■掲示板に戻る■ ■過去ログ 倉庫一覧■
【東方SS】妹紅「蓬莱山輝夜殺す」2
-
前作との繋がりはありません
よろしくどうぞ
-
一つ搗いてはダイコクさま〜
二つ搗いてはダイコクさま〜
百八十柱の御子のため
搗き続けましょーはぁ続けましょ
三つ搗いてはカグヤさま〜
四つ搗いてはエイリンさま〜
月に御座す高貴で永遠の御方のために
搗き続けましょはぁ続けましょ
一つ搗いては…………。
「うっさいなあ……」
ここの竹林もいつからか随分うるさくなったものだ。
いつからか、といってもはっきり覚えている。数年前のあの日からだ。
あの日。永遠亭に人間と妖怪のタッグが、なんと四組も乗り込んだ。
さしものあいつらも数の暴力には勝てなかったとみえる。ざまあみろ。
「(ま、そのあと私もやられたんだけどね)」
あの屋敷にかけられた永遠の魔法は解かれ、ほかのあらゆるものと同じ時間を刻み出した。
それ以来、満月の日にはこうして餅を搗く兎たちの声が響きわたるのだ。
虫の鳴き声くらいしかしなかった竹林が賑やかになったのは良いのか悪いのか。
――今のように殺し合いに負けてボロボロの時くらいは遠慮してほしいものだ。
-
とりあえず燃えカスになってしまった服を再生して、家に帰ることにした。
今日も今日とて、あいつにはまるで歯が立たなかった。
いつものことだ。次は死ぬまで燃やし尽くす。巻き込んでしまう竹、いつもごめんよ。
そう思い、まだ生き残っている一本を撫でる。
「これだけ焼けてスペースができても、明日には元通りなのよね……」
竹林七不思議の一つだ。この竹の謎の生態が、この竹林を迷いの竹林たらしめている。
不思議ではあるが、いくら燃やしても怒られないので便利ではある。
もしかしたら兎たちが必死に直してるのかもしれない、と考えたことはあるが、もしそうならこれから遠慮してしまいそうなので、敢えて尋ねたことはない。
ワオーーーーーーン
餅搗きが終わり静寂の戻ってきた竹林に、またも声が響く。
私にとってはこちらの方が聞きなれた声だ。
ちょっと遠慮したような、恥ずかしがったような、控えめな遠吠え。
――ちょうどいい、あいつのところで呑もうかな。
私はくるっと爪先の向きを変え、足を進めた。
-
「私を退治しに来たのね?」
「は?いやお望みなら退治してやってもいいけど……」
「ひどーい。ていうか、満月の日は毛深いし獣臭が強いから来ないでって言ったじゃない」
「呑みたい気分だったのよ。ほら、酒もらうわよ」
「ひどいわー」
今泉影狼。昔から竹林に住んでいる狼女だ。
満月の日に狼に変身してしまうという呪いを受け、半人半妖になったとか。
実は幻想郷で輝夜の次に付き合いが長いのがこの影狼だ。
竹林で暴れていた私を獲って食おうとして、返り討ちにされた。
慧音ほど深い付き合いではないが、浅く長く付き合っている。
こいつに会って半人半妖についての理解があったからこそ慧音との仲ができたと考えると、まあ感謝してもいいと思う。
「んじゃ、満月に乾杯」
「かんぱーい」
なんだかんだ言って酒は出してくれる(勿論無理矢理奪ったりはしない。巫女じゃあるまいし)のが影狼だ。
木端妖怪には好戦的な者も多いが、彼女は温厚な方だ。
なんせ幻想郷唯一の妖怪ネットワークである「草の根妖怪ネットワーク」とかいうのに所属しているくらいだ。
種族の違う妖怪と仲良くやれるやつは珍しい。
幻想郷には一人で一種族の妖怪が多いので、誰ともつるまないのが普通だ。
そんな中、わざわざネットワークなんてものを作るのは、彼女が自分の非力さを自覚しているのは勿論として、時代による妖怪の在り方の変化もあるのかなあ、なんて考えてしまう。
「今日も例のお姫様に負けてきたの?妹紅」
「負けてきたとは随分ね。勝ったとは思わないの?」
「だって一度も勝ったことないじゃない。最近流行りのスペルカードってので戦えばいいのに」
「それじゃ駄目なんだ。こればっかりはね」
「ふーん」
影狼は私と輝夜の関係を知らない。
私も影狼の呪いについて詳しくは知らない。
今も半分人間の彼女がどうして人間を食べるのか。
その理由を私は知らないし、知ろうとも思っていない。
これでいいのだ。互いの深いところまでは踏み込まない。
慧音とはまた違った距離感を、私は心地よく感じている。
-
「そういえばさあ、最近お尋ね者なんてのが出たらしいじゃない」
「なにそれ、知らないなあ」
「草の根でもちょいと話題になってね。なんでも天邪鬼がテロリストってことで……」
「天邪鬼?そんな弱っちいやつがなんでまた……」
「いろいろやらかしたみたいねー。詳しくは知らないんだけど」
天邪鬼といったら、ひとをからかったり騙したりする弱い妖怪だ。
ちょっと強い人間複数人相手なら負けてしまうレベルでしかない。
魑魅魍魎が跋扈する幻想郷でそんな雑魚が大それたことできるとは思えないが……。
「まあ理由の方はどうでもいいけどさ。捕まえたら褒美をもらえるって」
「そりゃお尋ね者ならそうでしょ」
「だから見つけたら捕まえたいのよ。ね?協力してくれない?」
「妖怪退治なんて巫女か魔法使いにまかせときゃいいのよ。私らがわざわざ出張る必要はないでしょ」
「つれないわねえ」
妖怪は人間が退治する。それが幻想郷(ここ)のルールだ。
私は一応人間とはいえ、ほぼ世捨て人。
影狼は半分人間だが、どちらかと言えば妖怪寄りだ。
そういう奴らが大手を振って妖怪退治というのは、おそらく受け入れられない。
いつも通り人間に任せればいいのだ。
-
「あーあ、なんか最近つまんないわねえ。あの異変の時は巫女たちに相手してもらえたのに」
「異変?なんかあったの?」
「いや私もよくわかってないんだけど、巫女が動いたなら異変でしょ」
「異変じゃなきゃ動かないからね、あいつ」
「満月の夜は無性に遠吠えしたくなるわー」
「ああそう……」
「モノマネやるわ!『あっしは満月を見ると変身するでガンス』」
「誰のモノマネよそれ」
支離滅裂になってきた。酔いがまわってきたみたいだ。
毎回これだ。どうやら満月の日は自分でもテンションを抑えられないらしく、ハイペースで呑んですぐに潰れる。
というかもう潰れた。ぐーすかいびきをかいている。
誰が介抱すると思ってるんだ、まったく。
コロコロコロコロ。リンリンリンリン。
鈴虫だかコオロギだかわからないけど、いろんな虫の鳴き声がする。
もう夏も終わりなんだと実感させられる。
火照った頬に夜風が気持ちいい。
夜空を見上げる。雲一つない空に、吸い込まれそうなくらい大きな満月。
――ああ、月ってこんなに大きかったんだ。
妖怪たちが月を崇める理由が、なんとなくわかった気がした。
-
――――ザッ。
不意に足音が聞こえた。そう遠くない位置だ。
この時間に人間がここを通ることは滅多にない。まさか急患か!?
すっかり酔いの覚めた私は、急いで足音の方へと駆けた。
「あ、あれ?人間じゃなかったみたいね。あんたは……天邪鬼?」
「げ、こんなところまで広まってるのか」
「もしかしてお尋ね者の?こっちから探す気はなかったけれど、そっちから来るなら話は別だ。
新型の弾幕の餌食になってもらおう」
急患かと心配して損したよ。
恨みはないけど、あんたを見逃したと知られたら面倒なことになりそうだ。
悪いけど私の立場のため、加えて輝夜に負けたストレス発散のために付き合ってもらおう。
「ふん、被支配層の人間風情が。私の味方になるなら見逃してやってもいいが。
そのつもりもなさそうだ。私の不思議道具で蹴散らしてやる」
「ひみつ道具『反転ひらり布』!」
-
いきなり仕掛けてきやがった。
壁を作るように連なった弾幕が、視界を塞ぐようにかなりの密度で襲い来る。
赤、紫、また赤、紫……。
色のコントラストも考えられた、なかなか大した弾幕だった。
――なんだよ。思ったより強いじゃん。
まだまだ粗い弾幕(私も人のこと言えない)だが、天邪鬼と聞いて想像していたよりは随分と上手だった。
上。右。もひとつ右。そしたら下に潜って……。
――ここだ。
隙を見つけたところで、私もお返しの弾幕を放った。
すると驚いたことに、天邪鬼は体に巻き付けていた布でまるで闘牛士のごとく私の弾幕を受け流し、一回転して矢の形で撃ち返してきた!
予想外の反撃にあやうく被弾するところだった。また服が破けちゃったよ。
けれどこれは一度見れば十分対応できる。どうやら相手も一度で仕留めきれなかったことを悔しがっているようだ。
「青い青い。初見で仕留められなきゃ通用しないスペルカードなんて下の下だよ」
「くそう。舐めやがって!雑魚のくせに。
しょうがない。とっておきのやつも使っちゃうか」
二回目のスペルカードだ。こっちが本命かな。
こちらも気を引き締め直し、懐のスペルカードを取り出せるようにしておく。
-
「爆弾『四尺クレイジーボマー』!」
いったいどこに隠し持っていたのか、懐からどでかい爆弾(花火)を取り出し、火をつけた。
そして自らは、周囲に七色の星型弾幕を並べ始めた。
嫌に既視感のある形だ。
「(霊夢の夢想封印と魔理沙の星弾幕の合わせ技ってとこね……。足して三で割ったくらいのちゃちいものだけど)」
他人のスペルを真似たところで、本人のそれには及ばないことがほとんどだ。
弾幕とは個性の発露。実力だけが弾幕ごっこの強さを決めるわけではないのだ。
当然そんなことは向こうも承知の上だろう。
つまりはあの爆弾。
――拡散した!
爆風にのせて星型弾幕は物凄い勢いで飛んでくる。
まるで箒星のようにきれいな帯を描いて。
一瞬。ほんの一瞬だが目を奪われた。
気づいた時には、目の前に弾幕の嵐が迫っていた。
-
――痛ったあ……。当たり所が悪かった。これは死んだわね。
まんまと敵の策に嵌ってしまった。あんなの見惚れさせるための弾幕だって丸わかりなのに。
全身痛すぎてどこに命中したのかはっきりしない。
感覚が引き伸ばされている。
私はまだ空中にいる。
文字通りの死に体に鞭打って、懐からスペルカードを取り出した。
――はは。あいつ勝ち誇ってら。苦し紛れのポーズだと思ったか。
後でごねるなよ。私はカードを見せたぞ。宣言したぞ。
「『リザ……レクショ、ン』」
命を省みないほどの爆炎をまき散らす。
あいつにとっては完全な不意打ちだろう。どうだ、見たか。
そんな風に思いながら意識を手放した。
また竹を燃やしちゃった、と少し申し訳なくなりながら。
-
次に目覚めた時には、影狼が起きていた。
まだ月も空高く昇っている。ほんの数十分くらいしか経っていないようだ。
「あ、起きた。随分派手にやったみたいじゃないの。お相手もこっちで寝てるわよ」
「ありがと。派手に負けちゃったわ。完敗よ」
「妹紅が負けたの?そこまでの相手には見えないけど」
「私にも見えない。それだけ見えないもん背負ってるんでしょうよ」
この天邪鬼は強かった。
真剣勝負ならまず間違いなく私が勝つだろう。
しかしこいつは自分の非力さを自覚した上で、勝つための工夫を怠らなかった。
「ハングリー精神の差、かねえ……」
私にとっての真剣勝負は唯一、輝夜との殺し合いだけだ。
しかしこいつは、生きている間一分一秒、この幻想郷と戦っているんだ。
すごいやつだ。私はそんな生き方は御免だ。
何をやらかしたか知らないが、こいつにも譲れないものがあるのかもしれない。
きっとあるんだろう。
-
「ぐ、ああ畜生……。どこだここは」
「あ、お目覚め。言っとくけど逃げようとか思わないことね」
「て、てめえさっきはよくもやってくれたな!被弾した後のスペルなんざ認められるか」
「そうね。さっきのは私の負け。でも今は?二対一じゃ勝ち目なんてないでしょ」
「舐めやがって。お前ら雑魚どもくらい簡単に撒けるんだ」
「待ちなって。なにも捕まえるつもりはない」
最近のやつらはせっかちで困るよ。
もうちょっと無駄話を楽しむ余裕くらい欲しいものね。
「一晩だけ、一緒に月を見て呑まない?それでチャラ。あんたは夜明けと同時に解放する。二度と追わない」」
天邪鬼は怪訝な表情をする。
それを見て私は、ああ、こいつ意味わかってないんだろうなあ、と思う。
異変に関わった連中なら誰でも知っていることなのに。
「戦いが終わったらみんなで宴会。幻想郷の常識よ」
-
結局、この天邪鬼こと鬼人正邪は逃げなかった。
どうせ逃げられるというのもハッタリだと思っていたし、十中八九承諾されると踏んでの提案だ。
向こうからすれば悪い条件は何一つないのだ。当然飲む。
「じゃああんたがいろいろやったせいで、私やわかさぎ姫が狂暴化してたってこと?」
「そういうことだ。お前ら弱者の立場をひっくり返してやろうと思ったのだがな。
まあ私とて諦めたわけではない。こちらには未だ秘策はあるのだ」
どうやら意外なところで二人の繋がりがあったようだ。
影狼自身霊夢の相手にされて嬉しかったみたいだし、恨むところはないようだ。
妖怪らしく単純なやつである。
「しかしお前はそこそこ強かったな。あの人間どもには劣るが。何者だ?」
「そこそことはご挨拶ね。これでもあんたよりはずっと年上よ」
正邪はほとんど呑んでいない。休息をとった後、すぐにでも動けるようにしているんだろう。
常在戦場って感じで、なんだか幻想郷の妖怪らしくない。
「しかし今日は満月の日だったか。最近月を確認する余裕もなかったからな」
「大変ね。どこまで逃げるつもりなの?」
「言うもんか。お前らは追わないとは言ったが密告しないとは言ってないだろう」
「穿った考えね。疲れそう」
影狼は意外に正邪とウマが合うのだろうか。そこそこ会話も弾んでいる。
隙を見せない正邪に対して、なんとか口を滑らせようとする影狼。
――影狼のこういう人懐っこそうな一面が警戒心を解くんだなあ。
本来こういう話術は人間に対してするのだろう。
警戒心を解いた相手を不意打ちでガブリといただくのだ。
-
「はあ、しっかし憎たらしいくらいきれいな満月ねえ」
「ああ、月は良いもんだ。我々妖怪すべてに平等に力を授けてくれる。強いも弱いも関係なくだ。
欲を言えばもう少し弱いもの贔屓でもいいがな」
「憎たらしいってのは比喩じゃないわよ。私は月が憎い」
影狼の声のトーンが下がった。
月が憎い?そんな話一度だって聞いたことはなかった。互いに踏み込まなかったプライベートの領域だ。
満月と酒の相乗効果で自制がきかなくなっているんだろう。
どうしよう……。
「あいつのせいで、この呪いのせいで……私はもう人間には戻れやしない。
この醜い獣の体……こんなものがあるから……。
人間だって食べた、数えきれないほど……。
復讐はもうできない。初めて食べた人間があいつだから」
「ふん、人間上がりか。どうも妙な雰囲気だと思ったら。半端者め。
酒に呑まれるようじゃ程度も知れているな」
正邪の辛辣な言葉も聞こえていないようだ。こりゃ相当酔ってるな。
間もなくして寝息が聞こえてきた。
今日だけで二度も酔い潰れたけど、大丈夫かな……?
-
「よう人間。お前はどうだ。お前は月をどう思う?」
今度は私に問いかけてきた。
なんだろう。どうってことない普通の質問なのに、胸が締め付けられるようだ。
月。地球の衛星で、岩ばかりで、外の人間が何十年か前に行った場所。
実は千年以上前に妖怪たちが攻め込んだという話もあり、妖怪にとって力の源でもあり……。
――輝夜の故郷だ。
これか。考えたくなかったのは。
数年前に吸血鬼たちが月に乗り込んだ事件がある。
その時私は些細な勘違いから、輝夜が月に帰ってしまうのではないか、ととても慌てた。
結果は杞憂だったわけだが、あの時に味わった気持ちはもう御免だ。
私は輝夜なしでは生きられない。
友情とか、恋愛感情とかそういうんじゃない。
同じ永遠を生きる者としての共感。私の根源、復讐心の対象。
多分、あいつがいなくなったら私は死ぬ。
死ねない人間の死は、その時だ。
そうか、やっとわかった。私が月をどう思うのか。
-
「私は、ずっと月を壊したかった――――――」
.
-
視界の端に紫色の折り畳み傘が映った。
空間が裂ける。
悪戯っぽい笑みとともに、正邪は消えた。
「なんだよ…………。ハッタリじゃないじゃん」
-
翌日。私の日常は何も変わらない。
朝、魔理沙にもらった干しキノコを食べる。
人里との境で永遠亭への案内。
昼、その辺の猪を焼いて食べる。
午後は輝夜と殺しあう。
夜、満月の日は慧音が毎回大変なので、家事を手伝ってあげる。
いつも通り。何も変わらない。
ただ一つ。私には目標ができた。
「よし、打倒月!」
まるで子供みたいにでっかい目標を掲げた私は、子供みたいに純粋に笑った。
-
めでたしめでたし
当SSで正邪が使用したスペルカードは、アマノジャクREVERSEという二次作品より勝手に使わせていただきました
今泉影狼が自機となり、反則スペルカードというユニークなスペルを用いて正邪と戦うゲームです
以下の動画よりダウンロードできますので、動画だけでも見てみると面白いですよ
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm23868566
-
おつしゃす!
影狼さんはやっぱり人食っちゃってるんですかね?
-
>>20
まあ狼だし…原作では不明ですよ
半分人間ってセリフはあったけど半人半妖かも不明です
もちろん元人間なんて設定もないです
つまりほとんどオリジナルです すいません
-
(影狼くんのフォローしてなかった)
-
カグコロ先生の次回作にもご期待ください!
■掲示板に戻る■ ■過去ログ倉庫一覧■