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まーちゃんとまりあんLOVEりんのスーパー姉妹スレ@新狼

72名無し募集中。。。:2017/04/01(土) 01:44:50
http://i.imgur.com/SDlkFc5.jpg
物騒という言葉がよく似合う

73名無し募集中。。。:2017/04/02(日) 13:47:29
よくよく考えるとまりあのカラーって桜色なんだよな
そしてまさきのカラーはどことなく核を想起させる色
やはり物騒なコンビだわ

74まさきのマジェスティ:2017/04/19(水) 23:01:40
黒ずくめの男が彫像のように立っている。
真莉愛と同じように、耳からコードがのびている。
iPodではないだろう。

武装しているかどうかは分からない。でも、まあいい。
真莉愛は左手を左耳に当てて、袖口のボタンのように見えるものに向けて小声で言った。
「仕事にかかります」

細い金属の管が顔に押しつけられた。銃口だ。
黒ずくめの男はまもなく自分がどうなるかをまったく考慮せずに、拳銃を抜いた。
真莉愛は引き金を絞った。
銃弾が男の小脳を半分吹き飛ばし、地面に転がした。

仕事は山ほどあるが、時間は限られている。
真莉愛は背嚢からC4爆薬と点火コード、起爆装置を取り出した。

「指をなくさないよう気をつけて」
イヤホンから優樹の声が聞こえたが心配している様子もない。
「吹っ飛ぶのはドアだけですよ」
真莉愛の指はめまぐるしく動く。
まるでピザのように、たちまち爆弾が出来上がった。

重いドアの大きな取っ手に爆弾をセットし、真莉愛は大急ぎで離れた。
爆発音に動じることもなく、真莉愛は前に進み始めた。
まだ煙が晴れていない。視界はよくないが真莉愛は突き進んだ。

「佐藤さん、見つかりました」
真莉愛は明るいスクリーンと小型コンソールを発見した。
ラップトップを取り出すと、ひとつかみのケーブルをいじり始めた。

「エントリーしました」真莉愛がつぶやいた。
洪水のような情報がスクリーンを横切り始める。

優樹は自分の前にある小さなキーボードの上で、踊るように指を動かした。
1匹のハチがシロアリの巣を攻撃するように、保護プログラミングをハックする。
「…中央サーバー・クラスターか…」

自分たちの存在を暴露するような電波シグナルを外部に送る危険は犯せない。
ハッキングは驚嘆すべきスピードで行われているが、時間の余裕はない。

「よし。転送できた。まりあ、急いで」

数分後、真莉愛は大きなオートバイにまたがってイグニションを回した。
エンジンを吹かし、土を撒き散らして、真莉愛は走った。
銃声が夜を引き裂き、銃弾が周囲の地面に土埃を上げる。
真莉愛はフルスピードで闇の中を走り続けた。

75名無し募集中。。。:2017/04/20(木) 07:04:33
マジェスティキター!!

76名無し募集中。。。:2017/04/20(木) 07:44:57
投稿ありがたやー
ゾクゾクするねぇ

77あぼ〜ん:あぼ〜ん
あぼ〜ん

78名無し募集中。。。:2017/04/20(木) 21:57:05
ありがとうございやすありがとうございやす

79名無し募集中。。。:2017/04/21(金) 00:57:04
色が違うけどこんな感じ?
https://ja.best-wallpaper.net/wallpaper/1920x1200/1605/Girl-with-motorcycle-Ducati-848_1920x1200.jpg

80まさきのマジェスティ:2017/04/21(金) 20:32:23
加速するオートバイのタイヤを土に食い込ませながら真莉愛は周囲をざっと見渡した。
低木の木立のすぐ先に生い茂った森がある。
空には厚い雲が流れて、かすかな星明かりを遮っていた。
申し分ない。暗がりでも昼間のようによく見える真莉愛にとっては完璧だった。

そう思った瞬間、照明弾が上がり真莉愛を照らし出した。
「わ!?」ブラックホークが旋回している。
眼下で動くものを探している。見つかった。

ブラックホークは速度を落とした。回転式のミニガンが連射される。
雨のように降り注ぐ弾丸を避けてオートバイは道路に転がった。
真莉愛は反対の方角に吹っ飛んだ。

真莉愛はすぐに立ち上がり、横倒しになって車輪を空回りさせているオートバイへと急いだ。
オートバイはこの事故をかすり傷程度で生き延びたようだ。
パレードに参加するわけじゃない。少々の傷はどうでもいい。

エンジンは即座にかかった。ありがとう。
だが真莉愛の視界に閃光とRPGが飛び込んできた。

「わ!?わ!?」真莉愛は巧みに加速した。超人的な反射神経だった。
オートバイごと火の玉に変えられることはどうにか回避した。

真莉愛は頬を膨らませて空気を吐き出した。
たったいまの間一髪で逃れた惨事に基づいて判断を下せば、逃げるのは最善の戦術とは言えない。

「佐藤さん!システムに侵入したと言ってくだちゃいまりあ!」
「とっくにしてる」無線越しに答えが返ってきた。
「でも忘れないで。一流の警備システムなの。5秒間隔で異常を検出してる」
「ということは?」真莉愛が叫び声を出した。

「そのヘリを乗っ取ることができるのは3秒。それ以上の余裕はないよ」
真莉愛の闘争本能がむくむくと頭をもたげた。
破壊的な作業は得意中の得意である。
この腹立たしいブラックホークを木っ端微塵にしてやる。

「佐藤さん、まりあが位置についたら」真莉愛が言った。
「その3秒を数えてくだちゃいまりあ」

81名無し募集中。。。:2017/04/22(土) 12:08:02
さらなる続きキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

82まさきのマジェスティ:2017/04/22(土) 22:29:52
ブラックホークがサーチライトで真莉愛を捜し始めた。
砲手のひとりが照明弾を打ち上げ、さらに赤々と照らし出す。

真莉愛はグラップリング銃を構えた。
塀をよじ登るのに使おうと用意してきたのだが、今すぐ必要だ。

「3」
ブラックホークが制御不能になった。大きく傾く。
砲手のひとりが開いているハッチから落ちた。
もうひとりは鋭く傾くキャビンで両手と膝をつき、何かに掴まろうとした。

「2」
速度を落として空中に停止したブラックホークに向けて真莉愛は引っかけ鉤を放った。
腰のベルトに取り付けたグラップル・ケーブルにしがみつく。
ジャンプが生んだ運動エネルギーがケーブルへ伝わる。
真莉愛は大きく揺れながら操縦席に飛び込んだ。

「1!」
パイロットが必死に操縦桿を操作した。
それに応じてブラックホークは空に舞い上がった。
真莉愛はハッチから投げ出される。

落ちる寸前に真莉愛が投げたC4爆薬が油圧装置を損傷させた。
パイロットが恐怖と苦痛の悲鳴をあげたが遅かった。
真莉愛は墜落したブラックホークの回転翼で危うく頭を削ぎ取られそうになった。

「まりあ、生きてるなら応答して」
「はい、生きてます」真莉愛はしゃがれた声で応じた。
「怪我は?合流地点まで移動できる?」優樹の声が心配そうになった。

真莉愛はアンダージャケットをそっと脱いだ。
腕の上の方が裂け、露出した肉ではないものが光っている。
乾いた血と金属だ。
墜落したブラックホークの破片が突き刺さっている。
血が滲み出ているが出血の量自体は大したことはない。

「拾いに行くからそこで待ってなさい」優樹は落ち着いた声で言った。
真莉愛は破片のことなど一言も口にしなかったが、声のトーンで分かるのだろう。

優樹を待つ間に、真莉愛は傷口の応急処置をした。
多目的ベルトのポーチからガーゼと過酸化水素を取り出す。
簡単な消毒しかできないが、角のドラッグストアまでひとっ走りというわけにいかない。

歯を食いしばりピンセットを使って肉に埋まった金属の破片を掘り出す。
今のところは見えるものだけ取り出すしかない。
傷の上にガーゼをぴしゃりと貼り付けた。

ジープの心地よいエンジン音が聞こえてきた。

真莉愛はすぐさまジープのドアを越えて助手席に座り込んだ。
優樹はうなずき、真莉愛に顔を向けた。
「パーティー・タイムだよ」

83名無し募集中。。。:2017/04/22(土) 23:08:12
川* ^_〉^)<パーリータイッ

84名無し募集中。。。:2017/04/22(土) 23:27:44
どこがパーティータイムやねんww

85名無し募集中。。。:2017/04/22(土) 23:28:22
ウータカッタ

86まさきのマジェスティ:2017/04/23(日) 07:34:23
午前8時。
黒木は身なりを整えた。
司令部のお偉方にどう思われようと関係ないが、多少のプライドを保つのは重要だ。

優樹と真莉愛は黒木に脇に呼ばれた。
「いいか、おとなしくしてろよ」
優樹も真莉愛も黙っていた。
「先が思いやられるな…」黒木がつぶやいた。

職員にエスコートされて会議室に入っていくと、数人が視線を動かした。
警戒もあらわに見つめる者、ぴりぴりしている者。
だがほとんどが黒木たちを無視していた。

男がひとり、近寄ってきた。
他の者とは違って警戒心と称賛の入り混じった態度だ。
見覚えがある。松原だった。

その時、重鎮のひとりがわざわざドアを開けて女性を会議室に迎え入れた。
兵藤局長だ。
テーブルのそばで足を止めると、座っていた面々が全員立ち上がった。
ほぼ中央にある1席に、手にしたファイルをぴしゃりと置いた。
「座ってちょうだい」
局長は言葉を切り、ファイルを見て、それから黒木たちに目を向けた。

全員押し黙っていた。
昨夜からの短時間でこれだけ駆り集めるのは容易ではなかったはずだ。

「黒木班長。それにお嬢ちゃんたち。なぜ“ここ”にいるか承知してる?」
黒木は落ち着き払って答えた。
「よく分かっています」

局長は少し躊躇った後、かすかな笑みを浮かべた。
「いいでしょう。司令部はあなたたちの活躍と、戦場での勇敢な戦いぶりはよく承知しています。
そして私個人は、佐藤さん、牧野さん、あなたたちが大義のためにしてきた全てに感謝しとるのよ」

局長は束の間、言葉を切り笑みを消した。
「地下組織の情報収集が任務だったわよね?」
しかしながら現実は、その施設は完全に破壊され、跡形もなくなった。
誰ひとり、何ひとつ残らなかった。
巨大な陥没が残っただけだ。

マスコミ向けには化学工場の不幸な爆発事故と報じられた。
真相は表沙汰になることはないだろう。

「局長」と黒木は切り出した。
「昨夜の作戦を不満に思ってるのは知ってますが結果オーライじゃないすかね?」
自重するとか言ってなかったっけ?
優樹が口をすぼめて笑いをこらえている。
真莉愛は下を向いてニヤニヤしている。

黒木がまた口を開こうとすると、局長は間髪を入れず手を挙げてそれを制した。
「意見の相違があるようね。でも本気でやり方を改めてもらいたいわけ」

黒木がわざとらしく咳払いした。
局長は優樹と真莉愛を振り向いた。
嫌味が口を衝いて出た。
「日本政府と台湾政府を思い止まらせるために私がどれだけのことをしたか。
分かってるならもうちょっと感謝してもよさそうなもんよ」

優樹と真莉愛の顔がこわばった。
ふたりの神経は最高度の警戒態勢に入った。

兵藤局長は黒木の方を向いた。
加減を測った口調でこう締め括ってから出ていった。
「じゃあ黒木班長、以後、状況は逐次報告してもらいますよ」

87名無し募集中。。。:2017/04/23(日) 09:42:18
まさき(勇者)、まりあ(盗賊→武闘家)、くろっき(僧侶→戦士)でドラクエ3やってます
ついでにおがた(商人→賢者)もいます

88まさきのマジェスティ:2017/04/23(日) 09:53:21
会議室を出ると、松原が厳粛な面持ちで待っていた。
周囲に気を配りながら真莉愛の肩に目をやった。

不自然なほどゆっくりと近づいてじっと肩を見た。
「怪我をしてますね」
真莉愛は構うなと言うように片手を振った。
「大したことありません」

黒木が松原と並んだ。唇を引き結んだ。
くそ、もっと早く怪我はないかと尋ねるべきだった。
「診療室に寄るぞ」

診療室の女医が適切な処置をしてくれた。
ざっくり裂けた傷口を消毒して予防注射をした。
感染症の心配はなさそうだ。
痛みはひどいに違いないが、この少女は呻き声ひとつ漏らさなかった。
困難にも弱音を吐かないタイプか?
女医は真莉愛たちの正体は知らなかった。

ずきずき痛いが、腱も筋も切れていない。
しばらく我慢するしかない。
女医が鎮痛剤と抗生物質をくれた。

治療を黙って見ていた優樹が顎をしゃくった。
女医の白衣の胸には“相田”という縫いとりがあった。
「あの――鎮痛剤や麻酔薬は?」

「あなたも怪我を?」女医が優樹をじっくり見た。
怪我はしていないが、義脚なのは見て分かった。
「たくさんはないけど、必要なものは用意するわよ」

その女医はモルヒネをくれた。
優樹は心配そうに見ている真莉愛に目をやった。
「頭を働かせておくために必要なの」

真莉愛は怪訝そうに尋ねた。
「それはいいことなんですか?」
優樹は顔を上げもしなかったが、質問には答えた。
「まーは…そう思ってる…」



声が聞こえた。身体が燃えるようだ。
記憶の沼が渦巻き、絡みつく。
混乱した光景が溶けて混じり合う。
それが優樹を不安にした。

がばっと跳ね起きた。呼吸が乱れていた。
夢だった。だが何の夢だ?現実か?悪夢か?実際の記憶か?
何も分からなかった。想像と真実を区別できない。
あらゆる夢と同じだ。詳細を特定しようとすればするほど分からなくなる。

優樹はクスリを飲んだ。
夢を見ないほど深い眠りに引きずりこまれる。
女医の相田は、優樹が要求するとすぐにクスリをくれた。
優樹はたちまちクスリの虜になった。

89名無し募集中。。。:2017/04/23(日) 12:09:20
なんかすーことに

90まさきのマジェスティ:2017/04/23(日) 14:00:08
首の太いターゲットがビルに入っていくところを優樹たちは陰から見つめていた。
2階の部屋の窓が明るくなった。
位置を確認してから行動を開始した。

この人でなしが部屋にひとりでいることはほぼ確実だ。
明かりは消えていたのだから。
しかし、優樹と真莉愛は推測には頼らない。
静かに聞き耳を立てた。

木のドアの向こうからシャワーの音が聞こえてきた。
安堵の息をついてから、ピッキング道具を取り出した。

シャワーから出てきた大男の不意を突いて股間に鋭い蹴りを入れた。
殺すことはいとも簡単だ。だがその前に情報を提供してもらう。

優樹は時間を無駄にせずテイザー銃を構えた。
男の胸の真ん中に赤いレーザーの光点が照射される。
電気のバチバチいう音を発して2本のダーツが飛び出した。

釣り針を真っ直ぐに伸ばしたような針が男の胸に突き刺さった。
細いワイヤーからその2本の深針に5万ボルトの電流が走った。
男は全身を引きつらせる。悲鳴を発しようとしているが、喉を鳴らす音だけだった。

神経筋がコントロール不能になったターゲットの手首足首にプラスチックの結束バンド式手錠をかけた。
優樹はまた20秒間、トリガーを引いた。
男の首の筋肉が太いケーブルのように浮き出る。
全身を痙攣させて反り返った。

優樹はターゲットの両頬を叩き、自分に注意を向けさせた。
「な…何が…狙いだ?…」ろれつが回らず聞き取りづらかった。

「諜報部員を連れ去ったでしょ?」
優樹がベルトから刃物を引き抜いた。
刃の先を男の鼻の穴に差し入れた。

男は強情だった。
しかし、最後には極めて非情な少女たちの脅迫によって心と舌を解放した。

真莉愛は音声データ暗号化機能付き携帯電話をかけた。
「重要度高のターゲットを確保。速やかに回収を…」

真莉愛は長い間、優樹を見つめていた。
優樹は拷問の類いには嫌悪を覚えているはずだ。
優樹はどうしてしまったのだろうか…。

ナイフの刃についた汚れを拭いながら、優樹は引きつった笑い声を発していた。
自分を納得させるかのように。

「佐藤さん…」
真莉愛の呼びかけに、優樹は穏やかに応じた。
「…心配しなくていい…心配しなくていいから…」

91名無し募集中。。。:2017/04/23(日) 20:28:59
>>90
まー…

92まさきのマジェスティ:2017/04/23(日) 22:57:48
優樹と真莉愛は家に帰った。
組織が用意したマンションだ。入り口のホールには誰もいなかった。
階段にも踊り場にも誰もいない。
そもそも自分たち以外の住民を見たことがなかった。

階を上がり、扉を開けて中に入り鍵をかけた。
ふたりとも料理をする気分ではなかった。
ヨーグルト、チーズ、パン、バナナ。
冷蔵庫にある適当なものを口に入れた。

優樹は、風呂から出た真莉愛の傷口をアルコールで拭いてやった。
どっと疲れたのか真莉愛は身を丸め、眠ってしまった。

優樹は鏡の前まで行き、愕然とした。ひどい顔だ。
突然、老けてしまったように見えた。深い隈ができているし、肌が黄ばみ、目が血走っていた。

医療キットをかき回して包みを見つけた。
ふた粒の錠剤を呑み込んでから、不安が募ってきた。

不安を振り払うように横になると、すぐ眠りに落ちた。
そして昏睡状態からもがき出るように目を覚ました。

自分がどこにいるのか、自分を見つめているのが真莉愛だと分かるまでに30分かかった。
涙がこみ上げた。

取り返しのつかない心理面の損傷を受けている…。
いや、肉体的にもなのだが…。

数年前、優樹と真莉愛は大変な惨事に見舞われた。
名を馳せたレスキュー隊だった自分たちは敵地で孤立し包囲された。

ふたりとも大怪我を負ったがこうして仕事に復帰した。
大勢の仲間が帰らぬ人となった。
生きているからといっても、鬱々とした気分が晴れるとは限らないのだが。

ほどなくして優樹は施設に収容された。
施療とカウンセリング。
後に聞いた話では、その全てが内部規定どおりとのことだった。

諜報部員というのは恐慌状態で死ぬリスクをつねに身近に感じている。
鍛え抜かれたアサシンでも同様だ。

「佐藤さんはいつになったら戻ってこれるんですか?」
真莉愛は黒木に咎めるような口調で訊いた。

一瞬躊躇の間があって、それから黒木はこう言った。
「すぐだよ。すぐ戻るさ」
だが、その言葉にはバックグラウンド・ノイズのように絶望感が漂っていた。

93名無し募集中。。。:2017/04/23(日) 23:00:16
川* ^_〉^)<…心配しなくていい…心配しなくていいから…

94名無し募集中。。。:2017/04/23(日) 23:35:28
。。8*‘ -‘)<佐藤さん……

95まさきのマジェスティ:2017/04/24(月) 21:31:21
朦朧とした意識の中、楓は自分が地面から持ち上げられるのを感じた。
ずんぐりした筋骨たくましい男の肩に担がれるのがおぼろげに分かった。
わずかに目を開くと、通り過ぎる地面と、自分を捕獲している男の靴の踵が見えた。

楓は大きな悲鳴を上げてもがいた。
ゴリラのように力の強い男に押さえつけられ、
茶色い袋を頭にすっぽり被せられて殴られた。

意識を取り戻すと、袋が取り除かれ、必要以上にたっぷりと水を飲まされた。
顔にはまぶしいライトが照らされていた。
楓がむせて咳き込むと、ようやく水筒が口から外された。

「目が覚めたか?」男が言った。
面白くもなさそうな笑みを浮かべる。
「いくつか質問する。さっさと話した方が身のためだぞ」

楓はある男を自殺に見せかけて殺した。
それは紛れもない事実だが、なぜその男が死ななければならなかったのかは知らされていない。
命令を実行しただけだ。

「わたしは何も知らない。…ただ仕事をしただけで」
「知っていることを話せ。こちらの知りたいことを話さないと命はないぞ」
辛抱強く男が言った。

「何でもいいから、でっち上げて話せってこと?本当に何も知らないの!!」
楓は、前に訓練で受講した模擬尋問のことを思い返そうとした。

いきなり腹部にパンチをもらった。
喉から漏れそうになった悲鳴をかろうじて抑えた。

ふたたびパンチが打ちつけられた。
今度の一撃には全く容赦のない力が込められていた。
「ぐうっ!」

楓は深呼吸を繰り返して、次の一撃に心を備えようとしたが、無益なあがきだった。
またパンチがめり込んだ。

「やめて!!…やめて…」
楓は悲鳴を上げて泣き出した。
恥も外聞もなくすすり泣いて懇願した。

「身に沁みたか?さあ、知っていることを話せ!――」

突然、部屋のドアを突き破って人影が転がり込んできた。
目にも留まらぬスピードで男の後頭部に銃弾を放つ。
男は頭蓋骨を飛び散らせながら倒れた。

思いがけぬ敵の出現に、残った男たちが慌てて自分たちの武器を引き抜こうとする。
人影はひとりをつかんで盾にすると、あっという間に全員を血だらけの死体に変えた。

楓は何が起きたのか分からず、突然現れた冷たい目の人殺しから後ずさった。
「かえでぃー、久しぶりだね♪」
血を浴びた真莉愛がにっこり笑った。

96名無し募集中。。。:2017/04/24(月) 21:39:40
。。8‘ ー‘)<殺っちゃいまりあ!

97名無し募集中。。。:2017/04/24(月) 23:24:21
川* ^_〉^)<いいセンスだ

98名無し募集中。。。:2017/04/25(火) 05:15:56
ちょっとしたおまけ

役者さん「カメラの角度を調整しながらパンチを寸止めするんですが、
タイミングを誤ってリアルにいいのが入っちゃったんですよ」
――――加賀さんが涙目になってるシーンですか?
役者さん「まさにそこです(苦笑)。
こちらはアイドル殴っちゃった!みたいにオロオロですよ」
――――えらいことですもんね。
役者さん「もう平謝りです。
ところが加賀さん、“いいシーン撮れましたね!”ですからね」
――――根性というか、プロフェッショナルというか。
役者さん「いやすごいですよ。皆さんそうですけど、仕事への取り組み方がプロですね」

99まさきのマジェスティ:2017/04/25(火) 21:00:26
真莉愛が手を伸ばして楓の髪に触れると、まるで平手打ちを食らったようにビクリとした。
「大丈夫?」真莉愛が訊いた。

その時になってようやく楓は気がついた。
上機嫌な狼のように笑みを浮かべている顔には見覚えがある。
「ま…まりあ?」

大丈夫という状態からはかなり離れたところにいるが、楓は身を起こした。
そして訊いた。「し、死んだはずじゃ?…」

真莉愛は小さなナイフを取り出して、楓の縛めを解いてやった。
「助けてあげたのにそんなことしか言えないの?」

「あ…ありがとう…。助けてくれて」
楓が礼を言った。しかし興奮しながらまた訊いた。
「わたし、葬儀に参列したのよ!」

真莉愛たちの部隊はそもそもが最高機密であったし、壊滅した経緯などはごくわずかな者しか知らない。
あなたの大好きな鞘師さんも、実は生きているのよ。
真莉愛はそんなことを頭に思い浮かべた。

楓は訓練施設での地獄のような日々を生き抜いた仲間だった。
信じてはいるが、ごく最近の貴重な経験が心に引っかかる。
友達だと思っていた“同期”には命を狙われた。
秘密を打ち明けるのは、また別の機会にしよう。

「偽装工作したの。いろいろ事情があって」
楓はしばらく考えていたが、また疑問をぶつけた。
「じゃあどうしてここに?」

「かえでぃーが死んじゃってた場合、本人確認しなさいって」真莉愛が答えた。
「…慰めの言葉とはとても思えないこと言うのね…」楓が言った。

楓が監禁されていた廃屋は元病院だった。
再開発の予定があり、3か月後には工事が始まることになっていた。
テロ組織が潜伏場所として使っていたのだ。

突入部隊の装備に身を包んだ男たちが猫のように部屋へ入ってきた。
隊長は松原だ。
転がっている死体に顔をしかめた。
「捕虜は作らない主義ですか…」

建物内部を“精査”した部下たちが松原に報告した。
「男ふたり女ひとりの身柄を確保しました」

松原は真莉愛に意味ありげな視線を向けたが何も言わなかった。
発砲と殺害の妥当性は作戦とは別問題であり、
自分はその点に言及する立場ではないということだ。
真莉愛は、この人できる、と思った。

「チーフ、ヘリの準備ができました。拘束した連中を移送します」
部下のひとりが松原に声をかけた。
「ではまたいずれ、本部で会うことになると思います」

容疑者たちが隊員に急き立てられながらヘリに押し込まれた。
真莉愛は楓と一緒に地上を移動することになっていた。

容疑者の女の様子がおかしいことに真莉愛は気がついた。
隊員たちは全員が男だ。念入りな身体検査をしなかったのかもしれない。

「松原さん!!」真莉愛は全速力でヘリに向かって走った。
誰も異変に気がついていない。「松原さん!!」

女がシャツを捲った。ベルトからコードが延びている。
狂ったように笑い声を発してコードを引いた。

女の身体から目を潰すような橙色の火の玉が炸裂した。
炎の竜巻と燃える破片が空高く噴き上がる。
衝撃の熱波で真莉愛は吹き飛ばされた。
1秒後、ばらばらとヘリの破片と引き裂かれた人間の身体が落ちてきた。

100名無し募集中。。。:2017/04/25(火) 22:16:05
川* ゚_〉゚)<マツハバさん!

101名無し募集中。。。:2017/04/26(水) 08:28:05
ホントおもしろい 更新楽しみです

102まさきのマジェスティ:2017/04/26(水) 21:53:45
全身を衰弱させるように恐怖が身体を侵していった。
無煙火薬の匂いに押し潰される心地がする。

回転翼がもぎ取れて、ひしゃげたヘリが真っ黒な煙の柱を上げていた。
最新式の輸送機はグロテスクによじれた金属の固まりになっていた。

真莉愛も楓も、訓練を積んだプロとしてむごたらしい現場は見慣れていた。
しかし、この惨状からは思わず顔をそむけた。
楓は四肢を失なった人間の身体が単なる反射運動でびくびくと動くのを見て嘔吐した。

突然、誰かの声がして真莉愛はぎくっとして飛び上がった。
ジープに歩み寄り、ダッシュボードにかかっていた無線マイクをひったくった。

空電がひどいが、呼びかけている相手は周波数を調整しているようだ。
次第に理解できる言葉になっていく。

「タイフーン・ワン、どうぞ」
疲れ果てた真莉愛の耳にはそう聞こえた。
「タイフーン・ワン、こちら本部。誰かいるか?応答せよ」

真莉愛はスイッチを入れた。
だが、ついさっき起きたこと、目で見たこと。
何を言えばいいのか?何が言えるのか?

「はい」真莉愛は低い声で応じた。
その一言から情報を引き出すかのように相手は躊躇った。
「誰だ?」ようやく無線の声が言った。

「牧野です」
またしても無線の声は躊躇い、生真面目な声で問いただした。
「松原チーフがどこにいるか分かるか?呼び出しに応じない」
真莉愛は深く息を吸った。

「松原さんは死にました」
長い沈黙があった。
「応援の部隊を至急派遣する。生存者は何人いる?」

真莉愛は気を取り直してマイクを口にあてた。
「ふたりです」
無線から、これまでよりもずっと静かな声がした。
「…もう一度…言ってくれないか?」
「ふたりです!」真莉愛は怒鳴った。

真莉愛は接続が切られているのを確認してマイクを下に置いた。
そして楓に向き直って言った。
「もう心配ないよ」

真莉愛の静かな確信は、必ずしも筋が通っているわけではないが、楓の胸を打った。
「だから泣かないで、かえでぃー」

103名無し募集中。。。:2017/04/27(木) 18:06:14
。。8‘ ー‘)<泣かないでかえでぃーLOVEりん

104名無し募集中。。。:2017/04/27(木) 21:09:23
http://i.imgur.com/yT0dDxy.jpg

105名無し募集中。。。:2017/04/27(木) 21:17:30
マジ銃口突きつけられてる気分

106名無し募集中。。。:2017/04/28(金) 00:52:06
川* ^_〉^)<3つ数えな

107まさきのマジェスティ:2017/04/28(金) 21:07:36
くしゃくしゃに乱れた髪を手櫛で梳かしながら女はベッドに腰かけた。
しっとりとした汗が肉感的な肌にうっすら浮かんでいる。
ベッドの脇に落ちていたデザイナーズ・ブランドのシャツを拾い上げた。

「よっぽどわたしに会いたかったみたいですね」
乱暴に脱がされたせいでシャツの胸元のボタンが取れていた。

ベットに上半身を起こした男が“よかったぞ”と言うように女の太股をピシャッと叩いた。
「新しいものを買ってやる」

男は浴室で鏡をしげしげと眺めた。
男の名は五木。年齢は70に近いがすこぶる健康だった。
こうして若い愛人の相手もできる。
男としての欲望も機能も、衰えることはなかった。

では、家庭を省みない男かというと決してそんなことはない。
妻子のことは愛しているし、自分なりのやり方で大切にしている。
少なくとも、妻から何かを咎められるようなことはない。
もちろん、本心など分からないのだが。

セックスの心地よい疲労をシャワーで洗い流した。
部屋に戻ると女はすでに服を着ていた。
うんざりしたような表情を浮かべていた。
男がひとり、ドアの近くに立っていた。

青白い顔をした痩躯の男だった。
くつろいだ様子で立っているが、迂闊に近づいてはいけない。
その男の本質は、岩の下に潜む毒蛇のように危険なのだ。

「説明しろ、フクサキ」五木が言った。
フクサキと呼ばれた男は軽く前傾しながら答えた。
「申し訳ありません。電話に出られなかったもので」

携帯電話を車に置いてきたのを思い出した。
五木は着替えをするためにガウンを脱いで椅子に無造作にかけた。
「緊急の要件なんだろうな?」

フクサキは顛末を説明した。
着替えを終えた五木はブラシで髪を整えた。
「…そうか。松原は使える男だったが…。残念だな」
表情からも、口調からも、全く残念などとは思っていないことは明らかだった。

「それで、何が問題だ?」五木はスーツの襟の折目を指先で確かめた。
フクサキが答えた。
「女が生きてます」

五木がフクサキをゆっくりと振り返った。
「…所在は分かってるんだろうな?」

「応援部隊が派遣されて保護されました。本部にいます」
「…とんだ失態だな。兵藤はどうしてる?」五木が深い溜め息を漏らした。

「まだ何も動きはありません。おそらく秘匿できると―――」五木がフクサキを遮った。
「甘く考えるな。あのババアは油断ならん」

五木はフクサキに向き直って静かに言った。
「対策は一任しよう。動きやすくなるよう手は尽くす。最優先で取りかかれ」

フクサキはわずかに口許を歪めた。
酷薄な光が目に宿る。「お任せください」

108名無し募集中。。。:2017/04/29(土) 11:42:20
通常編 オープニングテーマ セクシーキャットの演説
      エンデイングテーマ ムキダシで向き合って
まりあのオデッセイ テーマソング そうじゃない(フル)
まさきのマジェスティ オープニングテーマ セクシーキャットの演説
              エンディングテーマ ジェラシージェラシー
              最終回テーマ BRAND NEW MORNING

109まさきのマジェスティ:2017/04/29(土) 12:13:57
捜索および救助、そして回収のためのチームが到着した。
大きな満足を感じるほど真莉愛は楽天的ではなかったが、援護はありがたかった。

彼女たちを“安全な場所”に導くよう指示されていた回収チームのメンバーが白いバンのドアを開けてくれた。
運転手が振り向いた。
「臨時基地へ連れていくよう指示されています」

真莉愛も楓も消耗し、休息の必要があった。
しかし、事態は緊迫している。
タオルと食べ物と水を与えられたふたりは、名乗ろうともしない幹部たちに説明をした。

作戦行動について真莉愛は落ち着いた声で言葉を続けた。
心得顔の幹部たちに内心少し失望しながら。
兵士は死ぬために存在する。皮肉なジョークではない。事実だ。

しかし真莉愛も楓も、必要に応じてエゴを抑えられるのだ。
幹部たちに目を戻し、事実の報告を終わらせた。

幹部のひとりが合図をすると、後ろに控えていた補佐がふたりにうなずいた。
「情報は正しく使う。ふたりとも慎重に行動してくれ」

連れてこられた時と同じ白いバンにふたたび乗せられた。
司令部まで戻るのだ。

真莉愛はサンドイッチにマヨネーズとマスタードをべったり塗りつけて食べていた。
楓が表情を変えずに真莉愛を用心深く見た。
「食べる?」真莉愛は口の端をなめながら言った。

楓は苦い声で笑った。「食欲がない」
不意に真莉愛は真剣な顔をした。ゆっくり唇をなめた。
「脅威は去ってないよ」

「かえでぃー…まりあ、気がついたの」真莉愛が言った。
楓は眉を寄せた。
真莉愛は年下だが、楓の見る限り、自分よりはるかにこの世界を理解しているようだ。

楓は肩をすくめて真莉愛を見つめ、それから尋ねた。「どういうこと?」

「かえでぃーが生きてることは“想定外”だったんだと思う」真莉愛が静かに答えた。
「かえでぃーが拉致された時のこと、詳しく教えて」

110まさきのマジェスティ:2017/04/29(土) 14:22:18
その建物はとりわけ魅力的ではないが、気が滅入るほどでもなかった。
こういう施設の基準に照らせば、ましでもなければひどくもない。

短期間しかいないにしろ、長期にわたるにしろ、要するにありふれた更生施設だった。

玲奈はだらだら続く抑揚のない仕事に退屈していた。
いつもならば仕事中に気を緩めれば、苦痛や怪我、うっかりすると死に見舞われかねない。

玲奈の商売道具は、携帯している銃と知的能力、筋力や機敏さだ。
誰かも分からない“囚人”を見張ることは本意ではない。
自分と同年代の少女だった。両足が義足だ。
その少女を見張るよう要請された。

監視が必要なほど危険な人物とは思えないが、看護師ではなく自分が割り当てられるのには何か理由があるのだろう。
義足の少女が苦しそうに頭を振り、低い呻き声を漏らした。
ひどく硬い表情を浮かべながら目を覚ました。

「あんた…誰?」
玲奈はこの質問を無視して義足の少女に顔を向けた。
部屋には優樹と玲奈しかいなかった。

「薬と水を飲む必要がある。脱水症状を起こしてるから」玲奈が言った。
優樹がテーブルの上の木箱を開いた。
「…アスピリンより強い鎮痛剤が必要なんだけど」

やっぱりただのジャンキーか。足がないことも関係しているのだろうか?
優樹は玲奈の目に同情の色があるのを見て、急に怒りを覚えた。

優樹は玲奈の腰のホルスターの拳銃を見た。
玲奈もその視線に気がついた。
石のような表情で首を振った。
優樹は出口に向かって歩いた。玲奈は反射的に行動した。

行く手を塞いで玲奈が優樹を見返した。
優樹が玲奈を力いっぱい押した。玲奈はまた反射的に銃を抜いて優樹に向けた。
優樹は無表情な顔でそれを見た。

玲奈は警戒を解かず、銃を向けたまま片手で優樹を押し戻した。
優樹は滑らかな動きで玲奈の手首を掴む。
そのまま捻り銃を取り上げると、玲奈を突き飛ばした。
そして次の瞬間、仰向けに倒れた玲奈の顔のすぐ近くに銃を突きつけていた。

優樹は倒れて恐怖に震えている玲奈を見下ろした。
昔は自分もしょっちゅう似たような状況に追い込まれたものだ。

「銃を向けている相手には近づきすぎないこと。反撃のチャンスを与えることになる。
腕の長さの2倍は距離を取った方がいいわよ」
そう言うと優樹は弾倉を抜いて、一瞬で銃を分解した。

バラバラになった銃が玲奈の胸に落とされた。
玲奈は長いこと優樹をにらみつけてから質問した。
「あなた…何者なの?」

111まさきのマジェスティ:2017/04/29(土) 21:05:58
黒木はオフィスに入ってドアを閉じた。電話が入っているという。
コードレスの子機を見つけて応答した。「黒木だ」

「先生、まりあです。重大な事態です。
衛生電話でかけ直してくれますか?」

黒木は電話を切って、傍受不能衛生電話で真莉愛に電話をかけた。
「何があった?」

真莉愛は楓が拉致される寸前に実行した作戦行動の件を説明した。
おそらくは正式に認可された作戦ではなく“帳簿外”の可能性がある。

「内部の人間が全て仕組んでるって言いたいのか?」黒木が訊いた。
「かえでぃーのような特殊工作員を動かせるのは機密情報にアクセスできる幹部だけです」真莉愛は断言した。
黒木はその場に立ったまま、どうしたものかと頭を絞った。

「いいだろう」黒木は考えながら答えた。
「だがな、大胆かつ独創的な隠密作戦だぞ。まずいことが起これば吊し上げどころではすまねえ」

通話を終えて真莉愛は楓に顔を向けた。
真莉愛を無作法に凝視していた楓は、そのことに気がついて目をそらした。

少し躊躇ったが、楓は正直に打ち明けた。
「なんだか…昔のまりあとは違うね」
懐かしい思い出が頭をよぎった。
訓練施設での日々を思い返した。いい思い出を探す。
何度も死にかけたが、涙が出るほど笑ったこともあったっけ。

らちもないことをしゃべって真莉愛と楓は笑った。
「あんなに小さかったまりあに助けられるなんて」
「そんなに危険じゃなかったよ」
真莉愛の言い方からすると、本当に少しも危険などなかったように聞こえる。
虚勢は全く感じられなかった。

楓は気持ちを現在に戻した。
ふたりの仮説が正しければ、自分は追われる獲物だ。
真莉愛の落ち着きは頼もしいが、よけい不安になりもした。

マットブラックに塗ったジープのハンドルを握りながら、真莉愛は楓にローストビーフ・サンドイッチを差し出した。
マヨネーズまみれではなかったので楓は受け取ってかじった。

しばらくは誰にも知らされない作戦に従事することになる。
幹部連中は脇に置いて、このショーは自分たちだけで演じるしかない。
そうであれば、優樹が必要なことは考えるまでもない。

幾多の戦場の試練をくぐり抜けて任務を完遂してきた。
きっと立ち直ってくれるはずだ。

優樹も生きているという事実に楓は驚いた。高度の機密事項だ。
「非公式だけど」真莉愛は肩をすくめる。「道重さんと鞘師さんもどこかで生きてる」

楓は首を振ってサンドイッチを食べ終えた。
唇をなめて、笑みを押し隠した。
「もし会うチャンスがあれば…事前通知してくれる?」

112名無し募集中。。。:2017/04/29(土) 22:23:57
れいなキター!!

113名無し募集中。。。:2017/04/29(土) 22:30:00
よこやんは一応職には就いたみたいだけど、
いい意味でポンコツぶりはあんま変わっとらんな

114まさきのマジェスティ:2017/04/29(土) 22:44:18
フクサキはその建物を完璧に見下ろせる場所に陣取っていた。
うまく身を隠せる場所を見つけて、そこから下の様子を観察した。

銃器ケースからスナイパー・ライフルを抜き出した。
レンズ・キャップを外してライフルを肩づけし、スコープを調整する。
風を読みながら、弾道の低下を補正した。

ジープが横切っていく。
ターゲットは助手席に座っているショートカットの女だ。
フクサキはスコープの十字線を女の脊柱のあたりに重ねた。
呼吸を浅くして、引き金を引く態勢に入る。

この速度で移動しているターゲットを撃つのは難しい。
だが、射撃のコツのようなものをろくに必要としない狙撃など面白味がない。

フクサキはこの距離で獲物を狙って弾を無駄にしたことは1度もない。
殺すことより、困難に挑戦する方が値打ちがあるのだ。



真莉愛がソーダ水のボトルを取ろうとして手を滑らせた。
「わ!」滴る飲み物を拭いてやろうと楓が手を伸ばして屈み込んだ。
「――――!?」弾丸がシートを貫通し、炸裂音が空気を揺らした。

「わ!わ!わ!」銃声が響き渡った。
銃弾が次々に車体を貫いてきた。「かえでぃー!」「まりあ!」
被弾はしていない。真莉愛は遮蔽物と逃げ道を探しながらジープを走らせた。

確信はしていないものの、日射しが目に当たる方角にスナイパーがいるだろう。
真莉愛は、いい遮蔽になるコンクリートのガレージにジープで突っ込んだ。

建物から武装した男たちが緊張感をみなぎらせて出てきた。
何が起きたか見当がつかない様子だが、強い敵意を持っていることは明確だ。

とてつもなくまずい事態だとフクサキは認識した。
ターゲットを仕留められなかった。
姿を見つけたならば首の付け根に銃弾を撃ち込んでやるのだが、慎重に身を隠している。
抜け目のない奴らだ。
包囲される前に撤収するしかない。

「ちくしょう!」衛兵らしきひとりの男が真莉愛たちにカービン銃を向けた。
「俺の車!」ジープにぶつけられていたようだ。

真莉愛は男たちに向けて、両手を高く挙げて見せた。
「あのー、どう言えばいいか―――面会予約した者です」

115名無し募集中。。。:2017/04/29(土) 22:55:13
優樹は玲奈の目に同情の色があるのを見て、急に怒りを覚えた。

116名無し募集中。。。:2017/04/29(土) 23:01:10
川* ^_〉^)<私のなんにもわかっちゃない

117まさきのマジェスティ:2017/04/30(日) 00:16:58
ピカピカの硬い床とコンクリートの壁に囲まれた通路の音響効果は抜群だった。
この建物の中では、普通の足音も大きく響く。

優樹は少しも怯まずに真莉愛の視線を受け止めた。
沈黙が“多く”とまでは言わなくても、あれこれ物語った。

「気分はどうですか?」真莉愛はようやく低い声でそう言った。

一方では楓と玲奈が張りつめた表情で押し黙っていた。
ふたりは知り合いだった。親しくしていたわけではないが何度か“困難な状況”について談笑したことがあるのだ。

「あんたが見張りなら話が早い」
楓は持ってきた薄型のブリーフケースからきちんと束ねた書類を取り出した。
「佐藤さんを“塀の外”へ出すの。これに署名して」ペンを添えた。

玲奈は躊躇ったが、ペンと書類を手に取った。
正式書類ではあるが、何かがおかしい。
玲奈は楓を見上げ、冷ややかに目を合わせた。

「何を隠してるの?」玲奈が訊いた。
「隠す?」楓は驚いて訊き返した。

「もうまりあのそばから離れないでください」真莉愛が言った。
「約束してくれないなら、口を利いてあげません」
優樹の目に涙が浮かんだ。負けそうになる相手は、真莉愛だけなのだ。
「いいとも」ささやくような小声で優樹は言った。

つまらぬ駆け引きに関心のない楓は、そっけない調子で答えた。
「あんたが署名してくれないと、わたしは死ぬ。
遅かれ早かれ、みんなが死ぬけどね。
横山…悪いけど持って回ったやりとりの時間がない。お願い…」

玲奈は指示されている場所に署名して、楓に渡した。
楓は安堵もあらわに、書類をブリーフケースにしまった。
玲奈は決然と楓に告げた。
「わたしも一緒に連れていってもらう。“見張り”なんだから当然でしょ?」

118名無し募集中。。。:2017/04/30(日) 08:15:35
ドラクエの4人パーティぽくなってきた

119名無し募集中。。。:2017/04/30(日) 08:29:08
>>108
まさきのマジェスティ 後半オープニングテーマ One・Two・Three

120まさきのマジェスティ:2017/04/30(日) 12:23:24
その後の6時間、優樹と真莉愛は心身を休めることに専念した。
といっても、うたた寝をしたり目を閉じたりしていたのではない。
意識的に腹式呼吸で横隔膜を拡げて、肺にたっぷり息を吸い込む。

長年の任務で身につけたテクニックだ。
心拍数を安定させ、胸や肩の筋肉に十分な酸素を供給する。

戦闘のストレスは銃弾や血によってだけもたらされるとは限らない。
突発的な危険にも瞬時に行動に移れるよう、心身ともに柔軟性を保持しなければならないのだ。

この種のエクササイズは、心が不活発な状態に落ち込まないようにしておく効果もあった。

そんなテクニックをまだ会得していない楓と玲奈は苛立っていた。
黒木が用意した“ネスト”で、玲奈は楓に対してヒステリーを爆発させた。
「そろそろ教えてもらいたいんだけど?何が…起こったのか?」

顔は真っ赤になっていたが、質問の最後の方はどうにか気を落ち着けて食いしばった歯の間から漏れたように見えた。
「もうすぐ分かるよ」
この短い答えは玲奈を納得させはしなかったようだ。

自分の身に降りかかる出来事を、分析どころか消化する時間もない。
「この―――」言いかけて玲奈は驚いた顔でドアを見た。
ノックもなく男が部屋に入ってきた。
「待たせてすまん。お姉ちゃんたち」

楓と玲奈は、黒木とは面識がなかった。
少年のような笑顔には愛嬌と知性が感じられた。
だが、誰かに何かを話しかけられている場合でも、
いつも心の半分は別のことを考えているタイプだ。
楓はそんな印象を抱いた。

黒木は壁際のテーブルの前に置かれた折り畳み椅子に座った。
そして、かなり性急にこの緊急任務のブリーフィングを始めた。



4人は顔をこわばらせた。黒木はしばし無言で彼女たちを見つめた。
「これがまずい展開になる道筋は際限なく考えられるだろう」黒木は咳払いをした。

自分たちが属する階級組織の頂点にいる者がくそったれどもと裏取引をしている。
張りつめた沈黙の中、優樹が椅子に背をあずけた。
「左手のやっていることを右手は知らないという事態ですね…」

「関与しているのが誰なのか証拠を集めます」真莉愛が言った。
優樹も真莉愛も冷徹なプロフェッショナルの顔つきになっている。 
「仲間を見殺しにはできませんから」

黒木はうなじの毛が逆立つのを感じた。
相手にしなくてはならないのが誰かというのは、このお姉ちゃんたちには“小さな問題”のようだ。

敵は“司令官”だ。

121名無し募集中。。。:2017/04/30(日) 18:21:17
https://youtu.be/Mjl47n1DLZI
戦闘シーンのイメージ

122まさきのマジェスティ:2017/05/05(金) 21:40:04
「わたし、あんまりあの人たちに好かれてない気がする」
玲奈は不満そうに言い、ペットボトルの水をごくごくと飲んだ。

朝食テーブルを挟んで玲奈の向かいに座った楓は、牛乳をかけたグラノーラを食べていた。
「お互いのことを知らないんだから当然でしょ」

“お互い”は正しくない。
真莉愛と名乗ったポニーテールの女は、楓と玲奈を朝5時前に起こしに来た。
そして新品の衣服を渡してくれた。
その中にはTシャツとランニング用の短パンも含まれていた。

楓も玲奈も文字どおり着の身着のままだった。
前日に服のサイズは告げていたが、翌朝にぴったりの服が用意されているとは思ってもいなかった。
自分の情報は残らず調査されている、と玲奈は思った。

横で木の扉が開く音がして、優樹が部屋に入ってきた。
ダイエットコークの缶を握って口元に持っていく。くたびれた様子で歩いてきた。
椅子を引いて、玲奈に並んで座った。

隣に座ったので、ついさっきシャワーを浴びた優樹から石鹸の香りがした。
髪はまだ湿っていて、ゆるくカールして垂れている。
洗われたばかりの狼のようだ。
血は洗い流されているが、獲物を仕留めた直後のような殺気がくすぶっている。

ランニングウェアを身に着けた上半身は体操選手のように引き締まっていた。
くびれた腰と太腿は短距離走者を思わせ、膝上から人工の足がついている。
施設での“優雅な動作”からして戦闘要員だ。
それは間違いない。

玲奈は鋭い視線で優樹を見据えた。
「いったいあなたたちは何者――――」
言いかけて玲奈は動揺した。
いつの間にか、優樹の手にはずんぐりしたリボルバーが握られていたからだ。

「考え抜いた上で決意した?」
優樹の声に感情は一切なく穏やかだった。
「ここに、こうしているだけで危険なんだよ」

無意識に玲奈の身体に震えが走った。
気づかれることを恐れ、くしゃみをするふりをしてごまかした。
「五木長官の背信行為が確実なものなら…大変な裏切りでしょ」

玲奈はゆっくり息を吸った。
その真剣な表情を優樹も楓もじっと見ていた。
そのとき、正面ポーチにバイクが滑り込んできた。
後輪で砂利と赤土を飛び散らせてから停まった。

部屋に入ってきた真莉愛がヘルメットを外した。
情報提供者のうち数人と“話”をするために出かけていたのだ。

「どうだった?」優樹が訊くと、真莉愛は重苦しいため息をついた。
「大変でしたよ」言いながらキッチンペーパーでナイフの血糊を拭った。

「当然あんたの―――何と言ったらいいか―――説得力が物を言ったんでしょうね…」
優樹は低い声で言いつつ、頭の中ではすでに慌ただしく計画を練っていた。

123名無し募集中。。。:2017/05/06(土) 16:18:15
説得力……(゚A゚;)

124名無し募集中。。。:2017/05/07(日) 08:36:53
MY VISIONのそうじゃない
間奏明けでまりあがデーンと歌ってる脇、カメラに見切れるかきわどいとこで
まさきが超高速でマイク回しててワロタ
今きづいた

125まさきのマジェスティ:2017/05/07(日) 12:38:18
ずんぐりしたメルセデスの黒いボックストラックがブレーキを軋ませて停まった。
助手席のドアが開き、全身黒ずくめの男が降りた。

軽い足取りでコンクリートの階段を上り、目的の部屋へ向かった。
灰色の金属製のドアがあった。ここだ。

フクサキはひとり、うっすらと笑みを浮かべた。
見ている者がいた場合に備えてわざわざノックをする。
中からくぐもった声がして、スリッパを引きずる音が続いた。

「誰だ?」
身に染みついた習慣でフクサキはドアの正面に立つことを避けた。
ドアを閉じたまま目に見えない敵に向かって発砲する者もいる。

「兵藤局長からの使いの者です」
フクサキは、はっきりしない声で口にした。「緊急です」

「暗号の言葉は?」
黒木は暗号の言葉を聞くためにわずかにドアを開けた。
訪ねてきた男の顔を見て取るなり、ドアに体当たりして閉めようとしたが手遅れだった。

フクサキは慌てている黒木の鼻に拳を叩き込み、スタンガンを喉に押し当てた。
電気ショックで全身を痙攣させながら黒木は床に倒れる。
フクサキは肩でドアを押し開けて中に入った。

引き裂くような痛みに、黒木は気を失いかけていた。
自分を見下ろしている男の顔が視界に入った。
神経質そうな顔に残忍な笑みが浮かんでいる。

視界をはっきりさせようと黒木はまばたきした。
口の筋肉を小刻みに震わせながらも、どうにか声を絞り出した。
「だ…誰だ?」

「使いの者ですよ、黒木さん」フクサキが耳障りな笑い声を発した。
「ただし、兵藤局長ではありません―――五木長官からです」

あごを蹴りつけられて、黒木の頭の中で光が弾けた。
目がくらみ、火花が散っていったと思ったら真っ暗になった。

「運ぶぞ」フクサキが無線機に向かって言った。
気絶して転がっている黒木に、腰を屈めて近づいた。
「協力してもらいますよ…」

携帯電話を見つけたフクサキがスクロールして通話記録に残っている番号を見ていった。
にやりと笑みを浮かべた。「これは興味深いな」

手下の男たちが黒木を運び出した。
「おまえは部屋を漁れ」フクサキが指示をする。
「楽しませてもらおう…」ひとりごとのようにフクサキは囁いた。

126まさきのマジェスティ:2017/05/07(日) 20:02:11
がらんとしたコンクリートの立方体のような部屋だった。
蛍光灯のどぎつい光がまぶしい。
床のくぼんだ中央には排水溝がある。
壁のフックには、とぐろを巻いた黒い蛇のようなホースがかけられていた。

拷問や処刑に使う部屋だ…。
黒木はスチールの肘掛け椅子に座らされていた。
トランクス以外、何も身につけていない。
手足はナイロンの結束バンドで椅子に縛りつけられていた。

「あの小娘たちを匿っているのは分かっている」フクサキは唇を歪め、ゆっくりと言葉を発した。
「居場所を教えてもらう必要がある」

フクサキが黒いポリ袋を手にしながら黒木の後ろにまわった。
「それに…どういう会話を交わしたか、一言一句、正確に思い出してほしい」

黒木の頭に袋をかぶせ、顔にぴったり押しつけて空気を抜く。
結束バンドを首の周囲にまわして締めつけた。

「!!!!」息を吸おうとする度にポリ袋が口にへばりつく。
狼狽して喘ぎながら息を吐き出す。
袋のどこかに残っているかもしれない空気を探して頭を必死にめぐらしても空気はない。

数秒後、黒木はパニックに襲われて叫んだり拘束を振りほどこうと無益にもがいた。
「居場所を言え!」フクサキが強く促した。
「急いで言わないと死んでしまうぞ!」

まもなく黒木は完全にパニックに陥り、拘束されている身を狂ったようにばたつかせた。
フクサキが左右の掌で黒木の両耳を痛打して意識を失わせた。

意識と血色を失った黒木がまた呼吸ができるようにするために、フクサキが袋を剥ぎ取った。
黒木は頭部をだらんと横に傾がせたまま動かない。

部屋の端にいた五木が嫌悪を込めた目で問いかけた。
「通常、これを何回繰り返す必要があるんだ?」
フクサキが五木と目を見交わす。

「この野郎は筋金入りなので、これまでの連中より長く抵抗できるかもしれません」
「任せる」うんざりした表情で五木が言った。

背を向けた五木は振り返りもせず部屋から出ていった。

フクサキは嗅ぎ塩の気つけ薬を黒木の鼻先に持っていった。「起きろ」
ほぼ即座に黒木が目を覚まし、強烈な臭いを嫌がって顔をそむけた。
「あいつらはどこだ?」すぐさまフクサキが尋ねた。

「ふん!」黒木が唾を吐きかける。
フクサキが黒木の横っ面を思いきり殴りつけた。
奥歯が砕けたのが分かった。

「もう一度訊こう。あいつらはどこだ?」
殴られて紫色に腫れつつある唇がプルプルと震えた。
「なんだ?」

顔を近づけたフクサキに黒木が言った。
「…もう一度袋をかぶせろ…オカマ野郎…」

127まさきのマジェスティ:2017/05/07(日) 23:34:21
「ねえねえ」真莉愛が玲奈にささやきかけた。
「こういう状況の演習は経験した?…悪者が立てこもってる建物の制圧?」

バンの後部座席では、優樹がシステムモニターをチェックし、スクリーンにタッチペンを走らせていた。
非常に特殊なマルチコプターを飛び立たせたところだった。

運転席の楓が振り返った。
「黒木さん…無事なんでしょうか?」

黒木のアジトにこっそり盗聴器をセットしたのは優樹だった。
案の定、敵は罠に食いついた。
何度も囮にされたことがある。些細なお返しだろう。
それに施設に収監されたのは黒木が手配したからだ。
多少、痛い目に遭ってもらうのも悪くない。

「怖い人…」真莉愛がうめいた。
「でも、かえでぃーも横山ちゃんもこういう陰険なやり方も学習しなくちゃね」
「何か言った?」優樹が鼻にしわを寄せながら真莉愛たちを見た。

「さてと。何か計画がありそうな顔だね、まりあ」優樹が訊いた。
楓も玲奈も真莉愛に顔を向けた。
「考えはこうです」
口に出してしまったら、この計画が頭の中にあったときほどクレイジーに響きませんように、と真莉愛は願った。

じっくり計画を練っていたら―――黒木は殺されてしまう。
偵察と突入は同時進行するしかない。

「先陣はまりあがやるから」片方の目をつぶる。
「かえでぃーは横山ちゃんと連携して敵を撹乱して」

真莉愛たちはエアロステッチのトランジット・レザーで仕立てた装甲スーツを着た。
衝撃吸収素材に防弾シールドも加えた特注品だ。
マントのないバットマンのようだった。

真莉愛はレミントンMSRを胸の前にかかえ持ち、無線からの優樹の指示に従って進んでいった。
「見張りがいる。始末して」

真莉愛はレミントンの折り畳み式銃床を広げてから肩づけした。
ふたりの男が肩を並べるように立ってタバコを吸っている。
少し角度を変えれば、1発で仕留められると判断した真莉愛は急いで移動した。
新たな射撃位置につき、レティクルの中心を近い側の男の腰に重ねて引き金を引いた。

かすかな銃声が漏れ、発砲の反動を感じた。
ターゲットが銃創から内臓を撒き散らしながら折り重なって倒れた。
真莉愛は念のため、サイレンサーを装着したグロックで頭部に弾丸を撃ち込んだ。

「まりあ…屋根の上にスナイパー」優樹が告げた。
「ふたり。お互いが見える位置にいる。どうする?」

「わたしが」楓が割り込んできた。
「かえでぃー?ライフル持ってないでしょ?」真莉愛が訊いた。
「接近してナイフで“静かに”やるから大丈夫」
頼もしい答えが返ってきた。

128名無し募集中。。。:2017/05/08(月) 07:31:13
ドキドキ!

129まさきのマジェスティ:2017/05/09(火) 23:47:03
密やかさが必要な状況ではナイフはこの上なく効果的だ。
様々な武器を用いる幅広い機会に恵まれている真莉愛もナイフでの仕事は好きだった。

血生臭い殺害現場は敵営の人間に精神的なダメージを与える効果がある。
一時期の真莉愛はそれにこだわるようになり、ナイフと絞首具を有効に活用していた。

そうした任務遂行の仕方は味方の間でも評判となった。
現場では頼りにされるが、任務以外の場面では避けられるようになった。
ちょっとセンチメンタルな思い出だ。

「じゃあ、まりあもナイフでやる」
なぜか対抗心を燃やして宣言した。
「何言ってんの?効率性と安全性を優先して。時間ないんだから」
優樹が真莉愛を叱った。

スナイパーに音もなく近づいた楓は背後から男の喉を切り裂いた。
チーズカッターのようにすっぱり肉が断ち切られた。

もうひとりのスナイパーが不都合な事態が生じたことを察知した。
ライフルをめぐらそうとした瞬間、真莉愛が放った弾丸に心臓を撃ち抜かれた。
そのまま屋根の向こうへ吹っ飛んでいく。
真莉愛はスコープから目を外すことなくボルトを操作し、楓を見た。

射撃姿勢を保ちながら見ていると、気づいた楓がドヤ顔でこちらを見返した。
真莉愛は引き金を絞った。

玲奈を見咎めたふたりの男が近寄ってきていたのだ。
ふたりとも脳みそを撒き散らしながら倒れて痙攣していた。
楓も玲奈も息を飲んで後ずさって、壁際に身を縮めた。

「アマチュアじゃないんだから」真莉愛が噛みつくように言った。
玲奈はへまをやらかしたことを悟った。

「おっと、気づかれた」優樹の声が無線を伝わった。
すると突然、建物群から大勢の叫び声が聞こえてきた。
楓と玲奈が、恐怖に見開いた目を見交わす。
「ごめんなさい!わたしのせいで…」
玲奈は泣きそうになっていた。

「全員、傾聴!とりあえず無人機で援護するから」優樹が言う。
「ちなみに気づかれたのは横山ちゃんのせいじゃない」

「まりあ、あんたが吹っ飛ばしたスナイパーの死体が発見されたのよ」
「ええ!?」真莉愛が手で口を覆い、顔を歪ませた。
「…ごめんちゃいまりあ」

マルチコプターにセットされたガトリング銃が火を噴いた。
毎分3000発の速度で発射される弾を浴びせられた敵どもが四方八方へ逃げていく。
熱い曳光弾が赤いレーザービームのように彼らを追った。
3桁の弾を食らった人体が次々に爆裂する。

真莉愛の血がたぎった。ミスを挽回しなくちゃ。
武装した男たちをひとり、またひとりと倒しながら突き進んだ。

130名無し募集中。。。:2017/05/11(木) 11:20:36
くろっきカッコいいな

131名無し募集中。。。:2017/05/20(土) 12:14:50
続き待ってます

132まさきのマジェスティ:2017/05/20(土) 14:32:16
男たちが武器を手にして真莉愛たちのあとを追う。
真莉愛が夜の闇の中から影のように滑り出た。
2秒とかけず、その全員の身体のど真ん中に銃弾を叩き込んだ。

そのあと、頭部に1発ずつ弾を撃ち込んでいく。
ほぼ4秒後、グロックの遊底が後退してロックされる。
最後に排出された空薬莢が床の上に転がった。

真莉愛はマガジン・リリースを親指で押して空の弾倉を落とし、新しい弾倉を挿入する。
スライド・リリースを押して薬室に弾を送り込んでから走り出した。

一方、楓と玲奈は黒木が拘束されている部屋を目指した。
騒動を聞きつけた男たちが急ぎ足で出ていった。
姿を見られないように身を平たくし、じっと動かずにいた。

男たちが走り去っていき、楓が玲奈に身ぶりを送る。
玲奈が楓を見つめる。楓がドアを指さし、うなずきながら身を転じた。

楓たちはノック抜きにドアを開いて中に踏み込んだ。
黒木を見つけた。両手首をひとまとめに縛られ床に転がされている。

次の瞬間、楓と玲奈はへまをやらかしたことを悟った。
部屋の隅を確認するのを忘れていたのだ。
不必要だろうと思い、すっかり失念していた…それが失敗だった。

背後から撃たれた楓はどさっと倒れた。
「かえでー!!」玲奈が跳びしさって男に応射を浴びせる。
血が噴水のように飛び散り、男が床に転倒した。
身を縮めながら玲奈は続けざまに発砲し、男の頭部を撃ち抜いた。

「かえでー!!」また玲奈が叫んだ。
「…落ち着いて」陰気に楓は答えた。
楓は生きていた。途端に玲奈は肩の力が抜けて安堵した。
レザー製ジャケットの肘に沿って大きな裂け目ができている。
防護スーツのおかげで助かったのだ。

銃弾がジャケットに開けた穴に玲奈は指を突き入れた。
傷口から出血していたが重傷ではない。
楓は玲奈と短く目を合わせてから喘ぐように言った。「脱出するわよ」

助け起こされた黒木は手酷く痛めつけられていた。
顔が傷だらけになり、鼻梁が裂けて出血している。
玲奈に渡されたベンゼドリン・カプセルを苦しそうに飲み下した。

「走れますか、黒木さん?」楓が問いかけた。
「…ああ」低いが断固とした声だった。
落ちくぼんだ目で楓と玲奈を見つめて、ごくんと唾を飲んだ。
「ありがとよ、お姉ちゃんたち…」

黒木は純然たる意志の力のみでふたりに向かってにやっと笑いかける。
「では、すぐに動くとしよう。スケジュールに遅れが出てるからな」

133まさきのマジェスティ:2017/05/20(土) 17:14:59
次第に敵の数が少なくなっていく。
だからと言って油断は禁物だ。侵入者を捜している連中はまだいるに違いないのだ。

真莉愛はどんな小さな動きも見逃すまいと神経を研ぎ澄ましながら進み続けた。
動くものを反射的に撃ちそうになった。
さいわい、引き金を絞る直前に思い止まった。

のっそり現れた猫は尊大な目つきで真莉愛をじろりと見る。
人間たちの騒動には頓着していない様子だった。
尻尾をひと振りしてゆっくり立ち去った。

安堵の息をついた瞬間、消音された銃声が低く響く。
痛烈な衝撃で、身体が浮き上がり壁に叩きつけられる。
肺の空気が押し出されるが防護スーツのおかげで死んではいない。

真莉愛はまだ自分がキルゾーンの範囲にいることを察して即座に身を隠した。
グロックは手から滑り落ちていた。
M4カービンを構えた痩せた男が近づいてくるのが見える。

手榴弾のピンが抜かれる音がした。
痩せた男が投じた手榴弾が自分の背後に転がる音を聞きつけた。
猛烈な爆発を間一髪で回避したが、聴力が失われた。

高周波の耳鳴りだけがする中で、真莉愛は懸命に反撃する。
相手の男は真莉愛の頭を狙って発砲してきた。
空間を作ってはいけない。頭を撃ち抜かれる。
渾身の力を振り絞って真莉愛は男の構えたM4カービンを蹴り上げた。

M4カービンが乾いた音とともに床を滑っていく。
真莉愛はさっと振り返り、その痩せた男、フクサキの手首を掴んだ。
そのまま腕をひねって床に転倒させる。
ブーツでフクサキの喉を蹴りつけた。
「ぐ!!」延髄をへし折ろうと足を上げた真莉愛はフクサキに足首を掴まれた。

仰向けのままフクサキがバネのように跳ね起き、真莉愛は背中から床に叩きつけられる。
フクサキは雄牛のように唸って真莉愛に組み合った。
真莉愛は絶え間なくフクサキの肋に打撃を加える。

顔面のガードがおろそかになったところで、真莉愛はフクサキの目に爪を立てた。
「が!!」眼窩に指を深々と食い込ませた。
たまらずフクサキが真莉愛から離れる。

激痛で吐き気を感じたが、アドレナリンの冷たい奔流が全身を駆けめぐった。
「…さすがは…精鋭部隊の生き残りだ…楽しませてくれる…」
真莉愛には聞こえていなかったのだが。

脳震盪から次第に回復し、全身の痛みのせいで逆に頭がはっきりしてきた。
真正面に対峙しているフクサキがポケットからナイフを取り出す。
真莉愛はハーネスにつけたパウチのひとつから絞首具を取り出した。

絞首具の両側についている木製の持ち手を左右の手に握る。
網膜をえぐられて目から血を出しているフクサキが突進してきた。

フクサキの死角から真莉愛は敏捷に動いた。
持ち手をつないでいるワイヤーをフクサキの喉にまわして絞めあげる。
呼吸と脳への血流が瞬時に停止させられた。

フクサキの手からナイフが落ちて必死に喉をかきむしるが無益なあがきだった。
真莉愛は自分から床に倒れて体勢を安定させる。
そのまま着実に絞めあげていった。

フクサキが苦悶しながら声もなく息絶えようとしたとき、真莉愛は耳元でささやいた。
「あの世で片目に慣れてくだちゃいまりあ♪」

134まさきのマジェスティ:2017/05/20(土) 21:54:13
五木はふたりの護衛に挟まれる格好で走っていた。
駐車場の念入りに洗われた車へと向かっている。
手近な出口を目指して駆けながら叫んでいた。

「くそったれ!これだけの人数がいてなぜ始末できんのだ!」
駐車場の整備エリアにあるSUVに3人がたどり着いた。
五木は護衛を両脇に従え、短気を起こして怒鳴り散らしていた。

背後で何かが割れる音がした。
拳銃を抜きながら護衛ふたりが揃って振り向くと、ショットガンを構えた優樹が立っていた。

ひとりが胸にぽっかり大きな穴を空けて吹き飛んだ。
もうひとりがショックを浮かべながらも必死に反撃する。
だが優樹のスピードと機敏さには勝てなかった。
猛然と、しかもジグザグに進んでくる優樹は銃弾に当たることなくショットガンを連射する。
護衛の顔面が熟れたメロンのように割れた。

五木はパニックにかられて、手の震えを抑えようとしながら護衛が持っていた拳銃を拾い上げた。
優樹がムエタイ流のキックで五木の手首を蹴りつけた。
金属製の足に蹴られて、骨が折れる音が響いた。

「あがぁぁっっ!!」
続けて鼻柱に優樹のかかとがめり込む。
骨が砕け、軟骨が引き裂かれて鼻はほぼ粉々になった。
五木は意識朦朧となった顔を鮮血で染めながら、呻き声を発して倒れた。

ぼやける意識の中でも身を守るかのように折れていない片手を上げて目を閉じた。
殺される覚悟をしたが殺されなかった。

優樹がリュックサックから携帯用パソコンを取り出す。
何度かキーを叩き、いくつかボタンを押すと小さなモニターが明るくなった。

「さてと、長官。コードを教えてくださいな。あなたの“隠し資産”の」
優樹が五木の目の前にすっくと立っている。
五木は腕の激痛に吐き気を催したが、折れていない方の手を床について優樹を見上げた。

「…何の…話だ…」砕けた鼻のせいでゴボゴボと音がした。
「本人名義の銀行のキャッシュカードなら簡単ですけどね」優樹は首を振った。

世界中の悪党の資金洗浄。
テロや犯罪組織と渡り合う人物の裏の顔だ。
「必要経費はいただきますよ」優樹は深呼吸をして下唇を噛んだ。

「…ふん…」五木は目つきを険しくして、混じり気のない憎しみをあらわにした。
かろうじて聞き取れる声で言った。
「…おまえたちも…ただの泥棒だ…私と何が違う?…」

「違うなんて…言ってませんよ」時間の余裕はなく優樹は迅速に行動に移った。
「アクセスするためのコード、そして長官、あなたの“生体認証”が必要なんです」
優樹の左手にはバイスグリップが握られている。

「協力してくれたら、より早く死を迎えられます。そうでなければ…どうなるか…」
優樹はバイスグリップの先端のねじを調整した。

そのとき無線から声が聞こえてきて優樹が応答した。
「了解。こっちは任せて」
優樹は五木に冷たく告げた。「全員、排除しました。あなたが生き延びることはない」

五木はたじろぎ身構えた。
「もう…チャンスはないのか…」
「残念ですが」つぶやくような声になった。
「急いでください、長官」

135名無し募集中。。。:2017/05/21(日) 02:00:50
いいね

136名無し募集中。。。:2017/05/21(日) 08:02:00
いたたたた

137名無し募集中。。。:2017/05/21(日) 08:12:26
訓練生時代の4人の写真
http://livedoor.blogimg.jp/cutesokuhou/imgs/4/9/49036097.jpg
http://livedoor.blogimg.jp/cutesokuhou/imgs/5/1/51485c8b.jpg
http://livedoor.blogimg.jp/cutesokuhou/imgs/5/8/581bd096.jpg
http://livedoor.blogimg.jp/cutesokuhou/imgs/1/8/181eaab6.jpg

138まさきのマジェスティ:2017/05/21(日) 14:52:18
無線の通話装置を介して、雑音混じりの優樹の声が響いた。
「了解。こっちは任せて」

真莉愛は黒木たちと合流するために広い廊下の出口へ向かった。
出口の前に立ちドアノブを握ったまま、しばらく呼吸を落ち着けることに集中した。

優樹が問題を解決してくれれば、未知のセキュリティシステムに挑まずに莫大な“報酬”が手に入る。
それがあれば引退できるだろう。ささやかな希望だ。
真莉愛は口にペパーミントキャンディを放り込んだ。

そのとき背後から冷たいナイフが胸郭に突き刺される感触があった。
「う!」真莉愛は襲ってきた相手に振り返った。
フクサキが立っていた。

真莉愛はフクサキの体重がかかっている方の脚の膝の裏側を蹴りつけた。
バランスを崩しながらもフクサキは真莉愛から離れた。
真莉愛の背中から引き抜かれたナイフは薄い血に覆われていた。

防刃加工されていない部分にナイフを突き刺されていた。
正面に立っているフクサキはぜえぜえと息をしている。
目から出血し、歪めた口の両端に唾をこびりつかせているが“生きている”。
死んではいなかったのか。いや、ゾンビか?

フクサキと対峙しながら真莉愛は自分の状態を分析した。
傷は深い。まだしばらくは動けるがこのままでは肺に血が溜まって窒息する。

真莉愛はわずかに腰を屈めて両腕を垂らした。
どの方向にも動けるように重心を分散した。

真莉愛は左手でフェイントをかけてフクサキの性急な反撃を誘う。
その攻撃を身体をひねって避けながらフクサキのあご先に下から手加減なしの肘打ちを見舞った。
真莉愛はナイフを握るフクサキの手を力いっぱい捻る。
手首の腱が引きちぎれ、骨が外れた。

ナイフが床に落ちてくぐもった音を響かせた。
「うぐ!」「げふ!」
真莉愛とフクサキは同時に叫び声を発した。
真莉愛の胸腔に空気が流入してきていたのだ。
肺が押し潰されて気道が圧迫されている。気胸を起こしかけていた。

フクサキの異常に興奮した脳は、手首の痛みを無視して真莉愛にヘッドロックをかけた。
真莉愛は激しい咳の発作に襲われた。
死の恐怖が波になって全身に伝わった。

次の瞬間、銃声が真莉愛の耳に届いた。
フクサキが後頭部をコンクリートの壁にめり込ませてグシャッという胸が悪くなる音を響かせた。
壁にピンク色の血糊の筋を残して崩れ落ちる。

「まりあ!」「牧野さん!」
走ってくる楓と玲奈が見えた。
その向こうに目を見開いて拳銃を構えている黒木がいた。

139名無し募集中。。。:2017/05/21(日) 15:51:47
川* ゚_〉゚)<まりあ!

140まさきのマジェスティ:2017/05/21(日) 18:06:27
楓が真莉愛の脇の下に肩を入れ、玲奈がもう一方の脇の下へ肩を入れる。
ふたりは力を合わせて、できる限りの速さで真莉愛を引きずっていった。

黒木が無線で優樹を呼び出した。
「お姉ちゃん!さっさとここを離れるぞ!相棒が死にかけてる!」

激昂した頭脳が優樹に命令を下してくる。
尋問する対象は目の前にいてガタガタと震え、縮こまろうとしていた。
必要な情報はまだ得ていない。

五木は愚かにも、これでいくらか時間が稼げたと思い込んだ。
サディスティックに目が輝いた。

優樹は一瞬も躊躇わずに五木の眉間に2発の銃弾を撃ち込んだ。
そして廊下に飛び出した。

バンの後部座席に真莉愛を運び入れた。
身体の横を下にして真莉愛は喘いで息をしている。
血が筋を引いて垂れ、粗いシートに染みを残した。

車のハンドルは黒木が握った。
猛スピードで運転しながら携帯電話を耳に押し当てる。
「もしもし、翔子か!?緊急のオペを頼む!そっちへ向かってる」

冷たい水が顔にかけられ、包まれていた闇が消えていく。
うっすらとものが見えてきた。
「まりあ!」顔の前で誰かが叫んだ。「まりあ、聞こえる!?」

教会の鐘のような耳鳴りがしているが、その声ははっきりと聞き取れた。
佐藤さん…。ぼうっとした顔が見え、目の焦点が合ってきた。

「まりあ、聞こえる?聞いてちょうだい。よく聞いてよ。
答える必要はない。ただ、まーが言ってることを理解しようと努めてちょうだい。頭を働かせておくの。いい?」

真莉愛は口を開いたが気道が詰まっていて声が出せない。
「このままじゃ死んじゃう!」玲奈が泣き叫んだ。

真莉愛の顔が青ざめて、唇が腫れつつある。
「呼吸ができるようにバルブをつけなきゃ」優樹が言ってキャメルバックの水筒を引き抜いた。

「胸腔の排液をしなきゃいけない。かっちゃん、まりあをうつ伏せに寝かせて押さえて!」
「や、やり方、分かるんですか?」
楓が真莉愛の両肩を押さえ込む格好で身体をかぶせて震える声で問いかけた。

「教わったことはある」優樹が言った。
優樹がナイフで真莉愛の上着の後ろ側を切り裂いて肌を露出させた。
「しっかり押さえて!」ナイフの切っ先を真莉愛の腰に突き刺す。
上方、胸腔と思われる位置の下端へと徐々に潜り込ませる。

真莉愛は銛に刺された魚のようにもがいた。
喉に血が詰まって息をすることも叫ぶこともできない。
優樹がナイフを抜き、傷口に指を深く差し入れてから、硬い水筒のストローを潜り込ませた。

そして、胸腔の空間だろうと思われるところにストローを滑り込ませることができた。
5秒が過ぎた。真莉愛の身体から淡い赤の体液が流れ出てきた。

「やった!」優樹が息をついた。
30秒が経った頃、真莉愛はまた呼吸ができるようになってきた。

“相田医院”と看板を出している開業医のところへ真莉愛は運び入れられた。
手術用マスクを頭の後ろで結びながら医者が近づいてきた。
ストレッチャーに乗せられた真莉愛の怪我の程度を測るように目を走らせている。
見覚えがある顔だ。あのときの女医だ。

優樹の顔も見えた。
かすかに湧いていたアドレナリンが消え失せ、真莉愛は気絶した。

141名無し募集中。。。:2017/05/21(日) 18:31:19
相田翔子?w

142まさきのマジェスティ:2017/05/21(日) 21:21:12
【エピローグ】

真莉愛は病院用ベッドの端に腰かけていた。
廊下にいる楓と玲奈が手を振った。

黒木も含めた全員が“組織”によって身柄を確保された。

「ここに滞在することになるんですか?」真莉愛はぼそぼそと優樹に話しかけた。
優樹は背もたれに身体を預け、しばらく天井を見つめていた。
やがて両手を広げて膝に置いた。
「“拘禁”かな。正確に言うと」

優樹は深いため息をついた。
政府機関のエージェントである優樹たちは複雑な機密情報そのものだ。
組織自体に法的承認がない。
ありがたいことに刑務所暮らしをすることはないが、似たような暮らしをすることはある。

ここは壮大な煉瓦造りの屋敷だった。
立派なプラタナスの大木が並んで植えられている。
優樹はその環形の私道をじっと眺めた。

楓と玲奈は廊下の先にある部屋に向かった。
これから数週間、あるいはもっと長い期間ここで過ごす間、彼女たちの食堂であり共用スペースになる。

屋敷の中は自由に動き回ることができるが、外部との接触は一切できない。
政府の秘密機関――特別委員会と呼ばれている――が結論を出すまでは。

黒木がわびしげな風情で舗道を散歩していた。
(分別のあるところを見せてくれて嬉しいわ)
兵藤はそう言っていた。
五木の背信行為についての供述書はうわべを取り繕ったものだった。

“組織”にとってダメージが最小限で済むように責任を分散させた悪あがきだ。
自分が闇に葬られることなど気にもならないが、まだ若い女の子たちを矢面に立たせることは我慢できなかった。



ほどなくして屋敷を管理監督している男に命令が下った。
“全員を自由にするように”
電話が鳴った。男が対応する。電話の相手は兵藤だった。

この“組織”で無条件に命令に従うべきごく少数の幹部の中では、兵藤はリストのトップにくる。
「承知いたしました、兵藤“長官”」



おわり

143名無し募集中。。。:2017/05/21(日) 22:38:56
自由……

144名無し募集中。。。:2017/05/22(月) 01:25:14
乙した
面白かった

145名無し募集中。。。:2017/05/22(月) 08:44:46
めちゃくちゃ面白かった
Dとよこやんが生き残っ…いや生き残れなかったのか?

146名無し募集中。。。:2017/05/22(月) 11:20:41
。。8*‘ -‘)<佐藤さん、ご飯を幾ら食べてもお腹いっぱいにならないんですけどどうしてでしょう……

川* ^_〉^)<あ、肺じゃなくて間違って胃にストロー刺しちゃってた
        んで抜くの忘れてた ごめーん

。。8*‘ -‘)

。。8*‘ -‘)

147名無し募集中。。。:2017/05/22(月) 11:32:58
川* ^_〉^)<拘禁されちゃったねー

。。8*‘ -‘)<まりあそんなに汚く無いですよ

川* ^_〉^)

川* ^_〉^)<抗菌じゃねーよ!

148名無し募集中。。。:2017/05/22(月) 12:19:52
分かりにくかったかな
エピローグの時点で5人とも生きてます
ただそのあと“自由”というのはいろんな解釈ができるようちょっとアンフェアな書き方しました
引退生活を満喫してるかもしれないし以前のようにエージェントとして働いてるかもしれない
あるいは…粛清されて…とかね

読んでくれたひと どうもありがとう
また書いたら付き合ってください

149名無し募集中。。。:2017/05/22(月) 12:38:27
拘禁とは保護されている事でもあって、それを解く=自由にする、で後はどうなろうと関知せず、か

作者さん有難う御座居ました
出来たらまたスピンオフも読みたいです(^-^)

150名無し募集中。。。:2017/05/22(月) 20:24:48
楽しかった
ここ最近一番楽しみにしてました
ありがとう

151名無し募集中。。。:2017/05/23(火) 00:08:00
ありがとう
面白かった

152まりまーZERO:2017/06/01(木) 21:24:27
[だーさく編]

最初に2発の迫撃砲弾が地面を打った。
聞き違えようのないその炸裂音が空気を揺るがす。
「ちくしょう!」亜佑美が叫んで発砲を始めた。
ようやく敵の1名を射殺したところで、また激烈な連続射撃を受ける。

亜佑美とさくらはたまらず大地に腹這いにさせられた。
さくらは強行突破を考えている方角がよく見えるところへ匍匐していった。
敵の3名がすでにその方角を遮断している。
さくらの顔が見えた途端、敵は射撃を開始した。

跳弾が空に舞う。
さくらは手榴弾のピンを抜いて、その方角へ投げつけた。
投じた手榴弾が炸裂して爆発音をあげる。 
敵が数名、トランプのカードのようにバラバラに吹っ飛び宙に舞った。

さくらは膝射姿勢をとり、敵に銃撃を浴びせたが相手は強引に接近してくる。
腕に1発、胸を守っている炭化ホウ素防弾板に1発、弾を食らってしまった。
亜佑美のいるほうへ這いずり戻る。「包囲を狭めようとしてます」

亜佑美が、敵の頭を下げさせておこうと貧相な木立に数発の弾を撃ち込みながら問いかけた。
「あいつら、待ち構えてたような感じだけど、どう思う?」
さくらが負傷した腕にコットンを押しあてた。
「ええ、そうですね。どの方角に行っても待ち伏せのど真ん中です。罠ですよ」

周囲は完全に包囲され、身を隠せるものはまばらにある岩だけだ。
「あいつらが迫撃砲の着弾を修正したら終わりだね」と亜佑美。
「それはもう済ませてるんじゃないですか」さくらが続ける。「生け捕りにするつもりかも」

亜佑美が片膝をついて迫ってくる敵を撃つ。撃ちながら苦悶のうめきを漏らしていた。
「苦しそうですね」さくらが亜佑美の背中を守るように敵に発砲する。
「口を慎みなさい。腓骨が折れてるの」亜佑美が言った。
さくらが亜佑美をちらっと見た。
「どうして折れたことが分かるんです?」
「骨が突き出してるからよ、小田!」

苦悶しながら亜佑美が叫んだ。
「さっさとここを離れなさい!」続ける。「あたしが押し止めておくから!」
さくらがにやっと笑って敵に連射を浴びせた。「カッコいいこと言わないでください」

さくらが被弾して仰向けに倒れる。
亜佑美は手を貸しようがなく、身を低くして敵に銃口をめぐらして撃った。
血にかすんだ目を通して、さくらが最後の手榴弾をハーネスから取りだすのが見えた。

激烈な銃撃戦となる。
亜佑美とさくらは、どちらも何も考えず、なかば這い、なかば相手を引きずって浴びせられる銃弾から逃れようとした。
自分たちがどこに向かっているのかも分からないまま、ふたりは身を転がす。

抱きあったふたりのあいだには、緑色をした滑らかな楕円形の手榴弾があった。
「小田…」「石田さん…」

153名無し募集中。。。:2017/06/01(木) 21:39:57
急に壮絶なのがキター!!!……

154名無し募集中。。。:2017/06/02(金) 01:28:18
すげえなあ皆それっぽいんだよな

155名無し募集中。。。:2017/07/03(月) 12:48:31
新たな刺客が送り込まれたな…

156名無し募集中。。。:2017/07/29(土) 19:22:37
http://stat.ameba.jp/user_images/20170725/23/morningmusume-10ki/b4/2e/j/o0480064013990569119.jpg
まさきのミリタリールックに笑う画像

157名無し募集中。。。:2017/08/12(土) 07:56:46
まりまーZERO 道重部隊が壊滅させられたシーンのイメージ
https://youtu.be/A9a-1KCzxrs

158名無し募集中。。。:2017/08/13(日) 07:35:34
8/11(金/祝)佐藤優樹/牧野真莉愛生写真『“Hello! Project ひなフェス 2017”佐藤優樹/牧野真莉愛ライブバージョン』
http://www.helloshop.info/photo/20170808_107944.html
http://www.helloshop.info/wp-content/uploads/2017/08/2d28d2a02b583ffd6e4422f7046de70d.jpg

159名無し募集中。。。:2017/08/22(火) 19:32:31
>>158
買った買った

160名無し募集中。。。:2017/10/08(日) 02:41:43
小説読んでた頃楽しかったな
だーさく編も読みたいぜよ

161名無し募集中。。。:2017/10/11(水) 20:50:13
フリーランスの暗殺者になった鞘師のスピンオフでも練ろうかな

162名無し募集中。。。:2017/10/18(水) 19:22:31
どうぞどうぞ!!
フリーランスの暗殺者とはまた物騒なw

163名無し募集中。。。:2017/10/26(木) 14:28:25
スーパーマリオの新作が
まりあのオデッセイに空目した

164名無し募集中。。。:2017/10/28(土) 13:23:59
エログロ描写濃いめのスーパーまりあオデッセイ

165名無し募集中。。。:2017/11/05(日) 22:19:55
ガンスリンガーガールズというアニメがここの小説と近くて面白い

166まりあのオデッセイ ACT Ⅱ:2017/12/24(日) 13:23:43
ドゥカティの後輪で砂利と赤土を飛び散らしながら、真莉愛は縁石を跳び越えた。
走りながら右のハンドルバーにあるボタンを押す。
呼び出し音が一度鳴ってすぐ黒木は応答した。
「黒木だ」
「先生」真莉愛は報告した。「ターゲットがいる場所へたどり着くため、ちょっと独創的なルートを選んでいます。
警察に邪魔立てしないよう伝えてくださると助かります」
「任せてくれ」黒木は答えた。

真莉愛はスロットルを全開にし、太い後輪でアスファルトを焦がしながら走った。
ドゥカティは直線道路では素晴らしい力を発揮する。
時速180キロ近いまずまずのスピードを軽く引き出し、逃げるターゲットとの距離を詰めつつあった。

真莉愛は耳にはめているブルートゥースのイヤホンのスイッチを入れた。
「佐藤さん?」
優樹は頭にデビッドクラークの緑色のヘッドセットを装着し、口の前の小型マイクに答える。
「望ましくない状況に思えるんだけど?」口を利く暇さえないと言いたげに不機嫌な声だ。

特大の青いダッフルバッグをヘリコプターの後部座席に放り投げる。
操縦席に乗り込み、無線を操作しながら言った。
「時間を節約しろとは言ったけど、派手にやり過ぎよ」

「おっしゃるとおり…」障害物を機敏に避けつつ、幹線道路と平行して延びる道を走りながら真莉愛は言った。
「まりあ、感じよくやろうとしたんですよ」と、ため息をついた。「すごく頑張っちゃいまりあ」

優樹は眉間にしわを寄せて、コレクティブレバーを引いて草地からヘリコプターを離陸させた。
機体はダウンウォッシュから脱するとすぐに飛び立ち、速度を上げる。
「追いかけていくから、ターゲットを見失わないようにしてよ」
優樹の声に心配そうな響きが交じった。「聞こえてる、まりあ?」

「はっきり聞こえてます!」強い風を顔に受けつつ、真莉愛はブルートゥースの通信機に叫んだ。
時速200キロ近くで突き進んでいるので、周りはぼやけた染みにしか見えない。
2車線の道路に車が並んでゆっくり走っていたが、真莉愛は難なく車の間を縫って進んでいた。
体重を左右に振り分け、ジグザグのダンスをするようにすり抜ける。

スロットルをひねって加速し、身体を傾けてターンを決めるたびに、膝のわずか数センチ下を道路がかすめる。
真莉愛に匹敵するライディング・スキルを持ち合わせている人間はほとんどいないだろう。

危険なターゲットを追っているという事実がなければ、走りを楽しめたかもしれない。
逃走するバイクにひたすら視線を向けていたため、背後からタイヤを軋らせて迫るSUVに轢かれそうになるまで気づかなかった。
「く!!」真莉愛はごくりと喉を動かし、トランジット・レザージャケットの下からグロックの床尾に触れる。

サイドミラーに映るSUVのぎらぎら光るラジエーターグリルがどんどん大きくなる。
助手席の窓からサブマシンガンの短い銃身が突き出ていた。
「あんまり気は進まないけど」真莉愛は激しく右に身体を傾けて、金属のフットレストでアスファルトを引っかきながら急カーブする。

グロックの銃弾全てを開かれている窓めがけて撃ち込んだ。
助手席側のフロントガラスが真っ白になる。マシンガンは窓から外へ転がり落ち、助手席の男の両腕がぐたりと風に揺られた。

167まりあのオデッセイ ACT Ⅱ:2017/12/24(日) 15:31:42
優樹はぎりぎりまで機体を下げ、自然の地形の高低に合わせて飛ぶ匍匐飛行をしていた。
低く速く飛行する。このテクニックはヘリコプターが近づく音を木や地形で隠せるという利点もある。
優樹はテクニシャンというよりアーティストのようにヘリコプターから出せるだけのスピードを引き出した。

「尾行されてます!」通信機を介して真莉愛の叫び声が聞こえた。
優樹は歯を軋らせた。こうなることを予想していなかった自分を呪った。
長銃で――安全な距離を置いて――ターゲットを仕留めるはずだったのに。
どうやらターゲットは予想以上に狡猾で簡単には仕留められそうにない。
また上層部に叱られることになる、と優樹の直感は告げていた。

「何台か猛スピードであんたの800メートル後ろにいる」優樹は言った。
吹きつける風にかき消されないよう真莉愛は大声で応じる。「このままじゃ逃げられちゃいまりあ!」

「追手は任せなさい」優樹は続ける。「ターゲットを取っ捕まえて」
「了解!――」
「あ、まりあ」
「はい!?」
「バイクに乗っている時、事故に遭っても、死亡率は車に乗っている時より6倍高いだけだから」
「はい!?」
「張り切ってどうぞ!」
真莉愛は派手にクラクションを鳴らしながら地面を強く蹴ってドゥカティを旋回させた。
頑丈なブーツを履いていてよかったと思った。

真莉愛は広い芝生を猛然と突っ切る。最短距離で遅れを取り戻すためだ。
青信号が目に入り交差点に飛び込んだ。
南には絡まり合ったスパゲッティのような高速道路の複雑な迷路の入り口がある。
自分が逃亡者だったらそこへ逃げ込む。ターゲットも高速道路に逃げ込むはずだと賭けた。

何でもいいから情報が欲しくて、真莉愛は再び黒木に呼びかけた。
控え壁で支えられた陸橋と、弧を描くコンクリートの出入り道路が目の前に迫っていた。
「先生!衛星画像でどっちに行けばいいか教えてくだちゃいまりあ!」

「西だ!西!」イヤホンから黒木の緊迫した声が流れた。
「ターゲットの姿ははっきり見える。ここからじゃ手出しはできんが、呑気に飛ばしてやがるぜ、この野郎」

「そのまま見失わないで」真莉愛は続ける。「出入り口のチェックを!」
速度計に目をやると針が190キロを超えて揺れ動いていた。
ガタガタ揺れながら進んでいるトレーラーを内側車線から追い抜く。
大型トレーラーの風圧に押されてぬいぐるみのように飛ばされそうになったので時速220キロを出して急いだ。

突然、黒木の取り乱した声が真莉愛の耳に響いた。
「別動隊がターゲットに近づいてる…びびらせちまったようだ…引き返してくるぞ!繰り返す!お姉ちゃんのいる方向へ引き返してくる!」
「反対車線から?」
「同じ車線の真っ正面からだ、お姉ちゃん!」と黒木。
「対向車の流れに突っ込んでってる。勝手に正面衝突して問題をすっきり解決してくれるかもしれん」

「そんなラッキーあるわけないじゃん」黒木にというより自分に向かって、真莉愛は吐き出すように言った。
ほんの少し前までスムーズに動いていた流れが、あっという間に詰まり始めている。
想定される危険を頭から振り払うように真莉愛は風に向かって身体を倒し、さらに加速した。

168まりあのオデッセイ ACT Ⅱ:2017/12/24(日) 16:56:47
不意に、前方にバイクが見えた。
地平線の小さな点に過ぎなかったバイクがみるみる大きくなってくる。
けたたましくクラクションが鳴り響いた。乗用車やトラックがモーゼの前の紅海のように両側に分かれる。

ターゲットのバイクと真莉愛のドゥカティはどちらもおよそ時速120キロで走行していた。
すぐにすれ違う瞬間が訪れるはずだ。
真莉愛は無意識に腿に力を入れてタンクを締めつけていた。
グロックの弾を撃ち尽くしたせいで選択肢はほとんどない。

車の流れが分かれて広い高速道路に空間が生じ、突進する2台のバイクは今まさに交わろうとしていた。
ターゲットはハンドルバーに身を乗り出すほど前傾姿勢になっている。
真莉愛の姿を見るなり、即座に敵と認識した。

強く吹きつける風に歪んだ男の顔には引きつった笑いが張りついていた。
向き合って走るバイクがどちらも時速120キロで走っていれば、100メートルの距離を埋めるのに2秒もかからない。

真莉愛は後頭部から特殊なワイヤーを抜き放った。
掴んでいる右のハンドルバーに体重を預けると同時に敵のバイクとすれ違った。
ふたりの膝と膝はわずか数センチしか離れていなかった。

目には見えない極細のワイヤーがターゲットの身体と交わった瞬間、真莉愛は震動を感じた。
だが、この速度で走行中に振り返れば転倒してしまう危険がある。
おのれの狙いの正確さを見届けることはできなかった。

何台もの車が急ブレーキをかける甲高い音が響き、高速道路の流れが完全に止まった。
真莉愛はさらに100メートルほど流してから中央分離帯でドゥカティのタイヤを横滑りさせて停まる。

事情を知らないパトカーが真莉愛の背後に滑り込んで停車した。
怒り狂った番犬さながらに警官が吠える。「そこを動くなよ!」
真莉愛はドゥカティにまたがったまま両手を上げた。

「説明させてください」真莉愛は両手を上げたまま振り返り、強い口調で告げた。
警官はがなった。「そこに倒れてる首なし死体が何者か、説明してくれるってのか!?」

ほどなくして“組織”の後始末があり、優樹と真莉愛はようやくのことで外部との接触を許された。
優樹が目をこすり、歯の治療痕を数えられるくらい口を大きく開けてあくびをした。
「言いたくはないけど」優樹は手の甲を口にあて、あくびを全身の伸びに変えた。「今回のミッションは穴だらけだったね」

真莉愛は迷彩柄のバックパックからプロテインバーを取り出し、袋を歯で噛み切った。
「久しぶりですもん。仕方ありません」プロテインバーを平らげながら真莉愛は優樹を見つめた。
ふたりとも、まだゴールまで何キロも残っているのに体力を使い果たしたランナーのようにため息をついた。

その時、殺風景な部屋の真ん中に置いてある黒電話が鳴る。
真莉愛がハンズフリー通話のボタンを押した。
「黒木だ」ふたりとも返事をしなかった。「聞こえるか、お姉ちゃんたち?」

「いつもどおり、もったりした、間抜けな声に聞こえます」優樹がわざとらしく大きくため息をついた。
暗号化されたレーザーバースト信号による声なので嘘ではなかった。

「よし、次のミッションだ」

169名無し募集中。。。:2017/12/24(日) 21:42:42
クリスマスプレゼントをありがとう

170名無し募集中。。。:2017/12/24(日) 23:06:56
久しぶりにキター!

171名無し募集中。。。:2017/12/25(月) 14:32:02
きみがこのスレに夢中になってしまっても
当局はいっさい関知しないからそのつもりで

172名無し募集中。。。:2017/12/27(水) 20:48:22
ちなみに書いてる最中に頭に浮かんでいるのはこんなメロディー
https://youtu.be/e-jhL4RbyWs

173名無し募集中。。。:2018/01/09(火) 07:12:25
よこやんは血にまみれた自分の手を洗い続ける…
新人アサシンの通過儀礼ですな…

174名無し募集中。。。:2018/01/12(金) 23:45:42
ドラクエ6にあったなそういうの

175名無し募集中。。。:2018/02/03(土) 07:40:09
まー「はいプレゼント」
まり「あ!これ欲しかったやつ!」
まー「ブレードはセラミックだし、カーボンファイバー製だから探知機にも引っかからないよ」
まり「ありがとうございます!」
という物騒なプレゼントでしたとさ

176名無し募集中。。。:2018/02/08(木) 22:54:45
こんなイメージで映像化してもらいたい
https://youtu.be/7SXucZp5J4w

177名無し募集中。。。:2018/02/18(日) 18:53:36
敵を倒したものの重傷を負ってしまったまりまー
そんなラストシーンを思い描いていたら泣けてきてしまった…



真莉愛は息を吸った。それを肺にとどめて全身に力をこめた。
家を焼く炎に煌々と照らされる。

家が燃え落ちる音と、優樹の喘鳴だけが続くなか、夜の空高く、灰と煙の黒い柱が伸びていく。
それは長い腕のようにも見える。優樹が真莉愛を、真莉愛が優樹を求めて伸ばす腕のように。

真莉愛は空を見上げた。視界の端に月がある。
まりあから離れていってしまう…。それとも、まりあを先導してくれようとしているの…?

真莉愛は優樹の傍らにひざまずいた。
柔らかい土の上でよかったと真莉愛は思う。
優樹の身体の下に広がる真っ赤な血もこれならそうとは分からない。
猛る炎に照らされれば、血ではない何かの滲みだと思えてしまう。

息はあった。しかし、かすかだ。
「佐藤さん」優樹の耳に触れるほど口を近づけて真莉愛はささやいた。
優樹のまぶたが開いた。「なあに、まりあ?」かすかな声だった。

「心配いりません」真莉愛は身を乗り出して優樹の頬にキスをすると、地面に寝そべり、その肩に頭をすり寄せた。
死につつある優樹ではなく、星空の下で居眠りをする優樹に寄り添うかのように。

優樹は微笑む。「心配いらないよね」
血と煤にまみれたひどい有り様のふたりはお互いの顔を見つめた。
優樹はまだ笑っている。

ほんのつかの間、時が立ち止まり、仲間たちの姿が見える。
抱き合い、笑い合った。

何よりも真莉愛は願った。
目を閉じる時を迎えても、一緒にいられますように。
ふたりでいられる時間の終わりが来ても、一緒にいられますように。

横たわる優樹に向かって真莉愛は言いかけたが、すでに優樹は息を引き取った。
その顔は安心しているように見て取れた。
だから、「愛しています」とだけ言った。
大事なのはそれだけだ。

すべてがぼやけた。真莉愛は優樹の手を固く握りしめて笑い声をたてた。
目を閉じると星が瞬きだした。
傷口を押さえていた手を離す。
すべての動きが止まった。




178名無し募集中。。。:2018/02/21(水) 14:27:52
まりまーサーガ終わってしまうのかい…

179名無し募集中。。。:2018/04/18(水) 20:11:31
組織に裏切られたまりまーの復讐劇「まりあのバリスティック」構想中

180名無し募集中。。。:2018/04/19(木) 18:23:03
マジか!

181名無し募集中。。。:2018/04/21(土) 22:14:36
秋ツアーDVDのone two threeでこのスレ住人的にうれしい場面があったね

182まりあのバリスティック:2018/05/04(金) 20:48:22
【プロローグ】

金澤朋子は自分の車で煙草を吸っている。窓は上まで閉まり、紫煙が立ちこめている。
朋子は催涙ガスのことをふと思い出す。これが初めてではない。最後でもない。

催涙性薬品がまかれると、角膜の神経を過度に刺激する。目玉が釘で刺されたような痛みだ。
激痛、涙、くしゃみ、咳、そして真っ暗闇。

“組織”の訓練所。
朋子は同じチームの連中とともに、最初のチームがガスを浴びるのを見ていた。
ガスにさらすのは新米たちをタフにして一人前の暗殺者に育てるためのはずだった。
だが現実にはただ単に新米たちをくじけさせただけだ。

全員が悲鳴をあげ、自分の目玉をかき出そうとした。ミミズのようにのたくった。
朋子はそれを見て、バカな奴らだと思った。みな同じ説明を受けていた。
痛みはあるが、おさまるのを待てばいいだけだと。
30分後にはなんともなくなる。30分などあっという間だ。

やがて朋子がガスを浴びる番がまわってきた。
熱いガスに目を焼かれ、肺に針を刺されたような鋭い痛みがあった。
パニックを起こし、床に崩れ落ちた。さっきのミミズどもと同じようにのたうちまわった。

チームの何人かはガスの作用で死んだ。原因不明の喘息症状と、お偉方は言った。
信用できるだろうか?たぶん新しい成分の有害ガスを実戦で使う前に実験していたのだ。

そんなことは初めてではない。最後でもない。
あらゆる無意味な悲劇の裏には、そのデータを収集して記録する人間たちがいるのだ。

朋子もクリップボードを持っている。自分が記した日誌を見おろす。
そのとき、工作用粘土のように見えるソフトボールくらいのかたまりがフロントガラスに落下し、へばりついた。

タイマーと起爆装置が包みこまれた粘着爆薬だと朋子が判断した瞬間、目のくらむ白光を発した。
運転席に座ったまま、爆薬の圧力波がフロントガラスに蜘蛛の巣状のひび割れを生じさせるのを見た。

朋子は頭部を馬に蹴られたような衝撃を感じた。
コードネーム“ローズクォーツ”の意識と生命が完全に途絶した。

183名無し募集中。。。:2018/05/05(土) 02:12:24
新作来た!

184まりあのバリスティック:2018/05/05(土) 14:41:16
【第1部】

夢も見ずに熟睡していた牧野真莉愛はびくりと目を覚ました。
佐藤優樹は胸を真莉愛の脇に押しつけてじっと横たわっている。
やがて目を真莉愛に向けて言った。「久しぶりだったね…」

真莉愛は微笑んだ。「まりあも満足しちゃいまりあ…」
真莉愛は自分がレズビアンであると思ったことはない。
異性愛者か同性愛者、はたまた両性愛者なのか、わざわざ時間を割いて考えたこともない。
そうしたレッテル貼りには興味がないのだ。優樹も同じ考えだった。

真莉愛にとっては、優樹の身体は温かく柔らかく、寄り添って横たわるのはなかなか気持ちがいい。
そして人間的にも、優樹となら同じベッドで目覚め、朝食をともにしてもいい、と思える。
それが大切なことだった。

ふたりは覚めきらない頭で起き上がり、朝の支度に取りかかる。
まずは家の周囲に取りつけた電池式防犯センサーのチェックだ。何者かが半径7メートル以内に侵入すると警報が鳴る。
同時に、家の前庭と裏庭にひとつずつ設置した高感度ビデオカメラが作動する。
さらに玄関上にも3つ目のカメラがあり、どれもカメラ本体はカモフラージュで覆われ、レンズだけが外に出ている。

毎秒1枚、低解像度の写真が撮影され、パソコンのハードディスクに保存される仕組みだ。
それからさらに玄関には重量センサー内蔵のマットが敷いてある。
センサーをかいくぐって侵入しようとしても、115デシベルの警報が鳴り響く。

優樹と真莉愛はそれぞれのセキュリティ装置を解除して、やっと朝食の準備に取りかかった。
用心深いなどというレベルではない。被害妄想だ。
ど田舎の隠れ家に1ミリの隙もない備えをしているのには理由があった。

「牛乳切らしてるから、まりあ売店まで行ってきます。あそこなら7時開店だし」
優樹の返事を待たずにくるりと向きを変えた。
ブーツをはき、バッグとヘルメットをつかんで玄関を出ていく。

真莉愛がバイクに乗り、アクセルグリップを握ったとき突如、早朝の寒風を轟音が包みこんだ。
F-15戦闘機が谷筋をなめるように低空で飛来する。
「え!?」隠れ家に投下された爆薬の猛烈な衝撃波に真莉愛はバイクとともに吹き飛ばされた。

185まりあのバリスティック:2018/05/05(土) 16:56:07
少女はようやく自分の名前を思い出した。
森の奥に身を隠し、疲れ果てていたときには、名前は記憶の彼方に消えてしまった。
岩場から這い出して森に入ってからというもの、自分の名前も、どこから来たのかも分からずにいた。

弱った腕と脚を動かして、怯えた顔で何度も何度もうしろを振り返った。
名前――それを口にする気力もないが、少なくとも名前を思い出せた。
それだけで気分はいくらか高揚したが、それも束の間のこと。

自分がどう呼ばれていたのかが分かったら、今度はそれ以外の答えも見つけなければならない。
疑問だらけ。分からないことだらけだ。

木の洞のなかでうずくまり目を閉じた。これ以上ないほど身を縮めて、じっとしていた。
まりあ。何度か口に出して言ってみる。
口から出てくるその言葉は弱々しく、かすれていて不気味に響く。

ここに来てから、いまの自分の声を別にすれば、誰の声も耳にしていない。
木々のなかでさえずりあう鳥の声が聞こえるだけだ。
地面に落ちていた大小さまざまな枝で、それなりに身を隠せる場所をつくった。

身を守れる――そんなわけがないことは、ほんとうは分かっている。
木の枝で身を守れるなんて。襲ってくる動物がいたら一巻の終わりだ。

それでも、ひとりになれて、隠れられて、近くの小川の水も飲める。
4本足の動物に襲われるか、2本足の動物に襲われるか。安心はできないが他にできることもない。

目を閉じて眠ることにした。
身体を丸めて横向きに寝て、頬を地面にぴたりとつける。
近づいてくる足音は聞こえなかった。にわかづくりの小屋にあいた穴からなかを覗きこむ目にも気づかなかった。
小屋から離れていく男の手に携帯電話が握られていることにも気づかない。

186まりあのバリスティック:2018/05/05(土) 17:43:24
まぶしい光と心電計の絶え間ない電子音に、目を覚ました。
腕には何本ものチューブが刺さっている。暴れて、叫びたい。
だが、その思いと、鏡に映る自分の姿はまるで違う。

身じろぎもせず静かにベッドに横たわる若い女。
なぜか棍棒で殴られて狩られたアザラシの赤ん坊を連想した。
折れた骨はつながり、運動機能は徐々に回復していたが、精神状態は限りなく不安定だった。

全身が冷たいが、手だけがやけに温かい。まるでさっきまで誰かに握られていたみたいに。
目の前に人影が浮かび上がり、明るくなったり暗くなったりした。

真莉愛は暗闇に落ちてはまた覚醒するということを繰り返していた。
清潔だが、冷たい。壁の白さ、光の白さと同じくらい冷たい。

目を動かすとカラフルなライトがついた機材が見える。
きょろきょろすると自分を見つめていた女の深く優しげな瞳と目が合った。
大きな目をした卵形の顔が黒髪に縁取られている。肌は磁器のようにつるりとしていた。

白衣を着ていて、赤い唇が優しい曲線を描いている。
真莉愛は信じられない思いで彼女の頬に手を伸ばし、確かめようとした。
そうする前に、そっと手をつかまれる。彼女の指は温かく、力強い。

「わたしは山木梨沙」と彼女は言う。心地よく、どこか浮世離れした声だった。が、まだ話は終わっていない。
「あなたを回収してから72時間経過している」

鼓動が激しくなる。逃げなければならない。
身体が思いどおりにならず、鈍かったが、無理やり動いて点滴をむしり取った。
リクライニング・チェアベッドから抜け出そうと、足をやみくもに動かし、揺らし、うめいた。

山木梨沙と名乗った女は真莉愛を止めようとはしなかった。むしろ心配そうに見ていた。
「おとなしくしていたほうがいい」言い含めるように話した。
真莉愛は視界をはっきりさせようとまばたきを繰り返した。

梨沙はかがみ、真莉愛に顔を近づけ、なだめるように言った。「まりあちゃん」
名前を呼ばれ、梨沙の顔を見た。
「力になりたいの、まりあちゃん」よく聞かされる台詞だ。

だが、梨沙は自分で言ったその言葉を本心から信じているようだった。
「あなたにもわたしの力になってもらいたい」

187名無し募集中。。。:2018/05/07(月) 12:46:11
山木さん…何者なのか…

188名無し募集中。。。:2018/05/24(木) 00:00:53
見てない間に新作きてて嬉しい

189名無し募集中。。。:2018/07/22(日) 22:42:05
娘の新両A面がこれでもかというほど新作のテーマソングにうってつけですねえ…

190まりあのバリスティック:2018/07/29(日) 16:38:40
力になる…?一瞬、そうしたいという誘惑に駆られた。
だが自己防衛の本能が真莉愛の脳に甦ってくる。
わたしは拐われた…。それが分かるぐらいには頭がはっきりしてきた。ここから逃げなければ。

金属棒が2本、かろうじて見える。ドアの取っ手らしい。
真莉愛はそこに向かって走った。
すると驚いたことに、目の前でドアが勢いよく開き、真莉愛は白い床に思いきり転倒した。

白衣を着たいくつかの人影がきびきびと接近してくる。
真莉愛はまだ立ち上がれない。這うように前腕を使って前に進んだ。
全身がずきずきと痛むが、徐々に下肢も動きはじめる。
背後から梨沙の声が聞こえる。「行かせてあげて」

屋内監視を目的とした部屋の中で、何人もの人間がいくつもの画面を観察していた。
何人かの視線が真莉愛に向けられる。脱走しようと無駄にあがき、這い、よろめき、足を引きずる真莉愛の一挙手一投足を見つめている。

真莉愛は歯を食いしばった。思いどおりにならない身体に苛立ち、やっとの思いで先に進んだ。
つまずき、転び、そのたびに不屈の闘志で立ち上がる。
足を一歩踏み出すごとに目が慣れてきて、身体もコントロールできるようになってきた。

歩調を速めて前へ前へと進む。
黒ずくめの守衛らしき男のそばを通り過ぎる。男の腰には拳銃が見えた。
だが、全力で階段を上ろうとする真莉愛を制止しようともしない。

「その子に触らないで」梨沙の声がする。背後にいる。あとをつけてきたのだ。
金属の傾斜を越えると、まばゆい陽光の下に出た。手をかざして光を遮る。陽光はまだ目に障る。
ここは…?真莉愛は歩く速度を緩めながら周囲を見回した。

歩道や芝生、低い木やベンチがあり、鳥の声も聞こえる。
そこにいるのは真莉愛だけではなかった。職員や技師…なんと呼べばいいかは分からない。
何人かが訝しげに真莉愛を見つめたが、ほとんどの者が真莉愛の闖入に関心がないようだった。

真莉愛はふたたび前進した。ようやく、低い壁に目の焦点が合う。
一方に数機のヘリコプターが見えた。
真莉愛の心は砕けた。こんなところから脱出できると思うのはとんでもない馬鹿だけだろう。
ここは要塞だ。

壁の上に立ち、絶望に身体を震わせていると、梨沙が現れた。
真莉愛は自分の足元を見た。足は――真莉愛自身も――足場から半分はみ出している。
四肢はまだ思うようには動かない。自分の自由意思で飛び降りるか、あるいは足を踏み外すか…。

跳ぶというアイディアは魅力的だった。
「まりあちゃん」梨沙の声がした。振り向いて梨沙を見る。
「わたしの役目はあなたを守ること」と梨沙は続けた。背筋を伸ばし、穏やかな物腰で。

「話を聞いてくれれば理解してもらえると思う。そこから飛び降りれば何も分からないまま死ぬことになる」
「ここはどこ?…わ…わたしは…だ…誰なの…?」真莉愛は壁から降りないまま梨沙に訊ねた。

191名無し募集中。。。:2018/07/30(月) 12:06:19
キマシタワー!!!

192名無し募集中。。。:2018/08/07(火) 14:43:18
まりあ…

193名無し募集中。。。:2018/08/25(土) 09:51:07
新作カモン!

194名無し募集中。。。:2018/08/27(月) 10:07:02
復讐を誓うまりあ
https://stat.ameba.jp/user_images/20180827/00/angerme-ss-shin/40/87/j/o0810108014255094364.jpg

195まりあのバリスティック:2018/10/14(日) 21:51:24
【第2部】

真莉愛は、自分が地面から持ち上げられ、何本もの手で高く担ぎ上げられるのを感じた。
遠方から、息せき切った叫び声が聞こえる。
いや違う。遠方ではない。近い…だが、水中でそれを聞いているような感じだ。

そして突然、耳に溜まっていた血が流れ出て、その声がはっきり聞こえるようになった。

自分は敵に捕らえられ、戦利品のように頭上に掲げられて、運ばれているのだろうか…?
真莉愛は拳銃を抜こうとしたが、手首を誰かにつかまれた。

戦闘服の、燃えてなくなった隙間から冷たい空気が入りこんでくる。
そのあと、自分が硬い地面に下ろされたのが分かった。

「まりあ!」顔の前で誰かが叫んだ。「まりあ、まーの声が聞こえる!?」
このときになってやっと真莉愛は、教会の鐘のような耳鳴りがしていることに気づいた。

「ひどい怪我」別の声が聞こえて、冷たい水が顔にかけられるのが感じられた。
顔面にこびりついた血が洗い流される。
「我慢して」はっきりと聞き取れたその声は道重さゆみの声だった。

さゆみは傷口をふさぐために、真莉愛の顔にワセリンを過剰なほどたっぷりと塗りつけた。
そしてハーネスから取り出した圧迫包帯を両目を覆うように巻いた。

「伏せて!」優樹の叫び声が聞こえて、身体をひっつかまれる。
「道重さん、敵は迫っています。視認できる距離まで」また別の声が聞こえる。鞘師里保だ。

さゆみは里保と優樹に周辺防御の態勢をとらせながら、無線送信に取りかかろうとする。
「くそ!」里保は怒声を発し、アサルトライフルを構えた。

すでにこわばっている背筋に力をこめて、上半身を起こした姿勢を保つ。
「さあ、きやがれ!」フロントサイトに集中し、里保が発砲する。
敵が地面に転がり、倒れながら、こちらに手榴弾を投げつけた。

「やっさん!」優樹は弾倉の残弾を敵に浴びせかけてから、里保を引き寄せた。
手榴弾が爆発し、さゆみが腹部に破片を浴びた。
「まずいことになったの…」苦悶しながらさゆみが言う。「置いていきなさい…」
腰のあたりから腸の一部がはみ出していた。

196名無し募集中。。。:2018/10/14(日) 23:03:24
待ってました!

197名無し募集中。。。:2018/12/22(土) 15:15:54
何回死ぬねーん!!(嬉)

198名無し募集中。。。:2019/02/11(月) 19:34:21
ほんとうの黒幕が分かったときのまりあのシークエンス
(ニコニコしながら)「残念です。あなたを1回しか殺せないのが」

199名無し募集中。。。:2019/03/21(木) 08:33:56
このスレの存在を知ってるとミリタリー系のゲームがはかどるよね
まさきのインテリジェンスを表現しにくいのが惜しいが

200まりあのバリスティック:2019/04/28(日) 11:33:54
何度目かの衝撃を感じたとき、真莉愛の右脇腹の低い位置で何かが防弾ベストを貫通した。
強烈な痛みは腹腔に血が溜まるにつれて、たちまち耐えがたいものになる。
銃声と爆発音がすぐ近くで炸裂している。それがだんだん小さくなり、心地よい声になっていく。

その場から逃れようと勢いよく飛びのいたところで真莉愛は目を覚ました。
そしてカウチから転げ落ちていないことに、いつものように驚いた。
実際には小さくピクリと動くだけだということは経験から分かっている。
生々しい過去から目覚めるときは、毎回決まって同じで、記憶という夢幻状態がプツリと途絶えたとき飛び起きるのだ。

真莉愛は落ち着いてゆっくり深呼吸をして、激しく脈打つ鼓動を鎮めようとした。
「深呼吸をして、まりあちゃん。大丈夫かな?」梨沙の声が薄暗い部屋の向こうから聞こえる。

心臓がどくどくと鳴り、手が震え、胸に冷たい汗をかいているが、真莉愛は感情を押し殺した。
「水を持ってきましょうか?」梨沙が言う。「いえ。いい。大丈夫」真莉愛が答える。

カウチから両脚を下ろすと、背中と脇腹が強張っていて、つい顔をしかめた。
催眠状態から目覚めたあとは、全身が凝っていて、順応するためにしばらく時間が必要だった。

記憶を取り戻すために過去へ退行するのは、これで5回目だが、今回は何かが引っかかりすっきりしなかった。
「鞘師…さんが…」
梨沙がノートを開き、記録しようと身構えた。
「鞘師里保、暗殺部隊きっての凄腕ね」梨沙はノートに素早く書きこみ、パラパラとページを遡る。

「鞘師里保のことは、今回初めて口にしたのかな」
真莉愛は懸命に記憶をたどった。口にしたことがあったか?思い出しても口にしなかっただけか?
梨沙は猛然とメモを取ったが、片手を上げて口を開いた。
「思い出したことを話して。あれこれ考える必要はないの。ただ思い出したことを口にすればいいのよ」

いちいちを記録されることに、真莉愛は懐疑的になっていた。
感情のひとつが浮上してくる。激しい怒りだ。
真莉愛は唸るように唇を歪めて、勢いよく手を突き出すと、梨沙の柔らかく脆い喉をつかんだ。
このまま気道を握り潰してやる。そうしたい気持ちはあった。だが、しなかった。

「大丈夫よ」梨沙はすぐに守衛に向かって叫んだ。
叫べるくらいには息ができているのだから、梨沙は危害を加えられているわけではない。
それが分かるくらいには、ここの警備員たちは利口だろうか?真莉愛はそんなことを考えた。

梨沙は平然としているが、手に伝わってくる脈拍は冷静さを装っているだけだと分かる。
「どうしてそんなに攻撃的なの?」
「…攻撃的な人間だから…だと思う…」
「質問を変えましょう。その攻撃衝動は“あなた”のもの?」

自分の身に何が起こったのか。何をされたのか。
真莉愛の口は真一文字に結ばれ、鼻息は荒かった。
しかし、やがて視線を落とし自分の手を見つめると、ゆっくりと指を開き、梨沙を解放した。

梨沙は喉をさすり、自分の手の届かない距離に身を引くだろう。
真莉愛はそう予想していた。だが梨沙はそのどちらもしなかった。
代わりに微笑んで真莉愛の手を握った。「一緒に来て。見せたいものがある」

201名無し募集中。。。:2019/04/28(日) 15:18:50
GWに急にキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

202まりあのバリスティック:2019/04/28(日) 17:18:03
真莉愛は博物館を訪れたことはない。というより、学校らしきものに通ったことすらなかった。
にもかかわらず、梨沙に案内されて通ってきた数々の部屋は、その両方を思わせた。

注意深く分類され、解析されるべき資料として、おびただしい数の展示ケースがある。
図書館のような空気がありながら、同時に俗世から隔てられたような雰囲気を与えていた。

ガラス製の透明な壁に貼り出されている1枚の写真に真莉愛は見入った。
自分が写っている。幼い自分だ。
近づいてよくよく調べてみると、この区画は真莉愛の人生の奇妙で不穏な“スクラップブック”だと分かった。

少女時代の古いポラロイド写真は自然な色合いを失い、黄色に褪せている。
真莉愛の様々な顔写真の膨大なコレクションだった。
いくつかには扇情的な見出しが特筆大書されている。作戦名と死者数。任務の詳細。武器を持っている真莉愛自身――。

挙げ句に、数世紀前まで遡る一族の家系図らしきものまである。
家系についてなど、真莉愛は何も知らなかった。
下腹部が冷たくなるのを感じた。「これはいったい…。あなたは何なの?ストーカーなの?」

「あなたのことなら、すべて調べてある」梨沙は答えた。穏やかな口調と態度だった。
「出生記録から医療記録。心理プロファイル、セロトニン・レベルまで」
そう言って、つけ加えた。「あなたがしてきた他傷行為も」

真莉愛は愕然とし、吐きそうになったが、同時に梨沙の話に心をつかまれてもいた。
梨沙は方向転換し、別のコレクションのほうに無造作に歩いていった。
暗殺部隊の仲間たち。そう聞かされても、その言葉――その名前――は何の意味も持たないと同時に、いくつもの予兆をはらんでいた。

「殺し屋たち。部隊は壊滅した。わずかな生き残りはいたけれど」間を置いてつけ加えた。「あなたは生き残りよ」
「人殺しだと…。そうか、わたしをそういう目で見てるのね」
「あなたは大勢の命を奪っている」その言葉にはいかなる非難もこめられていなかった。
梨沙にとって、それは単なる事実でしかないのだろう。

「思い出せなくても、過去は消えない」梨沙は真莉愛に歩み寄る。
好奇心から訊いているようでもあり、挑発しているようでもあった。「わたしを殺したい?」

返事はせず、回れ右して、部屋の物色を再開する。
1枚の写真に目を落とした。鳥肌が立つほど見覚えがあるはずなのに、思い出せない。

女が写っている。車椅子のその女は、唇の端が歪み、愁いを帯びた笑みを浮かべていた。
その集中した表情から、撮影者以外の何かを見つめているように見える。
「…佐藤さん…」その言葉は余韻を持って漂い、真莉愛の身体に沁みこんだ。

203名無し募集中。。。:2019/05/11(土) 16:53:38
期待

204名無し募集中。。。:2019/05/20(月) 22:07:26
マリーア様「殺しますよ、きえぃぃ」

205名無し募集中。。。:2019/06/24(月) 07:15:39
新たな刺客が3人きたぞ・・・

206まりあのバリスティック:2020/08/22(土) 10:58:06
そのジムは車5台分のガレージを改造したものだった。
トレーニング用の様々なマシーンが設置されている。

真莉愛はグレーのTシャツ、グレーのヨガパンツという服装で自重エクササイズをこなした。
そして重いサンドバッグを相手に殴ったり蹴ったりしたあと、登攀用ロープに向かう。

ガレージの天井は3メートル弱なので、それほど高くはない。
だがロープの間隔は1メートルもないので、登るのはかなり難しい。
真莉愛は左右の手に手袋をはめてから1本ずつロープをつかみ登りはじめた。

片手で自分の身体を引き上げながら、もう1本のロープをつかんだ手を上にずらす。
足は垂らしたままで、肩、腕、背中の筋肉を駆使する。
天井に達すると、1本のロープを両手でつかみ、するすると下りる。
それを限界まで繰り返した。

膝に手をついてしゃがみ、荒い息を整えていると、警護官の男がにやにやと笑いながらジムに入ってきた。
「運動の時間は終わりだ。着替えて部屋に戻れ」

地下の廊下の照明が真莉愛の首筋の汗をきらきらと光らせる。
警護官は馴れ馴れしい態度で話しかけてくる。
「ちょっとは愛想よくしたらどうだ?こっちは親切にしてるだろう?」

真莉愛は、目は前に向けたまま歩き続けた。
無視されることに気を悪くしたふうもなく警護官はあからさまに真莉愛の肢体をじろじろと眺める。
「性悪女が」

真莉愛は自分にあてがわれた部屋でシャワーを浴びて着替えた。
監視カメラで何人もの警護官が見ているだろうことは承知している。
だが、どうしようもなかった。

そして別の警護官に、別の部屋へ連れていかれる。
梨沙はすでに中央のテーブルについていた。
真空断熱カップがふたつ置いてある。
梨沙は研究者らしい白衣を着て、厚いフォルダーに片手を載せていた。

飾り気のない実用的な眼鏡で真莉愛を見てから、ボールペンを口元に近づける。
「まりあちゃん、体調はいかが?」

207まりあのバリスティック:2020/08/22(土) 11:26:36
真莉愛はテーブルの向かいに座った。
「今日は遅かったのね。時計がないからどれくらい遅いのかは分からないけど。
外はもう暗い。いつもはもっと早いわ」
真莉愛はカップを手にしてアイスティーを一口飲んだ。

「デートの約束でもあるの?」
梨沙は冗談めかして微笑んだ。
「かもしれない」真莉愛はにこりともせず応じる。

「外出にはわたしの許可が必要だし、そんな書類はどこにもないようだけど」
梨沙はまだ微笑んでいる。
真莉愛が何も答えなかったので、梨沙は言った。
「時間は大切だものね。さっそくはじめましょ」

真莉愛はうなずき、窓の外の木立が風に揺れているのを眺めた。
梨沙がテーブルに置いたリモコンでデジタルレコーダーを起動する。
「今夜は76回目の面談。2時間ほどかかる。終わったら部屋に戻っていいわ」

「部屋?監房でしょ?」真莉愛が言う。
梨沙はため息を漏らした。
「拘禁用に造られた部屋だということは事実だけど鉄格子はないわ。
夜に鍵をかけるのはあなたの安全を考慮してのことよ。
昼間は施設内を自由に歩き回れるはずよ」

真莉愛は口を尖らせて言い返す。
「警護官に一挙手一投足を見張られながらね」
「警護官といってくれてほっとした。きつくあたってると聞いたけど」

「全員じゃない」真莉愛が目を伏せる。
「いやらしい目で見てくる奴だけよ」
それを聞いて梨沙が眉をひそめた。
「誰?プロ意識がないわね。交替させるわ」

真莉愛は顔の前で両手を振った。
「そんな必要はない。あんな男たち、まりあにとっては“無害”だから」

208名無し募集中。。。:2020/08/23(日) 18:07:30
更新キタ━━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━━!!!!

209名無し募集中。。。:2020/08/24(月) 07:09:56
おお!つづき(゚∀゚)キタコレ!!

210名無し募集中。。。:2020/09/04(金) 17:49:09
職人キター

211まりあのバリスティック:2020/09/22(火) 13:36:41
【第3部】

地下拘禁室から100メートルほど離れたところに6人の女がいた。
土砂降りの雨に打たれながら、遠くに見える建物を目指し、山腹を登っていく。

建物の明かりが暗視ゴーグルを通して見えた。
樹木に隠されるような位置に屋敷はある。
正面に通ずる2車線の九折の道に差しかかり、楓が握りこぶしをあげた。
一行は即座にその場にしゃがむ。

声を出さないようハンドサインで楓が指示を出す。
玲奈と知沙希が西に離れていく。
ほまれと愛生は東に向かった。

莉央に手招きをして、楓とふたり、濡れた樹木の蔭に陣取るよう告げる。
最大限の効果をあげるため、3方向から屋敷に接近するのだ。

楓は濡れた落ち葉に沈みこむように伏せながら、スナイパー・ライフルの2脚を引き出す。
望遠照準器で守衛詰所をのぞいた。
「ひとり」歩哨の側頭部に狙いをつける。

莉央がヘッドセットのスイッチを入れる。「位置についた」
「私設車道、位置についた」イヤホンからほまれの声が聞こえた。

裏の森をパトロールしている動哨にライフルの照準を合わせている知沙希からも応答がある。
「ターゲットひとつ。捉えている」

捕捉できていないサブジェクトは屋敷の外にはいないことを確認し、楓が言う。
「突入準備…」

屋敷の防御はかなり厳重だと、あらかじめチームには伝達してある。
楓は不安を振り払うように頭を振った。

「3…2…1」
楓が「1」と言った直後に、ターゲットを照準器に捉えていた3人が、サプレッサーで減音されたライフル弾を発射した。

正面ゲートの歩哨の首ががくりと折れ、守衛詰所の床に倒れる。
同時に森の動哨と私道の歩哨も、水浸しの落ち葉の上に前のめりに倒れた。

全員が身を起こし、屋敷に接近する。
真莉愛奪還の強襲作戦がスタートした。
「まりあ、待っててよ」楓が走りながら叫んだ。

212名無し募集中。。。:2020/10/09(金) 22:27:21
いいよいいよ

213名無し募集中。。。:2020/10/13(火) 06:38:37
15期が登場してる!

214名無し募集中。。。:2020/10/13(火) 16:15:37
https://www.instagram.com/saganokan/
倉樽他の人に比べて圧倒的に写真掲載数少なくてwwww
今回3位以下も結構モデル採用されてるから
2位のビジュアル見てヤバイって事で保険かけられたんじゃねーのwwww
朝日奈央は何やっても下品にならない
あの回はらむたん回が何故かお蔵入りしてねじ込まれてる
その後らむたんだけは別枠で放送
毎回4人に確認する通例からいくと
らむたん以外の3人が何かしらの都合で出れなくなったんだと思う
江渡尾島玉川はお気に入りメンバー

215名無し募集中。。。:2020/11/22(日) 23:01:23
更新うれP


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