したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。

SSスレ「マーサー王物語-サユとベリーズと拳士たち」

903名無し募集中。。。:2016/06/08(水) 22:29:15

ここからの出来事は全て一瞬だった。
見えたのは、2人のアイナとユカニャ王、倒れたビター・スウィートの2人だけ。

黒髪のアイナが軽く腕を上げて構えると、金髪のアイナの脚に力が入る。
力は足の親指から発して膝、大腿、腰で前進する力に変換され、爆発的なスピードが生まれる。

もう次の瞬間には金髪アイナのジャマダハルの切っ先は、黒髪アイナの左胸に到達していた。

胸当てを貫き、服の繊維を切り裂いて進むジャマダハル。
その切っ先は、服を抜けて肌に触れ、表層組織を掻き分ける。
毛細血管が破壊され、鮮血が外へと溢れ出す。

だがその刹那、黒髪のアイナの目がカッと見開かれる。

何年も待ちわびたこの瞬間。
忌まわしき運命を越えて、今アイナの闘志が燃え上がる。
 

両手で胸を刺すジャマダハルごと腕を取る。

切っ先を外し、そのまま飛びつくように地面を蹴る。

右足は大きく振り上げて踵落としを後頭部へ、

同時に下からは渾身の左蹴り上げが、顎を目がけて加速する。

全力で腕を取られた金髪のアイナに避けることは不可能。

天と地から迫りくる、殺気をはらんだ風圧と戦慄。

次の瞬間、金髪のアイナの頭部は上下同時に、最大級の衝撃と共に蹴り込まれた。

因縁も、運命も、思い出も、後悔も、執念も、責任も、全て乗せて、

まるで大顎を開けたワニの如く、強烈で残酷に頭蓋骨を噛み砕く。

そして両脚は頭部を挟んだまま、体重を預けて身体ごと地に落とす。

それは因縁を断ち切る、とどめのギロチンであった。



素手だからこそできた、一度きりの大技。

仕掛けられた相手は問答無用で夢の世界へと連れ去られ、二度と戻ることはない。

黒髪のアイナが研鑽に研鑽を重ね、この日、このチャンスのために、磨き抜いてきた秘奥義。

その名も「夢王」、ここに完了。

904名無し募集中。。。:2016/06/08(水) 22:31:23


終わった。
長い戦いが、今終わった。

ユカニャ王は未だ信じられないといった表情で目を見開いている。
それは倒れたままのモエミーとアサヒも同じだった。

黒髪のアイナは、ずっと、ずっと、この一撃に賭けていた。

いくら鍛えても、常人がオレンジに長期戦を挑むのが不利なのは自分が良く分かっていた。
集中力と動体視力が増大し恐怖心もないのだから、一度外してしまえば最後、2度目は通用しない。
だからこそ、オレンジの隙をついて一撃で確実に葬り去る必要があった。

ユカニャ王が悲しい事件でその力を失ったように、
オレンジの弱点は恐怖心のなさと、その力への驕りにあるとアイナは考えた。
特に使い続けている金髪のアイナなら尚更だ。

だからあえて攻撃を受け、自分の方が強いと自覚させ、愛用の武器すらわざと捨てて丸腰になったのだ。
そうすれば金髪のアイナには必ず油断が出る。
だが、それは一度きり。そのチャンスに決めきらなければ自分の負けであり、死だった。

果たして、金髪のアイナはフェイクも入れずに全力で心臓を狙ってきた。
突進の狙いさえ分かれば、ベクトルをずらして一瞬なら隙を作ることができる。

そして一撃必殺の「夢王」を叩き込んだのだった。


それは怖ろしい賭け。まさに命懸けの作戦だった。
勝負が終わっても、未だに黒髪のアイナは全身から冷や汗が止まらず、荒い息を吐いている。

どんなに怖くても、あきらめない。

最期まで希望を捨てず、心で勝つ。

これが黒髪のアイナの、たったひとつの作戦だった。


倒れた金髪のアイナ。もう動くことはできない。
ユカニャ王が近付くと、その身体はサラサラと灰になって崩れてゆく。
アトリウムに一陣の風が吹くと、その灰も風に乗って散っていった。

こうして、数年前からの因縁の全てが終わったのだった。

905名無し募集中。。。:2016/06/08(水) 22:35:02



「アイナはこれからどうするの・・・?」
「さあ、まだ何も決めていないな」
「もし、もし良かったら・・もう一度・・」
「いや、それはダメだよ、ユカニャ王」

ユカニャ王の申し出に、アイナは首を振ってきっぱりと断った。

「一連の事件の原因は全て私にある。迷惑をかけた責任は取らなくてはならない」
「・・・その気持ちだけ頂いておくよ、ありがとう」

そしてアイナはいずこかへと旅に出た。

ユカニャ王は忘れないだろう。
オレンジの運命に翻弄された一人の戦士のことを。
そして本当の実力を身につけ、オレンジの運命に打ち勝った、誇るべき友のことを。

さようなら。
そしてありがとう、アイナ。




全てを終えて、ユカニャ王は玉座で物思いに耽る。

今回の一連の事件のこと。
奇しくも、「ジュースへの決別」という同じ選択をしたアイナとKAST。
開発中の"NEXT YOU"。
そして宿敵"ファクトリー"。

KASTと、果実の国の未来のために、
王として取るべき選択は。

窓の外には曇り空が広がっている。

大きく息をつくと、ユカニャ王はゆっくりと目を閉じた。


(終)

906名無し募集中。。。:2016/06/08(水) 22:38:37
以上です
お付き合い頂きましてありがとうございました

907名無し募集中。。。:2016/06/08(水) 23:59:34
何故ユカニャ王は力を失ったのか?
開発中の"NEXT YOU"とは?
アイナと再び出会う事はあるの?

気になることは沢山あるけどまずは完結乙でした本編の物語が進めばまた新たな外伝も出てくるのかな?

908名無し募集中。。。:2016/06/09(木) 22:04:19
上二つは本編に記述がありますね
最後のはどうでしょうね



ちなみにつかぽんには「オレンジジュース」という持ち歌が本当にありますw

909 ◆V9ncA8v9YI:2016/06/10(金) 01:23:53
外伝さん、お疲れ様でした。
緊迫感のあるバトルシーンが楽しめただけでなく、
「KASTが居なくなったら国防はどうなるの?」という本編のツッコミ所を補っていただいたことについても嬉しく思ってます。

アイナやビタスイが本編に出る事は有りませんが、ユカニャ王は重要な役回りで再登場する予定です。
その際には今回のお話を意識してしまうかもしれませんね。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板