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本日は晴天なり

1 ◆Xk9aOrMXsE:2016/03/30(水) 23:40:11 ID:dutJssj60


私たちが、自らの真なる姿を認識することは困難である。


(*‘ω‘ *) 「ぽっぽっぽ〜♪」


それは光の反射を利用したところで、たとえ文明利器を頼ったところで、
映し出されるものが真実とは限らない。

誤って歪んでしまう瞬間が写るのか、それとも歪みそのものからして正しく映るのか……。


(*‘ω‘ *) 「ちんぽっぽ〜♪」


私だってそうだ。

この姿は白く、つるんとした光沢を纏い、淡く色彩を弾くように出来ていると思い込んでいる。
少なくともそう自覚できる程度には遺伝子を操作し、組み換えられ、ここに居るはずだ。


…にも拘らず、そんな私を小さな視界へと収めることに成功したのが嬉しかったのだろうか。
眼下に佇む、ひとりの幼な子はこうして謡っている。


(*‘ω‘ *) 「豆ーが欲しいぽ そらやるぽ〜♪」


…私は知っている、それが童謡の類いであることを。
元気よく腕を振るう少女のリズムに合わせ、言葉を繋げてみた。
『みんなで一緒に――――』。



「みーんなで一緒に……  (*‘ω‘ *)

       ……えっ?」 (‘ω‘ *;) 



『食べに来い』


キョロキョロ
(*;‘ω‘*) 「えっ、……な、なんだっぽ?!?!」

2 ◆Xk9aOrMXsE:2016/03/30(水) 23:43:05 ID:dutJssj60
顔といわず、肩が、腰が、そして足までもドタバタと回りだす少女。
風切りによって私の身体も反射的抵抗を示す。

怯えさせただろうか。
戯れにいれた合いの手も、少女と同世代や同性によるものならば許されたのかもしれない。


(*‘ω‘ *;) 「だ、だれぽよ〜〜?!?」


周辺は空と大地のがらんどうで、少女はひとりきり。
期せずして訪れた、今このとき。

私がこの場に降臨したのはたまたまでしかなかった。
だからというつもりもないが…思春期によくある、
口をついた独り言を他者に聞かれる恥ずかしさはデータ上、理解できる。


『あー、……』


私はそれを謝罪しようと考えてから……
よくよく思い出してみれば私がどうするよりも先に、少女の方こそ「ちんぽ」と発言したことに思い至る。

何故ちんぽなのだ? そんな唄ではなかったはずだ。
それ故の気恥ずかしさならばと考え直し、罪悪感を即、棄てる。


『こっちだ、ここを見るんだ』


(*‘ω‘ *;) 「チョーコワイんですぽよ〜〜?!」
   キョロキョロ    
(;*‘ω‘ *) 「だれっぽよ〜〜〜???」


どうせ紛いものの感情と存在だ。
…なにより、私には時間が限られている。


『私だ』        (∵ )

(*‘ω‘ *)


(;*‘ω‘ *) 「だれっぽよ〜〜〜〜〜」



              (∵ )

3 ◆Xk9aOrMXsE:2016/03/30(水) 23:43:49 ID:dutJssj60





 

4 ◆Xk9aOrMXsE:2016/03/30(水) 23:44:38 ID:dutJssj60



ブン動会(2016紅白)参加作品




       【本日は晴天なり――――】



 

5 ◆Xk9aOrMXsE:2016/03/30(水) 23:45:55 ID:dutJssj60


危機感のないぼんやりとした空には、流されるしか能のない鳥が悠長に漂う。

私は、呼吸を許された日からずっとそれを見てきた。


(*‘ω‘ )ゝ 「ぽっぽぉ〜〜〜い!」


蒼い、蒼い大空だ。
遮るものは何もない。

私はそれを見て、本来何を想うべきなのだろう。


ヾ(*‘ω‘ *) 「〜〜♪」


口を開けて、さっきとは別の唄を奏でる少女の声。
気流もなく密度変化もないこの蒼がもたらす恩恵によって、向こう岸まで届くほどに清んでいる。


一色の背景に元気よく振り回す掌が揺らめく。
…細すぎる腕。
骨と皮しか残っていない、肉なき肉体の一部。

それなのに――――。


( ∵) 『なにをそんなに笑ってるんだ?』


問い掛ける私を見たのはほんの一瞬。
それでも判別できたほど満面の笑顔で、腰の小袋を見せつける仕草で痩せこけた少女は言う。


(*‘ω‘ *) 「ムギの種を拾ったんだっぽ! 今日は水たまりも少ないからあるきやすいんだっぽ!」


私は『なるほど』と適当な相槌をうつに留めた。
少女の日常に射し込む稀なる事象を理解してやることは出来ない。



そもそも私には、地を踏める脚もありはしないのだ。

6 ◆Xk9aOrMXsE:2016/03/30(水) 23:49:55 ID:dutJssj60
少女は笑顔で天を仰ぐ。
誰かに同意を求めているかのようにも見える。


間もなく満足したのか、頷くように降ろした視線の先。
一軒の白い家屋が姿を現し、少女の傍らにある私の視界がいっそう揺れた。


(*‘ω‘ *) 「おとさーん、おかさーん、ただいまっぽ〜!」


駆け足の重力に負け、履いていたビーチサンダルがひっくりかえったことにも気付かぬ少女。
冷えた床に取り残される、ペタペタ鳴らされる柔らかな音。


( ∵)


突如手放された私といえば支えを無くしてゆっくりと倒れ込んでしまう。
…痛みはない。
ただ玄関先から黙って少女を見送る。

そして入れ替わるように、逆さまになったサンダルの『「…やれやれ」』という囁きが、
少女に向けられるべき異なる声と異口同音に重なった。


( ><) 「慌ただしく戻ってきたと思ったら…」


それは若くも老いて感じられる男。

声の主であるその男はわずかに尖らせた唇を自ら諌めるように、温和な表情と笑みを浮かべている。

7 ◆Xk9aOrMXsE:2016/03/30(水) 23:52:41 ID:dutJssj60
彼はゆっくりと腰をおろして少女のサンダルを揃えて床に戻す。

同じ形をしたサンダルは、しかしよく見ると左右で色が微妙に違っていた。
だが男が特にそれを気にした様子はない。


(>< ) 「ぽっぽちゃんー、靴はちゃんと脱ぐんです!」

「いま、お手あらいしてるっぽ〜〜」

(>< ) 「じゃあそのあとでいいから、おかさんの部屋に来るんですよー」

「わかったっぽ〜〜〜」

( ><) 「まったく……   


     ´-  
( ><)         …おや、この子は」


呟くと同時、私の身体を掴まれた。
…抵抗できなかった。
優しく包み込まれる感触に身を委ねる。
彼はちょこんと、風の流れを遮らないよう、私を玄関の隅に座らせてくれた。


( ><) 「まさか、戻ってきたんですか」

( ><) 「……こんな奇跡もあるんですね」


私は『ああ、そうだ』と返事をしてみたものの、彼にそれが聴こえた様子もない。


「おわったっぽ! はやく座るっぽ〜〜」(*‘ω‘ *)

(>< ) 「はいはい、今いきます」

8 ◆Xk9aOrMXsE:2016/03/30(水) 23:54:09 ID:dutJssj60
「今日はどっちに行ってたんです?」

「まっすぐだっぽー」

「おかさんにも、その時の様子を教えてあげてください」



異なる足音を引き連れて廊下を歩く二つの影。
少女はただ笑っていたが男は違った。
奥の部屋へと消える際、こちらを一瞥した。


              (><  )
( ∵)


先程とは全く別の、今にも崩れかねない脆い微笑みに変貌している。

困ったような、苦虫を噛み潰すような、泣き出しそうな……。
笑っているのに、目を見開いている。


…そしてその瞳も、正しくは私だけでなく、
私の頭上に壁掛けられている存在に向けられていることを知ったが、
彼はすぐに少女を追って部屋に入ってしまった。




( ∵)




そんなはずはなかろうが――――。


      「この疫病神め」 ( <●><●>)


私には…そう睨んでいるようにも見えた。

9 ◆Xk9aOrMXsE:2016/03/30(水) 23:55:00 ID:dutJssj60


       「おかさん!
        今日はあまり水がなかったっぽ」

       「地面はつるつるしてて、
        とてもキレイだったっぽよ〜」

       「…あんなにキレイなのに。
        みんな早く戻ってきたらいいのにっぽ」


「……そうですね」

       「だっぽ!」

「ぽっぽちゃんのお友達も、
 早くかえってくるよう祈ってます」

       「だっぽよ〜〜〜」



( ∵) 『…』



       「そういえば雲さんもとうとう消えちゃったっぽ」

       「みんなどこに行ってるんだっぽ?
        おとさんは、知ってるんだよね?」

「       」

       「……えっ?」


&nbsp;

10 ◆Xk9aOrMXsE:2016/03/30(水) 23:55:54 ID:dutJssj60
私には届かない、男の返答。
小声になったのか……二人の呟きは音の残滓だけを響かせる。


       「      」

「    」

              「   」

「      」


         ( ∵)       「  」


「       」

       「        」

「          」

                     「  」

「    」





         ( ∵) 『…存外、五月蝿い』


&nbsp;

11 ◆Xk9aOrMXsE:2016/03/30(水) 23:57:31 ID:dutJssj60
本来ならばしかと捉えることでスッキリするはずの、しかし今は不明瞭な言葉が、
クリアで然るべきはずの私の思考に澱みを生成させる。


ストレスに変換される一方的な雑音。
それは私だけの特性なのか、人にも備わる性質なのかは定かでない。

もし、これが人々の生活に溢れたかつての環境のひとつだと仮定するならば、とても残念に想う。


( ∵)


私が退屈というものを知った頃、二人はゆっくりとこちらに戻ってきた。



( ><) 「…ぽっぽちゃん」

(*‘ω‘ *) 「ぽ?」

( ><) 「そろそろね、食べ物が無くなってしまったんです」


(*‘ω‘ *)


(*‘ω‘ *) 「知ってたっぽ」


( ><) 「えっ?」


(*‘ω‘ *) 「さいきん一緒にゴハン食べてくれなかったから…」


( ∵)


( ><) 「……ぽっぽちゃん」

12 ◆Xk9aOrMXsE:2016/03/31(木) 00:00:28 ID:0Ee49h3Y0
(*‘ω‘ *) 「こないだ、米びつの蓋が開いてたから覗いちゃったんだっぽ」

( ><) 「ぁ……」

(*‘ω‘ *) 「つぎの日も、そのつぎの日も、ちょっとずつ減ってたけど…」

(*‘ω‘ *) 「おとさんが食べてないことくらいは分かったっぽ」

( ><)

(*^ω^*) 「だから今日はすごく嬉しかったっぽ。
これならおとさんとゴハンが食べられるって」


少女の腰元からざらりと擦れる音がした。
袋は平たく、決して満足な量とは呼べないが、
それを【希望】と名付けるには充分であろう。


( ><) 「……だから…いつも外で遊んでいたんですね」

( ∵)


【希望】を育てる時間があるならば、だが。


(* ^ω^*) 「だっぽ〜〜〜」


( ><)


( ><)




( ><). 「………寂しい想いをさせていて、ごめんね」

      ,


       ;


       。

13 ◆Xk9aOrMXsE:2016/03/31(木) 00:01:53 ID:0Ee49h3Y0


       。


       
        o'

       



        O





        ○
       





         '
        、 I ´  
      ((  !  ))









 ((  (   (    )    )   ))      
  



&nbsp;

14 ◆Xk9aOrMXsE:2016/03/31(木) 00:02:46 ID:0Ee49h3Y0



&nbsp;

15 ◆Xk9aOrMXsE:2016/03/31(木) 00:04:01 ID:0Ee49h3Y0


少女を前に、男が流した涙は唯一ひと雫。  




我慢に我慢を重ねた生活が、人を強くも弱くもしてしまった。



いつまでも子供だと思っていたのだろう。



我が心を見透かされていた男の心疚しさは
きっと筆舌に尽くしがたく、


しかし親として、この上なく喜ばしいのだろう。






            ……彼もまた、その種が実を結ばないと分かっていたとしても。


&nbsp;

16 ◆Xk9aOrMXsE:2016/03/31(木) 00:07:08 ID:0Ee49h3Y0



この星はある時期を境にガラリと姿を変えた。

――――【タイダルウェーブ】。

潮の満ち引きに導かれし、未曾有の超常現象はどこかでそう名付けられている。




はじまりは小さな小さな雫の波紋からはじまった。


人間とは、霞を食って生きるに非ず。
天空とは、霞を無尽蔵に産むに在らず。
大地とは、ただ霞を眺めるのみの存在に有らず。


タイダルウェーブはその最たる例であり、だがしかし不運唐突な天災などでは決してない。



人間は永い歴史を崇め奉る一方、
自然界から発せられた幾度の警告を生きる上で踏みにじりつづけてきた。

目と耳を塞いできた。



ここは、そんな人間に相応しい末路の世界。


&nbsp;

17 ◆Xk9aOrMXsE:2016/03/31(木) 00:09:00 ID:0Ee49h3Y0


( ><) 「中に最後の食べ物を入れておきましたから」

(*‘ω‘ *) 「……ぽ」


開放された玄関扉。
いま私の目の前で、男は少女にリュックサックを背負わせる。
空の青に浮かぶ赤のコントラストがよく映えた。


( ><) 「水位が減っている今なら、どこか別の土地を見付けることができるかもしれません」

(*‘ω‘ *) 「おひっこしなら、おとさんも一緒に――」

( ><) 「歳なんですかねえ…。 もう君について行けるほどの体力がないんです」


男は笑った。
碧碧のビーチサンダルをつっかける少女とは対照的な表情だった。


( ><) 「きっと大丈夫、君は散歩が好きでしょう?
今日からは少しだけ…もう少しだけ、長く歩いてみなさい」


(*‘ω‘ *)


( ><)



(*‘ω‘ *)



( ><)




( ><) 「……さあ、気を付けて……いっておいで」




&nbsp;

18 ◆Xk9aOrMXsE:2016/03/31(木) 00:09:47 ID:0Ee49h3Y0


         【本日は晴天なり――――、】


&nbsp;

19 ◆Xk9aOrMXsE:2016/03/31(木) 00:10:38 ID:0Ee49h3Y0
よろしくお願いします
続きはまた後日

20名無しさん:2016/04/01(金) 00:37:41 ID:7m4dfSWU0
キジバトの話かと思ってたら面白そうな話じゃないですか!

21 ◆Xk9aOrMXsE:2016/04/03(日) 02:26:48 ID:ZyF93Qrk0




         【――――そして霹靂なり。】



&nbsp;

22 ◆Xk9aOrMXsE:2016/04/03(日) 02:28:41 ID:ZyF93Qrk0
          《骨》


              バキ…ッ

それはもっとも不思議な物質ではなかろうか。


幾重も承ければ気が済むのか、と思うほど庇護し甘やかされているくせに、
生物としてしぶとく最後に遺るのもやはり骨である。

     ガリッ  
命あるもの、脆い部分を補うために年月をかけて進化し、
わずかでも生き残るべく護る術を獲得する。
            ペキョ  
            ボリ  
毛髪、鱗、肉、殻、
    神経筋、爪、関節、皮、毒、
メ       網膜、粘液、糞、脂肪……。

ャ゛
そうまでして護り、遺される骨は果たして何者になるのだろうか。



       パ キ ッ
(* ω *)

( ∵)


いままさに少女が踏み潰す、
珊瑚の死骸でできた地平を眺めながらぼんやりと考えてしまう。

23 ◆Xk9aOrMXsE:2016/04/03(日) 02:30:03 ID:ZyF93Qrk0
ざりざりと摩擦し、ばきぼきと圧する音が静寂に唯一轟く。
その都度、私の思考の隙間をすり抜けていくようだ。



(* ω  *)     グリュ  ――パギ  

( ∵) 『…歩き疲れたか?』



"(ω 三  * ω)"



…小さな小さな歩みは止めず、少女はしかし俯き、
出発時に受け取った麦わら帽子をながら弄んでいた。
あの男が子供のころから使っていたらしく、経年劣化と災害痕によって
ところどころ傷みが目についた。


サンダルの踏み抜く衝撃は弱々しく、それでもY字の死骸はびくんと跳ねてしまう。
アーチを描き、あらぬ方に跳んでいくところをみるに
こうして潰されることを是とする存在ではないらしい。

少女はくしゃりと両端に力をこめ、天から顔を隠した。


(* ω *) 『……ここ、こわいっぽ』


見渡す限り敷き詰められた珊瑚たちも、
風化しきれずまさかこのような形で後世に晒されるとは思いもしなかったろう。

24 ◆Xk9aOrMXsE:2016/04/03(日) 02:31:35 ID:ZyF93Qrk0
( ∵) 『……』


「これはなあに?」と問われた際、ありのまま答えたのは失敗だったのかもしれない。
死を踏みにじる尊厳を、まさかこの年齢で持っているとは私も思わなかった。

元来、人は幼少期にこそ理性の欠落が著しい生き物だ。


( ∵) 『この珊瑚たちはかつて海に生息して、環境管理の力をもっていた。
言い換えれば世界をコントロールするほどの力を持っていたほどに』

(*‘ ω ) 「……すごそうだっぽ」

( ∵) 『そうだな』

(*‘ω ) 「……なのに、死んじゃったっぽ?」

( ∵) 『彼らは長い間、栄養と休息を取り上げられていた』

(*‘ω ) 「…タイダルウェーブのせい?」

( ∵) 『それよりもずっと前。
君のおとさんが生まれるよりも、人間がたくさんいた時代に』


人は成長してやっと理性を得る。
同じ人間同士はもちろん、同種以外に対する排他的活動を抑えるということをデータとして組み込まれている。

――はずなのに、再び理性を欠如する成長期が人間には存在する。
正しくは理性を保ちながら他生物を排他する、高度な残虐性を身に付けてしまうのだといえよう。


( ∵)


そこまで考えて…。
私は少女を急かしてその場をあとにした。

特に否定はされなかった。
彼女もかつての命を踏みにじりたくなかったのだと思った。



&nbsp;

25 ◆Xk9aOrMXsE:2016/04/03(日) 02:34:56 ID:ZyF93Qrk0
          《腐》



屍を越えた先は、綺麗な曲線を描く地平線に迎えられる。


わずかに盛り上がる地は二つ。
行く先と並列して、さらに高い隆起を築く人工物の群れが寄り添っている。

それを横目に丘へと足を踏み入れた途端、少女が鼻をつまみ、愛くるしい顔を醜く歪めた。


((*;;゜ω‘゜*)) 「くっっっっっさ!!」

( ∵) 『……いま、すごい顔したな』

(*;;゜ω‘*) 「な、…なんだっぽ、これ〜〜〜???」

26 ◆Xk9aOrMXsE:2016/04/03(日) 02:39:10 ID:ZyF93Qrk0
散らばり、重なる『ゴミだ』った。 ( ∵)

おうむ返しに問う「ごみ…?」の声と、 (*;;‘ω‘ *)
私のどこかでなにかが軋む音がした。



それは長期間、塩水に浸され腐蝕した鉄や塩素ビニール、廃材…、
更に紛れて打ち上げられている人の骸。


(*;;‘ω‘ *) 「こんなニオイ、はじめてだっぽ〜〜…」

( ∵) 『…上がろう。 頂上まで登れば少しはマシかもしれない』

(*;;‘ω‘ *) 「わかったっぽ〜」


素直な少女がえっほえっほと丘を駆け昇り、腐臭の元から離脱する。
目線の下にゴミを置き去りにしたおかげで、
私ですら周囲を囲み沈んでいた空気が鮮度を取り戻していくのを感じる。


幸い少女は気付いていない。
ゴミが果たしてどんな存在か……教えられなければ、どうやら骸を人とも判別できていないらしい。

――少女とて死ねば同様の、ゴミにまざり奇跡のバランスで掲げられるあの腕の持ち主と同じく
骨と血肉の塊でしかないことを知らないのだ。


(*;‘ω‘ *) 「なにか拾えそうなものを探したかったっぽ」

( ∵) 『やめておきなさい』

27 ◆Xk9aOrMXsE:2016/04/03(日) 02:40:23 ID:ZyF93Qrk0
珊瑚と違い、これらのゴミには微生物が付着する。

死してなお蹂躙されるのとは違う。
体内ガスや乾燥した骨髄液、
タンパク質や分解寸前のアミノ酸を餌に釣られ、それらは集まってくる。


(*;; >ω< *) 「はぁはぁ…… あ〜、苦しいっぽ〜〜!
疲れたっぽ〜〜!!」

( ∵) 『急に走るのは苦労しそうだな』

(*‘ω‘ ;*)σ 「君はずるいっぽ!」
ハァ…ハァ

( ∵) 『……は?』

     ハァ…
(*‘ω‘ ;*) 「わたしが持ってあげてるからって楽してるっぽよ〜!」
ハァ…

( ∵) 『……』

( ∵) 『ならば棄てていくか?』

(*‘ω‘ ;*) 「……っぽ…?」

28 ◆Xk9aOrMXsE:2016/04/03(日) 02:44:31 ID:ZyF93Qrk0
( ∵) 『棄てるならば、さっきの場所に私を放り投げれば終わりだ。
私は自分の力で動くことはできないし、生殺与奪は君にある』

(*‘ω‘ ;*) 「……」

( ∵) 『任せるよ』


(*‘ω‘ ;*) 「…」


(*‘ω‘ *) 「どうして急にそんなこと言うんだっぽ」


( ∵)



(*‘ω‘ *)



(*‘ω‘ *) 「……ごめんなさいだっぽ…」


( ∵)


( ∵) 『…………、いや』

29 ◆Xk9aOrMXsE:2016/04/03(日) 02:48:16 ID:ZyF93Qrk0
この時、そもそも少女が本気で文句を言ったなどとは私も思っていない。
しかしデータとしてではなく…ゴミを間近に見てしまったこの心に射し込んだのは、
黒砂糖の溶液にも似るドロリとした感傷だった。


( ∵) 『…私も冗談のつもりだった、すまない』


(* ω *)


( ∵) 『……』


(* ω *) 「………ふん、だっぽ」


( ∵)


( ∵) 『…泣き止んだら、行こうか』

30 ◆Xk9aOrMXsE:2016/04/03(日) 02:49:29 ID:ZyF93Qrk0
ごしごしと目蓋をこする少女と共に、私は再び道なき道を往く。


私こそ棄てられたいわけではないのに、どうしてあんなことを言ってしまったのか…。
我ながら理解しがたい言動に出てしまったと思う。


しいて理由を挙げるならば。
ゴミは私たちの遠くない未来でもあり、
あの場所にはひょっとして私の母が含まれていても可笑しくなかった。

私は少女のために降臨したが、少女に否定されてしまえばそこで絶える命でもある。



どうせ死ぬならば、仲間と呼べるものたちの墓標に辿り着きたかったのかもしれない。


どうせなら消える前に、なにかの役に立ちたいのだ。



&nbsp;

31 ◆Xk9aOrMXsE:2016/04/03(日) 03:42:25 ID:8B9MCnIc0
          《命》




(*‘ω‘ *) 「ふえぇ〜〜〜、すごいっぽお〜!」

( ∵) 『だいぶ登ってきたな』


一面、陽に焼けた山の上に、いま私たちは立っている。
休憩がてら少女の手を離れて立たされたこの身も、ガラになく高揚しているのが判った。


ヾ(*‘ω‘ *) 「ぽっぽっぽ〜〜〜♪」


              (∵ )


(*‘ω‘ *)ノ" 「ちんぽっぽ〜〜〜〜〜♪」


特に少女の昂りは大きい。
それまで家から歩ける範囲といえばどこまでも平らで、行き止まりは海が作っていた。
どこまでも続くと思わせる山の雄大さに、私から見てもその小さな身体が吸い込まれてしまいそうだ。


( ∵) 『ここは…一度も水が来ていないのか』

(*‘ω‘ *) 「ぽ?」

( ∵) 『みてごらん、この土を』

32 ◆Xk9aOrMXsE:2016/04/03(日) 03:50:06 ID:Y6mGvU8M0
私は指なき指で地をさし、少女も素直にそれに従ってくれた。

…そこには草が生えている。
緑素は薄く、目を凝らさなければ見逃しそうなほどに小さな草木の芽生えではあるが。


(*‘ω‘ *) 「?? なにこれ??」

( ∵) 『名前はないようだ。 少なくとも、世界が海に埋まる前には……歓迎されにくい存在ではあった』

33 ◆Xk9aOrMXsE:2016/04/03(日) 03:55:01 ID:Y6mGvU8M0
――――人間には、と付け加えるのは思いとどまった。



草はわずかではあるが酸素を生み、二酸化酸素を吸収する。

枯れてしまえば取り込んだはずの元素を再び放出してしまうような、
満足に用を足せない微弱な存在ではあるが、
生き物のなかにはこれを直接取り込むことで養分にもする、
樹木と並び重要視されるべき隣人だ。

しかし、人間はそれを身勝手な尺度で刈り取っていた。
思惑に外れたそれらに対し、在ってはならぬと弾し、雑草の烙印を押し付けては命を刈り取っていた。


自分たちの役に立たなければ無価値と断ずる横暴がまかり通るそんな世界を、星が赦すはずもない。



(*‘ω‘ *) 「んん〜〜」


(*^ω^*) 「なんだか可愛いっぽね」


( ∵)

34 ◆Xk9aOrMXsE:2016/04/03(日) 03:58:44 ID:Y6mGvU8M0
人類とて原始に還れば、
少女のようにこうして在るだけで迎え入れてくれる心を失くしはしなかったのかもしれない。

種の成長期……どこかで「隣人を愛せよ」と声高らかに放たれた言葉の、なんと狭量な解釈か。


( ∵) 『…意外な発見だが、これで合点もいく』

(*‘ω‘ *) 「?」

( ∵) 『タイダルウェーブはあまりに強大だった。
だが人類は君のように少なからず生き延びているだろう?』

( ∵) 『すべてが流されているなら、君たちは生き残ったところで間もなく死滅しているはずなんだ。
呼吸さえ赦されることなく』

(*‘ω‘ *) 「…」


……なのにこうして生きている。


( ∵) 『まだ完全に見捨てられていないということだ。 君も、私も』


(*‘ω‘ *)



(*‘ω‘ *)



( ∵) 『……、どうした?』





(*うω *)

35 ◆Xk9aOrMXsE:2016/04/03(日) 04:16:22 ID:Y6mGvU8M0
"(*うω‘ *) 「…わたしもよくわからないっぽ」


少女は瞳にうっすらと涙を浮かべている。


( ∵) 『私にも分からないな。 なにを急に――』

(*‘ω‘ *) 「………なんだかよく判らないけど、ドキドキするんだっぽ」

( ∵)

(*‘ω‘ *) 「わたしとおとさん以外にも、人がどこかにいるのっぽ?」

( ∵) 『……残念ながら根拠はない。
だが、可能性としては考えられるという意味だ』

(*‘ω‘ *) 「……」

(*‘ω‘ *) 「おとさんと暮らしてるあいだ、ずっと話してたんだっぽ」

(*‘ω‘ *) 「みんな、帰ってきたらいいのにって」


…そういえば、と思い出す。
私と出会ったその日も、少女は男と言葉を交わしていた。
てっきり無知、無垢ゆえの発言だと思っていたのだが……。


(*‘ω‘ *) 「おとさんもね、はじめは違ったんだっぽ。
みんな津波にさらわれた。もうかえってこれないんだよ…って」

( ∵)

(*‘ω‘ *) 「おとさんが子供の頃、タイダルウェーブが起きたって言ってた。
目の前でおとさんの…おじさんとおばさんも消えちゃったって」

&nbsp;

36 ◆Xk9aOrMXsE:2016/04/03(日) 04:26:03 ID:Y6mGvU8M0
三日間。


それがタイダルウェーブによる世界変動にかかった時間だといわれている。
自然界が寡黙に、粛々と、結託して人類を洗い流すために与えられた審判の刻。


歴史に関しては、ダウンロードされている私のこの記憶に誤りは恐らくない。
理解すらされずに斬り刻まれ、幾多もの生命が散った現実だ。


それはちょうど私の母――と、形容するのが正しいかはもはや分からないが――が死んでしまった時だった。
人類が生み出し、過不足として間引き殺された日。



(*‘ω‘ *) 「おとさんも、危なかったらしいっぽ。
そのときずっと持ってたのがこの――

(*‘ω‘ *)つ(Ж)  ――麦わら帽子って言ってたぽよ」


( ∵)


(*‘ω‘ *) 「だから、……だからわたし、言ってあげたんだぽ」

37 ◆Xk9aOrMXsE:2016/04/03(日) 04:31:16 ID:Y6mGvU8M0




       「おとさん、大丈夫!
        おとさんが元気なら、おじさんおばさんも
        どこかにいるはずだっぽ!」



&nbsp;

38 ◆Xk9aOrMXsE:2016/04/03(日) 04:34:03 ID:Y6mGvU8M0


(* ω *) 「……わたしね、おとさんの本当の子じゃないんだっぽ。
でも、いつのまにかおとさんと暮らしてたから、おとさんって呼んでるっぽよ」


( ∵) 『…』



(* ω *) 「おとさん、だんだん変わってきたっぽ。
わたしと一緒にあそんだり、わたしのことを好きっていってくれるようになったんだっぽ」





(* ω *) 「だからいつか二人で、おじさんおばさん、おかさんを捜しにいこうって……」





( ∵)

39 ◆Xk9aOrMXsE:2016/04/03(日) 04:35:13 ID:Y6mGvU8M0











(*;ω; *) 「……二人でいごうっで、約束じでだのにぃ…………」



&nbsp;

40 ◆Xk9aOrMXsE:2016/04/03(日) 04:38:26 ID:Y6mGvU8M0





少女たちも、




( ∵)





我々と、同じなのだ。





( ∵)





なぜ、存在はいつのまにか否定しあうのだろう?

&nbsp;

41 ◆Xk9aOrMXsE:2016/04/03(日) 04:40:59 ID:Y6mGvU8M0


       ――この世のあらゆる生き物は、
       むざむざと殺し、殺されるために

       この《命》を授けられたとでもいうのか。


&nbsp;

42 ◆Xk9aOrMXsE:2016/04/03(日) 04:41:48 ID:Y6mGvU8M0



&nbsp;

43 ◆Xk9aOrMXsE:2016/04/03(日) 04:42:38 ID:Y6mGvU8M0




         【しかし所により――――】



&nbsp;

44 ◆Xk9aOrMXsE:2016/04/03(日) 04:44:11 ID:Y6mGvU8M0
眠いので起きたら続きます
それで終わりです

45 ◆Xk9aOrMXsE:2016/04/03(日) 15:55:43 ID:lsIyktW60
          《灯》



……間もなく夜が訪れようとしている。
あれ以来、少女は行く先々で見たことのないものを見付けるたび、私に尋ねてくるようになった。


《柱》、《夢》、《器》…いずれも人間が造りだした概念的アートの数々。
その片鱗を覗かせ、しかし今となっては例外なく死と毒を醸した結末を散見させる。



人工物の凡てが悪であったとは言い切れない。

だが人の天寿は100年足らず。
自然界に君臨させるためのサイクルとしてはあまりに短命で、
それゆえ惑星からみた彼らは、余りにも拙い観点でしか物事を視ることの出来ない生物の種だった。



(*‘ω‘ *)σ 「あれはなにぽよ〜?」

( ∵) 『…珍しいな、【灯り】だ』


もう何度目になるかわからない、少女が首をかしげる仕草。


( ∵) 『昔は太陽が隠れる時間があったんだよ』

(*‘ω‘ *) 「?? このお空で、どこに隠れるところがあるんだっぽ」

( ∵) 『星には軸があって、ぐるくると廻るものだ。
その一つの星をいくつもの星が囲み、同じようにまた各々も廻っている』

46 ◆Xk9aOrMXsE:2016/04/03(日) 16:00:15 ID:lsIyktW60
灯は、闇に対抗するために人類が造り出した最初の発明と伝えられている。
用途こそ豊富な標があるも、まず必要とされたのは光を生み出す行為だったのだ。


( ∵) 『だからこの星も…――』

(*‘ω‘ *) 「そういえば、こんなに暗くなったのははじめてだっぽ〜」

( ∵)



( ∵) 『――……そういえば、おかしい』


タイダルウェーブは地軸にも影響を与えている。
夜というものがなくなったこの世界では、強弱の差こそあれど常に太陽光が天空を支配していたはずだ。

私は改めて見渡してみる。
辺りは薄暗く、こうしている間にも明度が下がり続けているのがわかった。


(*‘ω‘ *) 「どこだっぽ〜」

( ∵) 『…、ここだ、こっちに来るんだ』


近くにいるはずの少女が私を見失い始める。
みるみるうちに闇が堕ち、代わりに遠くの灯が輝いている気がした。

47 ◆Xk9aOrMXsE:2016/04/03(日) 16:01:37 ID:lsIyktW60
(*;‘ω‘ *) 「こわいっぽ〜…」

( ∵) 『私をはなすなよ』


手探りの少女が私を掴んだことに安堵し、同時にその震えも伝わってくる。


私には視力というものが与えられていない。
とはいえ人間とは認識の違いがあるだけで、似たような世界を感じ取っているはずだ。
そのため、色彩や明暗による情報を誤感知することはない。






    ( ∵) 『……』 (*;‘ω‘ *)





沈黙はしばらく続いた。
少女こそ怖れに身を縛られているのだろうが、それを慰められぬと私いえば暇をもて余してしまう。
闇を畏れるのは人間だけだ。


( ∵) 『大丈夫か?』

(*‘ω‘ ;*) 「……灯」

( ∵) 『そうだな、そっちを見ていればいい』


そう伝えて、なんとなく…私は意識を後ろに向けた。

灯が怖いという意味では勿論ない。
ただ本当になんとなく振り向いた。

48 ◆Xk9aOrMXsE:2016/04/03(日) 16:03:24 ID:lsIyktW60
失礼。>>47は↓に書き直します


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