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('A`)巣作りドックンのようです

30 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 19:07:15 ID:.5wg0tsI0


( ∴)( ∴)( ∴)( ∵)( ∵)( ∵)( ∴)( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)
( ∵)( ∵)( ∵)( ∴)( ∵)( ∵)( ∵)( ∴)( ∵)( ∵)( ∵)
( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)( ∴)( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)
( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)
( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)
( ∴)( ∴)( ∴)( ∵)( ∵)( ∵)( ∴)( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)
( ∵)( ∵)( ∵)( ∴)( ∵)( ∵)( ∵)( ∴)( ∵)( ∵)( ∵)
( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)( ∴)( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)
( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)
( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)

31 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 19:07:59 ID:.5wg0tsI0

気づけば、無数の小さな魔物たちが灰竜の体に群がっていた。
くすんだ灰色を覆い尽くす白い顔、顔、顔。
哀れな獲物に向けていくつもの歯が一気につきたてられる。


(#゚A゚)「――――っ!!!」


大陸を南北に縦断する大山脈――黒の領域。
そこに踏み込むヒトはめったにいない。

山は竜と魔物の領域である。
そこに住む魔物は、人里で見られるような物とは格が違う。
一歩でも踏み込めばたちまち、死が訪れる。

そして、それはそこに暮らす魔物や竜にとても同じ。
他者の縄張りに迂闊に入れば、食うか食われるかのどちらかなのである。


(#゚A゚)「……ぜ、は」


高く飛び上がり、すぐに急降下。
それを何度も繰り返しながら、ひたすらに飛ぶ。
自分が今どこを飛んでいるのかもわからない。
ただ、その場所から離れなければならないという本能だけで彼は飛び続ける。

32 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 19:08:48 ID:.5wg0tsI0


( ∵)


群れを作るのは、単体では弱い生物であることが多い。
数が減ってしまえばそう脅威ではない。

急降下するたびに、小さな体が一つ、二つと振り落とされていく。
灰色の体を覆い尽くしていた白い体が一つ減り、二つ減り……
それが全てなくなる頃には、彼は再び巨大な山脈を超えていた。


(;'A`)「は、……あ」

33 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 19:50:04 ID:.5wg0tsI0

気づけば、彼の目の前には平らな大地が広がっていた。
大陸の西側。ケーイブン王国に似ているが、空気の匂いが違う。
広がる森はより深く、その合間にぽつりぽつりと狭い川や低い山々、木造の集落が見える。


('A`)「……こっちは西側か?」


山脈と太陽の向きからして、大陸の西側に来てしまったらしい。
彼は周囲を見渡して、休めそうな場所を探す。
寒さと暑さが適度にしのげて、天敵が来ない場所。エサが豊富ならばなおいい。
そんな場所で休めれば。さらに巣を構えられれば、当面の間は安泰だ。

('A`)「竜も魔物の気配もないし……よさそうだなぁ」


(#゚;;-゚)「……竜?」

(*゚∀゚)「ほんとだ。めずらしいこともあるもんだなぁ」


飛び交う鳥の中に、竜や魔物の姿はない。
時折、彼の視界に入る獣は大人しい獣ばかり。
ヒトの姿も時折見えるが、こちらに攻撃をしようとしてくる者もいない。


('∀`)「ヒトも多くないし、こっちに住むか」

34 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 19:50:40 ID:.5wg0tsI0

彼は完全に油断していた。

新たな住処を見つけるということは、そもそも先に住んでいた者たちを追い出すことでもある。
追い出される側が黙って出て行くのならいいが、大抵の場合はそう上手くいかない。
なぜなら、居場所を守るために戦う者の方が圧倒的に多いからだ。

――そんな当然のことを、巣立ったばかりの彼はまだ学んでいなかった。
相手がヒトや獣だから意識をしていなかっただけかもしれない。
しかし、どちらにしてもそれは彼にとっての致命的なミスであった。


('∀`)「こっちは岩山多いし、住み心地はよさそうだなぁ」


彼は飛び回り、やがて目についた山の岩棚に横たわった。
ここで傷を治し、それから巣を作る……つもりであった。

35 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 19:51:53 ID:.5wg0tsI0

(-A-).。oO

(´・ω・`)「……よく寝ています。
      この時期と大きさからして、群れを持たないはぐれ竜かと」

( ´∀`)「それは好都合モナ。群れだったら厄介だった」


月のないその夜。
竜の休む岩棚に、幾つものヒトの姿があった。
声を潜めたヒト――獣人たちは、その手にいくつも武器を持っていた。


( ´∀`)「竜を捕らえよ! 血の一滴、ウロコ一枚も逃すんじゃない。
      ウロコは防具。血は長寿の妙薬。心臓は無限の力と魔力を生むモナ。余すところ無く素材になると思え!」

ミ,,゚Д゚彡「っしゃー! 一番槍はフサだから!」

<ヽ`∀´>「ウェーハハハハ。高そうな部位はウリのものニダ!」

(=゚ω゚)ノ「魔術と鎖で拘束したら一気にかかるんだょぅ!」


それは竜殺しの一団であった。
竜を殺し、その体を素材として手に入れる狩人たちの部隊。
飛ぶ竜を見たと情報を得た彼らは、危険の排除と獲物を求めてここまで来た。

36 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 19:52:26 ID:.5wg0tsI0

東の国の兵士とは違い、竜殺したちの数はそれほど多くない。
しかし、その一人ひとりがかなりの練度をもった強者である。
手にした武器も、一つ一つが竜を狩るためだけに生みだされ、洗練されている。


(;゚A゚)「な、なんだ!?」


――そして、鎖で拘束される瞬間、竜は目を覚ました。
彼の体はすでに魔力で拘束されている。
しかし、かろうじて物理的な拘束はまだされていなかった。


(#'A`)「はずれろっ!!!」

ミ,,゚Д゚彡「暴れるぞ! 鎖早くっ!」

(;=゚ω゚)ノ「ちょ、間に合わな」


それが彼にとって幸いした。
灰竜が大きく吠えると、魔力による拘束はあっさりとほどける。

37 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 19:53:34 ID:.5wg0tsI0


(;´・ω・`)「……眠り薬が効いてない?」

(#´∀`)「体勢を立て直せ。攻撃が来るモナ!」


体を二度、三度大きく震わせ、彼は自分が自由になったことを確認する。
自分にまとわりつく獣人たちを、尾で打ち払う。
それでも、獣人達は武器を手に飛びかかってくる。


(;'A`)「くそっ、なんだよこれ!!」


爪と尾で蹂躙していくが、攻撃は止まない。
彼らは攻撃を切らしたら最期だと思っているのか、倒してもすぐに立ち上がってくる。


<ヽ`∀´>「ウリの斧はこんなモンじゃないニダ!」

(#´∀`)「負傷者は後方へ、回復薬と強化薬は惜しまず使うモナ」

ミ,,#゚Д゚彡「ありったけの拘束具もってこいだからっっ!!」


一撃、二撃……ヒトたちの武器が、竜の体に襲いかかる。
硬いウロコはほとんどの攻撃を防ぐが、治りきっていない傷口をいくつもの槍や剣がかすめ、傷つけていく。

38 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 19:54:34 ID:.5wg0tsI0


(#'A`)「くっ、ここもダメか」


ヒトを振り払い、彼は大きく飛び上がる。
向けられる弓や魔力弾に撃たれながら、彼はよろよろと飛び立っていく。


(;'A`)「どこに行けば、いいんだよ」


ヒトの領域に留まっていたら、殺される。
とは言え、黒の領域はもっとダメだ。
あの竜の群れたちに今度鉢合わせたら生きてはいけないし、凶悪な魔物に襲われたことだって忘れられない。
長年過ごした巣にも、もう戻れない。


(;'A`)「……海」


彼にはもう居場所はない。――となれば、海を渡り安住の地を探すしか道はなかった。

39 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 19:56:37 ID:.5wg0tsI0
_ _ _ _ _ _ _ _ _ __________________________
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄


――そして、たどり着いたのが、この毒の大地である。

竜もヒトも魔物もいない北の大地。
黒の領域と海に四方を囲まれ、孤立した半島。
水と大地は毒で汚され、大気は瘴気に満ち植物すらも根付かない。


('A`)「そうだ、ここに巣を作ろう」


生き物の姿はどこにも見えない。
灰竜は建物の残骸――廃墟で数日体を横たえた。そして、全身の傷を癒やした彼は、決心した。
天敵のいないこの場所を、己の安住の地にしようと。


('A`)「陰気だけど、敵がいないのが一番だ」


竜は頑丈さが取り柄の種族である。
普通ならば即座に死に至る毒や瘴気でも、さしてダメージを受けない。
毒は手足に少し染みる程度、病をもたらす瘴気は不味い空気程度にしかならない。


('A`)「魔力だけはアホみたいにあるから、取り込んどけばメシ食わなくてもいけるだろ。
   ダメでも掘り返せば、食えそうな鉱物もあるし」

40 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 19:58:21 ID:.5wg0tsI0

環境は悪いが、住む場所としては申し分ない。
それに何より、目の前にある巨大な建築物の廃墟が気に入った。

地上部分は残骸にしか見えなかったが、地下は頑丈である。
キラキラとした宝石や宝物が転がっており、直せばまだ使えそうだ。
触ると炎を出す岩なんていう、トラップを作るのにも丁度よさそうなものが大量にあるのもいい。


(*'A`)「すげぇ。これなら何だって作れるぞ」


彼はさっそく巣を作りはじめた。
それからの暮らしは、これまでの旅路に比べると遥かに快適だった。
何より敵に怯える必要も、食べ物に困る心配もない。
瘴気と毒という問題はあったが、慣れてさえしまえばそれも問題なかった。

はじめは簡単な寝床と、万が一に備えて敵の侵入を防ぐ仕掛けを作る程度のつもりだった。
しかし、それだけでは彼は満足しなかった。


('A`)「中は当然、迷路にするとして……どうせなら謎を解いたら進める仕組みとか作りたいよな」

41 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 19:59:47 ID:.5wg0tsI0

(*'A`)┘「せっかくだから、あの石を配置して火の出るトラップとかも作って。
      あ、落とし穴。それからキレイな石がいっぱいあるからその置き場も作ろう」

('∀`)「ここに石像置いて、それをここに置けば火が止まる仕組みにして……
    休憩用の場所を作って……それから、移動用の魔法陣も」


もともと、巣を広げることに興味があった彼だ。
安全で自由にできる場所があり、他にやらなければいけないこともないとなると、巣作りに熱中するのは道理であった。

休む時間どころか、寝る時間さえも取らずに彼は働き続けた。
はじめは廃墟を改良し、それがある程度済んでしまったら、今度は己の爪で岩盤を掘り進める。
落とし穴、罠、宝物庫、謎解き……思いつくものを彼は片っ端から作った。


(*'∀`)「あと試してないの何だ? どうせなら、できるだけ作ろう……」


――そして、彼は作り続け……満足する頃、彼の巣は地下50階にも届く大迷宮と化していた。

42 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 20:01:25 ID:.5wg0tsI0


(*'A`)「いやー、働いた働いた」


複雑に入り組んだ巨大な迷宮を進んだ、最下層。
水晶の柱が乱立する大空洞を、彼は寝床に選んだ。

天井は高く、魔力を大量に含んだ水晶が、青い光を放っている。
彼が寝起きに使っている小高い場所以外はごく浅い水で覆われ、静かな水面は大空洞の中を映し出している。
そこで彼は、満足そうに息をついた。


(*'A`)「いやー、できたできた」

('A`)「魔力うめーし、狩りしないでいいとかすばらしすぎる」

('A`)「俺、ずっとここで引きこもって暮らすわ」


彼はとうとう自分の巣を手に入れた。
しかし、そうなるとやることがなくなるのも事実である。
はじめのうちはひたすら寝て過ごした彼であるが、やがてそれにも飽きてきた。

43 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 20:02:57 ID:.5wg0tsI0

('A`)「……こんな巣作れる俺ってスゲーすごくね。ね?」


何をしゃべっても、応える声は無い。
――竜は本来ならば、群れで暮らす生き物だ。
知性がある彼らは、群れの中では常に会話を交わすのが常だ。
それが、今ではひとりぼっち。孤独に耐えられなくなってもおかしくない。


('A`)「だれかこねーかな。嫁さんになってくれるメスとか……」


    @@@
   @#_、_@ 
    (  ノ`)


(;'A`)「……やっぱ、メスはやめとこう。竜こわい竜」


脳裏に浮かんだ想像を、彼はあわてて打ち消した。
群れにいる竜――特に女王の怖さは嫌というほど味わった。
とはいえ、群れを持たない竜がどこに居るのかもわからない。
となると、竜はダメだ。

44 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 20:04:42 ID:.5wg0tsI0

   ξ゚⊿゚)ξ


(*'A`)「そういえば、あの人間かわいいし、いい匂いだったなぁ」


考えこんだ彼の脳裏に、一人の人間の姿が浮かぶ。
東の大国の城にいた少女。目があっただけだが、彼女は可愛らしかった。
そして、彼女は人間。群れてさえいなければ、恐ろしい種族ではない。


(*'∀`)「そうだ! 人間をさらってお嫁さんにすればいいんだ!」


そして辿り着いた考えは、名案そのものだった。
灰竜の産まれた群れにいた、父竜の一匹は先祖に人間がいたらしい。
彼自身は他の血が混ざらない純粋な竜だが、竜と人間が結ばれるのはおかしな話ではない。


(*'A`)「どうして、今まで思いつかなかったんだ!」


喜びのあまり、彼は地面を転げまわる。
どうしてこれまで思いつかなかったのか。
もっと早く思いついていれば、今頃こんな虚しさを味あわなくてもよかったのに、と。


(*'∀`)「こうなったら、さっさと攫って来ないと!」


興奮がひとしきり収まると、彼は決心した。
自分がこうして巣を作ったのは、この安全な巣で人間と結婚するために違いない。
そうとなったら今すぐ行動だ。と、攫われる人間にとってはまったくありがたくない決意を彼はした。

45 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 20:06:27 ID:.5wg0tsI0

┌(*'A`)」「よーし待ってろ、俺のお嫁さん!!」

(    )「……竜?」


――そして、羽ばたこうとした彼の体は、ぴたりと止まった。

誰も居ないはずの彼の巣に、何かがいる。
完璧に作り上げたはずの巣にどうして、侵入者が?
慌てて探してみれば、ねぐらの入り口に、二本足の生き物が立っていた。


( ・∀・)


その姿は、東や西の国に多くいた人間と呼ばれる種族に似ている。
しかし、その姿はいささか妙だった。


(;'A`)「……ニンゲン? いや、魔物……?」

46 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 20:08:19 ID:.5wg0tsI0

鉄のような血の匂いが鼻を突く。
距離があるので傷口までは見えないが、衣服はいたるところで引き裂かれ血で染まっていた。
口元を吊り上げた、笑っているかのような表情。
これがメスであったらまだ喜ばしかったが、竜にとっては残念なことに、性別はオス――男だった。


( ・∀・)「何でこんなところに竜が? ……まあ、いいや」


大空洞に声が響いた。
その体からぽたりぽたりと落ちる雫が、大空洞に貯まる水面に落ちる。
並の生き物ならば死ぬほどの量の血に濡れて、それは動く。

魔物の中には生ける屍といったたぐいもいる。
もしかして、これもそのたぐいだろうか? そう思ってしまう程、それは異様な光景だった。


(;'A`)「嘘だろ!? あれだけ罠を仕掛けたのに」


あまりにも場違いな男の姿に止まっていた彼の思考が、一気に動き始める。
最下層までたどり着く者がいるということを、彼は全く考えていなかった。
それほどまでに彼は自分の巣に愛着と自信を持っていた。

しかし、それもあっさりと破られた。
――地下50階の迷宮を乗り越え、侵入者がここにいる。

47 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 20:10:11 ID:.5wg0tsI0



( ・∀・)「竜なら、お前の心臓貰うわ」



そして、それは口を開いた。
手には、光を放つ剣が一振り。
その姿は男が灰竜の敵であることを告げていた。


(;゚A゚)「どうしてこうなったぁぁぁぁぁっ!!!!」

48 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 20:12:33 ID:.5wg0tsI0

視界から、人間の姿が消える。
そう思った瞬間には、もうその生き物は灰竜のすぐ眼前にいた。


(;゚A゚)「――っ!!」


慌てて尾を、鞭のように振るう。
風を切る音が鋭く響くが、何かに当たったという感触はない。


(;'A`)「空振りか」

( ・∀・)「そんな簡単にはいかないか」


尾の攻撃範囲より少し遠い位置から声が上がる。
返す尾で再び人間を狙うが、最初の一撃で攻撃範囲を読みきられたのか当たる気配がない。
それどころか、動きが止まった瞬間を狙って、接近される。


(;'A`)「――チィッ!」


背の翼を大きく振るう。
大して威力があるわけではないが、効果範囲だけは広い。
翼に当たらなくても、そこから生じた風が少しでも足止めになれば、しめたものだ。

49 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 20:14:16 ID:.5wg0tsI0

(  ∀ )「――っ」

(*'A`)「よしっ! 当たった!」


バシャバシャと、断続的に水が跳ね上がる音が響き大きな水しぶきが上がる。
見れば、灰竜からかなり離れた位置に倒れこむ人間の姿が見えた。
そこらの魔物ならびくともしないのだが……、人間という生き物はそこまで頑丈ではないのだろう。


(*'A`)(こいつ、もしかして弱い?)

( つ∀・)「――っう」


かすかな期待を込めて様子をみると、やがて人間は血の代わりに水を滴らせて立ち上がる。
さして怪我をした様子はないが、それでもその体は大きくふらついている。


(*'A`)(いける。勝てるっ――!)


これまで一方的に襲われた竜や魔物のような強さはない。
東や西のヒトたちは強かったが、あの時のように群れているわけではない。
ちょこまかとすばしっこいが、所詮は人間。一度潰してしまえば、それで終わる。

50 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 20:16:24 ID:.5wg0tsI0


(#'A`)「くらえっ!!」


息を吸い、エサとして体に貯めこんだ魔力をかき集める。
それを口の中へと集中させて、放つ。

轟々と音を立て、炎が燃え上る。
灰竜の吹いたそれが、大空洞を青から赤へと照らす。
向かう先は、未だにダメージの抜け切った様子のない人間の姿。


( ・∀・)「っ!」


灼熱の輝きが、男へと迫る。
それを見た男は、何を思ったか炎へと向かって突進を始めた。
走りながら男は首元へと手を伸ばす。

一体、何を――と、竜が思った時には、その姿は炎の輝きに巻き込まれて見えなくなった。


パシャリと、音が上る。
それから炎が大きく揺れ、何かが燃える気配がする。

51 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 20:18:19 ID:.5wg0tsI0


('A`)「やったか」


炎が弱まり、消える。
燃え尽きたのか、その跡には何もない。
何とか倒せた。ほっと息をついた竜は休養を取るべく目を瞑ろうとして、


(;'A`)「――っ!」


その瞬間、背筋を走る寒気に目を見開いた。
慌てて翼を自分の身へと引き寄せる。
なぜそうしたかはわからない。しかし、彼の本能がそうしろと囁いていた。

それと同時に、衝撃が走った。


(;'A`)「なっ!」

( ・∀・)「……しくじったか」


竜の体を守るように覆われた翼。その飛膜に激痛が走る。
彼にはどうしてそうなったのか、理解ができない。
ただわかるのは、行動が遅れていたのならば傷を受けるのは胴体だったということだけだ。

その事実が、彼の思考に火をつけた。

52 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 20:20:05 ID:.5wg0tsI0


(#゚A゚)「――るぁぁぁぁ、っぁぁぁぁぁぁ!!!」


怒りが、彼の体を駆け巡る。これほどひどい傷を、彼は受けたことがなかった。
翼を翻し、体を振るう。尾を地に叩きつける。
何だ。何が自分をこうした。痛い。何が自分を傷めつけた。
そして、振り回した腕が、手の鋭い爪が何か柔らかいものを捉える。


(  ∀ )「――っ!! ぁぁぁっ!」


何かが落ちる音。
かすかに聞こえた声。
そして、鼻を突く鮮やかな鉄の――血の匂いに、竜は我を取り戻した。


(#'A`)「るぁぁぁぁっ!」


音がした方に、首を思いっきり伸ばす。
そして、鋭い歯でそこにいる何かを噛み砕く――が、すでにそこにはもう何もいない。

53 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 20:22:36 ID:.5wg0tsI0


(#'A`)「お前……」

( ・∀・)「……上手くいったと思ったんだけど」


首を起こして見据えた先、血の匂いのする場所。そこに燃え尽きたはずの男が居る。

全身を真っ赤に染めた、人間。
口元を吊り上げた顔は、最初に見た時と変わらない何を考えているのかわからない表情。
そして、手には血で濡れた剣。

――ただ、最初に見た時には確かに存在したはずのもう片方の腕が、そこにはなかった。


( ・∀・)「持って行かれちゃったか。やっぱり竜は、何度戦ってもダメだな」

(#゚A゚)「お前、なんで……」

( ・∀・)「なんでって聞いて、答えると思う?」


目の前の相手が自分の翼を傷つけたのだと、竜ははっきりと理解した。
ヒトという種族は弱い。しかし、その弱さを補うために道具を使う。
武器、道具、何に使うのかよくわからないもの。目に見えるものもあれば、見えないものもある。
きっとそれで炎を避けて、見えないところから自分を襲ったに違いない。

54 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 20:24:12 ID:.5wg0tsI0

(#'A`)「……くそっ」


翼を動かす。
動かすには問題ないが、飛ぶのは難しいかもしれない。
しばらくすれば傷も治るだろうが、それまでは痛むだろう。


( ・∀・)「……」

(#'A`)「……」


灰竜は男を睨みつける。
残されたもう片方の腕に、剣を握っている。
あれがあの人間の牙であり、爪であり、炎だ。

華やかな装飾がなされた、輝きを持つ刀身。
柄頭には魔力の込められた魔石と、魔術的な守りのなされた鞘。


('A`)(……あの剣は嫌な感じがする)


その輝きに、竜は息を呑む。
これまで見たどの魔法や武器よりも、嫌な感じがする。
竜殺しの武器よりも遥かに強い――竜の本能に警告をもたらす何か。
あれはダメだ。あれは竜の守りよりも強く、危険なものだ。

55 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 20:26:04 ID:.5wg0tsI0

('A`)「……」


後ろ足に力を込め人間の接近に備える。
炎はすぐに吐けるように、尾はすぐに振るえるように。接近されれば牙を。
……それ以上、近づかれてしまえば相手の間合いだ。それだけは絶対に避けなければならない。


(#'A`)「……るぁ、」

( ・∀・)「へぇ。もう話す気はないの? ようやく話せるヤツが見つかったっていうのに残念だ」


たとえ強い牙をもっていようと、人間という種族は絶望的に弱い。
ましてや群れを作ってもいない、たった一匹。
牙は当たらなければ意味が無い、ならば絶対者である竜に敵うはずがないがないではないか。


(#'A`)「――ぅるがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


灰色のウロコを鈍く輝かせ、竜は絶対の自信を持って人間へ立ち向かった。

56 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 20:28:06 ID:.5wg0tsI0


(#'A`)「るあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


牙を繰り出し相手が怯んだところで、尾を振るいながら回転すれば、人間との距離が一気に離れる。
そこで炎を吐けば、近づく手段を失った人間は逃げるしかない。


( ・∀・)「くっ」

('A`)(いける)


炎が切れると同時に距離を詰めようと近づいてくる相手に、翼を振るう。
風を起こして牽制をすると同時に、翼の力を頼りに後方に向けて地を蹴って距離をとる。
翼は激しく痛むが、どうせすぐに治るのだ。多少は無理が効く。


('A`)(攻撃できなきゃ、コイツはたいしたことない)

( ・∀・)「たかが人間相手に逃げまわるなんて正気?」


男は完全に攻めあぐねている。
遠距離からの攻撃手段はもっていないのだろう。
竜の攻撃の隙を見て接近を企てるのだが、そのたびに翼や牙の攻撃を受け、何もできないまま距離を取る。
それを何度も繰り返している。

57 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 20:30:06 ID:.5wg0tsI0


( ・∀・)「竜は最強の種族だったんじゃないの? 情けないよ」

('A`) (ほざけ)

( ・∀・)「お前本当は、トカゲなんじゃない?」

('A`) (この下等種族が)

( ・∀・)つ「そんな翼でいつまで戦うつもりさ」


変わらない状況にじれたのか、人間の口数が多くなっている。
挑発のつもりなのだろう。
その言葉の合間に、剣を振るう動きを見せたが。竜は、距離を取ることに集中する。

―― 一撃。一撃でも当ててしまえば、この戦いは決着する。


(*'A`) (どうせお前は、俺には勝てない)

58 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 20:32:19 ID:.5wg0tsI0





どれだけの間、撃ちあっただろう。

人間からの攻撃は届かず、竜からの攻撃は回避される。
距離をとれば接近され、引き剥がすための攻撃は凌がれる。


(;'A`)(――っ、しぶとい)


吐いた炎が、天井から伸びる水晶に直撃する。
水晶がいくつもの破片とともに、水面へと降り注ぐ。
砕けた水晶の放つ光が、辺りを青く染めていく。

ようやく作り上げた竜の巣が無残にも破壊されていく。
静かだった水面は轟き荒れ狂い、何の姿も映し出さない。


(;'A`)(あいつどれだけ粘るんだよ)


男の動きは一向に変わらない。
避けるだけの変化のない戦いが、かなりの時間続いているのに、疲労する様子も見えない。
腕を失った傷からはかなりの血が流れているのに、それさえも目の前の人間はものともしない。

59 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 20:34:06 ID:.5wg0tsI0

( ・∀・)「……」


いや、むしろ有利になっていると言ってもいいだろう。
砕けた水晶の群れは、人間が身を潜める絶好の場所となり。
荒れた水面は、人間の居場所を映しださず。足音さえもかき消す。


(;'A`)「ちょこまかと」


どれだけやっても終りが見えない。
有利な状況は変わらず。それでも、決定的な瞬間が訪れないまま疲労だけが重なっていく。
翼の傷も、相変わらず痛かった。

――もういっそ、逃げるか? と、いう考えが竜の頭によぎる。
いままでのように逃げ出して、新たな地で暮らす。
巣はまた新しく作ればいい。

60 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 20:36:07 ID:.5wg0tsI0


('A`)「……できるかよ」


ここは散々やられた末に、やっとたどり着いた安住の地だ。
毒や瘴気まみれで環境は悪い。
それでもここは、彼が自らの力ではじめて作った巣なのだ。
ならば、絶対に守らなければならない。

大きく息を吸い、体中の魔力と熱を炎へと変えていく。
これまではすぐ吐いていた炎を口元に貯め、燃やし、より強い炎に変化させる。


(#'A`)「……ここは俺の巣だ!!!」

( ・∀・)「っ!」

61 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 20:38:34 ID:.5wg0tsI0


口内に溜めきれず、口元からから上る炎が、色を変えていく。
赤から橙、白。そして、その色がさらに変わり、青へ。


(#'A`)「……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ」


完全に青へと変わった炎を吐き出すべく、竜は大きく背をそらす。
そして、首を大きく振り下ろす


その、瞬間。


(#゚A゚)「がっ」


――どうしようもないほどの、熱と、痛みが尾へと走った。

62 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 20:40:43 ID:.5wg0tsI0


(#゚A゚)「なっ、」


炎が維持できず、掻き消える。
不発に終わった炎が体内を焼くが、あまりに些細な痛みだった。
尾が焼けるように熱い。


(#゚A゚)「――ぐっ」


尾をめちゃめちゃに振るうが、痛みは止まらない。
何かが刺さっている。きっとそれは、あの剣だ。
灰竜は痛みで知る。人間は自分の背後に――尾の、上にいる。

なにかが、尾をつたい動く。
翼に、腕がかかる。
見えないところで、何かが起きている。その状況は、竜に恐怖を呼び起こした。

63 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 20:42:25 ID:.5wg0tsI0

灰竜は、気づかなかった。


水晶の群れに紛れた人間が、己の背後へと回ったことに。
最大の攻撃がくると悟った男が、剣を鞘ごと竜の尾へと突き刺したことに。


( ・∀・)つ「……」


突き刺した鞘を、足場替わりにして男は跳躍する。
背を走る棘に足をかけ、そして翼に手をかけて体を引き上げる。
その向こうに見えたのは、無防備な竜の背。

その無防備な急所に向けて、男は剣を振るう。


(  ∀ )「……っ」


腕は一本。
片腕は翼を掴んだまま。だとしたら、剣は振るえない。
だけど、それでも攻撃をしようと思うのならば。


――口を使えばいいのだ。


柄を荒々しく噛みしめ、男は渾身の力で竜へぶつかった――。

64 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 20:44:16 ID:.5wg0tsI0



(# A )「――ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ!!!!」


ほとんどの敵に無敵の強度を誇っていたウロコが、硬い音をたてて砕ける。
その先の皮を、肉を、剣は貫いていく。


(  ∀ )「これは効いただろ」


男の渾身の一撃は、確実に竜の急所を討った。
吹き出した血が、男の体を赤く染めていく。
男はトドメをさすべく、剣を更に押しこむ。


( ・∀・)「死ねっ!!!」

(# A )「……」


竜の体勢が崩れる。
しかし、その程度で倒れるようならば竜は最強とは言われてはいない。

65 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 20:46:31 ID:.5wg0tsI0

竜の特徴は頑健なことだ。
毒や瘴気をものともしないだけではない。
そのウロコはほとんどの攻撃を防ぎ、その肉体は傷を受けても癒やしてしまう。
力のある竜であるならば、致命傷を受けてもすぐに癒やすこともあるという。


(#゚A゚)「ぐ、るぅ、る、るぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


灰竜の体が大きく跳ね上がる。
その背と尾の異物を振り払おうと、無茶苦茶に体を振る。
翼を何度も振り回し、攻撃を受けていない腕までもが無軌道に動き、全力で暴れ回る。


( ・∀・)「っ!」


――それに、人間が耐えられるはずがない。

どんなに強くても、ヒトは弱い種族である。
その中でも、最弱と呼ばれる人間は単純な力比べでは竜には勝てない。

66 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 20:47:55 ID:.5wg0tsI0


(; ・∀・)「――ぅ」


男は剣を離さなかった。
それでも剣が竜から抜けてしまえば、あとは振り落とされるだけだ。
腕は翼からほどけ、竜の背にぶつかりながらも、無様に転げ落ちていく。


(; ・∀・)「っ」


受けた衝撃に息をつまらせながら、男は立とうとした。
そして、――


(#゚A゚)「あ゙あ゙あ゙あぁぁぁぁぁっ!!! る゙ぁ゙ぁ゙ぁぁぁあ゙」


避けようもない距離にある、竜の尾を見た。

67 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 20:49:35 ID:.5wg0tsI0



.

68 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 20:51:01 ID:.5wg0tsI0


(;'A`)「……あ、」


灰竜が我に返った時、その人間には首から上がなかった。
正確には頭はあったが、体から離れて転がっていた。


(*'A`)「やった」


頭がなくても生きていける生き物はそう多くない。
たとえ竜の血を浴びて頑丈になっていたとしても、たかが知れている。
人間というのは弱い種族だ。どんなに頑丈だろうと、頭がなければ確実に生きてはいけない。
――つまり、あの人間は死んだのだ。


(*'∀`)「やった。やったぞ!!!」


そう理解した瞬間、竜は歓喜した。
自分は一人前の竜のように、縄張りと巣を守ったのだ。
これまでほとんどの戦いから逃げてきた彼にとって、それは初めて掴んだ勝利だと言えただろう。

69 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 20:52:56 ID:.5wg0tsI0


(*'∀`)「これならいつ嫁さんを迎えても大丈夫だな」


竜は翼を羽ばたかせ、鳴き声を上げる。
ついさっきまで痛みを訴えていた翼の傷も気づけば治っていた。
背と尾の傷も治さなければと、休息を取ろうとして――ふと、彼は気づく。


('A`)「あの危ない剣、どうにかしねぇと……」


アレがあるかぎり、さっきの人間のようなやつが出てくるかもしれない。
そうなる前に、なんとかあの剣を壊すなり捨てるなりしなければ……。

70 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 20:54:51 ID:.5wg0tsI0


('A`)「あ、れ?」


そして、見つけたそれを前に竜は首をひねった。
キラキラとした細工と形は、彼が宝物にしたいくらいに細やかで美しい。
しかし、それはあの人間が持っていたものではあるが、剣とは違った。


(;'A`)「おかしいな。なくしたか?」


それは、剣が収められていた鞘だった。
中にあるはずの剣はない。
あれは、確かあの人間が持っていたはず……


(#゚A゚)「っ!!!」


その瞬間、彼の本能は最大の警笛を上げた。
何がなんだかわからないままに、がむしゃらに腕を突き出す。

71名無しさん:2016/03/29(火) 20:56:00 ID:cfUPQXCE0
ほう…

72 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 20:56:52 ID:.5wg0tsI0


(  ∀ )「……う」


彼が腕をつきだした先、近すぎて普段はあまり視界に入らない胸元。
そこに、あの人間がいた。
口元から血を溢れさせ、見開かれた瞳には意識と理性の光は見えない。


(;゚A゚)「な、な」


片腕で血まみれの、人間の男。
離れていた首はつながり、それでも完全には治りきらずに血が溢れている。
そして、その手には探し求めていた剣が握られている。


(  ∀ )「……っあ」


その剣が向けられた先は、灰竜の胸元。心臓のあるあたり。しかし、その剣はまだ届いてはいない。
そして、彼のつきだした腕は、男の胸を貫いていた。

73 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 20:58:57 ID:.5wg0tsI0

竜の腕は、武器として振るうにはやや短い。
しかし、その爪は竜の持つ武器の中でも牙の次に鋭いものだ。


(;゚A゚)「は……はは、」


どんな仕組みで動いていたのかはわからないが、捉えてしまえば人間の体は紙のようにもろい。
鋭い爪が体の内部を切り裂き、人間最大の急所をえぐりだす。
人の中心。どくり、と動き全身へと血をめぐらせる拳ほどの大きさをした器官。

心臓とよばれるそれが、竜の手によって引きずり出される。


(゚A゚)「今度こそ……、今度こそ」


心臓は人間の中心だ。
体を支える機関であり、魂の宿る場所とも言われる。
人のことは知らずとも、竜は本能で知っていた。

これを握りつぶせば、この生き物はおしまいだと。

74 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:00:56 ID:.5wg0tsI0


(#゚A゚)「俺の勝ちだ――っ!!」


そしてありったけの力を込めて、それを握りつぶそうとし。
ふと、気づく。


生き物の心臓とは、手を焼くほど熱いものだったか。
この生き物はこんなにもむせ返るような甘い匂いがしたか。
そして、自分の力では握りつぶせないほど頑丈だったのか、と。


どくりと、心臓が動く。
どくりと、心臓が動く。
どくり、
どくり、

えぐり出されていてもその動きは止まらない。

75名無しさん:2016/03/29(火) 21:01:46 ID:ScKRSB3k0
明らかにヤバいぞこれ……
支援

76 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:02:53 ID:.5wg0tsI0

(;'A`)「……なんだ、これ」

(  ∀ )「――ぅ」


びくりと、男の体が動いた。
がくがくと動くその動きに応じて、灰竜の手の中の心臓がさらに熱を持つ。


(#゚∀゚)「――ぁぁぁぁっ!!!」


そして、人間が――大きく吠えた。
剣を握る手が妙な具合に曲がったまま、ぎちりと力が篭もる。
完全に力が抜けた体が、操られているような不自然な動きで剣を振り上げる。

そして、光のような速さで剣が振り下ろされる。

77 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:05:19 ID:.5wg0tsI0

反撃をするには、距離が近すぎた。
動かせるのはもう片方の腕か、牙。
広い範囲をなぎ払う翼も尾も、ここまで接近していれば役に立たない。


(;゚A゚)「ぐっ」


手にした心臓は今や、竜の手を焼きつくさんとするほどに熱い。
仮に握りつぶせたとしても、剣が振り下ろされる方が遥かに早いだろう。
腐り落ちる果物よりも強い。むせ返るような甘い匂いに、ドクオ頭がくらくらときしむ。


(;゚A゚) (狙いにくいが牙か? でも、ヤツの首は――)


灰竜は心臓を手放し、腕を自由にするために体を引きちぎろうとする。
しかし、燃え上がる心臓が竜の手を焼き、その動きを阻む。

――動くなと、命じられたかのような奇妙な感覚。

それを感じたのは、一瞬。
しかし、その一瞬が優劣を分けた。


(#゚∀゚)「――っらぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

78 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:07:04 ID:.5wg0tsI0

そして、竜は見た。
竜の鱗をものともしない輝きを持つ、剣の残影を。

砕けていく。
やわな刃なら触れただけで砕くウロコが、悲鳴を上げる。
剣の勢いは止まらない。
幾重にも重なったウロコが、貝殻が砕けるような音とともに砕けていく。


(#゚∀゚)「っああ!! ああっあ、あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!!!」


幾重にもまとわれたウロコを砕き、剣は竜を切り裂いていく。
あと少し力を込めれば、竜の首へと届き引き裂かれるだろう。
その先は、死しかない。

目の前の無茶苦茶な相手と違って、彼は平凡以下の竜でしかない。
並の竜にすらかなわない、若くて弱い竜だ。

79 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:08:56 ID:.5wg0tsI0


あと一歩で攻撃が届く瞬間、人間の動きが止まった。


(  ∀ )「……ぼくは、なにを」


悲鳴にも似た咆哮が止む。
脱力したままの体に力が篭もり、その瞳に理性の火が灯る。


( ・∀・)、「いたい。こんなに痛いのに、何で、僕は……動いて……」


掴みだされたままの心臓を見つめ、男はくしゃりと顔を歪める。
水晶の雨の降る空洞に、耳の痛いほどの静寂が訪れる。




(  ∀ )「……馬鹿みたいだ」



そして聞こえた声は、聞き逃してしまいそうなほど弱かった。

80 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:10:51 ID:.5wg0tsI0


――その瞬間、彼は敗北の原因を悟った。
相手が人間である。その思い込みがそもそもの間違いであった、と。


('A`)(それで、か)


首へと当てられた剣に力がこもる。


( -∀-)「……」


男は一度だけ、瞳を閉じた。
そして瞳を開いた時には、もうそこに弱さの名残は見えなかった。



( ・∀・)「さよなら」

81 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:11:24 ID:.5wg0tsI0









.

82 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:13:06 ID:.5wg0tsI0

人間という種族がいる。
ヒト族でも最弱でありながら、最も栄えた種族。

獣人のように、獣のような力や強い繁殖力を持つわけではなく。
エルフのように、強大な魔力と長い寿命を持つわけではなく。
ドワーフのように、屈強な体と手先の器用さを持つわけではなく。

武器を得、数を頼りにした時初めてその力を発揮するのが人間という種族である。
単独では塵にも等しい弱さの種族。

しかし、その弱い種族にも変わった特色が一つある。


    人間は、他の何よりも他の種族に染まりやすい。


人間はその染まりやすさ故に、まったく異なる種族とでも子をなせる。
混血は他の種族でもない話ではないが、人間はその繁殖率がずばぬけて高い。
同じヒト族だけではなく、魔物との間に子をなしたという話さえもある。

人間が染まりやすいというのは、それだけに限ったことではない。
血を吸われ吸血種になったとか、恨みのあげく鬼へと変じたという話はいくらでも転がっている。
魔物であるゴーストや生ける屍は、元は人間であることが多いという。

83 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:14:54 ID:.5wg0tsI0





('A`)「……お前、死にたいのか?」






そして、人間という種族は最強と名高い竜にも馴染み、染まることがある。

.

84 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:16:55 ID:.5wg0tsI0


竜と人間の間に子が産まれたという話は多い。
だからこそ、群れを持たない竜は若い娘を攫う。

また、竜の血は人間の寿命を伸ばし力を高める。
その効果は、竜の力が強いほど。そして、新鮮であるほど強まるという。
だからこそ、竜の血や心臓は価値が高く、竜殺したちに真っ先に狙われる。

かつていた、とある英雄は。
――竜の生き血を浴び、不死身になったのだという。


竜の力に染まった、竜モドキ。
目の前の人間が、そのような存在でないと誰が言い切れるだろうか。


.

85 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:19:01 ID:.5wg0tsI0

( ・∀・)「何それ。命乞いのつもり?」


剣を構えた姿勢のまま、男は止まっていた。
表面の皮は少し切られたが、致命傷にはまだ遠い。
しかし、そんなギリギリな状況も、今の竜には届かなかった。

――どうせもう助からない。
ならば、辿り着いた答えがあっているか確かめてから、彼は死にたかった。


('A`)「はじめは俺の血のせいかとも思った。でも、違った」

( ・∀・)「傷が治るまでの時間稼ぎなら、やめて欲しいんだけど」

('A`)「強いんだ。お前は最初から人間にしては強すぎたんだ。まるで魔物や竜と戦ってるみたいに」


男の問いには答えず、竜は己の手を見つめた。
まだ、そこにはえぐり出されたままの男の心臓が握られている。
体と辛うじて繋がった心臓は、どくり、どくりと動き続けている。


('A`)「それでわかった」

( ・∀・)「何を?」

86 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:21:06 ID:.5wg0tsI0


('A`)「――お前、死ねないんだろう? だから、死にたいんだ」


(#・∀・)「な」


その瞬間、男の表情が変わった。


(#・∀・)「わかったみたいな口を! 死にたい?」


笑みを浮かべていた口元は歪み、その瞳はギラギラとした光を放つ。
あの異様な咆哮とも違う、血を吐くような表情で男は叫ぶ。


(# ∀ )「そんなの当たり前だろ!! どこの世界に心臓えぐり出されて、生きてる馬鹿がいるんだ!
       毒も、炎も、剣も、串刺しの罠も――魔物に喰われたって、ダメだった! お前でもだ!!」

('A`)「……悪かったな」

(# ・∀)つ「でも、お前の心臓があればどうにかなる。
        竜の心臓は無限の力と魔力を生むんだろ? だったら、僕のこの呪いも解けるはずだ!」

87 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:22:57 ID:.5wg0tsI0

彼の手は未だ剣を掲げている。しかし、その手は細かく震えていた。
あとほんの少し、それだけで男の望みは叶うのに。
それでも、彼はその剣を完全には振り下ろさなかった。


(#・∀・)「そうすれば僕は、」


::(  ∀ )。::「……当たり前に、死ねる」


男の目からギラギラとした炎が消える。代わりに頬に、光る雫が落ちる。
その姿を見つめながら、竜は口を開いた。
言わなければならないような気がしていた。


('A`)「それは無理だ」


彼が掴んだ敗北の原因を、
そして、目の前の人間にとっては致命的な事実を知らせるために。

88 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:23:32 ID:.5wg0tsI0



('A`)「だって、お前の心臓は竜なんだから」


.

89 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:25:02 ID:.5wg0tsI0

灰竜は男の姿を見つめた。
腕を失った腕からぽたりぽたりと垂れる血は、鉄の匂いをしている。

そして、灰竜は手の中の心臓を見つめる。
どくり、どくりと脈打つ心臓は、むせ返るような甘い匂いを放つ。

竜の頭をくらませる、強烈な甘い香りは――群れの女王のものだ。
それは、人間の少女の甘い匂いとは根本的に違うものだ。

それに気づいた時。
彼は自分が負けた理由をはっきりと理解した。


( ・∀・)::;)



――相手は、人間の身を借りた女王竜の心臓だ。


竜のオスは、メスには決して勝てない。
それは竜の本能に刻まれた、絶対のルールだ。

90 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:27:11 ID:.5wg0tsI0


('A`)「どこで取り替えられたか知らねーが、お前の心臓は竜のものだ。
   そいつが怪我を無理やり直して、お前を死なないようにしてる」

::(# ∀ )::「そんな馬鹿な話があるか!」


灰竜は、男の心臓から手を外した。
彼の体から手を引きぬき、心臓を体に戻す。
これで竜は完全に男に勝つ手段を失った。しかし、男はそれには気づかない。

つきつけられた剣を持つ手が大きく震える。
灰色の竜の顔を見る男の目が激しく動き、その動揺を伝えている。


('A`)「信じよう信じまいが勝手だがな。
   その心臓はダメだ。俺の心臓程度じゃ、潰すことも壊すこともできない」

::(  ∀ )::「……」

91 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:29:15 ID:.5wg0tsI0


('A`)「それに、俺は弱いが他の血が混ざらない純血種の竜だ。
   生き血を浴びれば、人間なら不死身……とまではいかなくても、それに近い芸当ならできる」

(; ・∀・)「……っ」


その言葉を聞いた途端、男は大きく後ろへと引いた。
そのままよろよろと、後退していく。
灰竜は致命傷を負っていない。反撃を受ければひとたまりもないはずなのに、男の動きは止まらない。
それとも、竜の反撃程度では自分は死なないとすでに悟ってしまっているのか。


('A`)「お前、俺と戦ってから怪我の治りが早くなったんじゃないのか?
    いつも首が取れたら、そんなに早く治るのか?」

::(; ・∀・)::「やめろ」


灰竜もまた目の前の男に攻撃しなかった。
人間の姿をしっかりと見つめたまま、はっきりと口にする。

92 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:31:09 ID:.5wg0tsI0


('A`)「ただでさえ竜に近いお前が、これ以上混ざりものない竜の血を浴びたらどうなると思う?」

::( 。 ∀ )::「やめて、たのむから……」

('A`)「人間は染まりやすいからな。
    今は心臓だけだが、仕舞いには外側まで竜になるぞ」


そして、灰竜は言い切った。

                       ・ ・ ・ ・ ・
(-A-)「……お前もわかってるんだろ。人間として死にたいなら、やめとけ」

( つ∀ )「何だよそれ」


それ以上の言葉はなかった。
長い沈黙の末に、剣が手から滑り落ちる。
それからパシャリと音がして、男の膝が水面に崩れ落ちた。
静かな大空洞に、嗚咽だけが響いた。


――それがこの戦いの終わりだった

93 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:31:44 ID:.5wg0tsI0









.

94 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:33:06 ID:.5wg0tsI0
_ _ _ _ _ _ _ _ _ __________________________
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄


毒の大地に作られた地下50階層の、大迷宮。
落とし穴、罠、宝物庫――思いつく限りの仕掛けを詰め込んで、彼が作り上げた自分だけの巣。
そこで食って寝て、できればかわいい人間の嫁ができれば幸せだ。

灰色のウロコを持つ若い竜は、そう思っていた。


(ν・ω・)ν( ∵)(・↓・)( б∀б)(ΘωΘ)`ハリ*^ω^ハ⌒*(・∀・)*⌒⌒*(・ω・)*⌒⌒゜(・ω・)゜⌒
( `v´)リハ*゚ー゚リ(∴゚ з゚ )(メ.■ー■)( ∴)@*゚ヮ゚))(`∠´))ルミ゚ ー゚ノ(( ○⊿○)(■∈■)゙゙( ゚━゚)リコ-〇ー〇)リ
(`c_,´ )( ・∈・ )(-回ε回-)( ̄ー ̄)/ ・∀・ヽ( ∵)(`o´)ノパ-ナル(`ェ´)(´ρ;゙#)从タ ゚ ヮ゚ノソ彡从 ゚ ヮ゚ノミ|iiタ ゚ ヮ゚ノソ
|ハ`∀´ノ8 ( ∴)ノ ・∀・ノj(^ヮ^*il|ノ ノ `∀´ハ∈(・ω・)∋(  ‘3‘)( ∴)(φд゚)|・/ "ヮ")ミ▼ー▼彡ミ■Å■ノ州-凹_凹)
6L `∀´)("・」・")( ∵)( ∵)( ∵)//°H°)(゚、゚ハ゜⌒(〇`ω´〇)W,,゚Д゚W| @Θ@)ijd ´A`)(同し同 )(ε3ε)リノ、゚テモリ
∑<<∈゚∀゚)( ∴)( ∵)( ∵)(┘゚∀゚)┘( ゚ω゚ )ミ ・3・ミ (°∀」「∀°)( ∴)( ∵)6 `ェ´)(・ ∀ ・)从 ゚ー゚V( ∴)( ∴)( ∴)


(;゚A゚)「なんじゃこりゃぁぁぁーー!!!」


――だが、その理想は無残にも砕け散っていた。

95 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:35:09 ID:.5wg0tsI0

魔物の山、山、山。
懐かしいあの大山脈――黒の領域ほどでもないが、それでも凶暴な魔物たちの群れ。
普段は縄張りや集落を作って集まっているモノたちが勢揃いしていた。

……彼が丹精込めて作り上げた、彼以外は誰もいないはずの巣の中に。


(; A )「なんだよこれなんだよこれなんだよこれ……」


その悪夢のような光景に、灰竜は悲鳴を上げた。
竜モドキの人間が襲ってくるより遥かにタチが悪い。
それはもしかしたら、彼が巣立ってから一番の驚きであったかもしれない。


⊆( ・∀・)「そりゃあ、見たとおりだからな」


灰竜の横から声が上がる。
調子を確かめるように左の腕を回しながら答えたのは、あの人間。
さっきまで殺し合いが嘘のように、胸に開いた穴はふさがり。ちぎれた腕も綺麗につながっていた。

96 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:37:05 ID:.5wg0tsI0


(;゚A゚)「なんだよこの地獄絵図っ!
    なんで俺の巣にこんな魔物がいるんだよ!」

( ・∀・)「お前がどっかから連れてきたんじゃないの?」

(#゚A゚)「ここは俺の巣だぞ。なんで天敵なんか放り込むんだよ!!
    あああぁぁぁぁ、俺の力作がぁぁぁぁぁ」

(; ・∀・)「うぇー?」


人間が首をかしげ、何かを思いついたように頷く。
そこにはどこか晴れやかな表情が浮かんでいた。


( ・∀・)「じゃあ、勝手に住み着いたんじゃない?
      ここ他に比べると毒も薄いから、地上に住めないような奴らでも生きれそうだし」

97 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:39:07 ID:.5wg0tsI0






彼が敵であったはずの人間と歩いているのには理由がある。
あの戦いのあと、男は灰竜を殺すことを諦めた。
殺しても意味はないどころか、かえって害になると理解したのだろう。


( つ∀ )「結局のところ、僕に呪いをかけた竜を探しだすしかないってことか……」


目元を拭ってそう言った彼の表情は、ひどく疲れていた。
しかし、次の瞬間にはもう感情の見えない笑顔を浮かべている。
そこにはもう敵意はなかった。

98 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:41:13 ID:.5wg0tsI0

('A`)(人間ってやつは、よくわからねーな)

( ・∀・)「……となると、ここにいる意味も無いか。
      まさか毒の大地まで来て、死に損なうとは思わなかったよ」


男は立ち上がると、転がっていた腕を拾う。
そのままちぎれた腕を切断面につけると、瞬きをする間もなく繋がった。
……竜の心臓を持っているといっても、それはなかなか信じられない光景だった。


( ・∀・)「そういえばここって他に出口ある?
      上はトラップだらけだし、魔物もしつこいしさ」

(;'A`)「え?」


その言葉にあわてて上層に来てみれば、彼の巣は魔物の巣窟と化していたのである。
そう。彼がもうやることはないと最下層に引きこもっている間に、彼の楽園はとっくの昔に崩れ去っていたのだ。

99 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:43:07 ID:.5wg0tsI0






(;A;)「何だよこれぇ。俺の巣が、俺の巣……」


目の前に見える光景に彼は絶望した。
竜や魔物どころか、人間にさえ敗北する彼にとってこの状況はとてもではないが信じられなかった。
このままでは巣に引きこもるどころか、魔物たちに巣を乗っ取られかねない。


(;A;)「ちくしょー。侵入者が来ないように絶対に改良してやる」

(; ・∀・)「改良してやるって……。
      これまで魔物がいるって、本当に気づいてなかったの?」

(;A;)「あたりめーだろ。人間のお嫁さんと二人で楽しく暮らすつもりだったのに……」

(; ・∀・)「何それ?! 嫁さんぶっ殺す気?
      こんな毒と瘴気まみれの場所なんて、人間無理だよ。即効で死ぬよ!?」

(;'A`)「何だと……」


それでさえショックなのに、隣にいる人間は灰竜にとって更に衝撃的な事実を伝えてくる。
男は魔物たちからは見えない位置に隠れながら、飄々と話す。

100 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:44:58 ID:.5wg0tsI0

(;゚A゚)「いや、お前ここに居るじゃん。それに人間だって頑張れば、平気だろ」

(; -∀・)「相当、しっかり対策しなきゃ難しいと思うんだけどな。
      僕だって、本当は死のうと思ってここに来ただけだし……」

(ii'A`)「人間ってそんなに弱いのかよ……」

( ・∀・)「僕だって最下層に行くまでにも6回くらい死んでるし、そんなもんだって。
      正直、こうしてる今だって毒でフラフラだし。……死にきれてないけど」


男はカラカラと笑うが、竜にはそれどころではない。
魔物から見つからないように、声を潜めながらひたすら彼に問いかけ続ける。


(ii'A`)「連れてきたらどうにかならない? 慣れたりしない?」

( ・∀・)「無理――っていうか、そもそもお前らって肉食だろ。
      人間の嫁さんなんかもらって大丈夫なの? 腹減ったりしない?」

(;'A`)「お嫁さんは食わないよ!」

( ・∀・)「ホントのところは?」

('A`)「……いや、食べないよ!?」

101 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:46:58 ID:.5wg0tsI0

( ・∀・)「ほんとに? 人間食ったり、攫ってきたりしない? 嫌われるよ」


攫ったり、という部分に竜はギクリと息を呑む。
この人間に蜂合わせる直前に、人間を攫ってこようと確かに彼は思っていた。
それがもし成功していたら愛しい嫁は……と、思うとそれだけで恐ろしかった。


(;'A`)「え゙!? さ、攫わない。ほら、俺こう見えて魔力とか鉱物とか大好きだし?!
    ここいるだけで魔力食いたい放題だから肉なんて、草みたいなもんだし!?」

( ・∀・)「……草」

( ・∀・)「草と結婚しようとするって……」


その瞬間、彼の理性は切れた。
魔物がいることも忘れ、翼をばたつかせながら叫ぶ。


(#'A`)「忘れろー忘れろーお前ーっ!!!」

(; ・∀・)「あ、馬鹿。声が大きいって」

102 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:48:55 ID:.5wg0tsI0


その瞬間、魔物たちが一斉に彼らを見た。
あるものは鳴き声をあげ、またあるものは攻撃の態勢を取る。


( ∵)!

( ∵)( ∴)( ∵)( ∴)!!

⌒*(・∀・)*⌒⌒*(・ω・)*⌒⌒゜(・ω・)゜⌒⌒*(・∀・)*⌒⌒*(・ω・)*⌒⌒゜(・ω・)゜⌒


(;゚A゚)「ひぃぃぃぃぃぃ!!!」


あわてて竜は飛びかかってくる魔物に、炎を吐き、爪を振るう。
小さな魔物はなんとか倒せるが、大きい魔物はそうはいかない。
こちらが狩られないように逃げ回りながら攻撃を当て、迫り来る魔物をひたすら倒し続ける。


(#'A`)「くっそぉぉぉぉっ!
    お前ら全部追い払って、人間も住める完璧な巣を作ってやるぅぅぅっ!!!」

103 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:51:05 ID:.5wg0tsI0


飛びかかってくるものは食いちぎり、それでも倒せない奴には尾でなぎ払う。
数は圧倒的に不利。
しかし、彼は動きを止めようとしない。


(#゚A゚)「俺の巣から出てけぇぇぇぇっ!!!
    ここは俺ががんばって作った巣なんだぞ!!!」


ここは彼が自らの力ではじめて作り上げた巣である。
そして、竜の心臓を持つ人間と戦ってまで守ろうとした巣だ。
それをこんな不法侵入者たちに渡す訳にはいかないのだ。

――ここには、彼の全てと。いつか来る大切な嫁との未来がある。


( ・∀・)「がんばって作った……」


一人、高みの見物を決めていた人間が小さく首をひねる。
それから、少しだけ考えこむ姿を見せた。
やがて、魔物の攻撃を避け、灰竜へと近づいた。

104 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:53:27 ID:.5wg0tsI0

( ・∀・)「……せっかくだし、僕も加勢しようかな」

(*'A`)「え? ほんと」

( ・∀・)つ「不法侵入分の代金くらいは払っておこうかなって。
        ……あと、心臓のことを教えてくれた礼も兼ねて」


男の手から剣が抜かれる。
まばゆい光を放つ刀身が、竜ではなく魔物たちへと向けられる。


( ・∀・)「あ、そうだ。僕、モララーって言うんだ。
      モララー・モラル。まだ辛うじて人間の、冒険者ってやつだよ」


何百もの魔物へ向けて立ち向かう彼は笑顔を浮かべている。
それを、不思議なものでも見るような目で眺めながら。竜は攻撃を続ける。


( ・∀・)「お前の名前は?」

('A`)「一番下のとか、灰色のとかなら呼ばれたことがあるが……」


その言葉に今度は灰竜が首をかしげた。
竜は名前を持たない。名前をつけるのは、いつだってヒトだ。

105 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:56:31 ID:.5wg0tsI0


(; ・∀・)「竜って、名前ないの? そうだな……だったら」


人間―― モララーが舞うように剣を振るう。
剣を避けて彼のいない方に回ろうとする魔物を、竜の炎が焼いていく。
竜へと食らいつこうとする魔物は、モララーの剣によって命を散らしていく。


( ・∀・)「……ドクオ。毒の大地の王で、ドクオってのはどうだい?」

('A`)「ドクオ? 俺が、ドクオ?」

(*・∀・)「そう。お前は今日からドクオな」


ドクオが魔物を蹴散らし、モララーがとどめを刺す。
魔物は少しも減らないが、そこに不思議と絶望はなかった。


(*'A`)「そうか、ドクオか」


口の中で、何度もドクオと呼んでみる。
その言葉が自分のものだと思うと、どことなくくすぐったかった。


('∀`)「俺はドクオだ!」


ドクオが大蜘蛛の巣を焼き払うと、飛び出してきた巨体をモララーの剣が受け止める。
そこに噛み付けば、あっさりと敵は倒れる。

目の前の魔物を二人がかりで倒していく。
協力しあうその動きは――まるで、群れのようにも見えた。

106 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:57:29 ID:.5wg0tsI0
_ _ _ _ _ _ _ _ _ __________________________
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄

竜という種族がいる。
頑丈な体と長い寿命を持ち、知性に優れ、神に最も近いともいわれる種族。
彼らには、様々な特徴を持つ者たちが居る

天空を飛ぶもの、水を治め天候を操るもの、
毒を制するもの、炎を吐くもの……


( ・∀・)「そっち行ったよ、ドクオ」

('∀`)「任せろ、モララー」



……そして、




(#'A`)「このドクオ様の巣に、何してくれるんじゃぁぁぁぁ!!!!」

107 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:58:03 ID:.5wg0tsI0





群れを作り、巣を守るものである。





.

108 ◆xfSBMT78.A:2016/03/29(火) 21:58:41 ID:.5wg0tsI0





   ('A`)巣作りドックンのようです    完




.

109名無しさん:2016/03/29(火) 22:01:10 ID:g9Ix9tcg0
乙乙
なんか続きほしくなる感じだな

110名無しさん:2016/03/29(火) 22:01:56 ID:.5wg0tsI0
ここまで。ブン動会参加作品です

           ノ(_r     , ,
          (rヘノにニ=-- ㌻7 __,,
        ` ̄    ノ笊_) )ノ爪\
              `^^^h n'^^^^´
              r__“jノ”
               ` ̄´

111名無しさん:2016/03/29(火) 22:02:29 ID:vApBjhjs0
いいドックンだったよ乙

112名無しさん:2016/03/29(火) 22:05:51 ID:dfO9xZmw0

世界観がわかりやすくて良かった

113名無しさん:2016/03/29(火) 22:16:43 ID:NrbfQMYo0

巣作りドラゴンは関係ないのか

114名無しさん:2016/03/29(火) 22:17:09 ID:Dd7cvaoo0
おつ

115名無しさん:2016/03/29(火) 22:39:21 ID:zdaPJl6Q0

続きあったら膨らみそうだなー

116名無しさん:2016/03/30(水) 00:55:48 ID:qARLHvH.0

続くとしたらモララーに呪いをかけたやつ探しに、って感じか?読みてぇなぁ

117名無しさん:2016/03/30(水) 01:38:05 ID:z.IUiC0A0

土台がしっかりしてるから続きも行けそうなレベルだわ

118名無しさん:2016/03/30(水) 19:11:43 ID:f5zHs9Ts0
続きも読みたいけど、祭りにそれは無粋ってものか

119名無しさん:2016/04/01(金) 14:58:18 ID:RjE1QC.o0

シリーズ化するなら是非読んでみたいなあ
竜の生態がめっちゃ好き
オスには他所の群れに新しい父竜として入れてもらう・新しく群れを作るっていう巣立ち後の選択肢があるけど、メスは新しい群れ一択なのかな?
あと人間メスとドラゴンオスがありなら、人間オスとドラゴンメスもありなのかなあとか。ありならモララーの呪いはそういう話なのかなあとか。

120 ◆xfSBMT78.A:2016/04/03(日) 00:14:06 ID:Wz4nePcw0
乙ありがとう
レスするつもりはなかったけど、少しだけ

>>113
まぎらわしいタイトルですまない。そっちは未プレイなんだ

>>119
ドラゴンメスはオスより強いぶん選択肢の幅が広い
人間オスとドラゴンメスもあり
モララーについてはご想像におまかせします

121 ◆mQ0JrMCe2Y:2016/04/04(月) 01:28:05 ID:bUjo1vjE0
【連絡事項】
主催より業務連絡です。
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詳細は、こちら
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122名無しさん:2016/04/10(日) 01:42:59 ID:XSn6uJ560
おもしろかったゆ

123名無しさん:2016/04/25(月) 01:18:48 ID:y/0RixKU0
面白かった
続き読みたくなる感じやな

124名無しさん:2016/04/25(月) 17:52:31 ID:QN5wL64c0
続きマダー?

125名無しさん:2016/04/25(月) 20:21:38 ID:U3SXGBos0

改めて読んだけど、面白かった!
最初の物語の入りが凄く丁寧だったので、一気に読めちゃうね。
するするっと読める地の文で設定を違和感なく書いてくれるので、こちらもするするっと話の中に入れた。
いやほんと、丁寧だなぁ、この話は。


ドクオの無知さというか、ドラゴンという存在っていうのも丁寧に書かれてる。
特に城を石の山と表現するのは良かったし可愛かった。そうだよね、城なんて知らないもんね。
そしてバトル描写も濃い、凄い。モララーの血みどろのバトルは熱い。良い。すごく良い。
鬼気迫るモララーと必死のドクオの対峙、熱い。
心臓えぐられても迫るモララー、熱い。
ドクオが握ってるモララーの心臓、熱い。
そしてそこで出てくるオスメスの設定もおお!ってなった。ここで持ってくるのかと、ただの設定じゃなかったなと。


巣作りするのにどうしてこんなにトラップ好きなんだよwwwとか、モララーの心臓の真相とか、
嫁さんはどうするのかとか、流石兄弟も追い出されてからどうなるんだろうなぁ、とか。
色々考えてしまうので、続きが欲しいなぁ。

面白かったです!

126 ◆xfSBMT78.A:2016/04/30(土) 22:26:50 ID:gXAI7caM0
祭りが終了して落ち着いてきたので、少しだけ出没
投票や、熱い感想やイラストなど本当にありがとうございました。結果を見た時は心臓が止まるかと思いました

続きについての要望を頂いたのも、嬉しかったです
約束はできませんが、いつか機会があれば書きたいと思っています

127名無しさん:2016/05/01(日) 17:08:35 ID:JV872/pQ0
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
待ち続けるぞ

128名無しさん:2016/10/23(日) 21:28:35 ID:mLXTTQyw0
続き書いてくれよー

129名無しさん:2018/02/27(火) 10:44:54 ID:8Ov5uO2U0
帰ってきてもいいのよ…?


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