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( ^ω^)達は今が楽しければなんでもいいようです

1ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/23(金) 23:19:53 ID:tPVEEtDg0
前スレ
( ^ω^)達は今が楽しければなんでもいいようです
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1438259918/

支援曲 Answer(すーぱーもぐりん氏より)
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/lite/link.cgi?url=https%3A%2F%2Fyoutu.be%2F-c3XqxQ_j2A


ゆっくりまったりと。2スレ目でもよろしく。

69名無しさん:2016/09/25(日) 00:20:19 ID:firjRevQ0
乙乙
そしてハイン…

70名無しさん:2016/09/25(日) 00:21:25 ID:6Xnuq5560
おつおつ

71名無しさん:2016/09/25(日) 00:21:41 ID:K9MHsM0A0
どんどん物語が深みに潜っていくなー楽しみ


72名無しさん:2016/09/25(日) 00:22:09 ID:JQ3tTPnU0
乙!

73名無しさん:2016/09/28(水) 21:28:36 ID:cazF8jE20
ハインは龍と会ったわけではないのかな?
真祖の力出しただけ?

74ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/29(木) 20:32:09 ID:0/9ih0a20
今日か明日投下

75名無しさん:2016/09/30(金) 00:12:53 ID:ua.J0Flg0
よし

76ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:49:48 ID:CLErTf8A0



第二十二話「過程から抜け出せないぼく達の、結末に至る為の理由。」



.

77ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:50:12 ID:CLErTf8A0

ζ(゚ー゚*ζ「おはよう、第九王位さん」

 打ちっ放しコンクリートの部屋。
光一つ差し込まないその暗室で、彼はイノヴェルチの視線の元、目を覚ました。

( ゚д゚ )「…………」

 ミルナは最後に自分が見た光景を、頭の中で反芻させた。
自分の脳天めがけて振り下ろされる羅刹棍。衝撃。
そして、遅れてやってくる静寂。
その闇の中を揺蕩う最中、彼は悍ましい獣の声を聞いた。

「悦びなさい、哀れな子羊。志半ばで失った命、私が呼び戻してあげましょう」

 それは刻印のようなもの。
武人として誇らしく死ぬことすら許されず、彼はその闇から掬い上げられた。

( ゚д゚ )「第四王位……」

 ジョルジュの声明の時に見た顔だと、ミルナはすぐに気がついた。
青白い顔。赤い瞳。彼女がイノヴェルチであることも。

 自身が横たわるベッドの感触を、掌で確かめる。ひどくごわついていた。
そして、血に塗れていた。

ζ(゚、゚*ζ「大変だったんですよ? なにせ首から上が木っ端微塵だったんですから。ここまで修復するのに時間がかかりました」

( ゚д゚ )「あの男は……」

ζ(^ー^*ζ「貴方が殺したショボンくんですか? ご心配なさらず。私がきちんと直しましたから」

 ミルナの表情が、硬くなる。

78ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:50:38 ID:CLErTf8A0

( ゚д゚ )「誰がそうしろと頼んだ」

 明確な怒気を孕んだ声。
射抜くような視線は、真っ直ぐデレに向かっていた。

ζ(゚、゚*ζ「あら、もしかして貴方も、武士道とは死ぬことと見つけたり、とか言っちゃうタイプの人ですかぁ? 最近多いんですよねそーゆーの」

(# ゚д゚ )「貴様……!」

ζ(゚ー゚*ζ「いいじゃないですかみっともなくて。死んでしまったら全部同じですよ。みーんなただの肉になっちゃうんだから」

 部屋の隅に立てかけておいた刀を握り、デレはそれをミルナに差し出した。

ζ(゚、゚*ζ「みっともなくもがいてください。貴方が嫌う、誇りのない死んだような生の中で、存分に打ち拉がれてください。あなた方が謳う価値観がどれだけ矮小なものかを、きっと知ることになるでしょうね」

(# ゚д゚ )「ならばこの場で辻褄を合わせてやるだけだ」

 差し出された刀を受け取り、即座に抜刀。

79ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:51:03 ID:CLErTf8A0

 その刃はミルナの腹に、真っ直ぐ突き刺さった。
熱を伴う鋭い痛みに、ミルナの脳が警鐘を鳴らす。

(; ゚д゚ )「うぐっ……」

 そのまま、真横に刃を滑らせる。
肉を、臓物を切り裂き、皮膚を突き破り、刀はミルナの身体から離れた。

ζ(゚、゚*ζ「無駄ですよー? 貴方、吸血鬼なんですから」

 ベッドに身を預けるミルナの上体に覆い被さるように詰め寄り、デレは血の泡を噴き上げる彼の腹部に腕を突っ込んだ。

(; ゚д゚ )「いぎっ……!」

 破れた胃を掴み、優しく愛撫する。
細長い指でその食感を確かめ、爪を立てた。

 直後、部屋に響き渡るのは断末魔の如き声にならない悲鳴。
始めは野太かったそれは、やがて便りのない、甲高い女の悲鳴のようなものに変わる。

ζ(^ー^*ζ「いい暇潰しになりましたよ。"第九王位さん"」

 一頻り遊び終えて、デレは満足げな笑みを浮かべて、たった一つしかない扉をくぐって部屋を後にした。

80ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:51:27 ID:CLErTf8A0

 閉ざされた扉の向こうで、ミルナはデレが何者かと話している声を聞いた。
それよりも、彼は再生途中の腹部が発する痛みをどうにかしてほしくて、泣き出してしまいそうだった。

 情けない話だ。
一端の武士が、痛みに涙を流すなど。

 その悔しさと共に痛感する。
自分が掲げていた誇りが、何の役にも立たないということを。

 やがて、扉の向こうの話し声は止み、再び重々しい扉は開いた。

(´・ω・`)「……よお」

 部屋に入ってきたのは、ある意味ミルナが今一番話したい人間だった。

ショボンは鎖で上体を縛り上げられていて、身動きが取りづらそうにしている。
解いてやろうとミルナは立ち上がりかけたが、再生途中の腹部から腸が溢れて、その激痛にそのままベッドから転がり落ちてしまう。

(´・ω・`)「ひどいざまだな」

(; ゚д゚ )「お互い……に……な……」

81ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:51:47 ID:CLErTf8A0

 冷たい床に座り込み、ショボンはミルナが芋虫のように這いずり回るのを、ただ静かに見つめていた。

(; ゚д゚ )「おもしろいか?」

 ようやく腹部の再生が終わり、痛みの残滓も噛み殺すことが出来るようになって、ミルナは自嘲を含んだ言葉を漏らした。

(´・ω・`)「いや」

 ショボンはそこで言葉を区切り、息をすることすらやめて考えこんだ。
こんな時、どんな言葉をかければ良いのだろうか。
徹底的に他人を排除し続けたこの生き様の過程で、彼にとってそれはあまりに前例が少なく、難しい問いだった。

(; ゚д゚ )「なぁ、頼みがある」

(´・ω・`)「言ってみろ」

(; ゚д゚ )「殺してくれ」

 それが敵うならば、自分はとっくに死んでいる。
ショボンは胸の中でそう毒づいたが、ミルナを責め立てはしなかった。

82ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:52:09 ID:CLErTf8A0

(´・ω・`)「僕から王位を奪っておいて、もう投げ捨てるのか?」

( ゚д゚ )「あれは俺の負けだ。闘いにも負けて、このまま無様に生き恥を晒し続けるなど我慢ならん」

(´・ω・`)「だが、デレがそれを許しはしねえよ」

 覚醒したばかりのミルナが知らないことを、ショボンは知っている。
一部の者たちの間で、第九王位が覆ったという噂が流れていること。

 偽りの王位。

 それが自分の役目であることを、ショボンは受け入れている。

 デレからどうこうしろと指示を受けたわけではないが、彼はこの、出処が限られた情報が不自然な速度で伝播していることに、一つ心当たりがあった。

(´・ω・`)(兄さんの仕業だ)

 デレの隣に立つシャキン。
この二人が手を組んだとなれば、今の自分達の境遇は自然なのだと、ショボンは事のきな臭さに気付いていた。

83ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:52:57 ID:CLErTf8A0

 意図的に情報を改竄し、伝播する。

 シャキンが得意なやり口の一つだ。
こうして、術中に嵌めた人間を解答に辿り着けなくさせる手段を、彼は電波に準えて、ジャミングと呼んでいた。

(`・ω・´)

 同じ学園にいながら、ショボンが彼に辿り着けないのは、そういうことだった。

 血を分けた兄弟であっても、彼が本気で隠そうとしたものには辿り着けない。
あるいはペニサスのように、その改竄の形跡から察知出来るほど勘が鋭ければ、ジャミングを逆手に取ることも可能だろう。

 だが当然常人には困難なことで、武に秀でていればいいというわけではなく、それ一つで天賦の才と言っても過言ではない。

(´・ω・`)「よっぽど僕らのことが大事らしい」

84ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:53:26 ID:CLErTf8A0

 偽りの第九王位。
あるいは、出来過ぎたタイミングで入れ替わった第三王位。
ショボンはクーとハインの間に起きた出来事を知らないが、自分とミルナのような、確かな違和感をそこに見出していた。

(´・ω・`)(兄さんとデレが何を企んでいるのかは判らない……が、何かあるとすればぼくらかハインリッヒが引き金か?)

 主であるデレの支配が唯一及ばない領域、思考を、いずれ来る大きな動きを見据えて回す。

 身体を支配の鎖で縛り付けられた自分には何も出来ない。二人の思惑の為にいいように使われるだけだ。
だが、だからといってそこで考えるのをやめてしまえば、本当に死んだような男になってしまう。

 それは、少し前のショボンには無かった感情だ。

 死の直前、刃を交えた男によって喚び醒まされた、恐怖ではなく、闘志に従って戦うということ。

( ゚д゚ )「独り言が多いな」

 ミルナに言われて、ショボンははっと我に返った。

85ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:54:15 ID:CLErTf8A0

( ゚д゚ )「意外だ」

 ショボンは、僅かに気恥ずかしく思っている自分に気付いた。

 自分は今、どんな顔をしているのだろうか。
分からないから彼は無闇に口を噤み、眉間に皺を寄せて眉を八の字にする。

 幼い頃からの癖だった。
 
 何か自分に不慮があっての不都合に見舞われた時、ショボンはいつだってこんな風に渋い顔をしてみせた。

「そんなに眉間に皺寄せてると、顔がしょぼくれるぞ」

(´・ω・`)「…………」

 幼い頃、よく言われた言葉だ。
なぜ今になって思い出したのか、彼に対する憎しみならば、一日たりと、一瞬たりと絶やしたことはない。

 だが、死してなお胸の中で燃え上がる火が灯る以前、ショボンが、彼を兄として慕っていた頃を思い出すのは、珍しかった。

(`・ω・´)

(´・ω・`)「ちっ……」

86ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:54:37 ID:CLErTf8A0

 悪くない最期だった。このまま死んでもいいとすら思えた。
感傷に泥を塗り、無理矢理引きずり上げてきたあの忌々しい吸血鬼。
主と眷属という主従関係によって縛り付けられた今、ショボンに抗う術は無い。

 だが、抗わなければならない。

 たとえそれが呪いであったとしても、この意志が尽きないのであれば、兄を殺さなければならない。

(´・ω・`)「ミルナ」

( ゚д゚ )「……なんだ」

 生前の彼からは毛ほども垣間見ることが出来なかった強い意志を孕んだ瞳。
ミルナはそれに気圧されて、怖ず怖ずと返事をする。

(´・ω・`)「機を見てハインリッヒ・アルカードと接触する。お前も手を貸せ」

 自分とデレが主従関係であるように、その血脈を辿れば、あのデレですら、吸血鬼の鎖で縛る真祖に繋がるのだ。
本来はそのような関係である筈なのに、デレはハインに縛られていない。
そこに、活路は存在する。

87ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:54:59 ID:CLErTf8A0









 消えかかっていた復讐の火が、風を孕んでたちまち燃え上がる。


 自身の心すら蝕むその業火を、ショボンは静かに飲みくだした。









.

88ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:55:29 ID:CLErTf8A0

 三日間という時が短いのか長いのか、きっと人によって、あるいはその人の置かれた状況によって捉え方は様々だと思う。
ぼくにとってこの三日間は、コマ送りの映像を見るように短かった。

 ハインが第三王位を継承した。

 その報せを受けた時は衝撃的だった。
たとえ立場がどうなろうと、あの天上天下唯我独尊の吸血鬼はどこまでいってもハインリッヒなのだと思う反面、彼女が、ぼくの及ばない遠い存在になってしまう気持ちもある。

 自ら手放した。そのくせ彼女の一挙一動が気になって仕方がない。
これではまるで…………

( ^ω^)「ストーカーだお」

 ハンバーガーをかじっていたドクオは盛大にむせた。

(;'A`)「いつからそんな色男になったんだ」

 腰に吊ったホルスターに手を伸ばし、注意深く辺りを見渡す。
どうやら気が抜けていたらしく、漏れ出た言葉は彼にとって本当にどうでもいいことなのに、狼狽えるその姿を見て少しだけ胸がすっとした。

89ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:55:49 ID:CLErTf8A0

 ハインが王位を継承してからの三日間で、ぼくはどう進歩したのだろう、と何度も問う。

 荒れに荒れている第四ブロックを歩いているだけで、理由もなく命を脅かす暴徒は沸いてくる。
何人も地に叩き伏せてきた。
けれどそれは、何度も解消してきた問題を片手間で処理するような、鍛錬という体を保っていることによって得られる自己満足の為の行為である気がするのだ。

 ドクオが銃器のメンテナンス用の道具を買うというので、ぼくもついてゆく。

 早々に、背後から暴徒が襲いかかってきた。

( ^ω^)「殺気を抑えきれてない。衣摺れの音が聞こえるなんて論外」

 後ろ手に、何かしら得物を握っている奇襲者の腕を掴み、脛辺りを蹴り上げる。

( ^ω^)「奇襲、闇討ちは準備が本番。これで死んでも後悔は無いってくらい、きちんと準備してくるといいお」

 次からね、と付け足して、ぼくは振り向きざまに暴徒の顔面を力いっぱい殴った。
確かな手応えと共に、大柄な男は盛大に地面を転がった。

90ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:57:10 ID:CLErTf8A0

('A`)「…………」

( ^ω^)「なんだお?」

('A`)「いや、お前と初めて話した時のことを思い出してな」

( ^ω^)「気持ち悪いからやめてくれお」

('A`)「はっ、減らず口が叩けるようになったな」

 吹く風が生ぬるい。
風に運ばれて漂ってくるのは、以前ならば飲食店のダクトから漏れた匂いだったが、今は、どこかの誰かの命を奪った硝煙の匂いだけがぼくの鼻をくすぐる。

( ^ω^)「変わっちゃったおね」

('A`)「そうだな」

 荒れ果てた街。それでもぼくは憂鬱になったりはしない。
それどころか、むしろ懐かしさすらある。
人々の目は澱み、希望や野心も無くて、我利我利亡者の虚ろな吐息だけが占めるこの空気感。

 ここは、ぼくが乞食として、惰性的に命を繋いでいた外の世界と、まったく同じだった。

91ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:57:32 ID:CLErTf8A0

('A`)「なんで乞食なんかやってたんだ?」

( ^ω^)「だから、二茶が破綻して……」

('A`)「そうじゃねえよ。その気になれば乞食なんかじゃなくて、もっと割の良いシノギがあっただろ。今のお前、外なら一組織もまとめ上げられるくらいの腕っ節だよ」

( ^ω^)「この学園で自衛を心掛けるようになってからだお」

('A`)「本当にゼロからこの短期間で? 嘘だろ」

( ^ω^)「君ほどのやつがあの時のぼくを測り損ねてたっていうほうが、ぼくからしたら嘘だお」

('A`)「…………」

 ドクオは足を止めて腕を組み、しばし何かを考え込むようにして視線を地面に落とした。
煙草に火をつけ、しまいにはシャッターを下ろしたブティックのベンチに腰を下ろしてしまう。

92ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:58:05 ID:CLErTf8A0

( ^ω^)「そんなに引っかかるかお?」

('A`)「……別に、俺だって考えることは腐るほどあらぁ」

 どうやらそうらしい。
それに対して、特に言及するつもりもない。

 ハインが第三王位を継承したということは、元々その椅子に座していたクーさんが負けたということだ。
第二王位から第三王位に転落して、そして今、ぼくは彼女の消息に関する噂を一度も耳にしていない。

('A`)「気になるか?」

( ^ω^)「まぁ、それなりには」

 ぼくからは踏み込みづらい話題だったけれど、ドクオの方から持ちかけてきたので、それに甘えることにした。

93ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:59:14 ID:CLErTf8A0

('A`)「死んではない。が、この学園にもいないらしい」

( ^ω^)「辞めちゃったのかお?」

('A`)「いや、実家で療養中、だそうだ。まぁ、それも建前だろうがな」

( ^ω^)「建前」

('A`)「あいつの実家が実の娘を悠長に休ませるわけないってことだよ」

(;^ω^)「スパルタだおね」

('A`)「ああ、超スパルタだ。俺はあいつの修行を見てきたから、あいつの強さも当然だと思える。勿論才能もあるだろうけどな」

 あの強さを以って、それすらも頷けると言わしめる修錬がどれほどのものか、純粋に興味がある。

 今のぼくには、仮に一日二十四時間の修行を十年間欠かさずにやり遂げたとしても至れない高みに思えるけれど、強さと同じように、自分を苛め抜く行為にも限界はないのだなと再認識した。

94ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:59:34 ID:CLErTf8A0

( ^ω^)「それにしたって、こんな形で帰省してそれはストイックだおね」

('A`)「そういうやつなんだよ」

( ^ω^)「見習わなきゃだお」

('A`)「つって、お前にとっちゃ他人事じゃないかもな」

 ドクオが、珍しく意地の悪い笑みを浮かべた。
僅かに細くなった双眸。それは真っ直ぐぼくを捉えている。
背骨が凍りついてしまったみたいに、あるいは足の裏から根が生えてしまったみたいに、ぼくは動けなくなった。

 嫌な予感が、する。

( ^ω^)「……どういうことだお?」

 そこから先の言葉を、ぼくは的確に予想出来ていた。
けれど、予想していたとしても、いざ直面すれば揺らいでしまう程度の心算しか出来ていなかったようで……

('A`)「クーが実家に来ないか、って誘ってたぞ」

95ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 01:59:56 ID:CLErTf8A0

 願ってもない話だ。
そう思えるほどには、ぼくと彼女の繋がりは薄い。
けれども実際に、彼女はぼくを誘っているらしい。
あまりに出来すぎた話だ。

( ^ω^)「どうしてぼくを?」

('A`)「さぁな。聞いてみるか?」

( ^ω^)「いや……」

 仮にきな臭い理由があったとして、きっと彼女はぼくでは絶対に看破できないようなもっともらしい理由をでっち上げるだろうし、何も無かったとしたら、それはそれで無粋な気がする。

 要するに、この時点でぼくは未知に飛び込む為の覚悟を試されているのだろう。

 まともな判断ではないと思う。
どう考えたって、小心者の捻くれた解釈だと思う。

 けれど、何故か今のぼくにはそうとしか思えないのだ。

96ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 02:00:16 ID:CLErTf8A0

( ^ω^)「……考えさせてくれお」

('A`)「だろうなぁ。お前からしてみりゃ、よく分からん女の唐突な誘いだしな」

 無理もない、とドクオは苦笑を浮かべる。
面倒臭い性格だとは思うけれど、一度勘繰るべきと判断したことを、真っさらな目で見る事が出来ない。

 いや、あるいは、ぼくは……

( ^ω^)「ごめん」

 ふとわき出てきた胸の中の言葉を押し込んで、ぼくは溜め息をついた。自然と漏れた溜め息だった。

('A`)「俺に謝ることじゃねえよ。気にするな」

 煙草の火を靴底ですり潰し、ドクオは立ち上がる。

('A`)「俺は行く。もう少しで、何か掴めそうなんだ」

97ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 02:00:39 ID:CLErTf8A0

( ^ω^)「メンテナンスの道具は、いいのかお?」

('A`)「ん、ああ、そういう気分じゃなくなっちまった。伝えること伝えられたし、もういいよ」

 来た道を戻ろうとするドクオを呼び止めてみたけれど、彼はどこか上の空で、意識が散漫になっているような気がする。

 彼には彼の、ぼくにはぼくの、解決し難い懸念事項が山のようにあるということだろう。

 そのように、他人に気が回るなど外にいる時には考えもしなかった。
こんな殺伐とした排他的な世界で、それは随分と皮肉な話だ。


 僅かに緩んだ頬。別れを告げかけたその時、轟音が、鳴り響いた。

98ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 02:00:59 ID:CLErTf8A0

( ^ω^)「っ!」

('A`)「…………」

 音がした方に振り返り、何も確認出来なかったのでドクオを見る。
彼は腕を組んで、ぼくが振り返った方向をじっと見据えていた。

('A`)「どうする?」

( ^ω^)「ただ事じゃなさそうだけど……」

 本当に暴徒が引き起こす騒動が増えたから、大抵の騒ぎは欠伸混じりでやり過ごすことが出来るけれど、今の音は尋常じゃなかった。

( ^ω^)「巻き込まれないうちに離れるかお」

('A`)「そうだな」

 嫌な予感がする。
早々にその場を去ろうと、ぼくたちは同じように踵を返した。

99ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 02:01:25 ID:CLErTf8A0

 その刹那、ぼくは確かな視線を感じた。
肌に、心臓に絡みつくようなそれは、確実にぼくの生殺与奪を握っていて、一瞬でぼくの頭から爪先までを値踏みすると、駆け抜けるように過ぎ去っていった。

(;^ω^)「ドクオ!」

 堪らず大声で彼の名を呼んだ。
彼は既にホルスターから黒銃を抜き、左手の指の骨を鳴らしていた。

('A`)「お前も感じたか」

 顔の前を、見えない何かが過ぎ去った。
目を凝らしてじっと一点を見つめていると、不可視に近い半透明の細い糸。それを辿ると、同じ糸が違う軌道でぴんと張っているのを見つけた。
彼がこの一瞬で展開させたものらしい。

('A`)「捕まった。覚悟決めとけ、多分とんでもないのが来る」

 ぼくの感覚は間違っていなかったようで、ドクオも危機を察知していた。
いやあるいは、もっと具体的な殺気を感じ取っているのかもしれない。

100ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 02:01:57 ID:CLErTf8A0

 ぼくは一歩身を引いて、ドクオが睨む方向をじっと見た。
急に何かが迫ってくるような感覚、というよりも、もっといやらしい、喩えるならば、獲物を見つけた蛇がじわじわとにじり寄ってくるような……

( ^ω^)「嫌な感じだお」

('A`)「この距離で迂闊に逃げられない、と思わせられる。かなりの使い手だ」

 自身の力を以ってすれば、相手がそう思わざるをえないと確信しているからこその、このいやらしい迫り方なのだろうか。

 だとしたら、相当性格が悪い。

 その人物像の類似として、真っ先に頭に浮かんだのはデレの顔だった。

 闘いが、一方的な蹂躙であるかのうな不遜な性格。周囲一帯を血と狂気で汚すあの吸血鬼ならば、あるいはこのように不穏を撒き散らしながら歩み寄ってくるのかもしれない。

('A`)「来るぞ」

101ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 02:04:00 ID:CLErTf8A0

 そして、ぼくは身構えた。

 視線の先。
歪んでもいない整然と建ち並ぶ建物ですら、頼りなく倒れてしまいそうな荒涼とした空気の向こう側で、黒い影が揺らいだ。

( ^ω^)「…………」

 ぼくは、ぼくは、文字通り言葉を失ってしまった。

 そこにいたのは、きっとぼくが今、最も想っている人で、そして、彼女の姿が、ぼくが知っていた彼女とはかけ離れていたから。

从 ∀从

 黒い影は、ハインは、千鳥足の酔い人のようなおぼつかない足取りで、近付いてくる。

( ^ω^)「ドクオ、銃をしまえお」

('A`)「…………」

( ^ω^)「ドクオ!」

 声を荒らげる。
そんなぼくよりも、ドクオはずっと冷静だ。

102ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 02:04:28 ID:CLErTf8A0

 銃口はハインに向いたまま。
彼の眼光は、明確に敵と定めた者を見るときにように鋭かった。

(;^ω^)「…………」

 自分の焦りの正体が、ぼくにはよく分かった。
ドクオが血迷って、ハインに銃を向けているからではない。
彼のその判断が、何一つとして間違っていないと思うからだ。

从 ゚∀从

 黒いドレスは、デレが来ていたものとよく似ていた。
むしろ今のハインが着ている方が、より悍ましく、その闇の深さを体現するのにお誂え向きだ。

 禍々しい黒い右腕が伸びて、傍に建ち並ぶ建物の壁を押さえている。
獣の腕のようで、指先、爪にあたる部分は鋭い。
そして左肩から伸びた黒い翼のようなものは不規則にはためき、その度に黒い霧を撒き散らす。

 敵性の有無を問わず、身構えざるをえない。
これじゃあ、これじゃあまるで……

( ^ω^)「バケモ……」

 無意識で漏らしかけた言葉に気付き、ぼくはその汚らしい言葉を飲み込んだ。

103ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 02:04:50 ID:CLErTf8A0

从 ゚∀从「よお」

 左目を、正常な右手で抑えたまま、ハインは弱々しい声で語りかけてきた。
その右目はぼくではなく、真っ直ぐドクオの方を見ていた。

('A`)「…………」

从 ゚∀从「美味そうな闘気が漂ってきてると思ったら、お前かよ」

 ドクオは何も答えず、代わりに撃鉄を起こした。
ドクオの隣にいるぼくは、彼女の視界に、入っているのだろうか。

从 ゚∀从「顔見知りは、食えねえなぁ」

 下卑た笑みを浮かべて、ぼくからでも見て取れる脂汗を垂らしながら、ハインはよろよろと近付いてくる。

( ^ω^)「…………」

 何か言える筈も無かった。

 ぼくは、痛々しい彼女の姿を努めて無表情で見つめていた。

104ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 02:05:14 ID:CLErTf8A0

('A`)「まるで食おうと思えば食える、みたいな口ぶりだな」

从 ゚∀从「何が違うんだ? その通りだよ」

 重く、湿った発砲音。
ハインの脳天を的確に貫いた弾丸。
木っ端微塵になった肉片が飛び散って、でも、視線は外せなかった。

 再生が始まる。
血の泡は瞬く間に彼女の肉を形成して、元通りの状態に戻った。
そして、金色の瞳が、露わになる。

从 ∀从「へへ、へへへ……」

 変わらない、今にも地に倒れ伏してしまいそうな足取りで、ハインはぼくの肩の横を、通り過ぎようとしている。

 ぼくは、何を言うことも出来ないけれど、自分の中に、確かに燃え上がる炎のようなものを感じることが出来た。

( ^ω^)「ハイン」

 本当に小さな、蚊の鳴くような声だったと思う。
事実、彼女の耳には届かなかったらしい。
あるいは、聞こえていて敢えて、何も応えないのかもしれない。

 それで、いい――

105ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 02:05:35 ID:CLErTf8A0

('A`)「人間気取りにはちょうどいい格好だな」

从 ゚∀从「まぁな。今凄く心地いいよ。人間ってのもそうなんだろ?」

('A`)「なんのこっちゃ」

从 ゚∀从「ありのままの姿でいることがよ」

 ドクオは少し間を空けて、彼女がぼくたちの背中の向こう側を歩む最中に、答えた。

('A`)「それが誇れる自分ならな」

 黒銃をホルスターに収め、左手で何かを手繰り寄せるような所作。
敵対する鋭い空気は消え失せ、泥のように沈んでしまいそうな重い空気だけが残る。

 きっと小さくなっているであろう彼女の背中を、振り向いて確認することなど出来るわけがない。

 ぼくとドクオは二人、腐ってしまったみたいに淀んだその空気の中、何も言わずにただ押し黙っていた。

106ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 02:06:06 ID:CLErTf8A0

( ^ω^)「ドクオ」

 どこまでも皮肉な、突き抜けるように青い空を仰いだまま、ぼくは彼の名を呼ぶ。
何も答えない彼はぼくの呼びかけを聞いているから、そのまま続ける。

( ^ω^)「ぼく、クーさんのところに行くお」

 未知に飛び込む覚悟?
 出来過ぎた話?

 ぼくがもっともらしく誂えようとした言葉を、胸の中で破り棄てた。
全て、詭弁でしかないじゃないか。

 ぼくは怯えていただけなのだ。

 あの絶対的な強さに辿り着くために、支払わなければならない対価を。

 強さを得る為に対価を支払わなければならない至極当然の理に、この学園に入ってから気付いたぼくは、高みに登る前から自分の爪が痛むことを嫌った。

 何度も覚悟を決めたはずの、強くなりたいという意志に対する冒涜だ。

107ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 02:06:29 ID:CLErTf8A0

('A`)「奇遇だな。俺も行ってみよう、じゃなくて、行かなきゃいけないと思ったところだ」

 ドクオにも、どんな対価を支払ってでも強者の座に辿り着かなければならない理由があるのだろう。

 けれど、それはぼくも同じだ。
昨日までは曖昧模糊としていた、理由が浮き上がって、それは火を帯びる。

 ぼく達の理由は必ずしも衝突するものではないのかもしれない。
けれど、絶対に負けたくないと、思った。

( ^ω^)「同じ釜の飯を食うことになるとは思わなかったお」

 意識的に、茶化すような言葉を選んで吐き、ドクオを見る。

('A`)「気持ち悪いからやめてくれ」

 当てつけのような言葉。ドクオの顔も、ちっとも笑っていなかった。笑えていなかった。

 ぼくは何の脈絡もなく、彼女を名前を胸の中で呟いた。

108ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/30(金) 02:07:15 ID:CLErTf8A0
おわり
またいつか

109名無しさん:2016/09/30(金) 02:14:03 ID:ekiMQE2c0
乙!
ハイン…

110名無しさん:2016/09/30(金) 02:19:54 ID:zM1NXruY0
乙!!
痛ましい

111名無しさん:2016/09/30(金) 02:22:08 ID:L9et4QlU0

この作品でショボンがまともだったの初めて見た気がする……

112名無しさん:2016/09/30(金) 03:51:34 ID:ua.J0Flg0
ショボンいいなぁ凄く面白い


113名無しさん:2016/09/30(金) 07:40:33 ID:AO3bE1EY0
ショボン様すき

114名無しさん:2016/09/30(金) 13:04:07 ID:squN21i60
おつ
ショボン&ミルナがんばれ
どっちも好きだから1歩でも足掻いてほしい
ハインのブーンに対する反応がなかったのが辛いな

115名無しさん:2016/09/30(金) 14:18:39 ID:UgI9Q3hU0

ショボンの株がどんどん上がるなぁ
ブレないやつは本当にかっこいいな
そしてブーンとドクオは修行なのかな?わくわくしてしょうがない

116ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 12:00:11 ID:MyRZcDlU0
誰かぼくのやる気スイッチを押してください

117ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 12:01:07 ID:MyRZcDlU0

第二十三話「何百、何千年と同じ事を繰り返したぼくたち」

.

118ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 12:02:00 ID:MyRZcDlU0

  _
( ゚∀゚)「いつまで高みの見物を決め込んでるつもりなんだ?」

 第三ブロック職員居住区は、既にジョルジュの手に落ちたも同然だった。
モニター越しに、見世物を見るような目で観測していた大人達を蹂躙し、彼は幾分か愉快になった。

 それでも満たされない隙間があるから、彼は自身の居室を訪れた男に、そう問う。
  _
( ゚∀゚)「お前だって退屈してるんだろ? 隠そうったってそうはいかねえぜ。お前はあのいけすかねえ元会長とは違う。楽しむ為に強くなったクチだろ」

 男は、瞼を下ろしたまま、腕を組んで壁に背を預けた。
  _
( ゚∀゚)「モララー」

( -∀-)「…………」

 学園最強の男と、第二王位の接触は、誰にも知られぬ形で成った。

119ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 12:02:48 ID:MyRZcDlU0

  _
( ゚∀゚)「は、すっとぼけやがって」

( ・∀・)「とぼけてなんかいないさ。僕は自分が強いことは自覚してるけど、自分が最強だなんて思ったことは一度もない」
  _
( ゚∀゚)「そうきましたか。謙虚だねえ、第一王位」

( ・∀・)「事実さ」

 モララーはソファに背を預けるジョルジュに近付き、彼の目の前のテーブルに腰掛け、片足を、ちょうどジョルジュの腰の隣に投げ出す。
  _
( ゚∀゚)「飲むかい?」

 そう言って、差し出されたワインボトルを受け取り、モララーは唇を濡らす程度にそれを飲んだ。
  _
( ゚∀゚)「酒の飲み方もお上品だな、第一王位」

( ・∀・)「そう皮肉るなよ。僻んでるように見える」

 ワインボトルを返す時、ジョルジュの目付きが一瞬だけ鋭くなったのを、モララーは見逃さない。

120ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 12:03:47 ID:MyRZcDlU0


( ・∀・)「視野の問題さ。こうして一番上に立ってしまえば、王位の価値なんてどうでもよくなる。そうして初めて見えてくるものもある」
  _
( ゚∀゚)「お前らとは見てる世界が違うってことかい」

( ・∀・)「…………」
  _
( ゚∀゚)「ちっ、面白くねえやつだ」

 モララーの沈黙が、全てを物語っていた。
今の自分はモララーにとって、所詮取るに足らない有象無象の中の一人でしかないことを、ジョルジュはとうに理解している。

 理解したうえで、彼の首筋に突き立てる渾身の一撃を模索する過程。
決して道が無いわけではない。終着点が無いわけではない。
そう言い聞かせることが、彼をはじめ、有力な王位達を突き動かす。

( ・∀・)「病的だね。君らにとって僕なんて、本来どうでもいいはずだろう?」

 モララーにとって、それこそ有象無象をつまらなくさせている偏執的な動機にしか見えなかった。

121ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 12:04:32 ID:MyRZcDlU0

  _
( ゚∀゚)「どういうこった」

( ・∀・)「そのままの意味さ。僕には僕の、君らには君らの、生き方や成し遂げなきゃいけない何かがある。君の過程で僕の存在が障害になるなら、ご自由にこの椅子を狙えばいい」

 けれど。と付け加え、皮肉たっぷりに深く息を吐き、モララーは続ける。

( ・∀・)「退屈だと喚き散らすだけの君には回り道を勧めるね。やるだけ無駄さ。どうせ大した志も無いんだろう?」
  _
( ゚∀゚)「…………」

 煽り立てるような口振りに、ジョルジュは激昂するでもなく、ただ目を丸くして、モララーの顔を真っ直ぐ見つめているだけだ。
モララーはそれ以上言葉を続けることはなく、ただ自身の鼻先に注ぐ視線に、同じように視線を返す。
  _
( ゚∀゚)「……あー」

 溜め息混じりに、あて先もなく発した声が、二人の間で頼りなく浮かんで、消える。

122ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 12:06:39 ID:MyRZcDlU0

  _
( ゚∀゚)「あーあーあーあー」

 大仰に口を大きく開けて、ジョルジュは声を上下に揺らす。
  _
( ゚∀゚)「がっかりだよ」

 露骨に眉を顰め、今日一番大きな溜め息を吐いた。
モララーは全く意に介さず、むしろ興味すら失ったかのような、冷ややかな視線をジョルジュの眉間に注ぐ。
  _
( ゚∀゚)「闘うことに意味なんか求め始めた拳はとろくさくなっちまう。お前の栄光も長くはもたねえな」

 空気が、震える。
右手で握るワインボトルが音を立てて、弾けるように割れるのを確認するなり、ジョルジュはワインで濡れたその掌を、モララーの頬に撫でつけた。

( ・∀・)「…………」

 挑発的に自分の肌を撫でるその手首を掴み、モララーは口を開いた。
彼の言葉が紡がれるよりも速く、閃光が部屋を満たした。

 窓ガラスが爆ぜ飛ぶのとほぼ同時に、モララーの身体が空に投げ出される。

123ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 12:07:35 ID:MyRZcDlU0

(  ∀ )「…………っ!」

 ジョルジュの居室は瞬く間に炎に包まれ、夜闇を煌々と照らす。
校舎塔よりも遥かに高い職員居住区の塔。高度百メートルの世界に投げ出され、斜方投射の落下を始めたモララー。その視線の先。

 炎によって形成された龍が空を舞う。
胴を曲げ、宙で落下するモララーに、大きく広げた口を向けていた。
  _
( ゚∀゚)「高度百メートルの世界で、まだだんまりを決め込むんならお前は終わりさ。俺がお前に敵わないとしてもな」

( ・∀・)「…………」
  _
( ゚∀゚)「そうかい。ならくたばれや」

 落下するモララーの頭上。楕円形の炎の渦が、轟々と畝る。
それは真っ直ぐ、モララー目掛けて降りた。いや、正確には、伸びた。
夜闇を照らす火柱が落ちる。

 モララーは無言で、右手で銃を模る。左手で右手首を掴み、その指先は、火龍を捉えていた。

 闘気の収束は火柱の落下よりも速い。世界そのものが、その指先に集っている。

 放たれるその膨大な闘気の名は――――

 ――――龍王気。

124ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 12:09:02 ID:MyRZcDlU0

 火柱が大地を焼き尽くす。熱は波状に拡がり、土煙が舞い上がる。
その遥か上空、首を擡げた火龍。その首と胴が、分かたれていた。

 頭を失った龍の胴は、一層激しく燃え上がり、やがて霧のように雲散してゆく。
夜闇の下の第三ブロックに火の雨が降り注ぐその光景は異様で、これが世界の終わりだと告げられても、なんら不思議ではないだろう。
  _
( ゚∀゚)「俺はここにいるぞモララァー!!」

 首だけの龍が咆哮を上げる。
それに呼応するように、ジョルジュも雄叫びを上げた。

 分かっている。
どれだけ煽り立てたところで、モララーはその挑発に乗ってくることはない。

 ジョルジュはますます苛立った。
どこであろうと自分の意志は何かを掻き乱す強大な力を孕んでいなくてはならない。

 それなのに、あの男はいつでもどんな厄災の渦中でも素知らぬ顔で、鼻歌交じりに飄々と隅の方を歩いている。

 ジョルジュにはそれが許せなかった。

 自分を、何としてでも認識させてやる。
そんな独りよがりな自意識は、それでも強大な力を孕み、火龍と共に燃え上がる。

125ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 12:09:54 ID:MyRZcDlU0








 その夜、煌々と燃え上がる炎が絶えることは無かった。








.

126ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 12:10:36 ID:MyRZcDlU0

 ドクオのバイクに乗るのは、これで二度目だ。

 風を切る音が轟々と、まるでぼくの静脈血が唸りを上げているみたいで、遠い空を見上げると思わず身震いした。

 雲一つ無い青空だ。
湿っぽいこの時期にしては珍しい。
あるいは、ある意味ぼくらの門出とも言えるこの日を、天も祝福してくれているのかもしれない。

( ^ω^)「なんて」

 太陽に向けて伸ばした腕。陽光が掌をすり抜けて、降り注ぐ。
目が焼けそうなくらい眩しかったから、瞼を下ろしてみる。
途端に平衡感覚が乱れ、ぼくは風に流されているような気分になった。

('A`)「ふらふらすんな。次のサービスエリアで飯にしよう。少し飛ばすぞ」

( ^ω^)「ピザはあるかお?」

('A`)「知らん」

 ジャンクなものを食べたい気分だった。
なぜだか、身体が無性にそういうものを求めている気がした。

127ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 12:11:22 ID:MyRZcDlU0

――
――――

 ピザは無かった。
ハンバーガーショップがあったので、それで妥協する。
紙袋いっぱいのハンバーガーを二人で分け、自販機で買ったコーラで流し込む。

('A`)「それピクルス抜きだろ。ちゃんと見てから食えよ」

( ^ω^)「嫌いだったかお? ピクルス」

('A`)「嫌いじゃねえけど、安いハンバーガーに入ってる安いピクルスはなんか違う」

( ^ω^)「ふうん」

 彼なりのこだわりがあるらしい。
これは勝手な偏見なのだけれど、ドクオは食事に対して無頓着で、腹に入りさえすればなんでもいい、くらいに言いだしそうな男だと思っていたので、少しだけ驚いた。

 ピクルスが無いハンバーガーは酸味が足りなくて、牛肉の生臭さが口の中に広がる。

 不味くはない。けれど決して美味しくはない。
ハンバーガーを、ただ食欲を満たす為の糧として見ているのは、彼ではなくてぼくの方なのかもしれない。

('A`)「……うめ」

 少しだけ、ドクオの頬が上を向いた。ほんの、少しだけ。

128ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 12:12:13 ID:MyRZcDlU0

 こうして学園の外に出るのは、いつぞやの汚れ仕事の時以来だ。
あの時はただ仕事場に向かって、事を終えて帰宅しただけだったから、学園の外のものを食べるのは、VIPに入学してからこれが初めてということになる。

( ^ω^)「マンション、借りようかなあ」

('A`)「やめとけ。VIPの周りはボッタクリばかりだ。足元見られるぞ」

( ^ω^)「ドクオは借りてるんだっけ?」

('A`)「ああ、月に二百万」

(;^ω^)「んなアホな」

('A`)「嘘だったらいいのにな」

 どこか遠い目。
ドクオが罪の無い人間を殺して得た金は、このようにして吸い上げられているらしい。
武力とは、どこまで行ってもその程度のものなのだろうか。
考えても詮無いことなので、ぼくは手元のハンバーガーにのみ、意識を向けた。

( ^ω^)「…………」

 美味くもないし、不味くもない。

129ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 12:50:09 ID:MyRZcDlU0

 素直家に着いたのは、すっかり日が沈んでしまって、更に一時間ほど経ったくらいだった。
スピードメーターは常に百キロを超える速度を指していたから、ぼくたちはこの半日で途方もない距離を駆けたことになる。
そう考えると、この尻の痛みもごくごく自然なことだった。

( ^ω^)「今から帰りが憂鬱だお」

('A`)「お前は座ってるだけだからいいだろうが」

 流石のドクオも、この長旅の疲れが顔色に現れている。
彼の視線を辿ると、このご時世明らかに浮世離れした武家屋敷。

( ^ω^)「なんというか、イメージ通り過ぎて……」

('A`)「逆に引くよな。まあ分かるよ」

 この辺りはグールが多い。
ここに来る途中ですら、既にあの食人鬼独特の呻き声がぼくの耳を掠めていった。
そういった背景があるから、近隣の住居は高層マンションが多い。
更に言うならば、セキュリティ面において信頼における建物の需要が高いであろうことは、想像に難くない。

 そんな中、むしろ周りがこの家に合わせろと言わんばかりに、堂々と構える屋敷。

 グールの気配は、無かった。

130ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 13:49:26 ID:MyRZcDlU0

 グールの気配が無い理由など、誰の目から見ても明らかだ。

 バイクの排気音が鳴り止む。ぼくに少し遅れてドクオもバイクから降りた。
そして、厳かな造りの門扉を、その前に立ち尽くす男を見る。

( ^Д^)

 ぼくたちよりも、年は三つか四つほど上だろうか。
若々しい顔立ち。ぼくの目からすると、比較的男前な容姿に、彼が着込んだタイトなシルエットのスーツはよく似合っている。

('A`)「久しぶりだな。プギャー」

( ^Д^)「……ふん」

 不遜に鼻を鳴らした彼は、恐らくバイクに視線を向けていた。

( ^Д^)「かっこつけたもんに乗ってんなあ僕ちゃん。生意気な口の利き方も相変わらずそうで……」

 酷く、棘のある口調だ。
軟派な容姿だから、ただの軽口に聞こえなくもないが、怒気を孕んでいるようにも見える。

( ^Д^)「そっちは、お友達?」

('A`)「内藤ホライゾンだ」

( ^Д^)「ああ、はいはい……君が、ね」

131名無しさん:2016/11/27(日) 14:12:55 ID:3F3.nmvoO
支援ー

132ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 14:43:08 ID:rrebwTac0

 値踏みするような視線が飛んできた。
今更それに対して、不愉快な思いをすることもない。
乞食時代にはこの視線の対価に飯を食べていた。
VIPに入っても、事あるごとにこういう視線を浴びてきた。

( ^ω^)「素直さんに呼ばれて参りました。お世話になりますお」

( ^Д^)「…………」

 何が気に入らないのかさっぱり分からないけれど、彼は不服そうにまた鼻を鳴らし、編み上げたネズミの尾っぽのような後ろ髪を肩の上で弄りながら、ドクオに視線を移した。

('A`)「なんだよ」

( ^Д^)「…………」

 男は何も答えない。
意味深に、ジャケットのポケットに手を突っ込み、首の骨を鳴らす。

( ^Д^)「お前ら、お嬢から何も聞いてねえの?」

 ぼくとドクオは互いに顔を合わせ、そしてほぼ同時に首を傾げた。

133ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 14:49:38 ID:rrebwTac0

――
――――

川 ゚ -゚)「友人が来るんだ」

( ^Д^)「へえ」

川 ゚ -゚)「一人はお前もよく知ってるドクオ」

( ^Д^)「僕ちゃんが? 久しぶりっすね」

川 ゚ -゚)「お前はいつぶりになるんだろうな。VIPに入ってから凄く頼もしくなったよ」

( ^Д^)「あーの僕ちゃんが、ねえ。そりゃあ楽しみで」

川 ゚ -゚)「もう一人は内藤ホライゾン。VIPで知り合った奴なんだが……これが面白い奴でな……」

( ^Д^)「お嬢のお眼鏡に敵う奴、ですか。そりゃあ大層な手練れなんでしょうね」

川 ゚ -゚)「さあ、どうだろうな」

134ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 14:56:38 ID:rrebwTac0

川 ゚ -゚)「友人を家に上げるのも久しぶりなんでな。ただ出迎えるのも面白くないだろう?」

( ^Д^)「はあ、なるほどなるほど……お嬢も人が悪い」

川 ゚ -゚)「母さんの娘だからな」

( ^Д^)「……お嬢、この家の敷地内でそういうことは……」

川 ゚ -゚)「母さんはさっき風呂に入った。心配ない」

(;^Д^)「お嬢もVIPに入ってからまた一段と肝が座りましたね……」

川 ゚ -゚)「どうだかな」

川 ゚ -゚)「まあそれはいいさ。出迎えはお前に任せるぞ。私の友人だ。丁重にもてなしてくれ」

( ^Д^)「丁重に」

川 ゚ー゚)「ああ、丁重にな」

135ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 15:10:31 ID:rrebwTac0

――
――――

( ^Д^)「丁重なおもてなしを仰せつかっちまったもんでよ。このまま長旅ご苦労さんと通すわけにもいかねえんだ」

('A`)「ちっ」

 ぼくには、彼の言葉とドクオの表情がちぐはぐになっている理由がいまいち分からなかった。
こんな立派な武家屋敷を構える素直家のおもてなしだ。
それはもう大層な、鯛やヒラメの踊り食い。もしくはルビーと見紛うような上等な肉が出てくるか。
どちらにしても、玄関先で食べるには少しばかり品が無い気もする。

('A`)「なにヨダレ垂らしてんだ」

( ^Д^)「余裕だねえ、お客さん。大層腕に自信があると見た」

( ^ω^)「おっ?」

 ぼくの視界から、プギャーが消えた。
ほぼ同時に、鳩尾に違和感。
肉が破れ、内臓が飛び出てしまったのではないか。
激痛などとうに通り越した衝撃が爪先まで広がる。
ぼくの視界は、夜空を捉えて目まぐるしく動く。

136ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 15:20:54 ID:rrebwTac0

( ^Д^)「軽いな」

 ぼくは、ようやく自分が宙に浮いているのだということに気付いた。
深々と腰を落とし、半身をこちらに向けた構え。
流派がどうだとか、そんなものは関係なくて、確かに迸る殺気がぼくの本能を駆り立てる。

 来る――

('A`)「ボサッとすんな!」

 ドクオの怒号。
鈍く、湿った発砲音が二発。
視界の端から、プギャーを狙って駆る弾丸の閃きだけが見えた。
決して常人の目では捉えられない軌道。

( ^Д^)「ナチュラルに不意打ちとは悪どくなったもんだな」

(;^ω^)「っ!」

('A`)「…………」

 受け身を取りながらも、ぼくはプギャーから視線を切らない。
信じられない、信じたくもない光景が、そこにあった。

 自身の頬の側で硬く握る拳。
ぼくの目に、予感に、狂いが無ければ、決してあり得てはならない事が、起きている。

137ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 15:30:03 ID:rrebwTac0

( ^Д^)「俺は大らかだからよ。蚊トンボ飛ばして嫌がらせされたって全く応えねえんだわ」

 結んだ手を開く。
二つの銃弾が、彼の手から零れ落ちた。

( ^ω^)「…………」

 ぼくの目が狂っていなければ、彼はこの近距離から自分を狙って放たれた弾丸を、見てから掴んだということになる。

 銃弾を見切る訓練ならば、ぼくも幾らか積んだ。
だからこそ分かる。ドクオのあの銃は、規格外だ。
どういう構造なのかは知らないけれど、あれを見てから素手で掴むなんて芸当が出来る人間が、VIP学園に何人いるだろうか。

( ^Д^)「俺が素直家の門番だ。この家の敷居を跨ぎたけりゃ、俺を押し退けて行くんだな」

 ドクオではなく、彼はぼくの方を見てそう言った。
再び黒銃の啼く音。

 狼煙が上がった。

138ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 15:41:30 ID:rrebwTac0

 素直の家に三つ設けられている稽古場のうちの一つ。
ただ畳を広げただけの、質素な一室は、血に染まっていた。

o川*゚ー゚)o「お客さんが来たみたいだね」

 クーの母親、素直キュートは足元で肉塊同然となっているそれを細い足で踏みつけながら、屈託のない笑みを浮かべた。

 肉塊は時折痙攣して、口から血混じりの泡を噴きこぼす。
言葉を捻り出そうするも、喉の奥で木枯らしが鳴るだけで、声は意味を成さない。

o川*゚ー゚)o「まだあと三回残ってるよ。ほら、お友達が来る前に終わらせないと!」

川  )「かっ……はっ……」

キュートは足元で、血だるまになっている実の娘を蹴り飛ばし、朗らかな笑みを浮かべたまま、彼女が立ち上がるのを待った。

139ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 15:54:13 ID:rrebwTac0

川; ゚ -゚)「行きます」

 膝が震えているのは、肉体的な疲労のせいだけではない。
彼女の本能が、母親と剣を向けて対峙することを拒絶している。

 たとえばモララーと対峙したとして、自分はこのように恐怖するのだろうか。
クーは考えた。だが、そのイメージは目の前の恐怖に掻き消された。

 モララーを始め、この世界に存在するまだ見ぬ強者達。
そのイメージを消し飛ばす母親こそ、現時点で彼女が最も恐れている絶対的強者なのだ。

 自身が思い描く最強のイメージが、今こうして目の前に立っている。
クーは恐怖と同時に、血沸く闘争心を滾らせていた。

川  )(殺す気で臨まないと、本当に殺される……)

 壁に立てかけられた真剣を握り締め、力無く腕を下げる。
今日で何本真剣を折っただろうか。
考えるのも馬鹿らしくなるような些事だった。

140名無しさん:2016/11/27(日) 16:02:44 ID:lO7ZivrQ0
>>116
エレクチオンッ!

141ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 16:04:57 ID:rrebwTac0

川 ゚ -゚)「月華陣――」

 疲労はピークに達している。
こうして動かしている手足も、既に彼女にとっては自分のものではないような、極限の浮遊感の中にクーはいる。

川 ゚ -゚)「薊繚乱!」

 刃を、一振り。
その所作は、無数の闘気の刃を伴って、殺戮を振り撒く。

 壁が、畳が切り刻まれてゆく。
その幾千幾万もの刃が稽古場を満たす。

o川*゚ー゚)o「うんうん! さっきよりは良くなってきてるよ!」

 少女のような笑み。
着物の袖を弛ませながら、真っ直ぐ腕を伸ばし、キュートは開いていた掌を固く結んだ。

 クーの視界が、赤く染まる。

142ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 16:13:20 ID:rrebwTac0

 無理だ。

 どう足掻いても、どうイメージしても決して辿り着けない境地。

 何度手折られただろうか。
自分の鍛錬も、意志も、容易くへし折ってしまう刃。

 母親を、畏怖の対象としか見られなくなったのは、帝国一の剣士と呼ばれるようになってから。

 力を手にして初めて解る。
そして無情に心をへし折ってくる。

o川*゚ー゚)o「ほらクーちゃん。座ってる場合じゃないよ。あと二回!」

川  )「母さ……もう……ムリ……」

o川*^ー^)o「は? 死ね?」

 こめかみに衝撃。
クーは意識を手放した。
そしてその数秒後、母親の手によって無理矢理引き戻された。

143ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/11/27(日) 16:14:02 ID:rrebwTac0
おわり、しんどいねん

144名無しさん:2016/11/27(日) 16:22:19 ID:gzoT6kwM0
お疲れ様!
相変わらずのお母さん

145名無しさん:2016/11/27(日) 16:23:59 ID:gzoT6kwM0
お疲れ様!
相変わらずのお母さん

146名無しさん:2016/11/27(日) 16:32:21 ID:HSDMejg.0
乙!

147名無しさん:2016/11/27(日) 16:53:53 ID:Wohz3W7w0
乙!!
スパルタすぎる

148名無しさん:2016/11/28(月) 17:22:20 ID:zcDKxco60
お母さんでぶっ飛ばされたけどやっぱジョルジュいいな
いい意味で子供っぽくて

149名無しさん:2017/01/16(月) 05:58:11 ID:5n0yQVi20
あけおめ
続きはようはようクー母ちゃんを作者の元にぶち込もうぜ

150名無しさん:2017/01/20(金) 00:33:38 ID:tqtzyKIs0
ロリババアつえぇ、

151名無しさん:2017/01/20(金) 00:34:23 ID:tqtzyKIs0
ロリババアつえぇ、

152名無しさん:2017/02/24(金) 01:21:01 ID:8eiJeoPk0
クーの母ちゃん強すぎだろ…
モララーに勝てるんじゃね?

153名無しさん:2017/04/10(月) 20:28:38 ID:ydtkdezA0
そろそろ来ないかな?(´・ω・`)

154名無しさん:2017/06/10(土) 22:41:02 ID:5kaNEZS60
とても好き

155ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/24(月) 21:00:42 ID:iVNv6RCA0

自分、紅白のネタが進まないんで今からながら投下いいすか

156名無しさん:2017/07/24(月) 21:02:21 ID:aLES1qUI0
!!??!!!お、おう!!!

157名無しさん:2017/07/24(月) 21:03:33 ID:V/rQLvuk0
歓迎する

158ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/24(月) 21:05:19 ID:iVNv6RCA0



第二十四話「銀翼と雷鳴」


.

159ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/24(月) 21:13:34 ID:iVNv6RCA0

 格上と敵対する時に意識していることはいくつかある。
 その中の一つで、ぼくが最も重要視していることは……

 ――決して、正対しないこと。

 相手が銃器を持っている場合の相対方法もこれと同じで、自分の身を相手の直進上から逸らすことで、申し訳程度の、攻防の際のタイムラグを誘う。
 それ自体は本当に、ただの気休めだ。
 上体を少し引き、半身をプギャーに向ける。
 左手は柔剛どちらにも対応出来るよう、眼前に突き出して鉤手。
 利き腕の右は固く結び、肩と同じ高さに構える。

 どこぞのマニュアルから倣ったわけではない。
 鍛錬を積む過程で試行錯誤するうちに、自然と身についた構えだ。

160名無しさん:2017/07/24(月) 21:15:01 ID:GVyEC2xA0
更新してくれるならそれだけで紅白は成功と言えるだろう俺にとっては

161ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/24(月) 21:22:52 ID:iVNv6RCA0

( ^Д^)「……ほう」

 プギャーが僅かに目を細める。
 表情筋の動き一つ取っても、細大漏らさず感覚で捉えることが出来る。
 たとえば今のぼくの脳の動きを科学的に分析したとして、恐らく視覚がそれを脳に伝達していると言われるのだろう。
 だがそれだけでは説明しきれない感覚の刃が、ぼくのうなじあたりで燻っている。
 こういうのを、第六感とでも言うのだろうか。悪い気はしない。

 むしろ、心地いい。

( ^Д^)「良い構えだ。凡百のそれではあるが、洗練されてやがる」

 今にも鼻歌でも歌い始めそうな、上機嫌な声色。
 地を踏みしめる一歩が、やけに遅い。

 そこまでを、感覚の刃が捉えた瞬間――

( ^ω^)「……っ!」

162ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/24(月) 21:33:49 ID:iVNv6RCA0

( ^Д^)「そして何より、いい目をしてる」

 コマ送りで流れる闘いの中の時。
 それの一部がすっぱりと抜け落ちてしまったみたいだった。
 細大漏らさずプギャーの動向を捉えていた筈なのに、瞬きすらしていなかったのに――

 気付けば彼の身体はぼくの懐に潜り込んでいて、見上げる切れ長の双眸ははっきりとぼくを捉えていた。
 考えるよりも先に受けの構えを取っていたぼく。
 どこに打ち込まれるか、予想も出来ない。
 覚悟を決めた刹那、腰を引っ張られるような感覚。次の瞬間ぼくの身体は宙に浮いていた。

(;^ω^)「うおっ……!?」

 次は受け身の体勢を。考えるまでもなく、衝撃に耐えられる構えを取れるようになった自分に感心する余裕は、さらさら無かった。

 揺れる視界の中映り込むプギャーの半身。それを塗り潰す発光。

163ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/24(月) 21:53:53 ID:iVNv6RCA0

 光の次に、音。
 篝火を焚いたような音が、囀っている。
 それを認識するのと、ぼくが乾いた地面に受け身を取るのはほぼ同時だった。

 咄嗟に身を起こし、光の発生源を見る。
 真っ直ぐに突き出したプギャーの腕が青白い光を纏っていた。

('A`)「気をつけろブーン」

 肩に置かれたドクオの手は、冷たくはなかったけれど、人肌を感じた瞬間背中に鳥肌が立つのが分かった。

('A`)「あいつは電撃を出す」

 電気使いとヴァンパイアロード。果たしてどちらの方が突飛な存在か。
 それは分からないけれど、少なくともハインを始めとしたこれまで出会った多くの猛者という存在が頭の中にあったお陰で、ドクオの言葉はすんなりとぼくの頭に染み込んだ。

( ^ω^)「またファンタジーだお」

 電撃。危ない。当たったら死ぬ。オーケー。

164名無しさん:2017/07/24(月) 22:01:30 ID:thuQp/kc0
待ってた

165ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/24(月) 22:06:55 ID:iVNv6RCA0

 ( ^Д^)「優秀なバディに救われたな、ガキ」

 波動を彷彿させる一定の律動で、プギャーの右腕に纏わりついた青白い雷光は囀る。
 ちょうど、ドクオのバイクを威勢よく空吹かしするイメージとよく似ている。
 明確な威嚇の所作。しかしそれは虚勢などではなく、人が爪の先で、虫を死なない程度に弾くような、無邪気な威嚇。

 ( ^ω^)「あのさ、ドクオ」

 ぼくが語りかけると同時に、プギャーは青白い雷光を全身に纏う。
 それによって不自然に舞い上がった前髪。中性的で涼しげな顔立ちのプギャーが残虐非道な暴君のようにも見えた。

('A`)「なんだ」

 ちりちり、ぱちぱち、と。
 戦慄のオノマトペ。

( ^ω^)「丸腰のぼくが彼に一発お見舞いする方法は……」

('A`)「ねえな」

( ^ω^)「……ですよね」

 デレと対峙した時以上の無力感が、どっとぼくの双肩に伸し掛かった。

166名無しさん:2017/07/24(月) 22:46:30 ID:1bs.tRrw0
マジかよ支援するわ。

167名無しさん:2017/07/24(月) 22:55:14 ID:jSiR.nyE0
支援せざるを得ないだろ、これは。

168ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2017/07/24(月) 23:12:12 ID:iVNv6RCA0

 ブーンとドクオが素直邸に到着してから数時間後。
 VIP学園第3ブロックの夜空は煌々と燃え上がっていた。
 職員居住区だったこの場所は、施設や寮を残して、教職員の大半は居なくなっていた。

 第3ブロックの職員の凡そ半数はジョルジュに殺され、残りは既にVIP学園外に逃走した。
 残った職員はほんの数名。学園の運営をその数名で回している現状。
 ジョルジュの火で焼き殺されるのと、このまま心身ともに摩耗した挙句過労死するのと、彼らにとってどちらが幸せだろうか。

('、`*川「火龍ファフニール。どうしたもんかねえあの子は」

( <●><●>)「仰々しい。狼煙のつもりか」

 VIP学園の全ブロックを巡回するように、火龍ファフニールは上空をうねりながら懸けていた。
 炎の胴が揺らめく。目や鼻といったパーツも存在しない龍に視覚があるとは、当然の道理として考えにくい。
 それでも日が沈むと同時に上空に現れた龍に、学園の誰もが自身の敵意を気取られているような閉塞感を抱いていた。

('、`*川「あんまり悪目立ちしなさんなよ。多分というかほぼ確実に、あれには索敵能力が備わってるだろうから」

( <●><●>)「ほう」


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