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SSスレ「マーサー王物語-ベリーズと拳士たち」第二部②

163 ◆V9ncA8v9YI:2021/04/02(金) 12:36:36
銃士の2人が仲間割れするのはこの上ないチャンスのように思えるかもしれないが、
ホマタンはそんな気分には全くと言っていいほどなれなかった。
高い水準にあるユメとリアイが競って自分を倒しにかかってきているのだ。
負傷して上手く動けないホマタンにとって、これ以上無い程のプレッシャーだろう。

(あと一撃でも良いのを貰ったらどうなるか分からない!はやく体勢を整えないと!)

しかし銃士による足の引っ張り合いもそう長くは続かなかった。
ユメがニョロニョロとした、捉えどころない動きでリアイの攻撃を避けたかと思えば、
タコの触手のように腕をしならせてホマタンに模擬刀を当てにきたのである。
斬撃は今にもヒットする。このままではホマタンの骨が砕けて軟体動物の仲間入りだ。

「Panda-san power ...19 percent !!!」
「!?」「「!」」

謎の言語と共にユメの刃が弾かれたのだから、リアイは驚いた。
色白で、ホマタン同様に身長の割には幼く見える少女が突如現れてユメに対抗したのだ。
驚くべきはその細身だ。
ユメの攻撃は骨をも砕くはず。そんなか細い腕でどうやって防いだというのか?
リアイには分からなかったが、ひとつだけハッキリしたことがある。

「この子がモーニング帝国新人剣士の、北出身か……」

「メイチャン!」
「危なかったねホマタン。パンダさんパワーのおかげで助かったよ。」

敵軍に加勢がきたため緊迫すべきシーンなのだが、この状況でもリアイはどうしても突っ込まずにはいられなかった。

「っていつかパンダってなに!?タコとか、肉食獣とか、ここは動物園なの!?」
「ムッ」

大声で突っ込んだリアイに対して、このメイチャンなる少女が納得いかないといった表情で反論を返す。

「パンダじゃない!パンダさん!」
「は!?」

164 ◆V9ncA8v9YI:2021/04/04(日) 21:57:49
「パンダさんには敬意を払ってるから”さん”を付けるの。」
「めんどくさ……」
「パンダさんって言わないと怒っちゃうから、パンダさんでお願いします!」
「はいはいパンダさんね。そんなに好きならパンダさんには会ったことあるの?」
「ううん。パンダさんには会ったことないよ。」
「は?」
「パンダさんに会うには準備が必要なの。グッズを用意したり、心の準備も必要だし。」

リアイは「責任取れよ」と言いたげな顔でホマタンを睨みつけた。
これにはホマタンも申し訳なさそうな顔をしている。
それを見てリアイは察した。この子も自分と同じように色々と大変なんだろうなと。
すると、これまでテコでも口をきかなかったユメ・オクトピックが怒鳴り出した。

「リアイ!ちょっと物申させて!気になっタコとがあるんだけど!」
「なんやねん」
「タコは動物園にいないわ!いるのは水・族・館!」
「ほんまに黙っとけや」

そのやり取りを見てホマタンは察した。この子も自分と同じように色々と大変なんだろうなと。

165 ◆V9ncA8v9YI:2021/04/05(月) 22:58:17
銃士のユメとリアイが口論をしている隙に、メイチャンはホマタンの手をとった。

「今のうちだよ。ホマタン、あっちに行っちゃおう!」
「えっ、でも……」

それは”逃げ”ではないかとホマタンは思った。
確かに状況は芳しくない。敵の2人はかなりの実力者だ。
こっちだってメイチャンは対抗出来るかもしれないが、負傷中のホマタンは戦力になれるか怪しい。

「メイチャン、でもね、先輩たちだったら絶対逃げないと思うの。どんなに不利でも、ここで戦わなきゃ」
「逃げてなんかないよ!」
「え?……」

理解が追いついてないホマタンに対して、メイチャンは言葉を続けていく。

「あっちに行って、リオちゃんを探そう!そして、3人揃ったらまた銃士の2人に挑もうよ!
 タコ大好きなユメちゃんはああ見えて結構強いし、もう1人の子も強かったんでしょ?
 だけどね、リオちゃんとホマタンと私が揃ったら無敵だよ!
 3人で勝って、先輩たちに自慢しちゃおうよ!」

166 ◆V9ncA8v9YI:2021/04/15(木) 00:12:12
目の前にいる銃士の2人は確かに強い。
それでも、モーニング帝国新人剣士のリオ、ホマタン、メイが揃えば敵無しだと信じている。
メイの言葉に胸を打たれたホマタンは、こくりと頷いた。

「探しに行こう!リオちゃんを!」
「うん!」

笑顔で承諾したメイはホマタンを背負いだした。
細身のメイがホマタンを担げるかと思うかもしれないが、心配はない。
彼女にはパンダさんの力がついているのだ。

「Panda-san power ...19 percent...20 percent !!!」

2割の力を解放したメイは長身のホマタンを軽々と持ち上げる。
そして強化された脚力であっという間に駆けて行ったのだ。
それに気づいたユメとリアイの2人は青ざめた。

「「逃げられた!!」」

追いかけようにも2人にはあれほどの脚は無い。
遠く離れていくメイ達を指をくわえて見ていることしか出来なかった。

「あわわわわ……」
「このままだと……」
「「国に帰ったら叱られる!!」」

ユメもリアイも、超スパルタなとある先輩をイメージしていた。
優勝候補筆頭の新人銃士が優勝を逃すどころか、誰一人撃破できないなんてことがあった日にゃ、
どんな仕打ちを受けるか分かったもんじゃない。
その先輩と付き合いの長いユメ・オクトピックなんて今にも死にそうな顔をしている。

「ね、ねぇリアイ!仲直りしようよ!」
「そうだね!ていうかそもそも喧嘩なんてしてなかったし!」
「そうよね!」

167 ◆V9ncA8v9YI:2021/04/16(金) 00:50:45
(そう言えば私とリアイって……)
(なんで喧嘩してたんだっけ?……)

ここ最近、口すらも聞いていなかったユメとリアイだが、
その原因はとてもくだらないものだった。
事の発端は数か月前。

「ねぇ〜リアイリアイ〜」
「……なに?」
「好きだよ〜」
「……」

ダル絡みにウンザリしたリアイは無視を決め込もうとしたが、
ユメはめげなかった。

「リアイ聞こえてる〜?好きだよ〜好き好き〜」
「……はいはい、ありがと」
「ちょっとリアイ!好きって言ったら"ありがと"じゃなく
 好きって言ってよ!同じ温度で!」
「うざ」
「もう!!」

これがきっかけで2人は大喧嘩をしたのだが、
日常茶飯事なので先輩の銃士たちもさほど心配をしていなかった。
唯一、スパルタな先輩が叱り飛ばそうともしたが、銃士のリーダー格であるトモ・フェアリークォーツがそれを制する。

「全くあの子たちは……そろそろ合同演習が始まるってのに……ちょっと叱ってきます。」
「まぁまぁ、ユメちゃんもリアイちゃんも後輩が入ってきたら変わるでしょ。あと数日で合流だっけ?」
「後輩って言っても元ファクトリーですよ!?」

168 ◆V9ncA8v9YI:2021/04/17(土) 01:05:58
場面は変わり、冷たい水の流れる川沿い。
そこには新人剣士の残る1人、リオ・キタガワ・サンツケンがいた。
同期のホマタンやメイチャンより年上だが、2人と比べるとずっと小柄だ。

「この水は飲めそう……!」

川の水を手ですくって、ゴクリと飲んだ。
彼女の目的は飲み水の獲得。
このサバイバル生活が長期化すると予測し、ライフラインを確保しようとしているのだ。
いくら戦闘力が高くても水と食料が無ければ長くは持たない。
そう考えるとリオの行動は正しいように思える。

「うん!美味しい!ここを拠点にすれば私たちモーニング帝国剣士が優位に立てる!もっと飲もう!もっと!」

数分後、リオはお腹を壊した。

「ううぅ……失敗した……」

リオ・キタガワ・サンツケンは自称利き水の達人。
だが、実際は水の良し悪しをほとんど見抜くことが出来なかった。
そこまで多量に飲まなかったので最悪の事態は免れたが、しばらくは満足に動けそうにない。
そんな中、招かざる客人が現れた。

「ひゃっ!人がいる!」
「!?」

リオはすぐに模擬刀を構えようとした。
しかし様子がおかしい。
目の前に出現した謎の女性は、不意を打ってくるどころか怯えた顔でブルブルと震えているのだ。

(なにこの人……本当に戦士?)

この女性は果実の国の銃士や、アンジュ王国の番長ではない。
可愛い女の子探しが趣味のリオは有名どころを押さえているが、まったく見覚えが無いのである。
それに、今回の演習プログラムの参加者の中ではリオは年長のほうだと思っていたが、
怯える女性はそれよりも年上に見える。リオより1歳上といったところだろうか?

(いったい、誰なの?)

169 ◆V9ncA8v9YI:2021/04/18(日) 00:54:48
「き、き、斬らないでください!戦う意思とか全然無いのでっ!」
「へっ?……」

弱気なお姉さんは今にも泣きそうな顔で懇願してきた。
膝までついて土下座でもする勢いだ。
リオは容赦なく切り捨てることも出来たのだが、そうはしなかった。
現在のリオは絶賛体調不良中(腹痛)。交戦せずに済むのであればそうするにこしたことはない。
ただし、それは目の前の人物が信じられる場合の話だ。

「あなたはいったい誰なの?……どこの所属?」
「そんなっ!おこがましいです!」
「おこがましい?どういうこと?」
「私の所属するユニットはモーニング帝国剣士様と比べたら弱小も弱小なんです!
 本っ当〜に名乗るほどでも無いんですよ!」
「……」

この合同演習プログラムに参加しているのはモーニング帝国、アンジュ王国、果実の国といった大国だけではない。
割と門戸は開かれていて、
友好的な近隣国ならば自由に参加できる仕組みになっているのだ。
驕りではないが、向こうがリオを知っていて、リオが向こうを知らないなんてケースは十二分にありえる。

「でも、そんな弱小でも私には仲間がいるんです。だけど仲間がいないと不安で不安で……
 なので、せめて、ユニットの仲間と合流するまでは戦わずに仲良くしてもらえませんか?……」
「そんなこと言って、油断した隙に寝首をかく気なんじゃ?」
「いえいえいえっ!嘘じゃないです!私上手く嘘なんかつけないんですってば!
 仲間がいないと本当にダメダメなんです!ねぇはやくはやく会いたいよ〜!」
(本気……で言ってるのかな?)

演技にしては真に迫っているので、このお姉さんは嘘偽りのない姿を見せているのではないかと思えてきた。
しかし、まだ鵜呑みにするのは危険だ。なのでリオ・キタガワ・サンツケンは一つの質問を投げかける。
この回答次第で判断しようと決めたのだ。

「分かった。信じてあげる。ただし、この水を飲めたらね。」
「えっ?」

そう言ってリオは川の水をコップですくい、差し出した。

「私が汲んだこの水を疑わずに飲むことが出来る?
 もしかしたら今の一瞬のうちに毒を盛ったかもしれないよ?もしくは、飲んでる隙に斬りかかるかもね。」
「!」
「しばらく一緒に過ごすんだから信頼関係は重要だよ。でもね、ここで私を信じない人を、私は信じることなんて出来ない。
 さぁ!飲むの?飲まないの!?」
「……飲めません。」
「ふふっ、やっぱり飲めないんだ。だったらこの話は決裂……」
「だって川の水なんか飲んだらお腹壊しますよ。綺麗な水とは限らないから迂闊に飲んだりしないほうが……」
「あ、うん、そうだね、うん、知ってたけど、えっと、分かってて言ってたの。本当だよ。」

リオはお姉さんと一緒に過ごすことになった。

170 ◆V9ncA8v9YI:2021/04/19(月) 01:48:55
またもや場面は代わり、木々の深いエリア。
そこではアンジュ王国の新人番長、シオンヌ・タメ・ハサミサンが走っていた。
今回、アンジュ王国からは4人の新人が参加しているのだが、
まだ戦闘に慣れていない同期2人が心配で、一秒でも早く合流せねばと焦っているのだ。

(あれ?何か聞こえる……)

そんな自分を狙う影の存在にシオンヌは気づいた。
そいつは木から木へと移って移動をしている。
動きが素早く、目視で捉えることは困難だ。

(まさか……)

シオンヌにはこの動きの主に心当たりがあった。
認識通りであるならば、このまま超スピードで攪乱し続けて、良きタイミングで斬りかかってくるはずだ。
言わば暗殺者スタイル。
基本は物陰に隠れて、一瞬の隙を見て仕掛けてくるのだから、対応は容易ではない。

「だったら隠れられなくすれば良い!」

そう言うとシオンヌは目の前の木を抱きしめた。
そして、強大なパワーでメキメキと圧迫させていったのだった。
シオンヌは小柄に見えるが、その身には常人以上の筋力が備わっている。
大木は流石に厳しいが、そこらの木程度であれば軽々と折ることが出来るのだ。
辺り一帯の木を全て折ってしまえば奴はもう隠れられなくなる。
しかし、暗殺者はシオンヌがそう来ることを予測していたようだ。

「余裕っすよ。」

シオンヌが木を折る隙に背後へと回り込み、模擬刀を振り下ろす。

171 ◆V9ncA8v9YI:2021/04/20(火) 01:01:33
「そう来ると思いましたよっ!」
「!」

シオンヌは背後にあえて隙を作ることで、相手の攻め筋を限定させたのだ。
どんなに超スピードだろうと来ると分かれば受け止めることが出来る。
すぐさま後ろを振り返り、斬撃を模擬刀で防いでみせた。

「あっ!くっそ〜!」
「さて……どういうつもりか説明してもらいましょうか。ハシサコさん。」

シオンヌに襲い掛かったのは番長の1期先輩のリン・ハシサコ・ランチマインドだった。
先輩とは言ってもシオンヌより2歳ほど年下であり、
戦士であることを知らなければただの幼い子供に見える。

「ふふふ、番長は仮の姿。実は私は他国のスパイだったのだ。」
「そういうのいいんで。」
「というのは嘘で、戦場の緊迫感を教えるためにわざと敵のフリをしてたんだよ。先輩としてね。」
「ただフザけたかっただけだろクソガキ(そうだったんですね!流石です!)」
「心の中とセリフが逆じゃない!?」

番長の中で2番目に年が若いリンは遊びたい盛り。
特にリアクションの面白いシオンヌをからかうのが楽しくて仕方ないのだ。

「まったく……ここで仲間割れなんかして、他のチームに狙われたらどうするつもりなんですか」
「ま、大丈夫でしょ。私もシオンヌも強いもん。」
「……それは同感ですけどね。」

172 ◆V9ncA8v9YI:2021/04/21(水) 01:22:17
場面はまたリオのいる川沿いに戻る。
一次的な停戦協定を結んだリオと弱気なお姉さんは、地べたに座りながら会話をしていた。
リオの体調もあと少しで良くなるので、回復まではそうして凌ごうとしているのである。

「そういえば自己紹介がまだだったね。
 知ってるかもしれないけど、私はモーニング帝国のリオ・キタガワ・サンツケン。
 あなたは?」
「えっ!?私……ですか?ですから名乗るほどの者では……」
「名前くらい教えてくれたっていいでしょ。」
「う〜ん……まぁ、名前だけなら……」

これだけ渋るのだからひょっとしたら大物なのかもしれないと、リオは少し期待したが、
出てきた名前は結局聞いたこともないものだった。

「"マドカ"、です。」
「マドカちゃんかぁ……ごめん、聞いたことないかも。」
「だから名乗るほどじゃないって言ったじゃないですか〜!」

リオは笑いながらペコリと頭を下げた。
どうやらマドカおよび、彼女が属するユニットとやらが無名というのは真実のようだ。
心配するだけ損だなと思っていたところで、マドカの表情が変わったことに気づく。
リオの後ろを見て目が点になっていたのだ。

「あ……」
「どうしたの?マドカちゃん?」

何が起きたのかと不審に思ったリオは、マドカの見つめている方に振り向いた。

(誰かいる?……)

リオの視線の先3,40メートルほど先に人影があった。
少女の姿をしている。もしかしなくても合同演習プログラムの参加者の一人だ。
いったい誰だろうと目を凝らそうとしたところで、
突如、ガンッ!と言った音と共にリオの後頭部に激痛が走る。

「!?」
「リオさんごめんなさい。仲良しごっこはもう終わりです。」

頭を殴られたことにリオはすぐ気づいた。
誰にやられたか?疑いようがない。マドカに攻撃を受けたのだ。
驚くべきは今現在のマドカの表情からは不安や怯えが一切消え去っているということ。
冷たい目で、うずくまるリオを見下しているように見える。

「……裏切ったのね。」
「えっ?最初からそういう約束だったじゃないですか?」

数十メートル先にいる少女からもこの光景は見えていたようだ。
その少女がメイチャンかホマタンのどちらかであれば良かったのだが、
生憎にもマドカ属するユニットの一員だった。

「マドカったらまた何かしたのね……本当に"悪いヒト"なんだから。」

173 ◆V9ncA8v9YI:2021/04/22(木) 08:48:46
頭がひどく響いているが、リオはこの状況でもすぐに動き出さなくてはならなかった。
目の前の敵マドカを早く倒さないと味方と合流されてしまう。
2対1では流石に分が悪いので、この数秒が正念場だ。

「これでも喰らえ!」

リオはグラスに入った水をマドカの顔にぶっかけた。
咄嗟のことに驚いたマドカは避けられずに受けてしまう。

「なに!?」

毒水かもしれないと警戒したが、なんてことはない。ただの汚い川の水だ。
だが、水をかけられた瞬間はどうしても目をつぶってしまう。
リオはその隙にマドカの背後に回り込み、お返しと言わんばかりに後頭部に模擬刀を叩きつける。

「うっ!!」

腹痛に加えて不意打ちを受けたばかりのため、リオは攻撃に満足な力を込めることが出来なかったが、
それでもマドカの脳を響かせることには成功したようだ。

(やっぱり帝国剣士は強い……下手を打ったら瞬殺されちゃうかも。
 ここはキララさんが到着するまで守りに徹するべき?)

マドカが痛む頭であれこれ考えようとしたら、突然、大量の水が横からかかってきた。
リオが川に刃を強く当て、水飛沫がマドカに飛ぶように仕向けたのだ。

「な、何を!?」
「攻めてこないのは勝手だけど、だったら私は貴女に水をかけ続けるよ。
 今日は寒いからあっという間に体温を奪われちゃうよねぇ。
 水を吸った服は重くなるから、仲間と合流する頃には連携も取れないくらい動けなくなっちゃうかもねぇ。」
「!!!」
 
正直言ってマドカの戦闘能力は高い方ではない。
味方とのチームワークのみが勝ち筋と考えていたが、このまま水をかけられたらその可能性が潰えてしまう。
焦ったマドカは強打でリオの腕を痛めてやろうと斬撃を繰り出したが、それも通じなかった。
リオが刀の腹で川水を叩くことで巻き起こした水の柱により、剣の勢いを殺されたのだ。

(これが帝国剣士の実力!……)

リオ・キタガワ・サンツケンはモーニング帝国剣士の中でも二本の指に入る「水の使い手」。
利き水はサッパリだが水を扱う術には長けている。
本調子で無かろうと、本来の武器で無かろうと、大量の水が側にある限りはリオを崩すことは困難だ。

174 ◆V9ncA8v9YI:2021/04/23(金) 13:29:11
流れはリオが掴んでいた。
はじめの不意打ちこそ驚いたが、それ以外の戦いっぷりは恐れるに足りない。
このままマドカを圧倒できると思ったその時、リオの刃が何者かに弾かれた。
そう、マドカの仲間が到着したのだ。

「何!?……」
「そろそろやめてもらえる?」
「キララさん!」

キララと呼ばれたそのお仲間は、幼い顔なうえに目もパッチリと大きく、いかにも少女といった感じだ。
どう見てもマドカより年下なので、マドカが敬語を使うのに違和感を覚えたが
よくよく考えたらリオもホマタンやメイチャンにタメ口を使われているのでよしとした。
それより気になることは、リオの斬撃をキララの脚で止められたことだ。
刃の鈍い模擬刀とは言え、斬撃をキックで弾かれるのは剣士として悔しすぎる。
ただ、これでキララが浮かれてくれれば良いのだが……

「貴女のことは格上として見てる。気を引き締めさせてもらうわ」
「!」

幼い見た目とは対照的に、相対しているキララは非常に冷静だった。
確実にダメージを与えるべく、蹴りあげた脚を地に落とすと同時にグッと前に出て、
その勢いのまま模擬刀をリオの腹へと当てていく。

「うっ……」
「行け行けキララさん!やっちゃえ!GO!GO! 」
「いや、ここは退くわ」
「へ?」
「踏み込みすぎたら帝国剣士のテリトリーに入っちゃう……そうでしょ?」

そう言ってキララはバックステップで後方に下がった。
リオは水際に立っていたので、キララが寄ってくれば水を有効活用できたのだが、
あそこまで退かれたらそれも難しくなる。
騙して不意を打つマドカほどの大胆さは無いが、非常にやりにくい相手だとリオは感じた。

「ほらマドカ、貴女も下がって」
「は〜い、でも私思うんですよ。」
「何を?」
「キララさんの戦闘スタイルはリオさんに相性抜群だと思うんですよね。だって水とか平気じゃないですか。」
「それは私も感じてる。今から見せてあげるからフォローよろしくね。」
「はい!」

175 ◆V9ncA8v9YI:2021/04/24(土) 17:27:53
「水が平気?……」

ユニット達の言いっぷりにリオはムッとした。
自分の戦術を低くみられたのだから、その怒りももっともだろう。
そこまで言うのならば水の強みを見せつけるしかない。

「距離をとれば安全とでも思った!?」

リオは川の水をすくっては、両手でグッと圧縮した。
これはモーニング帝国剣士の先輩の技を真似たもの。
水を強く圧縮することで勢いよく飛ばしている。要は水鉄砲だ。
だが威力は子供のおもちゃとは比較にならない。

「喰らえ!」
「「!」」

狙いはキララの顔面だった。
リオの本気の水鉄砲は石をも弾く。
まともに受ければひとたまりも無いだろうし、目に当たりでもすれば一大事だろう。
とは言え避けられないスピードではない。
水鉄砲を慌てて避けさせることでキララの余裕を奪いたいとリオは考えていた。
そして、「水は平気」という発言を撤回してほしいとも思っていたのだ。
しかし、キララはそうはしなかった。
微動だにせず、顔で全部受け止めたのである。

「えっ!?」

平気な顔して受けたことにも驚いたが、
それ以上に、水を受けた顔面がシュウウと言う音と共に多量の蒸気を発していることにも驚愕した。
いったいこれはどういうことなのだろうか。

「ごめんなさいね。私、特異体質なの。」
「特異体質?……」
「本気を出すと体温がどんどん上がっちゃってね、水を浴びるとすぐ蒸発しちゃうんだ。
 今の私の体温は、そう、"43℃"ってとこかな?」
「!?」
(さすがキララさん!水は43℃じゃ蒸発しないけど本気でそう思い込んでるのが凄い!)

176 ◆V9ncA8v9YI:2021/04/25(日) 23:31:54
自慢の技が通用しなくなったため、リオはひどく狼狽した。
そしてその隙をキララは見逃さない。
すぐさまリオの懐に入り込み、握り拳のラッシュを腹へと叩きこむ。

(素手!?……いや、それよりも熱い!)

キララはいつの間にか模擬刀を投げ捨てていて、己の拳を武器にしていた。
これは手加減などでは決してない。自称43℃の発熱により高熱のパンチを実現しているのだ。
激しい苦痛に耐えきれなくなったリオは、水場を踏んづけて水しぶきをあげたが、
その程度ではキララの目隠しにも、妨害にもならなかった。
水はキララの肌に触れた瞬間蒸発するため、このような行為は全くの無意味なのだ。

(違う、本当に怖いのは高熱なんかじゃない。
 特異体質とは言ってもせいぜい人間の出す熱なんだから、我慢できない熱さじゃない。
 この子の本当に恐ろしいのは基礎力の高さ……攻撃、防御、立ち回り、その全てがしっかりしている。
 きっと、ずっと前から訓練を積んできたんだ……このままじゃ私はこの子を崩せない)

リオやホマタンは戦士になってから日が浅い。
水を利用したり、肉食化することで帝国剣士の名に恥じぬ強さを実現してきたわけだが、
絶対的な訓練量が足りていないため基礎が身についているとは言えないのだ。
そんな状況で唯一のストロングポイントとも言える水まで奪われたのだから、絶望的な状況だ。
だが、ここで一筋の光明が差し込んできた。
なんとキララが体勢を崩し、膝をついたのだ。

「うっ……」
「!」

そのようになった理由は明らかだ。熱を出しすぎた結果、頭がクラクラしたのである。
熱に浮かされれば身体がフラつくのは当然のこと。至極当たり前だ。

(チャンスだ!可哀想だけどここで追い打ちをかける!)

リオはキララに対して容赦なく模擬刀を振り下ろした。
体調不良の相手に対して攻撃するのは気が引けるが仕方がない。
このキララさえ倒せば勝利を掴めるとリオ・キタガワ・サンツケンは本気で信じているのだから。
だが、その判断こそが"ミステイク"だった。

「だめね」

突如聞こえたマドカの声と共に、剣を持つリオの右腕に激痛が走った。
その痛みは非常に耐え難く、声にならない声を発しながらリオは模擬刀を地に落としてしまった。
たった今、マドカは目にも見えない鋭い斬撃をリオに喰らわせていた。その一撃で折られてしまったのかもしれない。

「あ……あぁ……」
「リオさん、貴女はキララさんだけが相手だと思ってました?
 ユニットは全員がこの"クリティカルヒット"を使えるんですよ。
 私以外の4人と同じように、私マドカも、戦力なんです。」

177名無し募集中。。。:2021/04/26(月) 16:28:59
>>157
ほまたん優勝

178 ◆V9ncA8v9YI:2021/04/26(月) 23:54:59
>>177
ホマタンの名前の由来はその通りですw
他の由来はおいおい説明しますね

179 ◆V9ncA8v9YI:2021/04/27(火) 01:19:27

キララが頭を抱えながらゆっくりと立ち上がる。
短時間のクールダウンにより体温が下がり、高熱から微熱程度になったのだ。

「キララさん見てましたか?帝国剣士を1人倒しましたよ!」
「うん、よくやったねマドカ。でもまだ決着はついてないよ。」
「え?」

折れた腕をだらりとぶら下げながらも、リオは目の前の敵たちを鋭く睨みつけていた。
状況は圧倒的不利。それでもリオ・キタガワ・サンツケンはここで寝っ転がってなんかいられないのである。
モーニング帝国剣士としての誇りが彼女をそうさせている。

「まだ、心は折れてないってことですか。」

マドカは両手で二本の模擬刀を構えてリオを睨み返した。
もともとマドカが持っていた剣と、キララが落とした剣、その二振りでリオを叩きのめすつもりだろう。

「だったら腕と脚を折ってあげますよ!私たちのクリティカルヒットが決まればそれくらい簡単に……」
「マドカ!」
「止めないでくださいキララさん!ここは攻めるべきです!」
「違う!来てる!後ろからっ!」
「え?」
「Panda-san power ...21 percent !」

マドカの背中に強烈な飛び蹴りがブチ込まれる。
その光景を見たリオは歓喜した。本当の光明がやっと見えたのだ。

「メイチャン!ホマタンまで!」

マドカを蹴り飛ばしたのは、リオと同じ新人剣士のメイチャンだった。
その背中にはホマタンを背負っており、2人分の体重でマドカを蹴ったことになる。

「リオちゃん大丈夫?」
「ひょっとして危ないところだった?……」
「ううん、全然大丈夫。3人揃ったんだからこんなに力強いことはないよ。」

リオ・キタガワ・サンツケン
ホマタン・ウィナー
メイチャン・リコテキー
モーニング帝国剣士の新人3人がここで揃った。
ここから先はどんな敵が相手だろうとも負ける気はしない。

180 ◆V9ncA8v9YI:2021/04/27(火) 22:06:54
同時刻、新人番長のリン・ハシサコ・ランチマインドとシオンヌ・タメ・ハサミサンは味方を求めて歩き回っていた。
この合同演習プログラムには厄介な北の出身が何名も参戦している。
まだ戦歴の浅い仲間がそいつらとマッチアップする前に見つけようとしているのだ。

「"北の出身"……強さと異常性を兼ね揃えた人たちでしたっけ」
「そう。ハーチャンさんもなかなかヤバかったよ。」
「私、入れ替わりだからハーチャンさんとはあまりお話したこと無いんですよね。」

ハーチャン・キュリーはリンの1期先輩の番長であり、
モーニング帝国の新人剣士メイチャン、果実の国の新人銃士ユメと同様に北の出身だった。
とある事情で今はもう番長を辞めているが、その強烈な印象はリンの脳裏に焼き付いている。

「新人剣士と新人銃士に北出身がいるのは話題になっていましたよね。
 ということは、この演習には合計2名参加しているってことですか?」
「いや、違うよ。」
「えっ?」
「ハーチャンさんの話ではもう1人ヤバい奴がいるらしいの。」

ユメとメイチャンは特殊な技能を上手く活用して強さを実現しているが、
もう1人の北出身はただただ純粋に強かったという。
まさに熊のように強いその人物が今も戦士として戦っているかどうかは定かではないが……

「そんなに強いんだったらさ、参加しているでしょ。この企画に。」
「……そうですね。心してかからないといけませんね。」
「そいつが既にケロンヌちゃんやワカナちゃんと出くわしてたら、もう笑うしかないよね。」
「縁起でも無いこと言わないでくださいっ!」

181 ◆V9ncA8v9YI:2021/04/28(水) 23:34:54
そこから少し離れた場所では、
番長の1人、リン・ケロンヌ・ラブオデンが窮地に陥っていた。
蛇に睨まれた蛙、もとい、熊に睨まれた蛙のような顔をしている。

(ど、どうしよう……)

仲間と出会うより先に敵に出会ってしまったのだが、
その敵が強者のオーラをガンガン放っていたので、恐ろしくてたまらないのだ。

(せめてシオンヌちゃんとワカナちゃんがいれば……)

アンジュ王国の新人番長3人の連携は高いレベルにあり、
そのチームワークには先輩のレラピやリン(ハシサコ)も敵わなかったという。
特に、特定の条件下でのみ発揮できるケロンヌの特殊技能が決まりさえすれば、
どんな強敵が相手だろうと優位に立てるのだが、
こんな1対1の緊迫した状況下ではそれさえも出来ない。

「そろそろ終わらせようか。もう貴女は逃げられないよ。」
「!……逃げたりなんかしません!だって私たち番長ですから!」

ケロンヌは模擬刀を力強く握って斬りかかった。
白兵戦には自信は無いが、ここで退いてはならないと心で感じたのだ。

「そっか、だったらこっちも本気で仕留めるよ!」

その強者は、非礼を詫びるようにペコリと会釈すると同時に、高速の鋭いケロンヌの胸へとぶつけていく。
それはマドカがリオに放った技と非常に似ていた。

「"クリティカルヒット"!!」
「!!!」

一瞬で意識を持ってかれそうなくらいに強烈な一撃だった。
だが、タダで負けるワケには行かないと感じたケロンヌは、
気を失う前にたった一言だけ声を発することが出来た。

「あなたは……どこの誰なんですか?……」

返答の義務は無いし、対戦相手が気絶した以上、回答は無意味でしか無いのだが
力の差に気づきながらも前のめりでかかってきたケロンヌに対し、彼女は敬意を払いたくなったようだ。
ケロンヌの行動は成果に繋がらなかったかもしれないが、"ミステイク"では無かったのである。

「私は"イシグリ"、北の出身で今は"ユニット"に属しているの。」

182 ◆V9ncA8v9YI:2021/04/30(金) 02:37:27
ケロンヌが倒されたとはつゆ知らず、リンとシオンヌは引き続き森を駆けている。
すると突然シオンヌがピタリと止まりだした。

「どーしたの?疲れちゃった?」
「いえ……リンさんだけ先に向かってもらえますか?」
「?」
「ここは私が引き受けます。リンさんは2人を探してください!」
「あー、アイツか」

シオンヌの視線の先には、1人の少女が立っていた。
華奢な身体にツインテールと、戦場には似つかない恰好をしているが、例によって彼女も戦士なのだ。
演習の参加者の証である模造刀を右手に持ち、シオンヌを見つめている。

「見た感じ帝国剣士でも銃士でも無さそうだね。2人がかりでパパっと終わらせたほうが良くない?」
「……彼女は強いです。負けないにしても足止めされてしまいます。」
「なるほど、知り合いなんだ。」
「はい。」

強いのであればなおさら二人がかりで確実に仕留めるべきではあるが、
シオンヌが1対1で戦いたがっているのを察したリンは、望みの通りにしてあげることにした。

「そういうことならここは任せるよ。」
「有難う御座います。」
「……負けないでよ、番長になったんだからさ。」
「心得てます。」

シオンヌの覚悟をしかと確認したリンは、木々を伝ってあっという間に姿を消してしまった。
一人残されたシオンヌの元に少女が駆け寄ってきた。

「シオンヌ、話には聞いてたけど本当に番長になったんだね。
 でも、やっぱりシオンヌは私たちと一緒に……」
「クボタ、私は"ユニット"には入らないよ。」
「!」
「勘違いしないで。私は貴女たち5人のことは尊敬している。キララさんも、イシグリさんも、クボタも、マドカちゃんも、そしてカネ……」
「だったら今からでも遅くないよ!私たちは勢力を広げる必要があるの!1人でも強い仲間が……」
「ううん。何回も言うけど"ユニット"には入らない。だって私たち番長ですから。」

シオンヌはスゥッと深呼吸をし、強く握った模擬刀をクボタと呼ばれた少女の方へと突き付けた。

(リンさんが"北出身"がもう一人いるかもしれないと言った時点でこの展開は覚悟していた……
 相手がイシグリさんじゃないのは幸いだったけど、クボタだって決して楽な相手じゃない。
 番長として強くなった私を、しっかりと見せつけないと。)

183 ◆V9ncA8v9YI:2021/05/01(土) 01:45:21
場面はまた、モーニング帝国新人剣士3人が揃う川辺に戻る。
リオは、自身のピンチに駆けつけてくれたホマタンとメイチャンへの感謝がまだ止まないようだ。

「二人とも本当にありがとう。でもなんでここにいるって分かったの?」
「メイチャンと2人で相談したんだけどね、リオちゃんのことだからどうせ川の近くにいるって思ったの。」
「うん。リオちゃんは水を見つけたら意地でも離れなさそうって話してたんだよ。」
「そ、そうなんだ……」

対して、メイチャンに蹴り飛ばされたマドカが不思議そうな顔をしている。
細身のメイチャンに与えられたダメージが想像以上に大きいことに驚いているのだ。

「えっ?……どういうこと?……」
「なんらかの方法で身体能力を飛躍的に向上させているのよ。おそらくは筋力操作ってところかな。」
「なるほど、キララさんの体温上昇と同じような能力ってことですね。だとしたら何かしらのデメリットが……」
「うん、そうなんだけど敵の前でバラすのやめてね。」

キララの推察通り、メイチャン・リコテキーは短時間だけ己の肉体を強化することが出来る。
これをメイチャンは"パンダさんからパワーを借りた"と表現しており、
その気になればパンダさんと同等の膂力を再現することが可能だという。
もっとも、それだけ筋肉に重い負担をかける形になるため、100%の力を引き出せばすぐに反動で動けなくなってしまう。
そのためメイチャンは常にパンダさんの20%前後の力だけを使用するように心掛けている。

「ど、どうしよう、メイのパンダさんパワーの秘密がバレちゃってる。」
「大丈夫だよ。メイチャンのパンダは対策しようとして出来るものじゃないから」
「パンダさん!」
「それよりホマタン、脚、怪我してるの?」
「うん……でも、少しは歩けると思う。」

ホマタンの右足と、リオの右腕は満足に機能しないと言っていいだろう。
となれば新人剣士らの作戦の軸はおのずとメイチャンになる。

「メイチャンはあのキララって人を死ぬ気で押さえて。私とホマタンはフォローに回るから。」
「うん!分かった!」
「ただ、もう1人のマドカ……あのお姉さんにも油断しないでね。
 少しでも隙を見せたら私のように腕を持ってかれると思っといて。」
「「うん!」」

184名無し募集中。。。:2021/05/01(土) 04:07:07
ワンフォーオールか

185 ◆V9ncA8v9YI:2021/05/02(日) 00:23:48
確かにヒロアカのワンフォーオールに近い能力になってますね。
最大出力はあれほどではありませんがw

186 ◆V9ncA8v9YI:2021/05/02(日) 00:57:19
「Panda-san power ...21 percent !」
「!」

リオの指示通り、メイチャンはキララに飛び掛かった。
パンダさんは動きが遅いイメージだが、実際はかなり機敏に走ることが出来る。
メイチャンは自身の脚力を強化することで通常より速く走ってみせたのだ。

「速く動けるのはこっちも同じ。」

キララは己の心拍数を爆発的に上げることで血液の巡るスピードを速めている。
それにより急激な発熱(自称43℃)と共に運動パフォーマンスの向上を可能としているのだ。
模擬刀への拳の乱打により、21%パンダさんパワーの腕力からなる斬撃の勢いをみるみる低下させていく。

「えっ!?パンダさんパワーは無敵なのに!」
「無敵なんてこの世に存在しないわっ!」

キララはメイチャンの攻撃を見事にいなしたかと思えば、
すぐさま後ろに回り込んで後頭部に殴りかかった。
いくらメイチャンが筋力を強化しようとも後頭部への一撃はダメージが大きすぎる。
それだけは避けるべきと判断したリオ・キタガワ・サンツケンが、左手に持った剣で川を叩いて水を飛ばしていく。
その行き先はキララの目だ。
キララの体温であれば水なんてすぐに蒸発させてしまうのは先ほどの通りだが、
蒸発する際に一瞬だが白い湯気を発するため、それがキララの視界を奪うことになる。

「メイチャン避けて!」
「うん!」
「くっ……」

結果的にキララは回避したメイチャンの居場所を捉えることが出来ず、攻撃に失敗してしまう。

「よくもキララさんの邪魔をっ!」

リオの存在が目の上のたんこぶだと考えたマドカは、もう一本の腕を折ってやろうと斬りかかった。
両腕が折れればもう水を操ることは出来ないと判断したのだ。
しかし新人剣士はメイチャン、リオ以外にもう一人残っている。
リオだけは狙わせまいと、ホマタン・ウィナーが肉食獣の如き鋭い牙でマドカのももに噛みついたのだ。

(させないっ!)
「痛っ……!やめてくださいよっ!」

とは言え今のホマタンはマドカにとって格好の餌食。狙いやすすぎる的だ。
マドカはすぐ下のホマタンに向けて模擬刀を振り下ろす。

187 ◆V9ncA8v9YI:2021/05/03(月) 01:44:46
ホマタンが斬られる直前に、リオは左手の模擬刀をわざと落としていた。
重量のある剣が川に落ちたため、当然のように水飛沫が上がっていく。
リオはそのようにして舞い上がった水を左手でキャッチし、
握り潰すように圧縮することでマドカの顔面に水鉄砲を放ったのだ。

「わっ!」

両手での水鉄砲と比べると威力が各段に落ちるが、一瞬怯ませることには成功する。
その隙にホマタンは起き上がり、マドカの胸に素早く斬撃を放つ。

「リオちゃんありがと!えいっ!」
「!!!」

ノーガードで受けたのでマドカは息が出来ないほどに苦しんでしまう。
このままリオとホマタンに袋叩きにされたらそこでリタイアだろう。
それだけは避けたいキララは、更に熱量を上げてメイチャンを凌ぐ速度でダッシュする。

「今ハッキリしたわ。貴女を水から引き離さないと勝てないようね!」

リオの元へと向かうキララを阻止しようとすぐに追いかけるメイチャンだったが、
脚の筋肉からブチブチといった音が鳴り、出血してしまう。
ホマタンを背負ってリオを探している間、ずっとパンダさんパワーを借り続けた代償がここで来たのだ。
まだ動ける。まだ動けるのだが、しばらくはパンダさんパワーを充電しないと今度こそ筋繊維が全て千切れてしまう。
そのためメイチャンは高熱高速で移動するキララの首を掴むことが出来なかった。

「リオちゃん!来るよ!」
「大丈夫、大丈夫だよホマタン。あの子はもうじき自分の熱で参っちゃうはずだから!」

キララの狙いがリオと川を引き離すことなのはハッキリしている。
だがリオはテコでもここから動くつもりはない。
強烈な蹴りをもらってこの場から吹っ飛ばされることもあるかもしれないが、
今の発熱ペースならキララはまたすぐに耐えきれず、うずくまるに違いない。
その隙を付けば良いだけなのだ。

「舐められたものね……要は"水から引き離すこと"と"体温を下げること"を同時にやればいいんでしょ?」

キララのとった行動、それはリオの足元にヘッドスライディングで突っ込むことだった。
高熱を持ったキララは水に触れるだけで一瞬で蒸発させることが出来る。
川の水全てを……とは流石にいかないが、浅瀬に立っていたリオの半径数メートル程度は干上がらせることに成功したのだ。
そしてこれらの水による冷却効果によりキララの頭もクールに冷えている。

「熱っ……ま、まずい!」

水に浸かっていた足が火傷しそうなくらいに痛むが、リオはここからすぐに移動せねばならなかった。
今のリオは手ぶらも同然。すぐに水を確保しようと川の奥の方に走っていく。
だが、キララに背を向けたのが"ミステイク"だった。

「だめよ」

足を痛めたリオよりも、キララの移動速度の方が圧倒的に速い。
キララはリオの背中に懇親のパンチをお見舞いした。

「ああ゛っ!!」
「"クリティカルヒット"……貴女は既に身をもって経験したはずだけど?」

188 ◆V9ncA8v9YI:2021/05/04(火) 01:05:26
ユニットによるクリティカルヒットを2度も受けたリオの身体はもうボロボロだった。
血反吐を吐き、今にも倒れてしまいそうだ。

「「リオちゃん!」」

同期のピンチに反応したホマタンとメイチャンがすぐさま駆けようとしたが、
メイチャンは模擬刀を二本持ったマドカに阻まれてしまった。

「邪魔しないでっ!」
「貴女こそキララさんの邪魔をしないでください!」

焦ったメイチャンは目の前のマドカを瞬殺すべく、剣を持った右腕にパワーを集中させる。

「Panda-san power 70 percent!! 80 percent!! 90 percent!!」

しかし筋力の増強が急すぎるあまり、その反動も大きかった。
一回も攻撃を仕掛けていないというのに、両脚同様に右腕の筋繊維が千切れて出血してしまう。
そしてマドカは見える弱点をみすみす放っておくほど甘い女ではない。
メイチャンの右腕に対して二本の剣を容赦なく叩きつける。

「ここで!寝てて!ください!」
「あああああああああああ!!」

メイチャンの悲痛な叫びを聞きながらもホマタンは足を止めなかった。
どちらかと言えばリオの方がより窮地に立たされていると判断したのだ。

(メイチごめん!あのキララって人を倒さなきゃリオちゃんがヤバいの!)

キララは刺し違えるつもりでキララを倒さんと向かっていった。
もっとも、当のキララはやられるつもりは毛頭無い。更に体温を上げて迎撃しようとしている。
そんな中、フラつくリオから指示が飛んできた。

「ホマタン!その人とは戦おうとしちゃ駄目!」
「リオちゃん!?で、でも!」
「動きを止めることに徹して……私が責任を持って仕留めるから」
「!」

満身創痍のリオの言葉に不思議な重みを感じたホマタンは、素直に従うことにした。
模擬刀を捨てて、タックルをするかのようにキララの脚に抱き着いていく。
だがキララの身体は既に高温。触れるだけでも苦しいはずだ。

「あ、熱い!!……でもリオちゃんの言うことを聞かなきゃ……」
(確かに動けないけど、いったい何がしたいというの?……もう水に頼れない貴女がどうやって私を仕留めると?)

189 ◆V9ncA8v9YI:2021/05/05(水) 01:55:36
事実、今現在のリオの周囲には水が無い。
少し歩けば川の水に触れることが出来るが、ホマタンを振り払ったキララに殴られる方が速いだろう。
ならば今この場で確保可能な水分で攻撃を仕掛ければ良い。

(先輩の技……お借りします。)

リオ・キタガワ・サンツケンはキララ目掛けて水鉄砲を発射した。
それもいつものシーブルーではなく、真っ赤な紅色の水滴を放っている。

(血液!?)

キララの大きな目に向かって飛んできたのは血液だった。
リオはクリティカルヒットで損傷した背中に手を伸ばし、水鉄砲一杯分の赤い水を掴み取ったのである。
当然、血液もキララに触れれば蒸発するが、それは血液中の水分のみ。
それ以外の成分は凝固……つまりは血が固まっていく。
真っ赤な目隠しが瞳にベッタリと貼りついたため、流石のキララも取り乱してしまう。

「み、見えない!」

水が無ければ狼狽えるリオはもういない。彼女は既に次の段階に進んでいる。
もう ね Next Door。
いくらでも検証していいよとばかりに、キララの目にエビデンスを残したげたのだ。
生意気でしょ。

(今の錯乱したではホマタンを振りほどけない!そして……私の攻撃を避けることも出来ない!)

リオは己の模擬刀を左手で拾い上げて、斬撃をキララの右腕にブチ当てた。
刃の鈍い剣とは言え、生身に強く当てられれば血も流れる。
しかもキララの特異体質は血の巡りを異常促進させることで高熱を実現しているため、出血の勢いが常人以上だった。
このまま血を失い続ければそれこそ立っていられなくなるだろう。

「あっ!あああああっ!!!」

必死になって傷口を手で押さえるキララはまさに隙だらけだ。
しかし、相対するリオも2度もクリティカルヒットを受けた身であるため、チャンスにもかかわらず膝をついている。
このままではトドメをさせそうにない。
ここで、キララにしがみついていたホマタンが決意する。

(リオちゃんもメイチも苦しんでるのに、私だけ楽をさせてもらってる!
 こんなのアンフェア アンフェア アンフェアベイビーだ!)

ホマタンは長い腕をキララの頭に伸ばして、そのまま思いっきり地面へと叩きつけた。
そして恵まれた体躯を活かして、キララの上から覆いかぶさっていく。
興奮状態でますます高熱化したキララを抱くのは身体が焼けるほどに熱いが、
"変わらなきゃ!"と心で思ったホマタンは、相手が失血で失神するまでは何があろうとも付き合うつもりだ。

「放して!放して放して放して!」
「放さない!!」

もはやキララが自力で脱出することは不可能。
となればマドカの援護を期待したいところではあるが、マドカもマドカでそんな余裕は一切なかった。
メイチャンの腕を何度も何度も叩いたはずだし、メイチャン自身も苦しそうな叫びをあげていたのだが、
肝心の腕がまったくもって折れやしないのだ。
パンダさんパワーによって強化された筋肉の硬度が、マドカの斬撃をとうに上回っていたのである。

(そっか……この人もイシグリさんと同じ"北の出身"だったっけ……
 結局、まともに相手しちゃいけない"化け物"だったんだなぁ……)

決着よりも先にマドカの心が折れてしまった。
対して、メイチャンはパンダさんパワーの反動でいくら痛もうとも、血が流れようとも、決して折れたりしない。

「Panda-san power 100 percent!!!!!!!!!!」

パンダさんそのものと化したメイチャンの斬撃は、一撃でマドカの意識を断ち切った。

190名無し募集中。。。:2021/05/05(水) 12:55:29
パンダさんパワーつえー

りおちゃんもさんつけよう

191 ◆V9ncA8v9YI:2021/05/06(木) 02:30:04
>>190
作中でパンダさんと呼ぶことは無いと思いますw
分かっているとは思いますが、リオ・キタガワ・サンツケンの由来はパンダさんと呼ばない(=さん付けしない)とこからきてます。

192 ◆V9ncA8v9YI:2021/05/06(木) 03:14:59
数分後、キララは目が覚めると同時に絶望した。
合同演習プログラムの敗北条件は気絶と定められており、睡眠以外で意識を失うことは負けを意味する。
審判がいるわけではないため参加者の良心に頼っているところはあるが、
自分に嘘をついてまで負けを認めようとしない者は1人たりともいなかった。

(そうか……血を失いすぎて倒れちゃったのか……)

キララは最後まで本気で勝つ気でいたが、やはり3人揃った帝国剣士は強かった。
ユニットの他の3人のうち、せめてもう1人と合流できていれば結果は変わっていたかもしれないだけに、悔しくて泣けてくる。

「あれ?……貴女、何を?」

そんなキララの右腕をリオ・キタガワ・サンツケンが布で縛っていた。
自分もかなりの重傷だと言うのにわざわざ敵の止血をしているのだ。

「何をって……このままじゃ出血多量で死んじゃうでしょ?」
「あっ……」
「狼煙はあげておいたからすぐにサポート班が来るはず。それまで耐えてね。」

優秀な戦士たちの集うプログラムなのだから、相手を瀕死に追いやってしまうことも十分にありえる。
そのため、参加者とは別に医療班とサポート班が常に待機をしているのだ。
医療班は果実の国のユカニャ王を中心とした優秀なスタッフで構成されており、1人も死者を出さないことが約束されている。
そして負傷者の運送を主に行うサポート班はなんと、現役の帝国剣士・番長・銃士らが努めていた。
要救護者アリのメッセージである狼煙が上がれば彼女らはすぐに駆けつける。
各国はそれだけ未来の戦士たちを重要視しているのだろう。

「ちょっと待って!狼煙なんて上げたら他の参加者に居場所がバレちゃう!そんなリスクを負ってまで……」
「だから、あなたが死にそうだからほっとけないって言ってるの。」
「う……本当に申し訳ないと思ってるわ……」
「それにこっちのホマタンも今すぐに治療してもらいたいし、何も気にすることはないよ。」
「!」

キララのすぐそばではホマタンが目をつぶって寝ころんでいた。
高熱にやられて手と腹部が火傷してしまっているのだ。
彼女もまた苦痛に耐えきれず気絶……つまりは敗北したのである。
今回の戦いは新人剣士の快勝というワケではない。キララとマドカを倒す代わりにホマタンが戦線離脱という形となった。

「メイチャン、この人の手当ても終わっしそろそろ行こうよ。」
「うん!リオちゃんをおぶってあげるよ。メイのパンダさんパワーなら速く走れる。」
「駄目。ゆっくり移動するの。メイチャンはなるべく筋肉を休ませなさい。」
「は〜い……」

リオとメイチャンが去ったところでマドカが声を発した。
100%のパンダさんパワーの直撃を受けてひどく損傷しているが、キララと話さずにはいられなかったのだ。

「キララさん……」
「起きてたの。貴女も安静にしなさい。」
「私、悔しいです。今のは勝てる戦いでした。帝国剣士が揃う前にリオさんを倒していれば……」
「たらればは無意味よ。」
「はい……」
「それに、まだ私たちが負けたって決まったワケじゃないわ。イシグリがいるしクボタだって実力を伸ばしている。それに……」

キララが話している途中ではあるが、ここでサポート班の登場だ。
参加者を護るために秒速で駆けつけてきた。

「帝国剣士団長エリポン見参!……ってホマタンーーーー!!!大丈夫ーーーーー!!!???」
「エリポンさん、重傷者の前で大声は控えたほうが良いかと。」
「わ、分かってるっちゃ。じゃあホマタンとその小さい子はエリが連れてくからカエディーは大きい子をお願い。」
「はい。急ぎましょう。」

193 ◆V9ncA8v9YI:2021/05/07(金) 02:37:19
場面は代わり、シオンヌとクボタのいる森林。
ユニットの誘いを断ったシオンヌと、断られたクボタがこれからすべきことは1つしか無かった。
"少女たちの決断"……それは決闘だ。

「悲しいけど、やるしか無いんだねっ……!」

クボタはすぐさまシオンヌに飛び掛かり、高速で剣先を突き出していく。
2人はかつて同じ環境で切磋琢磨してきたため、シオンヌもクボタのスタイルを理解していたつもりだったが、
剣速がこれほど速いとは思っていなかったので肝を冷やした。
以前のクボタはどちらかと言えば重量のある一撃を放つパワータイプであったのだが、
今現在は身体つきもスリムになり、動きが非常に軽やかになっている。
まさに別人だ。

(私が番長として成長したように、クボタもユニットとして成長したってことか……)

なんとか受け太刀するシオンヌだったが、剣と剣のぶつかる衝撃が大きいため火花が散っていた。
只の軽い斬撃を受けるだけではこうはならない。
つまりクボタはかつての筋力を残しつつ、スピードまでも手に入れたのだろう。

「受け身じゃ勝てないよ!ほら!ほらほら!」

クボタはフェンシングをするかのように、繰り返し剣を突いていった。
それが牽制などではなく、全ての攻撃が相手を仕留めるために繰り出されているというのは、
受け止めたシオンヌの模擬刀が火花でスパークしていることからも明らかだ。

「スピード勝負なら私が困ると思った?」
「え?」
「リンさんに比べたら蚊が止まっているようだよ!」

シオンヌはただ攻撃を受け続けていたワケではない。クボタの攻撃のリズムを感じ取っていたのだ。
シオンヌ・タメ・ハサミサンは筋トレ以外にもドラムという楽器を好んで演奏しており、
リズムやテンポ、ビートを感じ取る能力は人一倍優れている。
その技能を応用してクボタの攻撃のウラのタイミングで反撃の一撃を返したのだ。

「今だっ!」
「!!」

新人番長ながらもアンジュ王国トップクラスの筋力を誇るシオンヌの攻撃は、痛いでは済まなかった。
まともに胸で受けたクボタは、激痛のあまりよろけてしまう。

「くっ……」
(よし!このまま追撃を……)

渾身の一撃を喰らわせようとして剣を振り上げたシオンヌだったが、ここで違和感に気づいた。
手に持つ模擬刀が何故か異様に軽くなっている。

「え?……」
「ハァ……ハァ……その剣、もう使い物にならないと思うよ……」

それもそのはず。
シオンヌの模擬刀は刃こぼれが酷く、剣としての体を成さない程に刀身が崩れ落ちていたのだ。

(まさか……クボタの狙いは武器破壊!?)

194 ◆V9ncA8v9YI:2021/05/08(土) 04:09:33
合同演習プログラムの全参加者に支給された模擬刀はとても頑丈に出来ており、
通常の刀剣と比べると軽いため、非常に扱いやすい。
よほどおかしな使い方をしない限りは、ちょっとやそっとでは壊れないはずなのだが……

「そう、私がシオンヌの剣を壊したの。」

クボタは魔法のようなものを使ったのではない。
シオンヌの剣の刀身に対して、クボタの剣の切っ先を、力強く且つ高速にぶつけていっただけだ。
その様はまるで掘削でもしているかのよう。削り取るようにしてシオンヌの剣をボロボロにしたのである。
衝突する度にスパークが散っていたことからも、剣に相当な負荷がかかっていたことが分かるだろう。

(そして、私の剣には情熱が乗っている!)

クボタは他のユニットのメンバーと比較して、自身に強みが無いことを長らく気にしていた。
キララのような冷静さも、イシグリのような実力も、マドカのような行動力も過去の彼女には備わっていなかった。
信頼する仲間たちの役に立ちたい一心で、燃えるような情熱を胸に、日々鍛錬を積んでいった末に修得したのがこの武器破壊という技能だ。
クボタは唯一無二のこのスキルを"情熱スパークル"と呼んでいる。

「だからシオンヌ、もう私の攻撃を剣で受けることは出来ないよ。」
「……」

シオンヌは模擬刀を使わずに戦う方法をあれこれと思索した。
真っ先に思いついたのは素手での戦闘だが、これは没だ。
筋力量こそ多いが格闘術を学んだワケではないシオンヌは、クボタのスパークを捌けず大怪我を負ってしまうだろう。
ではそこらの木の枝を折って武器にするのはどうか?いっそのこと細い木を引っこ抜いてクボタに叩きつけるのはどうだろうか?
いや、それも駄目だ。
クボタは金属の剣さえも削るのだから、木なんて簡単にオシャカにするに違いない。
じゃあいったいどうすればまともに戦えると言うのか?

(あれ?そう言えばどうしてクボタの剣は壊れないの?……)

同じ素材の剣と剣が衝突しているのだから、どちらも同じだけ損傷していなければおかしい。
切っ先を当てることによりぶつかる面積を極力狭くしているとは言え、
火花が飛び出すほどの勢いで打てば、クボタの剣も同じように削れるはずだ。

「どうしたの?……全然攻めてこないようだけど……」
「ねぇ、クボタ、1つ聞いていい?」
「……私とシオンヌは敵同士。答える義務は無いって分かってるよね?」
「クボタって剣を2本、いや、3,4本持ってたりする?」
「ひゃっ!?」

どうやら図星だったようだ。
ここからはシオンヌの推測になるが、クボタは持ち前のスピードで己の剣をすり替えているのだろう。
どのようにしてシオンヌの目を盗んでいるのかは分からないが、
情熱スパークルで消耗した剣を次々と交換しているのとしたら、クボタの剣だけ綺麗な理由がつく。

「参加者に支給される模擬刀は1本だけど、他の参加者から貰ったり奪ったりするのは禁止されていないよね。
 そうか、クボタは他の参加者を何人か倒して、剣の数を増やしていったんだ。」
「な、な、何を言っているのか分からないんだけど!」だ

そうと分かればやりようはある。
先ほどシオンヌが言った通り、武器を他の参加者から奪う行為は禁止されていない。
そう、クボタから予備の剣を奪い取ってしまえば良いのだ。

195 ◆V9ncA8v9YI:2021/05/09(日) 09:33:50
何本隠されているのかは分からないが、余った剣は十中八九クボタの衣服の中にある。
それさえ奪えばクボタを弱体化しながらシオンヌ自身も強化できるはずだ。
そのためには隙を見て懐に潜り込む必要があるのだが、シオンヌはその手段を持ち合わせていた。

「えいっ!!」

フルパワーで地面をぶん殴り、小石や砂、土を吹き飛ばしたのだ。
いくら素早く動けるクボタでも飛んでくる砂利を避けきることは難しく、目をつぶってしまう。

「うっ……」
(今だ!)

シオンヌは急いでクボタに近づき、強く握った拳で胸と腹をぶん殴った。
そこに剣が隠されていればラッキーだし、そうでなくてもダメージを与えることが出来る。
パンチの打ち先が肉の感触だったことからハズレと分かったが、シオンヌのパワーで殴られたクボタは苦悶の表情を浮かべていた。

(ということは、剣は背中か!)

立て続けに攻撃を受け続けた今のクボタは隙だらけ。
となればシオンヌが背後に回り込むのは容易いことだった。
後は先ほど同様にクボタの背中を殴って剣の在処を確定させれば良いだけ。そう考えていた。
だが、この時のシオンヌは気づいていなかったのだ。
リン・ハシサコ・ランチマインド相手にあえて隙を作って攻め筋を限定させた時のように、
自分自身もクボタに視野を狭められていたことを。
術中にハマっていることも知らずにクボタの背中に攻撃を仕掛けたのは"ミステイク"だったのだ。

「だめね」

クボタはくるりと振り返り、パンチが当たるより先にシオンヌの胸に切っ先を突き付ける。
ここで放ったのは、ユニットの他のメンバーも得意とする"クリティカルヒット"だ。
武器破壊が得意なクボタではあるが、対人間となるとユニットの他のメンバーにはいくらか劣ってしまう。
だからこそクボタは決め技であるクリティカルヒットを効果的に放つタイミングを常にうかがっていたのだ。
今この瞬間こそが最も綺麗に決まるタイミング。
剣の切っ先とシオンヌの肋骨が激しく衝突し、血しぶきとともに火花が散ったことからも、これ以上無い有効打であったことが分かる。
今までシオンヌから強烈な打撃を受けていたが、これで帳消しだ。

「上手く決まって良かった……これで勝てる。私個人も、ユニットも。」
「そ、そんな……」
「番長で怖いのはシオンヌとさっきのリンって人だけ。そのリンさんも仲間が絶対に倒してくれると私は信じてるの。
 だから残念だけど、番長チームはもうお終いだよ。」

クボタはこの戦いでは精一杯演技をしようと決めていた。
剣が複数あると指摘されて必要以上に焦ったのはシオンヌの攻め筋を限定させるため。
そして柄にもなく挑発したのはシオンヌの頭に血を上らせるため。
マドカだったら何食わぬ顔で騙せるのだろうが、クボタは頭をフル回転させながら言葉を選んでいた。
これでシオンヌが激怒することを期待していたのだが……

「ふふっ、ケロンヌちゃんとワカナちゃんは怖くないと思ってるんだ。」
「えっ?……」
「あの2人の強さは私以上。私なんて弾避けの壁にしかならないくらい。甘く見たら火傷するよ。」
「えっ?えっ?何を言って……そんな馬鹿なことが……だってシオンヌもリンさんに2人を探せって言ってたじゃない!」
「うん。あの2人は自分たちを守る術を知らないから護ってあげないといけないの。
 さて……私もいい加減クボタを倒して、2人を護りにいかなきゃ!」

196 ◆V9ncA8v9YI:2021/05/10(月) 03:19:04
アンジュ王国の番長予備軍である舎弟になるまでは、シオンヌはユニットの面々と行動を共にしていた。
なかでもクボタは加入時期も近かったため、助け合い、教え合い、困難を乗り越えてきたのである。
そして、シオンヌもクボタも互いを好敵手だと考えている。
ユニットとして、番長として、それぞれ戦ってきた彼女らのどちらが強いのか、白黒つけたくないと言えば嘘になる。

「クボタ……"はっきりしようぜ"!」
「うん!」

決着をつけようと2人が構えたその時、バリバリバリと言った雷のような轟音が聞こえてきた。
その音の正体にシオンヌはすぐに気づく。
手の平ほどの大きさの石が木の枝を次々とへし折りながら、高速で飛んできたのである。

「ま、まさか!」
「えっ?えっ?」

その石は全く勢いを落とすことなくクボタの胸へと撃ち込まれた。
シオンヌに痛めつけられたところにピンポイントで時速200kmを超えるスピードの投石を受けたため、
クボタは一瞬で意識を失ってしまう。

「あぐっ……」
「クボタ!クボターーーー!!」

シオンヌはなんて顔をすれば良いのか分からなかった。
何故か?それは今まさにライバルのクボタを射抜いた人物こそが、新人番長の同期、ワカナ・シタクマッハだったからだ。

「タメちゃーーーん!大丈夫だったーーー!?」

ととととっと駆けてくるワカナの見た目はまさに子供と言った感じだった。
これまでもリンやホマタン、メイチャンのように幼い戦士は多数いたが、ワカナは群を抜いて幼い。
同期とは言え、シオンヌやケロンヌより5歳も年下なのだからそう感じるのも当然だろう。

「わ、ワカナちゃん……無事、だったんだね……」
「うん!他の戦士は全員近寄ってくる前に撃ち落としたんだ!その人みたいにねっ!」
「そ、そっか、それは頼もしいな……」

シオンヌの感情はグチャグチャだった。
ライバルのクボタと本気の決着をつけたいという思いはあったが、
同期のワカナが無事だという事実にも安堵している。
まぁ、プラスかマイナスで言えばぎりぎりプラスといったところだろうか。

「でもね、ワカナの模擬刀がもう折れちゃったんだ。酷使しすぎちゃったかなぁ……どうしよう。」
「あ、それなら大丈夫。あのお姉さんの背中を見てみようよ。」
「わっ!剣がいっぱい!なんでこのお姉さんは背中に剣を入れてるの?……」
「さぁ……そういう趣味なんじゃない?」
「変な人もいるもんだねぇ。お借りしまーす。」

197 ◆V9ncA8v9YI:2021/05/10(月) 03:22:11
あ、年齢差は4歳でしたね。高3と中2なので。
訂正します。

198 ◆V9ncA8v9YI:2021/05/11(火) 14:52:42

シオンヌとワカナが合流出来たのは喜ばしいことだが、
ワカナが放った投石の音は非常に大きく、周囲の戦士に居場所をバラすようなものだった。
自信の無い者や、大きく負傷している者であれば、音の出所に近寄ったりはしないだろう。
しかし、とある戦士は積極的に接近してきていた。。
草木をかき分け、シオンヌとワカナを発見したのだ。

「クボタ!……やられちゃったの?……」

その声を聞いたシオンヌの背筋が凍った。
今回の戦いで最も会いたくない相手に出会ったため、ひどいショックを受けているのだ。
クボタも十分強かった。だが、彼女の強さはそれ以上だ。

「イシグリ……さん……」
「シオンヌ、久しぶり。そうか……クボタは番長にやられたんだね。」

相対する短髪の少女、それはクボタと同じユニットに属するイシグリだった。
ユメやメイチャン同様に北の出身ではあるが、彼女には特殊能力は一切無い。
ただ、ただ、強いのである。

「ワカナちゃんは下がって!私が壁になる!」
「う、うん!」

シオンヌは両手を広げてイシグリを同期の方へ向かわせまいとした。
まだ身体の出来上がっていないワカナがイシグリの攻撃を受けたら一撃KOも有り得ると判断したのだ。

「ただ、私も弱いからすぐやられちゃうかもしれない……その時はワカナちゃん、すぐ逃げて!」
「う、うん!」
「弱い?逃げる?……シオンヌ、それは無いよね。」
「「!?」」

"傷だらけのシオンヌ"、"見るからに子供なワカナ"の組み合わせに油断してくれればと内心期待していた。
だが、そのような慢心はイシグリには全く存在しない。

「さっき、もう一人の新人番長と戦ったよ。」
「「ケロンヌちゃん!?」」
「とても強い意志を感じたし、どんなに不利な状況でも逃げたりしなかった。
 同期であるあなた達が弱かったり、逃げたりするはずが無いと思ってる。」

シオンヌの心は大きく揺さぶられた。
同期のケロンヌを護れなかった事実を突き付けられて、ハンマーで殴られたような衝撃を感じているのだ。
ただでさえ不利な状況だと言うのに、ここで冷静さまでも失ったら勝率は限りなくゼロになる。
そう感じていた時、周囲の草がザワザワと鳴りだした。

(誰かこちらに向かっている!?)

シオンヌは、それが先輩番長のリンであることを強く願った。
あの人が来てくれれば何かしら空気を変えてくれる。そう信じていたのだ。
ところが願いは神に届かなかった。

「いたいたいたーーー!ほら!獲物が3人もいる!ユメ!今度こそ強力して敵を倒すよ!」
「そうだねリアイ!ラブラブ仲良しな私たちがタッグを組めば無敵だもんね!」

もはや絶望でしかなかった。
イシグリだけでも厳しいのに、優勝候補の新人銃士が揃って襲ってくるなんて、運が無さすぎる。

199 ◆V9ncA8v9YI:2021/05/12(水) 00:47:57
「あっ!イシグリちゃん!?」
「ユメ!」

新人銃士ユメは、ターゲットの中に旧知の仲がいたことに気づいた。
2人は師を同じくした友人同士。出会った場が戦場で無ければ一緒にお食事でもしたいところだが、
合同演習プログラムゆえに2人とも緊張感を切らさなかった。

「ユメの知り合い……じゃあその子は"北の出身"ってことか。」

これから倒すべき相手が弱者ではないと理解したリアイは気を引き締めた。
そしてシオンヌとワカナの方にもメンチを切っていく。

「ふ〜ん……」
「し、シオンヌちゃん!あの人怖いよ!きっとヤンキーっていう人種だよ!」
「ワカナちゃん!そういう人にそういうこと言っちゃダメ!っていうか番長がヤンキー怖がったらおかしいでしょ!」
「そういう人ってなんやねん、おい。」

自分への反応に多少イラついたリアイだったが、この2人が番長だと知れたのは収穫だ。
番長が2人に、所属不明の"北の出身"が1人。全員ぶちのめせば間違いなく怖い先輩に叱られずに済むだろう。
そして、この状況であればリアイの能力を惜しみなく使うことが出来る。

「ユメ……私は耳を使うよ……」
「リアイ!本気だねっ!」

リアイ・ザワラギリ・バーミーはホマタン相手にも使用しかけた異常聴覚を完全開放する。
日に数分という時限付きではあるが、銃士のとある先輩と同等に聴覚が強化される。
これによりリアイは周囲の動きを全て耳で捉えることが出来るようになるのだ。

(うん。よく聞こえる。聴こえすぎるくらい。最初に私が狙うべきは……)

リアイはなんとイシグリに向かって斬りかかっていた。
この場にいる戦士らの戦力を見誤っているのではない。イシグリが強者であることを理解しての行動だ。
異常聴覚は長時間使用することが出来ない。
つまりリアイは自分の強みが最大限に発揮できる今こそが、イシグリと有利に戦える時間であると判断したのである。

(速い!そして躊躇が無い!……でもやられてたまるか!)

イシグリはリアイを迎撃すべく剣を振り下ろした。
そんなイシグリの筋肉の音をリアイは全てキャッチしている。どこを狙おうとしているのか丸わかりだ。
リアイはヘッドスライディングでもするかのように体勢を低くし、イシグリの攻撃を潜り抜ける。
そしてそのままの勢いでイシグリのスネを斬りつけた。

「うっ……!」

イシグリも、シオンヌも、ワカナも、リアイをナメていたワケではなかった。
ただ、"北出身"のユメと比べたら実力が落ちるのではないかと勝手に決めつけていたのだ。
この場でリアイの強さを変わらず信じていたのはたったの2名のみ。
1人はリアイ・ザワラギリ・バーミー、そしてもう1人は同志ユメ・オクトピックだ。

200 ◆V9ncA8v9YI:2021/05/13(木) 02:46:03

(あれ?……これって上手いこと潰し合ってくれるんじゃ……)

イシグリと銃士2人がやってきた時は絶望を感じていたシオンヌだったが、案外悪い話ではないなと思い始める。
強者同士がぶつかっている現状、上手く立ち回れれば漁夫の利も狙えそうだ。

「リアイ!私も助太刀するよ!」

新人銃士ユメ・オクトピックまでもリアイとイシグリの方へ走り出したので、シオンヌは一安心した。
後は呼吸を整えて、落ち着いて策を練れば良いだけだ。
そう思ってたところで、リアイが強く声を上げだした。

「ユメ!こっちじゃない!あいつらを逃がすな!!」

リアイが出した指示。それはユメによる番長2人の殲滅だ。
2人がかりでイシグリを倒すという手堅い(?)一勝など眼中になく、この場の全員に銃士が勝利する絵を描いていたのである。
これは驕りなどではない。果実の国の銃士としての矜持だ。
リアイの考えを理解したユメは、方向を番長らの方へと切り替える。

「分かった!こっちの2人は任せて!」
(し、しまった、こっちに来る!)

クボタに負わされた傷がまだ痛むが、シオンヌは覚悟を決めるしかなかった。
パワーは自分の方が上なはずなので捕まえて首でも絞めてやろうとしたが、
ユメが軟体動物のようなクネクネとした動きでかわすため、掴むことが出来なかった。
それどころか、ユメはワカナ目掛けて一直線に走っていったのである。

「待って!そっちはダメ!」
「手負いのあなたは後回し。まずはあの小っちゃい子を折るの。」

ユメの狙いはシオンヌとワカナの両方の運動パフォーマンスを下げること。
1対2という不利な状況をイーブンに持っていくには、相手を満足に動けなくさせる必要がある。
ユメの得意技は折り紙のように骨を折ることなので、まさにうってつけなのだ。

「骨の1本や2本折ればうずくまってくれるでしょ?」

ユメの恐ろしい発言を聞いてシオンヌはゾッとした。
すぐにユメを止めてやりたいが、必死で追いかけようにも相変わらず掴むことが出来ない。
これではやや離れたところにいるワカナのもとに辿り着くのも時間の問題だろう。

「シオンヌちゃん焦らなくてもいいよ。要はその人を近寄らせなければいいんだよね?」

ワカナの右手に手の平サイズの石が握られているのをユメは確認した。
おそらくは石を投げつけてユメを攻撃するつもりなのだろうと推測する。

(でも石を1個しか持ってないよね?来ると分かる投石を避けられない私じゃないよ。
 すぐに骨を折って、タコみたいに軟らかくしてあげるからね。」

201 ◆V9ncA8v9YI:2021/05/15(土) 01:39:27
ユメが迫ってきているにも係わらず、ワカナ・シタクマッハは落ち着いていた。
左手に持った石をポーンと上に投げたかと思った次の瞬間、
その場で跳びあがり、模擬刀を強く降って石を打ち抜いていく。
その様はまるで、アンジュ王国で流行中の競技"テニス"をプレイしているかのようだった。
石をボールに、剣をラケットに見立てて、強烈なサーブを繰り出したのである。
若くしてテニスのトッププレイヤーであるワカナのサーブは時速200kmを超える。
これほど速いとは予想していなかったユメは、無抵抗で左腕に受けてしまう。

「あ゛あっ!!」

激しい痛みにユメは足を止めてしまう。
クボタを失神させた実績のある殺人サーブはそれはもう痛かっただろう。
この気の遠くなるような感じは久々だ。肩が外れているのは間違いないし、骨も折れているかもしれない。
いや、骨折しているかどうかなんて関係ないのだ。
何故ならば、ワカナのお仲間がこれから骨折を確定させてくれるからだ。

「捕まえたっ!」

シオンヌは投石を受けて腫れあがった二の腕を鷲掴みにし、一気に握り潰していく。
筋トレ大好きシオンヌの握力は常人の比ではない。
その気になれば金属だって握りつぶすことの出来る程だ。
ただでさえ弱っていた骨が一瞬にしてバラバラになる。

「ああああああああっ!!」

ユメ・オクトピックの悲鳴には同期のリアイだけでなく、旧友イシグリも驚愕していた。
2人がかりとは言えユメの腕をこうも簡単にへし折ってしまうなんて思いもしていなかったのである。
これは番長の強さの認識を改める必要があるだろう。

(でもまぁ……ユメはあれくらいじゃリタイアせぇへんしな。)
(骨折なんかしてもユメには関係ないか。)
((今は目の前の敵に集中!!))

202 ◆V9ncA8v9YI:2021/05/16(日) 08:06:12
どんな戦士だろうと骨が折れてしまえば満足には戦えなくなる。
銃士の1人、ユメ・オクトピックの腕をそうして破壊したシオンヌは舞い上がっていた。

(いける!私たち、銃士相手に戦えてる!)

気の緩みに連動して握力も弱まったのか、左腕を掴んでいた手をユメに振り解かれてしまった。
とは言え二の腕の骨が砕けたユメの左腕は使い物にならない……そう思っていたのだが、

「ありがとう!あなたのおかげで私はタコに近づけたわっ!」

ユメは腕を鞭のようにしならせて、お返しと言わんばかりにシオンヌの顎へとぶつけていった。
いや、これはむしろ感謝からなる行動だ。
シオンヌとワカナの連携によって、骨が折れてタコのような軟体動物に近づくことが出来たため、
激痛よりも嬉しさの方が勝っているのである。

(な、なんなのこの人!?)

顎への打撃により脳を揺さぶられたシオンヌはフラついたが、タコの愛はまだまだ止まなかった。

「見て見て!こうすると足が8本あるみたいでしょ!!」

ユメは左腕を更にブン回して、四方八方からシオンヌの身体に打ち込んで行く。
1,2,3……合計8回の攻撃があらゆる方向から飛んでくるため、先読みが難しく、シオンヌはその全てを受けてしまう。

「シオンヌちゃん!今助ける!!」

シオンヌのピンチを打破しようとしたのはワカナだ。
左腕なんて中途半端な場所を狙ったからこうなったのだ。
今度はユメの脳天を撃ち抜く。そうすれば倒せる。そう考えた。

(……だめ!今サーブしたらシオンヌちゃんにあたっちゃう!)

今現在、ユメが折れた左腕をシオンヌの首に巻きつけている真っ最中だった。
このまま絞め落とそうとしているのは明確なので今すぐにでも助けなくてはならないのだが、
ここまで接近されればワカナの打った石がシオンヌを傷つけるリスクがある。

(そんな……私はどうすればいいの?……)

テニス技術で石を打ち飛ばすか、それとも危険を承知で接近戦を挑むか、
ワカナはどちらかを選ぶことが出来なかった。

203 ◆V9ncA8v9YI:2021/05/17(月) 13:57:02
リアイとイシグリは一心不乱に斬り合っていた。
番長とユメの戦いが気にならないと言えば嘘になるが、
少しでも気を緩めれば目の前の敵に喰われてしまうと、互いに思っているのだ。
強者同士の決闘で一歩リードしているのはリアイだ。
異常聴覚が大きなアドバンテージになっているのだろう。

「次は左か!」

イシグリの斬撃は鋭い。剣速で言えばクボタに負けず劣らないレベルだ。
だが、いくらスピードが速かろうとも、その初動を音速で捉えるリアイには通用しない。
左から襲いくる斬撃に対して、勢いがつく前、即ち、腕が伸びきる前に刃を当てていく。
イシグリの攻撃は全てが必殺級であるにもかかわらず、リアイは例外なくいなすことが出来るのである。

(この人、耳が良いだけじゃない。戦闘センスそのものがズバ抜けているんだ。
 私の攻撃を全部不発に終わらせているのがその証拠。
 なるほど……確かに。ユメと肩を並べるだけある。)

この状況ではイシグリも簡単にクリティカルヒットを繰り出すことは出来ない。
そして、リアイの優れた点は防御面だけでなく、攻撃面にもあった。

「さぁ!行くよVa-Va-Voom!!」

リアイは3連撃の細かな斬撃を放つが、これがまた厄介だ。
イシグリの筋肉から発せられる音をキャッチし、最も音の小さい部位、言い換えれば油断しているところを目掛けて一撃目を繰り出す。
今回のケースで言えばその箇所は右脇腹なのだが、当然、イシグリは刃を引いて防ぐだろう。
その音を聞いていたリアイは間髪入れずに反対側の左脇腹に二撃目を放つ。
とは言えイシグリも並の戦士ではない。鍛え抜かれた反射神経でリアイのワンツーを弾くことは可能だ。
しかし、その急激な対応のせいで二の腕の筋肉が一時的に酷使されてしまう。
その疲弊さえも聴くことの出来るリアイは、三撃目を右の二の腕に当てたのだ。
そして、攻撃はまだ終わらない。

「もっと強くVa-Va-Voom!!」

お次に取った行動は聴力なんて関係ない。
剣を握る強さを高めただけのシンプルな斬撃を二の腕に三連続でぶつけるだけだった。
もちろんイシグリは急いで剣で防ごうとするが、
リアイがまた他の箇所を攻撃することを心配して、全神経を防御に注ぐことが出来なかった。
「かもしれない」と思うだけで人間は備えようとしてしまうのである。
腕が使い物にならなくなるようなダメージでは決してないが、イシグリは一方的に負担を強いられる結果に終わってしまう。

(強い!分かってはいたけど強い!私はどうすればこの人に勝つことが出来る?
 おそらくこの強さは一時的なもの。キララさんみたいに条件付きで強化しているのであれば持久戦に持ち込むか?
 いや、元々のセンスが馬鹿に出来ない。パワーアップが終わっても強いことには変わらないはず。
 だったらいっそのこと、スタミナを全部使い切るつもりで短期決戦を……ん?)

その時、目の前のリアイが精彩を欠いたような顔をしたのでイシグリは不審に思った。
リアイがすぐにバックステップで退却したのと同時に、バチィン!という大きな音が鳴った。
音の発生源はイシグリの背中だ。

(!!!?……これは、これはまさか!)

イシグリはすぐに後ろを振り向いた。
その10数メートル先には、今まさに剣を振り下ろしたばかりのワカナ・シタクマッハが立っている。
つまり、ワカナがイシグリの背中目掛けて石を撃ち飛ばしたのである。

(な、ぜ?……番長たちはユメと戦っていたはずじゃ?……)

204 ◆V9ncA8v9YI:2021/05/18(火) 16:09:34
ワカナがサーブを放つ音を、リアイは当たる直前に聞いていた。
この石の投げ先は明確に決められていたわけではない。リアイとイシグリのどちらかに当たれば良いと撃ったものだ。
それに気づいたリアイは当たるより先に後方に退いたのである。

「シオンヌちゃん……これで良かったんだよね?」

ワカナの視線の先では、今もシオンヌがユメに首を絞められていた。
実を言うとワカナにサーブの指示を出したのはシオンヌだったのだ。
ユメにここまで接近されているため、ワカナの攻撃がシオンヌに当たるリスクはかなり大きかった。
なのでシオンヌは、己を助けてもらうよりも、リアイかイシグリにダメージを与えてもらうことを優先したのである。
声に出せばバレるため、指によるサインでワカナに連絡し、見事強敵イシグリにヒット出来たのだ。
そして、この行動は副産物をも産んでいた。

「え?……なにが起きたの?……え?え?」

ユメは番長を倒すためにリアイとイシグリを一旦意識の外においていた。
そんな2人の様子が何やらおかしいため、ユメも狼狽えてしまったのである。
不安と連動するように腕の力も弱まり、シオンヌが束縛から容易に抜け出せる程になっている。

「さっきはよくも……お返しっ!!」

シオンヌはユメの頭を鷲掴みにし、一気に地面へと叩きつけた。
いくら軟体動物のように動けようとも頭は硬いまま。ユメは額から多量に出血してしまう。

「い、痛い!?」
「ワカナちゃん!今がチャンスだよ!この場をメチャクチャにしちゃおう!!私に続いて爆音をあげて!」
「え?うん!わかった!」

次に番長たちがとった行動を見て、イシグリは困惑してしまった。
シオンヌは持ち前のパワーで細い木を引っこ抜いたかと思えば、他の木々に強く叩きつけているし、
ワカナもテニス技術の殺人サーブを連発して数十単位の枝をバキバキとへし折っている。
それだけの攻撃力があれば負傷中のイシグリやユメに追撃すれば良いのに、いったい何をしているのだろうか?

「あああああああ!!!!うるっっっさいなぁあああああ!!なんやねん!!」

そんな中、異常聴覚を持つリアイだけは番長たちの発する音に必要以上に不快感を感じていた。
イシグリ戦で酷使したのもあってか耳から出血までしており、怒りで頭も上手くまわっていないように見える。

「リアイ!こういう時は耳をふさぐのよ!」
「アホか!ユメ!聴覚を失ってどうやってそこの"北出身"に勝つんや!
 ダベってないでさっさとソイツら止めて!!」
「そのね、思ったより頭と腕が痛くて……身体が思うように動かないの……」
「それでも銃士か!腕がもげても動けや!」
「リアイだって耳が痛いだけで動こうとしてないじゃん!」
「デリケートなことくらい分かるやろ!!あ゛あ!?」

このやり取りを聞いてイシグリはリアイの特殊技能が"耳の良さ"であると確信した。
ところどころにヒントが散りばめられていたが、やはり推測した通りだったのだ。

(ということは、番長たちはそれを見抜いてわざと大きな音を立てている!?)

結果的に爆音でリアイを弱体化することが出来たが、実はシオンヌの思惑はそれではない。
彼女の狙いはただ一つだけ。

(ハシサコさん聞こえますか!?私たち、ここで戦ってますよ!!)

205 ◆V9ncA8v9YI:2021/05/20(木) 14:09:51
攻撃を放棄して大きな音を出すのに注力している番長は隙だらけだった。
シオンヌも、ワカナも、背後から強烈な一撃をお見舞いすれば簡単に倒すことが出来るだろう。

(違う、今狙うべきは……)

イシグリはリアイの側頭部目掛けて鋭い蹴りを繰り出した。
全てを音で捉えるリアイにフェイントは無意味。
駆け引き一切なしの直線的な動きでキックをお見舞いする。

(なんやと……!)

先ほどまでのリアイであれば簡単に避けることが出来ただろう。
だが、今は状況が最悪だ。
長時間酷使して耳が弱っているところに、アンジュの番長らが五月蠅い音を発しているのだから、
音に対する反応速度が著しく鈍ってしまったのである。
結果、イシグリの蹴りはリアイの左耳に綺麗に決まってしまう。

「ぐっ……」

熊をも退治するイシグリの蹴りをまともに受けたのだから、リアイの脳は激しく揺さぶられた。
三半規管もイカれて天と地がひっくり返ったような思いになる。
耳さえ回復すれば対抗出来るようになるかもしれないが、
イシグリはそんな猶予を与えず、リアイの胸に強烈な斬撃をぶつけていった。
今のリアイに耐えうるだけの体力は無く、その場で倒れこんでしまう。
最後まで苦戦を強いられたリアイに対して、イシグリは心の中で感謝の言葉を述べた。

(フェアな勝負だったら私は勝てていなかったのかもしれない。それだけ強い人だった。
 今度、果実の国に寄らせてください。出来ればその時に、1対1の再戦をしましょう。)

この展開を許せなかったのはユメだ。
勝者であるイシグリに怒声を飛ばしていく。

「イシグリちゃん!卑怯だよ!リアイが弱ってる隙を狙うなんて!!」
「ユメ……やめろや……恥ずかしい……」
「リアイ!?でも!」
「本気の勝負に……卑怯も何も無いやろ……同じ立場やったら私もそうしたわ……」
「リアイ……」
「それより……警戒せえや……新手が来てる。」
「!?」

新手という言葉を聞いて、ユメだけでなくシオンヌも驚いていた。
この場にわざわざやってくる人物はリン・ハシサコ・ランチマインドに違いない。
つまりは自分たちの出した音が届いたのだ。

「ワカナちゃん!勝てる!この勝負、勝てるよ!!」

206 ◆V9ncA8v9YI:2021/05/22(土) 01:35:52
「あ……」

浮かれていたシオンヌだったが、すぐに立場が危ういことに気づいた。
リアイが倒れた今、イシグリを抑える者が誰もいなくなってしまったのだ。
イシグリは早速、次の獲物の品定めをしている。

(ユメとシオンヌは手負い……今、一番厄介なのは無傷で射程持ちのあの子か。)

ターゲットをワカナに定めたイシグリはすぐさま駆けだした。
全参加者の中でも特別幼く、戦士になりたてのワカナはまだ防御の基礎を修得していない。
そのため、イシグリの攻撃を受ければ一撃でノックアウトだろう。
敵の接近に気づいたワカナはすぐに爆音行動を取りやめたが、
サーブで応戦するには既に近づかれすぎていた。
テニス技術で攻撃するにはある程度の距離を確保する必要があるのだ。

(今から撃とうとしても、構えている隙にやられちゃうなぁ……)

強者であるイシグリが迫ってきているのだから、怖くないはずがなかった。
小さな身体が小刻みに震えている。その様はまるで「寒いね。」とでも思っているようだ。
それでもワカナは泣き喚いたりすることなく、落ち着いていた。
何にも惑わされずに
どんな時代にも流されずに
次の最適手を打つことだけを考えている。

(よし!決めた!)

イシグリを撃つことは無駄だと理解しているはずのワカナだったが、
いつものようにサーブを放とうとして石をポーンと投げ上げていた。
その構えは隙だらけ。狙ってくれと言わんばかりだ。

「抵抗は無駄だよ!その石は私には当たらない!」

イシグリは剣を持たぬ側の掌を、ワカナの胸に勢いよく衝突させた。いわゆる掌底打ちだ。
武器を使わずとも幼子の意識を断ち切るには十分な威力。
狙い通りにワカナはその場に倒れてしまう。
ただ、ワカナは一点だけイシグリの思惑通りには動いていなかった。
下に倒れこむ時の勢いで、空中に飛んだ石に剣を当てて、最後のサーブを撃ち込んだのだ。
その撃ち込み先はイシグリではない。少し離れた位置にいるユメ・オクトピックだ。

「ぴぎゃっ!?」

鋭い弾道で飛んだ石は、ユメの壊れていない方の腕にブチ込まれた。
ワカナの大胆な行動に驚愕したシオンヌだったが、その決意を無駄にしまいとすぐに続いていく。
持ち前の握力で石を受けたばかりのユメの腕を強く握り締めたのである。

「ワカナちゃん凄いよ……後は私とハシサコさんに任せて!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

これでユメは両腕骨折。模擬刀すら握れない状態だ。これではまともに戦えないだろう。
後は強敵のイシグリが控えているが、リアイの言う新手……つまりはハシサコが駆けつけてくれれば善戦出来る。
そしてそう思っていたタイミングで丁度良く新たな戦士がこの場に現れることとなった。
完全に流れが自分たち番長に来ているとシオンヌは確信していた。

「ハシサコさん!……って、あれ?」

実を言うと、リアイはユメに言い忘れたまま気を失っていた。
それは、新手は2人組のチームということだった。

「ユメちゃん!イシグリちゃんもいる!!」
「うわ、メイチャンの知り合いってことは北の人じゃん……」

新手の正体はモーニング帝国剣士のリオ・キタガワ・サンツケンとメイチャン・リコテキー。
またも強大な敵が現れたため、シオンヌはショックで頭がクラクラしてしまう。

207 ◆V9ncA8v9YI:2021/05/23(日) 14:36:32
番長と銃士にユニット、そして帝国剣士らが対峙したその時、
どこか遠いところから拡声器による音声が聞こえてきた。
これはサポート班による定時連絡。
演習の最新状況を参加者に教えてくれるのだ。

<<定時連絡、定時連絡ぜよ。残り人数は7人やき、頑張りよ〜>>

近隣諸国を含め数十人いた参加者が残り7人と聞いて現場はピリついた。
ここにはリオ、メイチャン、シオンヌ、ユメ、イシグリの5人がいる。
しかも各陣営の強者が揃っているため、ここでの勝者が演習プログラム全体の優勝に大きく近づくだろう。

「メイチャン、北出身が多いのは分かったけど、じゃああの人は誰?」
「えっと……分からない。」
「ふ〜ん。そっか。」

リオとメイチャンが自分のことを話しているのにシオンヌは気づいた。
そして、連戦続きで疲弊している自分から狙われてるのではないかとも感じていた。
特にユメ・オクトピックなんて今まさにシオンヌに骨を折られたのだから、すぐにでも報復に来るだろう。

(ヤバい……どうやって凌ぐ?)

ところが、戦士たちの次のアクションは想像とは違っていた。
北出身のユメとメイチャンが示し合わせたかのように、同じ北出身であるイシグリに攻撃を仕掛けたのだ。

「「イシグリちゃん!!」」
「ユメ!メイチャン!」

折れた両腕を鞭のようにしならせるユメ、20%のパンダさんパワーで斬撃を放つメイチャン、
両者の攻撃を凌ぐのは至難の技だがイシグリは少しも臆さなかった。
瞬間的にしゃがみこんで両者の攻撃をかわしたかと思えば、そのままの勢いでメイチャンに足払いをして転倒させる。

「あっ!やったな!もう!!」

怒ったメイチャンは余ったパワーで地面をブン殴り、辺りの小石群を吹き飛ばした。
細かな破片は回避が困難。イシグリもユメも散弾銃のような勢いで炸裂する石をまともに受けてしまった。
このような攻防の渦中にいないシオンヌはホッとしているようで、悔しい思いもしていた。

(手負いの私なんかいつでも仕留められるってことか……そりゃ、先にイシグリさんを潰すよね……)

そんなシオンヌに対してもう1人の戦士、リオ・キタガワ・サンツケンが話しかけてきた。

「はぁ、上手い具合に北の人たちがカチ合ってくれて良かったね。
 あっちはもう異常者達に任せて、こっちは普通の私たちで戦おっか。」
「(普通……)あなたは帝国剣士の?」
「そう。帝国剣士のリオ。ここまで生き残っているってことはあなたは番長なの?
 それとも、マドカちゃんと同じ”ユニット”の所属?」
「!」

動揺を顔に見せたシオンヌに対してリオは更に言葉を続けていく。

「ユニットだったらちょっと嫌だなぁ……さっき帝国剣士でその2人を倒したんだけど、2人とも強くて、かなりキツかったし。
 ねーメイチャン!マドカちゃんもキララって人もメチャクチャ強かったよねーーー?
 だから、あなたがユニットじゃなくて番長とかだったらとても助かるんだけど。」
「…………」

208 ◆V9ncA8v9YI:2021/05/24(月) 19:20:09
リオには二つの意図があった。
シオンヌが番長であった場合は単純な挑発になるし、
番長でなくユニットだったとしても、キララとマドカの脱落を知らせて動揺させることが出来る。
そして、その思惑通りにシオンヌは激怒しているし、
離れたところで戦うイシグリも、味方2人が負けた事実を知りショックを受けている。

「キララさんとマドカちゃんが?……」
「そうだよ!帝国剣士のみんなで倒したのっ!」

メイチャンは起き上がり、30%のパンダさんパワーでイシグリに殴りかかった。
この一撃を貰うのは致命傷だと理解しているので必死に剣で受けたが、
動揺で足腰に力が入り切っていなかったのか、勢いに負けて転ばされてしまう。

「くっ……」

もちろんこの程度でやられるイシグリではないが、いつも通りの動きが出来なくなっているのは事実だ。
キララ、クボタ、マドカ……と、仲間のほとんどが知らぬところで負けていったのは相当堪えるのだろう。
このように、イシグリへの精神攻撃は上手くいったようだが、
肝心の目の前にいるシオンヌへの対応はどうやら間違えてしまっていたようだ。

「……馬鹿にしてくれる。」
「ん?」
「私は、いや!私たち番長は弱くないっ!
 ハシサコさんも!ケロンヌちゃんも!ワカナちゃんも!そして私だって!!!」

シオンヌはパンダさんのパワーを借りたメイチャン以上の怪力で地面をブン殴った。
その拳には怒りが込められており、誇張ではなく、地割れを起こす程だった。

「な、なにこれ!?あなたも異常者だったの?」

焦ったリオは後方に下がって地割れに巻き込まれないようにした。
もっとも、リオだって強敵相手に口先だけで対抗できるとははなから思っていない。
まともに動かぬ右腕を鋭い爪でピッと切り裂き、自ら血液を吹き出させたかと思えば、
その血を左手ですくってシオンヌの目へと投げつけた。

(うっ!見えない!!……自分の血を武器にするなんて、この人も頭のネジが飛んでいる!)

209 ◆V9ncA8v9YI:2021/05/26(水) 02:10:05
目元に付着した血液を拭うために、シオンヌは両手を使ってしまった。
これでは攻撃が来ても防ぐことは出来ない。
隙だらけのシオンヌの胸に目掛けて、リオは模擬刀をぶつけていく。

「うっ!……」
(決まった!けどこの程度じゃやられないか……)

利き腕ではない方の腕で放った斬撃は、鍛え抜かれたシオンヌ胸筋を打ち破ることは出来なかった。
ならば追撃を喰らわせれば良いと思うかもしれないが、そうもいかない。
近距離はシオンヌの射程圏内。
地も割るシオンヌに掴まれでもしたら、リオは左腕でも剣を握れなくなってしまうのだ。

「悪いけど、これでもかぶってて!」
「!」

リオは水筒に手を伸ばして、中の水をシオンヌの顔面にぶっかけた。
咄嗟のこと故に調整がきかず、想定より水をかけすぎてしまったが、
敵を怯ませ、その隙に後方へと下がる事には成功した。
一撃が怖い相手と戦うにはヒット&アウェイの戦法をとるのが最適だと判断したのだ。

(うん、このやり方なら私は勝てる。さて、メイチャンの方は……)

リオはチラっと北出身の者たちの戦いに目をやった。
レベルの高い攻防が繰り広げられているようだが、メイチャンは善戦している。

(パンダの力も使いすぎていないようだし、任せても大丈夫そうだね。
 それにしてもあのイシグリって人、強そうだし実際強いんだろうけど、それほどでも無いような?……)

北出身と聞いていたのだから規格外の強者を想像していたのだが、
イシグリはスタンダードな戦法を取る優等生タイプだった。
パンダさんパワーにより筋力を自在に強化出来るメイチャンや、
両腕の骨が折れてたとしてもタコ足のように扱うユメの化け物ぷりっと比べるとどこか物足りない。
同じユニット所属者と比較しても、特殊技能を持つキララや、何をしでかすか分からないマドカの方がよっぽど怖かった。

(あの程度ならメイチャンも余裕だよね。となれば一番怖いのはあのタコさんか……)

リオがあれこれ考えているところで怒声が飛び込んできた。
その声の主は、リオと今まさにマッチアップしているはずのシオンヌだった。

「余所見なんかしないでよっ!」

血や水をかけられるのはまだいい。それがリオの戦法だと理解できるからだ。
だが、まだ戦闘が終わってもいないのに意識を別のところに向けられるのは我慢ならない。
とは言っても、シオンヌの状況は最悪だ。
クボタ、ユメとの連戦で大きく負傷したうえに、多量の水をぶっかけられている。
今のシオンヌはさしずめズブ濡れの泳げないMermaid
彼女が選ぶべきルート A or Bは以下の通りだ。
 A ハシサコが助けに来るまで耐え忍ぶ
 B 番長として目の前の強敵に打ち勝つ。
答えはもう、「はっきりしようぜ」と言われるまでもなくはっきりしている。

「私はアンジュ王国のシオンヌ・タメ・ハサミサン。番長としての誇りを持ってあなたを倒す!」

210名無し募集中。。。:2021/05/26(水) 08:34:26
C 倒せない。現実は非情である。

211 ◆V9ncA8v9YI:2021/05/27(木) 01:47:10
ポルナレフですねw
確かに書いててちょっと思いました。

212 ◆V9ncA8v9YI:2021/05/27(木) 02:34:40
前にも触れたが、このプログラムには現役の帝国剣士・番長・銃士らがサポート班として参加している。
彼女たちは参加者に気づかれぬように気配を消してあちらこちらに潜んでいるのだ。
戦いも終盤になったため、多くの先輩戦士たちがリオ、メイチャン、シオンヌ、ユメ、イシグリら5人の近くに集まってきている。
参加者のピンチに迅速に緊急搬送できるように……という名目があるが、大半は若い戦士たちの戦いっぷりを好んで観察しているのだ。
特に、これまで消極的だったシオンヌがリオ対して啖呵を切ったシーンには沸いたようだった。
ルールとして声援は全面禁止となっているが、ついつい手拍子・クラップで応援したくなる程にエキサイティングしている。

「な?ウチのシオンヌちゃんなかなか魅せるやろ?」
「べ、別にリオちゃんも負けてないもん……」

一部のサポート班らが小声で会話をしていた。
この身長が小さいミニーズ。な2人は"番長"と"帝国剣士"と立場は違うようだが、師が同じため今も親しくしているらしい。

「いやぁ正直リオちゃんは厳しいと思うわ。ここは森やんか。水使いがどうやって戦うねん。
 こんなのどっかの誰かさんが陸地で焦ってアタフタしとるようなもんやで。」
「……前から思ってたけど私のこと舐めてる?」
「舐めてないぞっ?」
「舐めてる」

帝国剣士は怒り爆発寸前というところまで来たが、静かにせねばならないのでグッと堪えた。
だというのに番長の方は更に煽っていく。

「自分の血を武器にする方法をせっかく教えたと思うけどな、」
「教えたつもりはない。リオちゃんが勝手にやってるだけ。」
「まぁそれはどっちでもええわ。"水が無いから血を使う"、その発想はとてもええ。
 でもな、水鉄砲の水流も温度も本家と比べたら段違いに低レベルやわ。あんなの目くらまし程度にしかならん。
 あれじゃあシオンヌちゃんの筋肉の鎧は貫けんわ。」
「分かってないなぁ」
「あ?」
「水鉄砲が得意なだけじゃ帝国剣士にはなれないんだよ?リオちゃんの凄いのは、ここから。」
「え〜?でもどっかの誰かさんは水遊びだけで帝国剣士に受かったやんか。」
「舐めてる」

213 ◆V9ncA8v9YI:2021/05/28(金) 02:42:03

シオンヌもリオも前の戦いで大きく傷ついているため、2人の決着は早々につくと予測される。
そんな中、先手必勝とばかりにシオンヌが飛び掛かった。
2人のパワー差は大きい。掴まれた瞬間、リオはアウトと言ってよいだろう。

(また水か血を飛ばして目隠してくるんでしょ?それさえ分かっていれば私は怯まない!!)

思った通りにリオが水筒に手を伸ばしたのでシオンヌはニヤリとした。
いくら水をかけてきようとも分かっている攻撃ならば怖くない。
カッと目を見開いて水を打ち破り、逆にリオの度肝を抜いてやろうと思っている。

(水筒の中の水をかける……と思うでしょ?)

ところが、リオが次にとったアクションはシオンヌのイメージ通りではなかった。
なんと水ではなく、水筒そのものをシオンヌの顔に投げつけたのだ。
実はもう水のストックが殆ど無く、残り少ない水を入れ物ごと飛ばしたのである。

(わっ、そう来たか、でも!!)

多少計画のズレはあったが、シオンヌの取るべき行動は変わらない。
何が飛んできても恐れずに目を開いて前進するのみ。
ここで戸惑ったり手こずったりしなければターゲットのリオはすぐそこなのだ。
覚悟を決めたシオンヌはヒタイに硬い水筒が当たろうとも目を閉じたりしない。

「これで終わり!!」

シオンヌはリオの腕を掴んでやろうと大きく手を伸ばした。
水筒を投げ捨てたリオは攻撃手段を失ったも同然。これで何にも邪魔されることなく目的を達成することが出来る。
……そうは問屋が卸さなかった。

「忘れたの?私は血も操るんだよっ!!」

リオは左手の爪で、今にも掴まれようとしている腕の手首を素早く切り裂いた。
手首の血管を深く傷つけた結果、大量の血液が間欠泉のように一気にプシュウと噴出する。
全神経をリオの腕に集中していたシオンヌは一瞬にして顔面を赤く染められてしまう。
シオンヌの快進撃もここまでかと、周囲で見ていたサポート班の大半は思っていた。
だが、それはシオンヌの覚悟を甘く見ているとしか言えないだろう。

「終わり!って言ったでしょっ!!!」

今のシオンヌはどんな状況でも決して動じたりしない。
顔中が真っ赤な血で染まって前が見えなくても、彼女の前進を止める理由にはならないのだ。
シオンヌは勢いよく手を伸ばし、とうとうリオの右腕を掴み取ってみせる。

(やっと掴んだ!!このまま折ってあげる!!)

全く見えてはいないが、手首から血を垂れ流し続けているこの感触。リオの腕に間違いは無い。
この瞬間、シオンヌは腕がはちきれんばかりの力を込めてリオの手首を握りつぶした。
ユメ・オクトピックの腕を破壊したように、リオ・キタガワ・サンツケンの腕も壊してみせたのだ。
だがおかしい。骨が折れるほどの激痛だというのに悲鳴が聞こえてこない。
聞こえてくるのはシオンヌ同様に覚悟を決めた戦士の声だけだ。

「腕くらいっ……くれてあげるっ!!」

リオは自身の右腕をオトリにしていた。初めからシオンヌに壊されることを念頭に置いていたのだ。
前の戦いでマドカにクリティカルヒットを貰った時からリオの右腕は使い物にならなくなっていた。
元々折れていた腕が折られようが、戦力的には全くマイナスにならないのである。
それどころか、腕を掴んだ瞬間のシオンヌは勝利を確信して隙だらけだ。
リオは折られる激痛に耐えながらも、背にさした模擬刀のグリップを左手で掴み、
剣を勢いよく抜いてシオンヌの脳天へと叩きつけていく。

「倒れろっっっっ!!」

214 ◆V9ncA8v9YI:2021/05/29(土) 02:55:13
視界を奪われている状態で頭が割れるような痛みに襲われたため、シオンヌは思わず気を失いそうになった。
いや、"割れるような"ではない。実際に割れてしまっているのだ。
シオンヌの頭からはリオにかけられた以上の血液が溢れ出ており、非常におどろおどろしい姿になっている。

(痛い!痛い痛い痛い痛い!!どういうこと!?)

確かにリオの腕を握りつぶしたはずなのだが、勝利するどころかむしろ自分が大打撃を受けている。
何もかも全く見えず、事態をまるで把握することが出来ないので、シオンヌの混乱は止まらない。
相手がパニック状態なのでさぞかしリオは喜んでいるだろと思うかもしれないが、
実際は苦虫を噛みつぶしたような顔をしていた。

(なんで倒れてくれないのっ!?)

脳天への攻撃は綺麗に決まったはず。なのにシオンヌは両方の足で地面をしっかりと踏みしめている。
これは頭まで筋肉が詰まっているから……という理由などではない。
リオが利き腕ではない左腕で剣を握っただけでなく、
シオンヌに腕を破壊された際の激痛に苦しまされた結果、斬撃に力を上手く乗せることが出来ていなかったのだ。

(一発じゃ弱かったってこと!?だったら二発三発!)

すぐに追撃を喰らわせてやろうとしたリオだったが、そうはいかなくなってしまう。
なんとシオンヌがリオを掴んでいない方の腕でパンチを繰り出してきたのだ。
シオンヌは依然変わらずパニック状態にある。頭も割れているしこのままぶっ倒れても恥ずかしくない状況だ。
それでも、シオンヌは立ち止まることなど出来なかったのである。
何がなんだか分かっていないが、目の前に敵がいるのであれば攻撃あるのみ。
ギュっと固めた握り拳をリオの胸に叩きつけようとする。

(これくらい止められない私じゃないっっ!!)

パンチに気づいた瞬間、リオは模擬刀を引いてガードをした。
今のシオンヌと違ってリオには視力の優位がある。腕が伸びきるより先に防ぐなんて容易だ。
その結果として思惑通りに、シオンヌの拳に刀身を当てることが出来た。
これでシオンヌの攻撃は不発に終わる。
……そのはずだった。

「まだ!まだ!まだまだまだまだ!!!」
「っ!?」

これまで何回も書いてきたが、覚悟の決まった今のシオンヌは何者にも止めることは出来ない。
パンチが剣でガードされたようだがそれがいったいどうしたというのだ。
彼女の腕はまだ伸びきっていない。阻まれようが、邪魔されようが、ストレートパンチを最後まで送り届けるのが使命だ。

「こ!れ!で!本当の本当の終わり!!!」
「あっ、あ、あああああああああああああ!」

力強く押し込まれてくる握り拳をはねのけてやりたいところだが、
キララとマドカら、ユニットの連中に2度も受けたクリティカルヒットがここにきて響いてきた。
この場に来る前からリオ・キタガワ・サンツケンの身体はもう戦えぬほどにボロボロだったのである。
更に、目潰しのために深く傷つけた手首からの大量出血も、体内の酸素循環を正常ではないものにしている。
これらの要素が絡み合った結果、リオは刃で拳を押し返すことが出来なくなってしまっていた。
このまま押し負けて転倒し、後頭部を地面に強く叩きつける。

「うっ………………」

限界を迎えたリオはショックと痛みに耐えきれず意識を飛ばしてしまう。
それとほぼ同時に、サポート班による残り参加者数の連絡放送が流れてきた。
ここからは定期連絡ではなくリアルタイムで最新状況を伝えるつもりなのである。

<<残り人数は6人やき〜>>

放送の通り、先ほどは7人だった人数が6人に書き換えられていた。

215 ◆V9ncA8v9YI:2021/05/31(月) 02:44:59
「勝っ……た?……」

前が見えないシオンヌは、放送の声を聞いてはじめて自身の勝利に気づいた。
とは言っても彼女も十分すぎる程に重症。
自重を支えるのも辛くなり、その場に寝転がってしまう。

(ダメ……意識を失うのは、もうちょっとだけ待って……)

リオには勝てたものの、この場に敵はまだ3人も残っている。
モーニング帝国の帝国剣士メイチャン・リコテキー
果実の国の銃士ユメ・オクトピック
そしてユニットに属するイシグリと、いずれも"北出身"の強者揃いだ。
勝てるのであればこの際方法は問わない。漁夫の利だって狙ってやろうと思っている。
だから今は意識だけは保ちつつ、身体を休めることに専念しようとシオンヌは考えている。
もっとも、そのようなシオンヌの状況は3人にバレバレだったようだ。

「あっち、終わったみたいだねっ!メイチャンも私と同じ、独りで寂しいよねっ!」

ユメは鞭と化した腕を振るいながらメイチャンに話しかけた。
パンダさんパワーで強化した脚で攻撃を弾き、メイチャンは返事を返す。

「寂しくなんか無いよっ!メイはもう大人だもんっ!!」

蹴りのために伸ばした脚を戻すや否や、メイチャンはイシグリに飛び掛かった。
この瞬間のメイチャンは脚と腕の両方にパワーを込めている。
地を蹴る勢いで加速をつけ、強化した腕力で力強い斬撃を当てようとしているのだ。
イシグリは咄嗟に剣でガードするものの力負けしてしまい、後ろに吹っ飛ばされる。

「うっ……!」

イシグリが失態を見せるのはこれで何度目かも分からない。
先ほどからユメの連打とメイチャンの強打に押されっぱなしなのだ。
これには相対している2人も若干不思議に思っている。

(イシグリちゃん……昔はもっと強かったような?……)
(いや!違う!メイが強くなったんだ。パンダさんに感謝しよう。)

ユメとメイチャンは無意識のうちにイシグリを上から見ていた。
そのような視線に関してはイシグリは全く気にしていない。どう見られようが痛くも痒くもない。
むしろ、このまま不甲斐ない戦いを続けてユニットの目的を果たせなくなることの方がよっぽど辛いと思っている。
リオの発言が真実であれば同士は少なくとも3人も戦線離脱していることになる。
ここで目が覚めなきゃ嘘だ。イシグリは心からそう思った。

(キララさん、クボタ、マドカちゃん……ごめん、私、クールな女を演じ魅せようとしちゃってたよ……)

ユニットで活動を始めたイシグリは、模範的な人物になって皆を引っ張らなくてならないと日々思っていた。
心技体を兼ね揃えた、周囲に尊敬されるような人物像を常にイメージして戦ってきていたのである。
実際ここ数年はそのように振る舞えていたし、大抵の相手はそのスタイルでも余裕で勝つことが出来ていた。
だが、今の相手はどうだ。
帝国剣士、番長、銃士らは偽りの自分で対抗できる相手ではないことを痛いほどに思い知らされたのだ。

「全部さらけだしたらきっと嫌われちゃうね、みんなが思う私でないと指さされ……」

瞬間、ユメとメイチャンは背筋が凍るのを感じた。
2人の野生の勘が言っている。今すぐイシグリを仕留めないと恐ろしい事になる。
すぐに動き出したのはメイチャンだ。パンダさんパワーを50%まで引き上げてイシグリにタックルを仕掛けていく。
だが、既にイシグリは動き出していた。
悪童がプロレス技を真似するかのように、勢いよく跳びあがってメイチャンの顔面にドロップキックを容赦なくぶつけたのだ。
そう、今のイシグリは

「悪い子だべ〜!!」
「!?」

強烈な蹴りを受けて鼻血を出すメイチャンの顔を踏み台にして、イシグリはユメの元へと跳んで行った。
これでユメは確信する。今のイシグリは昔のイシグリだ。
特殊技能は持たぬ代わりに一切の慈悲を見せぬ戦闘狂の悪ガキに戻ってしまったのだ。
焦ったユメは鞭の乱打で寄せ付けまいとするが、イシグリは超スピードで背後に回り込み、
ヘッドロックでユメの首を絞めにかかった。

「わやたのしい〜!!!」
(く、苦しい!)

216 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/01(火) 01:48:13

周囲で見守っているサポート班はイシグリの変貌っぷりに驚愕していた。
ただでさえ"ユニット"のデータは不足しているのに、突然キャラ変までしたのだから驚いて当然だろう。
もっとも、今の悪い子状態の方が"北出身"という肩書きに見合った強さのようなので、先輩たちの納得度は高かった。
そんな中でただ一人だけがイシグリに向けて鋭い殺気を放っていた。

「なんて乱暴な攻撃……ユメちゃんを殺しでもしたら逆に命(タマ)とったるんじゃ……!」

この発言はユメの先輩にあたる、果実の国の銃士によるものだった。
今のユメは手加減一切なしのヘッドロックを受けているため、このままでは首をキめられてしまう。
場合によっては首の骨が折れて死ぬこともあるだろう。
万が一でもそうなった場合はすぐにでも飛び掛かって斬り捨ててやろうと先輩銃士は思っているのである。
だが、そんな行為はもちろん御法度。サポート班失格だ。
そもそも、それ以前に殺気を参加者に届けてパフォーマンスに何らかの影響与えること事態がNG行為であるため、
同じ銃士であるアーリーが更に強い圧を放ち、彼女の殺気を強引に押し潰していく。

「ハッ!……アーリーさん!?」
「ダメよ〜?抑えて抑えて」
「……すいません、未熟じゃった。」
「うん、うん、分かればいーの。今は心の中でユメちゃんを応援してあげましょ。
 あの子は頑張り屋さんだからなんとかなるでしょ。」

とは言えユメは両方の腕をシオンヌとワカナに折られてしまっているため、暴れて抵抗することも出来ない。
ぷらんと垂れたこの腕を鞭のように扱うには勢いをつけなくてはならないので、
今のようにガッチリとホールドされたら、もはやなす術が無いのだ。

(ヤバ……い……落とされ……ちゃう……)

首を圧迫される痛みだけでも辛いのに、その上、酸素まで回らないのだから苦しくないワケがない。
せめてもの抵抗でイシグリの足の甲を踏んづけるユメだったが、その程度の攻撃では解放してもらえなかった。
段々と意識が朦朧としてくる。
「がんばれないよ これ以上は」
そう思った時、メイチャンの声が聞こえていた。

「Panda-san power ...70 percent !!!」
「!」

使いすぎ厳禁なはずのパンダさんパワーを更に強化したメイチャンがイシグリの背中に体当たりをする。
その衝撃は実物のパンダさんにぶつかるのとほぼ同等であるため、イシグリはたまらずユメを放してしまう。

「ぷはっ!……メイチャン、ありがとう!」
「どういたしまして!でもありがとうの言葉はいらないよ!」

メイチャンはユメを助けたかったワケではない。
敵であるユメと共同戦線を張らないと、今のイシグリを倒すことは出来ないと判断しての行動なのだ。
そしてそれはユメもよく分かっている。

「メイチャン!……パンダさんのパワー、100%は何秒間もつ?」
「えっ……ちゃんと数えたことないけど、ほんのちょっとだよ。」
「……分かった、私がイシグリちゃんを死ぬ気で抑えるから、確実に当ててね。」

217 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/02(水) 01:15:34

ユメ・オクトピックはイシグリに向かって駆けだした。
両腕を壊した自分では今のイシグリに決定打を与えることは難しい。
この状況を打破するのはメイチャンの100%パンダさんパワーのみ。
だからユメはそれをサポートするために何がなんでもイシグリを止めなくてはならないのだ。

「止めてみなよっ!!」

走ってくるユメに対してイシグリは超低空のタックルを仕掛けた。
ユメの膝下を強く抱きしめて、折れた両腕同様に脚までも壊してやろうとしているのだ。
実際、イシグリによる強烈なタックルを受けたら骨が折れるどころでは済まないだろう。
だが、ユメの強みは軟体動物のような動きによる回避術にある。
奇妙なステップで素早く地面を蹴りだし、あたかも足が8本あるかのように見せていった。
このように高速で脚を動かし続ければイシグリに簡単に掴まれることは無いだろう。
しかし、イシグリはこの状況でも全く動揺を見せなかった。

「面白い!流石ユメ!でも私が勝つよ!!」
「!」

イシグリは突進の勢いを全く変えずに、両手を大きく開きだした。
こうすることでユメの脚に当たる面積を広げたのだ。
8本足になろうが、16本足になろうが、腕のどこかに一か所にでも当たってくれれば十分。
そうすればユメは体勢を崩すし、そこに追い打ちをかければ良いのである。

「ユメちゃん!気を付けて!」
「メイチャン心配ありがと。でもね、私が演じているのはタコじゃないんだよっ!」
「「!?」」

イシグリに衝突する直前にユメは地面を3回、Po Po Poと強く蹴りだした。
そして水生生物のタコではなく、空を飛翔する鳥の如く跳躍したのである。

「鳩!?」

帝国剣士のリオが先輩の血鉄砲を真似したように、
ユメも恩師にならって鳥のような振る舞いを魅せたのだ。
ユメはイシグリの頭上を跳びあがり、背後をとることに成功する。

(後ろがガラ空きだよ!このまま抱きしめて動けなくしてあげるっ!)

イシグリさえ掴んでやれば、後はメイチャンが100%のパンダさんパワーで仕留めてくれる。
そしてメイチャン自身も急激な身体強化の反動に耐えきれず弱るはず。
つまりはユメ・オクトピック、そして銃士チームの優勝-Top-は目前なのである。
Top Top Topってゆうかぶっちゃけ聞くけどトップってどんなフィーリング?
その感覚をすぐにでも味わえると思うと、ユメは嬉しくて嬉しくて仕方なくなってくる。

218 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/04(金) 01:09:46
今の折れた腕ではイシグリを掴むことが出来ない。
ユメがイシグリを止める唯一の方法、それはハグをするかのように抱きしめることだ。
「私が言う前に抱きしめなきゃね」とも「イジワルしないで抱きしめてよ」とも言われていないが、
全身を使ってイシグリの腕や脚の動きを妨害すればメイチャンが攻撃するだけの時間を稼げると考えたのである。
言わばクリンチ。
特別な技能は要らない。背後からイシグリに抱き着けば、それだけで優勝は目前だ。

(やった!プログラムの勝者は私たち銃士だ!)

今すぐにでもイシグリを抱けると言ったところで、ユメはおかしなことに気づく。
自分は鳩のように跳躍してイシグリの後ろに回り込んだはず。
だと言うのに、何故にイシグリと目が合っているのか。

「気が合うね。」

なんとイシグリも同様にユメを抱きしめようと両手を広げていたのだ。
ユメの行動を完全に読み切ったというワケではない。事実、鳩のような動きに驚愕していた。
では何故このようなことになっているのか?野生の勘でピンと来たのか?
いや、そうではない。
今のイシグリは純粋に楽しんでいて、たった今、頭に過ぎった技を使いたいだけの動機で動いているのだろう。
かつて熊をも倒した技をユメに試したくてしょうがないのだ。

「ま、まずい!」
「逃がさないよ〜!」

ユメは逆にイシグリに抱きしめられてしまった。
イシグリは両腕に力を込めて、ユメの胴体を強く圧迫していく。
腕を使えぬユメは抵抗しようにも抵抗できず、段階的に強まるイシグリの抱擁に肋骨を折られることとなる。

「あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!」

これはプロレス技の「ベアハッグ」。
獰猛な熊をも退治する力を持つイシグリは、もはや熊そのものと言っていいだろう。
つまりユメは熊にひねり潰されているも同然。
やがて背骨や内臓までも圧迫され、血反吐を吐いてしまう。

219 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/05(土) 01:26:14

「なんてムゴい……」

地に寝そべっているシオンヌが顔面の血を拭って見た光景は、ひどいものだった。
ユメにはもうイシグリのベアハッグから抜け出す手段は残されていない。
このまま失神するまで悲痛な叫び声をあげ続けるのだろう。

「あああああああああああっ!!」

そんなユメの悲鳴に重なるようにサポート班の放送が流れていく。
リオが倒れた時のようにリアルタイムで最新状況を伝えてくれる。

<<残り人数は5人やき〜>>

それを聞いたシオンヌは「あれ?」と思った。
確かに今のユメ・オクトピックは敗北必至な状態ではあるが、まだ負けてはいない。
ユメが負けると決めつけて、フライングで残り人数を減らすのはあまりに失礼ではないだろうか。
実際、その放送から数秒ほどでユメが本当に気絶してしまうのだが、せめてその後に放送すべきだとシオンヌは憤った。
そのすぐ後に、焦った風に訂正らしき言葉が発信される。

<<あ、4人になったんですか?残り人数は4人、4人やき〜>>
(なんなの?……サポート班の間で連携とれてないのかな……)

色々と言いたいことはあるが、今のシオンヌには呆れている暇もない。
ここから先の展開は一秒も見逃すことが出来ないと考えているからだ。
ユメが倒れた今、この場で生き残っている(=気を失わずにいる)のはシオンヌとイシグリとメイチャンの3人しかいない。
そしてそのメイチャンが、今まさにイシグリの背後から殴りかかろうとしているのだ。
今現在のメイチャンは普段の細身からは想像できないほどに全身が屈強になっている。
腕も脚も筋肉がパンパンに膨れ上がって、もはやパンダさんとは別物の生命体だ。
ユメ自身は敗北してしまったが、おかげでメイチャンはパンダさんパワーをMAXにまで引き上げる時間を稼ぐことが出来たのである。
これだけのパワーをもって不意打ちをすれば一方的に勝利できたのかもしれないが……

「Panda-san power 100 percent!! 100 percent!! 100 percent!! 100 perrrrrrrrcennnnnnnnnt!!!!!」
(うるさっ!黙っておけばいいのに……)

シオンヌはそう言うが、100%のパンダさんパワーを実現したメイチャンのテンションが高くないワケがない。
パンダさんに近づけたことを身体いっぱい喜ぶことこそがメイチャンらしさなのである。
そして、対するイシグリも最大限にテンションが上がっていた。

「それ!100%のパンダさんとやりたかったんだ!!」

いつの間にかメイチャンもイシグリも模擬刀をそこらに投げ捨てていた。
メイチャンとイシグリが普段から使用している肌に馴染んだ武器ならともかく、
全参加者に支給されるような既製品では、これから起きる衝突には耐えられないと判断したのだろう。
2人とも拳を強く握っている。素手と素手、意地と意地のぶつかり合いだ。

「Panda-san! Panda-san! Panda-san! Panda-saaaaaaaaaaaaan! Poooooooowwwwwwwwwweeeeeeeeeerrrrrrrrrrrrrrrr!!!」
「そっちがパンダさんパワーならこっちは木彫りの熊さんパワーだよ!!
熊と!大熊猫!どっちが強いか決着をつける時だ!!!!」

220 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/07(月) 02:13:50
イシグリの属するユニットは、今回の合同演習プログラムで大きく名を上げることを目標としていた。
帝国剣士、番長、銃士らが本命とされている中で、
無名の自分たちが優勝をすれば近隣諸国に大きなインパクトを残せると考えていたのだ。
イシグリも仲間の4名も全員が異なる国の出身であり、"ユニット"は小規模な多国籍軍であると言える。
大々的に宣伝をして新規加入希望者を募り、今後の活動を大きく拡げるためにも、彼女らは優勝しなくてはならないのである。

「だから」

100%のパンダさんパワーで殴りかかってくるメイチャンに対して、イシグリは渾身のストレートパンチで返した。
メイチャンは完全なるパンダさんと化した自分なら無敵と考えているのかもしれないが、
だとしたらそれは大きな"ミステイク"だ。
たった今イシグリが放った攻撃は、ユニットが得意とする"クリティカルヒット"なのである。
キララとマドカがリオを、クボタがシオンヌを、そしてイシグリ自身もケロンヌを苦しめた強烈かつ高速の攻撃法。
この技をもって拳と拳を衝突させることで、メイチャンの腕を破壊するつもりなのだ。

「Panda-saaaaaaaaaaaaaan!!!Poweeeeeeeeeeeeeeeeerrrrrrrrr!!!」
「"クリティカルヒット"!!!」

バチン!と言った大音量の破裂音が周囲に響いた。
これは強大な力同士がぶつかりあった結果として発された音だ。
この時、イシグリは確かに目撃している。
100%パンダさんパンチが弾かれて、大きく体勢を崩しているメイチャンの姿を。

(やった!!私の力がパンダさんに押し勝ったんだっ!!)

後は無防備なメイチャンに拳をブチ当てるだけ。
そう思っていたのだが、何やら様子がおかしい。
いくら腕を動かそうと頑張っても、一向にパンチを前方に繰り出すことが出来ない。
それもそのはず。
イシグリの右腕は今の衝突で折れてしまい、だらんとしていたのだ。

(えっ……!?)

拳と拳のぶつかり合いで両者のパンチが等しく弾かれていた。
異なる点、それはメイチャンは無事なのに対し、イシグリの腕は衝撃でグシャグシャになってしまったところにある。
イシグリの放った"クリティカルヒット"は見事だった。文句の付け所のない一撃だと言える。
ただ、己の身体を犠牲にして強化した100%パンダさんパワーはそれさえも上回っていたのだ。
そして、メイチャンはまだまだ満足していなかった。

「100%!!! 110%!!! 120%!!! 130%!!!...」
(もっと強くなる気だ!その前に早く仕留めないと!!)

100%でも筋肉に大きな負担をかけると言うのに、メイチャンはお構いなしに負荷をかけ続けていっていた。
同時に筋繊維がブチブチと千切れて出血しているため、まともにやり合わずに放置すればメイチャンは勝手に自滅してくれるだろう。
だが、イシグリはそんな選択肢を決して選びはしなかった。
真っ向勝負で勝つからこそ気分が良い。理由はそれだけだ。

221 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/08(火) 02:27:05
イシグリは高く跳躍し、宙でグルリと1回転した。
そしてその勢いのままメイチャンの右肩にカカト落としを喰らわせる。

「うあっ!……」

パンダさんの力を借りすぎた今のメイチャンの身体は非常に不安定な状態にある。
蹴りの一発を貰うだけで損傷が大きく、右肩どころか右腕全体のあちらこちらから血液が噴き出てしまう。
これではもうメイチャンの右腕はイシグリ同様に使い物にならない。
マイナスの状況をイーブンにまで引き上げたイシグリを見て、シオンヌは唾をゴクリと飲んだ。

(やっぱりイシグリさんは強い……このまま押し切るつもりなの?)

しかしイシグリの好調も長くは続かなかった。
蹴りを終えて着地した際に、地面がぬかるんでいたために顔面から転倒してしまったのだ。

「!?」

その付近には、先ほどリオがシオンヌに投げた水筒が転がっていた。
つまりはこの地面のぬかるみはリオが作りあげたものだったのだ。
同期によってもたらされたこのチャンスをメイチャンは逃さない。

「Pa!・n!・Da!・Sa!・n!」
「!」

メイチャンは転んだイシグリ目掛けて左拳を振り下ろした。
今のメイチャンのパンダさんパワーは150%まで上昇しているため、
この攻撃をまともに喰らえば骨までもバラバラに砕けてしまうだろう。

(これは避けるしかない!可哀想だけど地面を殴って自滅して!)

喰らえば恐ろしいが、ゴロリと転がれば比較的容易に回避することが出来る。
そうすればメイチャンのパンチは地面に跳ね返されて、右腕同様に左腕を壊すことだろう。
しかし、イシグリが半回転した時点で耐え難い激痛が走っていた。
ワカナにサーブで撃ち抜かれた背中と、リアイにVa-Va-Voomと斬られた二の腕が地面に触れることで酷く痛んだのである。
これでは回避のための回転速度が鈍ってしまう。
即ち、メイチャンの攻撃を避けきることが出来くなるということ。

「PoooooooooooWeeeeeeeeeeeeeeeeeerrrrrrrrrrrrrr!!!」
「!!!」

身体の芯で受ける事だけはなんとか避けることが出来た。
だが、残念なことに片足だけは逃げ遅れてしまう。
メイチャンの強烈な振り下ろしをイシグリは左脚で受けることになる。

「あああああああああああああああああっ!!!!」

222 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/09(水) 02:09:34
メイチャンのパンチの直撃を受けて、イシグリの脚は破壊されてしまった。
それでもイシグリはただでは転ばなかった。
咄嗟に脚を曲げて、メイチャンの拳が膝にぶつかるように仕向けたのである。
硬い膝を殴ってしまったメイチャンの左腕は、手痛い反動を受けて骨が砕けてしまう。

「う゛うっ!!……ハァッ……ハァッ……」

これによりメイチャンは右腕も左腕もまともに使うことが出来なくなった。
それどころか、100%を超えるパンダさんパワーを使いすぎたせいか呼吸も乱れている。
いくら筋力を強化したところで、骨や心肺が弱ってしまえば戦うことは出来ない。
つまり今のメイチャンは限界近い状態にあると言えるのだ。

(痛い!苦しい!……このままイシグリちゃんに負けちゃうの?……
 いや、いや、嫌!嫌!嫌!嫌!メイが負けたら帝国剣士の負けになっちゃう!!」

メイチャンは無理矢理にでも両腕を持ち上げて、
手の骨が折れてしまいそうになる程の力で拳を握り締めた。
今のイシグリは下半身を負傷しているため簡単に動くことが出来ない。
そんなイシグリに両腕のパンチを叩きつけることで倒そうとしているのだ。
最大の強敵イシグリさえ倒せばもう怖いものはない。帝国剣士の勝利だとメイチャンは信じている。

「最後の!最後の!これが最後のPanda-san!!!!Power!!!」

この攻撃を受ければ終わりだと分かっていても、今のイシグリの機動力で避けることは絶望的だった。
回避も防御も出来ず、このままジ・エンドだろう。
そう思っていたところで、メイチャンの身体に異変が起きる。
なんと両腕からこれまで以上に激しく血が噴き出したのだ。

「えっ?ええっ!?」

前の戦いで、両手に模造刀を持ったマドカがメイチャンの両腕を叩きまくったことを覚えているだろうか。
その時はメイチャンが強化した筋肉で耐えたように見えていたが、
実際はダメージが蓄積して残っていたのだ。
その後、パンダさんパワーの使いすぎや、イシグリの攻撃を受けることで負荷がかかりすぎてしまい、
今この瞬間に筋繊維も血管も全て破裂してしまったのである。
こうなったらもう両腕は使い物にならない。突然の出来事に頭もパニックになっている。
とは言え全く戦えないというワケではない。はやく頭を切り替えて、足技主体で戦うべきなのだ。

「させるかっ!!!」
「!?」

イシグリは残った右足で地面を強く蹴り、勢いよく起き上がった。
そしてメイチャンが正気を取り戻すより先に、強烈な頭突きを喰らわせたのだ。
メイチャンの脳は、肉体面でも頭脳面でも負荷がかかりまくっているこの状況で自身を守るために、
頭突きのショックをキッカケとし、意識を完全に遮断することを選択する。

「あっ…………………」
「メイチャン?……私、勝ったの?……」

その後すぐにサポート班による放送が聞こえてきた。
これによってイシグリvsユメvsメイチャンの北出身対決は、イシグリの勝利であることが確定する。


<<残り人数は3人やき〜>>

223 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/10(木) 01:17:44
イシグリがメイチャンを打ち破る様をシオンヌはしっかりと目撃していた。
どんな状況でもきっちりと勝ち星を上げる姿は尊敬に値するが、いつまでも憧れ気分ではいられない。
この場で意識があるのはシオンヌとイシグリの2名のみ。
否が応でも2人は戦わなくてはならないのだ。

「シオンヌ、行くよ。」
「……はい。」

シオンヌもイシグリも互いに身体はボロボロだ。
あちこちから血は流れるし、吐き気だってする。
だが、そんなのは言い訳にはならなかった。
イシグリはメイチャンに壊された左脚を引きずって、シオンヌに接近してきた。
こうなればシオンヌももう寝ているワケにはいかない。
己の身体にムチ打って必死で起き上がっていく。

(苦しい!……でも、それはイシグリさんも同じはず!)
(少しでも気を抜くと意識を失っちゃいそう……シオンヌもそうでしょ!)

どちらも風が吹けば倒れてしまいそうな程の重傷だ。
ゆえに決着はすぐにつくことが予想される。
アンジュ王国の番長、シオンヌのパワーが勝るか、
はたまたユニット所属のイシグリの強さが勝るか。
それを証明するために両者は互いに攻撃を仕掛けようとした。
……その時、

「余裕っすよ。」

シオンヌのものでもイシグリのものでもない、軽薄で幼い声が聞こえてきた。
そして次の瞬間、イシグリの背中に耐え難い痛みが襲ってくる。

「なっ?……え?……」

イシグリは目の前のシオンヌに集中をしていた。
言い換えれば、それ以外に注意を払えていなかったのだ。
そしてそれはシオンヌも同じ。
急に現れた先輩に驚きを隠せずにいる。

「ハ、ハ、ハシ……」
「あはは、シオンヌ変な顔。ウケる。」
「ハシサコさん-ーーー!?」

イシグリに後ろから襲い掛かったのはもう1人の生存者、リン・ハシサコ・ランチマインドだった。
リンによる斬撃を無防備な背中で受けたイシグリは、あまりのショックに意識を飛ばされてしまう。

「いぇーい!大勝利!シオンヌも私が来るのを待ってたんでしょ?」
「いや、今来るんかいっ!」

イシグリが倒れることにより、サポート班は最後の放送を伝達した。

<<残り人数は2人やき〜。え、残りは番長だけ?……ひゃー!リンちゃんもシオンヌちゃんも凄い!
 あ、失礼しました……優勝はアンジュ王国の番長チーム。番長チームやき〜。>>

224 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/11(金) 01:36:35
優勝が決まった瞬間、あちらこちらに潜んでいたサポート班が次々続々と顔を出した。
ハシサコとシオンヌを祝福したいという理由ではない。
負傷者たちをすぐに医療班のもとへ運ぶために登場したのだ。
その早業に番長の2人は目を丸くする。

「改めて見てみると強そうな人ばっかり倒れてるじゃん。シオンヌよく生き残れたね。」
「こっちは本当に大変だったんですよ……ハシサコさんはお気軽だったみたいですけど」

なかなか助けにきてくれなかったので、シオンヌはちょっとだけスネた顔をした。

「いやいや、こっちも結構たいへんだったんだからね。」
「ここより大変な現場があります!?帝国剣士と銃士とユニットがウジャウジャで……」

ここでシオンヌは眩暈がするのを感じた。
テンションの上昇で忘れていたが、シオンヌもかなりの重傷なのだ。
体力の限界を迎えているため意識を保つのも困難になる。

「うぅ……私はもうダメみたいです……」
「はいはい。医療班の人にちゃんと診てもらいな。」
「はい……」

シオンヌが目を閉じたところでハシサコはフゥと息を吐いた。
そして力なく、その場に倒れこんでしまう。

「はぁ……これでやっと寝れる。先輩でいるのも大変だよ……」

同時刻、医療班の設営したテントの中ではユニット所属のキララとマドカが身体を休めていた。
良質な治療を受けたので身体の方は全く問題ないのだが、
番長チーム優勝の放送を聞いていたので、2人とも明るく振る舞うことは出来ていなかった。

「キララさん……私、まだ信じられないんですけど」
「私たちが帝国剣士に負けたことが信じられないの?もう受け入れなさい。」
「いえ、信じられないのは私たちユニットが優勝できなかったことです。
 だって!あの2人が負けるなんて思わないじゃないですか!」
「……強国の力が想像以上だったのよ。あの2人でも敵わないくらいにね。」

ユニットは全員が実力者ではあるが、2枚看板の強さは特に異常だった。
1人はイシグリだ。その実力は今更語る必要は無いだろう。
そしてもう1人は……

「え?……キララさん、今運び込まれたのって……」
「カネミツ!?」

ユニットは4人ではない。
キララ、イシグリ、クボタ、マドカ、そしてこのカネミツを含めた5人組なのだ。
そしてカネミツは2枚看板のうちの1人。即ち、イシグリと並ぶ強者として扱われている。

「あ……キララさん、マドカちゃん……ごめんなさい、負けちゃいました……」
「貴女ほどの人がどうしてここまで酷い怪我を!?」
「ひょっとして複数を同時に相手してたんですか!?」

カネミツは手脚どころか全身から流血をしていた。
医療班により止血を施されていたが、それでも巻かれた包帯に血が痛々しく滲んでいる。

「複数?……いや、1人にやられたんですよ……あはは、本当に自信無くしちゃいますよね。」
「「1人!?」」
「番長のリンって人に1対1で負けました……あの強さは人間じゃないです。」

225 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/12(土) 03:08:53
イシグリと帝国剣士・番長・銃士らが戦っている裏で、
ハシサコとカネミツは一騎打ちをしていたのである。
戦いのペースは終始ハシサコが握っていた。
スピードが速いだけでなく、相手をおちょくるような動きで攪乱し、
カネミツの強みや見せ場をことごとく潰すような戦い方をしていたのだ。
場をSHAKA SHAKAとかき乱しながら要所要所で斬りつけることにより、
時刻で言うと、ユメ・オクトピックがイシグリに倒される少し前のあたりには、
ハシサコはカネミツを倒したというわけだ。

「私たちは強い。それは間違いない。
 それでも、上には上がいるということを思い知らされたわね……」

キララの言葉に、ユニットらは暗くなってしまった。
優勝することで名を挙げて、活動規模を増やすという計画がパーになったどころか、
強国の戦士たちの実力が想像以上だったことを痛感したので、無理もないだろう。
だが、この時の彼女らは気づいていなかったのだ。
今回の合同演習プログラムでのユニットの活躍を見て、
自分たちも共に戦いたいと心から思った戦士が決して少なくないことを。

226 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/12(土) 03:10:39
話はまだもう少しだけ続きますが、戦闘自体は終わりです。
なので合同演習プログラムの撃破数ランキングを書きますね。
実際には他の参加者もいて、クボタやワカナは数名倒したりしていますが名前有りキャラだけでカウントします。

・5勝
 イシグリ(ケロンヌ、リアイ、ワカナ、ユメ、メイチャンに勝利)

・2勝
 ハシサコ(イシグリ、カネミツに勝利)

・1勝
 メイチャン(マドカに勝利)
 ホマタン(キララに勝利)
 キララ(ホマタンに勝利)
 ワカナ(クボタに勝利)
 シオンヌ(リオに勝利)

・0勝
 ケロンヌ、マドカ、クボタ、リアイ、リオ、ユメ、カネミツ


あれ、リアイやリオって0勝だったんですね……
自分で書いてて把握してませんでした。

227 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/13(日) 00:52:43
合同演習プログラムの閉会式は翌日に執り行われた。
ハシサコとシオンヌを除いた全員が前日に倒れているわけなので、
肉体的あるいは精神的に辛い場合は無理せず欠席しても良いとされているが、
参加者の大多数は休まずに出席していた。
式にはサポート班として働いていた現役の帝国剣士、番長、銃士らも参加するので、
人気ある彼女らを目当てに、疲労した身体にムチ打ってやってくる戦士も少なくなかったらしい。
そんな中、新人銃士チームの2人は非常に暗い顔をしていた。

「ユメ……何人倒した?」
「0人……リアイは?」
「……0人や」

優勝候補の本命だったユメとリアイは不甲斐ない結果にひどく落ち込んでいた。
戦いの内容自体は決して恥ずかしがるようなものでは無かったのだが、
撃破数0人という数字をかなり気にしているようだ。

「2人とも前より仲良しさんになったんじゃない?」
「「ひっ!?」」

2人の教育・指導を担当している先輩銃士が突然声を掛けてきたものだから、ユメもリアイも飛び上がった。
これからキツい叱責を受けると思うと震えあがってくる。

「あの、罰は全部わたしが受けます!リアイはイシグリちゃん相手に健闘したから見逃してください!」
「いやいや!ユメは骨がグチャグチャになるくらい頑張ったんです!お仕置きなら私が!」
「私のイメージどうなっちゃってるのよ……」

先輩は怯える2人を一旦落ち着かせて、今回の演習の評価を伝え始めた。
ユメとリアイの戦績はサポート班の知り合いから聞いていたらしい。

「えっと、序盤は最悪ね。2人で足を引っ張り合った結果ホマタンちゃんを逃がしちゃった、と。
 あの子も帝国剣士なんだからそりゃ強いんだろうけど、2人で協力すれば難なく倒せる相手よね?」
「はい……」
「反省してます……」
「その代わり、仲直りしてからの展開は悪くなかったわ。」
「「!」」
「強敵揃いの現場だったけど、コミュニケーションを取り合ってお互いの役割を決めたらしいね。
 結果的に負けはしたけども最後まで勝ちを諦めてなかったってアーリーさんもルルちゃんも褒めてたよ。
 立派になったね、2人とも」

嬉しさが極まったのか、ユメもリアイも泣き出してしまった。
周囲から強者として一目置かれてはいるが、ティーンの女子であることには変わりないのだ。
そんな銃士たちの光景を、ユニットのキララ、イシグリ、クボタ、マドカが遠くから見ていた。
クボタがイシグリに話しかける。

「挨拶しなくてもいいんですか?あの人は確かイシグリさんの師匠じゃ……」

親切心からなる言葉ではあったが、イシグリは首を横に振った。

「まだその時期じゃないよ。私は未熟。昨日はそれを痛感したんだ。
 いつか胸を張れるようになった日に、しっかりと挨拶できたらいいな。」
「そうですか!その日はきっとすぐ来ますよ!」
「だと良いね。……そういえばさっきから気になってるんだけど。」
「はい?」
「カネミツはどこにいるんだろう。クボタ知ってる?」
「重傷のようだからホテルで休んでるんですかね?キララさんやマドカちゃんは知ってます?」
「「……」」

昨日カネミツと会話していたキララとマドカは、この件については何も語らなかった。

228 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/14(月) 02:17:39

「えっ!パンダさん禁止ですか!?」
「あっ、そんな悲しい顔しないで、1か月よ?1か月だけパンダさんを控えてくれればそれでいいの。」

包帯でグルグル巻きになったメイチャンと会話しているのは帝国剣士団長のアユミンだった。
肉体を酷使しすぎて重傷になったメイチャンにパンダさんパワーの禁止を命じたのだが、
とても辛そうな顔をするので、アユミンは扱いに困ってしまう。
その様子を見ていたリオが呆れた風に言葉をかけた。

「アユミンさん甘すぎですよ。半年くらいパンダ禁止にしてもバチは当たらないんじゃないですか?」
「パンダさん!」
「キタガワ!メイチャンが怒ってるでしょ!パンダさんにはさんを付けて!」
「私には厳しすぎません!?」

そう言うリオだって、昨日は出血多量でなかなかに危険な状況だった。
同期のホマタンも大火傷を負ったため、3人そろって大怪我で敗退したことになる。
善戦はしたものの優勝を逃したので、リオもホマタンもメイチャンも暗くなってしまった。
それを見て焦ったアユミンが近くにいたオダに助けを求める。

「お、おいオダ!昔、合同演習プログラムに参加したことあったんでしょ!
 私は未経験だからさ、だからオダが良い感じに励ましてやってよ!」
「私……ですか?そうですねぇ……私も当時は納得いく結果を残せなかったんですよね……」
「ん?その始まりで励ましに繋げられる?」
「そんな私でも今は帝国剣士随一の天才剣士。それは3人も知っての通りでしょ?だから演習の結果で一喜一憂する必要はないのよ?」
「「「はい!」」」
「う〜ん、なんかムカつくんだよな。」

229 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/15(火) 01:11:35

時間が経過し、閉会式が始まった。
一番の目玉はやはり優勝チームの紹介だろう。
特設されたステージの袖では、ケロンヌ、シオンヌ、ワカナの3人が緊張で固くなっていた。
彼女たちは番長になったばかりなので、大勢の前で話す経験がほとんど無かったのだ。

「ど、どうしよう手が震えてきちゃった……」
「国内でもこんな機会は無かったのに……」
「スピーチ何を話せばいいんだろう……」

そんな中、一期先輩のリン・ハシサコ・ランチマインドは落ち着いていた。
用意された椅子に座りながらどっしりと構えている。

「まったくしょうがないなぁ〜ここは先輩の私がスピーチを引き受けてあげる。」
「「「えっ!?」」」
「ていうか緊張しすぎだよ。ウケる。番長は優勝したんだから堂々としてればいーの。」

態度こそふてぶてしいが、やっぱり頼りになる先輩だなとシオンヌは思った。
ここはお言葉に甘えて先輩に全部任せることにして、4人はステージへと上がっていった。

「あれ!?タケさんがいる!」

アンジュ王国の二代目表番長であるタケが立っていたから、番長らは驚いた。
タケの手には立派な賞状が握られている。
実はこの賞状、「煌舞」という雅号を持つ書道の達人・タケによる直筆なのだ。

「いや〜まさかウチの子たちに賞状を渡すことになるとはな〜
 本当におめでと!リンちゃん!ケロンヌ!シオンヌ!ワカナちゃん!頑張ったね!」

ケロンヌもシオンヌもワカナも感極まって涙を流してしまった。
これではスピーチなんて出来やしないが、先輩ハシサコにお任せしたのだから安心だ。

(ハシサコさん頼りにしてますよ!渾身のスピーチをバシッと決めてください!)

シオンヌは心の中でそう思ったが、すぐにあることを思い出した。
このままではまずいと、血の気が一気に引いてしまう。

「よーしリンちゃん!参加者の皆に優勝スピーチを聞かせてやってくれよ!」
「ハ、ハイ……アノ、エット……」
「おいおい、リンちゃんは相変わらず無口だな」

リン・ハシサコ・ランチマインドは極度の内弁慶だったのだ。
特に、尊敬するタケと話すときは人が変わったかのように静かになってしまう。
「本当に、肝心な時に頼りにならない人だな」と、シオンヌは頭を抱える。



リハビリOMAKE更新「STEP BY STEP」 おわり

230 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/15(火) 01:12:45
これでOMAKE更新はお終いです。
近日中に本編の更新を再開しますね。

231名無し募集中。。。:2021/06/15(火) 08:33:40
乙です
てゆーかもうこの新世代からの話でリブートしても良いと思う
もう本編が現実に追いつくのムリでしょ
ほとんどのメンバー卒業しちゃったし

232名無し募集中。。。:2021/06/15(火) 12:51:14
面白かった
本編も待ってる

233 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/16(水) 00:43:35
コメントありがとうございます!

リブート案は発想になかったです!
ただ、新世代の話はまったく思いついてないので、やっぱり元々想定していた話を書こうと思います。
思いつきさえすればいつかまた続きを書くかもしれませんね。

234 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/16(水) 03:06:18

今夜はリハビリOMAKE更新のキャラクター紹介を書きます。

■モーニング帝国剣士
チームでフォーメーション組んで戦うシーンを多めにすることを意識しました。

【名前】リオ・キタガワ・サンツケン
【名前の由来】決してパンダさんと呼ばない=さんを付けない。
【コメント】早々に水使いに決まりましたが水の使い方のバリエーションが少ないのが悔やまれます。

【名前】ホマタン・ウィナー
【名前の由来】ほまたん優勝
【コメント】主人公の予定でした。お肉好きから着想した肉食獣化はちょっと地味でしたね……

【名前】メイチャン・リコテキー
【名前の由来】youtubeの白黒パンダゲーム動画で小田が「利己的な企画だね」と発言
【コメント】「メイ」ではなく「メイチャン」なのは番長のメイとの名前被りを避けるためでした。

■番長
シオンヌの思い通りに動いてくれない人たちの集まりです。

【名前】リン・ハシサコ・ランチマインド
【名前の由来】為永のブログで「食べ終わった後のお弁当はその人の心の中を読める」と発言
【コメント】リン(ハシサコ)とリン(ケロンヌ)の名前被りを最初は回避しようとしましたが、諦めて同名にしちゃいました。

【名前】リン・ケロンヌ・ラブオデン
【名前の由来】BLTのインタビューで「おでんが大好きです」と発言
【コメント】実は戦闘スタイルを全く考えてません。今後の活躍を見て考えようと思います。

【名前】シオンヌ・タメ・ハサミサン
【名前の由来】橋迫・川名のブログで、ハサミさんにお願いすれば無くし物が見つかると発言。
【コメント】実質的な主人公。連戦続きのスーパー苦労人だけど扱いは良かったですね。

【名前】ワカナ・シタクマッハ
【名前の由来】川名・為永に帰り支度が早いとブログに書かれたエピソード。
【コメント】攻撃力100、防御力0という極端な能力設定にしました。歩く兵器みたいなイメージ。

■銃士
KASTはカリン・アーリー・サユキ・トモの略ですが、新人が増えてもこの名前なのはおかしいので銃士に変えました。

【名前】ユメ・オクトピック
【名前の由来】Juiceのライブタイトル+オクトパス
【コメント】身体が軟らかく骨が折れても戦い続けるタコ少女。最初の方で出たサイコパス感をもっと出したかったです。

【名前】リアイ・ザワラギリ・バーミー
【名前の由来】かなざわらさん、たかぎりさん、ゆめんばーみー
【コメント】戦闘よりも会話パートを書くのが楽しかったです。メイチャンとのパンダさんトークは金スマの中居さんをイメージしてます。

■ユニット
ユニットのフルネームは決めてません。今の時点で決めると後々後悔しそうだったので。その代わり1人1人とイメージ楽曲を設定しました。

【名前】キララ
【イメージ楽曲】43度
【コメント】自称43度は自称176cmみたいなもんです。ぶっちゃけ熱を帯びないほうが強いですね。

【名前】イシグリ
【イメージ楽曲】リアル☆リトル☆ガール
【コメント】今作の化け物枠。「北出身は3人いる」と「ユニットが参戦している」の2つの情報をどのように出せばインパクトを与えられるかずっと考えてました。

【名前】クボタ
【イメージ楽曲】情熱スパークル
【コメント】実力はシオンヌとほぼ互角。作中に出てきた「少女たちの決断」は為永や窪田が出演したabemaのオーディション番組です。

【名前】マドカ
【イメージ楽曲】悪いヒト
【コメント】ついつい性格を悪くしちゃいました。ごめんなさい。でも書いててとても楽しかったです。(リオとの水トークが特に好き)

【名前】カネミツ
【イメージ楽曲】なし
【コメント】後付けではなく最初からユニットは5人出そうと考えていました。作中でも人数については気を付けて書いています。

235 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/16(水) 03:09:48
その他の出演キャラクター(抜けてたら指摘ください。)

■モーニング帝国剣士
・エリポン。ホマタンが大好き。キララも好み。
・アユミン。オダには厳しいけどホマタンとメイチャンにはめちゃくちゃ甘い。
・オダ。過去はアヤノ、タグ、レナコという名の戦士とチームを組んで合同演習プログラムに参加し、悔しい思いをしたらしい。
・カエディーと呼ばれたサポート班。実家は温泉宿をやってるそうです。
・リオを応援するサポート班。元カントリーでしたが今は帝国剣士をやってるそうです。水鉄砲はもともとこの人の技。

■番長
・タケ。最近の書道ネタ(煌舞)を使わせてもらいました。
・シオンヌを応援するサポート班。元カントリーでしたが今は番長をやってるそうです。引退を考えているとのこと。
・定時連絡をする放送担当。高知弁に似た方言を使います。
・ハーチャン・キュリー。名前の由来はきゅうりです。
・レラピ・ツクシ・ヤーテンナー。名前の由来はYoutubeのナイトルーティン動画です。「つくし水」と「やってんな」

■銃士
・ユカニャ。リケ女で医療班の代表。死者0人で済んだのは大体この人のおかげ。
・トモ。昔よりかなり穏やかになったようです。
・リアイに尊敬されている異常聴覚を持つ先輩。まぁ、サユキです。
・アーリー。昔よりかなり落ち着いたようです。
・ユメを心配したサポート班。広島弁に似た方言を使います。
・ユメとリアイの教育担当のスパルタな先輩。後輩指導は大変だけど今日もがんばりまなかん。
・元ファクトリーと言われた後輩。ボイパとか得意そうですね。

改めて見ると銃士めっちゃ出てるな……
ちなみにつばきやBEYOOOOONSにあたるキャラは意図的に出しませんでした。

236 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/18(金) 02:13:41
本編は明日から再開予定です。
クマイチャンvs番長戦の続きですね。
おさらいをしたい方は以下を見てください。
https://masastory.web.fc2.com/s04.html

237 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/19(土) 02:38:40

カナナンはリカコの背中をトントンと叩いた。
これがサトタを追うための合図。
対象をコマ送りのように捉える"眼"の情報を伝えるには、言葉では間に合わない。
そのためにカナナンはリカコの背中を叩くことで次に動くべき方向を指示しているのだ。

(わ、分かりました!(><))

カナナンに示された先には何も居ないようにリカコには見えていた。
そこに向かって飛び込むのは恐ろしいが、信じないという選択肢は無い。
リカコは、滑る地面と転がるソロバンの合わせ技で高速移動を実現し、
何も見えぬ宙を目掛けて突進していく。

「うりゃあああああああああ!(;`皿´)」

リカコが勇気を出して突っ込んだおかげで、カナナンの計算が正解を導き出すことに成功した。
コマ送りの眼によって、サトタの行動パターンは十分に把握出来ている。
そして、次にどう動くかまでも予測していたのだ。
サトタの移動先にリカコを突進させることで両者を激しく衝突させることが狙いだったのである。
だが、サトタはおバカと呼ばれてはいたが馬鹿ではなかった。
リカコとぶつかりそうになることにいち早く気づき、咄嗟に方向転換をしようとする。

(伝説の名馬なんやから動体視力も規格外に決まっとるわな。
 せやけど、もう間に合わんで!!)

サトタが避けようとしたその時、リカコが大袈裟にすっ転びだした。
石鹸水で非常にすべりやすくした地面の上で、ソロバンを足に乗せて移動をしていたため、
不安定すぎるあまり派手にバランスを崩してしまったのである。
そして、リカコが転倒することまでも含めてカナナンの計算通りだった。
サトタの横っ腹にリカコが頭から飛び込んでくる。

(!!!!)

まさに人間砲台。
これをまともに受けたサトタはその場でぶっ倒れてしまう。
脇腹がひどく痛む。おそらくは骨が折れたのかもしれない。
それでもサトタは立ち上がった。
このまま寝てたら狙い撃ちされるという理由もあるが、名馬としての誇りが彼女をそうさせたのだ。
もう決してヘマはしない。今度こそカナナンとリカコの2人をはね飛ばしてやる。
……そう思っていたのだが、地面に這いつくばるリカコはともかく、肝心の頭脳であるカナナンがどこにも見当たらなかった。
右を向いても、左を向いても、カナナンは影も形もいやしない。

「身体がズッシリ重くなったやろ?それ、疲労のせいやないで。」
(!?)

カナナンの居場所、それはサトタの背中だった。
リカコがすっ転んだ際に上空へと放り投げられて、そのままサトタの背に着地したのである。
サトタはゾッとした。いったいカナナンは何手先まで見えていると言うのだろうか。
こうなったら思いっきり振り回してから落馬させてやろうと思ったが、カナナンのとった捨て身の行動の方が速かった。

「カナを落とすんか?ええで。その代わり、一緒に堕ちてもらうけどな!!」

カナナンはサトタの首に精一杯しがみついていた。
そんなカナナンを無理矢理にでも降り落とそうとしたものだから、逆にサトタの首の骨が折れてしまう。
急激なショックを受けたサトタは立っていられなくなり、カナナンもろとも硬い地面に頭をぶつけることとなる。

「カ、カナナンさーーーーーーん!!(*○*)」

238 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/20(日) 02:02:39

カナナン&リカコがサトタと戦っていたのと同時刻、
タケ、リナプー、マホの3人は手負いの獣と化したクマイチャンと対峙していた。
これまでの番長らの攻撃のおかげで、クマイチャンの右脚はひどく損傷しているし、
左手にいたっては腱が切れているためまるで使い物にならない。
それでも、クマイチャンから発せられる重力のようなオーラは建材だ。

「くっ……リナプー、マホ、行けるか?」
「私の恰好を見てよ、行けると思う?」

リナプーの身体はもうボロボロだった。
不完全ながらもクマイチャンの必殺技「ロングライトニングポール」を受けたうえに、
地面へと強く叩きつけられたために全身の骨がボロボロになっているのだ。
おかげで起立することもままならず、地べたに転がっている。
そんな状況でも冷笑を浮かべるリナプーを見て、タケはニコッと笑う。

「うん、行けそうだな。安心したよ。」
「人使い荒いなぁ……」

2人の会話にもう一人の番長、マホ・タタンが割って入ってきた。

「あの、私、試してみたいことがあります。」
「試したいこと?いいじゃん、やってみなよ!」

この状況でクマイチャンをしっかりと見つめるマホを見て、何かやってくれるとタケは確信した。
作戦会議をしている暇は無い。ここはマホを信じて送り出すべきだ。
しかしスナイパーであるマホは接近されると弱い。
右脚が壊れたとは言えクマイチャンの一歩はとても大きい。すぐに詰められてしまうことだろう。
ということは、ここがリナプー・コワオールドの働きどころなのだ。

「1撃だけなら止めてやるよ、マホ!思いっきりやりな!」
「はい!!」

番長らが会話をしている間にもクマイチャンは迫っていた。
メイに折られて長刀の長さが半分になったが、それでも剣は剣。
そんな半長刀を右手で掴み、マホが構えるよりも先に叩っ斬る。

「させないよっ!」
「学習しないなぁ……その"させないよ"を"させないよ"っての。」

リナプーの言葉通り、クマイチャンの斬撃の軌道は無理矢理に捻じ曲げられてしまった。
マホを斬るはずが、思惑に反してリナプー目掛けて半長刀を振り下ろしている。
これはリナプーのとっておきのオシャレである血化粧がクマイチャンの脳に直接作用し、攻撃を引き付けるというもの。

(またこれか!だったらもういい!リナプーの首を斬り落とす!!)

クマイチャンは剣を握る力を緩めなかった。マホは一旦諦めて、リナプーを倒すことで敵の駒数を減らそうとしているのだ。
少しも動けぬリナプーはこれでお陀仏。
そのはずなのだが、斬撃はリナプーに当たらなかった。
姿を見え難くした愛犬ププとクランがリナプーに噛みつき、主人を素早く引き摺ることで回避したのである。
だが、クマイチャンはそれでも狼狽えたりはしなかった。

「だったら!こうしてやるっ!!!!」

第一候補のマホも、第二候補のリナプーも斬れなかったクマイチャンは、第三候補「地面」に半長刀を強く叩きつけた。
これは『ロングライトニングポール"派生・枝(ブランチ)"』
地面に亀裂を生じさせ、枝分かれするかのように地がどんどん裂けていく。
こうして起きた衝撃を至近距離で受けたため、リナプー・ププ・クランの3者は一瞬にして意識を断たれてしまう。
結果的にクマイチャンは番長の頭数の削減に成功したことになる。
ただ、この被害はまだマシな方だった。
もしもクマイチャンが両手で剣を握っていたのであれば、破壊力が凄まじすぎるあまり、本物の地割れが起きていたところだったのだから。

239名無し募集中。。。:2021/06/20(日) 14:07:00
めいちゃんが先輩になったらパンダさん先輩になるのか(笑)

ゴリラモード強そう

240 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/21(月) 01:57:44
呪術廻戦ですね。
先輩になるのはまだまだ先になりそうですがw

241 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/21(月) 03:08:00
リナプーを倒すことにより、クマイチャンは右腕一本だけでも強いことが明らかになった。
得物が折れた半長刀だろうが関係ない。番長を一人残らず潰すつもりだろう。
そんな時、銃声が聞こえると共にクマイチャンの右肩が爆ぜだした。

「!?」

この場で銃を扱うのはマホ・タタンのみ。
リナプーが1手分の時間を稼いだおかげで、狙い通りに狙撃をすることが出来たのだ。
その狙いとは、クマイチャンの肩に埋め込まれた銃弾に新たな銃弾をヒットさせるというもの。
これまでの戦いでマホは計2発もの弾丸をクマイチャンの右肩にブチ込んでいたのだ。
そこに対して0ズレの銃撃を喰らわせたのだから、弾と弾同士が炸裂し、クマイチャンの肩は内部から爆破される。
その時の苦痛はクマイチャンであろうとも耐え難いものであったし、
腕と身体を繋げる神経までも大きく損傷してしまっていた。

「ぐっ……くそっ……剣が……」

刀が地面に落ちる音が無慈悲に響く。
クマイチャンにはもう愛刀を握る力さえも残っていなかった。
左腕をリナプーに、右腕をマホに破壊された結果、どちらの腕にも力を入れることが出来なくなってしまったのだ。
だが、それでもクマイチャンは戦いを止めたりしない。
発射後で無防備になったマホに対して巨体からなる体当たりを繰り出していく。

「よくもっ!お返しは高くつくよっ!!!」

この時クマイチャンが発した最大出力の殺気は非常に純度が高く、加減一切なしの殺意のみで構成されていた。
マホは巨人に押し潰されて圧死するビジョンを先行で見せつけられて、
まだ衝突してもいないのに一瞬で気を失ってしまう。
ベリーズ討伐ツアーに不参加だったマホには、殺人オーラから身を護る精神力は完全には出来上がっていなかったのだろう。
このまま本当に物理的にも押し潰されてしまうかもしれないといったところで、クマイチャンの顔面に強烈な蹴りが入った。
タケ・ガキダナーの飛び蹴りが決まったのだ。

「マホ!大丈夫か!!」

クマイチャンが後ろにのけ反ったため、衝突だけはなんとか食い止めた。
気絶こそしたが、マホ・タタンの身体に及ぶ危険を排除することが出来たのだ。
しかし、リナプーもマホも倒れた今、タケはクマイチャンを1人で相手することになるワケだが……

「タケさん!!助太刀します!!(TT)」
「リカコ!」

訂正する。タケは1人ではない。
タケとリカコの2人で力を合わせてクマイチャンにトドメを刺すことが最重要ミッションだ。

242 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/22(火) 03:37:18

「サトタを倒したのか……凄いじゃん!」

リカコの周りでサトタとカナナンが倒れているのをタケは目撃した。
同期のメイとリナプーに続いてカナナンまでやられたのは悔しいが、
ムロタン、マホを含め全員が活躍してくれたからこそ今の状況がある。
今のクマイチャンは両腕が使えず、脚も大きく負傷している。サトタが味方につくこともない。
まさに千載一遇のチャンスと言えるだろう。

「"勝てる"……とか思ってないよね!?」

クマイチャンはタケとリカコを威嚇するかのように大きく立ち上がった。
176cmとは全く思えない程に巨大な176cm。それを見たリカコの身体はブルブルと震えだしている。
これまでは番長全員で起き上がらせないことを徹底していたが、高さの優位を取り戻されてしまった。
ここからは位置エネルギーを最大限に活かした高層からの攻撃が次々と降り注がれることだろう。

「リカコ、何も怖がることは無いよ」
「えっ?(゚_゚)?」
「"高い壁ならたったか登れちゃガッカリじゃないか"
 "手の届かないハードルだなんて存在しないさ"
 つまりさ、私たちは一番強いクマイチャンを倒すチャンスを手に入れたんだ!
 ワクワクするだろ?むしろ頭上を超えてやろうぜ!」
「はい!(><)」

この状況でも威勢のよさを見せる番長2人を前に、逆クマイチャンの方が押されていた。
これは良くない。しっかりと分からせてやる必要がある。
タケとリカコの2人を睨みつけながら、クマイチャンはこう言い放った。

「ロングライトニングポール、"派生・シューティングスター"!!」
「「!」」

後輩を黙らせるには自らが流星と化して、偉大なまでの破壊力を見せつけるべきと考えたのだ。
クマイチャンはまだかろうじて動く左足を高くあげて、ドスンと地面を踏んづけた。
そうして生じたパワーの全てを推進力へと変換し、上空へと高く高く飛翔する。
そして武道館のてっぺんと同じ高さまで辿り着いたかと思えば、頭を下に向けて一気に落下していった。
今のクマイチャンは武器を持たないが、これだけの勢いがあれば身体1つで殺傷能力は十分だ。
さぁ、タケとリカコのどちらに向かって落ちてやろうか。

(あれ?タケだけ?……リカコがいない!)

地上にタケ・ガキダナーしかいないことをおかしく思った。
ではリカコ・シッツレイはいったいどこに行ったというのか?
走って遠くまで逃げたか?それとも地面に潜ったか?
その答えはすぐに分かることになる。

「タケさん!私はっ!今!クマイチャンの頭上を超えます!!(`〇´) 」
「!?」

リカコはなんとクマイチャンの背中にしがみついていた。
カナナンがサトタに乗ったのを参考に、自分もやってみせたのである。
いつもは泣き虫のリカコだが、今は自分がクマイチャンを倒すとばかりに勇敢に努めている。
"涙は蝶に変わる"
この戦いがリカコ・シッツレイを強くし、羽ばたく蝶のように飛躍させたのだ。

243 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/23(水) 03:34:40

クマイチャンはこれまでの人生で相手を見上げたことは殆どなかった。
それが今はどうか
リカコが自分の身体をよじ登り、更なる高みに立とうとしている。
そして空中という不安定な状況にも係わらず、クマイチャンの脳天にかかと落としを喰らわせる。

「ドンデンガエシだああああああ!!(*○*)」

壮大などんでん返し
圧巻のどんでん返し
運命の大逆転劇だ
リカコの蹴り自体は大したダメージを与えることは出来ない。
だが、今は自称176cmをゆうに超える上空にある。
このまま地面へと落ちればどんな巨人であろうとも参ってしまうことだろう。

(いやいや!耐えてみせる!)

クマイチャンは高所からの着地はお手の物。
リカコのかかと落としで空中でのバランスが乱れたが、歯を食いしばれば堪えることが出来る。
無事に地面に降り立った後にリカコを地面に叩きつければ良いだけだ。
しかし、もう一人の番長がそうさせてくれなかった。

「リカコよくやった!下は任せろ!!」

高速で落ちてくるクマイチャン目掛けて、タケ・ガキダナーが跳躍してきた。
そして手に握る鉄球をクマイチャンの腹に思いっきり当てたのだ。
野球で言うところのタッチアウトだが、
遥か上空から落ちてきたところに鉄球を当たられたのだから、その衝撃は並大抵ではなかった。
リカコによる下方向への力と、タケによる上方向への力がクマイチャンに体内でぶつかり合い、
内臓を著しく損傷してしまう。

「う、うわああああああああああああああああああ!!」

極度の痛みで空を制する余裕が無くなったクマイチャンはそのまま地面に衝突した。
高さを活かして常に優位を保ってきた巨人戦士が、
今回ばかりは逆に高さを利用されてしまったというワケだ。
「もう、勝てない」と感じたクマイチャンはそのまま目を瞑り、意識を失っていく。

「勝った?……勝った!?タケさん!私たち、勝ったんですか!?(TT)」
「ああ!番長の勝利だ!みんなが強いからクマイチャンに勝てたんだよ!」

リカコは地面に到達する寸前に粘着性のある大きなシャボン玉を膨らまし、
落下の衝撃から自分とタケを守っていた。
つまりは番長たちの完全勝利だ。
同格のキュートを欠いてベリーズを倒すのは、近年では考えられない程の偉業。
後にアンジュ王国の番長たちはその成果を大きく称えられることになるのだが、
タケとリカコは既に次を見ていた。

「リカコ、武道館に入ろう!」
「はい!(`〇´)」

連合軍の使命はマーサー王とサユの救出だ。
門番クマイチャンを倒した今、道を阻む者は存在しない。
倒れた仲間に最低限の応急処置のみを施し、全ての戦士が憧れる武道館へと走り出す。

244 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/24(木) 01:40:28
今日からはVSミヤビの続きを書きます。
おさらいをしたい方は以下を見てください。
https://masastory.web.fc2.com/s03.html

245 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/24(木) 01:41:17

ミヤビにやられてしまったが、ハルはオダとトモに大切なことを教えてくれた。
それは、自分たちの必殺技がベリーズに有効であるということ。
敵は化け物ではあるが、決して届かない程ではないのだ。

「トモ、私が行くわ。サポートをお願い。」
「サポート?そんなのしないよ。」
「えっ」
「だって、サポートはオカール様にしていただけるんでしょ!」

トモは恐怖を振り切ってミヤビに飛び掛かった。
弓使いの遠距離ファイターにも係わらず、近接の殴り合いもこなせるのがトモの強みだ。
アイリから一時的に譲り受けた眼を使うまでもなく、
ハルの必殺技によってえぐられた右脇腹が弱点であるのは明白だ。
そこを目掛けてボウを思いっきり叩きつけようとする。

「狙いは良いが隙だらけだよ!必殺!"猟奇的殺人"……」
「させるかっ!」
「!!」

ミヤビがトモを斬り捨てようとしたその時、オカールが右腕に噛みついてきた。
これでは鋭い斬撃を繰り出すことは敵わないため、トモを諦めてオカールを蹴り飛ばす。
どうやら後輩をサポートするというのは本気のようだ。

「有難う御座います!」
「礼はいらねぇっつってんだろ!」
「本当にどんな状況でもサポートしてくれるんですね。ということはもっと危険なやり方もいけるな……」
「お、おい、トモ、お前なんか嫌な後輩だな」

今の一連の光景を見て、オダ・プロジドリは視界が晴れたような思いになった。
彼女が頭に思い浮かべていた必殺技はノンストレスの状況でしか繰り出すことが出来ない。
そのため、恐ろしいミヤビの前ではなかなか見せることが出来なかったのだが、
オカールが全ての攻撃から護ってくれるのであれば、話は別だ。

「オカール様、改めて、私が行きます。サポートをお願いします。」
「ったく、俺をアゴで使うんだから勝算はあるんだろうな!?」
「はい。私、天才なので。」
「……なんか嫌な後輩ばっかりだな。」

オダはこの状況でもにこやかな顔をし、スタスタとミヤビの方へと歩いて行った。
そして愛用するブロードソード「レフ」でミヤビに斬りつける。
その斬撃は太刀筋が美しく、且つ、殺気もしっかりと乗っていた。
だが、ミヤビを倒すにはあまりにもお利巧すぎる。
こんなのは必殺技とは言わない。ただの単発の斬撃だ。

(なんだ?……これくらい簡単に受け止められるが……
 いや、ここは反撃させてもらおう。オカールのサポートがいつまで続くかな!?)

ミヤビは脇差を振るって、オダの数倍も鋭い斬撃を放った。
これはオダを攻撃しているのではない。オダを護るオカールにダメージを与えるための一撃だ。
案の定、オカールは刃の軌道上に立ちふさがった。
ミヤビは少しも腕の力を緩めず、オカールの胸を切り裂いてく。

246 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/25(金) 02:24:03

「ド……"弩級のゴーサイン"」

自分をかばったオカールが傷ついたというのに、
マイペースによく分からない言葉を発するオダを見て、ミヤビもオカールもキョトンとしてしまった。
「守られて当然。私は好きなように斬りますよ」とでも言いたげだ。
そしてオダは更に奇妙な言葉を発しながら二撃目を繰り出していく。

「レ……"レモン色とミルクティ"」

その攻撃も、初撃同様に行儀の良すぎる太刀筋だった。
時々口ずさむ言葉は意味不明だが、斬撃自体はミヤビにとっては取るに足らないもの。

(剣で弾いてやってもいいけど……ここはまた利用させてもらおう。)

ミヤビは先ほどと同様にオダの攻撃を避けてから反撃を返そうとした。
後は勝手にオカールがかばってくれるので、ミヤビはノーリスクで強敵オカールを斬れると踏んだのだ。
しかし、そう思ってたところでオダの剣が急加速を始める。
ミヤビは二撃目を避けきれずに腰を斬られてしまった。

「!?」
「ミ……"みかん"、ファ……"Fantasyが始まる"」

オダが三撃目と四撃目を連続で放ってきたので、ミヤビは脇差で受け太刀をした。
ここでミヤビはやっと気づく。オダの刃は段々と強く、そして速くなっているのだ。
それはまるでミヤビが前に放った『猟奇的殺人鋸(キラーソー)、"派生・堕祖(だそ)"』のよう。
音楽記号の「だんだん強く」を意味する「CRES.(クレッシェンド)」のように、打てば打つほど強まる技だったが、
今のオダの必殺技はそれに近い考えで成り立っているのだ。
どこかの怪盗のように、オダはミヤビの技を盗んだのである。

(まずい!このまま強化され続けると……)
「ソ……"SONGS"、ラ……"Loveイノベーション"」

五撃目と六撃目ははじめとは比較にならないくらい鋭かった。
ノリにノった彼女の斬撃は一時的にベリーズやキュートと同等のキレを見せている。
現在のオダ・プロジドリの頭の中には、戦闘中だというのに自作の曲が高速でグルグルと流れていた。
そして曲が切り替わるたびに、音階が上がるように身体のギアも1段階ずつ上げていっていたのだ。
最後の7段階目ともなれば、瞬間的に、食卓の騎士をも超える水準に到達する。

「シ……"自由な国だから"!」

オダの七撃目は脇差をも真っ二つに折り、ミヤビの腹を深く傷つけた。
これがオダ・プロジドリの必殺技「さくらのしらべ」
彼女のソロコンサートは敵をも跪かせる。

247名無し募集中。。。:2021/06/25(金) 12:31:54
>>229
久しぶりに来てみたらOMAKE更新が…自分のリクエスト答えて貰ってありがとうございます!そして相変わらずネーミングセンスと技の曲の選択安心しますw
ここ最近ハロ追えてなかったんでアンジュ新メンと新ユニットを知れて良かった
てか、ツッコミどころ多すぎて全部かけねーw

248 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/26(土) 01:07:28
おお、リクエストしてくださった方なんですね。
アンジュルムも研修生ユニットも期待できるので追い続けることをおススメしますよ。
Juiceとつばきの新メンバーもきっと期待できます。

249 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/26(土) 03:21:39

ハルの純潔歌劇で脇腹を負傷したところに
オダの「さくらのしらべ」で腹を斬られたのだからミヤビのダメージが小さいワケがなかった。
同じベリーズとは言え、クマイチャンほどのタフネスは持ち合わせていない。
そのため少しでも気を緩めれば倒れてしまいそうだ。

(まだだ!まだここでやられる訳にはいかない!)

オダを調子付かせてはまずいと判断したミヤビは、必殺の剣で一気に仕留めることにした。
キッとオダを睨んで最大限の殺気を剣へと込めていく。

「"猟奇的殺人"……」
「させねぇーっての!!」

ミヤビとオダの間にオカールが割り込んできた。
なんとかしてでもミヤビの必殺技を止めて、オダを護ろうとしているのだろう。
だが、そう来ることはミヤビの想定内。
ミヤビは剣を振るう前に勢いよく前進し、オカールを突き飛ばす。

「なっ!?」

シバ公園の戦いで足腰を負傷したオカールは突然の衝突に踏んばることが出来ない。
簡単に転ばされてミヤビに道を譲ることになるのだ。
そしてオダと対面したところで、ミヤビは心置きなく抜刀をした。
ミヤビの必殺剣を遮るも者はいやしない。

「”猟奇的殺人鋸(キラーソー)”!!」
「っ!!」

ハル・チェ・ドゥーを倒した時と同様に、派生無しの必殺技をミヤビは繰り出した。
シンプルだが相手を倒すにはこれがベスト。
オダは胸から血を吹き出しながら地に倒れてしまう。

「さて……トモ・フェアリークォーツ、仲間のピンチだというのに手出しをしなかった理由は?」

オダを斬り捨てるなり、ミヤビは少し離れた場所にいるトモに声をかけた。
射程持ちのトモならいくらでも矢を射るチャンスはあったはず。
だというのにトモは、オダがやられるまで黙って見ていたのだ。

「ははっ、どうせ矢を飛ばしても全部弾いちゃうんでしょ?高感度で殺気を感知できるみたいだし。」
「なるほど。矢を無駄にしたくなかったのか。じゃあ、次に私が誰を狙うか分かる?」
「ハルさんもオダさんもやられたし、順番的には私ですかね〜」
「正解。ハルもオダも意表をついてきたから、トモも何かしてくると思ってる。早々に潰さないとね。」
「買いかぶりすぎな気はするけどなあ〜」
「この状況でも、矢を無駄にしたくないとか言っていられるかな?」

余裕ぶってはいるが、トモは心の中で大汗をかいていた。
アイリから譲り受けた眼までもが自身の内心を弱点として見抜いている程だ。
状況的に、ハルとオダが必殺技でミヤビを痛めつけたのだから、トモもそこに続くべきなのは明らか。
一応、トモの頭の中には必殺技として考えている技法が有るには有るのだが、
ミヤビには通用しない絶対的な理由が存在するため、使っても良いのか迷っているのである。

(いやいや!ここで何もしなかったら殺されちゃう!ダメモトでもやらなきゃ!!)

250 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/27(日) 03:06:35

トモは3本の矢を取り出して構えた。
頭に思い描いている必殺技を実現するには、これだけの数の矢が必要なのだ。
ミヤビがこちらに迫ってくるよりも先に、3本のうちの2本の矢を放つ。
狙いはミヤビの身体ではない。直接狙っても避けられるのがオチなのは分かっている。
だからこそトモは矢を上空に飛ばしたのだ。

「空……か」

もちろんヤケクソでぶっ飛ばしたのではない。
ちゃんと軌道を計算し、放物線を描くように落下してミヤビに当たるように射っている。
しかしそんなことをしたら矢が到達するまでの時間が長引くため、余計に回避しやすくなるのではないか?
もちろんトモだってそれは分かっている。
避けさせないために、トモは3本目の矢を用意していたのだ。

「これが私の必殺技!」

3本目の矢を射る時、トモは弦を非常に強く引いていた。
こうして放たれた矢は放物線ではなく綺麗な直線をトップスピードで描いていく。
今回も狙いはミヤビではない。
先に放った2本の矢のうち、片方に衝突させることが目的だったのだ。
鉄で出来た矢尻と矢尻が速いスピードでぶつかったため、一瞬だが火花を巻き起こす。
そしてミヤビもその火花を直視している。
矢が自分目掛けて飛んできたのだから、どうしても目で追ってしまっていたのだ。
オダの操る太陽光と比べたら微弱ではあるが、発火と共に起きた眩い光がミヤビの目に入り込む。

「うっ、眩しい……」

オダもトモも、ハルが発足した"怪盗セクシーキャット"の一員だ。
先ほどオダがミヤビの派生技『猟奇的殺人鋸(キラーソー)、"派生・堕祖(だそ)"』を盗んだのに対して、
トモはなんと味方のオダの得意技を盗んだのである。
現在の時刻は18:00過ぎではあるが、今のミヤビは正午の天高い太陽を直視したような思いだろう。
そう、トモは矢と矢の衝突によって"正午"、つまりは"noon"を疑似的に作りあげたのである。
こうしてミヤビの目を潰したところに、もう1本の矢は依然変わらず迫ってきている。
常人であれば目が見えない状況で正確に回避することは困難だろう。

「その名も"noon(ぬん)"。どうですか?」
「駄目だね。こんなものは必殺技とは呼べない。」
「!」

ミヤビは目を瞑ったまま、落ちてくる矢を素手でキャッチする。
トモは驚いたような顔をしたが、内心はこうなることを理解していた。
どんな殺気も感知するミヤビには通用しないことは、はじめから分かっていたのである。
目が見えなかろうが、本命の矢にはドス黒い殺気が込められている。
その殺気の動きが手に取るように分かるため、ミヤビは簡単に掴むことが出来たというワケだ。
そもそも先ほどもまぶたを切って、あえて己の視界を奪うような行動を取ったりもしていたので、
今更、疑似太陽で目を潰されようが痛くもかゆくもないのである。

「必殺技はね、"必ず殺す"から必殺技なんだよ。
 ハルやオダの必殺技は実際、私を傷つけたし、強烈な殺意もヒシヒシと感じられたけど、
 この矢にはそれはが無いね。」
「……」

絶体絶命のトモを、遠くからリュック、クール、ガールの3名が覗いていた。
そしてリュックはガールに向かって厳しい言葉を言い放つ。

「ねぇ、さっきなんて言ったっけ?
 ハル、オダ、トモの誰かがミヤビ様にトドメをさしたらどうのこうのって言ってなかった!?」
「……言いました。」
「ハルとオダには驚いたけど、トモはもう駄目でしょ。万策尽きたって感じ。」
「まだ分からないじゃないですか」
「なんでそんなにトモをひいきしてるの?あ、そっか、レイちゃんって果実の国の出身だったけ。郷土愛ってやつか」
「そんなのじゃありません!」

ガール自身もどうしてここまで連合軍を応援しているのか、自分でも分からなくなっていた。
言語化は出来ないが、ただただ手を握って、トモの勝利を祈っている。

251 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/28(月) 02:29:03

トモが意気消沈していくのは火を見るよりも明らかだ。
これ以上の上がり目も期待出来そうにない。
そう判断したミヤビは、容赦なく斬り捨てることにした。

「おととい、私の胸を射抜いた時の方が何倍も恐ろしかったよ?
 あの時の強さは、やっぱりアイリのサポートによるものが大きかったのかな」

ミヤビがトモに斬りかかろうとしたところで、オカールが横から突進してきた。
オカールの場合は殺気と行動がほぼ同時にやってくるので事前察知が難しいが、
ミヤビはオカールのジャマダハルを剣で受け止めることに成功した。

「おいおい!それだと俺のサポートがイマイチみたいじゃねーかよ!」
「そうだよ。」
「!」
「そんな足腰じゃ、トモの命も護れないよね。」

ミヤビはオカールに対して足払いを喰らわせた。
軽く払っただけだというのに、足腰の弱っているオカールには必要以上に効き、
簡単にすっ転ばされてしまう。
そして更に追い打ちをかけるかのように刃で太ももをスパッと裂いていく。

「ぐっ……!」
「トモの次に思う存分相手してあげるから、今は大人しくしてよ。」

オカールを蹴り飛ばすや否や、ミヤビはトモへの攻撃を再開しようとした。
おそらくはハルとオダを倒した時のように必殺技の一閃でトモを斬るつもりなのだろう。

(このままだとやられちゃう!どうすればいい!?)

頭の中で必死に考えたが名案は浮かばなかった。
近接戦では勝ち目はない。クリンチも二度は通用しない。矢を放てば避けられる。必殺技と思っていた技は認めてもらえない。
こんな状況を打破する起死回生の一手はそう簡単には出てこないのである。

「ジタバタしなくていい、もう終わりにしよう。」

決着をつけるためにミヤビが一歩踏み出した時、不思議なことが起こった。
なんとミヤビとトモの間に光が迸ったのだ。
一瞬で見えにくかったが、光の線が現れたように見えていた。

「なんだ!?この黄色い線は!」
「えっ?」

警戒したミヤビは数歩だけ後ろに下がった。
ピカッとした光はまるで電気のよう。オカールはそんな技を使わないのだからトモの仕業に違いない。
そして電気と言えばアイリが放つオーラが連想される。

「まさか、弱点を見抜く眼と一緒に雷のオーラまで譲り受けた?……」
「え?え?」

真剣な顔のミヤビに対して、トモはキョトンとしていた。

(いや、今の黄色い線はオーラなんかじゃなくて……)

252 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/29(火) 02:35:15

オカールは"黄色い線"がアイリが放つようなオーラでは無いことには気づいていた。
ミヤビの勘違いは、前にマイミが連合軍の若手らと戦った時にした誤解と全く一緒。
あの時のマイミはオダが太陽光を反射して起こした光を、トモの仕業だと思い込んでいた。
今回も全く同じことが起きているのだ。

(光の出所は……アレか)

必殺技になれなかった技「noon(ぬん)」を放つ時に、トモは3本の矢を上空に放っていた。
本命の1本はミヤビに簡単にキャッチされてしまっていたが、
発光用の2本は衝突の影響でより高くに飛ばされていたのだ。
そしてそのうちの1本がオダのブロードソード「レフ」に落ち、剣を少しだけズラしたのである。
その時、剣に反射された太陽光が地面に注ぎこまれて、微かな雷光が発されたように見えたのだ。
全ては偶然の産物。
だが、その偶然のおかげでミヤビの心は揺さぶられている。

「私は微弱なオーラくらい簡単に掻き消せるはず……
 なのにどうして、今の電気はハッキリと目に見えたんだ?……」

段々と自体を把握してきたトモはこれを利用しない手は無いと考えた。

「ふぅ……やっとアイリ様からいただいたオーラを具現化できたか。」
「やっと?……」
「そう、私の"雷のオーラ"はまだ受け継いだばかりだから微弱も微弱。
 例えるなら生まれたてのBaby Loveみたいなもの。
 本来ならベリーズを前にして本領発揮なんて出来るワケが無い。」
「だったらどうして!」
「え?そんなの決まってるじゃないですか。
 ミヤビ……アンタのオーラが見る影もないくらい弱体化してるんだよ。」
「!!」

トモの発するプレッシャーに気圧されたのか、ミヤビはまたも一歩退いてしまった。

(私が圧迫されてる?……ベリーズで最も鋭く殺人的なオーラを放つ、この私が!?)

信じたくはないが、思い当たるフシはあった。
ミヤビはこれまでハルとオダの必殺技によって痛手を負っている。
そのような実績ひとつひとつが若手への恐怖に繋がっているのではないかと考えたのだ。
そして、ここでトモがダメ押しの一手を仕掛ける。
ミヤビに気づかれぬように足元の小石を蹴飛ばして、その先にあるオダの剣をまたズラしたのだ。
つまり、トモは意図的に偽物の雷光を起こしたのである。

「また!」

得体の知れぬ光にまたもミヤビは驚いてしまう。
地面に描かれた"黄色い線"に触れたくないあまり、無意識に2歩3歩退いていく。

「ふふふ、どうぞどうぞ、何歩でも下がっていいんですよ。その方が安全ですからね〜。
 "黄色い線の内側で並んでお待ちください"……死にたくなければね。」

この時、ミヤビの心が弱点と化したのをトモの眼は見落とさなかった。
そして次の瞬間、ミヤビは全身を無数のケダモノに噛みちぎられるような思いをする。
これはオカールの殺気によるものだ。
これまではミヤビの刃物のオーラと、オカールのケダモノのオーラの力が拮抗していたのだが、
トモの話術によってミヤビの心が弱まった結果、押し負けてしまったのである。

(ははっ!トモのヤツたいしたタマだな!あのミヤビちゃんにハッタリをぶっこむなんてよ!!)

オカールは嬉々としてミヤビに飛び掛かった。

「サポートはもうヤメだ!トドメは俺が刺すぜ!!」

253 ◆V9ncA8v9YI:2021/06/30(水) 03:09:04

オカールは真正面からミヤビを数回切り裂いた。
弱っている今がチャンスとばかりに猛攻を仕掛けているのだ。
血飛沫を多量に撒き散らしたところで、ミヤビはやっと自分が呆けていたことに気づく。
トモ相手にいったい何を恐れているというのか。オカールに好き放題させて何故黙っているのか。
正気に戻ったミヤビは剣を持つ手に力を込めて、反撃を仕掛けていく。

「猟奇的殺人鋸(キラーソー)、"派生・堕祖(だそ)"!!!」

オカールは守りを一切考えずに斬りかかっていたので、ミヤビの斬撃をまともに受けてしまった。
そしてこの派生技はたった1撃では終わらない。
オダがこの技を真似たように、
「CRES.(クレッシェンド)」、つまりはだんだん強くなる斬撃を計4発も打ち込んだのである。

「いや!CRES.に終わりはないんだ!!」

ミヤビは4発では満足しなかった。5発、6発、7発と追撃を加えていく。
互いにノーガードでの斬り合いとなったが、一撃ごとに威力を増していくミヤビの方がより高火力。
オカールは耐えきれずにその場に倒れこんでしまう。

「ちくしょう……ここまでかよ……」

ミヤビと真剣勝負でここまでバチバチやれたのはとても嬉しかったが、
勝てなかったのが残念で仕方ないようで、オカールは哀しい顔をしてしまう。
ただ、勘違いしないでほしい。オカールは自分の敗北は認めているものの、
"チームオカール"としては負けたとは思っていない。

「おい……トモ……悔しいけど、見せ場はくれてやるぜ……」

オカールは後輩のトモ・フェアリークォーツに思いを託して目を閉じた。
あのオカールがそんな言動を取ることにミヤビは驚いたが、
すぐに次の相手であるトモを睨みつける。

「さっきは恥ずかしいところを見せたね……でも、トモも気づいているはず。
 今の斬り合いのおかげで私の殺気は全盛期のレベルに戻っている。
 もう二度と弱みなんて見せないよ。」

何回も斬られて血だらけだと言うのに、威圧感はむしろこれまで以上に感じられた。
また、オカールがいなくなったことでミヤビのオーラを打ち消すものが無くなってしまった。
つまりトモはミヤビが発する鋭い刃物のオーラを全身で浴びているのだ。
首を、胸を、腹を、腕を、脚を、あらゆるところを切断されるかのような錯覚を感じている。
イメージだというのにリアルな痛みまでしてくるのだから、今にも気が狂いそうだ。正気を失いそうになる。

(いや!オカール様にあそこまで言わせて、簡単にやられてたまるものか!)

トモの強い思いが刃のイメージを全て吹き飛ばした。
一時的ではあるが、トモ・フェアリークォーツの圧がミヤビを上回ったのだ。

(驚いた。さっきのような黄色い線は出ていないようだけど、なかなか雰囲気あるじゃないか……)

相手にとって不足なしと考えたミヤビは剣を構えた。
負傷が大きいため長引かせたくない。すぐにケリをつけようとしている。

「若手離れした威圧感だけど、それだけじゃ私には勝てないことくらい理解しているよね?」
「もちろん。だから私は"必殺技"でアンタを仕留める。」
「必殺技?あの"noon(ぬん)"とかいう不発に終わった技で?」
「半分正解。」
「?」
「今から私が出すのは本当の意味での必殺技。だから、"必ず殺す"。」

254 ◆V9ncA8v9YI:2021/07/01(木) 05:33:05

1回目に"noon(ぬん)"を放った時のようにトモは上空に矢を放った。
疑似的な正午の太陽を作りあげて目を眩ませたところで射抜くという技だが、
この技は既にミヤビに破られている。
本命の矢はどうしても殺気が込められるために、鋭敏なミヤビにはバレてしまうのだ。
だからトモは、同時に25本もの矢を飛ばすことにした。

「数を増やしてどうにかなるとでも?……何本あろうと本命は1つなのに。」

ミヤビの言葉を無視してトモは26本目の矢を後から発射した。
たくさん飛ばした矢のうちの1つとぶつからせ、その衝撃で発光させるのは以前と同じだ。
ミヤビの目を潰すことにも成功する。

「トモも分かっているんでしょ?視力に頼らなくても殺気を感知すれば……」

本命を見抜いて回避すればそれで終わりのはずだった。
ところがミヤビにはその本命の矢を知覚することが出来なかったのだ。

(何故!?どんな達人であろうと攻撃には殺意が込められるはず!隠し通すことなんて出来ない!
 だというのにトモが放った矢からは少しの殺気も感じられない……)

通常ではありえない事が起きたためにミヤビは狼狽えてしまった。
トモがシミハムに並ぶ実力者か、あるいはミヤビの殺気感知能力が衰えたか、どちらであろうと一大事だ。
だが、正解は大したことではなかった。

「まさか……私を殺す気が無い?……」
「あ、そうですよ。今のはただの遊びです。」

ミヤビは愕然とした。"必ず殺す"とタンカを切ったのはブラフだったのだ。
この状況でそんな行動をとるなんて、どんな胆力だと言うのか。
殺す気が全くないのであれば殺気が無くて当然。
視力を一時的に失い、殺気のみで判断しようとしていたミヤビは逆に動くことができなかった。
そして、正解に辿り着くのが遅かったために降り注ぐ矢からも逃れられない。
1本、2本、3本4本5本……複数の矢が雨のように落ちてきてミヤビの肉体を傷つけていく。

「!!?」
「いやぁ〜、殺す気は無かったけどたまたま当たっちゃったなら仕方ないですね〜」
「たまたま……だと?」
「運ですよ運。完全な運任せ。これが私の必殺技"noonと運(ぬんとうん)"なんですから。」

殺気でバレてしまうという弱点を、トモは一切の殺気を排除するという策でカバーした。
運が悪ければ一本も当たらないという自体に陥ってしまうが、運も実力のうち。風はトモに吹いていたのだ。
かなりの数の矢を無防備に受けたため今のミヤビは相当に弱っている。
矢だけでなく、ハルやオダの必殺技や、オカールの猛攻があったからこそミヤビをここまでフラつかせることが出来たのである。
そんなミヤビの胸を目掛けて、トモが至近距離で弓を構える。
狙いは先日あけた胸の鉄板の穴だ。

「今の私の殺気は……どんな感じですかね?」
「……これ以上無いくらいに強くて恐ろしい殺気だ……でも、私はもう……」

ドスッ!といった音と共にミヤビは血を吹いて倒れた。
ガッツポーズを取りたくなるところが、トモにはそんな余裕は無い。
本来の目的を果たすために武道館へと足を踏み入れていく。

「オカール様、先に武道館に立ちたかったようだけどすいません。もう、行きます!」

トモが1人で駆けていくのを遠くから見ていたリュック、クールは驚いた顔をしていた。
ガールの言った通り、オカール以外の若手がミヤビにトドメをさしたことが今でも信じられないのだ。

「ほんとうにたおしちゃった……」
「リュック、クール、さっき言った通り……」
「レイちゃん、もう言わないで」
「リュック……」
「分かったよ、もう諦めたりはしないよ。可能性はめちゃくちゃ低いだろうけど、私たちが人間に戻れるように祈るくらいはしてあげる!」
「わたしもがんばる!」
「リュック!クール!」

255 ◆V9ncA8v9YI:2021/07/01(木) 05:38:36
VSミヤビはお終いです。

次からはVSチナミを書きます。
おさらいをしたい方は以下を見てください。
https://masastory.web.fc2.com/s01.html

256名無し募集中。。。:2021/07/01(木) 14:31:49
>>254
まさかの運!?矢が10本で『ぬんとぅ』と単純に考えてた自分が恥ずかしいw
偶然か必然か次期リーダーが決着をつけてるんだねぇ

>>248
各ユニットの新メンバーも決まったみたいですね発表が楽しみです
でも今の研修生どんな子がいるか分からない汗なぜハロドリ観るの挫折してしまったのかw

257 ◆V9ncA8v9YI:2021/07/02(金) 00:30:54
>>256
次期リーダについてはひとまずノーコメントで……

新メンバーは発表されてからチェックしても全然遅くないと思いますよ。
為永幸音だってアンジュルム加入後に新たな魅力がどんどん出てきましたしね。

研修生をさらっとチェックしたいのであれば
ハロドリ#379,#380の診断テストのダイジェストを見たり、
研修生チャンネルの「ハロプロ研修生ってどんな人やろかぁ?」(全6本)を見るのをオススメします。

258 ◆V9ncA8v9YI:2021/07/02(金) 00:37:16
こんなところで誤記を……

ハロドリ#379,#380
ではなく
ハロステ#379,#380
でした。

259 ◆V9ncA8v9YI:2021/07/02(金) 03:13:36

最高傑作の戦車が破壊されてしまったが、チナミは敗北者の顔などしていなかった。
チナミの作品は兵器だけではない。
剣や弓、銃といった人が手に持つ武器らも多く取り揃えているのだ。

「トンファーにヌンチャク?それはまるで……」
「そうだよ、これは"KYASTシフト"。マイミに体術で対抗するための布陣なんだ!」

チナミは一瞬にしてマイミの背後へと回り込んだ。
カリンが行うような針治療による筋力の活性化により、チナミの身体能力は超強化されている。
ただでさえ長い脚を持つチナミの走力は韋駄天の如きものとなり、
マイミの動体視力をもってしても捉えることは出来なかった。
無防備の背中に対して、両手で持ったトンファーとヌンチャクで攻撃を仕掛けていく。

「せいやっ!」

トンファーとヌンチャクはそれぞれKASTのアーリーとサユキが扱う武器だ。
ただし武器の質は大きく違っている。世界屈指の名工チナミがこしらえたのだから当然だろう。
そして針のドーピングで身体能力を向上させた状態で打ち込んだため、威力はオリジナルの何倍にも跳ね上がっていた。

「どうだ!クリーンヒット!これで流石のマイミも……」
「何かしたか?チナミ」
「ははっ!効いてないか!」

もちろん効いていないはずがなかった。マイミだって人間だ。良いのを貰えば激痛だって感じる。
ただ、当たる直前に背中の筋力を一時的に硬化させたためダメージを最小限に抑えられたのだ。
目では負えなかったが、ギラギラ刺す太陽のような殺気は常に感じていたためガード出来たのである。

「だったらこれはどう!?」

チナミはカリンが扱うような釵(さい)を両手で持って、マイミに乱打を喰らわせた。
一撃一撃は大した事ないが数十も喰らえばマイミの背中は穴だらけになる。
筋肉をいくら固めようとも、鋭く細い針の侵入までは防げなかったのである。

「それがどうした!さっきの大砲と比べたら痛くも痒くもないぞっ!!」

マイミはすぐに振り返り、素早いワンツーパンチを当てていった。
たった2つのパンチでチナミの釵を2本ともぶっ壊したのだ。

「まだ終わりじゃないよっ!これでも喰らいなっ!!」

そう言うとチナミは背中からボウを取り出した。これはトモが得意とする弓道だ。
こんな至近距離でマイミの心臓目掛けて矢を射出していく。

「そう来ると思ったぞ!その矢は届かないっ!!」

アーリー、サユキ、カリンと来たのだから、次にトモのボウを持ち出すことはマイミにも予測出来ていた。
心臓だけは阻止するためにすぐさま腕でガードする。
結果、二本の腕を矢で貫かれてしまったが、胸に当たるのだけはギリギリのところで止めることが出来た。

「愚かだなチナミ!KASTシフトなんて宣言したら次の手がバレバレだぞ!」
「KAST?いやいや違うよマイミ、私は"KYASTシフト"って言ったんだよ。」
「?……」
「次に私が何をするのか、マイミには分からないでしょっ!!」

チナミの右肩にはいつの間にか大袈裟な肩パッドが装着されていた。
これよりチナミはマイミに突進をしようとしているのだ。
それはかつて、まだ勇敢さを失う前のユカニャが得意としていた"ぶつかり稽古"のようだった。

260 ◆V9ncA8v9YI:2021/07/03(土) 02:31:00

果実の国のユカニャ王はかつてはKYASTの一員として前線で立っていた。
ピーチジュースの効力により恐怖心を消し去って勇敢に戦っていたその時は、
"ぶつかり稽古"という名のタックルで幾多もの敵を葬ってきたのだ。
マイミはKASTは知っていてもその時のユカニャの戦い方は知らない。
故に肩パッドによる突進を予測できず、まともに受けてしまったのだ。

「くっ……」
「まだ終わりじゃないよ!」

タックルは有効だったが決定打と言うにはまだ弱い。
相対するマイミを死に至らせるためには完全に肉体を破壊してやる必要があるのだ。
だからこそチナミはマイミに極限まで接近したのである。

「アーリーちゃんがね、私の可愛い機械兵たちをこうやって壊してたんだよっ!」

チナミはマイミを抱きしめたかと思えば一気に圧迫をしていった。
通常時であればまるでダメージを与えられないかもしれないが、今は別だ。
チナミの筋力は針治療によって一時的に超強化されているし、
ここまでの一連の流れでマイミの背中は大きく傷ついている。
また、腕が矢で貫かれているために抵抗も満足に行うことが出来ない。
これだけの条件が揃えばアーリーばりの締め付けによって背骨を折ることも可能と考えたのだ。

「私の!勝ちだあああああああああああああ!」

チナミが力を込めるたびにマイミの骨がミシッと軋む音が聞こえる。
効いていることを確信したチナミは、早々に仕留めるために更に力を加えていった。
だが様子がおかしい。いくら絞めつけてもマイミの骨が折れる気配がしないのだ。

「そんなものか?チナミ」
「まだ……まだ足りないっていうの?……」

マイミが倒れない理由はシンプル。
"抱きしめても壊れないくらい強くなりすぎたから"だ。
先ほど戦車を破壊する際に『ビューティフルダンス、"派生・夢幻クライマックス"』を放っていたが、
身体に高負荷がかかるこの派生技を使いこなすために、マイミは更なる鍛錬をしていたのである。
チナミの抱きしめが効いていないワケではないが、折られる程でも無かったのだ。

「ならばお返しだ!たあっ!!」

マイミはブリッジでもするかのように勢いよく反り返った。
そうしてチナミの脳天を地面に叩きつけていく。
あまりの痛みにチナミはマイミを抱きしめていた腕を放してしまう。

「ああ!くそっ!」

肉弾戦では分が悪いと判断したチナミは後方へと下がった。
ここで押し切りたい思いがあったので非常に悔しいが、勝つためには仕方ない。
戦略を変えねばマイミには勝てないのだ。

「次はなんだ?帝国剣士か番長の武器でも使うと言うのか?」
「それはさっきやったでしょ……」

チナミは戦車に乗っている間も、何回も連合軍の武器を使用してはマイミに攻撃を仕掛けていた。
言わば総力戦を仕掛けたつもりでいたのだがそれでもマイミを倒すには至っていない。
ここで"帝国剣士シフト"や"番長シフト"に改めて切り替えたところで意味は無いだろう。

「ならば、食卓の騎士の武器か?」
「扱えないことも無いんだけどね……」

そう言うとチナミはクマイチャンの長刀と全く同じ代物を取り出した。
こんなに大きな剣を一瞬で出し入れするなんてまるで手品のようだ。

「ベリーズの武器も、キュートの武器も、私が作ったんだからそりゃ普通に使えるよ。
 でもね、本来の持ち主ほどの強さを引き出すことなんて出来ない。
 だったらマイミを倒すなんて夢のまた夢だよね。」
「そうか……だったらどうする?」

チナミは深呼吸をした後に、両手にそれぞれ小型大砲を構えていった。
どうやら次の戦い方が決まったようだ。

「やっぱり、なんだかんだで本来のスタイルが一番だと思うんだよね。
 私の大砲でマイミを吹き飛ばしてあげる!」

銃火器で大暴れするチナミは「天下無双女子」と呼ばれている。
「霊長類最強女子」のマイミと決着をつけるべく、トリガーを引いていく。

261 ◆V9ncA8v9YI:2021/07/04(日) 03:29:39
("本来のスタイル"か……確かに、それが最も恐ろしい。)

放たれた砲弾にはチナミの殺気がしっかりと乗っていた。
灼熱の太陽のような殺気は触れずとも火傷してしまいそうな程に熱い。
そんな高熱の物体が飛んでくるのだから、他のどんな武器よりも厄介この上なかった。

(避けられないスピードでは無い、だが、ここで避けたら負けも同然だ!)

マイミは砲弾をブン殴って叩き落した。
もちろんただ殴っただけではない。嵐のオーラを拳に纏って思いっきりぶつけてやったのだ。
太陽を大雨で相殺することにより通常の砲弾に戻したのである。
こうすれば身を焼かれる思いをして消耗することもない。

「上手くいったな!どんな砲弾だろうと私が鎮火してみせる!
 ただの砲弾なら容易く迎撃できるからな!」
「普通はただの砲弾でもそう簡単に撃ち落とせないんだよ……
 でも、そっちがリクエストするならいくらでも撃ってあげるよ!」

チナミは両手に小型大砲を構えている。
それはつまり左右同時に発射できるということ。
しかもそれぞれが再装填なしで3発ずつ連射することが出来る。
右2発、左3発の灼熱砲撃が一斉にマイミに襲い掛かる。

「それでも全弾撃ち落とす!」

マイミも突きの速さには自身があった。
高速のラッシュを繰り出して、迫りくる砲弾を次々と叩き落していく。
ところが、4発目までは順調だったのだが、
5発目を叩こうとしたところで右腕に激痛が走ってしまう。

(くっ……矢に貫かれた痛みがここで……)

マイミが健康体なら5発くらい簡単に迎撃したことだろう。
しかし、今のマイミは戦車やKYASTシフトのチナミを相手したせいで疲弊しているのだ。
そのために突きの速度が追い付かず、灼熱の砲弾を腹で受けてしまう。

「う、うああああああああ!」

マイミの腹筋はシックスパックだったのでギリギリのところで耐えることが出来た。
常人なら即死だが、なんとか内臓破裂で済んだのだ。
だが、義足を失ったマイミの下半身では、砲弾の爆発を受けて踏んばることなどできなかった。
数十メートル吹き飛ばされて、背中から倒れこんでしまう。

「ま、負けてたまるものか……!」
「まだ心が折れてないのは流石としか言いようが無いね。
 でも、こっちだって負けてられないんだ。容赦はしないよ。」

マイミが爆風に飛ばされている隙にチナミはリロードを終えていた。
今度こそ引導を渡すために6発の砲弾を一斉に仕掛けていく。

262 ◆V9ncA8v9YI:2021/07/06(火) 01:40:42
ユニットのメンバー決まりましたね。今後が楽しみです。
ハロステでのJuiceつばき新メンバーも楽しみ。


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