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月が映える夜がキレイなようです
1
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 20:43:23 ID:D1OUooxc0
月が綺麗な夜である。
自動ドアから見える月を見てそう思った。
ふと右腕に着けた時計を見る。そろそろ深夜1時になりそうだ。
今日の遅早番(19時〜1時までのシフト)のニダさんがバックレをかまし、僕はその煽りを受けて長い長いシフトになった。
だが、その10時間の長丁場ももう終わる。少しながらの解放感が僕を包む。
すぐ傍が繁華街であるこのコンビニは、夜から深夜にかけてが最も忙しい。
しかし、日曜日である今日は思ったより人が少ない。
店にいるのは髪を盛って胸元を大きく開けたホストと派手なメイクと髪型、そしてドレスを着こんだキャバ嬢だけだ。
いつものように栄養ドリンクを買い込んだホストの会計を終えると、さっきから入ってくる客がいなかった自動ドアが開いた。
2
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 20:44:04 ID:D1OUooxc0
( ^ω^)「いらっしゃいま……」
ξ*゚⊿゚)ξ「あーぶーんだぁ♪」
そのドアの向こうから現れたのは、整った顔立ちと明るい綺麗な金髪、そして特徴的なロール髪の女性。
間違いなく、ツンだ。
顔は紅潮していて、足元はおぼつかない。
僕はレジカウンターの中からツンへ話しかける。
(;^ω^)「酔っ払い、どうしたんだお」
ξ*゚⊿゚)ξ「別にぃ?水買おうって思って入ったらブーンがいただけ♪」
(;^ω^)「あぁそう……」
ξ*゚⊿゚)ξ「あぁー!!」
3
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 20:44:39 ID:D1OUooxc0
(;^ω^)「えっ、何? 何かしたお」
ξ*゚⊿゚)ξ「ブーン何時上がり?」
(;^ω^)「もう上がるお」
ξ*゚⊿゚)ξ「じゃあ立ち読みしちゃお!」
(;^ω^)「???」
ξ*゚⊿゚)ξ「ブーンが上がってくる時間丁度位まで立ち読みするわね!」
ξ*゚⊿゚)ξ「別にあんたの上がりの時間を待ってるわけじゃないんだから!」
そう言って軽くスキップをしながら書籍コーナーへツンは向かっていくツンの背中を見送ると、僕はすぐにバックヤードへ引っ込んだ。
ちょっと陽気すぎる彼女に若干の危うさを感じ取った僕はなるべく待たせないように、なるべく早く着替えて出る準備をする。
思ったより僕の心は弾んでいて、いつもはダルイ帰りの準備もすこし軽やかだった。
4
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 20:45:24 ID:D1OUooxc0
ξ゚⊿゚)ξ「おっそいわねぇ、女の子が待ってるって言ってるんだからもっとキビキビ支度しなさいよ」
先ほどより顔の赤みがひいたツンが僕に悪態を吐く。
さっきよりもしっかりとした足取りになっているのを見て、少し安心する。
結局僕がツンと一緒にコンビニを出た時間は、予定時間を30分過ぎた1時半頃だった。
帰り際に事務作業や整理を任せられ、なんとか頑張ったがこれが精一杯だった。
(;^ω^)「……これでも急いだんだお」
僕らはこの繁華街『猫街通り』のメイン通りを歩いていた。
道の脇には煌めく照明と看板、そして多数の客引きが自分たちの口の中へ引き込もうと必死に誘惑している。
先ほどからスマホばかり見ているツンの後ろで、僕はその人らに捕まらないように歩くのに必死だ。
5
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 20:46:52 ID:D1OUooxc0
( ^ω^)「そういやツンと2人で遊ぶの初めてだお」
ξ゚⊿゚)ξ「あれ?そうだっけ」
( ^ω^)「大体他のメンツと一緒だから」
ξ゚⊿゚)ξ「そうかも。大体あんた達と一緒にいるからよく分からないわ」
ツンは手元のスマホをぬるぬると弄りながら答える。
僕もなんとなくジャケットの右のポケットからスマートフォンを取り出して画面を開く。
特に着信も来ていないホーム画面を見つめながらツンに話しかけた。
( ^ω^)「……で、今からどこ行くんだお?」
ξ゚⊿゚)ξ「クラブ」
いつも僕がツンにラインのメッセージを送った時の返信より、ずっと早い返事が飛んできた。
6
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 20:47:37 ID:D1OUooxc0
(;^ω^)「……帰っていいかお?」
僕はクラブという名前に正直尻込みしている。
なんだか、その名前を聞くだけで
あんな猥雑として騒がしい空間、僕は行こうとも思わないし行きたいとも思わない。
ξ゚⊿゚)ξ「……あんたが思っているようなところじゃないわよ」
ξ゚⊿゚)ξ「騒がしいけど、とっても静かな場所よ、今から行くクラブって」
ツンが発した言葉に僕は思わず眉を顰めた。
「そんなクラブがあるわけないだろう」
そう言った僕はツンに頭を引っ叩かれ、「いいから来なさい!」と襟元を掴まれながら僕は連れられて行った。
7
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 20:48:12 ID:D1OUooxc0
ξ゚⊿゚)ξ「はい、ハイネケン」
僕はツンが差し出した瓶を受け取る。
壁にもたれながら天井を見上げると回る照明の光が煌めき、ミラーボールに反射した光が幻想的な空間を作り出しているように思える。
鳴り響く重低音と耳をつんざく高音が馬鹿でかいスピーカーから吐き出され、頭の中に強制的に殴り込みをかけられている気がしてならない。
フロアで騒いで踊っている彼ら、彼女らは、楽しそうに踊っている。
彼らは踊っているのだろうか。はたまた踊らされているのだろうか。
ξ゚⊿゚)ξ「ここ、いいでしょ」
( ^ω^)「僕にはまだいまいち良さが分からないお」
ξ゚⊿゚)ξ「他人から干渉されないのよ、ここって」
8
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 20:48:51 ID:D1OUooxc0
( ^ω^)「ナンパする男だらけじゃないのかお」
ξ゚⊿゚)ξ「うん、そういう所も多いけど、ここは違う」
ξ゚⊿゚)ξ「DJはプレイに没頭できるし、私たちは好きな曲を聴いて好きなだけ踊れる」
ξ゚⊿゚)ξ「もちろん飽きたら酒を飲んで脇でまったりするわ。けど、その全てに誰も干渉しないのがルールなの」
僕はハイネケンを一口飲む。
少しの苦味と炭酸が口の中ではじけたかと思うと、すっと喉を下って行った。
( ^ω^)「明文化でもされてるのかお」
ξ゚⊿゚)ξ「暗黙のルールってとこかしらね」
9
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 20:49:49 ID:D1OUooxc0
( ^ω^)「ふぅーん、でもはみ出し者は何処にでも来るもんだお」
ξ゚⊿゚)ξ「あら、あなたは街中で一人でニヤニヤしながら奇声を上げている人に積極的につっかかるタイプ?」
(;^ω^)「……いや」
ξ゚⊿゚)ξ「そういう事」
ξ゚⊿゚)ξ「誰が注意するわけでも、排除するわけでもないわ……だけど自然にそうなるし、輩も出ていくのよ」
そう言ってツンも持っていたカクテルグラスを傾けて飲む。
色からしてチャイナブルーだろうか。彼女は一気にそれを飲み干すと、僕の方を向いてこう言った。
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン、あなた私と友達になりましょ」
僕も残っていたハイネケンを一気に飲んだ。
疲れているせいかスグに酔いが酷くなってきた。
少し不快になってきた胃のこみ上げてくる感覚を抑える。
10
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 20:50:24 ID:D1OUooxc0
( ^ω^)「僕はてっきりツンとは友達だと思ってたお」
ξ゚⊿゚)ξ「ううん、もっとお互いのことよく知って、【ちゃんとした】友達になりましょってこと」
( ^ω^)「……ちょっと解せないお、例えば別に生まれ故郷を知らなくても、楽しく話せたらそれで十分友達じゃないかお」
ξ゚⊿゚)ξ「ううん、違うわ」
ξ゚⊿゚)ξ「私が思う友達ってね、もっと深くまで知り合う事だと思うの」
( ^ω^)「ふーむ」
ξ゚⊿゚)ξ「私ね、ずっとクラスで目立つ子のそばにいて過ごしてきたの」
ξ゚⊿゚)ξ「クラスで目立つ子の近くって、とっても楽なの。その子の近くにさえいれば自分もいい立場にたてるから」
( ^ω^)「その気持ち、分かる気がするお」
ξ゚⊿゚)ξ「私はいつでも『目立つ子のそばにいる子』でしかなかったの」
ξ゚⊿゚)ξ「まるで地球と月みたいにね。ずっと私は彼女たちの周りを衛星みたいにグルグルとついて回ったわ」
ξ゚⊿゚)ξ「その立場にさえいれば、周りとはそれなりに仲良くなれるから、それ以上は踏み込まなかったの」
11
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 20:50:59 ID:D1OUooxc0
ξ゚⊿゚)ξ「あんまり自分に踏み込まれるのって好きじゃなかったし、それに人と関わるのって疲れちゃって。だから何もしてこなかったの」
ξ゚⊿゚)ξ「案の上、卒業したら、目立つ子はもちろん、一緒に周りにいた子も一気に音信不通になったわ」
( ^ω^)「……」
ξ゚⊿゚)ξ「これまでは、それでいいと思ってたし、これからも私はこうして生きていくつもりだったわ」
ξ゚⊿゚)ξ「月なら夜に無くなったら寂しいし、暗くなっちゃうから困るでしょうけど」
ξ゚⊿゚)ξ「私がいなくなってもそんな事はないんだなって」
ξ゚⊿゚)ξ「『私もいなくなったら忘れ去られるだけなんだ』『誰からも気にされなくなっちゃうんだ』って、そう思うと怖くならない?」
12
:
名無しさん
:2017/04/20(木) 20:51:34 ID:D1OUooxc0
( ^ω^)「それが嫌だから酔っぱらって適当に入ったコンビニにいた僕を捕まえて友達にするのかお? 」
ξ゚⊿゚)ξ「……そういうわけじゃないって言っても信じてもらえないかもしれないけど、そういうわけじゃないのよ」
ξ゚⊿゚)ξ「今日友達と飲みながらその事考えてたら、酔っちゃって。そんな状態で入ったコンビニにブーンがいて」
ξ゚⊿゚)ξ「『この人とは縁があるのかも』って思って連れ出したの」
(;^ω^)「……結局偶然だったってことだお」
ξ;゚⊿゚)ξ「うっ……でもなんかあるのかなと思ったのは事実だから」
( ^ω^)「……まぁ、ブーンもツンが言ってた事に対して思う所が無いわけでは無いお」
( ^ω^)「とりあえず、これから仲良くやろうお」
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