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SSスレ「マーサー王物語-サユとベリーズと拳士たち」

258 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/24(水) 18:10:04
訓練場に降臨したのはマーサー王国の食卓の騎士が一人、クマイチャンだ。
これだけ大きいのだから間違いようがない。
彼女がここにいる理由については全くわからないが、
少なくともクマイチャンのターゲットがサヤシだけでは無いということはすぐに分かることになる。

「ぬあああああ!!」

クマイチャンは一瞬にしてフクのいるところまで到達し、自慢の長刀を地へと振り下ろす。
でかい図体なので動きは鈍いかもと期待したが、そんなことはまるでなかった。
身体の大きさに比例して脚も規格外に長いため、ただの一歩が非常に大きいのだ。
そして斬撃による破壊力も化け物級。
全長3mに及ぶ長刀の総重量は人間が扱う剣の比ではなく、たった一撃で床をぶち抜いてしまう。
フクらが咄嗟に危険察知して回避していなければ、今頃は床と同じようにグシャグシャにされていたのかもしれない。
こんな恐ろしい化け物からは、さっきのサヤシのように逃げ続けるのが大正解なのだが
フクとタケは先の戦いで疲労しているため、それも難しそうだ。
クマイチャンの放つ重圧で身体が鉛同然に重くなったのもここで効いてきている。
では対話でなんとかするべきか?
平和的解決を望むのが得策なのだろうか?
おそらくはそれも無理だ。
何故かは知らないがクマイチャンは殺し屋のような眼で自分たちを睨みつけている。
そんな相手に何を言えば許してもらえるのか、フクには思いつかなかった。
憧れの食卓の騎士にやっと会えたというのに、その食卓の騎士にこれから殺されると思うと涙も出てくる。
フクに出来るのは死を受け入れる覚悟をすることくらいだ。
ところが、アンジュの面々は別の覚悟をしていたようだった。

「リナプーとメイメイは配置に!タケちゃんは身体を休める!」
「!?」

カナナンがクマイチャンに立ちはだかるのを見て、フクとサヤシは驚愕する。
見るからに勝てそうもない敵を相手にして、いったい何を考えているんだろうかと思ったが
カナナン以外の番長もやる気十分なのを見て、更に驚かされる。

「メイメイ、役に入る準備はええか!?」
「当然。私はプリマドンナよ?」
「リナプーは全力で脱力するんやで!」
「まったく無茶苦茶なことを……ま、やるけど。」

もはやアンジュの行動は信じられないどころの話ではない。
周辺国に生きる者であれば誰もが食卓の騎士の噂を耳に入れているはず。
そんな相手には自分たちが束になっても
敵わないことくらい、馬鹿でも分かるのだ。
頭がクラクラしてくるフクに対して、隣で座るタケも声をかける。

「フクちゃん、ラッキーだったね。」
「え!?」

この最恐最悪な状況でラッキーとか言い出すタケを見て、フクの混乱はますます加速する。
窮地に陥るあまりとうとうおかしくなったのかとも思ったが
タケにはそう言うだけの確固たる理由があった。

「マロさんのせいでさ、食卓の騎士の中でもクマイチャン様だけには詳しいんだよ。
 他の化け物と敵対するよりは対策しやすいと思わない?」


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