したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

横山よこやんのお気持ちが加賀かえでーのド真ん中に届かない!

23かっちゃん:2017/09/14(木) 20:32:16
「なんか今日はこれ以上無理みたいだね」
おもむろに玲奈が言った
「今日はこれくらいにして 明日から仕切り直すか 
...玲奈は学校もあるし この後どうする?」
「この件が片付くまで 可能な限り ここへ来るわ」
「ありがとう 助かります バイト代ははずむよ」
「言ったわね 私は安くないぞ!」
ようやく玲奈が笑った
玲奈が帰ると加賀はあかりに振り回された
「楓 この部屋 流しはあるけど シャワーもトイレもないやん?」
「しょーがないじゃん トイレは共同使って シャワーはボクの部屋の
使うしかないな」
「メンドクサー なー 楓の部屋と変わろ なー 変わろう」
あかりが楓の両肩に手をやり 頷くように促した
「やだ」
手を振りほどいて進もうとすると あかりは後ろから腕を肩に回して
色っぽく耳元で囁いた
「ねー 楓ー 部屋 変わろっ」
背中の肩甲骨の下辺りにもの凄く柔らかな2つのクッションを感じた
「ダ ダメって言ったらダメ!」
「ケチー ケチー!」
あかりが離れていった
加賀は荷物をあかりの部屋に運び入れ 自分の部屋に戻って来た
「この調子で一ヶ月かよ」
ノックもせずバスタオルを肩にかけたあかりが突然入って来た
加賀が呆然と見ているとシャワールームのドアを開け入って行った
シャワーはここのを使えと言ったが 具体的に考えてはいなかった
想像以上にまずい
シャワーを終えたあかりがドアから顔だけ出して言った
「ねー 洗濯はどーすんのよ?」
「隣の隣にコインランドリーがあるよ」
「えー わざわざそこに行ってるわけ? 信じられんわ」
「洗濯機買うの ついつい後回しにしてるうちに 別になくてもいいってなったんだよ」
「じゃあ 私の脱いだの ここにまとめとくから 一緒に洗って来てや」
「はあ?」
「別にいいやん」
「女の子だろ? 下着だぞ?」
「布やん これ 私が脱いだ ただの布やで?」
「いや それはそうだが」
「布に 魂こもるんか?」
「いや 魂はこもらないけど 付着物は...」
「付着物ってなんやねん それをランドリーで落とすんやから いらんもんやろ?」
「いや まー そうですね」
「顕微鏡で見るんか? 付着物を? 汗の成分とか? 意味わからん」
「いや 見ないですけど」
「なら 関係ないやん」
「関係ないですね」
「洗っとき」
「洗っときます」
こうしてこの時加賀はあかりの洗濯係となった
「あのー 下着でボクの部屋を闊歩しないでいただきたいのですが?」
「あ? 悪かったな じゃあ 脱ぎますか!」
「いや 脱がないでください それでいいです」
「ほんまやな」
「ほんまです」
「なー ウチ3年で 女らしゅーなったやろ?」
「だから 下着で歩くなって言ったんだ」
「なんで? 欲情した?」 
「えー 正直に言いますと 欲情しそうです」
「そうなんか?」

24かっちゃん:2017/09/14(木) 20:32:57
そう言ってあかりはスタスタ部屋を出て行った
今日はもう疲れた
加賀は時計を見た 夜の9時だ
朝はまだ広島にいた
そう言えば夕飯食べてない
別に食べなくてもいいけど 気持ちの切り替えも兼ねて
食べに行こうか
加賀は一階に下りるとラーメン屋に入った
醤油ラーメンだ
チャーシューは今日はいらない
店長の浜さんが声をかけた
「おー 大家さん いらっしゃい 今月の家賃はもう会計事務所に渡しといたよ」
「ありがとう」
加賀は店子からの家賃収入の経理を3Fに入居している会計事務所に一任していた
「今日は普通の醤油ラーメンで」
「あいよ」
加賀は外食が多い
加賀のビルの1Fがラーメン屋とカレー屋なので そこを利用することも多い
「ズズズッ ズゾッ ズズ」
いつも通りの味が東京に戻って来たことを実感させた
「ごちそうさま」
「ありがとね」
お代は家賃と相殺される
大して食べていないが重い足で階段を上った
5Fまでようやく上ると 隣の部屋で話声がする
何故?
テレビは置いてないはずだ
ラジオ?
ノックをした 「あかり」
ドアを開けるとあかりの他にもう一人女の子がいた
もう疲れきっていて考える力がなかった
ぼーっと見ているとあかりが立ち上がって言った
「これ 森戸 かわいいやろ?」
白いTシャツにトレーニングズボンを履いた自分の肩くらいしかない森戸の頭を
あかりはポンポンと撫でた
「私の後輩 一緒に仕事やるの」
そう言ってあかりは森戸を抱きしめた
もう好きにしろ
加賀は部屋に戻ってベッドに体を放り投げた
これが夢でありますように
うふふふ
うふ
女の子の声がする
これは夢だ
色白の女の子と色白の女の子が腕や足を互いのそれに絡ませていた
いやこれはボクの夢?
あかりと森戸が柔らかな白い肌に
手を這わしている
ボクは疲れていておかしいんだ
あんなことがあったから
寝よう
股間に張りがあった
あーなんてことだ
ボクは最低だ
うふふふ
うふ
またあかりと森戸の声がした
ダメだこりゃ
起きてもいないのに眠れてもいない
いやらしい夢の中を漂っているようだ

25かっちゃん:2017/09/14(木) 20:33:34
翌朝加賀は7時過ぎに目を覚ました
股間が湿っぽい あちゃー
今日はまだ仕事でないはずだから 起きてはこないと思うが
こんなところを あかりに見られたら最悪だ
シャワーを浴びることにした
ランドリーバスケットには本当にあかりの下着が入っていた
布だ
これはただの布なのだ
そこに自分の湿ったトランクスを落とす
妊娠したらどうしよう?
なわけないか
でも凄くドキドキした
洗わなければ
時間がない
洗う必要のない服を 布と湿った布が見えなくなるまで被せた
ランドリーバスケットを持って階段を下りた
玲奈はこの時間に来ないと思うが注意は必要だ
雑居ビルを出て1Fのラーメン屋の前を通る
もう少しだ
カレー屋の前を通...
「おはようございます 大家さん」
「お おはようございます」
「洗濯?」 ローズ・朋子さんが言った
「はい」
臭いはしないだろうか?
水で洗ってから持って来るべきだった 不覚
でも いつもスパイスの臭いを嗅いでいるから麻痺してるかも
朋子さんはカレー屋の奥さんだ
カレー屋なのに いつもチャイナ服のようなものを着てる
今も 骨盤まで入ったスリットから白い張りのある太ももがチラチラしてる
赤い生地の胸は 2つ並んだそろばん玉のようだ
「洗濯機買えばいいのに たいへんでしょう?」
「ええ まぁ」
早く行かせてくれ
「洗剤も 最近いいの出てるよ?」
「そうですか」
「汚れも 臭いもスッキリだって!」
朋子さんの卑猥な唇がニターっと横に広がった
え? 気付かれた? 
いや それはないだろう 目の前にぶら下がってるんじゃないんだぞ
「花の香りだって!」
朋子さんが 長い睫毛の奥の目の魔力全開で笑った
「もう 大家さんったら」
シーンズの尻を叩かれランドリーへと送り出された
何が もうなのかはわからないが 終わったことは振り返るまい
やっとのことで2軒隣のコインランドリーに突入した
よし 人はいない 洗濯は全部まとめてやればいいや
問題は乾燥機から出す時だ
一つ一つ取り出してはならない まとめてゴソっと取り出さなければ
しかし懸念は取り越し苦労に終わった
洗濯ものをランドリーバスケットに戻すまで誰も来なかった
加賀はミッションがほぼクリアされたことに気を良くし
階段を一段飛びで 自分の部屋へと上り始めた
でも あかりの下着をどうやって渡そう
直接? いやいや
カゴに入れて渡すか? それともそこにあるから取ってけ!と
気付くとあかりが目の前に立っていた 
「布 洗っておいたぞ」
「布?」
おまえが言ったんだろうが 加賀は心の中で毒づいた

26かっちゃん:2017/09/14(木) 20:35:58
「ところでまだ部屋にあの女の子いるのか?」
「おるよ」 あかりが言った
「森戸ちゃんだっけ?」
「モリトチ!」
「もりとち?」
「そう モリトチ! 見る?」
加賀はよくわからず部屋について行った
「モリトチ!」
あかりが声をかけると小さなチワワが駆け寄って来た
「犬? 昨夜いた女の子は?」
「だから この子 女の子」
「えっ? 人だったよ?」
「おらへんで そんな人」
そんなはずは... 
部屋を見回すと 中学生くらいのあかりが白のTシャツとトレーニングズボンで
走っているパネルがあった
昨日の子の服装だ...
「それ お父ちゃんが撮ってくれた写真 頑張ろうって気になるの」 あかりが言った
ということは見間違いだったのか?
「いや でもあかりが 私の後輩で一緒に働くとか言ってなかった?」
「うん ウチの家に生まれてきた順で言うと この子後輩やし 
仕事するのに東京来たのも一緒や」
ボクは疲れておかしくなっていたのか? そうかもしれない
そう納得するしかなかった そう言えば森戸の顔が全く思い出せない
「犬飼うの?」
「犬やない モリトチ!」
「家賃アップしまっけど ええか?」
「えげつなー 従兄弟から家賃取るんかいな?」
「当然や」
「モリトチ こないなえげつなーおっさん見とうないわなー せやせや」
あかりは犬に話しかけながらドアを閉めた
ほっとけ
「下着ここに置いてくぞ」 またドアを開けて言った
仕事することにした

午前中は事務所から電話をかけまくった
福村ミズキから 里保の東京の目撃者 鈴本花音の連絡先を聞いた
山﨑直記が里保の目撃をミズキに聞いたと言った件も確認した
答えは「思い違いじゃないかしら」 というシンプルなものだった
一昨日玲奈が襲われた件を伝えると 流石に驚いたようだったが
誰が仕掛けたかについては見当も付かないと言われた
山﨑の秘書飯窪にも 玲奈が襲われた件を話した
彼女は 今回の調査は秘密裏に行っているもので 誰が邪魔をしようと
しているのかは 全くわからないと言った
里保の追加情報はなかったが 山崎氏の様態が芳しくなく面会謝絶になったそうだ
予想以上に早く時間が無くなって来た
それから 玲奈を脅すよう指示を出した人物を明らかにするための準備もした
午後になると日差しは夏のそれではなくなっていた
加賀は広島で聞いてきたことをまとめ ノートに清書した
1時を過ぎると玲奈がやって来た
「今日は目撃者をあたるんでしょ?」 良かった 普段と変わらない
「ああ さっき鈴本花音と連絡を取った 3時に会うことになっている」
「私もついていっていい?」
「そうだね 相手は女の子だし キミもいた方がリラックスするだろう」
ふと 玲奈が隣の部屋の方を見て言った
「あかりさんは どうだった?」
「昨夜はさんざんだったよ 犬は連れ込むし」
「犬?」
「うん モリトチ」 玲奈は何を言っているのかわからないようだった
そりゃそうだ ボクもよくわからない

27かっちゃん:2017/09/14(木) 20:36:51
待ち合わせの喫茶店で待っていると ほぼ時間通りに鈴本はやって来た
「お待ちしてました 加賀です こちら助手の横山です」
「鈴本花音です」
少しぽっちゃりした 人なつっこそうな垂れ目顔だった 看護学校に通っているそうだ
「早速ですが 山﨑里保さんを見かけられたとか」
「はい あれは里保ちゃんだと思います」
「いつ頃 どこで見ました?」
「えっとー 6日前? いや今日と同じ金曜だから一週間前
モベキスというディスコで見ました」
「ディスコ?」
「はい 私 高校から里保ちゃんと同級生で仲良かったんですけど
その頃からよく ディスコに行ってたんです」
「確か 里保さんのダンスはジャズダンスですよね?」
「あっ ジャズダンスは習ってましたよ でも 一緒にディスコに行ったら
ダンスが面白いってハマっちゃって 通うくらいに行ってました」
「なるほど それで?」
「この前は私も 久しぶりに行ったんです それでちょっと踊った後に
ジュース飲んでたら 入り口の階段の所からフロアを見下ろしてました」
「里保さんは鈴本さんに気付きました?」
「たぶん気付かなかったんじゃないかな? その後すぐ外に出てったので
私も追いかけたけど もういませんでした」
「そうですか 何か他に気付いたことはありませんでした?」
「うーん ニューヨークに行ってるとばかり思ってたから ビックリしちゃってー
なんかあったかなー」
「服装は?」
「赤いTシャツにデニムのホットパンツ キャップを被ってました」
「広島の時と同じかしら?」 玲奈が言った
「里保さんは ディスコダンスも得意だったんですか?」
「それはもう ジャズダンスやってるからか あっという間に上手くなって
プラチナって言うモベキスの常連グループに入ってました」
「プラチナ?」
「はい 私は普通に楽しむだけだから たまに見せてもらうだけだったけど
凄かったですよ」
あらかたメモが終わると加賀は聞いた
「里保さんがいなくなったと聞いたのはいつですか?」
「里保ちゃんのお母さんから 何か知らないか聞かれた時ですね」
「それについてどう思われました?」
「うーん 日本が恋しくなったのかな?って」
「みんなに会いに来ない理由は?」
「やっぱり 途中で帰って来ちゃうと なんか恥かしいじゃないですか
別にそんなこと みんな気にしないと思うけど」
「なるほど 最後にモベキスの場所と営業時間を教えてくれませんか?」
「また一緒に踊りに行こう」というメッセージを 里保が見つかったら
伝えて欲しいと託され 鈴本と別れた
加賀と玲奈は そのまま喫茶店に居残り 午前中にまとめた今回の案件の
内容をおさらいした
「まさか 人探しがこんなにたいへんとはね」 玲奈がつぶやいた
「こういうもんなんだよ 実はたいへん なにしろ いなくなった人が
見つからないようにしているか 亡くなって見つからなくなってしまったかの
どちらかなんだから」
「縁起でもないこと言うな」
「何故 見つからないようにしているのか? ってことだよ」
「そうね 日本にいるのにね」
二人は小さくかかるBGMのクラシックを聞きながら考え込んだ
鈴本から聞いたディスコには 営業開始から少し経って 
盛り上がっていそうな頃に 行くことになった
その前に夕食だ
「私 決めらんない カエデー考えて!」
玲奈はさっさとイニシアティブを放棄した
「うどんなんて どうだい?」 玲奈が 「まっ いいっか」という顔をした

28かっちゃん:2017/09/14(木) 20:37:34
ディスコモベキスは賑わっていた
ディスコブームはピークを過ぎたということだったが
金曜の夜のせいかフロアは人で溢れていた
「私 初めて」
「ボクもだよ」
フロア入り口のドアを開けて 二人は広がる光景に見入っていた
ドンドン鳴り響くバスドラムと低音のベースの繰り返し
フラッシュや虹色に輝くライトとミラーボールによって 様々に動き変化する光は
あっという間に外界の現実を遮断した
「ここに里保さんがいたのかな?」
「たぶん」
下りてみようと加賀が促すと 玲奈は興奮の面持ちで口許が緩んでいった
フロアでは リズムを取っているだけの者 ステップを踏んでいる者
手足がどう動いているのか分からなくなるほど踊っている者など
いろんな楽しみ方をしていた
服装も おめかししている者 奇抜な者 ラフな者 ワイシャツ姿などいろいろだが
共通しているのは 幸せそうな笑顔だった
「音が大きくて」
「えっ?」 玲奈が聞き返した
「音が大きくて 声が聞こえなくなるよ」
「うん」
二人はいつの間にか肩でリズムを取りながら 人を掻き分けて
壁際のバーカウンターまでやって来た
「なんか飲む?」
「スカっとするものがいいわ」
加賀はバーテンダーにお金を払い スカッシュをもらうと玲奈に「どうぞ」と差し出した
しばらく後 加賀は自分の分のスカッシュを頼み バーテンに写真を見せた
「先週 この子がここへ遊びに来たらしいんだけど 見ませんでした?」
バーテンは「見てない」と言った
なおも「この子は 2年前までここによく来てたそうだけど 知ってます?」と聞いた
「俺はここで働いて1年だから わからないよ」 バーテンは答えた
加賀が誰か知っている人はいませんか?と尋ねようとした時
「毎日来てる常連がいるから 聞いてみよう」 バーテンがそう言って
大声でフロアに呼びかけた
「おーい エリック!」
エリックと呼ばれた男が振り返り そのまま踊りながらやって来た
「なーに キヨちゃん!」
バーテンは加賀を指し 他の客に呼ばれて向こうへ行ってしまった
「まー 何? あたしに王子さま 紹介してくれたわけ? きゃー 嬉しい!」
エリックと呼ばれた男は 整った顔をしたハーフらしかったが 長い付け睫毛をして
口紅を塗っていた 
キラキラ光るラメとスパンコールがたくさん付いた 紫色の薄い開襟シャツに
黒のパンタロン 白のエナメル靴という格好だった
「あたし あなたみたいな子好きよ」 そう言いながら加賀の手をニギニギした
「ほら 胸だって こんなに薄い あたし 胸に筋肉付いてる マッチョは嫌いなの」
胸をサワサワされた加賀は体をよじった
「あー あのー」
「なあに?」
「この子 知りませんか?」 加賀はやっとのことで写真を見せた
「あら? リホじゃない」 
「知ってるんですね」
「そりゃー この子 前はよく踊りに来てたもん かっこ良かったし」
「先週 この子見ました?」
「いたわよ! すぐに帰っちゃったけど あたし見て 手ー振ってくれたわ」
「この子 今 どこにいるかわかりますか?」
「知らないわよ もー あなた この子のなんなの?」 
「喉渇いてません? 何か頼みますよ」 加賀はこの男にもう少し話が聞きたかった
「きゃー 嬉しい! あたし嬉しいから 踊っちゃう 踊っちゃうわ!」
加賀は男に合わせて 不恰好に踊りながら 「プラチナって何ですか?」と聞いた
玲奈は 和太鼓を叩くような仕草の加賀を見て 笑わないではいられなかった

29かっちゃん:2017/09/14(木) 20:38:14
「きゃー プラチナ? きゃー あたし大好きだったのよ 愛ちゃんとガキさん えりりん
もちろん リホも」
エリックがおかしなダンスを始めた
「このモベキスができてすぐに ダンスの上手い女の子が グループ作ったの
それがプラチナよ 2年半くらいしかいなかったけど ここでは伝説になったわ」
「そうなんですか?」
「それまでもダンスが上手い子や コンビダンスやってる子はいたけど プラチナは
4人とか5人でまとまったダンスをしたの 画期的だったのよ」
「へぇー」
「その中心が 高梨愛と新垣美沙 もうね カリスマ! きゃー 濡れてくるわ!」
「里保さんは後から入ったんですか?」
「そうよ 終りの方よ ダンス習ってたとかで 技術的なセンス持ち込んで
かっこ良かったわー リホが抜けた後 しばらくして プラチナは解散しちゃったけど」
「その時 里保さんに付き合ってる人はいました?」
「あの子はもー ダンス一筋だもん いなかったと思うわ」
「でも こういうところで踊ってると よくナンパされるのでは?」
「そこはね 愛ちゃんとガキさんが睨み効かせてたから」
「愛ちゃんとガキさんは なんか力持ってたんですか?」
「愛ちゃんの男が これだったのよ」
エリックは肩頬に指でキズを示した ヤクザか
夜の街にはどこに行っても顔を出す
「愛ちゃんとガキさんに話しを聞きたいんですが どこで会えますか?」
「んもぅ つまんなーい! あなた 何者? もう行くわよ」
「ああ すみません どこで会えるか 教えて!」
加賀はエリックの手を自分の胸に持って来て訴えた
「あら? あらあらあら あなた いける口? きゃー 薄い胸大好きよー!」
エリックは加賀の胸をまさぐり 興奮していた
玲奈は見ないふりをした
「愛ちゃんは 原宿でスティッキーズというショップやってるわ ガキさんは知らないわね
あら あなた何つけてんの? あたしこの臭い好きだわー」
エリックが加賀の胸元を嗅ぎ始めた ここまでが限界だ
「もう一杯 さっきの飲み物頼みますよ あっ すみませーん!」
加賀はそう言って バーカウンターに駆け寄った
「やだわ あの子逃げたわね きー 飲んで踊り直しよ!」
エリックは加賀の持ってきたグラスを一気に傾けると 「ごちそうさま!」と
投げキッスをして フロアに戻っていった
加賀と玲奈は もうしばらく音楽と喧騒を楽しみ モベキスを後にした
「今日も里保さんは発見できなかったね」 帰りの電車の中で玲奈が言った
「うん でもなんとなく さっき聞いた 愛ちゃんとガキさんからヒントが出てくるような
気がするんだ」
「明日行ってみよう」
「うん」 加賀が同意した
「今日はちょっと楽しかったわ」 玲奈はそう言うと 途中で電車を下りて行った

雑居ビルの窓を見上げると 5Fに一つ灯りがついていた
あかりはいるようだ
加賀は4Fの事務所へ寄らずにそのまま自分の部屋に戻った
涼しくなったとは言え ディスコで蒸れたシャツが体に張り付いて一刻も早く脱ぎたかった
脱ぐ瞬間が一番気持ち悪かったが その後の開放感が何ものにも変えがたいと思った
湿ったシャツをランドリーバスケットに放り込もうとすると もうすでに先客があった
布だ
加賀はまた妊娠しちゃう とどこかで思いながらシャツとトランクスをポトリと落とした
シャワーを浴びて出てくるとあかりがいた
「な な なんでいるの?」
「トイレ入ってた」
シャワーの快適さにいろんなことを忘れ 無警戒だった加賀は慌てて下半身を手で隠した
「別にそんな隠さなくたってええやん」
「祖チンをさらすわけには...」
加賀は猫背になって焦った
「あのな ウチはそんなの見慣れとんの!」

30かっちゃん:2017/09/14(木) 20:40:38
「ジャックやろ ヘンリーやろ チャールズやろ マイクやろ」
あかりが指折り数え始めた
え? 外人? 加賀はあかりがそこまで奔放とは知らず ショックを受けた
「いろんな種牛のを 見て来たんや」
「え? なんで イギリス名ばっか?」 加賀は安堵した
加賀の叔父は大阪で酪農していた
なんでそんな道に進んだのかはわからないし 聞いたことがなかった
「チンチンなんて 大きいのや小さいのや 曲がってんのとか いろいろやで
別に立派やからって いい牛が生まれるわけやないし 牝牛が寄ってくるわけでもないで」
「そ そうなんだ?」
「大事なのはこれ!」
そう言ってあかりは後ずさる加賀に近寄り 下半身を隠した手を掴んで無理矢理
引っぺがすと 自分の胸を触らせた
「ええ?」 加賀は驚いた 
たちまち 恥かしさからますます猫背になり 顔がこれ以上ないくらい赤くなった
「ほら こうやって 動くことが大事なんや 良かったな」
あかりはそう言うとスタスタと部屋を出て行った
どういう育ちをすれば ああなるのか? 
加賀は 叔父や義理の叔母の頭のおかしさを疑った
そのうち隣から キャンキャンよりも アンアンに近い犬の鳴き声と
犬に語りかけるあかりの声が小さく聞こえてきた
これのせいか昨日の夢は!
また悶々と寝苦しい夜になりそうだった

翌朝起きると 夢は覚えていなかったがパジャマ代わりのTシャツもトランクスも
寝汗でグッショリだった
今日も朝から洗濯に行くか 
加賀は あかりの布も一緒に入ったランドリーバスケットを持って階段を下りて行った
曇り空の下 そろりそろりとラーメン屋の前を通ると 
ローズ・朋子さんが今日もいた ローズはカレー店の名前だ
「おはようございます 大家さん」
「おはようございます」
ボクは昨日よりは平静だ 加賀はそう思い 先を急いだ
「大家さんのところに かわいい子来たね」
「あ」 見られてる
「いつもよく来る かわいい子じゃなくて 色白で関西弁の子」
朋子のスケベそうな唇がニマーっと横に伸びた
「あ あの子 従兄弟なんです」 
「ふーん でも従兄弟って結婚できるよね?」
「え? いやいや そんなこと絶対ありませんって」
朋子の目が見開かれ 魔力が宿った
「毎朝 洗濯ご苦労さまです 何日続くかしら?」
ウフフと含みのある笑いをすると 朋子は黒いチャイナ服のような
スリットから視線を釘付けにする脚を見せながら 店に入って行った
絶対なんか勘違いしてる
それでもって面白がってる
加賀はローズ・朋子に軽く頭を悩ませながら コインランドリーに入った
あれ? 今日は人がいるぞ? そうか土曜か!
2人先客が椅子に座って 所在なげにしていた
若い女性と中年女性だった
今日は 布とさっき脱いだ寝汗に濡れたものくらいしか持って来てないぞ 
針を隠すなら針山に作戦ができないではないか
いや 一緒にポンと放り込めばいい話だ 何も心配することはない
そんなことを意識したせいか あかりの布だけ落とした
まずい
すぐに拾って洗濯機に放りこんだが 若い女性が見ていた
え?という顔をした
いやいや違うんですよ! そうじゃないんです! 
加賀は今にも声に出して言い訳したかったが グっと堪えた
また汗で着ているものが湿っぽくなりそうだった

31かっちゃん:2017/09/14(木) 20:42:28
なんか あかりが来てから日常が変容している
加賀は朝食に作った目玉焼きとキュウリの薄切り トースト1枚 牛乳を腹に納めると
いつもより少し早めに事務所へ下りて仕事を始めた
昨日の鈴本花音とエリックの話を聞いて 山﨑里保が日本に戻って来ているのは
間違いないと思った
問題はどこに住んでいるか? だ
同じような姿で見かけられたヨシ子の目撃も考えれば 東京もしくは広島の可能性は
高いが それだけ移動と宿泊ができる資金を考えれば 日本のどこにいてもおかしくない
もちろん知り合いの家を拠点として行動していることも充分考えられた
昨日の情報を整理しながらノートに纏めていると 10時を過ぎていた
まず飯窪に電話をかけた
里保の東京での目撃が 信頼にたることを報告 
そこから得た情報で 今日は動くことを伝える
里保の行動資金について確認した
ニューヨークでの暮らしの為に 里保がいつでも利用できる銀行口座が
用意してあり 飯窪が知り得る送金額を考えれば 日本に帰って来ても
百万くらいはあるのではないか? という話だった
ディスコダンスが好きということについても聞いてみた
飯窪は知らなかったと答えた
続いて福村に連絡を取ろうとしたが不在だった
里保の母 沢木美保に電話をした
里保の目撃された様子を伝えると 「あの子もダンス馬鹿ね」と少し笑った 
東京で里保が通っていたダンススクールの名前と所在を聞いた
玲奈を脅した背後の人物を明らかにするための準備は もう1日かかりそうだ
それが整い次第 加賀はもう一度広島に出向くつもりでいた
午後から一緒に行動する約束をしていた玲奈が 正午少し前にやって来た
「今日は高梨愛ね」
「うん だけど 原宿へ行く前に ちょっと目黒に寄って 里保さんが高校時代に
通ってたダンススクールで話を聞こう」
「わかった」
「今ちょうどお昼だし ランチにしよう 何が食べたい?」
「うーん 昨日食べたから麺類以外 カエデー決めて」
玲奈が両手を合わせてお願いポーズをした
「そうねー あまりお腹が重くなるのは避けたいし サンドイッチでもどう?」
「あっ じゃあ パシフィックセブンでハワイアンサンド!」 玲奈が笑顔で言った
「採用!」 加賀が机をドン!と叩いた
2人は足取りも軽く 階段を下りて行った

意外とガッツリだったランチを食べると 目黒に向かった
「美味しかったね でもちょっと量が...」
「うん 仕事がない時にまた行きたいね」
美保から聞いたヤマギヨーコダンススクールは目黒駅から少し離れた
雑居ビル3Fに入っていた
二人が訪れると ボブカットの40前後の女性を中心に 5・6名のTシャツに
ジャージ下やスパッツを履いた女性が 柔軟体操をしていた
「何でしょう?」 講師の女性がやって来た
「練習中すみません 調査会社のものですが 以前ここに通ってた
山﨑里保さんについて 少し伺いたいのですが?」
加賀は名刺を渡して言った
「山﨑 あー リホね あの子 どうかしたの?」
「実は 連絡が取りたくて 探しているんです」
「あれ? ニューヨークにいるんじゃなかった?」
「最近 日本に戻って来たらしいんです」
「ふーん じゃあここに顔出してもよさそうなものなのにね」
講師は少し不満気だった
「もう少しだけお時間をください 里保さんはどんな子でした?」
「努力の子でしたね 負けん気が強くて」
「才能は?」
「体は小さい方だったけど このダンスは長所も短所も個性として
大いに活かせるからね」

32かっちゃん:2017/09/14(木) 20:48:52
「充分 いろんな可能性があると思うわ あの子なら」
講師は熱を込めて言った
「そうですか 最後にこのスクールで里保さんが連絡を取っていると
思われる方はいますか?」
「どうだろ? 私も含めて仲は良かったけど 今も帰って来たこと知らなかったし
わからないわ」
「ありがとうございます 失礼ですがお名前を」
「ヤマギヨーコよ」
二人は礼を言い 次の目的地へと向かった

原宿駅は週末とあり 若者でごった返していた
加賀は調査でたまに来ることはあったが プライベートではまず下りない駅だ
玲奈も高校2年の時に来て以来と言った
エリックに聞いた店については 事前調査をして来なかった
現地で聞けば 場所くらいわかるだろうというスタンスだ
交番が目に入ったので聞いてみると あっという間に場所が判明した
人混みの間を縫って二人は進んだ
「スティッキーズ」とパステルカラーの丸っこい書体が踊る看板を見つけた
小中学生くらいの年齢層が対象のグッズショップらしい
店内が子供で溢れていた
商品を陳列しているエプロン姿の若い女性従業員に声をかける
「すみません こちらに高梨愛という方はいらっしゃいませんか?」
場違いな客に従業員は一瞬 「え?」となったが
質問の意味を理解すると 今度は「タカナシ タカナシ」と記憶を探り始めた
間もなく ふいに顔を上げ「ああ」と合点がいくと 「社長ー お客さん!」と叫んだ
奥から 在庫を運んでいた30才前後の女性がやって来た
「はい?」
「お忙しいところすみません 高梨愛さんですか?」
阿部と書かれた名札を胸に付けた女性は 二人に不審な目を向けた
「どなた?」
「私 調査会社の者です 山﨑里保さんについてお話を聞きたいのですが?」 
愛は渡された名刺を読むと 狭い店内を見回して言った
「今ちょうど忙しくて 30分くらい経ったら もう一度来てもらえませんか?」
加賀は承諾して 店を出た
「私が高校の頃は週末でもここまでじゃなかったけど 凄い人ね」 玲奈が言った
「子供たちがこんなに多いと 自分がつくづく年を取ったと感じるよ」
加賀がそう言うと
「ジジイ」 と玲奈が呼んで笑った
「おー 足腰が弱いんじゃ 負ぶってもらおうかのう」
加賀がそう言って玲奈の肩に両腕を回そうとすると 笑いながら逃げ回り
逆に加賀を後ろから抱きしめた
柔らかなぬくもりが背中に伝わった
意識が背中に集中して行く
すぐに玲奈が離れると 加賀の顔を見上げて微笑んだ
加賀も微笑み返した

二人はしばらく人の流れに混ざり スティッキーズの前の通りをニ度往復した
30分経って店に行くと 店内はまだ子供だらけで普通に歩けなかった
愛はレジ付近に立っていたが 二人を確認すると 「こっち」と手招きした
カーテンで仕切られた店の奥には 3畳くらいの狭いスペースに机と椅子が
置いてあったが 更に在庫のダンボールが積まれ 立錐の余地もない
愛がパイプ椅子を引き寄せ 勧めると 二人は立ったままでいいと遠慮した
愛が腰を下して言った
「あまり時間が取れないけど なんでしょう?」
加賀は里保を探していること この前の金曜にディスコモベキスで
目撃されたことを話し 何か知らないか?と尋ねた
「モベキスか 結婚してから行ってないなー」
愛はそう言うと 懐かしそうに目を細めた
「私は 里保が絶対才能あると思ったから ニューヨークでなんかやれるように
なるまで 日本に帰ってくんなって言ったの」 愛が笑いながら言った

33かっちゃん:2017/09/14(木) 20:50:31
「あの子ならその約束 絶対守ってくれると思ったけどな 何があったんだろ?」
愛の顔から笑みが消えた
「里保がモベキスで 踊らずにフロアを見てたなんて信じられない
あの子が普通であれば 絶対踊っているはず 最高だったプラチナを
覚えているなら あの子は殺されでもしない限り踊らないわけがない」
愛は強く主張した
結局里保の居場所に繋がる情報は何も出てこなかった
次を探さねばならない 加賀は少し望み薄かとも思ったが聞いた
「新垣美沙さんとは 今でも親交がありますか?」
愛の顔が 明るい表情に戻った
「ガキさん? もちろん たまに電話で話すよ この前話したのはお正月だったな」
「里保さんの情報を聞きたいので 新垣さんの連絡先を教えていただきたいのですが?」
「ちょっと待ってね」
そう言うと 愛は机のメモ用紙に電話番号を書き記し 加賀にくれた
「これ ガキさんの部屋の番号よ 昼間からはいないことが多いと思う
劇団に入って演技の勉強してて バイトの時も多いから 午前中の方がいると思う」
「どこに住んでるんですか?」
「横浜の保土ヶ谷よ 横須賀線ね」
二人は礼を言って店を出た
近くで見つけた公衆電話で早速新垣に電話をしてみたが 愛の言う通り
誰も電話に出なかった
「とりあえず夜にもう一度電話してみるよ ダメだったら明日朝一に電話する」
加賀は玲奈に言った
時刻は4時ちょっと前だった 9月になると夕闇が迫るのが早い
既に太陽が少し赤みを帯び始めている
街に流れる有線放送から アースウインド&ファイアのセッテンバーが聞こえて来た

事務所に戻ると 加賀と玲奈はソファに脱力して身を預けた
「人ごみの中を歩くと それだけで疲れちゃうね」
「ホント 私 今日はもう歩きたくない」
「泊まってく?」 ふいに流れで加賀の口から言葉が出た
「え?」 玲奈の動きが止まった
加賀の頭をあかりが過ぎった
「ウソウソ まだそんな時間じゃないし オンボロ車で送ってくよ」
「...うん お願いね」
玲奈は後から来た動揺を抑えて答えた

一息ついた後 今日の情報を纏めると
2人は1Fまで階段を下りた
雑居ビルの後ろには狭い駐車スペースがあった
深緑色のミニがひっそりと停められている
シンプルなデザインに惹かれて買ったイノチェンティ90という車だ
右ハンドルで運転できるのが嬉しい
ハッチバッグで荷物も結構積める
センターメーターにも慣れ 愛着があった
小柄な玲奈に似合うところも好きだった
秋の装いの彼女には もっと似合うだろう
内堀通りに出るとそのまま市ヶ谷へ向かった
道を行く人や景色を楽しみながら 夕暮れ時を走ると
涼しい風が開け放した窓から舞い込んだ
髪を風に遊ばれながら運転している加賀を見て
玲奈はこの時間がもっと続けばいいのに と思った

「明日は日曜だからゆっくり休んで 
今週はいろいろあり過ぎたから」 
玲奈を自宅前で下し 加賀はそう言って帰路に就いた
辺りはもう暗くなり 窓の外は様々な色の灯りで溢れていた
運転しながら高梨愛の言葉が思い浮かんだ
「あの子は殺されでもしない限り踊らないわけがない」
そんなことがあるのだろうか?

34かっちゃん:2017/09/14(木) 20:52:27
加賀は駐車場に戻ってくると 部屋に帰らず そのまま夕食を食べて行くことにした
そろそろカレーの順番か 
カレーショップ ローズに入った
「あらー 大家さん いらっしゃい」
朋子が店の奥から出て来た
5人が座れるカウンターが左にあり その向こうが厨房になっている
右にはテーブル席が3組あった
夜の8時近くだった 店の6割が埋っており それなりに忙しいようだ
カウンターの一番奥の席に腰を下した 空いている時はいつもここだ
厨房のマスターが口許を緩ませて いらっしゃいと言うように片手を上げた
朋子が氷の浮かんだ水を持って来た
「大家さん! 今日は辛ーいの食べて 精力つけてったらどうなの?」
ムフっと笑った
精力をつけるのはどうでもいいのだが 辛いものに挑戦したい気分だった
「じゃあ レッドカシミールで タンドリーチキンのハーフもお願い ラッシーね」
「はい」 朋子は注文を聞くと厨房に声をかけた
「レッドー チキンハーフ!」
朋子はそのまま加賀の横に立ち サテン地でテラテラと光る黒い服の
胸を 目の前に突き出して話し始めた
「昼間 大家さんの従兄弟の子と会って ちょっと話したの」
「ああ はい」
「明るくサバサバした子ね」
「そうですね ちょっとうるさいくらい」
「大家さん 優しくしてくれる? って聞いたら 言葉で責めてくる って言ったの」
「まー 変なことするんで注意はしますね」
「意外だったんで 夜は一緒に仲良くテレビ見たりしてるんじゃないの? って聞いたら」
朋子が目を見開いて加賀を見つめた
「割りと 乳舐めてきたり 引っ掻いたりして 強引なんやって」
「は?」 
「痛いっ言うてるのに ひっついてきて ハァハァ言ってるかと思ったら そのうち声出すって」
「はー?」
「大家さん 見かけによらず ハードなんだなーって」
朋子の濡れた赤い唇がニマーっと大きく開かれた
「あっ はい お会計ですか?」 朋子がレジに行った
あいつ何言ってやがる
加賀は恥かしさと怒りでイライラした
「ほら ターメリックいっぱいだから 精力増強よ!」 
朋子が余計な一言と共に置いていったカレーを 
汗をダラダラかきながら 加賀はたいらげた
食後のラッシーを持って来た朋子に
「朋子さん あかりが言ったことはデタラメですから」 と言ったが
「あまり いじめちゃダメよ」 と色っぽく言うと 片脚を曲げ
スリットから白い太ももを大きく出して からかうようにシナを作った
何を言っても 面白がられて無駄だと思った加賀は 「ごちそうさま」と席を立った
カレーでヒリヒリする唇と 大量に出た汗でひっついたシャツが 
イラつきを増大させた
急いで階段を5Fまで上ると 隣の部屋のドアを開けて怒鳴った
「あかりー!」
いきなり大声で呼ばれて ムスっとしたあかりが出て来た
大きめのTシャツ1枚で 下着は履いているのだろうが 裾から剥き出しの
白い太ももが伸びていた
「おまえ 下のカレー屋の奥さんに何言ったんだ?」
「カレー屋の奥さん?」
「チャイナ服みたいなの着てる人だよ」
「あー はいはい 楓が優しいか聞いてきたから 今みたいに責めよるって言うた」
「夜 ボクがおまえに何したって言った?」
「楓が?うん? モリトチが舐めたり 引っ掻いたり ひっついてきて 強引や言うたけど」
「え?」
割りと 乳舐めたり... 加賀は覚った でも 言い訳するのもかったるい
加賀は逆手に取って これからは朋子を言葉攻めにしてやろうかと 出来もしないことを考えた

35かっちゃん:2017/09/14(木) 20:54:26
「なんや? どないしたん?」 
あかりが反撃に出た
「いや あの カレー屋の奥さんが誤解して」
「何を」
「ボクが あかりを舐めたり 引っ掻いたりしてんのかと」
「アホやな」 あかりが笑った
「そうなんだよ」
いきなりあかりが 自分の大きな胸に加賀の顔を引き寄せ抱きしめた
頬の柔らかな触り心地と 石鹸のいい香りがした
「舐めてみっか?」 あかりが囁いた
加賀はカーッとなって押し倒してしまいそうになったが 寸でで思い留まり
顔を引き剥がした
「バッ バカか? 何言ってんだよ!」
「子供みたいやな 楓ー いくつになった?」
「おまえ 部屋を借りてる分際で よくそんなこと言えるな!」
怒りが湧き上がって来た
「そんなんやから 次に進めないんやで」
あかりはそう言って 加賀をドアの外に押しやった
「おっぱい飲みとうなったら いつでもきぃや」
ニヤッと笑って 挑発するようにそう言うと あかりはドアを閉めた
いったいどういうつもりだ! 加賀はムカついたが 程なく
胸の柔らかさを思い出してしまった自分を戒めた
試合に負けたスポーツ選手のような気持ちで自分の部屋に入った

加賀はテーブルの上に 持ち歩いているメモ帖や鍵を置くと
夜になったら 再度新垣美沙に電話をしようと考えていたことを思い出した
もう間もなく夜9時だったが 明日の約束が取れるなら 相手も今日の内がいいだろう
メモ帖を開いて電話機のボタンを押した
やはり出ない
もう1・2回コールを待ってから切ろうと思ったその時 電話が繋がった
「はい」 若い女性の声だった
「もしもし 夜分遅くにすみません 新垣さんですか?」
電話が切れた
もう一度電話したが誰も出ない 
間を置いて 更に一度電話をしたが 繋がることはなかった
最初に出た女性は新垣だったのだろうか? 
もしや?という思いもあった
明日の朝 新垣の家のある駅まで出向いて そこから電話してみよう
そう決めて 加賀はシャワーを浴びる為 服を脱いだ

翌朝加賀は朝6時に御茶ノ水駅から電車に乗り 横須賀線で保土ヶ谷駅に来た
7時を少し過ぎたくらいだ
新垣に電話をする時間は 早過ぎると警戒され 逆に遅過ぎると外出されてしまう
可能性があった もしも里保がいたとしたら尚更だ
考えてみれば 東京から少し離れた未婚の新垣の部屋は 比較的身を隠し易い
部屋の住所を知っていればと思ったが 高梨愛も最寄駅しか知らなかった
駅から電話をして 住所を聞いて訪れる もしくは 相手を駅に呼び出す
と言うのが加賀の考えだ
電話をする時間は8時と決めた 
加賀は様々なことを想定して 駅構内と周辺を確認しながら 
利用客にそれらしい若い女性がいないか 目を光らせた
日曜の朝ではあったが 東京・新宿・渋谷に出ようとすれば この時間から
電車で移動する人がそこそこいるのも頷けた
比較的小柄な女性 俊敏なダンスが踊れそうな体 そして借りて来た昔の写真の
雰囲気を思い出しながら 通り過ぎてゆく女性をチェックした
特に気になる女性が見つからない内に 時刻は8時となった
加賀は目を付けていた公衆電話に歩み寄り 電話番号を控えたメモ帖を開いた
電話をかける
3度目のコールで電話が繋がった
「はい 新垣です」 力強い響きの若い女性の声がそう言った

36かっちゃん:2017/09/14(木) 20:55:38
「もしもし 私 加賀調査事務所の 加賀と申します」
「はい?」
「山﨑里保さんを探してるんですが 何かご存知ありませんか?」
沈黙があった
加賀は受話器を持ちながら 駅を通る人々のチェックをしていたが
体を電話の方に向け 話している様子を見られないようにした
「切らないでください! そちらに里保さんがいるなら 
是非伝えなければならないことがあります!」
新垣は口を開かない
「そちらに里保さんがいるんですね?」
加賀は確信した
「里保さんの居場所はまだ誰も知りません 私も今気付いたので
誰にも話していません どうか少しだけでも話しさせてもらえませんか?」
「そちらが信用できる人なのかどうか わかりません」
ようやく新垣が応えた
「それでは 新垣さん まずあなたとお話しできないでしょうか?」
「...わかりました 今どこにいます?」
「保土ヶ谷駅です 高梨愛さんに聞いてここまで来ました」
「愛ちゃん?」
新垣の声が高くなった
「そちらの住所までわからなかったので ここにいますが
できれば そちらへ伺うことはできないでしょうか?」
「なんで?」
「新垣さんがこちらへ出向くと 他の誰かに 私が会いに来た相手が新垣さんだと
バレてしまいます また帰りに後をつけられる可能性があります」
「他の誰か?」
「私もわかりませんが 里保さんが見つからないようにしている相手です」
「あなたなら大丈夫なの?」
「一応こういう仕事ですので 尾行をまく方法は心得てます 監視している
人間がいるのかどうかはまだわかりませんが 少し時間がかかっても
安全にそちらに伺うことはできます」
新垣はどうしようか考えているようだった
「相手が新垣さんを知れば そちらの住所を突き止めることは簡単だと思いますが 
今追跡されなければ時間が稼げます 里保さんには 連絡を取れるようにして
外出してもらってください その際 保土ヶ谷駅は避けるように言ってください」
「わかった あなたがこちらに来て 
里保には駅に近づかないように言うわ」
新垣から住所と目印になるようなポイント 普段の所要時間を聞いた
安全の為 3倍の時間をかけて訪ねることを伝えると 電話を切った
加賀はショルダーバッグの中から地図を取り出し 
新垣の住むアパートの辺りを確認した 
新垣にはああ言ったが 里保の追っ手がいるとは まだ思えなかった
しかし 里保がその可能性を考えて身を隠している以上 
いるものとして行動する方がいいだろう
加賀は 目的地を目指しながら適当に角を曲がると 何度も後ろを確認した
新垣の部屋は2階建てコンクリートアパートの2階端にあった
呼び鈴を押した
ドアを開けたのは 童顔で小柄の気が強そうな女性だった
「加賀です」
「どうぞ」
加賀はあまり飾り気のない モノが整然と置かれた部屋に入った
今脱いだような靴は一足しかなかったが ベッドの横に畳んだ布団があった
里保がいたようだ
座布団に座ってと促され 低いテーブルの前に腰を下すと 新垣はベッドに座った
「加賀調査事務所の加賀です」
名刺を渡した
「お父さんからの依頼で 里保さんを探してます」
「里保には 外出させたわ 後でここに電話することになってる
私がいいと言ったら戻ってくるの」
「そうですか それでは早速いろいろとお伺いします」 加賀はメモ帖を取り出した

37かっちゃん:2017/09/14(木) 20:56:17
「里保さんはいつからここに?」
「そうねー 4日目になるよ」
「それまではどこに?」
「その一週間前に帰ってきて ホテルを転々としてたみたいね」
「一週間前...」
鈴本花音が目撃した里保は 日本に帰って来たばかりだったのか
「彼女は何故隠れてるんです?」
新垣は言おうかどうか一瞬迷ったようだった
「里保が言うには 命を狙われていると」
加賀は衝撃を受けた まさか!
「誰に?」
「はっきりとはわからないって言ってた」
「じゃあ 何故そう思ってるんでしょう?」
「ニューヨークで ピストルを持った男に遭遇したんだって」
「それは 偶然犯罪に巻き込まれたんじゃ?」
「男は日本人だったらしいよ その時は慌てて逃げたんだけど
日本に帰って来たら 空港で同じ男を見かけたって」
「たまたまとは考えられませんか?」
「里保は その男を前にも日本で見たことがあるって言ってた
どこで見たかは覚えてないけど おそらく広島でって」
「里保さんはニューヨークで命を狙われたから 日本に逃げ帰って来たんですか?」
「ピストルの男に会う前に 託したいことがあるから一度帰って来いって
お父さんに言われたそうよ それで帰ろうとしてたら襲われたって」
山﨑直記が里保に一度帰って来いと言った!?
加賀は初めて知る情報に困惑した 
直接言われたのか 人づてだったのか...?
本人に確認しなければ 本当のところはわからない 
質問を変えることにした
「里保さんが 先々週の土曜に広島に行かれたことを聞いてますか?」
「広島に行ったなんて一度も聞いてないけど」
何故だ? たまたま新垣に話していないだけか?
「里保さんは 命を狙われることに心当たりはあるんでしょうか?」
「おそらく お父さんの会社とか 資産絡みじゃないかと言ってた」
やはり相続なのか
とすれば 敵は誰なんだ? 何故山﨑直記はいろいろ隠すんだ?
「私は里保が心配なの 彼女はダンスで成功すべきよ なのに
こんなことじゃ 安心して夢に向かえない」
里保のダンスに触れた人は みんな彼女の可能性を期待している
加賀も彼女のダンスが見てみたくなった そして彼女を守らなければと思った
「ボクの仕事は人探しです 本来なら里保さんを見つけ 本人と確認できれば
後は依頼者に報告して終りです でも 命がかかっているのなら話は違う
敵を明らかにして 里保さんの安全を確保しながら お父さんに会わせるまでが
ボクの仕事だと思えて来ました」
新垣がジッと加賀の目を見つめていた
「あなたを信じる 里保を守って」
新垣が熱の篭った口調で言った
「もう10分もすれば 里保から電話がかかってくるはず」
部屋に掛かっている時計を見た
9時20分だった
緊張が解けた新垣は お茶を入れるわと流しに立った
加賀はメモ帖に今聞いたことと疑問点を書き記した
熱いお茶をそろそろ啜っていると電話がなった
「はい 新垣です 里保? うん だいたい話は終わった」
新垣は 私は信用できると思う と言った
加賀は本人と話したかったが 今電話を代わるとそのまま逃げられてしまう気がした
電話が終わると 新垣は申し訳なさそうに加賀を見た
「私はあなたに会っても大丈夫と言ったんだけど 里保はまだ警戒してる
結局 敵がわからないから 味方もわからないって」 
至極当然だと思った 
今のままでは 自分の行動が敵を利することになっていたとしても わからない

38かっちゃん:2017/09/14(木) 20:57:32
「新垣さん 今日は里保さんと話しをせずに帰りますが お話しを伺って
本人に確認しなければならないことが いくつもありました」
新垣は黙って聞いていた
「里保さん自身がどうしたいのか? このまま隠れているわけにも行きません
力になれることがあると思うので 電話でもいいです ボクと話しをしてくれるように
説得してください」
「もう一回言ってみる」
「不思議に思っていることがあるんです 里保さんはお父さんに会うために
日本に帰って来た なのに お父さんを怖れてるいるように見える」
新垣は少し上を見上げて口を結び 考え込んでいるようだった
「山﨑氏ほどの実力者なら 里保さんが連絡を取れば 安全な迎えを
手配することが可能なはずです 彼女はそれをしないで 何故隠れるのでしょう?」
「そうだわ」
新垣が呟いた
「ボクは明日から広島に行き 里保さんの敵を明らかにしようと思っています
その際 里保さんに確認できれば よりいろんなことが明白になるでしょう
里保さんが話す気になったら 名刺の電話番号に連絡をください
折り返しボクがこちらへ電話します」
「わかった 必ず里保を説得する」
加賀は 怪しい奴がいたら 里保の安全を第一に考え 今まで通り 
逃げるように伝えると 新垣の部屋を後にした

事務所に戻ると正午前だった
玲奈に明日からの電話番をお願いするため連絡を取ると
こちらに来ると言った
加賀はメモ帖を見ながら 新垣との話しを思い出していた
そして 里保が父を怖れているように見える以上 里保の発見を
山﨑氏 ミズキ 飯窪には まだ伝えることができないと思った
まずは敵を知らなければ
部屋の片隅にあるターンテーブルにLPを乗せ コーヒーを入れる
サティのジムノペディ1番を聞きながら 考えを纏めようとした
バン! けたたましくドアが開かれた
加賀が何事かとコーヒーカップを置き 顔を入り口の方へ向けると
パーテーションの向こうから あかりがズンズンやって来た
「なんやこの曲 辛気臭い! やめえや!」
「え?」
「死の曲や 死の曲 あー気が滅入るー!!」
「いや おまえが自分の部屋に戻ればいいだろ」
「あのな こんな曲聞いとると インポになるで!」
「あ?」 
呆れてものも言えなかった
あかりはプレイヤーのスイッチを押すと レコードを黙らせ 窓ガラスを開けた
「空気の入れ替えや」
「おまえ 今日から仕事じゃなかったか?」
「初日は説明だけや もう終わったで」
鎖骨が見える白のカットソーの上に黒の軽いジャケット 細身の黒のパンツという装いだった
ウエストのクビレと腰の丸みが 弦楽器のフォルムのように官能的だ
あかりは近づくと椅子を回し 加賀を自分の方に向けた
「楓ちゃ〜ん 昼間っから 物思いに耽ってるなんて 優雅やな」
片膝を椅子の上の股間につき 2本の指で加賀の顎を持ち上げるように撫でながら
耳元で囁いた
「え?」
加賀は何事が始まったのかわからず困惑したが あかりの膝の圧迫に
股間が膨張するのを覚えた
「よし! 今日も正常!」
あかりは 号令をかけるようにそう言うと スタスタと部屋から出て行った
「なんだ? なんなんだ?」
後に残された加賀は 目の前にあった ツンとした胸の膨らみと ルージュをひいた
あかりの唇の残像がチラツキ ドギマギが止まらなかった
「お疲れさまー」 扉が開き 今度は玲奈の声がした

39かっちゃん:2017/09/14(木) 20:58:16
「あれ? どうしたの?」
「どうしたの?って何が?」
内心加賀は焦った
「なんか いい香りがする 香水?」
「あー 今少し前 仕事帰りのあかりがいた」
「ふーん」
玲奈は無表情だった
「電話でもちょっと言ったけど 明日からもう一度広島に行くんだ」
「うん」
「で その間 来れる時でいいから電話番お願いできないかな?」
「いいよ」
流石にまだ 玲奈を広島に連れて行く気にはなれなかったし
玲奈も付いて行くとは言わなかった
加賀は ついに里保の居場所がわかったことや 新垣と会ったことについて
玲奈に話した
「なんだか よくわからないことになって来たね」
「だからこそ 里保さんと話したいんだ 1時間置きに電話を入れるから
連絡が来たら教えてよ」
「わかった 学校が終わったら できるだけ早く来るね」
「助かる」
加賀はその後 ここ数日の例に漏れず 電話をかけまくった
福村には 里保のダンス関係を当たっている内に 有望な情報があったと言っておいた
広島県警に電話し勝田を呼び出した 遅番出勤でまだいなかった
玲奈を襲った人物を知るための材料を用意してくれている同業者に連絡を取った
ついにネタは揃った
飯窪に電話した
山崎家に電話をすると いつもお手伝いの 山岸か牧野が出た
そこから内線で飯窪に電話を回すのだ
「はい 山﨑です」
今日は山岸が出た
「お世話になります 加賀調査事務所の加賀です」
「いつもお世話になります 飯窪に替わりますのでお待ちください」
「ちょっと待って 山岸さん!」
「はい?」
「実は 山岸さんに折り入って お願いしたいんだけど」
「はい... 私にですか?」
「明日 ボクはまた広島に行くんだけど 会えないかな?」
「え? 私とですか?」 戸惑っていたが 声は明るかった
「そう ちょっと話しを聞きたくて」
「はい...」
「それで 飯窪さんや須藤さん 牧野さんにも 他の人には ボクと会うことも
ボクが広島にいることも内緒にして欲しいんだけど できる?」
「...はい」
山岸は覚悟を決めたようだ
「お昼頃に西条駅に着くけど 山岸さんは出て来れるかな?」
「買い物に行くと言えば 大丈夫です」
「1時に西条駅の前でいい?」
「はい」
「ありがとう よろしくね それじゃ 飯窪さんをお願いします」
飯窪には 福村に言ったのと同じ 有望な情報があったので 明日から調査すると言った
玲奈がこちらをジーっと見ていた
「山岸さんには 調査で話しを聞くだけだから」
加賀は言い訳がましいのを自覚しながら言った
「何も言ってませんけど? 別にカエデーがどこの女と話ししようと私には関係ありません」
面倒臭い いつからこうなった?
加賀は席を立つと 玲奈の傍に行き 目を見つめて言った
「ボクを信じてくれないか?」
玲奈は吹き出した
「何それ?」 声を出して笑った
確かに加賀もそう思った 「何それ?」

40かっちゃん:2017/09/14(木) 21:21:34
少し早めの夕御飯をイタリア料理店で食べた後 加賀は玲奈を車で送って行った
玲奈は既にいつもの彼女に戻っているように見えた
しかし心の内まではわからない 加賀は仕事が片付いたら 旅行にでも誘ってみようと考えていた
車は御茶ノ水に戻らず そのまま青山に向かう
実家に戻ると母親のひとみがいた
「楓 最近よく来るのね」
「ダメ?」
「そんなわけないでしょ ゆっくりして行きなさいよ」
「そうも言ってられないんでね またあれもらってくよ」
「いいよ どうせお父さん そのままにしておくだけだから」
加賀がサイドボードを漁っていると ひとみが目を大きくしてやって来た
「そうそう ニュースニュース! 舞実がお付き合いしてる人がいるのよ」
「そなの?」
舞実は加賀の2つ上の姉だ 銀座のデパートに勤めている
3年前までは総合案内の受付嬢をやっていたが 今は後進の指導に当たる立場だ
傍からは 器量が良くて爽やかで運動もできる女性に見えるはず 
加賀は家族ながらも そう思っていた
「これであの子も 主任の彼氏は売り場にないんですか?って 部下にからかわれないわね」 ひとみが言った
男性からもてそうなのに 真面目過ぎるのか 28歳の現在も未婚だ
映画のお誘いを受けたら 手紙を書いて返事したので デートの予定日を
過ぎてしまったという舞実のエピソードを 主婦の友達に必ず笑ってもらえる話として 
披露していたひとみだったが ここ3年くらいは 隠すようになっていた
「それがね また手紙書いてたの」 ひとみが声の調子を落とした
「また? 姉ちゃん なんでそんなに手紙好きなの?」
「真面目だからね 気持ちが伝わるのがいいんだって」
「伝わってないから いつも長続きしないんだろ?」
「コラッ! ...なんでウチの子たちはみんな奥手なんだろうねー?」
若い頃 コンパで周りが続々とカップルになっていく中
ひとみは頑固オヤジの格好をした宴会芸で 場を盛り上げるのに一所懸命だった
そんな話を父から聞いている加賀は 母さんに似たんだよと心の中で呟いた
「往復はがき使えば 彼氏は楽かもよ?」
加賀がそう言うと ひとみはバカねと笑った

部屋に戻るともう夜の10時近くだった
加賀は明日の準備を済ませると シャワーを浴びて寝ることにした
髪を乾かし パジャマ代わりのTシャツを被った この時期はいつもこれだ
照明を切ると閉めたカーテンの上から僅かに外の光が射して 部屋を青くした
ひんやりとしたベッドに体を乗せようと思ったその時 
「ひやぁっ!!」 加賀は思わず大声を上げた
タオルケットを被った誰かがいる
「変な声出すなや」 あかりが小さな声で言った
「人のベッドで何してる? ビックリするだろ」
「何してるって 寝てるのに決まってるやろ」 また小さな声だ
「自分の部屋で寝ろよ」 加賀はこの後どうなるのか 少しドキドキした
「...怖いんや」
「へっ?」
「一緒に寝て」
「は?」
「昨日まで独りで寝てたろ? なんで今日に限って」
「音がしたんや」
「音?」
「誰もいないのに」 消え入りそうな声だった
ここのところ振り回されていたあかりが弱っているのを見て 溜飲の下がる思いがした 
イタズラ心で あかりの横の空いたスペースに寝っ転がってみた
「どんな音がしたんだ?」
あかりは震えているようだった 
「ドンドンって... 誰もいないのに ノックが鳴るような」
「ああ ボクがシャワー使ってたから 水道管が鳴ったんだよ」 
あっさりネタばらしして お開きにするつもりだった 
腰の辺りを 横からモゾモゾと触られた

41かっちゃん:2017/09/14(木) 21:22:58
「えっ? ホンマ? ホンマにそれだけやの?」
あかりがこちらを向いて嬉しそうに言った
色白の顔が青白く見えた 肌のキメが細かい 加賀は見入ってしまった
あかりのシャンプーの匂いがする
また下でモゾモゾ触られた
今度は股間の方で
加賀は 従兄弟だぞ? ボクには玲奈がいるんだぞ?と考えを巡らせながら
この子はなんて大胆なんだ と興奮もしていた
えーい! なるようになれ! と思った矢先
「なーんや ただの水道管の音なんや」
あかりが体を起こした
体の間から 犬が出て来た
「モリトチ 帰ろっ!」
あかりはモリトチを抱えると 肉付きの良い白い太ももを晒し スタスタと出て行った
ベッドの上に あかりのいい匂いと温もりが残された
...これで良かったのさ
悶々とした加賀は なかなか寝付けなかった

翌朝あくびを連発しながら なんとか時間通りに新幹線に乗ると
加賀は食事もせずに 座席でずっと寝ていた
新大阪駅を過ぎると ようやく無理に起きて 車内販売の軽食をつまみながら
今日の計画のおさらいをした
西条駅に下りると いい天気だった
少し前に来た時とは打って変わり 秋の涼しい風がそよいでいる
白のブラウスに茶のスカートを合わせた山岸が向こうに立っていた
お手伝いさんの前掛けをしていないと この前見た以上に幼く見え 中学生みたいだ
「加賀さーん」 弾んだ笑顔で山岸が手を振った
「待たせた? ごめんねー」 
「いいえ 今来たばかりです」
近くで見ると きちんと化粧をして 眠たそうな瞼が 少しキリっとなっていた
「ボクが広島にいることや 山岸さんと会うことは誰にも言ってないよね?」
「はい」 加賀の目を見て頷いた
「山岸さん 下の名前はミコちゃんだっけ?」
「そうです」
「じゃあ 今日はミコちゃんって呼ぶよ」 
加賀は親密さを出して仲間意識を持たせ 秘密の保持を狙った
「え? いいですけど」 山岸はモジモジした
「ミコちゃんは ここまでどうやって来たの?」
「買い物に行くと言って 五郎さんに車で送ってもらいました」
「五郎さんは?」
「たぶん パチンコに行ったと思う 3時間後にまたここで落ち合うことになってます」
「ごはん食べた?」
「は..い」
「ホントー? 本当は食べてないんでしょう? なんか食べよっか?」
「はい」 山岸は恥かしそうに同意した
世間話をしながら 少し歩いた喫茶店に入った
ランチメニューから 二人はスパゲッティーとサラダを頼んだ
「さっ 食べよ! いつもは黒木さんがお昼ご飯作ってくれるの?」
「はい」
「須藤さんも牧野さんも五郎さんも 一緒に食べてるの?」
「須藤さんとまりちゃんだけ 五郎さんは後で離れで食べてます」
牧野をまりちゃんと呼んでいるようだ
「飯窪さんは?」
「飯窪さんは 秘書室みたいなところがあって そこで食べてます」
「ふーん そーなんだ」
「山﨑会長は?」
「旦那さまは 寝室まで私たちが運んでます」
「そうかー 会長の様態はどう? なんか面会謝絶って聞いたけど」
「そうですね 外の方とは会われないようにしてます でも体調悪そうなのは
変わらないけど 電話をかけたり 西口さんや飯窪さんとは話してます」

42かっちゃん:2017/09/14(木) 21:24:15
面会謝絶であっても 中では指示を出していたのか!?
加賀は少し面食らった
「今日は 山崎家を調査しに来たんですか?」
考え込んだ加賀を見て 山岸が言った
「いや 調査と言うか 里保さんに会った時 今 家がどんな状態か説明できたらと思って」
「他の人には内緒で?」
山岸がひっかかってるのを感じて 加賀はある程度説明した方が
協力してもらえるのではないかと考え直した
「ごめん 実はやっぱり調査なんだ 里保さんが姿を隠した理由を探してる
それがわかって対処できれば 里保さんが出てくるんじゃないかと思って」
山岸は加賀の目をジッと見ていた
「その為には 山崎家の状況を知りたいんだけど 飯窪さんは秘書だから
言えないこともあるだろうし 須藤さんは務めが長いから 山崎家に不利なことは
言いたがらないだろう」
加賀は山岸の目を逸らさず続けた
「あと 家の中を知る人は ミコちゃんと牧野さんだけだが ミコちゃんの方が
口が固いと思ったから 話しを聞こうとお願いしたんだよ」
山岸は少し照れて俯いた
「わかりました 私で良ければ」
「ありがとう 助かるよ」
加賀はニッコリと笑みを見せた

喫茶店では誰に話しを聞かれるかわからないので 二人はあまり人気の無い
場所を探して歩き始めた
程なく近くの安芸国分寺に入った
「こんな街中に のどかなところがあるんだね」 加賀が木々を見渡しながら言った
「私は時々ここを散歩してます」
「へぇー ミコちゃん渋いね」
山岸がはにかんだ
「ところで 西口さんはどれくらいの頻度で山崎家に来るの?」
「だいたい毎日夕方以降に来てます」
「会長と話したり?」
「はい あと必ずさゆみさんと 2時間程います」
「ふーん さゆみさんはどんな感じ?」
「子供に戻ったというか さゆみが一番カワイイ とか よし 今日もカワイイぞ って
よく鏡に向かって言ってます でも 西口さんや須藤さん以外がお相手すると
すぐ癇癪を起こすんです」
「そうなんだ 以前のさゆみさんはどんな人だったんだろう?」
「私も聞いただけですが 今よりもっと綺麗で 頭の回転が早かったそうです」
加賀に寄り添って歩きながら山岸が言った
「そうかー」 加賀は空を仰ぎ見た
参道を少し離れて歩くと 玉砂利が二人の足音をリズム良く鳴らした
「そう言えば あかねさんのお母さん 千紗さんはどんな人だったか知ってる?」
「それも聞いただけですけど けっこうなんでも言う人だったそうです それで
飯窪さんとぶつかることも度々あったとか」
「へー ある日突然いなくなったの?」
「買い物に出かけて そのまま帰って来なかったらしいです」
「いつ頃?」 加賀は敢えて聞いてみた
「さゆみさんがおかしくなった頃みたいですね」 
「なにか関係があるのかなー?」
「わからないです」 二人は腕が触れ合う近さでひそひそと話し歩いた 
木陰を探している内に いつしか人影のない建物の裏に辿り着いた
「この前話したとき 飯窪さんと仲の良い 会社の偉い人がいるという話しだったけど」
「橋本さんですね... 仲が良いと言うか...」
山岸は3日前に見たことを思い出していた

その日は黒木が用事で休んだ為 山岸と牧野は五郎の運転する車で
街に出て 昼食を食べた後 買い物をする予定だった
「山岸と牧野は 山﨑の家に仕える者だということを忘れないように! 
五郎さん 時間通りに帰るのよ!」 飯窪は冷たく言い放った

43かっちゃん:2017/09/14(木) 21:29:00
「あの女 えらっそうに!」
五郎が運転しながら 愚痴った
確かに偉そうで厳しいが そんな飯窪を 仕事をきちんとこなす
大人の女として 山岸は尊敬していた
「ねー 五郎さん 今日は何食べるー? まり 市民球場でカープうどん食べて
ライトル選手応援したい!」
「そんなとこまで行かねーよ!」
「えー? 1番高橋慶彦選手 2番衣笠選手 3番ライトル選手 4番山本浩二選手 
5番三村選手で 今年も優勝するんだよ?」
「昼飯と関係ねーよ!」
山岸はこの2人を見てるのが楽しかったが なかなか会話に入っていけない
もどかしさを感じていた
更に今日はあの日だった
お腹に鈍痛を覚え せっかくの外出が色褪せて見える
西条駅前まで来た時 ついに我慢できなくなり 体調が悪いから帰ると切り出した
2人はここまで来たのに と引き止めたが無理だった
自分だけタクシーで帰った 料金まで気にしてられなかったくらいだ
山﨑の家で車を下りると 少しは持ち直して来た
こんなことなら あのままみんなで昼食をと思ったが 今から戻るわけにもいかない
打ちのめされた気分で離れの部屋に帰ろうとしたが その前に飯窪さんに会いたくなった
こんな時だからこそ 同情とは無縁そうな 彼女の言葉を聞きたかったのかもしれない
母屋に入り飯窪さんの部屋まで来ると ドアが少し開いていた
彼女には珍しいことだった

「全くあなたたち 街に出れるからって浮かれてるんじゃないの? 廊下の窓拭きが
終わってないでしょ? やってから行きなさい!」 山岸と牧野に叱咤した飯窪は
午後から橋本を呼び出すために電話をかけた
「ああ 橋本さん? 飯窪ですけど あなた今月の仕事どうなってるの? 報告
まだでしょ? いつもいつもいい加減にして! 早く来て報告しなさい!」
ガチャンと受話器を置いた
五郎と女の子二人が出て行くと 少し経ってサングラスを掛けた橋本が
白のセドリックに乗ってやって来た
黒の開襟シャツに白のスラックスを履いている
腕にはロレックスのデイトナ 胸元に金のネックレスをしていた
サンダルを脱いだ素足で廊下をズカズカ行くと ドアを開け 飯窪を見もせずに
ソファへドカッと腰を下して脚を組んだ
「あなた 今月の報告まだよね? どうなってるの? 何度言ったらわかるの?」
橋本は黙って セブンスターを燻らせていた
「いい加減 こちらも考えるわよ!」 飯窪が怒鳴った
「何を考えるって?」
橋本がタバコを咥えたまま 面倒くさそうに言った
それが合図だった
タバコをガラスの灰皿に押し付けると 飯窪の腕を取り自分に引き寄せた
飯窪は体を捩って逃れようとしたが 橋本の膝の上で座る形になった
飯窪は黒のスーツ姿だ
いつもはタイトスカートが多かったが スラックスパンツを履いていた
橋本が飯窪の胸をスーツの上から右手で揉みしだいた
左手は丸みを帯びた綺麗なラインの脚の上で蠢いている
飯窪は自分の両手を橋本の手に重ねると 動きを止めようとした
唇が髪を纏めてガラ空きの飯窪のうなじを這った
飯窪は小さく「あっ」と声を出した
飯窪を前のテーブルに押し出すと 橋本はスラックスの尻の丸みを
ねちっこく両手で撫で回した
ウエストが引き締まっているので 形のいい尻が手で摩る度に姿を現した
飯窪が体を起こし ジャケットを脱いだ
白のピシッとした細身のシャツが似合っていた
小ぶりだが 綺麗に隆起した胸の2つの丘を 橋本はこねくり始めた
ノーブラだった
ふと レースのカーテン越しに タクシーを下りる山岸を見つけた橋本は
後ろ手に掴もうとする飯窪を振り解いて立ち上がり 部屋のドアを少し開けた

44かっちゃん:2017/09/14(木) 21:35:08
橋本がソファに戻ると飯窪がシャツを脱いだところだった
舌をお互い噛み切るように貪ると 橋本は唾液の跡を付けながら
薄く盛り上がった胸へと舌を下して行く
乳首は既に固くなっていた
舌で押してもすぐに戻ってくる
軽く噛んだり 啜ったりして遊んだ
飯窪の手が橋本の股間の硬さをなぞった
相手のベルトがなかなか外せないもどかしさに
焦りながら 飯窪は橋本のスラックスをボクサーパンツと共にずり下げた
反り上がったモノがバネで弾かれたように飛び出した
太い雁首を横笛や縦笛を吹くように咥えると
更に怒張し竿に血管が浮き上がった
橋本がソファに再び腰を下すと
飯窪はスラックスと下着を脱ぎ 対面する形で跨った
にちゃにちゃくちゃくちゃと音がした
橋本は白い2本の太ももを撫で ツルツルした感触を味わうと
細い腰を両手で掴み 前後に揺らした

山岸は今部屋の中で行われていることが信じられなかった
あの飯窪が寄り目がちになって男を咥えていた
次には向かい合わせで突かれ 飯窪が形のいい尻を
座り心地を確かめるように何度も前後左右に微動させた
唇は唾液が光り 糸を引くこともあったが 自分の指を噛み
声を押し殺していた
橋本が白く細い綺麗な太ももをパシっと叩くと
それを合図に飯窪は橋本と同じ向きになり 再び腰を下した
飯窪は剃毛していた
接合部がこれでもかというように グロテスクに 淫猥に突き上げられた
山岸は顔を背けたかったが目を離せないでいた
気付くと橋本が山岸を見ていた
ニヤッと笑った
飯窪の耳元で「声出していいぞ」と囁いた

途端に飯窪は堰を切ったように歓喜の声を上げ始めた
「ああん 仁 もっと もっとちょーだいっ!」
そこにいるのは激しく互いを貪り合う男と女だ
飯窪は快楽に自然と動く体に任せながら
思い出していた
学生時代 地味で独り行動が多かった
周りの同級生は酒と男を楽しみ
遊びを知らない飯窪を憐れんだ
今はあの子たちが一生知ることがないであろう
危険な男を相手に 女を最大限に楽しんでいる
そう思うとあっと言う間に飛んでしまいそうだった
いつの間にか飯窪の纏めていた髪が解けて 長いおろし髪になった
それは乳房にかかり乳首を隠した
光る汗で髪が乳房にくっつき 体が突かれて揺れる度 チラチラと白い肌を見せた
橋本は飯窪をソファへ押しやると 細い足を掴んで折り曲げ 亀頭を沈めて行った
リズミカルに上下に動くと 突然動きを止め 中の纏わり付く壁の動きを味わった
やがて サイクルは早くなり 飯窪は甲高い声を出した
間を置かず橋本も体を雷に打たれたように硬直させ果てた
橋本は顔を上げると山岸を見て またニヤリとした
そろそろ次も仕込まなきゃな ぐったりと脱力した飯窪の前で小さくそう呟くと
舌なめずりした
山岸は今頃怖くなって 急いで離れに逃げた

「どうしたの?」 ボーッとしている山岸を見て 加賀が声をかけた
「あっ 私... 何でもないです」 情事を思い出した恥かしさで カーっと体が熱くなり 
顔が赤くなるのが自分でわかった
再び前を行こうとした加賀の背中を見ると 山岸は堪え切れずに 後ろから両腕を回し抱きしめた

45かっちゃん:2017/09/14(木) 21:37:28
「え?」
加賀は突然抱き付かれ 何が起こったのかわからなかった
なおもギュっと顔と胸を押し付けて来た
暖かい温もりと柔らかな感触が背中を支配する
「ちょっ...と.. ミコちゃん?」 困惑にようやく小さな声を出した
山岸は無口なまま 両手を加賀の股間まで下してくる
「ええ?」 さすがにまずいと思い 振り解いた
山岸がハッ!とした顔で加賀を見上げた
「ごめんなさい! 私 どうかしてました!」
「いや 謝らなくてもいいけど... ビックリしたー」
山岸が下を向いて泣き出した
「どうしたの? 何かあったの?」 加賀はオロオロした
「...私...最近...おかしくて...いいことなくて...」
しゃくりながら そう言った
加賀は長い腕で山岸を抱きしめた
一瞬ビクっと固まったが すぐに腕を回して抱きすがり 更に泣いた
山岸が落ち着くまで 熱くなった華奢な体を離さなかった
しばらくして泣き止むと山岸がゆっくりと体を離して加賀の顔を見上げた
元々赤ちゃんのような幼い顔をしていたが 紅潮し涙で潤んだ瞳になると
カワイイ小型犬のようだった
身をかがめて 山岸の額にチュッとキスすると もう一度軽く抱きしめた
山岸は涙を拭いはにかんだ
少しの沈黙の後 加賀は口を開いた
「後でボクの連絡先を渡すから 何か悩んだ時は 電話して来ていいよ」
「ありがとう... 加賀さんが好きです... 初めて見た時から気になって...」
「ごめん ボクには好きな人がいるんだ 悪いけど ミコちゃんには応えてあげられない」
山岸は寂しそうに三白眼を伏したが すぐに顔を上げ 加賀の目を見ると微笑もうとした
「助手の人ですか?」
「うん」
「そうですよね まだ私のこととか何も知らないのに いきなり好きって言われても
困りますよね」
加賀は黙っていた
「私 3日前 飯窪さんと橋本さんが愛し合うのを見たんです あの なんて言うか
凄く激しくて いやらしくて... でも 目が離せなかったんです」
山岸が小さな声で続けた
「大人の愛って言うか... それを思い出したら 体が熱くなって
加賀さんに抱きつきたくなって...」
「そうなんだ」 
「まりちゃんに 男の人は あそこをこしょこしょすると気持ちがいいって
聞いたことがあって...」
「それ なんか違うぞ! いや 合ってるのか?」
加賀は笑い始めた
山岸は恥かしさに赤くなっていたが 釣られてフフっと笑った
「もっと親密になってからだな それは! スケベなまりちゃんにも言っといて」
加賀はからかうように言った
「飯窪さんと橋本という人は 男女の関係なんだね」
「はい」
「橋本さんは どんな感じの人?」
「怖いです 目が鋭くて あまり喋らない感じで 会社の偉い人って聞いてるわりには
格好も会社の人っぽくなくて」
「何才くらい?」
「40歳か その上くらいかな」
「どんな仕事をしてるか 何か聞いたことはない?」
「なんか 飯窪さんに言われて やってるみたいなんですけど よくわかりません」
「その人が飯窪さん以外の人と話しているのを見たことある?」
「西口さんに何か言われてるのを見たことはあります」
「何回くらい?」
「2回かな 西口さんと来る時間がだいたい違うので そんなにないです」
「ふーん」 
ふと隣を見た加賀は 山岸の胸が顔に似合わず結構大きいことに気付いた

46かっちゃん:2017/09/14(木) 21:38:24
「もー どこ見てんですか!」 加賀の腕を叩いて山岸が抗議した
「いや あのっ」
「加賀さんもエッチじゃないですか!」 
「ボ ボクは女性の曲線に美を見出してるだけで エッチとかそういうんじゃないんです」
「変な人」 山岸は笑い転げた
加賀は視線がいやらしくなったことと つまらない言い訳をしたことに恥じ入り
「よわったなぁ」 と肩を落とした
「なんか嬉しかった」
山岸が加賀の片手を取る
「私も少しは魅力あるのかなって」
指を互い違いに絡ませる 
加賀は山岸の積極的な行動に驚いたが なすがままにされていた
「話しの間だけ こうしてもらっていいですか?」
返事はしなかったが 山岸と手を繋ぎ ゆっくりと境内を歩き始めた
肘に胸の柔らかい感触があった
「ミコちゃんって 結構大胆だね」
「私 人から大人しそうとか 眠そうとか よく言われるんです
そのせいかな? 時々反発したくなるのか 思い切ってやってみようって思うんです」
「そうなんだ」 加賀は握った手に少し力を入れた
山岸も握り返した
「なんかこうしていると 最近の嫌なことがスーっと抜けてくようで 幸せ
今日は ありがとうございます」
「ごめんね 都合良く利用して」
「いいんです 私が役に立てるなら 他にも何かありますか?」
「うーん なんかミコちゃんにいろいろドキっとさせられて 聞くこと忘れちゃった」
「ごめんなさい 思い出したらまた聞いてください」
二人は手を繋いだまま 無言で出口へとゆっくり歩いた
境内を出ると 山岸は手を離した
「付き合ってくれて ありがとうございます」
「ボクこそ」
なんとなく今日の用件はこれで終りという感じになり 二人は駅に向かって歩いた
「さっき聞いた西口さんと橋本さんの他に 山﨑家によく来る人はいる?」
「時々顔を見る人は何人もいますが よく来る人は 他にお医者さんと弁護士さん
くらいですね」
「弁護士さんはどんな人?」
「松原さんって方で 真面目そうな人です 旦那さまの病気が重くなり始めてから
よく来るようになりました」
「相続について 相談してるのかな?」
「わかりません」
「他に何か 変わったこととか気付いたことはある?」
「ないかなー?」
「あっ 西口さんは飯窪さんとよく話しをするの?」
「はい 毎日それほど長くはないですが なんか話してます」
「ふーん」
駅まで来ると 山岸は五郎が迎えに来る時間まで この辺りで時間を潰すと言った
「今日はありがとう これは謝礼です」 加賀はお金の入った封筒を渡そうとした
「それは いただけません」 
「また何かあったら 教えて欲しいんだ そのためにも今日のことは仕事として
報酬を受け取って欲しい」 
「仕事ですか...」 山岸は寂しそうな顔をしたが 思い直して 
「仕事ですもんね ありがとうございます」 と受け取った
「何か新しい情報や 思い出したことがあったら 名刺に書いてある
ボクの事務所に電話して欲しい 繋がったら電話はこちらから掛け直すよ」
「わかりました 加賀さんも また広島に来ることがあったら 私を呼んでください」
「うん そうするよ」
二人は改札口で別れた
加賀は次の予定の広島市に向かった 時刻は夕方の4時だった
広島駅から少し離れた同業者に寄り 頼んでおいた資料を入手すると
広島県警前まで移動し 近くにある喫茶店に入った
昨夜会う約束を取り付けた勝田を待つ間 先程入手した資料に改めて目を通す

47かっちゃん:2017/09/14(木) 21:39:22
「なんだよ話しって?」
勝田が対面の椅子にドカっと腰を下しながら声をかけた
重そうな瞼の下から鋭い瞳が覗いている
「この間はありがとうございました」
「そんなこと言いに来たのか? こっちは忙しいんだぞ?」
「いえ お礼もだけど もう少し聞きたいことがありまして」
加賀は隣に置いていた紙袋を一つ取り 勝田に渡した
「ヘネシーのXOじゃねーか」
「どうぞお持ち帰りください 家に余ってるんで」
「こんなの余ってるってどういう家だよ?」
「父が不動産関係の仕事してんです もらいものだけど殆ど飲まないので」
「おまえ 買収しようってーの?」 勝田が下から見上げるように言った
「この前のお礼ですよ」
勝田が本当か?と言うように目を細め 胡散臭げに加賀を見た
「別に捜査情報を聞いたわけじゃなくて 世間話しただけじゃないですか」
少しの沈黙の後 勝田は「まあな」と言って紙袋を自分の横に置いた
「で 今度は何が聞きたいんだ?」
勝田はタバコに火を点けて咥えると オメガを巻いた腕をテーブルに放り出して言った
「尾形建設って知ってますか?」
「ああ この商売やってりゃ知ってて当然だ」
「ここもヤクザなんですか?」
「春水組の企業舎弟だな」
「総道会とは敵対関係ですか?」
「いや そうじゃない 春水も総道会だ」
「大澤組との関係は?」
「三次団体の八反と違って 大澤も春水も二次団体だよ」
「仲がいい」
「いや 仲良くはねーな 春水の組長の方が下なんだが 
大澤が透析やってるような状態なんで その間に勢力伸ばしてて 大澤は面白くねー」
「大澤組は衰退してるんですか?」
「衰退ってほどでもないがな 若頭の飯田ってのがしっかりしてるから
姐さんの裕子が飲み歩けるくらいだ」
「なるほど」
「おまえ 本当に引っ掻き回す気ないだろうな?」
「そんな危険なことできるわけないじゃないですか ただの調査ですよ」
「おい 神戸に頼まれてんのか?」 勝田が小声で言った
「違いますよ」
「それならいいが この前共存共栄でやるってなったばかりだからな」
「勝田さんって いい人ですね」
「何言ってんだ 唐突に」 勝田が睨んだ
「ちゃんといろいろ教えてくれる」
「チッ 世間話してんだよ」 そう言って勝田はタバコを灰皿で揉み消した
「じゃあ話に付き合っていただいたので もう一本どうぞ」
そう言うと加賀は更にブランデーの入った箱を取り出した
「仕事に戻るぜ」 勝田は席を立ち上がると 
加賀が新たに出した箱を鷲づかみにし 紙袋に入れた 
「石田さんと分けるわ くれぐれも騒ぎを起こすなよ」 そう言い残すと出て行った

喫茶店を出ると加賀は流川を目指して歩き始めた 時刻は間もなく夕方の6時だった
夜の街にはちょっとばかりまだ早いと思い 途中ラーメン屋で軽く夕食を済ます
事務所にいる玲奈に4度目の電話を入れた
「はい 加賀調査事務所です」
「ハァハァ」 加賀は声色を変えていた
「どちら様ですか?」
「ハァハァ 今独り? 何してるの?」
「仕事ですけど」
「下着は何を」
「バッカじゃないの? バレバレだよ? 何してんの?」 玲奈が怒った
「いやー 退屈してないかなと思って」 笑ってもらえず加賀は焦った
「...そんな人だと思わなかった...ガッカリした」 玲奈が涙声になった

48かっちゃん:2017/09/14(木) 21:40:17
「え? ごめん ちょっと驚かせようと...」
「真面目に仕事してたのに...」 玲奈が悲しそうに言った
「悪かった 反省するよ」
「ヒャハハハッ! 反省した? ふざけちゃダメだぞ!」
「あ? 騙したなー 酷い 傷ついた もう立ち直れない」 加賀は心底ホッとした
「何言ってんの? こっちの方が傷ついたよ 下着なんか聞いてくるから」
「冗談です 冗談」
「ふーん じゃあ玲奈の下着知りたくないんだ?」
「え? ... もうヤメ! ごめん悪かった 話を変えよう!」
「ごめん... 私も調子に乗り過ぎた」 
「新垣さんか里保さんから連絡はない?」 引きずるのが嫌で すぐに仕事の話へ移った
「まだないよ」
「おかしいな 里保さんは何を躊躇っているんだろう?」
「何だろうね?」
「ボクを敵だと思っているのなら 新垣さんの部屋を出るはず
そしたら 新垣さんから連絡があるはずなのに」
「新垣さんが用事でずっと外出してるのかも?」
「それも考えられるな こうなったら後でボクが直接電話をかけてみるよ
もう向こうの意思に任せて待ってられない 逃げられたら その時はその時だ」
「その方がいいと思う」
「キミはもう帰っていいよ お疲れ様」
「わかった カエデーはこの後どうするの?」
「ボクらの敵を明らかにする」
「危ないことはしないで」
「大丈夫」
「気をつけて」
「うん 玲奈も帰りは気をつけるんだよ」
「うん」
もう少し話していたかったが 加賀は受話器を置いた さぁ ここからが勝負だ

流川に着くと 先日入った店先を手始めに大澤組の裕子が乗るベンツを探した
見当たらない
今日は飲み歩いてないのか? 加賀は少し焦ったが 新天地や薬研堀も見て回った
「いた!」  小一時間は探しただろうか? ついに裕子のベンツが停まる店を見つけた
後ろに更に一台 セダンのベンツがいる
意を決して店の扉を開けると シャンデリアが薄暗い光を放ち 
紅の絨毯と同じ色のビロードのカーテンが加賀を出迎えた
程なく 奥からスパンコールが付いた銀のドレスを纏った女が出て来た
30半ば 少し濃い目の化粧のその女は 雌豹のように締まった体をしている   
加賀は白のスタンドカラーのシャツにベージュのチノパン スニーカーという格好だった
一目で金を持っていないとわかる
「お客さん? お独り?」 女は場違いの客に困惑しているようだった
「こちらに大澤組の姐さんがいませんか?」
女は眉をひそめると そそくさと奥の方へ戻って行った 
代わりに前回と同じく 猪首の男が出て来た
「おまえ また何しに来とんじゃ?」
「姐さんに話しがあります」
「ああ? くだらねー話しじゃったら しばくぞ」
加賀は男の後に付いて 奥へ進んだ
裕子は強面の男と話しながら ブランデーをロックで呷っていたが
猪首の男が「姐さん またこいつです」と言うと 般若の面の如く加賀を睨み付けた
「おまえ 何や? 何でまだ広島にいるんや?」
「いえ 一度帰ったんですが また話がありまして」
「ウチは言ったで これ以上こっちゃを巻き込むなっちゅーて」
「一つだけ 教えてもらえませんか?」
「あかん おまえに何を教えるっちゅーのや?」
「誰の指示で彼女がさらわれたのか知りたいんです」
「八反の工藤がさらった 言うたやないけ」
「工藤に指示した人間がいるはずです」
裕子は「ふっ」と鼻で笑うと 「ひつこいのぉ」と呟いた

49かっちゃん:2017/09/14(木) 21:42:14
「こいつ どうしやす?」 猪首の男が言った
「今 飯田と話しとんのや 終わるまで待たしとき」
裕子はそう言うと 若頭と思われる男に向き直った

加賀は少し離れたテーブルに座らされた
「舞でーす よろしくね」 茶色のセミロングの巻き髪をしたハタチ過ぎの女が隣に座った
「タバコ吸う?」
「いいえ」
「じゃあ飲み物作るね ロックでいい?」
「すみません 後で姐さんと話すので ウーロン茶でいいです」
「えー つまんない」
舞はビンの中身を素早くグラスに注ぐとコースターの上に置いた
「はい ウーロン茶」
「どうも」
「ねー どこから来たの?」
「東京です」
「やっぱりー 広島の人って感じじゃなかったもん」
「そうですか」
「なんか自然なんだけどオシャレなの」
「そうですか」
「何ー? 緊張してんのー? 面白ーい(笑)」
「い いや そういうわけじゃ」
「えー いくつ?」
「26です」
「ウソ! 舞より上なの? 信じられなーい もっと若いかと思った」
「すみません ガキっぽくて」
「ごめんごめん ガキっぽくなんかないって」
「そうですか」
「面白ーい(笑) ねーねー 舞はいくつに見える?」
「えーと 18?」
「えー ホント? 嬉しい! でも ハズレ!」
「ハタチ!」
「ブッブー! もういいよ バレちゃうから」
「残念」
「(笑) 変な人」
「よく言われます」
「ねー 指綺麗だねー」 舞はそう言うと加賀の手を取り 眺めた
「そうですか?」
「うん 長くて ごつごつしてなくて綺麗」 指を絡め始める
「セクシーな指」 うっとりした声で舞は言った
「舞も少しお酒飲んでいい?」
「どうぞ」 うっかり言ってしまった後に 加賀は財布の中身を思い出そうとした
水割りのグラスを持って再び隣に戻って来た舞は 加賀と乾杯した
「美味しい ねーねー 普段は飲めるの?」
「そんなに飲まない」
「へーそうなんだ タバコも吸わないし お堅いんだね」
「いやーそんなことは...」
「ねー でも女にはもてるよね?」 舞が加賀の太ももを撫で始めた
「えっ? もてないもてない」
「ウソっ もてるでしょ?」 手が内ももまで伸びてきた
「彼女は?」 
「いるような いないような」
「何それ?(笑) じゃあ 舞がなったげよっか?」 ポッテリした濡れた唇で囁いた
肩と胸の谷間を出した黄色のサテンドレスは ウエストで折れそうなくらいに
くびれ 舞を一層艶めかしく見せている
加賀は下が反応しかけ 体をずらして舞の手を遠のけた
舞は面白そうに 加賀の様子を伺っている この小悪魔め!
「ねー 本当はウブなフリしてるだけなんじゃないの?」 舞がイジワルそうに見つめた
「実は そうなんです!」 加賀が見栄を切ったその時
「坊や 話終わったで こっちゃ来いや」 裕子が呼んだ

50名無し募集中。。。:2017/09/14(木) 22:19:17
くっころくっころ

51名無し募集中。。。:2017/09/15(金) 10:39:37
よこやん「ところで 俺のお気持ちを見てくれ こいつをどう思う?」
かえでー「すごく・・・小さいです・・・」

52名無し募集中。。。:2017/09/15(金) 22:32:05
本スレ落ちてるぞ

53名無し募集中。。。:2017/09/16(土) 00:37:26
すまん

54名無し募集中。。。:2017/09/16(土) 01:10:35
本スレ立て直しますか?

55名無し募集中。。。:2017/09/16(土) 01:23:42
立て直しました

横山よこやんのおちんちんが加賀かえでーのおまんまんに届かない!3.5本目 [無断転載禁止]©2ch.net
http://matsuri.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1505492424/

56かっちゃん:2017/09/16(土) 05:09:57
席に行ってみると 既に飯田はいなくなっていた
高木と呼ばれた男と もう一人ガタイの良い男が座っていた
「それで? おまえが知りたいことはわかったが タダで教えろとは言わんやろな?」
裕子は赤いマニュキュアが目立つ 白く細い指でタバコを挟むと
不機嫌そうに艶っぽい唇へ持って行き 火を点けた
「はい それは」
「また山﨑が払うはナシやで? 自分の女のことは自分でしぃや」
加賀の返事を断ち切って裕子が言った
「はい 今日は興味ありそうな話を持って来ました」
「なんや? 言うてみぃ」 裕子が面倒くさそうにアゴをしゃくって促す
「ちょっと広島市内の路線価の推移を見てたんですよ」
加賀は持ってきた資料をテーブルの上に出した
「1㎡当たりの宅地評価額で これ見てください」
裕子は黙って従った
「安佐南区の価格がどんどん上がってます これはご存知のように
数年前から始まった宅地開発によるものです」
「それで?」
「特に上がり方の激しい所には 学校等の公共施設 大型の商業施設が周囲に建っていたり
建設予定ですが そこのデベロッパーを見てたら 大手ゼネコンの他にいつも出てくる
地元の建設業者があるんです」
「まー 地元の有力なところは いつも入って来るんちゃうんか?」
「そうですけど それで見方を変えて 今度はその辺りの土地所有履歴を見ました 
不動産登記簿を地元の協力会社に当たってもらって」
「まどろっこいのぅ」 裕子が呟く
「そうすると 詳しくは省きますが 所有者や抵当権設定でよく出てくる会社があって
それが先程話した地元デベロッパーだったんです」
「どこや?」
「尾形建設です」
「尾形ー?」 裕子の声が上ずった
「尾形が何をしよったって おまえは言いたいねん?」 加賀を睨んだ
「おそらく 施設計画の情報をいち早く入手して 建設予定地や周囲の土地を
複数の所有者から買取り まとまった土地にして転売してるのではないかと」
「春水め...」 裕子はそう呟くと考え込んだ
「ここまで 大きく動くということは 政治家 市の関係者 銀行にそれぞれ
協力者がいますね それらを全部繋げるコーディネーターがいるのかも?」
「飯田をもいっかい呼べや」 裕子が高木に言った
飯田を待つ間 裕子は高木と春水組について話し込んでいた
「すまんのぅ 何度も呼び出して」 戻って来た飯田に裕子が声をかける
「何じゃった?」 飯田の跳ね上がった濃い眉が眉間に寄った
「まずは こいつの話を聞いてや」
加賀はもう一度話した
「春水の奴 随分羽振りがええと思ったら デカいシノギしよるな」 
そう言うと飯田が息を吐いた
「ちぃと 春水と尾形に出入りしてるもんを チェックせにゃならん
こんなシノギは春水の頭やない 誰ぞ 絵描いとる奴がいるで」 
裕子は 吸うピッチの上がった何本目かのタバコを 灰皿に押し付け消した
「坊や この件について更に調査してくれんか?」 裕子が聞いた
「すみません ボクは今 波浪の仕事で手一杯で」
「なんや 冷たいのぅ」
「工藤に指示した人間を教えてもらえますか?」
「...わかった 教えたる」 裕子はそう言いながら 別のことを考えているようだった
「誰ですか?」 加賀が身を乗り出した
「橋本 仁 という男や」
加賀は驚いた なぜ橋本が?
「その橋本という人は どんな人ですか?」 
「元はウチらと同業よ まー今も同業に近いわな もう無くなったとこで
若頭補佐やってた男や 組が解散した時に腕っ節買われて波浪に転職 ちゅーわけや」
加賀は考えが纏まらなかった
「工藤は前の組からの舎弟や 橋本は関連会社の社長ちゅー話やないけ 
出世したもんやの 気ぃつけーや 荒っぽい男やで」 裕子が面白そうに言った

57名無し募集中。。。:2017/09/16(土) 21:04:00
かっちゃんさんお疲れ様です

58かっちゃん:2017/09/17(日) 13:33:20
加賀は夜の街を歩いていた
裕子は既に春水組のことで頭がいっぱいらしく 加賀を引き止めようとはしなかった
春水のシノギを分析し 自分たちのシノギに繋げて行くのだろう
そういうところには 抜け目がない人種だ
だいたい思い描いていた通りに事が進み 本来なら安堵と喜びを感じてもよさそうなものだが
橋本が玲奈を襲わせたという解答が加賀を考え込ませていた
橋本独自の行動なのか? それとも誰かからの指示なのか?
独自の行動だとすれば 里保以外 おそらくは西口が 波浪の資産を受け継ぐ
ことを望んだものだろう
誰かの指示だとすれば それは西口 もしくはそれ以外の西口派の人間のもの
だと思われる
いずれにしても山﨑の意思に反する計略であり 山﨑の知るところとなれば
ペナルティを科せられるはず
しかし飯窪やミズキに玲奈のさらわれた件を報告した後も 反山﨑会長派の存在を
臭わす話は聞いていない
いや ミズキと最初に会った時 相続の揉め事が起こりまして と言っている
こちらが知らないところで 激しい攻防があったのかもしれない
飯窪やミズキが加担しているのだろうか?
飯窪は橋本と男女の関係だから 可能性は大いにある
反山﨑会長派は 里保をどうしたいのだろう? 殺す? まさか!
玲奈に手を出さなかったことから 事態が表面化して 成り行きが変わることを
避けているように見える 
やはり 山崎の寿命という時間切れまで 里保を会わせないつもりと
考えるのが妥当だろう
加賀は 以前考えた敵の狙いと同じ帰結に達し 敵を掻い潜って
里保を山﨑に会わせることがミッションだと思った
しかし 山﨑には そして里保にも 釈然としない思いが残っていた
敵が見えたと思ったのも束の間 どこまでが敵なのかわからない
あまり状況が変わっていないことに気付く
飯窪はもちろん ミズキさえも敵である可能性を残したまま
ミッションを遂行しなければ 
加賀は改めて 今後の舵取りの難しさを感じていた

時刻はまだ夜の9時半だった
加賀は予約していたホテルに入ると 新垣に電話をした
「はい 新垣です」 いた!
「もしもし 加賀です 夜分すみません 今ちょっといいですか?」
「ごめん 連絡取ろうと思ってたんだけど ヒマが無くて」
「何かありました? 里保さんは?」
「里保は別のところに移ったわ」
「え? どうして?」
「昨夜 里保が外出した帰りに 男につけられたの 
回り道してまいたらしいんだけど 今朝部屋を出たいと言ったので
私も手伝ってホテルに入ったわ」
「どこのホテルですか?」
「...言えない あなたを信じたいけど 里保が あなたが来たその日に
つけられたので まだ信じられないって」
「まいったな」
加賀はもどかしさで焦る気持ちを 落ち着かせようと努めた
「里保さんに伝えてくれませんか? ボクはどうしても里保さんと話がしたい
今日 ボクらが里保さんを探している時に 邪魔をして来た人間がわかりました
波浪興産関連会社の社長です 心当たりはありませんか?と」
「伝えとく」
「もう一つ あなたは何故お父さんを怖れているんですか? これを伝えてください」
加賀は直感的にこの問いをすべきだと思った
「わかったわ」
「明日 朝の11時以降に事務所へ電話してもらえませんか? 里保さん本人が!
電話で話す分には問題ないでしょう?」 加賀は力を込めた

59かっちゃん:2017/09/17(日) 13:33:55
電話を切ると 加賀は強く出過ぎたような気がして 
新垣が協力的でいてくれるかどうか 少し心配になった
なかなか進まない状況に 明日里保と話せたら それを飯窪に連絡して
この件は終りにした方がいいんじゃないか? という考えが頭を過ぎる
もやもやした頭をリセットしたいと思い シャワーを浴びた後 もう一度夜の街へ繰り出した

適当なカウンターバーに入ると 落ち着いた雰囲気で悪くなかった
飲み物はバーテンダーに見繕ってもらう
こういう店は 調査でしか入ったことがない
普段の加賀は飲み歩くということをしなかった
程好い酔いで 気分が開放されて来たと感じていると 
後から隣に座った若い女性から声をかけられた
「それ 何飲んでんですか?」
「ジントニック」 
「へー おいしい?」
「うん」
女はハタチ過ぎで茶色のミディアムヘア 
白のチューブトップにデニムのショートパンツという服装だ
露出した肩 胸元 ヘソが見えるウエストは 日焼けして小麦色だった
裾を切り落としたショートパンツから伸びる 細めの太ももが健康的だ
「わたしもそれ 飲もっかなぁ マスター! これと同じのちょーだい」
女はオーダーすると 加賀を見つめてニコッとした
「お酒強い?」
「いや」
「そうなの? でもカクテルとか似合いそう」
女の前にグラスが置かれた
「あっ キタキタ じゃあ カンパーイ!」
勢いに乗せられ加賀は乾杯した
「わたし瑞希 あなたは?」
「かえで」
「へー 女の子みたいな名前 でもカッコイイ!」
加賀は同じ名前の福村を思い出したが 今は忘れようと目の前の瑞希の笑顔を見つめた
「なに? わたしの顔に何かついてる?」
「いや カワイイなと思って」
「えー 本当ー 嬉しい!」 白い歯が光った
「かえでさん カッコイイね」
「そんなことないよ」
「えー 手足長くて スラッとしてて わたしはチンチクリンだから 羨ましい」
「いい感じに日焼けしてるね」
「ホント? でも半分は地黒なんだよ!」 瑞希が笑った
「ほら もっと飲んで 次 わたしが頼んであげよっか?」
加賀は残りのジントニックを飲み干した
「マスター! このかえでさんに マッカランをロックで!」
「え? 何それ?」
「おいしいシングルモルトだよ 絶対気に入るって!」
「あんまり強くないんだけどな」
「大丈夫 大丈夫」
グラスが出て来た 琥珀色の液体にゴツっとした大きな氷が浮いている
「ウイスキー?」
加賀は恐る恐る口を付けてみたが 口当たりが良く飲み易かった
酔いが回る
「ねー おいしいでしょ?」 瑞希が顔を近づけて囁いた
頷くとチューブトップからはみ出た 黒光りする胸と谷間が目に入った
「あれれ? 結構酔っちゃった? じゃあ 外に出る?」
瑞希はスツールから下りると加賀に腕を回し 立たせようとした
柔らかな胸が当たる
二人分のお代を払うと 瑞希は 「嬉しい!」 と頬にキスして来た
店の外は夜の涼しい風がそよぎ 心地良かった
「次 行こっか?」 
瑞希が二つの胸の膨らみを加賀の腕に押し当て 色っぽく耳に囁いた

60かっちゃん:2017/09/17(日) 13:34:51
加賀は腕を引かれるまま歩いた
酔いが体をふわふわにさせ 楽しかった
「ねー かえでさん ゾンビって知ってる?」 瑞希が振り返った
「え? 去年ちょっと話題になった映画?」
「そうそう 観た?」
「うーん 観てない」
「えー 面白かったのにー」 そう言うと瑞希は3・4歩離れ 加賀と向き合った
「いい? ゾンビは死人でこんな風に歩くの」
そう言うと 手足を棒のように曲げずに動かし 両腕を肩の高さに持ち上げ
ぎこちなくゆっくりと歩き始めた
「ゾンビに掴まれて 喰い付かれたら かえでさんもゾンビになっちゃうよ!」
「え?」 加賀は後ずさると 酔いで脚が絡まりよろけた
「ほら 逃げて逃げて! アハハハ」 瑞希は楽しそうに ギクシャクと迫る
「ハハハ ダメだ 怖すぎて逃げらんない!」
加賀が背を向けると 「うぁあ〜」と低い声を上げながら瑞希が腕を肩に掛けて来た
「アハハ! ヤメテッ! 喰われるー! ハハハ」
瑞希は加賀を引き寄せ 抱き付くと 首筋を甘噛みした 密着した体が柔らかかった 
髪が加賀の顔にかかり シャンプーと女のいい匂いがする
くすぐったい瑞希の唇がうなじを這った ゾクゾクっと興奮した 
「さぁ これでかえでさんもゾンビだよ わたしと一緒に来るの!」
瑞希が笑いながら言うと 加賀も「うぁあ〜」と唸り声を上げ ぎこちなく歩き始めた
周囲を歩く人々は 二人のじゃれ合いを大きく避けて行く者
全く意に介さず楽しそうに大声で会話して行く者 さまざまだったが
通りの看板を照らす灯りとネオンの輝きが 酔客の気分をお祭りのように高揚させた
少し歩くと通行客がまばらになり 呼び込みも店の前でたむろする客もいない 
入り口とそこに誘う料金看板が目を惹く ネオンに彩られた建物群が向こうに見えた
「アハハ ねー ちょっと疲れた 休んでいこ?」 寄りかかった瑞希が上目使いで 
吐息交じりに言う
少し汗ばんで 通りの灯りで光る肌と 乱れて頬にかかった髪があだっぽい
瑞希は加賀の腕を取り 自分の胸に押し付けている 
はしゃいで速くなった鼓動が 弾力と共に伝わって来た気がした
「疲れたー」 先程の体が浮くような感覚が転じ 足が重く持ち上がらないもどかしさを
感じ始めた加賀も言った
ふと 瑞希が何かに気付いたように歩みを止める
「ごめんね また遊ぼ」 そう言うと体を離し あっと言う間に横の小路に姿を消した
置いてけぼりの加賀は追いかけようとしたが いきなりのことに呆然となった
「いよー 加賀くん!」 前から歩いてきた小柄な中年の男が呼ぶ
「石田さん」
「お土産もらったよ ありがとな」
「いいえ  こんなところで会うなんて」
「そりゃこっちの台詞だ 俺は生安だからね たまにこうやって繁華街をチェックするんだ」
「生活安全課だったんですか 沖縄730の時に応援に行かれたと聞いたから
てっきり 交通課かと」
「あの時はな 交機だったよ ま 年食えばこういう部署に落ち着くもんさ」
「先日はありがとうございました おかげで助かりました」
「勝田に会わせただけで 何もしてないけどな ところで危なかったな今」
「え?」
「女といたろ? あれ この辺では有名な美人局で クロって言われてる子だ」
「美人局...」
「明るく元気ないい子なんだけどな 佐々木っていうヒモが悪い奴で」
「そうでしたか...」
「残念だったな ま 広島で一つ勉強したと思ってくれ」 石田は少し面白そうだった
加賀は酔いが覚めたのか 一瞬急に寒さを感じブルっとした
寂しさが忍び寄ると共に 頭が仕事を考え始める
「石田さん 波浪興産の関連で 橋本仁という人が社長やってる会社知りませんか?」
「いきなりだな うん? はしもと... 仁か何か今わからんが 波浪企画という会社の
社長が橋本だ」
「どんな会社か知ってますか?」
「波浪興産の強面部門だな 総会屋対策とかヤクザとの折衝 あそこは興行やってるから
あと グループ企業全体の防犯対策なんかやってる」

61かっちゃん:2017/09/20(水) 21:45:55
「面識ありますか?」
「防犯係の手伝いで一度会ったな ありゃ社長と言ってるけどヤクザだ 
あとで四課の奴に聞いたら 本当に昔ヤクザだったってよ
かなり凶悪な奴で いろんな会社を脅して潰したり 女を痛めつけるんで 
『壊し屋』と呼ばれてたらしい」
「そんな人が波浪で社長ですか」
「大企業は多かれ少なかれ闇を抱えているもんだ 多少汚いことやらないと
そこまで大きくなれないのかもな そういうのを表に出ないように押さえ込むのが
奴らの仕事さ」
「そうですか」
「今 波浪の仕事やってんだろ?」
「はい」
「気をつけろよ あそこも会長の妻が行方不明になったり 長女が突然おかしく
なったり物騒だからな」
「ええ」
石田は 「もう今日は夜遊び止めて 大人しく寝ろよ じゃあな」 と言うと夜の街に
溶け込んで行った
加賀はホテルに戻り ボンヤリした頭で一日を振り返った
女難の日だったな...
玲奈に申し訳ないと感じたが 思い出してムラムラした気持ちをシャワーを
浴びながら静めた
明日は早い
グッタリした体に ベッドのひんやりしたシーツが心地良かった

翌朝6時台の新幹線に乗って東京へ戻ると 10時半には事務所に着いた
4Fへと階段を上っていると 2Fで店子のレコード店店長と出くわした
「オーヤンさん 今から?」
「いや ちょうど出張先から戻って来たところ」
「あっ モミジン饅頭美味しかったよ ごちそうさま」
「ちょっと広島に行ってたんで」
「かわいい女の子が持って来てくれたけど 彼女?」 ニンマリ笑って聞いて来た
「えー まぁ そうなのかなー?」
「何よ? 煮え切らないなぁ あっ さては この前から上にいる関西弁の子と
二股かけてんじゃないの?」
「違うよ! あれ 従兄弟なの」
「本当にー?」 
「勘弁してよー まーさん」
店長は「羨ましいなぁ」 「ジェラシー感じちゃうよ」 「もてるヤツは違うね」 と
冷やかしていたが ふと何かを思い出すと 「いいの入ったから ちょっと来なよ」
と加賀を開店前の店に招き入れた
「ジョン・アバークロンビーとか 大家さんが好きなECMの 結構入って来たよ」
「へー ちょっと忙しいんでゆっくり見てらんないけど 仕事が一段落付いたら
また来るよ」
「そんなに忙しいの?」 まーさんは口を尖らせて残念そうだった
「えー まぁ」 加賀はガッカリするまーさんを見て 何かないかと思いを巡らした
そうだ! 要らぬ疑いをかけられる元の あいつを懲らしめるアイデアを思いついた
「まーさん さっきの従兄弟なんだけど ちょっとうるさいんで黙らせたいんだよ
で この前サティのジムノペディかけてたら 死の曲だー 気が滅入るーって
言い出したんで ああいう曲 他にないかなー?」
「茶店のジャングルジムかー うーん アレどう? 
マイク・オールドフィールドのチューブラーベルズ!」
「なんだっけ それ?」
「ほら5年くらい前にヒットした映画の え?糞すると? のテーマ」
「ああ チャンランチャランチャラン ってやつだ いいね」
「いいでしょ」
「悪霊退散!! ってね!」 加賀は笑った
「後で取りに来るんで 用意しといてもらえる?」
「わかったよ まいど!」 まーさんが何故かこぶしを突き上げた
見てろよ あかり! 悪魔を撃退してやる!
加賀は先程とは変わって 一段飛びで元気に階段を駆け上った

62かっちゃん:2017/09/20(水) 21:46:31
11時を過ぎた
加賀は事務所で待機していたが まだ電話はかかって来なかった
豆を挽き サイフォンでコーヒーを淹れる
アルコールランプの青い炎を眺めていると不思議と心が落ち着く
お湯がロートへと昇り始めた
軽くコーヒーを混ぜ 少し待った後 アルコールランプを外して火を消す
もう一度軽く混ぜる コーヒーが下のフラスコへと落ち始めた
いい香りだ
フラスコのコーヒーをカップに注いでいると 電話が鳴った
来た!
加賀はカップを持って 慌てて机に戻った
「はい 加賀調査事務所です」
「カエデー? 戻ってた」
「なんだキミか」
「なんだって何よ」
「ゴメンゴメン 今里保さんからの電話待ちなんだ 11時にかけて貰うことになってる
悪いけど また後で」
「わかった 早くそちらに行くって言いたかっただけだから」
電話は切れた
電話中にかかって来てないよな? 短かったし大丈夫だ
加賀はそんなことを思いながらコーヒーを啜った
苦味が染みる
カップを机に置こうとしたその時 ベルが鳴った
「はい 加賀調査事務所です」
「もしもし 楓? ウチとええことせぇへん?」
「あー! おまえか! 今大事な電話待ってて忙しいんじゃ 後にせぃ!」
電話をガチャリと切った
コーヒーの効力もあまり発揮しない内に イライラし始めた
あかりめ! おっぱい吸うぞ! クソ!
間もなく11時半になろうとしていた
ベルが鳴った 
三度目の正直になるように! 
加賀はその願いを全て唱える間もない速さで 受話器を取った
「はい 加賀調査事務所!」
「...初めまして 山﨑里保です」
「里保さん? 良かったぁ 待ってました」
「すみません 電話をかけようとしたらコーヒーこぼしちゃって 遅くなってしまいました」
「あ そ そうですか ヤケドとか大丈夫でした?」
緊張感を霧散させる応えに動揺して 加賀は自分で何を言ってんだ? と思った
「大丈夫です」
里保の声は落ち着いていた 
細い声だが 幼さがまだあった
「まず 里保さんに言っておきたいのは ボクはあなたの味方になれるということです」
里保は黙っていた
「八日前ミズキさんを通してお父さんから あなたを探して欲しいと言われました
広島に行ってお父さんやお母さんに話しを聞き 
東京に戻って高梨さんや新垣さんからいろいろ聞きました 
その上でボクは お父さんの依頼を一先ず置いておくことになっても 
あなたの意思を尊重したいという結論に達しました」
「はい」
「ボクは あなたがお父さんに会わなければと思う反面 誰かに狙われているので
会えないだけではなく あなた自身がお父さんに会うことを恐れていると感じています
違いますか?」
「...父が怖いんです 加賀さんが何故かそれを知っているようだったので
電話しました」
「いえ ボクはあなたが無理を通せば すぐに広島に帰ることもできる状況でありながら
姿を隠していることから そうではないかと思ったまでです
教えてくれませんか? あなたは何を恐れているんですか?」
「それは...」 里保の声が沈んだ
「やっぱり どこかで直接会うことはできませんか?」

63かっちゃん:2017/09/20(水) 21:47:17
里保はまだ迷っているようだった
「いろいろと聞きたいんです それによって あなたを助ける方法を
思いつくかもしれない ボクは最終的にはあなたを無事にお父さんと会わせることが
できればと考えていますが 里保さんの思いは違うんですか?」
「...わかりました 相談に乗ってください」
「ありがとうございます」 ようやくその気になった里保に加賀は安堵した
「明治神宮外苑の並木道はわかりますか?」
「はい 銀杏を見に行ったことがあります 神宮球場へも二回くらい」
「あそこで会いませんか? 見通しがいい あなたを襲ったり 見張るヤツがいても
すぐにわかる」
「はい」
「ボクがまだ完全に信用できないのなら 国電で行かない方がいい
信濃町駅も千駄ヶ谷駅も改札が一箇所であなたを捕まえ易い」
「そんなことは...」 里保が少し笑った
「できれば今日にでも会いたいのですが 時間はありますか?」
「はい... 3時でどうでしょう?」
「わかりました それでは3時に神宮外苑の並木道を歩いて行きますので
あなたが大丈夫だと確認できたところで声をかけてください
ところで助手を一人連れて行ってもいいですか?」
「女中?」
「いえ 助手です」 加賀はずっこけた
落ち着いているようで 突然調子外れのことを言う子だ
「里保さんくらいの女の子です ボクも付けられてないかどうか確認したいので
離れて後から付いて来てもらいます」
「わかりました」
「では並木道で」
ようやく一歩進むことができる
冷めた苦いコーヒーを飲み干すと大きく息を吐いた
ここからだ
事務所のドアが開いた
「カエデー 電話あったー?」 玲奈だ
「今 話したところ 今日はもうこちらの仕事してもらって大丈夫?」
「うん 午後から休講になっちゃって早く来れたの で どうだった?」
「ようやく 本人と会うことになったよ」
「へー やっといろいろわかりそうだね」
「うん やっとだ」
二人は微笑みあった
「3時に神宮外苑の並木道で会うから キミも付いて来てくれる?」
「え? 銀杏の季節にはまだ早いんじゃないの?」
「バカだなー 銀杏の黄葉を見に行くわけじゃないよ 見通しが良くて
追跡者がわかり易いから そこにしたんだ」
「バカとは何よ! 仕事を頼む人に バカとは!」
玲奈が怒った
「ゴメン 言葉が悪かった」
加賀は立ち上がり 玲奈と目線を合わせた
昨日の女難に日のおかげだろうか? 無意識に親密な距離を取ることが出来た
玲奈は照れて 「わかればいいのよ」と目を逸らした
「キミには ボクを付けている人がいないか確認してもらいたいんだ」
「どうすればいいの?」
「2・30m離れて周りをチェックしながら 後に付いて来て欲しい」
「わかった」
「里保さんは 一昨日誰かに後を付けられたので 新垣さんの部屋を出て
どこかのホテルに泊まっているらしいんだが まだボクを少し疑っている」
「かなり怖い思いをしたようね」
「追尾者がいないと確認できたら キミを呼ぶから 一緒に里保さんの話を聞こう
女性がいた方が彼女も安心できると思う」
「うん」
加賀は玲奈に昨日の広島での収穫を掻い摘んで話した
「ついでになんか知らないけど 昨日はモテてさ ボク どこか魅力増した?」
「は?」 玲奈が気持ち悪いものを見る目つきになった

64かっちゃん:2017/09/20(水) 21:48:03
「いつからナルシストになったの?」 玲奈がジッと見て言った
「え?」
「それに昨日はモテたって何? 山岸って子と何かあった?」
「何もないよ」
「じゃあなんでそんなこと言ったの?」
「いや まぁ それは言葉のあやと言うかー なんと言うかー」
「言いたくないんだ?」
「そんなんじゃないよ! 実は大澤組の姐さんに カワイイね!って言われたんだ」
「...何それ?」
「だから... かわいくなったのかなぁなんて」
「ハァ? カエデー あなた何才?」
「あっ あかりと同じこと言われた ショック」
「もぉ しっかりしてよ!」
「すみません! ボクが変でした 謝ります」
「なんか こんな人だったかなぁ って冷めるんだけど」
「冷めたご飯はチャーハンにすると美味しいんだぜ?」
「...チャーハンにしてやる!」
玲奈は座っていた加賀に近づき 頭をクシャクシャにかき混ぜると椅子に戻り 
口を尖らせて上を向いた
「ごめん悪かった 調子に乗り過ぎた」
「さっきから謝ってばかりね」
「ほら お昼だし ご飯食べに行こう!」
「...お腹すいてない」
「またまたー 行こうよ!」
玲奈の腕を引っ張ったが立とうとしない
「本当に悪かった 機嫌直して! ご飯に行こう」
加賀は玲奈の前にしゃがみ 両肩を軽く掴んだ
目の中をじっと見つめる
玲奈は目を逸らしたら負けとでも言うように 真っ直ぐに見返した
綺麗な黒い目だ 
そのままどれくらい見つめ合っていたのだろう? 
多分1分も経っていないはずだが その何倍も長く思える時間だった
「ぷっ」 玲奈が吹いた
「ねー いつまでにらめっこするの? お腹すいたー!」
椅子から立ち上がると 加賀の腕を引いて 早く行こうと促す
「何 食べよっか?」
「そうねー うんと高いものご馳走してもらわなきゃね!」
「お姫様 かしこまりました」
二人は笑いながら事務所のドアを出た

「うー」 鰻は美味しかったがちょっと食べ過ぎたか?
重いお腹を抱えて やっとの思いで4F事務所に戻って来た
「1時過ぎかー 2時には出て 回り道しながら並木道へ行きたいな」
「とりあえず ちょっと休ませて」
「コーヒー入れるよ」 加賀は流しに向かったが
サイフォンを洗うのは面倒だったので お湯を沸かしてインスタントコーヒーを溶かした
ジルベルト・ウィズ・タレンタインのLPを小さくかける
「ねー 里保さんを狙ってるのは橋本って人なのかな?」
「まだわからない もしかしたらヤクザじゃなくて ボクらと同業なのかもしれないし
アメリカで出会ったピストルを持った奴は違うだろうけど」
「なんか相手がわかる方法ないかな?」
「里保さんが上手くホテルに隠れたのなら 相手も見失ってるはずだから
ボクらを付ける可能性はあるね」
「そっか そう考えるとちょっと危険ね」
「そう... 本当はキミを巻き込みたくないんだけど 
ただボクにはまだ 人の命を狙うような相手の存在が感じられないんだ
今日も杞憂で終わるんじゃないかと どこかで思ってる」
「そうね そんな殺し屋とかそんな人が身近にいるとは思わないよ」
「逆に万が一現れたら 相手を知るチャンスでもある」
「リスクとチャンスは背中合わせか... なんか映画みたい」 玲奈が微笑んだ

65かっちゃん:2017/09/22(金) 17:26:34
「そう言えば銀杏の並木道一緒に見たの もう一昨年?」 
加賀はもう少し時間があることを確認すると 気分を軽くしておこうと思った
「え? 今その話するの? 私 また怒るかもよ?」
「ウソ? なんかあったっけ?」 加賀は頭を捻った
「キミと キミの友達で カミコウズさん?」
「上国府塚」
「あっ カミコウズカさんね 3人で歩いたよね」
玲奈は一昨年の11月終わり頃のことを思い出した

「玲奈! 待ったぁ?」
赤いダッフルコートを着た 黒髪ロングの上国府塚が白い息を吐きながらやって来た
「うぅん 今来たとこ」
「アレ? 連れ?」 上国府塚が玲奈の横に立つ チェスターコートを着た加賀に気付いた
「うん お友達の加賀さん 名前が楓だから カエデーって呼んでるの」
橙色のピーコートに焦茶のミニスカート 黒のストッキングの玲奈が上国府塚に紹介する
「初めまして」
「こちらこそ」 加賀は長い手足と細身を 黒ずくめの服装に包んでいて 
影が立ち上がったようだった
「やだっ ちょっと玲奈 彼氏が来るんなら 言ってよぉ 私 邪魔になるじゃん」
「彼氏じゃないの お・と・も・だ・ち 全然気にしなくていいから
銀杏見に行くって言ったら ボクも とか言い出しちゃって」
「えー かっこーいいじゃん 彼氏でしょ? 隠さなくたっていいよぉ」
「本当に 友達なんだって カミコ気にしないで 案山子だと思ってれば」
女の子二人がこそこそ喋っている間 加賀は所在無げに信濃町駅前で 
通り行く人々を観察していた
加賀・玲奈・カミコの並びで歩き始めると 周囲は週末とあって かなりの人で賑わっている
「ねーねー 加賀さんっていくつ?」 とカミコ
「24かな?」
「えー 凄い年上じゃん 玲奈 すっごーぃ!」
「だーかーらー 彼氏じゃないの お友達!」
「何やってる人?」
「一応 会社経営」
「えー 凄いじゃん! 玲奈 凄いよ!」
「会社って言っても 従業員この人だけだよ それに彼氏じゃないし」
「うん わたしは前から思ってたよ きっと玲奈は早く結婚するって」
「違う!って」
「違うんだ?」 加賀が隣で小さく独りごちる
「え?」 玲奈は何言ってんだこいつ? という目で加賀を見た
「ほら 銀杏並木だよ!」 加賀が指さした向こうには 黄色のトンネルが広がっている
「うわぁ 綺麗!」 二人は感嘆の声を上げた
頭上に広がる黄色の庇から ヒラヒラ舞い落ちてくる葉と 靴で掻き分ける
降り積もった葉を見ている内に 自分も黄色に染まってるんじゃないかと玲奈は思った
「でも 臭くないね」 カミコが呟く
「ここの銀杏は全部雄株だから ギンナンがならないんだ だから臭いもしないんだよ」
加賀が足下の葉っぱを蹴り上げながら言った
「あと この並木は300mくらいあるんだけど 綺麗に見えるように遠近法を利用して
植えてるんだってね」 加賀がカミコを見て言う
「え? 彼氏 なんか物知りなんだけど?」 カミコが嬉しそうに玲奈を見てくる
「彼氏じゃ ないっ!」
結局 並木道を歩きながら 加賀の薀蓄と カミコの彼氏冷やかしに 
うんざりした玲奈は 黄色の世界を堪能するどころか 
黄色のカレーに沈んで煮込まれている気分になった
ついでにカミコと別れた帰りの電車内では 
「カミコちゃん ちっちゃくて 目が大きくて 黒髪で カワイかった」 と加賀が連発し
「私も 大体そうだろ!」 と言いたいのを我慢した
あの時の カミコの気を惹きたくて薀蓄垂れた加賀と 自分が言い出したとは言え
頑なに彼氏否定し続けなければならなくなったことを思い出すと 玲奈は不愉快になる
「あー 腹立つー!」 玲奈は無意識に声を出していた
加賀は ビクっとして話題を変えることにした

66かっちゃん:2017/09/22(金) 17:40:37
「そろそろ行こうか」 加賀が玲奈を促した
「さっき言った通り 下でボクが出た後 キミは2分後について来て」
加賀はわかり易いように 赤いシャツにジーンズという格好だった
後を追う者がいるとすれば そちらにとってもわかり易かったが
玲奈が見落とさないことを優先した
駅や人込みの中では2・30mの距離しか取れないが スタート時点は
監視者が既に見張っていることを考えて 玲奈との距離を広げる
玲奈には後を追う者が 加賀との間にいるとは限らず 自分のすぐ傍や
後ろにいる可能性もあることを話し 注意するように言った
加賀を確認する時は顔が合わないように 足下やお腹の辺りを見ることになっている
駅では乗車客の列の後ろに付き 結局乗らずに次の電車を待ったり
一旦逆方向に一駅乗ってみたりした
これも玲奈と打ち合わせ済みだ
千駄ヶ谷駅を出ると国立競技場に向かった
寄り道しながら 並木道を目指す
空は重い雲が垂れ込めていたが 雨は降らなさそうだ
神宮球場では 立ち止まって通行人を観察してみた
玲奈がそしらぬ顔で通り過ぎて行った
もうすぐ3時になる
銀杏並木へ歩き始めた
いよいよだ
里保には加賀の身長 体型 髪型 赤いシャツにジーンズという格好を伝えてあった 
加賀の周囲に 自分と同じくらいの年齢の小柄な女性 玲奈の他に 追跡者が
認められなければ 里保から声がかかるはずだ
目の前には まだ青々とした葉を大量に茂らせる大きな銀杏が
車道を挟んで両脇に連なっていた

玲奈は赤いシャツを追った
電車の乗り降りは打ち合わせしていたので 加賀とは距離を取り 全くそちらを見なかった
千駄ヶ谷のホームで赤いシャツを見つけると ちょっとホッとする
改札を通る時 アレ?と思った
3人前の小柄な女性 さっきどこかで見たかも?
黒髪のショート フード付きのデニムジャケットに黒のミニスカート姿で
細い生脚が真っ直ぐ伸びる先には 黒っぽいスニーカーを履いている
玲奈は 加賀の部屋を出てからのことを 順番に思い出し 記憶の中に
デニムジャケットの背中が無いか探した
ハっと気付くと 赤いシャツを見失っていたが すぐに見つけることができた
デニムの女はまだ前を歩いている
加賀は国立競技場の前でウロウロした後 神宮球場へ向かった
デニムの女は 競技場前で立ち止まり 腕時計を見たり
空を見上げていたが 加賀が動くと 後ろについて行った
間違いない つけている! 玲奈は鼓動が早くなるのを感じた
球場では 加賀がこちらを振り返り 人待ち顔で壁際に立ち止まっていた
デニムの女は 斜め前方へそのまま歩いて行く
玲奈も そしらぬ顔でついて行った
しばらく行くとデニムの女が止まって振り向いた
焦って表情が変わるのを必死に抑え 何かを考えながら歩いている素振りで追い越す
白のインナーに負けないくらい 色白で華奢な女だった
小動物系のかわいい顔だが 目に表情は無く どこか無機質だ
玲奈は何故か 背中にゾクっとするものを感じた
年は20代半ばくらいだろうか?
30mくらい進んだところで アレ?間違えた? と玲奈はキョロキョロし 振り返った
デニムの女が戻り始めている
その向こうに赤いシャツが小さく見える
どうしよう? 追跡者がいることを加賀にどうやって伝えよう?
事前の打ち合わせでは 追跡者がいた場合 加賀を追い抜いて行くことになっていた
果たしてデニムの女に気付かれずに それができるのか?
足を速めた
加賀が並木道脇の歩道に入って行くのが見える
玲奈はバッグを小脇に抱えて走った

67かっちゃん:2017/09/24(日) 23:39:25
もぉ こんなことなら パンツスタイルで来るんだった
ミディ丈の薄茶のフレアスカートに 白と紺のボーダー7分袖カットソーという格好の玲奈は
裾をはためかせながら必死に走った
黒のスリッポンスニーカーを履いて来たことが救いだ
デニムの女が近づいて来る
こちらのバタバタした気配は感じないのか 真っ直ぐ前を向いたまま歩いていた
玲奈は さも急いでいるというように コーチの腕時計を見ながら追い抜く
つらい
でもここで走るのを止めることはできない
並木の下の歩道には チラホラと人がいた
何人かの追い抜かれた人々は 何事?と一度は玲奈を振り返るものの 
すぐに興味を失い それぞれのペースで歩いていた 
ようやく赤いシャツの背中が大きく見えて来る
気配を感じて振り返った加賀が 他の人と同様 すぐに顔を戻した
玲奈は前を見たまま 加賀の横を走り抜ける
「デニムの女 つけてる」 と言った
すぐ後ろで「了解」の声がした
玲奈は苦しかったが もう少し頑張って30m程進むと 膝に手をついて立ち止まり
息を整えた
上手く行ったかな? 後ろが気になる でも まだ振り向くことはできない
もう動きたくなかったが 気力を振り絞り 早足で先を急ぐフリをした

加賀は玲奈が走って行った後 靴紐を直す仕草をしてしゃがみ込み 
立ち上がりがてら 後ろを見た
小柄なデニムのジャケットを着たミニスカートの女が 背中を見せて
並木道の端に向かっているところだった
特に急いでいるようには見えなかったが 既に80m近くの距離がある
加賀は周囲や反対側の並木道を見渡し 気になる通行人がいないことを確認すると
前方の玲奈を追いかけた
「玲奈ー 待って!」
振り返った玲奈は 頭を振ってくたびれたという顔をし 「もう大丈夫なの?」と聞いた
「たぶん 追跡者は退散したよ」
「バレちゃった? ごめんなさい」 玲奈が申し訳ないっと 両手を合わせる
「いや よくやったよ 気付いてくれてありがとう あれはおそらく襲撃者だ」
「襲撃者?」
「里保さんが出て来たら なんらかの形で襲うつもりだったと思う」
「ただ見張ってただけじゃないの?」
「キミがこちらに走って来た時点で 直ぐにつけていることがバレたと気づいて
戻っている ボクをつけて里保さんを見つけたいだけの人間なら すぐに逃げる
必要はない ずっと追い回してもいいのだから」
「つけてるのがバレて 里保さんが出て来なくなるから 一旦姿を隠したとは
考えられない?」
「その可能性もあるね ただ あの女は黒の手袋をしてたんだ まだ 少し速く歩けば
汗ばんで来るこの時期にだよ?」
「指紋を残さないようにしてるってこと?」
「そう 考え過ぎかもしれないけどね」
玲奈は 彼女の無表情を思い出すと 今になって怖くなり 思わず加賀の腕を掴んだ
「里保さんがこちらの異常に気付いて 会えなくなったら嫌だから
キミはもう一度 ボクの後ろに付いて 追跡者が戻ってきたり 他にいないか
見ててくれないか?」
「わかったわ」
既に並木道を半分来ていたが 加賀は里保に会えることを祈って
玲奈が位置に付いたのを確認すると歩き始めた
目の前に青山通りが見えて来る
里保は現れなかった 
さっきの異常に気付いて 逃げてしまったか?
加賀は焦りを感じながらも 向こう側の並木道へ横断し 折り返してみようと考えていた
ふと 道を挟んだ 向こうの銀杏の幹の影から こちらを見ている女性に気付く
里保だ!
黒Tシャツの上に薄手のグレイのパーカーを羽織り 細身の黒のパンツ姿だった

68かっちゃん:2017/09/24(日) 23:50:55
加賀は手を振った
里保も幹の影から出て来て 手を振り返した
ようやく会えた!
喜びに頬が緩む
横断歩道はないが車通りがないので 幅の広い車道を渡ろうと踏み出した時
後ろから玲奈が走ってくるのが見えた
「カエデー デニム!」
必死に叫びながら反対側の並木道を指差す
視線を里保の方へ戻すと 
左側に早足で近づくデニムの女がいた
右手をポケットに入れている
里保との距離はもう15mもない
しまった まだ諦めてなかったのか!
「クソッ!」 自分の甘さを悔やんだ
「里保さん 逃げろ!」
里保に向かって大声で叫んだ
里保は加賀が何を言ったのかわからず 右掌を耳にやり 聞こえないという
ジェスチャーをした
道路脇の路上駐車の車の間を抜けながら もう一度叫んだ
「早く 逃げろ!」 里保の左を必死で指さす
ようやく里保は右を見たが 小柄な女性しか目に入らず もう一度視線を
加賀に戻した
「そいつから逃げろ!」
加賀は車道を走って横断する
まだ半分にも達していない
デニムの女は里保まで5mと迫っていた

玲奈は30m先を行く赤いシャツを見ながら 神宮球場の傍で見かけたデニムの女を
思い出していた
顔はかわいい
色白だし 目は大きめで 整った眉は前髪で半分隠れていた
ただ その目は開いているだけで 何の感情もなく 冷徹な無表情だった
あんな 私とそれほど変わらない 小柄で華奢な子が 人を襲うのだろうか?
どうやって?
加賀の言うことが大袈裟に思えた
そんな映画みたいなことあるかしら?
たまたま用事を思い出して 踵を返しただけじゃない?
でも 加賀をつけていたのは間違いない
ひょっとして カエデーがかっこいいから 後をつけたとか?
ないない!
そこまでじゃないだろう 芸能人じゃないんだから
玲奈は独り苦笑しながら歩いていた
しかし 久しぶりに走ったなぁ 心臓がパンクするかと思った
たかだか200mかそこらだと思うのに 
普段から少し 運動すべきだな
重くなった足を ひきずりながら 肩の力を抜いて腕をぶらぶらさせた
ついでに首も軽く回してみる
隣に見える反対側の並木が曇天の下 影を落としていた
その暗い歩道を 自分と同じ向きに足早に歩を進める小柄な人がいる
デニムの女だ!
まだいたの? 里保さんはどこ?
加賀の周囲を見渡したが 一人で先を歩いている
玲奈は走った
ともかく加賀に知らせなければ!
すぐに息があがった 
加賀が反対側の並木に向かって手を振っている
何?
「カエデー デニム!」 必死に叫んだ
気付いてくれた 
走るのを止め 大きく息を弾ませていると 加賀が車道を走って横断して行くのが見えた

69かっちゃん:2017/09/25(月) 00:03:14
「危ない!」 加賀が叫んだ
里保が近づくデニムの女を見た
女はポケットから手を引き抜くと そのまま里保の喉元目掛けて振り抜いた
銀色の光が閃く
里保は寸でのところ スウェーでかわした
女は返す腕で喉を突いた
里保はスウェーで崩れたバランスを立て直そうとせず
そのまま後ろに肩から落ちた
デニムの女がつんのめる
里保は両腕を頭の上に付くと跳ね起き 女の懐に立ち上がった
体勢を戻そうとする女を前方に押し飛ばす
その勢いで前に転がり倒れるまま 肩を軸にして両足を振り回し始めた
女は一瞬攻めあぐねた後 加賀がすぐ傍まで来たのを見て 青山通りへ走って逃げた
「里保さん 大丈夫?」
里保は背中を軸にして体の回転を止めると起き上がった
「大丈夫 背中がちょっと痛いけど」
グレイのパーカーはよじれ 穴が開き 黒く汚れてクシャクシャになっていた
「凄い! 今の何?」
「とっさにブレイクダンス踊っちゃった ウィンドミルって技だよ」
「ブレイクダンス...」 加賀は呆気に取られた
「あーあ あっちで買ったパーカーなのに...」
里保はボロボロのパーカーを脱いだ
「無事で良かったぁ 加賀です」
「山﨑里保です 助けてくれてありがとう!」
「助けるなんて... 何もできなかったし」
「教えてくれたから 避けられたんだよ」
「それなら ウチの助手を褒めなきゃ」
加賀は振り向いて ヘロヘロになって歩いて来た玲奈を呼んだ
「助手の横山です 彼女があの女を教えてくれたんだ」
「山﨑里保です ありがとう!」
「横山玲奈です 初めまして」
加賀は里保の驚くべき動きを玲奈に説明した
里保は照れて たいしたことないよと言った
「あの女は本当に狙ってたのね」 玲奈の顔が青ざめている
「まさか ナイフで狙って来るとは...」 加賀も衝撃を隠し切れなかった
「女が来るとは思わなかったわ」 里保の目つきが鋭くなる
「また戻ってくるかもしれない 早くここを移動しよう」 加賀が言った
「私 ここに来る時 いい所見つけたよ そこに行こう!」
里保が先導した 
デニムの女が逃げた方向とは逆の 渋谷方面に向かう
加賀は赤いシャツを脱ぎ 玲奈のバッグを取って 丸めて無理矢理突っ込んだ
「やめて 形が崩れ... ま いいっかぁ」 玲奈は諦めた

白Tシャツにジーンズの加賀が殿を務め 追尾者がいないか確認しながら移動する
間もなく雑貨屋の脇の細い階段を上り 2階のカフェに入った
里保が通りを見下ろせる窓際の席についた
2人も向かい側に座る
「ここなら近づく人が見える」 里保が言った
加賀は頷いた
店員を呼び 3人ともアイスコーヒーを頼む
「ようやく 一息つける... 何から話していいか 
里保さん あなたは日本に帰って来てからも 今まで何度か命を狙われてたの?」
加賀が口を開いた
「いえ 掴まれそうになったことはあったけど ナイフなんて初めて」
切れ長で僅かに吊り目勝ちな鋭い目をジッと開いて 里保が言った
「日本に戻ってくる前 ピストルを持った日本人に襲われたって聞いたけど」
「うん NYのアパートであったよ 私 アメリカ人の友達と部屋をシェアしてて
その時はその子の部屋にいたの 物音がするってその子が出てったら
キャーって叫び声がして ビックリして見に行ったら ピストルを持った
男がいたの 慌てて逃げたわ」 里保は窓の外の通りに 目を走らせながら言った

70かっちゃん:2017/09/25(月) 21:19:25
「なんで日本人だとわかったの?」 加賀が言った
里保は運ばれた来たアイスコーヒーに フレッシュを入れようとしたが
途中で窓の向こうを確認したため グラスの外に垂らしてしまい 顔をしかめた
玲奈が紙ナプキンを取って渡す
「ありがと」 里保が少し笑った
「入って来た時 「リホはどこ?」って言ったの 成田で見かけた時も
赤いパスポートを手に持ってた」
里保はテーブルにこぼれたフレッシュを拭き取ると 丸めながら言った
「そっか その男を見かけたことがあるって聞いたけど?」
「確かにどこかで見たことがある気がするの 多分広島にいた頃だと思う」
里保はストローを吸うと 細く鋭い目を見開いて 美味しいという顔をした
玲奈は走って喉が渇いていたのか 既にコーヒーを飲み干していて ズズッと残りを啜った
加賀が思わずそちらを見ると 恥かしそうに目を逸らした
「単刀直入に聞くけど あなたは何故お父さんを恐れているの?」
加賀が身を乗り出して言った
里保は一度外を確認すると加賀の目を見てから 視線をテーブルに落として話し始めた
「...父があのピストルの男を差し向けた気がするの...」
加賀は耳を疑った
「何で? お父さんはあなたをかわいがっていて ダンスの道に進むのも
金銭面含めて応援していると聞いたけど?」
「それは本当よ」 里保はまた外を確認した
「それなら何故?」
「父は忙しい人だから 一緒に遊んだ記憶はあまりないけど
私が学校で成績が良かったりすると とても喜んでくれたわ 
ダンスを母のところに習いに行くことになったのも 父からの勧めだった 
何回かダンスの発表会に来た時も 後で凄く褒めてくれたの」
玲奈が隣でグラスの氷を頬張った 冷た過ぎて口をアワアワ開けている
「でも たまに家で仕事の話しをしてる時の父は 怒ってることも度々あって
とても怖かった 西口さんもよく怒られてたわ」
西口... 加賀はまだ見ぬ その男のイメージが固まらず 
一度会ってみる必要があると感じた
「6年前に父は あかねの母の千紗さんと結婚したの 正直に言うと
私はダンスレッスンで母とよく顔を合わせていたし 父が仕事に忙しい人だったので
あまり二人の結婚には興味無かったと言うか 親戚のよく喋るおばさんが
増えたくらいの感じだったわ」
玲奈は小さくなった氷をガリガリと噛み砕いている
「千紗さんはざっくばらんと言うか 思ってることは何でもズバズバ言う人で
結婚する時は 積極的に父を押し切ったらしいけど 波浪の仕事にも
口を挟んで 父と言い合いになったりしてたの」
加賀は氷が溶けて グラスからこぼれそうになったコーヒーを 里保を見ながら吸った
「2年前の千紗さんがいなくなった時も ちょうど激しい言い争いをしてた頃で
西口さんを含めて ちょくちょく家で話し合ってたわ」
意外なところに話しが進み 加賀は千紗の行方不明の件で広島に来ていると
嘘を付いた時の 大澤裕子の反応を思い出した
「行方不明になる前の日 千紗さんに言われたの
”あなたのお父さんは怖い人ね”って...」 
「具体的には?」 
加賀は手帖を出して 鉛筆を走らせた
「具体的には何も... でも いつものふざけて言っている感じじゃなくて
本当に恐れていたわ それで次の日買い物に出たまま 戻らなかったの...」
少しの間沈黙が続いた
「つまり 里保さんは千紗さんがいなくなったことにお父さんが関与してるのではないか?
と思ってるの?」 加賀が言った
玲奈が心配そうな顔で加賀を見た
「否定はしないわ 父は仕事に関して本当に厳しい人で もしかしたらという
思いがあるのは事実よ ...そして理由はわからないけど そんな厳しさが
今 私に向いてる気がするの...」
「それは厳しいという範疇を越えている 実の娘を手にかけようとする親なんて
考えられないよ」 加賀は正直な感想を口にした
里保は黙って外に目を向けた

71かっちゃん:2017/09/25(月) 23:40:37
加賀は本人しかわかり得ない感覚もあるのかもしれないと思いつつ
別のことを聞くことにした
「お父さんが病気で 様態が優れないことを知ってる?」 
「今年の春くらいから調子が悪いと聞いてるわ」
「かなり悪いらしい... それで相続の話しをしたいから あなたを探して
欲しいと言う話だった」
「相続なんてどうでもいい! でも 父とは話さなければならないと思ってる...」
「それはどういう意味で?」
「感謝を言いたい... 真意を聞きたい... 真実を知りたい...」
ネコ科の動物のように鋭い目をした里保が 一瞬疲れ切っているように見えた
「あなたはお父さんに早く会いたいんだね?」 加賀は念を押した 
里保は下を向いたまま頷いた
「それじゃあボクも覚悟を決めよう」 加賀は一度玲奈を見てニコっと笑った
里保は加賀が何を言うのか 顔を上げて注目した
「さっき あなたが殺されそうになった時 通報したり警察沙汰にはしなかった
幸い周囲に通行人はいなかったしね ボクはもうあなたと同じ秘密を共有してるんだ」
玲奈はそう言えばという顔をして 開いた口を手で塞いだ
「ボクのこの案件のクライアントは 山﨑直記さんです 
彼からの依頼は 里保さん あなたを探し出すことだ
本来なら 今こうやって会っているのだから これで仕事を終りにすることも
できるだろう」
里保はゆっくりと頷いた
「でも ボクは命を狙われているあなたをそのままにしておくことはできない
前にも言った通り お父さんに無事に会わせるところまで付き合いたいと思ってる」
玲奈は黙って加賀を見詰めた
「あなたと一緒に広島に行きます」
里保は首を横に振った
「ダメよ どんな危険が待ってるか わからないわ」
「乗りかかった船なんでね お父さんには時間がない
もう突破するしかないんだ だったら一人より二人でしょ?」
隣で玲奈が自分を盛んに指さした
「キミをこれ以上巻き込めないよ 何かあってからじゃ遅過ぎる」
「大丈夫だよ! 私がカエデーを守るから」
「え? どうやって?」 加賀が目を丸くした
「どうやってって そりゃあ いろいろよ いろいろやるんだから」
「どんな危険があるかわからないんだよ?」
「そん時はカエデーが守ってくれるんでしょ?」
「言ってることが無茶苦茶だな」
「お願い! なんかあったら一所懸命逃げるから! 足手まといにはならないわ」
里保が吹き出した
「二人より三人が楽しいよ なんか勇気が出て来た」 里保が加賀に笑いかけた

カフェの窓の外が 暗くなり始めている
これからの目標は決まったが 加賀には確認しなければならないことがたくさんあった
「日本に帰って来た次の日 広島の流川に行った?」
「いいえ そこまで行ってるなら 東京に戻らないわ」 里保は苦笑した
「三葉ヨシ子さんが見かけたと言ってるよ」
「え? ヨシ子先生が?」
「先日 お母さんに会った時 ヨシ子さんから直接聞いたんだ」
「見間違えじゃ?」
「確かに里保ちゃんだったと思うって言ったよ」
「なんで そんな嘘を...」
「わからないね」 そしてボクらは危険な目に会った
加賀は心の中で そう続けた
「波浪企画という関連会社の社長 橋本さんを知ってる?」
「うん ちょっと柄が悪くて 怖い感じの人 時々家に来て 西口さんと
話してたわ」
橋本は飯窪だけでなく 西口とも繋がっていた!
可能性は考えていたが 敵の形が見えて来た気がした
「西口さんは 里保さんに対してどうだったの?」 加賀は里保を注視した

72名無し募集中。。。:2017/10/08(日) 21:43:45
むこう落ちたぞ
14日か?

73かっちゃん:2017/10/09(月) 04:30:13
「どうだったって 何が?」
「接する態度とか 言葉使いとか」
「優しくて 丁寧な人よ」
「そうなんだ? お父さんの右腕で 切れ者と聞いてたから 
もっと冷徹な人かと思ってた」
「年は離れてたけど ちゃゆ姉と仲良くて いつも優しかったわ」
「ちゃゆねぇ?」
「あっ さゆみ姉さんね 私が小さい頃 さゆみが言えなくて 
ちゃゆ姉って言ってたの」 里保が懐かしそうに言った
「そう言えば さゆみさんがおかしくなったのって いつ頃? 
里保さんはもう東京にいたよね?」
里保から笑みが消えた
「千紗さんがいなくなった後 すぐ... もうすぐ西口さんと結婚する予定
だったのに... 私は夏休みでちょうど家に帰ってたわ」
「どんな感じでおかしくなったの?」
「...千紗さんがいなくなってバタバタしてた頃 何かずっと考え込んでいて
全然喋らなくなって... 千紗さんについて心当たりはないか 
父や西口さんと家族が集まった時 泣き叫んでヒステリー状態になったの それっきりよ」
加賀は里保の目を覗いた
里保は目を逸らし 空になったグラスを見詰めた
「さゆみさんが 千紗さんのいなくなった理由を知っていた」 加賀は探るように呟いた
里保は黙っていた
なるほど 加賀は 父に感謝していながら 信用できない里保の気持ちが
わかって来た気がした
このまま里保が喋らなくなってしまいそうな雰囲気を感じ 質問を変える
「怖そうな橋本さんは 優しい西口さんの言うことを聞くのかな?」
「さぁ? 知らないけど 橋本さんを波浪に連れて来たのが西口さんだから」
「そなの?」
「飯窪さんが言ってたわ」
「飯窪さんは 里保さんから見てどんな人?」
「秘書としてきちんとした仕事をする人 かな?」
「野心とか感じた?」
「野心?」
「うーん 例えば さっきの千紗さんの話じゃないけど 波浪の仕事に口を出したいとか」
「特に感じたことはないわ お手伝いさんには厳しい人だけど」
「里保さんが家にいた頃から 厳しかったんだ?」
「あの人のプライベイトについては 殆ど話したことないんだけど 
苦労人らしくて そういうのが影響してるのかも」
「ミズキさんは どんなお姉さん?」
「みーちゃんは よく遊んでくれたわ ちゃゆ姉もかわいがってくれたけど
年が離れてたから 一緒に遊んだのはみーちゃんね
引っ込み思案で大人しく見えるけど 周りをよく見てて 
自分の役割をちゃんとこなす人 立派だと思う」
加賀は何かを確かめるように頷いた
「ボクは 新垣さんの家に里保さんがいたことを 山﨑さんにも
ミズキさんにも報告しなかった この後も あなたとお父さんが会うまで
しらを切るつもりなんだけど どう思う?」
「正直 今は誰が味方かわからないの...
さっきのナイフの女を考えると やはり隠れて行動したい 
味方がいたとしても 敵を欺くにはまず味方からだわ」
「わかった まだ里保さんを見つけていないことにしておく
と言っても 襲撃者を差し向けた人間からはバレバレだけどね」
「そうね」 里保の口の端が僅かに上がった
隣で玲奈がカクンと頭を落としたが すぐに目を見開くと 何もなかったように振舞った
走り疲れたんだろう こんな時だからこそ 微笑ましいと思った
「里保さん」 加賀は急に改まって座り直した
「何?」
「ボクは既に契約違反してるんだけど お父さんと会った暁には
きちんと報酬が貰えるように言ってくださいよ!」
「フっ わかりました 約束するわ」 里保が笑った

74かっちゃん:2017/10/09(月) 04:30:57
三人は打ち合わせが終わると カフェを出て
外苑前駅から銀座線に乗り 赤坂見附まで行った
里保はこの周辺のホテルに泊まっていた
「じゃあ 今日はこれで さっき話した通り 明日は朝10時に水道橋ね」 加賀が言った
「わかった 今日はありがとう 明日からもよろしくね」
里保が消えて行った
「さてと ボクらも帰るか 疲れたろ? 今日はウチに帰って ご飯食べなよ」
「そうする」 玲奈が言った
「明日からは またお願いするね」
玲奈は黙ったまま 口を尖らせていた
里保とはレンタカーで広島に行くことにした
新幹線や電車では 狙われる可能性が高いと判断したのだ
玲奈は学校がある
2・3日はかかる行程を考えると 事務所で電話番を頼むことになった
加賀はこの状況に満足していた
ナイフの女は里保の喉を狙ったのだ
できるだけ玲奈を巻き込みたくなかった
「また もみじ饅頭買って来るから」
「もう飽きた 別のものにしろ!」 玲奈が加賀の腕をこづいた
「わかった わかった」
加賀は腰を落として 玲奈と同じ目線にする
「帰って来たら 何か美味しいもの食べに行こう 行きたいところ考えといて」
見つめ合うと玲奈の尖った口が微笑みに変わっていった
「このシャツ 洗っといてあげる」 玲奈が膨らんだバッグを見せた
「忘れてた ありがとう お願いするよ」 
「じゃ 気をつけて帰るんだよ」 加賀は玲奈の頭をポンポンと軽く叩いた
二人はそれぞれ 丸の内線と有楽町線のホームに下りて行く
すぐに電車が入って来た

加賀が事務所に戻ってくると 夕方の6時だった
事務所に入ると電話が鳴っていた
早足で近寄り 受話器を取る
「はい 加賀調査事務所です」
「あ 加賀君か?」
「はい」
「広島の石田だ 何度か電話してたんだが やっと捕まったよ」
「すみません 外出してまして どうしました?」
「勝田から聞いておいてくれって言われてな
八反組が昨日壊滅した 何か知らんか?」
「え? 八反って 総道会の?」
「そうだ 組員の大半が事務所で殺された 勝田はその捜査で外に出てる」
「いや でもボクは八反の組員とは 直接会ってもいないんで」
「そうか キミが八反の話しをしてたから なんか知ってるかと思ってな」
「いえ 先日広島に行った時 一緒にいた助手の女の子が 声をかけられて
怖い思いをしたので どんな連中か知りたかっただけなんです」
「そうなのか」 石田の声にはまだ加賀に対する疑念が残っていた
「しかし 殺されたって 誰にですか?」
「それを調べてんだよ わかった また勝田が電話するかもしれんが」
そう言って電話は切れた
テレビを付けてみた
ちょうど夕方のニュースをやっている
確かにそこには 広島の暴力団事務所で起きた殺人事件について伝える
アナウンサーがいた
昨晩 何者かに襲われ 組員6人死亡 1人重体 暴力団同士の抗争か?
そんな内容だ
工藤はどうなったのだろうか? 橋本や大澤組が関わっているのだろうか?
加賀は気になったが 確認する手段が思い浮かばなかった
組同士の抗争が疑われる神経質な時期に いろいろ聞いて回るのは
墓穴を掘るのに等しい
また電話が鳴った

75かっちゃん:2017/10/09(月) 04:31:54
勝田さんか? 
「はい 加賀調査事務所です」
「おっ いたね 山木だ」
「山木さん 先日はありがとうございました」
「加賀くんこそ わざわざ広島土産を家に持って来てくれたそうじゃないか」
「いいえ お世話になってますから それで どうしました?」
「いや ちょっと 加賀君に警告しておこうと思ってね」
「はい?」
「広島の暴力団事務所で起きた殺人事件 知ってるだろ?」
「ええ さっき県警の石田さんから 何か知らないか聞かれました
テレビでも大騒ぎですね」
「キミが今やってる案件から すぐに手を引け」
「え? それは どういう?...」
「キミの周りに その殺人者の影がチラついている」
「山木さん! 何を知ってるんですか?」
「私の捜査対象でもないし 広島の連中も必死にやってるから
あまり言えないんだが 福村さんにキミを紹介した手前 心配でね」
「山木さん!」
「...同期の公安の奴から聞いたんだよ 張琳(Zhang Lin)という女を
マークしてたら キミがいたと」
公安? 張琳? 中国人? スパイ? 女?
ナイフの女か!?
「何者ですか そいつは?」
「どうやら 中国人民解放軍の工作員だったらしい」
「なんで そんな奴が?」
「5月と7月に 華国鋒が来日したろ? 
中国は2年前から鄧小平が実権を握ってるが 裏では華国鋒が
しぶとく返り咲きを狙っていた それで日本でおかしな行動に
出ないように張り付いてたんだ」
「公安は身柄を拘束できなかったんですか?」
「いろいろあるんだよ 2年前の日中平和友好条約とか去年の米中国交正常化とかな
なのに 先走った外事二課の奴が 張琳と一緒に潜伏してた銭純(Qian Chun)を
一時拘束してしまったんだ」
「秘密裏に強制送還ですか?」
「そういうことだ それ自体はたいした問題にもならなかったんだが
銭純(チエン・チュン)が司令塔 張琳(チャン・リン)が実動隊の役割だったんで
糸の切れた凧状態になったわけだ」
「張琳は どんな女ですか?」
「身長154cm 痩せ型 色白でけっこうカワイイ顔してるそうだぞ
でも 生まれてこの方 人を殺す訓練しかして来なかったような人間らしい」
「参ったな」
「見たんだろ? 相方を失った奴は 今 暴力団に囲われてるらしい」
「山木さん そんなにペラペラ喋っちゃって大丈夫ですか?」
「さっきも言ったけど キミが奴に近づくきっかけを作ったのが 私だからな
危険な目に合わせたくないんだ」
「お心遣い 痛み入ります」 加賀は皮肉っぽく言ったつもりだった
「わかったら すぐ手を引いてくれ」
「そこまで言うなら 今日その女に狙われた山崎里保を 護衛付きで広島まで
送り届けてくださいよ」
「すまん そういう権限は 私には全くない 誰の指示で 何の目的で
張琳が動いてるのかもわからない 同期が 張琳の流れた先で起こしてそうな
事件がないか 組織犯罪対策の私に 参考で聞いて来ただけだからな」
「相変わらず警察の縦割りの酷さと言ったら... 広島県警がかわいそうですよ」
加賀は少し意地悪でもしてやらないと やってられない気分だった
「そうだな キミの言う通りだ 本当にすまない」
山木が素直に謝罪するのを聞いて 加賀は自分の言を恥じた
「いいえ 言ってくれて助かりました 
張琳は 広島で暴力団を襲って その足で東京に来たということですね?」
加賀がおさらいをした
「ああ そういうことだね バックアップしてるのは 波浪興産の周りにいる暴力団関係だろう」

76かっちゃん:2017/10/09(月) 04:33:04
山木は三度 加賀に手を引くように言うと電話を終えた
とかなんとか言っちゃって 公安はいつから見てたんだよ?
少し腹ただしかった
山木には感謝の気持ちがあったが 山﨑里保の存在も既に知っていたようだし
公安の内偵がどこまで進んで 何を知っているのか 張琳のような危険人物を
泳がせているのではないか? と気になった
しかし 流石に7人の死傷事件を黙って見ているわけはなく 里保が殺されかけたことも
事後に情報収集したことだと思いたい
張琳の所在が掴めていないのなら 明日以降の里保と加賀を囮として 確保するつもりだろう
日本で殺人鬼と化した張琳を もう野放しにしておく理由はない
やってやろうじゃないの!
加賀は笑って済ませられない事態になっても 意地になっている自分が好きだった
里保をどうやっても山﨑直記の前に立たせる!

「楓! なんや いるやん!」
騒々しくあかりが事務所のドアを開けた
「あんた せっかく ええことせぇへん?って誘ったのに すぐ電話切りよったな」
「仕事で忙しかったんだよ」
あかりは緑の長袖VネックTシャツを着ていたが 胸元の切れ込みがかなり深く 
谷間が見えていた
柔かな生地を押し上げる 胸のお椀型の隆起も目が吸い付けられるようだった
「モリトチ! こっち来ぃや」 パーテーションの向こうから チワワがテトテトやって来た
あかりが胸の上に乗せるように抱き上げる
「なぁー せっかく モリトチが凄い技見せたげるって 言ってたんやけどなー」
「なんだよ?」
「見たい?」
「あー はいはい 見たい見たい」
「ハーイ トチ トチ! これなーんや?」 
あかりがペットフードを上にかざした
モリトチが必死に伸び上がる
「ハーイ いない いない!」
あかりがペットフードを自分の胸の谷間に突っ込んだ
モリトチがTシャツの襟元に首を入れ 潜り込む
一瞬白い2つの半球が蛍光灯で光って見えた
間を置かず あかりのTシャツの裾からペットフードを咥えたモリトチが
落っこちて来て着地した
「大成功! 凄いやろ?」
「あー 凄い 凄い」
「何や その やる気のない 言い方?」 あかりが睨んだ
「最近毎日 仕事で忙しいの モリトチの芸なら また今度にして」
「忙しくて 精力減退や言うの? スタミナないのー」
あかりはそう言って 胸を大きく反らした
あ やめて! 来た来た 疲れ何とか言うやつだ
「今ちょっと ムラムラ来たんで 部屋出てってくんない?」
「ほー ムラムラ来たんか? ホンマに?」
あかりが10cmと離れていない近さで顔を覗き込んだ
遊んでやがる
「あのなー おっぱいなんて 脂肪やでー そんなんで
チンチンに 血いっぱい溜め込んで 大っきくなるんやから 難儀やなー」
恥じらいというものが無いのだろうか この女は?
「おっぱい 欲しいでちゅかー?」 
あかりが腕を胸の下で組んで 目の前に突き出して来た
そこまでやられたら 我慢の限界だ
「あかり!」 
加賀は思わず抱きしめた
「きゃっ! 何や! 変態や! 変態! 触りよったで! 信じられへん!」
あかりはモリトチを抱き上げると あっと言う間にドアを出て行った
加賀は黙って立ち上がると インスタントコーヒーを入れて飲んだ
なんかよくわからないけど 釈然としない思いが湧き上がって来る
ラーメン食べに行こ! ドアを開け 階段を下りて行った

77かっちゃん:2017/10/09(月) 04:33:51
ラーメンこぶしは客が2人だった
この時間にしては珍しく少ない
「浜さん 今日ヒマそうだね」
「それ言っちゃダメだって つっても さっきまでは半分以上埋ってたんだよ」
「そっか じゃあいい時に来たな チャーシュー麺と.. 野菜炒めももらおっかな」
「あいよ」
「いらっしゃい 大家さん」 エプロンをした女性が水を持って来た 
「大将にヒマそうとか言っちゃダメだって」
「あっ ゴメン サクちゃん つい いつものクセでさ」
サクはラーメンこぶしの従業員だ
加賀と同じくらいの年齢で ガタイがいい
「いつものクセって それじゃいつもお客さんいないみたいじゃん」
サクは大きな体を揺すって抗議した
それほど太ってはいないのだがガッシリとした体格で 性格は温厚 
包容力がありそうだ
ハッとする程 美人の時がある
こぶしの開業時から浜さんと一緒に働いているが
加賀は二人ができてるんじゃないかと思っていた
「サクちゃん 大将まだ食べ歩きしてんの?」
「うん 火曜の定休日はいつもラーメンだよ」
「自分で作ってんのに 休みの日までラーメンって どれだけ好きなのよ?」
「体に悪いから やめなって言ってんだけど」
「その割に細いし 顔も小さいのが謎だよね」
「本当 その遺伝子 あたしにわけて欲しいわ」
「わけてもらってんじゃないの?」 加賀がニヤけて言った
「バッカ! 大家さん けっこうドスケベね!」 サクが加賀の腕をはたく
結構痛かった
いかんいかん 最近あかりやローズ朋子さんのせいで下品になってきたぞ
加賀は反省したが サクがニコニコしているところを見ると
二人は上手くいっているようだ
「でも 野菜もたくさん食べなきゃね」
「そうなの 最近野菜食べるようにサラダとか あたしも意識して出してる」
「へぇー ご飯作ってあげてんだ?」
「た たまによ たまに」 サクが真っ赤になった
「はいっ チャーシューお待ち 炒め物もすぐ出るよ!」 厨房から声が飛ぶ
チャーシュー麺がやって来た
脂身の多い とろけかかったチャーシューが5枚乗っている
チャーシューのみ 麺とチャーシュー 麺のみ
いろんなパターンでラーメンを楽しんでいると野菜炒めもやって来た
「野菜炒めだけじゃ 一日分の野菜にならないからね」 皿を置きながらサクが言った
「大丈夫 昼間 鰻食べたから」
「バッカじゃない? 鰻は野菜じゃないよ」 サクが笑った
確かに 野菜不足は気にしてる
加賀は明日から野菜ジュースでも飲もうかと考えた
しかしプロが炒め物を作ると なんでこんなにシャキシャキになるんだろう?
自分で作ってもぐんにゃりして ソースで味をごまかして食べる代物しかできないのに
食欲の前に すっかりあかりのことを忘れていた

その前日 広島市内は台風が近づいているせいか 蒸し暑い夜だった
中区のはずれにある3階建ての建物の2階には 男たちが集まっていた
「な? 舐めてんじゃねーって 俺はそう思うんじゃ 違うか?」
サングラスに太い金色のネックレスが目立つ男が言った
「わかる わかるんじゃがの そこはちぃーと我慢よ」
太いもみあげにゲジゲジ眉の男がタバコを吹かして応える
隣にはソファにどっかり腰かけたごま塩頭の男が 向いに立つひょろっとした
若い男と身長180cmの大柄な男を相手に喋っている
「やっぱ 女は若いのに限る 肌のきめ細かさが違うんじゃ」
「オレはちょっと年上がいいや 色っぽいじゃないすか」 痩せ男が言う
「バカじゃのぅ 生娘が一番じゃけ」 ごま塩がニタリとした
「おぅ みんな揃ったか?」 奥の本皮張りの椅子に座った50絡みの男が声をかけた

78かっちゃん:2017/10/09(月) 04:37:57
「工藤と岸本がまだ来てねぇ」 ごま塩が言う
「工藤さん まだグレースで腰振ってんじゃないすか?」 痩せ男が笑って言った
「オメー 工藤さんの前でそれ言ってみ?」 大柄な男がたしなめる
「かんべんしてくださいよ そんなこと言ったら 俺 バラバラにされて
7つの川に浮いちゃうじゃないすか」 痩せ男がそう言うと 周りの男たちが笑った
「もうちょっと待とうや」 奥の椅子に座った男が言う
男の頭上には「八反組」の名前が入った提灯が飾られていた
横の壁に獅子の絵がかけられ 手前のサイドボードの上に
模造刀が抜き身で置いてある
事務所はエアコンが入っていたが いまいち効きが悪い
いくつかの扇風機が タバコの煙で白くなった室内の空気を攪拌していた
「工藤さんの女の好みって広いっすよね もうガキみたいのから
おばはんまで 何でも来いっていう」 痩せ男が面白そうに言う
「生娘が一番じゃけ 何も知らん女に教え込むのがええんじゃ」 ごま塩が言った
事務所は再び 雑談で溢れた
ドアが微かに キィと言う音を立てて開いた
傍にいた3人の男たちは 工藤が来たかと思い 入り口を見た
女?
白い顔をした若い小柄な女が立っていた
半透明の雨ガッパを着て フードを被っている カッパの下には濃紺の服が透けている
「なんだお前?」 痩せ男が一歩踏み出して言った
女は答えない
「町内会の案内か? カタギの来るところじゃねぇぞ?」
「まぁ ええけぇ 嬢ちゃんどっから来んさった」 ごま塩がニタリと笑いながら近づいた
「ほぉ かわいい顔しとるのぅ 雨も降っとらんのに カッパ脱いだらどうじゃ?」
痩せ男は頭の横で指をクルクルと回し 入って来た女を指さして 大柄な男を見た
ごま塩が女のフードを上げようとした瞬間 黒い手袋をした手が素早く上に動き
ごま塩の喉を裂いた
「うげぇ ぉぉっげっ」 ごま塩の喉から白い肉が見えたかと思うと忽ち
血飛沫が散り 続いて大量の血が溢れ出して ごま塩が倒れた
「後藤さん!」 痩せ男と大柄な男が同時にごま塩の名を呼んだ時
女はそのまま前に進み 二人の目と喉を刃渡り15cmくらいのナイフで切った
防御の腕を上げる前に切られた二人は 片や血の溢れ出る目を押えながら
床の上をバタバタと足を叩きつけて体をよじり 片や空気を漏らすゴボゴボと
言う音を出しながら頽れた
「なんじゃワレ!」
「おどれ どこの組じゃい!」
残りの男たちが怒りを発して立ち上がろうとしたところを 普通に歩いて
近づいて来た女が 事も無げに喉と耳の穴に ナイフを突き立て
あっという間に2人を黙らせた
女はとにかく 躊躇が無かった 
相手が大声を出そうが覆い被さろうとしようが関係なく 最短距離で急所を襲い
殆ど反撃すらできずに 男たちは倒れていった
女は全く声を発せず 表情も全然変わらない
動きのリズムさえも殆ど変わらないように見えた
ここまで女が殺戮を始めてから 1分と経っていなかった
椅子に座っていた男と その傍にまで後退りした体格のいい男は 
突然のことに驚きながら ようやく身構えた
「オヤジ! チャカ!」 体格のいい男が 椅子の男に言うと 自分は
壁際にあった模造刀を構える
椅子の男が 机の引出しを引っ張り出し 中を漁る
女はポケットに手を入れると 白い粉をばら撒いた
扇風機の風に粉が舞い上がり 男二人が咳き込む 
女は片手で自分の口と鼻を押えると 前に進み
模造刀を持って咳き込む男の耳の穴にナイフを突きたて
ピストルを1発めくら撃ちした男の首筋を切った
10秒もすると 事務所の中はうめき声と
微かに動かす体がモノに当たる音しかしなかった
女はうめき声を上げる男を見つけては 喉を裂いたが
「イテぇ イテぇ」と泣き叫ぶ痩せ男はそのままにして ドアを出て行った

79かっちゃん:2017/10/09(月) 04:39:47
朝のニュース番組では一昨日の広島の事件を 暴力団の抗争として
まだ大きく取り上げていた
加賀は昨夜ラーメンこぶしで食べた後 玲奈と同様に疲れていたのか
夜9時には寝てしまった
今朝は4時に目が覚め コーヒーを飲みながら 昨日の情報の
整理と今日の予定の確認を行う
6時になると 早めの朝食を準備し 食べながらテレビを見た
目撃者のインタビューが流れる
「7時くらいだったかな? 男がこの前を歩いてったよ なんか怖い感じの」
胸から下の映像に 近所の主婦というキャプションが付いていた
「もう暗くなってたけど 小学生の女の子みたいなのとお父さんが
一緒にいて ヤクザ事務所があるのに危ないなって思った」 男性会社員が答える
まだ謎が多い事件ですが 周囲の住民の方 近くを通られる方は
充分注意してください アナウンサーはそう締めると次のニュースに移った
何故 八反組が襲われたんだろう? 加賀は考え込んでいた
以前から抗争に発展するくらいの敵対組織があって そこがヒットマンを送り込んだのか?
大澤組は仲良くは見えなかったが 敵対しているようにも思えなかった
里保を襲った人物と同じヒットマンなら 山木が言ったように
波浪興産の周りの暴力団関係という線が濃いだろう
橋本が関係しているのか?
橋本と八反の工藤はヤクザの兄弟関係だ
工藤も死んだのなら 橋本と仲間割れでもあったのか?
この件と里保の相続とは繋がっているのか?
橋本が動いているとすれば 山﨑会長の指示だろうか? 
それとも西口? あるいは他の誰かか?
今日もあの女は襲って来るのだろうか?
次々と疑問が浮かんだ 
プロが来るなら 闘って勝ち目はない 
とことん逃げるしかないんだ
昨日の襲撃を見る限り 飛び道具は使い難いと見えた
日本では入手や携帯が難しいのか? 
でも暴力団がバックにいるなら 楽観はできない
広島に行く手段として 入口・出口で所在を把握され易い電車を避け 
レンタカーを選んだのは正解に思える
あの女は運転しないだろう 加賀達を追跡するなら 運転手が必要となる
女の行動に制限が出るのは必定で こちらには有利だ
そう思いたかった
移動の服装をいくつか選ぶと カバンのある事務所に下りた

7時半になると 電話が鳴った
こんな朝早くに誰だ?
少し不安になった
「もしもし 加賀調査事務所です」
「おー こんな早くに開いてんだな 広島の勝田だ」
「勝田さん? おはようございます」
「悪いな 昨夜歩き回ったので署で仮眠してたんだが 起きたら気になってな
本当に何も知らないのか?」
「は...い」
「なんだよ 歯切れが悪いな 石田さんもまだなんか隠してそうだって言ってたぞ」
「いや そうじゃないんですが... 八反の組員は殆ど死んだんですか?」
「組長 若頭始め 殆ど死んだよ 居合わせなかった幹部が一人と何人かの舎弟
準構成員が数人いるんで 捕まえて話しを聞いてる まだ探してる奴もいるがな」
「工藤?」
「あ? おまえ何でそんなこと知ってんだ? ふざけんなよ! 何知ってんだ?」
「いや あてずっぽうですよ」
「言えよ! じゃないとしょっぴくぞ!」
「昨日石田さんの電話の後 ちょっと聞いたんですよ」
「何を? 誰に?」
「誰が言ったかは勘弁してください」
「とりあえず 何聞いた? えっ?」 勝田の怒気を孕んだ低い声が 応えを急かした

80かっちゃん:2017/10/09(月) 04:40:29
「犯人が中国人民解放軍の元工作員だと」
「はぁ? 何言ってんだおまえ? 誰がそんなこと言ってんだ」
「...公安」
「チッ... ふざけやがって おまえ泣かすぞ!」
「そんなこと言われても でもプロの仕事だったんでしょ?」
「...」 
「指紋もないし それに女だ」
「おまえ 本当に知ってんのか」 勝田が困った声を出した
「確かに指紋は出てない 地取りも事務所周辺にいた女の子の目撃が比較的多い
鑑識の話しだと 八反の連中は殆ど反撃もせずに殺されたようだ 防御創すらない」
「ナイフで喉を狙った?」 加賀はカマをかけた
「半分がそうだ 畜生! 外国人の女だってーのか!?」
あの女は 7人のヤクザを相手に反撃の隙も与えず殺したのか...
加賀は今更ながら 里保がラッキーだったことを覚った
それどころか 加賀も玲奈もターゲットじゃなかったから生きているだけで
下手をすれば巻き込まれて 死んでいたかもしれない
「他に何を知ってる?」 勝田が凄んだ
「後は殆ど知らないんです でも県警の上には話しが行ってんじゃないですか?」
警察が縦割り組織だと言っても ある程度公安から話しが行っているだろう
もし そうでなければ これがリークになってもいい という加賀の反抗でもあった
自分たちを囮に張琳を炙り出すなら それくらいのささやかな抵抗は 甘んじて受けろ
山木には多少泣いてもらうこともあるかもしれないが そうなったら警察庁に垂れ込んでやる
「本当だな?」
「本当です 誰がその女を使ったのか ボクが聞いた時点ではわかってないようでした」
「クソっ! 上に聞いてみるぜ 他になんかわかったら教えろよ! 
でねーと 事情聴取で広島に呼ぶぜ」
「明後日くらいには また行きますけどね」
「はぁ? おまえ 本当にふざけてんのか? 何のために来るんだよ?」
「ちょっと用事がありまして 車で行きますから 広島に入ったら迎えに来てくださいよ」
「舐めんなコラッ! 岡山まで来たら電話しろ! ぶち込む用意しとくぜ」
「お願いします 詳しくは公安に あっ とぼけたら サッチョウが動いてるって
言えばいいですよ」
「おまえって奴は...」
勝田は呆れたようだったが こちらがのっぴきならない状況にあることも
なんとなく感づいているようだ
「気をつけて来いよ」 そう言うと勝田は電話を切った
これで 公安の見えない護衛と広島県警の監視を手に入れた
まぁ 無いものと思って行動しないと いなかった時に痛い目に会うどころじゃないが

朝8時半になるとレンタカーを借りに出かけた
愛車のイノチェンティ90は 大きな故障をしたことはなかったが
流石に広島までの長距離となると 無事に行けるか自信が持てない
電車で秋葉原に行き そこから歩いて電話予約した店まで行くと
車は既に店頭に止めてあった
現行S130の一つ前の型の 76年式フェアレディZだ
速い車としては申し分なかったが 色が赤しかないと言われた
目立ち過ぎだが仕方が無い
キーを捻ると惚れ惚れとするエンジン音が響く
たまにこういう車も悪くない
待ち合わせの時間にはまだ小一時間あったので 少し走って車に慣れることにした
やっぱ加速が違うね そんなことを思いながらバックミラーを確認する
特に追尾してくる車は無いように思えたが 一応適当に右折左折を繰り返した
里保には 国鉄水道橋駅側の外堀通り沿いで待つように言ってある
水道橋交差点を越え 少し行くとハザードを出して車道脇に車を寄せた
後続車を確認し 車を降りて歩道を見渡すと 30m程離れたところに
こちらを見つけて手を振る里保がいた
白シャツにジーンズ 左手には黒のレザージャケットを持っている
右手でスーツケースを引っ張って キャスターをゴロゴロ言わせながら
赤い車の傍まで駆け寄った
「おはよう! カッコイイ車ね」 里保が嬉しそうに言った

81かっちゃん:2017/10/09(月) 04:41:25
「おはよう! 派手で目立つけどね 荷物はここに入れて」
リアの扉を跳ね上げると シートの後ろにスーツケースを入れた
加賀のカバンもあるので 意外と広いスペースも一杯になる
「じゃあ 行こうか?」
「ロングドライブだね 運転気をつけて」
加賀は買ってあった缶コーヒーを里保に渡した
「ありがと」
里保は目を細くして微笑んだ
西神田から入って都心環状線を進む
三宅坂を過ぎると警視庁の方向を見ながら加賀は思った
ちゃんとついて来て 大事な時は出て来てくれよ
谷町ジャンクションで3号渋谷線に入る
5速MT車だがどうってことはない 車は快調だ
「長旅だから 寝たい時はいつでも気にせず寝ていいよ」
加賀はエンジン音が鳴り響く中 里保に言った
「私 車で広島に帰るのは初めて」
「ボクだって 富士山の近くまで行ったことがあるくらいさ」
「大丈夫?」 里保が目を見開いて加賀を見た
「たぶん」
「えー?」 里保が笑った
先程からバックミラーでチラチラ後ろを見ているが
付いてくる車はいないように見える
意外と拍子抜けするくらいにあっさり 広島まで行けるかもな
一応予定としては 夜になるまで大阪に着けたらと考えていた
500km弱か... 先は長い ゆっくりと安全運転しよう
用賀を過ぎ東名高速に入った 交通量は多いがまだ苦痛ではない
「ねー 昨日やった ブレイクダンスっていうの? アレって凄いね」
「うん ブレイキンはだいたい黒人やヒスパニック中心に盛り上がってるんだけど
私も初めて見た時 目を丸くしたわ」
「あの技みたいなのが他にもあるの?」
「そうね ウィンドミルはパワームーブの一つだけど 本来は
立った状態からリズムに乗って いろんなステップ踏んだりした流れで
あれをやったりするの」
「へー 見てみたいな」
「私も 面白くって見よう見まねで ちょっとやってみただけだから
上手く踊れないけどね ちょうど派手なウィンドミルだけ少し前まで
練習してたから 昨日思わず流れで出ちゃって 自分でもビックリした」
「でも それが良かったんだよ 昨日のナイフの女は殺しのプロだったらしい」
「えっ...」 里保が目を見開いて加賀を見た
「ちょっと昨日 警察の知り合いから情報が入ってね」
「殺しのプロ... あんな女の子が?」
「うん あまり怖がらせたくはないんだけど 楽観し過ぎても危険だから」
「あの子 運転できるの?」
「わからない できない可能性は高いと思う でも後ろについてる
組織がいるから安心はできないよ」
「組織...」
「広島のね」
「...」 里保は考え込んでいた
「ニューヨークでは どんな生活してたの?」 加賀は話題を変えた
「ジャズダンスのスクールに通って 夜はやっぱりディスコね」 里保が笑った
「本当にダンスが好きなんだね」
「うん 小さい頃からやってるから」
「スクールってどんな感じ?」
「いろんなところからいろんな人が来てるの 白人黒人アジア人メキシコ人
ヨーロッパやカリブの島々の人まで みんなダンサーや俳優を夢見て来てるわ」
「行ってみてどう?」
「凄く刺激受けてる みんな働きながらとか必死なの 私も日本にいたら
中途半端に教えてもらってるものをそのままマネするだけで終わってたかもしれないけど
今は自分で表現することまで考えて 基礎を学んでるわ」
「充実してるんだね」

82かっちゃん:2017/10/09(月) 04:42:29
「そう 充実してるの だから... それが終わってしまいそうで 怖かった」
里保の声が小さくなった
「でも あなたに会って気持ちが固まったわ やっぱりケジメをつけなくちゃいけない
お父さんに会って 自分の道に進むってちゃんと言うの」
加賀は黙って頷いた
「ねー この車って速そうだし 人気あるんじゃないの? なんか加賀さん
カッコ良く見えるし」
「え? そう」 加賀は背筋を伸ばした
「でも 人気はあったんだけど この赤い車は半年前に連続殺人事件で
使われた車でね」
「えっ?」 
「ついでに今から入る日本坂トンネルは 一年前に大きな火災事故が起きてる」
「...」
加賀は余計なこと言っちゃったなぁと思いつつ 運転に集中しようと努める
「人間 いつ何が起こるかわからないものね」 トンネルを出ると
しばらく黙っていた里保が口を開いた
「そういうこと 注意を怠っちゃダメ」 バックミラーをチラ見した加賀は
2台後ろの黒いセダンが 追い越し車線に出てくるのを見た
グングンと迫り 横に並ぶとそのまま追い抜いて行く
黒いローレルの運転席にはワイシャツ姿の男が一人
思い過ごしか
人数 状況から考えて あの女の関係や公安ではなさそうだ
そろそろ一休みした方がいいな
流れ行く路肩の緑の看板を見ながら いつしか加賀は昨日のことを思い出していた
山木からの電話の後 少し遅い時間だったがミズキと飯窪に電話をした
山﨑の家に行った時点で ミズキへの報告はしなくてもよかったが
探りを入れるため ほぼ毎日電話をしている
ここ2・3日は 里保の友人関係を当たり 人を介して 里保と会えるように
説得しているという説明をしていた
ミズキは 急いでくださいと言ったものの 切迫感はあまり感じられなかった
飯窪からは もう帰るところだったと言われ もっと早い時間に連絡するように
注意された
里保に関しては ミズキへの説明と同じ話をしているが 山﨑会長の体調が
日に日に悪くなっているので できる限り早く里保を見つけて欲しいということだった
橋本が里保を襲わせていると考えるなら 橋本と繋がった飯窪が
里保を見つけて欲しいと言い続けるのは こちらを欺くポーズでしかない
何のため?
里保を亡きものにして相続を阻むのを 気取られないようにするためとしか思えない
しかし里保を排除したところで 橋本や飯窪に直接資産が回ってくることはないだろう
やはり長女さゆみと結婚を考えている西口ぐらいしか黒幕が浮かばないのだが...
里保の”優しい人”という西口評がひっかかっていた
優しさと野心は相容れるかもしれないし 打算の優しさも考えられるが...
車は愛知県に入った

外はすっかり暗くなり7時を回っている
そろそろ帰ろうとしていた飯窪は 加賀からの電話で山﨑の家に引き止められた
「もっと早く連絡してくれないと もう帰るところだったわ」
飯窪が注意すると 加賀は気をつけますと言った
学生気分でいるんじゃないかしら? 
飯窪は ルックスは悪くはないものの 男を感じさせない加賀を ガキっぽいと思った
人を介して里保と会えるように説得しているという話だったが
一昨日からあまり進展していないように思える
山﨑が日に日に容態悪化しているから 急ぐように発破をかけた
電話を切ると 西条駅周辺のホテルに向かった
8時前にチェックインできたので ヨシとしよう
フロントで飯窪秋奈の名を記す
5Fのダブルの部屋に入り 電話を一本かけるとシャワーを浴びた
痩せた薄い体だが それが逆に 細い脚が伸びる丸みを帯びた腰周りの色気を強調していた
濡れた黒く長い髪も艶めかしい
部屋着を羽織り 髪を乾かしているとドアがノックされた

83かっちゃん:2017/10/09(月) 04:43:40
秋奈が招き入れたのは橋本だった
「仁 待ってたわ」
橋本はレザージャケットを椅子にかけると 白のTシャツにレザーパンツ姿で
ダブルのベッドに腰かけた
秋奈が自分から唇を重ね 橋本の首に細い腕を巻き付ける
橋本は秋奈を一旦脇にやり 体を折ってブーツを脱ぐとベッドに仰向けになった
待ちきれないとばかり 秋奈がレザーパンツを脱がしにかかる
トランクスが見えると 上からなぞるそうに掌を滑らした
「アレ? 大人しいのね 疲れてるの?」 下着をずり下し ペニスを愛撫し始める
少しずつ芯が入ったように 屹立してくると ぬめりの出て来た亀頭を口に含んだ
真っ直ぐに咥えたり 竿の横を舐めたりする
橋本は力を抜いて天井を見ていたが 秋奈の肩を押して止めさせると 部屋着を脱がした
ベッドに手を付いて後ろを向かせ そそり立ったペニスを 秋奈の脚を広げて埋めて行く
もう既にヌルヌルに濡れ 準備は整っていた 
ジュプっ ブチュ そんな音を立てながら 前後に動かすと 秋奈は体をよじって
くぐもった声を漏らす
「ああっ いいわ あん.. あっ..」
橋本はハート型に突き出た 白い尻を掴むとペニスがもっと深く刺さるように
左右に押し広げた
その時 またドアがノックされた
橋本は動きを止めるとペニスを抜き取り 秋奈の尻をペシっと叩いて 「待ってろ」と言った
ドアを開ける音がして橋本が戻って来ると 後ろにハンサムだが どこか野蛮そうな
痩せた男が付いて来た
「誰?」 秋奈がシーツを引き寄せ 体を隠す
「兄貴 早すぎたんじゃねーの?」 痩せた男が言った
「いや 時間通りだ」 橋本はそう言うと シーツを剥ぎ取り 
ほらッケツ向けろと 秋奈の太ももを叩いた
「イヤっ 見てるし」 
「見せてやれよ おまえの綺麗な体を」 
橋本は尻を上げさせ 再び秋奈に入って行く
痩せた男は反対側に回って 秋奈の顔の前に立った
「じゃあ お口がヒマそうなんで 仕事してもおうか」
「あっ 誰が.. あんっ あんたなんかに!」 突かれながら秋奈が反発した
「オレ いい仕事するよ? きっと姉ちゃんも後で もっとちょうだいって言うから」
痩せ男がニヤニヤしている
「あんまりジラすと そいつ暴れるぞ なにしろ狂犬って言われてるからな な ハルオ!」
後ろから橋本が言った
ハルオは自分でベルトを外すと 黒の薄いスラックスと一緒にトランクスを下げる
目の前に 15cmくらいのペニスがぶらんと垂れ下がった
カリ首には真珠が4つ程見える
秋奈は初めてそんなペニスを見た
ハルオが 口元までペニスを近づけた
秋奈は顔を背けたが 頭を掴み ペニスを押し付けて来る
「ほら 口開けなよ 美味しいぜ?」 
秋奈はハルオみたいな軽い男が大嫌いだったが その男に無理矢理咥えさせられる
自分が悔しくて みじめに思えた
と同時に 橋本に突かれる快感とない交ぜになって いやらしい興奮が湧き起る
ハルオのペニスは口に含むと 突然膨張を始め 首が上に持っていかれるくらい
反り返ると口の中をいっぱいにした
その状態で ハルオはペニスを前後し始めた
柔らかな肉の塊と真珠の硬さが 口の中を摩擦する
秋奈は呼吸が苦しくなりながら 堕ちて行く快楽にクラクラしていた
橋本のピストンが激しくなり始める
秋奈の腰を掴む力が強くなり 搾り出すように突き入れたまま固まると果てた
秋奈も力が入り 口からハルオのペニスが外れ 甲高い声を上げた
「兄貴 中に出して大丈夫なんすか?」
「こいつは 安全日になるとしたくなる女だから」 橋本はそう言いながら
レザーパンツを履き始めた
秋奈の股間から生温かいものが ツーっと流れ落ちる 
「アーン 出て来ちゃう」 思わず秋奈が声を上げた

84かっちゃん:2017/10/09(月) 04:44:56
「しっかし兄貴 あそこまでやるとは思わなかったよ」
「なんだ? ビビってんのか?」
「いや そういうわけじゃないけど」
「金は出せたんだろ?」
「ああ 真里から金庫の番号聞きだして 午前中に抜いといたよ」
「自分の組の姉さん捕まえて 呼び捨てだぜ?」 橋本が笑いながら秋奈に言った
「あいつ小柄だから いろんな体位できるんだよ 
ひぃひぃ言いやがって いいわ〜 ウチの人より全然イイッ! だって」 
「今度は あいつ呼ばわりかよ ヒデーなおまえ」 全然酷くない風に橋本が言う
「あいつも別れたがってたから ちょうど良かったよ 兄貴 あれ誰がやったんだ?
岸本なんて真面目だから おやっさんとカシラ殺った奴探して仇取りましょう とか言ってるよ」
ハルオが笑う
「ちょっと 拾いものがあってな テストしたんだ 
おまえはもう少し隠れてろ まぁ 見つかっても アリバイあるんだろ?」
「ああ グレイスで2人相手してたから」
「おまえ 本当絶倫だな」 橋本が呆れた
「まぁ 岸本もそんな感じなら サツもわかんねーだろ 
殺った奴は外人だから 足つかねーし もし事情聴取されても
おまえは知らねーで通してりゃ大丈夫だ」 ブーツを履きながら橋本が言った
「あー スッキリしたよ あいつらオレを拾ってやった扱いで
糞みてーな シノギばっか回しやがって ざまぁみさらせ!」
「俺はもう行くから おまえは もうちょっとそいつを天国に連れてってやれよ」
橋本はそう言うと部屋を出て行った
「私 帰る!」 秋奈はそう言うとシーツで体を隠し 服を着に行こうとした
「まぁまぁ 兄貴もああ言ってただろ? 天国に連れてってやるよ」
ハルオは秋奈をベッドに押し倒し 腕を払いのけて薄い胸に舌を這わせる
「おっ 乳首がピンピンに立って来たぜ」
ハルオがジュルジュルと音を立てて舐めながらそう言うと 体が急速に熱くなり始める
秋奈は抵抗し続けていたが 舌があそこにまで下りてくると快楽に身を委ねた
「いやっ ダメ! あぁん」
「それじゃ 行くぜ」 
ハルオが正常位でペニスを突き立てると 身をよじって歓喜に震えた
大きな肉棒の圧力と点当たりで膣壁を擦る真珠が秋奈を狂わせる
「ああっ! あんあん イイっ ああん!」 
抑えようとすればするほど 声が漏れ出て秋奈は我を忘れた
反り返りの強いペニスが 前後する度にえぐるように潜って行く
若い男のたぎりを味わった秋奈は 仁以上に体がハルオを求めているように感じた
ハルオは何度も何度も秋奈を求め 秋奈も次々と来る快感に 頭がおかしくなりそうだった

橋本はホテルを出ると 波浪企画に戻った
夜の10時前では もう会社に人影はない
名目上の社長ではあったが 実作業は真面目な奴らに殆ど任せていた
橋本は専ら 腕っぷしの強い奴を街で集めては 使えるかどうか試し
そういう舎弟と共に 波浪興産の敵を潰して回っている
電話が鳴った
「橋本だ」
「社長 竹内です 夕方から何度か電話してたんですが」
「おぅ 悪かったな 終わったか?」
「それが.. 失敗しました」
「そうか」
「チャン・リンは狙ったんですが 邪魔が入って」
「まぁいい 元々昼間に野外で簡単に殺れるとは思ってねーよ 
チャン・リンを広島から出しときたかっただけだし サツは来てねーんだろうな?」
「来てないです チャン・リンは無事回収しました」
「おぅ それじゃ明日戻って来い」
「奴ら追っかけなくてもいいんですか? 中西興信所が張り付いてますが」
「チャン・リンを見たんなら 新幹線や電車では来ないだろう
車じゃ追っかけて狙うのも難しい 所構わずチャカ使うわけにもいかんしな
引き続き中西に見張らせて 近づいてからチャンスがあれば仕掛ける」
「わかりました」 電話が切れた

85かっちゃん:2017/10/09(月) 04:50:36
橋本はチャン・リンと出会った時のことを思い出していた
成田空港に野中を迎えに行く前日だった
野中は橋本が採用した実動部隊の人間で 英語が少し話せたため
今回の山﨑里保の件でニューヨークへ行かせていた
こちらのつてで手配したはずの 向こうのコーディネーターが機能せず
結局野中自身が里保を襲撃し 失敗に終わって帰って来ることになるのだが
事前に現地で上手く進んでいないと聞いていた橋本は 竹内と一緒に東京に出た
里保が戻って来た場合の追跡を依頼するため 渋谷にある中西興信所を訪ねる
竹内は元々渋谷・新宿辺りで遊んでいたチンピラだ
広島に流れ 流川界隈に居付いた竹内を 橋本が波浪企画に呼び込んだのだが
都内を案内させるため 連れて来た
「社長 今日はこれだけで終りですか?」 Tシャツにスカジャン ジーンズ姿の竹内が言った
「ああ 中西に写真を渡したし 明日からのことも依頼したから これで終わりだ」
橋本は 暑くないのか?と思いながら 竹内を見て答える
「だったらちょっとナンパでもして遊んで行きませんか?」
「バカヤロウ オレがナンパする年かよ?」 
「そんなこと言わずに これがね ついて来る奴 結構いるんですよ」
竹内は久しぶりに来た古巣に 浮かれているようだった
道玄坂を上る 時刻は夕方の6時になるところだ
竹内は 通りを行く女を物色しては 「お姉ちゃん 何してんの? 遊ばない?」 と声をかける
橋本は少し遅れてついて行った
もう少し経ったら切り上げりゃいい 特に予定もないから それまではこいつを遊ばせておくか
そんなつもりだった
向こうに周りを恫喝しながら歩いてくる チンピラ風情の男がいる
明日以降のことを考えると ここでいちゃもんを付けられて 面倒を起こすわけにはいかなかった
「おい 竹内 行くぞ」 橋本は声をかけると方向を変え 角を何度か曲がる内に円山町に入った
適当に歩いていると デニムのジャケットを着て フードを被った小柄な女がゆっくりと歩いて来る
まだ幼さが残る整った白い顔をしているが 表情がない
「お姉ちゃん どこ行くの? ねぇねぇ」 竹内が声をかけるが全く反応を示さず通り過ぎて行く
辺りをグルっと回るとさっき見た風景に出くわした
「竹内 そろそろ戻るぞ」
「はい...」 竹内は残念そうに 今日は調子悪かったななどと呟いている
ふと 横の小路を見ると ラブホの入り口で さっきのデニムの女が 竹内と同類に
声をかけられていた
周りに人はいない
「一緒に遊ぼうぜ?」 男は女が反応を示さないところを見て 逆にラブホに引っ張り込もうと
腕を引いた
女がポケットに突っ込んだ手を引き抜いた瞬間 男は喉を掻き切られ 目を見開いて
血が噴出す喉を押えながら頽れた 
女は無表情で そのまま倒れた男を見下ろす
橋本は走って倒れた男に近寄った
女は橋本を見たが 特に興味も無さそうだった
橋本はジャケットの胸元に忍ばせていたドスを取り出すと 助けてと声にならずに
口を動かす男の心臓に突き立てた
女が無表情のまま橋本を見る
「付いて来い」
女にそう言うと 歩き始めた
女が従う
竹内が「やばいですよ」と顔面蒼白で 走って橋本を追った
女と距離を置いて追い越すと 息を弾ませて橋本の傍まで来る
「社長 ヤバいっすよ どうすんすか?」
「誰も見てない 女と距離を取って 後ろを歩け 何もなかったようにしてるんだ」 
それだけ言うと 橋本はそのまま特に急ぎもせず歩いた
角を曲がってしばらくすると キャーっという遠い声がした
ちょうど横にあるラブホに入る
女も付いて来た
橋本は竹内が追い付いて来たところで お前は今夜泊まるホテルへ先に行ってろと言った
「大丈夫だ 誰も見ていなかった 慌てず普通に歩いてれば問題ない」
そう言い聞かすと 竹内は何度も頷き 自分を落ち着かせようとした
竹内がいなくなると 橋本はここまでずっと無言で付いて来た女と部屋に入った

86かっちゃん:2017/10/09(月) 04:51:21
「おまえ 名前なんて言うんだ?」 橋本が聞いた
女は無表情のまま突っ立っている
「まぁいい 顔が汚れてるぞ 洗って来いよ」
返事をしないどころか 身じろぎ一つしなかった
この女 どこかイカれてんのか? 
まぁいきなり人の喉掻っ切る奴はイカれてるわな
橋本は苦笑した
「来い」
手招きすると 女は傍まで来る
何故か 橋本は自分がこの女に切られることはない という自信があった
顔が汚れている あそこで洗え
橋本は自分の顔を拭い シャワールームを指さすと 顔を洗うジェスチャーを見せた
女はただ突っ立っている
しょーがねぇな
よく見ると女の髪に埃や土が付いている
橋本は デニムのジャケットに手をかけ 脱がせようとした
手を突っ込んでいるポケットは 右側だけ赤黒い染みが広がっている
右腕を持って引っこ抜くと 刃渡り15cm程のコンバットナイフが握られていた
ポケットどうなってんだ? 穴開いてんのか?
左手も引き抜き 背後からジャケットの襟を持ち上げると ようやく意図に気付いたのか
腕を上げて 脱ぐのに協力的になった
ジャケットの下は 無地の黒Tシャツ1枚だ
襷にナイフを入れるケースを吊るしていた
なるほど ポケットに穴を開けて ここにしまっていたのか
ケースを外してナイフをしまった
女は無表情で されるがままだったが ナイフをしまう時はジッと見ていた
黒のミニスカートを脱がす 白の下着を履いている 
スカートを落としたまま動かなかったので 橋本が足首を掴んで 
片脚ずつ持ち上げさせ スカートを取った
黒のTシャツをたくし上げると ブラジャー等下着は付けてなく
なだらかに盛り上がる 2つの綺麗な丘陵とその頂にあるピンクの乳首が現れた
肌が抜ける程白く キメ細かい
無表情な顔から20代だと思っていたが 体だけ見ると10代後半なのかもしれない
Tシャツ 黒のグローブ 靴と靴下 下着を脱がす 薄い柔らかな毛が少し生えていた
骨盤はそれほど張っていないが 女性らしい丸みを帯びた美しいラインが
くびれた腰から尻にかけて 形作られている
橋本は素っ裸の女を 肩を押してシャワールームへ連れて行き 一人残すと
ベッドに座り ガラス張りの中の様子を見ていた
女は また突っ立ったままで シャワーを出そうともしない
橋本は ため息を一つ付くと立ち上がり 自分も服を脱いでシャワールームに入った
一緒にシャワーを浴び 石鹸を泡立て体と顔を洗ってやる
女は目に水が入らないよう 瞼を閉じたりはしたが 表情は変わらず 声も出さない
胸や下半身を洗う時に 少し愛撫をしてみたが 何の反応もなかった
やっぱイカれてやがる しかも不感症だ
橋本はバスタオルで 女と自分の体を拭くと 裸のまま女をベッドに寝かし
隣に自分も横になった
しばらく無言で 2人して鏡の天井を見ていたが 橋本が女に覆い被さる
唇と舌を首筋から徐々に下して行った
女は目を開き 両手両足を真っ直ぐ投げ出したまま されるようにしている
乳首を口に含んだ 乳房を優しく掌で包んで形を変えて行く
反応はなかった
引き締まり 薄っすらと筋肉が浮いた 白く美しいヘソの周りに唇を這わせ
デルタ地帯へ向かう
先程綺麗に洗ったクリトリスを剥き 舐めた
体がビクッと少し動く
橋本は そこを可愛がり続けた
次第に 腕や脚が少しずつにじり動き始め 橋本の頭を両手で掴んだ
「う.. うぅ.. うん...」 初めて聞いた声は 幼くかわいらしい
更に続けていると ついに腰を浮かせ 体を仰け反らせて固まった 
頭を掴んだ手に一瞬強く力が入ると その後一気に脱力した

87かっちゃん:2017/10/09(月) 04:52:49
橋本が頭を上げると女は目を閉じて余韻に浸っていた
顔から首にかけて白い肌が少し紅潮している
立ち上がり服を着ながら 女に脱いだ服を放り投げた
女は少しそのまま放心した後 ゆっくり体を起こすと服を着始めた
こいつのあの躊躇いのないナイフ捌きと冷静さは 何度も場数を踏んだ者しかできない
橋本は 女を一目で暗殺者の素養があると見抜き 使えると思った
暗殺者に必要な 余計な感情を持たない機械のような挙動には
処女を捨て 女になった時の気持ちの動きは邪魔だ
俺のモノだというマーキングだけで充分だった
服を身に付けた女を 強く抱きしめてやる
女は相変わらず突っ立ったままだったが 一瞬身じろぎした
体を離し目を見つめると 無表情ながらも見つめ返した
「おまえ 名前は?」 再び聞く
やはり答えない
口がきけないのではないかと思い 内線電話の前にあったメモ帳に 「名前?」と書く
女はゆっくりと 「張琳」と書いた
ちょうりん? チャン? 中国人か
「チャン・リン?」 
橋本が尋ねると 女はゆっくりと頷いた
中国人か... こいつは俺にも風が吹いて来たな
この業界 どこの奴らも足の付かない暗殺者なんて いたら絶対傍に置いておきたい
香港マフィアか中国共産党か知らんが 落し物の届出が来るまでは 俺が使わせてもらう
橋本は片頬を歪ませた
「付いて来い」 
部屋を出ると チャン・リンは橋本の後を一定の距離を保って従う
かわいい奴だ メシでも喰わせて 竹内と合流するか
渋谷駅まで戻るとタクシーを拾った

その後しばらくは 竹内にメシや寝場所の面倒を見させ 
橋本はときどきチャン・リンを抱きしめてやった
相変わらず言葉は発しない 喋れないのだろう
無表情なのも変わらないが 橋本と竹内を相手にする時は 目を見つめ返した
東京から来た探偵稼業の奴らを脅してやれと 工藤に連絡を取った時
未だに潰れた和納組の三下を拾ってやったという態度で 使いっぱしりさせられていると
ボヤくのを聞いて閃いた
チャン・リンをテストしてみよう
工藤から組の連中が集まる日を聞き出すと 事前に取れるだけ八反の金を抜いて
おまえは集まりに顔を出すなと伝える
当日夕方 竹内と共にチャン・リンをワンボックスに乗せて連れ出すと
八反の事務所を指さし こぶしに立てた親指で 首を掻っ切る仕草を見せた
それで充分だった
竹内に用意させた雨ガッパを着させると 車から下す
一緒に下りた竹内は もう一度事務所を指して確認し 終わったら雨ガッパを捨て
傍で待ってる車まで戻って来いと言いながら 身振り手振りをした
チャン・リンがゆっくりと頷く 
こうして八反組は壊滅した
予想以上に上手く行った
少女にも見える女がひょっこり現れても 組の奴らは誰もヒットマンとは思わない
ここで既に半数は行けると踏んでいたが 問題はその後だ
チャカを出して来たら どうするか? 
竹内を車の外に出して 様子を見させていたが 結局銃声は一発しかしなかったようだ
帰って来たチャン・リンの黒のグローブと顔は 片栗粉のような白い粉がまぶされていた
ジャケットの左ポケットにでも入れていたのか?
なるほど 狭い室内での殺しは 問題なくこなせる
普段と同じ無表情で ゆっくりと歩いて帰って来たチャン・リンを見て 橋本は確信した
車に乗り込んだチャン・リンを 強く抱きしめる
竹内が言うには この時チャン・リンは 目を閉じて何か感じているようだったそうだ
レストランで食事をして帰った
チャン・リンはいつも通りサラダと少量の料理をつまんだが 
竹内はいつもと違い 食が進まなかった

88かっちゃん:2017/10/22(日) 23:35:12
時刻は昼の2時前だった
加賀の運転するフェアレディZは岡崎ICを過ぎたところだ
「そろそろ昼ごはんにしようか?」
「うん お願い」
12時半くらいに牧之原SAでトイレに寄った時は 2人ともお腹が空いていなかったので
まだ食事をしていなかった
上郷SAに車を入れる
大型の長距離トラックがたくさん停まるトラックステーションを尻目に駐車場を進むと
ようやく見つけた空き区画に車を止めた
「結構込んでるね」
「うん あっ 飲食はあっちなんだ」 
里保が示した先には歩道橋があった
本線を渡って行かなければならないみたいだ
「たぶん大丈夫な気はするけど 追っ手がいるかもしれない
ボクから離れないようにして」
里保は頷くと 辺りをキョロキョロと確かめた
飲食スペースに場所を取ると 少しの間 入り口と周辺を観察していた
追跡者がいるようには思えない
2人して 食べ物を選ぶ
どこかに気の焦りがあるのか 手っ取り早く天ぷらそばを頼むと 里保も同じものを頼んだ
「もし 次ここに来ることがあれば もっと美味しそうなもの じっくり選ぶよ」
里保が笑いながら言った
加賀も頷く
流石に4時間近く車に乗った後なので 2人とも無言でそばを啜る
「ちょっと事務所に電話するよ」
食器を片付けた後 そう言うと 里保は頷いて付いて来た
公衆電話に行く前に飲み物を2つ買い 2千円を小銭に崩す
赤いコーラの缶を里保に渡すと 嬉しそうに受け取った
里保には赤が似合う
受話器を持ち上げて硬貨を投入している横で 里保がコーラの
プルトップを引き千切り ゴクゴクと飲んでいる
「あーっ シュワシュワッ!」
美味しそうだった
3コールくらいで電話が繋がった
「はい 加賀調査事務所です」
「お疲れ様 玲奈 ありがとうね」
「うん ちょっと前に来たとこ カエデー今どこ?」
「愛知県の上郷サービスエリアでご飯食べたところ」
「何もなかった?」
「うん ここまでは大丈夫だったよ」
「里保さんはどんな感じ?」
「普通 元気だよ 事務所になんか電話あった?」
「今のところないよ ねー 何食べたの?」
「2人とも 天ぷらそば」
「あー 天そば いいなっ! 食べたい!」
「まだ2時だけど もうお腹空いたの?」
「だって 昼はサンドイッチちょっと食べただけだから 急いでここに来たんだぞ」
「あっ悪い悪い 流しの横に 緑のたぬきって言う カップラーメンあるから食べていいよ」
「緑のたぬき?」
「うん 最近見かけて買ったんだけど 天ぷらそばなんだぜ? 結構美味しいよ」
「え? 天ぷらそばのカップラーメンなの?」
「そう うどんで赤いきつねってあるじゃない あれのそばなの」
「へー そんなの出たんだ 食べたい 後でもらうね」
横で里保が 何の話をしてんだろう?と訝しげに見ている
「あっ それでは気をつけて 店番をしていたまえ」
硬貨の追加を促す何度目かの音が鳴った
「じゃあ もう切るから」
「うん カエデーも気をつけてね」
受話器を置いた
「結構重要な業務連絡してたようね」 里保がニヤニヤして言った

89かっちゃん:2017/10/22(日) 23:49:27
「さっき言ったけど 今日は大阪までのつもりだから あとちょっとだよ」
「うん なんかこのまま何もなく行けそうだね」
「そうね でも気を緩めちゃいけないよ じゃあトイレに行くけど」
「お先にどうぞ」 里保が掌を前に差し出して言った
トイレで何かあった場合は 大声を出して 前で待つ方に
知らせる取り決めにしていた
ズラっと小便器の列が続いていたが 入り口傍で用を足すことにする
人通りが多く 不審者が何かするにしてもし難いし 逃げ易い
表で里保に何かあった時も すぐに駆けつけられる
黒っぽいストライプスーツのスラックスのファスナーを下すと
すぐ隣に 小柄な男が立った
「ねー 加賀くん 困るんだよね ああいうことされると」
隣の男が自分の名前を呼んだので ギョっとした
思わず小便が止まる
横の男を見たが 全く見覚えがない
「こちらを見ない! そのうち体もこっちに向くと 悲惨なことになるからね」
「あなた誰ですか?」
「君は捜査情報を勝手に喋っていいと思ったのか?」
「え?」
色白な小男は黒のスーツを着ていたが センター分けした髪を一掴み 後ろで縛っていた
「おかげでこちらは 広島から突き上げられて めんどくさいことになったよ」
「公安?」
「声に出すのは良くないな 誰が聞いてるかわからないからね」
「あんたたち 影でこそこそ何やってんだ? チャン・リンはいつから泳がせてる?」
加賀は怒りで熱くなるのを感じた
「泳がせてる? 人聞きが悪いな 私たちはいつでも国家のために 
全力で任務に当たっているよ」
「今だってボクらを囮にしてるんだろ?」
「若いのに尿の切れが悪いと 後が思いやられるぞ 私は桃永だ
覚えても もう一度会うことはないかもしれないがね お先に失礼」
そう言うと洗面台の方へ消えた
加賀は驚きと怒りで止めていた用を済ますと 急いで角を曲がって洗面台を見渡したが
桃永はいない
「クソっ! あいつちゃんと手を洗ったのか?」
水に濡れた手を振りながら 里保に小男がどちらに行ったか聞いた
里保は水しぶきがかからないように 体を遠ざける
「今出てった人なら 土産もの売り場の方へ行ったよ」
「ちょっ ちょっと待ってて 少しあっち見てくるから」
そう言うと加賀は土産もの売り場へ走った
奴に仲間がいるのか どんな車に乗るのか それだけでも見ておきたい
既に姿は無かった
すぐに外に出て駐車場を探すが見当たらない
一人にした里保に何かあるかもしれないため 諦めてトイレの前に戻った
「どうしたの?」
「あの男は公安だ」
「公安って?」
「キミを不用意に怖がらせたくなかったから まだ言ってないことがある
トイレに行って来て 車に戻ったら話すから」
里保がトイレから出て来ると キョロキョロと周りを確認しながら車へ戻った 
「サービスエリアを出るまで 周りにあの男がいないか見てて」
そう言うとイグニッションキーを捻る
本線に出るともう一度バックミラーを見た
ファミリカーが付いて来るが それっぽい車はいない
「いなかったよ」 里保がこちらを見た
「まぁでも どこかで見てるんだろうな」
巡行速度に乗ると里保を一度見て話し始める
「さっき キミを狙った女がプロの殺し屋だと言ったけど 中国の軍の人間なんだ」
「え? なんで中国...」
「元々は中国の重要人物を 必要があれば襲う予定だったんだが いろいろ狂ったようで 
ヤクザがあの女に命令するようになったらしい それを監視してる警察が公安だ」

90かっちゃん:2017/10/23(月) 00:03:33
「警察があの女を監視しているのなら安心じゃないの?」 里保がきょとんとして言った
「ところが そう簡単じゃないんだ 公安というところは国家や社会秩序の安全を
維持するのが優先で 場合によっちゃ個人の安全を後回しにしかねない」
「うそ?」
「今も殺し屋を捕まえる為に ボクらを囮にしている可能性が高い」
「そんなこと許されるの?」
「相手が元々は 中国という国家が差し向けた人間だからね 勝手に日本で
犯罪を起こしても それが元で騒ぎが大きくなると外交問題に成りかねない
デリケートなのさ」
「あてにならないってことね」
「まぁ流石に いざと言う時は助けてくれるんじゃないか?とは思うけど
期待してはいけないな 寧ろ広島県警とか普通の警察の方が頼もしいよ
でも対処のスピードが遅いし キミや山﨑家は家のゴタゴタを公にしたくないんだろ?」
里保は黙って頷いた
「ところでなんで その公安が現れたの?」 少し間を置いて 里保が再び口を開いた
「そこなんだよ ボクが広島県警に殺し屋のことを漏らしたと怒っていたけど
まさか それだけ言いに来たとは思えない 自分たちが監視してるのを明確に
こちらへ知らせたかったのかもしれないが たいした意味も無いし それだけじゃないだろう」
「わからないね」
「うん あの桃永という男が何を狙っているのか まだわからない
ホテルに付いたら 警視庁の知り合いに 何か知らないか聞いてみるよ」
車は竜王ICを越えたところだった
外は曇り始め フロントガラスには雨粒が落ちて来ている
「玲奈さんは彼女なんでしょ?」 里保が唐突に聞いた
「え? まぁその 一応助手だけど」
「隠さなくたっていいじゃない」
「うん...」
「煮え切らないわね」 里保が意地悪く笑う
加賀は黙っていた
「そんなんじゃ嫌われるぞ! 男の子はちょっと強引なくらいがいいんだから」
「男の子って ボクもう26なんだけど...」
「ゴメンゴメン 加賀さん見てるとなんか年下みたくて 仕事じゃしっかりしてるように見えるのに」
「なんか女性には いつもそんな感じに見られてる気がする」
「女の子はワガママだからね 乱暴なのは嫌いなのに ちょっと危険な感じが欲しいとか」
「里保さんは 彼氏いるの?」
「え? そ それは関係ないでしょ?」
「えー なんでー? 人に聞いといてそれはないでしょう 
アメリカ人のナイスガイがボーイフレンドよ!とか言ってよ」
「そう! アメリカ人のナイスガイの彼氏がいるわ!」
「絶対ウソ! 見栄張ってる!」
「ウソじゃないよ!」
「ウソ! じゃあどんな人か言ってみて」
「えっと フィラデルフィア出身のイタリア系白人で ボクシングやってて
垂れ目だけど眉毛が濃くて逞しいの!」
「それ ロッキー・バルボアじゃん!」
「アレ? バレた?」
「なんだよそれー」
「ダ ダンスのレッスンで忙しいのよ! 遊んでいるヒマなんてないの!」
「もう 彼氏もいない子に 男を教えられちゃったよ」
「悪かったですねー」
「なんなら ボクが彼氏になってあげようか?」
「え?」
車内に沈黙が流れる
加賀は悪ノリし過ぎたと反省した
「ゴメン ウソです ボクには玲奈がいるから」
「良かった... タイプじゃないし」
「え? 正直ちょっとショック」 
二人は お互いの眉間に皺を寄せた顔を見合わせる
「バッカじゃないの」 里保が言うと二人は声を出して笑った
重い雲の切れ間から 明るい光が差していた

91かっちゃん:2017/10/23(月) 00:10:50
夕方5時過ぎに豊中ICで名神高速を下りた 
もう少し距離を伸ばすこともできたが ホテルも押えてあるし
長距離ドライブに無理は禁物だ
「疲れたでしょ?」
「ちょっとね」 里保は首を回しながら言った
先程から何度も欠伸をかみ殺している
多賀SAで少しだけ給油していたが 明日に備えて適当なガソリンスタンドに入った
給油中車の外に出ると 雨上がりの肌寒い風が弱く吹いている
里保はレザーのジャケットを羽織った
「私たちを監視してる人たちも 高速下りたかな?」 里保が呟く
「たぶんね」 
交通量の多い時間だ
加賀はノロノロと流れる車に視線を向けていたが 殺し屋も公安も関係のない
日常があるだけだった
けたたましい喋りと威勢のいいBGMを流した 今夜のプロレスの試合を宣伝する
ワンボックスが通り過ぎて行く
里保の黒髪が風になびいていた
切れ長な目が遠くを見ている
端正な横顔を見ていると 周囲の喧騒が消えて行く
里保がこちらを向いた
「どうしたの?」
「え? いや なんでもないよ」
この小柄な和風美人が ニューヨークでダンスを学び 命を狙われながらも
人生を切り開こうとしているのだから 世の中わからない
「44リッター満タン入りました!」 学生時代は陸上競技でもやっていたような
細身のハタチくらいの従業員が 威勢良く声を上げた
「じゃあ ちょっと早いけど ホテルにチェックインして 少し休んでから夕食に出かけようか」
「うん」
暗い灰色の雲の端から 赤い光が射し 里保の顔を車より赤く燃え上がらせる
加賀は美しさに息を呑んだ

ホテルに入るとしばらくロビーで宿泊客や通行人を観察した
とくに気になる人間はいない
チェックインしてセミダブルのベッドの部屋に入る
里保ははす向いの部屋だ
室内の電話から玲奈と連絡を取る
特に変わったことはなかった もう帰ると言った
福村ミズキに電話をし 近日なんらかの報告ができると また伝える
飯窪にも電話をしたが 不在だった
電話に出た山岸が 飯窪には珍しく 体調不良で休んだと言う
朝 牧野がハァハァと苦しそうに話す飯窪から 連絡を受けたそうだ
山岸には 明日また広島に行くと伝える
「お待ちしてます!」 彼女は明るい声で返した
次は警視庁に電話をかけ 山木を呼び出す 席を外していた
電話を終えるとスーツを脱ぎ すぐさまシャワーを浴びる
熱めの湯が 長時間の運転で固まった筋肉を解して行くようで 心地良かった
襲撃者も今日は完全に移動日だろうか? 
安心はできないが そんな気がする
白シャツの上にこげ茶の長袖カットソー コーデュロイのパンツを履く
髪は洗いざらしで乾かしただけだ
うなじが隠れるくらいの長髪が 軽くウェーブがかっている
鏡を見ながら手グシで髪を整えていると
「ヨシ! 今日もカワイイぞ!」 という言葉が浮かんだ
山﨑さゆみが言ってるんだっけ? バカな自分に照れた
6時半に里保と待ち合わせをしている
もうそろそろだ
ラッセルモカシンを履いてドアを開けると ちょうど里保も出て来たところだった
「ジャスト タイミンッ!」 加賀が里保を指差し そう言うと
発音悪いね と里保が笑って返した
相変わらず 当たりがキツイぜ!

92かっちゃん:2017/10/23(月) 00:14:41
里保はジーンズはそのままに ボーダーカットソーの上に茶系ニットカーディガンを
羽織っている
ホテルを出て少し歩くと ステーキハウスに入った
アメリカでの食生活の話を聞きながら 食事をする
赤ワインを飲んだ
里保は成人したばかりだが それなりに飲めるようだ
少し頬が赤くなり 口が軽くなる
すっかり命を狙われていることなど忘れたように 二人は会話を楽しんだ
結局 まだ本当に怖い思いをしていなかったと言える
「ねぇ もしもよ もし 私が加賀さんと付き合ったら どこに連れてってくれる?」
「うーん 秋葉原かな?」
「秋葉原? 何すんの?」
「えー ラジオ会館で電子パーツ見たり」
「はぁ? バカじゃないの?」
「あっ! バカって言ったな」
「加賀さん 女の子わかってない!」
「いや 面白いんだよ ダイオードとか トランジスタとか いろんな形の部品が
山盛りになってて」
「もっとロマンティックな所行こうよ」
「ロマンティックって?」 
「夜景の素敵な所に出かけたり」
「夜景? 石丸電気とかロケットのネオンが綺麗だけどなー 秋葉原」
「港から大きな船が見えたり」
「船? 鉄道模型ほどじゃないけど 船の模型もあるよ」
「ワザと言ってない?」
「バレた?」
「喧嘩売ってんの?」
「いやー ロマンティックとか言われると なんか反発したくなっちゃって」
「子供みたい」
「子供ようなピュアなハートなのさ」
「...せっかく 加賀さんって素敵な人だなって思い始めてたのに こんな人だったなんて」
アレ? この展開... 玲奈と一緒だ
と言うか ボクが幼稚なのか... 加賀は愕然とした
「ごめん ボクが悪かった... もう少し大人になるよ」
里保の少し赤い目をまっすぐ見つめた
里保もしばらく見つめ返していたが 酔ったせいなのか赤い顔をして目をそらした
「ちょっとクラクラして来たから もうホテルに戻らない?」
「そうしようか 大丈夫?」
フラフラする里保の腕を掴みつつ 勘定を済ませホテルに戻った

加賀は部屋着に着替えてベッドに転がると あっと言う間に眠りに引き込まれた
電気スタンドの暗い光の外に誰か立っている影が見える
「誰?」
「加賀さん 怖くて眠れないの」
「里保さん?」
赤いTシャツ姿の里保がいた
目が潤んでいる
加賀は体を起こしベッドに座った
「どうしたの?」
「一緒に寝てくれる?」
「え?」
そう言うと里保は赤いTシャツを脱ぎ始め 白い下着姿になった
「どうしたの? それはダメでしょ!」
「いいの」
里保が近づいて来る
「...して」
「さっき ボクのことタイプじゃないって 言ったじゃない」
「あれはウソ 照れくさかったの」 後ろ手にブラのホックを外す カップが胸の上で浮いた
里保はそのまま加賀の上に被さり ベッドの上に押し倒す
「ちょっと...」 サラサラな黒い髪が加賀の上にかかり いい匂いがした

93かっちゃん:2017/10/23(月) 00:21:15
「アレ? 最近これと似たことが... なんだっけなぁ?」
加賀は一所懸命思い出そうとした
「あかりだ!」
思い出せたことにスッキリした瞬間 里保はいなくなり
体の上には布団の感触があった
なんつー夢だ
ボクは里保さんのことを好きになったんだろうか?
カワイイとは思うが まだそこまで行っていない
第一玲奈がいるのに
無意識に溜まってんのかな?
その欲望が女性に見透かされているのではないかと不安になったが
考えてもどうしようもないと思うと もう一度色気のある夢を見れることを願って眠った

「おはよう!」 朝7時に里保の部屋をノックする 
出て来た里保は既に着替えていた
「おはよー」
昨日の夢はまだ覚えていて 気まずいような照れ臭いような気分を感じながら
それを気取られまいと敢えて目を逸らさず 里保と向き合うようにした
「よく眠れた?」
「どうだろ? けっこういろんな夢を見て うつらうつらしてたから 
眠れていないような気がする 加賀さんは?」
「え? あっ うん ボクは うん よく眠れたよ」
「うん? なんで今あわてたの?」
「なんでもない なんでもないよ ハハ」
里保は首をかしげる
加賀は目を逸らした先が 里保の胸だったことに気づいて また慌てて違う方を向いた
「な〜に? なんかおかしいよ 加賀さん! 大丈夫?」
「大丈夫! 大丈夫だって! まだ寝ぼけてるだけだよ」
「それならいいけど」
里保はそう言うと 加賀の腕を取って組もうとした
「うわっ!」 加賀は声をあげて後じさる
「何? やっぱりちょっとおかしいよ? なんか私を微妙に避けてるようだから
試しに腕組んでみようとしただけなのに」
「いや 避けてなんかないよ 突然でビックリしただけだから」
里保は意地悪くニヤニヤ笑って見ている
加賀はあり得ないのに 見透かされたような気がして カーッと体が熱くなるのを感じた
「ごはん ごはん! 朝メシ食べないと!」 里保の気を逸らそうと 大声で言う
エレベーターに乗って4階から1階へ下りる
乗客は加賀と里保の二人だけ
加賀は階数表示をずっと見上げていたが 隣で里保が面白いものを観察するように
うすら笑いでこちらを見ていることには気付いていた
いかん! 出鼻をくじかれた 立て直さなければ
エレベーターのドアが開く
「姫! どうぞ!」 加賀は入り口脇で片腕を外に向け 真顔でそう言った
里保が噴いた
「アハハハ! ...腹痛いっ 何この人っ アハハハ」
加賀は顔が真っ赤だった
「私も良くないけど 随分寝起きが悪いのね 早くちゃんと起きてよ」
里保は 加賀の胸を右手の甲で叩いた
ロビー横の喫茶コーナーに入ると 朝食バイキングになっていた
トレイに皿を乗せると 好きな料理を盛って行く
サラダと卵焼きとパンにバターとジャム コーヒーを揃えて席に着いた
里保もほぼ似たようなものだ
コーヒーを飲む
あまり酸味が強くなく飲み易い
「ヨシ! 目が覚めた」 
加賀が突然喋ったので 里保はパンをモグモグ食べながら目を丸くした
オレンジジュースをストローで吸うと一息ついて口を開いた
「いよいよ広島ね!」 
加賀は里保を見つめながら ゆっくりと大きく頷いた

94かっちゃん:2017/10/23(月) 00:25:47
竹内はベッドに座るチャンリンを見ていた
こんな体の小さな女の子がどうしてあんな恐ろしいことができるのだろう?
初めて出遭った時の殺人や 血だらけの雨ガッパで八反組から出て来た時のことを思い出す
今日は橋本からの指示で 新幹線に乗って東京から広島へ戻って来た 
朝早く出たので まだ昼過ぎだ チャンリンは常に従順で 竹内の後に付いて来た
今は広島駅から4km程離れたマンションの 竹内の部屋にいる
部屋は波浪企画に入った時に 橋本が用意してくれたものだ
チャンリンを初めてここに連れて来てから かれこれ2週間以上になる
最初は 目の前で人を殺した人間を相手に おっかなびっくりしていた
トイレやシャワー ベッドを日本語と身振り手振りで教えると チャンリンはすぐに覚え 
必要な時は自分で勝手に使った
一緒に部屋にいる時は チャンリンが一点を見つめてボーッっとしているか
ナイフの手入れをしているので 殆ど気を使うことはない
食事は 買って来たものを渡せば 選んで食べるし
声をかければ外食にも付き合うが 出歩きたくない時は そのままの状態で動かなかった
いつも サラダとわずかな肉を食べるだけで 主食とすべき炭水化物は殆ど口にしない
好きなものを食べても 暑さ寒さにも 常に感情を表さなかったが 竹内は気付いていた
橋本と会う時だけは 体から少し力が抜けることを
時間がある時は 竹内もチャンリンとコミュニケーションを取るように努めた
チャンリンの目の前で 自分を指差し 「タケ」と教える
興味無さそうに真っ直ぐ見つめ返しているだけだったが 何度か試みた
「竹内」は覚え難いだろうから 「タケ」と言ったが 本当はその呼び方が嫌いだった
これまでの人生 「タケ」と呼ぶ奴に禄な奴がいなかった
小学3年で母が家を出て行った後 しばらくしてやって来た継母 中学の時
イジメて来た奴ら 高校でドロップアウトする切っ掛けとなった上級生
新宿界隈でチンピラをしていた時の兄貴分 みんな竹内を遣いっぱしりのように扱い 
嘲るように「タケ!」と呼んだ
兄貴分がヘマをして 一緒にエンコ詰めさせられそうになった時 竹内は広島に逃げ込んだ
実母が広島出身だったが詳しいことは知らなかったので 結局繁華街を
飲み歩き 都合のいい女を掴まえては 金をもらって凌いだ
流れ者のヒモは喧嘩もしょっちゅうだ
たいして強くはなかったが 逃げる要領は良かった
そんな時 橋本と出合う
殴られ蹴られ 防戦一方の竹内を救ってくれた
相手を容赦なく叩き潰した橋本は 竹内に酒をおごり
おまえのことは ちょくちょく見かけていたと言った
「名前なんつーんだ?」 
「竹内」
「下は?」
「あきたけ」
「下もタケかよ? じゃあ竹内 おまえ 俺の下で仕事やんねぇか?」
それ以来橋本は 竹内に部屋を宛がい 会社の机で仕事をしたことはないが
橋本の指示で動くと 係長クラスの給料をくれた
竹内は橋本を恐ろしい人だと思っていたが 尊敬もしていた
橋本の助けになることなら なんでもやろうと思った
チャンリンがやって来た日 遅れて待ち合わせのホテルに来た橋本は
「この女 今日からおまえが面倒見ろ」と言った
「え? こいつ... 大丈夫ですか?」
「ああ こいつは中国人だ しかも殺しのプロだろう こんな繁華街を
ウロウロしてたんだ 面もサツに割れてないさ」
「でも...」
「大丈夫だって 俺の言うことは聞くから おまえが寝首掻かれないよう言っとくよ」
「はぁ」 竹内は困惑した
「チャンリンだ おまえの部屋に泊めろ メシも用意してやれ
そのうち仕事させるから体調管理しっかりやれよ それと こいつ喋れないから」
「喋れない? 日本語が?」
「いや 喋ること自体できない 目を見て身振り手振りで話せ あと 俺の女だから
手出すなよ」 橋本はニヤリと笑った
「もっとも 手ぇ出して 首掻っ切られても知らんがな」 
タバコの煙をフッと吹き出すと 橋本は上目遣いで面白そうに竹内を眺めた

95かっちゃん:2017/10/23(月) 00:28:57
まだ チャンリンはベッドに座って窓の外をジッと見ていた
窓の外と言っても マンションの転落防止の柵のせいで その位置から見えるものは殆どない
竹内はチャンリンの心情を慮った
寂しくはないのだろうか? 人を殺すことを生業とすることに恐怖はないのだろうか?
おそらく家族も恋人もいないのだろう
情が移ったのか チャンリンがかわいそうだった
すぐ隣まで行き ベッドに腰を下した
チャンリンは特に反応しない
そのまま真っ直ぐ外を見ているだけだ
しばらく一緒になって柵と空のツートンを眺める
自分が物になって行く
物になって ただそこに置かれているだけなのだ
そんな気がした
電話が鳴る
竹内はビクっとした
隣を見るとチャンリンが変わらず 身じろぎ一つしないで座っている
立ち上がり電話に出た
「はい」
「あっ 竹内さんですか? 中西興信所の小野です」
「なんかあった?」
「加賀と山﨑里保は 車で東名高速に乗るのを確認しました そのまま真っ直ぐ行ってれば
時間的に愛知に入る頃です 一人付けてますが昨日言った通り 高速ではすぐに
相手に見つかるので 距離を取って追尾してますから 見失ってるかもしれません」
「しょうがないよ 出口で押えられればいいから」
「はい この後は名神で大阪か兵庫まで行くと思われます 行こうと思えば広島まで
一気に行けますが 暗くなりますし一泊するのではないかと思ってます」
「途中で見てんでしょ?」
「はい 赤いフェアレディーZを確認してます 吹田と尼崎のICが見えるように人を
置いてますので大丈夫です」
「じゃあ 何かあったらまた連絡してよ」
「わかりました」
おそらく 今日はもう出番はないな
ふーっと一息吐くと 竹内は橋本に電話を入れた

竹内が翌朝7時に目を覚ますと チャンリンはもう起きて着替えていた
橋本からは指示があるまで待機するように言われている
昨夜中西興信所から 加賀が豊中で名神を下りたという報告があった
下道で距離を伸ばされる可能性はあるが 吹田JCTで中国自動車道に
乗らなかったのなら おそらく豊中市内か近くで宿泊するのでは? という話だ
追尾が上手く行っていれば楽だが そうでなければ中国自動車道のどこかで
見張るしかない
そこは中西興信所に任せておくしかないので 次の連絡待ちだった
チャンリンにサラダを作ってやり 自分用にパンをトースターへ突っ込んだ
ハムを厚く切ってフライパンで焼くと チャンリンは小さなテーブルの自分の席に着く
さっき付けたテレビでは 八反組壊滅についてやっていた
3日前の事件はもう扱いがかなり小さい 未だ犯人はわからずと締めた
まぁ わからないだろうな ここにいるんだから
竹内はニヤリとした
朝食を食べ テレビを見ながら一服していると電話が鳴った
「おはようございます 中西興信所小野です」
「早いな なんかあった?」
「すみません 昨夜追尾の者が豊中で下りて 市内を流してたところ 
偶然加賀の車を見つけたらしく 朝から追尾できます」
「おお! やるじゃん」
「吹田と尼崎で定点観測させてた者も配置し直します」
「そこんとこは任せるよ 岡山や最悪広島に入る時 どこにいるかわかればいいから」
「わかりました 引き続き加賀を追います」
「よろしく」
いよいよだな 
竹内は右の拳で左の掌を叩くと ベッドに座るチャンリンを見た

96かっちゃん:2017/10/31(火) 05:05:46
加賀は中国池田ICから中国自動車道に乗った
ついさっきまで本降りだった雨も 今はパラパラ程度まで弱まっている
「久しぶりだなー 広島」 里保が呟いた
「ボクはこの10日間で3回目」
「ちょっとぉ せっかくの感動に水を差さないでよね」
「ごめん 無事にお父さんと会えるといいね」
「うん 久しぶりにちゃゆ姉やあかねにも会えるし」
「黒木さんの料理も食べられる」
「そうそう 黒木さんは和食全般美味しいけど 手羽先の甘辛煮みたいなのが絶品なの」
「へー 食べてみたいな」
「お母さんの所にも行かなきゃ」
「心配してたよ 流川にも何度かキミを探しに行ったって」
「お母さん... でもヨシ子先生はなんでそんな嘘付いたんだろう」
「多分ボクらの霍乱だね キミを狙っている誰かに脅されたんじゃないかな?」
「そっか...」
「ねー 話は変わるけど 波浪興産には西口さん以外 有力な後継者がいないの?」
「会社の話はそれほど詳しくはないんだけど 昔は父と一緒に会社を大きくした
寺田さんっていう番頭みたいな人がいたの」
「その人はどうしたの?」
「2・3年前かな 体を壊して隠居しちゃった その後は西口さんが有力という話だったわ」
「ふーん」
「他にも 堀内さんとか畠山さんとか経塚さんとか 社長の瀬戸さんとかいるんだけど
やっぱりちゃゆ姉とのこともあったし」
「そうか... その中で 里保さんが山﨑家の資産を受け継ぐことに難色を示す人っている?」
「さぁ...? 私はその気はないけど 西口さんと堀内さん以外はあまり知らないし」
「堀内さんって?」
「取締役の一人なんだけど いつも帽子被って 飄々としてる人」
「野心的?」
「全然 どっちかって言うと欲があまり無さそうな」
「会ったことあるのは 西口さんと堀内さんだけ?」
「経塚さんにも会ったことある」
「どんな人?」
「見た目は怖いと言うか 背が高くて威圧感のある人だけど 話してみると気さくな感じ」
「うーん」 加賀は言っていいものかどうか迷ったが 
そろそろ本丸に近づいて来たこともあって 正直に言うことにした
「実は 里保さんを狙う指示を出してるのが 橋本さんのようなんだ」
「えっ?」
「あのナイフの殺し屋を差し向けたのも 多分そう」
「...どうして?」
「里保さんがいなくなることで 得することがあるんだろうね」
里保はしばらく考え込んでいたが 鋭い目付きで加賀を見て口を開いた
「加賀さんは いつから知ってたの?」
「3日前広島に行った時 先週の水曜に玲奈を襲ったヤクザが
橋本の指示で動いていたことがわかったんだ
昨日警視庁の知り合いと話したら あの殺し屋をバックアップしてるのは
多分波浪興産の周りにいる者だろうと言っていた」
里保は黙って聞いている
「まぁ 波浪興産の周りにいると言うのは キミが狙われたことによる推測だろうが
玲奈を襲わせた橋本が指示している 少なくとも関与していると考えるのが妥当だろうね」
里保は下を向いて一点を見つめていた
「疑心暗鬼にさせて悪いが それで西口さん始め 会社のお偉方について聞いてたんだよ」
「なんで...」
「欲は人を狂わせるのさ 飯窪さんは橋本と男女の関係だ いろんな情報を橋本に
流していると考えられる 状況から見て 橋本のバックには西口さんがいるんじゃないか?
これが今のところ ボクの正直な考えだよ」
里保は目を瞑り 右手で額を押えて悩んでいた
「そんなの! 山﨑の資産や会社が欲しければ 西口さんにあげるわ! 
なんでそんなことするの?」 里保が苦しそうな声を絞り出した
「山﨑会長の思惑もあるからね...」
車は上月PAを過ぎ岡山へ入った

97かっちゃん:2017/11/06(月) 02:35:00
車で来てる里保達をどこで捕まえるかだ
橋本の中では一応のプランはできていた
山﨑家へ向かう山の道に入ったところで前後を塞ぐ
できればもう少し早く仕掛けたかったが 人目の付く昼間では
交通量が少なく必ず通るルートとしては あそこしか最適な所がない
ガキと変わらない女を殺るのは避けたかったが
山﨑直記が思ったよりも生き延びている以上仕方がなかった
山﨑直記の容態については飯窪から連絡が入るようになっている
昨日は飯窪が仕事を休んだせいで 細かい状況がわかっていない
飯窪は自分の部屋にも戻っていなかった 
工藤の奴 どこの天国まで連れて行きやがった?
タバコの本数が増えていた 目の前のクリスタル灰皿が埋り掛けている
「竹内! 野中は何人連れてってるんだ?」 
「田口と井上 2人です」
「笠原はどうした?」
「さっき電話したらまだ寝てたみたいで すぐこっちに来るように言っときました」
「ガキだからしょーがねぇか」
「すみません」

竹内はチャンリンを連れて 波浪企画の社長室にいた
中西興信所からの連絡待ちだ
橋本は社長の机に座って もの思いに耽っていたが
タバコの量を見れば 少しイラついているのがわかる
髪の長い 細身の若い女がドアを開けて入って来た
秘書とまでは言わないが 橋本が会社にいる間
身の回りの世話をしている 和田という事務員だ
黒のスーツに白いシャツ タイトスカートという没個性の装いが
逆に長い手足と美形の顔を際立たせている
「お茶をどうぞ」
橋本にお茶を出し 灰皿を新しいものと交換する
「おぅ」 橋本は今気付いたように和田を見上げると 
腰の位置が高い和田の 小さめだがキュッと引き締まった尻を揉んだ
「止めてください」 拒んではいたが怒っているようには見えない
竹内は和田が橋本の愛人であることを知っていた
和田は読書や絵画鑑賞が好きという 見た目通りの大人しそうな女だったが
「ああいう女がスケベなんだよ 芸術的なセックスが好きだからな」 と
以前橋本が言ったことがある
「タケちゃんもお茶いる?」
「当たり前だろ」
「じゃあ あげる」 
和田はガチャンと竹内の前にお茶を置くと チャンリンの前にはどうぞと
丁寧に置いていった
竹内は気にいらなかった
社長の愛人の傲慢さなのか 和田はいつの間にか竹内をタケちゃん呼ばわりし
からかうようになった
「チッ」 お茶を啜る
「熱っ」 危うく湯呑みを落としそうになる
前を見るとチャンリンが黙って橋本を見ている この部屋に入ってからずっとそうだ
竹内は橋本が和田の尻を揉んだ時 チャンリンがまばたきしたのを見逃さなかった
何人もの女と同時に付き合っている橋本を慕うチャンリンが かわいそうだった
橋本の前にある電話が鳴る
タバコを右手に 左手で受話器を持ち上げた
「橋本だ なんかあったか?」
右手のタバコを灰皿に押し付けた
「わかった 女は追わなくていい 戻って事務所を見張れ」
そう言うと受話器を置いた
「竹内! 加賀の女が動いた 笠原連れて捕まえて来い」
「え?」
「まだ来るまで時間がある 今9時だから1時くらいだろう」 
いい牌が回って来た 引きがいいぜ 橋本はニヤリと笑った

98かっちゃん:2017/11/06(月) 02:36:13
加賀はトイレタイムで勝央SAに入った
豊中を出てからおよそ2時間
早朝に出ることも考えたが 交通量が多い方が何かと相手には不都合だろうと
8時過ぎにホテルを出ていたので 10時を回ったところだ
トイレを済まし自販機で買ったつぶつぶ入りジュースを飲む
「ブドウのつぶつぶって初めて飲んだ」 里保が缶をマジマジと見て言った
「美味しいよね ミカンのつぶつぶも美味しいけど」
「あれ 最後につぶつぶがたくさん残って出て来ないのがちょっと」
「それそれ! けっこうよく振って飲んでも絶対ひっかかって出て来ないよね?」
「もう ズズッて吸い込むのもカッコ悪いし それだけやっても出て来ないし」
「わかる でもブドウなら大丈夫そう」
二人とも味わいながら飲み干すと 公衆電話に向かった
警視庁にかけ 山木を呼び出す
「あっ 山木さん? 加賀です」
「おー加賀くん 今どこにいるんだ? 結局まだあの件に関わってるみたいだな」
「すみません ここまで来て降りれませんよ」
「そうか 気をつけろよ で 今どこだ?」
「広島に車で向かってます 今勝央SAです」
加賀は現在地を伝えるべきか迷ったが 公安にばれてるのなら 隠す意味もない
「そうか 勝央と言うと岡山か」
「はい」
「もう少しだな」
「はい 山木さん 電話したのはちょっと聞きたいことがあって」
「何だ?」
「公安に桃永という人はいますか?」
「ああ 外事二課 3係の係長だ」
「昨日ボクに声をかけて来ました こっちに来てるみたいですね」
「普段は係長クラスはあんまり出張ったりしないがな」
「なんかあったんですか?」
「チャン・リンだよ 中国共産党が動いてる」
「と 言いますと?」
「華国鋒の件がほぼ落ち着いたようで 後始末するのに何人かこちらへ回したらしい
一昨日チャン・リン達をバックアップしてたスパイが一人殺された 
その時日本人の巻き添えが出てね」
「こっちも巻き添えですけど」
「すまんな それでチャン・リンがヤクザに飼われてるなら 奴らが無茶やって被害が
拡大する前に確保しようって話さ ヤクザも奴らも動いてて 東京で指揮してちゃ後手に回る
その場の状況判断が必要だから 係長登場ってわけ」
「なるほど とすると 俺たちが見てるから 余計なことはせず囮に徹しろってことですか?」
「ん まぁな そういうことだろう すまないとしか言えないが」
「これも 予定通りのリークですか?」
「...」
「山木さんを責める気はありませんよ」
「ウチもヤクザの方で少し関わってんでね 今広島とも連携して情報集めてる」
「もうすぐヤクザがボクらに仕掛けて来るはずです どこまでやってもらえるか
わかりませんが 囮は引き受けますので バックアップお願いしますよ」
「わかった 外事と広島にも言っておくよ 今日はできるだけ自分の席に張り付いているから 
何かあったらすぐに連絡してくれ」
「そんな勝手に連絡係請け負っていいんですか?」
「こっちも乗りかかった船だよ 巻き込んだのはこっちだし 
広島の動ける範囲を考えれば 公安とも連絡取れる私の方が適任だろう」
「助かります よろしくお願いしますね」
「ああ わかった そっちも気をつけてな」
電話を切った 硬貨追加係の里保が加賀の顔を見上げる
「ま ボクらの状況はあまり変わらないさ もう少しで広島だ 気をつけて行こう」
里保が頷いた
もういくつか電話をしておきたかった
里保に万札を渡し 好きなもの買っていいからお金を崩して来て と頼む 
メモ帖に山木との電話を書き込んでいると里保が戻って来た 両手に赤いコーラを持っている
「もう炭酸飲めないよ!」 不平を言うと 里保がシュワシュワと言って 嬉しそうに缶を渡して来た

99かっちゃん:2017/11/06(月) 02:43:09
里保が緑の公衆電話に100円玉を投入する
福村ミズキに電話をした
「後でみーちゃんの声だけ聞かせて」 里保が言う
念には念を入れ山﨑直記に会うまでは里保の存在を隠しておきたかった
例え橋本が動いている状況があったとしても 情報を絞っておくことは重要だ
どこで秘密の暴露に繋がるかわからない
ミズキは外出中だった
「久しぶりに声が聞けると思ったのに」 里保が残念そうに言った
次いで山崎家に電話をした
「はい 山﨑です」 女の子が出た 
山岸ではない 牧野だ
「牧野さん?」
「はい」
「この前会った加賀だけど」
「あー 加賀さん!」
「飯窪さんはいる?」
「それが昨日から休んでまして あっすみません ちょっと今忙しくて
申し訳ありませんが 電話切りますね また後でお願いします」
飯窪が二日続けて休んでいる 橋本の動きと関係があるのだろうか?
「飯窪さん 今日も休みだって そのせいか忙しいから また電話してくれって切られちゃった」
「父の容態を考えると こんな時に続けて休む人じゃないと思うんだけど」
「なんか持病でもあるとか」
「そんな話は聞いたことないなー」
「うーん 飯窪さんがいないと 山崎家はどうなるの?」
「飯窪さんの休みの日は 須藤さんが中心になって みんなで仕事を分担してやってると思う」
「そうか... 橋本と繋がってる飯窪さんがいなければ キミもお父さんに会い易いのかな?」
「どうなんだろ? 父が心配だわ 西口さんはいるかもしれないけど 加賀さんの話だと敵みたいだし」
「お父さんが病気で倒れてから 松原さんって言う弁護士がよく来てるらしいよ」
「そうなんだ!? 知らなかった」
「多分医者も毎日のように来てるはずだから...」
「...私がここまでグズグズしてたせいなのに 今更父の容態が心配とか言うのもおかしな話ね」
「無事に会えることを祈って急ごう」
「そうね」
「あと ウチの事務所に電話させて 昨日玲奈が 休講だから9時くらいに来るって言ってたんで」
「うん 二人の秘密の業務連絡はほどほどにね」
「え?」 プッシュボタンから顔を上げると 里保が微笑んでいた
調子が狂って違うボタンを押してしまい 受話器を一度おいて かけ直す
「はい 加賀調査事務所です」
明るくハキハキした女性の声だった
「え? 玲奈?」
「はい 加賀調査事務所です 何かご入用でしょうか?」
大人っぽい ちゃんとしたオペレーターみたいだ 玲奈じゃない
「誰?」
「お客様 調査のご用命でしたら まずお名前をお願い致します」
「え? ボクは加賀です! そこの事務所の所長!」
「あ? 楓! なんや最初からそう言うてや!」
「あかり? なんで?」
「なんでって 玲奈ちゃんの代わりや」
「え? 玲奈は?」
「やっぱり広島行くから 今日休みの私に電話番お願いっ言うて そっち行ったで」
「ええ? 本当に?」
「そうや」
「何時に行ったの?」
「8時半くらいやな」
「ったく 危ないから そこにいろって言ったのに あかりに言ってもしょうがないか
じゃああかり 悪いけど そのまま電話番お願いしていいか?」
「バイト代で部屋代無しな」
「ああ わかった わかったよ その代わり明日もな」
「オッケー!」 鼻歌を歌うようにあかりが答えると 電話は切れた
玲奈は直接山﨑の家に向かうつもりか? 嫌な予感がする

100かっちゃん:2017/11/12(日) 06:37:45
「玲奈が新幹線で広島に向かったらしい」 加賀が里保を見て言った
「え? 待ち合わせでもしてたの?」
「いや 今回はずっと留守番のはずだった おそらく一人で山﨑の家に行って
ボクらと落ち合うつもりなんだろう」
「良かったじゃん」 里保がニヤっとする
「良くないよ 玲奈は一度橋本の指示で連れ去られてるんだ 顔を知られてるから
また連れて行かれる可能性がある」
「それはマズいね」
「そうだ もう一件電話しなくちゃいけなかった」
里保が小銭を取り出した
「広島県警と話しとかなきゃ」
「あっ もしもし 捜査四課の勝田さんいますか? はい 加賀と申します 言えばわかりますから」
取次ぎの間 受話器の向こうの ざわざわと慌しい雰囲気が伝わってくる
「え? 打ち合わせ中? すみません急ぎなんです なんとかお願いできませんか?」
再びざわざわと聞こえ始めたと思ったら オルゴールの音に変わった
しばらくすると ゴソゴソ ゴンッ! と乱暴に受話器を取る音がした
「勝田だ 急ぎってなんだよ?」
「あっ 勝田さん 居て良かった 今高速で勝央まで来てるんですが 
ちょっとお願いしたいことがありまして」
「勝央? 岡山か お願いの前にお前の目的を言え 洗いざらい言うんだ」
「人探しの仕事だったんですよ その人が見つかったんで クライアントの所へ連れて行くんです」
「人探し? 誰だそれは?」
「すみません まだ終わってないんで それは言えません」
「じゃあ それと八反壊滅との関係はなんだ? 公安からも情報は下りて来てるが 
細かい指示ばかりで 概要がさっぱり掴めねぇ おまえなんか知ってんだろ?」
「八反を潰した殺し屋が広島のある会社に匿われています ボクらはそいつらに狙われてるんです」
「おまえ! そこまで知ってて なんで言わなかったんだ! どこだその会社は?」
「すみません これはまだ あくまでボクの推測の域なんで ハッキリと言えないんです」
「波浪企画なんだろ?」
「え?」
「石田さんが おまえがそこについて聞いて来たって教えてくれたよ 
しかも今朝 警視庁からあった協力要請も 波浪企画に関してだ」
加賀は里保を見た
里保は 波浪について相手に突っ込まれていることを察知したようだ 任せると言った
「動きを見張っててください」 加賀はそれだけ言うと 咳払いをした
「あ? ああ 今出かけるさ それについての打ち合わせをしてたところだ 公安はどうしてんだ?」
「八反潰しの犯人を早く確保したいんで 躍起になってるそうですよ」
「おいおい またこっちはお下がりしか来ねぇのかよ」
「それで急ぎの件なんですが」
「おっ それがあったな」
「ウチの事務所の助手の女性が単独で広島に向かったんです 今朝8時半頃出たらしいんで
新幹線でおそらく昼の1時前後に着くと思うんですが 奴らに連れていかれないように
保護してもらえないでしょうか?」
「あぁ? 顔もわからないのに どうやって保護すんだよ?」
今から顔写真の手配は無理だ 公安も協力してくれるかどうかわからない 
今はまだ波浪企画と山崎家を警察の前で近づけたくないから 玲奈を知っている人を
連れて来るのも難しい
「じゃあ 制服姿の警官をホームに何人か立たせておいてもらえるだけでもいいです」
「そんな権限ねぇよ あるかどうかもわからない誘拐なのに」
「高い確率で 奴らの誰かが来ると思います もし新幹線ホームで その誰かが
身長153cmのハタチ前後の女の子に声をかけたら 押えてもらえませんか?」
「上に言ってみるが 望み薄だぞ 波浪企画から出てった奴が 広島駅まで行くなら別だがな」
「お願いします」
「あと 知ってて言ってないことないか?」
「特にないと思いますが ボクらはこの後 三次まで行ってそこから 東広島市の方へ
向かいます 乗ってる車は赤いフェアレディZのレンタカーです」
「高速下りて375だな そっちのフォローは交機の知り合いに話してみるよ」
礼を言って電話を切ると 里保が心配そうに見ていた
「まぁ なるようになるよ もし玲奈が捕まったら こちらと連絡を取ろうとするはずだ
玲奈を人質にして ボクらを呼び寄せるために」

101名無し募集中。。。:2017/11/26(日) 06:19:56
OCNモーニングリポート
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/20619/1511628377/

102かっちゃん:2017/12/06(水) 23:27:29
なぜかコピペできない

103かっちゃん:2017/12/06(水) 23:32:13
加賀たちが勝央SAを出てから1時間余り経っていた 神郷PAを越え 広島県に入ろうとしている
加賀は玲奈のことが気になり 押し黙ったまま運転を続けていた
「やっぱり車で広島行くのは結構時間がかかるね」 里保が口を開いた
「建設中の山陽自動車道ができればもう少し早く行けるんだけど」
「そんなのができるんだ?」
「開通が再来年になるのかな? 今走ってる中国自動車道は中国地方の真ん中を
走ってる感じだけど 山陽自動車道は瀬戸内海側を走るから距離が短いんだ」
「ふ〜ん」
「この後ボクらは三次で高速を下りて 下道でキミの実家まで行くけど 調べたところ
50kmくらいかな? 結構山の中走るみたいだから1時間半程かかると思う」
「三次まではあとどれくらい?」
「こっちもあと50kmちょいだから 40分くらい?」
「じゃあ家に着くのは 1時半くらいかー」
「上手く行ってね キミの家に近づいたら ボクは地図と睨めっこになるから
もう少し時間がかかるかもね あっ でも地図見れる?」
「え? 見方わかんない」
「そうか まぁいいや あと2時間ちょっとだ その前に一回どこかで止めて 電話入れさせて」
「うん 玲奈さんが気になるのね」
「もし捕まっていれば 奴らが連絡してくるのは事務所だと思うから あかりに電話するよ」
「そのあかりさんって従業員?」
「いや ボクの従兄弟」
「ふーん 仕事一緒にやってんの?」
「ううん 彼女は普段大阪で なんて言うのかな? イベントの受付みたいな仕事やってて
9月から一ヶ月東京で仕事があるから ウチのビルの一部屋貸してんだ」
「ウチのビル?」
「あっ たいしたもんじゃなくて 実家が不動産屋やってるからさ おんぼろの雑居ビルを
一つもらって そこに事務所作って ボクも住んでんの」
「お金持ちじゃん」
「いやいや 波浪興産のお嬢様ほどじゃありませんよ」
少し気まずい沈黙があり 里保が話題を変えた
「玲奈さんとは いつ知り合ったの?」
「もう3年かな?」
「え? そしたら彼女が高校生くらいの時?」
「うん 仕事でテニスサークルに入ったんだけど そこで合ったんだ」
「へー そうなんだ デートとかどこに行くの? 秋葉原?」 里保が意地悪そうな目で聞いた
「いや 別にそんな付き合ってるってわけでもないような」
「えー? 知り合って3年なのにそれ?」
「えっ? どうして?」
「どうしてって 玲奈さん それでよく我慢してるね」
「なにが?」
「なにがって 玲奈さん見れば 加賀さん好きなのわかるし 加賀さんも玲奈さん好きなんでしょ?」
「...まぁ」
「だったら ちゃんとしてあげなよ」
「ちゃんとって何を?」
「もう! デートしたり いつまでも友達じゃなくて 恋人として扱いなさいってこと!」
「いや 今のままでもお互い いい感じだと思うんだけど」
「あーーもう 加賀さん! 女の子は絶対そんなの満足してないから!」
「そうなのかな?」
「ダメだこりゃ」
広島に近づくに従って 重い雲が千切れ千切れになって行き 青い晴天が顔を出していた

玲奈は新幹線の指定席で 間もなく広島に到着という車内放送を聞いた
動き回り易いように 着替えは持って来なかった
多分何日も東京に戻れないことはないだろう そうなればなったでその時考えればいい
ダンガリーシャツにベージュのチノパン 紺のローカットスニーカーというイデタチだ
加賀たちよりも早く山﨑家に着けるかどうかはわからなかったが 加賀の驚く顔を
思い浮べて 玲奈はほくそ笑んだ 
「待ってろカエデー!」 
座席から立ち上がって薄いオレンジのフェンディのショルダーバッグを肩にかけると 
出口に向かうワイシャツ姿のサラリーマンの後ろに並んだ

104かっちゃん:2017/12/06(水) 23:34:03
5.5スレ目の>>192がどうしてもコピペできないので
飛ばして>>103を貼りました

105かっちゃん:2017/12/06(水) 23:35:59
新幹線のドアから出た玲奈は 出口へと向かう乗客の流れから外れてホームを見渡した
階段の下り口で鉄道公安官が2人 降車客に目を配っている
加賀に内緒で広島に来てしまった後ろめたさからか 玲奈は鉄道公安官に
呼び止められそうな気がして不安になった
後ろで降りた家族ずれが楽しそうに追い越して行く
玲奈はその家族と並んで歩き 子供に微笑むと 一緒に来たように見せかけた
階段を下り改札を出ると フーッと息を吐く
何やってんだろ私? 別に悪いことしてるわけじゃないのに
少し可笑しくなった玲奈は 天井から下がる表示板を見ながら出口を目指した
つい最近来たばかりなのに心細い 
この前は加賀が隣にいたので安心していたのだろうか?
加賀のことばかり見ていたわけじゃないだろうが 見たことあるはずの駅の構内が
初めて見るような気がして来る
それでも外の景色が見えてくると あの時加賀とホームから見た広島の空と一緒だ! 
と嬉しくなった
駅を出て タクシー乗り場を探す
様々な形の表示灯を屋根に載せた 黒や白のカラーリングの車が並ぶ一角は
すぐに見つかった 
同じ目的の人の流れに乗って歩き始める
「横山さん?」
手前に止められた深緑の車の横に立っている男から声をかけられる
え? なんで私の名前を? それとも私じゃない横山さん?
玲奈は周りを見たが 誰もそれらしき人はいない
「横山さん 山﨑の遣いで迎えに来ました」
山﨑ということは 横山は私のことだ
「はい」 
一応返事はしたものの 玲奈は立ち止まり 男をジーっと観察した
年は20代半ばくらい 背はそれほど高くないが 小男と言うほどでもない
色白の人懐っこい丸顔で微笑んでいる 
薄い青のワイシャツに赤いネクタイとグレーのスラックス姿は 隣の車の色と合わさって 
キザっぽく見える
「私 波浪興産の谷崎と言います」 男はそう言って名刺を出した
波浪興産 総務部主任の肩書きがあった
「先程 山﨑の家の飯窪さんから 横山さんを迎えに行って欲しいと連絡がありまして」
「飯窪さん? 何で私が広島来るの知ってるんですか?」
「朝そちらの事務所に電話した時に 聞いたそうですよ」
「そうですか」 カエデーにもバレてるかな? 口止めして来なかったことを悔やんだ
「いやー 山﨑の家が忙しい時は こうやって借り出されるんですよ 
ほら 総務ってなんでも屋でしょ?」
「はぁ」 玲奈は頷いてはみたものの 総務と言う部署がどういう業務をするのか 
よくわかっていなかった
「山﨑の家まで送りますので 後ろに乗ってください」
玲奈はいまひとつ釈然としなかったが タクシーに乗ったとしても 行き先が
波浪興産会長の山崎さんの家までくらいしか言えず 運転手がわからない時は
山﨑家に電話をして聞くつもりだったので ラッキーと思うことにした
「でも よく私が横山だってわかりましたね」 玲奈がドアを閉めながら言った
「飯窪さんから 背格好聞いてたので あと東京から来るお嬢様だから
すぐわかるって言われてて 実際見たらすぐわかりましたよ」
「またまたー ご冗談を」
「あっ ちょっと待ってください 飯窪さんから 一緒にあの人の甥っ子を拾って来るように
言われてまして 来た来た 笠原くん こっち!」
「えっ?」 
玲奈がキョトンとしていると 体の大きなやんちゃそうな男の子が助手席に乗り込んで来た
「ども 笠原です」 男はニキビが目立つ顔をニタっとさせた 
男臭い汗の臭いがする
「あのー」 玲奈は何かおかしさを感じ せっかく来てくださったのにすみませんが
下りますと言おうとしたが 笠原がドアを閉めるやいなや 車は急発進した
谷崎はアクセルを踏み込み 早々とギアをトップまで持って行くと
片手でネクタイを緩めながら 楽し気に言った
「まぁ楽にしてくださいよ まずはちょっと海の方へ散歩に行きますか」

106かっちゃん:2017/12/06(水) 23:37:00
橋本は宇品の外れで車を降りた
晴れてはいたが 海からの風が少し冷たい
錆びたトタンに囲まれた倉庫の裏の路地は ひっそりとしていた
チャンリンが助手席から静かに降りて来る
擦りガラスが上に嵌った 動きの悪いドアを開けると すぐ横にあるスイッチを入れた
ジーッという音を立てて 天井の蛍光灯が点く
薄暗い通路の脇には 埃にまみれたスコップや軍手 ロープが散乱していた
5m程歩くと 通路の壁と天井が無くなった 
壁に付いた6つのスイッチを全部カチカチと入れる ガランとした空間が現れた
300坪 高さ6mくらいだろうか 片隅には乱雑に積み上げられたパレットと
ペンキが剥げ サビが見えているドラム缶がいくつか置いてある
橋本はひんやりした埃っぽい空気を感じ タバコに火を点けた
踵を返して通路に戻ると すぐ右のドアを開け 入り口脇のスイッチを入れる
そこは机が並べられた 8畳ほどの事務所になっていた
倉庫を見た後のせいか 天井が低く 狭く感じられる
奥の席まで行くと 合成皮革が破れ 中から黄色のスポンジがはみ出した椅子に どっかと腰を下した
チャンリンも近くまで歩いて来て 橋本をジッと見下ろす
「日本のメシは美味いか? 痩せ過ぎてたのが普通になって 綺麗になったな」
タバコの煙を吐き出し チャンリンを見て言った
チャンリンは 目を細めて微笑む橋本を見て 無表情ながら瞬きをした
机の上の電話がけたたましく鳴る
「はい ああ橋本だ そうだ 予定が変わったんでこっち来た おぅ おまえらも
予定変更だ こっちに来い ああ あ? いなくなった? おぅ ほっとけ ああ じゃあな」
里保たちを捕捉しに行った 野中からの電話だ
社長室へかかって来た電話には この事務所の電話番号を教えるようにしてある
山﨑の家の近くで待ち伏せするのは止め 野中たちをこちらに合流させることにした
一緒に行った田口が途中で消えたらしい 若いチンピラにはよくあることだ
今は構っている場合じゃない 次に街で見かけたら痛い教育をするだけだ 
続けてベルが鳴る
「はい.. 工藤 おまえどこに居たんだ? あ? ったく 飯窪は? 早く山﨑のとこに戻すんだ
ああ もうすぐこの前おまえがやりそこなった女が来る フッ おまえに会いたくて
また広島に来たんだとよ ああ 場所わかるよな? あー じゃあ待ってるわ」
工藤からの電話だった この2日間飯窪とやりまくっていたらしい 好き者で離してくれないと言い訳をした 
加賀の女を脅すのに 馴染みのある工藤を呼ぶことにする 
竹内の丸顔よりは 充分恐怖を感じてくれるだろう 加賀を誘き寄せる道具立てはできた
受話器を取り 加賀調査事務所に電話する
「はい 加賀調査事務所です」 女が出た
「今から 電話番号を言う メモして 確実に加賀へ伝えろ 
伝わらなければ たいへんなことになるぞ」
「どちら様ですか?」
「加賀に伝えればそれでわかる 余計なことはするな 早くしろ」
女は困惑していたが メモの用意ができましたと言った
電話番号を言うと 女が確認する 「それでいい 確実に伝えろ」 電話を切った
倉庫にオールキャストが揃ったら 里保を拘束する
加賀と女はその時次第だ 必要以上に梃子摺れば チャンリンに始末させる
タバコを灰皿に押し付けて消すと 橋本は椅子から腰を上げ チャンリンの目の前に立った
「また少し働いてもらうかもな」 そう言うとチャンリンを抱きしめた
チャンリンは目を閉じ そっと橋本の腰に手を回す
橋本は体を離すと チャンリンの目を見つめ 頬を撫でた
表のドアを乱暴に開ける音がした
「ここで待ってろ」 橋本は事務所を出て 入り口を見る
竹内がドアの外で振り返って指示しているのが見える
「社長 連れて来ました」 竹内が入って来ると 続いて笠原が女の腕を掴んでドアをくぐった
「痛い やめてよっ」 玲奈が腕を払いのけようとする
「早かったな そこのロープと事務所の椅子を倉庫持ってて 女を動けないように縛れ」
「はい おい笠原 あっちに連れてけ」 ロープを拾いながら竹内が言った
「もうすぐ野中たちも来る」 
「待ち伏せは止めたんですか?」 
「確実に加賀は来るだろう その女がいれば」 橋本がニヤリと笑った

107かっちゃん:2017/12/06(水) 23:38:47
加賀のフェアレディーZが三次ICを下り 国道375号に入って既に一時間以上経っていた
片側一車線の狭い道は山の合間を通っていて 鬱蒼とした木々に挟まれたかと思えば
開けて民家がちょぼちょぼとある景色の繰り返しだった
中国自動車道を下りた後 すぐ事務所に連絡を取ったが あかりは特に電話はないと言った
そろそろもう一度電話をしなくてはならない
標識に賀茂郡豊栄町と出ている 山﨑の家が近づいていた
「そろそろ電話しなくていいの?」 里保が聞いた
「さっきから大きめの施設を探してるんだけど あまり無くてね」
「その辺のお店で借りたら?」
「そういう所はピンクか赤の電話だから 10円玉だけなんだ 東京にかけるには
両替もしなくちゃならないしキツイ」
「そっか」
更に4km程走り福富町に入ると 農協を見つけた
黄色電話が設置してある ついでに窓口でお札を100円硬貨に両替した
時刻は一時半を回っていた 電話をかける 
「はい 加賀調査事務所です」
「あっ ボク なんか連絡あった?」
「さっき 変な電話あったで 番号だけ言うて 楓に伝えればわかるって」
「やっぱりそうか! 番号言って!」
加賀は番号をメモ帖に書くと 「どうしたん?」と聞くあかりの電話を 「ありがと」と言って切った
今 あかりに玲奈のことを言うのは得策じゃない 説明に時間をかけている暇は無いし
下手に警察へ通報されたら 玲奈の命が危険に晒されるかもしれなかった
急いでメモした電話番号を回す 警察に連絡するかどうかは 相手の出方次第だ
「もしもし?」
「もしもし あんた誰?」 間延びした年輩の男の声がした 周りがうるさい パチンコ屋のようだ
「加賀と言いますが」
「あんたか じゃあ伝言言うよ」
「え? あなたが橋本さん?」
「あ? 違う違う オレは伝言頼まれただけだ じゃあ言うぞ 15時半まで広島港の
宇品旅客ターミナルまで来て欲しい 横山が山﨑を待っている わかった?」
「クソッ! え? どこですって?」
「宇品旅客ターミナルだよ フェリー乗り場だろ? わかった?」 男はそう言って電話を切った
「ハッタリかもしれないが玲奈が捕まった 15時半まで 広島港の宇品旅客ターミナルまで来いって」
「広島港に行くんなら あまり時間無いよ」 里保が言った
「待って待って キミが狙われてるんだよ このまま行っていいのか?」
「.. 時間が無いわ 行って」 里保が車に乗り込んだ
加賀も車に乗り込んでキーを回す 運転しながら何かいい手はないか 考えるつもりだった

倉庫の事務所には 橋本 竹内 チャンリン 笠原がいた
橋本は押し黙ったままタバコを吸っている 
チャンリンは 竹内が座っていいよと言うとようやく腰を下し ずっと橋本を見ている
「竹内さん あの女 ちっこいけど おっぱいデカいっすよ」 笠原が嬉しそうに言う
「ロープで縛りながら 揉みましたよ ロープも食い込む食い込む」 ケケっと笑った
「本当おまえそればっかだな 歩くチンポかよ」
「男なら女好きなの当たり前じゃないっすか その子もカワイイし」 笠原がチャンリンを見て言った
「バカ! おまえ手出したら 社長に殺されっぞ」
「ふっ オレは殺さないけど チャンリンがおまえ殺すよ」 橋本が薄っすら笑う
「えー そんなおっかねーんすか?」
「おまえ チンポ切り落としてもらえ!」 竹内が言い放った
電話が鳴る 橋本はタバコを灰皿に押し付けて受話器を取った
「はい おぅ どうだ? そうか 伝わったようだな わかった おまえはもういいぞ お疲れ」 電話を切る
「中西興信所からだ 加賀が八本松の方を通って こっち方面へ向かったらしい」 橋本が竹内に言った
「3時になったら 笠原連れて 旅客ターミナルの前に行け 里保と加賀が確認できたら
ここへ連れてくるんだ」
倉庫入り口のドアが開く音がした 中背の真面目そうな顔をした30代の男と 20そこそこの
細面のハンサムが 事務所のドアを開けた
「社長 戻りました すみません田口が..」
「気にすんな それよりおまえら戻って来てすぐで悪いが 6時くらいまで南警察から
県立病院 御幸橋辺りを車で流して 警察がいつもより動いてないか見張っててくれ 
何か気付いたら ここに電話しろ」 橋本が鋭い目付きで指示を出した

108かっちゃん:2018/01/04(木) 05:39:39
加賀の車は途中から国道2号線に乗り 広島市安芸区を走っていた
左右に山を見ながら 瀬野川に沿って進む
農協で電話をかけてから既に1時間経っていた
相手が指定した15時半まではあと40分ほどしかない
「間に合うか?」 加賀が険しい顔で言う
「結構ギリギリだと思う」 里保も眉間に皺を寄せている
ここまで二人は車内で 何度もこの先のことを確認し合った
加賀がここから先は警察に任せるべきでは? と提案するのに対して
里保は頑なに 自分を広島港に連れて行くように言った
「私は私の信じた道を行きたい でも そのために誰かが犠牲になるかもしれないなんて絶対に嫌!」
加賀も本心では 警察に任せたくは無かった
警察が動くのを待っていたら 時間がかかり過ぎる
相手に警察の動きを察知されれば 玲奈にどんな危険が降りかかるかわからない
覚悟を決めて突っ込むしかないのだが それでも里保の安全を考えるべきであり 何度も翻意を促した
最終的に本人の主張を尊重するというのは ボクの狡さだろうか?
加賀の胸の中にその問いと罪悪感が ずっともたれている
しかし もう時間が無い 里保を橋本の元に連れて行ってからの助かる道を模索すべきだ
相手は 宇品の旅客ターミナルで 警察の追尾の有無を確認するのだろう
そこで警察と連絡を取っていると思われれば もう二度と玲奈と会うことはできないかもしれない
しかし 自分たちのみでヤクザと殺し屋を相手に立ち回って 逃げることは不可能に近く
どこかで何らかの警察の助けは必要なのだ せめて公安が陰で見ててくれれば..
相手に取って里保の存在が邪魔なら 既に命を狙われていることから 
すぐにではないにせよ いずれ殺されることは容易に想像できた 
その時に 加賀と玲奈はどうなるのだろう? 
事情を知っている二人が 無事解放されるとは考えづらかった
とは言え 相手は3人も手にかけるのだろうか?
答えはイエスだ 既に八反組の6人を殺している
警察に捕まった場合 実行犯のチャンリンに罪を全て背負わせるつもりかもしれないが
追加の加賀達3人だって 極悪非道なチャンリンがやったと言えるし そもそも3人を消して
捕まらなければいいだけだ
加賀と玲奈が助かるためには 里保も無事で切り抜けるしかなかった
ヒントは山﨑会長の命にある
会長と橋本との繋がりがまだわからず ハッキリしたことは言えないが
遺産を巡って このタイミングで起った策謀なら 会長が存命かどうかは
重要なポイントとなるはずだ
そこを読み間違えてはいけないと加賀は思った
瀬野川に架かる海田新橋を渡り 続いて猿猴川の黄金橋を渡る
猿猴の文字は 両方ともサルのことだが サルのように毛が生えたカッパの一種らしい
この川を帰りに跨ぐ時は 生き肝を抜かれた状態でないことを 加賀は祈った
マツダの工場の脇を走ると 宇品海岸は目と鼻の先だ
南警察署前を通る 
自分たちに気付いて欲しい気持ちと 気付いて欲しくない気持ちが拮抗する
そのまま黄金山通りを進み 宇品通りに突き当たると 路面電車の軌道が現れた
V字に左折して 広電に沿って行く 
加賀にとっては初めて運転する併用軌道のある道 里保にとっては懐かしい町並みの
はずだったが 二人は無言で前を見つめていた 時刻は15時15分だった

竹内は笠原を連れ 宇品旅客ターミナル前に車を停めた
「赤いフェアレディっすよね この辺 マツダ車ばっかだから すぐわかっるすよ」
笠原が窮屈そうに体を動かすと 脚をダッシュボードに上げようとした
「テメー 脚上げんな! 汚れっだろ!」 竹内が怒る
「俺も欲しいな フェアレディ 竹内さんも こんなカッコ悪いの止めて 
スカイラインとか乗ればいいじゃないすか?」
「金ねーよ」
「でも なんか社長見てっと 近々大金が入りそうじゃないすか」
「そんな簡単じゃないんだよ」
竹内にはわかっていた 大金を掴むためには 人を殺さなければならないかもしれないことを
さっき 駅で捕まえて来た東京の女 あの娘も始末しなければならないのかも
社長を信じて付いて来たが それを考えると 
このまま従っていていいのか? という疑問が湧き上がる

109かっちゃん:2018/01/04(木) 05:46:41
野中と井上 竹内と笠原がそれぞれ倉庫を出て行くと 
事務所には橋本とチャンリンだけになった
「もうすぐ 金にはあまり困らなくなる そしたら俺は 日本を出て大きな仕事がしたい
付いて来るか?」 橋本が目を細めてチャンリンに言った
「ふっ わからないか まぁいい おまえが後に付いてくるようなら連れてってやる
東南アジア 南米 ビジネスパートナーは世界中にいる 忙しくなるぞ」
その時倉庫のドアが開く音がした
橋本は席を立ち上がり 懐に手を入れると 事務所のドアを開ける人間を見極めようとした
「兄貴 来たぜ」 黒のトレーナーに金の太いネックレスをぶら下げ 
だぶついたグレーのジャージ下に サンダルを履いた細面の男が ドアを開けて入って来た
「工藤 遅いだろ」
「すんません あの女 離してくんなくて」
「飯窪は? ちゃんと山﨑の家に置いて来たか?」
「あっ? はい」 工藤は咥えていたタバコを下に落とすとサンダルで踏み消しながら言った
「ちょっと待ってろ」
橋本はそう言うと 山﨑家に電話をかける 話し中だった
ガシャンと黒電話の受話器を置く
「ちっ 山﨑が生きてるかどうかわかんねぇ」 橋本が呟く
「兄貴 女の趣味変わったんか?」 工藤がチャンリンに近づいて言った
「それ以上近づくな ノド裂かれるぞ」
「あん?」 工藤が眉根を寄せる
「八反を潰したのはそいつだ」
「ああ? 本当に? 嘘だろ?」 工藤は首を傾げてチャンリンの全身を眺めた
「普通のガキだぜ?」
「信じなくてもいいが そんときゃ おまえが死ぬだけだ」
沈黙があった
「倉庫の方に行ってみろ」 橋本が口を開く
工藤はポケットからハイライトと100円ライターを取り出すと タバコに火を付け
事務所を出て行った

「いよー 嬢ちゃん またおうたのぉ」
椅子に縛られた玲奈は 後ろから声が聞こえ 必死に首だけをそちらに向けて 顔を確認しようとした
口にはタオルで 猿ぐつわがされている
「俺のアレがよっぽど気に入ったんじゃろ?」
玲奈は声の主が工藤だとわかり 恐怖に固まった
「なんか 今度は好きにさせてもらえそうじゃけぇ 仲良くしようや」
工藤はそう言うと 玲奈の肩に手を置き そこから下に滑らせて
縛ったロープの間から突き出た胸を握った
「ううっ」 痛い!と言おうとしたが 口を塞がれているため 声にならない
玲奈は怖さに逃げ出そうと 体を揺すり ロープを解こうとするが 緩む気配もない
「まぁまぁ そう嫌がんなって 直に気持ちよくさせてやっからよぉ」
「ううーっ ううーっ!」 玲奈は必死に声を上げて助けを求めた
しかし どこかにこんなことをしても無駄 もうお終い という絶望感があった
「お楽しみはもうちょい後な」 橋本が出て来て 工藤に声をかけた

加賀の車は宇品旅客ターミナル前の通りをゆっくりと走っていた
時刻は15時25分 約束には間に合ったはずだ 相手がどう現れるのか?
ターミナルの建物と 隣のそれなりに埋っている駐車場を通り過ぎてしまい 
Uターンして もう一度ゆっくりと流す
先程も停まっていた 対向車線の脇に路駐している深緑のルーチェが パッシングした
「あれだ」 加賀が呟くと 里保も前に乗り出して頷いた
男が二人乗っている 加賀は車をまたUターンさせ ルーチェの後ろに停めた
前の車の助手席が開き 身長180cm,以上はある ガタイのいい若い男が
加賀のところへやって来た
ウインドを下す
まだ十代に見える ニキビ面の荒っぽそうな男の子だった
「警察は付いて来てないだろうな?」 男が低い声で言う
「大丈夫だ 本当に横山がそちらにいるのか?」 
男は無言で首を振り 付いて来いと促した 車から下りる
里保には 鍵を閉めて ここにいるように と言った

110かっちゃん:2018/01/04(木) 05:54:19
デカい男は 後ろに少し歩くと 電話ボックスに入る
加賀は付いて行きながら 辺りを見回した
向こうのターミナルには 荷物を手にいそいそと歩く人が何人か見える
隣には広電の停留場があり 3人が電車を待っていた
会話をしているおばさん達二人に 小柄なスーツ姿の男性 
後ろ髪を一つに縛る珍しい格好をしている
電話ボックスのドアまで来ると 男が 「ほらっ」 と受話器を加賀に渡した
「うぅっ ハーーッ ハァハァ」 
荒い息遣いが聞こえた
「玲奈?」
「ハァハァ カエデー? カエデー?」
「玲奈! 大丈夫か?」
「ごめん カエデー! 余計なことしてゴメン!」 泣き声で玲奈が謝る
「無事ならいいんだ! 今そこに行く」
「ごめんなさい..」 玲奈が泣きじゃくった 電話が切れる
「あの車の後ろに付いて来い 変なことはするな」 男はそう言うと 車に戻って行った
加賀も電話ボックスを出て車に戻る ターミナルを見ると 表を歩く人がいなくなっていた
広電の停留場も いつの間にか電車が来たのか 誰もいない
フェアレディの鍵を開けて 運転席に乗り込む
里保が心配そうな顔で見た
「やっぱり捕まってた でも今のところ大丈夫だ」 加賀はそう言って 里保に頷いて見せる
ルーチェが右ウインカーを出し ゆっくりと発進した
フェアレディもそれに続く
しばらく進むと大きな倉庫の間の小路に入って行き 何度か右折左折をした
目の前に白のセドリックと 黒のローレル4ドアハードトップが停まっていた
ルーチェがその後ろに停まる 加賀もフェアレディを停めた
「チャンスがあれば合図するから 逃げる時は死ぬ気で 後ろを振り返らずに逃げるんだ」
加賀は里保に言った 
「うん」 里保の切れ長な目が 更に細く吊り上がる 二人は車を下りた
ルーチェからは先程のデカい男と 中肉中背の丸顔の男が車を下りて こちらを待っている
加賀と里保が並んで歩き始めると 二人の男も背を向け 先に進んだ
と ローレルの隣で丸顔の男が歩みを止める
窓から中の様子を伺い 助手席側に回るとドアを開け 「出て来て」 と呼びかけた
長い黒髪の細い女が ゆらりと立ち上がる
「飯窪さん?」 里保が呟いた
「え?」 加賀はその名前に驚き 目を凝らす 確かに飯窪だった
髪が顔にかかり ハッキリとはわからないが かなりやつれて見える
「なんで こんなところに..」 里保が言う
「橋本と関係があるから ここに居てもおかしくはないけど 様子が変だね」 
加賀は もう少しよく見ようと 前との距離を詰めた
丸顔の男が手を貸し 飯窪を倉庫裏のドアに連れて行く
加賀と里保は デカい男に睨まれながら 後ろに付いて行った
「社長!」 丸顔の男が呼ぶ
奥から 青のポロシャツに金ネックレス 白の2タックスラックスに チゼルトゥの黒革靴姿の男が出て来た
40代後半か? スポーツをやっていそうな引き締まった体で 銀縁のメガネをしていたが
レンズの向こうの目付きは冷やかだった 
社長と言うことは この男が橋本か! 加賀はようやく敵の顔を見れたと思った
「なんで ここに飯窪がいるんだ?」 橋本が眉間に皺を寄せて言う
「表のローレルの中にいました 面倒が起ると嫌なんで 連れて来ましたけど」
「チッ 工藤!」 橋本が振り返り 奥に向かって呼ぶ
「なんだよ 兄貴」 めんどくさそうに 奥から細面の喧嘩っぱやそうな男が現れた
「飯窪は 山﨑の家に帰したんじゃなかったのか?」
「ああ? こいつがここに来たいって言ったんじゃけ」
「工藤!」 
「わかったって 後で 連れてく」
「飯窪 どうした?」 橋本が下を向く飯窪の髪をかき上げ 顔を覗き込んだ
何かに気付いた橋本は 飯窪の右腕を持ち上げて 長袖をまくり上げる
「工藤! てめぇ シャブ打ちやがったな!」
「ああん? 天国に連れてってやれって言ったのは 兄貴だろ?」
「馬鹿野郎! こいつが使えねーと 山﨑の様子がわかんねーだろうが!」

111名無し募集中。。。:2018/02/07(水) 22:11:18
てすてす

112かっちゃん:2018/06/03(日) 13:29:19
「うるせー! 知ったこっちゃねーよ」 工藤が怒鳴り返した
「ガキが! イキガってんじゃねーぞ!」 橋本が工藤の顔を殴った
工藤が後ろに飛ばされ 尻餅を付く
「ここまでのシナリオが台無しじゃねーか! 糞が!」 橋本は工藤に罵声を浴びせた
「ざけんなよ! 橋本ー!!」 殴られた頬を摩りながら 工藤がヨロヨロと立ち上がる
手には蛍光灯を反射して光る ピストルが握られていた
工藤を蹴り倒そうとしていた 橋本が立ち止まる
「おまえ.. やっぱり馬鹿だな.. 安全装置もねー銀ダラをどこに持ってたんだよ?」
「うるせー 兄貴づらしやがって.. 俺は誰の指図も受けねー」
パンッ! 乾いた破裂音が響いた 地面に向けた工藤の威嚇射撃だった
里保がビクっとする 加賀は体を翻し 里保を庇う
「いいか橋本! 俺に持ってる金を全部渡せ! でねーと撃つぞ!」 
工藤がはぁはぁと息を弾ませながら言う
「おいおい こんなところに金があると思うか? そもそもテメーのおかげで大金がフイに
なっちまったんだぜ?」 橋本は目を細め 首を傾げて工藤を睨んだ
「だったら 金を集めろ! あるだけここに持って来い!」
「... 竹内 会社戻って金持って来い 金庫にある分全部だ」 橋本が傍らの竹内に言う
「え? 金庫って?」 竹内は目を見開いて橋本を見た
「和田に言え」 橋本はそう言って 行けというように 出口へ首を振って見せた
竹内はその時見た 橋本が右手の親指を立て 首をかっきる仕種をしていたことを
踵を返して 竹内が倉庫の出口へ向かおうとする
「テメー勝手に行くんじゃねぇ! おおっ」
背後からいつの間にか 音も無く近づいていたチャンリンが 腕を回して腹を刺し
前に体を折った工藤の喉を切り裂いた
工藤が頭から地面に落ちる
パンッ! 屑折れながら 地面に向かって引き金を引いた
甲虫の幼虫のように丸くなって倒れた工藤の周りに 血の水溜りが広がって行く
攻撃対象の最期を確認したチャンリンが ゆっくり視線を上げると 3m程先に立っていた
橋本が胸を押えて倒れて行った
「社長!」 倉庫を出て行こうとしていた竹内が 橋本に駆け寄る
チャンリンは呆然と橋本を見つめた
工藤の最後の一発が 跳弾となって橋本の胸に当たった
「馬鹿な奴だ.. 俺が海外に行ったら 奴に後を継がせるつもりだったのに..」
ふいごのような音を出しながら 橋本が呟いた 口の端で血の泡が弾ける
「社長!」 竹内がまた呼んだ
チャンリンは ヨロヨロと倒れた橋本に歩み寄り 紙のように白い顔で見下ろした
「桃永さん 今です!!」 加賀が叫んだ
「マルタイ 確保ー!」 どこからか声が飛ぶ
倉庫入り口 遅れて倉庫側から 数人のスーツ姿の男達がなだれ込んで来た
呆然と立っているチャンリンを押えかかる
チャンリンは全く抵抗せず ナイフを地面に落とした
「確保しました!」 チャンリンに手錠をかけた男が大声で叫んだ
竹内と笠原は驚いてキョロキョロとしていたが すぐに警察だとわかり
仰いだり 俯いたりして観念し 男達に従った
「いい合図だったよ」 
慌しい状況に目を奪われていた加賀の横に いつの間にか後ろ髪を一つに縛った
小柄な男が立っている
「チャンリンは抵抗しなかったな」 両脇に立った男に連れられて行く チャンリンを見ながら言った
「司令塔だったチエン・チュンの代わりにチャンリンを動かすには 金では無く 強力な信頼関係
男女の関係みたいなものが必要だと思ってました 橋本が倒れた時のチャンリンの様子で
それが窺い知れたので 立て直す前に桃永さんを呼びました」 加賀が桃永を見て言う
「いい推察だ ところで私がいなかったらどうしてたんだ?」
「いえ 旅客ターミナルの広電の停留場にいるあなたを見て 必ずここでタイミングを
見計らっているはずだと思っていたので」
「食えない男だねー 君は ..この後用事があるんだろ? 一日猶予をあげるよ」
そう言うと 桃永は倉庫から出て行った
倉庫の方から 玲奈が刑事に連れられて出て来る
「玲奈!」 加賀と玲奈は走り寄り 抱き合った
「カエデーごめん! 私っ」 嗚咽で喋れなくなる 
「いいんだ 無事で良かった」 加賀は抱き締めた温もりに これ以上はない喜びを感じていた

113かっちゃん:2018/06/03(日) 13:33:30
「玲奈さんが無事で良かった..」 里保が呟く
加賀はこのまま玲奈を慰めていたかったが すぐに動いた方がいいと言う直感で 気持ちを切り替えた
「玲奈 僕は里保さんを山﨑会長に会わせなければならない 君には悪いが
どこかで宿を取って休んでいてくれないか? 事務所のあかりに連絡先を伝えてくれれば
山﨑家で用事が終わったら僕もそこに行くから.. いずれは警察から事情聴取されるだろうが 
公安の桃永さんは一日くれると言った もうすぐここには県警が来るだろうし 早く動かなくちゃならないんだ」
玲奈は涙を拭い 鼻を啜りながら黙って加賀を見つめていた
正気を失っていた飯窪も いつの間にか連行されたようだ 
倉庫内には公安の刑事と思われる男が一人いるだけで 後は橋本と工藤の亡骸しか
残されていないかった
「じゃあ玲奈 途中まで一緒に行こう」 加賀が踵を返し 出口へ向かおうとする
「待って..」 涙声の玲奈が加賀を引き止める
振り向いた加賀に 玲奈が縋り付いて来た
「カエデー 私も連れてって 一緒に行きたい」
「君はゆっくり休んだ方がいい」 加賀は玲奈の両肩に手を置き説得する
「いいんじゃない? 玲奈さんは加賀さんといた方が気持ちが安らぐと思うよ」 里保が言った
加賀は玲奈の目を見た 
潤んだ瞳は 必死に一緒に居たいと訴えかけていた
「お願い.. お願い!」 玲奈が繰り返す
「わかった 里保さん 悪いけど玲奈も連れて行くよ」
「私は構わないよ 玲奈さんが居てくれた方が 私の気の迷いも起きないし」
「ありがとう え? それってどういう..?」 加賀は里保の言葉に首を捻った
「行こう!」 里保が二人に外へ出ようと促す
刑事は三人を見送るだけで 特に何も言わなかった
倉庫のドアをくぐると 既に暗くなりかけていて 風が冷たい 
パトカーと救急車の音が 近くに迫っていた
「県警がすぐ傍まで来てる あの車ではすぐに止められる可能性が高いから
どこかでタクシー拾おう こっち!」 そもそも2シーターのフェアレディでは 普通に3人乗れない
加賀は二人を先導した
倉庫の間の道を足早に進みながら 記憶を頼りに旅客ターミナルを目指す
背後では緊急車両が到着する慌しい気配がしていた
建物の間から 白と黒のツートンの車が赤色灯を輝かせて姿を現しては消えて行くのが見える
「あっちだ」 加賀はパトカーが通り過ぎて行った広い道の傍まで来ると 
手を挙げて女性二人を制止し 様子を窺った
旅客ターミナルの横の道だった 道を渡れば 広電の停留場もある
左右を見渡すと パトカーはもう見当たらなかった
左から来る黒のセダンをやり過ごしてから 道を渡ろうと後ろの二人を呼び寄せる
黒のセダンが通り過ぎたと思ったら 急停止した
「マズい 早く!」 加賀が振り返って二人に手招きする
車の右側のドアが開き パーマをかけた大柄な男が下りて来る
勝田だ!
加賀は道を渡りながら 勝田の方を向いて合掌し ペコペコと頭を下げた
勝田は意外にも 行けと言うように 首を振った
加賀が改めて頭を下げると 勝田は自分を指した後 受話器を持つ格好をした
後で連絡しろと 言っているようだ
勝田が戻ると車はすぐに走りだし 少し先で倉庫の間に消えて行った
「助かった」 加賀が呟く
「誰だったの?」 里保が聞いた
「県警の刑事だ 見逃してくれた」
「どうして?」
「持ちつ持たれつさ」 加賀はニヤリとした
「玲奈 もう少し頑張って! あのタクシーに乗ろう!」
加賀は 少し足取りが怪しい玲奈を励ます
間もなく三人は旅客ターミナルの脇に停まる タクシーに辿り着いた
後ろに女性二人を乗せ 加賀は助手席に座る
「ちょっと遠いんだけど まず国鉄の西条駅まで行ってもらえます?」
「はいよ」 50絡みの白髪が混じる運転手は 加賀の言った行き先に応えてからは 寡黙に仕事をこなした
「疲れたでしょ? 着くまで寝ててもいいよ」 加賀は振り返って女性2人に言う
チャンリンは連行されたし 非常線を張られることはないだろうが 外の状況に注意しなければ..
加賀は 暮れ行く秋の広島の街並みを凝視した

114かっちゃん:2018/06/03(日) 13:34:24
「玲奈さんが無事で良かった..」 里保が呟く
加賀はこのまま玲奈を慰めていたかったが すぐに動いた方がいいと言う直感で 気持ちを切り替えた
「玲奈 僕は里保さんを山﨑会長に会わせなければならない 君には悪いが
どこかで宿を取って休んでいてくれないか? 事務所のあかりに連絡先を伝えてくれれば
山﨑家で用事が終わったら僕もそこに行くから.. いずれは警察から事情聴取されるだろうが 
公安の桃永さんは一日くれると言った もうすぐここには県警が来るだろうし 早く動かなくちゃならないんだ」
玲奈は涙を拭い 鼻を啜りながら黙って加賀を見つめていた
正気を失っていた飯窪も いつの間にか連行されたようだ 
倉庫内には公安の刑事と思われる男が一人いるだけで 後は橋本と工藤の亡骸しか
残されていないかった
「じゃあ玲奈 途中まで一緒に行こう」 加賀が踵を返し 出口へ向かおうとする
「待って..」 涙声の玲奈が加賀を引き止める
振り向いた加賀に 玲奈が縋り付いて来た
「カエデー 私も連れてって 一緒に行きたい」
「君はゆっくり休んだ方がいい」 加賀は玲奈の両肩に手を置き説得する
「いいんじゃない? 玲奈さんは加賀さんといた方が気持ちが安らぐと思うよ」 里保が言った
加賀は玲奈の目を見た 
潤んだ瞳は 必死に一緒に居たいと訴えかけていた
「お願い.. お願い!」 玲奈が繰り返す
「わかった 里保さん 悪いけど玲奈も連れて行くよ」
「私は構わないよ 玲奈さんが居てくれた方が 私の気の迷いも起きないし」
「ありがとう え? それってどういう..?」 加賀は里保の言葉に首を捻った
「行こう!」 里保が二人に外へ出ようと促す
刑事は三人を見送るだけで 特に何も言わなかった
倉庫のドアをくぐると 既に暗くなりかけていて 風が冷たい 
パトカーと救急車の音が 近くに迫っていた
「県警がすぐ傍まで来てる あの車ではすぐに止められる可能性が高いから
どこかでタクシー拾おう こっち!」 そもそも2シーターのフェアレディでは 普通に3人乗れない
加賀は二人を先導した
倉庫の間の道を足早に進みながら 記憶を頼りに旅客ターミナルを目指す
背後では緊急車両が到着する慌しい気配がしていた
建物の間から 白と黒のツートンの車が赤色灯を輝かせて姿を現しては消えて行くのが見える
「あっちだ」 加賀はパトカーが通り過ぎて行った広い道の傍まで来ると 
手を挙げて女性二人を制止し 様子を窺った
旅客ターミナルの横の道だった 道を渡れば 広電の停留場もある
左右を見渡すと パトカーはもう見当たらなかった
左から来る黒のセダンをやり過ごしてから 道を渡ろうと後ろの二人を呼び寄せる
黒のセダンが通り過ぎたと思ったら 急停止した
「マズい 早く!」 加賀が振り返って二人に手招きする
車の右側のドアが開き パーマをかけた大柄な男が下りて来る
勝田だ!
加賀は道を渡りながら 勝田の方を向いて合掌し ペコペコと頭を下げた
勝田は意外にも 行けと言うように 首を振った
加賀が改めて頭を下げると 勝田は自分を指した後 受話器を持つ格好をした
後で連絡しろと 言っているようだ
勝田が戻ると車はすぐに走りだし 少し先で倉庫の間に消えて行った
「助かった」 加賀が呟く
「誰だったの?」 里保が聞いた
「県警の刑事だ 見逃してくれた」
「どうして?」
「持ちつ持たれつさ」 加賀はニヤリとした
「玲奈 もう少し頑張って! あのタクシーに乗ろう!」
加賀は 少し足取りが怪しい玲奈を励ます
間もなく三人は旅客ターミナルの脇に停まる タクシーに辿り着いた
後ろに女性二人を乗せ 加賀は助手席に座る
「ちょっと遠いんだけど まず国鉄の西条駅まで行ってもらえます?」
「はいよ」 50絡みの白髪が混じる運転手は 加賀の言った行き先に応えてからは 寡黙に仕事をこなした
「疲れたでしょ? 着くまで寝ててもいいよ」 加賀は振り返って女性2人に言う
チャンリンは連行されたし 非常線を張られることはないだろうが 外の状況に注意しなければ..
加賀は 暮れ行く秋の広島の街並みを凝視した

115かっちゃん:2019/02/17(日) 13:22:11
緊急措置








緊急措置

116よーろぴあん! 間借り:2019/02/17(日) 13:23:14
え? ちょっとちょっとっちょっと..
佐藤は驚いた
譜久村がアレを淫らに舐めていた場景が浮かぶ
あの後譜久村は加賀とキスをし..
きちゃない! きちゃないよぉ!!!!
と思った瞬間 足元から熱い感覚が上がって来た
加賀の舌が佐藤の引っ込んでいる舌を突付く
佐藤は何か感染したと思った
ワタシハワタシジャナイ..
ワタシハモウベツジン...
加賀との間に両腕を捻じ込み 体を離す
唇が離れると 鋭い目付きで加賀を睨んだ
「佐藤さん..」 潤んだ目で加賀が呟く
佐藤は無言で喉元に手を伸ばし 加賀を壁に押し込んだ
ずり落ちていたTシャツを捲り上げ 加賀の白い乳房を再び晒すと荒々しく揉む
アレが屹立する角度が 3時を指す短針くらいから早い時間へと逆戻りする
「ガハッ 面白いぃ 何これぇ.. かっちゃん どんな感じ?」
佐藤はアレを凝視しながら 加賀の乳首をカリカリとこじった
「ぃゃ..」 加賀は顔を逸らす
アレの鈴口から 透明な液が出て来た
「わっ これ凄い! これ凄いよ?」
亀頭をチョンと突付いた佐藤が ビヨンと跳ね返る様を見て加賀に報告する
「佐藤さん遊ばないで.. 私もう...」
「もう?.. もう?..」
理解しかねるという風に 佐藤が繰り返し亀頭を突付く
アレはまた太く逞しく育ち 臍の下まで反り返った
「すっごぃ.. 動物みたぃ..」
佐藤は竿の部分を恐る恐る指で摘んでみた
「ぁっ 熱い.. ぅわっ ヌルヌル..」
一度触れてみて大丈夫だったのか 今度は指を回して握ってみる
「熱い.. ぁっ 動くっ 動くよ?」 また加賀の顔を見た
加賀はいつもとそれほど変わらないように見える佐藤の目に 違う光が宿っているのに気付いた
「佐藤さんっ」 ガバっと佐藤に抱き付き 唇を頬に押し付ける
「ぅふふっ」 佐藤は自分から唇を重ね 舌を挿し込んで来た
唾液をたっぷりと混ぜ合う
「んっ.. んっ」 
笑ったような顔で佐藤は貪るように何度も顔の角度を変えて 加賀と唇を合わせる
加賀の唇の端から垂れた唾液を ペロンと舌で舐めると
細く開けた目で妖しく見つめて囁いた
「いいよ かっちゃん..」 スイッチが入ったように加賀が動く
佐藤と体を入れ替え 壁に押し込む 
Tシャツを捲り 自分よりボリュームのある白い乳房を露出させた
ブラのカップをずり上げた時に乳首が引っ掛かり ふるんふるんと揺れた
「綺麗..」
「ゃあだぁ..」
加賀の感嘆に佐藤は短く応え 口を尖らせた
かぶりついて 乳首を吸う 
頬に触れる肌理の細かい乳房が温かく 吸い付くように心地良かった
コリっとした乳首を舌と唇で舐めたり挟んだりする度に 佐藤がビクンビクンと肩を揺らす
「ぁっ.. ぁんっ.. んっ..」 下唇を噛んで 目を瞑った佐藤が 加賀のショートの髪を撫でる
「ぁっ.. なんで? どこで こういうこと んっ 覚えたの?..」
加賀は応えず もう片方の乳房の乳首をいじくっていた指で スベスベとしたお腹を愛撫する
ジャージの中に手を入れ 股間のすぐ脇の内ももを撫で回した
温かで柔かな ツルツルとした触感を楽しみながら その間の湿ったショーツにも触れて行く
「ぁっ そんなとこ.. 触っちゃダメなんだよ」 
小さな声で佐藤が呟くが 本人すら本気で言っているわけではなかった
加賀の体に隠れて見えないアレに 手探りで触れた佐藤は その硬さと熱さに驚き 
舌でねぶられた乳首からの快感が増幅されて 背筋をゾワゾワさせた
「佐藤さん..」 胸から顔を上げ 加賀が見つめる
2本の指を股間で震わせると 佐藤は怯えたような顔で小さく頷いた

117よーろぴあん! 間借り:2019/02/18(月) 05:51:06
「ねぇ さこ.. ウチら大丈夫だよね?」
「うん 心配してもしょうがないし..」
井上は抜けるような白いお腹に唇を這わせていた
本当に和田の色白は羨ましい..
両手は少し上に伸ばし 生パフのように柔かで大きな乳房に乗せて 
力を入れずに形が変わるままの感触を楽しんでいた
掌をコロコロと刺激する乳首が心地良い
和田の温かく吸い付くような白い肌に体を重ねていると 自分の日頃のネガティブな感情が
スーッと溶けて消えて行くような気がした
あの夏の日のキス...
あれから井上は それまで以上に和田の傍にいるようになった
飯窪に毒されて 変わって行く自分を留めて置きたい気持ちがそうさせたのかもしれない
和田という凪いだ海のような穏やかな存在に 錨を下して置かないと 
どこかに流されて 自分を見失ってしまいそうだった
ただ 飯窪との接触は二人の関係にも影響を与えた
女同志でも 肉体的にお互いを快楽に誘うことができることを知ってしまったのだ
暑さも薄らいだ秋も深まろうという頃 井上は和田をひと気のない場所へ誘い出し キスから先へと進んだ
驚くことに和田はたいした抵抗を見せず どころか 薄っすら慈母のような微笑を湛えて井上を受け入れた
あれから数ヶ月..
二人の仲は少しずつ更に深まり 和田は井上にとって欠かせない大事な人になった
単純に癒されると言う ありきたりな関係ではない
もちろん和田は見た目の通り 周りをはんなりと癒す人ではあったが
井上にとっては それ以上に自分を預け 彼女からも預けてくれる存在だった
時には愛し合う前や後に 自分たちの今後についての話もした
そういう時 普段は隠すように努めている末っ子気分が出るのか
井上はこぶしの不安を度々口にする
和田はその都度 大丈夫だよ と言ってくれ 井上は安らぎを得る
しかし17になった井上は 和田のためにも変わらなければと 最近考えるようになった
そしてまずは 飯窪との爛れた関係を終わらせる
裏の関係は和田に知られていないはずだったが いつまでも続けて深みに嵌って行くのは
考えられなかった
今こうして 和田との穏やかな時間を過ごしていることを思えば やはり正解だったと言えよう
それが完全に安息の時間と言えなかったのは 年齢から来る社会的な身の振り方や
そこに深く関わる こぶしの存在があるからだ
こぶしがこれからも長く続くものではないにしても 楽しく輝かしい思い出として
残って欲しいと思うのは 贅沢の謗りを受けるまでもないことだろう
NGPから首の皮一枚でこぶしに入り 今があるからこそ
続けて来たステージのパフォーマンスで もっと輝きたいと思うのは当然と言えた 
生え抜きの研修生上がりの和田とて その思いは一緒だ
「ごめん いっつも同じこと言って」
「そんなことないよ レイの不安はわかるし..」
和田が井上の髪を撫でる
「アカペラは上手く行ったけどね.. 次だよ」
「うん 次..」
井上は上に伸ばしていた手を下にやり 柔かな薄い茂みを越えて 泉の湧き出る聖地を窺う
「チャンスはそれ程多くないからね.. 少ない中でものにしないと..」
「んっ.. 練習はしてるけど.. ぁっ..」
和田の井上の髪を撫でる手に少し力が篭る
「..人自体も変わらなきゃいけないと思うんだ ..さこ 気持ちぃい?」
「ぁっ レイ... ぃぃ...」
二人はお互いが気持ち良くなる行為に没頭して行った
「ぁっ.. んんっ! ぁ ..っちゃうっ! ぃ....」
背中がベッドから離れる程反らし 頭が白くなった井上の 和田の頭を押える力が強まる
一瞬止まった時が再び動き始めると 井上は脱力し ベッドに沈み込んだ
目を瞑って ピンと立つピンクの乳首を乗せたかわいい乳房を上下させて
呼吸する井上を見て 少し顔を上げた和田が満足そうに微笑んだ
井上がもじもじと手を顔にやり 長い睫毛を軽く擦って 恥かしそうに微笑みながら薄目で和田を見る
「ありがとう さこ..」
和田は大きな口を横にいっぱい広げて優しく微笑む
白く丸い双肩が美しかった

118よーろぴあん! 間借り 訂正版:2019/02/18(月) 05:58:42
「ねぇ さこ.. ウチら大丈夫だよね?」
「うん 心配してもしょうがないし..」
井上は抜けるような白いお腹に唇を這わせていた
本当に和田の色白は羨ましい..
両手は少し上に伸ばし 生パフのように柔かで大きな乳房に乗せて 
力を入れずに形が変わるままの感触を楽しんでいた
掌をコロコロと刺激する乳首が心地良い
和田の温かく吸い付くような白い肌に体を重ねていると 自分の日頃のネガティブな感情が
スーッと溶けて消えて行くような気がした
あの夏の日のキス...
あれから井上は それまで以上に和田の傍にいるようになった
飯窪に毒されて 変わって行く自分を留めて置きたい気持ちがそうさせたのかもしれない
和田という凪いだ海のような穏やかな存在に 錨を下して置かないと 
どこかに流されて 自分を見失ってしまいそうだった
ただ 飯窪との接触は二人の関係にも影響を及ぼした
女同志でも 肉体的にお互いを快楽に誘うことができることを知ってしまったのだ
暑さも薄らいだ秋も深まろうという頃 井上は和田をひと気のない場所へ誘い出し キスから先へと進んだ
驚くことに和田はたいした抵抗を見せず どころか 薄っすら慈母のような微笑を湛えて井上を受け入れた
あれから数ヶ月..
二人の仲は少しずつ更に深まり 和田は井上にとって欠かせない大事な人になった
単純に癒されると言う ありきたりな関係ではない
もちろん和田は見た目の通り 周りをはんなりと癒す人ではあったが
井上にとっては それ以上に自分を預け 彼女からも預けてくれる存在だった
時には愛し合う前や後に 自分たちの今後についての話もした
そういう時 普段は隠すように努めている末っ子気質が出るのか
井上はこぶしの不安を度々口にする
和田はその都度 大丈夫だよ と言ってくれ 井上は安らぎを得る
しかし17になった井上は 和田のためにも変わらなければと 最近考えるようになった
そしてまずは 飯窪との爛れた関係を終わらせる
裏の関係は和田に知られていないはずだったが いつまでも続けて深みに嵌って行くのは
考えられなかった
今こうして 和田との穏やかな時間を過ごしていることを思えば やはり正解だったと言えよう
それが完全に安息の時間と言えなかったのは 年齢から来る社会的な身の振り方や
そこに深く関わる こぶしの存在があるからだ
こぶしがこれからも長く続くものではないにしても 楽しく輝かしい思い出として
残って欲しいと思うのは 贅沢の謗りを受けるまでもないことだろう
NGPから首の皮一枚でこぶしに入り 今があるからこそ
続けて来たステージのパフォーマンスで もっと輝きたいと思うのは当然と言えた 
生え抜きの研修生上がりの和田とて その思いは一緒だ
「ごめん いっつも同じこと言って」
「そんなことないよ レイの不安はわかるし..」
和田が井上の髪を撫でる
「アカペラは上手く行ったけどね.. 次だよ」
「うん 次..」
井上は上に伸ばしていた手を下にやり 柔かな薄い茂みを越えて 泉の湧き出る聖地を窺う
「チャンスはそれ程多くないからね.. 少ない中でものにしないと..」
「んっ.. 練習はしてるけど.. ぁっ..」
和田の井上の髪を撫でる手に少し力が篭る
「..人自体も変わらなきゃいけないと思うんだ ..さこ 気持ちぃい?」
「ぁっ レイ... ぃぃ...」
二人はお互いが気持ち良くなる行為に没頭して行った
「ぁっ.. んんっ! ぁ ..っちゃうっ! ぃ....」
背中がベッドから離れる程反らし 頭が白くなった井上の 和田の頭を押える力が強まる
一瞬止まった時が再び動き始めると 井上は脱力し ベッドに沈み込んだ
目を瞑って ピンと立つピンクの乳首を乗せたかわいい乳房を上下させて
呼吸する井上を見て 少し顔を上げた和田が満足そうに微笑んだ
井上がもじもじと手を顔にやり 長い睫毛を軽く擦って 恥かしそうに微笑みながら薄目で和田を見る
「ありがとう さこ..」
和田は大きな口を横いっぱいに広げて優しく微笑む
白く丸い双肩が美しかった

119めた:2019/02/19(火) 01:16:32
こっちで続けていてくれたのですね
ありがとうございます

120名無し募集中。。。:2019/02/19(火) 01:23:42
さこれいとはたまげたなぁ

121よーろぴあん! 間借り:2019/02/22(金) 03:23:53
加賀が屹立した肉棒の根本を持つ
赤く怒張しているアレを見下ろした佐藤は後ずさりした
「ひぃぃ..」 加賀の顔と肉棒を不安そうに何度も交互に見ている
「ちょっと待ってちょっと待ってかっちゃん! それどうするの?」
「入れるんですよ?」
「どこに?」
「そこに! 今更何言ってんですか?」
「いやちょっと待って! 入んなぃ! 入んなぃって!」
「入りますよ!」
「ひぃぃぃぃん 入れなきゃダメ?」
「は? 元はと言えば 佐藤さんが言い出したんじゃないですか?」
加賀は前から佐藤に体を密着させ 股間に肉棒を押し付けた
体を逃がそうとするものの 硬い肉棒の刺激に佐藤は抗い切れず 加賀の腕に掴まっている
キスをしてやる気になったと思っていたが.. やはり佐藤の気持ちは掴み切れない..
加賀は 更にダメ押しのキスをした
唇を重ねながら強く抱き締め お尻の割れ目から前に指を回して 雫が垂れる程かき混ぜてやる
「んっ んんっ んっ..」
暴れる体を押さえ込んで舌を絡め合っていると やがて佐藤は大人しくなった
唇を離して目を開ける
加賀はビクっとした
目の前で 佐藤が妖しい目を細めて唇を舐めている
「脱いで」
「え?..」
無言で加賀の上半身を指さす
股間のはちきれそうな肉棒の欲望を抑えながら 加賀は従った
Tシャツを個室のドアのフックに掛ける
冷えた空気の寒さと恥かしさで 胸を押えて振り返った
強めに腕を押し付けたため 白い乳房にくっきりと谷間ができた
佐藤は首を少し傾げて上目遣いで頷くと 今度は自分が脱ぎ始めた
上も下も全て脱ぎ対峙する
髪が掛かる鎖骨の下に つんと盛り上がった白い双丘が美しかった
腰の張りはそれ程でもないが 少し寒さで赤くなった肌の柔らかそうな太ももと
間にできた絶対空域 その上の薄い草原が加賀の欲情を煽る
佐藤の全裸に合わせて 加賀もジャージ下を脱いだ
艶めかしい長く白い スッとした脚の上に肉棒がそそり立つ姿は 悪くないバランスだった
佐藤が手の甲を見せて指だけ動かし おいでと無言で呼ぶ
熱く華奢な体を抱き寄せ 加賀は吸い付くような肌の背中に手を巡らせる
胸と胸が合わさり 軟らかに歪んだ乳房のつるつるした肌合いを通して お互いの熱が行き交う
肌に食い込む乳首の硬さが更に興奮を呼び 乳首と乳首が偶然触れると 快感の電気が走った
佐藤が肉棒を掴み 自分の孔へと誘う
どちらからも出ている たっぷりの潤滑液で にゅるっと取っ掛かりが入った
佐藤の片方の腿を指を食い込ませて抱え上げ 加賀が肉棒を押し込んで行く
纏いつく肉壁の圧力が快感を生み 更に深く挿し込む動機をもたらした
佐藤が 震えるようにフフっと 力を逃がす笑いを浮かべる
「おっきぃ...」 加賀の耳元に囁く
欲情の火に油が注がれ 加賀は背中に回した手で佐藤の髪ごと肩を掴んで
上下に突き挿し始めた
「ぁっ ぁんっ ぁっ んっ んっ ぅぅんっ」
突かれるリズムに合わせて佐藤は目を瞑って首を振り 口の端を歪ませる
ピンピンに立った互いのピンクの乳首が 並んだエレベーターのように
交互に上に行ったり下に行ったりした
体の中で肉棒が移動する度に 佐藤は快楽に攫われる
乗馬のリズムを思い出すと同時に 風を感じた気がした
そうか! おちんちん!.. お馬さんの見たことあったんだ..
不意にもやもやが晴れ 合点した
そう言えば何年か前の撮影以来 乗馬をしていなかった
体の中に跳ね回る快感にゾクゾクしながら これは乗馬にも勝る気持ち良さだと佐藤は思った
肉棒に突かれ 浮き上がる体が恍惚と何かを高みに積み上げて行く
「ゃだっ ..ぃぃっ んっ ぁっ ぁんっ ぁっ ぅぅん んんっ ぁふっ」 
加賀の鎖骨に頬を押し当て 肌を唾液で濡らしながら 佐藤は止まらない喘ぎを漏らした

122名無し募集中。。。:2019/11/07(木) 15:34:22
DVD「モーニング娘。'19 13期メンバーWebトーク『リバーシブルラジオ』Part2」
https://www.youtube.com/watch?v=79jllksxKYk

Hello! Project ファンクラブ会員限定通信販売商品。
受付締切日:2019年11月28日(木)
http://www.up-fc.jp/helloproject/

FC WEBサイトで毎週木曜日に配信していた、FC会員限定WEBトーク
「モーニング娘。’19 13期メンバー リバーシブルラジオ」のDVD第2弾の発売が決定しました!
vol.51?122までのWEBトーク収録の中から、ダイジェストでお届けします。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板