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余命幾許もないミリPを>>2が看取ってくれるようです

1 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/15(日) 22:35:35 ACfA3o3Q
765ASを含むミリオンライブメンバーでオナシャス!


2 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/15(日) 22:35:52 NfcdV8M2
未来ちゃ


3 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/15(日) 22:35:55 mv07aLvc
バネPと武内P


4 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/15(日) 22:35:59 ka25TuRY
たどちゃん


5 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/15(日) 22:36:47 B.TNShlg
未来ちゃがトドメをさしてくれる?


6 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/15(日) 22:42:58 kIwdG5yc
楽しく逝けそうだけど未来ちゃは涙を堪えた後で堰を切ったように泣き出しそう


7 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/15(日) 22:43:54 Vid4dXyE
未来ちゃ「このスイッチ切っちゃったけど何のスイッチですか〜」


8 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/15(日) 22:50:52 ACfA3o3Q
未来「プロデューサーさん、退院おめでとうございます!」

未来「はい、迎えに来ちゃいました! でへへ〜びっくりしましたか?」

未来「お仕事はちょっとだけお休みをもらいました。学校もちょこっとだけお休みしています」

未来「ほら、そんなことより早く座ってください!」(車いすに無理やり座らせる音葉)

未来「タクシーは呼んでますけどもう少しかかるみたいですから、よければ少しお散歩しませんか」

未来「すぐそこの河川敷で桜がとてもきれいに咲いているんですよ、行きましょう!」(車いすを押す未来)



未来「いいお天気ですねー。プロデューサーさん、覚えてます? 私がまだ劇場に入りたての頃みんなでお花見したこと」

未来「このみさんやあずささんが酔っぱらって大変でしたよね。あの時の律子さん、怖かった〜」

未来「でも、美奈子さんが作ってくれたお弁当や春香さんのお菓子もすごく美味しくて……」

未来「えっ? 桜の感想はないのかって? え、えっとー……」

未来「……すみませーん、ご飯とお菓子の記憶しかないです」

未来「あー、プロデューサーさんひどいです! そんなに笑わないでくださいよ!」

未来「……でも、またみんなでお花見したいですね。美奈子さんに頼んでまたおいしいお弁当を」

(もう固形物は摂取できないことを告げる音葉)

未来「っ……」

未来「……ほ、ほら、桜が見えてきましたよ。綺麗ですね!」

未来「きれい……」

未来「う、うぅ……」(必死に涙を堪える音葉)


9 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/15(日) 22:53:16 7UOCI/9M
http://www.nicovideo.jp/watch/sm29142308


10 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/15(日) 23:03:03 ACfA3o3Q
未来「」(ごしごしと涙をぬぐう音葉)

未来「そろそろ、帰りましょうか。まだちょっと寒いですよね」(必死に笑う音葉)

未来「タクシーもうすぐきますから。プロデューサーさんのおうちでゆっくりしましょう」

未来「えっ? もちろん着いていきますよ。当たり前じゃないですか」



未来「とうちゃーく! はい、段差ちょっとゆれますよー」ガタガタ

未来「ごめんなさい、小鳥さんから鍵を借りてちょっとお片付けだけさせてもらいました」

未来「だ、大丈夫です! 変なものは見ていませんから!」

未来「えっと」

未来「その」

未来「……ごめんなさい、パッケージだけ」

未来「な、中身は見てませんから! あぁ、落ち込まないでください!」

未来「お、男の人はそういうものだってわかってますから!」

未来「そ、それよりいったんベッドに横になりましょう! 疲れましたよね?」

未来「はい、捕まってくださいね。よいっしょっと!」

未来「とりあえず今日はゆっくり休んでください」

未来「おかゆだったら、食べられますよね」

未来「だめですよ! 食べなきゃ元気でないですよ!」

(もう食べても意味がないことを告げる音葉)

未来「っ……」

未来「ひ、酷いですよー、プロデューサーさん。せっかく美奈子さんに教わって頑張って作ったんですから」

未来「はい。私が作りました、ちょっと自信ないですけど……食べて、くれませんか?」

未来「お願い……します」

(ゆっくり頷くP)

未来「あ、ありがとうございます!」


11 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/15(日) 23:09:29 NfcdV8M2
ちゅらい…


12 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/15(日) 23:10:36 nQyjE8ig
悲しいなあ…


13 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/15(日) 23:11:07 NNpQfVxQ
アーナキソ


14 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/15(日) 23:14:49 ACfA3o3Q
未来「はい、あーん」

未来「えっ? 自分で食べられるって?」

未来「いいじゃないですかー。私一度やってみたかったんですよ」

未来「もう一度! はい、あーん」

(ゆっくり飲み込む音葉)

未来「おいしい、ですか?」

未来「やったぁ! まだまだありますから、いっぱい食べてください!」



未来「はい、お粗末さまでした。よかったぁ、全部食べてくれて」

未来「もっと練習して、おいしいご飯作れるように頑張りますから.」

未来「えっ? もちろん明日からも来ますよ」

未来「私、プロデューサーさんとしたいことや行きたいところがいっぱいあるんです!」

未来「たくさんたくさん、プロデューサーさんに笑ってもらって欲しいんです」

未来「だからプロデューサーさん」

未来「プロデューサーさんのあと少しだけの時間、私にくれませんか?」

未来「プロデューサーさんは私を見つけてくれて、可愛い衣装を着せてくれて、輝くステージに立たせてくれて」

未来「本当にうれしかったんです。本当に素敵な奇跡のような日々でした」

未来「でも、私はプロデューサーさんからもらうばっかりで何もあげられてなくて」

(涙を堪える音葉)

未来「だから、お願いします。あと少しの時間、私と分かち合わせてくれませんか?」


15 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/15(日) 23:16:02 ACfA3o3Q
そんな未来へ、ミリPからの今際の言葉
>>14

(>>9のBGM兄貴サンクス!)


16 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/15(日) 23:16:34 ACfA3o3Q
間違えた>>17


17 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/15(日) 23:17:50 zEwEd.n.
運命の出会いを信じてる?


18 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/15(日) 23:28:54 cneW2EEc
あーもう涙が出ちゃいそう!


19 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/15(日) 23:32:17 ACfA3o3Q
(数日後)

未来「プロデューサーさん、映画面白かったですね!」

未来「千鶴さん、最近は女優として引っ張りだこなんですよ」

未来「きっかけはあの夜想令嬢の舞台でしたよねー、懐かしいなー」

未来「……そうですよ、プロデューサーさんのお仕事ですよ。みんなでシアターで祝賀会もやりましたよね」

未来「気にしないでください。わ、私だって、台詞忘れちゃったり、歌詞間違えちゃったりしますから!」

未来「あぅ、すみません。もっと練習します……」


未来「ただいまー」

未来「なんだかすっかりこの家に来るのもなれちゃいました。でへへ〜」

未来「プロデューサーさん?」

(せき込む音葉)

未来「だ、大丈夫ですか。どこか、痛いんですか?」

未来「今日はいろいろ出歩いたから疲れたんですよ」

未来「はい、お薬です。ゆっくり休んでください」

未来「私がそばにいますから」

未来「何かしてほしいこととか、ありませんか」

未来「えっ? 手を?」

未来「わかりました! プロデューサーさんが休めるまでこうしていますから」ギュッ


20 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/15(日) 23:41:30 ACfA3o3Q
(その日の深夜)

未来「」ウトウト

未来「」ウトウト

(押し殺したような呻き声を上げるP)

未来「」ハッ

未来「プロデューサーさん?」

未来「プロデューサーさん!? プロデューさん痛いんですか!?」

未来「お、お薬。えっと……」



医師の言葉『この薬は痛みはとるが、記憶の混濁や会話に不都合をきたすことも多い。あまり使い過ぎないように』



未来「うん、最後に飲んでから時間経ってるから大丈夫……」

未来「プロデューサーさん、お薬です。飲んでください」

未来「お願いです、痛いのはわかります。お願いですから、飲んでください」

(痛みのあまり歯を食いしばって口を開けられないP)

未来「お願いです! 口を開けてください!」

未来「…っ!」(口に水を含む音葉)

未来「」(薬も口に含む音葉)

未来「んっ……」(キスをして無理やり水と薬を流し込む音葉)

(薬を飲みこむP)

未来「ん、ぷはっ」

未来「はぁ、はぁ……」(口を拭って手を拭う音葉)


21 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/15(日) 23:53:18 ACfA3o3Q
P「(あれ……俺今まで何してたんだっけ?)」

P「(大学出て就職先決まらなくて)」

P「(そしたら変なオッサンに声をかけられてアイドルのプロデューサーになって)」

P「(ひっしにあちこち駆けずり回って、仕事を取るために頭を下げて)」

P「(担当アイドルが初めてCDだして)」

P「(担当アイドル……誰だったっけ)」

P「(わからない……頭がボーっとする)」

P「(とても、大切な人だったはずなのに)」

P「(いつも笑ってて、エネルギーに満ち溢れていて)」

P「(あの子と出会えたことが最高の奇跡だったのに)」

P「(なんで、思い出せないんだろう)」

P「(体が、重い)」

P「(目ぐらいなら、開くか)」


(目を開く音葉)


未来「あっ! プロデューサーさん、大丈夫ですか!? 痛くないですか?」


P「(この子は、誰だろう。知ってる子のようなきも、するけど)」

P「(でも、それより)」


未来「よかったぁ! 心配したんですよ」ニコ


P「(かわいい子だ。笑顔がとてもいい)」

P「(中学生ぐらいかな? 目もキラキラしてる)」

P「(……これが、ティンとくるってやつかな)」

P「(口ぐらいは開くかな? こんな子を放ってはおけない)」

P「(この子を……この子を俺の……)」


22 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/15(日) 23:56:32 ACfA3o3Q
P「君……」


未来「はい、なんですか!?」


P「運命の出会いを信じてる?」


未来「えっ?」


P「一目……一目見て、ピンときたんだ」


未来「プロ、デューサーさん?」


P「アイドルに、ならないか?」


未来「えっ、何、を?」


P「君なら……」



――きっと、トップアイドルに


23 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/16(月) 00:03:20 231UOjj2
未来「プロデューサーさん、何を言ってるんですか?」


未来「私はもうプロデューサーさーんのアイドルですよ?」


未来「トップアイドルにしてくれるんですよね?」ユサユサ


未来「約束、しましたよね。必ずそのステージに連れて行くって」ユサユサ


未来「なんで何も言ってくれないんですか?」


未来「プロデューサーさん」ポロ


未来「プロデューサーさん」ポロポロ


未来「プロデューサーさ……ん」


未来「やだ、やだ起きてプロデューサーさん!」


未来「まだ全然、全然返せていないのに!」


未来「なんで、なんで!」


未来「う、うあ、ああああ!」


未来「あぁ、ああ、あああああああああああああああああああ!」


(縋り付いて咽び泣く音葉)


24 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/16(月) 00:05:21 231UOjj2
未来編、終わり。
酔った勢いでスレ立てしたけど安価がよくて思わず筆が進んでしまった。


今晩中に書ききれるかわからないけれども次のキャラ>>25


25 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/16(月) 00:06:19 QiAPdgY6



26 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/16(月) 00:26:44 J0NhYqNs
竿も玉もでけえな(褒めて伸ばす


27 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/16(月) 00:36:02 LqHUhTQ.
すごく良かった


28 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/16(月) 00:39:25 231UOjj2
P「昴、キャッチボールをしようか」

プロデューサーがそうやって言い出す時、それは必ずオレが悩んでいる時だった。
学校のこと、家族のこと、仕事のこと、なぜか知らないけど最近悩むことが増えた気がする。
昔はもっと何も悩むことなく、シンプルに過ごしていた気がする。
いままでは気にしてなかったことが気になったり、腹が立ったりしてあとから後悔することも増えた気がする。

P「それは昴の心が大人になり始めている証拠だよ」

キャッチボールをしながらそんな話をプロデューサーに相談をするとそんなことを言ってくれた。
思春期っていう言葉の意味を説明しだしたプロデューサーにそれ位わかるって、スライダーを投げながら言ったっけ。
ちょっとびっくりしながらもしっかりとキャッチするプロデューサーは笑いながら謝ってきた。
そしてちょっと真面目な顔をしながらボールを投げ返してきた。

P「上手く感情の制御ができないのはしょうがないさ。子供だからってわけじゃなくて、肉体的にも精神的にも大きく変わる年頃だから」

プロデューサーの投げてきた珠は緩やかな放物線を描いている。
スローカーブだ。
学生時代野球部だったプロデューサーはこれが決め球だったみたいだ。

P「なかなか自分をコントロールできないんだよ。そのうち、いろいろなことに折り合いをつけて落ち着いてくるさ」

最近練習しているナックルカーブの握りをグローブの中で確かめる。
別にお説教されているわけではないけど、なぜかその時はちょっとムッとしてプロデューサーを驚かせようとしたんだっけ。
だけど、オレが投げたボールはすっぽ抜けて、植え込みの中に消えていった。

P「カーブがすっぽ抜けたか?」

そう笑いながら植え込みに落ちたボールを拾いに行くプロデューサーにさらにムッとしたことを覚えている。
なぜならプロデューサーとやった最後のキャッチボールだからだ。



プロデューサーはこのキャッチボールの2週間後、末期がんだったことがわかった。
もう手の施しようがないことも、あと数か月しか生きられないことも。


29 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/16(月) 00:44:42 F3kr5XOo
つれぇなぁ...


30 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/16(月) 00:46:56 231UOjj2
×なぜならプロデューサーとやった最後のキャッチボールだからだ。

○なんでこんなにはっきり覚えているかというと、プロデューサーとやった最後のキャッチボールだからだ。


31 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/16(月) 01:01:37 231UOjj2
昴「プロデューサー、遊びに来たぜ!」

P「おう、昴。いらっしゃい」

プロデューサーの病室はいつもにぎやかだ。
たくさんの花に差し入れ、百合子や杏奈の差し入れだと思う本やゲームが積まれていて、
部屋の隅にはなんだかよくわからないオブジェが置いてある。
あれはおそらくロコの仕業だろう。

昴「プロデューサー、聞いてくれよ。今度の楽天戦、ゲスト解説に呼んでもらえることになったんだ!」
.
P「おぉ、よかったなぁ! この前のコラボの仕事から野球の仕事が増えたみたいだし、仕事取ってきた甲斐があったよ」

昴「へへっ、.ありがとう。プロデューサーも絶対見てくれよな! 来週の日曜日だから」

P「もちろん。それまで……」

そこまで口を開いてプロデューサーは口を閉じた。
さすがにオレだってわかる。きっとプロデューサーはこう言いたかったんだ。


『それまで生きていたら』


だけど、口にはしなかった。
必死に呑み込んだんだ。
だからオレも気が付かないふりをした。

昴「頼んだぜ! 最近楽天調子悪いから、応援してくれよ」

P「そうだなぁ。松井の不調はでかいなぁ……」

お互いに肝心なことに触れないように話を進めた。
これが大人っていうことなのか?
本当にこれでいいのか、自分でもわからなくなってきた。


32 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/16(月) 01:13:09 231UOjj2
事務所のメンバーもプロデューサーのお見舞いにはよく行くみたいだけど、
話を聞いてみると、ほかのみんなと話す時もあんな感じみたいだ。
なるべくいつもどおりを装うとしている。
オレたちに心配をかけさせないために。

だけど、時折悲しそうな、辛そうな顔をするけどそこに踏み込むことも誰もできなかった。
今から死んでいく人に、なんていえばいいのかわからなかった。
オレよりはずっと年上だけど、まだ死ぬような年齢じゃないのに。

オレみたいなやつに「絶対トップアイドルになれる」って励まし続けてくれて。
わがままばっかり言うオレの手を引き続けてくれて。
いっつも支えてくれたプロデューサーなのに。
オレはプロデューサーを支えてあげられていない。
プロデューサーは両親を亡くしていて家族はだれもいないって言ってたから本当にひとりなんだ。
一人ぼっちで、死んでいこうとしている。


だから、オレは決心したんだ。
プロデューサーの支えになりたい。
あと少しの時間、プロデューサーを支えてあげたい。

そう決心したその日のうちに、グローブとボールを持ってプロデューサーの病室を訪ねた。


33 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/16(月) 01:25:45 231UOjj2
昴「プロデューサー?」

P「あぁ、昴か……」

最近のプロデューサーはすっかり痩せてしまった。
ほんのちょっと前までダイエットしなくちゃって笑っていたのに。
昔を思い出して涙が出そうになるけど必死にこらえて笑ってみた。
アイドルの基本だからな!

昴「プロデューサー、キャッチボールしようぜ!」

P「えっ?」

昴「頼むよ。最近誰も付き合ってくれないんだ。屋上使っていいって看護士さんに許可はとったから」

P「そうだな……体が動くうちに、やっておくか」

そういって、プロデューサーはちょっとよろめきながらも立ち上がった。
オレはプロデューサーにグローブを渡して手を引いて歩き始めた。

昴「ナックルカーブ、だいぶ投げれるようになってきたんだぜ」

P「ほんとか? かなり指の長さと力がいる球種だって聞いてたけど……」

昴「へへっ、見ててくれよ」

エレベーターを乗り継ぎ、屋上への扉を開けると空はすっかり茜色だった。
10メートルほど距離を取ったプロデューサーは腕をぐるぐる回した後、ボールを投げてきた。

昴「っ!」

以前のような球威は全くなかった。
本当に辛うじて届いてるって感じの、とても元野球部とは思えないボールだった。
プロデューサーのボールをキャッチした時のグローブ越しに感じる衝撃が好きだった。
たまに織り交ぜてくる変化球を必死にキャッチするのが大好きだった。
だけど、それはもうどこにもなかった。

昴「ナックルカーブ! 行くぞー!」

本当に泣きそうになっちゃったから必死に声を出して堪えた。


34 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/16(月) 01:37:41 231UOjj2
昴「プロデューサー」

ひゅっ、ぱしん。

P「どうした」

ひゅっ、ぱしん。

昴「オレが悩んでるとき、こうやってキャッチボールに誘ってくれてありがとう」

ひゅっ、ぱしん。

P「ん〜。なんのことかな? 俺もキャッチボールがしたかったから昴に声をかけてただけだぞ」

ひゅっ、ぱしん。

昴「それでも、ありがとう。どうしてもお礼が言いたかったんだ」

ひゅっ、ぱしん。

P「……」

ひゅっ、ぱしん。

昴「だからさ、プロデューサー。今度はオレがプロデューサーの辛いことを聞くよ」

ひゅっ、ぱしん。

P「えっ?」

昴「オレ、プロデューサーから見れば子供だけど。頼りないかもしれないけど、プロデューサーのこと、支えてあげたい」

P「昴、それは」

ひゅっ、ぱしん。

昴「プロデューサーが一番辛いのに、必死に笑ってくれて。でも、ずっとそれじゃあ苦しいだろ。せめて、オレの前だけでも辛いって言ってくれよ」

ひゅっ、ぱしん。

P「昴、俺は別に辛くなんて」

昴「そんなわけない!」


35 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/16(月) 01:49:52 231UOjj2
限界だった。
オレは10メートル先のプロデューサーに駆け寄り抱き着いた。
気恥ずかしいけど、そんなことは言ってられない。
目の前の頑固なこの人をわかりたい、わかってあげたい。

昴「死んじゃうんだよ、怖いに決まってるじゃん! 無理しないでくれよ!」

プロデューサーは引きはがそうともしなかった。
プロデューサーの胸に顔を押し付けるから、表情は見えないけれども。

昴「あと、あと少しで死んじゃう人が、なんで無理して大人をやってるんだよ」

涙を止めることができなかった。
プロデューサーの服はオレの涙でびしょびしょだった。

昴「最後ぐらい、子供でいいじゃん。泣いて、わめいて、わがまま言う子供でいいじゃん」

昴「オレが、プロデューサーの弱いところを、受け止めて見せるから」

昴「オレの前なら泣いたっていいよ、弱音吐いたっていいよ」

昴「そばにいるから。支えるからさ」

昴「お願いだから、無理をしないでくれ」

昴「一人で、死のうと、しないでくれよぉ……」

それ以上は言葉にならなかった。
ただひたすら泣くことしかできなかった。
でも、それはプロデューサーもいっしょだった。

P「昴」

そういってオレの頭を胸に押し付けるように抱きしめてきた。
オレよりちょっと低い、プロデューサーの体温が伝わってくる。

P「死にたくない。怖いよ、怖い、怖いよ……」

オレの頭にわずかな水滴が落ちるのが感じた
プロデューサーが、泣いている。
それに気づいたオレももっと泣けてきて、プロデューサーの体を強く抱きしめた。


そのまま、日が落ちるまでひたすら二人で泣き続けた。


36 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/16(月) 01:51:47 231UOjj2
そんな昴へ、ミリPから今際の言葉
>>38

文体を変えてみたら思いのほか長くなってしまった。
スレが残っていたら今夜にも続きを書きたい


37 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/16(月) 02:01:48 LTC0SI7I
最後くらい笑ってくれよ


38 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/16(月) 02:25:22 Oo66vpSQ
本当に大人になったな


39 : スノーフレーク・ロマンス :2018/04/16(月) 03:30:44 ???
なんだこのスレは、(涙腺が)壊れるなぁ


40 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/16(月) 03:44:13 Z9mOCJjs
続きが気になって成仏もできない


41 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/16(月) 05:59:01 DFFaOH2M
亡霊兄貴が逝けないから早く続き書いてあげなさい


42 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/16(月) 09:01:42 2lnR97tY
https://youtu.be/u2vohSQjSLM

ヌゥン!ヘッ!ヘッ!

ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛
ア゛↑ア゛↑ア゛↑ア゛↑ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!
ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ!!!!!
フ ウ゛ウ゛ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ン!!!!
フ ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥン!!!!(大号泣)


43 : 名前なんか必要ねぇんだよ!uVBwhGn66I :2018/04/16(月) 19:58:18 ???
昴の誕生日にまとめそう


44 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/16(月) 22:12:06 e1fZyzVA
http://sp.nicovideo.jp/watch/sm32547821
じゃ、流しますね……


45 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/16(月) 22:36:50 w.mwo8ZI
葬式でセックスして蘇生させなきゃ...


46 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/16(月) 22:45:11 QiAPdgY6
でも昴くんにキスされたら生き返るしかないんじゃないですかね(個人の感想)


47 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/16(月) 22:51:33 WPr361SY
昴くんのボーイッシュな設定に引っ張られずにゆっけさんのクリアでクッソカワイイ声を宛てたりプリムラ歌わせたりする運営ちゃほんと有能声だけで何度でも生き返れる


48 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/16(月) 22:56:30 J0NhYqNs
しんみりしちゃうかなと思って開いたら案の定、しんみりしちゃうだった


49 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/16(月) 23:04:34 .mWzbMOY
>>44
それも分かるけど>>23で流れたBGMはこっちだった
http://sp.nicovideo.jp/watch/sm32547851


50 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/16(月) 23:08:47 J0NhYqNs
本気でそっちバットエンド臭するから辛いんだよなぁ。

ビターエンドは確定的でもバットエンドではないから....


51 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/16(月) 23:23:43 231UOjj2
それから、オレはなるべく時間を作って、毎日のようにプロデューサーに会いに行った。
事務所のみんなと鉢合わせることもあったけど、だんだんそういうこともなくなっていった。
後から知ったけど、みんなを気を使ってオレが会いにに行く時間をずらしてお見舞いに行っていたみたいだった。
なんとなく、オレとプロデューサーの間に流れる空気を感じ取っていたみたいだった。

昴「プロデューサー。具合、どう?」

P「まだ薬が効いてるけど、ちょっと、痛むかな……」

昴「そっか」

それを聞いてオレは横たわるプロデューサーの胸のあたりを撫でた。
それで痛みが和らぐんだったらこの世に医者はいらないけれど。
痛みをこらえていたせいか、額にはうっすら汗がにじんでいた。

昴「プロデューサー。汗、拭いてやるよ」

P「いや、それぐらい自分で」

昴「いいから」

オレはプロデューサーの声を遮って、ベッド横の机の引き出しからタオルを取り出した。
少ししっとりしている前髪を持ち上げてそっとタオルで額の汗をぬぐった。
プロデューサーはされるがままだったけど、ちょっと恥ずかしそうだった。

P「なんか、不思議だな」

昴「何が?」

ついでに首回りも拭いてあげようと部屋の隅にある流しでタオルを濡らす。
ちょっとは気分がすっきりするといいんだけど。

P「こうやって昴に身の回りの世話をしてもらう日が来るなんて思ってもみなかった」

確かに兄ちゃん達より年上の男の人にこうやって付き添う日が来るなんて思わなかった。
でも、悪くなかった。
プロデューサーがもう少しで死んでしまうことは事実だけど。
こうやって傍で支えられることが、嬉しいんだ。

P「昴、くすぐったいって」

昴「ほら、我慢しろって。すぐ済むから」

オレはプロデューサーの首回りの汗をなるべく優しく拭いながらそんなことを考えていた。



せめて、この時間が少しでも長く続いて


奇跡が起こって、プロデューサーの病気が治ることを期待していた。


52 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/16(月) 23:26:17 QiAPdgY6
奇跡は絶対に起きないから奇跡なんだよなぁ……


53 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/16(月) 23:27:17 qE9N48lk
野球ゲームなのに悲しいストーリーやアルバムで感動させる良曲が多すぎる
https://youtu.be/CxhlbvLkpZI


54 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/16(月) 23:29:04 J0NhYqNs
もは


55 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/16(月) 23:49:44 231UOjj2
でも、やっぱり現実は何処まで行っても現実だった。

プロデューサーの病気はどんどん進んでいった。
日に日に痛みが強くなっていくみたいで、プロデューサーが笑うことも少なくなっていった。
寝返りをするのにも痛みが走るぐらいで、口数も減っていった。


末期がんの痛みは想像を超えている。
簡単に人の人格を壊してしまう。
そんな人の傍にいるのなら、覚悟しなければいけない。


風花がそうやって教えてくれた言葉を思い出す。
いつも優しい風花がいつにもなく真剣な目でオレにそう言った意味がようやく分かった。


P「うっ、ぐっ、痛い……痛い……痛いよ」

昴「プロデューサー、もうちょっとだけ我慢してくれよ。さっきの薬、もうちょっとで効いてくるから」

プロデューサーが痛みに苦しむときは傍で手を握ることしかできなかった。
何がに縋り付くようにオレの手を強く握り返してきて、ちょっと痛かった。
でも、そうすることでプロデューサーの痛みが和らぐんだったら、辛くもなかった。


P「なんでだよ……なんで、俺だけ……」

昴「ごめん、ごめんよプロデューサー」

P「ちくしょう……」

薬が効いて意識が朦朧としてくると泣き始めるプロデューサーには謝りながら
抱きしめることしかできなかった。
プロデューサーの苦しみを分かってあげられないことが悔しくて、悲しくて。
ただ謝ることしかできなかった。


ただ、それでも


この生活が嫌になるのか、プロデューサーのことが嫌いになるとか、
そう思うことは一度もなかった。


56 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/17(火) 00:20:03 TXIyQjrU
どれぐらいぶりだろうか。
痛みでろくに眠れない日が続いていたので本当に久しぶりにまともに寝た気がする。
むしろそのまま目が覚めないでくれれば……。
一瞬そう考えたが、自分の手を握るその姿を見て、考えは消し飛んだ。

P「……昴?」

昴「プロデューサー、起きた?」

昴が今日俺の病室に来てくれたのは午前中だったはず。
窓からは夕日が差し込んでいるから、軽く6時間は経っているだろう。

P「ずっと、居てくれたのか」

昴「もちろん。一緒にいるって、約束しただろ?」

P「うん……」

ちょっと疲れた感じはしているけど、昴は俺に微笑んでくれた。
癌宣告されたときは、誰にも心配をかけずに一人で死のうと思っていたのに。
まだ15歳の女の子にこんなに縋り付くことになるなんて思わなかった。
ただ、これほど苦しい日々を乗り切れたのは間違いなく昴がそばにいてくれたからだ。
昴には感謝しかない。

昴「ちょっと眠って顔色よくなったんじゃないか?」

そういって濡らしたタオルで優しく顔を拭ってくれた。
ひんやりとした感触が気持ちいい。

昴「もうちょっとしたら野球始まるぜ。今日は則本と菊池の投げ合いだから楽しみだよな」

まるで幼子をあやすみたいに、俺の頭をやさしくなでてくれる。
口調は相変わらずだったけど、所作は愛情と母性にあふれていた。


痛みで苦しい日々だけど。
こんな昴を独占できる俺はある意味幸運なのだろう。


57 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/17(火) 00:24:55 UEke4RtU
どうか逝かないで……


58 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/17(火) 00:48:10 TXIyQjrU
P「昴」

昴「ん、なに?」

夕日が差し込む病室で昴は俺に微笑みかける。
俺がプロデューサーとして駆けずり回って時には引き出せなかったその笑顔はとても美しかった。
本当に『美しい』という形容詞がしっくり来て。
気が付かなかった、昴がこんなに綺麗になっていたなんて。

P「ありがとう」

昴「なんだよ、急に」

P「ずっと、傍にいてくれてありがとう」

昴「……プロデューサー?」

不思議と痛みが消えていく気がした。
だけど、ひどく疲れた。
ちょっとだけ休みたい。

P「まだまだ子供だと思っていたのに」

昴「なぁ、何を言ってるんだよ?」

昴が俺の体に縋り付いてくる。
体は重いけれども、昴の頭を撫でるぐらいの体力は残っていたようだ。
昴は黙って撫でられながらも、潤んだ瞳で俺を見てくる。

P「昴は、もう俺がいなくても大丈夫だな」

かわいらしい女の子だと思っていた俺のアイドルは
いつの間にか美しい女性に成長していた。

昴「そんなこと言わないでくれよ! オレ、オレはまだ……」

俺の体を抱きしめてくる。
暖かく、やわらかかった。
死の際で、愛するアイドルに抱きしめてもらえる。
これ以上の幸福はないだろう。


あぁ、でも、ちょっと口惜しいな。
こうやって新しい一面を見せたくれた彼女のプロデュースをするプランが
頭の中に次々出てくる。
死にそうなのにこんなことを思うなんて、俺も相当だな。

P「昴」

あぁ、くそ。
もう少しだけ、
もう少しだけ生きたい。


もう少しだけ生きて昴を



P「本当に大人になったんだな」


トップアイドルに、してあげたかった。


59 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/17(火) 00:48:18 nueFRrvE
逝くな……越えるな……


60 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/17(火) 01:19:32 TXIyQjrU
プロデューサーはその言葉を最後に、目を覚ますことはなかった。
本当に安らかな表情で、眠るように行ってしまった。
オレはお医者さんを呼ぶのも忘れてプロデューサーの顔を眺めていた。


お葬式では事務所のみんなはボロボロと泣いていた。
ほかの事務所のプロデューサーたちも来てくれてとても悲しんでいた。
でも、オレは涙が出なかった。
とてもとても悲しかったはずなのに。

煙となって空に消えていくのを見ても
小さな箱に収まるぐらい小さくなっても
実感が全くわかなかった。


プロデューサーに家族はいなかった。
だから、プロデューサーの私物はアイドルみんなが譲り受けることになった。
オレはプロデューサーのグローブとボールをもらった。
これだけは誰にも渡したくなかったし、誰も何も言わなかった。

オレはそのグローブとボールを持って、プロデューサーとよくキャッチボールをした劇場前の広場に向かった。
グローブをはめてみると明らかにオレの手には大きすぎた。
何度も何度もキャッチボールをしたプロデューサーのボールを握ってみる。
以前教えてもらった、プロデューサー得意のスローカーブの握りを試してみる。

『ん、そうそう。その握り』

『それで、抜くようにこんな感じで……』

その時の思い出が蘇ってくる。
記憶を頼りに劇場の壁に向かって投げてみた。

「あっ……」

でもそのボールはすっぽ抜けて、植え込みに消えていった。
何が悪かったんだろう。

「……」

植え込みに落ちたボールはいつもプロデューサーが拾いに行ってくれた。
でも、プロデューサーはいない。
自分で拾いにいかないと。

「う、く、ぐすっ」

どうしてもすっぽ抜けたんだろう。
握りだろうか。
フォームだろうか。
教えてほしいけど、プロデューサーはいない。

「う、うあ、ああ」

どこにも、居ないんだ。

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああん!」


61 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/17(火) 01:21:10 TXIyQjrU
時間かかりすぎたけど、昴編終わり。
こんなスレに感想をくれてありがとナス。

明日になるけど、次のアイドル
>>61


62 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/17(火) 01:21:35 TXIyQjrU
また間違えた
>>63


63 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/17(火) 01:23:28 hLVvluhA
美奈子


64 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/17(火) 01:24:33 UEke4RtU
ホモの兄ちゃんたちはみんなのために……生きようね!!


65 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/17(火) 01:26:27 nueFRrvE
リクエストした者です
本当にありがとうございました。ボロボロ泣きました
生きようと思います(思考回路崩壊)


66 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/17(火) 01:26:59 n8PervYY
可奈


67 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/17(火) 22:16:29 /4/rMvd2
好評、絶賛(涙腺崩壊)


68 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/17(火) 22:18:36 VVYXP3h6
やっぱりカロリーの取り過ぎで…


69 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/17(火) 22:21:33 WBXdLnB2
美奈子ちゃんは病院食を作って食べさせてくれるんだけど、段々とプロデューサーが食べる量が減っていって、プロデューサーの死が近いことを察しながらも、最期まで美味しいご飯を作ってくれそう


70 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/17(火) 23:10:43 77739tGY
野球好きだと昴の話は泣け過ぎて困る


71 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/17(火) 23:18:54 32rEIEmA
続き待ってます、いつの日か世界を救うと信じて


72 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/18(水) 01:16:36 IHAz/IX6
食事で得られる幸福は手軽で、平等だ。
仕事であちこち駆けずり回り、高くもない給料に耐え忍ぶ日々でも、
腹いっぱい食べる幸福は毎日得ることができる。
それが、うまい飯ならなおさらだった。

美奈子「あっ、プロデューサーさん。お疲れ様です! 待ってましたよー」

閉店時間ギリギリだというのににこやかに迎えてくれる。
美奈子とは仕事上の付き合いなのに、こうやって仕事が終わった後に会うのも変な感じだが、
不思議と悪くなかった。

P「おう、お疲れ。よいしょっと」

店内にはもう帰る直前の客が1組居るだけだったため、テーブル席も空いていたが
厨房の中が見えるカウンター席に座る。
すっかりここが指定席になっている。

P「今日は何にするかな」

週に1度だけ美奈子の家に食事に来る日々にもすっかり慣れつつあった。
少し前、最近仕事が軌道に乗ってきてろくに食事もとらず、寝てしまうことがちょくちょくあった。
別に表情に出したつもりはなかったのだが、そんな生活をしていることは美奈子にあっさりとばれてしまった。
素直にろくに食事をとっていないことを白状すると、ものすごい剣幕で怒られてしまった。
挙句の果てにご飯を作りに行くと言い出した美奈子を諌めるのはなかなかに骨が折れた。
必死に説得して、ようやく週に1日は佐竹飯店で食事をすることで落ち着いた。

P「とりあえずチャーハンと……副菜は任せるよ」

美奈子「じゃあ、空芯菜のお浸しと木須肉なんてどうですか」

P「いいねぇ。それで頼むよ」

美奈子「はい、ちょっと待っててくださいね」

厨房にいる父親にオーダーを伝えると父親とともに調理に取り掛かっていた。
きらびやかな衣装を身にまとい、アイドルとして輝く美奈子はとても魅力的だが、
エプロンをつけて厨房というステージで踊る美奈子も違った魅力がある。

美奈子「はい、先にお浸しどうぞ。私が作ったんですよ」

カウンター越しに小鉢を差し出してくる。
割り箸を手に取り、お浸しを口に入れる。
子供のころはこういうものが好きではなかったのに、最近は無性に食べたくなる。
中華風の味付けのそのお浸しは今日一日の疲れた体を癒してくれた。

P「うまいなぁ、このお浸し」

美奈子「ほんとですか? わっほ〜い! チャーハンも今持っていきますからいっぱい食べてくださいね!」

そういいながら中華鍋からチャーハンを盛り付けているが、明らかに1人前の量ではなかった。
どうやら今日も腹がはち切れるぐらい食うことになりそうだ。
最近肉がついて気がしているから、運動しないとな。
このままじゃデブまっしぐらだ。


結局、その心配が現実になることはなかったが。


73 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/18(水) 01:18:03 IHAz/IX6
いつからだろう。
佐竹飯店に通い始めてから広がったと思っていた胃袋が縮んでしまったように物が食べられなくなった。
むしろ以前より小食になった気がする。
食べたくても、胸のむかつきがひどくて喉を通らない。
何も食べていないのに胃がシクシクと痛む。
体重もするすると落ちていく。

美奈子「プロデューサーさん、もう、いいんですか?」

佐竹飯店での食事量も日に日に落ちていった。
今日も前菜に出してくれた棒棒鶏を辛うじて食べきるのが精いっぱいだった。
美奈子に満腹であることを告げると美奈子は俺の顔をじっとのぞきこんだ。

美奈子「どこか、悪いんじゃないですか?」

P「たぶん疲れて胃が荒れてるだけだと思うんだけどな……」

美奈子「一度、病院に行ってください。診てもらったほうがいいですよ」

P「えー……病院、嫌いなんだよなぁ」

美奈子「プロデューサーさん」

何とか病院に行かない言い訳をしようとした俺を美奈子は強い言葉で遮った。
普段はあまりしない、とても厳しい目をしていた。
思わずその勢いにたじろぐ。

美奈子「行ってください。お願いしますから」

俺の目を覗き込み、有無を言わさない感じだった。
そんな美奈子に俺は首を縦に振るしかなかった。



後から思えば、美奈子はなんとなく予感があったんだろう。
俺の体がどうなっていて、どうなっていくのかを。
美奈子は俺が思っていたよりずっと聡い子だった。
客商売をする家に生まれたが故、いろんな人を見て育ってきたからだろうか。



医者「ご家族はいらっしゃらないですか?」

検査結果を聞きに来た俺に、医者から告げられた第一声がこれだった。
胃潰瘍程度に考えていた俺はあっけにとられながらも、両親は亡くなって
兄弟もいないことを告げた。

医者「そうですか……」

レントゲン写真とカルテを見返しながら医師は小さく息を吸い、
俺にこう告げた。

医者「あなたは、ガンです。スキルス胃ガンという病気はご存知でしょうか」


74 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/18(水) 01:18:04 olQPFVrQ
平和な日常を描いた後に急転直下していく流れは悲劇を際立たせるにはあまりにも効果的だと思いました


75 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/18(水) 01:21:23 IHAz/IX6
-------------------------------------------------------------------------

その日、両親には大切な仕事があると嘘をつき、初めて学校をズル休みした。
罪悪感はちょっとあったけど、今日はどちらにせよ学校に行っても勉強にならなかったと思う。

私は早足で病院に足を向けた。
真美ちゃんと亜美ちゃんのお父さんの病院だから場所はよくわかっている。
プロデューサーは今日検査結果を聞きに行くといっていた。
大したことないって笑っていただけど、私はどうしても不安をぬぐえなかった。

昔よくお店に食べに来てくれていた近所のおじさんがいた。
惚れ惚れする位いっぱい食べる人だった。
私のことをすごくかわいがってくれた。
だけど、ある日を境にそのおじさんの食事量が減っていった。
顔色も悪くなり、胃がむかつくとか、痛いとかをこぼし始めていた。
そして、あまりお店にも来てくれなくなった。
そのおじさんの病名はガンだった。
そして、1年も経たずに亡くなってしまった。
最後にあったおじさんはがりがりにやせ細り、顔色も青黒く面影はなくて
まだ小さかった私はショックで泣きでしまったことを覚えている。
そして、あの日のプロデューサーさんの症状と、顔色はそのおじさんと一緒だった。
それに気が付いてから悪い予感しかなかった。

美奈子「大丈夫。大丈夫だから……」

自分で言い聞かせながら病院への道を急ぐ。
道行く人は私がブツブツと何かを言いながら歩いているから奇異の目で見てくるけど気にする余裕はなかった。
お願いします、神様。
私の思い過ごしであってください。
お願いします。

病院の前にたどり着くと、きょろきょろとあたりを見渡した。
朝一番で病院に来たとしたら、もうそろそろ出てきてもおかしくはない。
検査結果だけ聞いたらすぐに出勤すると言っていたから。

そしてその予想は的中した。
5分も待たず、プロデューサーは病院から出てきた。

P「……」

病院から出てきたプロデューサーは何処を見ているかわからない虚ろな瞳をしていた。
ふらふらと歩きながら、私の横を通り過ぎようとしている。
私に、気づいていない。

美奈子「っ、プロデューサーさん!」

P「えっ、あ、み、美奈子、か?」

私に声をかけられて初めて気が付いたみたいだ。
こんなに近い距離に居たのに。


76 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/18(水) 01:23:51 IHAz/IX6
P「美奈子、学校は――」

美奈子「検査結果」

何かを言おうとしたプロデューサーさんの言葉を遮った。

美奈子「検査結果、どうでしたか?」

大したこと、なかったですよね。
ちょっと胃が荒れてたとか、ですよね。
もしそうだったとしたら、これからは胃にやさしい食べ物をたくさん作りますよ。
やっぱり食べなきゃ元気が出ないですから。
頑張って病気を治しましょう。

P「っ……あ、あぁ」

そんな私の淡い期待はプロデューサーさんの表情ですべてが崩れ落ちていった。

P「い、胃潰瘍、だって」

その声はとても震えていて

P「し、しばらく入院して、治療しろって」

だけど顔だけは一生懸命笑おうとしていた

P「大丈夫だって、す、すぐ退院、できるって、言ってたし。だから、大丈夫……」

それ以上聞くことができなかった。
私は返事をすることなく、プロデューサーさんに抱き着いた。

美奈子「プロデューサーさん、プロデューサーさん!」

なんて言えばいいのかわからなくて、胸に縋り付いて泣くことしかできなかった。

P「みな、こ……」

美奈子「やだ、やだよ。プロデューサーさん……やだぁ」

P「っ」

美奈子「やだ、居なくなっちゃ、やだぁ……」

P「ごめ、ん、ごめんな、美奈子」

プロデューサーさんが私の頭を抱き寄せてくれた。
私にか細い声で謝るその声色はひどく震えていた。

P「ガン、なんだって」

美奈子「うっ、うあ、うぐっ」

P「もう、手術もできないって」

美奈子「ひぐっ、えぐっ」

P「手遅れ、って、言われて……」

美奈子「あぁ、あああああああああああああああああああん!」

私は子供のように泣くことしかできなかった。
一番泣きたいのはプロデューサーさんのはずなのに。
自己嫌悪に襲われるが、それでも涙は止まらなかった。


77 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/18(水) 01:25:17 IHAz/IX6
そんな美奈子へ、ミリPから今際の言葉
>>78

(続きはまた明日……)


78 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/18(水) 01:30:05 CDxMeBos
また腹いっぱい食べたいなあ…


79 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/18(水) 01:39:17 TqijYEOQ
文豪兄貴も凄いけど安価取る兄貴もグッとくるセリフばかりでもう顔中涙まみれや。
それを文豪兄貴が思いっきり調理して、二回も目汁を出した。


80 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/18(水) 01:57:59 a4IBffps
今際の言葉を安価にしてストーリー組み立てるのって相当な縛りプレイだと思う。すごい(他人事)


81 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/18(水) 06:00:01 LnVHy1oc
カナシイ…カナシイ…


82 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/18(水) 13:54:23 YbhWwfv6
バッドエンドだとわかっていれば耐えきれないほどではない(瀕死)


83 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/18(水) 23:02:34 olQPFVrQ
おっそうだな(即死)


84 : 愛されるより 愛したい :2018/04/18(水) 23:24:52 ???
(文才に)ブルっちゃうよ…


85 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/19(木) 22:42:54 DMPGLg.s
こんなよく練られた文章誇らしくないの?


86 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/21(土) 21:53:15 KkBQDxm6
4/11(水)

プロデューサーさんがいったん退院することになった。
お仕事の引継ぎとか、身辺の整理をするためと言っていた。
ただし、食事のことや生活のことでお医者さんからいろいろ制限はされたみたい。
お薬もいろいろ飲むことになってがっくりしていた。
それを聞いて、私はもう一度入院するまでの間、プロデューサーさんのご飯は私が作ることを決めた。
夜になったらプロデューサーさんのおうちに行ってご飯を作らせてほしいとお願いした。
その日の夜ごはんと、朝や昼に食べる用の作り置きを作ると伝えた。
プロデューサーさんは遠慮していただけど、今回ばかりは押し切らせてもらった。
ご飯を作ってあげたかったという気持ちは嘘じゃないけど、それだけじゃなかった。
少しでも、一緒にいてあげたかった。
できる限りお世話をしてあげたかった。
旅立ってしまうその日まで穏やかに過ごせるように、できる限りをしたかった。

手始めにこうやって日記をつけている。
作ったメニューやプロデューサーさんの気づいたことは書き留めて、
より良い生活を送ってもらえるように頑張ろう。


4/12(木)

今日、社長に自分の病気にことを話したみたいだった。
小鳥さんと美咲さんも同席していたみたいだけど、話を聞いた美咲さんは泣き出してしまったようだ。
今のところプロデューサーさんの病気のことを知っているのは私たち4人だけ。
律子さんに言うことは決めているみたいだけど、ほかのみんなに告げるかはまだ悩んでいるみたいだった。
もし自分がほかのみんなの立場だったら伝えてほしいと思うけれど、それを無理強いすることもできない。


<今日のメニュー>
■夜
ごはん、春雨と鳥団子のスープ、炒り豆腐と卵の炒め物、クラゲともやしのサラダ
★完食。わっほい!
 ほんとはもっとたくさん食べてほしいけど、プロデューサーさんは
 これだけの食事をとるのが精いっぱいだった。
 量が採れないのであればできる限り質を高めていきたい。

■作り置き
焼きそば、肉まん、春雨サラダ


87 : 名前なんか必要ねぇんだよ!uVBwhGn66I :2018/04/21(土) 21:54:32 ???
おいしそう


88 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/21(土) 21:54:58 KkBQDxm6
4/13(金)

今日、社長と律子さんとプロデューサーさんで話をしたと聞いた。
律子さんはやっぱりショックだったみたいだったけど、あとのことは任せてほしいと言ってくれたみたいだった。
もともと、プロデューサー志望でもあった律子さんは、プロデューサーさんの仕事を一部引き継ぐつもりのようだった。
プロデューサーさんは6月のライブまでは今のままお仕事を続けつつ、律子さんと社長に仕事の引継ぎをことになった。
ライブが終わったら退職するとプロデューサーさんは伝えたけど、社長は休職扱いにしてくれると言ってくれたみたいだ。
体が治ったら戻ってこればいいって。君は必要な人材なんだって社長は言ってくれたって。
その話をするプロデューサーさんは申し訳なさそうではあったけど、うれしそうでもあった。
ありがとうございます、社長。

それと、ほかの皆への告知は6月のライブが終わるまでは伏せられることになった。
この大事な時期に動揺させたくないというプロデューサーさんの強い希望だった。
だから私にも黙っておいてほしいと頼まれてしまった。
もちろん、その約束は守るつもりだったけど、この秘密はちょっとつらいよ。


<今日のメニュー>
■夜
かにと卵のおかゆ、鳥そぼろと玉ねぎのサラダ、豚しゃぶ(梅肉ソース)
★少し苦しそうだったけど完食。わっほい!
 豚しゃぶの胡麻ソースはちょっと重くて、ポン酢は苦手って言ってたから
 梅肉ソースを作ってみたけどおいしいって言ってくれた。
 もっといろいろ考えてみよう。

■作り置き
焼きそばがなくなっていたので、なるべく油を少なくしたチャーハンを追加



4/15(日)

今日は奈緒ちゃんと歌番組の収録だった。
うちの事務所からもちょくちょく出演させてもらっている番組だ。
この番組のえらい人とプロデューサーさんは仲が良くて、よく収録の合間で楽しそうに話をしていた。
だけど、今日はその場に律子さんを同席させていた。
どこまで話をしていたのかはわからないけど、真剣な顔をして話し込んでいた。
奈緒ちゃんは「なんでウチらの収録なのに律子さんがおるん?」と不思議がっていた。
私はその質問にわからないと返すしかなかった。
ほんとはすぐにでも話してしまいたかった。
だけど、約束だから……


<今日のメニュー>
■夜
ジャージャー麺、肉じゃが、なすの煮びたし
★いろいろ調べてみたら、油を使い過ぎなければ麺料理でもいいとみたいだったので作ってみた。
 ジャージャー麺は喜んで食べてくれた。
 だけど、肉じゃがはうまく喉を通らなかったみたいだ。
 物を飲み込みづらい状態なのに、じゃかいもを大きく切りすぎてしまったのに加えて、
 ちょっと味付けが今のプロデューサーさんには辛かったみたいだ。
 作り置きとして置いていこうと思ったけど、持って帰ることにした。
 プロデューサーさんは申し訳なさそうだった。
 
 プロデューサーさんに気を使わせた上に、自分の得意料理が食べてもらえないことと、
 そんなことでショックを受けている自分勝手な自分がいることに、帰り道に少し泣いてしまった。

■作り置き
肉まんがなくなっていたので餃子と凍らせたスープを追加。
スープ餃子なら、食べやすいと思う。


89 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/21(土) 21:56:27 KkBQDxm6
4/24(火)

レッスンのためにスタジオに行くと、ちょうど美咲さんに連れてこられた
育ちゃんと桃子ちゃんにばったり出会った。
いつもだったらプロデューサーさんが学校へ迎えに行っていたのだけれど、
ふたりにはどうしても抜けられない仕事がある、とごまかしたようだった。
育ちゃんは普通だったけど、桃子ちゃんはちょっとご機嫌斜めだった。
ごめんね桃子ちゃん。プロデューサーは今日、病院に行ってるんだ。


<今日のメニュー>
■夜
一口焼きおにぎり、鰆の酒蒸し、水菜としめじのサラダ
★おにぎりは全く食べられなかった。
 醤油の焦げる匂いがどうしても受け付けなかったみたいだった。
 以前、収録で夜が遅くなった日に家まで送ってくれたプロデューサーさんに焼きおにぎりを出したことがあった。
 その時はとてもおいしそうに食べてくれた。

■作り置き
追加なし。チャーハンがあまり減っていない。
プロデューサーさんがよく注文してくれた食べ物なのに。
いい加減に以前のプロデューサーさんの体とは違うというのを受け入れなくちゃ。
わかっているつもりなのに。



4/28(土)

今日は全体練習の日。
全員は揃わなかったけど、かなりのメンバーがそろっていた。
プロデューサーさんも律子さんと社長を交えて演出家さんといろいろ話をしていた。

「最近、現場に社長や律子さんが来ることが増えたね」と琴葉ちゃんが言っていた。
律子さんはプロデューサー業の勉強をしている、社長は忙しいプロデューサーさんの
フォローをしている、と伝えた。
琴葉ちゃんもプロデューサーさんが忙そうにしているのに心を痛めていたみたいで、
少しでも楽になればいいと喜んでいた。

「プロデューサー、最近顔色悪くない?」とこのみさんが言っていた。
いろんな付き合いでお酒を飲む機会が増えて、二日酔いがひどいって言ってた、と伝えた。
しょうがないわねぇ、とこのみさんは苦笑していた。

最近、嘘がうまくなった気がする。


<今日のメニュー>
■夜
おろしうどん、ニラとたまご炒め、温泉卵と野菜餡かけ、
★以前、環ちゃんにもらったおうどんを茹でてみた。
 今日一日プロデューサーさんは忙しそうだったから、今日は気持ち悪さより空腹感が勝ったみたいだった。
 全部おいしそうに食べてくれた。
 ニラとたまご炒めはプロデューサーさんがうちのお店でお酒を飲む日に必ず食べるおつまみだった。
 ビールが欲しくなるなってプロデューサーさんは笑っていた。

■作り置き
チャーハンがなくなっていた。だいぶ食べるのに時間がかかったみたいだった。
「あんなに好きだったのに、うまく喉を通らなかった」って悲しそうだった。
ごめんなさい、プロデューサーさん。
もっと食べやすいメニューを考えないと……。
今日は春雨と胡瓜のサラダを追加。


90 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/21(土) 21:58:31 KkBQDxm6
5/3(木)

奈緒ちゃんに最近元気がないと心配される。
いつも通りにしていたつもりだったのに、感づかれてしまった。
レッスンや仕事が終わると急いで帰ること、時折泣きそうな顔をしていること。
全部見抜かれていた。
何でもないからって言っても奈緒ちゃんは食い下がってきた。
「ウチら仲間やろ? 友達やろ? 悩みがあるなら力になりたいんや」
奈緒ちゃんはそうやって私を抱きしめてくれた。

泣きそうになった。
このまま縋り付いて何もかもぶちまけてしまいたくなった。
でも、約束だから。
プロデューサーさんとの約束だから。
今は言えないけど、時期が来たら必ず話すと約束して何とか納得してもらった。

ごめんね、奈緒ちゃん。


<今日のメニュー>
■夜
ごはん、茶わん蒸し、拌三絲
★今日は特に食欲がないみたいから軽めにしたけれど、それでも茶わん蒸しと拌三絲を半分だけ食べただけだった。
 最近、暖かい食べ物を食べることもつらいみたいだった。

■作り置き
餃子が痛んでいた。
餡に使ったスパイスが以前は気にならなかったのに、今は気になってどうしても喉を通らないと言っていた。
何度も謝るプロデューサーさんにレシピを変えてリベンジします、と伝えた。
何とか、笑いながら言えたと思う。

本当はとても悲しかった。
餃子をゴミ箱に捨てるのは自分の無力を突き付けられているみたいだった。
悔しさ、不甲斐なさ、申し訳なさが混ざって、家に帰ってから布団の中でたくさん泣いてしまった。
私は本当にプロデューサーさんの支えになれているのだろうか。
もう私は■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
(以降は塗り潰されていて読むことができない)



5/9(水)

風花さんにプロデューサーの病気のことがバレてしまった。
今日は一緒に雑誌の取材だったけど、終わるなりプロデューサーの体調のことについて聞かれた。
プロデューサーが痩せていっていることと、顔色が悪いこともあって前々から心配はしていたようだったけど、
こっそりと薬を飲んでいたシーンに居合わせてしまったようだった。
元看護士の風花さんなら、飲んでいた薬がどういうものかを特定するのは難しくなかった。

プロデューサーさんと私と風花さんで今までのことをお話しした。
風花さんは黙って聞いてくれていた。
そして6月のライブまではみんなに黙っていてほしいことも伝えた。
風花さんは黙って頷いてくれた。
プロデューサーさんがちょっと席を外したとき、私のことをぎゅっとしてくれた。
頭を撫でながら「辛かったよね」って言ってくれた。

たくさん、泣いてしまった。


<今日のメニュー>
■夜
ツナと茸の冷製パスタ、キャベツのポタージュ、キッシュ
★風花さんが教えてくれたメニューを取り入れてみた。
 洋食はあまり得意ではないけれど、うまく作れたと思う。
 食事は全部食べてくれたけれど、むせてしまうことが最近多くなった気がする。
 私は背中をさすってあげることしかできない。

■作り置き
ワンタンを作ってみた。
なるべく薬味がきつくなりすぎないようにしつつ、餡は少なめにしてみた。
のど越しで食べれるぐらいのサイズにしたから、食べやすいと思う。
食べてくれると、うれしいな。


91 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/21(土) 22:00:10 .NQJ9veg
これ全部考えたのか…(驚愕)俺があんな安価取ったせいで…


92 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/21(土) 22:00:45 KkBQDxm6
5/19(土)

今日はずっとプロデューサーさんと一緒だった。
朝は真美ちゃん亜美ちゃんと一緒に次のライブの宣伝に、昼からは私だけ料理番組のゲストに出演して、
夕方からは次の公演のポスター撮影。
忙しい1日だったけど、プロデューサーさんはずっと付き添ってくれた。

そのまま一緒にプロデューサーさんの家に行く道すがら、一緒にお買い物をした。
プロデューサーさんは抵抗していたけど、変装したからとおねだりして付き合ってもらえることになった。
いろいろ食材を見ながら食べたいものを聞いてみたけど、食欲があまりないみたいで、答えは返ってこなかった。

「最近自分が食べたいものがよくわからない」

買い物を終え、プロデューサーさんの家へ向かうの道の途中で、そうこぼした。
ちょっと新婚さん気分だ、なんて一瞬でも浮かれた自分が恥ずかしかった。


<今日のメニュー>
■夜
塩焼きそば、白菜と林檎のサラダ、棒棒鶏
★ひなたちゃんからもらったリンゴをサラダにしてみた。
 最初は驚いていたみたいだけど、さっぱりして食べやすいみたいだった。
 棒棒鶏もいつものソースじゃなくてネギ塩にしてみた。
 厳密にいうと胡麻ソースじゃないから棒棒鶏じゃないんだけど、プロデューサーさんは美味しいって
 言ってくれたからよかった。
 中華料理の神様も、美味しい嘘なら、許してくれますよね。

■作り置き
追加なし。
でもワンタンはちょっと減っていた。



5/25(水)

私が食事の準備をしていると、プロデューサーさんの髪がひと房抜け落ちた。
薬の影響は聞いていたけど、目の当たりにして言葉が出なかった。
プロデューサーは「何とかほかの髪でカバーできそう」とか「ライブまで持ってくれればいい」と笑いながら言っていたけど、
それが私を気遣って言っていることぐらいはわかった。
プロデューサーだって、ショックなはずなのに。

だから風花さんがしてくれたように私もプロデューサーさんをぎゅってしてみた。
プロデューサーさんは驚いたようだけど、私を軽く抱き返してくれた。
ありがとうってプロデューサーは言ってくれたけど、私は謝りたい気持ちでいっっぱいだった。


<今日のメニュー>
■夜
冷やし中華、焼売、黒ゴマ団子
★冷やし中華は半人前、焼売も黒ゴマ団子も2個ずつ。
 以前のプロデューサーさんなら絶対に足りなかっただろうけど、今はこれぐらいが限界。
 食欲は落ちていく一方だった。
 いつかは食べれなくなる日が来ることを考えてしまう。

■作り置き
ワンタンがなくなっていた。
辛い一日だったけど、これだけは本当にうれしかった。


93 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/21(土) 22:03:15 KkBQDxm6
6/3(日)

ライブが終わった。
いろいろ悩むことが多い中で私はちゃんとできたのかな。
お客さんには楽しんでもらえたのかな。

いつもはライブが終わった後、プロデューサーさんはみんなを集めて労ってくれる。
だけど、今日は言葉が出ていなかった。
いつもは大げさなぐらい褒めてくれるのに、何かを言おうとして唇が震えるだけだった。
私と風花さん以外はどうしたのかと、ざわざわしていた。
かろうじて絞り出したように「最高だった」と告げた後、手で顔を隠した。
そして、震える声で「ありがとう」と絞り出していた。

皆はその姿にちょっとびっくりしていたけど、私はその姿を見ていられなくて顔を伏せてしまった。
そんな私を風花さんは抱き寄せてくれた。
風花さん、ありがとう。


<今日のメニュー>
帰って休めと言われてしまった。
プロデューサーとして最後のお願いと言われて、頷くしかなかった。
だけど、最後だなんて言って欲しくなかった。



6/4(月)

プロデューサーさんが休職に入った。
それと同時に事務所の皆にもプロデューサーの体のことが告げられた。
奈緒ちゃんは私を抱きしめていっぱい泣いていた。
「ごめんな」っていっぱい謝りながら泣いていた。
私も謝りながら泣いていた。
約束だったから喋れなかったことを謝りながら泣いた。
奈緒ちゃんは攻めるような言い方をしてごめんと謝りながら泣いてた。
ほかの皆も、泣いていた。

明日からはプロデューサーさんは入院生活になる。
食事は病院が作ることになるから、私のこの生活も今日で終わりだ。
でも、明日からもたくさんお見舞いに行こう。
お医者さんが許してくれる限り、何かを作って持っていこう。

辛い治療の日々が始まるんだろうけれども
せめて食事の時ぐらい、幸せな時間を過ごしてほしい。


<今日のメニュー>
■夜
ごはん、火鍋
★最後の日だから奮発してくれと言われて用意してみた。
 もちろん、麻辣スープはプロデューサーさんには駄目だからスープは両方白湯だけど。
 その分、白湯スープは頑張って作って、プロデューサーさんも目を丸くしておいしいって言ってくれた。
 そんなにたくさんは食べられなかったけど、二人でひとつのお鍋をつつくのは幸せだった。

■作り置き
全部、なくなっていた。
まだそこそこ残っていたと思うのに。
聞いてみたら昨日のうちに全部食べたと言ってくれた。
私はびっくりして無理していないのかどうか聞いたけど、プロデューサーさんは首を横に振ってこう言ってくれた。

「おいしかったよ。ありがとう」

昼間たくさんたくさん泣いたのに、また泣いてしまった


94 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/21(土) 22:07:04 KkBQDxm6
-----------------------------------------------------------------------------

これ以降も俺に会いに来た日のことが差し入れの内容とともに細かく書かれていた。
だけど、目の前が滲んでこれ以上読むことができなかった。

見舞いに来た美奈子が花瓶に花を活けに部屋を出たとき、美奈子のバックが床に落ちた。
美奈子は気づかなかったようでそのまま部屋を出てしまった。
俺はふらつく体を引きずりながら、荷物を片付ける際に、この手記を手に取ってしまった。
たまたま最初のページがめくれてしまい、目についてしまった。
悪いことではあるのに、ページをめくる手を止められなかった。

いつも美奈子はにこにこと笑いながら俺に接してくれた。
まるで病気のことなど知らないかのようにいてくれた。
だが、この手記には美奈子の悩みと苦しみが記されていた。
それ以上に、自惚れでもなく、美奈子の俺に対する深い愛情に溢れていた。
考えてみれば美奈子に料理を作ってもらい始めてから、一度として同じメニューが出たことはない。
全て俺のために一生懸命考えて作ってくれていたのだ。
俺の残り少ない命を豊かなものにするために。
俺が穏やかな日を過ごせるために。
俺が少しでも幸せであるように。.

それに引き替え、俺は美奈子の愛情に応えることができていたのだろうか。
最近はろくにものを食べていない。
俺の胃はもはや食べ物を受け付けようとしてくれなくなった。
美奈子の差し入れも食べられないといって拒絶することが増えた。
美奈子も最近は気を使って手土産を持参するのをやめた。
俺自身も、何かを食べること自体がストレスになっていた。
目の前の死が怖くて美奈子のことを考えている余裕がなかった。
そんな荒んだ俺のところにも美奈子は毎日のように会いに来てくれた。
そして俺は、ただただ彼女の愛情に甘えているだけだった。

ごめん、美奈子。
ありがとう、美奈子。

手記をバックに仕舞い込んで元の場所に戻した。
もう一度ベットに横になる。
自分の胃を軽くなでてみた。

あぁ、不思議だ。
もはや物を食べるような体じゃないのはわかっているのに。
少しだ腹が減った気がする。
何か食べたい。
味気ない粥とかじゃなくて。

美奈子の作った、飯が食いたい。


95 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/21(土) 22:08:32 KkBQDxm6
美奈子「プロデューサーさん、お水変えてきましたよ」

色とりどりのガーベラが活けられた花瓶をベッド横のキャビネットに置いた美奈子は俺の横に座った。

美奈子「綺麗ですよね。小鳥さんが選んでくれたんですよ」

相変わらず、俺に笑いかけてくれる。
あれだけの苦しみと悲しみを抱えて、なぜここまで俺に愛情を注いでくれるのか。
プロデューサーを名乗っておきながら彼女のことを全く理解できていなかった。

P「なぁ、美奈子」

美奈子「なんですか?」

お前がいてくれたから、俺はここまで生きてこれたと思う。
体は本当につらかったけど、満ち足りた日々だった。
幸せだった。

P「食べたいものがあるんだ」

美奈子「えっ?」

美奈子が目を丸くしている。
まぁ、無理もないか。

P「チャーハンが食べたい」

美奈子の家で何度注文したメニューだろうか。
パラパラの米と絶妙な塩加減、こま切れチャーシューの絶品さ。
俺が一番好きなメニューだった。

美奈子「ほ、ほんと、ですか」

P「こんな嘘つかないって。今、無性に佐竹飯店のチャーハンが食べたいんだ」

最後の晩餐としてこれ以上のチョイスは考えられない。

美奈子「っ……」

P「出前、頼めるか?」

そう言いながら笑いかけると、美奈子の目がみるみる潤んできた。

美奈子「わ、私、先生に確認を取ってきます!」

はじけるような笑顔で美奈子は病室を飛び出していった。
本当にうれしそうな笑顔だった。
そういえば、何かが食べたいっていう話を美奈子にするのは本当に久しぶりな気がする。

美奈子、今まで本当にありがとう。
俺の残り時間は全部美奈子のために使うよ。


96 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/21(土) 22:11:03 KkBQDxm6
美奈子が医者と話してくれて、ひと口かふた口なら、と許可をもらってくれたようだ。
こちらとしても死に際の望みぐらいは叶えて貰わなくちゃ困る。

美奈子「お待たせしました。佐竹飯店です」

そんな言葉とともに岡持ちを片手に美奈子は病室に入ってきた。
よくあの岡持ちを持って事務所に差し入れに来てくれたことを思い出す。

P「美奈子、エプロン」

美奈子「えっ、あっ、急いでたので……」

美奈子は店でつけているエプロンがつけっぱなしだった。
ちょっと照れくさそうにしながら、ベッドテーブルにチャーハンを置いた。
大きな岡持ちには不釣り合いな位、小さな皿にラップがかけられていた。
そのラップを取ると、消毒の匂いしかしなかった病室に別の空気が流れ込んだ。。
懐かしい匂いだった。仕事帰りに何度食べただろう。
そして、恐らくこれが最後の食事

P「いただきます」

蓮華を手に取り、チャーハンを掬う。
ちらりと美奈子を見ると、まるで祈るような表情で俺を見つめていた。
ゆっくりと口に含むとまず最初に感じたのは薬の影響で出来ている口内炎の痛みだった。
それを堪えて咀嚼する。
香ばしい油の風味、米の旨み、炒めたネギの香ばしさ。
それが口の中いっぱいに広がった。
だが、それを上回る勢いで嘔吐感が胃からこみあげてきた。
思わず口元を抑えた。

美奈子「プロデューサーさん!? 無理しないでいいですからね、辛いなら吐き出してください!」

そんなこと言うなよ美奈子。
こんなうまいもの吐き出せるかよ。
本来の機能を放棄したかのように食べ物を押し返そうとする胃袋に無理やり流し込んだ。

P「ふぅ……」

まるで100メートルを全速力で走り切ったように体力を使った気がする。
だが、それ以上に精神的に満ち足りていた。

P「うまいよ、美奈子」

そう言って残りのチャーハンを口に流し込んだ。
本当に、最後に食べる食事がこれで本当に良かった。


97 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/21(土) 22:13:59 KkBQDxm6
-----------------------------------------------------------------------------

P「ごちそうさま」

たったふた口の食事を終えて蓮華から手を放し、プロデューサーさんは横になった。
お皿のチャーハンは綺麗になくなっている。
私はもうそれを見て涙が止まらなくなっていた。
なんとなく、わかってしまった。

もうプロデューサーさんの命はほとんど残っていないんだ。
これが、最後の食事になるんだ。

それなのに、プロデューサーさんはすごく穏やかな顔をしている。
全てを受け入れたように。

美奈子「お粗末さまでした」

私はそう答えるのが精いっぱいだった。
涙をぬぐって何とか笑顔を作ろうとするがなかなか涙が止まってくれなかった。
プロデューサーさんはそんな私を見て、何も言わずにベットから手を伸ばしてきた。
私は慌ててその手を握り返した。

P「美奈子」

プロデューサーさんの手は冷たかった。
握る手も弱弱しくて。
せめて私の体温が伝わってくれれば、そう思って強く手を握った。

P「ずっと傍にいてくれてありがとう」

美奈子「いやだ、そんなこと、言わないでください」

P「美味しいご飯を作ってくれて、ありがとう」

美奈子「これからも、これからもいっぱいいっぱい作りますから!」

握る手から力が抜けていく。
プロデューサーさんは目を閉じた。
命が、消えていく。

美奈子「たくさん、食べてください。これからも、わたし、がんばり、ますから」

うまく言葉がしゃべれない。
もっと伝えたいことがあるはずなのに。

私をアイドルにしてくれてありがとうって。
育ててくれてありがとうって。

私のご飯を食べてくれてありがとうって。
私を傍にいさせてくれてありがとうって。

P「あぁ……そうだな」

私のその言葉にプロデューサーさんは軽く笑った。
そうしてひとつ、小さな息をして

P「また腹いっぱい食べたいなあ……」

プロデューサーさんの命が、消えていった。


98 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/21(土) 22:16:14 YYxvlATs
https://m.youtube.com/watch?v=dNQMtA7MkLI
じゃ、流しますね……


99 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/21(土) 22:16:31 KkBQDxm6
昔から料理は好きだった。
自分が作る料理を食べているところを見るのが好きだった。
幸せそうに、お腹を膨らませた人が大好きだった。

でも、プロデューサーさんに出会って、アイドルになって。
いつの間にかプロデューサーさんに料理を食べてもらうのが一番になっていた。
仕事で疲れたプロデューサーさんが美味しそうに私のご飯を食べてくれると、胸が熱くなった。
お休みの前日はビールとおつまみで幸せそうにしていると思わず顔が笑顔になった。
大盛りのチャーハンを平らげて苦しそうにしながらも、にこやかな顔をしているのを見ると思わず抱き着きたくなった。

『美奈子、美味いよ』

その一言が聞きたくて
アイドルのお仕事も大変だけど料理も頑張って勉強した。
新しいメニューもいろいろ考えて、プロデューサーさんに喜んでほしくて。

美奈子「プロデューサーさん」

以前、出てきたことを気にしていたはお腹をゆすってみても返事はなかった。
たまらなく愛おしかったそのお腹はすっかりへこんでしまっている。

美奈子「起きてください、プロデューサーさん」

私がどれだけ呼びかけても、プロデューサーさんは返事を返してくれない。
もっと食べてほしいメニューがあった。
もっとおいしいと言って欲しかった。

料理も、アイドルも、全然まだ足りていない。
もっともっと、したいことがあった。
してほしいことがあった。
でも、もうすべて遅い。
遅かったんだ。

美奈子「ひぐっ、ぐ、う、あぁ……」

看護士さんが駆け付けるまで、私はそのままベットに縋り付いて泣き続けた。


100 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/21(土) 22:19:18 KkBQDxm6
予告を大幅にオーバーしたけど美奈子編終わり。
本文自体にはそれほど時間がかからなかったけど、メニューを考えるのに時間がね……。

次のアイドル
>>101


101 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/21(土) 22:19:45 p47IbNvc
めぐみ!


102 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/21(土) 22:19:45 .ZKuJ9E6
まつり姫


103 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/21(土) 22:20:02 YYxvlATs
こんな素晴らしい文章書いちゃってさぁ……誇らしくないのかよ文豪!
安価は下


104 : 名前なんか必要ねぇんだよ!uVBwhGn66I :2018/04/21(土) 22:21:39 ???
これはめぐみぃはっぴぃですわ


105 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/21(土) 22:27:15 bR9TFbak
めぐみはエピローグで死にそう


106 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/21(土) 22:39:27 qgrRWZFw
涙と鼻水のせいで読みにくかったゾ……


107 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/21(土) 23:00:48 L2O7vQlo
む゛う゛う゛ん゛…(男泣き)


108 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/21(土) 23:03:52 ZJ07B1zQ
最後でいいからこういう設定の劇でした的な後日談が欲しい(ハッピーエンド狂信者)


109 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/21(土) 23:05:01 YYxvlATs
>>108
ショートドラマの収録ってことにしよう(提案)
ちなみにハッピーエンド狂信者です


110 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/21(土) 23:08:29 L2O7vQlo
恵美は昏き星の劇の後でも泣きまくってましたね


111 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/21(土) 23:20:44 b0wR/vrY
やばいマジで泣けてきた


112 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/22(日) 00:02:11 UfZS.aKk
悲しいけどあったかい…


113 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/22(日) 01:03:08 qidfn2Nk
こんなに胸が痛くて涙が止まらなくなったのは初めてですよ…


114 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/22(日) 01:20:37 S6iP3T72
久々に素晴らしき文豪兄貴に出会えてブルっちゃうよ…
(アイドル全員分を)はいお願いします!


115 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/22(日) 06:59:16 bOT.C1wI
こんなこと書かれたらライブ中に美奈子リウム見ただけで泣いちゃって美奈子Pで抜けなくなる


116 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/22(日) 08:41:21 AwMcs6yU
こんな愛してくれる人置いてっちゃってさぁ、恥ずかしくないのかよ?


117 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/22(日) 09:14:45 8xtuRsxI
なんだこれこれ文才野郎!


118 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/22(日) 09:16:26 8xtuRsxI
ミリだから狂犬千早とかが選択肢にないのがちょっと残念


119 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/22(日) 10:01:31 SdBgFgdU
担当の子で見たいけど見たくないなんとも言えない気持ち


120 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/22(日) 10:27:04 HANwRcrs
涙で前が見えねぇ
死にたくないよぉ


121 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/24(火) 01:48:26 fkMHCkts
P「恵美。アイドル楽しいか?」

恵美「なぁに、突然」

仕事帰りの車の中でプロデューサーは突然そんなことを言い始めた。
友達にメッセージを送り終わって、スマホから手を放して少し考えてみた。
まだまだ駆け出しだけど、舞台も慣れてきて、いろいろお仕事ももらえるようになった。

恵美「新しい友達もたくさんできたし、お仕事も楽しいよ」

P「そっか」

そうやって返事した後プロデューサーは何か言葉に迷っているようだった。
アタシはプロデューサーの言いたいことがわからなくて後部座席からちょっと身を乗り出してみた。

恵美「ねぇ、なんなのー?」

P「こらっ、危ないからちゃんと座ってな」

まるで子供をたしなめるような言い方だ。その態度が何となく気に食わない。
周りからは大人っぽいってよく言われるのに、プロデューサーだけはアタシのことを子ども扱いしてくる。
ちょっとセクシーな仕事だって取ってくるくせに、矛盾してるといつも思う。

P「じゃあ、質問を変えるけど」

むくれたアタシの気配を察知したのか話題を切り替えてきた。
こういうところほんとずるい。

P「トップアイドルになりたいか?」

恵美「えっ?」

そう言えばプロデューサーにスカウトされたときに言われたっけ。
スカウトされたときにアタシがアイドルなんてありえないって言うと『君ならトップアイドルになれる』って。
情熱的だよねーうちのプロデューサーってば。
そういうとこ、嫌いじゃないけど。

恵美「そりゃ、なりたいよ。一番になりたいって、誰でもそう思うんじゃない?」

P「うーん……言い方を変えるか。琴葉やエレナを押しのけてでもトップになりたいと思うか?」

その質問に対して言葉を返すことができなかった。
そりゃあ、プロデューサーの言いたいことはわかる。
一番は一人しかなれないから一番なんだ。
それを琴葉やエレナを押しのけてでも掴み取りに行けるかって考えると……。

恵美「……わかんない」

辛うじて絞り出した言葉はそんな一言だった。
口ではそう言ったけど、おそらく無理だ。
仲間や友達を押しのけて、自分だけ先に行くなんてできないし、そんな覚悟もない。


122 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/24(火) 01:49:26 k2LB8pAg
もう始まってる!


123 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/24(火) 01:49:31 fkMHCkts
P「まぁ、恵美はそういう子だよな」

恵美「……こんな中途半端な気持ちじゃ、やっぱ駄目なのかな」

P「いや、すまん。そんなつもりじゃなかった。ただ、恵美の今後をどうしようか考えててな」

恵美「今後?」

P「今のところ、仕事は舞台とモデルが中心だからな。本当のトップを目指すならある程度マルチさが必要だから」

春香とかな、とちょっと比較対象としては大きすぎる名前を出してきた。
歌、舞台、ドラマ、ラジオ、グラビア、バラエティ……春香はあまりにもマルチすぎる。
事務所の稼ぎ頭で、昨年IA大賞を受賞した名実ともにトップアイドルだ。

P「もう少し仕事にバリエーションを持たせつつ、いくつかのフェスに参加したり……賞が欲しいならそれなりの仕事をしないと」

恵美「プロデューサーはさ」

P「ん?」

恵美「アタシがトップアイドルになると、嬉しい?」

P「そりゃ嬉しいさ。自分が育てたアイドルがトップになって喜ばないプロデューサーはいないよ」

恵美「だったら」

P「ストップ」

アタシ頑張ってみようかな、と続けようとしたらプロデューサーが遮ってきた。
ちょうど信号は赤になっていた。
そして、バックミラー越しにアタシを見てきた。
としても真剣な目をしていてちょっとドキッとした。

P「そういうのは、なしだ」

恵美「えっ?」

P「俺が喜ぶからとかは、なし。恵美自身がトップになりたいかどうかだ」

恵美「アタシは……」

アイドルだって友達ができるって応援してくれたからなった。
自分からやりたいと思ってやり始めたわけじゃない。
アイドルを始めたことに後悔は全くないけど。
この道を突き詰めていきたいとまで、考えているだろうか。
でも、ここまで連れてきたプロデューサーが喜んでくれるなら、頑張ってみようと思ったのに。

P「別に今すぐ答えを出せっていうわけじゃない。ナンバー1になることだけが生き方じゃないしな」

信号が青に変わってまた車を走らせ始めた。
プロデューサーの表情はよくわからなかったけど、怒っているわけではないみたいだ。
でも、アタシはなぜか怒られたみたいな気持ちになって、思わず顔を伏せた。

P「恵美はもう子供じゃないからな。自分の未来のこと、ちょっと考えてみてくれ」

こういうときだけ大人扱いするんだ。
ほんとずるい。


124 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/24(火) 01:50:43 fkMHCkts
病院の廊下でプロデューサーと交わしたそんな会話を思い出していた。
つい先週の話なのに、遠い昔のようだった。
すっかり夜も更けた救急病棟の待合室は静かで、まるで世界から取り残されたみたいだった。

新曲の収録が終わり、プロデューサーと事務所に戻ろうと車に乗り込んだ時だった。
最近余り顔色がよくなかったけど、今日は一日お腹をさすったり、せき込んだりしていた。
そんなプロデューサーはエンジンをかけようとキーを回そうとしたとき、激しくせき込んだ。
アタシは慌てて背中をさすってあげようとして身を乗り出したらぎょっとしてしまった。

プロデューサーが口元を抑えていた手を放すと、そこにはベットリと血がついていた。
そしてそのままプロデューサーはそのまま横向きに倒れこんだ。
アタシは思わず悲鳴を上げて、プロデューサーの体をゆするけど呻き声しか言わなくて。
救急車を呼ぼうとしても、アタシはすっかり気が動転していた。
オペレーターの人に現状を伝えることがなかなかできなかった。

どうにか状況を伝えて、10分もしないうちに救急車は来てくれた。
その間必死にプロデューサーに声をかけていたけど、プロデューサーは本当に苦しそうで、
返事を返してくれなかった。
アタシにできたのは救急車の中で手を握ってあげることしかできなかった。

担架に乗せられたプロデューサーが処置室に運ばれてどれぐらいたっただろう。
ひたすら手を組んでプロデューサーが無事であることを祈っていた。
組み合わせた手はさっきまで血が着いていたけど、看護士さんに言われて洗い流した。
ただ、裾に着いた血は落ちなかった。
その血を見ると悪い想像しか出てこなかった。

看護士「あの、すみません」

そんな風にしていると、アタシの顔を看護士さんが覗き込んできた。
びっくりしつつも顔を上げて返事を返した。

看護士「ご家族の連絡先をご存知でしょうか?」

恵美「家族……」

もちろん、知らなかった。
知っているのは独身なことぐらいで。
そもそもプライベートな話をほとんどしたことがないことを思い出した。

恵美「えっと、アタシはわからないけど……その、事務所の人ならわかると思います」

看護士「では、連絡を取っていただいてよろしいですか? よろしくお願いします」

看護士さんはぺこりと頭を下げて踵を返した。
小走りで処置室に戻っていこうとするその背を慌てて呼び止めた。

恵美「あの、プロデューサーは、大丈夫なんですか?」

看護士「……今はまだ処置中ですので。後程、医師からご家族に説明をさせていただきます」

それだけ言い残して、看護士さんは去っていった。
ただ、少し何かを言い淀んでいたことを、アタシは見逃さなかった。


125 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/24(火) 01:52:03 fkMHCkts
事務所に電話をして、いきさつを話したら社長と小鳥が駆け付けてくれた。
でも、社長が言うにはプロデューサーには家族がいないらしい。
両親も病気で亡くなっていて、一人っ子だから本当に一人ぼっちだということを初めて知った。
社長からその旨をお医者さんに伝えると少し困った表情をしていた。

医者「……そうですか、わかりました。とりあえず、今は症状が落ち着きましたので」

少し引っかかる言い方だったけど、とりあえず胸をなでおろした。

医者「ただ、胃からの出血が止まるまで入院はしていただく必要があります」

社長「そ、それで、彼は何の病気なのかね?」

物々しいお医者さんの口ぶりに社長もただならぬ何かを感じたみたいだった。
ただ、その問いかけにお医者さんは首を振った。

医者「プライバシーですので、私の口からお伝えすることができません」

お前らは他人だ、って言われているみたいでちょっと嫌だった。
思わず反論しようとしたアタシを小鳥が抑えた。

医者「面会が可能になりましたらご連絡いたしますので、ご本人と直接会話をしてみてください」

その言葉を最後に、アタシたち3人はその場に残された。
結局、お医者さんの言うとおりにすることしかできなかった。
社長は駐車場に置きっぱなしになっている車を回収するためにスタジオに戻り、
アタシは小鳥にタクシーに乗せられて帰ることになった。

小鳥「恵美ちゃん、今日のことはみんなには黙っておいて」

タクシーに乗せられる間際で小鳥はアタシの手を握ってそんなことを言った。
家に帰ったら琴葉に電話をしてこの不安を少しでも紛らわせようとしていたのに。

小鳥「結構、デリケートな話かもしれないから。プロデューサーさんとお話しできるまでは、ね」

恵美「……わかった」

小鳥「お願いね? じゃあ、今日はゆっくり休んでね」

恵美「うん、ありがとう」

お互い、核心をついた事は言えなかった。
口に出せば現実になってしまいそうで。


126 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/24(火) 01:52:26 W/UT4WQY
もは!


127 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/24(火) 01:53:13 fkMHCkts
プロデューサーと面会を許可される日、アタシも一緒に行くことになった。
最初は社長だけで行くつもりだったみたいだけど、どうしてもと食い下がって同行することになった。
病院に着くと、社長が受付で手続きをしてくれた。
受付のお姉さんがあちこちに電話をしているようで結構時間がかかっている。
そのひとつひとつがアタシの不安を刺激した。
結局病室に案内してくれたのは20分ほど待たされてからだった。
病室までの道のりで、アタシは手の震えが止まらなかった。

社長「所君。大丈夫だからね」

そうやって社長は励ましてくれたけど、社長自身もちょっと声が震えていた。
病院がしている対応を考えれば、簡単な病気じゃないんだと思う。
悪い想像が頭の中をぐるぐると回っていて苦しかった。

社長「入るよ?」

病室の前にたどり着き、社長が部屋の扉をノックすると『どうぞ』と声が聞こえた。
プロデューサーの声だった。
ほんの1日聞かなかっただけなのに、すごく久しぶりに感じた。
社長が意を決したように、扉を開いた。

P「社長、わざわざありがとうございます」

プロデューサーはベッドに横になったまま社長に頭を下げた。
その顔色はあまりよくなくて、なんだかちょっと痩せた気がした。

P「恵美もごめんな、迷惑かけて」

恵美「迷惑だなんて、そんなこと思ってないよ……」

アタシはその姿がショックで、プロデューサーの言葉にそう返すことしかできなかった。
昨日の夜は会えたらもっと明るく話しかけようとかいろいろ考えていたのに。

P「恵美、せっかく来てくれて悪いけどいったん外してくれるか?」

恵美「えっ? ちょ、ちょっと待ってよ! アタシも……」

P「大丈夫、ちゃんと後で話すから。少しだけ、社長と2人で話をさせてくれないか」

恵美「なんで、なんで、アタシはいちゃダメなの?」

P「ちょっと、大切な仕事の話だけしておきたいんだ。頼むよ」

プロデューサーはアタシの目をジッと見つめた後、深々と頭を下げた。
そういう風にされると、強く出れないの知ってるクセに。
ずるいよ。

恵美「……アタシだけ、何かを秘密にするの無しだかんね? ちゃんと話してよ?」

P「わかってるよ、約束する」

恵美「……うん」

もやもやする気持ちはあったけど、社長に中庭にいるとだけ伝えて病室を後にした。
部屋を出る際に後ろ髪を引かれて振り返ってみるとプロデューサーは軽く手を振ってくれた。
胸がきゅっとしたけど、アタシも小さく手を振り返した。


128 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/24(火) 01:53:56 fkMHCkts
病院外の中庭は日当たりがよく、入院患者さんらしき人たちが思い思いの時間を過ごしていた。
車いすに乗ったお婆さんに何か話しかけるお爺さん。
じゃれあうふたりの子供をニコニコしながら見守るお母さん。
きっと、心温まる光景ってやつなんだろうけど、アタシの心は全く晴れてこない。
ベンチに腰掛けて空を見上げると、アタシとは対照的にとてもいい天気だった。

落ち着かなくて、OFFにしていたスマホの電源をONにした。
いくつか通知が来ているけど、今は返事を返す気にならなかった。
何となく、ブラウザを立ち上げてみて、検索欄に文字を入力した。

『血を吐く』

検索結果が出てくる。
そっか、血を吐くことを吐血とか喀血っていうんだ。
それを見てもう一度文字を入力しなおしてみる。

『吐血 病気』

もう一度検索してみると、有名なポータルサイトの医学情報ページが先頭に来た。
そのリンクをタッチしてみる。
吐血の症状が多い病気という一覧が出てきて目を通してみる。

『胃潰瘍、十二指腸潰瘍』

この病気はアタシだってしっている。
親戚のおじさんがなったことあるけれど、今も元気にしている。
この病気なら、大丈夫だよね?

『食道動脈瘤』

難しい言葉がいっぱいあってよくわからないところもあったけど、
食道にある血管にこぶができて、それが破裂する病気みたい。
だけど、この病気はすごく大量の血を吐くって書いてあるから、
多分これじゃないと思う。
確かに血を吐いていたけど、記事に乗っているほど大量でもなかったし。

『マロリー・ワイス症候群』

内容を読んでこれも違うってすぐに分かった。
吐いちゃったときに食道のあたりに傷ができることが原因って書いてあった。
直前まで一緒に仕事をしていたけど、吐くようなことはしていなかった。
そう判断してもう少しスクロールして出てきた文字に心臓が跳ねた。

『胃がん』

この病気も、知っている。
芸能人でもこの病気だったってニュースになることがあった。
そして、そのまま死んじゃったっていう話があることも。
それ以上記事を読む気にもならなくてアタシはブラウザを閉じた。


129 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/24(火) 01:54:47 fkMHCkts
社長「所君」

スマホを握り締めたままどれぐらいうつむいていたんだろう。
社長から声をかけられて少し驚いた。
頭の中がぐちゃぐちゃで周りの音は何も聞こえていなかった。

社長「彼が、呼んでいるよ。行ってあげたまえ」

社長はいつものようにやさしく笑いながらそう言ってくれたけど、
目じりがほんの少し潤んでいるの気づいた。
でも、それには気づかないふりをして席を立ち、重い足を引きずって、病室に向かった。
怖くて怖くて仕方がない。
話を聞きたい気持ちと聞きたくない気持ちが両方アタシの中で暴れてる。
病室の前にたどり着いた後も、しばらく躊躇したけど、思い切ってノックした。

恵美「プロデューサー、入るよ」

P『どうぞ』

扉を開けるとさっきと変わらないプロデューサーがいた。
アタシとは対照的ににこやかな表情をしている。

P「ごめんな、待たせて」

恵美「別にそんなに待ってないし、いいよ」

P「そっか、ありがとう」

アタシはベッド横の椅子に座ってプロデューサーの言葉を待った。
少しの沈黙が流れた後、プロデューサーが口を開いた。

P「なんとなく、想像がついてるんじゃないか?」

恵美「っ」

心の中を見透かされたようだった。
心臓が鷲掴みされたような気分だった。

P「まだ細かい検査結果は出てないけど」

やめて、それ以上言わないで。
涙が出そうになる、

P「がん、みたいだ」

ぐらりと、世界が回った気がした。
その場に倒れこみそうになるけど唇を噛んで耐えた。

P「転移も進んでるみたいでな。どうしようもないみたいなんだ」

プロデューサーはまるで他人事のように淡々としゃべっている。
アタシはいまにでも泣いてしまいそうだったのに。

P「ごめんな、恵美。もうプロデューサーを続けることは、できないんだ」

プロデューサーはやさしく笑いかけてくれた。
でも、それが止めになった。
プロデューサーの膝に縋り付いて

恵美「なんで、なんでぇ……」

感情の赴くまま、泣いた。


130 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/24(火) 01:57:21 fkMHCkts
そんな恵美へ、ミリPから今際の言葉
>>131

>>118 >>1にもあるように765ASも114514)


131 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/24(火) 02:00:28 BaB6jeWQ
自分を信じろ


132 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/24(火) 02:02:10 oIlU1Bcc
じゃ、流しますね……
https://m.youtube.com/watch?v=oPcR9U-GiL8


133 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/25(水) 00:27:47 nkXR4F8A
信じて!


134 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/25(水) 02:57:26 OXbhAqBY
このキャラならやりそう、言いそうが本当に上手いっすね。


135 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/25(水) 03:05:40 IR9NssNU
>>130
多分ミリだと千早の牙は抜け落ちてるからダメだと思ったんじゃないかな?


136 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/26(木) 13:31:05 taYXbF/Q
>>132
13懐かしい


137 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/28(土) 05:55:14 .Jl6Eyn6
保守


138 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/30(月) 21:58:42 jLKXUY4Q
こんな看取られ方しかたっけどな〜俺もな〜


139 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/04/30(月) 23:00:33 0/hNMvX.
>>138
成仏して


140 : 愛されるより 愛したい :2018/05/01(火) 18:49:43 ???
NaNじぇいってまたに怨念湧くよな


141 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/05/04(金) 01:34:18 f2K.VnI6
>>138
成仏定期


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