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SSスレ「マーサー王物語-サユとベリーズと拳士たち」

172 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/04(木) 11:00:13
サヤシの刀が速いだけではないことを、剣を通じてアユミンも理解する。
アユミンの大太刀「振分髪政宗」と比べると小ぶりだというのに、サヤシの刀はぶつけられてもビクともしない。
体幹がしっかりしているというのもあるが、要因としては居合術の精度が極まっていることの方が大きかった。
彼女は幼少の頃から地元ヒロシマ地方で、居合の達人である叔父に稽古をつけてもらっていた。
居合は鞘の中で刀を滑らせて、抜刀時にいかに強く速く引き抜くことが出来るかが大事なのだが
そのいろはを徹底的に叩き込まれたのだ。
免許皆伝し叔父にから居合刀「赤鯉」を譲り受けた時には、一族自慢の赤鯉女子になっていたと言う。
そして、サヤシの魅力はそれだけではなかった。

「次はこっちから行かせてもらうけぇの。」

そう言うとサヤシは一瞬にしてアユミンの視界から消え去った。
もちろん本当に消えた訳ではない。
地面に背中から倒れ込んでは、その勢いを回転力に変換し
起き上がるとともにアユミンの右側へと回り込んだのだ。
これはブレイクダンスと呼ばれる舞踏の一種を応用したもの。
サヤシはダンスによって予測不能なまでに動き回り、且つどの体勢からも抜刀することが出来るのだ。
アユミンがサヤシの存在に気づくより速く、胸に目掛けて刀を振るう。

「終わりじゃ!!」
「ひえっ!」

死に物狂いで避けるアユミンだったが、訓練時に模擬刀を扱うサヤシとはスタイルが異なりすぎたために
対応しきれず胸を斬られてしまう。
前にエリポンにもやられた箇所なので、ダメージの蓄積は相当なようだ。
だがサヤシ自身はこの一撃にあまり満足していなかった。

「ん?本気で胸を切り落とすつもりで斬ったんじゃが……久々の真剣で腕が落ちたか?
 訓練ではフクちゃんやカノンちゃんにちゃんと当てられるのに不思議じゃのう。
 まぁ、動けなくなったところを確実に仕留めればええ話じゃ。」

胸を切り落とすなどと、恐ろしいことを平気で言い放つサヤシにアユミンはゾッとする。
今まで自分は相手を殺さないように戦ってきたが、サヤシはそう思っていないと分かったのだ。
サヤシは異常なまでに真面目でストイック。お遊びで戦いなどしないタイプだ。
ゆえに仲間であるQ期に害をなすものは同じモーニング帝国剣士だろうと容赦しないのである。
それを理解して怯えるアユミンに気づいたサヤシは、ドヤ顔で大見得を切る。

「刀は心で振るうんじゃけぇ。
 ダンスも心で踊るんじゃけぇ。
 ヒロシマ女の根性……えっと教えたるけぇ。」


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