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時をかける俺以外
106
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 22:37:43 ID:JUjYJa420
ξ゚⊿゚)ξ「あれ?」
僕を見て、ツンが首をかしげた。
(´・ω・`)「転校生です」
どうも、と軽く頭を下げる。
ツンはすぐには反応してくれなかった。
何かを考えているようで、何かを迷っているようにも見えて。
ようやく開いたその口には、微かに笑みが浮かんでいた。
ξ゚ー゚)ξ「その席、大事にしてね。私の友達が座っていた席だから」
天高く昇る秋の陽に照らされていたせいだろうか。
彼女の顔は光輝いて、目を離せないくらい綺麗見えた。
まるでヒマワリの花のように。
107
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 22:39:06 ID:JUjYJa420
僕の座っていた席にはかつて、ドクオという生徒が座っていたらしい。
ツンと一緒の中学校から高校へと進学し、たまたま同じクラスになった。
ドクオは一言でいえば、おとなしい生徒だった。
話しかければ答えはしたが、自分から積極的に人と絡もうとはしない人。
クラスメイト内での評判も悪くはなかった。
関わりが無いために、語れることも少なかったのかもしれないが。
ツンの友達である彼は、夏休み前に自殺未遂をはかって重傷を負い、今は病院で治療をしている。
自室の梁にロープを巻き、首を括ろうとして、失敗して頸椎を損傷したのだという。
ξ゚⊿゚)ξ「昔仲良かった友達が自殺したのよ」
学校の屋上の風に吹かれ、髪をなびかせながら、ツンは打ち明けてくれた。
(´・ω・`)「自殺……」
天体望遠鏡の赤道儀を調節する腕を休めて、僕は彼女の言葉に耳を傾けた。
たまたま入った天文部に彼女がいたのはまったくの偶然だった。
星がみたいと思ったこと、体格は良いがスポーツは苦手なこと、諸々の些細な理由からひとつの部活を選んだに過ぎない。
思いがけず彼女と一緒に過ごせる部活の時間は、何とも言えず心地よかった。
内容そのものはすこぶる暗い話題であったわけだけど。
ξ゚⊿゚)ξ「その友達が死んじゃったのは自分のせいだ、って自分に言い聞かせて、追い込んで、精神すり減らして。
不器用な奴だったのよ。すごく。友達の私にも何も言わないで勝手に、ね」
108
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 22:40:06 ID:JUjYJa420
翳が差すその顔を、僕はしばらく見つめた。
頭の中では、僕がやってくる前のクラスのことを想像していた。
会ったこともないツンの友達。今の僕の席に座っていた人。
治療がうまくいっても車椅子生活は避けられない。
年度内の復帰は絶望的。卒業までに意識が戻るかもわからない状態だという。
ツンが悲しむ理由は理解できた。
友達思いである彼女のことを優しい人だと思うようにもなった。
だけど、不謹慎ながら、それ以上に僕はツンの笑顔が好きだった。
暗がりに落ち込みがちな彼女が明るくなるようなことを言ってあげたかった。
(´・ω・`)「きっとそのうち、ドクオくんも自殺のことを悔い改めるよ。
君みたいな友達がずっと心配してくれているんだから」
自分で言っててもわかるくらい、調子のいい内容だ。
それを重々承知でいながら、ツンを前にして口が動いてしまっていた。
ξ゚⊿゚)ξ「……うん。そうだね」
ツンは頷き、小さく微笑んで、遠くを見つめる。
鰯雲の空の彼方のどこに彼女が焦点を結んでいるのか、はた目にはわからない。
どこだろうとかまわない。
気が付けば心中で小躍りしている自分がいた。
109
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 22:41:06 ID:JUjYJa420
(´・ω・`)「好きだ」
告白したのは僕の方だ。
初めて見たときから好きで、ほかに理由はない。
あまりにも率直だったせいか、ツンは動揺して、僕の背中を叩きもした。
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっと待ってよ」
断られるかと思ったがそうではなく、一日の猶予を求められた。
翌日の夕方に屋上に呼び出されて、天体の撮影機器の調整をしている最中、こっそりと許可をもらった。
高校生活二年目の春。僕たちはお互い同意の上での付き合いを始めた。
学校で会えているときは付き添い、屋上では身を寄せ合い、帰り道では手をつないだ。
夜になったら連絡を取り合って、毒にも薬にもならないような当てのない会話をした。
(´・ω・`)「それでね、デミタス先生が酷いんだ。僕の水筒の中身をコーヒーとすり替えたりなんかして」
ξ゚⊿゚)ξ「どんな恨みを買えばそんな仕打ちを受けるのよ」
(´・ω・`)「むかついたから、さっき職員室に注いであった先生のコーヒーをコーラにすり替えておいたよ」
ξ^⊿^)ξ「あはは」
110
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 22:42:13 ID:JUjYJa420
ツンが笑う姿を見て、僕の胸の内が暖かくなった。
もっともっと、冗談を言いたくなった。
だから急いで頭を働かせて、ネタを拾って、新しい話題を見つけたりもした。
周りの目だって気にしちゃいられない。
何せ僕には引っ越し好きの両親というタイムリミットが起こりうる。
性急に距離を詰めていくべきだ。
すべてはツンの笑顔を見るためだった。
そのためならなんだってしてやると思った。
(´・ω・`)「今度の土曜にでも、一緒に遊ぼうか」
提案すると、ツンは若干目を伏せた。
ξ゚⊿゚)ξ「遊ぶのもいいんだけど」
何かを言いたそうな顔。
じっと待ってみたら、ツンのほうから答えをくれた。
ξ゚⊿゚)ξ「ブーンのお墓参りをしたいの」
111
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 22:43:16 ID:JUjYJa420
(´・ω・`)「ブーンって確か、ドクオくんが死んだ原因の?」
ξ゚⊿゚)ξ「うん。すごく頭が良くて、でもそのことを決して自慢しない、優しい子だったんだよ」
ブーンのことを話すツンの姿は楽しげだった。
思い出が、その心情を補強しているのかもしれない。
優秀で、奥ゆかしく、何故かゲームが得意なブーンの話。
聞いているうちに、いつしか僕にも親しみも湧いてきた。
夏休みのある日、山のふもとにある墓所に二人で訪れた。
山の斜面を切り崩して段上にし、墓を所狭しと並べられていた。
見上げるほどに高い位置にある墓もある。
すいすいと前に進むツンを追って、僕も息を切らして歩いた。
運動不足で太り気味な体には、わずかの傾斜でも脚に乳酸がたまってしまう。
ξ゚⊿゚)ξ「ついたわよ」
僕よりも十歩ほど早くに進んでいたツンが、俺を振り向き手招きをした。
(´・ω・`)「これは……」
墓石、であることは確かだ。手入れもいくらかされている。
しかしそれでも、綺麗とはいいがたい。
墓の下のほうではすでに蔦が絡みつき始めている。
112
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 22:44:16 ID:JUjYJa420
ξ゚⊿゚)ξ「ブーンの両親、離婚しちゃったから。ここの手入れはおじいちゃんがやっているそうなのよ」
俺の心に浮かんだ疑問を汲み取ってくれたかのように、ツンが教えてくれた。
ξ゚⊿゚)ξ「もう足腰もずいぶんと弱くて、手入れも行き届かないんだって」
(´・ω・`)「かわいそうだね」
ξ゚⊿゚)ξ「……そう言ってもらえるだけで、きっとブーンは嬉しいはずよ」
手桶にもってきた水を杓子で掬って墓にかける。
お線香を二本たてて、火種にともし、煙を巻きながら台へと収まる。
ツンは二回手を叩き、僕もそれに倣って手をたたく。
僕が目を開くと、ツンはまだ手を合わせたまま動いていなかった。
顔をしかめていたが、目は閉じている。痛みに耐えながら何かを訴える苦行僧のようだ。
それはあまりに真剣な表情で、安易に近寄ることも声をかけることも許されない気がした。
心行くまでツンの好きにさせよう。
上ってきた坂道を降りようと振り返った。
('、`*川「あら、先客がいたのね」
113
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 22:45:18 ID:JUjYJa420
すらりと背の高い、ユリの花のような人だ。
顔だちが整っていて、絵に描いたような綺麗さを醸し出している。
女の人は僕を無視して、ツンの脇に立った。
ツンが一歩さがる。
道を譲ったようにも見えた。
ξ゚⊿゚)ξ「お久しぶりですね」
女性の背中に向かって、ツンが冷ややかに言った。
ξ゚⊿゚)ξ「今までどこにいたんですか。あなたは街から出て行ったと思っていたんですけど」
('、`*川「都会の方に転勤になったのよ。一応まだこの街の住民よ」
祈りを早々に済ませると、ブーンの母親は僕とツンを交互に見た。
('、`*川「都会はいいわよ。気の晴れるものがいっぱいあって、傷ついた心も癒してくれる……」
ξ゚⊿゚)ξ「ブーンのことをそんなに忘れたがっているんですか」
114
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 22:46:17 ID:JUjYJa420
('、`*川「あら、そうは言っていないでしょう? いやな子ね」
ブーンの母が煽ったが、ツンは微動だにしなかった。
火花が飛び散りそうな睨み合いの末、ブーンの母の方が先に折れた。
('、`*川「お墓を綺麗にしてくれてありがとうね」
そう言うと、坂道を足早に降りていった。
ツンはまだ動かなかった。
じっと墓石を見つめたままでいる。
腕の先を見れば、力の入った拳が握られているのが見えた。
彼女が何を考えているのか。
祈りの最中に真剣な顔でいったい何を考えていたのか。
今にして思えば、その片鱗を僕はこのときはじめて目にしていた。
115
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 22:48:49 ID:JUjYJa420
止めるチャンスはいくらでもあったのだろう。
だが僕はその機会をことごとく失した。
止めるべきものだということにさえ気かなかった。
ある日、大型の書店に寄りたくて、都会の駅に降りた。
(´・ω・`)「あ」
ξ ⊿ )ξ
見慣れたツインテールが目に入った。
(´・ω・`)「ツン!」
声を掛けたのだが、彼女はすぐに人ごみに埋もれてしまった。
駅から降りる雑踏がうるさくて聞こえなかったのだろうか。
不思議に思いながら、改札を出て、彼女がいないかとのんきに周りを見回していた。
やがて、甲高い悲鳴が聞こえた。
116
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 22:49:50 ID:JUjYJa420
どよめきが、駅構内に伝播してくる。
「通り魔だってよ」
と、耳に入った。口にしていたのはおそらく学生で、目を光らせて出口へと向かっていた。
嫌な予感を受けながら、僕も彼らの後を追った。
そして、見た。
ξ ⊿ )ξ ハアァァ...
( 、 *;川
歩道の真ん中にツンがいて、すぐ隣には、おそらく通勤途中のブーンの母が倒れていた。
足元には血だまりができている。
(;´・ω・`)「ツン……」
何秒間見つめていたのだろう。
周りが静かなものだから、彼女の荒い吐息が聞こえてきている。
街での騒ぎは大きくなった。
駆けつけた警官にツンは羽交い絞めにされて、パトカーへと連行された。
117
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 22:50:52 ID:JUjYJa420
ξ゚⊿゚)ξ「かえって運が良かったのよ」
面会室はひんやりと冷えていた。
ξ^⊿^)ξ「ずっと会いたかった奴がのこのこと私の前に現れたんだもの。
どんな顔して会社勤めしてるのかと思って探してみたら、あまりにも無防備で、つい」
部屋の奥で警備員が目を光らせている。
あまり過激な発言はしてはいけないと、ガラスの向こう側のツンを説得したかったが、僕の声は届かないようだった。
ξ^⊿^)ξ「決心するのには随分と時間がかかったわ。人の命の話だもの。ゲームのような簡単な話じゃない。何度も何度も自分に問いかけたわ。
ブーンとドクオが死んだのは確かにあの女の所業が遠因だけど、それは私が手を下すに値するものなのかしら、って。
結局のところ、恨んでいるで正解だったわけだけど。だって今とっても気持ちが清々しているし。
今となってはもっと早くに実行に移しておくべきだったわ。何を悩んでいたんだか。
ねえ、聞いて。私まだ興奮しているみたい。ナイフを刺したときの感触が未だに忘れられないの。
女の手だと苦労するって話には聞いていたけれど、実際には大して苦労しなかったわね。
するするって、絹を切るみたいにいったの。練習した甲斐があったってもんよ」
心のタガが外れてしまったようだ。
開き直ったように、自分のやったことを喜々として長々と話している。
人を殺したら、みんなこんなふうになってしまうのだろうか。
懲役十年。
ツンの子供時代は消え去った。
牢からでたら、二十代の後半。精神は痩せ細り、まともな就職も望めない。
不安が、僕の胸の内を黒々と塗り固め始めていた。
118
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 22:51:50 ID:JUjYJa420
(´・ω・`)「なあ、僕にできそうなことなら何でも言ってくれよ。力になるから」
ツンの顔は、歪んでいた。
驚いているようにも笑っているようにも、泣いているようにもみえる。
様々な感情が錯綜し、混乱しているみたいだ。
ξ^⊿^)ξ「ありがとう」
僕に向けられた明るい返事。
それなのに、同時にとても空虚に思えた。
僕にはツンのことはわからない。
ツンがブーンの母親のことを殺すほどに憎んでいたなんてまるで知らなかった。
何も知らないでいる人間が、彼女のそばにいてもできることなど何もない。
現に今、自分とツンとの間の壁を感じてうちひしがれてしまっている。
面会が終わり、外へ出た。
ちらりと振り向いたツンは顔を俯かせていた。
顔は見えない。
泣いてはいない気がした。
それっきり、もう彼女とは会っていない。
119
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 22:52:49 ID:JUjYJa420
世の中何が起こるのかわからないものだ。
十年間町で暮らしているうちに、街では目覚ましい発展があった。
天体観測を主とした観光業で街が一躍有名となり、駅前はビルから住宅からと様々な建物が立ち並んだ。
道路も新しく幾筋もしかれ、古かった私道が整備され、他市からのアクセスもよくなった。
華々しく街の片隅に、旧商店街が死につつあった。
かつてその中にあった、ツンの実家の生花店はとっくの昔に畳まれていた。
娘の犯した事件のためにご迷惑をおかけした、と店の主人が閉めたのだという。
(´・ω・`)「……そうか」
高校を卒業して以来、街を出ていた僕は、地質学者として戻ってきていた。
研究のために来訪した日に、観光として懐かしい街を歩き、件の商店街に辿り着いていた。
高校時代にあった街の面影は、その商店街と、潰れかけの出身校にしか残っていなかった。
それから先に起きたことは、全て偶然の賜だった。
観光名所である、宇宙人の住処などと呼ばれている谷間へ研究グループ仲間とともに赴いたこと。
そのとき、大地震が発生して大規模な地滑りが起こり、一人はぐれて山の中に取り残されたこと。
しんしんと染まりゆく夜の闇を見上げながら、岩陰に寄り添いじっとしていた。
下手に動いたら死の危険があった。
耳を澄ませば野獣の吠え声も聞こえてきている。
120
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 22:54:03 ID:JUjYJa420
体力も無いし、朝まで待とう。
頭ではわかっていても、心の方は怯えきっている。
(´・ω・`) ?
岩場の向こう側に広がる夜の底に光が見えた。
浮かび上がる青白い光源は、数秒ともり、やがて消えた。
見間違いかとも思った。
眠いのかもしれない。寝ぼけて、そんな幻覚を見たのかも知れない。
疑問の声を頭の中に押し込めて、僕は暗闇を歩いた。
(´・ω・`)「これは」
知らない谷間だ。
地滑りの影響で現れたのだろう。
湿り気を帯びた土がすり鉢のように広がっている。
121
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 22:55:04 ID:JUjYJa420
中央に黒い物体があった。ちょうど鋼鉄でできた花弁を有する塊だ。
バラのようにも見えるそれに、好奇心をあらわにして近づいた。
暗闇なのに、ほのかに光る。黒い表面の奥底に青く沈む発光があった。
(´・ω・`)「綺麗だ」
こぼれるような呟きをしながら、そっと手を触れてみる。
冷たい感触が掌に広がる。
冷たい感触が、夏の夜に火照った身体に心地よい。
この場所なら涼むことができそうだ。
と、庶民的に思い始めていた最中にそれは起こった。
目の前の景色が、揺れた。
(;´・ω・`) !?
大きなスクリーンに映し出された光景が波打っているかのようだ。
黒の中に青と赤が光り、黄色が差して折り重なる。
目に見える光の全てが渦となってこんがらがり、上も下もわからなくなる。
122
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 22:56:06 ID:JUjYJa420
恐怖で身動きが取れなかった。
動けないでいる自分自身の身体が保てているかもわからなかった。
目を閉じても光が止まない。
そもそも閉じる瞼が存在しない。
なのに色々な光景だけが見えている。
赤みを帯びた管の中。壁が揺れている。先の方に光が見えて、そちらへと身体が押し出される。
僕という存在が始まったそのときから、僕の時間が流れ始めた。
様々な人と出会ってきた。父や母、僕の姿。学生の頃の友達たち。それから、ツンの姿もある。
今まであった全ての人たちが景色の激流に浮かんでは消えていく。
それは僕の半生だった。
たかだか二〇余年しか生きていない僕の経験の全てが目の前に集約されていた。
激流が、少しず穏やかになっていく。
目に見える景色が一つにまとまり、焦点が合い始める。
123
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 22:56:50 ID:JUjYJa420
僕は道に立っていた。昼間の道。往来の人は多い。
('、`*川
前を歩く人混みの中に、ブーンの母の後ろ姿があった。
あまり見たことがある姿でもなかったが、今の僕にはすぐにわかった。
強烈な既視感だ。
このすぐあとに、彼女は刺されて死亡する。
(;´・ω・`)「ツン!」
呼びかけて探し求めた彼女は、いた。
往来の人ごみに紛れて、目の据わったツンの横顔が見えた。
手元が光っている。
それが刃物であることを僕は事前に知っている。
いてもたってもいられずに、アスファルトを蹴って飛び出した。
124
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 22:57:24 ID:JUjYJa420
僕が前に現れたとき、ツンはきょとんと眼を見開いていた。
ξ;゚⊿゚)ξ「……え?」
(;´・ω・`)「やめるんだ、ツン」
戸惑っている彼女を無視して、その手を握る。
冷たい感触が指先をこする。
つかんで、抜き取る。
地面に落ちたナイフを足で踏んだ。
僕の指先は傷つき、血が噴き出していた。
(´・ω・`)「君は、こんなことをしていい人じゃない」
ξ#゚⊿゚)ξ「どいてよ!」
大きな叫び声に、僕は驚き、人々の視線も集まった。
ツン一人だけが動じずに、まっすぐ僕を見つめていた。
125
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 22:58:19 ID:JUjYJa420
僕は決してどかなかった。
足を上げようともしなかった。
沈黙が耳に痛い。
周りの人たちがしびれを切らして、ようやく動き出したころ。
僕の前で、ツンは泣いた。
大きな声で泣いていた。
僕は彼女の横に立って、一緒になって歩いて帰った。
あとからじんわりと実感した。
僕は時を遡っている。
不可思議な話だが、現に起こっていることだから疑いようもなかった。
僕はタイムリープをして、ツンの犯行を未然に防いだ。
そうして得られたのは、穏やかな時間だった。
〇〇一
126
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 22:59:29 ID:JUjYJa420
ツンは逮捕されず、彼女の実家の生花店も存続した。
僕の叶えたかった夢のすべてが、すでに遂げられていた。
町内会は相変わらず寂れていたが、駅が発展して、お客さんも微増していた。
ツンは商店街の振興に積極的に働きかけ、町内会のキャラクターを考案した。
銀色タイツの宇宙人。
ξ^⊿^)ξ「これ、着てよ。絶対ショボンに似合うんだから」
彼女の生花店でバイトしていた僕は、その着ぐるみを着て毎日軒先に立った。
客を呼び込み、花を選び、カウンターでお金を受け取る。
その繰り返しの毎日が、ただツンの生きているという事実だけで嬉しく思えた。
これ以上、望むものもない。
このまま、何事も起きなければいい。
このままツンが笑顔のまま、僕のそばにいてくれれば。
(´・ω・`)「それだけで、いい」
庇の下から空を見上げて、暮れゆく空に一人つぶやいた。
127
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:01:22 ID:JUjYJa420
あれからブーンの母の姿も一度もみなかった。
ツンが暗い気持ちを込めているしぐさも見られなかった。
僕はすっかり安心して、毎日を受容しようと努力していた。
しかし、ひとつ気がかりなことがあった。
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、お店番よろしくね」
週に何度か、ツンは僕にそう言い伝えて店を後にした。
行き先は知っている。
ξ^⊿^)ξ「ドクオのところ」
質問をしたら、何度もでも温かい顔でそう答えてくれた。
その友達が誰なのか、僕はうわさで聞いている。
学生時代の自殺未遂で頸椎を損傷し、半身不随となった男だ。
甲斐甲斐しい両親の世話もあって未だに生きてはいるものの、身体はほとんど動かないでいる。
128
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:02:19 ID:JUjYJa420
ツンは週に二、三度ドクオに会いに行っている。
彼を介護するためだ。
それが何故かと問われると、彼女はいつでも「友達だから」と口にした。
僕はその言葉を信じた。
店番を頼んでくるのも、一人で店にこもるのも、彼女とためだと思って口を閉ざし続けた。
我慢強さには昔から自信があった。
耐えて耐えて、ツンのためにいよう。
そう思っていた。
病室に行ったのは、いつ頃のことだろう。
大地震が起こる何日か前の日だ。
その日僕は手が空いていたので、ツンと一緒に病室へと入った。
('A`) ・・・
横たわっている彼がドクオだった。
僕に目を向けて、歪んだ舌で言葉でもない何かを呻いている。
129
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:03:19 ID:JUjYJa420
(;´・ω・`) ・・・
僕は怖気づいていた。
辛い病状であることは百も承知だったのに、ドクオの視線の暗さに怯えていた。
ツンは何も気にしていないふうに、ドクオのそばに寄り添い、太ももを持ち上げた。
ξ゚⊿゚)ξ「今日はね、私の友達が来てくれたんだよ」
ドクオの耳元まで顔を寄せて、ツンがいう。
('A`) ヴァ
言葉じゃない。
空気の掠れ音だ。
そうだというのに、ツンは僕を見た。
ξ^⊿^)ξ「ほら、ショボンも挨拶してよ」
ツンの突きつけてきた笑顔が僕の胃の腑に重く落ちた。
130
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:04:19 ID:JUjYJa420
ドクオが空虚な目を僕に向ける。
この男は本当に生きているのか。
そんな疑問を抱きたくなるくらい感情のない顔をしている。
胃がきりきりと痛んだ。
(;´・ω・`)「ごめん、ツン。僕、ちょっと席を外すから」
痛んだ腹をさすりながら、ツンとブーンにさよならをする。
振り返りもせずにリノリウムの床を走り、トイレんにかけこみ便器を前にうずもれた。
胸板の裏側で心臓が乱暴に跳ねている。
ツンはいったい何年間彼の世話をしているのだろう。
高校時代からだとすれば、とっくに十年は経っているはずだ。
その十年を、ツンは友達の世話で潰したというのか。
(;´・ω・`)「そんなの……悲しすぎる」
気づけば僕は胸に手を当てていた。
131
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:05:32 ID:JUjYJa420
そのとき、気づいた。
掌の中に何かが入っている。
かくばった感触のそれは、見間違いでなく、青白い光を放ち始めていた。
(´・ω・`)「……これは、あのときの」
景色が歪んだ。
原色が光り、立ち位置がわからなくなる。
タイムリープのとき。
(´・ω・`)「好都合だよ」
ほくそ笑みながら、ショボンは掌の石をつまんだ。
〇〇〇
↓
零零零
132
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:06:37 ID:JUjYJa420
僕の体は縮んでいた。
学生時代。それも高校時代の僕。
親が帰ってくる前の静かな時間、自室で一人、理科のノートを開いていた。
(´・ω・`)「止めないと」
意識を取り戻した僕は、駆け足で街の外へと出た。
目的地はドクオの家。
住所の知識はなかったが、聞き込みをして自力でたどり着いた。
彼の死を食い止めなければならない。
そうしないと、ツンの日々が失われてしまう。
逼迫した感情が、僕を毎日のようにドクオの家に通わせた。
133
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:07:50 ID:JUjYJa420
うまくいくときはうまくいった。
('A`) ソロリ
早朝の窓から顔を出しているときに。
(´・ω・`)「おまわりさーん!」
(;'A`) ビクゥ
これだけで顔を引っ込めてくれれば御の字だ。
ドクオはもう出てこない。
しゃべったこともない男だったが、僕は熱心に彼の行動を研究した。
それでも失敗は幾度もあった。
( A )
窓から落ちて、腕やら脚やらがあらぬ方向に曲がった姿。
誰よりも先に発見したのは僕だった。
134
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:08:59 ID:JUjYJa420
弔いの気持ちを載せて、一瞬目を閉じる。
ドクオはすでに死んでいた。
(´・ω・`)「待ってな」
胸に手を当て、祈りを込める。
零零壱
そして気づけば、僕は数時間前の自室にいた。
零壱零
零壱壱
途中からの分岐を変える回数を重ねた。
行動パターンを読み取ろうと後を追い続けた。
だけど、ドクオはなかなか改心しなかった。
壱零零
壱零壱
135
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:10:11 ID:JUjYJa420
僕が自殺を食い止めていることをドクオは決して知りえない。
だから反省だってしない。
そのたびごとに運が悪かったと思うだけで、諦めない限りは次々と新しい自殺方法を考案する。
僕は彼との頭脳争いにすっかり辟易してしまっていた。
加えて。
(´+ω+`) ウッ
タイムリープを終えると、目がかすむようになった。
頭にひどい痛みが残り、立っているのもやっとになった。
三十分ほど木陰に隠れて休んで、深呼吸。
体力がずいぶん減っている。
奇妙に思いながら、ふとポケットにいれた石を触った。
光り輝いている。
精神力が吸い取られている感覚に、ショボンは末恐ろしくなった。
136
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:11:01 ID:JUjYJa420
春休みがちっとも終わらない。
ドクオはもう百回は死にかけている。
こんなに自殺したがる人が世の中にいるものなのか。
( A ) アッ……
今度の死因は交通事故死。
自分から車道に突っ込んだ。
運転していた男はすぐに逃げて、道の真ん中にドクオがひとり横たわっている。
いつもならすぐ助けるのに、僕は疲れにかこつけて何もしないでいた。
目の前で、ドクオの動きがどんどん鈍くなっていく。
確実に死が近づいている。
137
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:12:03 ID:JUjYJa420
反省をした。
僕はドクオのことを知らない。
知らないでいるけれど、うわさには聞いている。
彼の自殺を食い止めなければ、ツンが罪の意識を感じて、ブーンの母を殺してしまう。
小手先ではだめだ。
ドクオの死を阻止するだけではない。
解決するには、もっと根本から。
(´・ω・`)「神様なのか何なのか、わからないけど、お願いだ」
いつしか、この次元ではない誰かに祈りをささげるようになっていた。
零零零
↓↓↓
000
138
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:12:59 ID:JUjYJa420
ξ゚⊿゚)ξ「タイム……リープ」
致し方ないことだった。
ドクオのことを知っているものでないと、彼の生活を把握できはしない。
必要なのは仲間だ。
僕の知っている中で、もっとも条件を見たしていたのはツンだけだった。
実家の生花店のことは僕もよく知っていた。だから簡単に忍び込めた。
(´・ω・`)「これからドクオはたくさん死のうとする。君なら、彼をきっと救えるだろう」
面と向かっての突飛な話を信じてもらえたのは、話の中に、高校生活で知りえたツンのプライベートな事柄をちりばめていたからだ。
とりわけドクオの自殺願望について、ツンにも思うところがあったらしく、真剣に耳を傾けてくれていた。
(´・ω・`)「協力が必要なんだ。頼む」
139
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:14:00 ID:JUjYJa420
ξ゚⊿゚)ξ「ねえ、ひとつだけきかせて」
僕の提案に乗る前に、ツンが僕を呼び止めた。
ξ゚⊿゚)ξ「あなたはいったい何者なの。私の知り合い?」
(´・ω・`)「いいや。今のところは」
ξ゚⊿゚)ξ「あ、もしかして今度くるっていう転校生?」
(´・ω・`)「ははは」
そんな噂がもう広がっているらしい。
きっと担任のデミタスがうっかり漏らしてしまっていたのだろう。
(´・ω・`)「とりあえず、秘密ってことにしてくれよ」
僕は言葉を濁して、ツンの家を後にした。
140
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:15:00 ID:JUjYJa420
001
010
011
ドクオの自殺の阻止は思った以上にうまくいった。
行動パターンをつかむ可能性が前よりも格段に増えた。
ツンがどれほどドクオを把握しているのか。
今もってしてよくわかる。
春休みが終わった。
ドクオは学校に無事通った。
時は流れて、夏が過ぎた。
うるさかったセミたちも、今ではヒグラシが夕暮れ過ぎに鳴くだけだ。
九月になって、僕は教室の扉をくぐった。
たどり着いた窓際の席。
ξ゚⊿゚)ξ「やっぱり」
隣にいたツンが、驚きと微笑みの入り混じった複雑な顔をする。
(´・ω・`)「うん。すまないね」
軽く頭を下げておいた。
ドクオは学校を休みがちだった。
それでも学校に籍はあった。
望みはあった。
このままドクオが死ななければ、万事うまくいく。
141
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:16:00 ID:JUjYJa420
ツンと一緒にドクオの自殺を阻止するのは、僕たちの日課になった。
タイムリープするのはツン。僕は彼女といっしょに作戦を練った。
100
本来の自殺が春だったことを考え見れば、季節はすでに秋。
半年以上も生きながらえていることになる。
101
110
111
だが、依然として自殺は続く。
どうもドクオ自身の気持ちが晴れていないらしかった。
根本的に時を戻さなければならないケースも増えてきていた。
AAA
142
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:17:00 ID:JUjYJa420
AA∀
A∀A
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
EEE
EE∃
いくつもの時間軸を乗り越えて、次第にツンは物静かになっていった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
yyy
yyλ
143
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:18:12 ID:JUjYJa420
タイムリープを行えばツンの精神は削られていく。
そのことについては伝えてあった。
無理をするなとも言っておいた。
ξ゚⊿゚)ξ「気にしないわよ」
ドクオを守るためだから。
言葉のあとには、いつもそう続いていた。
(´・ω・`) ・・・
(´・ω・`)「そうかい」
僕は、聞こえないふりをしていた。
∽∽∽
∽∽S
・
・
・
144
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:19:14 ID:JUjYJa420
その日、ドクオは久しぶりに死にたくなったらしい。
夕方過ぎにふらりと家を出て、駅まで自転車でむかっていった。
ホームに並んで、アナウンスを聞いた。
「特急電車が通過します」
白線の内側に下がる人々の間に立って、ドクオは全く動かない。
その時点で、彼を怪しげに見つめる人もいた。
異様な雰囲気を察したのかもしれない。
踏切の音が聞こえてきた。
ドクオがわずかに身を沈める。足に力が入っている。
ライトが差し込んできた。
特急電車がやってくる。
(´・ω・`)「おい」
ドクオの肩に手を触れたら、不快そうにはらわれた。
まだこちらを向いてくれない。
そして。
ξ゚⊿゚)ξ「久しぶり、ドクオ」
145
:
名無しさん
:2016/04/02(土) 23:20:06 ID:Zgp25WDY0
もはやスペランカーだな
146
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:20:12 ID:JUjYJa420
そのとき、ドクオは何を思っていたのだろう。
突然現れたツンと僕を交互に見た。
学校に出てこないでいる彼に親しく話しかけるのはツンくらいしかいない。
そのツンだって、ぎこちない雰囲気は隠せないでいる。
まして転校生の僕となると、名前だって覚えていてくれているのか自信はない。
ドクオが眉を寄せた。
あたりが静まり返る。
一定のリズムで動いていたヒグラシの声が、急にトーンを落とした。
声は自然と強調される。
「なあ」
('A`)「お前らさ、タイムリープしてね?」
147
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:21:13 ID:JUjYJa420
いったいどこで気づいたというのだろう。
時を遡っているなんて発想が普通の人に浮かぶものだろうか。
時をかけてなどいないというのに、ドクオはそれに気づいてしまった。
SSS
気づいたら、駅のホームの階段だった。
(;´・ω・`)「ツン?」
傍らにたつツンは、手の甲を握って壁に寄りかかっている。
ξ; ⊿ )ξ ハア、ハア
荒く息を吐いており、額には脂汗が滲んでいた。
(;´・ω・`)「おい!」
148
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:22:38 ID:JUjYJa420
精神力の限界。
自分も一度陥ったことのある境地だ。
特急電車の走る音が聞こえてくる。
衝突音、それから悲鳴。
ホームの喧騒を振り返らずに、僕はツンを連れて屋外に出た。
夜空の下の駅前広場。
星の光は夜の街の騒々しい光に相殺されている。
ツンをベンチに座らせて、僕も横に座り、一息ついた。
あわただしく人の行き来する駅を見ながら、しばらくお互い黙っていた。
救急車の音が聞こえてくる。
助かる見込みはあるのだろうか。
粉々に砕ける姿が頭をよぎり、急いで首を横に振った。
149
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:23:40 ID:JUjYJa420
喧噪は後ろにしながら振り返らず、ツンの肩を支えていた。
そうしていないと彼女が身体ごと倒れてしまいそうだった。
(´・ω・`)「深呼吸をしよう」
彼女の背中をさすりながら、提案をした。
ツンの首肯を見届けてから、大きく息を吸って、夜空を見上げた。
目に見えない僕らの吐息が音を立てて流れていく。
何度か繰り返しているうちに、ツンも落ち着いてきたらしい。
肺は大きく膨らむが、苦しそうな声は止んだ。
(´・ω・`)「どうしてタイムリープをしたんだい」
救急車の音が聞こえてきて、自然とその問が浮かんだ。
ξ;⊿;)ξ「わからないの」
語尾を震わせたか細い声だ。
口を開けば、彼女の狼狽は晒されてしまう。
ξ;⊿;)ξ「本当に、どうしてなんだろう。せっかくドクオを助ける機会だったのに」
150
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:25:04 ID:JUjYJa420
本当にわからない。
壊れてしまった玩具のように、ツンはそう繰り返していた。
(´・ω・`) ・・・
(´-ω-`)
彼女のことをかわいそうに思った。
なぜわからないのか。
いくら責めても、問いただしても、答えは返ってこないのだろう。
なぜなら彼女は、優しいからだ。
ほとんど毎日のようにツンと一緒にいる僕にはよくわかっていた。
ドクオが、駅のホームで私たちを振り返ったとき。
彼の視線にあった鋭い悪意に、僕は気づいていたし、彼女だって感じたのだろう。
彼女は、怖かったのだ。
タイムリープをしていた者として、ドクオに敵意を向けられることを。
それはきっと無意識のうちの拒絶なのだろう。
彼女はまだ、自分の瞳が常にドクオから離れないでいることに無自覚でいるのだから。
151
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:26:13 ID:JUjYJa420
僕はいつから気づいていたのだろう。
ドクオの自殺を食い止め始めてからだろうか。
その提案を彼女に持ち掛けてからだろうか。
あるいは、一番初めの時間軸で、彼女の隣の席に着いた時から、うっすらと気づいていたのかもしれない。
ツンはいつも、友人であるドクオの話をする。
ドクオの身を案じ、身を賭して救おうとする。
ツンは、ドクオの傍に居たがっている。
僕の入り込む余地はどこにもない。
気づくチャンスはいくらでもあった。
それでも僕は気づかないふりを通していた。
彼女を救うという大義名分を損なわないために、ドクオとツンとの関係を頭の中から消していた。
ξ;⊿;)ξ「ドクオ……」
走り去っていく救急車の背中を見つめながら、ツンがぽつりと呟いた。
横に僕がいることなどまるで気にしていないかのように。
152
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:27:13 ID:JUjYJa420
ξ;⊿;)ξ「ねえ、ショボン。私、もう一度タイムリープをしたい」
ツンの顔が僕の方へと向けられた。
泣き顔が、星々の光に照らされている。
綺麗な顔だ、と改めて思った。
懇願のために眉根を寄せているのがもったいないくらいだった。
(´・ω・`)「残念だが、君の精神は限界なんだ」
僕はなるべく淡々と説明してあげた。
タイムリープの限界で、意識を失う。
何が起こるか確証はもてない。下手したら廃人になるかもしれない。
事細かに説明すると、上気していたツンの顔が白んだ。
ξ;⊿;)ξ「それじゃ、いったいどうすればいいの」
(´・ω・`)「方法はあるよ。石をくれ」
153
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:28:12 ID:JUjYJa420
ξ゚⊿゚)ξ「タイムリープをするときにもらった石?」
(´・ω・`)「そう」
提案はいたってシンプルだ。
ショボンの力で時を戻す。
ツンがまだタイムリープを授かっていない世界に行く。
精神力を削るのはタイムリープの本人であるショボンだけだ。
ξ;⊿;)ξ「でも、ショボンの精神は大丈夫なの?」
(´・ω・`)「だいぶ休ませてもらったからね。ほんの数か月巻き戻すくらいわけないよ」
片手で胸元をたたいてみたら、思いのほかいい音がした。
ツンの泣き顔に、初めて笑いが入り込んだ。
それだけでも、この時間軸に来た甲斐があるというものだ。
口には出さずにそう考えて、ほうっと大きく息を吐いた。
ξ;⊿;)ξ「ショボン、必ず私に会いに来てね。一緒のクラスになって、作戦を練ろう。ドクオを助けるために」
最後の最後まで、ツンはそう言っていた。
154
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:29:12 ID:JUjYJa420
(´・ω・`)「もちろんだとも」
いつの間にか彼女にさえ、僕は躊躇なく嘘を言うようになっていた。
ツンの顔が穏やかになる。
ξ゚⊿゚)ξ「ありがとう」
赤い目をしながらも、頬をぬぐって、涙の跡をさすっていた。
(´・ω・`) ・・・
(´・ω・`)「うん」
僕から与えてあげたのはほんの小さな同意だけ。
それでも十分だったらしく、ツンは口元を笑いで満たした。
(´・ω・`)「……ははは」
口から洩れた笑い声を野放しにして、僕は空へと祈りをささげた。
掌に包まれた黒の花弁がおりかさなって 熱を帯びる。
あたりがどんどん白んでいく。
駅も、ベンチも、人々も、ツンさえもその場に見えなくなる。
155
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:30:14 ID:JUjYJa420
(111=7) SSS
(110=6) SS∽
(101=5) S∽S
(100=4) S∽∽
(011=3) ∽SS
(010=2) ∽S∽
(001=1) ∽∽S
(000=0) ∽∽∽
↓↓↓
(000=0) ∞∞∞
156
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:32:23 ID:JUjYJa420
最もうまくいった時間軸が何かといえば、ツンが独房へ入れられず、ドクオの世話だけをし続けたあの時だろう。
僕はツンと一緒に商店街の生花店で店番をした。
今まで生きていた中で、一番の輝かしい記憶。
ほんのひと時でも彼女と目的を共有できたことがうれしかった。
タイムリープをした僕だけがその記憶を持っている。
そのときの温かさを忘れたくはなかった。
たとえ彼女がドクオに掛かりきりだとしても、すがりたい思い出ではあった。
だから、記憶を頼りにそのときの服を作った。
彼女が自力でつくったときと同じように、黒いインナーとタイツの上に銀色で塗装された布を巻いた。
その気になれば小一時間で作れてしまう簡単な制作過程だ。
でも、僕にとってみればその服は宝のような思い出だった。
この世のだれも覚えていないというのなら、僕だけがその姿を通して君のことを思い出そう。
これから先の成功を願う勝負服としよう。
そう、思った。
157
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:33:22 ID:JUjYJa420
ξ;゚⊿゚)ξ「……あなた、だれ?」
なりふりはかまっていられなかった。
僕は直接、ツンの家の、ツンの部屋に飛び込んだ。
両親のいない時間ということもあり、中学校を卒業したばかりの彼女はひどくおびえていた。
(´・ω・`)「どうも、未来人です」
全身銀色タイツの僕は、勢いに任せて、流れるように説明を重ねた。
(´・ω・`)「君はいずれこの力で人を救おうとする。覚えておくといい」
驚愕も疑問も猜疑もあって当たり前だろう。
そうわかっていながらも、僕は彼女の表情をつとめて無視した。
158
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:34:02 ID:JUjYJa420
ξ゚⊿゚)ξ「ねえ、もしかして、あなた転校生?」
どきっとした。
投げかけられた言葉はまさしく正解で、でも決して知られてほしくない人だ。
(´・ω・`)「いや、違うよ。僕は転校生じゃない」
学校では噂が広まっているのだろうが、僕の両親に掛け合えば転校先を変えることは容易だった。
今回の手法は、僕の演技に掛かっている。
僕がいるのは裏方で、ドクオと仲良くなるのはツンだ。
ツンとドクオがお互いの傷を癒し合うようにお膳立てをする。
それが僕の立てた、真の作戦だった。
(´・ω・`)「期待してるぞ、ドクオ」
ξ゚⊿゚)ξ「え?」
(´・ω・`)「いやなに、こっちの話だよ」
159
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:35:27 ID:JUjYJa420
僕の笑ったのを、彼女が不思議そうに見つめていた。
なんだかとても平和なしぐさで。
体感としてついさっきまで彼女が廃人になりかけたことを、僕はすっかり忘れた。
こうして僕は、彼女の前から去った。
学校からも離れ、転入先は都内にした。
タイムリープをするのは主にツン。僕はその補佐をするだけ。
すべてはツンを守るためだ。
彼女が平和に生きるために。
僕は、彼女の傍に、ドクオのいる未来を望んだ。
160
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:36:22 ID:JUjYJa420
∞∞∞
∞∞8
∞8∞
∞88
8∞∞
8∞8
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
∧∧∧
∧∧∨
↓↓↓
161
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:37:22 ID:JUjYJa420
街並みの急激な変化にももう慣れた。
僕にとってもっとも価値があるのは、山間で見つかった黒いバラだけだ。
深い山の森の奥へと入り、地滑りが起きて、私は遭難する。
そして、地層から生える黒いバラを見る。
(´・ω・`)「相変わらずだな」
ショボンは吐き捨てるように言った。
黒いバラは何も言わない。
夜の空を照らすなかに、ショボンの顔も見えた。
遠くて小さくて、まるで自分じゃないかのようだ。
162
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:38:32 ID:JUjYJa420
少し前から気づいていた。
ドクオを守り、生き延びさせて、将来まで時間を進めた場合。
地震が起きたときに僕は石を拾わなければならない。
そうしなければ、僕はタイムリープをしないことになり、ドクオは死んでしまう。
未来を得るために、僕はタイムリープを繰り返さなければならない。
ドクオの生きている世界。
生きて、ツンとともにくらしていく 世界。
そこに僕の姿はなくともいい。
(´・ω・`)「さよならだ」
黒い花弁を指でつねる。
青白い光がにわかにともる。
163
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:39:22 ID:JUjYJa420
「待てよ」
と、耳に聞こえてきた。
草木の折れる音。
土の閉める音。
そして、走ってくる音。
(´・ω・`)「え……」
振り向いたその瞬間。
目の前に火花が散った。
164
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:40:23 ID:JUjYJa420
(#'A`)「待てっつってんだこらあああああああああああああああああああああ!!!」
、。
(#'A`)つ))゜ω゜`) 。;`、...o
、。
「なにいいぃいぃぃいいいぃぃぃぃぃぃぃ?!??!?!?!!!!?」))´゜ω゜`)。;`、...o
165
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:41:43 ID:JUjYJa420
顔面への痛打に腰が浮いた。
たたらを踏んで、かろうじて尻餅を逃れる。
(#);´・ω・`)「き、君は……」
(#'A`) フゥー...
見たことのある顔。
なんどもなんども、救おうとしては裏切られてきた顔。
この時間軸では、決して記憶に残る出会い方をしていないはずの顔。
(#);´・ω・`)「……いったい誰なんだ、君は」
この世界で、僕は彼、ドクオとはかかわりのない赤の他人だ。
なぜ彼がここにいるのかは皆目見当がつかないが、大義名分は外してはならない。
言葉に注意しながらも、苦笑いしつつ言を重ねた。
(#);´・ω・`)「ずいぶんなことをするじゃないか。見ず知らずの他人を相手にいきなりぶん殴るなんて。
君のことは知らないが、発散したいものがあるならもっとべつのところへ行って」
166
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:42:41 ID:JUjYJa420
('A`)「何ごたごた言ってんだよ。てめえ、ショボンだろ」
ひゅう、と低く夜風が吹いた。
(#);´・ω・`) ・・・
答えを図りかねている私に、ドクオがさらに口を開けた。
('A`)「あんたなんだろ。ずっと、俺たちを助けてくれていたのは」
何もかも知っている。
そう直感したからこそ、ショボンは深く溜息をついた。
(#)´・ω・`)「どういうことかな。なぜ君が、私のことを覚えているんだ」
167
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:43:42 ID:JUjYJa420
('A`)「勘、というかなんというか」
うーん、と呻きながらドクオは頭をかいて天を仰ぎ見た。
視線を追ったが、ただ星が光っているばかりだ。
('A`)「ちょうど高校に入ったばかりのころかな。死にたくなった時期があったんだ。
仲の良かった友達に死なれて、自暴自棄になっていた。人生どうでもいいと思い始めていた」
('A`)「だけど、気づいたら俺の手元にはメモがあった。
『死ぬな。決して、忘れるな』とそこには書いてあって、見ていると胸がうずいたんだ。
死ぬな、死ぬな、って。そのときは意味が分からなかった。でもとりあえず信じて、死ぬのを躊躇った」
昔のことを語るドクオには、顔だちこそ同じだけれども、高校時代とは違っていた。
死に急いでいたころの顔つきはなくなり、穏やかに生について話している。
頬の痛みが引いていくのを感じながら、岩によりかかってドクオの話を静かに聞いていた。
('A`)「それからしばらくして、たまたま不思議なことが起きた。生花店でバイトしていたときだな。誰かに出会った気がしたんだよ。
メモを持って、覚えていることを書こうとしてうんうん唸っていたけど、結局そのときは何も書けなかった。
でも既視感があったんだ。こんなふうにメモを持って思い出を探ったことがかつてあった気がした」
168
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:44:53 ID:JUjYJa420
('A`)「俺は違和感の正体を知りたかった。友達と協力して自分の知り合いを当たったんだ。
高校時代や中学時代の同級生、先生方、父兄の方々。
最後の最後に、俺の友達が思い出したんだ。そういえば、転校すると言っていたのに直前になってやめた人がいるって」
(´・ω・`)「それで、転校生の正体を突き詰めて僕にありついたというのか」
('A`)「ああ、相当時間がかかっちまったけどな」
かかった、とは思えない。
僕がツンの経営する生花店を訪れてから、ひと月と経っていないはずだ。
(´-ω-`)「君に探偵の才能があるとは知らなかったよ」
頭を下げて、それからすぐに顔をあげた。
(´・ω・`)「だが、悪いがそれはすべて妄想だ。証拠もないだろう。
第一何度もいうが、僕は君と会ったことがないのだ。関わりなど一切ない」
強い口調で言い放った。梢が風に揺れたのが、声のせいにも思えてきた。
169
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:45:42 ID:JUjYJa420
('A`)「そうだな。関わりはない。でも、会ったことはある」
(´・ω・`) ?
('A`)「言えるんだよ。たとえ記憶が無くとも、メモを見たときの俺の頭を確実に何かが過っていたんだ」
なあ、とドクオは言葉をつづけた。
(´・ω・`)「随分と自分勝手な想像を巡らせるな」
('A`)「そうだとも。昔から、そんなふうに生きているよ」
鼻で笑ったドクオは、ショボンの前に仁王立ちをした。
170
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:46:44 ID:JUjYJa420
(´・ω・`)「はは、なるほど。面白い考えだ」
かわいた笑いとともに、ショボンが頬を撫でた。
傷のあった個所も癒えて、ふくらんだ頬を優しく触れる。
(´・ω・`)「しかし、どうして私を止める。
君には関係のない話だろう。私が何をするかなど」
('A`)「この期に及んで、まだそんなことを言うのか」
ドクオが一歩僕のほうへと足を踏み出した。
('A`)「何も言わずに死んだり消えたりするっていうのは、これ以上なく相手を傷つけることなんだよ」
まるで昔の俺じゃないか、と最後に小さく続けていた。
(´・ω・`)「ふん」
胸にわいてくる怨嗟の念を感じながら、僕は噛みしめるように言った。
(´・ω・`)「かわいそうだ、などと言われる筋合いはないよ。
僕がいると君らは不幸になる。だから僕は君らと会わない道を選んだ。
かまわないで、放っておいてくれ。君らは君らで好きに生きればいいだろう」
171
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:47:56 ID:JUjYJa420
('A`) ・・・
(#'A`)「あ゛ー、もうめんどくせえ!!」
叫ぶと同時に、腕をぐるぐると回し始めた。
(#'A`)「んなこむずかっしい話はどうだっていいんだよ!
何が、不幸になる、だよ。どうしてそんなことが言える。
よしんば言えたとして、それが何になる。不幸になろうがなんだろうが、それが俺らの人生だろうが」
僕の目の前で、ドクオは両腕を胸の前に構えた。
(#'A`)「俺が何に怒っているか教えてやるよ。お前のその態度だ。
俺と知り合いになろうともしていないのに、俺のことを全部わかっているかのようなその物言いだ。
お前に俺の何がわかる。お前の見てきた俺が俺の全てだと思うなよ!」
殴りかかったその手はショボンの両手に阻まれた。
肌と手袋とがぶつかって、空気がバシンと軽快な音を鳴らす。
(´・ω・`)「僕とやるのか」
(#'A`)「おうよ、こいよ」
172
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:48:43 ID:JUjYJa420
(´-ω-`) ・・・
(´・ω・`)「いいだろう」
息を短く吐き出すと、僕もまた腕を前に構えた。
息を弾ませて、肩幅程度に脚を広げる。
(´・ω・`)「受けてたとうか、ドクオ。それで君の気が晴れるというなら」
見よう見まねのファイティングポーズだが、形にすると案外立ちやすい。
何事も理に適っているものだなといまさらのように感心する。
目の前にいるドクオは、まだ青筋を立てている。
気が立っている彼を見て、僕の口元が小さくゆるんだ。
確かに、僕はこの人のことを全然知らないのかもしれない。
(#´・ω・`)「かあ!」
173
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:49:52 ID:JUjYJa420
拳と拳が飛び交う。
がむしゃらに腕を振る。息を弾ませ、蹴りを入れ、飛びのいて避けて飛びかかる。
ひたすらそれの繰り返し。自分が何をしているのかもそのうちわからなくなった。
夏の夜の更ける中、そうして戦いはつづけられた。
∧∧∨
何時間が経過しただろうか。
夜だったはずの黒い空が青くしらみ始めている。
(#)´ ω `)
ヒグラシの鳴き声が遠く聞こえる。
耳の鼓膜が破れているようだ。周りはどこもとらえどころがない。
174
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:50:44 ID:JUjYJa420
(メ)A )「へ、へへ……」
横たわる僕の視線の先で、倒れていた彼が笑っていた。
(メ)A )「もう動けねえや、ちっくしょう」
ため息交じりの笑いがひとつ。
(#)´ ω `)「僕もだよ」
頬の腫れはしばらくの間引きそうにない。
(メ)A )「まったく、そんな贅肉だらけのくせにいい拳しやがって」
(#)´ ω `)「君こそ、そんなもやしみたいな体のどこに力を隠していたんだ」
(メ)A )「格闘ゲームは好きだったからな」
(#)´ ω `)「お前それが言い訳になると本気で思っているのか」
175
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:52:08 ID:JUjYJa420
(メ)A )「なあショボン。教えてくれよ。どうしてお前は記憶から消えていたんだ」
(#)´ ω `)「どうした、突然」
(メ)A )「知らないままでいるのも悪い気がしてな」
(#)´ ω `) ・・・
(#)´ ω `)「タイムリープ。時間を遡る力だ」
(メ)A )「時間を?」
(#)´ ω `)「たとえば今ここでタイムリープをしてしまえば、この谷での殴り合いの記憶は勘違いとなり薄れていく」
(メ)A )「なるほど。それでお前のことをどんどん忘れていったのか」
(#)´ ω `)「矛盾が起きないように、調整がされているんだよ。どこかの、それこそ神様の手によってかもしれない」
176
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:52:53 ID:JUjYJa420
(メ)A )「神様、ねえ」
(メ)A ) ・・・
(メ)A )「その力どうやって手に入れたんだ」
(#)´ ω `) ・・・
(#)´ ω `)「ちょうどこの谷の底に黒いバラのような岩が見えるだろう。
あれを拾ってから、この力に目覚めた。宇宙人だか何かの技術が籠っていたんだろうな」
(メ)A )「オカルトかよ」
(#)´ ω `)「オカルトさ」
(メ)A )「なあ」
(メ)A )「あの岩を壊したら、どうなるんだ」
177
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:53:52 ID:JUjYJa420
(#);´ ω `)「なにを言ってるんだ。僕がこれからタイムリープをするから、君は自殺を思いとどまったんだぞ」
(メ)A )「その俺によってあの岩が消えると、何が起こる」
(#);´ ω `)「それこそまさにタイムパラドックスだ。岩が壊されれば君は死ぬが、君が死んだら岩は壊されない」
(メ)A )「じゃあどうなるんだよ。矛盾が起きて、全部吹っ飛んじまうのか?」
(#);´ ω `)「……時間の流れが一方向でしかない四次元世界を生きている僕たちにはその事象は観測できない」
(メ)A )「わからないってことだよな」
(#);´ ω `) ・・・
(メ)A )「俺はさ」
178
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:54:34 ID:JUjYJa420
(メ)A )「馬鹿だから、矛盾だの四次元だの、そういうのはよくわからねえ。
でも、要するに賭けじゃないかな。俺が生き延びるのにタイムリープが絶対に必要なら、矛盾が起きて最悪みんな死ぬ。
万が一にも、時間を遡らなくても俺が生き延びる可能性がもしあれば、あの岩を壊しても問題はない」
だったら、と言葉が続く。
起き上がる影が僕の顔にかぶさった。
ちょうど朝焼けの光を浴びて、ドクオが谷の奥へと歩んでいく。
足元はふらついているが、それでも止まらず進み続ける。
(#)´ ω `)「本気なのか」
声を振り絞って投げかけると、ドクオが後ろ向きに手を振ってきた。
(メ)A )「もしも今度があったらさ、拳じゃなくてゲームで戦おうぜ。俺、喧嘩とか嫌いだし。
小学校のころに流行ったゲームがあってさ、格闘ゲームなのに四人まで遊べたんだよ。
あれ、一緒にやろうぜ」
179
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:55:13 ID:JUjYJa420
ドクオの体がよろめいた。
力が限界に達したのだろう。
前かがみに倒れ行くその姿が、途中の姿勢で立ち止まる。
両の手がバラの花弁を掴んでいた。
首を垂れながらも、腕だけは伸ばしている。
吐息が聞こえた。
声にならないドクオの叫びが谷底に木霊する。
曙の空にカラスが飛んでいく。
次の一日が始まろうとしている。
ドクオの背中がわずかに起きた。
(#)´ ω `)「覚えておくよ、きっと」
ほのやかな暖気に包まれて、僕は意識を失った。
180
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:56:40 ID:JUjYJa420
000
(;´・_ゝ・`)「割り切れないなあ」
職員室の入り口側に伸びている一学年担当者の列の中。
手に持ったコーヒーをこぼしそうになりながら、デミタスは頭を掻き毟った。
ξ゚⊿゚)ξ「何をそんなに悩んでいるんですか、先生」
職員室に来ていたツンは冷ややかな視線をデミタスに向けていた。
(;´・_ゝ・`)「いや、生徒に言うわけにはいかないから。ほら、鍵」
手渡された鍵につけられたタグには「屋上」と書いてある。
夏休みに入ってから、毎日職員室で天体望遠鏡の設置されている屋上に出るための鍵をもらうのがツンの日課になっていた。
ξ^⊿^)ξ「そんな言い方したら気になりますよ」
鼻で笑って問い返したら、デミタスは伏し目になって気もそぞろなようすになった。
181
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:57:22 ID:JUjYJa420
(´・_ゝ・`)「もしかして、気づいてる?」
ξ゚⊿゚)ξ「ていうか、『転入生用』って書かれた封筒が机の上にあるじゃないですか」
脇机の一番上に無造作に置かれていた封筒を、いまさらデミタスは「あっ」とつかんだ。
(´・_ゝ・`)ゞ「いやー、まいったね。まだみんなには黙っていてくれよ。九月から発表だから」
ξ゚ー゚)ξ「黙っておきます。どんな人なんですか?」
(´・_ゝ・`)「それは言えないよ。楽しみにしてなさい」
ξ゚⊿゚)ξ「はーい」
夏休みの職員室は人口もまばらだ。
授業はなく、部活指導や補修の先生が出入りするくらいなものだ。
デミタスは補修を開いていたのだが、午前中にすべての講座は終わり、残務整理をしていたところにツンがやってきた次第だった。
ξ゚⊿゚)ξ「じゃ、割り切れないっていうのは?」
(;´・_ゝ・`)「あ、まだ訊くんだ」
ξ^⊿^)ξ「聞こえたので」
182
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:58:24 ID:JUjYJa420
(´・_ゝ・`)「来年に君たちが行く修学旅行の班だよ」
デミタスは大きく背中を反らして椅子の背もたれに寄りかかった。
軋んだ音をさせながら、腕を伸ばして欠伸をする。暇で仕方ないといった様子だ。
(´・_ゝ・`)「四人ずつで割り切れないんだ。せっかく綺麗に割れていたのに」
ξ゚⊿゚)ξ ・・・
ξ゚⊿゚)ξ「は?」
(´・_ゝ・`)「え?」
ξ゚⊿゚)ξ「そんなことですか」
(;´・_ゝ・`)「な、なんだね。気になっていたことなんだよ」
183
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/02(土) 23:59:23 ID:JUjYJa420
ξ゚⊿゚)ξ「いや、だって」
言葉を一瞬貯めて、ふっとその口元に笑みを浮かべた。
ξ゚ー゚)ξ「一つの班が五人になるだけでしょう。にぎやかになってむしろいいじゃないですか」
(´・_ゝ・`)「そうかなあ」
ぼやいているデミタスを聞き流して、ツンは机の上に置かれた生徒名簿を一瞥する。
飾り気の薄い教師用の一覧表。
一年四組、二九名。
二重線はどこにも無い。
――時をかける俺以外 完
184
:
名無しさん
:2016/04/03(日) 00:00:42 ID:dt9vjJm.0
おつ
185
:
◆QS3NN9GBLM
:2016/04/03(日) 00:03:27 ID:tr20ooCM0
これで本当におしまいです。
それでは。
186
:
名無しさん
:2016/04/03(日) 00:42:41 ID:PSq2jTz.0
ブーン…!!!!乙
187
:
名無しさん
:2016/04/03(日) 00:49:51 ID:998Gek0.0
惚れた女に懸けたショボン様かっこいいぜ
188
:
◆mQ0JrMCe2Y
:2016/04/04(月) 01:16:58 ID:WyaBfnAs0
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189
:
名無しさん
:2016/04/10(日) 01:43:31 ID:FS7EAawc0
ベストエンドなんだろうなぁ…
190
:
名無しさん
:2016/04/10(日) 14:52:04 ID:2uVq2pJ60
ブーンを助ければ良かったんじゃね?とは思ったけど面白いな乙
191
:
名無しさん
:2016/04/10(日) 21:35:02 ID:9W9f2yok0
支援絵描かせていただきました
素敵な作品をありがとう
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2022.jpg
192
:
名無しさん
:2016/04/10(日) 22:11:21 ID:nKWhQ12A0
('A`)の顔色やべぇ
193
:
名無しさん
:2016/04/10(日) 22:12:40 ID:Sn.oaviU0
これは自殺志願者ですわ
194
:
名無しさん
:2016/04/10(日) 23:33:22 ID:DurlGiKo0
心なしか勃起してるように見えてワロタ
195
:
名無しさん
:2016/04/11(月) 16:31:06 ID:HwuPWga.0
ブーン妖精みたいと思ってたらこれショボンか。
196
:
名無しさん
:2016/04/24(日) 19:12:13 ID:SdJUc8mg0
ブーン生き返ったん?
197
:
名無しさん
:2016/04/24(日) 20:19:06 ID:e12jqxMY0
何故?
198
:
名無しさん
:2016/04/25(月) 15:30:42 ID:W91Wnmqc0
二十九名
199
:
名無しさん
:2016/04/27(水) 18:10:44 ID:8js331aQ0
一気に読んでしまった 傑作
200
:
名無しさん
:2016/05/28(土) 03:24:46 ID:S9fhvXXU0
今更つづきに気づいて読んだ
つづきも面白かったよ、おつ
ブーンは死んだままなのかそうでないのかわからないが、少なくともショボンは二人に会えたわけだな
まあブーンが死なずにすむためにはさらに遡って根本的な原因をどうにかしないといけないし(その時ショボンは遠くにいるだろうし)、石を壊したということはタイムリープの影響下にあったブーン以外の3人にしか変化はなさそうだ
201
:
名無しさん
:2016/05/28(土) 03:32:05 ID:S9fhvXXU0
気になって遡ってみたけど、
>>28
に同じクラスになったって書いてあるのと二重線がないということを合わせれば、ブーンも死んでない感じかな
202
:
名無しさん
:2017/08/01(火) 17:31:36 ID:.wytnox.0
ドクオの言う"タイムリープしなくても俺が生き延びる可能性があれば何も問題ない"ってのがこの結末だったんだろうな…。
まず、ドクオが死ぬと黒薔薇壊せなくなるから、矛盾を起こさせないためにドクオを何とかして生かさないといけない。
でもドクオを生かそうにもタイムリープ無しでドクオが生き残る可能性は全くの零だった、と。
だからドクオが死ぬ原因になったブーンの死が起こりえない時間軸が採用された。
このケースなら、ドクオもツンもショボンも自殺やタイムリープする理由がないから健常そのものだし、ブーンも多少精神的にキテるかもしれんが生きてる。
肝心の黒薔薇破壊はドクオを含むメンバーが将来何らかの理由で登山でもした時に起こるんだろうな。
うん、ベストエンドだわ。
203
:
名無しさん
:2017/12/28(木) 21:45:34 ID:k5T7m8VU0
久々に来て過去作読んでるけど、面白かったぞーーー
現行作あったら読みたい!
204
:
名無しさん
:2017/12/30(土) 16:59:27 ID:jfZg44.U0
>>203
作者じゃない自分が把握してる二つ
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/16305/1465560104/
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1505058596/
205
:
名無しさん
:2019/01/16(水) 13:55:21 ID:j8owpi5c0
タイトルで笑ったから読んだが、思ってたのと別ベクトルに面白かった
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