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SSスレッ!!!!!!!!!!
262
:
闇の名無しさん
:2015/11/15(日) 00:26:56 ID:kkUg1e6c
一歩、及ばなかった。
私の刃は白衣の女性によって阻まれる。
立ち込める煙、床を焦がす薬品。煮詰めた薬草めいた香りが鼻に付く。
飛び散った液を受けたナイフは赤錆色。ほんの数秒で腐食が進んだようだ。
「………さて、これでお前の刃は全て折った」
片目の瞳が私を射抜く。迷いの無い視線、全てを見透かす勝者の目。
彼女の背後に聳える階段を登れば、きっとこの館の主に辿り着けるのだろう。
けど、今の私には彼女を押し退ける為の刃が無い。計37本、錆びた刃が辺り一面に転がっている。
強い。彼女は――白衣の女性、ルキと名乗った彼女は、途方も無く強い。
冷や汗が頬を伝う。鼓動が辺りの音を掻き消す程に高鳴る。手が、腕が、身体が、小刻みに震え出す。
窓から差し込む月光が、彼女の手に握られた試験管を照らし、サイケデリックでケミカルな色彩を放つ。
赤色は空気に触れるだけで発火する薬品。青色は思考を鈍化させる煙を上らせる薬品。緑色は未だ不明。
今立ち込めている煙は桃色の薬品だった。マズい、と思い口を塞いだ時には既に遅く、手足に痺れが渡り出した。
視界も朦朧としていて立つのがやっと。手足の震えはこの薬品が原因だろうか。体温にも、動悸にも異常が。
「残念だったな殺人鬼。此処から先は、お前の来るべきところでは無い」
一歩、彼女が足を踏み出した。
ゆっくりとこちらへと歩み寄る。乱雑に伸び、片目を覆い隠すほどの前髪、癖毛のように跳ねているのは獣耳か。
白衣の裏には無数の試験官。科学者と思しき女性は私の目の前で歩みを止めて、見下すように瞳を向ける。
手を伸ばせば届く距離。深く息を吐き捨てて、佇む彼女へ視線を返す。交錯する視線、互いの意思が垣間見えるようで
私は、腕を振るう。決死の一撃、届かぬとは分かっていても、その蔑むような瞳に一矢報いようと、一撃――――
「―――――っ」
瞬間、白に染まる視界。震えも鼓動も掻き消えて、刹那の間に訪れるのは浮遊感。
阿呆みたいに開かれた口から飛び散るのは鮮血、悲鳴。腹の底から吐き出される叫びが、無音の世界に雪崩れ込み
気がついた時、私の身体は宙を漂っていた。辺りを舞うのはガラス片。視界を少しズラせば砕け散った窓ガラス。
そして真上には逆むく月。ああ、あの緑色の薬品の正体は、液体爆弾だったか。今更導き出された答えは水泡に帰す。
「う、あ゛……っ!」
打ち付けられた衝撃で呻きが零れる。乾いた土の感触、遅れて全身に走る激しい痛み。
起き上がろうと身を捩っても、右腕は答えない。いや、答えないのではなく、私の右腕は、先ほど振るった腕は、もう。
止めど無く溢れ出る血が波紋を生む。口元から零れ落ちる血も、肩から流れ出す血も同じく一つの池に。
赤く滲む視界は空に漂う月へと、笑ってしまうほどに綺麗な月夜へと。月が、星が、雲が、私を嘲笑っているかのよう。
「……闇に魅入られた者の末路は、驚くほど哀れなものだ」
少し間を置いて投げかけられた声。気が付けば傍らに立ち尽くすのは白衣の女性。
彼女にもう敵意は無い。こちらを見下ろす瞳にはただ、哀れみと慈しみが。まるで家族へ向けるような、博愛の表情。
何時ぶりだろう、他人からこんな顔を向けられたのは。私が生まれ落ちた時か、師匠に拾われた時か。もう思い出すことも叶わない。
白衣の女性は銀に染まった試験管を握り締める。水銀、だろうか?不規則に揺れる水銀はまるで生き物のようにも思える。
試験管から放たれた水銀は音も無く溢れ、不気味なほどに丸い形へと変化して、女性の膝ほどまでの大きさとなって傍らに佇む。
月明かりを受けて不気味に輝く水銀はさながら首を刈り取らんとするギロチンのようで――――。
「“継ぎ接ぎジェーン”……最後に一つ聞いておこうか。お前の本名は?」
「私、の………名前は……」
――――――名前は、なんだっけ。
溶けていく記憶の中に潜ってみても答えは見つからない。ただ広がる赤黒い闇だけが私を包み込んでいる。
師匠は私を「サクヤ」と呼んでくれた。その後、中立国の人々は私を「継ぎ接ぎジェーン」と恐れ慄いた。けどどちらも本名じゃない。
自分の名前すらわからないなんて、ああ、もう私はとっくに、この世の定理から外れた身だったんだ。
もっと早く気がつけていたら――――――――後悔が訪れるよりも早く、私にやって来たのは
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