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SSスレッ!!!!!!!!!!

272闇の名無しさん:2015/11/19(木) 14:56:14 ID:nVpxcsjo
「――――――っ」


札に描かれた、大きな翼と天輪を携えた天使が嗤う。例えるならば、これは言葉のない死刑宣告。
そんなはずは。と現実から目を背ける自分もいれば、ああ、そうか。と納得する自分もいる。そんな困惑の坩堝の中で。
m2は何も言わずにこちらをただ見つめていた。今、私はどんな顔をしているんだろう。驚いているのだろうか。泣いているのだろうか。困惑しているのだろうか。
もしくは、笑ってる?それすらもわからない。ただ私は札を片手にm2の顔を眺めていた。すると彼は、腕を伸ばして、私の頭に―――

「……館から離れろ。もうすぐ結界が更新される」

…………声も出ない。もう「天使」である私は、館にいることすら許されないのか。
立ち去るm2の背を振り返ることも出来ぬまま、曇天の空を仰ぐ。ぽつり、ぽつりと落ちる雨。予想、外れちゃったな。細やかな現実逃避。
いつものようにロビーにやって来て、古びた館の扉を開く。誰も起きていない午前5時半。鉛の空の下に聳える漆黒の館が、果てしなく遠くに思えて。
そのまま、訳もわからずに走り出した。行く宛もない。自分も何も失った私を慰める者もいない。もう私には、何もない。
走る、走る。茂る林の中を、鬱蒼とした森の中を。メイド服は破れ汚れ、それでも私は走り抜ける。ひたすらに、文字通りに闇雲の中を巡るように。
息が切れて肺が焼けるように痛くても、立ち止まること無く走る。立ち止まったらその時点でもう、自分が消えてしまいそうだったから。
気がつけば空からは土砂降りの雨。濡れネズミの私は泥濘んだ山道を走り続け、駆け抜け、やがて開けた場所へと辿り着く。


広がるのは湖だ。雨空の仄暗い闇の中で微かに光る穏やかな湖。この湖は確か、反映湖。特殊なDmを含んだ湖だと姉さんが言っていた。
走るのを止め、足を引きずるようにして歩く。湖を覗き込んでみれば、鮮やかな青の光。底は深い青に覆われていて、果てしなく続く奈落のようで。
まるでこの湖だけ青空の世界にいるような、そんな鮮やかな青色を前にふと思い出したのは幼い頃の記憶。第二次白黒大戦が終わった日、光国で見たあの青空。
……あの空と同じ色だ。深く深く、どこまでも広がる蒼穹の空。あの日を堺に、私の人生は大きく狂いだしていったんだ。
もしこの湖に飛び込めば、あの日に戻れるのかな。何も知らず、何も思わず、ただ言葉に従っていれば生きていられた無色の世界に。

―――――――湖に手を伸ばす。湖面に映る“少女”。また会ったね、と微笑んで。
豪雨に紛れて一際大きな水音が山に木霊。私は冷たくも暖かな、深い青に包まれながら、悠久の微睡みへと溺れていく。


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