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死ぬも生きるも他人の勝手止める輩は何々奴だ、のようです

1 ◆oFLOXqmM1c:2016/03/27(日) 05:31:01 ID:AtU2hDks0



君が傷つきゃいつでも俺は布を伸ばして助けよう


.

68 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/03(日) 01:28:39 ID:4fiYwfp60
£°ゞ°)「おや、元気がありませんね」

( A )「……ほっといてくれよ」

呼んでもないのに急にやってきたロミスに、何の用だと目で告げる。
からかう時にはこうして気まぐれにやっては来るが、まさかそういうわけではないだろう。
案の定ロミスは、居座る気満々といった雰囲気で俺の隣に座り込んだ。
ベッドが軋む。
俺の体が若干偏る。
そこでようやく、俺は起き上がって座り直した。

£°ゞ°)「お疲れですね」

('A`)「色々あったからな」

£°ゞ°)「疲労が溜まるといつもはある余裕を失うこともありますよ」

('A`)「……慰めてんの、それ」

£°ゞ°)「貴方がそう思うのならね」

('A`)「ロミスも疲れたりすることあるの?」

£°ゞ°)「もちろん」

('A`)「そりゃ意外だな」

£°ゞ°)「呼び出されればすぐ応じるので暇だと思われておいででしょうが決してそうではございませんよ」

神妙な顔つきでそう言うものだから、つられてこっちもそういう顔をしてしまった。

('A`)「なあ、普段は何してんの」

£°ゞ°)「普段は下界でパトロールに当たっています。肉体から逃げ切ってしまった痛みを捕まえたりしていますよ」

('A`)「逃げ切る?」

£°ゞ°)「ええと、以前痛みについてお話ししましたね?」

69 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/03(日) 01:29:09 ID:4fiYwfp60
('A`)「ああうん、人は傷付き傷付け合いながら生きてるってやつでしょ」

£°ゞ°)「そうです。その傷を感じ取るために痛みが肉体には備わっています」

('A`)「痛みがあるからこそ失恋した時に胸が痛むとか、酷い言葉を吐かれれば頭に鈍痛がするとか、そういうやつだろ」

£°ゞ°)「ええ。しかし身にあまる苦痛を感じると痛みは逃げるのです」

('A`)「……なんで逃げちまうんだろな」

£°ゞ°)「……人間は丈夫に出来ていないのです。貴方だって過去に肉が潰れるところを見て正気ではいられなかったでしょう?」

そう言われてしまうと返す言葉はなかった。
ロミスはさらに続ける。

£°ゞ°)「痛みが逃げ出したら気分が楽になった、ハイそれでおしまいめでたしめでたしとはなりません。痛みを失った肉体は徐々に生きている実感が薄くなります」

('A`)「……辛くないと生きた心地がしないってのも嫌な話だよな」

£°ゞ°)「しかし事実なのですよ。苦痛を享受する感覚なしに人間は生きていくことは難しいのです」

('A`)「ご無体な」

£°ゞ°)「さてここで問題です」

でーでん、とロミスの口から効果音。
真面目な話をしているのに、真面目でいられないのはこいつの悪い癖だと思った。

£°ゞ°)「離れていった痛みを本人が取り戻すにはどうすればいいでしょう?」

('A`)「本人が?」

£°ゞ°)「ええそうです。貴方のようにわざわざ他人の痛みを捕まえに行く人は少数ですからね」

さあ、というようにロミスは俺を見る。

70 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/03(日) 01:30:39 ID:4fiYwfp60
('A`)(自分で取り戻す方法……)

痛みを失った肉体は現実感を消失する。
つまり生きた心地がしないということだろう。
なら生きているという確証が必要になる。
生きていると思うにはどうすればいい?

('A`)「……美味いものを食べるとか、仲良い人と話すとか?」

£°ゞ°)「残念ながら不正解です」

('A`)「ダメなのか」

£°ゞ°)「痛みというと悪いイメージしかないのでしょうが、そもそも刺激と捉えればよいのです」

とすると、味覚や感情も刺激に分類されてしまう。

('A`)「……もしかして痛みが逃げ出すと味分からなくなったりするの?」

£°ゞ°)「しますね」

('A`)「マジかよ」

£°ゞ°)「何を食べても砂を噛むようだと言いますね、そういう人は」

('A`)「それキッツいわ……」

そうでしょう、とロミスは頷く。

('A`)「それで、答えは?」

催促すると、ロミスは一瞬迷ったような顔になった。
が、それも一瞬だった。
彼は、こう言った。

£°ゞ°)「自傷を始めます」

('A`)「!」

£°ゞ°)「自らを傷付け、そこから流れ出る血や刺激的な暴力を得ることで、その痛みを呼び戻すのです」

('A`)「……まさか、」

71 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/03(日) 01:31:49 ID:4fiYwfp60
£°ゞ°)「今日、椎名デレの痛みが貴方の手を介さずに戻ったのも、それがあるのでしょうね」

(;'A`)「そんな……」

誰でもいい、どうなってもいいからここから逃げ出したい。
だから助けてくれ、とあの時俺は思っていた。
それが、まさか、こんな……。

£°ゞ°)「……人間にテレパシー能力なんて存在しませんよ」

見透かすようにロミスは言う。

£°ゞ°)「貴方が戦っている時、たまたま椎名デレは家にいて、自傷したいと思った。ただそれだけです」

('A`)「……つーかなんでそんな大事なこと黙ってたんだよ」

本当は知ってたんだろ? と視線で訴えるとロミスはじっと見つめ返した。

£°ゞ°)「私が言うべきことではないと判断したからです」

('A`)「なんで、」

£°ゞ°)「椎名デレに会わなければ知り得ない情報だからです」

まさかこんなにすぐ発覚するとは、とロミスは苦い顔をした。
たしかに、事前にロミスから聞いていたら俺は冷静さを欠いてその証拠探しをしてしまうだろう。
そうなるとデレだって、どうして俺がそんな事をしているのか不審がるだろう。

('A`)「……自傷させるの、どうにか止めさせられないかな」

£°ゞ°)「貴方は自傷をどう捉えています?」

('A`)「死にたいから切ってるのかな、って」

£°ゞ°)「でしたら首吊りなり電車に飛び込むなり色々方法はございますでしょう?」

どうしてこんな回りくどい方法を取るのか。
俺は考える。
死にたいわけではどうやらなさそうだ
そして痛みを取り戻す方法の一つに、自傷があるらしい。

72 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/03(日) 01:33:24 ID:4fiYwfp60
('A`)「……生きるため?」

見つけ出した答えを呟くと、ロミスは頷いた。

£°ゞ°)「往々にして自傷をなさる方は本気で死ぬ気ではないのですよ。死にたくて仕方がないと思いつつも、その手前で引き返す方がほとんどです」

('A`)「切ると楽になるの?」

£°ゞ°)「まあ、そうですね」

(;'A`)「痛くて安心するってのがよくわかんねえわ……」

£°ゞ°)「科学的な視点に寄せて言うならば、エンドルフィンという物質がありまして。基本的には人から抱き締められた時に分泌されるのですが、自傷をした時にもそれは得られるようです」

自傷をする人は自己肯定感が異様に低い。
誰かに褒められても、それを本人が受け入れなければなかったことになる。
自分は孤独だと思う人が唯一安心できる、己を抱き締められる行為が自傷なのだとロミスは語った。

£°ゞ°)「もちろん不健全な行為に入りますよ。気味悪がるのも当然です」

むしろ異常だとはっきりロミスは突っ撥ねる。

£°ゞ°)「しかし健全な行為だけで生きられる世界でもありません」

('A`)「……じゃあ、ほっとけっていうのかよ」

£°ゞ°)「いいえ、いずれは治していかなくてはなりません」

最初はほんの少しの傷で満足出来るらしい。
それこそ、ハサミで薄っすらとした傷を作るだけでも痛みは戻ってくるそうだ。
しかしそれに慣れてしまえばどんどん物足りなくなる。
傷はより深く、より多く、より短期間に増えていく。
腕が洗濯板状態になるのはそういう理由があるからだそうだ。
やがてそれも過ぎ去ると、今度は瀉血や薬物のオーバードーズへと移行していく。
大量の血が流れる光景や、生と死の狭間に立つ博打はとてつもない生の実感を得られるのだという。
もちろん、その先にあるのは死だ。

73 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/03(日) 01:34:41 ID:4fiYwfp60
£°ゞ°)「痛みが逃げ出した後の死というのは、死神にとっても非常に厄介でして」

('A`)「厄介っていうと?」

£°ゞ°)「死後の裁判というのは、他人に与えた傷と与えられた傷の両方を読み取って行われます」

('A`)「両方いるのか」

£°ゞ°)「ええもちろん」

さも当然という顔でロミスは頷く。
曰く話はこうだ。
例えばAという人が亡くなるとする。
Aの中にはBという人を傷付けたという痛みが残っている。
しかしBにとっては、そのAの行いがさほど気にならないものだった。
Bは痛みを感じていないので、傷付けたと思い込んでいるのはAだけ。
だからそれを、罪としてカウントしないのだそうだ。

£°ゞ°)「ところがもしBが他の要因でとても傷付いて、痛みが逃げ出してしまうとその資料が集められないのです」

おまけにそこでBが死んだら、痛みはそのまま世界を彷徨うことになる。
結果、Aの裁判はそこでストップしてしまうらしい。

£°ゞ°)「あまり大きな声では言えませんが、本当は死者の蘇生だってご法度なのです」

('A`)「えっ」

そんなの初耳だ、という顔になる。
するとロミスは俺の口に、そっと指を乗せた。

£°ゞ°)「極めて限定的な条件が揃った場合にのみ、それが黙認されているのです」

('A`)「条件って……」

£°ゞ°)「自殺を目撃した人物が一人のみで、その人が自殺者の生を願い、犠牲になることを誓った場合です」

とはいえ痛みとの戦いがこんなにも辛いと思っていなかった人は、早々に文句を言うらしい。
それを黙らせるために約款の唱和を義務付けているとロミスは語った。

74 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/03(日) 01:36:40 ID:4fiYwfp60
('A`)「死神も大変だな」

£°ゞ°)「私はまだマシな方ですよ。裁判所では死者が溢れかえっているそうですから、そちらで勤めている死神は過労死寸前だとか」

('A`)「死神も死ぬのか」

£°ゞ°)「いいえ、ものの例えです。我々の体は丈夫に出来ていますから」

それもなんだか辛い話である。
当のロミスは、そんな所で働いていなくてよかったー、という感じだったが。

£°ゞ°)「今までそれで揉めに揉めたのはSMプレイで死んだカップルの片割れでしたよね」

('A`)「は?」

£°ゞ°)「やれあそこで絞めたのは痛くなかっただのこれは痛かっただの、責めた方は責めた方で自分に落ち度はないとか開き直っていましたし」

('A`)「うわぁ……」

£°ゞ°)「まったく、人というものは困ったものですね」

('A`)「そんな変態は一握りだと思うぞ」

そう答えると、ロミスはからからと笑った。
俺もつられて笑った。
だけど、心の中ではとんでもないことをしてしまったという気分になっていた。

('A`)(デレも死にたくて切ったわけじゃないんだろうか)

むしろ生きるために切ったのだろうか。
俺には分からない。
だけど、酷いことを言ってしまったのは確かだった。

('A`)(……明日、顔合わせよう)

あっちはもう俺の事を嫌いになってしまったかもしれないけど。
でも、また元の通りになりたいと、願わざるを得なかった。

75 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/03(日) 01:37:39 ID:4fiYwfp60
ドクオが帰ってから、しばらくして、呆然としていたわたしは、ようやく、そう、ようやくベッドに倒れこんだ。

ζ( ー *ζ(なんてことをしてしまったんだろう)

ドクオは傷付いていた。
とても傷付いた顔をしていた。
約束を破ってしまったせいだ。
わたしが悪いのだ。
ずっと我慢していたのに、我慢できなかった。

ζ( ー *ζ(死にたい)

死ねと言われた。
好きな人から、死ねと、言われた。
それもいいかもしれない。
とうとうわたしを必要としてくれる人はいなくなってしまった。

ζ( ー *ζ「…………」

足を動かす。
親指で腿のあたりを引っ掻くようにして、靴下を引きずり下ろす。
左の足首には、真新しい傷。
そこにむかって、何度も踵を下ろした。

ζ( ー *ζ「うっ、ぅ、ぅ……!」

痛い。
わりと痛い。
切っていた時は痛くないのに、蹴りつけている今はとても痛い。

ζ( ー *ζ(痛くていい)

こんな女は死んでしまえばいい。
誰もお前を必要としていない。
お前を嫌っている。
胸の奥からとめどもなく罪悪感と自己嫌悪が溢れてくる。
それに任せて、わたしは腕を捲った。
目盛りのように刻まれた醜い傷跡が見える。

76 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/03(日) 01:38:26 ID:4fiYwfp60
ζ( ー *ζ(こんなものっ……!)

古い傷跡目掛けて歯を立てる。
痛い。
微かに、痛い。
あまり痛くない気もする。
よくわからない。

ζ( ー *ζ「わたしだってお前が嫌いだ」

デレはデレが嫌いだ。
こいつはバカだから、誰にも愛されないから。
お母さんもデレが嫌いだ。
わたしは不幸じゃないから、世の中にはもっと可哀想な人はいるから。
クラスメイトもデレが嫌いだ。
春先なのに長袖のジャージを着ているから、変に思ったに違いない。
時折袖から見えてしまう手首の傷に顔を顰めたのは彼らだけではなかった。
先生もデレを面倒な子だと思っている。
気難しい子だと思っている。
何かあったらいつでも相談してね、なんて嘘っぱちだ。
あれは建前だ。
本当に助けてくれる気なんてありはしないのだ。
……ドクオは、わたしを嫌いになった。
今までたくさん側にいてくれて、いつだって味方をしてくれた。
お母さんを嫌いになれないわたしの代わりに嫌ってくれた。
怒る気にもならないわたしの分まで、怒りを覚えていた。
自分のことなんてどうでもいいと思っているわたしのことを、心配してくれた。
わたしは、ドクオのようになれたらいいのにと思っていた。
でも。

ζ( д *ζ「なれないよ……っ!」

なれなかった。
わたしはドクオになれなかった。
大好きなドクオのようには、なれなかった。
なれるわけもない。
わたしはクズだ。
最底辺のクズだ。
そもそも好きになんてなっちゃいけなかった。
優しくしてくれるのは、ドクオがいい人だからだ。
その優しさを今まで貪ってきたわたしは、なんて汚いのだろう。
あげくに、好きになりすぎて、苦しくて、勝手に辛くなって、足首を切って、ドクオを傷付けて。

77 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/03(日) 01:39:02 ID:4fiYwfp60
わたしはドクオのためになにかしたことがあった?
なんにもしていない。
それどころか不愉快な思いまでさせて、本当に最悪だ。
死んでほしい。
今すぐに死んでほしい。
それじゃなきゃ殺してほしい。
玄関のドアは未だ開いている。
今すぐ殺人鬼が、この部屋に押し入って、そうしたら、わたしは、謝りながら、抵抗せずに、殺されるから。

ζ( д *ζ「誰か、殺してよ……」

呻くように呟いた時だった。

「はあい?」

と、幼い声がした。

ζ( ー *ζ「!?」

慌てて起き上がって、部屋を見回す。
すると、勉強机の上に茶髪の少女が座っていた。
修道服のようなゆったりとしたワンピース姿で、でもセーラー襟がついていて、とても独特でかわいい服を着ているな、と場違いなことを考えていた。

リハ*^ー^リ「こんにちわ」

ハキハキした声で挨拶され、少し面食らった。

ζ(゚ー゚*ζ「あの、あなたは……」

リハ*゚ー゚リ「わたしは死神」

すとん、と机から飛び降りて、少女はわたしの前に踊り出る。

ζ(゚ー゚*ζ「しに、がみ……」

リハ*゚ー゚リ「そ、死神」

ζ(゚ー゚*ζ「……わたしを殺しにきたの?」

リハ*゚ー゚リ「殺すなんてそんな、わたしはあなたを助けにきただけよ」

78 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/03(日) 01:40:04 ID:4fiYwfp60
胸元のスカーフを弄りながら、死神はそうい言った。
真っ赤な布に、白い水玉がぽつぽつ。
見たこともないような配色のそれは、とてもよく似合っていた。

リハ*゚ー゚リ「死にたいのなら手を貸してあげるわ」

ζ(゚ー゚*ζ「……どうやって、」

リハ*゚ー゚リ「死ぬのが怖くないようにしてあげる」

本当は怖いんでしょう? と微笑まれる。
少し迷った後、わたしは頷いた。
……卑しいことに、またドクオと会って話が出来たら、もし仲直り出来たらなどと考えていた。
それもまた汚い感情で、捨てられるのであれば捨てたいくらいだった。

リハ*゚ー゚リ「その未練を、わたしが断ってあげる」

ζ(゚ー゚*ζ「未練……」

リハ*゚ー゚リ「もう痛い思いをしないように、楽にしてあげるから」

ζ(゚ー゚*ζ「わたし、」

リハ*゚ー゚リ「決めるなら早いうちに決めちゃってよね、わたしも忙しいからさ」

ζ( ー *ζ「わたし……っ!」

79 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/03(日) 01:41:15 ID:4fiYwfp60
('A`)「ところでさ、ロミス」

£°ゞ°)「何でしょう?」

('A`)「逃げ切った痛みってどうなんの?」

£°ゞ°)「厄介なことになりますよ。肉体のない痛みもまた己の存在に自信が持てなくなるのです」

('A`)「自信が持てなくなる……」

£°ゞ°)「ええ。そうなると他人を傷付けたい衝動に駆られるのです」

('A`)「それって、」

£°ゞ°)「心が弱っている人に漬け込んで、様々な害を成します。幻聴や幻覚はもちろんのこと、希死念慮や自殺願望もその一部です」

(;'A`)「…………」

£°ゞ°)「これがさらに厄介なものになると、他人の痛みを奪い取り、支配してしまうのですよ。自分の存在をより確かなものにするために、ね」

(;'A`)「恐ろしいな」

£°ゞ°)「とてもじゃありませんが、貴方では太刀打ちできないでしょうね」

('A`)「そんなことあってたまるかよ」

£^ゞ^)「はは、人生何が起きるか分かりませんからね」

80 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/03(日) 01:41:49 ID:4fiYwfp60



死ぬか生きよかわたしが立つは細く連なる赤い線 了


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81名無しさん:2016/04/03(日) 09:49:08 ID:h3vuX0es0
どんどん世界が深くなって面白くなってる
デレ早まるなよ


82名無しさん:2016/04/03(日) 09:56:35 ID:f2NM6.1g0

嫌な予感しかしないわ
頑張れ

83 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/03(日) 23:49:32 ID:4fiYwfp60


死ぬも生きるも他人の勝手止める輩は何々奴か


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84 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/03(日) 23:50:03 ID:4fiYwfp60
初めてその音を聞いたのは小二の春休みだった。
俺は母さんと一緒にデパートへ行こうとしていた。
親父の誕生日プレゼントを買いに行って、昼食をレストランで食べて、予約していたケーキを受け取って、それから家の中を飾りつけようと二人で決めていた。
プレゼントは、ハンカチとネクタイを選んだ。
次の日には親父が単身赴任してしまうから、その餞別も兼ねていたのだ。
きっと喜んでくれるね、寂しくなくなるといいね。
そんなことを母さんは言っていたと思う。
午後三時過ぎにデパートを出て、今度はケーキ屋さんに行くことにした。
外に出ると春一番が吹いていて、これがまた近年稀に見る強風だったそうだ。
飛ばされてしまいそうな幼い俺の手を、母さんはしっかりと握っていてくれていた。
今日はすごい風だね、風が駆けっこしてるのかな、明日もこんな天気じゃ出張も大変だなぁ。
たわいのない会話である。
だけどいくらでも思い出せる。
デパートを出て数分後、俺と母さんは工事現場を通りかかった。
なんでも再開発で、とんでもなくでかいショッピングモールが出来るのだと聞いていた。
誰もがその完成を楽しみにしていた。
俺と母さんも同じだった。
お店が出来る頃にはきっとお父さんも帰ってくるよ、じゃあ一緒に行こうね。
約束だよと言う俺の声に、男の怒声が響いた。
その次の瞬間、俺は地面に倒れていた。
それから遅れて、ぐしゃりと、いや、言いようのない音がした。
水気を含んだものが弾き飛ぶような、そういう音だった。
気付くと、母さんは肉塊になっていた。
強風に煽られて落ちてきた鉄骨の下敷きになったからだった。
後の事はあまり覚えていない。
しばらくトマトや肉が食えなくなったり、単身赴任を蹴って側にいてくれた親父に散々泣きついたりしていたような気はする。
それ以来俺の家に誕生日という日はなくなってしまった。
親父の誕生日は母さんの命日になってしまったし、俺も自分の誕生日がどうでもよくなってしまった。
別に不幸ともなんとも思っていないのだけど。
それから一年経って、夏が来た。
小三になった俺は、夏休みを全力で謳歌していた。
母さんがいなくなって寂しいこともあったし悲しいこともあった。
しかし幸いにも、先生や友達に恵まれていた。
彼らに支えられて、どうにか俺は普通の生活を送れるようになっていた。

85 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/03(日) 23:50:35 ID:4fiYwfp60
そんなある日曜日。
午後だった。
昼食を食べに一度友達と別れて、団地に戻ったのだ。
その日は親父も休みだったから、きっとまたそうめんを食べさせられるだろうとうんざりしていた。
親父は料理が不得手だったのである。
ここまで育ててくれたから文句はないが、しかし下手である。
そんなわけでもたくさと家の鍵を取り出して、いざ中に入ろうとした時だった。
こんにちは、と朗らかな声がした。
振り向くと、手提げ袋を提げた女性が立っていた。
その後ろでは、俺と同い年の女の子が縮こまるようにして寄り添っていた。
夏の盛りなのに、彼女は白い長袖のシャツと色褪せたデニムのショートパンツを履いていた。
変な格好だと俺は眺めていた。
女性は椎名と名乗った。
引っ越してきたばかりなので挨拶に来たのだという。
自己紹介をされたら自分も挨拶をしなさい。
学校でそう習っていたから、俺も名乗った。
すると椎名は、ひどく哀れっぽい視線を俺にくれた。
わたしあなたのことを知っているわ、お母さんを事故で亡くしたのでしょう?
誰も触れてこなかった傷に、椎名は土足で踏みにじった。
悪意は一切なかった。
ただひたすら、俺の身に起きた不幸を嘆いていた。
そして、手提げ袋から小冊子を俺に押し付けた。
どんなに不幸でも神様は見守ってくださるわ、可哀想なあなたのお母さんのために祈ればきっとあなたのためになる、本当よ。
瞬間、俺は火がついたように泣き出した。
それでも椎名は、勧誘をやめなかった。
異様な気配を察した親父に怒鳴り散らされるまで、椎名は祈りを勧めてきた。
その間、あの子はずっと俯いたままだった。
以来、団地や学校で椎名家の人間は警戒されるようになった。
椎名家、といってもあの頭のおかしいババアとデレの二人暮らしだった。
実害があるのはあの勧誘ババアだけで、デレは至って大人しかった。
それこそ空気になってしまいたいというように。
しかし子供は残酷なので、それを許すはずもなかった。
デレはいじめられた。
それはもう、凄惨なまでに。
先生も面倒事が起きていると認識したくないのか、介入してこなかった。
デレもまた、誰かに助けを求めることはなかった。
俺はただそれを傍観していた。
加わることもなく、話しかけることもなく。
ああ、今日もいじめられている。
そう思うだけだった。

86 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/03(日) 23:51:07 ID:4fiYwfp60
だけど、冬休みに入る前の日にちょっとした変化が起きた。
俺は忘れ物をして、学校に取りに戻った。
わりと計画的に荷物を持ち帰る方だったので、それに狂いが生じるのが許せなかったのだ。
教室に入ると、デレがぼんやりと窓の外を見ていた。
寒い風が吹いてくるのに、窓は開け放されていた。
なぜか俺はその時に、こう声をかけた。
風邪ひくよ、と。
するとデレは、驚いた顔をして振り向いた。
声をかけるまで人が来たことに気付かなかったのだろう。
デレは怯えた目で、ごめんなさいと謝った。
俺は、怒ってるんじゃなくて風邪をひいてしまうのを心配して言ったんだと釈明した。
デレは不思議そうな顔で黙り込み、ゆっくりと窓を閉めた。
会話が途切れ、気まずくなった俺は自分の席へと駆けて行った。
そして忘れ物を引っ張り出して、駆け出そうとした時だった。
お母さんが、変なこと言って、ごめんなさい。
いきなりの謝罪に、今度は俺が驚いた。
話を聞けば、あの夏の事件以来ずっと謝りたかったそうだ。
本当にごめんなさい、と謝り続ける彼女が怖くて、俺はその場から逃げてしまった。
デレは、追いかけてこなかった。
その次の日に出会っても、彼女は何も言ってこなかった。
俺もまた彼女を無視するふりをした。
本当は、話したくて仕方がなかった。
お前のお母さんはあんなんだけど、お前は普通の人なのか? と聞いてみたかった。
今までは得体の知れない人だったから、いじめられたってその内心に興味はなかった。
けれどもあの謝罪を聞いてしまうと、彼女にも心があるのだということを意識してしまった。
その日から俺の視界にデレは入り込んできた。
団地の廊下で鬼ごっこをしていても、公園で上級生から追い立てられている時も、クラスメイトたちが冷たくデレを見ている時も。
ずっと俺は気にかけていた。
……年を越した頃だっただろうか。
そうだ、明日から始業式だという時だった。
俺はデレを尾行していた。
というのもすることがなかったからだ。
俺の友達は誰一人として宿題を終えていなかったのである。
俺はとっくに終わらせていたから、一人で団地内を散歩していたのだ。
そうしたらデレが非常階段がある方へと歩いていくのを見てしまったのだ。
非常階段はどんな不良の上級生でも近付くことのない場所だった。
なにせ管理人にバレると雷の一つや二つでは済まないからである。
危ないから近寄ってはいけないよ、とよーく言い聞かせられていたものである。
団地に住む子供なら誰でも知っていた。
……しかしデレは後から来た子供だった。
そのルールを教わることもなかったのだろう。
当時の俺はそう考えて、つい後を追ってしまったのだ。

87 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/03(日) 23:51:40 ID:4fiYwfp60
立ち入り禁止と書いてある札を、デレは容易くくぐり抜けた。
その時点で俺の心臓はうるさいほど鳴っていて、何が起きるのだろうと少し楽しみになっていた。
俺はデレのことを何も知らなかった。
知る機会もなければ、知りたいという欲求もなかった。
その二つが同時にやってきた気がして、俺は一人でにやけていた。
デレはどんどん階段を上がっていく。
時折見える茶髪のツインテールが、目印であった。
最上階に着くと、今度は頭一つが見えた。
手すりに乗っかったのだろう。
でもそんなことをすると危ないのに、と思っているとデレと目が合った。
デレの目は、がらんどうの瞳をしていた。
はっきりとは見えなかったのに、そう確信していた。
嫌な予感がする。
そう思った時にはもう遅かった。
あの音が、俺の鼓膜を震わせた。


( A )「…………」


そして、三たび、その音は聞こえてしまった。

( A )「あ、あ……」

体が震える。
足がガクガクとしていて、それでもしがみつくように手すりに手をかけた。
せり上がってくる胃液を必死にいなして、下を見る。











ζ( ゚。g*ζ





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88 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/03(日) 23:52:15 ID:4fiYwfp60
死んでいた。
デレは、どう見ても、死んでいた。

( A )「うそだ」

滑るように階段を下りる。
間近でデレを見つめる。
……やはり、死んでいる。

( A )「あ、ぁ……!」

死んでしまった。
いや、殺してしまった。
そんなに死にたきゃ、勝手に切ってろよ、なんて、言ったから。

(; A )「デレ……っ!」

亡骸に縋り付こうとした時だった。

「これはまた厄介なことになりましたね」

聞き馴染みのある声だった。
もう縋るにはこいつしかいない、という人物の声だった。

(;'A`)「ロミス!」

なんとかしてくれ、という目で訴える。
が、彼は首を横に振った。

£°ゞ°)「手首のあたりをご覧なさいな」

そう言われて袖を捲ると、古傷が微かに開いていた。

(;'A`)「な、なんだこれ……!」

傷口の中には、赤い肉。
まあ、これは普通だ。
あまり見たくないものだけど。
そしてその肉に、じんわりと、白い水玉が浮き上がっていた。

89 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/03(日) 23:52:44 ID:4fiYwfp60
£°ゞ°)「逃げ出した痛みというのは何故か水玉模様と編模様というモチーフを大変好みまして」

(;'A`)「は?」

£°ゞ°)「まあ要するに、椎名デレは自分の痛みを奪われてしまったのでしょう」

(;'A`)「っ……!!」

昨日のロミスとの会話を思い出し、背中から冷や汗が出た。

(;'A`)「……その、逃げ出した痛みと戦って俺が勝つのは、」

£°ゞ°)「昨日も言った通り、貴方様で太刀打ちできるような代物ではありません。我々死神の手にも余る存在なのですよ!」

('A`)「だけど、」

£°ゞ°)「だってもそってもロッテもありません。今回は諦めてくださいませ」

('A`)「……俺、死んでもいいよ」

£°ゞ°)「軽々しく死んでもいいなどとは、」

('A`)「軽々しくなんかねえよ」

ようやく俺は思い出した。
俺は別に、デレのためを思って彼女はのそばにいたわけではない。
俺はデレにいて欲しくて仕方がなかったのだ。
同時に、デレを助けている英雄的な自分も欲しかった。
俺は騎士になりたかったのだ。
デレを姫にしたかったのだ。
でもそんな高尚なものではない。

('A`)(むしろ、薄汚え欲望だ)

俺は、欲しい。
デレが欲しい。
そばにずっといて欲しい。
英雄だなんて褒められなくてもいい。
恩人とかそういうものもいらない。

90 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/03(日) 23:53:14 ID:4fiYwfp60
('∀`)「一緒に生きたいだけなんだ」

その事に気付くまでどれほどの時間が掛かったのだろう。
自分の馬鹿さ加減に嫌気がさしそうだった。

£°ゞ°)「……死んでも知りませんよ」

('A`)「おう」

£°ゞ°)「……そういう時は意地でも生きて帰るぞとか、そういう言葉を言うものでしょう」

まったく、と言った風にロミスはため息を吐いた。

('A`)「はは、それもそうだな」

呆れているのか、ロミスは笑みを浮かべていなかった。
眉間に軽くシワを寄せながら、ううむ、と考えているようだった。

£°ゞ°)「……あなたが諦めてここへ帰ってくるか、死ぬまではここを現世から隔離します」

('A`)「おう」

£°ゞ°)「こちらに帰ってきたら、今までの契約を破棄する事にします」

('A`)「……おう」

£°ゞ°)「もう二度と、椎名デレのために戦うことは出来ません」

('A`)「うん」

£°ゞ°)「その代わりに、今回だけは特別に私の痛みもお貸しします」

('A`)「うん……?」

と、適当に相槌を打った刹那。

(; A )「おおおおあああ……!?」

91 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/03(日) 23:54:03 ID:4fiYwfp60
体が、強制的に包帯へと置き換えられていく。
膨大な白布の波に、意識が吸い込まれていく。
その波間には見覚えのない武器がちらほらと見えた。
それがどうやって使うものなのかを、俺は瞬時に理解できた。
でも、

(//‰ ゚)「……見た目は変わんねえのな」

£°ゞ°)「見た目は変わらなくともかなり有利に戦うことができると思いますよ」

とはいえ痛みを殺すことは出来ない。
俺がやるのは、デレの痛みを奪い返すこと。
それを連れ出した犯人に関しては、放っておいてもいいとロミスは言った。

£°ゞ°)「まあ、万が一に備えてかまを用意しておきますけれどもね」

(//‰ ゚)「おお、死神らしいな」

£°ゞ°)「そうでしょうとも」

おっとりとした口調で、しかし次には屹然とした態度でこう言った。

£°ゞ°)「貴方様のお迎えに行くのは勘弁願いたいですよ」

(//‰ ゚)「……おう」

ロミスが指を鳴らした瞬間、俺は強風に巻き上げられた。
目まぐるしく景色が変わっていく。
あっという間に団地どころか、市内、いや県外を飛び出ていったようだ。

(//‰ ゚)(デレ)

お前の痛みに会いたい。
そう願って、俺は身を預けた。

92 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/03(日) 23:54:39 ID:4fiYwfp60
気付くとそこは高層ビルの建ち並ぶ都会だった。
天を刺すように連なるビル群は、田舎者の俺にはとても冷たいものに見えた。

(//‰ ゚)(デレ……)

どこにいるのだろうか。
そう思って見回していると、一際高いビルが目についた。

(//‰ ゚)「!」

川 ゚   ゚)「…………」

いた。
デレの痛みが、いた。
しかし何かがおかしかった。
俺は包帯を飛ばして、ビルからビルへと飛び移った。

(;//‰ ゚)「あれは……!」

川 ゚ ※ ゚)「…………」

デレの痛みは、不愉快になる程ポップな赤色と、潔癖さを感じる白い水玉模様に犯されていた。
中でも顕著なのは唇だ。
あの赤黒い唇は、今や真っ赤に染まって白い水玉がぽつぽつと膨れていた。
水玉模様がこんなにも不気味なものに見えたのは、人生初めてではないだろうか。

リハ*゚ヮ ゚リ「  、   」

その横では、見知らぬ少女が寄り添っていた。
俺は確信した。
こいつが、デレから痛みを奪い取ったのだろう。

(//‰ ゚)「おおおおおお!!!!」

一際高いそのビルを登るには、足場が必要だった。
だから俺は、包帯止めを壁に打ち付けてやった。
それを足がかりに、ひたすら壁を登った。

「あらぁ?」

と、頭上から声。

93 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/03(日) 23:55:30 ID:4fiYwfp60
ふと顔を上げれば、あの少女と目があった。

リハ*゚ー゚リ「やぁね、わたし男の子は嫌いなの」

(//‰ ゚)「俺もお前のことは嫌いだぜ」

ようやく、屋上へたどり着いた。
しかし少女はにんまりと笑って見せた。

リハ*゚ー゚リ「そこだけは気があうね」

少女の影が、ごぽりと泡立った。
そこから飛び出してきたのは、セーラー服姿の少女だった。

(//‰ ゚)「っ!」

ただし顔はわからない。
顔は醜く、赤と白の水玉模様で修正されていたからだ。
髪型やスカートの丈、あるいは微かに漏らす笑い声。
どれもそれぞれ特徴があるというのに、やはり見分けはつかなかった。

リハ*゚ー゚リ「男の子なんか嫌いよ」

その言葉と同時に、水玉少女は特攻してきた。
鞭のように包帯をしならせ、首を狩る。
案外脆いようだった。

(//‰ ゚)(数の割には大したことがねえ!)

これならいけると思った矢先に、目の前で水玉模様が炸裂する。

(※/‰ ゚)「っ!?」

どうやら、この少女は爆発するらしい。
おまけにその体液が付着した包帯は、脆く崩れ落ちた。

リハ*゚ー゚リ「女の子は繊細な生き物なの」

悪戦苦闘する俺を眺めながら、少女は呟く。

94 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/03(日) 23:56:07 ID:4fiYwfp60
リハ*゚ー゚リ「優しく接してあげなくちゃ、みんな怒っちゃうわよ?」

(//‰ ゚)(くっ……!)

捌いても捌いても水玉少女の数は減らないし、体を織り上げなければあっという間に少女たちに踏み潰されてしまうだろう。
それはごめんだった。

リハ*゚ー゚リ「嫌なものはみんな消えちゃえばいいの」

(;//‰ ゚)「!!」

空から水玉少女が降ってきた。
一人、二人、五人、十人、三十人。
空はおびただしい血の色に染まり、少女たちは俺目掛けて落ちてくる。

(;//‰ ゚)「く、っそ、がぁ!!」

急いで包帯の盾を作る。
四方八方いたるところに、それから包帯止めでしっかりと止めた。
あとは僅かな隙間から狙いを定めて……。

(#//‰ ゚)「いっけえええええ!!!」

アンプル型のミサイルが、空から降ってくる水玉少女を撃退する。
断末魔が響き渡ると、ビルが微かに揺れた。
甲高い声のせいで、耳がキンキンと痛んだ。
構わずにミサイルをもう一度撃ち込む。
撒き散らされた体液が、屋上の少女たちに降り注ぎ、溶かしていく。
屋上の少女たちもまた、静かに朽ちていく。
何もかもが溶けて、床には延々と白い水玉が広がっていった。

リハ*゚ー゚リ「綺麗」

うっとりとそれを眺めているのは少女だけで、デレの痛みは不愉快そうに見つめていた。
俺はというと、包帯の要塞に相変わらずこもっていた。
とにかく外が安全になるまで、こうしているしかなかった。

アンプル型のミサイルは、容赦なく白い毒を撒き散らす。
水玉模様が好きなくせに、水玉の部分が増えていくと少女たちは怒り狂った。

95 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/03(日) 23:57:02 ID:4fiYwfp60
(//‰ ゚)(悪夢みたいだ)

赤の上に白を塗りつぶされて消えていったり、包帯に包まれてそのまま姿を消したり。
俺はうんざりしていた。
こんな非現実的な光景、もう見たくなかった。
そんな有様を見ているのに、少女たちは何を感ずることもなく、襲いかかってくる。

(;//‰ ゚)「くっ……」

要塞はほぼ崩れかけていた。
気休めに弾丸のように包帯止めを飛ばしても、効果は薄かった。

(;//‰ ゚)「はっ、はっ、はっ……」

アンプルを出す力は枯渇したらしい。
どれほど念じても苦しさだけが残り、どうすることもできずにただ空を眺めていた。
空から降ってくる少女は、地上にいた少女を押しつぶして水玉模様の海を作り上げた。
もちろんあの、水っぽい、嫌な音を伴って。

(;//‰ )(落ち着け)

潰れているのは人ではない。
母さんではない。
デレでもない。
そう分かっているのに、一歩もそこから動けない。
行き場を失った包帯が、うねうねと苦しげに俺の周りを飛び回る。
屋上と、下界を切り取るフェンスからも少女だった水玉模様は落ちていく。
街を真っ赤に染め上げ、白いあぶくを立てて、街を塗り替えようとしていた。

(;//‰ ゚)「なんでこんなことするんだよ」

んー、と少女は考える。
そして笑った。

リハ^ー^リ「何もかもが嫌いだから」

とぷり、と足元が侵食される。
立っていられなくなって、俺は波に流される。

96 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/03(日) 23:57:39 ID:4fiYwfp60
リハ*゚ー゚リ「自分より優秀な子も、劣っている子も、嫌味っぽいあの子も、慰めてくれるあの子も、全て嫌い。男の子はもっと嫌い」

必死に体を織り上げながら、デレの痛みを見やる。

川 ゚ ※ ゚)「…………」

デレの痛みは、大人しくしていた。
いつかのデレを見ているようだった。

リハ*゚ー゚リ「だから好きなもので塗りつぶすことにしたの」

フェンスに包帯を絡ませる。
かろうじて、ビルから落ちてはいない。
しかしこのままだと流されるのも時間の問題だった。

(//‰ ゚)(諦めるものか)

他人が大嫌いで自分が大好きな奴の元に、デレを置いていくわけにはいかなかった。
だから俺は、叫んだ。

(//‰ ゚)「デレ!」

川 ゚ ※ ゚)「…………」

(//‰ ゚)「帰ってこいよ!」

リハ*゚ー゚リ「だめよ。わたしと一緒にいてほしいもの」

(//‰ ゚)「一緒に帰ろう!」

川 ゚ ※ ゚)「…………」

リハ*゚ー゚リ「わたしを一人にしないでね。裏切るなら、あんたも空から落としてやる……」

川 ゚ ※ ゚)「…………」

リハ*゚ー゚リ「ああもう、ほんと男の子って嫌い」

数多の少女を踏みつけ、少女はやってくる。

97 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/03(日) 23:58:20 ID:4fiYwfp60
リハ*゚ー゚リ「あんたみたいな人、嫌い。誰よりもあんたのこと、分かってますみたいな顔して。ほんとはなんにもわかんないくせに」

少女の指ですくい上げられた水玉模様が、包帯に滑り落ちる。
フェンスと俺とを繋ぐ命綱が、じわじわと溶かされていく。

(;//‰ ゚)「デレ……ッ!!」

リハ*゚ー゚リ「早く死んでね」

落ちる。
ビルから俺は落ちる。

川 ゚ ※ ゚)「……、」

微かに唇が動いた。
なんて言ったのかわからない。
そんなことはもうどうでもよかった。
ただ俺は、僅かに残った包帯を極力広げた。

(//‰ )「お前になら傷付けられてもいいよ!!!!」

川 ゚ ※ ゚)「!」

(//‰ )「だから、来いよ!」

後はもうなるようになれ、という気持ちだった。
フェンスにしがみついて成り行きを見守っていたデレの痛みが、俺を見捨てるのならそれはそれでよかった。

(//‰ )(なんていうとロミスは怒るだろうが)

ますます遠ざかるビルの屋上に、涙が出そうになって。
でも確かに聞こえた。

川*^ 々^)「くるー!」

満面の笑みを浮かべたあいつの声を。

リハ; ゚ー゚リ「え、ちょ、離して!」

慌てふためく少女の声を。
そして、

川*^ 々^)「ドクオすきー!」

リハ; ー リ「あ、っが……!」

少女の腹を穿ち、抱きかかえたままデレの痛みは宙を舞った。
俺は、笑いながら二人を全身で覆い尽くした。

98 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/04(月) 00:02:10 ID:Q2yAa6aw0
(//‰ )(どうかデレの元へ)

体内で暴れ狂う少女の気配と、哄笑と、チキチキという音がする。

(//‰ )(どうかデレの元へ)

少女の悲鳴があがる。
俺はますます拘束をきつくした。

(//‰ )(どうかデレの元へ)

デレの痛みは、少女をいたぶり続けた。
それを止めることもなく、俺は念じ続けた。

(//‰ )(どうか、またデレと、話せますように)


初めてロミスと会った時のことを思い出していた。
ロミスは、潰れた幼いデレを見て、舌打ちを一度した。
痛みが逃げているじゃないか、というわけのわからない話をしていた。
俺は、ロミスに泣きついた。
どうして助けたいのですか?
そう問われて、俺はもっと話したいからだと言った。
どんな人なのか知りたい、どんな風に笑うのか見てみたい。
知らないでいられなくなってしまった。
ロミスはため息を吐き、デレの亡骸からほんの少し肉をつまみ上げた。
彼が捏ねると、それは一枚の薄くて短い布に仕立て上がった。
では、椎名デレがいなくなった時の苦しみを想像してください。想像出来たらその痛みを布に流し込んで、そうそう。
ロミスは、その布を俺の手首に巻きつけた。
これで貴方たちは一心同体、と言ったところでしょうか。椎名デレが痛みを失えば、この包帯はきつく締まります。痛みを捕まえたら強く念じれば僅かに含まれている肉を通して椎名デレに戻ります。わかりましたか?
その説明を、幼い俺は一字一句聞き逃さないようにしていた。

99 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/04(月) 00:06:52 ID:Q2yAa6aw0
気がつくと、俺は宙へと放り出されていた。
その下には少女が真っ逆さまに落ちていった。

(//‰ ゚)「……ん?」

地上では、なにかが大口を開けて待っていた。
釜だ。
巨大な釜。
人一人は軽々と入ってしまうだろう。
その中にはぐつぐつと油が煮えていて、釜の下からは白い炎が揺らめいていた。
少女は、飲み込まれるようにして釜の中へと消えていった。

無事着地した俺に、ロミスは恭しく頭を下げた。

('A`)「ねえさっきのあれなに?」

£°ゞ°)「死神の釜ですよ。地獄にある裁判所に直接送りこめるかつ職員が引き取りに行くまでぐつぐつ煮込まれ続ける優れものです」

('A`)「まさかのカマ違い」

ねちっこい仕様に怖気を感じつつも、俺は一安心していた。
そんな俺を見てか、ロミスは優しく微笑んだ。

£°ゞ°)「……よくやりましたね」

('A`)「いや、俺全然太刀打ちできなかったわ」

あいつがいないとどうなっていたか。
そう言おうとして辺りを見回しても、デレの痛みは姿を消していた。
いつの間にかロミスもいなくなっていて、後には眠っているデレだけが残っていた。

100 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/04(月) 00:09:07 ID:Q2yAa6aw0
( ^Д^)「ドークーオ! 今日こそ遊ぼうぜ!」

('A`)「悪い今日デートだわ」

( ^Д^)「えっドクオ彼氏出来たの……?」

('A`)「彼女だよ!!」

( ^Д^)「じょーだんじょーだん。つかいいなー彼女の写真とかないの?」

(´・ω・`)「はいはい、邪魔しない」

いつも通りの日常だ。
プギャーはお節介焼きだし、ショボンはそのブレーキ役に追われている。
毎度のことだけど俺は放課後のお誘いを断り続けて、こいつらとは浅くも深くもない付き合いを続けている。

ζ(゚ー゚*ζ「ごめんね、待った?」

('A`)「いや今来たところ」

少しだけ変わったのは、俺とデレとの関係性か。
暇さえあれば顔を合わせるようにしたし、無理な時にはメールするようにした。
といっても同じ団地に住んでいるから会おうと思えばすぐに会えるんだけど。
デレの母親は未だに宗教に狂っているし、口もろくに利いていないらしい。
でもそれでいいじゃん、と俺が言ったら、デレはホッとしたような顔をした。
自傷癖に関しては、未だに保留だ。
無理して我慢させて悪かった、と謝ったらデレはおろおろしていた。
こいつは優しいだけなのだ。
他人を傷付けるのが怖いから、自分を傷付けていただけで。

('A`)「でもお前だけが我慢して傷付く必要はないんだよな」

ζ(゚ー゚*ζ「んー?」

('A`)「なんでもねえよ」

101 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/04(月) 00:10:25 ID:Q2yAa6aw0
ふと思い立って、スキップをする。
三歩はリズムよく、四歩目で急にくるっと振り返って。

('A`)「…………」

振り向いても、そこにはやっぱりキョトンとしているデレがいるだけだった。

ζ(゚ー゚*ζ「……それなあに?」

('A`)「や、おまじないみたいなもん」

ζ(゚ー゚*ζ「なにかいいことあるの?」

('A`)「んー、コッペパンが食べたくなる」

ζ(゚ー゚*ζ「なにそれー」

('A`)「でも食べたくならねえ?」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあコンビニ寄ろっか」

('A`)「おう」

多分これから先も生きていけるだろう。
そのうち死ぬまでは。

('A`)「そん時はそん時だ」

102 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/04(月) 00:10:49 ID:Q2yAa6aw0



死ぬも生きるも他人の勝手止める輩は何々奴か 了


.

103 ◆oFLOXqmM1c:2016/04/04(月) 00:12:33 ID:Q2yAa6aw0
ご愛読ありがとうございました
地味に遅刻しています、すみません
以下元ネタとなるアーバンギャルの楽曲の紹介です
「水玉病」
「堕天使ポップ」
「ガイガーカウンターの夜」
「ノンフィクション・ソング」

104 ◆mQ0JrMCe2Y:2016/04/04(月) 01:13:12 ID:VPas1zLg0
【連絡事項】
主催より業務連絡です。
只今をもって、こちらの作品の投下を締め切ります。

このレス以降に続きを書いた場合

◆投票開始前の場合:遅刻作品扱い(全票が半分)
◆投票期間中の場合:失格(全票が0点)

となるのでご注意ください。
(投票期間後に続きを投下するのは、問題ありません)

詳細は、こちら
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1456585367/404-405


……という規定なので、遅刻ではないですよ。大丈夫です
投下乙でした

105名無しさん:2016/04/04(月) 02:38:26 ID:895gtZTU0
おつ
不器用だな二人とも

106名無しさん:2016/04/04(月) 02:40:20 ID:iHo/1mK60
乙乙
良かったよ、各話の都々逸もセンス良いな
あとブーン系でアーバンギャルソンにお目にかかるとは思わなかった

107名無しさん:2016/04/04(月) 09:11:37 ID:32eviLRM0
話もキレイにまとまってたしロミスのキャラがいかしてた
支援絵
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2010.jpg

108名無しさん:2016/04/04(月) 12:21:58 ID:mk0OdOjM0
>>105はたぶん>>104>>103あて

109名無しさん:2016/04/04(月) 21:05:06 ID:vNRCpdEA0

とても好み

110名無しさん:2016/04/04(月) 21:42:43 ID:HGyGFOJA0
タイトルとサブタイの妙なテンポの良さが気に入った
なにか有名な詩だったりするの?

あとこのお話の最萌はロミス異論認

111名無しさん:2016/04/04(月) 23:51:05 ID:oHlN5ijk0
乙乙。すごく面白かった。

112名無しさん:2016/04/05(火) 01:33:16 ID:2GrSCZzk0
ロミスいいやつじゃねーか!

113名無しさん:2016/04/05(火) 01:40:25 ID:sOK/Gkl.0
カマが釜だったのが一番好きやわ

114名無しさん:2016/04/05(火) 05:56:50 ID:uwoyyUcY0
>>104
連絡乙です!
遅刻ではないとのことで安心しました

>>107
まさか支援絵を頂けるとは
ありがとうございます!
不穏な色合いでとてもいいです

>>110
これは都々逸といって七七七五、あるいは五七七七五のリズムを取る定型詩です
立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花やざんぎり頭を叩いてみれば文明開化の音がするなども都々逸ですね
各タイトルはオリジナルです
これを機に都々逸を知ってもらえたらと思ってつけました

115名無しさん:2016/04/05(火) 18:36:05 ID:2GrSCZzk0
とといつ素敵やね、勉強になったよ

116名無しさん:2016/04/17(日) 00:21:06 ID:Y56.vz.k0
抱きしめる、ということ
※流血と(隠れてはいるけど)擬人注意
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2046.png
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2047.png
支援絵。ドクオかっこよすぎんよ……

117名無しさん:2016/04/24(日) 12:35:44 ID:O2njRjYY0
>>116
支援絵ありがとうございます!
差分まで作っていただけるとは幸せです

投票してくださった方、絵を描いていただいた四人方、ありがとうございました

ブン動会もひと段落ついたところでこの作品についてよくわからなかった点や質問などがあれば遠慮なく書いていってください
ろくに推敲してなかったせいで読みにくい話になってしまった自覚はあるので…


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