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月が映える夜がキレイなようです
34
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 21:08:17 ID:D1OUooxc0
('A`)「もし、アレがあったら……と考え続けるだけで救われるんだ」
( ^ω^)「えーそうかお?」
('A`)「いつまでも取り返せないからこそ、ああしてれば良かったんだろうと後悔とズルズルとした期待を持ち続けられるんだ」
('A`)「後悔なく終われるのも悪くない事だけどな、悔いを残す事はある意味過去の『点』に対して思い出を残す事でもあるんだよ」
( ^ω^)「単純に女々しいと言うのとは違うのかお」
('A`)「そうバッサリ切り捨てるなよ……」
( ^ω^)「例えば」
そう言ってブーンはグラウンドを指差した。
( ^ω^)「あの新入部員達もドクオが言うところの『点』を残すことになるのかお?」
('A`)「人生を進む上で誰でも『点』は残すと思う」
35
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 21:09:09 ID:D1OUooxc0
('A`)「ただ、その中で打っていく『点』に対してどれだけの思いの強さを残せるかっていうだけの話さ」
( ^ω^)「要するに何なんだお?」
ドクオは指先で空を突っつく。点を打ってるつもりなのだろうか。
突いた点からスーッと指を横に引く。
('A`)「自分が変わる……例えば思考やその先の出来事だったり、そういった事をいくら残せるかって言う話さ」
('A`)「思い出何かとはまた違った……要するに分岐点だよな」
( ^ω^)「ドクオにとってあれは分岐点だったお? そこまで深刻なものでも無かったお……」
('A`)「『点』はどこに打たれたか分からねえ」
( ^ω^)「ネガティブ思考もここまでいくと国宝モノだお」
('A`)「人はその『点』と『点』の間に引かれた『線』の上を歩いて生きていくんだ」
36
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 21:09:44 ID:D1OUooxc0
('A`)「どこかでピリオドを打つまで、いびつな形の人生を歩いていくんだな」
( ^ω^)「人生でドクオの言う悔いのない『点』だけを打つ人って中々いないお」
('A`)「そんなもんかな?」
( ^ω^)「そんなもんだお」
ブーンはそう言ってふぅと息を吐き出すと、足元に置いていたペットボトルを持ち上げ、
蓋を開けてチビチビと中の水を飲んだ。
('A`)「ブーンだってあるはずだ、絶対」
( ^ω^)「そりゃ、無いといえば嘘だお」
('A`)「そうだろう? そういうもんだよ」
37
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 21:10:19 ID:D1OUooxc0
('A`)「聞かせてくれよ、その話」
_,
( ^ω^)「人の嫌な思い出を聞きたがるとか……随分とまあ悪趣味だお」
(;'A`)「な、なんだよ、俺はずっと語ってただろ」
( ^ω^)「ドクオは一人でずっとブツブツ言ってただけじゃないかお……」
('A`)「それを聞いてたんだからいいじゃん、イーブンだよ」
( ^ω^)「……やっぱりアレはあんまりいい思い出じゃないんだお」
空になったペットボトルをポーンと脇にあるゴミ箱に投げ捨てる。
それは綺麗な放物線を描いて、ゴミ箱の中へと吸い込まれていった。
38
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 21:10:55 ID:D1OUooxc0
………
……
…
ξ゚⊿゚)ξ「ブーンが一番なりたいモノって何?」
風が吹き、青い草木が生い茂り始めた、初夏の空気に包まれる中。
彼女、ツンは僕に向かってそう言った。
僕はただ愛想笑いを浮かべながら、彼女と一緒に音を出す。
ジャンジャンジャギジャギと、ギターの歪んだ音が2つそろって鳴る。
( ^ω^)「……何かになりたいお」
ξ゚⊿゚)ξ「何それ、仮面ライダーとか?」
( ^ω^)「そういうんじゃなくて……『何者』かになりたいお」
39
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 21:11:30 ID:D1OUooxc0
ξ゚⊿゚)ξ「よく分かんないなーそういうの」
ξ゚⊿゚)ξ「男ってそういうの好きだよね」
( ^ω^)「何かになれるって素晴らしい事なんだと思うお」
ξ゚⊿゚)ξ「大臣とか? 弁護士とか?」
( ^ω^)「うーん……そういうのもいいけど」
( ^ω^)「名前を付けて呼ばれるって意味では、誰かにとっての何者かになれたらいいお」
ξ゚⊿゚)ξ「やっぱり意味不明、アホみたいに聞こえちゃう」
( ^ω^)「アホで結構だお」
そう言ってジャーンと適当にギターを鳴らす。
安いエフェクターのディストーションのかかったストラトキャスターの音が、開けた窓から抜けていく。
「君にとっての何者かになりたい」
そんなクサいセリフは、とてもじゃないが言えなかった。
僕は毎日、毎月を悶々とした思いを引きずりながら、高校生としての日々を過ごしていた。
40
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 21:12:10 ID:D1OUooxc0
( ^ω^)「あ」
ξ゚⊿゚)ξ「あ」
ある日の帰り。
駅前にあるカフェで友人と待ち合わせをするためにやってきた所で、僕は彼女とばったり出会ってしまった。
( ・∀・)
彼女と一緒にいたのはイケメンと各クラスの女子たちから持て囃されている茂等だった。
一目見て、「これはデートなんだ」と勝手に理解した。
男女で2人きり、しかもコソコソとした感じが隠せていなかったというのもある。
でも、そんな事だけじゃない、隠しきれない雰囲気が彼女と彼の間から漂っているように見えた。
僕と練習している時なんかには見せたことの無い、『女』の顔をしているように見えたのだ。
察した僕は、軽く会釈をしてその場から離れるしかなかった。
それしか出来なかった。
翌日、彼女と出会った時、もうまともに顔なんて見れなくて、出来る限りまともに努めていたけれど、彼女にはどうかしてるように見えたかもしれない。
そして僕はそのまま卒業までを一バンドメンバーとして過ごし、彼女とは離れた。
僕は、彼女にとっての何者かにはなれなかった。
41
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 21:12:45 ID:D1OUooxc0
………
……
…
('A`)「……で?」
( ^ω^)「で?」
('A`)「なんだよ消化不良じゃねえか、続きあるんだろ」
( ^ω^)「まぁ、あるっちゃあるけど……」
('A`)「言っちゃえよ、俺の方が気になって仕方ねえよ」
( ^ω^)「つまらん話だお」
('A`)「なんだよ、もったいぶらずに言えよ」
42
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 21:13:30 ID:D1OUooxc0
( ^ω^)「……『点』は」
('A`)「?」
( ^ω^)「その時に打つから『点』になるんだお」
( ^ω^)「打てなかった『点』は、繋がった線に対して意味をなさないんだお」
('A`)「???」
( ^ω^)「歪な形でもいいから、あの時打った『点』を使って形を描きたかったなんて後出しのジャンケンなんだお」
('A`)「お、おう」
( ^ω^)「思い通りの点を打たれるまで伸び続ける線なんて存在しないんだお……」
('A`)「……続き、聞かせてくれよな」
( ^ω^)「つまらん話だお」
43
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 21:14:05 ID:D1OUooxc0
………
……
…
大学生としての生活をスタートさせてからしばらく経ったある日、久々に見る名前からのメッセージが届いた。
ツンからのメッセージだった。
「久しぶりに会いませんか」
ひどく短いメッセージが、ポツンと一通だけ送られてきたのだ。
僕もそれに応えるように、「いいよ」と短いメッセージを彼女に送り返した。
44
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 21:14:41 ID:D1OUooxc0
ξ゚⊿゚)ξ
久しぶりに出会った彼女は、少し大人びて見えた。
それは化粧のせいか、はたまた少し重ねた年月が彼女を大人びて見せたのかは分からない。
そんな彼女と僕はまた再び出会った。
あの日のまま、ただ年を食っただけのように思える僕にとって、少し後悔する理由には事足りた。
せっかく調べた雰囲気のいい店であこがれた彼女と2人きりでいい雰囲気なのに、僕はずっとジントニックをすすっている。
ξ゚⊿゚)ξ「最近さ……」
( ^ω^)「うん……」
どうしたらいいのか、お互い距離感を図りながら会話をしてるような固い雰囲気が続く。
色々な事を考えながら僕は悶々としていた。
45
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 21:15:57 ID:D1OUooxc0
ξ゚⊿゚)ξ「あのさ、あの日あったじゃん」
突然彼女がラフな口調で突っ込み気味に話しかけてきた。
( ^ω^)「あの日?」
ξ゚⊿゚)ξ「カフェで出くわしちゃったあの日」
意外なことに、踏み込んできたのは彼女の方からだった。
ξ゚⊿゚)ξ「あの日は焦ったなー、まさかあんなところ見られると思わなかったもん」
( ^ω^)「おっおっ、僕も焦ったお」
ξ゚⊿゚)ξ「そうなの、あの日までちゃんと隠しきれたのになーって」
46
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 21:16:33 ID:D1OUooxc0
( ^ω^)「あの日まで?」
ξ゚⊿゚)ξ「うん、だってあの日に丁度別れたんだ」
( ^ω^)「えっ」
ξ゚⊿゚)ξ「まさか別れの現場にブーンが立ち会ってくれるとは思わなかったわ」
僕のジントニックを飲む手が、ピタリと止まった。
ξ゚⊿゚)ξ「それでね、今日もお別れを言いに来たの」
ξ゚⊿゚)ξ「私の踏ん切りって意味でもね……」
(;^ω^)「お別れ? お別れってなんだお」
47
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 21:17:08 ID:D1OUooxc0
ξ゚⊿゚)ξ「私ね、ブーンのことが好きだったの」
手に持っていたグラスを、思わず落としそうになる。
ξ゚ー゚)ξ「ずーっと見てたわ、あの日からずっと」
ξ゚⊿゚)ξ「でも、ブーンは振り返るどころか、私を避けているようにさえ見えた」
ξ゚⊿゚)ξ「だからね、私も諦めざるを得なかった……」
(;^ω^)「そ、それは違……」
ξ゚⊿゚)ξ「ううん、言わないで」
ξ゚⊿゚)ξ「そうしないと私、後悔しちゃう、きっと」
(;^ω^)「僕だって、そんなこと言われて、後悔するお……」
48
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 21:17:43 ID:D1OUooxc0
ξ゚⊿゚)ξ「もし、あなたの思いが違うとして、あの時にはもう戻れないのよ」
ξ゚⊿゚)ξ「すれ違ったお互い、後悔のまま終えましょうよ」
そう言って彼女はポロポロと涙をこぼして切々と語り始めた。
バンドメンバーとしての思い出、あの時の彼との思い出、そして如何にして僕に惚れ込んだか……
数年の胸のつかえを語りきった彼女は、最後にはすっきりとした表情で僕の元から去っていった。
そして僕の元には、ただモヤモヤとした思いと、やりきれない思いだけが残ったのだ。
49
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 21:18:19 ID:D1OUooxc0
………
……
…
( ^ω^)「……こんな感じだお」
('A`)「……友達じゃあさ、ダメだったのかな」
('A`)「だってさ、そんな泣くほど思ってたんだろ? なのに言って、ハイおしまいってさ」
( ^ω^)「ブーンだって最初はそう思ったお」
( ^ω^)「でも……仮にもあそこまで思った相手に対して友達って括りは一番しんどいんじゃないかお」
( ^ω^)「実際、自分が彼女の立場だったら、そうしてたと思うお」
( ^ω^)「……もう過ぎた『点』は打てないんだお」
50
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 21:18:54 ID:D1OUooxc0
( ^ω^)「あの時打てたはずの『点』が打てないと分かったからと言って、今更戻ることは出来ないんだお」
( ^ω^)「既に『線』は引かれていて、次に打たれる『点』を探しているんだお」
('A`)「……なんつーか、やるせねーな」
( ^ω^)「ドクオが振った話だお」
( ^ω^)「……もし、もっと僕に根性があって彼女に『サヨウナラ』をしっかり言えたらまた今の気分は違ったのかもしれないお」
('A`)「……青春だねえ」
( ^ω^)「……青春『だった』お」
('A`)「春は、通り過ぎちまったか」
51
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 21:19:32 ID:D1OUooxc0
その日の帰り道、僕はドクオにカフェでフラペチーノを奢ってもらった。
('A`)「なんつーか、悪かったな」
なんてガラにもない事をドクオが言うもんだから、僕は肩をポンポンと叩いてやった。
あの時打った『点』。
それがどうであれ、その『点』から伸びる線は止めることは出来ずに伸びていく。
その伸び続ける線を後からまた付けられた『点』の上から眺めて、あの時を後悔しながら過ごしていくのだろう。
僕は飲み残したフラペチーノをずっと吸い込みながらそんな事を思った。
薄くなったベリーの香りと、ちょっとの甘酸っぱさだけが口の中に残った。
52
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 21:20:12 ID:D1OUooxc0
『春が通り過ぎていくようです』
おわり
53
:
◆sVJSKQRVSQ
:2017/04/20(木) 21:21:46 ID:D1OUooxc0
以上です。ありがとうございました!
54
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 21:48:21 ID:Tg9HtPPY0
乙
じんわりと染みてきて何周か読み直したくなる話でした
55
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 22:21:36 ID:el5LVZvo0
ええねぇ
56
:
名無しさん
:2017/04/21(金) 00:20:40 ID:aTXbNiVI0
乙乙
こういう雰囲気の話好き
57
:
名無しさん
:2017/04/22(土) 09:55:03 ID:s5bWSdNk0
どっちの話も良かった
特に2作目の雰囲気が大好き
乙でした
58
:
名無しさん
:2017/04/22(土) 17:33:12 ID:/qEI90HQ0
乙
余韻がいい感じ
59
:
名無しさん
:2017/04/25(火) 19:27:51 ID:Btd4KFtI0
特別大きなことが起こるわけでもないのになんかすごく好きだ
乙
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