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八幡「やはり俺たちの性行為は間違っている」
49
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/01/30(土) 21:45:35 ID:ORJSDBRM
サルのごとく俺たちは、ただただ目の前の快楽に溺れる。
そこには不安感も何もない。結果だけが残る。終わりがないのが終わり、それがゴールド・エクスペリエンス・レクイエム。
さっきは正常位だったので今度は騎乗位ということになった。
「わ、私、最近体重がちょっと……」という由比ヶ浜の意見は封殺し、俺たちは行為に励む。どうせ大して体重など増えていないだろう。
むしろ雪ノ下の体力事情の方が心配だったが杞憂だった。
体力の無さよりも目の前に転がっている快楽という「麻薬」の方に陶酔していたからだ。
……これもう、わかんねぇな。お前ら、どう?
俺は誰に向けてこの問い掛けをすればいいのだろう。
小町? 平塚先生? 戸塚? 材木座……って、誰だっけ? まあいいや。
分からない。誰に向けて発信すればいい? 相談に乗ってくれる人、いますか?
50
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/01/30(土) 22:26:39 ID:ORJSDBRM
「――ねえ、比企谷くん」
ひとしきり息を吐き終わった後で雪ノ下は問いかけてきた。
「なんだ?」と顎だけで返すと、彼女は立て続けに言ってくる。
「あなたなら分かるでしょう? ……この関係の論理的帰結について」
相変わらず婉曲な表現を使う雪ノ下さん、マジ半端ねえっす。いや、人のこと言えんな。
さておき、俺は由比ヶ浜が使っている浴室を一瞥してから返事をした。
「まあ……『破滅』だろうな」
破滅。
言葉にしたら簡単だ。たった二文字だけで済んでしまう。
「何が?」と言われたら「何かが」と返すしかない。
とっくの昔に壊れていたものが壊れて崩れて終わっていくだけだ。
それの何が悪い? 何がおかしい?
「……あなたは、それでいいの?」
毛布をギュッと握りしめながら雪ノ下は俺に問いかけの手を緩めない。
その手が震えているのを俺は見逃さなかった。
「ああ。いいよ、別に」
中原中也じゃないが「汚れっちまった悲しみ」に答えはない。
あの時、小町がアクションを起こそうが起こすまいが……結果的に俺たちは今のこの曖昧かつ狂った関係を続けていくだけだ。
誰も触れない三人だけの国。ルララ、宇宙の……なんたらかんたら。
51
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/01/30(土) 22:32:47 ID:ORJSDBRM
「……由比ヶ浜さんも巻き込むわよ?」
「あいつなら分かってくれるさ。……というか、出てきてるし」
シャワーを浴びて出てきた由比ヶ浜は途中から俺たちの会話を聞いていたらしい。
少しばかり固まった後で元の位置に戻る。というのは、俺の膝の上だ。
最近の「特等席」らしい。ちなみに以前は雪ノ下の膝の上だった。コロコロ変わる奴め。
「……ねえ、ヒッキー。ゆきのん」
そう切り出す由比ヶ浜は俺を上目遣いで見つめながら続ける。
「私たちさ。……このまま、どっか行かない?」
誰も知らない場所へ。
由比ヶ浜はそう呟いた。
どっか、とはどこなんだろう?
俺たちを誰も知らない場所なのか。県外? 海外?
世間一般ではそれを「駆け落ち」という。ここテストに出るぞ。
「……私は、家が許さないわね」
「右に同じ。家も許さないだろうな」
「あ、あはは。……家も同じ」
そう言ってクスクスと俺たちは笑い合う。
分かっていたのだろう。その仮定がいかに馬鹿げたものであったとしても、けれど由比ヶ浜はそこに縋りたかったのだと思う。
でも……「どっか」へ行った所で解決する問題でもない。
52
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/01/30(土) 22:51:28 ID:ORJSDBRM
「――それじゃ、また明日ね」
「ええ。また」
「それじゃな」
三者三様の挨拶を交わし俺たちは帰途につく。
帰り道で各々が考えることは大体同じではないかと推察しながら。
これから先、俺たちの間に答えは出ないままだろう。
今後も、俺たちは……欠落したままだろう。
本物を望み、本物から離れていく一方だ。
帰り道で、葉山と遭遇した。びっくらこいた。
幸い、ピンク色がひしめくネオンサインの通りは抜けていたから良かったものの……葉山は何かを察したらしい。
53
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/01/30(土) 22:51:56 ID:ORJSDBRM
「……ヒキタニ君」
ツカツカと目の前にまで近づくと、なるほどリア充とはこういうものなのかと実感する。
コイツは答えを出すために破滅的な行動に手など染めないだろう。
欠落を認めながら、それでも前を向こうとするだろう。結構なことだ。それでいい。
だから……俺は、こう返す。
「何だよ? ……男なら、拳ででも語ったらどうだ?」
挑発的な口調を心がけながらそう言うと、葉山は返事に窮したと見える。
しかし、すぐさま体勢を整え直すとコホンと一息ついて言った。
「――俺は、君を見逃せない。君が嫌いだからこそ」
……ほらな。こういう奴なんだよ、コイツは。
嫌いだからこそ見逃すのが当然だと思うだろ? それが普通だ。
それが「普通」じゃなくなるのが葉山隼人の世界観だ。
54
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/01/30(土) 23:17:53 ID:ORJSDBRM
「……それじゃ、またな」
華麗にスルーして葉山の隣を横切ろうとした俺に腕が伸びてきた。誰のだろう?
すっとぼけても意味がない。葉山のものに決まっている。
「……今日、どこで何をしていた?」
極力、感情を抑えた声で葉山は俺に問いかける。ロボットか何かか?
さておき、俺はそれに対して返事をする。
「普通にやって、普通に後処理して、普通に別れた。これで満足か?」
それじゃな、と俺は一方的に葉山の横をすり抜けようとした。
その瞬間、俺の頬に冷たい感触を覚えた。
55
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/01/30(土) 23:18:17 ID:ORJSDBRM
「……危なかった」
言いながら、葉山は自分の手を元の位置に戻し俺を睨みつけるだけの簡単な作業に戻る。
睨めつけてくる視線は変わらない。はて、コイツの沸点は意外と高いらしい。
「……何でだろうな? どうして君が相手だと俺が落ち着かなくなるんだろう?」
そこからは自問自答である。
よくあるよな。意識高い系(笑)がやる自己分析。こじらせるとセミナーとか行き始めるアレ。
まあ、そんなことはどうでもいい。答えなんて決まっている。
「――俺たちが正反対だから、じゃないか?」
「……コインの表と裏だから、ってわけか」
こういういかにもなレトリックを使うのも、そういう系統の奴がすることだ。
とはいえ、葉山のその例えはなるほど今の俺たちにぴったりジャストフィットするものだった。
56
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/01/30(土) 23:18:34 ID:ORJSDBRM
「まあ、俺はお前が誰とどうこうしようが構わないけど」
「俺は、君が誰かとどうこうなると困るんだよ」
ふむ。コインの表と裏、ってわけか。
ともあれ、そろそろ帰らなければ。生意気な妹の面倒を見ないといけないんでね。
「それじゃな」
本日、三回目にもなる定型句を言いながら俺は葉山の横を通り抜けた。
今度は何もしてこなかった。それでいい。
57
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/01/30(土) 23:22:24 ID:ORJSDBRM
葉山と別れ、手持ち無沙汰になった俺はふと空を見上げた。
どんよりとした空だった。雲の合間から弓張月の光が少しだけ差し込んでいる。
それに照らされながら、トボトボと歩き続ける。
結局、これでいいのだとバカボンのパパみたいに笑えばいいのか。
葉山のように問題をより深刻に捉えるべきなのか。
……どこかに三人で行って「国」でも作る算段を立てれば、それが「本物」になるのか。
答えは出ないままだ。
この暗い道程を、俺はゆっくりと進んでいくのだった――
58
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/01/30(土) 23:23:26 ID:ORJSDBRM
これにて一応の終わりとしたいと思います
というのも続きが全く思いつかないからです……
何かアイデア等とかあったら是非ともお願いしたいです
書いていて筆は乗るのですがどうしてもアイデアが……
59
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/01/31(日) 00:41:58 ID:/KGnX.jc
(この話の結末を思い付ける才能は)ないです
じゃけんちんちん扱きましょうねー
60
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/01/31(日) 00:56:05 ID:cIvoUDb.
なんだかんだ大したことは起こらず爛れた大学性活を送るか
はるのんあたりの横槍で瓦解するのか
61
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/01/31(日) 19:34:33 ID:b3DOyBFg
普通に幸せにしていいんじゃない?
とんでも展開使ってハッピーエンドに持って行っても別にSS板とかじゃないし批判来ないしヘーキヘーキ
むしろNaNじぇい民は脳内花畑だから皆仲良くエンドにしてくれると嬉しい
62
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/01/31(日) 22:22:24 ID:6E4mrekU
ありがとナス
>>60
の方向性もアリですし
>>61
のようにハッピーエンドで終わり! 閉廷! もアリですね……
相変わらず6巻途中で読むのが止まってしまっているので陽乃さんの描写が難しいですが
63
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/02/04(木) 20:09:29 ID:JzE24ho6
それでも、明日はやって来るものだ。
最悪な気分に浸りながら俺はクラスへと足を踏み入れる。
どうして最悪かって? 帰ったら両親はともかく小町がいつも悩んでるんだぞ?
可愛い妹が悩んでいるのを見てると胸が痛んでしょうがねえよ、畜生。
小町ってば、俺が帰ったら「あっ……」みたいに察した顔するんだよ。ああ、くそ……。
「は、八幡。大丈夫?」
「おはよう、戸塚!」
そんな最悪な闇にだって光を見つけることは出来る。
目の前にいるマイエンジェル戸塚がいるだけで生きる喜びを感じる。
64
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/02/04(木) 20:09:47 ID:JzE24ho6
「何か唸ってたみたいだけど……?」
「いや。……今ので吹き飛んだ」
さすがに戸塚パワーでも一部だけど。
妹への想いもそれくらいには強いってことだ。それが……俺たちの関係の「立役者」なら尚更。
「……や、やっぱり調子おかしそうだよ? 保健室、行く?」
「……そう、すっか」
ダメだ。
思い浮かぶのは、小町の泣きそうな顔。
俺の隣の部屋から漏れ聞こえてくる、震えた声。
俺は戸塚に導かれるまま、保健室へとフラフラと向かっていった。
65
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/02/04(木) 20:11:14 ID:vp2e8p1A
おー続きええやん
66
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/02/04(木) 20:29:01 ID:JzE24ho6
「……それじゃ、行くね」
戸塚の介助のもと俺は保健室にたどり着きベッドに横たわった。
最後まで心配げな表情を崩さずに戸塚と別れ、俺は寂しくなった。
これだったらいつものぼっち席にいる方がマシだ。孤独感の質が違う。
小町を泣かせたのは俺だ。
雪ノ下を「壊した」のも、元をたどれば俺だ。
由比ヶ浜が「共犯者」なのも、全部俺だ。俺のせいだ。
「――なーんて」
考えてれば罪が軽くなると思った? 残念、ありえないでした。
そうだ。罪。この際、それが一番形容としては正しい気がする。
越えちゃいけないラインを越えさせたのも俺だ。
各々が間違えた選択を取り続け苦しみ続けてるのも……全部……。
67
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/02/04(木) 20:29:27 ID:JzE24ho6
「――ひきがや、くん?」
「え?」
俺が悶えそうになっていると隣のベッドから声がした。そういえば先客がいたんだったな。
その声はよく知っている。知りすぎている。というか、昨日も何度も聞いた。
ゆっくりとカーテンを開けたら、そこには雪ノ下が横たわっていた。
彼女は俺をジロッと睨みつける。しかし、迫力がない。
「断片的にだけれど、聞こえたわ。……何が、『自分のせい』よ」
ギュッと布団を握りながら雪ノ下の目つきは鋭くなる一方だ。
俺は、視線を逸らした。
68
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/02/04(木) 20:30:35 ID:JzE24ho6
罪悪感に駆られたままする性行為ほど虚しいものはない。
気がつけば保健の先生は姿を消して、雪ノ下は俺の股間に口を寄せていた。
チャックを下ろした社会の窓から、俺の分身が自己主張をしている。
「……」
無言で、雪ノ下は咥える。
そして始まるピストン運動。俺はというと、いちいちビクンビクンと大変だった。
何度やっても慣れないことだってある。
元々あった罪悪感を更に強く感じていたためか、吸われる度に胸がチクチクと痛むのを感じた。
69
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/02/04(木) 20:43:30 ID:JzE24ho6
「……ふぃきふぁやふん?」
「……一度、離れてから話せって」
クチュクチュという音を立てながら雪ノ下は何か言いたげに俺を上目遣いで睨みつけた。
その視線の鋭さはさっきよりも色っぽかった。いやまあ、シチュ的には何も間違っちゃいない。
この「行為」自体が間違っているという前提さえなければ、だが。
「……」
その後は無言で雪ノ下はずっと俺のから離れなかった。
髪をかき上げながらずっと舐め、いたぶり続ける。
しかし、今日はいつもより「出」が悪い。罪悪感のせいか……?
70
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/02/04(木) 20:43:53 ID:JzE24ho6
ただ、それも――
「……ふぅっ」
まさに狙い澄ましたようなタイミングで。
雪ノ下が俺のに温かい息を吐きかけるまでだった。
「……!」
そこからは、ただただ射出するだけ。
我ながらよくここまで出るものだと思う。
罪悪感って何だよ? 知らねーよ、性欲の前には勝てないってことだろ?
71
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/02/04(木) 20:50:38 ID:JzE24ho6
「……」
無言のままゴシゴシと「後始末」を済ませる雪ノ下。
俺は知っている。鞄の中にはこういった事態に備えてコロンとかその他諸々の用品を備えていることを。
それは由比ヶ浜も同じだった。
雪ノ下は一通りの後処理を済ませると俺と相対した。
相変わらずの冷たい表情のまま。
「あなた一人だけが被害者ぶるの? 随分と都合のいい話もあったものね」
「……すまん」
「何に謝ってるの? 主語は明らかにするのが筋でしょう?」
淡々と、けれど鋭く雪ノ下の言葉のナイフは俺に突き刺さる。
最初の頃は一度この行為をするだけでゲホゲホゴホゴホしているだけだったのに、成長したらしい。
……これを「成長」というのかは別として。
「いい? 私を『壊した』のは……小町さんでも、あなたたちでもないわ」
「……」
「『私自身』よ。……それだけのこと」
そう言いながら雪ノ下は自分のベッドに横向きに寝転んで俺と視線を合わせる。
俺も同じ体勢を取った。後処理? 男は女と違って楽なんだよ。
72
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/02/05(金) 02:51:15 ID:Gs9bFhLI
いいゾ��これ
73
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/09/05(月) 13:36:14 ID:EEmS26SM
続きはよ
74
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/09/05(月) 17:41:31 ID:SZWye4Zg
<●><●> 見てるぞ
75
:
格が違うわ
:2016/09/07(水) 11:15:03 ID:???
もう続かないんでしょうか……?
76
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/12/10(土) 11:31:27 ID:BVt84iYw
あくしろよ
77
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/12/12(月) 03:19:27 ID:kTMpofXI
最新刊まで読み終えてから、どう書けばいいのか分からなくなっててすみません
とりあえず、いろはすを絡ませられるようにはなったと思います
考えていきます
78
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/12/12(月) 23:21:38 ID:kTMpofXI
「――私は、逃げたのよ。あなたと由比ヶ浜さんとの関係を考えることから」
訥々とした口調なのは、行為の後で疲れているからというだけではないだろう。
俺の目に映る雪ノ下雪乃は、その名の通りというわけではないが儚く消えてしまうような危うさをたたえていた。
それはあの日――小町が雪ノ下を糾弾し、結果として雪ノ下が「壊れた」時の姿を想起させた。
「こんな結果を生むような人間になるなんて……思いもしなかったわ」
そう呟く雪ノ下に、俺はそっと口付ける。
彼女は不意を突かれた様子だったが、静かに俺に応じた。
おもむろに舌を入れ、彼女はそれを俺にもし返す。
いつだったか、「保健室でやってきちまったよー」なんてのたまうクラスメイトがいて、みんなに囃し立てられていた。
いかにもなリア充(笑)がスイーツ(笑)っぽい彼女との体験を誇らしげに語るのを、内心で見下しながら聞き流していた。
なにがカッコワライだ。
なに、人のことを見下して悦に浸っていたのやら。
一番の笑い者は……この俺じゃないか。
目の前の美人も、明るく振る舞いながらも酷く悲しげな様子を隙間から覗かせる由比ヶ浜結衣も。
誰一人として不幸じゃないにせよ、幸せでもないとしか思えない。
79
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/12/12(月) 23:32:05 ID:kTMpofXI
「……また、一人で自己欺瞞に浸っているの?」
見透かしたように言う雪ノ下の瞳に映る俺は、きっと酷く情けない顔をしていることだろう。
唇を静かに離し、彼女は俺をそっと抱き寄せた。その繊細な感触の中で、雪ノ下の温かさに甘える俺がいる。
「あなたは何に責任を感じてるの? 少なくとも、この国で『こういう関係』は望ましくないとか、私たちを幸せにできていないとか」
そんなことを考えているんでしょう、と。
どこまでも的確に、俺の心をなぞるように雪ノ下の言葉は刻み込まれる。
「それを決めるのはあなたじゃないわ。それじゃ、私や由比ヶ浜さんの気持ちはどこにあるの?」
「……」
分かっていた。
分かっていた上で、燻っている。
堂々巡りの袋小路にハマっていることには、俺も気付いていた。
この関係は望ましくないはずだ。これじゃ二人は幸せになれない。
完全に明るみに出たらどうなる? 俺はいい。
でも、周りの人間は? 例えば家族は?
何より……この二人は?
――みんなでどっかいっちゃおっか。
ついこの前、ホテルで由比ヶ浜が顔をクシャッと、どこか痛々しさを見せながら言った言葉を思い出す。
誰も触れない二人だけの国、という歌詞があるが、誰の目にも触れない三人だけの世界。
それを望んで、三人で旅に出る――
80
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/12/12(月) 23:42:19 ID:kTMpofXI
ガラ、っと扉が開く音がした。
世界が崩壊したかと思った。目の前でさすがの雪の下も、瞠目していた。
そんな都合よく保健医がいない時間が続くわけがない。漫画じゃあるまいし。
分かっていたはずだ。それなら、もっと早く服装を直したりしておくべきだった。
「ゆ、雪ノ下。ど、どうす……」
「やっはろー」
聞き馴染みのある声と共に、カーテンが開かれた。
そこにいるのは、今まさに俺の頭の中で雪ノ下と共にあった姿だった。
「旅」の相方の一人――由比ヶ浜結衣がそこにいた。
「ゆ、由比ヶ浜さん……どうして」
「ん? ああ、さいちゃんに聞いたら、ヒッキーが保健室に行ったって聞いて。……ゆきのんも一緒だったんだね」
そう言いながら満面の笑みを形作る由比ヶ浜。
その笑顔には、何ら含むところは無さそうだった。
全てを抱擁し、温めてくれる……きっとそんな安心感を、雪ノ下も覚えていることだろう。
「……やっぱり二人とも疲れてたんだね」
「ち、ちがっ」
「違う? 二人のことだから、保健室でしようなんて計画立てないよね? きっと……どっちが先に寝てて、流れで、って感じじゃない?」
ことアホキャラで通っている由比ヶ浜だが、俺たちの関係については誰よりも察しがいい。
それはきっと由比ヶ浜が、俺や雪ノ下とは違い人の顔色を読む能力に長けているのと――
きっと、誰よりもこの関係を考えているのが由比ヶ浜結衣だからだ。
81
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/12/13(火) 00:00:19 ID:ByBujD5Y
「もう。考えすぎだよ。あたしは二人が大好き。で、二人もきっとあたしが好き。それでいいじゃん」
カラッと日本晴れのような笑顔を見せられて、由比ヶ浜は明るく言った。
そうだ。シンプルイズベスト。きっと、それが一番いい。
おもむろに俺は立ち上がり、由比ヶ浜に抱きつく。
「ちょっ、ひ、ヒッキー!?」という声に、俺は耳元で囁くことで返事とする。
「――愛してるぞ、由比ヶ浜」
「……!」
ボンッという音がした気がする。それもすぐ近くから。ラブコメ漫画かよ。
顔を見なくても分かる。顔を真っ赤に染め上げていることは間違いないだろう。
……ホント、いつまで経っても初心なヤツだと思う。
その初心さに、間違いなく俺たちは救われている。
82
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/12/13(火) 00:02:00 ID:ByBujD5Y
「……二人とも、いつまでそうしているつもり?」
あっ、雪ノ下を忘れてた。いや、さっきまでしてたし、由比ヶ浜だけ可哀想だと思ったわけで。
なんてことを言い訳として使おうと思った矢先、雪ノ下は背中から俺に抱きついてきた。
長い腕は俺の先にいる由比ヶ浜をも包み込む。
「私も混ぜてよ。もう、運命共同体でしょう?」
「……お前がそう歯の浮くようなことを言うのは未だに慣れないな」
「あら? そもそも、運命共同体の語源はね」
「はいはい、そういうのは後でウィキで調べとくから」
ユキペディアさんに聞いてもいいが……そろそろ時間だ。
こうして二人の温かさを感じていたかったが、教室に戻らないといけない。
学生の本分は勉強だ、なんてどの口が言えた柄か分からんが。
83
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/12/13(火) 00:23:21 ID:ByBujD5Y
素早く、しかし的確に後処理を済ませ、俺たちは保健室を出た。
とはいえ、保健医が戻ってこなかったことはとんだ幸運だった。
長い黒髪をファサッとさせる雪ノ下と、後処理の手伝いをしてくれた由比ヶ浜を見ながらふと思う。
保健室を出ると、視線の先に葉山と保健医が談笑しているのが見えた。
「……!」
三人で一緒に踵を返し、反対方向に向かった。
示し合わせたわけでもないのに、上手く合ったものだ。さすが運命共同体。さすうん。
出来る限り静かに、二人の視界から外れることに成功した。
「あ、危なかったね……」
「そ、そう、ね……」
二人の感想に俺も同意だ。ただ……引っかかるものがあった。
なんかこう、喉に魚の小骨があるような感覚が。
84
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/12/13(火) 00:24:39 ID:ByBujD5Y
「二人は、先に教室に戻ってくれ」
「え? ヒッキーも一緒に戻ろうよ」
「そうよ、比企谷くん。由比ヶ浜さんだけじゃ何かと不安だし」
「ちょっ!? ゆきのん酷くない!?」
「いいから」
有無を言わさない口調を意図的に作ると、二人は渋々と戻っていった。
しかしまあ、遠目に見ている分にもいいコンビなんだよな、あの二人……。
正反対のはずなのに。何とは言わんが。どことも言わんが。
「お疲れ、比企谷」
「……来ると思ったよ」
さて、と。頭のなかで遊ぶのも一旦終了のお知らせだ。
目の前には、葉山隼人が立っていた。悲しそうな表情で。
「で、だ。まず、言っとくわ。……サンキュな」
「……君のためじゃないけど、な」
やれやれ。男のツンデレとか誰が得するんだよ?
大方、この完璧超人のことだ。由比ヶ浜が俺のことを聞いて慌てた様子を見て、後を追った。
由比ヶ浜が保健室に入ったのを確認したところで、保健医と遭遇でもしたのだろう。
そこで話を持ちかけて時間を稼いでくれた、と比企谷は想像します。
85
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/12/13(火) 00:25:03 ID:ByBujD5Y
「いや。結果的に、被害は免れた。……俺は別にいい」
「そうだな。結衣と雪ノ下さんは『被害者』だろうしな」
その通り。さすが葉山、頭の回転も速い。そこに痺れる、憧れる。
「――って、言われたら満足なんだろ?」
憧れすぎて、さすがに憎らしい。
まあ、何分か前の俺だったらそれに「はい、そーです」とでも応えただろうが、今は違う。
「まあ、俺が『加害者』ってわけでもないけどな」
「……え?」
「だって、あの二人がそう言ってたし。というか、そういうのを『自己欺瞞』とか言ってきたし」
「……君は、それで納得したのか?」
葉山のことだ。きっと、分かっている。
正反対の俺たちは、だからかお互いのことがよく分かるという皮肉すぎる状況にあった。
86
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/12/13(火) 00:25:25 ID:ByBujD5Y
「ああ、もちろん」
だから俺は開き直るしかない。
本心で、こう思っている自分に気づきたくない。
それでもやっぱり、この関係は間違っている、と。
でも、そんなことでウジウジしてる主人公(?)なんて今日日はやらない。
もう、決めた。俺は、いや俺たちは……開き直るしかない。
「――君がそう言うのは勝手だけどな」
ズイッと、葉山が顔を近づけてきた。あの、顔近いです。そういうのは雪ノ下と由比ヶ浜だけでいいです。
「あの二人を不幸にしてみろ。君のことを俺は絶対に許さない」
「ああ。その場合、俺も俺を絶対に許さないだろうな」
しばし睨み合った後で。
「……それじゃ、教室行くか」
「……ああ。そうだな」
葉山の提案に、俺は乗っかった。
よく分からないが……「協力者」が出来てしまった気がする。いや、それでいいのか、おい。
二人で教室に戻った時の、由比ヶ浜のふくれっ面を忘れられない。
「あたしじゃなくて隼人くんのがいいの?」なんてわけがわからないよ。俺、そういう趣味ないし……ただし、戸塚は例外とする。
87
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/12/13(火) 00:26:44 ID:ByBujD5Y
もしかしたら一旦ここまでです
話は進んだようで進んでないってはっきりわかんだね
いろはすは出そうと思いますが絡む(意味深)のかは分かりません
88
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/12/13(火) 02:35:50 ID:D23p/cHk
続き来てるやん!(歓喜)
89
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/12/13(火) 10:35:55 ID:5AGEO6Qk
冨樫よりずっと良心的だってはっきり分かんだね
90
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/12/14(水) 04:11:42 ID:5BuFXpcE
待ってるから完結させて、どうぞ
91
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/12/14(水) 22:12:18 ID:vLM0Iyac
やったぁ!
92
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名前なんか必要ねぇんだよ!
:2018/06/18(月) 00:13:09 ID:ELcBQyW2
由比ヶ浜さんの誕生日なので
93
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名前なんか必要ねぇんだよ!
:2022/02/18(金) 01:26:41 ID:71EvIK4.
https://i.imgur.com/0M7Jh8JNOH
94
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名前なんか必要ねぇんだよ!
:2022/02/18(金) 01:27:58 ID:71EvIK4.
https://i.imgur.com/0M7Jh8JNOH.jpg
95
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名前なんか必要ねぇんだよ!
:2022/02/21(月) 13:12:25 ID:ZLWoPGrc
https://i.imgur.com/EABVHvw.jpg
96
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名前なんか必要ねぇんだよ!
:2022/02/21(月) 13:18:26 ID:ZLWoPGrc
https://pbs.twimg.com/media/FLjJ7fCagAADNaU.jpg
97
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名前なんか必要ねぇんだよ!
:2022/04/28(木) 15:29:23 ID:MsrUw07o
https://i.imgur.com/ZHJOEYF.jpg
https://i.imgur.com/3R19ayu.jpg
https://i.imgur.com/rMIluBG.jpg
https://i.imgur.com/yvMMHxk.jpg
https://i.imgur.com/VwPiFlc.jpg
https://i.imgur.com/eXOREVE.jpg
98
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名前なんか必要ねぇんだよ!
:2022/07/16(土) 07:10:47 ID:v25HNiuo
https://i.imgur.com/ip06bv0.jpg
https://i.imgur.com/2UmyRyP.jpg
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