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SSスレ「マーサー王物語-ベリーズと拳士たち」第二部

969 ◆V9ncA8v9YI:2019/06/26(水) 13:11:34
さぁ、あと一息だ。
そう意気込んで足を踏み込もうとしたその時、カノンは身体がズシンと重くなるのを感じた。
異変は重さだけではない。 悲鳴を上げてしまいそうな程に頭が痛むし、手足には殆ど力が入らない。視界もボヤボヤと霞んでいく。
カノンにはこの症状に心当たりがあった。

(エネルギー切れ?……)

もう何もする気が起きず、油断すれば意識まで断たれてしまいそうなこの感覚はエネルギー切れに違いない。
しかし、宣言してからは58秒の猶予があったはず。 まだ58秒に達していないのに何故動けなくなってしまったのか?
立ってられないカノンに対して、モモコがその解説をし始めた。

「2つの誤認があなたをそうさせたの。」
(誤認……)
「1つは時間感覚の誤認。 カノンちゃん、どうせ、まだ30秒くらいしか経っていないとでも思ってたんでしょ?」
「え……」
「あー返事はしなくていい。そこのハルナンに答えてもらいましょ。 ねぇハルナン、カノンちゃんが58秒って言ってから倒れるまで何秒かかった?」

指名されたハルナンはドキリとした。
ここで答える義務は無いが、同士のカノンに真相を伝えないのは心苦しいため回答してしまった。」

「……50秒。」
「!?」
「その通り〜。じゃあなんでカノンちゃんが20秒も誤認しちゃったか分かるかな〜?シンキングタイムスタート!いぃ〜〜ち!にぃ〜〜い!」

モモコがわざとらしく長めにカウントしたのを聞いて、カノンはハッとした。
そういえば先ほどもモモコはゆっくりと数を数えていた。
そのカウントに引きずられて、カノンは無意識のうちに実際の時間よりも遅く数えてしまっていたのである。

「気づいたようね。それが1つ目の誤認。」
「で、でも!」
「んん?アーリーちゃんどうしたのかしら。」
「それでも50秒だったらまだ58秒に達してない!カノンさんが倒れた理由にならない!」
「そ。2つ目は自己評価の誤認。アーリーちゃんの言うとおりよ。」
(自己評価!?)

カノンには全く見当がつかなかった。
自分のことは自分がよく分かっているはず。
いったいモモコは何を言っているのだろうか。

「カノンちゃん。返事はなくて良いからよく思い返してみて。
 あなたはその必殺技を実践で使ったことがある?
 また、必殺技の最中に負傷して血を流したことはある?
 お仲間のハルナンですら痩せてるカノンちゃんを知らなかったところを見ると、訓練でしか試したことが無かったんじゃない?」
「!!!」

全てがモモコの言う通りだった。
必殺技「泡沫」は敵のいないトレーニング中にしか発動させたことはない。
そのため、その状態で怪我をしたことなんて一度もなかったのだ。

「無傷で58秒動けるのならば、血をダラダラ流し続けてる今はもっと短い秒数しか動けないに決まってるじゃない。
 まぁ、それでも50秒も頑張れたのは立派だと思うけどね。」
「……」
「でも、もう動けない。 理由は2つの誤認。ね、良い教訓になったでしょう。」


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