚⊿゚)ξ 「違う!! 同じ記憶を持っていたとしても、魂は宿らない」
( <●><●>) 「問答をするつもりは無い」
( <●><●>) 「ここがお前の墓場だ」
指を弾いたワカッテマス。
その音が空間に響き渡り、一番近くの保管庫が開かれた。
( <●><●>) 「どうやらお前には、こっちの方がつらいらしいな」
それはクールの身体を持つ半人半機の抜け殻。
彼女は一矢身に纏わぬ姿で、羞恥心を見せることなく真っ直ぐに歩いてくる。
( <●><●>) 「命令だ。そのメカニック、ツンを破壊しろ」
129
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:35:05 ID:whrL/yB20
川 ゚ -゚) 「ここは……」
( <●><●>) 「問うことは許されない。目の前の違反者を殺せ」
川 ゚ -゚) 「……はい。了解しました」
ワカッテマスから剣を受け取ったクール。
その困惑も、動揺も、私を見る目すら全く同じ彼女。
今はもう死んでしまったクールそのものであった。
記憶を貼りつけられたクールは、躊躇うことなく切りかかって来る。
その刃を受け止め、いなし距離をとろうと跳び下がった。
川 ゚ -゚) 「どうして規則を破ったんだ、ツン」
ξ;゚⊿゚)ξ 「私は……ッ!」
川 ゚ -゚) 「ツンを殺さなければならないなんて……。だがこれも仕事だ」
ξ;゚⊿゚)ξ 「お願いクール。やめて!」
川 ゚ -゚) 「あれほど言っただろう。サブメモリーシステムに登録しておけと。
そうすれば、今死んでも規則に違反する前の状態ですぐに帰ってこれるのに」
130
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:35:47 ID:x.eZxaY60
パラノイアか
131
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:36:05 ID:whrL/yB20
ξ ⊿ )ξ 「やめて……やめてやめてやめてえええ!」
その姿でものを言わないで!
その姿で私を見ないで!
その姿で……お願いだから攻撃してこないで……。
( <●><●>) 「これでごみ掃除は終わりだ」
心は、いともたやすく凍り付いた。
戦いの最中であるのに、無意識のうちに私の手から離れた剣。
膝は堅い床に崩れ落ち、両腕は抗う意思を失ってただ自らの身体を抱きしめる。
目を瞑って俯いていると、すぐに首筋に冷たいものが触れた。
( <●><●>) 「殺せ」
川 ゚ -゚) 「……はい」
泣いても喚いても、ここで果てるのはもはや変わらない事実。
クールの姿に動揺し、戦う事を躊躇った時点で勝敗は決していた。
私は、自分自身の愚かさに殺されるのだ。
132
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:38:05 ID:whrL/yB20
刃の振るわれる音がした。
この身を分断する音は、思っていた以上に軽く響いた。
「何諦めてるの、一緒に青空を見に行くんでしょ」
声が聞こえた。機械人形でありながら、人間らしい少女の声が。
失われてしまった意志を再燃させようと。
自己防衛の本能が見せる幻にしては、あまりにもリアルに。
あまりにも近くに。
閉じていた瞳を開くと、ぼんやりと彼女の姿が見えた気がした。
幻想と疑い瞬きをしてもなお、その存在は確かに目の前に。
ζ(゚ー゚*ζ 「まったく、私よりも年上なんだからしっかりしてよね」
既に全身に纏わりついていた死の気配はない。
闇を払う光のように、彼女が心に希望の焔を灯してくれた。
133
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:38:39 ID:whrL/yB20
ξ゚⊿゚)ξ 「そうね。ごめん」
ζ(゚ー゚*ζ 「許してあげる」
前を見据えて、立ち上がる。
満身創痍の肉体はあちこちが悲鳴を上げ、スーツに残るエネルギー残量は極僅か。
隣に立つ彼女も、相当に消耗していることは一目でわかった。
( <●><●>) 「貴様……どうやって……!」
ζ(゚ー゚*ζ 「仕組みさえわかれば大したことないわ。
ただ大容量のエネルギーを放出するだけ装置なんてね」
( <●><●>) 「っちぃ! 殺せ!」
相手は機械都市の保有するエネルギーを自由に操ることができる管理者。
その身体はいくらでも替えのきく空っぽの人形。
戦闘能力が皆無であるがゆえに、破壊は容易くとも殲滅は不可能。
ζ(゚ー゚*ζ 「絶望的ね」
ξ゚⊿゚)ξ 「でも」
134
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:39:09 ID:whrL/yB20
クール以外のスイーパーとメカニックも保管庫から、それぞれの武器を手に飛びかかって来た。
それらを振り回した刃で一蹴し、周囲に死骸の山を築く。
ζ(゚ー゚*ζ 「でも、まだ終われないよね」
ξ゚⊿゚)ξ 「ええ、ここを出るまでは!」
( <●><●>) 「役立たずが……!」
両腕を失ったデレは、脚を振り回して私の二倍の敵を破壊した。
残り少ないエネルギーは射出するよりも、
武器に流し込んで強化する方がずっと効率がいい。
強力なエネルギーに耐えることのできる構造躯体を持つ彼女だからこそできる技ではあるが。
そのデメリットも、彼女は当然知っている。
人工皮膚が弾ける青白い光で少しずつ融解していく。
ξ゚⊿゚)ξ 「抜けるわよ」
ζ(゚ー゚*ζ 「うん!」
一直線に、道を文字通り切り開いた。
壁のように重なる他の人間を斬り飛ばして、侵入してきた壁面の裂け目まで。
135
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:39:34 ID:whrL/yB20
川 ゚ -゚) 「止まれっ! これ以上罪を重ねるな!」
ξ゚⊿゚)ξ 「どきなさい、偽物」
クールの突きは鋭い。
前進する私の額を一直線に貫こうと剣先を、深く身体を沈めて避けた。
川;゚ -゚) 「なっ!?」
地を這うような姿勢で、さらにもう一歩加速した。
センチネルの左腕でその喉元を掴み、勢いに任せて地面に叩き付ける。
激しくバウンドしたクールは、背中に受けた衝撃で呼吸困難に陥っていた。
川 - ) 「かはっ……」
そのまま首を締め上げる。
機械によるサポートを受けて身体であっても、脳はほとんど人間のもの。
数秒間動脈を握るだけで、容易く意識を手放した。
ζ(゚ー゚*ζ 「ほんと、甘いわね」
ξ゚⊿゚)ξ 「これでいいのよ」
136
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:39:58 ID:whrL/yB20
(#<●><●>) 「糞糞糞!! 誰か早く止めろ!」
背後で喚いている機械都市の最高責任者のうちの一人。
あまりにも惨めなその姿を目に収めておくのも吝かではないが、
今はそれよりも重要な目的がある。
裂け目は、入って来た時よりもずっと拡がっていた。
センチネルが隊列を組み、進路を塞ぐ。
ξ゚⊿゚)ξ 「今更、止められるわけないでしょ!」
殴り飛ばした一体が、他の機体を巻き込んで倒れる。
ζ(゚ー゚*ζ 「もう少し優雅にしたら?」
転んだ機体の上に着地したデレは、一瞬で三体の核を刺し貫いた。
頭部の赤い光が失われ、起動停止を確認する。
ξ゚⊿゚)ξ 「いいの、これが私だから」
ζ(゚ー゚*ζ 「ふふ、ツンと一緒でよかったわ」
ξ゚⊿゚)ξ 「何よいきなり。どういうつもり?」
137
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:40:47 ID:whrL/yB20
ζ(゚ー゚*ζ 「だって、これから先も退屈しないでしょ。
私たちはどうなってるかわからない地上に向かうんだから」
(#<●><●>) 「行かせないと言っている! この機械都市から抜け出すことは許されていない!」
ξ#゚⊿゚)ξ 「うるさい!」 ζ(゚ー゚#ζ
.
138
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:41:21 ID:whrL/yB20
叫ぶと同時に、センチネルの機体を薙ぎ払った。
破壊した壁から外に出て、階段を駆け上る。
最上階は四角い部屋のようになっていた。
ξ゚⊿゚)ξ 「見えた!」
ζ(゚ー゚*ζ 「ここが……地上への出口」
三方を壁に囲まれ、残り一方にある両開きの鉄扉に描かれた白い数字は1。
センチネルですら悠々とくぐれるほどの大きさの扉は、閉ざされたまま。
取っ手は無く、付近には会場の為の電子端末もない。
扉というよりは、外界との繋がりを断絶させるような堅固な城壁を思わせる。
( <●><●>) 「はっ……! その扉は開かない! 開く方法は無い!」
ζ(゚ー゚*ζ 「だったら壊すまでよ」
デレの放った蹴りは、轟音と衝撃を生み出す。
大気を激しく揺るがした一撃は、扉の表面を傷つけるにとどまった。
ξ゚⊿゚)ξ 「堅すぎる……!」
139
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:42:14 ID:whrL/yB20
( <●><●>) 「当然だ。機械都市で最高硬度、最高重量を誇る合金なのだからな。
今の私たちの技術では加工することすらもままならない金属だ」
ζ(゚ー゚*ζ 「……それがどうしたの。私たちを止める理由にはならないわ」
( <●><●>) 「いや、お前たちはここで無様に死ぬことになる」
ξ゚⊿゚)ξ 「私たちに手も足も出ないあなたが、どうするつもり?」
( <●><●>) 「これだよ」
階下からゆっくりと上昇してきたのは、センチネルの三倍はあろうかという巨体。
それを支えるのは四脚の足。空間が狭く感じるほどのプレッシャーを放つ。
重武装に全身を固め、漆黒の装甲は艶やかに光る。
ξ゚⊿゚)ξ 「なっ!?」
ζ(゚ー゚*ζ 「大きければ強いわけ?」
( <●><●>) 「そうだ。これこそが機械都市の守護神。センチネルの上位機体。
ガーディアンだ」
140
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:42:47 ID:whrL/yB20
咄嗟にスキャン機能を起動する。
確認できるだけでも、機体内部に動力供給体が七つ。
頭部と胸部、そして腹部に大きな水晶が、
四脚の太い脚にそれぞれ小さいものが一つずつあった。
背部から伸びる太いパイプは、機械都市に繋がれている。
今もなお、加速度的に保有するエネルギー量は増加していく。
( <●><●>) 「ころ……せ……?」
勢いよく殺戮の命令を下そうとしたワカッテマスの首は、
胴体と別れを告げていた。
ζ(゚ー゚*ζ 「くどい」
ξ゚⊿゚)ξ 「手が早いわね」
ζ(゚ー゚*ζ 「足だけどね。これはいいとして、向こうは厄介ね」
正面に着地したガーディアンと呼ばれた機体。
その重量に、金属の床が音を立てて軋んだ。
ξ゚⊿゚)ξ 「コード:ブレイド」
141
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:43:44 ID:whrL/yB20
動きを見せないうちにその頭部を狙って突き出した刃。
目に留まらぬ速度で打ち出された何かに、剣が弾かれた。
ξ゚⊿゚)ξ 「えっ!?」
ζ(゚ー゚;ζ 「危ないっ!」
突き出された機械の指は、鈍重な外見からは予想もできない程素早い。
前傾姿勢で飛び込んでいた私は、デレに弾き飛ばされることでしか回避できなかった。
ξ;゚⊿゚)ξ 「っ! デレ!」
私を突き飛ばしたデレは、当然その場に残ることになる。
彼女を掴んだガーディアンはその華奢な身体を握りつぶそうと締め付ける。
ξ゚⊿゚)ξ 「コード:ブレイド!」
弾かれて機能不全に陥っていた機械武器を再起動する。
再び大剣の形状をとり、その刀身に私から供給したエネルギーを纏う。
ζ(゚ー *ζ 「ああっ……!」
142
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:44:06 ID:whrL/yB20
ξ゚⊿゚)ξ 「今助ける!」
自分の身体よりも大きな腕に振り下ろした大剣。
その機体をを引き千切るほど力を込めた一撃は、表面に触れる前に弾かれた。
ξ゚⊿゚)ξ 「えっ!?」
「馬鹿め! ガーディアンの装甲はコスト度外視のプラズマ装甲だ!」
憎たらしいワカッテマスの声が期待の内部から響く。
一層強く握られた拳の中で、デレが悲鳴を上げた。
ζ( ー *ζ 「う……ぐぐぁぁ……」
「機械人形を潰したら、どうなるのだろうな。
まさか血液が飛び散ったりはしまい」
ξ;゚⊿゚)ξ 「デレっ……!」
降り注ぐ銃弾と光線を避けながら、何度も何度も、腕を狙って剣を振るう。
必死になって叩き付けた刃は、見えない壁に阻まれて一ミリたりとも届かない。
143
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:44:40 ID:whrL/yB20
ξ゚⊿゚)ξ 「くそっ……!」
ζ( ー *ζ 「かん……せつ……に!」
ξ゚⊿゚)ξ 「っ!」
手首の関節に剣先を突き出す。
阻む抵抗は腕よりもはるかに弱く、二度目の斬撃が関節部分に突き刺さった。
そのまま全体重を込めて大剣を押し込む。
光が弾けて握力が弱まった。
その隙に逃げ出したデレは、ガーディアンから飛び退いて距離をとる。
「っち……小細工を」
ξ゚⊿゚)ξ 「ごめん……手間取った。大丈夫?」
ζ(゚ー゚*ζ 「うん、まだなんとか動ける」
「だが所詮小細工は小細工。お前達にはこのガーディアンを破壊することはできない」
ζ(゚ー゚*ζ 「そんなわけ、無いでしょ」
144
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:45:20 ID:whrL/yB20
叫び返すデレの声には力がない。
損傷は私が思っている以上に大きいのだろう。
「ガーディアンはこの機械都市が存続する限り、無限に動き続けることができる!
お前たち程度が勝とうなどと片腹痛い!」
ζ(゚ー゚*ζ 「まずは後ろのパイプ。あれが一番面倒だから」
ξ゚⊿゚)ξ 「その次は頭。装甲が一番薄いわね」
ζ(゚ー゚*ζ 「なんだ、解ってるじゃない」
ξ゚⊿゚)ξ 「当然でしょ、行くわよ!」
同時に跳び込んだ。
巨体を前にして、デレは左からその脚力でもって一瞬で背後に回った。
彼女の動きをサポートするために、私は正面から剣を叩き付けた。
その剣先は掴まれ、ピクリとも動かない。
ξ゚⊿゚)ξ 「まだ……! コード:デブリ!!」
掴まれた剣は細かい破片へと散らばり、その姿を失う。
145
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:45:49 ID:whrL/yB20
ξ゚⊿゚)ξ 「コード:ライフル!」
再起動にかかる時間は数秒。
こちらに伸ばされた腕を掻い潜り、ゼロ距離に飛び込んだ。
頭部の赤い光に向けて、引き金を引く。
「なっ……!」
ξ゚ー゚)ξ 「っ……! どうだ!」
白煙の中、大きくひび割れた頭部。
その隙間から動力供給源となっている水晶が見えた。
至近距離での攻撃で、こちらの損害も小さくはなかったが十分な成果だ。
爆風を抑え込むように向けたセンチネルの左腕は、跡形も無い。
「だが……!」
巨体の後ろで大きな爆発音。
吹き飛ばされていたのは、デレの小さな身体。
ξ;゚⊿゚)ξ 「デレっ!?」
146
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:46:24 ID:whrL/yB20
小さな身体は壁に叩き付けられて動かない。
正面の攻撃を囮と断定して頭部の破壊を許したのは、背後に集中するためか。
私よりも、あの小さな機械人形の少女を重く見たという事。
その身体を抱き上げるために近寄るには、ガーディアンが邪魔だ。
ξ#゚⊿゚)ξ 「退けえぇ!!」
「はっ! あの人形さえ壊してしまえば、お前など大した敵ではない!」
怒りで我を見失っていたわけではない。それでも、普段よりも確実に鈍っていた判断力。
羽虫を掃うかのように振るわれた腕が避けられない。
ξ゚⊿゚)ξ 「ぐっ……!」
デレが遠のく。
扉に叩き付けられて、失いかけた意識を引き留める。
こちらに背を見せているガーディアンは、気絶しているデレの身体に拳を振り下ろした。
ξ;-⊿-)ξ 「っ……!」
思わず目を逸らす。
何度も何度も、無慈悲な金属音が響く。
不愉快な笑い声と共に。
147
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:47:02 ID:whrL/yB20
「はははははは!……は?」
間抜けな声に引っ張られ、恐る恐るデレの姿を探す。
大きくへこんだ金属の床に、少女の残骸はない。
呆気にとられて、辺りを見回してすぐに気づいた。
センチネルの背後のパイプ、その接続部にデレはいた。
「いつの間に……! もうエネルギーも尽きたはずなのに!!」
ζ(゚ー *ζ 「そうね、もう本当に限界。でも……」
ワカッテマスも同時に気付いたらしく、その背に向けて両腕を伸ばした。
だが、もはや遅い。
デレはパイプを力ずくで引き千切った。
「糞があああ!!」
ζ(^ー^*ζ 「あなたの言う通り、私自身にはもうエネルギーは無いわ。
でも、ここにあるじゃない」
「しまっ……!」
148
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:48:55 ID:whrL/yB20
都市からガーディアンに供給されている無尽蔵のエネルギー。
それをデレは吸収し始めた。
ξ゚⊿゚)ξ 「デレ!」
ζ( ー *ζ 「ああああああああああああ!!」
無茶であるのは、彼女の叫びから一目瞭然であった。
デレの小さな体の中には、エネルギーを蓄積するためのバッテリーはある。
充電能力も、発電能力も、機械都市のそれと比べると規格外の性能を持つ。
だとしても、流れ出るエネルギーそのものから直接供給することは不可能だ。
無理にエネルギーを得ようとしているせいで、
身体がばらばらに分解されるような痛みの信号が、彼女の全身を襲っているはず。
「っち、供給を止めるしかないか。だが、今ある残量でも十分だ」
折れた水道管から溢れ出る水のように流れ出て来ていたエネルギーは、
大元であるバルブを閉められて止められた。
ζ(゚ー *ζ 「あ……あはっ……はっ……もう少し……欲しかったわね」
「忌々しい機械人形が……!」
149
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:49:22 ID:whrL/yB20
「っち、供給を止めるしかないか。だが、今ある残量でも十分だ」
折れた水道管から溢れ出る水のように流れ出て来ていたエネルギーは、
大元であるバルブを閉められて止められた。
ζ(゚ー *ζ 「あ……あはっ……はっ……もう少し……欲しかったわね」
「忌々しい機械人形が……!」
ζ(゚ー゚*ζ 「ツン……まだ戦える?」
ξ゚⊿゚)ξ 「もちろんよ」
ζ(゚ー゚*ζ 「倒すわよ、このデカブツ」
ぼろぼろ身体に鞭を打って立ち上がる。
限界を超えてなお戦う少女の横に並ぶために。
何処までも続く青空を見に行くために。
デレの笑顔を見るために。
ξ゚⊿゚)ξ 「行くわよ!」
ζ(゚ー゚*ζ 「ええ!」
150
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:49:45 ID:whrL/yB20
今度は私から巨体に向かって駆けた。
その頭部のむき出しになった動力部を狙って、機械武器を起動する。
ξ゚⊿゚)ξ 「コード:ランス」
貫通力に特化した武器。
多少前後左右に逃げようとも、確実にその頭部を貫くために。
刺突を受け止めるかのように、両の腕が頭の前に掲げられた。
ξ゚ー゚)ξ 「ふふっ……」
「壊れろおおおおおお」
ガーディアンの正面装備、両肩と腰のレーザー砲が一斉に火を噴いた。
それらは束になり、大気を焦がして私の軌道を狙う。
「ちいっ!!」
デレの電磁フィールドが瞬間的に展開された。
光条は、幾筋にも分散されて消えていく。
「だが! この装甲は貫けまい!」
151
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:50:21 ID:whrL/yB20
ξ゚⊿゚)ξ 「残念、いくら性能が良くても操縦者が悪ければ救われないわね」
狙いは端から両腕の関節。頭部の前で交差された手首の関節に、一撃ずつおみまいする。
力なくだらりと開かれた指先、その間隙をぬって差し込まれた一筋の光。
後方、開かずの扉の前で待機していたデレの狙撃は、一発で水晶を穿った。
「き、き、きき……貴様らああああああああああ!」
溜め込んだエネルギーが一気の放出され、大爆発を起こす。
がむしゃらに振り回される両腕を掻い潜り、脚部の関節にランスを突き刺す。
「くそっ! くそおおおお!」
四脚全ての動きを封じたところで、足元に向けて鉄をも溶かすレーザーが放射された。
闇雲に床を削る攻撃を避けてデレの元に戻る。
再び火を噴いた重兵装をデレが全て捌き、彼女と共に扉を駆けあがった。
ζ(゚ー゚*ζ 「いくわよ」
ξ゚⊿゚)ξ 「準備は出来てるわ」
上空から戦闘機械を見下ろす。
鈍重にして巨大なガーディアンの対空火器が、全てこちらを狙っている。
その一つ一つの威力は絶大だが、デレの電磁フィールドを貫通するほどではない。
152
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:51:17 ID:whrL/yB20
ならば遠距離から削り倒すのが正解だが、こちらもまたそこまでの火力を持っていない。
狙いは一つ。可動部の破壊による行動不能化。
それを為すための条件は整えた。
無限供給パイプの切断で、プラズマ装甲は無効化した。
頭部の水晶は破壊し、脚部の関節はもはや自由には動かせない。
狙いは装甲に接続された銃火器の接続部。
両肩にそれぞれ四基の砲門。
腰部に二基の軽機銃。腕部に展開可能なプラズマブレード装備。
背部にミサイル発射装備十二門。
脚部にレーザーポインター各二個。
全てを破壊し終われば、私たちの勝ちだ。
各砲門に光が収束していく。
空中戦闘が出来ないガーディアンだけあって、対空装備は充実している。
一斉砲撃がどれだけの密度になるのかは、あまり考えたくはない。
それでも、デレと一緒ならなんでもできる気がした。
ζ(゚ー゚*ζ 「……任せたわよ」
.
153
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:51:44 ID:whrL/yB20
その言葉の真意を問う前に、ガーディアンから視界を埋め尽くすほどの砲撃が放たれた。
一直線に迫るレーザーその直後に迫るミサイル弾頭、逃げ道を塞ぐようにばら撒かれた小銃の弾丸。
その全てを、デレの電磁フィールドが防ぐ。
爆炎の中を突き抜けた。
ξ#゚⊿゚)ξ 「はあああああっ!!」
右の肩から一直線に叩き付けた大刀。
装甲を食い破り、腕を切り離す。
そのまま腰部の軽機銃と一脚を分断した。
弾ける機械片。ハインから奪った機械武器は、エネルギーを使いつくして通常の直方体へと戻った。
もはや私のスーツにも、自分の運動能力を底上げするだけの最低限のエネルギーしか残っていない。
これ以上、機械武器の運用はできない。
「貴様ああああああああああ」
ξ゚⊿゚)ξ 「これで……終わりッ!」
154
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:53:39 ID:whrL/yB20
脚を失って大きく傾いたガーディアン。
その内部にいるであろうワカッテマスの言葉。
その意味を私は理解できなかった。
「は……ははは……相打ちか」
ξ゚⊿゚)ξ 「……ッ!?」
その巨大さゆえに気づくのが遅れていた。
デレの受け持っていた右半身の装備が、一つも破壊されていないという事に。
焦って離れようとした自分を何とか押し留めた。
自分の近くにある装備はすべて破壊したのだ。
むしろ張り付いてる方が安全。
ξ゚⊿゚)ξ 「デレっ?」
少女の姿は何処にもない。その声も、反応も、完全に消えていた。
155
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:54:24 ID:whrL/yB20
少女の姿は何処にもない。その声も、反応も、完全に消えていた。
ξ゚⊿゚)ξ 「嘘でしょ……」
「愚かなメカニックよ。あの機械人形は、自身を護るフィールドを張らなかった。
それゆえにガーディアンの火力の前に撃墜された」
ξ゚⊿゚)ξ 「そんな……なんで……」
「もはや貴様を滅するのは為されたも同然。聞こえるか、絶望の足音が!」
機械の足音。
一機や二機どころではない、空間を揺るがすほどの数。
「ひとおもいに殺してやってもいいが、それでは私の気が収まらない。
センチネルで全身をバラバラに引き裂いてやろうか。
それとも、あのスイーパーに仕事をさせてやろうか」
ξ ⊿ )ξ 「デレ……」
156
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:54:47 ID:whrL/yB20
こちらに向き直ったガーディアンの砲門が頭と心臓を狙う。
もう逃げる気力は残っていなかった。
私一人の力では残りの兵器全てを破壊するのは不可能。
詰み。デッドエンド。行き止まり。
それらを打破する力も、気概も失われた。
これならまだ、デレが生き残っていた方が良かった。
むざむざ殺されるだけの私を助けた彼女は、最期に何を考えていたのか。
もはや問う機会は無い。
センチネルの軍勢が、階下から現れた。
勝利を声高々に叫ぶかのように。鉄の床を荒々しく踏み馴らす。
「はーっはっはっは!! 散々手こずらせてくれたが、これで本当に終わりだ!。
センチネルよ! その娘を蹂躙せよ!」
157
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:55:18 ID:whrL/yB20
「なーにぼさっとしてるの?」
.
158
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:55:51 ID:whrL/yB20
ξ゚⊿゚)ξ 「え……?」
爆音と共に、規則正しく並んだセンチネルは半ばから吹き飛んだ。
ただの一撃で、目測でもニ十機以上が残骸となる。
残った機体も何が起きたのか理解できずに、エラーを吐き出して動きを止めた。
「な、なにが起きている……!!」
爆発の中心、一機だけ無事なセンチネルのカラーリングが白から金に変わっていく。
美しく、煌びやかなその姿は、敵機であれど息を呑むほど。
「ツン! 最後のひと踏ん張り!」
少女の面影などどこにもなかったが、声を聞いた時には体が動いていた。
残った僅かなエネルギーを振り絞り、鉄機を変形させる。
ξ゚⊿゚)ξ 「コード:ジョーカー!!」
鉄機は収束され、手に収まるほどの小さなナイフとなる。
それを肩のレーザー砲に向けて投げつけた。
「させるかああああ!!」
159
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:56:58 ID:whrL/yB20
肩のレーザー砲が、溜め込んだエネルギーで暴発を起こす。
ジョーカーは機械武器の最終コード。
自身の持つエネルギーを機械に侵入させ、武器諸共に破壊する。
ξ゚⊿゚)ξ 「そうでしょ、ハイン」
ζ(゚ー゚#ζ 「これで、終わりっだあああああああ」
金色のセンチネルは近接用のブレードを振るい、半身の装備と二脚を叩き落とした。
崩れ落ちたガーディアンの駆動音が、ついに消失した。
ξ゚⊿゚)ξ 「デレ……それは……」
ζ(゚ー゚*ζ 「私の身体を中に仕舞って、乗っ取ってるだけ。
ほんと間抜けよね、これだけの装備を持つ武器をのこのこと昇らせて来るんだから」
ξ;⊿;)ξ 「デレぇ……!!」
飛びついた機体は、ごつごつして硬い。
少女とは全然異なる触り心地であっても、離れる気が起きなかった。
ζ(゚ー゚*ζ 「もう、どっちが子供なんだかわからないわ」
160
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:57:35 ID:whrL/yB20
「なぜだ……! なぜ、なぜなぜなぜだああああ!!」
ζ(゚ー゚*ζ 「私たちの勝ちよ」
それ以上、言葉を交わすことは無かった。
ぶつぶつと聞き取れない言葉を話し続けるワカッテマスを無視し、デレの肩に飛び乗る。
戦いの最中の流れ弾で大きな傷も幾つかついていたが、
依然として破壊できるような雰囲気は無い。
ζ(゚ー゚*ζ 「後はこれだけ」
ξ゚⊿゚)ξ 「でも、どうやって開けるの?」
ζ(゚ー゚*ζ 「センチネルのシステムから機械都市全体にアクセスしたんだけど、
機械都市側も知らないみたい」
ξ゚⊿゚)ξ 「あんまりゆっくりしている暇もないわ」
ζ(゚ー゚*ζ 「うーん……。私の記録にもない何者かがこの扉を作った。扉を作ったのよ。
人類をこの機械都市に閉じ込めるだけなら、扉なんて必要なかった」
161
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:58:02 ID:whrL/yB20
デレはセンチネルの身体で扉の表面をなぞる。
隠された端末を探しているのだろう。
センサー系を起動し、扉全体と付近御スキャンを開始する。
ξ゚⊿゚)ξ 「何もないわ」
ζ(゚ー゚*ζ 「私も見つけられなかった」
「ははは……だから言っただろう……その扉は開かないと」
ξ゚⊿゚)ξ 「まだっ……!」
倒れた時のまま動いていないガーディアンは、胸部の装甲を取り外し、
内部にある最も巨大な水晶を露出していた。。
本来は青い輝きを放っているはずの動力源は、燃えるように赤い。
ζ(゚ー゚*ζ 「なにを……」
「なに、オペレーターである私には、この機械都市のルールを徹底する義務がある。
何者も外に出さないというのが、そのうちの一つだ」
162
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:58:36 ID:whrL/yB20
ξ゚⊿゚)ξ 「ふん、だったらどうするってのよ」
「こうするんだよおおおおお!!」
赤く輝く水晶は、遠目からでもわかるほど強く脈打った。
目に見えるほどの濃密なエネルギーがガーディアンを中心に溢れ出す。
ζ(゚ー゚;ζ 「まさか……!!」
「死に際を見れないのは残念だ」
ξ;゚⊿゚)ξ 「っ! 自爆するつもり!?」
膨れ上がっていくエネルギーは、空間を満たしていく。
逃げ場などないことは明らかであった。
ζ(゚ー゚;ζ 「ガーディアンにはもうエネルギーが残ってなかったはずなのに!」
「先程君が言ったばかりだろう。そこにあるセンチネルの残骸。
その動力源を全て繋げただけだ」
163
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 22:59:25 ID:whrL/yB20
ζ(゚ー゚;ζ 「ツン!」
いきなり力強く引っ張られた。
胸部装甲が開き、センチネルの身体の中に閉じ込められる。
ξ;゚⊿゚)ξ 「何をするつもり! 出して! ねぇお願い!」
内側から叩く。
その音は外には届いていないだろうが、デレから通信が届いた。
ζ(゚ー゚*ζ 「大丈夫、ツンは私が護るから」
腕も足もない姿で、それでも凛とデレは立つ。
「全て消えろおおおお!!! ははははははっははは!!!」
膨大な光と熱の放出と共に通信は切れ、激しい衝撃で気を失った。
164
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 23:02:49 ID:whrL/yB20
◆
「っ……!」
がんがんと鳴り響く頭痛。
記憶がはっきりとせず頭を抑えて蹲っていた。
立ち込める熱気と、鉄が焦げた臭い。
両足を自由に伸ばせない狭い空間は所々が溶解し、隙間から無機質な光が降り注いでいた
立ち上がることすらもままならない場所で、
頭痛が収まるのをじっと待つ。
直前の記憶が思い出せずない。
自己診断をした結果、自身の置かれている状況だけを把握した。
165
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 23:03:40 ID:whrL/yB20
左腕の肘から先、消失。
視覚サポート、不良。
右脚の駆動関節、一部破損。
運動能力サポート、不可。
スーツエネルギー残量、無し。
膨大な熱量によるオーバーヒート寸前。
読めばきりがないほどの状態。
ようやく痛みが収まって来た頭で、この狭い空間を出ることを決めた。
目の前の溶けかけた装甲板を蹴り飛ばす。
人間の力でも易々と壊れるほど痛んだ鉄くずは、大きな音を立てて転がった。
外の世界に拡がっていたのは、想像以上の光景。
ξメ⊿゚)ξ 「っつつ……」
溶けて変形した壁と、地面。爆心地らしき場所にあいた巨大な穴は、爆発の凄まじさを窺わせた。
あらゆる残骸が粉々になり、壁面にうず高く積み上がっている。
付近の材質とは異なる背後の壁も、人一人が通れるほどの隙間を開けるほどに歪んでいた。
166
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 23:04:42 ID:whrL/yB20
ξメ⊿゚)ξ 「一体……何が……」
歩くだけでも焼けそうになるほど熱された床の上に立ち、
部屋全体にスキャンをかけた。
真っ赤に染まる一面の中で、ごくわずかに光った生体反応。
見逃してしまいそうなほど小さなそれは、歪んだ壁の前の残骸から発せられていた。
ξメ⊿゚)ξ 「誰かいるの……?」
右手が焼け付くのも構わずに、鉄くずの山を掘り起こす
大切な何かがそこにある気がして、必死になって腕を動かす。
右腕一本しかないせいで、手間がかかるのがもどかしい。
残骸にまみれていたのは、人型の機械。
抱き起した華奢な骨格の頭蓋に残った小さな光が、明滅した。
酷くノイズの混じった音が、私の名前を呼んだ。
「ツ……ん……?」
167
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 23:05:13 ID:whrL/yB20
その瞬間に、記憶の奔流に飲み込まれた。
密度の濃い流れに意識を失わない様に、歯をくいしばって耐える。
巨大な機械
真っ赤な水晶
狭くて暗い部屋に閉じ込められた
外に残ったのは一人
大切な友人
大事な仲間
機械人形の少女
人間よりも、ずっと人間らしい少女
168
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 23:06:09 ID:whrL/yB20
全てを思い出した瞬間に、その名前を叫んだ。
途端に溢れ出て来る大粒の涙。
胸のうちの押し寄せた感情を、堪えることなどできるはずもない。
ξメ⊿;)ξ 「デレ!!!」
ζ( *ζ 「ナき……むし……ね……」
ξメ⊿;)ξ 「デレ! デレ! デレ!」
冷たいその身体を、必死になって抱きしめる。
壊れてしまいそうなほど優しく、二度と離すまいと力強く。
ζ( *ζ 「とびラ……ハ……?」
ξメ⊿;)ξ 「あいた……! あいたよっ……!」
修理など望むべくもない、完全な破壊。
命が残っているのすら奇跡。
彼女は、そんな状態にありながらでも、腕を伸ばして私の涙をぬぐった。
止め処なく流れ続ける涙は、少女の手の甲に受け止められる。
ζ( *ζ 「アッタ……かい……」
169
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 23:06:50 ID:whrL/yB20
ξメ⊿;)ξ 「っ!!」
ζ( *ζ 「そト……みたカったなぁ……」
その一言で、彼女は既に視力すら失ってしまったのだと気付いた。
デレに辛うじて残されているのは、僅かな聴力のみ。
軽くなってしまった彼女の身体を抱き上げ、扉の隙間から外に出る。
狭く苦しくなるようなトンネルの先に、光が見えた。
光に包まれるようにして、私たちはゼロ層───地上に足を踏み入れた。
ζ( *ζ 「アお……ぞら……かな?」
ξメ⊿;)ξ 「うん! うんっ! ずっと向こうまで拡がってる!
誰も届かないくらいに、ずーっと先に」
ζ( *ζ 「そっカぁ……ヨかっ……タ……」
ξメ⊿;)ξ 「デレ、きれいな湖があるよ。向こうの山は、緑でいっぱい。
鳥が飛んでる! 本物は初めて見た!」
彼女は視認出来ない。
だから伝える。言葉にして、全てを。
彼女が望んでいた、外の世界の全てを。
170
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 23:08:09 ID:whrL/yB20
ξメ⊿;)ξ 「デレ、魚がはねたわ。風にね、香りがあるの。とても優しいかおり。
くもが本当に浮かんでる。しろくてふわふわで、お菓子みたい」
ζ( *ζ 「うン……」
ξメ⊿;)ξ 「デレ、大きな羽をもつ虫が飛んできたわ。ひらひらと風に揺られて飛んでるの。
とてもかわいくてきれい」
ζ( *ζ 「ウん……」
ξメ⊿;)ξ 「デレ……! デレ……!」
ζ( *ζ 「ひトり……に……しテ……ゴめんね」
ξメ⊿;)ξ 「いいえ、私たちはずっと一緒よ。これからもずっと」
弱々しい光の明滅が、だんだんと緩やかになっていく。
それは、彼女の心臓の輝き。
残された極々短い時間の中で、精一杯私は腕の中の少女に話しかけ続けた。
ζ( *ζ 「ツン……」
ξメ⊿;)ξ 「なに?」
ζ(^ー^*ζ 「ありがとう」
171
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 23:08:54 ID:whrL/yB20
可愛らしかった少女の造形は、爆発の衝撃と熱気で失われてしまった。
それでも、私はそこにかつての笑顔を見た。
ゆっくりと、眠る様に静かになった少女の身体を抱いて立ち上がる。
せめて、彼女の大好きだった世界に包まれて眠れるようにと、
ただただ彼女の安寧を願って。
一歩ずつ、踏みしめるように歩く。
彼女が歩きたかったはずの大地と、
彼女が感じたかったはずの風と、
彼女が触れたかった地上の全てを想って。
私は歩く。
行き先はわからない。
行き方もわからない。
それでも、歩みを止めることは無い。
私は歩く。
彼女と一緒に夢を見れる場所を探して。
172
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 23:10:02 ID:whrL/yB20
E N D
173
:
名無しさん
:2017/08/24(木) 01:58:41 ID:eKVL3TAg0
乙…すごくよかった。
ハイン視点の話とかも見てみたくなる。
174
:
名無しさん
:2017/08/25(金) 08:25:07 ID:GodUFYao0
バッドエンドやめてよぉ…
175
:
◆TflJu3mvXc
:2017/08/27(日) 01:08:20 ID:YPyRLyrg0
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】
176
:
名無しさん
:2017/08/27(日) 12:05:53 ID:/IDBt/Zo0
乙
177
:
名無しさん
:2017/09/02(土) 20:51:24 ID:/GZOcmjM0
ハインがいいキャラしてるわ
世界観がとてもよかった、乙
178
:
名無しさん
:2017/09/08(金) 09:58:04 ID:1Ojhey.c0
乙
懸命なツンがかっこよかった
179
:
名無しさん
:2017/09/08(金) 23:21:18 ID:HcfJYqls0
こういうディストピア作品、ほんと好き
もっと評価されるべき
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