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('A`)echappee!のようです
1
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 00:09:00 ID:B7c3z6TA0
周囲からラチェット音とギアを変える音が聴こえる。
この音が聴こえると、ああ集団に戻ってきてしまったなと何とも言えない感情に襲われてしまう。
全く、クソ暑い。
集中がぷっつり切れた俺がふと思ったのは、そんなとても人間らしい言葉だった。
オオカミ市街地、1周約11キロを14周、約154キロを走る今回のレース。
残り2周半、約27キロを残して俺はメイン集団に吸収された。
 ̄Z_ 『よくやったドクオ、いい逃げだった』
右耳に嵌めたイヤホンから、無線にのって監督からのお褒めの言葉が聴こえてくる。
67
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:09:19 ID:B7c3z6TA0
しばらくすると、先ほど飛び出していった二人の姿を捉えた。
( ´_ゝ`)「どうする? 捕まえていくか?」
(´<_` )「ダメだ、あいつらは『遅い』! 合わせてたら後ろのメイン集団に飲み込まれちまう」
( ´_ゝ`)「了解!」
(;><)(,,゚Д゚)
時速80キロ超で下っていく彼らをパスし、我々は更に加速して下っていく。
( ´_ゝ`)「このまま一気に行くぞ! 平地もガッツリ飛ばしていく!」
(´<_` )「おう!」
(;'A`)「……スリリングだ」
(;-∀・)「……」
先ほどまで感じていた恐怖はいつの間にかぶっ飛んでいて、
どうやって彼らに食らいついていくか、それだけを考えるようになっていた。
坂も登れる、平地も速い、加えてダウンヒルもできる。
やはりオトジャは異次元の存在である。
末恐ろしい奴が現れたもんだと、切る風の音を聴きながら思った。
68
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:10:36 ID:B7c3z6TA0
(実´∀`)「あーっと! 現在峠の下りが終わってゴールまで残り40キロの地点!
ここで逃げ集団からアタックしていた2名が捕まりました」
(解^∀^)「オトジャが異様な速さで捕まえに行ってましたからねえ」
(解^∀^)「ダウンヒラーとしてまた新しく才能を開花させたと」
(実´∀`)「あ、パスしますね! キャッチした2名、ビロードとギコを置き去りにしてそのまま走っていく!」
(解^∀^)「彼らも下りでは時速80キロ超で走行してたにも関わらず簡単にパスされていくとは……」
(実´∀`)「このまま高速体制でレース残り40キロも飛ばしていくのでしょうか?」
(解^∀^)「先ほどから一向に集団のペースが上がりませんし、
時折下りでかかるアタックにもチーム・ラウンジが徹底的にマークして潰しています」
(解^∀^)「逃げとメイン集団の差も2分に開きそうですし、これはこのままいってしまいそうですね」
(実´∀`)「いやー恐ろしい23歳! オトジャ・サスーガ!」
(実´∀`)「そういえば兄のアニジャ・サスーガはクラシックハンターでしたね」
(解^∀^)「そうですね、まあ近年は成績に陰りが見えていますしアシストに回る機会が多くなりましたが」
69
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:11:30 ID:B7c3z6TA0
(実´∀`)「弟もその血を引き継いでいるんですかね」
(解^∀^)「そうかもしれませんねー、ステージレースもクラシックも行ける、
ある意味完全なオールラウンダーとして戦うための前哨戦として名が残る戦いになりそうですよ」
(実´∀`)「そんなサスーガ兄弟に喰らいついているのがチーム・ビップ・ファイナーの2名!」
(解^∀^)「来季DMCに移籍する有望な若手スプリンター、モララー・ボーネと、酸いも甘いも知るアシスト、ドクオ・ウッツの2名ですね」
(実´∀`)「この2人の選手についての見解をお聞かせ願えますか?」
(解^∀^)「モララーは言わずもがなですが、ドクオもグランツールでアシストを立派に勤め上げた経験もあります」
(解^∀^)「『やれ!』と言われれば『ハイ!』と全てをこなすタイプのエースアシスト、それがドクオです」
(実´∀`)「なるほど、その2人が残っているのはサスーガ兄弟にとってはかなりの脅威になりそうですね?」
(解^∀^)「展開を面白くしてくれることは間違いないでしょう!」
(実´∀`)「なるほど! 今後もレースの様子を見守っていきましょう!」
70
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:12:36 ID:B7c3z6TA0
………
……
…
峠を越えてどれほど走ったか。
運営のバイクがボードで伝えてくれた@20km、1:24という数字が教えてくれる。
我々は先ほどから走り続けて残り20キロ時点までやってきた。
メイン集団とは1分24秒差がついているらしい。
逃げ切りが現実味を帯びてきた。
もちろん、10キロ=1分の法則から考えればまだまだ油断は出来ないのだが、
現在もチーム・ラウンジがコントロール出来ているという事なら中々厳しいだろう。
俺たち4人はローテーションを繰り返しながら集団で走行していた。
先頭をグルグルと変えつつ、1列で走行していく。
周囲からラチェット音とギアを変える音が聴こえるのは、大人数でも少数でも変わらない。
71
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:13:29 ID:B7c3z6TA0
( ´_ゝ`)「おいドクオ」
引き終えたアニジャが最後尾に降りてくると、前にいたドクオへと話しかけた。
('A`)「なんだ?」
( ´_ゝ`)「いや……この風景が懐かしく思えてな」
( ´_ゝ`)「ソウサク・シュガーハウスにいた頃を思い出した」
('A`)「昔、あのチームでも俺はアシストだったな」
('A`)「お前がエースで、俺がアシスト……」
( ´_ゝ`)「そうだな、その組み合わせで何レースも走ってきた」
( ´_ゝ`)「懐かしいな、何もかも」
( ´_ゝ`)「色々時間が変えちまった、俺たちも含めて」
('A`)「それはしょうがない事だ、過ぎ去る時間は誰にも変えられない」
( ´_ゝ`)「……お前、まだまだ出来るよ」
('A`)「どうした、いきなり」
72
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:14:24 ID:B7c3z6TA0
( ´_ゝ`)「『戦える』と言ってるんだ」
( ´_ゝ`)「数年ぶりに一緒に走ってみて、なおさら確信したよ」
('A`)「……俺はエースの踏切台、それ以上でもそれ以下でもねえ」
( ・∀・)「だからアンタは牙の抜けた老犬なんだ」
前で引いていたモララーが、降りてきたと思いきやドクオと並走し始める。
( ・∀・)「アンタはアシストという名分に頼って、自ら勝負することから逃げてるだけ」
( ・∀・)「自分で踏み切れる能力があるにも関わらずだ!」
(;'A`)「おい、どうしたモララー」
( ・∀・)「これまでのレースでも今日のレースでも、逃げた後にもう一度抜群の逃げを打てる選手がショボい訳ねーだろ」
( ・∀・)「おっさんが何考えてるかは知らねー! でも今日みたいな最後の日はいいんじゃねーのか!」
( ´_ゝ`)「……」
73
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:15:17 ID:B7c3z6TA0
( ・∀・)「おいアニジャさんよ、さっきの駄賃払うぜ」
(;'A`)「おい!?」
( -∀・)「おっさんを勝たせる! お前と勝負させる!」
( ´_ゝ`)「グッドだ」
(;'A`)「バカ野郎! お前が勝てるかもしれねえレースだぞ!」
( ・∀・)「もうどーせ無くなるチームでの勝ちなんて数える意味なんて無いね!」
( ・∀・)「このあとプロチームで勝ち星を稼げばそれでいい!」
(;・∀・)「それに……俺の膝も結構キテるんだ、どうせこんなんじゃ踏み切れねえ」
('A`)「お前……!」
( ・∀・)「だから今日は、今日だけは、勝つのを手伝ってやる!」
( ・∀・)「俺のアシストなんだろ!? 何でもするんだろ!? だったら俺のために勝ってくれ!!」
74
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:16:09 ID:B7c3z6TA0
 ̄Z_『……おい、モララー何言ってるんだ?』
( ・∀・)「あ、チクショウ、無線入りっぱなしだったか」
 ̄Z_『お前の仕事が勝つことだ! ドクオなんかに情をかけている場合じゃ……』
( ・∀・)「うるせー」
モララーは右耳からイヤフォンを引っこ抜く。その顔は満足気だった。
( ・∀・)「俺の仕事が勝つことなら、今日はおっさんを勝たせることがお前らに対する『勝ち』だ」
( ・∀・)「よーく覚えておけよ?」
( ´_ゝ`)「おう、しかと聞いたぞ、その言葉」
(´<_` )「ああ、確かに聞いた」
(;'A`)「……まったくよお」
75
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:16:48 ID:B7c3z6TA0
ドクオはやれやれとため息をつくと共に、心の奥にフッと火がつくような感覚を覚える。
それはなんだか懐かしいような、あるいは今まで燻っていたものが一気に盛り上がったのか。
それは未だに分からない。
が、確かに感じたことが一つだけある。
身体が、そして自らが勝利を求めていた。
.
76
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:17:44 ID:B7c3z6TA0
………
……
…
(実´∀`)「さぁ! 残りレースも5キロ切りました!」
(解^∀^)「レースも最終盤といった感じですね」
(実´∀`)「逃げ集団とメイン集団の差は14秒まで縮まりました! こちらもまだ分かりません!」
(解^∀^)「ええ、チーム・ラウンジが完全にコントロールしきれず、でしたね……」
(実´∀`)「途中、メイン集団に復帰したロッソ・ベルテールのロマネスクがアタックを仕掛けて決まりかけましたが!」
(実´∀`)「そう簡単には行きませんでした!
同じく逃げ集団に送り込んでいるチーム・ビップ・ファイナーのショボンとブーンのコンビが上手く反応!」
(実´∀`)「その後追い上げてきたチーム・ラウンジと共闘して上手く潰す場面もありました」
(解^∀^)「あれは流石でした!!」
77
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:19:00 ID:B7c3z6TA0
(実´∀`)「しかしやはりスプリンターチームが黙っていません!
3チーム、グラウグリッツとロッソ・ベルテール、そしてTCRモバイルの3チームが協調!
チーム・ラウンジの組織力を数で粉砕し、集団は大きくペースアップ!」
(実´∀`)「既に逃げ集団の後方を捉えるかという位置までやってきています」
(実´∀`)「一方のメイン集団はマシントラブルも無く、順調にローテーションを組みながらここまで走ってきました」
(解^∀^)「地力のある4人ですからねー、これは順当と言っていいですね」
(解^∀^)「スプリンターと言えど、オールラウンダーとしてチームで役割をこなしているモララー」
(解^∀^)「ルーラーとしてもパンチャーとしても行けるドクオ! 今日の前半も活躍しました!」
(解^∀^)「そして元々クラシックレースが得意なアニジャ、そして最近売り出し中のオールラウンダーのオトジャ!」
(解^∀^)「熱いメンバーですよ」
(実´∀`)「しかし今日は少し様子が異なる! オトジャがアニジャを引き、モララーがドクオを引くという場面が目立ちます!」
(解^∀^)「これは正直想定外ですねー!」
(実´∀`)「しかし今日はアシスト同士のゴール前争いという珍しいモノが見れそうです!」
(解^∀^)「市街地での走り、期待してみていきましょう!」
78
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:20:01 ID:B7c3z6TA0
最後の残り5キロのバルーンが見えた。
ここからはビップの市街地だ。
先ほどまでの視界一面に広がる平坦の世界から、今度は細やかな路地に入り込んでいく。
観客の数も徐々に増え始め、コースの脇を賑わす。
街中で見通しのきかない石畳の路地が、一面に敷き詰められている。
ここからが、更なる地獄の始まりの入口だ。
(;'A`)「ぬうううん……」
ガタガタと揺れる車体に身体。路面に取られるハンドル。
これまでの整地されていた路面とは異なり、ギャップに苦しむことになる。
一般人の自転車乗りなら落車するか、はたまたサイクリング程度に速度を落とすことで対応するだろう。
しかし、俺たちはプロだ。
そして今はレースだ。
時速は40キロを超えるか超えないかくらいで突き進む。
路面の変化に急速に対応できるように下ハンドルを握り、敏感にギャップを察知する。
79
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:21:03 ID:B7c3z6TA0
それだけでも大分神経はすり減っていく。
加えて相手との駆け引きもある、凄まじい世界がここから始まっていくのだ。
( ・∀・)「落っこちるなよオッサン!」
そう言ってガンガンと踏み込んでいくモララー。
普段引いている相手の背中を見るのはなんだか新鮮な感じだ。
( ´_ゝ`)「……」
(´<_` )「……」
サスーガ兄弟は静かに、それでいて淡々と走り続けていた。
先ほどから協調体制は解消されている。
いつもなら、ここからどう勝たせるかを考える時間帯に入っていく。
しかし今日は違う。
『エース』として勝ちに行くことを考える。
80
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:21:59 ID:B7c3z6TA0
(実´∀`)「さあ残り3キロを切った! グングンとスピードを上げていくモララー・ドクオ組!」
(解^∀^)「早速動いてきました!」
(実´∀`)「それに反応するサスーガ兄弟! あぁ、後ろに集団も見えてきた!」
(;・∀・)「やっべ! 集団来てる!」
(;'A`)「分かってる! 焦るな! 必死に踏め!」
(;'A`)「臆せば死ぬぞ!」
(;・∀・)「ちっくしょ、このエース様のぶっちぎりの引きを見せたかったのによぉ!!」
( ´_ゝ`)「オトジャ、行くぞ」
(´<_` )「あぁ、行こう」
(解^∀^)「おっ! ここでサスーガ兄弟最後のアタックですね」
(実´∀`)「吸収されるかと言わんばかりに抜群の伸び! ここに食らいついていけるかモララー・ドクオ組!」
81
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:22:52 ID:B7c3z6TA0
( ・∀・)「奴ら動いた! 行くぞオッサン! ここで行く!」
('A`)「分かった!」
( ・∀・)「後ろから結構なペースで集団が迫ってる、加えて普通にサスーガの兄弟とやりあっても勝てない!」
( ・∀・)「だからそれまでにある程度両集団と離れて、残り1キロでロングスプリントをかけろ!」
( ・∀・)「オッサンのパンチ力なら十分勝てる余裕はあるはずだ!」
( ・∀・)「分かったか『エース』!!」
('A`)「……ああ!」
( ・∀・)「今日は俺の日じゃない、あんたの日だ!」
( ・∀・)「絶対に勝てる!」
('A`)「……ありがとよ」
( ・∀・)「……よっしゃ行くぞ!!」
(実´∀`)「モララー・ドクオ組もついていくー!
集団からは20キロ地点で吸収されたギコがチームメイトとトレインを組んでやってきた!」
82
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:24:07 ID:B7c3z6TA0
ミ,,゚Д゚彡「うおおおおおおおおおおおお」
(,,゚Д゚)「うらあああああああああああああ」
(実´∀`)「豪快な雄たけび!! ものすごい速さだ!!」
(解^∀^)「数々のスプリントレースを制しているフッサールとギコのコンビです、これはゴール前が楽しみになってきましたよ!」
(実´∀`)「今残り2キロのゲートを通過! 右コーナー! 曲がりくねった石畳!」
(実´∀`)「後続との差はわずかに4秒!」
(;´・ω・`)「チィッ、ギコが出た!」
( ^ω^)「抑えますかお!?」
(´・ω・`)「いやここで反応しても集団が一気に上がるだけだ!」
(;^ω^)「祈る事しかできないのかお!!」
(´・ω・`)「ここに居る全員が勝とうという意思を持っている」
(´・ω・`)「それをより強く、大きく思う人間こそが勝利を得られる……」
( ^ω^)「……『誰よりも今日、強ければ勝ちますお』」
(´・ω・`)「……それ、誰からの受け売り?」
( ^ω^)「読んだマンガに書いてありましたお」
83
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:24:52 ID:B7c3z6TA0
(,,゚Д゚)「うがあああああああああああああああ」
ミ,,゚Д゚彡「うおおおおおおおおおおおおおおおお」
(実´∀`)「ギコが逃げ集団の後方を捉えた! 集団もすぐ後ろに迫ってきている!!」
(;・∀・)「いくぞおおおお!」
(;'A`)「おう!!!」
(実´∀`)「ここでモララーがロングスプリントをかける!! 後ろにドクオも続く!!」
(;´_ゝ`)「喰らいつけ!!」
(´<_`;)「言われなくても仕留める!!」
(実´∀`)「逃がしてはならない! 逃がしてはいけない! サスーガ兄弟も反応!」
(実´∀`)「残り1キロ!!」
84
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:25:42 ID:B7c3z6TA0
(;・∀・)「いけええええええええええ!!!!!!」
(#'A`)「うおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
(実´∀`)「ここで今日のエース、ドクオが飛び出していったああああ!!!」
(解^∀^)「良い飛び出しです!! 切れのいいスプリント!!」
(;´_ゝ`)「どけっ! オトジャ! 俺も行く!!」
(´<_`;)「おう!! 行ってこい!!」
(#´_ゝ`)「しゃあああああああああああああああ!!!!」
(実´∀`)「アニジャも飛び出していった!!! ギコは!!! ギコはまだ来ない!!!」
ミ;゚Д゚彡「ひょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
(#゚Д゚)「覇っ!!!!!!!!」
(実´∀`)「残り500メートル!!」
(実´∀`)「ここで弾丸のように飛び出していったギコ!! グングンと差を詰めていくゥー!!!」
(実´∀`)「まだ吸収されない! 逃げ集団!! 集団ものすごい速度で追う!!」
85
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:26:21 ID:B7c3z6TA0
(実´∀`)「残り100メートル!!! 3人とも踏む!! 踏む!!」
(;´_ゝ`)「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
(実´∀`)「スピードは緩む事無く3人ともゴールへと向かって突っ込んでいく!!」
(;'A`)「だりゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
(実´∀`)「ドクオ、必死に逃げる! しかしアニジャが追い上げるぅ!! ホイール1個分程度の差だ!!」
(;゚Д゚)「ちょああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
(実´∀`)「そして大外からギコがまくる!! とんでもない速度だ!!」
86
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:27:03 ID:B7c3z6TA0
(実´∀`)「残り50メートル!!!」
(実´∀`)「まだだ! まだ分からない!!」
(実´∀`)「ホイール半分まで詰めてきたか!! ギコが、ああ!!! 伸びてくる!!」
(;゚A`)「っらああああああああああああああああああ!!!」
(;゚_ゝ`)「だあああああああああああああああああ!!」
(;゚Д゚)「ごおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
(実´∀`)「そしてゴールラインに飛び込んだあああああああああ!!!」
.
87
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:27:38 ID:B7c3z6TA0
(実´∀`)「GOOOOOOOOOOOOOOOOOOAAAAAAAAALLLLL!!!!!」
.
88
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:28:35 ID:B7c3z6TA0
(実´∀`)「……最後は横一線、誰が最初にゴールラインに飛び込んだかは微妙なところ!!」
(実´∀`)「判定は写真判定に委ねられそうです」
(実´∀`)「集団が続々ゴールしていきます……解説のゲーラさん、感想をお願いします」
(解^∀^)「いやー、そうですねー……スプリント勝負になるのは事前の予想からあったんですが」
(解^∀^)「最後の最後に予想外のメンバーでしたから!」
(実´∀`)「中盤でチーム・ラウンジが一気に逃げを飲み込んでからのカウンターアタックでオトジャが行くのかと思いきや……」
(解^∀^)「まさかのアニジャでの勝負、加えてチーム・ビップ・ファイナーの大健闘がありましたからね」
(実´∀`)「チーム・ビップ・ファイナーも新進気鋭のエース、モララーが行くのかと思いきやまさかのドクオ勝負!」
(解^∀^)「元々グランツールなどで強力な逃げを打てる選手としてマークされていた時期もありましたから、
能力は疑いようがないのですが」
(解^∀^)「まさか、まさか、ここでロングとは言えスプリント勝負を仕掛けてくるとは……」
(実´∀`)「老兵は未だ死なず! 健在をアピールしたという感じでしょうか!」
(解^∀^)「そうですね! 素晴らしい走りでした!」
(実´∀`)「それでは結果を待ちましょう!」
89
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:29:28 ID:B7c3z6TA0
………
……
…
最早酸欠に近かった。
1キロほど全力でもがいていたのだから当然と言えば当然なのだが。
チリチリチリと、ラチェット音が響く。
もうペダルを漕ぐ気力はこれっぽちも残っちゃいない。
(;・∀・)「オッサン! やったな!!」
(;'A`)「勝ったか……?」
最後、ゴールの場面ではハンドルを投げてフィニッシュした。
後ろから迫っていたアニジャにも、加えて大外からまくっていたギコにも、
本当に勝っていたのだろうか。未だに確証が持てない。
しかし少なくとも、全力で踏んだ。
悔いは、無い。
(´・ω・`)「ドクオさん!」
( ^ω^)「お疲れ様ですお!」
そう言ってドリンクを渡してくれる2人からボトルを受け取ると、一気に飲みこむ。
そして残りを頭にぶちまけると、少し落ち着いた気分になる。
90
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:30:21 ID:B7c3z6TA0
(´・ω・`)「モララーがアシストに回ってドクオさんがスプリントするって無線で聞いて……」
( ^ω^)「少し驚きましたお」
( -∀・)「……駄賃だからな」
( ^ω^)「駄賃?」
( ・∀・)「俺は特急列車の駄賃を払っただけなんだ」
( ´_ゝ`)「そうだな、いいものを払ってもらった」
('A`)「アニジャ」
( ´_ゝ`)「いい勝負だった、感謝する」
そう言って差し出してきた右手、ドクオはそれをグッと握り返す。
('A`)「久々だった」
('A`)「……ここまで勝利に飢えたのは、久々だった……」
( ´_ゝ`)「お前が心の奥底でそれをずっと思ってたって事だよ」
( ´_ゝ`)「そんな思いを抱えたまま……引退しちまってもいいのかい」
('A`)「知ってたのか」
( ´_ゝ`)「あれだけ気力の失ったお前の顔を見たら、それは何となく分かったよ」
( ´_ゝ`)「ダメだ、お前はまだ終わるには早い」
('A`)「……」
91
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:31:05 ID:B7c3z6TA0
( ・∀・)「そうだな! 俺を差し置いてエースをやった人間が引退なんてするわけないぜ!」
( ・∀・)「俺がそんなポンコツにワンレースとは言えエースの座を渡すわけなんて無いんだからな!」
('A`)「モララー……」
(´・ω・`)「そうですよ、まだまだ引退なんて早いです。あなたは走るべきだ、それがどこであろうと」
(´・ω・`)「同じ道の上なら関係ないでしょう」
( ^ω^)「僕も……若造の身分であんまり言えないけど」
( ^ω^)「今日の走りを見て、辞めるなんてとても考えられないですお」
(´<_` )「全くだ、あんな逃げが打てる選手なんてそういない」
( ´_ゝ`)「おおオトジャ、今日は大儀であった」
(´<_` )「本当だよ、レース前にいきなり『俺に勝たせろ』なんて言うもんだから」
(´<_` )「スポンサー様も監督もカンカンだったじゃないか」
( ´_ゝ`)「おいおい、ちゃんと無線で謝ったからノーカンだぜ」
( ^ω^)「ああ、あの無線はそういう……」
92
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:31:50 ID:B7c3z6TA0
( ´_ゝ`)「……とにかくだ、ドクオはまだ諦めるには早すぎる」
( ´_ゝ`)「お前の中で燻ってる闘志が燃え尽きるまで、もがいてみろよ」
('A`)「……頑張るよ」
('A`)「こんなレースをさせてもらったんだからな、あっさり辞めるなんて申し訳が立たない」
( ´_ゝ`)「グッドだ」
( ・∀・)「それでいい」
('A`)「……ああ、ありがとよ」
そう言って俺は天を仰ぐ。
アシストは献身しなければならない。
アシストは犠牲にならなければならない。
今日も俺は『エースとして』アシストを尽くし、勝ちを手に入れるかどうか。
そう言うところまで連れてきた。
空は鉛色から透き通るような青空へと変わり、雲の合間から光が差し込んでいる。
93
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:32:25 ID:B7c3z6TA0
(実´∀`)「さあ、ゴールの結果が出ました!」
(実´∀`)「栄えあるシベリア〜ビップ、シーズン最後のクラシックレースの覇者は──!」
.
94
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:33:01 ID:B7c3z6TA0
………
……
…
(´・_ゝ・`)「……諸君らと過ごす時間もこれで最後だ」
(´・_ゝ・`)「私が率いた2年半、実にいろいろな事があった……」
(´・_ゝ・`)「中でも私の頭髪が一晩のうちに……」
( ・∀・)「おーい、いい加減にしてくれよ」
(´・_ゝ・`)「……ゴホン」
(´・_ゝ・`)「それでは乾杯しよう」
95
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:33:43 ID:B7c3z6TA0
(´・_ゝ・`)「今日のドクオの勝利を祝して……乾杯!」
そう言うと一斉にワイングラスが掲げられて、チリンチリンとグラスの当たる音が鳴り響く。
('A`)「ありがとうございます……乾杯!」
( ^ω^)「乾杯!」
(*・∀・)「かんぱーい!! うぇーい!!」
(´・ω・`)「何はしゃいじゃってんのさ……牙が抜けた犬とか言ってたくせに」
(*・∀・)「うるせーやい、勝った時くらいはしゃがせろ!」
( ・∀・)「今までアシストの気持ちなんて分かんなかったけどよー……今日何となく分かったよ」
( ・∀・)「全力で引いた奴が最後に勝つ! ……くぅー、たまんねえな!」
96
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:34:31 ID:B7c3z6TA0
(´・ω・`)「それを僕らはいつもやってるんだけど」
( ・∀・)「分かってるよ、だから感謝しますわー」
(´・ω・`)「何だよ気持ち悪い。最後まで素直じゃなくやってろよ」
( ・∀・)「へっ、こういう時まで減らず口はマイヨ・ジョーヌになれねえよ」
('A`)「……今日は感謝してるよモララー」
(;・∀・)「なんだよオッサンまで! 気持ち悪いな!」
('A`)「俺に勝ちの気持ちを思い出させてくれた、それだけで感謝だ」
( ・∀・)「はっ! 勝ちの味を知っちまったら後は地獄だぜ!」
('A`)「そうかもしれないな、ここまで心地のいい場所だとは思わなかった」
( ・∀・)「へへっ……それを味わいたくてエースをやってるわけよ」
('A`)「それを味わいにいくよ」
( ・∀・)「はっ?」
97
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:35:26 ID:B7c3z6TA0
('A`)「俺、来期から日本に行こうと思う」
(´・ω・`)「日本……!」
('A`)「ジップ・ファンディーニっていう日本資本のチームから誘いを受けててな」
('A`)「エースとして迎え入れたいという事だった」
(´・ω・`)「じゃあ、まだ続けるんですね!」
( ・∀・)「しかもエースだってよ、このオッサンが!」
('A`)「俺はまだ終われねえ、終わっちゃいけねえんだ」
('A`)「今日で決めた、俺は行く。そして挑戦する」
( ・∀・)「じゃあ今日からオッサンとはライバルだな」
( ・∀・)「同じエースとしてな」
('A`)「……またいつか、同じ道の上で会おう」
( ・∀・)「……へっ、引退してなきゃいいけどな」
(´・ω・`)「……お元気で」
( ^ω^)「今度日本に行ったときは是非スシとテンプラをおごってほしいですお」
('A`)「頑張れよ……お前らもな」
そう言って一人一人としっかり握手を交わした。
ここから、それぞれが新たな道へと挑戦していく。
別れと決意の握手だった。
98
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:36:12 ID:B7c3z6TA0
………
……
…
周囲からラチェット音とギアを変える音が聴こえる。
集団の中はいつもこの音で溢れている。いつだってそうだ。
 ̄Z_『ドクオ、そろそろ前の方に準備だ』
右耳に嵌めたイヤホンから、無線にのって監督からの言葉が聴こえてくる。
('A`)「へいへい」
とにかく今日エースが勝てば、それでいい。
('A`)「なんてったって、それが俺の仕事だからな」
そうつぶやいて、俺は逃げの仕事を果たしたチームメイトから受け取ったボトルから水を飲む。
前の方ではここからゴールへ向けたエースとアシストのアタックが始まろうとしている。
俺はメイン集団前方で、その駆け引きの中に加わる。
99
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:36:51 ID:B7c3z6TA0
自転車ロードレースは大まかに2種類の人間で構成される。
エースとアシストだ。
エースは勝者だ。
ゆえにエースは前進しなければならない。
ゆえにエースは勝たなければならない。
そしてアシストにエースとして送り出してもらうだけ。
今日のレースはもらった。
.
100
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:37:27 ID:B7c3z6TA0
(#'A`)「ウラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
『やはり強い! ジップ・ファンディーニ所属、ドクオ選手がゴール前スプリントを圧倒的な速さで勝利しました!!』
('A`)「っしゃああああああああああああああああああああああああ!!!」
こういう日も、ある。
.
101
:
◆FdAaxXTkkg
:2017/08/20(日) 01:38:02 ID:B7c3z6TA0
【('A`)echappee!のようです 終 】
.
102
:
名無しさん
:2017/08/20(日) 01:46:30 ID:xz0fDUHw0
乙
全く縁のない世界だったけどとても気持ちのいい読後感だった
ありがとう
103
:
名無しさん
:2017/08/20(日) 02:27:14 ID:M893.kT60
クソ面白いじゃん
もったいねぇ
104
:
名無しさん
:2017/08/20(日) 02:31:24 ID:xz0fDUHw0
とんでもない所でオチをつけるんじゃないよ!
105
:
名無しさん
:2017/08/20(日) 02:42:04 ID:YvdsHNrw0
最っ高だわ。乙
106
:
名無しさん
:2017/08/20(日) 07:56:48 ID:/GpZeq9c0
こんな面白いのに失格かよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
107
:
名無しさん
:2017/08/20(日) 09:48:13 ID:I5FK6p4Q0
おつ
108
:
名無しさん
:2017/08/20(日) 19:12:52 ID:of45T4pU0
作品も主宰も乙
109
:
名無しさん
:2017/08/20(日) 21:28:45 ID:hCGL8zfg0
乙
作品自体は消えないのが救いだぜ
110
:
名無しさん
:2017/08/20(日) 22:11:34 ID:08.V8jdY0
この作品のデミタスもハゲなのか…
111
:
名無しさん
:2017/08/23(水) 01:34:41 ID:MJIP1CqI0
お疲れ様です
どの競技も老兵が一杯食わせるシーンは本当に良いものだと思う
そこに到るまでの道筋も段階を踏んで描写されているお陰で
痛快さが尚更際立っていました、とても良かったです
112
:
名無しさん
:2017/08/26(土) 19:33:51 ID:wWJm78Pk0
クソおもろいじゃん乙
113
:
名無しさん
:2017/08/27(日) 00:51:57 ID:M69i/mxo0
今更だが乙
熱い、とんでもなく熱い
とても面白かった
114
:
名無しさん
:2017/09/05(火) 10:22:56 ID:jcgb2R9k0
書いてくれてありがとう
115
:
名無しさん
:2017/09/10(日) 16:54:04 ID:WoDaFvWw0
今更だが凄い良かった
投票出来ないのが残念
116
:
名無しさん
:2017/09/17(日) 18:03:56 ID:PKoufrYQ0
俺の日ってフレーズで茄子を思い出した
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