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ξ゚⊿゚)ξ銃声が響いたようです

1 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 05:06:41 ID:SUwvt9Yg0
・紅白
・百合

70 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:05:19 ID:SUwvt9Yg0
ξ゚⊿゚)ξ「障害がなくなった気分は」

私は大きく呼吸をした。

ξ゚⊿゚)ξ「執拗にあいつとくっつけようとしたのはさ、あんたが諦める理由が欲しかっただけなんじゃない?
ああ、その後ろめたさでツンはブーンが好きだと思い込もうとしたのかしら。いつのまにか本気になっていたみたいだけど」

川 ゚ -゚)「……諦めるもなにも、私はドクオと付き合っているじゃないか」

ξ゚⊿゚)ξ「ドクオに心を動かされたのも本当だろうけど、
それも理由作りよね。私にはドクオがいる、それでいい。そうでしょう?」

川;゚ -゚)「……探偵気取りもいい加減にしてくれないか。私は本当にあいつが好きなんだ」

どうなんだろう。そこは分からなかった。
でも、この取り乱しようを見るに、天秤を揺れ動かすことは可能だと思った。

71 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:05:46 ID:SUwvt9Yg0
川 ゚ -゚)「それに、私はお前たちに幸せになって欲しかったんだ」

ξ゚⊿゚)ξ「余りものをくっつけて心の平穏を手にしたかったのね。まあ、もう大丈夫よ。内藤は誰のものでもないんだから」

川 ゚ -゚)「……なにが言いたいんだ」

ξ゚⊿゚)ξ「妥協していいの? って話」

それは、自分に問いかけるようでもあった。

川 ゚ -゚)「妥協……?」

ξ゚⊿゚)ξ「別になにも恐れることなんてないのよ、
駄目でもドクオはキープ出来るから。あいつはあんたにベタ惚れだしね」

川 ゚ -゚)「……お前、おかしいよ」

ξ゚ー゚)ξ「私はクーに幸せになって欲しいだけよ」

川#゚ -゚)「ふざけるな!」

一歩足を踏み出したクーは、私に飛び掛からんばかりの勢いだった。

72 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:06:23 ID:SUwvt9Yg0
ふざけてなんかないのに。

割と真面目に言っていた。今ならクーの気持ちが分かる。
だって、他人(ひと)の痛みではなくなったから。

……はぁ、そろそろきつくなってきたな。

ξ゚⊿゚)ξ「クーには言っておくわ、私はあんたたちに付き合う気はない。
だから適当にあいつを諦めさせといて。まあ説得してもいいけどね、
それは自由よ。でも今日は勘弁してくれると助かるわね、もう頭が限界なの」

クーはしばらく立ち尽くしていた。
膠着状態は一分前後続いた。その間、私は途切れそうになる意識を留めていた。

渋々といった様子でクーは部屋の外へ向かった。

73 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:06:49 ID:SUwvt9Yg0
ξ゚⊿゚)ξ「……ああ、見舞いの品は持っていって」

川 ゚ -゚)「……なあ、一つだけいいか」

ξ゚⊿゚)ξ「またそれ?」

聞きたくないけど、聞かないといけないんだろうな。

川 ゚ -゚)「どうして、そうなってしまったんだ。私は悲しい」

ああ、思ったよりも心が痛いな。
被害者面なんてしちゃいけないのに。

私は抜け切らない憂鬱を息という形で吐いた。

ξ゚⊿゚)ξ「最初から私はこんなものよ。馬鹿には分からなかったか」

川 ゚ -゚)「……そうか」

クーは静かに言葉を返し、帰っていった。

74 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:07:36 ID:SUwvt9Yg0
私はしばらく仰向けになり、天井を見上げた。

そう、最初から私はこんなものだ。
だるい身体を起こして、たどたどしい足取りで部屋から出た。

閉めたドアに身を預け、一つ息を吐く。
喋りすぎた。神経も使いすぎた。大きい咳が出た。もう寝てしまいたい。だけど駄目だ。

壁に手を添えながら、目と鼻の先にある目的地へ進んだ。

75 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:08:13 ID:SUwvt9Yg0
上がり切らない腕でノックをした。ちゃんと聞こえているのかな。
荒い息で呼吸を繰り返している内に、鍵が開く音がした。

私はドアノブを回し、重い扉を手前に引いた。
ひどい顔が見えた。カーテンから漏れる薄明かりだけでも分かった。

不安げにこちらを見ているデレに私は倒れ込んだ。
電源が切れたような崩れ方だった。だから勢いはなかったと思うけど、
デレは衝撃で腰を床につけ、上半身だけで私を受け止めた。

76 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:08:39 ID:SUwvt9Yg0
「……お姉ちゃん?」

懐かしい呼び方だった。

「もう、大丈夫だから」

だから私もそれに答えることにした。
軽はずみに言っているつもりはなかった。

最初から、昔から私はこんなものだ。

心の中心にいるのは、いつだってデレだった。

77 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:09:27 ID:SUwvt9Yg0
「……大好き」

「……うん」

「……私ね、お姉ちゃんのことがずっと好きだった」

「……うん」

「……おかしいよね」

「……おかしいよ」

「……でもね、好き」

「……そっか」

「……大好き」

「……くるしいよ」

甘ったるい匂いに包まれながら、私の意識は溶けた。

78 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:10:24 ID:SUwvt9Yg0
(11)


母が私に浴衣の着付をするのは恒例行事だった。
幼子でもあるまいし、この年まで続ける必要もないだろうにと、
本人に訊くと、「手の掛からない娘だからこれぐらいはさせて欲しい」
「デレもどっかに行っちゃうしね」なんて返って来るものだから、
断るにも断れず、私は行きもしない夏祭りの準備に付き合っていた。

頃合いが来ると、母は父の手伝いへ外に出て行った。

取り残された私はテレビもつけず、
音楽も流さず、リビングのソファに座っていた。

79 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:11:03 ID:SUwvt9Yg0
無音の空間に落ち着きよりも圧迫感を覚えた。
鮮明に聞こえる秒針の音が重苦しい。

けれど、同時に待ち合わせをした相手への感情で、
高揚感も覚えていた。少し気が触れそうになる。

ζ(゚ー゚*ζ「待った?」

ξ゚⊿゚)ξ「結構」

ζ(゚、゚*ζ「そこは今来たところとか言うべきでしょうに」

ξ゚⊿゚)ξ「来るもなにもね……」

住んでいる家が逢瀬の場所とは滑稽なものだった。

80 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:12:31 ID:SUwvt9Yg0
ζ(゚、゚*ζ「というかどうしたのその格好」

ξ゚⊿゚)ξ「さあ? 然るべき相手の前なんだから然るべき格好をしてるんじゃない?」

ζ(゚ー゚*ζ「……えへへ」

ξ゚⊿゚)ξ「気色悪い」

ζ(゚ー^*ζ「かわいいの間違いでしょ」

ξ゚⊿゚)ξ「……ばーか」

ζ(゚ー゚*ζ「……上行こっか」

ξ゚⊿゚)ξ「……そうね」

私たちは急かされるようにして階段を上がった。

81 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:16:24 ID:SUwvt9Yg0
デレの部屋に入ったのは久々な気がした。
この前は倒れ込んだという表現の方が近かった。

改めて室内を見渡してみると、
あまり変わっていないような印象を受けた。

点在する暖色系の彩りは女性的ではあったけど、
そこから夜の駅でふらついている人種を結び付けられなかった。
ついでに、キャミソールに肩を出したトップスを重ねている、
現在のデレの姿にも結び付けられなかった。

82 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:17:28 ID:SUwvt9Yg0
ξ゚⊿゚)ξ「今更なんだけどさ、あんたあっちでなにやってんの」

ベッドに腰を下ろしている私は、同様に左で座っているデレに言った。

ζ(゚ー゚*ζ「遊んでる」

ξ゚⊿゚)ξ「知ってるわよそんなの」

ζ(゚、゚*ζ「まーねー。でもそうとしか言いようがないというか。
実りのあることもしてないし。まあ、お姉ちゃんがいないと楽だったなぁ」

デレは肩に掛かった巻き毛を人差し指で絡めた。

83 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:17:58 ID:SUwvt9Yg0
ξ゚⊿゚)ξ「……そんなに私ってお節介かしら」

ζ(゚、゚*ζ「そんなことないよー。でもね、
お姉ちゃんの傍にいるのは良いけど、周りに居ると、なんか嫌だった」

ξ゚⊿゚)ξ「……どうして?」

ζ(゚ー゚*ζ「自分の本性が飛び出てしまいそうだから」

私の瞳を見るデレの眼は熱を帯びていた。

ζ( ー *ζ「それ、脱がしにくいよね」

デレは俯き、私の左手を握った。
掌から伝わる体温が鼓動を少し速めた。

84 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:18:20 ID:SUwvt9Yg0
ξ゚⊿゚)ξ「文句を言うなら母さんに言って欲しいわね」

ζ(゚ー゚*ζ「……とてもじゃないけど言えないね」

ξ゚ー゚)ξ「ほんとね」

私たちが笑い合った理由は、多分どうしようもないものだった。

ξ ⊿ )ξ「……大丈夫だから」

ζ( ー *ζ「あはは、ごめん。……こんなつもりじゃなかったんだけどなぁ」

ξ ー )ξ「大丈夫よ。……私が一緒に寝てあげるから」

言葉は歪んでいくものだなぁ、と私の俯瞰的な部分が主張した。

85 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:20:06 ID:SUwvt9Yg0
ζ(゚ー゚*ζ「おかしいね」

ξ゚⊿゚)ξ「なにが?」

ζ(゚ー゚*ζ「昔はね、それを聞くと安心したのに、今聞くと凄いドキドキする」

デレは掴んでいる私の左手を胸に当てた。
自分より幾分かふくよかな感触があった。

ζ(゚ー゚*ζ「……わかるかなぁ」

ξ゚⊿゚)ξ「……わかるよ」

痛々しいぐらいに。

ζ(゚ー゚*ζ「……ねぇ」

ξ゚⊿゚)ξ「……なに?」

ζ(゚ー゚*ζ「……キスして、お姉ちゃん」

86 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:21:04 ID:SUwvt9Yg0
一線を越える行為だった。
きっと、私がそれをしてしまえば、
なにもかもが崩れ去っていくはず……なのだけど。

ζ(゚ー゚*ζ「どうしたの?」

あまり恐れはなかった。

ξ;゚⊿゚)ξ「意外と難しい」

あるのは、単純な気恥ずかしさだった。

ξ*゚⊿゚)ξ「……笑うな」

ζ(゚ー゚*ζ「ごめんごめん。かわいいなと思って」

ξ゚⊿゚)ξ「……今更だけど、私たちって救いようのないナルシストよね」

ζ(^ー^*ζ「私たち、なんだね」

ξ゚⊿゚)ξ「……いつからそんな言葉を使うようになったのかしらね」

87 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:21:26 ID:SUwvt9Yg0
目の前の余裕ぶったにやけ面がむかついた私は、
デレの肩を掴み、唇で生意気な口を塞いでやった。

不意をつかれたデレは戸惑っていた。
けれど、すぐに私の方が圧される形になった。

唇の中にデレの舌が挿し込まれると、
平衡感覚があやふやになり、境界線は瞬く間にふやけた。

徐々に傾かされていた背中がベッドにふわりと着地する頃には、
私の脳内はざらつきと水音に支配されていた。意識がぼんやりとする。

唇が離れてからどのぐらい後だろうか。明瞭な視界が戻ったのは。

88 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:22:11 ID:SUwvt9Yg0
ξ゚⊿゚)ξ「……息が上がり過ぎよ」

デレは私を両腕で挟んだ体勢で荒い呼吸をしていた。

ζ(゚ー゚;ζ「な、なんでそんな慣れてるのかな」

ξ゚⊿゚)ξ「あんたがやり過ぎなだけ」

ζ(゚ー゚;ζ「返す言葉もございません……」

デレは右腕だけを上げ、人差し指で首を掻いた。

ξ゚⊿゚)ξ「そんな急停止されても困るんだけど」

ζ(゚ー゚;ζ「でもさ」

デレはだらんと右腕を再びベッドに付けた。
私の頬を甘い匂いのする金髪がなぞった。

89 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:22:47 ID:SUwvt9Yg0
ξ゚⊿゚)ξ「でももだっても禁止」

人差し指をデレの唇につけ、私はそれを言った。

「いいよ、デレの好きにして」

私は精一杯の笑顔を作った。
ピタリと、デレの動きが止まった気がした。

「……脱がすね」

少し間を置いて、デレは私の服を掴んだ。
興奮を帯びた手つきはやがて荒々しくなり、
フローリングの上に投げ捨てられた浴衣はしわくちゃになっていた。

それからは、あまり覚えていない。
一つ、記憶に残っているものを挙げるとするなら、
心臓の音と呼応するように弾ける打ち上げ花火の音だった。

あれは、きっと銃声に似ていた。

90 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:25:56 ID:SUwvt9Yg0
(12)


校舎裏は避暑地にするには優れた場所だった。
月の値が九に変わっても、気候的には然して変わらないもので、
日射しを遮断しているコンクリートに身を預けるのは心地が良かった。

校舎裏は告白をするには優れた場所だった。
視界の端から端に植えられた木々の葉が揺れ動く様や、
聴覚をすり抜ける生徒達の喧騒が、少し遠くに感じられる。

校舎裏は秘め事を語るにはお誂え向きの場所だった。
まあ、それが、甘酸っぱい内容ではないにしろ。

91 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:26:30 ID:SUwvt9Yg0
('A`)「説明、してくれないか」

私が足を止め、壁に寄りかかったせいか、
少し右斜め前方に立っているドクオが言った。

ドクオの肌はすっかり焼けていた。
夏の間も部活に明け暮れていたのだろう。
それは健全さの象徴にも見え、私はおかしいなと思った。

ξ゚⊿゚)ξ「ブーンとクーがどうって話?」

対して、私の棒切れを彷彿とされる腕は、
季節と不釣り合いな白さを保っていた。

例年と比べても異質な色を纏い、髪も下ろしている私の姿は、
ドクオの目から見ると奇妙なものに映っているかもしれない。

92 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:26:53 ID:SUwvt9Yg0
('A`)「そうだな。悪い物言いだとは分かっているが、
この際訊かせてもらう。……お前なんかしたか?」

ξ゚⊿゚)ξ「あんたってほんといい奴ね。そんなに気を遣わなくていいわよ」

私はドクオから視線を逸らし、肩に垂らした髪を人差し指で巻いた。

('A`)「……俺は、お前だって悪い奴には見えないが」

ξ゚⊿゚)ξ「どうかしらね。でも正しいか間違っているかで考えるなら明らかに後者なのよ」

自分の物差しというもので計れば別だけど、
倫理や常識というもので計れば明らかに後者だった。

そして、ドクオという人間は明らかに前者だった。

私は本当におかしいなと思った。

93 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:27:43 ID:SUwvt9Yg0
ξ゚⊿゚)ξ「実際、クーを焚き付けたのは私だしね」

('A`)「……そうか」

ξ゚⊿゚)ξ「もうさ、ブーンに未練たらたらなのはいいけど、
私を使って晴らそうとするのはやめて欲しかったのよね。
それでいて自分の正しさをあまり疑わない娘だったでしょ、クーって。
だから私も苛立ってきてさ、今言ったようなことをぶつけたの」

半分ぐらいに切り取った言葉だった。

本当に欲しいものへ手を伸ばせずにいるクーに同情したとか、
その後の顛末がどのようなものか気になったとか、
三人で固まっていたら付き纏われそうだからとか、
そういう部分は伏せた言葉だった。汚い言葉だった。

目も合わさずにいたから、ドクオの表情は分からなかったけど、
多分、苦虫を噛み潰したような顔をさせてしまっている。

94 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:28:32 ID:SUwvt9Yg0
('A`)「……なあ、お前にとってブーンってなんだったんだ?」

ξ゚⊿゚)ξ「友達以上恋人未満ってやつじゃない? 周りが想像してたものとは違うでしょうけど」

響きと違い、甘酸っぱさはなかった。
友達から恋人への距離はどうしようもなく遠くて、進む速度も牛歩で、
縁が腐れ切ってくるころにやっと変化が見られるような、そんな関係。

もっと言えば、代替品でしかなかったのかもしれない。
教科書かなにかを忘れたブーンに私が声を掛けたのは、
少しずつ独立するデレに、無意識の不安を覚えた時期だったのかな。

隙間を埋めたかった。簡潔に言えばそれだけで説明出来た。
結局は満たされず、こんなことにしてしまったのだけど。

95 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:29:21 ID:SUwvt9Yg0
('A`)「……どこで間違えたんだろうな、俺は」

物音に反応し首を動かすと、俯き、座り込んでいるドクオが見えた。
心なしか、昔のような薄い身体に錯覚させた。

ξ゚⊿゚)ξ「なにも間違えてないわよ。周りがおかしいだけ」

一念発起し、運動部に入り、血反吐を吐くような努力をして、
必死にクーにアプローチしたドクオに落ち度はないはずだった。
けれど、それを主導したのはブーンだった。それだけの話。

別に、選択は間違っていなかった。問題は、元々のランクだった。

ξ゚⊿゚)ξ「……でもね」

私は身勝手な感情で口を動かした。

96 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:30:31 ID:SUwvt9Yg0
ξ゚⊿゚)ξ「クーは周りのことなんて見えないから肩身が狭くなっていくし、部活内では自ずとブーンの肩身も狭くなっていくわ」

('A`)「……別に、報いなんて求めてねぇよ」

ξ゚⊿゚)ξ「したことに対する結果があるってだけよ。
だからね、あなたは生きていたらきっと幸せになれると思う。
こんな風にした私が言うのはおかしいけどさ」

予期せぬ言葉にドクオは顔を上げたけど、
表情は晴れていなかった。当たり前のことだった。

97 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:30:57 ID:SUwvt9Yg0
('A`)「……お前は?」

ドクオはか細い声で言った。

('A`)「お前は、どうなるんだ?」

そう、私も他人事ではない。当たり前のことだった。

ξ゚⊿゚)ξ「生きていても、幸せにはなれないんじゃない?」

だから、率直な思いを伝えた。

私は壁から身体を離しその場を去った。
早まるなよ、なんて声が後ろから聞こえた気がした。
都合の良い声だった。

98 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:31:38 ID:SUwvt9Yg0
(13)


残暑の厳しい九月の始め。私たち二人はバス停へ登っていた。
右手側の高く積み上げられた擁壁と、左手側のガードレールに挟まれ、
舗装はされているけど、歩行者用の仕切りもない坂道で足を進める。

辺りは閑散としていた。
流れて来るのは横目に見える海から漂う潮風の匂いぐらいだった。
平日の昼間とはいえ、人っ子一人、車一台見当たらない。
そのせいか、脳が色彩をとても単純なものとして捉えていた。

水色。白。黒。青。

空と海で板挟みにされ、アスファルトを踏み締めていると、
溺れるような錯覚がした。日射しと高低差の合わせ技で呼吸が苦しくなる。

99 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:32:13 ID:SUwvt9Yg0
ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫?」

膝に手をついていた私に、先を行っていたデレが振り向いた。

デレは普段は着ないような、如何にもな白いワンピースを身に纏っていた。
双子が言うのも変だけど様になっていた。とてもじゃないけど、
夜な夜な遊び回っている人間には見えなかった。まあ、私からすれば違和感がないどころか、
こっちが本来の姿だとすら思う。……でも。

100 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:32:45 ID:SUwvt9Yg0
一瞬、眩暈がして掌で目を覆った。
手を離すと、視界が開けた。

見上げた先では、デレを巻き込みながら陽炎が揺れていた。
風が吹けば霧散してしまいそうなシルエットは白かった。

……儚いなと思った。
多分あの服は、死装束に近い色をしているから。

101 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:33:31 ID:SUwvt9Yg0
なんとかバスに乗り込み、私たちは小さな堤防に到着した。
打ちっぱなしのコンクリートで、高さも幅もない長方形のそこを、
二人でゆっくりと歩いてから真ん中あたりに腰を下ろした。

熱した地面に荷物とサンダルを置き、素足を水面に浸した。

漁船も目立たないひたすらに水平線が見えるロケーションだった。
ただただ膨大な藍が風に揺られる様は、獰猛さを感じさせた。

自然のスケールに呑まれ、自分はなんて小さな存在なんだ、と、
思う人間は多いけど、結局私もその分類なのかもしれない。

102 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:34:04 ID:SUwvt9Yg0
世界は広いようで狭い。それでも、二人だと広すぎる。
親。友達。知り合い。他人。数多の顔が脳裏を過っていく。

この景色を眺め続けていると、頭にピストルを突きつけられているような気分になった。

ζ(゚ー゚*ζ「そろそろいこっか」

デレの声で現実に引き戻された。
既に隣で伸ばされた脚が消えていた。

私も立ち上がり、後に続いた。

103 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:34:31 ID:SUwvt9Yg0
太陽の光が吸収された足場に少し気を取られながらも、
なんとか地面を踏み締め、身体を反転させたその時だった。

なにかがぶつかって、なにかと接触をした。

キスを、されていた。

頭がぐらつく。身体が揺らぐ。背中が水面に傾く。

104 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:35:00 ID:SUwvt9Yg0
(0)

走馬燈というやつだろうか。
それにしては鮮明さに欠けていて、歯抜けが過ぎるなぁと思った。
大体、こんな顔も覚えていないような連中なんてどうでもいいのに。

どこかの公園に気弱そうな私が居て、
その前にもう一人私が居た。というか、デレと自分だった。

やいややいやと言われてるなぁ、ぐらいにしか把握出来ない。
確か、いつも私に引っ付いているデレがからかわれて、
それを自分が庇っているとか、そんな図だったかな。

105 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:35:27 ID:SUwvt9Yg0
あーあ。またデレが泣いてる。
しょうがないなぁ、なんて想いで私は前に出ているんだろうな。

言い合いの内容は下らないものだった。
まあ、幼児の喧嘩なんてそんなものだけど。

でも、私が大声を出して主張している言葉は上出来かな。

「ひとはひとりではいきていけないもん!」

銃声が響いた気がした。

106 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:36:02 ID:SUwvt9Yg0
(14)


ξ゚⊿゚)ξ「あんたね、急に沈められる私の身にもなりなさいよ」

私たちは再び堤防に腰を掛けていた。
水面に接触した際の衝撃音が未だに耳にこびりついている。

隣を見ると、デレは水浸しになったワンピースの裾を絞っていた。
汚れたその服は、死装束からは随分遠のいてしまったようで。

ζ(゚ー゚;ζ「あはは、ごめん。なんか衝動的に」

ξ゚⊿゚)ξ「ごめんで済むと思ってるの?」

ζ(゚ー゚*ζ「……うん、駄目だよね」

手を止め、俯いたデレを私は抱き寄せた。

107 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:36:39 ID:SUwvt9Yg0
ξ゚⊿゚)ξ「……ベタベタして気持ち悪いなぁ」

濡れた服同士が引っ付き合い、生温い体温を伝達していた。
どうしようもないぐらいに私たちは生きている。

ζ( ー *ζ「ほんとだね」

耳元で、デレの柔らかい声がした。
銃声が何処かへ去っていく。

ζ(゚ー゚*ζ「でもね、お姉ちゃん。私は幸せだよ」

ξ゚⊿゚)ξ「……私も」

108 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:37:06 ID:SUwvt9Yg0
(15)


旅館に着くと、出迎えの人は面喰っていた。
それはそうだろうなと思った。びしょ濡れの上に、
同じ顔をした人間が二人という光景は明らかに異常だった。

つい足を滑らせて落ちたとだけ言い、予約を確認してもらうと、
スタッフさんは気圧されたのかなにも追及して来なかった。

自然と私たちは同じ浴室に入ることになったけど、
不思議とそういう気持ちは湧いて来なかった。
いや、こっちが姉妹としては正常なのだけど。
もっと言えば女性としてはなのだけど。

109 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:37:43 ID:SUwvt9Yg0
元から自分が同性愛者だとも思っていなかった。
有り体に言えば行き過ぎたシスコンとかそっちではないだろうか。
もしくはナルシズムの延長線か。要は私はデレが良い。それだけの話だった。

入浴を終えた私は、簀子が敷かれている客室の窓際でチェアに身を委ねていた。
左手側に見える外の景色は、まあ、その、綺麗としか言いようがなかった。

けれど、私の眼は曇っていくんだろうなぁ。

外と内を見比べた。
畳の上でだらしなく浴衣をはだけさせ、寝転んでいるデレが居た。

110 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:39:04 ID:SUwvt9Yg0
ζ(゚、゚*ζ「……ん? どうしたの」

私の視線に気づいて起き上がったデレは、
足を崩したまま座り、眠そうな目を擦っている。

まあ、その、綺麗としか言いようがなかった。

ξ゚⊿゚)ξ「あのさ、デレ」

そして、目の前にいる人だけは色褪せないと分かっているから。

ξ゚⊿゚)ξ「多分ね、私は世界よりあなたが好きなんだと思う」

私は率直な言葉で愛を語ることにした。

111 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:39:47 ID:SUwvt9Yg0
ζ(゚ー゚*ζ「中々大きく出たね」

ξ゚ー゚)ξ「馬鹿みたいよね」

自然と私たちは笑い始めていた。
そこに今と過去の違いは寸分もなくて。
だから地球の自転にはついていけなくなって。

取り残されてしまった二人はそれでも笑うのだ。

人は一人では生きていけないのだから。




<了>

112 ◆agMbGaIYPQ:2017/08/22(火) 06:40:11 ID:SUwvt9Yg0
ありがとうございました。

113名無しさん:2017/08/22(火) 12:38:36 ID:q9iJ1Nxc0
地の文も雰囲気もめちゃくちゃ好きだ乙

114名無しさん:2017/08/22(火) 18:01:41 ID:NNDsIwW20


115名無しさん:2017/08/22(火) 22:46:43 ID:JVUUAj9k0
とにかく乙
脆くて、素直になれない気持ちとかやな感じが出てると思った。
なんかこういうの、やり切れない……
けど、それだけ話の中に、ツン達の世界の中に引き込まれたって、事だと思う。
読んでよかった。

116 ◆TflJu3mvXc:2017/08/27(日) 00:57:58 ID:56Jce8N60
【業務連絡】

主催より業務連絡です。
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117名無しさん:2017/08/27(日) 22:40:01 ID:3OhDiMZc0

何というか良かった

118名無しさん:2017/08/29(火) 11:33:25 ID:L..YXr0g0
淡くて瑞々しい話だった

119名無しさん:2025/05/13(火) 23:27:58 ID:SImbVBu20
乙乙
曇り空のような気持ちから海へと続くそのストーリーが、素敵でした!
これからも悩みながらお互いに向き合っていくのだろうけれど、幸せになってほしい。
面白かったです!


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