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( ^ω^)は見えない敵と戦うようです

8 ◆N/wTSkX0q6:2016/04/03(日) 22:56:22 ID:0w0/X/Ow0
手に持った棒状のものは、彼女の身重と同じくらいの丈の竹竿だ……先端が鋭利に切られ、竹槍となっている。
少女の出現を察知した母親達が、子供を抱えてゆっくりと、まるで野生動物から逃げるように後ずさる。
津村ツンは竹槍を右手で遊ばせながら、西日を背に受けて仁王立ちしている。
僕に気付いた様子はなく、その視線は彼女の前方を油断なく見据えていた。
その方向には何もない。しかし津村ツンの姿勢は、間違いなく虚空に存在する"何か"との対峙だった。

ダビデ像という有名な彫像がある。
巨人ゴリアテと対峙した包茎戦士ダビデが、投石器を構え敵を見据える図を表現したミケランジェロの傑作だ。
かの作品が傑作たる所以は、彫像自体は当然ダビデ当人の姿しか描かれていないにも関わらず、
彼が対峙している"そこにいないはずの巨人"を見る者に想起させるところにある。
ダビデの視線の向きや姿勢によって、巨人がどのくらいの大きさで、彼我の距離がどの程度かを、想像で補完できるのだ。

ゆっくりと竹槍を構えた津村ツン、その所作は"彼女に見えているモノ"の強大さをぼんやりと伝えてくる。
距離にして10mの位置にある、高さ2mほどの何かを、彼女は牽制しているように僕には見えた。

彼女はしばらくの間、そうしてじっと動かずにいた。
まるで時代劇、先に動いたほうがやられると言わんばかりの緊張感だ。
子供の手を引く母親達が、ようやく噴水広場からの完全撤退を完了したのと時を同じくして、彼女は動いた。
すう、と息を吸って、

ξ゚⊿゚)ξ「現れたわね……!この街の人々を傷つけさせはしない!何度だってあたしが――護るッ!!」

( ^ω^)「!?」

叫んだ。一息だった。めっちゃ早口だった。
『相手がどういう存在で』『彼女がなんの為に戦うのか』を簡潔に第三者へ理解させる不自然なくらい説明的な口上だった。
津村ツンは砂利を蹴立てて走り出す。左の腰だめに構えた竹槍を、疾駆の勢いそのままに思い切り突き出した。
何もない空間へ。鋭利な先端は(当たり前だが)何者も貫くことなく虚空を斬って砂利へと突き立つ。

ξ゚⊿゚)ξ「よく躱したわね!」

( ^ω^)(あ、避けられたんだ!?)

いちいち自分の攻撃の結果を解説しながら津村ツンは槍を引きずるように横っ飛びに跳躍。
バシャア!と蹴られた砂利がそこかしこへ飛び散り、遠巻きに見ていた子供連れが小さく悲鳴を上げる。
彼女はそれを省みることなく竹槍を下段に振り回した。槍はなんの抵抗もなく津村ツンを中心に旋回。
これも避けられた、ということに彼女の脳内ではなっているのだろう。鋭い舌打ちの音が聞こえた。


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