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SSスレ「マーサー王物語-サユとベリーズと拳士たち」

10 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/02(土) 23:44:03
サユ王が策を練った翌日、王の間には件の"字の上手い研修生"が呼ばれていた。
その研修生は(大半がそうであるように)まだ年端もいかない少女であり、兵としての暦も短いため
王の間に足を踏み入れることはもちろん初めての経験だった。
その表情や小刻みに震える身体からも、不安と緊張がうかがえる。
サユはその研修生を落ち着かせるために、優しい口調で語りかける。
王は小さい女の子には優しいのだ。

「ふふふ、緊張しなくていいのよ」
「はい・・・・・・」
「ところであなた、お名前はなんて言うの?」

サユから名を聞かれた研修生は驚きのあまり、目を大きくしてしまう。
研修生にとって王とは神の如き存在であり、己の名前を知ってもらうことすらおこがましいと考えていたのだ。

「名前なんて恥ずかしいです。死んでも言えません。」
「えっ、じゃあなんて呼べばいいの?せめて苗字だけでも教えてくれないと」
「苗字ならいいです。"クールトーン"って言います。」
「クールトーン?おもしろい、ピッタリな苗字ね。」

サユの目の前にいる研修生は、見た目は小柄な少女ながらもなかなかに冷静な声色を持っている。
まさにクールトーンという苗字に相応しい。サユはそう感じていた。

「じゃあクールトーンちゃん、あなたに重要な任務を与えます。」
「は、はい!」
「その任務とは、なんと書記係でーす!」
「しょき?」

サユの思惑はこうだ。
こんど発刊される新聞に帝国剣士の訓練風景を掲載すると伝えれば、目立ちたがり屋の帝国剣士たちは全員集結するはず。
しかもその記事の元となる手記を研修生のクールトーンが書くとなれば、
なおさら恥ずかしいところは見せられないとやる気を出すことだろう。
そうなれば「サユの策」も実行しやすくなってくる。

「って言うわけなんだけど、引き受けてくれる?」
「・・・・・・」
「ふーん、なるほど」

今しがた説明した内容を高速でメモするクールトーンを見て、サユは感心する。
すべての言葉を漏れなく書き写す姿勢は素晴らしいし、字も見やすくて綺麗だ。
このクールトーンを計画に組み込んだのは正解だったことをサユ王は確信していく。

「分かりました、書記を頑張ります。でも、ちょっと不安です。」
「なにがどう不安なの?」
「メモを取るのはいいんですけど、私、文章力無いから新聞に載るのは恥ずかしいです・・・・・・」
「あーそういうこと?それなら心配しないで、優秀なライターにツテがあるから。」
「優秀なライター?」
「アンジュ王国に昔なじみがいるのよ、昔は素直で可愛かったんだけどねぇ・・・・・・」


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