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彡 l v lミ Wr Mn Ou Xa のようです
89
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/20(日) 23:15:58 ID:s7M8ZC4Q0
(;・∀ ・)「はぁぁぁっ!?」
(;・∀ ・)「ニューハーフか」
彡 l v lミ「うん」
(;・∀ ・)「……本当に信頼できるんだろうな」
彡 l v lミ「……分からない」
(;・∀ ・)「様子を見よう。核心に触れる事は伝えないように」
核心。
その言葉が僕の心に引っ掛かった。
核心とは何だ?
そもそも、何故彼はこんなことをしているんだ?
彡 l v lミ「そこまでして、お前が、RMNチップを追う理由、聞かせてもらってないんだけど」
(・∀ ・)「……そうだったな」
(・∀ ・)「すまんが、今は言えない」
彡 l v lミ「何故。親友だろ?僕は」
(・∀ ・)「本当にごめん。でも今は、その時じゃない」
(・∀ ・)「時が来たら、話すよ」
.
90
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/20(日) 23:16:21 ID:s7M8ZC4Q0
(・∀ ・)「じゃあ、また」
彡 l v lミ「うん」
結局、その後進展はなく、斉藤と、クラブの前で別れた。
「オスロ」
振り向くと、そこにはジーが立っていた。
寂しい、夜の通り。
91
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/20(日) 23:17:06 ID:s7M8ZC4Q0
彼女と二人。夜風が吹く。
爪゚ー゚)「ずっと、待ってたよ」
彡 l v lミ「ごめん、無視しちゃって」
爪゚ー゚)「いいの。大事そうだったから」
彼女は、僕の方に近付いて来て、僕の胸に、顔を埋めた。
彡 l v lミ「ジー、」
爪 ー)「暖かいね」
92
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/20(日) 23:17:51 ID:s7M8ZC4Q0
……暖かい。
僕の方は、産まれてから人の暖かさに初めて触れたような気分すらした。
彼女と話す度、彼女と触れ合う度、凍った心が、溶けていく。
彡 l v lミ「クラブは好き?」
彼女は、僕の背に手を回す。
それだけで、何も答えなかった。
いつもの様にクラブで会っては、すぐに別れてしまう。きっと、そんな関係であってはいけないのだ。もう僕たちは、その段階ではないのだから。
彡 l v lミ「僕は、好きになれそうにないよ」
彡 l v lミ「………海に、行かない?」
爪 ー)「……うん」
Expelの在る通りから、港湾地区まではそう遠くなかった。
徒歩で20分くらいだろうか、そのくらいかけて、僕たちはデッキに着いた。
93
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/20(日) 23:18:18 ID:s7M8ZC4Q0
夜の海、といってもそこは貿易港だった。
水平線の向こうに、工場や倉庫の灯りが見える。
僕とジーは、デッキに腰掛け、遠くで点滅する光を眺めている。
爪゚ー゚)「……ねえ、」
彡 l v lミ「なに?」
爪゚ー゚)「何故オスロは、あの夜、クラブに来たの?」
波が打ち寄せてきて砕け散る。
僕はそれを眺めていた。
ジーの問いには、答えようと思っていた。
彡 l v lミ「………RMNチップを追ってる」
でももっと、抽象的に言おうと思っていたのに、口から出てきた言葉は、こうだった。
94
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/20(日) 23:18:59 ID:s7M8ZC4Q0
彼女の動きが止まる。
爪 ー)「………そう」
ああ、
彡 l v lミ「ジー?」
彼女の声は、震えていた。
.
95
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/20(日) 23:19:31 ID:s7M8ZC4Q0
爪 ー)「……ごめんなさい」
爪 ー)「私、嘘吐いた」
爪 ー)「あのクラブに来たのは、失恋したからじゃない」
爪 ー)「私が、チップの運び屋だからなの」
波が打ち寄せる。
砕け散る。
そして、引いていく。
96
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/20(日) 23:20:00 ID:s7M8ZC4Q0
……心の片隅では、なんとなくわかっていた。
だけど、なんとなく、認めたくなかったのだ。
だから斉藤にも言えなかったのだ。
爪 ー)「私は、ドラッグの売人をやってて……各地を転々と旅してるの」
爪 ー)「数ヶ月前に、この街にやって来て……運び屋の仕事も請け負うようになった」
爪 ー)「…私は毎夜、Expelに行って、薬を売ってる」
爪 ー)「………軽蔑した?」
でも、それがどうしたというのだ。
軽蔑だなんて、そんな訳、ないじゃないか。
彡 l v lミ「……まさか。そんな訳、ないだろ」
97
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/20(日) 23:20:28 ID:s7M8ZC4Q0
彡 l v lミ「なんとなく、そう思ってた。だから」
彡 l v lミ「全然、受け止めるし、軽蔑なんて、しない」
爪 ー)「………ありがとう」
彼女はそう言った後、声をより一層か細くして、言った。
爪 ー)「この街の仕事が全部終わったら、私は、どこか遠くへ行かないといけない」
爪 ー)「……ごめんね。その時が、きっと私達の最後」
それから、彼女は僕に身を寄せて、静かに泣いた。
98
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/20(日) 23:20:59 ID:s7M8ZC4Q0
彡 l v lミ「家まで、送っていくよ」
爪゚ー゚)「……駄目。私にこれ以上関わったら、あなたが危ないから……」
彡 l v lミ「……分かった。気を付けて」
彼女は、立ち止まり、僕の方を見る。
爪゚ー゚)「じゃあ、また会おうね」
――その顔に弱々しい笑みを浮かべて。
そう言って、彼女は後ろを向いた。
彼女の寂しげな背中が、闇へと消えていく。
彡 l v lミ「………なんで」
僕は、どうすればいいのか、分からなかった。
99
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/20(日) 23:21:45 ID:s7M8ZC4Q0
ここまでで、約半分です。
もう半分は明日投下予定
100
:
名無しさん
:2017/08/21(月) 04:35:44 ID:hMNwj6RA0
なんつーか、変化って美しいな。乙
101
:
名無しさん
:2017/08/21(月) 21:37:58 ID:j4c3vLis0
乙
102
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:17:35 ID:J3DrZlj60
そうして、毎日が過ぎていった。
また、金曜日がやって来た。
早すぎると、思った。
( ><)「それでは、いい週末を」
ミ,,゚Д゚彡 「おう。お疲れさん」
ミ,,゚Д゚彡 「鈴木も、楽しい週末を」
彡 l v lミ「はい」
103
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:18:21 ID:J3DrZlj60
事業所を出、自転車で通りを走り出す。
後ろから、ビロードの車が近付いてくる。
彼は、車で僕を追い越しざまに、こう言った。
( ><)「良い顔になってますよ。鈴木さん」
彡 l v lミ「え………」
僕は何かを答えようとしたが、そうする暇もなく、車はスピードを上げ、行ってしまった。
帰り道、いつもの公園は珍しく閑散としていた。
これは、僕が小さい時からあって、良く遊んでいたものだ。
僕は、公園に入り、ブランコに乗った。
彡 l v lミ「………懐かしいな」
104
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:20:04 ID:J3DrZlj60
僕はいつもこうして、一人でブランコ遊びをした。
友達が居なかったからだ。クラスにも、何処にも。
ブランコを漕いでいる時、それは誰にも邪魔されない僕の世界だった。
……僕は、そうやって自分の世界に閉じこもったまま、今まで生きて来てしまった。
この一か月の事を考える。
この短い期間に、全てが一変しようとしている。
僕は、覚悟しなければいけない。
運命の強靭な力には、逆らえない。
今、僕の勇気が試されている。
僕は―――。
.
105
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:21:54 ID:J3DrZlj60
彡 l v lミ「ただいま」
( "ゞ)「おかえり」
家に帰ると、リビングでは父が静かに読書していた。
父は本をそっと閉じて、僕の方を見た。
彼の後ろの、窓際からの光が、彼の輪郭を黄色く描く。
( "ゞ)「母さんは、今、体調を崩してる」
( "ゞ)「今は二階で寝てるよ」
彡 l v lミ「え、大丈夫、なの」
( "ゞ)「疲れてしまったようだ。休めば、きっと良くなる」
( "ゞ)
106
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:23:18 ID:J3DrZlj60
( "ゞ)「………………オスロ。女が出来たな?」
彡 l v lミ「………そんな、」
( "ゞ)「土曜の夜、本当はバスケなんかやってないんだろ。母さんも、なんとなく分かってるよ」
( "ゞ)「親に嘘は通じないものだ」
彡 l v lミ「……ごめん」
父は、僕から視線を外し、窓の向こうを眺める。
( "ゞ)「―――俺は、NEO国の内戦が酷かった頃、料理人だった父と、教師の母の間に生まれた」
107
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:24:36 ID:J3DrZlj60
( "ゞ)「両親は、多くのNEO人がそうしたように、VIPに亡命した。そこでは、まともな仕事は一つもなく」
( "ゞ)「母と俺はレストランの給仕として働き、父は下水管の整備をした。それでも、貧しい暮らしには違いなかった」
( "ゞ)「ある日、母が病に臥せった。間も無く死んだよ。父も、事故死した」
( "ゞ)「確かにあの時、俺は絶望の底に居た」
( "ゞ)「そんな時、お前の母さんに出会った」
( "ゞ)「彼女はVIP人、俺には到底届かない夢のような存在だった」
( "ゞ)「……色々あったがね。俺と彼女は駆け落ちして、結婚した。ソーゴーにはNEO移民の働き口があったから、二人でそこを目指した」
( "ゞ)「――時代は変わり、NEO人に対する社会の扱いは随分良くなった。お陰で、こうして家を構えて、穏やかな生活を送ることが出来ている」
108
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:26:15 ID:J3DrZlj60
( "ゞ)「………人間の営みというのは、神秘的な物だ」
彡 l v lミ「父さん……」
( "ゞ)「NEO国からの貧しい移民の一人だった俺が、こうして奇跡的に満ち足りた生活を送ることができている。おまけに子供まで授かることができたのだから」
( "ゞ)「それに、こうも思うよ―――人は、混沌の中を旅しなければならない、とね」
彡 l v lミ「父さん、どうしたの」
( "ゞ)「………ふう」
( "ゞ)「……どうしたものかね。もう、疲れた」
そう言って、
父は、目をゆっくりと閉じた。
( "ゞ)「少し、休む……」
109
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:27:00 ID:J3DrZlj60
彡 l v lミ
母の部屋に行った。
J( 'ー`)し
彼女は、安らかに眠っていた。
何の不安も、葛藤もなく、ただ幸せそのものの表情で。
父の言葉を思い出す。
人間は、混沌の中を生きなければいけない。
彼女は、父は、混沌の中を充分さまよったのだ。
大海原に投げ出された流木のように。
そして偶然、この幸せに流れ着いたのだ。
彡 l v lミ「………ごめんなさい」
僕は、彼女に謝らなくてはならない様だ。
110
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:27:24 ID:J3DrZlj60
電子音は連続する。
彡 l v lミ
僕は、朝食にシリアルと食べようとしたが、昨日でミルクが切れてしまったことを思い出した。生憎、外は雨だ。
ひとまず朝食は抜きにして、斉藤へメールを送る。
111
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:27:58 ID:J3DrZlj60
To:斉藤
From:Me
Title:昨日、話しそびれたこと
おはよう。
昨日、お前に伝え忘れていたことがある。
僕がクラブで知り合った一人の女の事だ。
最初にクラブに行った日からずっと関係はあったのだけど、
昨日、彼女が、RMNチップの運び屋だったことを知った。
これから、僕はどうしたらいい?
彼女から、何を聞き出せばいい?
鈴木
.
112
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:29:01 ID:J3DrZlj60
返答は、直ぐに来た。
From:斉藤
To:You
Untitled
わかった。
俺たちの一先ずの目標は、RMNの密売をしてる奴が誰か特定する事だ。
そのために必要な情報はいくらあっても足りないくらいだ。
とにかく、その女からなるべく沢山の事を聞き出してくれ。
俺は、チップの取引場所の一つを特定したから、今日はそっちへ向かう。
お前も、今日行動した方がいい。
.
113
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:29:30 ID:J3DrZlj60
彡 l v lミ「……行って来ます」
夕暮れ、日が落ちかけ、辺りが薄暗くなる頃、僕は家を出た。
雨は上がり、通りに湿っぽい雨の匂いが立ち込めている。
濡れたアスファルトや、街路樹の色が、より一層鮮やかさを増している。
見ると、彼方に見事な虹が架かっていた。
子供達が、虹を見てはしゃいでいる。
虹の架かる方へ、僕は歩いていった。
.
114
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:30:37 ID:J3DrZlj60
いつものバーに、彼女は居なかった。
人混みの中に僕は入っていく。
彼女を探しながら。
直後、凄まじい重低音が鳴り響いた。
周囲が暗闇に包まれる。
歓声が巻き起こる。
初めてここに来た時以来の、湿っぽい空気。
人間の美しい所も、醜い所も、全部がごた混ぜで。
スープのようになって煮えたぎり、泡を吹いているような。
ハイテンポのビートのきつい音楽が流れ始める。
祭司は祭壇の上で両手を挙げていた。
僕はなす術も無く、人の流れを漂う。
.
115
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:31:37 ID:J3DrZlj60
爪゚ー゚)
僕はそんな中、彼女を、見つけた。
踊り狂う民衆の少しだけ外側で。
彼女は、見知らぬ男に何かを手渡し、金を受け取っていた。取引の最中だった。
男がその場を立ち去る。
彼女が、僕に気付いた。
驚きの表情の少し後に、彼女の顔に、深い影が差した。
116
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:32:12 ID:J3DrZlj60
彡 l v lミ「ジー、」
爪 ー)「君には、こんな姿見て欲しくなかった」
彡 l v lミ
爪 ー)「オスロ」
彡 l v lミ「出よう。僕と一緒に」
彡 l v lミ「君と話したいんだ」
爪 ー)「……うん」
117
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:33:25 ID:J3DrZlj60
僕とジーは、昨日と同じ場所に行った。
潮風が、今日は強い。
俯いた彼女の赤髪が、それに吹かれて揺れる。
彡 l v lミ「君が、好きだ」
彼女が顔を上げて、僕の事を見る。
爪゚ー゚)「……そんな事言わなくても、」
爪゚ー゚)「私達、もうとっくに恋人だったよね」
彡 l v lミ「え?」
沈黙が流れる。
ジーが吹き出した。
118
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:35:08 ID:J3DrZlj60
爪゚ー゚)「おもしろいね。君は」
彡; l v lミ「……そう?」
爪゚ー゚)「でも、嬉しいよ。ありがとう」
彼女は、そう言って間を空けたあと、口を開いた。
声は、少し震えていた。
爪゚ー゚)「………私に、付いてきてくれるの?」
彡 l v lミ「…………ああ」
彡 l v lミ「付いて行くよ。どこまでも」
119
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:35:35 ID:J3DrZlj60
僕は、その覚悟をもう終わらせていた。
――この先、何があるか分からない。それでも僕は。
彼女と一緒に居たい。そう思う。
一際強い波が打ち寄せて、水飛沫を立てた。
爪 ;ー;)「………ありがとう。私、嬉しい」
お互いに身を抱き寄せ、触れ合う。
彡 l v lミ「もう大丈夫だ。僕が君を幸せにする」
彼女は、混沌の中に居る。
僕は、彼女を助け出すと、心に決めた。
そのためには、どんな混乱に身を捧げても、構わない。
彼女は暫く、僕の腕の中で、泣き続けた。
120
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:36:22 ID:J3DrZlj60
彡 l v lミ「チップの事……教えてくれるかい?」
爪゚ー゚)「……今夜、別の取引場所でチップの受け渡しがある」
彡 l v lミ「わかった」
彡 l v lミ「チップを流通させてる大元の人物が誰なのか、探してる。心当たりはある?」
爪゚ー゚)「……分からない。依頼人と顧客の名前しか」
爪゚ー゚)「依頼人はギャシャ。顧客は、ジョーンズ」
彡 l v lミ「ありがとう」
僕とジーは、デッキを発ち、駅へと向かっている。彼女と手を繋ぎながら。
僕は、元には戻らない。
キューエー駅から地下鉄で数駅行った先で降り、暫く歩くと、高層ビル街はなりを潜めて、住宅地へと緩やかに変わって行く。
ベッドタウンというにはまだ近すぎるくらいの所、そこには
Liquefactionというバーがあった。
121
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:37:46 ID:J3DrZlj60
ピンク色のネオン灯が、レンガの壁に掛かってチカチカと点滅している。
入り口の扉には、「Closed」の看板。
爪゚ー゚)「……ここから先は、私だけ行かせて」
扉の前に立つ彼女は振り返り、僕にそう言った。
彡 l v lミ「わかった。気をつけて」
彼女は頷く。
僕は、バーのある通りの向かいに移動し、そこのベンチに腰掛けた。
僕がそうするのを見ると、彼女は扉を二回、少し間を開けて一回叩いた。
扉が開いて、中からスキンヘッドの男が出てくる。
彼に迎えられて、彼女は店内へと入っていった。
そうして、僕は一人、街灯の灯る寂しい夜の通りに残された。
風が吹いて、張り紙が道路を転がっていく。
見上げると、見事な満月が空に浮かんでいた。
122
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:38:12 ID:J3DrZlj60
暫くすると、バーの扉が開かれて、中から人が出て来た。
それは、斉藤だった。
彼は向かいの道に居る僕を見つけると、驚いた顔をして、こちらにやって来た。
(;・∀ ・)「鈴木、何故ここに」
彡 l v lミ「お前が言ってた取引場所って、ここだったのか」
(;・∀ ・)「そうだぜ。ってことは……」
(・∀ ・)「さっき店に入って来たあの女が、例の?」
彡 l v lミ「そうだ」
(・∀ ・)「尾行して来たのか?」
彡 l v lミ「いや」
(・∀ ・)「………そうか」
123
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:38:49 ID:J3DrZlj60
斉藤が、僕の隣に座った。そして、懐から取り出した一枚のチップを、僕に見せてきた。
(・∀ ・)「……チップを入手した。ある殺人犯の、獄中の記憶だ」
彡 l v lミ「殺人犯?」
(・∀ ・)「いや、記憶そのものに特に意味はない。チップそのものの構造を解明しようと思ってな」
(・∀ ・)「それに、実際の取引の場所がどうなってるのかも確かめたかった」
そのチップは、黒く、曲線を描いていた。
ラベルが貼ってあり、そこには手書きの字で「Kuckle 0283」と書いてあった。
彼は、そのチップを懐に戻すと、バーの方へ向き直った。
(・∀ ・)「運び屋の名前、なんて言うんだ」
彡 l v lミ「ジー」
(・∀ ・)「……ジー、の取引してる相手が出て来たら、尾行してみよう」
彡 l v lミ「分かった」
彡 l v lミ「因みに、そいつの名前は、ジョーンズだ。彼女が言ってた」
124
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:39:29 ID:J3DrZlj60
また、暫く経つとジーが出て来た。
僕たちの方へ歩いてくるが、斉藤の事に気づくと、困惑した表情を浮かべる。
爪゚ー゚)「え、」
(・∀ ・)「こんばんは。彼の親友の、斉藤だ」
(・∀ ・)「彼と一緒に、RMNを追ってる」
彡 l v lミ「……ごめん、偶然なんだ」
爪゚ー゚)「……そうなんだ」
彼女が、僕の隣に座る。
爪゚ー゚)「さっき、店に居たよね」
(・∀ ・)「ああ、ちょっとね」
爪゚ー゚)「君は、あのチップについて、何か知ってるの?」
(・∀ ・)「え?」
(・∀ ・)「君は、知らないのか…。あれには、人の脳みそから抜き出した記憶が入ってる」
爪゚ー゚)「記憶!?」
(・∀ ・)「本当だよ。もう科学はそこまで進んでる」
(・∀ ・)「ジョーンズ、だっけ?俺たちは、彼を尾行しようと思う」
爪゚ー゚)「……私も行く」
(・∀ ・)「そうか」
125
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:39:50 ID:J3DrZlj60
僕達は、斉藤の乗って来た車の中で、ジョーンズの出てくるのを見張っていた。
僕は助手席、後ろにはジーが座った。
その間も、何人かの人間が出たり入ったりしていたが、1時間程すると、一人の男がバーの扉を開け、階段を降りて来た。
爪゚ー゚)「あの男」
(・∀ ・)「オッケー」
彼は車に乗り、そのまま曲がり角を曲がっていった。それを皮切りに、僕たちも出発した。出来るだけ近付かないように、車は彼の車をゆっくりと追った。
しばらく通りを走り続けると、遠方、左手に大きな建物がぽつりと建っているのが見えて来た。
ジョーンズの車は、その中に入って行った。
126
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:40:21 ID:J3DrZlj60
(・∀ ・)「止めるぞ」
車は、建物の数十メートル先で停車した。
暫くすると、その建物から、一台のトラックが出てきた。
コンテナには「VIP Induatrial」の文字が刻まれている。
(・∀ ・)「運送業者………」
(・∀ ・)「なるほどね」
(・∀ ・)「……今日はこれくらいにしよう」
127
:
名無しさん
:2017/08/21(月) 22:40:41 ID:J3DrZlj60
念のため、その夜、僕はジーの家に泊まる事になった。
斉藤が、僕たちを送ってくれた。
爪゚ー゚)「ありがとう」
(・∀ ・)「どういたしまして」
(・∀ ・)「鈴木」
彡 l v lミ「?」
(・∀ ・)「いい夜を過せよ」
彡 l v lミ「……お前もな」
(・∀ ・)「俺は徹夜だよ。クソめ」
そう言って、斉藤の車は出発した。
128
:
名無しさん
:2017/08/21(月) 22:41:03 ID:J3DrZlj60
爪゚ー゚)「……こっち」
ジーは、ソーゴーの小さなアパートの二階に住んでいた。
彡 l v lミ「……お邪魔します」
彼女の部屋は、机と椅子、ベッドがあるだけの、小綺麗な部屋だった。
爪゚ー゚)「いつでも離れられるように、最低限の物しか買ってないの」
爪゚ー゚)「シャワー、先浴びてくるね」
彼女はそう言って、バスルームに入っていく。
彡 l v lミ「ふう………」
僕は、先の斉藤の言葉を思い出す。
彼は、今夜、何をするつもりなのだろう?
そして、あのVIP Industrialのトラック。何処かで見覚えがあったような―――。
しかし、それを思い出す事が出来ないくらいに、僕の頭は疲れ切っていた。
ジーが出て来て、僕も続いてシャワーを浴びた。
129
:
名無しさん
:2017/08/21(月) 22:41:47 ID:J3DrZlj60
爪゚ー゚)「……今日は疲れたね」
彡 l v lミ「うん」
彼女の家の冷蔵庫には、冷えたコーク瓶がいくつかあったので、今はそれを片手に、部屋の中にいる。
爪゚ー゚)「……この先、どうなっちゃうんだろう」
彡 l v lミ「……分からないけれど、きっと大丈夫だ」
爪゚ー゚)「君は………」
彡 l v lミ「うん?」
爪゚ー゚)「なんでもない」
ジーは、瓶の中身を全て飲みきってしまうと、それをテーブルの上に置いて、立ち上がった。
彼女はクローゼットの方まで歩いて行き、その中を僕に見せた。
130
:
名無しさん
:2017/08/21(月) 22:42:17 ID:J3DrZlj60
そこには、
細かくパッケージされた粉末状の薬物や、錠剤が、竿にぶら下がった衣服の下で積み上がっていた。
爪゚ー゚)「これ全部が無くなった時、私たちはここを離れる」
彡 l v lミ「……凄いな」
彡 l v lミ「何故、僕にこれを?」
爪゚ー゚)「オスロは私に全部教えてくれた。私も、それに答えないといけないかなって」
彡 l v lミ「……そうか」
彼女はクローゼットを閉じ、僕の隣に座る。
まだ微妙に湿った髪から、彼女の匂いがした。
おもむろに、彼女は、僕にキスした。
彡 l v lミ「ジー、」
131
:
名無しさん
:2017/08/21(月) 22:42:49 ID:J3DrZlj60
爪゚ー゚)「ねえ……」
爪゚ー゚)「セックス、しない……?」
.
132
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:43:23 ID:J3DrZlj60
朝になった。
彡 l v lミ「う………」
時計を見る。
朝6時。
いつも通りの時間だ。
彡 l v lミ「今日は………月曜か」
朝の白い光が、部屋に満ちている。
隣で、ジーが目覚めた。
爪゚ー゚)「……おはよう」
彡 l v lミ「おはよう」
僕は、彼女の額にキスをする。
爪゚ー゚)「今日、オスロはどうするの?」
133
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:43:57 ID:J3DrZlj60
彡 l v lミ「……仕事に行かなきゃ」
爪゚ー゚)「そうだよね……」
爪゚ー゚)「お腹減ったね。どうする?」
彡 l v lミ「どうしようか……」
爪゚ー゚)「いつも私が行ってるホットドッグの店があるんだけど……もし良かったらそうする?」
彡 l v lミ「うん」
134
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:44:29 ID:J3DrZlj60
彼女のアパートを出て、数分の所にその店はあった。
通りに面する部分が全てガラス張りになっており、店内には光が満ち溢れていた。
また、月曜の早朝ということもあり、それなりに空いてはいた。
そこの、ガラス張りになっている窓際の席に座った。
お互いのトレーには、ホットドッグと、アイスコーヒーが一つずつ。
爪゚ー゚)「私の話、してなかったね」
彡 l v lミ「うん」
爪゚ー゚)「……どこから話したらいいか、分からないけど」
彡 l v lミ「君が、その仕事を始めたきっかけとか?」
爪゚ー゚)「あー」
爪゚ー゚)「それはね」
135
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:44:58 ID:J3DrZlj60
爪゚ー゚)「私、世界を旅する、っていう夢があったの」
爪゚ー゚)「こんな狭い場所に収まって死ぬなんて、耐えられないっていうか」
爪゚ー゚)「大学を卒業して、バックパッカーとして生活を始めてみて、一番困ったのはやっぱり生活のことだったんだけど」
爪゚ー゚)「……だから、移動しながらでも沢山のお金が得られる、この仕事になったんだ」
彡 l v lミ「そうだったんだ……」
彡 l v lミ
彡 l v lミ「ジー、君はまるで、僕と真逆だね」
僕とは、今までの僕、という意味だった。
あの小さい町の中ですら、自分の殻を作ってきた僕。
彼女は、僕を見て微笑んだ。
136
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:45:27 ID:J3DrZlj60
爪゚ー゚)「そうだね――でも、旅を続けてくうちに、大切な事も分かってきた」
爪゚ー゚)「結局、人は、自分の暮らして来た場所が一番好きなんだって」
彡 l v lミ「……そうかな」
爪゚ー゚)「そうだよ」
そう言う彼女は、真っ白な朝の光をいっぱいに浴びている。
心底、楽しそうな様子だった。
―――きれいだ。
美しいとかじゃなくて、人として、きれいだと思った。
爪゚ー゚)「……だから、いつかこの仕事はやめないと、って思ってる。人の為にならないから」
爪゚ー゚)「もっと色んな所に行って、最後はどこかに行き着いて、暮らせたら幸せだなあって、思う」
彡 l v lミ「……そうだね」
彡 l v lミ「そう、思うよ」
137
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:46:00 ID:J3DrZlj60
その時、僕の携帯に、斉藤からメールが来た。
彡 l v lミ「あ、斉藤からだ……」
From:斉藤
To:You
Title:大収穫だ
おはよう。
彼女といい夜は過ごせたかな?
俺は昨日、知り合いのハッカーの力を借りて、例の「VIP Industrial」の顧客データに入ってみた。
それで、最近の物の配達を調べてみたんだが、チップを流通させてる奴の居場所が特定できたかもしれない。
例のサイトが立ち上がった時期とほぼ同時に、大量の「電子機器」がウィンタード通り 23-1番地にある家から出入りしてる。俺たちの町だ。
しかも、この物資の流れを辿っていくと、『グロリア・インスタンツ』っていう犯罪グループの関係組織に流れてた。
ここからは仮説だが、この流通の目的は「肉体の乗り換え」じゃないか?
『グロリア・インスタンツ』の要人か何かの記憶を細かく分けて、別の肉体に移動させようとしてるとか。
この仮説が本当なら、ヤバい感じになってきたよな。
お前も、覚悟しておいてくれよ。
とにかく、俺はもう少し探ってみる。
斉藤
.
138
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:46:44 ID:J3DrZlj60
爪゚ー゚)「……オスロ?」
彡; l v lミ「………そんな、」
心臓の脈動が、これ以上ないくらい速くなっていた。
まさか、そういうことだったなんて!
僕の頭の中で、全てが繋がった。
ウィンタード通り 23-1番地。
紛れもなく、あの、ラージヒル家の事だ!
139
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:47:17 ID:J3DrZlj60
だとすると、恐らく僕たちが追っている人物は、ジョルジュ氏だろう。
最初ラージヒル家から引き揚げるとき、二回目にすれ違ったトラック、それは確かにVIP Industrial社のトラックだった。
僕は、大きな闇の動き出す瞬間を、目撃していたのだ。
爪゚ー゚)「……オスロ?大丈夫?」
彡 ;l v lミ「……大丈夫」
彡 ;l v lミ「僕たちの追いかけてた人間が誰か、分かったよ」
爪゚ー゚)
彡 ;l v lミ「僕は彼に、会ったことがある……!」
爪゚ー゚)「………これから、どうするの、」
彡 ;l v lミ「あとは、斉藤次第だ。どうなるか分からない」
140
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:47:41 ID:J3DrZlj60
僕とジーは、ショップを出た。
朝の光が黄色く照らす道を、彼女のアパートへと歩いていく。
彡 l v lミ「僕は、これから仕事に向かうよ」
爪゚ー゚)「分かった」
彡 l v lミ「家まで、送る」
爪゚ー゚)「ありがとう」
141
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:50:47 ID:J3DrZlj60
暫く行くと、建物と建物の間に、曲がり角が現れる。そこを曲がる。
先の道には、カラスが群れて、ゴミにたかっていた。
大きな音を立てながら、ヘリが、僕たちの上に飛び出してきた。
爪゚ー゚)「……あのさ、」
彼女が、僕にそう言ったその瞬間、
後頭部に強烈な痛みが走った。
142
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:52:00 ID:J3DrZlj60
気づくと、視界には一面の空。
ジーの、叫ぶ声が、ぼんやりと聞こえる。
何が、どうなった??
霞む視界の中に、いくらか、男が入って来た。
(’e’)
そのうちの一人、多分、あれは、ジョーンズ、だった。
腹に衝撃を感じ、体が転がっていく。
また、意識が―――遠く――――――
143
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:52:23 ID:J3DrZlj60
.
144
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:52:46 ID:J3DrZlj60
―――気付くと、辺りは真っ暗闇だった。
空気が嫌に薄い。
隣で、ジーの喚く声がする。
僕は、口を何かテープのようなもので塞がれていた。
手足もだ。僕とジーは、身動き一つ取れずにいた。
145
:
名無しさん
:2017/08/21(月) 22:53:07 ID:J3DrZlj60
振動を感じる。
恐らく、車のトランクか何かの中に閉じ込められているのだろう。
僕たちの事が、バレてしまったんだ。
僕たちは拉致されて、どこかの組織のアジトに連れて行かれて、そこで―――
――――きっと、殺されてしまう。
146
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:53:40 ID:J3DrZlj60
彡 l 三 lミ「う、ううううううううううううううううううううっ!」
嫌だ。
僕は、力の限りのたうちまわった。
でも、駄目だった。
拘束は強くて、びくともしない。
僕たちの抵抗は虚しく、車はどんどん進んでいく。
トランクの中に、呻くジーと、僕の声が充満していた。
彡 l 三 lミ「ふーーーっ、ふーーーっ!」
爪|| 三)「んーーーーーーーっ!んーーーーーーーーっ!」
147
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:54:25 ID:J3DrZlj60
その瞬間、
バリッ、と、何かが千切れる音がした。
直後、
尋常ではない衝撃が僕たちを襲った。
何度も、何度も、何度も、回転した。
焼けるような痛み。
僕の意識は薄らいでいき、爆音が耳を破壊していった。
.
148
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:55:01 ID:J3DrZlj60
「オスロっ!!」
僕を呼ぶ、ジーの声で目覚めた。
―――どのくらい、気を失っていたのか。
目を開く。
強い光が飛び込んできて、目の奥に鈍痛が走る。
ひどい、匂いだ。
何かが焦げたような匂い。
体が、空気が、熱い。
149
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:55:28 ID:J3DrZlj60
目が慣れてきた。
辺りは煙に包まれていた。
爪; ー)「こっち!」
ジーの伸ばした手につかまり、立ち上がる。
彡メl v lミ「一体、どうなって………っ」
痛む身体に鞭を打ち、僕はジーを追う。
煙を抜けると、そこは交差点だった。
僕たちが閉じ込められていた車は、右側から飛び出てきた車と衝突事故を起こし、炎上していた。
あの調子だと、中の人間は即死しているだろう。
僕たちは、衝撃で開いたトランクから投げ出され、助かったのだ。
人々が集まっている。
遠くから、救急車のサイレンも聞こえてきた。
爪; ー)「そこのタクシーッ!乗せて下さいッ!」
彼女が、一台のタクシーを止める。
150
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:56:00 ID:J3DrZlj60
爪; ー)「乗って!」
僕が先にタクシーに押し込まれ、それに続いてジーが乗った。
( ;・□・)「行き先は、どこへ!?」
爪; ー)「980モーテルまでっ!」
車が走り出した。
僕たちが、狙われたという事は―――
彡;メ l v lミ「………斉藤が、危ないっ!」
僕は、ポケットに手を入れる。
あった。
僕はそこから携帯を抜き出し、彼に電話をかける。
151
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:57:09 ID:J3DrZlj60
《どうした?》
彡;メ l v lミ「ドクオっ!僕たちは狙われてる、早く逃げろ!!
《………分かった!そっちは大丈夫か!?》
彡;メ l v lミ「大丈夫じゃないけど、なんとかなってる……!今、980モーテルに向かってる」
《了解ッ、車で向かうから、少しそこで待って居てくれ》
斉藤が電話を切る。
斉藤、なんとか無事で居てくれ――!
爪; ー)「はぁっ、はぁっ」
( ;・□・)「怪我、してますよ。病院には」
彡;メl v lミ「僕たちで何とかする!とにかく、急いでくれ!」
(; ・□・)「……知りませんからね!」
152
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:57:34 ID:J3DrZlj60
僕たちを乗せたタクシーは、980モーテルの前に止まった。
(; ・□・)「790レスですが」
爪; ー)「これ。釣りはいらない」
(; ・□・)「ま、またのご利用、お待ちしております!」
爪; ー)「急ごう」
彡;メl v lミ「ああ」
モーテルに入ると、受付があった。
受付には不透明な仕切りがあり、会話するための穴が空いて居た。
爪; ー)「空いてますか」
「そうですね、214号室が空室でございます」
爪; ー)「1時間30分コースで、お願い」
「かしこまりました。こちらが部屋の鍵です」
穴の向こうから、214と書かれた鍵が差し出される。
爪; ー)「ありがとう」
153
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:58:43 ID:J3DrZlj60
部屋に入る。
爪; ー)「とにかく、身体を、洗わないと……」
ジーは衣服を脱ぎ捨て、シャワールームへと向かう。
彡;メl v lミ「く、クソ………」
僕は、椅子に座り込む。
事故の衝撃で、体は痣だらけ。
ところどころ擦り切れ、服もボロボロだ。
頬の擦傷が赤く開き、痛々しかった。
154
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 22:59:40 ID:J3DrZlj60
一瞬のうちに、数分が経った。
爪゚ー゚)「オスロも、早く血を流した方がいいよ」
バスタオル一枚の姿で、ジーが出てくる。
彼女は顔に傷を負って居なかったが、腕や足には多くの傷が残っていた。
爪゚ー゚)「絆創膏か何か、探しておくから」
彡;メl v lミ「ありがとう」
155
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 23:00:12 ID:J3DrZlj60
シャワーの水を全身に浴びる。
彡;メl v lミ「つっ………!」
全身の傷に、シャワーの水が沁みる。
流された血で、僕の足元が赤く染まっていく。
こうなってしまっては、もはや父や母の元に、あの町に残る事は出来ない。
これから長い間、彼らから逃れる身だ。
僕がシャワーから出ると、彼女は医療セットを見つけていた。
156
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 23:00:38 ID:J3DrZlj60
爪゚ー゚)「動かないで」
彡;[]l v lミ「ぐっ………!」
爪゚ー゚)「……これでよし、ね」
彡[]l v lミ「ありがとう……」
彡[]l v lミ「今度、僕がやるよ」
爪゚ー゚)「お願い」
彼女の背中は、大きく擦り剥けていた。
僕は、消毒液を浸したガーゼを彼女の傷をあてる。
彼女から、うめき声があがる。
何回かそれを繰り返した後、背中から胸部にかけて、包帯を巻いてやった。
157
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 23:01:07 ID:J3DrZlj60
爪゚ー゚)「ありがとう」
彡[]l v lミ「いや………。一先ず、生きててよかった」
爪゚ー゚)「本当だね……奇跡みたい」
爪゚ー゚)「……でも、ここに何時までも居るわけにはいかない」
彡[]l v lミ「斉藤が迎えに来る」
彡[]l v lミ「一緒に、逃げよう。あいつらの手が届かない所まで」
爪゚ー゚)「……うん」
僕は、彼女を抱き寄せた。
彼女も、僕の背に手を回す。
158
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 23:01:33 ID:J3DrZlj60
斉藤から、電話が来た。
《今着いた。980モーテルで、いいか?》
彡[]l v lミ「ああ。すぐに向かう」
彡[]l v lミ「ジー、行こう」
僕とジーがモーテルから出ると、そこに斉藤の車があった。
後ろのドアが開かれ、ジーが先に、僕が後に乗った。
(;・∀ ・)「災難だったな。とにかく、生きててよかった」
彡[]l v lミ「そっちこそ、生きててよかった」
159
:
名無しさん
:2017/08/21(月) 23:02:02 ID:J3DrZlj60
(;・∀ ・)「それとだな。こっちが、例の人物さ」
斉藤の隣には、ジョルジュが、居た。
_
(; ゚∀゚)「―――――ッ!」
彼は僕の事を見ると、驚きを隠せない様子だった。
_
(; ゚∀゚)「あんたはッ!」
彡;[]l v lミ「ジョルジュさん、貴方が……」
_
(; ゚∀゚)「全部、バレてたのか?俺の仕事も、全部」
彡;[]l v lミ「そんな……!完全に偶然です。僕と貴方が出会った事は………」
160
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 23:02:37 ID:J3DrZlj60
(;・∀ ・)「彼は、組織に見限られたんだ。彼が預かってたチップは全部回収されて、今は俺たちと同じ身の上ってこと」
_
(; ゚∀゚)「家族は、安全な所に逃げさせた。組織の狙いは、俺の首だ」
_
(; ゚∀゚)「俺たちは、協力して生き延びなければならない。愛する人の為に」
(;・∀ ・)「そういう事だ。急ごう!」
斉藤はそう言って、アクセルを踏んだ。
161
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 23:04:10 ID:J3DrZlj60
その後、僕らは街の反対側へ行くため、都心部へと車を走らせ続けた。
車は、ソーゴーの都心部を駆け抜けている。
ジーと僕は、互いに抱き寄せ合いながら、流れていく景色を、ただ、見る。
( )「……今が、『その時』なのかもしれない」
その後も、ずっと車で走っていた。車は都心部を抜けかけていた。
静寂の車内で、彼はおもむろに口を開いた。
彡[]l v lミ「その時?」
162
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 23:05:12 ID:J3DrZlj60
( )「俺が、RMNを追う理由。話すよ」
( )「俺の家族は、NEO国で失踪した」
( )「帰って来た時には、何もかも忘れてしまっていた」
( )「今も、全員精神病院の中だよ」
( )「……NEO国で、記憶の操作技術が開発されているのを知ったのは、その1年後だった」
( )「そして、RMNの存在に気付いたのは、数年前だ」
( )「……俺は、母の、父の――妹の、記憶を取り返す」
それは、ほぼ不可能だ、とジョルジュが言う。
彼は、答えない。
( )「……やるだけの事は、やってみるさ。これが、俺がRMNを追う理由だ」
163
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 23:05:43 ID:J3DrZlj60
彡[]l v lミ「これからは、どうする?」
( )「―――さあ、な。なるようになるさ」
彡[]l v lミ「なるようになる、ね………」
彡[]l v lミ「そうだな。そうに違いない」
( )「そうだ」
ジーは、疲労からか、僕に首を預けて眠ってしまった。
僕は、窓の外に目をやる。
街では、朝の気配も消え、昼の力強い光が、高層ビルの数々を照らして居た。
164
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 23:08:49 ID:J3DrZlj60
ああ、
僕は、今この場に、確かに居る。
あの時まで死んでいた僕は、こうして再び、心を自由に動かして、生きる事ができる。
なんと素晴らしいことだろう!
生きるとは、なんと素晴らしいことなのだろうか!
父よ、母よ、僕を許して下さい。
少し遅過ぎたけれど、旅に出ることになりました。
いつまでかかるか、そんな事は分からない。
けれど、
いつか、ここに戻って来よう。
今はただ、眠ろう。
お前が生きるために。
お前の愛する者たちを守るために。
彡[]- v -ミ「少し、休む………」
( )「………おうよ」
.
165
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 23:09:22 ID:J3DrZlj60
彡[]- v -ミ
.
166
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 23:10:00 ID:J3DrZlj60
Wr
.
167
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 23:10:37 ID:J3DrZlj60
Mn
.
168
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 23:11:09 ID:J3DrZlj60
Ou
.
169
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 23:11:35 ID:J3DrZlj60
Xa
.
170
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 23:12:27 ID:J3DrZlj60
.
171
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 23:12:49 ID:J3DrZlj60
了
172
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/21(月) 23:27:39 ID:J3DrZlj60
完結です。ありがとうございました
173
:
名無しさん
:2017/08/21(月) 23:32:07 ID:v8n4PIcU0
乙 なんか海外小説読んでる気分になった
174
:
名無しさん
:2017/08/21(月) 23:51:35 ID:L7az8VTA0
面白かった
>>151
のドクオってのはわざと?
175
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/22(火) 00:11:50 ID:nlK87xRI0
>>174
完全にミスです………申し訳ない
わざとって事にしといて下さい……
176
:
名無しさん
:2017/08/22(火) 20:58:16 ID:Uw33zzVY0
乙
読んでる時
>>105
からのシーンで両親死んだように受け取ったんだが、冷静に見たら生きてる?よな?
177
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/08/22(火) 21:40:28 ID:nlK87xRI0
>>176
生きていると思います
178
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 14:58:26 ID:6B8BveAE0
乙!!
すごいなんだろうこのワクワク感は!!!
179
:
名無しさん
:2017/08/24(木) 22:58:59 ID:YIz6iUGk0
乙!!!
180
:
名無しさん
:2017/08/25(金) 13:02:51 ID:6AJDJSeA0
上の人も言ってるが、ほんと海外小説読んでるみたいな
すげーよかった。乙!
181
:
名無しさん
:2017/08/25(金) 15:54:52 ID:982ASmS.0
とても続きが読みたくなる
182
:
◆TflJu3mvXc
:2017/08/27(日) 00:46:19 ID:IIu7jKv20
【業務連絡】
主催より業務連絡です。
只今をもって、こちらの作品の投下を締め切ります。
このレス以降に続きを書いた場合
◆投票開始前の場合:遅刻作品扱い(全票が半分)
◆投票期間中の場合:失格(全票が0点)
となるのでご注意ください。
(投票期間後に続きを投下するのは、問題ありません)
詳細は、こちら
【
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1500044449/257
】
【
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1500044449/295
】
183
:
名無しさん
:2017/08/28(月) 00:20:01 ID:7hvfNEgo0
おつ
184
:
名無しさん
:2017/08/28(月) 21:08:21 ID:albJGSow0
面白かった乙
185
:
名無しさん
:2017/09/02(土) 06:25:40 ID:Y1GcQtgw0
乙
めっちゃよかった
好きだ…
186
:
名無しさん
:2017/09/05(火) 01:05:12 ID:3e9q9p6g0
いい雰囲気だ
おつ
187
:
◆mtKAQR6eRA
:2017/09/16(土) 23:17:48 ID:iPPKhHTU0
>>181
今作品の続きですが、執筆するかどうかは未定です。
一応、彡 l v lミの青春を描いたものだったのでここで物語は終わってもいいかなと思っていたのですが、
まだまだ広げる余地もありますし、サイドストーリーなども絡めながら、進行していけるといいのかなと思います。
もし続きを書くとすれば、このスレに投下しようと思います。
188
:
名無しさん
:2017/09/18(月) 08:35:17 ID:l.QdpO1M0
まじか
期待してる
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