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SSスレッ!!!!!!!!!!

237闇の名無しさん:2015/08/21(金) 19:11:01 ID:2EDX.zIs
奇妙な時間だ。闇魔館最上階テラス、暗霧が辺りを包む中で二人、私達は紅茶を飲み交わす。
血のような朱のアイスティー。氷が軋み鳴く度に、両者を包む空気が一層凍り付くようで

「サクヤ、もう一杯どうだい?」

……対する氷の騎士は笑みを浮かべてポットを差し出す。前言撤回、凍りついてるのは私だけか。
慣れぬ状況に戸惑う私を誂うように笑っては、麗しい顔立ちを幼気に綻ばせて紅茶を啜る。
彼の紅茶はホットティー。湯だつ朱と淡い水色のコントラストは、黒一色の世界に於いては余りにも鮮やかで
思わず、手を止めて見惚れてしまう。その姿は比喩でも無く、一つの絵画を見ているよう。

再び沈黙が二人を包み、紅茶を啜る音、注がれる音だけがテラスに残響を残す。
異性と、一対一で、こうして向い合ってティータイムを過ごすことなんて、余りにも異常。

『休暇あげるから誰かとお茶でもしなよ!リンとかリンとかリンとかリンとかと!』

嗚呼……王女様の優しみという名の命令が走馬灯のように脳裏を過る。
今日与えられた休暇。姉様は新薬のテストで不在。執事はこういう時に限って仕事。m2は図書館の整理。
必死に誘いをかけた結果、まるで示し合わせたように、リンだけが私のティータイムに乗ってくれた。

「あ、あの――――」「サクヤはさ」

意を決して声をかけようと口を開いた、瞬間、依然笑みを浮かべる騎士が食い気味に言葉を遮る。
深い藍色の瞳が私を射抜く。威圧感や高圧感とは掛け離れた慈愛に満ちた瞳。しかし、有無を言わせぬ迫力を持つ視線。

「どうしてメイド長になったの?」

と、若干前のめり気味で投げかけられた言葉は、思いがけない、余りにも単純な質問。
そんなことは決まっている。王女である神流様に喧嘩を売り、敗北し、それで―――――
――――それで、私は、どうしてメイド長になったんだ?

「それ、は………」

完膚なきまでに叩きのめされ、姉様に看病され、流されるままに三代目メイド長の座を襲名した。
そこまではいい。しかし私は明確な「理由」を持っていない。メイド長であることが当然で、疑問を抱く事すら無かったのだ。
何故メイド長になったのか、と言われれば、王女様に負けたから。しかし彼が聞いているのはそういう事ではなく
……私の略歴の中から抜け落ちた部分。メイド長の座に甘んじた理由。そこを彼は問うている。

沈黙。答えを返せぬまま、数分が経過した。
グラスの氷がからんと崩れ、氷の騎士は答えを待ちつつ紅茶を啜る。
なんと優雅な……あれが、確たる「理由」を持つがゆえの自信の現れとでも言うのだろうか。

「深く考えなくてもいいさ。単純なことでいい、何故メイド長になったのか、何故メイド長を続けているのか……」

にこり、と微笑みを残す姿は貫禄に溢れ、流石は闇軍が誇る第一部隊の騎士団長を務めるだけはある。
私よりも長く、数多くの戦場を乗り越えてきた彼。中性的で、華奢な体格からは想像も出来ぬ程の経験を、彼は
……なら、私の答えは決まった。誤魔化すことも、この場で理由を考えるのも、彼に対しての侮辱。となれば

「まだ、わかりません」

ふふ、と。ようやく零れた笑みは、気恥ずかしさも混じったもの。
その答えを聞けば、彼―――リンもまた、くすりと笑いを残して、それが聞きたかったと言いたげに椅子へと背を預けた。

「理由はこれから見出していきます……貴方のように、己の信念を自然と見い出せるまで」

「はは、ボクの信念か。目標にされるのは少し恥ずかしいけど……ま、悪い気はしないかな」

他愛ない質問が二人の空気を氷解させて行く。暫くすれば和やかな、特筆すべきこともない会話を続けていく。
時が経つのを忘れる程に心躍る時間。テラスに吹く風は仄かに涼しく、甘くも酸っぱく薫りを残して
闇霧が晴れる頃、最後の紅茶を飲み終えれば、ティーセットを片手に私はテラスを後にする。
その背後、私が扉に手をかける直前、彼は風が吹くと同時に一言

「また明日、ここでね」

振り返ると既に彼の姿は無く、残された冷気の粒が風に乗って夏空へと舞い散って
立ち尽くす私を他所に、彼はまた別の誰かの元へと足を運んでいるのだろう。返事は恐らく、届かない
それでも私は、もう一度凪ぐ風に乗せるように―――

「――――はい、サー・リンフィア」



---凛と咲くティータイム おわり---


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