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SSスレ「マーサー王物語-サユとベリーズと拳士たち」

520 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/25(金) 08:29:27
フクの視線の先にいるのは、ハル・チェ・ドゥーだった。
そう、ハルに球を投げることこそがアヤチョ打倒の唯一策だとカナナンは考えていたのである。
鉄球がヒットすれば、ハルナンとハルという"愛すべき相手"を失ったアヤチョは意気消沈するだろうし、
仮にアヤチョがハルをかばうことが出来たとしても、それで肉体にダメージを与えることが出来る。
どちらに転んでもコトは有利に運ぶし、そうしない手はないとフクも思っていた。
……球を投げる寸前までは。

(待って、もしここで投げたら、私は……)

フクはハッとした。
今から自分は、無抵抗の仲間を傷つけようとしていることに気づいたのだ。
それはまさにアヤチョがこれまでやってきたことと同じ。
正さなくてはならない存在と同じ過ちを犯そうとしている。
明確な意思を持ってこちらに攻撃してきた時のハルならともかく、
今のハルはか細い声で呻いているだけの無力な状態。
どうしてここで投げることが出来ようか。
ここで同志を傷付けて、どの口で立派な王になると言えるのか。
そう考えたフクは握っていた球を床へと落とす。
握るべきものは、他にあるのだから。

「え?え?……なに?なにがどうしたの?」

ここで困惑したのは、ハルを守ろうと飛び出したアヤチョだ。
絶対的な正解である投球を放棄することが彼女には理解不能だったのだ。
だからこそアヤチョはパニックを起こし、
フクが近くまで接近していることにも気付けなかった。

「アヤチョ王。」
「ぎゃあ!なに!?」
「握手を、しましょう。」
「え?え?え?」

混乱しているところにいきなり両手を掴まれたので、
アヤチョは何が何だか全くもって分からなくなってくる。
そしてフクはそんなアヤチョをなだめるように、言葉を続けていく。

「我がモーニング帝国では握手が最上級の愛情表現です。アンジュ王国もそうですよね?」
「そうだよ!国民はアヤと握手すると凄い喜ぶ!だからなに!?」
「良かった、分かっているじゃないですか。」
「はぁ!?」
「これからもハルナンやハルと同じくらい、国民に愛を与えてください。
 私もそうします。モーニング帝国帝王として。」
「!?」

ハルナンがこの戦いで果たしたいと考えていた使命を覚えているだろうか。
それはフクの得意とする3つの技を削ぎ落すこと。
フク・ダッシュは削れた。
フク・バックステップも削れた。
だが、この"フク・ロック"だけはあとちょっとのところで削りきることが出来なかった。
だからこそ、この局面で2人だけの個別握手会が開催されている。


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