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死ぬも生きるも他人の勝手止める輩は何々奴だ、のようです
17
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/03/27(日) 05:44:41 ID:AtU2hDks0
川# ゚ 々゚)「! っ!! っっ!!!!」
身動ぎしてももう遅い。
もうすっかり、彼女の全身は包帯で覆われてしまっていた。
(//‰ ゚)「半年ぶりだから忘れたのかねえ」
ごちながら俺は念じる。
(//‰ ゚)(痛みよ、デレの元に戻れ)
若干抵抗が弱まった。
更に意識を集中させた。
(//‰ ゚)(痛みよ、デレの元に戻れ)
僅かに包帯の塊が小さくなる。
(//‰ ゚)(痛みよ、デレの元に戻れ)
徐々に、ゆっくりと、
(//‰ ゚)(痛みよ、デレの元に戻れ)
少しずつ、確実に、
(//‰ ゚)(痛みよ、デレの元に戻れ)
痛みは、デレの元へと還っていき、
(//‰ ゚)(痛みよ、デレの元に戻れ)
そして、
(//‰ ゚)(痛みよ、デレの元に戻れ)
ぱらり、と包帯の山が解けた。
18
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/03/27(日) 05:46:23 ID:AtU2hDks0
(//‰ ゚)「…………疲れた」
口に出すとますます倦怠感が強まった。
そのまま俺は、床に倒れ伏した。
(//‰ ゚)(本当に、疲れた)
やがて意識は包帯の海に飲み込まれ……。
(//‰ )(帰らないと……)
ロミスの手を思い浮かべる。
あの大きな手の中に、一片の包帯が握り締められている。
(//‰ )(帰りたい……)
少しずつ日常をイメージする。
暗灰色のブレザー。
学校指定のスクールバッグ。
国語の担任であるフィレンクト先生。
おしゃべりでお人好しな、でも嫌いじゃない同級生。
プギャーが食べていたカツ。
コンビニで買ったから揚げ弁当。
学校に一番近いコンビニ。
そこで働いている店員の無愛想さ。
(//‰ )(ああ、)
少しずつ、体が解けていく。
その代わりに、遠くで体が織り上げられていった。
(//‰ )(帰りたい)
いや、違う。
(//‰ ゚)「帰るんだ」
19
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/03/27(日) 05:47:01 ID:AtU2hDks0
ぱち、と片目が開いた。
£°ゞ°)「おかえりなさいませ」
(//‰ ゚)「近い!」
またもや間近でロミスの顔を見てしまい、俺は思わず叫んだ。
それにまたロミスは笑い声をあげた。
£°ゞ°)「なにはともあれ、痛みは無事に椎名デレの元へ戻りましたよ」
(//‰ ゚)「そうか」
するすると、全身に纏っていた包帯が落ちていく。
その一言さえ聞ければ、俺は安心できた。
£°ゞ°)「また有事の際にはお呼び下さい」
では、とロミスは姿を消した。
…………人の気配や先生の声、黒板とチョークがぶつかり合う音が近付いてくる。
ようやく、戻ってこれた。
そんな気分になり、やっと俺は生きた心地がした。
20
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/03/27(日) 05:47:34 ID:AtU2hDks0
教室に戻ると、先生は目を見開いた。
(‘_L’)「あれ、戻ってくるのが早かったね」
('A`)「そーすっかね」
( ^Д^)「いーじゃん先生、そんなの」
プギャーのフォローにより、先生は納得したらしい。
そのままなんのお咎めもなく、俺は席に戻れた。
('A`)(それにしても、なかなか荒れてたなぁ)
体から痛みというものが逃げ出すのにはそれなりの理由がある。
ということは、デレの身にもなにかが起こったということだ。
('A`)(久々に会うか)
先生に見つからないよう、メールを打つ。
('A`)(会えるといいな)
携帯をしまって、それからようやく俺は真面目に授業を聞く姿勢を取った。
21
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/03/27(日) 05:48:05 ID:AtU2hDks0
君が傷つきゃいつでも俺は布を伸ばして助けよう 了
.
22
:
名無しさん
:2016/03/27(日) 16:14:19 ID:XY6/sw860
乙
面白いな
23
:
名無しさん
:2016/03/27(日) 20:31:37 ID:qaF6lDDE0
おつ
24
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/03/31(木) 01:07:03 ID:b8K6e2cE0
主の優しさ素直に取れぬだってわたしは浅ましい
.
25
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/03/31(木) 01:07:39 ID:b8K6e2cE0
ホームルームが終わって早々、プギャーは俺の席にすっ飛んで来た。
( ^Д^)「ドクオ! カラオケしよーぜ!」
('A`)「俺カラオケ嫌いなんだけど」
( ^Д^)「じゃあゲーセンでもいいぜ!」
('A`)「校則で禁止されてるだろ」
( ^Д^)「平気平気、六時までに出れば店員だって何も言わないんだぜ?」
('A`)「ああそう、でも遠慮しとくわ」
( ^Д^)「じゃあファミレス行こうぜ! ファミレスでもいいから!!」
('A`)「ええ……」
もはや断る口実も尽いてしまった。
適当に突き放すと、プギャーは頬を膨らませた。
女子かよ。
( ^Д^)「いい加減俺と遊べよう!」
('A`)「そう言われても金ないしさー」
( ^Д^)「今回は奢るって」
('A`)「えー」
( ^Д^)「えー」
さてどうしたものかと悩んでいた時である。
(´・ω・`)「いい加減離してあげなよ。どう見ても鬱田くん困ってるじゃないか」
( ^Д^)「だって俺ドクオともっと話したいしよー」
(´・ω・`)「君はそうでも鬱田くんはそうじゃないんだからさ」
今のうちに行きなよ、という視線が送られる。
それに頷き、俺は席を立った。
('A`)「悪いな二人とも」
背後からは相変わらずプギャーがさわいでいるが、もう知らない。
そそくさと教室を後にした。
26
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/03/31(木) 01:08:33 ID:b8K6e2cE0
('A`)(そういやデレから返事来てるかな)
携帯を取り出せば、緑のランプが点滅している。
('A`)(お、来てる来てる)
少し気分が浮つき、思わず口角があがる。
が、それも長くは続かなかった。
今日は委員会があって遅くなるから会えないと書かれていて、その後には過剰ともいえるほどの謝罪文が連なっていた。
口から憂鬱じみた空気が逃げていく。
('A`)(ま、しょうがねえかあ……)
考えてみればお部活の体験だの、グループワークだの、やることはたくさんあるのだ。
……もっとも、俺はああいう感じなのでそのことがすっぽりと頭から抜けていたのだが。
('A`)(あいつ真面目だからなぁ)
母親と違って、彼女はとても大人しい。
頼まれてしまうと断れないタイプであるし、今頃委員会とやらで面倒事を押し付けられているのではないだろうか。
('A`)(そういうのもあって痛みが逃げ出したとか……?)
何が起きて、デレの心に負担が掛かったのだろう。
それだけが気になり続けて、だけど本人に会ってみないことにはどうにもならないのだ。
('A`)(またそのうち誘うか)
その時が来たらそれとなく様子を探ればいい。
とりあえず家に帰ろう。
そう言い聞かせて俺はやっと高校から出ることが出来た。
27
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/03/31(木) 01:09:33 ID:b8K6e2cE0
……のだが、
('A`)「あ」
ζ(゚ー゚;*ζ「あっ」
何故か団地の駐輪場で、ばったりと出くわしてしまった。
ζ(゚ー゚;*ζ「ひ、久しぶりだね……」
気まずそうに視線を地面に落としつつ、デレは言う。
('A`)「春休みに遊んだっきりだよな」
俺は気にしてない風に返事をした。
ζ(゚ー゚*ζ「……元気?」
('A`)「ぼちぼちな。そっちは?」
ζ(゚ー゚*ζ「わたしも元気だよー」
('A`)「ならよかった」
二重の意味を込めて、そう言った。
('A`)「……あーでも、なんか痩せたか?」
ζ(゚ー゚*ζ「そうかな?」
('A`)「分からん。ただ前よりもシュッとしてるような気がする」
わざと茶化すように言うと、デレは噴き出した。
ζ(゚ー゚*ζ「そんなことないよ、ちゃんとご飯食べてるもの」
('A`)「じゃああれか、チャリ通になったから運動量が増えたとか」
ζ(゚ー゚*ζ「そうかもしれないねー」
にへら、と彼女は笑った。
このふやけたような笑みが、俺は好きだった。
28
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/03/31(木) 01:10:09 ID:b8K6e2cE0
('A`)「……なあ、立ち話もなんだからちょっと座って話さないか」
断られるだろうか、と半分心配していた。
が、デレはあっさり頷いた。
ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ公園でお菓子食べようよ」
('A`)「いいのか」
ζ(゚ー゚*ζ「……お母さんが帰ってくる前なら大丈夫だよ」
('A`)「……なんか悪いな」
ζ(゚ー゚*ζ「んーん、いいよ」
ガシャン、と自転車の鍵が閉められる。
ζ(゚ー゚*ζ「コンビニ行こ?」
('A`)「おー」
コンビニに着くまでの間、俺たちは他愛のない話をした。
お互いの学校のこと。
歩いて行くのと自転車で行くのとどっちが楽か。
セーラー服のリボンがまだ上手く結べないこと。
俺の高校の女子制服もセーラー服だったらよかったのにという話。
黒基調のセーラー服よりも爽やかな水色のものがよかったこと。
学校指定のハイソックスがダサいこと極まりないこと。
そのせいで殆どの学生が好きな丈にソックスを折り曲げていること。
デレも三つ折ソックスの方がずっと気に入っていること。
他人から聞くとくだらない話かもしれないが、俺たち二人にとっては楽しくて仕方がない話題ばかりであった。
だからコンビニに着くまでの十分なんて、あっという間に過ぎ去っていった。
ζ(゚ー゚*ζ「ここのコンビニ行くのも久々だなー」
('A`)「俺もここに行くのは久々だわ」
ζ(゚ー゚*ζ「だよねー」
('A`)「というかよく潰れずに残ってるよな」
29
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/03/31(木) 01:11:03 ID:b8K6e2cE0
古びた手書きのポップには、焼きたてパンありますという素朴な文字。
たしか俺の記憶によれば、店主は高齢のおばあちゃんであった。
レジ前に椅子を引いて、日がな一日そこでお客を待っているのだ。
あとそれから、店内には猫が一匹放し飼いにされていた。
茶トラのでかい猫で、撫でても逃げ出さない気のいい猫であった。
('A`)「あのおばあちゃん元気かね」
店内に入ると入店音が虚しく響いた。
かつていたに猫も、レジで居眠りしていた店主も、姿が見えなかった。
ζ(゚ー゚*ζ「……でも、元気じゃないかなぁ」
入り口に置かれたでかい糠床の樽を見ながら、デレはそう言った。
ζ(゚ー゚*ζ「糠漬け、どれもひとつ百円だって」
('A`)「え、食べたいの?」
ζ(゚ー゚*ζ「や、採算取れてるのかなーって」
('A`)「ああ、うーん」
どうなんだろ、と言いつつ店の奥へ。
陳列棚にはお馴染みの商品以外に、手作りのパンや野菜などが並んでいた。
それから店の一角には年季の入ったアルマイト鍋やコンロ用のガスボンベ、トイレットペーパー、更には仏花まで売っていた。
('A`)「すげえな」
ζ(゚ー゚*ζ「すごいねえ……」
ほぼ同時に感嘆の声が漏れ、思わず二人で笑ってしまった。
('A`)「日用品が随分多いな」
ζ(゚ー゚*ζ「昔は需要あったんじゃないかな」
なるほど、と俺は納得した。
今でこそこの団地には空きが多いが、昔は七百人ほどの人間が集まって、ここで暮らしていたらしい。
ここからさらに十五分ほど歩けばスーパーがあるが、ちょっとした買い物なら全てここで揃ってしまう。
なら、このコンビニに行った方がよっぽど楽なのである。
30
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/03/31(木) 01:11:36 ID:b8K6e2cE0
('A`)「あのおばあちゃんって先読みの天才だったんだな」
ζ(゚ー゚*ζ「ねー」
と、言いながらデレはコッペパンを手に取った。
('A`)「腹減ってんの?」
ζ(゚ー゚*ζ「そういうわけじゃないけど」
慌ててデレは棚にそれを戻した。
('A`)(ちょっと今のはなかったな)
気恥ずかしそうに俯くその姿が不憫に感じられた。
人に不愉快な思いをさせてしまったという罪悪感が、そぞりと背筋を撫でた。
('A`)「……俺、コッペパン買うわ」
デレの代わりに手を伸ばし、二つそれを掴んだ。
ぽかんとしているデレに、俺はさも普通そうな顔をした。
('A`)「あと何買う?」
ζ(゚ー゚*ζ「え、えっと……。ココアシガレット?」
('A`)「お前好きだもんなー」
と言いながらデレの視線を探る。
その先には、ビッグカツがあった。
それもさりげなく手に取った。
もちろん二枚だ。
あ、あ、とデレは泡を食ったような顔をする。
それに気付かないふりをして、そそくさとレジに向かった。
31
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/03/31(木) 01:13:12 ID:b8K6e2cE0
('A`)「すみませーん」
ζ(゚ー゚;*ζ「ドクオ、」
('A`)「……誰も来ないな」
ζ(゚ー゚;*ζ「ちょっと、」
('A`)「すみませーん!!」
ζ(゚ー゚;*ζ「ダメだよそんなの」
財布を出そうとするデレに、俺は首を振ってみせた。
('A`)「入学祝いってことにしてくれよ」
ζ(゚ー゚;*ζ「ドクオだって同じでしょ!」
('A`)「いいから財布しまえよ」
と、ごちゃごちゃ騒いでいる時だった。
£°ゞ°)「お待たせしました、いらっしゃいませ」
(;'A`)「!?!?」
何してんのお前、という言葉が喉でこんがらがっていた。
本当は突っ込みたくて仕方ないのだが、声をかければデレに説明を求められるだろう。
その時にうまく誤魔化せる自信が俺にはなかった。
ζ(゚ー゚*ζ「ドクオ?」
(;'A`)「……え、あ?」
ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫? やっぱりお金足りないんじゃ」
(;'A`)「いやなんでもない大丈夫だから!」
再び財布を取り出そうと鞄を漁る手を掴み、ロミスを睨みつける。
32
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/03/31(木) 01:13:59 ID:b8K6e2cE0
£°ゞ°)「どうなさいましたか? お客様」
ロミスは、心底意地悪い笑みを浮かべていた。
多分俺がデレに出会うのを見越してこんなイタズラをしたのだろう。
きっとどこに出掛けたって、こいつはちょっかいを出すに違いなかった。
('A`)「……なんでもないです」
£^ゞ^)「左様でございますか」
二百七十円になります、とロミスの言葉。
しかしそれに被さるように、あ、という小さな声が聞こえた。
('A`)「どした?」
振り返って声をかけると、ハッとしたようにデレは首を横に振った。
ζ(゚ー゚*ζ「なんでもないよ」
('A`)「なんでもないってことはないだろー」
しつこく聞いてやろうか、と思ったその時だった。
£°ゞ°)「……お二人は、高校生ですか?」
ζ(゚ー゚*ζ「あっ、えと、そうです」
£°ゞ°)「ふふ、微笑ましいものですね。新しい制服、とてもよくお似合いですよ」
特にあなたは、とロミスはデレに視線を送る。
('A`)(イラッとするわー)
俺とデレとの関係性を知っているくせにどうしてこんなことをするんだろう。
さっさとお金を払ってしまおうと財布を開いた。
£°ゞ°)「ではささやかながら入学のお祝いをさせていただこうかと」
('A`)「えっ?」
ロミスが取り出したのは、ボロボロのノートだった。
そこにはプラス三十円で、コッペパンにピーナツバターやマーガリンを塗ってくれるという文が載っていた。
33
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/03/31(木) 01:15:01 ID:b8K6e2cE0
£°ゞ°)「どうぞ好きなものを選んでくださいな」
ζ(゚ー゚*ζ「あ、でも……」
('A`)「俺小倉がいいっす」
£°ゞ°)「……畏まりました」
お前のためじゃねえよ、という間があったが、俺は気にしない。
こうして遠慮なく振舞ってやると、デレも後に続くことが多いのだ。
つまり、わざとである。
ζ(゚ー゚*ζ「……わたし、ジャムがいいなぁ」
デレの小さな声には、喜びがかすかに滲んでいた。
£°ゞ°)「ではその様にしてお出ししましょう」
ビニール製の手袋をはめたロミスが、パンを取り出した。
もう片方の手には細身のナイフが握られていて、スッと横にスライスを入れた。
ぱっかりと空いたそこに、同じナイフでまず小豆が塗りたくられた。
デレのパンには、あんずのジャムがたっぷりと乗せられた。
('A`)(手付きが慣れてる)
昔からここで働いていたといわんばかりにロミスは仕事をこなしていく。
新しい袋を手に取り、はみ出した甘味がその中を汚さない様丁寧に入れられる。
その入り口に、金色のモールがくるくると巻きついた。
£°ゞ°)「はいどうぞ」
ζ(゚ー゚*ζ「ありがとうございます……!」
勢いよく頭を下げるデレに、ロミスは驚いたらしい。
いつも浮かべている人畜無害そうな笑みが、一瞬途切れたからである。
£°ゞ°)「どういたしまして」
そうして、次の瞬間には真新しい笑顔を用意してくるのだからこいつは怖いのである。
34
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/03/31(木) 01:17:05 ID:b8K6e2cE0
団地の公園には、シーソーや滑り台、バネでぐねぐねと前後する動物の遊具や、回転する球体型のジャングルジムなどが未だに現役だ。
今時の公園にしては珍しいが、子供の遊ぶ姿はない。
このだだっ広くて侘しい空間の利用者は、俺とデレの二人だけであった。
('A`)「久々に食うとうめえなぁ」
もふもふとふかふかが合わさった生地の柔らかさ。
軽い食べ口と後を引く小豆の甘さ。
粒あんは苦手だけど、コッペパンとイチゴ大福だったらそれも許せそうである。
とにかくまあ美味しくてたまらなかったのだ。
ζ(゚ー゚*ζ「素朴な味がするねえ」
口の端についたジャムを舌で拭いつつ、デレは幸せそうに笑った。
俺は短く返事をして、それっきり会話は途切れた。
黙々とコッペパンを食べているなんて、他人が見たら変だと思うだろう。
だけどやってみると、これがなかなか楽しいのだ。
('A`)「昔だったら絶対ここには来れなかったよな」
二口ばかり、コッペパンを残して俺は口を開いた。
見ると、デレも半分ほどコッペパンを残していた。
ζ(゚ー゚*ζ「上級生の子達がみんな遊具取ってっちゃったもんね」
('A`)「そうそう、仕方ないから団地の廊下で鬼ごっこしてさ」
ζ(゚ー゚*ζ「でもほら、B棟の……」
('A`)「荒巻の爺さん?」
ζ(゚ー゚*ζ「そうそう、あの人にすっごい怒られてたでしょ」
('A`)「あれはやばかったわ。親父にクッソ怒られたし廊下は遊び場じゃありませんなんて張り紙貼られちまったし」
ζ(゚ー゚*ζ「うーん、仕方ないよねえ。子供の声って結構響くしさ」
('A`)「まあな。でも遊びたくなるんだから仕方ねえじゃん」
ζ(゚ー゚*ζ「廊下禁止令出された後はどこで遊んでたの?」
('A`)「チャリ乗って遠くの公園に行ってたよ。十五分くらいかけて」
35
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/03/31(木) 01:17:40 ID:b8K6e2cE0
ζ(゚ー゚*ζ「上級生がそっち行けばよかったのにね」
('A`)「ま、文句言ってもしゃあねえわ。時間が戻ってくるわけじゃなし」
ζ(゚ー゚*ζ「……年取っちゃったねえ」
('A`)「まだ十六だろ俺ら」
ζ(゚ー゚*ζ「ふふ、そうね」
ココアシガレットの箱が、デレの手によって暴かれる。
透明な袋に入ったそれは、思ったよりも小さく見えた。
ζ(゚ー゚*ζ「……ドクオは、よく一緒に非常階段で遊んでくれたよね」
差し出され、シガレットを一本頂戴した。
手にするとますますその貧弱さが際立った。
本当に、昔からこんな長さだっただろうか。
('A`)「お前も度胸あるよな。大人にあそこ入ってくの見られたら問答無用でゲンコツだからな普通」
ζ(゚ー゚*ζ「ゲンコツなんか怖くないわよ」
口の端から八重歯が覗いた。
かと思うと、そこにシガレットがあてがわれた。
かり、と小さく齧る音が響いた。
ζ(゚ー゚*ζ「でも、どうして来てくれたの?」
('A`)「……いつもどこで遊んでんのかなーって後つけてた」
ζ(゚ー゚*ζ「言ってくれれば連れてったのに」
('A`)「あの時そういう勇気がなかったんだよ」
察しろよう、と冗談めかして言ったが、デレは少し力の入った表情をした。
ζ(゚ー゚*ζ「……そう、だよね」
ごめんね、と小さくデレは呟くから、俺は慌てて首を振った。
36
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/03/31(木) 01:18:30 ID:b8K6e2cE0
('A`)「謝ることなんかねえよ、そんな……」
ζ(゚ー゚*ζ「でも、あの時お母さんがドクオに言った言葉が申し訳なさすぎて」
('A`)「もう気にしてないって」
ζ(゚ー゚*ζ「……うん」
空気がたちまち淀み始めるのがわかった。
空も、さっきと変わらない青色なのにくすんでしまったような気がした。
デレの挙動や心一つで、こんなにも感じ方が変わるのかと俺は少し驚いていた。
('A`)「……最近、どうなんだよ」
一口、シガレットを齧りながら問う。
スゥッと口の中が涼しくなり、微かにココアの香りがした。
ミントの味はしないのに、口の中がすっきりするのだから不思議なものである。
ζ(゚ー゚*ζ「どうって?」
デレもまた、シガレットを口にしていた。
('A`)「その、手首のさ」
遠回しな言い方に、デレはぽかんとしていたがやがて気付いたらしい。
ああ、と言葉を漏らしながら、彼女は袖を捲くった。
晒された右手首には、うっすらと白っぽい線が連なっている。
小学生の時から始めた、リストカットの跡だ。
('A`)「だいぶ治ってきたな」
ζ(゚ー゚*ζ「どんなに傷付けてもいつかは塞がっちゃうのね」
('A`)「その方がいい」
試しにそっと手首に触れた。
デレは大人しくそれを受け入れた。
線の中でも特に太いものは、カミソリによって出来たものだ。
受験や将来に対する不安からうっかり傷付けてしまったのだとデレは言っていた。
それがとてもショックで、俺はデレに怒っていた記憶がある。
どうしてこんなことをするんだ、止めろ、と。
37
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/03/31(木) 01:19:42 ID:b8K6e2cE0
デレは、申し訳なさそうに首を垂れていた。
もう二度とこんなことをしないで欲しい、止めてくれと俺は懇願した。
とても悲しかった、辛かった。
そう言い続けて、デレはようやく説得に応じた。
それ以来、彼女は切るのを止めてくれた。
('A`)「でもよかった」
ζ(゚ー゚*ζ「よかったの?」
('A`)「うん、環境も変わってなんか大変じゃねえかなーとか思って」
ζ(゚ー゚*ζ「んー、大丈夫だよ」
('A`)「そうか? なんか合わない人がいるとか、また親とめんどくさいことになってるとか、ない?」
具体的な例を出してみるが、デレは首を振る。
ζ(゚ー゚*ζ「平気だよ、大丈夫」
('A`)「ならいいけどさ、困ったことがあったらいつでも頼れよ」
手首から手を離し、袖を元に戻す。
その間中ずっとデレは黙っていたが、ようやく
ζ(゚ー゚*ζ「……ありがとうね」
と、笑ってくれた。
微かに口角があがったような、固い笑みだったがそれでも十分だった。
デレが生きてくれるなら、俺はそれでよかったのだ。
('A`)(頑張ろう)
彼女を支え続けなくては。
現実でも、戦いでも、両方の意味で。
ζ(゚ー゚*ζ「……大丈夫だよ」
デレは、俺を安心させるように再度そう言った。
俺が考えていることも、痛みとの戦いも知らないのに。
でもその一言だけでも救われるのだ。
('A`)(絶対に守らなきゃ)
ぐつり、と腹の中で決意が煮えた。
38
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/03/31(木) 01:21:42 ID:b8K6e2cE0
まんまるくて黒いストッパーに、力を込める。
ぐっとそれを押し出せば、チキチキという音が部屋に広がった。
カッターナイフは、板チョコレートから発想を得て作られたのだと聞いたことがあった。
板チョコレートをパキリと割る様を見て、古くなった刃先を折って、いつでも切れ味のいい刃物を作ろうと思ったそうなのだ。
カッターナイフを作った人は、とても頭のいい人だと思う。
だからこそ、本来の目的から外れた使い方をする人を、生みの親は軽蔑しているだろう。
申し訳ない限りだと心が痛む。
だけど手軽に買えて持ち歩けるのはこれとカミソリだけなのだ。
ζ(゚ー゚*ζ「…………」
再度ストッパーに力を込め、今度は手前に引く。
せっかく飛び出したのに、使われることなく刃はしまわれていく。
恨めしそうにギラリと光ったけど、仕方ない。
ドクオとの約束を守らなくてはいけないのだから。
ζ(゚ー゚*ζ「はあ……」
代わりにため息をひとつ吐く。
ペン立てにカッターをしまい、机に突っ伏した。
ζ(゚ー゚*ζ「…………」
障子の向こうからは、大勢の話し声や食器のぶつかる音がした。
お母さんが集会所から帰ってくると、お客さんを何人か連れてくるのだ。
最初はそんなに多くなかったはずなのに、今ではほぼ十人近くの人がやってくるらしい。
らしいというのは、その人達が来る間は一歩も外に出ないからだ。
わたしはお母さんのように神様を信じない。
どの宗教の神様も、信じない。
信じたって何をしてくれるわけではないからだ。
ζ( ー *ζ(ああ、うるさいなぁ)
今頃お母さんは忙しく、台所と居間を飛び回っているだろう。
うちは特に裕福なわけではない。
むしろ昔お父さんが死んでしまって、その遺産を食い潰しているような状態だ。
お母さんもスーパーでパートをしているけどももらえる金額は雀の涙。
おまけにその給料のほとんどを、神様か自分よりも不幸で可哀想な人にあげてしまうのだ。
そう、可哀想な人達。
こうして夕飯をご馳走するのも、そういう人を助けるための一環らしい。
39
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/03/31(木) 01:22:36 ID:b8K6e2cE0
ζ( ー *ζ(お母さん)
ある日突然、お父さんが事故で死んでしまった家は、不幸じゃないんでしょうか。
お父さんがいない子は、不幸じゃないんでしょうか。
もしくは可哀想だと思わないんでしょうか。
たしかに世間は広いから、探せばたくさんもっと不幸な家はあるのでしょう。
だけど、お母さんのやっていることは正しいんだろうか。
ζ( ー *ζ(お腹すいたなぁ)
普段はここで寝てしまうか、お客さんが帰った後の残り物を食べるしかない。
お母さんにご飯を直接ねだると、だいたい嫌な顔をされるからこうするしかないのだ。
でも今日は、ドクオが買ってくれたコッペパンの残りがあった。
あとビッグカツも貰ってしまったので、それも食べることにした。
ζ(゚ー゚*ζ(カツって言っても、のしイカなんだよね)
小さい時はお肉だと思い込んでいたから、とっても喜んでいたのを思い出した。
妙に科学的な甘ったるさを感じるけど、この安っぽい味こそがビッグカツなのだ。
ζ(゚ー゚*ζ「おいしい……」
ジャムパンも、死ぬほどおいしかった。
この甘酸っぱいあんずのジャムが昔から好きだった。
ζ(゚ー゚*ζ(今度お兄さんにお礼を言いに行こう)
その時お金に余裕があったら、お礼にお菓子をひとつ買っていこう。
ζ(゚ー゚*ζ(あ、でもその時にドクオの分も、)
買って、と、思ってから気付く。
40
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/03/31(木) 01:23:58 ID:b8K6e2cE0
ζ( ー *ζ(ダメだ)
今までずっとドクオに頼って生きていた。
だけどこんなわたしに付き合っていたら、ドクオの心が持たないだろう。
ネットでもよくメンヘラに振り回されて人生をふいにした人の意見をよく見かけた。
わたしだって決して健全だとは言い切れない。
むしろ、そっちの気は十分すぎるほどあるのだ。
だから、高校入学を機に距離を取ろうと思っていた。
どうせそのうちお互い忙しくなるだろう。
そうすると自然と連絡を取る機会も減っていって、しまいには忘れられてしまうだろう。
そうであって欲しかった。
もうこれ以上わたしに構わないでいいのだ。
彼に優しくされたらその善意を食い散らかして、つけあがってしまうからだ。
ζ( ー *ζ(優しくなんてしなくていい)
どんどん遠慮を忘れてしまう。
甘えて、ドクオを傷付けてしまう。
ζ( ー *ζ(頑張ろう)
頑張って、一人で、生きなきゃ。
41
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/03/31(木) 01:26:20 ID:b8K6e2cE0
主の優しさ素直に取れぬだってわたしは浅ましい 了
.
42
:
名無しさん
:2016/03/31(木) 01:29:41 ID:Hcgh9mWc0
連載だったのか!
短編かと思った。背景が分かって面白くなってきた
次も待ってる
43
:
名無しさん
:2016/03/31(木) 01:32:54 ID:CEQu8s6c0
乙
メンヘラヒロイン付きのバトル物とか新しいな
44
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/01(金) 18:29:00 ID:.QIOZ0Gk0
死ぬ気ないなら切るのをやめろ或いは縦に手首切れ
.
45
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/01(金) 18:30:20 ID:.QIOZ0Gk0
デレと公園で話してから一週間が経った。
その間も度々痛みは逃げ出し、俺はその対応に追われていた。
('A`)(また包帯が締まってる……)
きりきりと遠慮なしに締め上げる包帯に、思わず眉根が寄った。
教室の時計を見れば、まだ十時半にもなっていない。
(;'A`)(半日も経ってないぞ……!?)
昨日の夜中にもデレの痛みは逃げ出していた。
そのせいで俺は、眠い目を擦りながらそいつを追いかけていたのだ。
こんなにも短いスパンで逃げ出すのは、明らかに異常だった。
('A`)(デレ……)
もともと人に頼ろうという気が薄い奴ではある。
だけどここ最近メールをしても返事はすぐに途切れてしまうし、顔を合わせる機会もあまりなかった。
そもそも同じ団地に住んでいるのにすれ違う回数も明らかに減っていた。
それをお互い忙しいせいだと、気のせいだと思っていたのだが。
('A`)(これが終わったら会わないと)
幸いにも今日は自習である。
教室を抜け出すのは容易かった。
('A`)「ロミス!」
いつも通り呼び出すと、ロミスは握り飯片手に現れた。
('A`)「何してんのお前……」
£°ゞ°)「いつもこの時間に朝餉をいただいているもので」
よかったらどうぞ、とロミスがもう一つ差し出してくるがそんなことをしている場合ではない。
('A`)「お前な、こっちは急いでんだよ」
£°ゞ°)「何故ですか? いかなごの釘煮はお嫌いですか?」
('A`)「ちっげーよ! また痛みが逃げ出したんだぞ! というかここ最近ずっとほぼ毎日毎日戦って、こんなのおかしいって……!」
£°ゞ°)「要するに心配なのですね」
('A`)「当たり前だろ! 一番多かった時でも週一とかそんな程度だったんだぞ」
46
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/01(金) 18:31:17 ID:.QIOZ0Gk0
ふうむ、とロミスは天を仰ぐ。
見目麗しい男がそうしていると神聖さを感じるのだが、口の橋についた海苔がすべてを台無しにしていた。
£°ゞ°)「そろそろ打ち止めかもわかりませんね」
('A`)「打ち止め?」
£°ゞ°)「椎名デレの希死念慮の方が生存欲よりも強いのかもしれません」
('A`)「…………は?」
£°ゞ°)「死を希い念じて慮る。要するに、死にたいと思っているのですよ」
死。
その言葉に、脳髄が冷えた気持ちになった。
(;'A`)「待てよ、俺がこうしていたらずっとあいつは生きていられるんじゃないのかよ」
£°ゞ°)「では毎日逃げ出すようになっても連れ戻す自信は?」
そう問われ、思わず口篭る。
£°ゞ°)「結局は彼女の問題ですからね」
(;'A`)「そんな……」
絶句した。
俺は今まで、デレを助けているつもりだった。
でも、そうだ。
俺がどれほど身を粉にして連れ戻したって、また同じことの繰り返しなのだ。
それなのに、小三の時から今に至るまで、一度も気付かなかった。
£°ゞ°)「貴方様のやっていることはあの日死んだ彼女の延命治療でしかありません」
ロミスの言葉が、俺の心を締め付ける。
£°ゞ°)「彼女が生きたいと思わなければ根本的な問題の解決にはならないのです」
('A`)「……やってやるよ」
そうするしか道はないのだから。
47
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/01(金) 18:33:59 ID:.QIOZ0Gk0
ロミスが呑気に飯をかっくらっていたのにはもう一つ理由があった。
というのも、デレの痛みはこの校内にいたからだ。
(//‰ ゚)「まさか屋上にいるとはなぁ」
川 ゚ 々゚)「…………」
給水塔の上に佇むそいつは、幽鬼のようだった。
(//‰ ゚)「……なんでお前は外に出たがるんだよ」
戦闘での煽り合い以外で口を利くのは初めてであった。
こいつに言葉が通じると思っていなかったせいもある。
なにせ哄笑をあげる以外に声を聞いたことがないからだ。
川 ゚ 々゚)「…………」
デレの痛みは、そっと俺を見遣った。
その目は赤黒い沼のようで、時折ごぽりと殺意の泡が浮かび上がっていた。
(//‰ ゚)「教えろよ、なんでお前はデレから逃げるんだ」
給水塔へと一歩近付く。
デレの痛みは動かない。
ただひたすら俺を見つめている。
(//‰ ゚)「お前が逃げたら困るんだよ」
さらに近付く。
ぴくりと奴の右手が動いた。
俺は右手を象っている包帯を若干緩めた。
(//‰ ゚)「なあ、言えよ」
川 ゚ 々゚)「…………」
(//‰ ゚)「…………」
淀んだ空気を吹き飛ばすように、風が吹いた。
それでも互いに動かず、俺たちは見つめ合っていた。
いや、相手の出方を伺っていた。
俺たちは互いを見ているようで見ていなかった。
48
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/01(金) 18:35:05 ID:.QIOZ0Gk0
川 ゚ 々゚)「…………スキ」
(//‰ ゚)「……えっ、」
放たれた言葉の意味に戸惑った瞬間、彼女は跳ねた。
(//‰ ゚)「っ!」
真上からの斬撃。
包帯を鞭のようにしならせ、それを防ぐ。
刃と言っても所詮カッターナイフ、しかも手から直接生えているものだ。
相手の腕を狙えばある程度軌道を狂わせることは出来た。
問題はその後である。
(//‰ ゚)「くっ……!」
着地した頃を見計らい、退歩する。
このまま迫ってくるか、それとも距離を取ってから跳ね上がるか。
いつも奴はそうしてきた。
川 ゚ 々゚)「…………」
しかし、痛みはその場に佇んでいる。
(//‰ ゚)(なにかがおかしい)
基本的に俺の能力は、自ら攻めに行くのには向いていない。
防御や反撃といったほうが得意である。
ゆえに、相手が攻めに来ないとこちらも太刀打ちが出来なかった。
(//‰ ゚)「おい」
挑発するように声をかける。
川 ゚ 々゚)「……うふ、」
溶けるような笑みを浮かべ、痛みはゆっくりとこちらに近付く。
いや、歩み寄ると言った方が正しいか。
49
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/01(金) 18:36:34 ID:.QIOZ0Gk0
(;//‰ ゚)「…………」
その行動は今までになかったもので、得体の知れない不気味さを感じた。
川 ゚ 々゚)「スキ」
デレの痛みは、先ほどと同じ言葉を口にした。
俺はいつでも包帯を展開できるよう、意識を集中させた。
一挙手一投足に注視し、近付いてくる痛みから感情を読み取ろうとした。
川 ゚ 々゚)「スキ」
(//‰ ゚)「…………」
川 ゚ 々゚)「すきなの」
(;//‰ ゚)「…………」
痛みはもう、目の前に迫っている。
しかし奴は刃を振るわない。
川 ゚ 々゚)「好き」
(;//‰ ゚)「…………」
川*^ 々^)「ドクオが、好き」
瞬間、彼女は俺を抱きしめようとした。
が、
(;//‰ )「やめろ!!」
なんとも言えない悪寒が走った。
川 ゚ 々゚)「…………」
ぴたりと動きが止まる。
よく見るとその両手はブルブルと震えていた。
川 ゚ 々゚)「…………」
両の沼底が、俺を穿つ。
俺は再度後ろへ下がった。
50
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/01(金) 18:37:07 ID:.QIOZ0Gk0
川 ゚ 々゚)「……あは、」
痛みは、いつものように笑った。
しかしその唇は、硬く噛み締められていた。
川 ゚ 々゚)「…………」
ぼたぼたと血が垂れてゆく。
唇からも、髪の毛先からも、血が滴っていく。
そして、
川 ゚ 々゚)「しんで」
痛みは、俺に突っ込んできた。
(//‰ ゚)「っは!」
待ってましたと俺は包帯を展開させた。
が、それらに痛みは手をかけなかった。
そのまま自ら突進し、肉迫したのだ。
(;//‰ ゚)「ちょっ……!」
さく、と体に刃の感触。
非常にまずかった。
(;//‰ ゚)「く、っそ……!」
蹴り上げ、慌てて距離を取る。
こんなことは初めてであった。
(;//‰ ゚)(いつもなら全部包帯ぶっちぎってから襲ってくるのになんで……!)
そう、あの布切れがないと困るのだ。
あれがとりあえずあれば、新しく肉体を織り上げて今の体を捨てることが出来る。
布を切るには刃物が必要である。
そしていつもなら、デレの痛みは包帯をぶちぶちに切り刻んでくれるのだ。
だからこいつを馬鹿だと思っていたのだが。
51
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/01(金) 18:37:54 ID:.QIOZ0Gk0
(;//‰ ゚)「っ!」
デレの痛みが駆け寄る。
川*^ 々^)「すき」
両手に刃を携えて。
川*^ 々^)「すき!」
意味不明な言葉を吐きながら。
川*^ 々^)「大好き!」
俺に突進してくる。
(;//‰ ゚)(くそっ!)
いつもの手が通じないなら仕方がない。
俺も痛みに向かって走る。
川*^ 々^)「あはは!」
心底嬉しそうに痛みは笑う。
俺はひたすら走る。
もうすぐ俺たちはぶつかるだろう。
川*^ 々^)「あはは」
少なくともあっちはそう思っている。
(//‰ ゚)(でも、違う!)
前のめりに跳ぶ。
俺の体すれすれに刃が迫ったが、届かない。
川 ゚ 々゚)「っ?」
受け身を取りつつ包帯を伸ばす。
52
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/01(金) 18:38:42 ID:.QIOZ0Gk0
川 ゚ 々゚)「っ!」
デレの痛みは派手に転んだ。
足に絡み付いたそれを、素早く回収する。
そいつは体勢を立て直そうとしたが、そのままタックルし、馬乗りになる。
(//‰ ゚)(よしっ……!)
伸びてきた両手は新たに編み出した包帯で縛り付ける。
そのまま全身を覆ってやれば、こっちの勝ちである。
川 ゚ 々゚)「ふーっ、ふーっ……!」
興奮した猫のような息が痛みから漏れる。
川 ゚ 々゚)「ふーっ……!」
ぐちゃり、ぐちゃり、と口の中で肉を噛む音。
相当怒っているらしい。
反撃がないよう気を配りながら、意識を集中する。
川# ゚ 々゚)「ふうー!!」
二の腕から肩を包帯が覆っていく。
川# ゚ 々゚)「うー!」
首や鎖骨、そして肋に白が巻きついていく。
川# ゚ 々゚)「ううう」
唸り声が耳障りであった。
川 ゚ 々゚)「うけけ」
かと思えばそれは笑い声に変わった。
(//‰ ゚)「なにが、」
おかしい、という言葉は出なかった。
53
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/01(金) 18:39:28 ID:.QIOZ0Gk0
(//‰ )「があぁぁっあぁあっ!?」
目が痛い!
何もかもが真っ暗で、上も横も分からない……!
(;//‰ )「ぐっ……!?」
腹に衝撃。
鈍痛、蹴り上げられたらしい。
床に体が転がった。
ずずりと人の動く気配。
まずい。
(;//‰ )「っ」
無我夢中で這い出し、逃げる。
その間に目の辺りの包帯を増やした。
未だに異物が食い込んでいる感覚はある。
(;//‰ )「っは、」
しかも複数個だ。
(;//‰ )(これをまず包帯で吐き出すように取り除いて、それから体勢を立て直して、それから、それから、)
ぶつん、と再度腹に衝撃。
呻くことしかできない。
逃げるよりも先に視界を確保した方がいいらしい。
(;//‰ )「ぐ、ぅ、ぅ……」
あいつの笑い声が聞こえる。
俺を弄んで楽しくて仕方ないという声だ。
全身を苛め抜かれて痛いことには痛いが、怒りの方が優っていた。
(;//‰ )(これ、だ)
微かな手応え。
その複数の断片を、一息に弾き飛ばした。
54
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/01(金) 18:40:09 ID:.QIOZ0Gk0
(;//‰ )「ぐぅああ……!!」
急いで目を形成し直す。
包帯がうねり、元の形に戻そうと奮闘する。
川 ゚ 々゚)「あはは、」
そしてようやく戻った視界には、馬乗りになって笑う奴の姿があった。
川 ゚ 々゚)「うふふ」
その口からはパラパラと刃の破片が零れ落ちている。
どうやら口から出る血を刃に変えたらしい。
それを吹き出して食らわせたのだと気付いて気持ち悪くなった。
しかしもう好きにさせるわけにはいかなかった。
(//‰ ゚)「おらぁっ!!」
川 ゚ 々゚)「っ……!?」
首に、包帯を巻きつかせる。
ぐぇ、と喉の潰れる声。
川 ゚ 々゚)「や、や、や」
ガリガリと首ごと、刃が突き刺さる。
普通の人間なら死ぬだろう。
だけど、痛みは死なない。
痛みが死ぬことは、ない。
(;//‰ ゚)(まずいな)
幾重に重ねても、一向に奴が弱まる気配はない。
それどころか、親指の制御がなくなっていた。
おかげで刃はずろずろと伸びきり、時折その破片がぽとぽとと俺の体に降ってきた。
普段の一撃ほどではないが、ごく軽く、そして浅い責めが身を苛んだ。
(;//‰ ゚)(少しでもいい)
少しでもいいから、抵抗する力が弱まってほしかった。
でないと、俺が潰えてしまいそうだった。
55
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/01(金) 18:41:14 ID:.QIOZ0Gk0
(;//‰ ゚)(頼む)
きりきりと絞める力を強める。
デレの痛みはますます刃を剥き出しにする。
骨一本と僅かな肉で支えられている頭は、こちらに傾いできている。
俺を責めるような目つきで、こちらを睨んでいる。
(;//‰ ゚)(助けてくれ、)
誰か。
誰でもいい。
どうなってもいいからここから逃げ出したい。
そう願っていた時だった。
川 ゚ 々゚)「っ、」
ビクン、と体が一跳ねした。
緩やかに親指が握り締められ、不気味な刃の成長が止まった。
川 ゚ 々゚)「ぅ、」
その目には薄く光が宿っていた。
(;//‰ ゚)(何が起きた……?)
包帯で拘束するのも忘れ、俺はその目を見つめ返した。
その目には俺は写っておらず、どこか遠くを見ていた。
そうして、しばらくすると、デレの痛みは掻き消えていった。
(;//‰ ゚)(…………なんだったんだ今の)
不可解な現象に体が寒くなる。
その冷たさを口から吐き出そうとして、
(;//‰ )「……助かった」
しかし出てきたのは、安堵の言葉だった。
56
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/01(金) 18:43:57 ID:.QIOZ0Gk0
('A`)(なんだったんだろう、あれ)
あの後ロミスにも聞いてみたが、彼も知らなかったらしく明確な答えは得られなかった。
彼も今まで俺のように他人の痛みを追いかける輩を幾人も見てきたらしいが、そんな事態は聞いたことがないという。
('A`)(あいつ、俺の名前を呼んでた)
それもまた不気味で、今回の異常さを際立たせていた。
('A`)(俺だってわかったのか?)
あんなミイラ男のコスプレみたいな姿をしているのに?
というかもし仮に俺の事が好きならどうしてあんなことをするのやら。
('A`)「はぁ……」
ため息を吐き、目頭をグリグリと押す。
未だに目に異物が入っているような気がしてならない。
痛みと戦う時には、肉体にダメージがつかないよう自分の中にある痛みを纏っている。
とはいっても実際に怪我をしないというだけで、その感覚だけは明確に覚えてしまう。
刃が眼球を犯す感触は、しばらく忘れられそうにもなかった。
おかげであの後教室に戻っても、自習なんて出来るわけがなかった。
('A`)(新学期早々に早退とはなぁ)
自ら進んで帰ったわけではない。
あまりにも酷い顔をしていたらしく、プギャーに背を押されたのだ。
お人好しな彼らしい行動である。
('A`)(今日は助かったわ……)
このまま家に帰って寝てしまおう。
そう思って団地の階段を上がっていた時だった。
(*゚ー゚)「あら……」
('A`)(げっ)
57
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/01(金) 18:44:33 ID:.QIOZ0Gk0
こんにちは、とぼやけた笑みを浮かべるこの人は、デレの母親である。
(*゚ー゚)「今日は学校終わるのが早いのね」
('A`)「体調不良で早退っす」
(*゚ー゚)「あらまあ、かわいそうに……」
この人の、すぐ人を憐れむところが嫌いだ。
誰が相手でも不幸な目にあっていると思いたがって、助けようと押し付けがましい親切をぶつけてくるところが、とても、嫌いだった。
('A`)「もう行っていいすか」
答えを聞かないうちに横を通ろうとして、しかしデレの母親は立ちふさがった。
(*゚ー゚)「ごめんねえ、少し聞きたいんだけど」
('A`)「なんすか」
(*゚ー゚)「あの子、学校でどうしてるのかなって」
('A`)「あの子?」
あの子というとデレのことだろうか?
というかそれ以外に心当たりがない。
('A`)「さあ、知らないっす」
違う高校に通ってるんで、と付け加えると母親は目を見開いた。
(*゚ー゚)「ええ、そうなの?」
('A`)「は?」
(*゚ー゚)「困ったわぁ……。最近、あの子と全然話してなくて、何してるのかわからないから……」
58
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/01(金) 18:45:22 ID:.QIOZ0Gk0
絶句した。
デレの高校と俺の高校とは制服がまるっきり違う。
あっちはセーラー服と学ランで、こっちは男女両方ブレザーだ。
その制服の違いに気付いていないってことは、デレがどこに通っているのかを知らないのだ。
('A`)「……顔合わせる機会くらいはあるんじゃないんすか?」
(*゚ー゚)「そうだけど、でもわたし今忙しいから……あの子から話してくれないと……」
('A`)「普通子供に関心あったら自分から聞くと思うんすけど」
(*゚ー゚)「だってわたしにも色々やることが」
('A`)「子供の通ってる高校も知らねえとかはっきり言っておかしいっすよ」
(*゚ー゚)「でもあの子は一人にしておいても生きていけるから、」
(#'A`)「そういう話じゃねえんだよ!」
一体あの子はどれほど傷ついてきたのだろう。
この母親のせいで、無神経な言葉を浴びせられてきたのだろう。
腸が煮えくりかえるような気持ちになり、俺はその横を通り過ぎた。
(#'A`)(どうせあの後、宗教の会合にでも行くんだろうな)
あんなことを言われても、デレの母親は何にも思わないだろう。
不幸で、可哀想な人を見に行くのだろう。
それだけが彼女の生き甲斐なのだ。
(#'A`)(キチガイめ)
廊下を歩きながら、携帯を開く。
メール画面を開き、ただ一言会いたいと打った。
宛先はデレだ。
どうにもならないくらい、デレに会いたかった。
('A`)(早っ)
その日は珍しく、返事がすぐに返ってきた。
どうしたの、という短いものだったが、俺は学校をサボって話したくなったのだとメールを打った。
その返事もまたすぐに返ってきて、見れば自分の家にいるという。
体調が悪いのかと聞けば、そうではないと言われた。
俺はそのまま、デレの家へ向かうことにした。
59
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/01(金) 18:49:18 ID:.QIOZ0Gk0
玄関の鍵は開けてあるとのことだったので、そのまま中に入った。
家の中には妙な線香臭さが漂っていた。
多分あの母親が焚いたものだろう。
趣味なのか、信仰に関わるものなのかはわからないが。
障子に手をかけ、
('A`)「入るぞー」
と一言かけると、どうぞ、という声。
間取りは一緒のはずなのに、デレの部屋は狭く感じた。
ベッド、本棚、勉強机。
ただそれしかないのに、どこか萎縮した空気が流れていて、俺はため息を吐きたくなった。
('A`)「久しぶり」
ζ(゚ー゚*ζ「元気だった?」
('A`)「お前の顔見たら元気になったわ」
ζ(゚ー゚*ζ「なにそれ」
ベッドに腰掛けているデレは、布団に倒れこんで笑った。
なにがおかしいのか全くわからなかったが、とりあえず元気そうだと思った。
('A`)「つか学校は?」
ζ(゚ー゚*ζ「んー、制服に着替えたところで力尽きた的な?」
('A`)「そこまでやったんならもうちょい頑張れよ……」
ζ(゚ー゚*ζ「えへへ」
60
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/01(金) 18:54:22 ID:.QIOZ0Gk0
誤魔化すような笑いとともに、デレは足を振り上げて起き上がる。
('A`)「おいスカート見えそうだったぞ」
ζ(゚ー゚*ζ「いいじゃんドクオだし」
('A`)「よくねーっての」
と注意しながらデレの挙動を見る。
あちらこちらにとっ散らかったスカートを、デレは丁寧に直していく。
真新しいプリーツの形に整えるのがどうも癖らしい。
少し動けば台無しになってしまうのに、どうも几帳面であった。
そこから見えるひざ小僧のすぐ下には、真っ白なハイソックスが迫っていた。
たしかにこう見ると、丈が絶妙にダサい。
もう少し短ければかわいかろうに、と思って気付く。
('A`)「……三つ折やめたの?」
ζ(゚ー゚*ζ「えっ?」
プリーツを持ち上げていた手が、微かに止まる。
その後何事もなかったように、それは長方形を生み出した。
ζ(゚ー゚*ζ「あーうん、先生に怒られちゃって」
('A`)「そうか」
だけどなにかが引っかかっていた。
デレは、あまり見ないで欲しそうに足首同士を絡ませた。
('A`)「……本当にそれだけなのか?」
ζ(゚ー゚*ζ「どういう意味?」
ちら、とデレの視線が動く。
その先にあったのは蓋つきのゴミ箱だった。
卓上用の、小さなものだ。
それがペン立ての横にある。
ペン立てには、カッターナイフがあった。
61
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/01(金) 18:55:41 ID:.QIOZ0Gk0
カッターナイフ。
ありふれた文房具だ。
それがペン立てにあるのも、すぐ横にゴミ箱があるのも、まあ別に普通の光景だ。
でもどうしてこのタイミングで見たのかを考えると、俺はそのゴミ箱の中を見たくなってしまった。
そっと俺はゴミ箱へ近付く。
ζ(゚ー゚*ζ「あ、」
と、デレは手を伸ばしかける。
だけど何かを諦めたように、項垂れた。
それだけで俺は分かってしまった。
('A`)「お前、」
蓋を取ると、そこには血のついたティッシュがつっこんであった。
褐色の、滲んだ線がいくつもいくつも。
('A`)「なんで切ったんだ」
ζ( ー *ζ「ごめんなさい、」
('A`)「なんでなんだよ」
ζ( ー *ζ「ごめんなさい」
('A`)「謝って欲しいんじゃないんだよ!」
ζ( ー *ζ「ごめん……」
(#'A`)「なんで俺に相談してくれなかったんだよ!!」
腹に溜まっていた言葉が、俺を突き破って出て行く。
こんなことを言ったってしょうがないのにと分かっているのに、口は止まらなかった。
62
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/01(金) 18:56:39 ID:.QIOZ0Gk0
(#'A`)「そんなに、俺って頼りないかよ!」
ζ( ー *ζ「ちが、」
(#'A`)「言えばなにか力になれたかもしれないのに!」
俺は、デレの力になりたかった。
(#'A`)「だからっ……!」
だから、彼女の知らないところでも、戦っていたのに。
ζ( ー *ζ「ドクオ、」
(#'A`)「っ、来んなよ!」
ζ( ー *ζ「ごめんなさい……」
(#'A`)「っ……! そんなに死にたきゃ、勝手に切ってろよ!!」
そう言って、俺は部屋を後にした。
(#'A`)(俺のしたことはみんな無駄だった)
約束を破られた。
もう二度と自傷しないでほしいって。
何かあったら俺を頼ってくれって。
そう約束した時、あの子は頷いていたのに。
('A`)(もう知るかよ……)
何もしない。
もう、何もしない。
絶対に。
そう言い聞かせているのに、それでいいのかという自問自答は止まなかった。
('A`)(部屋に行くんじゃなかった……)
会いたいと思わなければ、よかった。
63
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 18:59:16 ID:R360F5120
タイトルと冒頭からバトルがあるとは思わんかったからビックリさせられた
期待してる乙
64
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 19:00:11 ID:R360F5120
って投下きてたんかいリロードしてなかったすまんの
支援
65
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/01(金) 19:01:15 ID:.QIOZ0Gk0
死ぬ気ないなら切るのをやめろ或いは縦に手首切れ 了
.
66
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 19:08:37 ID:R360F5120
こっからどうなるんだろう・・・ハッピーエンドだといいが
乙
67
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/03(日) 01:28:06 ID:4fiYwfp60
死ぬか生きよかわたしが立つは細く連なる赤い線
.
68
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/03(日) 01:28:39 ID:4fiYwfp60
£°ゞ°)「おや、元気がありませんね」
( A )「……ほっといてくれよ」
呼んでもないのに急にやってきたロミスに、何の用だと目で告げる。
からかう時にはこうして気まぐれにやっては来るが、まさかそういうわけではないだろう。
案の定ロミスは、居座る気満々といった雰囲気で俺の隣に座り込んだ。
ベッドが軋む。
俺の体が若干偏る。
そこでようやく、俺は起き上がって座り直した。
£°ゞ°)「お疲れですね」
('A`)「色々あったからな」
£°ゞ°)「疲労が溜まるといつもはある余裕を失うこともありますよ」
('A`)「……慰めてんの、それ」
£°ゞ°)「貴方がそう思うのならね」
('A`)「ロミスも疲れたりすることあるの?」
£°ゞ°)「もちろん」
('A`)「そりゃ意外だな」
£°ゞ°)「呼び出されればすぐ応じるので暇だと思われておいででしょうが決してそうではございませんよ」
神妙な顔つきでそう言うものだから、つられてこっちもそういう顔をしてしまった。
('A`)「なあ、普段は何してんの」
£°ゞ°)「普段は下界でパトロールに当たっています。肉体から逃げ切ってしまった痛みを捕まえたりしていますよ」
('A`)「逃げ切る?」
£°ゞ°)「ええと、以前痛みについてお話ししましたね?」
69
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/03(日) 01:29:09 ID:4fiYwfp60
('A`)「ああうん、人は傷付き傷付け合いながら生きてるってやつでしょ」
£°ゞ°)「そうです。その傷を感じ取るために痛みが肉体には備わっています」
('A`)「痛みがあるからこそ失恋した時に胸が痛むとか、酷い言葉を吐かれれば頭に鈍痛がするとか、そういうやつだろ」
£°ゞ°)「ええ。しかし身にあまる苦痛を感じると痛みは逃げるのです」
('A`)「……なんで逃げちまうんだろな」
£°ゞ°)「……人間は丈夫に出来ていないのです。貴方だって過去に肉が潰れるところを見て正気ではいられなかったでしょう?」
そう言われてしまうと返す言葉はなかった。
ロミスはさらに続ける。
£°ゞ°)「痛みが逃げ出したら気分が楽になった、ハイそれでおしまいめでたしめでたしとはなりません。痛みを失った肉体は徐々に生きている実感が薄くなります」
('A`)「……辛くないと生きた心地がしないってのも嫌な話だよな」
£°ゞ°)「しかし事実なのですよ。苦痛を享受する感覚なしに人間は生きていくことは難しいのです」
('A`)「ご無体な」
£°ゞ°)「さてここで問題です」
でーでん、とロミスの口から効果音。
真面目な話をしているのに、真面目でいられないのはこいつの悪い癖だと思った。
£°ゞ°)「離れていった痛みを本人が取り戻すにはどうすればいいでしょう?」
('A`)「本人が?」
£°ゞ°)「ええそうです。貴方のようにわざわざ他人の痛みを捕まえに行く人は少数ですからね」
さあ、というようにロミスは俺を見る。
70
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/03(日) 01:30:39 ID:4fiYwfp60
('A`)(自分で取り戻す方法……)
痛みを失った肉体は現実感を消失する。
つまり生きた心地がしないということだろう。
なら生きているという確証が必要になる。
生きていると思うにはどうすればいい?
('A`)「……美味いものを食べるとか、仲良い人と話すとか?」
£°ゞ°)「残念ながら不正解です」
('A`)「ダメなのか」
£°ゞ°)「痛みというと悪いイメージしかないのでしょうが、そもそも刺激と捉えればよいのです」
とすると、味覚や感情も刺激に分類されてしまう。
('A`)「……もしかして痛みが逃げ出すと味分からなくなったりするの?」
£°ゞ°)「しますね」
('A`)「マジかよ」
£°ゞ°)「何を食べても砂を噛むようだと言いますね、そういう人は」
('A`)「それキッツいわ……」
そうでしょう、とロミスは頷く。
('A`)「それで、答えは?」
催促すると、ロミスは一瞬迷ったような顔になった。
が、それも一瞬だった。
彼は、こう言った。
£°ゞ°)「自傷を始めます」
('A`)「!」
£°ゞ°)「自らを傷付け、そこから流れ出る血や刺激的な暴力を得ることで、その痛みを呼び戻すのです」
('A`)「……まさか、」
71
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/03(日) 01:31:49 ID:4fiYwfp60
£°ゞ°)「今日、椎名デレの痛みが貴方の手を介さずに戻ったのも、それがあるのでしょうね」
(;'A`)「そんな……」
誰でもいい、どうなってもいいからここから逃げ出したい。
だから助けてくれ、とあの時俺は思っていた。
それが、まさか、こんな……。
£°ゞ°)「……人間にテレパシー能力なんて存在しませんよ」
見透かすようにロミスは言う。
£°ゞ°)「貴方が戦っている時、たまたま椎名デレは家にいて、自傷したいと思った。ただそれだけです」
('A`)「……つーかなんでそんな大事なこと黙ってたんだよ」
本当は知ってたんだろ? と視線で訴えるとロミスはじっと見つめ返した。
£°ゞ°)「私が言うべきことではないと判断したからです」
('A`)「なんで、」
£°ゞ°)「椎名デレに会わなければ知り得ない情報だからです」
まさかこんなにすぐ発覚するとは、とロミスは苦い顔をした。
たしかに、事前にロミスから聞いていたら俺は冷静さを欠いてその証拠探しをしてしまうだろう。
そうなるとデレだって、どうして俺がそんな事をしているのか不審がるだろう。
('A`)「……自傷させるの、どうにか止めさせられないかな」
£°ゞ°)「貴方は自傷をどう捉えています?」
('A`)「死にたいから切ってるのかな、って」
£°ゞ°)「でしたら首吊りなり電車に飛び込むなり色々方法はございますでしょう?」
どうしてこんな回りくどい方法を取るのか。
俺は考える。
死にたいわけではどうやらなさそうだ
そして痛みを取り戻す方法の一つに、自傷があるらしい。
72
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/03(日) 01:33:24 ID:4fiYwfp60
('A`)「……生きるため?」
見つけ出した答えを呟くと、ロミスは頷いた。
£°ゞ°)「往々にして自傷をなさる方は本気で死ぬ気ではないのですよ。死にたくて仕方がないと思いつつも、その手前で引き返す方がほとんどです」
('A`)「切ると楽になるの?」
£°ゞ°)「まあ、そうですね」
(;'A`)「痛くて安心するってのがよくわかんねえわ……」
£°ゞ°)「科学的な視点に寄せて言うならば、エンドルフィンという物質がありまして。基本的には人から抱き締められた時に分泌されるのですが、自傷をした時にもそれは得られるようです」
自傷をする人は自己肯定感が異様に低い。
誰かに褒められても、それを本人が受け入れなければなかったことになる。
自分は孤独だと思う人が唯一安心できる、己を抱き締められる行為が自傷なのだとロミスは語った。
£°ゞ°)「もちろん不健全な行為に入りますよ。気味悪がるのも当然です」
むしろ異常だとはっきりロミスは突っ撥ねる。
£°ゞ°)「しかし健全な行為だけで生きられる世界でもありません」
('A`)「……じゃあ、ほっとけっていうのかよ」
£°ゞ°)「いいえ、いずれは治していかなくてはなりません」
最初はほんの少しの傷で満足出来るらしい。
それこそ、ハサミで薄っすらとした傷を作るだけでも痛みは戻ってくるそうだ。
しかしそれに慣れてしまえばどんどん物足りなくなる。
傷はより深く、より多く、より短期間に増えていく。
腕が洗濯板状態になるのはそういう理由があるからだそうだ。
やがてそれも過ぎ去ると、今度は瀉血や薬物のオーバードーズへと移行していく。
大量の血が流れる光景や、生と死の狭間に立つ博打はとてつもない生の実感を得られるのだという。
もちろん、その先にあるのは死だ。
73
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/03(日) 01:34:41 ID:4fiYwfp60
£°ゞ°)「痛みが逃げ出した後の死というのは、死神にとっても非常に厄介でして」
('A`)「厄介っていうと?」
£°ゞ°)「死後の裁判というのは、他人に与えた傷と与えられた傷の両方を読み取って行われます」
('A`)「両方いるのか」
£°ゞ°)「ええもちろん」
さも当然という顔でロミスは頷く。
曰く話はこうだ。
例えばAという人が亡くなるとする。
Aの中にはBという人を傷付けたという痛みが残っている。
しかしBにとっては、そのAの行いがさほど気にならないものだった。
Bは痛みを感じていないので、傷付けたと思い込んでいるのはAだけ。
だからそれを、罪としてカウントしないのだそうだ。
£°ゞ°)「ところがもしBが他の要因でとても傷付いて、痛みが逃げ出してしまうとその資料が集められないのです」
おまけにそこでBが死んだら、痛みはそのまま世界を彷徨うことになる。
結果、Aの裁判はそこでストップしてしまうらしい。
£°ゞ°)「あまり大きな声では言えませんが、本当は死者の蘇生だってご法度なのです」
('A`)「えっ」
そんなの初耳だ、という顔になる。
するとロミスは俺の口に、そっと指を乗せた。
£°ゞ°)「極めて限定的な条件が揃った場合にのみ、それが黙認されているのです」
('A`)「条件って……」
£°ゞ°)「自殺を目撃した人物が一人のみで、その人が自殺者の生を願い、犠牲になることを誓った場合です」
とはいえ痛みとの戦いがこんなにも辛いと思っていなかった人は、早々に文句を言うらしい。
それを黙らせるために約款の唱和を義務付けているとロミスは語った。
74
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/03(日) 01:36:40 ID:4fiYwfp60
('A`)「死神も大変だな」
£°ゞ°)「私はまだマシな方ですよ。裁判所では死者が溢れかえっているそうですから、そちらで勤めている死神は過労死寸前だとか」
('A`)「死神も死ぬのか」
£°ゞ°)「いいえ、ものの例えです。我々の体は丈夫に出来ていますから」
それもなんだか辛い話である。
当のロミスは、そんな所で働いていなくてよかったー、という感じだったが。
£°ゞ°)「今までそれで揉めに揉めたのはSMプレイで死んだカップルの片割れでしたよね」
('A`)「は?」
£°ゞ°)「やれあそこで絞めたのは痛くなかっただのこれは痛かっただの、責めた方は責めた方で自分に落ち度はないとか開き直っていましたし」
('A`)「うわぁ……」
£°ゞ°)「まったく、人というものは困ったものですね」
('A`)「そんな変態は一握りだと思うぞ」
そう答えると、ロミスはからからと笑った。
俺もつられて笑った。
だけど、心の中ではとんでもないことをしてしまったという気分になっていた。
('A`)(デレも死にたくて切ったわけじゃないんだろうか)
むしろ生きるために切ったのだろうか。
俺には分からない。
だけど、酷いことを言ってしまったのは確かだった。
('A`)(……明日、顔合わせよう)
あっちはもう俺の事を嫌いになってしまったかもしれないけど。
でも、また元の通りになりたいと、願わざるを得なかった。
75
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/03(日) 01:37:39 ID:4fiYwfp60
ドクオが帰ってから、しばらくして、呆然としていたわたしは、ようやく、そう、ようやくベッドに倒れこんだ。
ζ( ー *ζ(なんてことをしてしまったんだろう)
ドクオは傷付いていた。
とても傷付いた顔をしていた。
約束を破ってしまったせいだ。
わたしが悪いのだ。
ずっと我慢していたのに、我慢できなかった。
ζ( ー *ζ(死にたい)
死ねと言われた。
好きな人から、死ねと、言われた。
それもいいかもしれない。
とうとうわたしを必要としてくれる人はいなくなってしまった。
ζ( ー *ζ「…………」
足を動かす。
親指で腿のあたりを引っ掻くようにして、靴下を引きずり下ろす。
左の足首には、真新しい傷。
そこにむかって、何度も踵を下ろした。
ζ( ー *ζ「うっ、ぅ、ぅ……!」
痛い。
わりと痛い。
切っていた時は痛くないのに、蹴りつけている今はとても痛い。
ζ( ー *ζ(痛くていい)
こんな女は死んでしまえばいい。
誰もお前を必要としていない。
お前を嫌っている。
胸の奥からとめどもなく罪悪感と自己嫌悪が溢れてくる。
それに任せて、わたしは腕を捲った。
目盛りのように刻まれた醜い傷跡が見える。
76
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/03(日) 01:38:26 ID:4fiYwfp60
ζ( ー *ζ(こんなものっ……!)
古い傷跡目掛けて歯を立てる。
痛い。
微かに、痛い。
あまり痛くない気もする。
よくわからない。
ζ( ー *ζ「わたしだってお前が嫌いだ」
デレはデレが嫌いだ。
こいつはバカだから、誰にも愛されないから。
お母さんもデレが嫌いだ。
わたしは不幸じゃないから、世の中にはもっと可哀想な人はいるから。
クラスメイトもデレが嫌いだ。
春先なのに長袖のジャージを着ているから、変に思ったに違いない。
時折袖から見えてしまう手首の傷に顔を顰めたのは彼らだけではなかった。
先生もデレを面倒な子だと思っている。
気難しい子だと思っている。
何かあったらいつでも相談してね、なんて嘘っぱちだ。
あれは建前だ。
本当に助けてくれる気なんてありはしないのだ。
……ドクオは、わたしを嫌いになった。
今までたくさん側にいてくれて、いつだって味方をしてくれた。
お母さんを嫌いになれないわたしの代わりに嫌ってくれた。
怒る気にもならないわたしの分まで、怒りを覚えていた。
自分のことなんてどうでもいいと思っているわたしのことを、心配してくれた。
わたしは、ドクオのようになれたらいいのにと思っていた。
でも。
ζ( д *ζ「なれないよ……っ!」
なれなかった。
わたしはドクオになれなかった。
大好きなドクオのようには、なれなかった。
なれるわけもない。
わたしはクズだ。
最底辺のクズだ。
そもそも好きになんてなっちゃいけなかった。
優しくしてくれるのは、ドクオがいい人だからだ。
その優しさを今まで貪ってきたわたしは、なんて汚いのだろう。
あげくに、好きになりすぎて、苦しくて、勝手に辛くなって、足首を切って、ドクオを傷付けて。
77
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/03(日) 01:39:02 ID:4fiYwfp60
わたしはドクオのためになにかしたことがあった?
なんにもしていない。
それどころか不愉快な思いまでさせて、本当に最悪だ。
死んでほしい。
今すぐに死んでほしい。
それじゃなきゃ殺してほしい。
玄関のドアは未だ開いている。
今すぐ殺人鬼が、この部屋に押し入って、そうしたら、わたしは、謝りながら、抵抗せずに、殺されるから。
ζ( д *ζ「誰か、殺してよ……」
呻くように呟いた時だった。
「はあい?」
と、幼い声がした。
ζ( ー *ζ「!?」
慌てて起き上がって、部屋を見回す。
すると、勉強机の上に茶髪の少女が座っていた。
修道服のようなゆったりとしたワンピース姿で、でもセーラー襟がついていて、とても独特でかわいい服を着ているな、と場違いなことを考えていた。
リハ*^ー^リ「こんにちわ」
ハキハキした声で挨拶され、少し面食らった。
ζ(゚ー゚*ζ「あの、あなたは……」
リハ*゚ー゚リ「わたしは死神」
すとん、と机から飛び降りて、少女はわたしの前に踊り出る。
ζ(゚ー゚*ζ「しに、がみ……」
リハ*゚ー゚リ「そ、死神」
ζ(゚ー゚*ζ「……わたしを殺しにきたの?」
リハ*゚ー゚リ「殺すなんてそんな、わたしはあなたを助けにきただけよ」
78
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/03(日) 01:40:04 ID:4fiYwfp60
胸元のスカーフを弄りながら、死神はそうい言った。
真っ赤な布に、白い水玉がぽつぽつ。
見たこともないような配色のそれは、とてもよく似合っていた。
リハ*゚ー゚リ「死にたいのなら手を貸してあげるわ」
ζ(゚ー゚*ζ「……どうやって、」
リハ*゚ー゚リ「死ぬのが怖くないようにしてあげる」
本当は怖いんでしょう? と微笑まれる。
少し迷った後、わたしは頷いた。
……卑しいことに、またドクオと会って話が出来たら、もし仲直り出来たらなどと考えていた。
それもまた汚い感情で、捨てられるのであれば捨てたいくらいだった。
リハ*゚ー゚リ「その未練を、わたしが断ってあげる」
ζ(゚ー゚*ζ「未練……」
リハ*゚ー゚リ「もう痛い思いをしないように、楽にしてあげるから」
ζ(゚ー゚*ζ「わたし、」
リハ*゚ー゚リ「決めるなら早いうちに決めちゃってよね、わたしも忙しいからさ」
ζ( ー *ζ「わたし……っ!」
79
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/03(日) 01:41:15 ID:4fiYwfp60
('A`)「ところでさ、ロミス」
£°ゞ°)「何でしょう?」
('A`)「逃げ切った痛みってどうなんの?」
£°ゞ°)「厄介なことになりますよ。肉体のない痛みもまた己の存在に自信が持てなくなるのです」
('A`)「自信が持てなくなる……」
£°ゞ°)「ええ。そうなると他人を傷付けたい衝動に駆られるのです」
('A`)「それって、」
£°ゞ°)「心が弱っている人に漬け込んで、様々な害を成します。幻聴や幻覚はもちろんのこと、希死念慮や自殺願望もその一部です」
(;'A`)「…………」
£°ゞ°)「これがさらに厄介なものになると、他人の痛みを奪い取り、支配してしまうのですよ。自分の存在をより確かなものにするために、ね」
(;'A`)「恐ろしいな」
£°ゞ°)「とてもじゃありませんが、貴方では太刀打ちできないでしょうね」
('A`)「そんなことあってたまるかよ」
£^ゞ^)「はは、人生何が起きるか分かりませんからね」
80
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/03(日) 01:41:49 ID:4fiYwfp60
死ぬか生きよかわたしが立つは細く連なる赤い線 了
.
81
:
名無しさん
:2016/04/03(日) 09:49:08 ID:h3vuX0es0
どんどん世界が深くなって面白くなってる
デレ早まるなよ
乙
82
:
名無しさん
:2016/04/03(日) 09:56:35 ID:f2NM6.1g0
乙
嫌な予感しかしないわ
頑張れ
83
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/03(日) 23:49:32 ID:4fiYwfp60
死ぬも生きるも他人の勝手止める輩は何々奴か
.
84
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/03(日) 23:50:03 ID:4fiYwfp60
初めてその音を聞いたのは小二の春休みだった。
俺は母さんと一緒にデパートへ行こうとしていた。
親父の誕生日プレゼントを買いに行って、昼食をレストランで食べて、予約していたケーキを受け取って、それから家の中を飾りつけようと二人で決めていた。
プレゼントは、ハンカチとネクタイを選んだ。
次の日には親父が単身赴任してしまうから、その餞別も兼ねていたのだ。
きっと喜んでくれるね、寂しくなくなるといいね。
そんなことを母さんは言っていたと思う。
午後三時過ぎにデパートを出て、今度はケーキ屋さんに行くことにした。
外に出ると春一番が吹いていて、これがまた近年稀に見る強風だったそうだ。
飛ばされてしまいそうな幼い俺の手を、母さんはしっかりと握っていてくれていた。
今日はすごい風だね、風が駆けっこしてるのかな、明日もこんな天気じゃ出張も大変だなぁ。
たわいのない会話である。
だけどいくらでも思い出せる。
デパートを出て数分後、俺と母さんは工事現場を通りかかった。
なんでも再開発で、とんでもなくでかいショッピングモールが出来るのだと聞いていた。
誰もがその完成を楽しみにしていた。
俺と母さんも同じだった。
お店が出来る頃にはきっとお父さんも帰ってくるよ、じゃあ一緒に行こうね。
約束だよと言う俺の声に、男の怒声が響いた。
その次の瞬間、俺は地面に倒れていた。
それから遅れて、ぐしゃりと、いや、言いようのない音がした。
水気を含んだものが弾き飛ぶような、そういう音だった。
気付くと、母さんは肉塊になっていた。
強風に煽られて落ちてきた鉄骨の下敷きになったからだった。
後の事はあまり覚えていない。
しばらくトマトや肉が食えなくなったり、単身赴任を蹴って側にいてくれた親父に散々泣きついたりしていたような気はする。
それ以来俺の家に誕生日という日はなくなってしまった。
親父の誕生日は母さんの命日になってしまったし、俺も自分の誕生日がどうでもよくなってしまった。
別に不幸ともなんとも思っていないのだけど。
それから一年経って、夏が来た。
小三になった俺は、夏休みを全力で謳歌していた。
母さんがいなくなって寂しいこともあったし悲しいこともあった。
しかし幸いにも、先生や友達に恵まれていた。
彼らに支えられて、どうにか俺は普通の生活を送れるようになっていた。
85
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/03(日) 23:50:35 ID:4fiYwfp60
そんなある日曜日。
午後だった。
昼食を食べに一度友達と別れて、団地に戻ったのだ。
その日は親父も休みだったから、きっとまたそうめんを食べさせられるだろうとうんざりしていた。
親父は料理が不得手だったのである。
ここまで育ててくれたから文句はないが、しかし下手である。
そんなわけでもたくさと家の鍵を取り出して、いざ中に入ろうとした時だった。
こんにちは、と朗らかな声がした。
振り向くと、手提げ袋を提げた女性が立っていた。
その後ろでは、俺と同い年の女の子が縮こまるようにして寄り添っていた。
夏の盛りなのに、彼女は白い長袖のシャツと色褪せたデニムのショートパンツを履いていた。
変な格好だと俺は眺めていた。
女性は椎名と名乗った。
引っ越してきたばかりなので挨拶に来たのだという。
自己紹介をされたら自分も挨拶をしなさい。
学校でそう習っていたから、俺も名乗った。
すると椎名は、ひどく哀れっぽい視線を俺にくれた。
わたしあなたのことを知っているわ、お母さんを事故で亡くしたのでしょう?
誰も触れてこなかった傷に、椎名は土足で踏みにじった。
悪意は一切なかった。
ただひたすら、俺の身に起きた不幸を嘆いていた。
そして、手提げ袋から小冊子を俺に押し付けた。
どんなに不幸でも神様は見守ってくださるわ、可哀想なあなたのお母さんのために祈ればきっとあなたのためになる、本当よ。
瞬間、俺は火がついたように泣き出した。
それでも椎名は、勧誘をやめなかった。
異様な気配を察した親父に怒鳴り散らされるまで、椎名は祈りを勧めてきた。
その間、あの子はずっと俯いたままだった。
以来、団地や学校で椎名家の人間は警戒されるようになった。
椎名家、といってもあの頭のおかしいババアとデレの二人暮らしだった。
実害があるのはあの勧誘ババアだけで、デレは至って大人しかった。
それこそ空気になってしまいたいというように。
しかし子供は残酷なので、それを許すはずもなかった。
デレはいじめられた。
それはもう、凄惨なまでに。
先生も面倒事が起きていると認識したくないのか、介入してこなかった。
デレもまた、誰かに助けを求めることはなかった。
俺はただそれを傍観していた。
加わることもなく、話しかけることもなく。
ああ、今日もいじめられている。
そう思うだけだった。
86
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/03(日) 23:51:07 ID:4fiYwfp60
だけど、冬休みに入る前の日にちょっとした変化が起きた。
俺は忘れ物をして、学校に取りに戻った。
わりと計画的に荷物を持ち帰る方だったので、それに狂いが生じるのが許せなかったのだ。
教室に入ると、デレがぼんやりと窓の外を見ていた。
寒い風が吹いてくるのに、窓は開け放されていた。
なぜか俺はその時に、こう声をかけた。
風邪ひくよ、と。
するとデレは、驚いた顔をして振り向いた。
声をかけるまで人が来たことに気付かなかったのだろう。
デレは怯えた目で、ごめんなさいと謝った。
俺は、怒ってるんじゃなくて風邪をひいてしまうのを心配して言ったんだと釈明した。
デレは不思議そうな顔で黙り込み、ゆっくりと窓を閉めた。
会話が途切れ、気まずくなった俺は自分の席へと駆けて行った。
そして忘れ物を引っ張り出して、駆け出そうとした時だった。
お母さんが、変なこと言って、ごめんなさい。
いきなりの謝罪に、今度は俺が驚いた。
話を聞けば、あの夏の事件以来ずっと謝りたかったそうだ。
本当にごめんなさい、と謝り続ける彼女が怖くて、俺はその場から逃げてしまった。
デレは、追いかけてこなかった。
その次の日に出会っても、彼女は何も言ってこなかった。
俺もまた彼女を無視するふりをした。
本当は、話したくて仕方がなかった。
お前のお母さんはあんなんだけど、お前は普通の人なのか? と聞いてみたかった。
今までは得体の知れない人だったから、いじめられたってその内心に興味はなかった。
けれどもあの謝罪を聞いてしまうと、彼女にも心があるのだということを意識してしまった。
その日から俺の視界にデレは入り込んできた。
団地の廊下で鬼ごっこをしていても、公園で上級生から追い立てられている時も、クラスメイトたちが冷たくデレを見ている時も。
ずっと俺は気にかけていた。
……年を越した頃だっただろうか。
そうだ、明日から始業式だという時だった。
俺はデレを尾行していた。
というのもすることがなかったからだ。
俺の友達は誰一人として宿題を終えていなかったのである。
俺はとっくに終わらせていたから、一人で団地内を散歩していたのだ。
そうしたらデレが非常階段がある方へと歩いていくのを見てしまったのだ。
非常階段はどんな不良の上級生でも近付くことのない場所だった。
なにせ管理人にバレると雷の一つや二つでは済まないからである。
危ないから近寄ってはいけないよ、とよーく言い聞かせられていたものである。
団地に住む子供なら誰でも知っていた。
……しかしデレは後から来た子供だった。
そのルールを教わることもなかったのだろう。
当時の俺はそう考えて、つい後を追ってしまったのだ。
87
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/03(日) 23:51:40 ID:4fiYwfp60
立ち入り禁止と書いてある札を、デレは容易くくぐり抜けた。
その時点で俺の心臓はうるさいほど鳴っていて、何が起きるのだろうと少し楽しみになっていた。
俺はデレのことを何も知らなかった。
知る機会もなければ、知りたいという欲求もなかった。
その二つが同時にやってきた気がして、俺は一人でにやけていた。
デレはどんどん階段を上がっていく。
時折見える茶髪のツインテールが、目印であった。
最上階に着くと、今度は頭一つが見えた。
手すりに乗っかったのだろう。
でもそんなことをすると危ないのに、と思っているとデレと目が合った。
デレの目は、がらんどうの瞳をしていた。
はっきりとは見えなかったのに、そう確信していた。
嫌な予感がする。
そう思った時にはもう遅かった。
あの音が、俺の鼓膜を震わせた。
( A )「…………」
そして、三たび、その音は聞こえてしまった。
( A )「あ、あ……」
体が震える。
足がガクガクとしていて、それでもしがみつくように手すりに手をかけた。
せり上がってくる胃液を必死にいなして、下を見る。
ζ( ゚。g*ζ
.
88
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/03(日) 23:52:15 ID:4fiYwfp60
死んでいた。
デレは、どう見ても、死んでいた。
( A )「うそだ」
滑るように階段を下りる。
間近でデレを見つめる。
……やはり、死んでいる。
( A )「あ、ぁ……!」
死んでしまった。
いや、殺してしまった。
そんなに死にたきゃ、勝手に切ってろよ、なんて、言ったから。
(; A )「デレ……っ!」
亡骸に縋り付こうとした時だった。
「これはまた厄介なことになりましたね」
聞き馴染みのある声だった。
もう縋るにはこいつしかいない、という人物の声だった。
(;'A`)「ロミス!」
なんとかしてくれ、という目で訴える。
が、彼は首を横に振った。
£°ゞ°)「手首のあたりをご覧なさいな」
そう言われて袖を捲ると、古傷が微かに開いていた。
(;'A`)「な、なんだこれ……!」
傷口の中には、赤い肉。
まあ、これは普通だ。
あまり見たくないものだけど。
そしてその肉に、じんわりと、白い水玉が浮き上がっていた。
89
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/03(日) 23:52:44 ID:4fiYwfp60
£°ゞ°)「逃げ出した痛みというのは何故か水玉模様と編模様というモチーフを大変好みまして」
(;'A`)「は?」
£°ゞ°)「まあ要するに、椎名デレは自分の痛みを奪われてしまったのでしょう」
(;'A`)「っ……!!」
昨日のロミスとの会話を思い出し、背中から冷や汗が出た。
(;'A`)「……その、逃げ出した痛みと戦って俺が勝つのは、」
£°ゞ°)「昨日も言った通り、貴方様で太刀打ちできるような代物ではありません。我々死神の手にも余る存在なのですよ!」
('A`)「だけど、」
£°ゞ°)「だってもそってもロッテもありません。今回は諦めてくださいませ」
('A`)「……俺、死んでもいいよ」
£°ゞ°)「軽々しく死んでもいいなどとは、」
('A`)「軽々しくなんかねえよ」
ようやく俺は思い出した。
俺は別に、デレのためを思って彼女はのそばにいたわけではない。
俺はデレにいて欲しくて仕方がなかったのだ。
同時に、デレを助けている英雄的な自分も欲しかった。
俺は騎士になりたかったのだ。
デレを姫にしたかったのだ。
でもそんな高尚なものではない。
('A`)(むしろ、薄汚え欲望だ)
俺は、欲しい。
デレが欲しい。
そばにずっといて欲しい。
英雄だなんて褒められなくてもいい。
恩人とかそういうものもいらない。
90
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/03(日) 23:53:14 ID:4fiYwfp60
('∀`)「一緒に生きたいだけなんだ」
その事に気付くまでどれほどの時間が掛かったのだろう。
自分の馬鹿さ加減に嫌気がさしそうだった。
£°ゞ°)「……死んでも知りませんよ」
('A`)「おう」
£°ゞ°)「……そういう時は意地でも生きて帰るぞとか、そういう言葉を言うものでしょう」
まったく、と言った風にロミスはため息を吐いた。
('A`)「はは、それもそうだな」
呆れているのか、ロミスは笑みを浮かべていなかった。
眉間に軽くシワを寄せながら、ううむ、と考えているようだった。
£°ゞ°)「……あなたが諦めてここへ帰ってくるか、死ぬまではここを現世から隔離します」
('A`)「おう」
£°ゞ°)「こちらに帰ってきたら、今までの契約を破棄する事にします」
('A`)「……おう」
£°ゞ°)「もう二度と、椎名デレのために戦うことは出来ません」
('A`)「うん」
£°ゞ°)「その代わりに、今回だけは特別に私の痛みもお貸しします」
('A`)「うん……?」
と、適当に相槌を打った刹那。
(; A )「おおおおあああ……!?」
91
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/03(日) 23:54:03 ID:4fiYwfp60
体が、強制的に包帯へと置き換えられていく。
膨大な白布の波に、意識が吸い込まれていく。
その波間には見覚えのない武器がちらほらと見えた。
それがどうやって使うものなのかを、俺は瞬時に理解できた。
でも、
(//‰ ゚)「……見た目は変わんねえのな」
£°ゞ°)「見た目は変わらなくともかなり有利に戦うことができると思いますよ」
とはいえ痛みを殺すことは出来ない。
俺がやるのは、デレの痛みを奪い返すこと。
それを連れ出した犯人に関しては、放っておいてもいいとロミスは言った。
£°ゞ°)「まあ、万が一に備えてかまを用意しておきますけれどもね」
(//‰ ゚)「おお、死神らしいな」
£°ゞ°)「そうでしょうとも」
おっとりとした口調で、しかし次には屹然とした態度でこう言った。
£°ゞ°)「貴方様のお迎えに行くのは勘弁願いたいですよ」
(//‰ ゚)「……おう」
ロミスが指を鳴らした瞬間、俺は強風に巻き上げられた。
目まぐるしく景色が変わっていく。
あっという間に団地どころか、市内、いや県外を飛び出ていったようだ。
(//‰ ゚)(デレ)
お前の痛みに会いたい。
そう願って、俺は身を預けた。
92
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/03(日) 23:54:39 ID:4fiYwfp60
気付くとそこは高層ビルの建ち並ぶ都会だった。
天を刺すように連なるビル群は、田舎者の俺にはとても冷たいものに見えた。
(//‰ ゚)(デレ……)
どこにいるのだろうか。
そう思って見回していると、一際高いビルが目についた。
(//‰ ゚)「!」
川 ゚ ゚)「…………」
いた。
デレの痛みが、いた。
しかし何かがおかしかった。
俺は包帯を飛ばして、ビルからビルへと飛び移った。
(;//‰ ゚)「あれは……!」
川 ゚ ※ ゚)「…………」
デレの痛みは、不愉快になる程ポップな赤色と、潔癖さを感じる白い水玉模様に犯されていた。
中でも顕著なのは唇だ。
あの赤黒い唇は、今や真っ赤に染まって白い水玉がぽつぽつと膨れていた。
水玉模様がこんなにも不気味なものに見えたのは、人生初めてではないだろうか。
リハ*゚ヮ ゚リ「 、 」
その横では、見知らぬ少女が寄り添っていた。
俺は確信した。
こいつが、デレから痛みを奪い取ったのだろう。
(//‰ ゚)「おおおおおお!!!!」
一際高いそのビルを登るには、足場が必要だった。
だから俺は、包帯止めを壁に打ち付けてやった。
それを足がかりに、ひたすら壁を登った。
「あらぁ?」
と、頭上から声。
93
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/03(日) 23:55:30 ID:4fiYwfp60
ふと顔を上げれば、あの少女と目があった。
リハ*゚ー゚リ「やぁね、わたし男の子は嫌いなの」
(//‰ ゚)「俺もお前のことは嫌いだぜ」
ようやく、屋上へたどり着いた。
しかし少女はにんまりと笑って見せた。
リハ*゚ー゚リ「そこだけは気があうね」
少女の影が、ごぽりと泡立った。
そこから飛び出してきたのは、セーラー服姿の少女だった。
(//‰ ゚)「っ!」
ただし顔はわからない。
顔は醜く、赤と白の水玉模様で修正されていたからだ。
髪型やスカートの丈、あるいは微かに漏らす笑い声。
どれもそれぞれ特徴があるというのに、やはり見分けはつかなかった。
リハ*゚ー゚リ「男の子なんか嫌いよ」
その言葉と同時に、水玉少女は特攻してきた。
鞭のように包帯をしならせ、首を狩る。
案外脆いようだった。
(//‰ ゚)(数の割には大したことがねえ!)
これならいけると思った矢先に、目の前で水玉模様が炸裂する。
(※/‰ ゚)「っ!?」
どうやら、この少女は爆発するらしい。
おまけにその体液が付着した包帯は、脆く崩れ落ちた。
リハ*゚ー゚リ「女の子は繊細な生き物なの」
悪戦苦闘する俺を眺めながら、少女は呟く。
94
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/03(日) 23:56:07 ID:4fiYwfp60
リハ*゚ー゚リ「優しく接してあげなくちゃ、みんな怒っちゃうわよ?」
(//‰ ゚)(くっ……!)
捌いても捌いても水玉少女の数は減らないし、体を織り上げなければあっという間に少女たちに踏み潰されてしまうだろう。
それはごめんだった。
リハ*゚ー゚リ「嫌なものはみんな消えちゃえばいいの」
(;//‰ ゚)「!!」
空から水玉少女が降ってきた。
一人、二人、五人、十人、三十人。
空はおびただしい血の色に染まり、少女たちは俺目掛けて落ちてくる。
(;//‰ ゚)「く、っそ、がぁ!!」
急いで包帯の盾を作る。
四方八方いたるところに、それから包帯止めでしっかりと止めた。
あとは僅かな隙間から狙いを定めて……。
(#//‰ ゚)「いっけえええええ!!!」
アンプル型のミサイルが、空から降ってくる水玉少女を撃退する。
断末魔が響き渡ると、ビルが微かに揺れた。
甲高い声のせいで、耳がキンキンと痛んだ。
構わずにミサイルをもう一度撃ち込む。
撒き散らされた体液が、屋上の少女たちに降り注ぎ、溶かしていく。
屋上の少女たちもまた、静かに朽ちていく。
何もかもが溶けて、床には延々と白い水玉が広がっていった。
リハ*゚ー゚リ「綺麗」
うっとりとそれを眺めているのは少女だけで、デレの痛みは不愉快そうに見つめていた。
俺はというと、包帯の要塞に相変わらずこもっていた。
とにかく外が安全になるまで、こうしているしかなかった。
アンプル型のミサイルは、容赦なく白い毒を撒き散らす。
水玉模様が好きなくせに、水玉の部分が増えていくと少女たちは怒り狂った。
95
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/03(日) 23:57:02 ID:4fiYwfp60
(//‰ ゚)(悪夢みたいだ)
赤の上に白を塗りつぶされて消えていったり、包帯に包まれてそのまま姿を消したり。
俺はうんざりしていた。
こんな非現実的な光景、もう見たくなかった。
そんな有様を見ているのに、少女たちは何を感ずることもなく、襲いかかってくる。
(;//‰ ゚)「くっ……」
要塞はほぼ崩れかけていた。
気休めに弾丸のように包帯止めを飛ばしても、効果は薄かった。
(;//‰ ゚)「はっ、はっ、はっ……」
アンプルを出す力は枯渇したらしい。
どれほど念じても苦しさだけが残り、どうすることもできずにただ空を眺めていた。
空から降ってくる少女は、地上にいた少女を押しつぶして水玉模様の海を作り上げた。
もちろんあの、水っぽい、嫌な音を伴って。
(;//‰ )(落ち着け)
潰れているのは人ではない。
母さんではない。
デレでもない。
そう分かっているのに、一歩もそこから動けない。
行き場を失った包帯が、うねうねと苦しげに俺の周りを飛び回る。
屋上と、下界を切り取るフェンスからも少女だった水玉模様は落ちていく。
街を真っ赤に染め上げ、白いあぶくを立てて、街を塗り替えようとしていた。
(;//‰ ゚)「なんでこんなことするんだよ」
んー、と少女は考える。
そして笑った。
リハ^ー^リ「何もかもが嫌いだから」
とぷり、と足元が侵食される。
立っていられなくなって、俺は波に流される。
96
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/03(日) 23:57:39 ID:4fiYwfp60
リハ*゚ー゚リ「自分より優秀な子も、劣っている子も、嫌味っぽいあの子も、慰めてくれるあの子も、全て嫌い。男の子はもっと嫌い」
必死に体を織り上げながら、デレの痛みを見やる。
川 ゚ ※ ゚)「…………」
デレの痛みは、大人しくしていた。
いつかのデレを見ているようだった。
リハ*゚ー゚リ「だから好きなもので塗りつぶすことにしたの」
フェンスに包帯を絡ませる。
かろうじて、ビルから落ちてはいない。
しかしこのままだと流されるのも時間の問題だった。
(//‰ ゚)(諦めるものか)
他人が大嫌いで自分が大好きな奴の元に、デレを置いていくわけにはいかなかった。
だから俺は、叫んだ。
(//‰ ゚)「デレ!」
川 ゚ ※ ゚)「…………」
(//‰ ゚)「帰ってこいよ!」
リハ*゚ー゚リ「だめよ。わたしと一緒にいてほしいもの」
(//‰ ゚)「一緒に帰ろう!」
川 ゚ ※ ゚)「…………」
リハ*゚ー゚リ「わたしを一人にしないでね。裏切るなら、あんたも空から落としてやる……」
川 ゚ ※ ゚)「…………」
リハ*゚ー゚リ「ああもう、ほんと男の子って嫌い」
数多の少女を踏みつけ、少女はやってくる。
97
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/03(日) 23:58:20 ID:4fiYwfp60
リハ*゚ー゚リ「あんたみたいな人、嫌い。誰よりもあんたのこと、分かってますみたいな顔して。ほんとはなんにもわかんないくせに」
少女の指ですくい上げられた水玉模様が、包帯に滑り落ちる。
フェンスと俺とを繋ぐ命綱が、じわじわと溶かされていく。
(;//‰ ゚)「デレ……ッ!!」
リハ*゚ー゚リ「早く死んでね」
落ちる。
ビルから俺は落ちる。
川 ゚ ※ ゚)「……、」
微かに唇が動いた。
なんて言ったのかわからない。
そんなことはもうどうでもよかった。
ただ俺は、僅かに残った包帯を極力広げた。
(//‰ )「お前になら傷付けられてもいいよ!!!!」
川 ゚ ※ ゚)「!」
(//‰ )「だから、来いよ!」
後はもうなるようになれ、という気持ちだった。
フェンスにしがみついて成り行きを見守っていたデレの痛みが、俺を見捨てるのならそれはそれでよかった。
(//‰ )(なんていうとロミスは怒るだろうが)
ますます遠ざかるビルの屋上に、涙が出そうになって。
でも確かに聞こえた。
川*^ 々^)「くるー!」
満面の笑みを浮かべたあいつの声を。
リハ; ゚ー゚リ「え、ちょ、離して!」
慌てふためく少女の声を。
そして、
川*^ 々^)「ドクオすきー!」
リハ; ー リ「あ、っが……!」
少女の腹を穿ち、抱きかかえたままデレの痛みは宙を舞った。
俺は、笑いながら二人を全身で覆い尽くした。
98
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/04(月) 00:02:10 ID:Q2yAa6aw0
(//‰ )(どうかデレの元へ)
体内で暴れ狂う少女の気配と、哄笑と、チキチキという音がする。
(//‰ )(どうかデレの元へ)
少女の悲鳴があがる。
俺はますます拘束をきつくした。
(//‰ )(どうかデレの元へ)
デレの痛みは、少女をいたぶり続けた。
それを止めることもなく、俺は念じ続けた。
(//‰ )(どうか、またデレと、話せますように)
初めてロミスと会った時のことを思い出していた。
ロミスは、潰れた幼いデレを見て、舌打ちを一度した。
痛みが逃げているじゃないか、というわけのわからない話をしていた。
俺は、ロミスに泣きついた。
どうして助けたいのですか?
そう問われて、俺はもっと話したいからだと言った。
どんな人なのか知りたい、どんな風に笑うのか見てみたい。
知らないでいられなくなってしまった。
ロミスはため息を吐き、デレの亡骸からほんの少し肉をつまみ上げた。
彼が捏ねると、それは一枚の薄くて短い布に仕立て上がった。
では、椎名デレがいなくなった時の苦しみを想像してください。想像出来たらその痛みを布に流し込んで、そうそう。
ロミスは、その布を俺の手首に巻きつけた。
これで貴方たちは一心同体、と言ったところでしょうか。椎名デレが痛みを失えば、この包帯はきつく締まります。痛みを捕まえたら強く念じれば僅かに含まれている肉を通して椎名デレに戻ります。わかりましたか?
その説明を、幼い俺は一字一句聞き逃さないようにしていた。
99
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/04(月) 00:06:52 ID:Q2yAa6aw0
気がつくと、俺は宙へと放り出されていた。
その下には少女が真っ逆さまに落ちていった。
(//‰ ゚)「……ん?」
地上では、なにかが大口を開けて待っていた。
釜だ。
巨大な釜。
人一人は軽々と入ってしまうだろう。
その中にはぐつぐつと油が煮えていて、釜の下からは白い炎が揺らめいていた。
少女は、飲み込まれるようにして釜の中へと消えていった。
無事着地した俺に、ロミスは恭しく頭を下げた。
('A`)「ねえさっきのあれなに?」
£°ゞ°)「死神の釜ですよ。地獄にある裁判所に直接送りこめるかつ職員が引き取りに行くまでぐつぐつ煮込まれ続ける優れものです」
('A`)「まさかのカマ違い」
ねちっこい仕様に怖気を感じつつも、俺は一安心していた。
そんな俺を見てか、ロミスは優しく微笑んだ。
£°ゞ°)「……よくやりましたね」
('A`)「いや、俺全然太刀打ちできなかったわ」
あいつがいないとどうなっていたか。
そう言おうとして辺りを見回しても、デレの痛みは姿を消していた。
いつの間にかロミスもいなくなっていて、後には眠っているデレだけが残っていた。
100
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/04(月) 00:09:07 ID:Q2yAa6aw0
( ^Д^)「ドークーオ! 今日こそ遊ぼうぜ!」
('A`)「悪い今日デートだわ」
( ^Д^)「えっドクオ彼氏出来たの……?」
('A`)「彼女だよ!!」
( ^Д^)「じょーだんじょーだん。つかいいなー彼女の写真とかないの?」
(´・ω・`)「はいはい、邪魔しない」
いつも通りの日常だ。
プギャーはお節介焼きだし、ショボンはそのブレーキ役に追われている。
毎度のことだけど俺は放課後のお誘いを断り続けて、こいつらとは浅くも深くもない付き合いを続けている。
ζ(゚ー゚*ζ「ごめんね、待った?」
('A`)「いや今来たところ」
少しだけ変わったのは、俺とデレとの関係性か。
暇さえあれば顔を合わせるようにしたし、無理な時にはメールするようにした。
といっても同じ団地に住んでいるから会おうと思えばすぐに会えるんだけど。
デレの母親は未だに宗教に狂っているし、口もろくに利いていないらしい。
でもそれでいいじゃん、と俺が言ったら、デレはホッとしたような顔をした。
自傷癖に関しては、未だに保留だ。
無理して我慢させて悪かった、と謝ったらデレはおろおろしていた。
こいつは優しいだけなのだ。
他人を傷付けるのが怖いから、自分を傷付けていただけで。
('A`)「でもお前だけが我慢して傷付く必要はないんだよな」
ζ(゚ー゚*ζ「んー?」
('A`)「なんでもねえよ」
101
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/04(月) 00:10:25 ID:Q2yAa6aw0
ふと思い立って、スキップをする。
三歩はリズムよく、四歩目で急にくるっと振り返って。
('A`)「…………」
振り向いても、そこにはやっぱりキョトンとしているデレがいるだけだった。
ζ(゚ー゚*ζ「……それなあに?」
('A`)「や、おまじないみたいなもん」
ζ(゚ー゚*ζ「なにかいいことあるの?」
('A`)「んー、コッペパンが食べたくなる」
ζ(゚ー゚*ζ「なにそれー」
('A`)「でも食べたくならねえ?」
ζ(゚ー゚*ζ「じゃあコンビニ寄ろっか」
('A`)「おう」
多分これから先も生きていけるだろう。
そのうち死ぬまでは。
('A`)「そん時はそん時だ」
102
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/04(月) 00:10:49 ID:Q2yAa6aw0
死ぬも生きるも他人の勝手止める輩は何々奴か 了
.
103
:
◆oFLOXqmM1c
:2016/04/04(月) 00:12:33 ID:Q2yAa6aw0
ご愛読ありがとうございました
地味に遅刻しています、すみません
以下元ネタとなるアーバンギャルの楽曲の紹介です
「水玉病」
「堕天使ポップ」
「ガイガーカウンターの夜」
「ノンフィクション・ソング」
104
:
◆mQ0JrMCe2Y
:2016/04/04(月) 01:13:12 ID:VPas1zLg0
【連絡事項】
主催より業務連絡です。
只今をもって、こちらの作品の投下を締め切ります。
このレス以降に続きを書いた場合
◆投票開始前の場合:遅刻作品扱い(全票が半分)
◆投票期間中の場合:失格(全票が0点)
となるのでご注意ください。
(投票期間後に続きを投下するのは、問題ありません)
詳細は、こちら
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1456585367/404-405
……という規定なので、遅刻ではないですよ。大丈夫です
投下乙でした
105
:
名無しさん
:2016/04/04(月) 02:38:26 ID:895gtZTU0
おつ
不器用だな二人とも
106
:
名無しさん
:2016/04/04(月) 02:40:20 ID:iHo/1mK60
乙乙
良かったよ、各話の都々逸もセンス良いな
あとブーン系でアーバンギャルソンにお目にかかるとは思わなかった
107
:
名無しさん
:2016/04/04(月) 09:11:37 ID:32eviLRM0
話もキレイにまとまってたしロミスのキャラがいかしてた
支援絵
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2010.jpg
108
:
名無しさん
:2016/04/04(月) 12:21:58 ID:mk0OdOjM0
>>105
はたぶん
>>104
>>103
あて
109
:
名無しさん
:2016/04/04(月) 21:05:06 ID:vNRCpdEA0
乙
とても好み
110
:
名無しさん
:2016/04/04(月) 21:42:43 ID:HGyGFOJA0
タイトルとサブタイの妙なテンポの良さが気に入った
なにか有名な詩だったりするの?
あとこのお話の最萌はロミス異論認
111
:
名無しさん
:2016/04/04(月) 23:51:05 ID:oHlN5ijk0
乙乙。すごく面白かった。
112
:
名無しさん
:2016/04/05(火) 01:33:16 ID:2GrSCZzk0
ロミスいいやつじゃねーか!
113
:
名無しさん
:2016/04/05(火) 01:40:25 ID:sOK/Gkl.0
カマが釜だったのが一番好きやわ
114
:
名無しさん
:2016/04/05(火) 05:56:50 ID:uwoyyUcY0
>>104
連絡乙です!
遅刻ではないとのことで安心しました
>>107
まさか支援絵を頂けるとは
ありがとうございます!
不穏な色合いでとてもいいです
>>110
これは都々逸といって七七七五、あるいは五七七七五のリズムを取る定型詩です
立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花やざんぎり頭を叩いてみれば文明開化の音がするなども都々逸ですね
各タイトルはオリジナルです
これを機に都々逸を知ってもらえたらと思ってつけました
115
:
名無しさん
:2016/04/05(火) 18:36:05 ID:2GrSCZzk0
とといつ素敵やね、勉強になったよ
116
:
名無しさん
:2016/04/17(日) 00:21:06 ID:Y56.vz.k0
抱きしめる、ということ
※流血と(隠れてはいるけど)擬人注意
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2046.png
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2047.png
支援絵。ドクオかっこよすぎんよ……
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