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(´・ω・`) ホムンクルスは生きるようです
356
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 19:34:46 ID:XuZMeezA0
( ^ω^) 「あの様子だとたぶん荷物も検分にあってるおね」
正直、荷物の中に入った錬金術の旅道具が壊されたりしていないかどうかの方が心配だ。
僕らはなるようになるだろうし、最悪脱出もできるだろうけど、
あれらの錬金術を作り直すのは骨が折れる。
何せ素材も仕様書も何もない。
この都市であれば数多くの素材が手に入るだろうけど、それらを買うだけのお金も必要になる。
お金を作るには錬金術で商売するのが一番手っ取り早いが、
脱獄してお尋ね者になってしまえばそう簡単にはいかない。
(´・ω・`) 「待つしかないかなぁ」
( ^ω^) 「これだけしっかりした国ならそう短絡的なことはしないと思うけど」
(´・ω・`) 「わからないよねぇ……っと、来た来た」
金属の檻の向こう、廊下を歩く足音。
暫くして現れたのは小柄な老人。
およそ牢獄に最も似つかわしくない人が、僕らの檻の前で止まった。
その両脇には門番の男達。
手に持つ槍は鋭く、人間程度であれば容易に貫けるだろう。
357
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 19:35:23 ID:XuZMeezA0
「どうやってあの家に入った」
白い顎鬚を伸ばした老人が先に口を開いた。
( ^ω^) 「鍵でだお」
その質問に素直に答えていいものか逡巡していると、ブーンが答えてしまった。
嘘ではないのだが、証拠となるカギは既に没収されてしまっている。
仮に僕らの所有物だと認められたとしても、襲って奪ったとでも勘違いされてしまえば意味がないけれど。
(´・ω・`) 「持ち主から預かったものです。シュールと言う女性です」
駄目もとでブーンの後に続ける。
どうせ証拠も何もないのだから、言ったもの勝ちだろう。
「疑ってはいない。二人を上の団欒室にまで案内しなさい」
「ですが……」
「無実の人間をいつまでもこの牢に閉じ込めておくつもりか?」
「分かりました……。それでは、暴れるかもしれませんので、お先にお上がりください」
358
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 19:36:35 ID:XuZMeezA0
「目を見ればそんなことをするつもりはないとわかる。
いいから、今すぐにこの二人を自由にしなさい」
門番の一人がしぶしぶ手に持っていた鍵で檻を開く。
僕らはそのまま廊下まで出て、老人と対面した。
僕らの胸程までしかない小柄な体でありながら、その内に秘めた意志は随分と強いらしい。
この都市でもかなりの地位にあるのだろうと予想はつく。
杖を使いながら歩く老人の後に続き、階段を上る。
二階まで、という割には長い段差を登り、一つの部屋に案内された。
柔らかな椅子をすすめられ、二人と向かい合って座る。
「迷惑をかけたな」
(´・ω・`) 「いえ、とんでもない」
「まぁ、連中の気持ちもわかってやってほしい。あの家は長年誰も住んでいない状態だったからな」
( ^ω^) 「誰も住んでいないだけで?」
「周囲の家々との違いに気付いたか?」
359
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 19:37:33 ID:XuZMeezA0
(´・ω・`) 「はい」
「十年ほど前に大火事があってな、あの一角が全て焼けた。あの家を除いて、全て。
それがどれだけ異常なことかはわかるだろう」
( ^ω^) 「錬金術で保護されてるのかお」
「恐らくな。窓ガラスも割れない、玄関も破れない。それであのままだ。
もうかれこれ二百年くらいだろうか。全く劣化する様子も見せん」
(´・ω・`) 「それで、僕らは解放してもらえるということですか?」
「本題を忘れていたな。残念ながら、何の条件もなしに、とはいかなかった。
鍵を持っていたと主張したところで、それが奪ったものではないとの証明は出来ないからな。
あの研究室を使って構わない。一週間以内に、議会を納得させる錬金術を作ってくれ」
(´・ω・`) 「どんなものでもいいのですか?」
「大量破壊兵器を作るわけでなければな。それに、見張りもつく」
(´・ω・`) 「見張りですか……」
360
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 19:38:35 ID:XuZMeezA0
一般人であれば理解できないだろうが、錬金術の過程を観察されるのは好きではない。
研究内容は錬金術師にとって命と等価のものである。
そう易々と他の人間に見せていいものではない。
残念ながらあの研究所を自由に使うためには、拒否権は無いようだが。
( ^ω^) 「一週間も貰えるなら余裕だお」
(´・ω・`) 「むしろ一週間もかけたくないけどね。創り出した錬金術を確認した後は、返してもらえるのですか」
「構わない。錬金術師としての腕前を確認したいだけだからな。
ただし、生半可なものでは納得させることは難しいぞ。この都市には高名な錬金術師も多くいる。
審査をする人間達の眼もそれなりに肥えているだろうからな」
(´・ω・`) 「わかりました。もう戻っても?」
普段は自由に使える時間も、今は一分一秒が惜しい。
すぐさま研究所に戻って、錬金術の準備をしよう。
具体的な目標は決まっていないが、創り出したいものはある。
この前砕けてしまった白い刃を持つ剣。
テンヴェイラの捕獲に向かうのに無手では流石に頼りない。
その代わりになるものを作りたかった。
361
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 19:39:11 ID:XuZMeezA0
「ああ、すぐに見張りのものが行くと思うが、あまり気にするな。メモなども取らせないようにしておく」
(´・ω・`) 「お気遣い感謝します。それでは」
( ^ω^) 「失礼しますお」
・ ・ ・ ・ ・ ・
( ^ω^) 「で、どういったものを創るんだお?」
(´・ω・`) 「正直丈夫であれば鍛冶錬金術を付与する必要はないんだけどね」
シュールの研究所には、新鮮な素材が山と積まれている。
用意しておいた路銀で三日間かけて揃えた素材の品々。
交易都市なだけあって、あらゆる地方のあらゆる特性を持った素材を手に入れることができた。
これだけあれば、錬金術を行うのに困りはしないだろう。
問題は、どのような形にするかと言う事だけ。
362
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 19:39:57 ID:XuZMeezA0
( ^ω^) 「前と同じでいいんじゃないかお」
(´・ω・`) 「正直に言うと、あれと同じものは難しいかもね」
( ^ω^) 「お? でも、あの錬金術はショボンが行ったんだお」
(´・ω・`) 「素体が良かったんだ。あの白い剣は御主人様から貰ったものだったんだけどね、
白牙山に生えている剣だから」
( ^ω^) 「白牙山って、あの? どこにあるのか知ってるのかお?」
(´・ω・`) 「僕もどこにあるのか知らないし、それこそ誰も知らないんじゃないかな。
白き剣が天より降り注ぎ、一夜にして森が全て失われた、ってのは伝説だけど」
極稀に市場に流通することがある白牙山の剣。
既に刀身として存在し、その種類は両手剣、片手剣、短剣、刺突剣、細身剣と多彩。
中には人間では到底振り回せないほど巨大なものがあるとも聞く。
共通しているのは、全てその刀身が真っ白であるという事。
値段は相応に高く、誰が手に入れて、誰が販売しているのかも不明。
高価な剣のせいで逆に命を狙われることも多く、所有していること自体を隠している錬金術師もいるとか。
身を護るための剣のせいで危険に曝されるなど本末転倒ではあるが。
363
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 19:40:39 ID:XuZMeezA0
( ^ω^) 「それなら納得だお。でも白牙山の場所を知らないのはがっかりだお……」
(´・ω・`) 「儲けようとか考えてたんじゃないだろうね」
(; ^ω^) 「うっ……」
(´・ω・`) 「わざわざそんなところへ行くより、ブーンなら錬金術の便利な道具を作った方が楽に儲かるだろうに」
( ^ω^) 「働かずに儲けるのは僕の理想だお」
(´・ω・`) 「……まぁいいよ。とりあえず、錬金術の内容は決めた。後はいくつか試してみよう。
ブーンは適当に研究しててくれていいよ」
一戸建てがそのまま研究室になっているため、二人が同時に研究するだけの場所は充分にある。
素材にもどうせ余分なものが出てくるだろう。
( ^ω^) 「んー、でも華国で結構好き勝手したし、今回はショボンの手伝いでもするお」
(´・ω・`) 「それは助かる。とりあえず、研究道具を並べてくれ。
まずは剣の素体になる金属を作る。溶鋼用の小型炉を三つ。冷却台とフラスコを一セット。
試験管を十本横並びに固定して」
( ^ω^) 「了解だお」
364
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 19:42:11 ID:XuZMeezA0
(´・ω・`) 「僕は素材を用意するから」
ブーンほどの実力を持つ錬金術師との共同作業は非常に楽だ。
全てを説明せずともやりたいことが伝わるから、まるで自分が二人いるみたいに錬金術に没頭できる。
乱雑に置かれた素材の山から必要なものだけを取り出していく。
切れ味は風断ちの洞窟から産出した風斬鉱。
細く薄い空洞を多く持ち、吹き抜けた風は鎌鼬となって周辺を切り刻む。
原因が解明されないうちは何人もの犠牲者を生み出した魔の鉱石。
硬度は枯渇海の底から採れる龍紋岩。
天変地異によってかつて存在した海の全ての水が消え去った枯渇海。
その最底部に眠る神秘の硝子の硬度は、他の金属を容易に上回る。
二つの素材を抵抗なく混ぜ合わせるために使うのは市販の混合剤に一工夫加えたもの。
市販のものでも製造元によってはそれなりに信頼がおけるが、
大量生産されているためかどうにも効果が弱い。
そのため、何処でも手に入る兎草をすり潰して濾した純水を混ぜるのだが、
たったそれだけのことで数段扱いやすくなるこの方法は、意外と知られていない。
365
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 19:43:05 ID:XuZMeezA0
剣に与えるための特性は、形状記憶。
必要な素材は、雲を形成していると言われる球体。
雲の魂蔵は今回の素材の中で最も高価だった。
非常に脆く壊れやすいが、瞬時に元の形状を取り戻す不思議な素材だ。
その原因を解明できた者はおらず、ただ錬金術の素材として用いたときの効果だけが文献に残されている。
他幾つかの素材を使用予定の順番に並べ、下処理を行っているうちにブーンの準備も終わっていた。
所々で手を借りながら、必要な錬金術を順番にこなしていく。
純化溶剤に沈めた二種類の素材を密閉して加熱する。
金属すら溶かしてしまうほどの強火力バーナーの原料は、細かく砕いた火石と王油の混合物。
一秒でコップ一杯分が燃え尽きるほどの熱量は、殆ど全てが小型炉に吸収される。
ドロドロに溶けた風斬鉱は青白く、龍紋岩は透き通った光を放つ。
それぞれに固形剤を数滴だけたらし、粘性を調整する。
量が多すぎれば剣の形に加工できず固まってしまい、少なすぎれば剣の形を保てない繊細さが要求される作業。
喉が焼けるほどの熱気を放つ壺の中を覗き込みながら、粘性を確認する。
366
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 19:43:56 ID:XuZMeezA0
(´・ω・`) 「ブーン、龍紋岩に不純物が多い。取り除いてから加熱し直す必要がある」
( ^ω^) 「こっちでやっとくお」
(´・ω・`) 「頼んだ」
風斬鉱に刃硝子の粉末を混ぜながら振りかける。
結晶の一つ一つが鋭い形状をした特殊な硝子素材。
青白い光が落ち着くまで、熱した壺の前でグルグルと片手を動かし続ける。
汗が噴き出し、地面に落ちるまでに蒸発するほどの異常な温度。
水と言うよりはもはや白湯に近い状態のグラスを傾けて水分をとる。
丸々一時間近く、ひたすら無言で作業をしていた。
監視役の人間は涼しい顔をして部屋の隅に座っている。
それを横目で睨みながら、錬金術を行う。
必要なのは根気と丁寧な作業。ただその言葉だけを心の中で念じ続ける。
頭がくらくらとして、かき混ぜる手が止まりかけた頃に、ブーンが処理の終わった流紋岩を持ってきた。
( ^ω^) 「ショボン、少し交代するお」
(;´・ω・`) 「ああ、すまない」
367
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 19:45:10 ID:XuZMeezA0
熱量は小型炉の周辺でとどまり続けるようになっており、
立ち上がって小型炉を少し離れただけで、汗は一気に引いていく。
寒気を感じるほどの室温に鼻をすすりながら、火照った身体を氷水を飲み干すことで無理やりに冷やした。
「錬金術というものは、随分と大変なのですね」
壁際に座り、ずっと黙っていた男が話しかけてきた。
どうやら錬金術に関する知識はほぼ無いらしく、先程から僕らの作業をじっと見ているだけだ。
メモを取っている様子はあったが、どれも書きかけのままで黒く塗りつぶされている。
(´・ω・`) 「場合によりますけどね。金属系の錬金術は高温処理が必須なところがありますから。
大きな固体のままだと素材同士の親和性が低いので。
粉末にでもできればまた違いますが、流紋岩は容易に砕けないほど堅いですから」
「触ってみても?」
(´・ω・`) 「構いませんが、指を切らない様に」
「あ、どうも……。こんなに軽いんですか」
(´・ω・`) 「見た目からはなかなか想像できないですよね。
錬金術はそういった特性を丁寧に取り出して用いるんです。
一筋縄ではいかないことも多いですからね、研究し甲斐があります」
368
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 19:45:41 ID:XuZMeezA0
「自分は頭を使うのはからっきし駄目ですから、おっしゃっていることの半分も理解できていないと思いますが。
やはり錬金術師と呼ばれる方々は特別な気がします」
(´・ω・`) 「……同じ人間ですよ」
返す言葉に迷い、一言だけ答えておく。
この男に僕らの素性が分かるとも思えないが、馬鹿丁寧に説明する意味もない。
会話が途切れたため手元に集中しようと思ったとき、ブーンに呼ばれた。
(; ^ω^) 「ショボンー、そろそろ戻ってきてくれお」
(´・ω・`) 「わかった」
(; ^ω^) 「ここまでできたけど、次はどうするお?」
壺の中で揺れる銀色の液体は、二種類の素材が完全に混ざった状態。
そこに試験管に量っておいた素材を注いでいく。
順番を間違えない様に、慎重に。
(;´・ω・`) 「最後、雲の魂蔵」
(; ^ω^) 「ほい」
369
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 19:46:36 ID:XuZMeezA0
人間の頭ほどの大きさがある白い滴が壺を満たし、激しい蒸気を吹きだした。
熱を遮断する対テンヴェイラ用の手袋で壺を持ち上げ、型枠の中に流し込む。
溢れるほど注ぎ、ブーンと二人でようやく持ち上げられる重さの蓋をする。
(; ^ω^) 「終わり、だお」
(;´・ω・`) 「後は完成した後に取っ手を加工するだけかな」
(; ^ω^) 「ふぅー久々に神経削ったお。あんまり細かい調整は普段からやらないから疲れたお」
(´・ω・`) 「よくそんな適当にして錬金術が完成するね……」
( ^ω^) 「運……かお」
(´・ω・`) 「あながち否定できない。さて、こいつがゆっくりと冷めるまで待たなきゃいけない。
丸一日はかかるでしょうが、どうしますか?」
「一日ですか……上からの命令はあなた方の錬金術を見張れ、ということでしたが、
その錬金術がほとんど終わってるのであれば特に問題はないと判断します。
明日、再度お伺いします」
370
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 19:47:49 ID:XuZMeezA0
(´・ω・`) 「それは助かります。何をするでもないのにずっといるのも面倒でしょうからね。
僕らは少し出かけてくることにします」
( ^ω^) 「お? 休憩するんじゃないのかお」
既に椅子に深くもたれていたブーンが驚き腰を浮かす。
(´・ω・`) 「テンヴェイラを捕獲して戻ってきた時には観光する時間は無いだろうしね。
せっかくできた時間だ。少しくらい歩いて回ったところで罰は当たらないだろ」
( ^ω^) 「おー僕はいいお。眠いから留守番でもしとくお……」
(´・ω・`) 「わかったわかった」
「それでは、私はここで」
(´・ω・`) 「お疲れ様」
( ^ω^) 「また明日だおー」
男が出ていくのを見送り、階段を上って二階の部屋に向かった。
衣装棚に仕舞ってあったただのマントを羽織い、
極力錬金術師とばれないように荷物を減らして、一階に降りてきた。
371
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 19:48:43 ID:XuZMeezA0
椅子に凭れたブーンは涎を垂らしながらいびきをかいている。
鍵と少しの金貨をポケットに入れ、シュールの研究室から出た。
陽が傾き始めてはいるが、暗くなるまでもう少し時間はある。
特に目的も無く、大通りを行って帰ってくるぐらいのつもりでふらふらと歩いていた。
行き交う馬車はきちんと列をなし、大通りを走り抜けていく。
北向きは真ん中にある分離帯の向こう側を、南向きは僕のすぐ隣を通り、お互いの進行方向が干渉しない様に。
四つもの荷台を運んでいる力強い馬が荒々しく駆ける。
歪に膨れ上がった筋肉と、虚ろな瞳。
それは錬金術による身体能力の強化による影響。
動物に対する錬金術の扱いは地域によって大きく異なる。
多かれ少なかれこの都市では許容されているのだろう。
それでも
(´・ω・`) 「個体にバラつきが多い……」
鬣の先まで浸透する程の繊細な錬金術をその身に受けた馬もいれば、
今にも息絶えそうなほどアンバランスな錬金術の影響下にあるのもいた。
一人二人ではなく、多くの術師が生体強化の錬金術を取り扱っているということか。
372
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 19:49:26 ID:XuZMeezA0
交易都市としてこれほどの規模を持てば、それだけ多くの人間が集まるのは当然だ。
人間が多ければ多いほど、錬金術師の数も多くなる。
研究も華国に匹敵するレベルかもしれない。
(´・ω・`) 「晩御飯でも買って帰るか……」
殆ど店じまいをしていたパン屋の店主に声をかける。
適当な残り物を見繕ってもらう。
まけてくれるつもりはないようで、正当な対価を支払い受取った。
袋を抱えながら歩いていると、また一台馬車が横を走り抜けた。
今にも死にそうな馬が必死に荷を運んでいる。
あまりに酷な扱いに思わず舌打ちが出た。
あの御者にとっては替えの効く道具でしかないのだろう。
そんなことを考えながら、田舎者の様に街の様子を見回していた。
だからこそ、人々の合間を縫って歩くローブの姿が偶然目に入った。
その肩口に刺繍された銀色の蛇。
咄嗟にその背を追いかけ、横道に入ったところで肩を掴んで引き留めた。
振り向いたのがまだ幼さの残る女性であったとき、停止しかけた思考を無理やりに動かす。
373
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 19:49:53 ID:XuZMeezA0
「っ!! なんですか!? 離してください! いやっ!」
(;´・ω・`) 「っ! ごめん、ちょっと話を聞きたいんだけど」
驚き目を見開いている女性。動揺が伝わってくる。
悲鳴をあげられたらどうしようかとの心配は杞憂に終わった。
丁寧な態度が功を奏したのか、元から人当たりのいい性格なのか、
一日に二回も牢屋に叩き込まれることだけは回避できたようだ。
「……?」
(´-ω-`) 「ご、ごめん」
肩に乗せたままだった手を焦って引き戻す。
「いえ……」
(´・ω・`) 「その服……どこで手に入れたの?」
「服……ですか……?」
女性もまた予想していた質問内容と違ったのか、
困惑しながらも答えてくれた。
374
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 19:50:28 ID:XuZMeezA0
「私がいつもお祈りに行く教会で貰ったものですが……」
(´・ω・`) 「それは何処にあるの?」
「大通りを真っ直ぐ北に向かって、霞通りとぶつかったところを東に歩いたところです。
ここからだと三十分ほどで着きますよ。高い塔が見えるからわかると思います」
(´・ω・`) 「ありがとう。引き留めてごめんね。これ、ちょっとしたお礼だから」
「え!? こんなの貰えません……」
(´・ω・`) 「いいよ気にしないで。驚かせちゃったし。それじゃ」
協会は陽が沈めば誰もいなくなってしまう。
今からでも走れば間に合うはずだ。
少女に金貨を無理やり握らせて、教えてもらった道を走る。
走る馬車の合間を縫って道路を横断し、尖塔を目指す。
道行く人々の視線を振り切るように。
全力で走った数分は、思った以上に体力を奪っていた。
375
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 19:51:03 ID:XuZMeezA0
辿り着いた教会の前で乱れた呼吸を整え、彫刻の刻み込まれたアーチをくぐる。
門は開けっ放しにされており、西日がステンドグラスから教会内を照らす。
並ぶ椅子にはもう誰も座っていない。
ただ一人神父と思しき男だけが、パイプオルガンの手入れをしていた。
「もうすぐ教会を閉めます。礼拝ならどうぞお早めに」
丁寧な言葉とは裏腹に、作業を続けている。
それほど熱心ではないのだろう。
その割には教会内が綺麗に整頓されている。
(´・ω・`) 「一つ、お聞きしたいことがあります」
不信感を腹の中に押しとどめ、出来るだけ平生を装って問いかける。
男の羽織ったローブに見え隠れする銀の蛇の刺繍。
その象徴に怒りを向けるなというのは無理な話だ。
「なんでしょうか」
ようやく作業をやめ、こちらへと向き直った神父。
力ない瞳は面倒事を避けようと考えているからだろうか。
376
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 19:52:21 ID:XuZMeezA0
(´・ω・`) 「この教会は何という宗派なのですか」
「……旅の方ですか。私たちは宗教ではありません。銀の蛇と呼ばれる集団に属しているだけです。
正確に言えば、ここもまた教会ではなく集会所と呼称すべきですね」
(´・ω・`) 「目的は?」
「……目的、ですか。それほど野心に満ちたものではありませんが、地域の平和と知識の活用をしております」
(´・ω・`) 「…………」
「錬金術を御存知ですか?」
(´・ω・`) 「はい」
「ごく一部の、限られた人間にしか扱うことのできな技術です。
その知識を可能な限り人々の役に立てるように扱うのが私たちの役目です」
その理念は、何度も語られたものなのだろう。
すらすらと澱みなく発せられた言葉は、嘘偽りで飾り立てたわけではなさそうだ。
(´・ω・`) 「私設の軍隊を持っていると聞いたことがありますが……」
377
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 19:53:31 ID:XuZMeezA0
一歩踏み込んでカマをかける。
神父の態度に疑わしい点はないが、
かつてのアルギュール教会とは違うのであれば、その点ははっきりさせておかなければならない。
動揺を引き出そうとした僕の試みは失敗に終わった。
「ええ」
全てを飲み込む肯定。
そこには一切の躊躇いが無かった。
(´・ω・`) 「何のために?」
「平和を守るためです。残念ながら、人類には多くの敵が存在しています。
強大な生物種に対抗するためにはどうしても力を持つ必要があるのです」
(´・ω・`) 「では人間同士の争いには干渉しないと?」
「人間同士で争うことはありません。私たちはどの国にも、どの宗教にも属さない……いえ、違いますね。
私たちはあらゆる国々に属していて、個々人の好きな信仰することができる集団です。
もしよろしければ、あなたも参加してみますか」
(´・ω・`) 「……」
378
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 19:53:54 ID:XuZMeezA0
(´・ω・`) 「……」
「勿論、軍隊への強制参加などはありません。彼らは皆自由意思で参加しているのです」
(´・ω・`) 「少し、考えてみることにします。どうもありがとうございました」
「いえいえ、他に聞きたいことがあればいつでもいらしてください」
(´・ω・`) 「失礼します」
「お気をつけて」
教会を後にしたとき、日はほとんど落ちていた。
夜の街中は一定間隔ごとに外灯が設置されていて、明るく照らされている。
道路を睨みながら歩いていた僕は、いつの間にか研究所に前についていた。
アルギュール教会の存在意義は、以前と異なっているのか。
それとも、多くの人々が騙されているのか。
その判断はつかないままであった。
379
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 19:54:29 ID:XuZMeezA0
少し中断します
380
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:08:54 ID:XuZMeezA0
・ ・ ・ ・ ・ ・
鍵を開けて部屋に入った時、最初に聞こえてきたのは寝息だった。
燭台の蝋燭に火をつけ、椅子の足を蹴飛ばす。
(; ^ω^) 「おっ!? おっ!?」
飛び起きたブーンは暫く周囲を見回してから状況を飲み込んだようだ。
夕方から夜までの間ずっと寝ていたということを。
(´・ω・`) 「いつまで寝てるんだよ」
( ^ω^) 「おーもう夜……かお?」
(´・ω・`) 「晩御飯を買って来た。食べるか」
( ^ω^) 「もらうお」
紙袋から取り出した一塊を渡して僕も席に着いた。
グラスに水を入れてハムサンドを齧る。
乾いたパンを水で流し込むようにしながら呑み込んだ。
閉める間際の露店で選びもせずに買ったせいか、随分と雑な味だった。
381
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:09:29 ID:XuZMeezA0
(´・ω・`) 「目は覚めたか」
( ^ω^) 「完全に。なんか面白い場所でもあったのかお?」
(´・ω・`) 「アルギュール教会があった」
(; ^ω^) 「え?」
(´・ω・`) 「歩いてたら信者らしき人を見つけて、思わず声をかけて聞いてみた。
すぐ近くにあるらしかったから少し寄って来たよ」
( ^ω^) 「大丈夫だったのかお……?」
(´・ω・`) 「まぁ、なんともなかったね。神父に話を聞かせてもらってたんだけどね、
同じ名前の別な組織じゃないかと思ったくらいだ」
記憶にあるアルギュール教会とはあまりにかけ離れていた。
かつての面影があるのは錬金術を主体にしていることぐらいだろう。
( ^ω^) 「軍隊については何か言ってたかお?」
(´・ω・`) 「平和維持のためだとさ。本当かどうかは知らないけどね」
382
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:11:15 ID:XuZMeezA0
( ^ω^) 「確かに僕も戦争に加担しているのを見たわけじゃないお。
でも、だったら誰があの状態のアルギュール教会を継いだんだお……」
(´・ω・`) 「それなんだよねぇ……キュートに聞いとけばよかったな」
( ^ω^) 「キュート?」
(´・ω・`) 「あ、いや。不老の錬金術師の一人らし……そうだ、キュートが言っていた。
ワカッテマスとは別の人間とやり取りをしていると」
( ^ω^) 「別の人間……」
最初から組織に所属していた人間が乗っ取ったのか、それとも新たな指導者が現れたのか。
手元にある情報だけでは判断しようがない。
(´・ω・`) 「とりあえず放っておくさ。どのみち今すぐに止められるわけでもないしね。
僕はもう寝るけど、ブーンはどうするの」
( ^ω^) 「流石に眠くないし、夜の散歩にでも行ってくるお」
(´・ω・`) 「あんまり目立たないようにね」
383
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:12:22 ID:XuZMeezA0
コルキタは眠らない。
交易都市としての役目を果たすため、主要な道路には錬金術によって照らし出され、
誰かが常に荷物を運んでいる。
不定期ではあるが、今でも道路側から車輪の音が響く。
( ^ω^) 「わかってるお」
(´・ω・`) 「鍵を持っていくといい。気を付けて」
ブーンが鍵を閉めたのを確認してから二階に上がり、柔らかなベッドに横になった。
一階の本棚から持ってきた本を枕元に積み上げ、適当に流し読みをしていく。
(´・ω・`) 「研究内容は人間離れしてるな」
実験内容とその結果もただ書かれているだけ。
そのどれもが普通の人間では思いつかないだろうし、危険すぎて試そうとすらしないようなものだ。
控えめに言っても頭のねじが外れている。
人の身体でわざわざ七大災厄の調査に乗り込むなんて。
一冊丸ごとテンヴェイラの持つ特性についてまとめれられた本。
細かなスケッチが何ページ分もあり、それに付随する情報が書き込まれている。
384
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:13:30 ID:XuZMeezA0
形状は蟹そのもの。
溶岩の中にのみ生存し得る七大災厄。
赤黒く燃える甲羅に、二つの不釣り合いなほど大きい鋏。
空間を抉り断つ。
彼女の研究書にある見慣れない表現。
有効範囲は鋏の先数歩程度、連続して放つことは不可能。
削り取られた部分がどうなるのかは不明。
錬金術で用意した最高硬度の金属片ですら容易に飲み込まれた。
読めば読むほどにテンヴェイラの恐ろしさが浮き彫りになっていく。
そんなものが百も千も溢れ出て来るギルン山脈は、簡単には近寄れないかもしれない。
ホムンクルスの再生能力は、七大災厄に対してさほど意味を持たないことも解っているし、
今まで以上に慎重な行動が求められるだろう。
明日の午後には完成した錬金術でもって僕らは自由の身だ。
その日中に見つけるのは難しいかもしれないが、ギルン山脈までの足を確保しなければいけない。
恐らくは船で向かうことになる。
幾らか金銭の代わりになる様なものを午前中に錬成しておくことを決め、僕は手元の明かりを消した。
385
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:14:11 ID:XuZMeezA0
・ ・ ・ ・ ・ ・
( ^ω^) 「ショボン、お客さんだお」
ブーンに揺さぶられて目を覚ました。
思った以上に深い眠りだったようで、ベッドから起き上がった今でも視界がぼやけている。
言葉の意味を頭の中で噛み砕き、状況を理解した。
(´・ω・`) 「あー見張り役の彼か?」
( ^ω^) 「だお、取り敢えず一階で待ってもらってるけど、どうするお」
(´・ω・`) 「取り敢えず降りる。椅子にでも座らせて少し待ってもらっててくれ」
( ^ω^) 「わかったお」
好き勝手に跳ねている寝癖を手櫛で宥め、鏡を見ながら濡れタオルで顔を拭く。
意外にも気が利くようで、コーヒーと昨日買ってきていたハムサンドの余りが置かれていた。
それらを飲み込み、一階に向かう。
386
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:14:43 ID:XuZMeezA0
青年は昨日と同様に傷の入っていない軽装の鎧。
腰に剣を下げているが、柄も鞘も真新しい。
まだあまり使ったことがないのだろう。
「おはようございます」
(´・ω・`) 「朝からご苦労様」
「今日はどうされるんですか」
(´・ω・`) 「錬金術はブーンがするから見ててもいいよ。僕は街に出て次の旅の準備だ」
( ^ω^) 「おっ!? 僕は留守番かお?」
(´・ω・`) 「君の方が錬金術を使って金儲けするのは得意だろ」
「では、私は一応ここにいさせて頂きますね」
(´・ω・`) 「ええ、どうぞ。それじゃブーン、よろしく」
( ^ω^) 「おーそれなら幾つか仕入れてきてほしい素材があるお。
ちょっとメモに書き込むから待ってくれお」
387
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:15:12 ID:XuZMeezA0
手のひらサイズのメモ用紙に書き込まれた素材は、十以上もあった。
渡された紙は折り畳んでポケットにしまう。
錬金術店に寄る時間があれば買って来ることにしよう。
シュールの研究所から海までは歩いていくには距離がある。
コルキタの主な移動手段は乗合馬車で、一定区画を動き続けている馬車に乗ればいい。
港方面への馬車は数が多く、少し待つだけで乗ることができた。
小型の窓から吹き込む風は潮の香りがする。
都市に入ってからずっと感じていた海の感覚が、次第に強くなっていく。
窓の外を眺めてわかったことだが、速度が出ている割には揺れは殆どない。
錬成された木材によって組み上げられたのであろうこの車体に、錬金術の技術力の高さが垣間見える。
これ程の移動手段が無料だというのだから驚くべきことだ。
旅人ですら自由に使えるのだから、この都市は貿易によって相当潤っているのだろう。
だからこそ人々の暮らしは快適になり、より多くの人を引き付ける。
人の流れを見ているうちに目的地へとたどり着いたようで、止まった馬車から降りれば港が見えた。
大小形も様々な交易船が泊まっており、
賑やかなのは荷物を載せ降ろしする人々の声。
運ばれていくのは無数の木箱。
388
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:16:05 ID:XuZMeezA0
どうやって管理されているのか、次々と乗せ換えられていく。
ここからさらに遠くへと運ばれていくのだろう。
鮮度を保つための工夫がなされた錬金術の箱がいくつも見える。
目に入るのは交易用の貨物船ばかりで旅客船は一つもない。
横一直線に広がる港には地図もなく、尋ねることが出来そうな手すきの人もいない。
右手か左手か、悩んだ結果運に任せて歩きだしたのは右手側。
小型の貨物船が多く、比較的出入りの激しい区域。
作業の邪魔にならない様に道路の隅を歩く。
海沿いに見つけた一つの小屋には、シュールの研究室にいる男と同様の鎧を身に纏っている兵士達が寛いでいた。
遠目に窓から様子を窺い、忙しそうにしていないことだけを確認する。
近くまで寄ると中から笑い声が聞こえてきた。
休憩中の邪魔をするのは申し訳ないと思いながらも扉を叩く。
「なんだー?」
返事はすぐに帰って来た。
扉を開けて出てきたのは窓から見えたうちの一人。
(´・ω・`) 「ちょっと聞きたいのですが」
389
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:16:38 ID:XuZMeezA0
「おう」
気さくに応じてくれた男に目的地を告げると、急に顔が険しくなった。
「やめとけ。今は火山の動きが活発なんだ。一ヶ月前も二隻出発してまだ戻ってきていない」
(´・ω・`) 「どうしてもギルン山脈に行きたいんです」
「あー……紹介してやってもいいんだが、まぁこの前の件でな。運び屋はみんな嫌がるだろうよ
どんなに金を積まれても命には代えられないからなぁ」
(´・ω・`) 「船さえあれば行くことは出来ますか?」
「……素人には無理だ。ギルン山脈に至る海路は複雑な潮流がほぼ毎日変わってる。
ベテランの船乗りでもよみ間違えるほどに難しい」
(´・ω・`) 「……」
「おい、あいつのところに行かせてやれ!」
小屋の中から聞こえた声に、男は眉根を寄せた。
390
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:17:16 ID:XuZMeezA0
「……どうしてもっていうなら一人紹介出来る奴がいるのは確かだ」
(´・ω・`) 「その人は何処に?」
「このまま真っ直ぐ向かうと、港の形が大きくへこんでいるところにぶつかる。
そこを海沿いに歩いて二股に別れている道を真っ直ぐ市街地に戻るように歩けば、大きな橋がある。
その下に凄腕の運び手がいるが……」
(´・ω・`) 「橋の下ですね」
「一つだけ忠告しておく。その男はまともな神経じゃない。狂ってる。
だがかつて腕は確かだった……。ここ数年、船に乗っているのなんてほとんど見ないがな……」
(´・ω・`) 「有難うございます」
礼を言って小屋を離れる。
男に教えてもらった通りの方角に歩き続けると、港が大きく陸地側に食い込んでいた。
道はすぐに二手に別れ、片方はそのまま海沿いを、もう片方は建物の間を抜けていく細い道になっている。
陽の光が届きにくく湿った路地。
391
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:18:01 ID:XuZMeezA0
背が高く平らな壁を持つ建物群の間を抜けひたすらに歩く。
大人がやっと通れそうな道は突然に終わり、小川にかかる巨大な橋に行き当たった。
跨いで渡れそうなほどの流れと対称的に、岩で組み上げられた頑丈な橋。
その下は日陰になっており、人が横になれるだけのスペースが継ぎ接ぎだらけの布で覆われていた。
異様な雰囲気のするその覆いを払いのけ中に向けて声をかけようとして、思わず口元を塞いだ。
強烈な酒の臭いが、布をどけた瞬間に降りかかってきたせいである。
(;´-ω・`) 「ううっ……」
頭がグラつくほどのアルコール分が漂う空間に耐えられず、飛び出して外の小川で口元をすすぐ。
何度か呼吸を繰り返して落ち着いた後、再び布の中へと入る。
男が一人、うるさい鼾をかきながら寝ていた。
酒瓶を抱いて幸せそうにしている男を起こすのも躊躇われたが、
両手で冷たい水をすくい、男の顔にかけた。
「ぶっはぁ……!? なんだ!? 何が起きた!?」
(´・ω・`) 「すいません、ちょっと用があるんですが」
「なんだお前……? 今のはお前か? 気持ちよく寝てるところを起こしやがって……」
392
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:18:48 ID:XuZMeezA0
今にも酒瓶で殴りかかって来そうなほどの剣幕で睨みつけられる。
寝ているところに水をかけられたら誰だって怒るだろう。
敵意がないことを証明するために両手を軽く上げ、手のひらを見せた。
(´・ω・`) 「用があって来たんですよ」
「俺に? 役人以外で今更俺に用があるやつがいるのかよ」
(´・ω・`) 「率直に言うと、あなたの腕を見込んで頼みがあります。
ギルン山脈まで海路で向かいたいんです」
「……けっ。俺はもう船乗りはやめたんだ。悪いが他をあたってくれ」
(´・ω・`) 「ギルン山脈に行ける運び手がいないんですよ」
「山ほどいるだろうが。俺が開拓した方法を真似しやがるサルどもがな」
(´・ω・`) 「真似……?」
「ああそうだ。あそこらの複雑な海流をよむ方法を見つけたのが俺だ。
ギルン山脈に用がある奴なんてめったといなかったからな。俺が遊び半分でトライしてた結果だ。
だが最近どうも向こうに用があるやつが多くてな、俺は一人で客を回せなかったから仕方なく応援を頼んだ。
そうすりゃこの通りだ。今じゃ俺はお払い箱だ」
393
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:19:11 ID:XuZMeezA0
捲し立てるように一気に言葉を出し尽した男は、
それで少し落ち着いたのか大きく息を吸った。
(´・ω・`) 「ギルン山脈に向かった運び手が帰ってきてないんです。
そのせいで誰も乗せてはくれないだろうと言われました」
「……はっ、事故か。ざまあみろ」
(´・ω・`) 「原因はわかりません」
「そうか、残念だな」
(´・ω・`) 「どうしても行く必要があるんです」
「そうか。頑張れよ」
男は空瓶を呷る。
数滴残っただけの酒を飲み込み瓶を投げ捨てた。
「っち、最後の酒だったんだがな……」
394
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:19:44 ID:XuZMeezA0
(´・ω・`) 「お酒が欲しいのですか?」
「あぁ? 酒なんていらねぇよ……あれを飲み干したら酒をやめると決めてた。
明日食っていけるかもわからねぇんだからな。さ、帰った帰った」
再び薄い毛布に包まる男。
こちらに背を向けて動かなくなった。
小さく縮んでしまった背中にかける言葉は、決まっていた。
このろくでなしは単純な言葉では変わらない。
心が歪んでしまっている。
そう言った人間を動かすことができるのは、残念ながら一つしかない。
(´・ω・`) 「報酬です」
ピクリと、男の肩が震えた。
小袋に入っている金貨を全て地面に落とす。
音が響くようにわざと高い位置から。
一つ二つと地面にぶつかる度に、固く閉ざされているはずの男の瞼が小刻みに揺れる。
(´・ω・`) 「僕らを送ってくれさえすれば、その後あなたがさらに自堕落な生活をしようと興味はありません。
今だけは力を貸してもらえないでしょうか」
395
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:20:38 ID:XuZMeezA0
「なんで旅人風情がそんな金を持ってやがる。それも死の大地に向かおうって奴が」
(´・ω・`) 「知る必要はないです。あなたは僕らを運んでくれるだけでいい」
「面白い……いいぜ、連れて行ってやるよ。ギルン山脈にな」
(´・ω・`) 「ありがとうございます。出発は今日の夜でも?」
「船を整備する時間がいる。随分と長い間放っておいたままだからな。この報酬、半分でいい。前払いでできるか?」
(´・ω・`) 「これが前払い分です」
「……狂ってやがるな。だがいい、一週間後の朝陽が昇る前に港に来い。
ギルン山脈までは最低十日間はかかる。その間の食料は俺の分を含めて用意しろ」
(´・ω・`) 「わかりました。それではよろしくお願いします」
「まぁ待て。これを持っていけ」
差し出されたのは塗装が剥げた木の板に穴をあけてひもを通しているもの。
手書きらしい文字が墨で書き込まれている。
396
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:21:01 ID:XuZMeezA0
「俺のお守りだ。船旅に出る前には必ず客に渡す。旅が終わった時に返してもらうのが俺のやり方だ。
持っておけ。何の役にも立ちはしないがな」
(´・ω・`) 「わかりました」
男は幾つかの荷物と金貨を持ってねぐらを出ていった。
慌てていたのか、靴も履かずに。
汚れた瞳の中に僅かばかり灯った炎。
その色を見た僕は、渡したお金を持ち逃げされる心配はないと確信をもってシュールの研究室への帰り道を辿る。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「さて、たった二日ばかりでどんな錬金術が出来たのか見せてもらおう。
わかっているとは思うが、それの出来次第によっては再び檻の中に行くことになるんだぞ」
( ^ω^) 「心配してくれなくても大丈夫だお」
397
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:21:56 ID:XuZMeezA0
錬金術が完成した夜、僕らは議会場に赴き、老人を呼び出した。
広い議会場にいるのはたった数人だけ。
僕らを檻の中から出してくれた老人と、色も形も違うローブを被った男達。
顔が見えにくいように深く。
そのうちの一人には銀色の蛇の刺繍が入っていた。
(´・ω・`) 「どうすればいいんですかね」
鞘から刀身を抜き放ち、それを構えて立つ。
「その剣の錬金術は?」
(´・ω・`) 「説明するよりは見て頂いた方が早いでしょう。ブーン」
( ^ω^) 「おっ!」
僕が構えた剣の横っ腹を、ブーンの剣が激しく打ち付けられた。
鈴を鳴らすような音を出す剣。さらに左右から何度も衝撃を与えることで、
ガラスの様な半透明の剣は粉々に砕け散った。
398
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:22:26 ID:XuZMeezA0
「なんと……」
光の粉となった剣は、瞬きの間に元の形状を取り戻す。
薄っすらと透ける刀身と、その中心を分かつ細長い窪み。
鉄よりも軽く、丈夫でありながら鋭利さも劣らない。
武器として全てを兼ね備えた硝子剣。
(´・ω・`) 「どうですか?」
「ふむ……今ので納得できたか?」
騒めきは未だ止まない。
恐らくは錬金術師であろう男達の動揺が手に取るように分かった。
異を唱えるものなどいるはずもなく、僕らはシュールの研究室を自由に使うことを許された。
「恐ろしいほど洗練された錬金術ですね。……弟子はとっているのですか?」
話しかけてきたのはアルギュール教会の男。
十代の後半ぐらいではないかと思うほどの若い声。
(´・ω・`) 「残念ながら」
399
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:23:05 ID:XuZMeezA0
「そうですか……まだこの町に滞在されるのでしたら、今度お邪魔させていただきたいのですが」
(´・ω・`) 「じきに発つことになるので、難しいかと」
具体的には一週間程度の余裕はあるのだが、家に招くような形でアルギュール教会の人間と接するのは躊躇われた。
今僕らが住んでいるのは自分の家ではないが。
「うーん……わかりました。それでは諦めることにします」
「二人には迷惑をかけたな」
( ^ω^) 「おー大したことないお」
「ギルン山脈に行くのだろ?」
(´・ω・`) 「どうしてそれを?」
「兵士達が話していた。ギルン山脈に行きたがる人間がいたとね。
よくもあの男を説得できたものだ。昔は気のいい奴だったんだがなぁ……」
(´・ω・`) 「あの男を知っているのですね」
「この都市で海運業に就く者、そしてその周辺で暮らす者にとっては有名人だ。
腕は確かだよ。何しろギルン山脈への海路を初めて無事に航海した男だからな。
さて、用は終わった。後は好きにしろ」
400
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:23:27 ID:XuZMeezA0
(´・ω・`) 「それでは失礼します。ブーン、帰るか」
( ^ω^) 「了解だおー」
議会場を出てから研究所に戻るまでの間、歩きながらずっと考えていた。
ギルン山脈に行くまでの浮いた一週間で何をするべきか。
結局どうするか決められぬまま、僕らは研究所に戻って来た。
401
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:26:39 ID:XuZMeezA0
35 港の都市 End
402
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:27:17 ID:XuZMeezA0
>>15
30 災厄の巫女
>>102
31 少女への手掛かり
>>165
32 血の遺志
>>228
33 空を舞う翼
>>282
34 地を穿つ角
>>350
35 港の都市
403
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:27:37 ID:XuZMeezA0
│
│
26 朽ちぬ魂の欲望 <上>
27 朽ちぬ魂の欲望 <下>
│
│
16 ホムンクルスは試すようです
│
│
28 宴の夢
29 古の錬金術師
30 災厄の巫女
31 少女への手掛かり
│
32 血の遺志 最終編
33 空を舞う翼
34 地を穿つ角
35 港の都市
404
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:28:45 ID:XuZMeezA0
36 紅の災厄
405
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:33:08 ID:XuZMeezA0
(;´・ω・`) 「冬は死んだんだな。きっと……」
わざわざ口に出すまでもないことだったが、敢えてそうでもしなければやっていられなかった。
噴き出す汗を拭いながら、灼熱の大地へと足を踏み出す。
流れ込んだ海が沸騰するほどの熱を持つ溶岩地帯を避け、出来る限り冷えて固まった場所を選んで歩く。
余った期間を利用して船のコーティング剤を錬金術で用意しておいたのは正解だった。
木造の船では到底この温度には耐えられない。
それは人間も同じことだろう。
運び手の男もずっと接舷し続けていることは出来ない。
合流予定時刻までの間は予定通り涼しい浮島で待機しているはずだ。
(; ^ω^) 「あっちぃお……」
(:´・ω・`) 「あぁ……」
何度目になるかもわからない水分補給を終え、少し盛り上がった場所に腰を下ろした。
耐熱の錬金術を二重掛けした布で作成したマントを間に挟めば、高温の岩の上にも座れる。
靴は念入りに三重掛けしたものを用意していたが、今のところは問題なさそうだ。
これが溶けるるようなことがあれば、すぐにでも引き返さなければならない。
素足でこの焼ける大地を歩くなんてただの拷問だ。
406
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:33:36 ID:XuZMeezA0
(;´・ω・`) 「これでまだ一日しか経ってないんだ……信じられないよ」
(; ^ω^) 「全く、さっさとテンヴェイラの鋏を手に入れて帰るお」
(;´・ω・`) 「何処に出現するかまでは流石のシュールも解らなかったんだろうね」
七大災厄を探す当てはなく、丸一日も彷徨っていた。
熱気のせいでほとんど眠れず、歩いているだけでも疲労は通常の数倍の速度で溜まっていく。
(; ^ω^) 「解ってたとしても、目印も何もないから教えようがないお」
右を見ても左を見ても前を見ても黒と赤の混じり合った世界でしかなく、方角以外に頼りになるものはない。
背中側にある海と、ほんの少しだけ漂って来る潮の香りだけが心の支えだ。
(;´・ω・`) 「その通りだ」
シュールの研究室にあったテンヴェイラに関する書物と、彼女が新たに調べてくれた記した真新しい冊子。
二つの情報を統合すれば、予測生息域は背の低い山々が連なるギルン山脈において、
最も整った形状をしているニゴラゴ山。
407
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:33:51 ID:ESOyTVmk0
二話読めるなんて嬉しいけど無理はするなよ
支援
408
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:34:32 ID:XuZMeezA0
火口から同心円状に拡がったなだらかな峰と、
特殊な性質を多く含む地層が積層状態になっているそれは、厚い雲に覆われて薄暗い中でも目立つ。
( ^ω^) 「あれだおね。あんまりきれいだとは思えないお……」
(´・ω・`) 「たぶん誰もギルン山脈の中からあれを見てないからじゃないかな。
海から見れば、灰が降っていても目立つだろうし、形だけで言えば確かにきれいだしね」
標高はさほどないものの傾斜は長い。
暑さに加えて上り坂がじわじわと体力を削る。
( ^ω^) 「なんか雲行きが怪しいおね」
空に舞い上がって漂っている灰が渦を巻いて動いている。
風が殆どないにもかかわらず。
天変地異の前触れだと言われても素直に納得してしまいそうなほどの光景。
(´・ω・`) 「むしろ都合がいいんじゃないのか」
( ^ω^) 「お?」
(´・ω・`) 「僕らの目的は七大災厄の素材。この場所が異常現象で満ちているってことは、
原因になる何かがあるってことだ」
409
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:35:22 ID:XuZMeezA0
( ^ω^) 「七大災厄が……テンヴェイラが活発になってるってことかお」
(´・ω・`) 「その可能性は低くないと思う」
シュールは出現地域を予測してくれたが、それが当たっているとは限らない。
テンヴェイラは地中奥深く、高圧高温の溶岩の中に眠っているとされている。
火山活動により地上にまで吹き上げられた個体のみが現在観測されているものだ。
その最大の脅威は火山災害を誘発する特性。
かつて火口に出現したテンヴェイラによって、島民の大半が亡くなったと言い伝えられている。
生き残ったのは船に乗ることができた極一部の人々。
その時にできたのがギルン山脈。
島が大陸に繋がるほど環境を変化させたその行為は、まさに災厄と呼ぶのにふさわしい。
( ^ω^) 「冷気が弱点なんだお?」
(´・ω・`) 「そのはずなんだけどね」
地上での生活をすることが出来ず、数分の活動時間しか持てない。
水などで冷却することが出来ればなお短くなるはずだと、シュールは記していた。
(´・ω・`) 「短期決戦だ。とにかく出現したら持ってきた超圧縮水をありったけぶつける。
出来るだけ鋏は残しておきたいから、狙うのは本体正面。甲羅はたぶん僕らじゃ破壊できない。
関節部分ならこの剣でも破壊できるはずだから、そこを狙う」
410
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:35:59 ID:XuZMeezA0
( ^ω^) 「接近戦をしろってことかお……無茶をいうお」
(´・ω・`) 「遠距離で仕留めるだけの武器が作れるんならそれでもいいんだけどね」
射出、投擲による攻撃が当たるかどうかは、使用者の熟練度に大きく影響される。
いくら強力に仕立て上げようと当たらなければ意味がなく、
命中を補正する錬金術を埋め込めば、威力はかなり落ちてしまう。
それならば最初っからダメージ覚悟で接近戦に持ち込んだほうが良い。
通常の攻撃であれば死ぬことは無い筈だ。
(´・ω・`) 「絶対に鋏の間合いに入るなよ」
エルファニアの突進が掠った時の衝撃と痛みはまだ覚えている。
直撃していれば不老不死と言えど、どうなっていたかはわからない。
( ^ω^) 「間合いってどれくらいだお」
(´・ω・`) 「鋏の正面十歩。幅はおそらく人間二人から三人分」
( ^ω^) 「広すぎるお……」
411
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:36:22 ID:XuZMeezA0
(´・ω・`) 「テンヴェイラに削られたとされる開口部がそれだけの大きさをしていた。
個体差があればまだ広くなるかもしれない」
( ^ω^) 「どう考えても避けられないお……」
(´・ω・`) 「いや、動きは緩慢なはずだ。注意していれば掠る程度で済ませられる」
(; ^ω^) 「おーおっ!? ……今揺れたおね」
(´・ω・`) 「まだ揺れる、何処かに掴まれ!!」
適当な岩にしがみついた瞬間に、身体が浮かび上がるほどの衝撃があった。
地面の中で大量の火薬を爆発させたのかと思えるほどでありながら、
音は全くせず、先程まで少しばかりあった生き物の気配が一気に消えた。
静寂。
( ^ω^) 「ショボン!」
(;´・ω・`) 「っ!!」
412
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:36:54 ID:XuZMeezA0
ブーンが指さしたのは黒い煙を噴き出すニゴラゴ山の火口部分。
噴火そのものではないが、もはや時間の問題かと思えた。
キラキラと光る粒子と共に立ち昇り、空の黒雲に溶けていく。
(´・ω・`) 「急ぐぞ」
大規模な噴火が起きる瞬間には近くにいる必要がある。
地上と地中深くの大気や圧力、その他諸々の差異に酔っている間に仕掛けるのが一番安全だ。
( ^ω^) 「だんだん熱くなってきてないかお」
(´・ω・`) 「うん、麓よりはかなりね。水分補給はしとけよ。
いくら僕らでもこう汗をかきすぎると眩暈で立ち上がれなくなるぞ。
それに……そろそろ持ってきた奴を巻いておこう」
( ^ω^) 「了解だお」
紺色の布切れを一枚荷物から引っ張り出し、それを口元に巻き付ける。
噴火時に吐き出される毒性物質から身を護るためのものであるが、
保水性の高い布のおかげで少しだけ息がしやすくなった。
413
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:37:22 ID:XuZMeezA0
火口の淵に立った僕らの数歩先。
朱く煮えたぎる溶岩が静かに揺れていた。
( ^ω^) 「すげぇお……」
(´・ω・`) 「数百年生きてるけど、流石に初めて見た」
落ちれは百年は再生できないだろうことが容易に予想できる溶岩溜り。
その淵のギリギリの場所から覗き込んでしまうのは、
危険と隣り合わせの魅力に僕らが心を引き付けられているから。
発する光が流動する溶岩群で遮られて、秒でその姿を変えたようにも錯覚する。
内部から噴き出してきた気体が大きな泡を作っては弾け、
それに合わせるかのように炎の花が咲く。
一秒として同じ姿を見せない光景は、警戒心すら奪い取ってしまっていたことに気付くまで時間がかかった。
(´・ω・`) 「ブーン、少し離れて待とう。揺れて落ちたらどうにもならない」
( ^ω^) 「どのくらい待てばいいんだお」
(;´・ω・`) 「最悪は火口を刺激する爆発物を放り込むつもりだけど、一時間くらいか……なっ!?」
414
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:37:58 ID:XuZMeezA0
予期せぬ揺れと、存在が消失したとしか思えないニゴラゴ山の山腹。
その裂け目から流れ出て来る赤い流れと、煙の中から現れた巨大な紅の鋏。
僕らは大きな勘違いしていた。
黒煙も、振動も災厄の予兆であると。
噴火をしなければ、地中深くから出てこないと。
現れてしまえば、暴れまわり世界を壊してしまうと。
僕らは忘れていた。七大災厄の持つ力とその恐ろしさを。
何故この季節になっても雪どころか、寒いと感じることがほとんどなかったのか。
何故大陸を吹きぬける風が暖かいのか。
季節すらも変えてしまうことができるのは、七大災厄そのものであるということを、忘れていた。
415
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:38:34 ID:XuZMeezA0
(#´・ω・`) 「避けろっ!!!」
咄嗟にブーンを突き飛ばし、自分自身は反対側へと飛ぶ。
僕らの間を突き抜けていったのは一陣の風。
それは、目に見えない死の概念そのものが僕らの感覚器官全てに発した警告。
当たれば死ぬ。
ホムンクルスとして生まれて長い間忘れていた感情が、瞬間的によみがえった。
裂け目から現れたテンヴェイラはそれほど大きくない。
人間の腰ほどの高さに、甲羅と一体化している左右の鋏。
そのせいか可動域は殆どない。
短く太い脚が四対。こちらは大きく動くように見える。
背の甲羅にのっている溶岩は半分ほど黒ずんでいた。
(; ^ω^) 「助かったお……」
(´・ω・`) 「とにかく、用意してきた分全部を投げろ。正面に入らなければ鋏は当たらない!」
威圧感を全身に感じながらも叫ぶ。
かつて出会い戦った他の災厄と同じプレッシャーには、もう慣れた。
416
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:39:03 ID:XuZMeezA0
二手に別れ、荷物の中から引っ張り出した立方体の水をテンヴェイラに向けて投げる。
直撃した直後に白煙を上げて爆発するのは、
高密度の水分が瞬間的に熱せられた影響だ。
それらをものともせずに、鋏は空間を削り取る。
(´・ω・`) (十秒に一回、それも片方ずつか……)
背中の溶岩は水を当てる度に黒ずんでいく。
八割以上が真っ黒になり炎すらあげなくなったところで、用意していた圧縮水が尽きた。
( ^ω^) 「ショボン! こっちはきれたお!」
(´・ω・`) 「僕もだ!」
元からそれだけで倒せるとは思っていない。
どれだけこちらが準備したところで、それを優に超えて来るのが七大災厄たる所以。
今回はワカッテマスとティラミアを欺いて新緑元素を得た時とは違う。
あの時よりも十分な備えはしてきたし、敵について知ってもいる。
だからこそ油断してはいけないとよく理解していた。
つもりだった
417
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:39:38 ID:XuZMeezA0
最初に感じたのは冷たさだった。
熱された鉄板のような場所に身体が倒れているにもかかわらず。
瞼が重く、眠ってしまいそうになるのを耐える。
つい先ほどまでの自分が何をしていたのかすら思い出せず、そのまま目を閉じようとした。
(; ^ω^) 「ショボン!! 起きろお!」
ブーンの呼ぶ声と、遅れてきた激痛で意識が覚醒させられた。
(メ´ ω `) 「っぁあああああああああ!!」
(; ^ω^) 「生きてるかお!?」
(メ´ ω・`) 「あぁ……何が……」
肩を掴んで起き上がる。
テンヴェイラは口元から大量の泡を噴き出しながら、両の鋏をゆっくりと開け閉めしていた。
それは攻撃ではなく、威嚇を意図したもの。
( ^ω^) 「とにかく、今のうちに下がるお」
418
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:40:12 ID:XuZMeezA0
(メ´・ω・`) 「待ってくれ腕の感覚が……」
( ^ω^) 「あるはずないお」
半ば引きずられるようにしてテンヴェイラとの距離をとる。
右腕が根元から引きちぎられていた。
既に再生は始まっているが、本来の速度よりもずっと遅い。
(メ´・ω・`) 「くそっ……」
( ^ω^) 「よく避けたお。僕はもう直撃して駄目かと思ったんだお」
(メ´・ω・`) 「どうなったのかは覚えてない」
(; ^ω^) 「未だに信じられんお。鋏の攻撃範囲が急にねじ曲がったんだお……」
(メ´・ω・`) 「成程……」
攻撃それ自体は見えなかったが、恐怖を感じて咄嗟に身体を傾けたおかげで助かった。
斬撃故に直線でしか放てないと思い込んでいたが、鞭のようにしならせることもできるのか。
419
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:41:16 ID:XuZMeezA0
いくら発生が遅いとはいえ、太刀筋を放った後に自在に操られるのでは手も足も出ない。
これが本来のテンヴェイラの力。
このまま時間切れを待つ方法もあるが、もし溶岩の中に戻られてしまえば必要な素材が手に入れられない。
(メ´・ω・`) 「あれを使おう」
( ^ω^) 「でも、防がれたら後がないお」
(メ´・ω・`) 「どのみち逃げてるだけじゃ勝てない。切断攻撃は絶対に受けるな」
右腕の再生は遅々として進まない。
背負っていた荷物を全て置き、必要な錬金術だけを持つ。
( ^ω^) 「僕が囮をやるお」
(メ´・ω・`) 「行くぞ!」
僕らは同時に飛び出し、テンヴェイラへと駆け寄る。
何を考えているのか、それとも何も考えていないのかテンヴェイラは赤黒い泡を膨らませ続けていた。
身体の正面が埋め尽くされるほどに拡がった泡の中に、握っていた道具を投げ込む。
420
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:41:59 ID:XuZMeezA0
テンヴェイラ自身が持つ温度によってすぐに発火点に達し、泡を全部吹き飛ばした。
ブーンは正面に潜り込み、真っ直ぐ剣を突き込んだ。
堅い甲羅に弾かれながらも、その注意を引き付けるために何度も。
腕がない状態がこんなに走りにくいとは思わなかった。
転びそうになりながらも必死に走る。
甲羅と一体化している鋏の一部をを砕くのは容易じゃない。
狙いは相手の足を止め、攻撃手段を封じること。
鋏を閉じた時に発生する攻撃は、鋏を固定してしまえば放てないはず。
そう思って用意していたのは高温帯で真価を発揮する固着剤。
温度が上がるほど強度を増す素材を用いた錬金術。
左の鋏が閉じる直前、その隙間に差し込んだ金属製の筒。
閉じきった時の圧力で弾け、中に入った固着剤が鋏の間から溢れ出る。
攻撃は地面に突き刺さり、大きく削り取った。
(メ´・ω・`) 「ブーン!」
十秒後に反対側の鋏による攻撃が行われる。
( ^ω^) 「分かってるお!」
421
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:43:54 ID:XuZMeezA0
片方を塞がれたテンヴェイラは、僕へとその攻撃対象を変えようと動く。
その足の先にはブーンがあらかじめ放り投げておいた爆薬。
踏まれた衝撃で二つの素材が混じり合い、連鎖的に爆発反応を引き起こす。
一瞬でも動きを止められれば充分。
僕が投げた筒をブーンがキャッチし、右の鋏へと挟み込む。
(メ´・ω・`) 「閉じる力は強くても、開く力がそれと同じとは限らない」
( ^ω^) 「おおっ!」
黒ずんで炎の消えた部分の甲羅は、紅く燃えているところと比べて格段に強度が下がる。
ブーンはその甲羅に飛び乗り、全体重をかけて杭を打ち込む。
返しがついた特性の杭は、差し込んで僅かに捻るだけで抜けなくなる。
(メ´・ω・`) 「これで……終われ!」
杭の底部にある抑えのピンを剣で斬り飛ばす。
内部に溜まった溶解液がテンヴェイラの体内へと流れ込んでいく。
(; ^ω^) 「っ!」
完全に固着していたはずの鋏が砕けながら大きく開く
422
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:44:36 ID:XuZMeezA0
(メ´・ω・`) 「離れろっ!!」
最後に放たれた一撃はテンヴェイラの周りの空間と、自身のほぼ全身を飲み込んで消えた。
後に残ったのは二つの巨大な鋏。
片方はひび割れて崩れかけてはいるが、十分な量が手に入った。
(メ´・ω・`) 「ふぅ……」
( ^ω^) 「怪我は……まぁ再生してるおね」
(メ´・ω・`) 「一日くらいはかかるかもしれない。不便この上ない」
( ^ω^) 「まぁ命が助かったんだからよかったんじゃないかお」
痛んで砕けた鋏は、荷物の袋の中に放り込む。
無事な方の鋏をブーンが担ぎ、運び屋の男と待ち合わせている場所に向かって歩き始めた。
423
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:45:26 ID:XuZMeezA0
・ ・ ・ ・ ・ ・
「服の袖がなくなってるじゃねぇか」
(´・ω・`) 「気にしないでくれ。いろいろあってな。それにそっちも他の客がいるみたいだけど」
「噂の遭難者らしい。合図の光が上がるまで待機している予定の島があったろ。
あそこまで何とかたどり着いたんだと。運がいい奴らだ」
「いやぁ、見つけてもらわなかったら飢えて死んでいるところでした」
「本当に、本当に感謝します」
「っけ。港に着いたら金は払ってもらうぞ」
「ええ、命の値段くらいはお支払いします」
(´・ω・`) 「まぁいいさ。僕らはちょっと疲れたから休ませてもらうよ」
424
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:46:17 ID:XuZMeezA0
船室は十人程度が横になれるほどには広い。
もともとは貨物船だったこともあり、スペースには余裕がある。
二人程度の乗客が増えた所で何ら問題はないだろう。
僕らはテンヴェイラの鋏を布で覆い、身体で隠すようにして眠る。
極限近くまで溜まっていた疲労は、夢と現実の境目すら容易に取り去ってしまう。
何時間休んでいたのかわからない程の深い眠りから目を覚ました時には、
運び手を含めて全員が船室で寛いでいた。
( ^ω^) 「起きたかお……?」
(´・ω・`) 「あぁ……どのくらい寝ていた?」
( ^ω^) 「もう夜らしいから、たぶん十二時間くらいじゃないかお」
(´・ω・`) 「随分と長かったな」
( ^ω^) 「まぁ、それだけ疲れてたんだお」
ブーンは船旅用の保存食を頬張りながら、何かを走り書きしていた。
覗き込むようにして文字を追う。
箇条書きに並びたてられたそれらはテンヴェイラの鋏の利用方法。
425
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:46:49 ID:XuZMeezA0
必要量以上が手に入ったため、他の錬金術に回す余力が出来た。
確かにもう二度と手に入ることはない素材。
幾つもの案の中から最善の錬金術に使用したいと思うのは当然だ。
「何しにニゴラゴ山へ来たんですか」
(´・ω・`) 「……錬金術の研究です」
「あぁ、同業だったのですか」
( ^ω^) 「ということは二人も?」
「そうです。研究で必要な素材を手に入れるためにね。あんな化け物がいるなんて運が悪かった」
「お二人は大丈夫だったのですか?」
(´・ω・`) 「僕らは鉱石を幾つか採取しただけですから」
「仲間もほとんどが殺され、なんとか私たちだけが逃げ延びたのです」
( ^ω^) 「そうなのかお……」
(´・ω・`) 「お互い命があってよかったです。帰ったらギルン山脈について報告しなければならないですね」
426
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:47:48 ID:XuZMeezA0
ブーンが余計なことを言う前に口を挟む。
荒天鷲の時からあった違和感。
それは生き残った二人の男達からも感じていた。
「何をです?」
(´・ω・`) 「化け物がいたのでしょう?」
「あ、ええ、そうですね。他の錬金術師が犠牲になる前に情報を流しておかないと。
ですが、どこに伝えればいいのでしょう……」
(´・ω・`) 「僕らも余所者なので」
運び手の男は一人毛布を被って横になっていた。
聞こえているはずの僕の声も無視しているのか、それとも本当に寝ているのか。
「やれやれ、ところで手に入れたのは何の素材ですか?」
(´・ω・`) 「ただの鉱物ですよ」
テンヴェイラの鋏は隠しきれないほどに大きい。
布で包んで隠しているそれを、生き残った男達が求めているのは明白であった。
427
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:48:11 ID:XuZMeezA0
「そうですか。研究のお役に立つといいですね」
(´・ω・`) 「どうもありがとうございます」
男達は船室から出ていき、僕らはテンヴェイラの鋏を気にかけながら再度の睡眠をとった。
域の船旅と同様で、一度潮流に乗れば後は待っているだけでコルキタまでたどり着く。
水深が浅く、大型船では通ることができない海路。
「あいつら、船を何で失ったんだろうな」
(´・ω・`) 「……起きてたのですか」
「ふん、俺をイカれた錬金術師どもの諍いに巻き込むな。面倒な」
( ^ω^) 「向こうが絡んできたんだお……」
「知らん」
(´・ω・`) 「船の高温対策を怠っていたか、それとも想定が甘かったのか。
コルカタの運び手が一緒にいたはずですが……」
428
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:49:16 ID:XuZMeezA0
いくら彼らが優れた錬金術師であったところで、この航路を辿れるとは思えない。
海路には道標はなにもなく、運び手の勘と感覚によって見つけられるものだからだ。
僕とブーンでさえ、もう一度海路でギルン山脈に行くことは叶わない。
( ^ω^) 「なーんか胡散臭いんだお」
(´・ω・`) 「僕の予想でしかないけど……。十数人でギルン山脈に来て、テンヴェイラと戦闘。
敗北して逃げ延びたのが数人。その中で生き残ったのがあの二人だけなんじゃないか」
「俺が待機している予定の島は狭くて、人間を隠す場所なんてありはしない。
地面を掘り起こしている様子もなかった」
( ^ω^) 「埋める以外にも処理する方法はあるお。あんまり考えたくないのもあるけど」
(´・ω・`) 「問題はむしろ船の残骸かな。どうやって処理したんだろう」
「木材……簡易の屋根を付けた場所はあった……だが船を使えばもっとまともなものが作れたはずだ」
(´・ω・`) 「船自体も大破してたんだと思いますよ。それで、あの島に流れ着いた」
「そこまでして何が欲しかったんだか……」
( ^ω^) 「わからないお……」
「まぁ問題を起こさないつもりなら別にいい。連れて帰ってやるくらいならな。
なにかしでかしたら海に叩き落としてやる」
429
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:50:48 ID:XuZMeezA0
・ ・ ・ ・ ・ ・
(;´メω・`) 「はぁっ……はぁっ……生きてるか……ブーン……」
(;メ-ω^) 「どう見ても死んでるお……」
心臓に突き刺さった杭が背中を突き破り、背後の船室の壁まで達していた。
起き上がろうとしても、杭の役割を果たしている金属は動かず、引き抜こうにも両手は塞がれている。
溢れ続ける血液は消滅し続け、心臓は異物による破壊と再生を繰り返す。
横目で見ればブーンも同様に磔にされており、両手と腹部に計三本の杭。
ご丁寧に柄の根元まで深く差し込まれている。
(´メω・`) 「くっそ……船に穴まで空けていったな」
冷たい海水がゆっくりと船室を満たしていく。
僕らが不死であると気付いた時の男達の行動は早かった。
両手を壁に固定するように貫かれ、身動きがとれない。
剣であれば多少強引にでも両手を自由にできるが、
杭の刺さった手を動かしたところで痛みだけがひどくなるだけだ。
腰の辺りまで上がってきた水位のせいで両足の感覚がなくなっていく。
430
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:51:59 ID:XuZMeezA0
甲板にいるはずの船乗りの男は、もうとっくに逃げだしているだろう。
沈み始めた船の船室をわざわざ助けに来るほどの付き合いも無い。
これだけの船だ。前金だけでは払いきれないかもしれないが。
(; ^ω^) 「おぉお……さみぃお……」
(´・ω・`) 「テンヴェイラが死んだからだな……。さて、どうしたものか」
十日ほど前までが嘘のように気温は下がり、帰り道の途中で雪が降る日もあった。
( ^ω^) 「僕の荷物に……足が届くかお?」
(´・ω・`) 「ああ、なんとか」
痛む両腕と胸を無視し、可能な限り足を伸ばす。
つま先を荷物の紐にかけ、少しずつ引っ張っていく。
テンヴェイラの鋏にしか興味のない連中で助かった。
水浸しの鞄の中をかき混ぜる様に足を突っ込んだ。
(;メ^ω^) 「……なんかちょっとドキドキして心臓が痛」
ブーンが言い終らないうちに船室は丸ごと吹き飛んだ。
431
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:54:04 ID:XuZMeezA0
(´・ω・`) 「ぶはっ……寒い寒い……」
全身ずぶ濡れになり、奥歯がガタガタと震える。
錬金術のローブは体寒耐熱ではあるが、こうも全身が水に濡れてしまっては用をなさない。
剣だけを掴んでいた僕は港に上がった。
( ^ω^) 「おー……なんとか、これだけは確保できたお」
遅れてブーンが顔を出す。
その手に掴んだ二人分の荷物の袋。
中に仕舞っているのはテンヴェイラの鋏の一部。
爆発や海水の影響はないようで、白い蒸気を立ち昇らせていた。
(´・ω・`) 「とりあえず、シュールの研究所に向かおう。このままじゃ流石にまずい」
( ^ω^) 「一刻も早くあったかい湯を浴びたいお……」
(´・ω・`) 「同感だ」
空は暗く、今にも振り出しそうなほど。
今以上に気温が下がる前にと、僕とブーンは駆け足気味に大通りを抜ける。
偶然止まっていた馬車に乗り込んで、研究所に戻って来た。
すぐに巨大な釜いっぱいに湯を沸かし、それに浸したタオルで身体を拭く。
432
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:54:53 ID:XuZMeezA0
( ^ω^) 「おー……一息ついたお」
(´・ω・`) 「全く。あの二人は……どうしてやろうか」
「どの二人の事?」
二階から降りてきたのは小柄な女性。
その身に不死の魂を宿した錬金術師。
研究所の持ち主であり、待ち合わせていた人物。
(;´・ω・`) 「シュール!」?
(; ^ω^) 「いつの間に来たんだお?」
lw´‐ _‐ノv 「こんな夜中に話声がするし泥棒かと思ったよ。せっかく深い眠りに付けてたんだけどね。
あぁ、はいはい。シュールね。今呼びますよ」
(´・ω・`) 「周、明日にしよう。ちょっと僕らもいろいろありすぎて整理が追いつかない」
lw´‐ _‐ノv 「わかった。そうしてくれるとありがたいね。そこの暖炉も使ってくれたいいから。それじゃあおやすみ」
( ^ω^) 「おやすみだおー」
433
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:55:17 ID:XuZMeezA0
眼を擦りながら二階に戻っていくシュール。
その仕草は幼い子供にしか見えない。
(´・ω・`) 「テンヴェイラの鋏はどう保存すればいいだろう」
( ^ω^) 「だんだん温度が高くなってるおね」
海の中に一度は沈んだはずのその甲殻は、紅白の斑模様を浮かび上がらせている。
既に素手では持てないほどの熱さ。
置いてあるだけで木の机が黒く焦げていく。
(´・ω・`) 「このままじゃ不味いだろうけど、水につけておくのはよくないと思う」
( ^ω^) 「取り敢えず小型炉の中にでも置いとくしかないんじゃないか」
(´・ω・`) 「欠片だから扱いやすくて助かったね」
奪われた完全な状態の鋏であれば、保存方法に苦労しただろう。
素材としてはほぼ同様の扱いができるはずだ。
念の為に適当な防熱シートを重ねた上に小型炉を動かし、交互に様子を見ながら休んでいた。
434
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:55:48 ID:XuZMeezA0
爆発することも無ければ、室内の温度が上昇することもほとんどなく、
素材として死んでしまったのかと不安になり何度も夜中に確認した。
炉の中で生きているかのように熱を発し続ける鋏。
七大災厄の素材、それもほとんど本体であるそれは、恐らく今までで一番扱いの難しい素材だ。
生半可な錬成に利用すれば後悔するだけでなく、大事故につながりかねない。
研究所に戻ってきたのは思っていたよりも遅かったらしく、
うつらうつらしながら考え事をしていたら、空が次第に白けてきた。
暗闇の中からその頭を出した太陽は、眠らない都市に平等に降り注ぐ。
広場を行き交う車輪と蹄鉄の音が次第に多くなり、都市の朝を告げて走る。
それから一時間ほどして、シュールは一階に降りてきた。
ブーンはまだ寝息を立ており、揺さぶって起こす。
lw´‐ _‐ノv 「ふぁぁ……寝不足だよ」
(´・ω・`) 「すまない」
lw´‐ _‐ノv 「謝らないで。私も協力するよ。どうせ華国にいたところで何かをするわけではないしね。
それにこちらの方が面白そうだし。さて、シュールを起こすよ」
435
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:56:29 ID:XuZMeezA0
慣れた動作でもう一つの意識へと切り替える周。
(´・ω・`) 「久しぶり」
lw´‐ _‐ノv 「そうだね。ショボン君。ブーン君も」
( ^ω^) 「おーもうついてたんだおね」
lw´‐ _‐ノv 「三日日ね」
(´・ω・`) 「テンヴェイラの鋏、手に入れたよ。事情があって欠片だけだけれど」
lw´‐ _‐ノv 「これだけの大きさがあれば十分だよ。大変だったと思うけど、本当にありがとう」
体格と似合わない深いお辞儀。
僕自身の為でもありるため、それを受けるのは些か気まずく、
返答に困った僕は話を変える。
(´・ω・`) 「それで、これからどうすれば?」
lw´‐ _‐ノv 「あぁ、うん。不死殺しの錬金術を完成させる。そのために必要なもう一つの条件。
サスガの双子を探さないといけない」
436
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:56:53 ID:XuZMeezA0
(´・ω・`) 「探すって……どこにいるのかもわからないのに?」
lw´‐ _‐ノv 「正確な場所はわからないんだけど、全く手掛かりが無いわけじゃない」
( ^ω^) 「手掛かり?」
lw´‐ _‐ノv 「でぃ、おいで」
∧
(゚、。`フ 「わらわはもう少し寝ておきたいのじゃが」
(;´・ω・`) 「えっ!?」
(; ^ω^) 「おっ!?」
僕らの驚きは全くの同時。
研究室の本棚の上からこちらを見下ろす、白い毛並みの猫。
元は人間であり、その魂を不老不死の猫に移し替えた錬金術師。
古代錬金術師と自称するその猫は、小さな黒いマントを羽織っていた。
∧
(゚、。`フ 「ぬしらが帰って来た時からおったのじゃがな。全く気付かなかったの」
437
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:57:32 ID:XuZMeezA0
それもそのはずだ。
手元で作業するためだけの最低限の明かりしかつけていなかったのだから。
(´・ω・`) 「その外套は……」
∧
(゚、。`フ 「ふん、思っている通りじゃ」
( ФωФ) 「鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしておるな。吾輩がここにおることがそんなにおかしいか?」
(´・ω・`) 「……芒は大丈夫なのか」
( ФωФ) 「大丈夫であろう。彼女は巫女として生きることを受け入れた。
つらい役目を誰かに押し付けるよりは、自身が、とな。
決心は固い。そう簡単には折れぬであろう」
(´・ω・`) 「そうか……それで、なんでここに来た?」
( ФωФ) 「吾輩達がこうまでして生き残ってきた目的を果たす為である」
イ从゚ ー゚ノi、 「漸くこの役目から解放されるのでございますね」
(´・ω・`) 「キツネか?」
イ从゚ ー゚ノi、 「お久しぶりでございます」
438
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:58:00 ID:XuZMeezA0
シュールの腰に結ばれた扇。
華国にいた空間を操る古代錬金術師の番人。
その実物を見たのは初めてだ。
(´・ω・`) 「勢ぞろいだな。このために神州まで行っていたのか」
lw´‐ _‐ノv 「まぁね」
( ^ω^) 「ジョルジュは来てないのかお?」
lw´‐ _‐ノv 「彼には一つ用事をお願いしてるんだ。だいぶ渋られたけどね」
(´・ω・`) 「用?」
lw´‐ _‐ノv 「いくつか必要な素材があってね。それを取りに行ってもらってる。
集合場所も決めてるから大丈夫だ」
イ从゚ ー゚ノi、 「お話し中のところすいません。この姿でお話しするのも何となくですが違和感がございます。
せっかく集まったのですから、皆で机を囲むのもよろしいのではないでしょうか」
lw´‐ _‐ノv 「そうだね、お願いするよ」
イ从゚ ー゚ノi、 「はい」
439
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:58:29 ID:XuZMeezA0
扇が開き、空間を形成する。
精神だけが招かれた世界の中心にはラウンドテーブルが一つ、その周りには六脚の椅子。
ご丁寧に湯気の出るティーカップが並び、それぞれの席に座るのは錬金術師。
キツネは紺色の着物を身に付け、長い黒髪を後頭部で巻き上げている。
以前会った時と違い、金色の細い線が柔らかく舞っているような絵柄。
僕らを招いた世界の主は、優雅に紅茶の入ったカップを傾けていた。
( ФωФ) 「やれやれ、相変わらずの場所であるな」
スーツ姿の男は、被っていた帽子を脱ぎ捨てた。
それは空間に溶けるように消えていく。
何処か紳士然とした背格好に似合わない乱暴さで座り、カップの中身を一息で飲み干した。
.∧_∧
(#゚;;-゚) 「人間の身体は懐かしいの」
白いローブで身を包んだでぃは、指先の感覚を確かめる様に手を動かす。
猫であった時の感覚が抜けていないのか、耳の上あたりで跳ねた髪の毛の中に獣耳が動いている。
精神だけのこの空間であるから、自らの感覚や意識が姿に強く反映されるのだろう。
lw´‐ _‐ノv 「皆の姿を見るのも久しぶりだね」
440
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:59:01 ID:XuZMeezA0
シュールは四国を統一した時の派手な白いドレス。
波打った綺麗な金髪は肩にかかり、美しさをより一層際立たせている。
フリルで覆われているドレスは、他の三人と比べると随分と目立つ。
.∧_∧
(#゚;;-゚) 「ぬしはその恰好、気に入っておるのか?」
lw´‐ _‐ノv 「うーん、ついね」
イ从゚ ー゚ノi、 「よくお似合いでございますから」
lw´‐ _‐ノv 「そうかな? ありがとう」
( ФωФ) 「服装などどうでもよかろう」
.∧_∧
(#゚;;-゚) 「そう言うぬしも昔の恰好ではないか」
( ФωФ) 「ふん、合わせただけである」
.∧_∧
(#゚;;-゚) 「変わらんの」
( ФωФ) 「貴様こそ猫の耳がついておるぞ。どうやら心まで獣になってしまったようであるな」
∧_∧
(;#゚;;-゚) 「にゃっ!?」
441
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 20:59:42 ID:XuZMeezA0
焦って頭の上を押さえるでぃ。
髪の隙間から生えた獣耳は、へこむだけで消えない。
精神のみの世界では、身体は自身の感覚がそのまま反映される。
常日頃から猫としてあったでぃは、その耳をなくすことを諦めた。
イ从゚ ー゚ノi、 「ディートリンデさん、ロマンさんも、懐かしいのはわかりますがそういう会ではありませんよ。
お二人が困っているではありませんか」
(;´・ω・`) 「ははは……流石にこの面子相手だと気後れするね」
( ^ω^) 「だお」
長い歴史を持つ錬金術、その始まりにして頂点である術師達。
普段の雰囲気と違うせいか、同卓することすら恐れ多いと感じてしまう。
lw´‐ _‐ノv 「まぁ座りなよ、二人とも」
(´・ω・`) 「そうさせてもらうよ」
lw´‐ _‐ノv 「さて、私たちが見たワカッテマスの過去と、
ロマが見つけたリリさんの様子からいくつか特定できることがあったんだ」
442
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 21:00:14 ID:XuZMeezA0
( ФωФ) 「氷の彫刻と渡り鳥が通ったルートを照らし合わせて見つけることができた集落は五つ。
その中であれだけの大きさのものを隠せる場所があるのはたった一つ。
ヴァントヨークの大氷窟だけである」
(´・ω・`) 「聞いたことがない場所だ」
( ^ω^) 「氷でできた洞窟だお? 立ち入りが制限されてるっている」
(´・ω・`) 「どこにあるんだ?」
lw´‐ _‐ノv 「確か、今は名前が変わったんじゃなかったかな。
コルカタから遥か北方、年中雪に覆われた氷窟都市国家ファーワル。
一応、その国が管理しているというか……ファーワルそのものだね」
北方の国々はあまり訪れたことがない。
雪の中で行き倒れたらどうなるかわからないし、装備を整えるのも大変だ。
草木が少しでも生えていれば飢えは凌げるのに、冬の地ではそれもできない。
イ从゚ ー゚ノi、 「灼熱の地の次は極寒の地。大変でございますね」
.∧_∧
(#゚;;-゚) 「どうせ死なぬのじゃ。旅行みたいなものであろう」
443
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 21:00:42 ID:XuZMeezA0
(´・ω・`) 「流石にテンヴェイラと戦ったときは死ぬかと思ったけどね」
( ФωФ) 「むしろ死ななかったことが不思議であるがな」
( ^ω^) 「確かに……七大災厄を殺して五体満足っていうのも驚きだおね」
一撃を受けたとはいえ、何とか再生することもできた。
事前にしてきた準備をほとんど使いきったのだから、簡単だったというわけではない。
ないのだが、確かにあまりにもうまく行き過ぎた。
lw´‐ _‐ノv 「それはたぶん、随分前から地上側にいたからなんじゃないかな」
(´・ω・`) 「どういうことですか?」
lw´‐ _‐ノv 「テンヴェイラは遥か地中の溶岩流の中に生存してるから、地上で長くは生きられない。
普通は噴火に巻き込まれて冷えた大地まで出て来るからすぐ死ぬはずなんだけどね。
運よく地中の溶岩溜に逃げ延びたんじゃないかな。命を削りながら何とか生きてきた」
( ФωФ) 「運が良かったであるな。そもそも人間如きが万全の七大災厄を殺せるはずが無かろう」
イ从゚ ー゚ノi、 「弱体化しているかもしれない、ということもシュール様は存じていたということでしょう」
lw´‐ _‐ノv 「その辺は賭けだったんだけどね。テンヴェイラについてはずっと探してたし、
どうも去年の夏あたりから気温が変な感じしてたから、調査していたかいがあったね」
444
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 21:01:10 ID:XuZMeezA0
運が悪かったらどうなっていたのかはあまり考えるべきではないな。
もしテンヴェイラが本調子であったなら今頃は物言わぬ屍になっていただろう。
.∧_∧
(#゚;;-゚) 「それで、次はどうするのじゃ」
lw´‐ _‐ノv 「うん、それなんだけどね。あまりよくない状況なんだ」
( ^ω^) 「よくない状況?」
lw´‐ _‐ノv 「二人がテンヴェイラに挑んでいる間に、大陸北部について調べてたんだけどね。
大量の錬金生物があちこちに出現してるらしい」
(´・ω・`) 「錬金生物……」
思い出すのはセント領主家が生み出した泥状の生物。
攻撃意思しか持っていないただの塊。
速度は遅く大した機能も持たないくせに数が多く耐久値が高い。
集団で襲われたら厄介極まりない敵。
lw´‐ _‐ノv 「詳しい状況は入ってきてないけどね。そういう異質な生き物があちこちで闊歩してるって話ね。
別にそれだけならさほど脅威じゃないんだけどね」
445
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 21:01:34 ID:XuZMeezA0
(´・ω・`) 「錬金生物……」
思い出すのはセント領主家が生み出した泥状の生物。
攻撃意思しか持っていないただの塊。
速度は遅く大した機能も持たないくせに数が多く耐久値が高い。
集団で襲われたら厄介極まりない敵。
lw´‐ _‐ノv 「詳しい状況は入ってきてないけどね。そういう異質な生き物があちこちで闊歩してるって話ね。
別にそれだけならさほど脅威じゃないんだけどね」
錬金生物とは言え生き物である以上殺せば死ぬ。
多少の犠牲を覚悟するのであれば一般人であっても駆除はさほど難しくないだろう。
だがそれはあくまで敵が単体だった場合だ。
複数、しかも連携を取り始めれば手に負えない。
対抗するためには強力な軍隊が必要になる。
(´・ω・`) 「それで、何が起きているんだ」
lw´‐ _‐ノv 「錬金生物の大軍勢によって大陸北部の都市国家が陥落してる。この半年で三件も」
(; ^ω^) 「!?」
( ФωФ) 「吾輩調べであるから、ほぼ間違いないのである」
446
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 21:01:55 ID:XuZMeezA0
lw´‐ _‐ノv 「実際には四つの都市が強襲されたんだ。黒い甲殻型の巨大な虫らしいんだけどね。
騎士協会が総出で対応したみたいだけど、間に合わなかったみたい」
(´・ω・`) 「ってことは」
lw´‐ _‐ノv 「うん、国を滅ぼしたそれらはまだ放し飼いってことかな。もしくは飼い主の元に戻ったか」
( ^ω^) 「あれ? 四つの国って」
lw´‐ _‐ノv 「うん。一つだけそれらを撃退できた国がある。城塞都市国家フラクツク。
その錬金生物を迎撃できた唯一の国に、彼らがいるはず」
(; ^ω^) 「フラクツク……!」
その名前はつい最近聞いた覚えがあった。
荒天鷲の巣で命を落とした錬金術師。その男から預かりものはブーンが大事に持っている。
lw´‐ _‐ノv 「どうしたの?」
( ^ω^) 「いや……別に何でもないお」
(´・ω・`) 「少し縁があってね。それで、その場所にクールとサスガの双子がいるのか?」
447
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 21:02:16 ID:XuZMeezA0
少し空きます
448
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 21:14:45 ID:ESOyTVmk0
クーちゃん久しぶりだな楽しみ
449
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 21:23:47 ID:XuZMeezA0
.∧_∧
(#゚;;-゚) 「必ずとは言えぬが、かなり確率が高いであろうな。
流れてきた話を聞くと不死の英雄がなんじゃとか言っておったが」
イ从゚ ー゚ノi、 「クール様のことでしょうか?」
(´・ω・`) 「……たぶんそうだと思う」
( ^ω^) 「すぐ行くお?」
lw´‐ _‐ノv 「ええ、勿論です。ここからかなり距離がありますからね」
イ从゚ ー゚ノi、 「それでは」
キツネの一言の後、意識のみの世界から解放された僕ら。
戻ってきた現実の感覚を確かめる様に両手を組んで伸ばす。
(´・ω・`) 「……っと。厄介な旅になりそうだなぁ……。
僕らは全然準備できてないんだけど」
テンヴェイラを倒して戻って来たばかりだ。
道具の手入れをしておかなければ、長旅の最中にいつ不具合が起きるかわかったものではない。
ついでに言えば、僕の上着は服の袖から無くなっている。
流石にこの格好で冬の旅をするのは無理だ。
450
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 21:24:09 ID:XuZMeezA0
lw´‐ _‐ノv 「用意はしておいたよ。人数分ね」
シュールが戸棚を開くと、そこに新しい旅用の服が並んでいた。
たった三日でこれだけの用意をしたシュールの技術力は、いまさら驚くことでもない。
(´・ω・`) 「それにしても早く着いたね」
lw´‐ _‐ノv 「ショボン君は時間かかりすぎじゃないかな。海岸沿いを南下してたらそんなにかからない様な」
(´・ω・`) 「道が崩落してたから、山を登って迂回してから来たんだ」
lw´‐ _‐ノv 「あーなるほど。私たちは崩れた所をそのまま通ったからね」
(;´・ω・`) 「どうやって!?」
lw´‐ _‐ノv 「ロマを私が着て、でぃを抱いただけだよ」
身体能力を引き上げるロマンの外套があれば、確かに渡り切ることは可能かもしれない。
( ^ω^) 「ロマンの外套ってそんなにすごいのかお?」
(´・ω・`) 「規格外だね。まぁ、想定し得る錬金術を全て埋め込んだようなものだから」
lw´‐ _‐ノv 「二人とも無理やり通ればよかったのに」
451
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 21:24:51 ID:XuZMeezA0
(´・ω・`) 「いや、流石に降りたら登れなくなるし」
( ^ω^) 「もし反対側も駄目だったら手詰まりになっちゃうお」
あの時、崩落した海沿いの道を無理やり通ることも考えた。
死なないという特性を持つ以上、飛び降りても何ら問題は無い。
無いのだけれど、出来れば避けたかった。
ブーンが言った理由と、崩れた原因がわからないこともあって、僕らは山道を選んだ。
lw´‐ _‐ノv 「時には大胆さも必要だよ」
(´・ω・`) 「そうだったみたいだね」
( ^ω^) 「まぁ、あれは仕方ないお。三日位の差なら丁度良かったんじゃないかお」
lw´‐ _‐ノv 「準備する時間がもらえたからね」
(´・ω・`) 「そういえば、シュールは旅の間どうするんだ?」
通常の意識は周であり、旅の道中はどちらの意識が優先されるのか気になった。
場合によっては僕がロマンを羽織ったほうが良いだろうと。
452
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 21:25:42 ID:XuZMeezA0
lw´‐ _‐ノv 「これからしばらくは私が出てるつもりだよ。咄嗟の判断もしやすいしね。
周にも許可をもらったから大丈夫。最期の旅だからね……」
(´・ω・`) 「最後?」
lw´‐ _‐ノv 「気にしなくていいよ。さて、そろそろ出発しようかな」
( ^ω^) 「おー馬とかは用意してるのかお」
lw´‐ _‐ノv 「買う予定の話はもうしているから大丈夫。お金はあるんだよね」
(´・ω・`) 「金貨にする時間は無かったけど、それなりの錬金術はブーンが」
( ^ω^) 「馬四頭程度に替えられる自信はあるお」
もともとが錬金術で商売をしていたブーンである。
どのようなものが売れるか、役に立つかはよく知っているだろう。
lw´‐ _‐ノv 「錬金術師がやってるところでね。身体強化が施されている中で一番質がよさそうなのを選んでおいたんだ。
これからの道中はかなり厳しいだろうからね。通常の数倍はするけど大丈夫?」
453
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 21:26:19 ID:XuZMeezA0
( ´ω`) 「おー……それは……」
lw´‐ _‐ノv 「まぁ、足りなければ私たちが用意した分もあるから大丈夫。
最悪この建物を国に売ればそれなりの値段はつくだろうしね」
(´・ω・`) 「ここを? いいのか?」
ずっと鍵を持っていたほどである。
そう簡単に手放していいものではないだろう。
lw´‐ _‐ノv 「まぁ、別にね。深い思い出があって取ってるわけじゃないんだよ。
ただ場所が便利だったからなんだ。この国が一番素材を手に入れやすいしね。
さて、お喋りはやめて出発するよ」
(´・ω・`) 「わかった」
∧
(゚、。`フ 「やっと話がまとまったのじゃな」
( ФωФ) 「こちらは待ちくたびれたのである」
( ^ω^) 「お、すまんおね」
イ从゚ ー゚ノi、 「謝るようなことではないのでございます。二人が少々気が短いものですから」
シュールが一番にドアを開けて出ていく。
その後ろに続く黒いマントを羽織った白い猫。
手に入れた紅の災厄の素材を大事にしまい込み、僕らはその背を追った。
454
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 21:27:12 ID:XuZMeezA0
36 紅の災厄 End
455
:
名無しさん
:2016/07/24(日) 21:27:41 ID:XuZMeezA0
>>15
30 災厄の巫女
>>102
31 少女への手掛かり
>>165
32 血の遺志
>>228
33 空を舞う翼
>>282
34 地を穿つ角
>>350
35 港の都市
>>404
36 紅の災厄
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