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もしも加賀楓と横山玲奈がふたり旅をしたらありがちなこと

57名無し募集中。。。:2017/10/09(月) 11:31:41
診療室は混雑していた。
医者や看護師やその他の技師、物資供給係が潮の干満のように入っては出ていく。
快適と呼ぶにはほど遠いものの、少なくとも適切な処置を受けることはできた。

真莉愛は清潔な白いシーツにくるまって横たわっていた。
傷は消毒され、手当てもされ、抗生物質も投与されている。
静かに眠る真莉愛を見て、玲奈は部屋を抜け出して廊下を歩いていった。

目当ての医師を見つける。
「あの患者、治せる?」玲奈が訊いた。
「治せないことはないですが」医師が言う。「高くつくでしょうな」
「わたしが誰だか、知ってる?」
「存じていますよ」

その顔つきのかすかな含み、もっとかすかな口調の含みを玲奈は見逃さない。
あなたのお父さんが誰かは、存じていますよ。

「治してくれたら、あなたに新しい病院の棟を任せるわ。
あの患者を死なせでもしたら、患者より先に墓場行きよ。
それから、あなたにその褒美や罰を与えるのは父じゃなくて、このわたし。分かった?」

楓が真莉愛の頭を撃ち抜く寸前、巨大な蜻蛉が空に浮かんでいた。
瞬きをしたら、それがヘリコプターに変わる。
回転翼の起こす風が石や土くれを楓と玲奈の顔にぶつけた。
飛び降り、駆け寄ってきた兵士に、問いかけも命令もないままヘリコプターへと引き立てられた。

懐かしの故郷である“軍事基地”に連れ戻された楓は、そのまま独房へ入れられた。
静けさの中に隔離され、時間の感覚がなくなりかけたとき、ドアが小さくノックされる。
黒のスーツ、白いシャツ、細い黒のネクタイという姿の男が立っていた。

玲奈の父親に直接会うのは初めてだった。
「娘が無事で何よりだった」驚くほど深みのある漆黒の闇のような目を楓に向ける。
その瞬間、楓は相手が人間ではなく、何かまったく別の存在であるような気になった。
人間の目を見るだけで、もう余興の時間は終わりだと悟ることがあるものだ。

だが楓は揺るぐことも怯むこともなく、その目を見つめ返した。
「きみの取り調べは終わった。引き続き“自分の仕事”をしてもらう」
その声には楓の衿を正させるほどの威厳が備わっている。「さあ、出なさい」

頭に渦巻く思いを顔に出さないようにして楓は大股で独房から出た。
玲奈の父親は数秒間、値踏みするように楓を見てから言った。
「今後、娘の私生活に干渉するような真似をすれば処刑は免れんことを承知しておいてくれ」

楓は何も言えない。何もできない。
「きみを無罪放免にするのは、娘との歩み寄りの結果だ」
楓は適当な言葉を探す。「よく分かっています、横山大臣」


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