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death論教 1
4
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 10:59:30 ID:???
僕が晴花について奴らにされた嫌がらせは、極めて幼稚なものだったが、それによるダメージは僕にとって、そして晴花にとっても決して小さいものではなかったと思う。
ある時は、黒板に相合い傘に僕と晴花の名前を書くという、よくある嫌がらせをされた。
今となってはそれがどうしたという程度のものだが、それを見た晴花は号泣し、僕は何もできずにただ俯いて突っ立っていることしかできなかった。
周りからの非難の視線と声が僕に突き刺さる。まるで晴花を泣かせたのが僕であるかのように。
僕が晴花を好きなのが、悪いことなのだろうか。間違ったことなのだろうか。
落書きはいつの間にか誰かが消してしまった。だけども僕の心に「人を好きになるって何なんだ」という疑問が燻り続けた。
5
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 11:02:57 ID:???
こういった出来事があったから、僕はこの頃、クラスの男子からは孤立していた。
一方、女子の僕に対する態度は大きくふたつに別れていた。
ひとつは、女の子に対して優しくて、かっこいい男子という評価。実際、僕は今でもジャニーズ系入ってると言わるし、年齢より若く見られて、まあ、わりとモテる。
だから当時、男子の間では孤立していても、仲の良い女子はいたし、毎年バレンタインには二桁に届くくらいのチョコレートを貰っていた。一方で、そんな僕を女たらしといって毛嫌いする女子達もいた。
では、肝心の井上晴花は僕のことをどう思っていたか―
明らかに、彼女は僕を嫌っていた。僕が彼女を好きだということ、そのせいで僕がからかわれ、それが自分に飛び火してくること、自分自身もからかわれることを迷惑だと思っていることが、彼女の態度からありありと感じられた。
僕と彼女は学校生活で必要最小限な会話しかすることはなかった。
時代が平成に移り変わった年、僕達は五年生になり、悪ガキ共とも井上晴花とも別々のクラスになった。
6
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 11:25:36 ID:???
五年生になり、僕の友人関係は大きく変わった。
何人もの男子の友人ができ、放課後は誰かの家に集まってはゲームや漫画に興じる、三、四年生の頃にはなかった、普通の男子小学生の生活を送れるようになった。
それは六年生、そして中学一年生と何回かの友人関係の入れ替わりを経て、また興味の対象もエロ本やエロビデオへと移り変わりながら続いていった。オナニーを覚えたのも、精通が始まったのもこの頃だった。
中学生になった頃、井上晴花は学年一の美少女として男子の注目の的になっていた。
かつて僕をからかっていた奴らが、彼女について騒いでいる様子を、僕はまるで自分とは別世界のことのように、冷めた感覚で遣り過ごしていた。
僕には井上晴花に対する恋心はもうなかった。他に好きな女の子ができたわけではない。
彼女への恋心、それは子供の恋心だっただけのことだ。僕は彼女の上辺の部分しか見ていなかったことに気づいていたし、彼女の内面の部分に、もう興味はなかった。知りたいとも思わなかった。
この数年間で異性に対する感覚はすっかり変わってしまっていた。ただ、かつて思い悩んだ「恋って何なんだ」という答えの出そうのない迷いだけが燻り続けていた。
あれから四半世紀以上が流れた今となっては、自分がどのように井上晴花が好きだったのか、彼女が好きという気持ちがどのようなものだったのか、もうすっかり忘れてしまった。
今はただ、彼女が好きだったという事実を覚えているだけになってしまった。
7
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 11:28:53 ID:???
阪神大震災、911テロ、そして東日本大震災―
何か衝撃的な出来事があった時、その日朝起きてから寝るまでの一日、どこで何をしていたか、まるでその日の記憶をまるごと冷凍保存したかのように、いつまでもありありと思い出せるような感覚は、誰しもあるのではないだろうか。
その日、朝起きた僕が目にしたのは、寝台列車の脱線事故を延々と報ずるテレビの映像だった。日常のものとは思えない列車事故の映像は、それ自体十分に衝撃的なものではあったが、それはその後訪れる―おそらくは一生記憶に残るかもしれない出会いの前触れに過ぎなかったのかもしれない。
その日は中学二年の始業式。
新学期特有のドキドキを感じながら僕は登校した。張り出されたクラス分け表を確認する。僕のクラスは8組だ。小学校もそうだったが、中学も全校生徒約千人のマンモス校で、市内の三つの小学校から生徒が集まる学校だった。
8組の教室に入る。座席表に従って指定の席に着席し、周囲を見渡した。
僕はひとりの女の子に目を奪われていた。
一瞬で恋に落ちた。
8
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 11:31:07 ID:???
一目惚れしてしまった、髪が長くて目がぱっちりとした可愛らしい少女―彼女の名前は桜木紗千子―
その日から僕の学校生活は彼女を中心に回ることになった。
彼女は別の小学校の出身で勿論それまでに僕との接点はない。さて、いかにして紗千子と関わりをもっていくか…
ここで目をつけたのが、僕の後ろの席にいる三浦という男子。彼は一年の時、紗千子と同じクラスだったということがわかった。
幸い、三浦は小学一年生の時に同じクラスで、やはりその時も僕の後ろの席だったから(新学年の席順は五十音順なので)彼とは真っ先に友達になった。
三浦との友人関係はそれほど長くは続かなかったが、あれから7年を経ての友情?の復活に、僕は感謝した。
三浦を介して、僕は少しずつ紗千子と会話をすることができるようになっていった。
9
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 11:58:34 ID:???
紗千子の少し舌足らずで可愛らしい声は、僕の耳を楽しくさせてくれた。僕は彼女との会話の中から少しでも、ひとつでも多く彼女の断片を集めることに夢中になった。
可愛くて、ピアノが弾けて、勉強が出来て、明るくて、笑顔の素敵な彼女はまさに、典型的なクラスのマドンナだった。
当然のことだが、紗千子に好意を抱く男子生徒は僕だけではなかった。暫くたつと、紗千子を巡るライバル関係が徐々に確立されてきた。
明らかに彼女に好意を寄せる男子は、僕以外に二人。
ひとりは三浦。一年の時紗千子とクラスメイトだった点でいえば、彼が一歩リードしているようにも見えるが、彼のちょっといい加減で調子に乗りやすい性格と、女性に対するデリカシーに欠けた物言い、はっきり言ってブサイクな顔面に背が低く小太りな体型―
紗千子と三浦の仲はまあ良くは見える。だが友達以上の関係はまず無いだろう。
もうひとりは加藤という男。背が高い点、三浦よりは幾分マシな顔。あとは三浦とどっこいどっこいなちゃらんぽらんな性格。彼も三浦を介すようにして紗千子と親しくなろうとしていることが、手に取るようにわかった、だが、まだまだ彼女との間の壁はまだまだ低くはないようだ。
10
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 12:02:06 ID:???
僕はどうか。はっきり言って容姿では三浦には圧勝だし、加藤にも勝っているだろう。だが、積極性、というか図々しさでは、彼らにはとても及ばない。
少しでも紗千子と親しくなりたい、彼女と近づきたいという思いは強くても、どうしても彼らより一歩退いた位置から踏み出すことができなかった。
それは小学生の時から心の奥底で燻っている『恋って何なんだ』という迷いによるものなのかどうかはわからない。ただ、傷つきたくないという恐怖心は、僕には間違いなくあった。
紗千子は、僕にも親しく接してくれた。だが、それは他の誰とも変わらない親しさだった。彼女は皆に平等に接する女の子だった。
もう、僕にとって紗千子は特別な存在だった。僕はいつも彼女との未来を思い浮かべていた。それはまだ、全く具体性のない空虚な妄想でしかないこともわかっていた。
彼女のほうから僕に告白してくるなんて、たぶんないだろう。
僕のほうから動き出さなきゃならないことは、わかっている。
僕はこれから、前に踏み出すことができるだろうか…
11
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 12:09:33 ID:???
中学二年の時、僕にとって初めての経験がひとつ、あった。
ある日、たまたま僕がひとりで廊下にいると、同じクラスのひとりの女子が僕のところにやって来て―
「好きです。つきあってください」
…はぁ?
この女はいったい何を言っているのだろうか。一瞬では理解できなかった。
たしか青山とかいったっけ。しばし目の前のギョロ目で唇の厚い女を見つめる。
はっきり言って僕のタイプではない。今思い返すと、大人になってバッチリ化粧したら、今でいうと滝沢カレンみたいなモデル顔になっているかもしれないようにも思うが、ともかく僕のタイプではなかった。
何より、僕は青山とはほとんど面識がなかった。別の中学出身で、この年同じクラスになるまで勿論青山のことは知らなかった。同じクラスになってからも、彼女と話したことは、たぶんなかったように思う。
地味で、普段ほとんど発言しない。休み時間には地味目グループ数人で教室の端で小声で話しているような、間違いなく、この一件がなければまったく記憶に残らなかったであろう女子。
青山が僕を本気で好きなのか、それとも冗談で言ってるのかはわからないけど、いずれにせよ、僕には好きな女の子がいる。「ごめん。無理」以外に返事のしようがなかった。
青山は「わかりました」と言うと、教室に戻っていった。
数日後、青山の仲間らしきブスにつかまり、なぜ断ったのかと詰問された。そんな事言われても困る、知るかよとその場を足早に立ち去った。
その後青山とは何もなかったが、次のクラス替えで離れるまで、多少は彼女の視線を意識せざるをえなかった。
12
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 12:35:54 ID:???
桜木紗千子を巡っての、三浦と加藤との駆け引きは続いていた。
僕は依然、彼らから一歩引いた所から紗千子への想いを募らせていた。三浦や加藤が僕を恋のライバルと認識していたかはわからない。僕たちは表面上、友人としての関係を崩すことはなかった。端から見たら、僕ら三人のグループのそばに、たまたまもう一人の友人として紗千子がいる、というようにしか見えなかったろう。
結局、僕らの中から紗千子を射止める者は現れないまま一年が過ぎた。結局、紗千子に想いを伝えることはできなかった。三年になったら、たぶん紗千子とは離ればなれになるだろう。
小学生の頃の恋とは違うんだ。ただ好きだというだけの感情じゃない。俺がしているのは、大人の恋なんだ。彼女との未来も想像できるし、彼女とのセックスも想像できる。何より、彼女の心が欲しいと強くつよく想う。
言葉にもできない癖に、そんな空虚な文言を並べることしかできない子どもだったのだと、今ならばわかる。
三学期の終業式、僕は彼女になんの言葉もかけることもできなかった。大人になりきれなかった僕は、ひどく暗い気持ちで家路についた。
13
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 12:41:49 ID:???
中学三年の始業式を迎えた。
一年前の鮮烈な出会いの記憶が、まだまだ僕の脳裏に鮮かなものとして残っている。できるなら、叶うならあの日の出会いをもう一度―そんな虫のいいことを思いながら、あるいは諦めのような気持ちも感じながら、僕は登校した。
学校に到着し、クラス分けの表を確認する。僕は2組だった。そのまま、目線を2組の女子の名簿に移す。
『えっ…あ…あった!』
紛れもなく、そこに桜木紗千子の名前があった。確率8分の1。この時の喜びはそれまでの何物にも例えようのないものだった。また彼女とクラスメイトとして一年間を過ごすことができる。今度こそ、今度こそ僕は彼女に想いを伝えられる―
僕はどきどきしながら、教室への階段を昇っていった。教室の扉を開く。いた!後ろのほうの席に座る紗千子の姿が。
「ようっ!」軽く手を上げて彼女に声をかける。平静を装ってはいるが、心臓の鼓動は止まらない。
「あっ、松原くん!また一緒になったね!」久しぶりに(実際は2週間くらいしか経っていないはずなんだけど)耳にする彼女の声。ああ、なんて心地のよい響きなんだろう。彼女の声が、僕の中で何度も、なんどもこだました。
席に座り、紗千子のほうを見やる。一年前と変わらない光景が、一年前と同じ気持ちが、そこにあった。
14
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 12:45:37 ID:???
一年前、三浦を介してようやく話せていた紗千子。今、このクラスにはライバルだった三浦も加藤もいない。そしてもう僕と紗千子には一年来の友人という実績がある。
勿論、三年になるとお互いに新しい人間関係が生まれてくる。一年前の僕がそうだったように、クラスのマドンナである紗千子に注目する男子が新たに現れるのは、当然のことだ。彼らは続々と、二年の時からのクラスメイトである僕に、彼女の情報を求めてきた。
僕にとって彼らはライバル視するほどの存在ではなかった。彼らに自分の気持ちを悟られないよう言葉を選びながら、話しても差し支えない程度の内容を教えることに抵抗はなかった。といっても、僕だって彼女に関して大したことを知っているわけじゃなかったけれど。
それよりも、紗千子のほうに大きな人間関係の変化が訪れてきてていた。
二年の頃は、特にグループに属さず、クラスのほとんどと分け隔てなく交流を持っていた彼女が、いつも二人の女子とグループを組み、固まって過ごすようになっていったのだ。
その光景はまるでお姫様とその取り巻きのようだった。僕と彼女の間に少しずつ壁ができつつあるのを感じた。
15
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 12:49:36 ID:???
紗千子自信にはお姫様気取りな気持ちなど微塵もなかったはずだし、彼女の僕に対する態度そのものは、それまでと何ら変わりはなかったのだけども、そんなこととは関係なく僕達の周囲は、僕と彼女の間に少しずつ亀裂を作るかのように勝手に巡っていた。
僕が紗千子と話していると常に、清水という女が間に割って入ってくるようになった。それはあからさまな妨害だった。清水は明らかに僕を敵視している。他の男子への態度とは全く違う、清水の僕に対する視線は怨みのこもった、ぞっとするほど冷たいものだった。
それがしばらくの間続き、次第に紗千子も僕と距離を取るようになっていった。彼女達はグループ内で内向してゆき、他の何者も寄せ付けない雰囲気を高めていった。
そのうちにクラスのどこからともなく、紗千子と清水はレズである、という噂がたちはじめた。誰かが「お前らレズだろー」と茶化すと、否定も肯定もせずニヤニヤ笑う彼女達。
たとえそれが冗談であろうと、そんな状況が、僕にとって愉快なはずはなかった。
後から思えば、この噂は決して的外れなものではなかったのかもしれない。確率的にクラスに一人は同性愛者や性同一性障害者がいてもおかしくないというし、清水が紗千子に恋心を抱き、そして僕を恋敵と認識して紗千子との仲を妨害しようとしてきたということは、あり得ない話ではないのかもしれない。
16
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 13:19:26 ID:???
紗千子との間に溝ができてから、僕は休憩時間を男の友人や、小学生時代から仲の良かった女子と過ごすことが多くなった。
その日は小学三、四年の時クラスメイトだった石川優子と休憩時間を過ごしていた。といっても、石川が一方的に喋るのを生返事で聞き流しながら、僕は窓の外をボーッと眺めていた。
石川は、クラスで一番背が小さく、童顔で、かわいくないことはないけれど、一言でいうと『ちんちくりん』少なくとも女としてどうこういうレベルじゃない。はっきり言ってガキだ。
毎年バレンタインにチョコをくれる女子の一人だったから、放課後や休日に遊ぶような仲ではないけれど、まあ友達といえる間柄だった。
「ねえ、松原くんって好きな人いるの?」
石川が唐突に問いかけてきた。何言ってんだこいつは。僕は面倒臭えなという態度を隠さずに「いねーよ」と返す。
「好きな人、いるんでしょ?ねえ、誰?桜木さん?桜木さんが好きなんでしょ?」
図星を突かれて、正直狼狽えたんだと思う。「はあ?違げえよバカ!」
「あーやっぱりね。可愛いもんねー桜木さん」とニヤつく石川。
こいつは小学生時代、僕に好きな女の子がいて、それに纏わるいろんな出来事があったことを知っている。だから僕が紗千子を好きだと知っても、それを言いふらしたりすることはないだろうけど、今まで他人には悟られないようにしてきたことを、石川ごときに見破られてしまっていたことに戸惑いを隠せなかった。
17
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 13:22:25 ID:???
女々しくも、相変わらず紗千子への想いを募らせていた僕だったが、そもそも僕達は中学三年生、すなわち受験生なのだ。
さすがにいつ結論がでるかわからない恋にばかりうつつを抜かしているわけにもいかない。まずは自分の進路を確立すべきだろう。紗千子だって進路を見据えて必死な時期のはずだ。
きっと成績優秀な彼女だから、高校もレベルの高い所を目指すだろう。
僕はどうするべきだろうか。僕の成績は中の上くらいで、今の状態ではちょっと彼女のレベルには届かないだろう。
でも、僕は、今の彼女との煮え切らない現状を何とかしたいんだ。何としてでも突破口を開きたいんだ。やってできないことはないはずだ。
よし。紗千子と同じ高校を目指すことに決めた。中学の間に彼女に告白することはたぶんできないだろう。だったら、彼女と同じ高校に行って、そこで僕は彼女に、想いを伝えるんだ―
その日以来、僕は必死に勉強した。成績も上がっていった。
年が明けた。この時期になるとクラスの雰囲気もすっかり受験モードだ。休み時間に雑談するような光景も見られなくなってきた。
もうすぐ春が来る。もうすぐ―
18
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 13:26:15 ID:???
結論から言うと、紗千子と一緒に受けた第一志望校には受からなかった。
ほかに紗千子と一緒に受けた第二、第三志望校には合格したから、僕は第二志望の私立校に進むことになった。紗千子が第一志望校に受かったかは、聞けなかった。
卒業式までの数日間、僕は紗千子のことはほとんど何も考えずに過ごした。
最後の日に告白しよう、という気持ちも起こらなかった。頭の中には言わなきゃ後悔するぞという気持ちはあるのに、それでもいいやという気持ちがそれに蓋をしてしまっていた。
俺は一体どうしちまったんだろう―
卒業式の日が来た。
僕は、紗千子に「じゃあ、元気でね」という一言しか言えなかった。
紗千子は「うん、元気でね」と返した。
それが何ヵ月かぶりに交わした紗千子との言葉。たったそれだけだった。中学時代最後の、もしかしたら、これがほんとうに最後になるかもしれない言葉なのに。
19
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 13:29:32 ID:???
僕が進んだ私立校は、自宅最寄り駅から電車で30分ほどの所にあった。
入学式の日。僕の目の前に、二度目の奇跡が―
起こるわけがなかった。僕は紗千子のいない学校に電車で通った。時々駅や車内で中学時代の同級生に出会うこともあった。だが、紗千子に逢うことはなかった。彼女の進んだ高校も、僕は知らなかった。
逢えなければ想いは募るのか、それとも徐々に彼女のことを忘れてゆくのか―
高校生活は忙しい。授業に、部活に、新しくできた友人との遊びにと、とにかく忙しい。
僕は心にぽっかり空いた隙間を無理矢理にでも埋めるように、毎日を過ごした。
そして、夏が来た。
20
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 13:58:01 ID:???
夏休みに入ってすぐ、中三のときのクラスメイトの辻本晶子が電話してきた。
辻本は小学二年から四年までと中一、中三で同じクラスだった。小、中の9年間一度も同じクラスになったことのない同級生もいる一方、辻本のように5年間も一緒だった奴もまた珍しく、人懐っこく明るい性格もあって腐れ縁のような仲だった。
もっとも、辻本はぽっちゃり、を通り越し、はっきり言ってデブだから、失礼ながら女性としてどうこうは無い。ま、痩せれば結構可愛くなるんじゃね?とでも言っておこうか。
辻本からの電話は、カラオケの誘いだった。「2組のメンバーで遊ぼうよ。女子三人行くから松原も男子二人誘ってきてよ」
まあ、いいかと誘いを受けて電話を切る。あと二人来るという女子は誰だろう。
同級生の女子といえば、やはり浮かぶのは紗千子の顔だ。でも彼女は来ないだろう。辻本と紗千子は特に仲がよかった訳でもないし。まあ、普通にあの地味なメンバーだよな。
21
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 14:02:59 ID:???
約束の日、まず男子メンバーと合流してから、女子との待ち合わせ場所に向かった。
男子メンバーは高橋と植村のふたり。まあまあノリが良くて、辻本たちとも仲の良い奴らを適当に厳選して誘った。
高橋に電話したら「女子は誰が来る?」「真央ちゃんあたり来ると思うよ」と答えたら即答で参加決定。
真央ちゃん―広沢真央は一見地味でおとなしいメガネっ子だけど、クラスでは桜木紗千子にも劣らない美人として男子の間で密かな人気だった。
待ち合わせの場所に着くと、小柄な女の子二人と豚一匹、予想通りのメンバーが待っていた。彼女達との4ヶ月ぶりの再会にひとしきり話に花を咲かせてから、6人でカラオケ店に向かった。
俺の横には石川優子―クラスで一番小さな女の子―が並んで歩いていた。高校に入学してから髪を伸ばしはじめたのか、小学時代以来のボブが、いい感じのミディアムになっていた。それに、可愛らしいブラウスとスカート姿。はっきり言って、俺好みのファッションだ。あのいも臭いガキが随分と大人っぽくなったなぁーと感心してしまった。
よし、ちょっとリップサービスしてやるか。
22
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 14:09:38 ID:???
「髪、伸ばしてんだ」
「うん。変かな?」
「ううん、いい感じじゃん。なんか大人っぽくなったよ。それに服も。そんな感じの服も着るんだな。いいじゃん、似合ってる」
そう言うと、石川は、ちょっと俯いてから、顔をあげると、ニコッと笑って「ありがとう」と言った。
彼女の照れくさそうな笑顔に、一瞬ドキッとしてしまった。正直、まずかったかな、と思う。変な勘違いされなきゃいいけど。
でも、まあ大丈夫だろ。相手はあの石川だぜ…
カラオケ店に着くと、ソファーが二組ある部屋だったから、普通はまず一旦男同士、女同士で着席するもんじゃないかと思うのだが、早速高橋が真央ちゃんの隣をちゃっかりキープ。結局高橋、真央ちゃん、辻本と、植村、俺、石川の組み合わせで着席した
そしてカラオケが始まった。最初のうちは一番下手に座った石川が、メニューの注文を聞いてくれたり、運ばれてきた飲み物や食べ物を配ったりとまめまめしく動いてくれていたのだか、場が進むにつれて、石川の様子がおかしくなってきた。
俺の脇腹をくすぐってきたり、肩を叩いて振り向くとほっぺに指のアレをしてはケラケラと笑ったり。かと思えば何故かしばらくボーッと俯いている。「大丈夫か?」と声をかけるとハッ、と顔を上げて、顔を真っ赤にして「あ、うん、大丈夫…」
本当に大丈夫か?こいつは…
今度は、俺の手を掴むと、手首に顔を近づけて「いいにおいがするね」
うん、確かに色気出して香水なんかつけて来てるけどさ…でも、何なのこいつマジで。正直、若干引いちゃうんですけど。それにね、俺は思春期の童貞少年だぜ?たとえ相手が石川でも、あんまあちこち触られると下半身が固くなってきちゃったりするんですけど…
23
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 14:14:33 ID:???
カラオケの後、まだ時間もあるからボウリングでもやるか、ということになり、移動。
男女ペアで3チームに別れる。俺の相方は…やっぱり、石川かよ…いや、別にいいんだけどさ。またちゃっかり真央ちゃんと組んだ高橋のほうがはしゃいでるし。楽しそうで何よりだな。植村はさっきからなんかずっとババ引いてるみたいな感じだけど、ま、頑張れ。
ボウリングっていっても俺も植村もはっきり言って真面目にやる気はない。背面投げやら両手投げやら、適当にふざけて遊んでいた。
女子も「真面目にやりなさいよー」と言いつつゲラゲラ笑ってる。真央ちゃんにいいとこ見せようと一人奮闘する高橋がなんだか滑稽だ。
俺は、途中でなんか面倒くさくなってきて、「ちょっとトイレ。適当に遊んでて」と言い残してその場を離れた。
トイレに行ったあと、少し離れたベンチに座って休んでいると、石川が来て、俺の隣に座った。
「何してんの?」「ちょっと休んでるだけだよ」
「疲れた?」「まあね」
…疲れたのはお前の奇行のせいなんだが。俺は自動販売機でジュースを2本買って、1本を石川に渡した。
石川は、礼を言ってジュースを受けとったが、缶を開けずに握りしめたまま、黙って俯いている。俺も何を話していいのかわからず、黙っていた。
暫し沈黙の時間が流れる。2、3分は経っただろうか。意を決したように、石川が口を開いた。
「本当は、桜木さんと来たかったんじゃない?」
石川のその言葉を聞いて、何故そうなったのかよくわからないけど、俺は思わず「桜木とは何ともねえよ!しつこいな!」と声を荒げてしまった。しつこいといっても、石川が俺に、紗千子のことが好きなんだろうと言ったのは、もう何ヵ月も前の一度だけなんだが。
石川は、俺に怒鳴られて一瞬ハッとした顔をすると、また俯いてしまい、「立ち入ったこと言って、ごめんね」とボソリと呟いた。
そして、また暫し俺と石川の間に、沈黙の時が流れた。
24
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 14:41:32 ID:???
「怒鳴ってごめん。でも、桜木とは本当に何もないから。別に好きでもないし、卒業してから会ってないし、第一、高校も知らないし」
ともかくこの妙な空気を何とかしなきゃ、と、俺は石川にまた嘘をついた。石川は黙っている。多分俺が嘘をついてるってわかってるんだろうな。
仕方ないので、話題を変えてみる。
「石川はどうなの?好きな人いないの?」と、思いつきで言ってから、しまったと思った。
多分、というより、まず間違いなく、その答えは俺にとって聞きたくないものだと思ったから。
石川は答えない。俯いたままだ。どうか、どうかこのまま答えないでくれ。君が好きな人はだれか、もう聞かなくてもわかってるから。
中二の時、告白された女の子のように、情を感じる前ならば迷わず断れるだろう。でも、君には―
もうダメだ。堪えられない。「ごめんごめん。無理に言わなくていいよそんな話。それより―」と、また話を変えた。
「そんなブルーになってちゃ、話進まないよ?ほら、喋んなよ、石川の学校の話。部活のこととか、まだ聞いてなかったよね。今何してんの?中学の時バレーやってたじゃん。チビなのに。高校でもやってんの?」
「チビは余計だよ」
買ってからもう30分近く経ったジュースにようやく口をつけながら、俺達はしばらくの間話し続けた。
皆の所に戻ると、もうとっくにゲームは終わっていた。結局、石川とは一時間以上話しこんでいた。
帰り際、誰からともなく「今度夏祭りがあるじゃん。またみんなで集まろうよ」「賛成ー!」
「じゃあさ、優ちゃんと真央ちゃん、一緒に浴衣着ようよ」「いや、お前の浴衣姿は別に見たくない」「うるせー!」と、次の約束を交わしてから、女子と別れた。
「で、お前、石川とつきあうの?」高橋が聞く。
「さあね…」「いや、つきあえよ」「うるさいよ」
わかってるよ、もう、石川の気持ちは。でも、俺には好きな人が…
多分、俺は紗千子とはつきあえないと思う。紗千子に気持ちを伝えることすら、きっとできないだろうと思う。でも、俺は―
25
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 14:51:06 ID:???
家に帰った俺は、着替える気力もなくベッドに倒れ込むと、目を瞑った。頭の中で、今日の出来事を何度もなんども繰り返す。
今日、出掛ける前まではこんな気持ちになるなんて思ってもみなかった。何故こんなことになってんだろう。あんな軽口を言ってしまったのがまずかったのだろうか。
なんで俺は、さっきから石川のことなんて、ずっと想ってるのだろう。
胸が疼く。まるで心臓をギュッと掴まれるような感覚に悶える。時間の経過が、よくわからない。
すっかり日の落ちた部屋で、電気もつけずに、俺はただ悶え続ける。
自分自身に問う。お前の想い人は誰だ。
もう二年間想い続けてきた、あの子じゃないのか。お前の二年間の恋は、何なんだ。恋って、何なんだ。
思い出せ。あの子のことを思い出せ。
「好きな人、いるんでしょ?ねえ、誰?桜木さん?桜木さんが好きなんでしょ?」
「本当は、桜木さんと来たかったんじゃない?」
俺の心の中に、少女の声が響く。
頭の中で、少女のうしろ姿が、像を結ぶ。
少女が、振り向く。右手を、のばす。
優子の右手が、俺の心臓に、そっと、触れた。
26
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 14:57:40 ID:???
「ごめん、待った?」待ち合わせのバス停で、花柄のワンピースに麦わら帽子姿の彼女に、声をかける。
「ううん、今来たとこ」ありがちなやり取りだな、と思う。照れくささを必死に抑える。俺はシャツにニットタイにチノ。手首にはこの前と同じ香水をつけてきた。
「こないだは、夜遅くに電話してごめんね。急に映画になんか誘っちゃって」「ううん、あ、バス来たよ」
映画の前にお昼食べようよと、洋食屋にはいり、ハヤシライスを注文する。彼女も、同じものを頼む。
小学五年生の時、友達と映画を観に行き、この店にはいった。子供だけではいる、はじめてのファーストフードではない飲食店で、ハヤシライスを食べた。子供だけで外食するという行為が、とても特別なことのように感じられた。まるですこし大人の扉を開いたような気持ちになった。
それから映画に行く度にこの洋食屋でハヤシライスを食べた。
この店に、俺は女の子と一緒に入ったんだ。
映画を観たあと、デパートに行った。見たいものがあるのと、彼女が言う。
「あれが見たかったんだ」浴衣コーナーを指差して、彼女が言う。「ほら、お祭りでみんなで着ようって晶子が言ってたでしょ」
こういう時の女の子の買い物は長いって本当なんだな。二人であれこれ二時間近く。彼女は朝顔の柄の白い浴衣を試着することに。
試着室から少し離れて待つ。カーテンの向こう側を想像するとドキドキしてしまう。
「直樹くーん、いいよー」
カーテンの向こうから彼女の声がした。直樹くんって…もう、まるで恋人みたいじゃん…
27
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 15:00:14 ID:???
「いいじゃん!すげー可愛い!これにしなよ」
彼女は嬉しそうに、そしてすこし恥ずかしそうに微笑む。
彼女は、こんなに可愛かったのか、と思う。本当に、これまで出逢ったどんな女の子よりも、と―
彼女はその浴衣を買うことに決めて、会計を済ませると、「直樹くんも浴衣着ようよ!」
「えー、俺はいいよー」「見るだけ、見るだけ、ねっ、ねっ」と、強引にメンズ浴衣コーナーに連行された。
「これがいい、あ、こっちもいいよ」彼女ははしゃぐ。それはすごく楽しくてしあわせなのだけども、俺には別のことが気になってしまう。
けっこう、いい値段するよな…
夏休みに入ってから週三日のバイトを始めていたのだけれど、給料が入るのはまだまだ先なのだ。この間はカラオケにボウリングをしたばかりだし、今日は映画観て飯食った。浴衣を買うなら下駄も必要だし、これは財布の中身がかなり心細いことになる。
「ねえ、これがいいよ。試着だけでもしてみてよ」渋る俺を彼女は強引に試着室に押し込めた。
慣れない浴衣にサッと袖を通す。多分、ちゃんと着れてないけど、試着だけだしまあいいや。
カーテンを開いた。彼女は少し離れたところにいる。俺も、彼女の名前を呼ぶべきなのかな、と思う。すーっと深呼吸してみる。やっぱり、まだなんだか恥ずかしいな。
「着たよー」と、彼女に届くように、すこし声を張って言う。彼女の笑顔が近づいてくる。
「似合うと思うけど、もっとちゃんと着なよ直樹くん」もう、彼女は当たり前のように俺を名前で呼ぶ。彼女は、俺の浴衣をぎこちない手つきで直すと「うん、かっこいい」と微笑んだ。
28
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 15:29:58 ID:???
この浴衣を買うべきか否か迷ったけど、結局「またにするわ」懐具合も気になるけど、やっぱりなんだか恥ずかしい。
「じゃあ、行こうか」と売り場を後にした。彼女は俺の一歩後ろをついて歩く。
彼女の買った浴衣を持ってあげようと俺は振り向く。「ねえ、石…」と、彼女の苗字をよびかけて、俺はふと立ち止まる。
俺は、一歩踏み出さなきゃいけない。彼女はもう、俺より前を歩いている。
「やっぱり買うわ、あの浴衣」
「無理しなくていいよ」「いや、いいよ。浴衣、一緒に着よう」
俺は彼女の浴衣を「持つよ」と言って受けとると、浴衣売り場に踵を返した。
29
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 15:31:54 ID:???
「ちょっと歩かない?」
帰りのバスの中で、彼女に言った。俺達は、予定のふたつ前のバス停で降りた。
俺達の通っていた中学校にほど近い、高台の公園を、デパートの大きな紙袋をふたつ提げて、彼女の歩幅に合わせてゆっくりと歩く。麦わら帽子を被った彼女が、俺の横に並んで歩く。
夏の太陽はまだ高く西の空にある。二人の影が東に長く延びる。
海の見えるベンチに並んで座る。二人は目の前に広がる海を見つめている。しばしの沈黙。
俺は立ち上がり、視線を彼女に移す。彼女も立ち上がり、帽子を脱ぐ。二人は向かい合う。二人はお互いを見つめている。
30
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 15:35:45 ID:???
俺は今から、彼女へ向けて、もっとも大切な言葉を言うんだ。ほんの三日前まで、いちども思い浮かべたこともないのに、あれから何百回と心のなかで繰り返した言葉。
鼓動が高鳴る。俺は口を開いた。
「優子、好きだよ」
優子の瞳が潤む。
「直樹くん、好きだよ」
優子が俺の胸に飛び込んできた。俺の背中で麦わら帽子がパンッと音をたてた。
優子のほのかに紅く染まった頬にそっと手を触れる。その瞬間に潤んだ瞳から涙がほろりとこぼれおちる。優子はそっと瞳をとじる。
唇と唇がそっと触れる。包みこむような優子の厚い下唇の感触。やわらかくて、やさしい感触が俺の魂を包みこんだ。
31
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 15:54:17 ID:???
俺達はしばらくの間、ベンチに座って、告白と、抱擁と、キスの余韻に浸った。
「ねえ、いつから俺のこと、好きだったの?」
「覚えてる?小学生の時、私、下唇が厚いって、苛められてたこと。あの時、直樹くんが、庇ってくれた」
記憶がおぼろげに甦る。もう七年も前の記憶。俺は女の子を苛めてた二人の悪ガキに掴みかかったんだ。そして殴られた。男子の歓声と女子の悲鳴、体に受けた痛みの記憶が甦る。女の子の顔は思い出せない。
優子の顔を見つめる。瞳がまた潤みだしている。触れると今にもこぼれおちそうだ。記憶の中の女の子と、目の前の少女が結びつかない。
「その時から…ずっと…好きだったの…あの時の直樹くん、すごくかっこよかったよ…あの頃から、直樹くんすごく、優しかったよ…」大粒の涙を流しながら、優子は言った。
32
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 15:58:08 ID:???
違う、違うんだ。優子の目から、大粒の涙がこぼれおちる。その美しさ、その貴さに、俺の胸が痛む。
あの時の俺に、優子を思いやる気持ちなどなかった。ただ、あいつらが嫌いだった、そして、好きだった女の子にいいかっこしたかっただけなんだ。俺は、君の言うような優しい男の子なんかじゃなかった。
そんな俺を、そんな俺を君は七年も…
「あれから、ずっと直樹くんを見てた…私の…初恋…直樹くんは私のこと見てなかった…他の子を見てた…でも、やっと私のこと見てくれた…私、直樹くんのこと、好きでいてよかった…」
俺は優子を抱きしめた。つよく、つよく抱きしめた。涙がとめどなく溢れてくる。俺は、激しく嗚咽しながら優子を抱きしめ続けた。背後で、誰かの足音が近づき、トットットットッと、リズミカルに響いて遠ざかっていった。そんなことはもうどうでもよかった。
日は西に傾き、あたりは夕焼けに包まれていた。
33
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 16:00:24 ID:???
優子と恋人として過ごすようになった夏休み。バイト、部活、友人との付き合いといった多忙な時間を縫うように、俺はすこしでも多くの時間を優子と共にした。
浴衣を買ったおかげで財布の中身が乏しくなったから、遠出したりお金のかかるような遊びはできないけれど、お互いの部屋や公園で、俺達はお互いの断片を求めるように語りあった。優子のことなら、何でも知りたかった。
優子との会話はときに俺を悲しくもさせた。「ねえ、覚えてる?ほら、四年生の時遠足で―」「あの時の直樹くん、こんなこと言ってたよ―」
優子は、小学校や中学校時代の俺のことを、ほんとうによく覚えていた。自分自身でも覚えていない俺のことを、嬉しそうに話す優子を見ると、たまらなく切ない気持ちになった。俺には、優子との思い出なんてほとんどなかった。優子のことなんて見ていなかったから。
優子との七年の隙間を埋めたい、そのためにすこしでも彼女のことを知りたい。
彼女の言葉に胸を痛めるたびに、優子への愛が深まっていった
34
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 16:02:52 ID:???
夏祭りの日。慣れない藍色の浴衣に身を包み、下駄をつっかけて、普段ならチャリで5分の優子の家まで、30分以上かけて歩いた。
やっぱり浴衣姿で一人で歩くのは照れくさい。誰も気にしてるわけないのに、すれ違う人たちの目を意識してしまう。でも、今から浴衣姿の優子に会えるんだ。彼女と並んで歩く、きっとあたたかい時間を想像しながら、歩を進めた。
「おまたせー」朝顔の柄の浴衣に身を包み、照れくさそうに顔を赤らめた優子に、「おおーっ!」と思わず感嘆の声が出る。一度試着した姿は見てるけど、やっぱりなんだか初々しくて、とにかくかわいい。
手を繋いで、お祭り会場まで、ゆっくりと、ゆっくりと歩く。時々お互いの顔を見合せては、照れ笑いを浮かべる。浴衣を買ってよかったと思う。ほんとうに、今この世でいちばんしあわせなのは、自分達なんじゃないか、と思う。
お祭り会場に着くと、おーい、と呼ぶ声と、女の子のワーキャー騒がしい声がする。声の方を見ると…
なんじゃこりゃ!中三の時のクラスメイトが、ざっと数えても十人以上。その中に…浴衣姿の桜木紗千子の姿があった。一瞬、ほんの一瞬だけまずいな、という後ろめたさのようなものが、頭をよぎる。
優子は、右手に俺の手を握ったまま、おーいと左手をブンブン振りながら、みんなのほうに歩き出す。俺も引っ張られるようについていく。
35
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 16:25:43 ID:???
浴衣姿で仲良さげに手を繋いだ俺達の姿は衝撃的だったようで、あっというまに「マジかよー!」「いつからつきあってんの?」と、矢継ぎ早に声が飛んできた。
俺はもう、顔から火が出そうな気持ちで「あー!もう!うるさいうるさい!」と繰り返すしかなかった。
こういう状況だと、やっぱり女のほうが強いのかな、と思う。優子も顔を真っ赤にしているし、みんなとの会話もいつもよりたどたどしい感じだけれど、時々上目遣いに俺の顔を見ては、「うふっ」と微笑みかける。そのたびに周囲から野次が飛ぶ。俺の顔はますます赤くなってることだろう。
36
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 16:28:18 ID:???
ひとしきり弄られて、しばらくすると普通に雑談できるくらいに落ち着いてきた。俺も優子と離れて、久しぶりに会う同級生たちと高校生活の事などの話に興じた。
優子は辻本や真央ちゃん達とおしゃべりしている。三人共浴衣姿だが、目に気色いい優子や真央ちゃんの浴衣姿に比べて、ひとりだけ女相撲の力士が混じっているようで、思わず笑ってしまう。
辻本が「何ニヤついてんのよ〜」とか抜かすから、「三人娘が浴衣で並んで微笑ましいなーって」と適当に答えておく。
優子にそろそろ行こうか、と声を掛けようとしたら、「松原くん、久しぶり。びっくりしちゃったよー」
桜木紗千子が話かけてきた。
37
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 16:30:23 ID:???
「松原くん、元気だった?高校生活はどう?」
「ぼちぼちだよ。そっちはどう?学校どこだっけ?」
5ヶ月近くぶりに会う桜木紗千子。卒業前の数ヶ月、話もまともにできなかったから、ちゃんと会話するのは、もういつ以来だろうか。
かつて、俺は彼女との会話の一言ひとことに夢中だった。彼女との会話から、大事なことがらを探し集めた。いつも、必死だった。彼女との会話に、ドキドキしていた。
今、彼女と話す俺の心は、あの頃からすれば信じられないくらいに、穏やかに凪いでいる。
俺の右手に、柔らかいものが触れた。優子の左手だ。優子はギュッと俺の右手を握りしめる。
「本当ビックリしちゃった。ラブラブだねー」
桜木が言う。純粋に俺と優子を祝福してくれているような、やさしい笑顔で。
38
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 17:11:41 ID:???
こいつ、やきもち妬いてんのかな。そりゃ目の前の浴衣姿の桜木は確かにきれいだよ。ほんとうに大好きだった女の子だよ。でも、大丈夫だよと、不安げに俺の手を握る優子に、心の中で語りかける。
もう、俺は大丈夫だから。もう、俺の心はどこにもいかないから。
今、桜木と話してることも、時間が立てば忘れてしまうよ。
かつて、必死に集めた桜木の断片。誕生日、好きな言葉、好きな食べ物、好きな歌、黒板の字、彼女への恋心…
きっと、これから少しずつ、忘れていくよ。
「じゃあ、行こうか」俺は優子の手を引いて、歩き始めた。
39
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 17:14:21 ID:???
こうして、高校一年生の夏休みは忙しく過ぎていった。
俺と優子がつきあうきっかけになったカラオケや、夏祭りの裏話も、後々わかってきた。
あのカラオケは、俺と優子をくっつけるために辻本と真央ちゃんが計画したこと。
優子はそのとき自分から告白するつもりだったのだが、俺に髪形や服装を誉められて舞い上がってしまい、カラオケ中は完全にパニック状態だったこと。
俺達と解散した後辻本と真央ちゃんに慰められながら泣いたこと。帰宅後も部屋でひとり何時間も号泣し続けたこと。
あの夜、優子に電話したとき、彼女の声がかすれていたのを、はっきり覚えている。ああ泣いてたんだな、俺が泣かしちゃったんだなと、そのときはっきりわかった。
夏祭りで浴衣を着た俺達が手を繋いで現れた姿はかなり衝撃的な光景だったらしい。
あのお祭りには、最終的に中三のクラスメイトの半分以上が来ていたこと。他に同じ中、小学校の出身者も大勢いて、俺達の噂はたちまちのうちに広がったこと。
俺達がみんなと別れてからも、俺達を肴に盛り上がったこと。影響されて何組かの即席カップルが生まれたこと。高橋が真央ちゃんに告白して玉砕したこと。
もうすぐ夏休みが終わりを迎えるというある日、彼女の部屋で、俺と彼女ははじめて繋がった。
15年の人生で、最も濃密な夏が過ぎ、季節は移ろった。
40
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 19:13:14 ID:???
たしか次の年の春休みだったと思う。優子の部屋で、彼女と背中合わせになって、中学の制服に着替えていた。俺は変態である。要はこれからそういう行為をしようというわけだ。
他に誰もいないはずの家の玄関のほうから、バタンと音がしたとき、俺はまずいと思った。そのとき俺は扉の前に仁王立ちになり、Tシャツに下半身はトランクス一枚、しかもトランクスはものの見事にテントを張った、どうしようもない姿だった。
トントントントン、と、誰かが階段を昇ってくる。ヤバい。俺は勃起したまま硬直していた。しかし、まさか目の前の扉が開くことはないだろう。
そのまさかが起きた。
「ねー、ゆう…」優子の四つ上で大学生のお姉さんが言いかけて、そのまま硬直した。お姉さんは俺の頭の先ら爪先まで目線を往復させる。目線が一瞬股間で止まる。後ろから優子の悲鳴が聞こえる。「お姉ちゃん出てってよ!」
お姉さんはニヤつきながら「直樹くん来てたんだ〜邪魔してごめんね〜」と言って扉を閉めた。俺はその場にへたりこんだ。後ろを振り返ると、ブラ一枚にブルマーという姿の優子がへたりこんでいた。平常運転ならそのまま抱きつきたくなるような姿だが、体が動くまでしばしの時間を要した。
41
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 19:16:05 ID:???
「お二人さーん、ちょっと出掛けてくるよー」扉の向こうから、からかうような声がした。俺はサッとジーンズを履いて、お姉さんを追った。「あ、あの、違うんすよ」何が違うのか自分でもよくわかってない。
「気にしなくてもいいって。元気でいいじゃん」お姉さんはニヤニヤしながら言う。そして「がんばれー」とウィンクし、出掛けていった。
数ヶ月後
石川家のリビングで、優子とお姉さんと三人で、桃鉄に興じていた。俺は二人を容赦なくフルボッコにしていた。彼女だろうが、その姉だろうが、勝負事に情けなどない。
お姉さんにキングボンビーがとりついた。またとない好機到来。俺は満面の笑みを浮かべながら、カーソルを『冬眠カード』に合わせた。その時。
「あんた、いっつも優子の部屋で何やってんの?学ランなんか持ってきて何やってんの?ブルマー履かせて何やって…」優子が「お姉ちゃんやめてよー!」と顔を真っ赤にして喚く。
この人を敵に回してはならない。俺は強く、つよく心に刻み込んだ。
42
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 19:18:02 ID:???
高二の終業式から高三の始業式までの春休みに、我が家は長らく住んだアパートから、20キロほど離れた町に移り住んだ。元々実家のあった場所に、両親が家を新築したのだ。
学校の近くなので、それまでの電車通学から、チャリ通学に変わった。引き替えに優子の家へは電車とバスを乗り継いで行かなければならなくなった。
日常生活はますます多忙になっていった。俺と優子は将来について真剣に語り合い、俺は県外の大学入学を目標とすることに決め、学校の他は塾通いに多くの時間を費やすことになった。
優子と過ごす時間は以前よりもはるかに少なくなってしまったが、いまはまだ固いつぼみが、やがて来る大学生活で芽吹き、そして大人として、社会人として大輪の花を咲かせ、そこには今よりもっともっと大きな存在として優子がいる。そんな未来を想えば、まだ雪解け前の準備期間といえる今を優子と離れた町で過ごすことは、辛くはなかった。
43
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 19:35:14 ID:???
また新しい春が来て、俺は目標の大学に合格し、優子は地元の短大に進んだ。
俺は大学のある街で一人暮らしを始めた。優子とは遠距離恋愛となった。といっても新幹線で一時間、車で四、五時間といった距離だから、大学生にはハードルは低くはないけれど、けっして絶望的な距離というわけでもなかった。
俺はバイトして運転免許を取って中古車を買い、授業とサークル活動とバイトの合間を見つけては、優子のところへ帰る時間を作った。
だいたい月に二回は車で優子に逢いに行き、優子が新幹線や高速バスで俺のところへ来るときもあった。
俺達こうして物理的な距離に抗いながらも、心の距離は適切に保ちながら、変わらぬ愛を育んでいける、と思っていた。
44
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 19:36:55 ID:???
五年近くつきあった石川優子との別離は、意外なほどにあっさりとしたものだった。それは俺達が二十歳になったばかりの春のことだった。
別に憎しみあったわけでも、お互いに他に好きな異性ができたわけでもなかった。ともかく、お互いのために別々の将来を歩んでゆくことにしようと、最もらしい言い訳で、自分の心を整理した。
バイトの後輩の戸田理恵を食事に誘ったのはそれから2ヶ月ほど後のことだった。半年ほど前に、俺は彼女に告白されていた。
彼女は医療系の専門学校に通うひとつ下の19歳だった。
その夜の食事の後、俺は彼女に交際を申し込んだ。そして、その夜のうちに、彼女は処女を捧げてくれた。
45
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 19:38:50 ID:???
理恵が突然にこの街からいなくなったのは、交際二年目の春だった。俺は22歳になっていて、大学を卒業して、地元には戻らず、この街で社会人生活を始めたばかりだった。
理恵は一年前に就職し、病院職員としてこの街で暮らしていた。俺達はほとんど毎夜をどちらかの部屋で過ごしていた。
理恵の退職を知ったのは、その日の夜だった。そして、この街を離れて地元に帰ることを決めたと聞かされた。俺には何の相談もなかった。俺は一晩中彼女に理由を問い詰めた。だが、納得いく理由は聞き出せなかった。
俺に原因があるのか、それなら努力して直すからどうか話してくれ、と訊いても「直樹さんが原因じゃありません」「どうしても地元に帰りたくなりました」「私にはこの街は無理だと思いました」といった答えしか聞けなかった。
46
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 19:41:53 ID:???
理恵は実家に帰り、地元の本屋でバイトを始めたと聞いた。
俺は新社会人としての生活に追われ、しばらく彼女に会うこともできず、電話やメールも途切れがちになった。その少ないメールでも、どうして彼女がこの街からいなくなったのか尋ね、できるなら俺のところへ戻ってきてほしいと訴えた。
ようやく理恵に会えたのは、彼女がいなくなって三ヶ月が経った、六月の土曜日ことだった。
俺は彼女に会うために、車で彼女の地元に向かった。彼女とは、バイト終わりに会って食事することにした。
郊外の国道沿いのファミレスで、彼女に会った。土曜日なのに店はあまり混雑しておらず、一番奥の静かそうな席で、彼女と話した。
それが、理恵に会った最後になった。明日も朝からバイトだからと、その夜は結局その場で別れた。俺は道の駅に車を停めて一晩過ごし、翌日帰宅した。その後、どちらともなくメールも途絶えた。
彼女から手紙が届いたのは、それから半年経った頃だった。俺への謝罪の言葉が便箋五枚に渡って綴られた後、地元の病院に再就職したことと、新しく好きになれそうな男性がいることが記されていた。
47
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 20:03:46 ID:???
次に恋人ができたのは、社会人二年目の23歳の秋だった。
その年の夏、大学時代のサークルの仲間達とバーベキューをした。その時に出会ったのが、小島先輩の妹の茜だった。
正確に言うと、彼女との初対面はもう四年も前の大学時代に、小島先輩の家に遊びに行った時だった。俺は当時19歳、茜はまだ高校一年生で16歳になったばかりだった。
彼女ははっきりいって、そこらのアイドルとは比較にならないほど可愛いかった。その時は挨拶程度だったが、後で先輩と「妹さん可愛いですね〜」「アハハ、色気も糞もないガキだぜ?あんなの、やめとけやめとけ、アハハ」なんて会話を交わしたのを覚えている。
二十歳の大学生になった茜は、愛くるしい童顔で、相変わらずの可愛いさだった。
「松原って今彼女いなかったよな。こいつなんかどう?色気ないのと胸がない以外はいい奴だぜ?」本気とも冗談ともつかない口調で、小島先輩が言う。
「なに言ってんのよ兄ちゃん!」「兄が変なこと言ってすいません」「アハハ、とんでもない。仲の良い兄妹で羨ましいな」
そんな他愛もない会話から徐々に俺達は打ち解けてゆき、その日のうちに携帯とメアドの交換をした。まだ恋愛感情というには遠いけれど、俺は茜に対してほのかに暖かい気持ちを、確かに感じていた。
48
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 20:08:46 ID:???
それから、俺と茜は、何度かの食事やデートを繰り返し、少しずつお互いの距離を縮めていった。
紅葉の季節に、ふたりでドライブに出掛けた。紅く染まった湖を眺めながら、俺は茜に思いを伝えた。
彼女との交際は一年に満たなかったけど、一時は真剣に茜との将来を考えた。俺はそれを口にすることはなかった。彼女はまだ学生だったし、自分も社会人としてはまだまだ未熟だと思った。とにかく焦らずゆっくりと、ゆっくりと愛を育んでいければいいと思っていた。
そうしていければ、やがて、俺は茜の全てを守れる力も自信も持てるだろう。きっとそう思う、と。
49
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 20:31:03 ID:???
「直樹のことは好きよ。でも、たぶん、直樹が思ってるほど、私は直樹のこと好きじゃないのかもしれない」
それが彼女の別離の言葉だった。とにかく、何か言い当てられたような奇妙な感覚と、深い闇に包まれるような感覚が込み上げたのを覚えている。
茜は口に出しては言わないけど、「あなたは私じゃダメなんだよ」という言葉が聞こえるような気がした。そして、彼女にそれを言わせたのは自分だという確信が、俺の心を何度もなんども突き刺した。
「だから、今日から友達に戻ろう。兄ちゃんと気まずくなるのは嫌でしょ?だから、私たちはこれからも友達」
「きっと、この世に私以上に直樹が好な人は、ぜったいにいるよ。それに、直樹には私より好きな人が、ぜったいにどこかにいると思う」
本当にこの子はやさしい子なんだ、と思う。
俺は、君のことを守れなかった。あれほど真剣だと思っていた気持ちも、けっして君のためのものじゃなかったんだ。
俺は彼女にすべてを言い当てられたような気がした。そして、彼女の言葉はきっと、将来に、どこかで、明確な答えを示してくれると、そう思った。
50
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 20:32:17 ID:???
翌年の春、一通の葉書が届いた。中学の同窓会の案内だった。
そうか、もう卒業から十年経ったんだ。
もう、ほとんどの同級生とは交流がなくなってしまった。みんな元気でやってるかなと、何人かの顔を思い浮かべる。
たしか、前回の同窓会は五年前の成人式の日だった。俺はもう中学時代住んでた街を離れて、今の街で大学生活を送っていたけど、そうだ俺は当時つきあっていた彼女に逢いに、出席しないあの街の成人式に行ったんだ。
ふと、記憶の堰が一気に開くように、当時の思い出がよみがえってきた。
51
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 20:34:42 ID:???
まだ二十歳の誕生日を迎えていない十九歳の俺は、中学校のあった街の成人式会場にいた。実家ももう転居していたし、本来その街の成人式に行く理由はないのだが。
俺は車の中で、式が終わるのを待っていた。式に紛れ込んでも大丈夫とずいぶん誘われたけど、固辞した。
正月に彼女とケンカして、ちょっと微妙な空気になっていたから、仲直りの意味も込めてちょっとしたサプライズを用意していた。
携帯が鳴った。式が終わったらしい。俺は彼女のところへ急ぐ。
彼女とその両親、それに同級生たちが談笑している。俺は後ろ手から薔薇の花束を彼女に差しだす。「成人式おめでとう」
同級生たちから歓声が湧く。彼女は満面の笑みで花束を受け取る。「ありがとう。でも直樹くんもだよ。成人式おめでとう」
顔を真っ赤に染めて、はち切れんばかりの笑顔だ。俺はこの笑顔を一生かけて守っていきたいと思った。
今思うと、彼女の両親もいるのによくもまあ、あんな恥ずかしいことをしたもんだと思う。何やってんだあの頃の俺。
あの成人式の数日後、俺は二十歳の誕生日を迎え、さらに半月後には彼女の二十歳の誕生日と、つづく記念日をそのたびにふたりで過ごし、俺達はすっかり仲直りしていた。
なのに、その一ヶ月後に俺達は別れた。あの笑顔を守れてないじゃん何やってんだ俺。
何を今さら昔の彼女のことなんて思い出してんだ。何やってんだ今の俺。
52
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 20:37:35 ID:???
葉書を眺めて、どうしたものかと思う。
同窓会は五月のゴールデンウィークだ。別に他に予定はないけれど。
五年前に別れた彼女は、今何をしているのだろう。あれから連絡はいっさい取ってない。
もう結婚しているかもしれないし、子供のひとりやふたりいてもおかしくない。
もし彼女が他の誰かとしあわせを手にしているとして、もしそんな彼女と対面して、今の俺にそれを素直に喜ぶことはできるだろうか。
俺はもう、優子のことを思い出にできただろうか。
「きっと、この世に私以上に直樹が好な人は、ぜったいにいるよ。それに、直樹には私より好きな人が、ぜったいにどこかにいると思う」
半年あまり前に別れた彼女は、最後にそう言った。あの時、まるで彼女に何か真理を言い当てられたような、奇妙な感覚をおぼえた。もしもそれが―
そう考えかけて、俺はまた、何をいつまで過ぎたことに囚われてるんだ、俺は何をやってんだ、と苦笑いする。
53
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 20:56:14 ID:???
俺は葉書をデスクのトレイに入れた。結局、まだ返送期限までまだあるから、後でいいやと先送りにした。相変わらず俺は成長していない。
数日後、中学の同級生の高橋が電話してきた。高橋も高校卒業後はずっと地元を離れて暮らしている。今でも出張でこっちに来る度に、飲もうよと言ってくれるありがたい奴だ。
「同窓会、行くだろ?」「うーん、どうしようかと思ってる」「忙しいのか?」「いや、休みは取れるけど…」「じゃあ、出ろよ」
何だか、十年前にもこいつとこんなやりとりをしたような気がする。
「あのさあ、そりゃあ会いづらいのは分かるぜ。」「別に会いたくないわけじゃない。優子のことは別に関係無いよ」
「誰も石川のことだなんて言ってませんぜ」
…クソッ
「うん、でもな、今度行かなきゃ他のみんなにも、もう会う機会は無いかもしれないぜ?お前にとって、同級生は石川だけなのか?石川がすべてなのか?俺達は石川のオマケなのか?」
「たしか大内は今アメリカだし、北海道にいる奴もいたよな。そいつらはたぶん来たくても来れねえはずだぜ。それに比べりゃ、お前なんて大して遠くに住んでるわけでもねえだろうが」
正直、何でここまで熱く力説するのか疑問に感じないわけでもないけど、確かに高橋の言うことは、ごもっともである。
「ありがとうな。俺はいい友達をもったよ」と素直に言っておく。
「おう、じゃあ出席な。早めに返事だしとけよ」
優子が出席するかはわからない。でも、もしまた会えるなら、彼女と、そして他の仲間たちとも、元気で楽しく笑いあえるといいなと思った。
54
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 20:58:46 ID:???
大きな荷物を持った新幹線への乗り換え客や、家族連れの間を縫うように改札を抜け、俺は十代の途中までを過ごした街に降り立った。この駅で降りるのは何年ぶりだろうか。
連休中だというのに駅構内とはうって変わって閑散とした夕暮れのシャッター街を抜け、約束の飲み屋に向けて歩を進める。
子供の頃から高校時代まで、何度も訪れた映画館も、はじめてのデートでハヤシライスを食べた洋食屋への階段も、いまはもう灯火を落とし、何年も開いてないであろう錆びの浮いたシャッターに閉じられている。
歓楽街にさしかかると、ここは多少なりとも明るい。俺はふーっと深呼吸して、貸切の札のかかる飲み屋の扉を開く。
懐かしい顔たちからおおーっと歓声があがる。次々に「久しぶり」「懐かしいな」「お前変わらねーな」などと声がかかる。俺は担任の先生に挨拶してから、勧められるままに着席する。
俺は落ち着きなく周囲をキョロキョロと見渡す。目の前の美女が、ほんとうにはっとするような美女が口を開いた。「松原くん、久しぶりだねー」「おおおおおーーーーー!いやー、綺麗になったなあー!」
たぶんもう今日一日だけで何度も同じような台詞を言われているだろう。十年ぶりに会う桜木紗千子は、「フフフ、ありがとう。松原くん、今でもすごく若いね」と微笑みかけた。
55
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 21:02:10 ID:???
それからしばらくの間、俺は桜木紗千子と話し込んだ。彼女は高校卒業後、東京の音大に進み、卒業後は東京で音楽関係の仕事に就いているとのことだった。
彼女の仕事に纏わる話は、「なにかを創造する職業」という点で、俺にとっても通ずるものがあり、非常に興味深いものばかりで、俺は夢中で彼女と話し続けた。
「もう仕事が忙しくて、でもなんとか休みが取れたから来れたんだ。彼氏なんかつくってる暇もないわよ。でも今の仕事が楽しいから、まだしばらくはこのままでいいかな」と、充実した笑顔で語る桜木紗千子を見て、俺は十年前に失われた気持ちを思い出していた。
俺は中学時代、彼女が好きで、すこしでも彼女のことが知りたくて、彼女の断片を集めたくて、彼女との会話に夢中だった。
いまはもう、その断片のほとんどを失くしてしまったけれど、彼女を好きだったという気持ちも朧気に思い出すだけだけど、あの頃の苦しくて切ないのに、夢中になれるものがあって、どこか充実した甘酸っぱい気持ちは、ありありと思い出すことができた。
もうあの頃のように彼女に恋することはないだろうけれど、大人になった今、こうして再会でき、大人としての、社会人としての彼女の魅力に触れられたことに感謝した。
56
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 21:06:08 ID:???
桜木との会話に一区切りついて、俺は再び店内を見渡す。だがもうひとり、あの女性は見当たらない。ほっとしたような、すこし寂しいような複雑な気持ちになる。彼女はどうしていないのだろう。誰も知らないのか、俺に気を遣ってるのか、誰も話題にしない。
ふと、いつの間にか俺の隣にやってきた女性が、小声で言った。「優ちゃん、もうちょっとしたら来るから」
辻本晶子、正しくは東晶子の声だった。去年結婚したそうで、かつてのおデブちゃんが、かなり頑張ったのだろう、なかなかのいい女になっていた。正直、その変化に、ついさっきまで彼女に気づかなかったくらいだ。
辻本(旧姓)が、わざわざ俺の隣に来て予告する意味。それはおそらく、あらかじめ心の準備をしておけ、ちゃんと優子と向き合って話せ、ということだと悟った。
優子は、五年でどのように変わってるのだろう。まだ独身なのか。むしろ結婚してしまっていたほうが気楽に話せるのかもしれない。辻本はもうどっかに行ってしまった。
背中越しにいらっしゃいませーと店員の声がした。久しぶりーと誰かの声がする。俺は振り返る。小柄な女性がふたり、メガネの女性と、パンツスーツに杖をついたロングヘアーの女性がいた。
真央ちゃんと、優子だった。
57
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 21:54:45 ID:???
優子は、真央ちゃんに支えられるように担任の所に行き、挨拶をし、それから俺のいる座敷からすこし離れた椅子席に腰かけた。
高橋が、「おい」と俺を促す。俺が躊躇していると、腕を掴まれ強引に椅子席に連れて行かれて、優子の向かいに座らされた。
「久しぶり」「うん、久しぶり」
…その後が続かない。
あの杖は何?足を引き摺ってるのは何?
聞けない。聞けやしない。優子も、辻本も、真央ちゃんも口にしない。他の誰も、俺を差し置いては聞けないだろう。
意を決して口を開く。「あの…元気だった?」
どうみても元気じゃないだろうと思う。目の前の優子は、五年前より明らかに顔つきが変わり、やつれた感じがした。
いったい五年間に、優子に何があったのか。知りたくない。でも知らなきゃならないんだろうけど、言葉が出ない。
優子は、俺の問いにすこし俯いたあと、顔を上げて「直樹くんは…元気だった?お仕事は順調?」と、細い声で聞いた。
五年ぶりに聞く優子の声は、懐かしくてあたたかいのに、どこか遠い、本当に彼女の声なのか実感の湧かない、そんな不思議な耳ざわりだった。
俺達は、お互いの仕事のことについて話した。でもそれは本題ではなく、間を持たせるための会話であることはわかっていた。
俺達が別れる前、当時短大を卒業間近だった優子は、地元の幼稚園の先生として就職が決まっていた。地元ではなく俺の大学のある街に来て就職することも考えたのだけれど、当時はまだ俺の就職内定もはるか先の話で、卒業後の生活拠点が不確定だったことから、お互い話し合って地元での就職を決めたのだ。
もちろん、俺が卒業し、社会人としての生活拠点が定まったその後のことも、真剣に考えていた。
しかし、今の優子は、幼稚園の先生ではなかった。結婚もしていなかった。今は事務員の仕事をしていると言った。
58
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 21:58:07 ID:???
なぜ幼稚園の先生を諦めたのか、そんな立ち入ったことは聞けなかった。優子はあくまでも元恋人で、俺にとっては他人なのだ。
すぐに話は尽きた。話したいことはたぶん山ほどあるはずなのに、俺達の話しはそう長くは続かない。続けられなかった。
俺は「ちょっと外の空気吸ってくる」と行って店の外に出た。はっきり言うと、俺は逃げたのだ。
俺はポケットから煙草を取り出して、ライターで火をつけた。高校生の頃、隠れて煙草を吸ってるのが彼女にバレて、烈火の如く怒られた。そして二度と煙草を吸わないと約束させられた。
つい今さっきまで、その彼女が目の前にいたのに、俺はこうして煙草を燻らせている。これは彼女への裏切りなのだろうか。でも、彼女は、他人なのだ。
俺が再び煙草を吸うようになったのは、大学を卒業してすぐの春。たぶん当時はいちばん精神的に不安定だった時期で、新社会人としての重圧と、当時交際していた彼女が突然に地元に帰ってしまったショックからか、俺は五年ぶりに煙草をのんだ。
そんな回想をしていると、店内から真央ちゃんが出てきた。俺はあわてて煙草を揉み消す。
「ちょっと、いいかな?」「うん、何?」
「優ちゃんのことで…たぶん、本人から聞くより、私からのほうが…松原くんが聞きたくないって言うなら、仕方ないと思うけど…話していい?」
俺はすこし考えて、「うん、聞くよ。教えて」と答えた。確かに、本人から聞くよりも客観的に聞けそうな気がする。
真央ちゃんは、一呼吸入れてから、口を開いた。
「優ちゃんね…右足が無いの。義足なの。四年前に、事故でね…」
杖をついて、ぎこちなく歩く優子を見て、このようなことを想像していなかったわけじゃない。でも、なまじ第三者である真央ちゃんの口から事実を告げられると、そのあまりの残酷な現実に、後頭部を強打されたようなショックを受け、俺はその場でへたりこんでしまった。
59
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 22:57:32 ID:???
優子は21歳になったばかりの冬の夜、仕事帰りに起きた自損事故で右足を失った。
それから、社会復帰までには二年以上を要したという。身体的なリハビリだけでなく、一時は鬱病にも陥ったらしい。幼稚園の先生としての復職はできず、事務職としての再起となった。
「何度も松原くんには連絡しようと思ったんだけどね、でも優ちゃんがそれだけはやめて、って」
「そっか…」俺はポツリと洩らす。
「優ちゃんね、実は松原くんと別れてからも、ずっと引き摺ってたから…はやく忘れて新しい彼氏つくりなよなんて言ってるうちに、あんなことになって…」
真央ちゃんの声ひとつひとつが、心に重くのしかかる。俺の知らないうちに、俺を想ってくれるひとが、こんなに辛い目に遭っていたなんて。
昔、優子は、俺が知らないあいだに七年も俺のことを想い続けてくれた。俺は優子を愛せなかったその七年をなんとしても取り戻したいと願っていた。
なのに、そんな思いを忘れて、もっともっと辛い思いをさせてしまった。
「俺の…せいかな。俺が優子のそばにいなかったから、こんなことに…」「違うよ!」
「ごめんね。そんなつもりで言ったんじゃないよ。でもね、やっと優ちゃん、松原くんに逢いたいって思えるようになったの。今の松原くんに彼女がいても、結婚してたとしても、現実を受け入れて、今の自分を見てもらって。そうすれば前を向いて生きられるんじゃないかって」
「優ちゃんは、わがままだと思う。松原くんは何も悪くないのに、優ちゃんのわがままにつきあわせて。ごめんね。優ちゃんの代わりに謝るね。」
「松原くんには松原くんの人生があるから。優ちゃんに対して責任を感じることはないよ。でも、できたら、話だけでも、聞いてあげてほしいんだ…」
60
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 23:01:04 ID:???
真央ちゃんが店内に戻った後も、まだすこし風にあたりたいからと、その場に残った。五月とはいえ、夜風は冷たい。俺はふたたび煙草に火をつけようとして、やめてしまう。俺はこれからどうすべきなのか、何も考えられず、お世辞にも景気が良さそうには見えない飲み屋街の情景を眺める。
店内から、高橋が出てきた。俺の横に立ち「煙草ある?」
俺はポケットからセブンスターを出し「全部やる」と言った。
「聞いた」高橋が、ポツリと呟く。
「まあ、お前も石川も、大人同士だからな。俺が意見するべきじゃないかもしれない」
高橋はそれだけ言うと、煙草に火をつけた。そして、同窓会の件で俺に電話してきた事情について、語りはじめた。
突然、真央ちゃんから電話があって驚いたこと。真央ちゃんとは五年前に携帯番号を交換した後、何回か電話してみた―要はモーションかけてみた―けど、ここ数年間連絡はとっていなかったこと。
真央ちゃんは俺の近況と俺に彼女がいないらしいことを聞き出すと、俺にそれとなく同窓会に行くよう連絡してほしいと言ったこと。あえて理由は聞かなかったけど、優子に何かあったんだなと勘づいてはいたことなどを話した。
最後に高橋は「俺も真央ちゃんもお前の友達だからな。いくらでも世話焼くぜ」と言ってくれた。そして「来いよ。もういっちょ飲もうぜ」
俺は高橋に言ってやった。「お前ももういっちょ真央ちゃんにアタックしてみたら?」
「真央ちゃん、彼氏いるってよ」「そうか、じゃあやけ酒に付き合ってやるよ」「うるせー!」
61
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 23:21:25 ID:???
夜も10時を回り、家庭持ちの奴らはぼちぼち帰りはじめ、残った独身メンバーの中から、そろそろ誰からともなく二次会へとの声が出始める。俺も実家から電車で来たから、最初は終電までには帰ろうと思っていたのだが、思うところがあって残っていた。
「じゃあ、私、そろそろ帰るね」と、優子が言った。
誰かが二次会に行こうよと言うけど、足のこともあるから、と言われると、これ以上引き留めるわけにはいかないだろう。
「じゃあ、松原が送っていくから」高橋が勝手に決めやがる。
「そんな…迷惑かけるし、いいよ…」と優子は言う。しかし、俺は「いや、送るよ」と返す。
優子をひとりで帰すなんて、男として、死んでもできない。
周りからも口々に「送ってもらわなきゃダメだよ」と言われると、「じゃあ、そうしてもらう。ごめんね」
俺は優子のハンドバッグを持ち、彼女のペースにあわせて、ゆっくりと、ゆっくりとタクシー乗り場に向かう。
すると、携帯が振動した。画面を見ると…
なんじゃこりゃ。メール、メール、メールの嵐。「ガンバレー」「男ならしっかり決めてこい」「自分の信じた道を行け」エトセトラ、エトセトラ。
桜木紗千子からのものまであった。「松原くんはやさしいからね。きっと大丈夫!」
横を見ると、優子も携帯をいじっている。俯いて顔を赤らめている。
こいつら、ふざけんなよ…
俺達はしばらくその場に立ち止まる。そして「ふたりだけで話したいんだけど、いいかな…?」「うん…」
さて、どこで話そう。居酒屋なんてとんでもない。落ち着いて話せたもんじゃない。バーにでも行くか?でも違う。落ち着いて話はできるだろうが、俺はふたりだけになりたいのだ。カラオケボックス?アホか。
「ここでいい…?」俺達は、もう何年ぶりかに、ふたりでホテルにはいった。
62
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 23:32:52 ID:???
もう時刻は11時を回っている。このホテルに来たのはたしか高校時代以来だ。
俺は今夜はここで過ごすことに勝手に決めて、彼女と一緒に、部屋にはいった。
優子をソファーに座らせて「何か飲む?」と冷蔵庫を開く。アルコールはやめにして、ジンジャーエールを取り出す。
ソファーに向かい合って座る。いきなり本題に入るのは憚られる。俺は携帯を取りだし「みんな一度に変なメール送りつけやがって、しょうがないな〜」などと、つとめて明るく彼女に語りかける。それからしばらく今日の同窓会の話などして間を持たせる。
ポケットに手をいれ、ああ、煙草は高橋にあげたんだったと気づく。持っていても、優子の前で吸えるわけなんかないのに。これが五年間の隙間なのかなと、あまりにあたりまえのように煙草を吸おうとした自分の仕草に、淋しさを覚える。
意を決して、話を本題に近づける。「さっき、真央ちゃんに、いろいろ聞いた。…ごめんな…」やっぱり、こんなことになったのは俺のせいだという気持ちが沸きあがってきて、仕方がなかった。
「せっかくの同窓会なのに、嫌な話聞かせて、ごめんね。直樹くんにも、みんなにも、余計な気を遣わせて、やっぱり来なきゃよかったかなって、ちょっと後悔してる。ごめんね」
「でもさ、お前、俺に吐き出したいから来たんじゃないの?やっぱり、全部吐き出せる相手は俺しかいないって、思ってんじゃないの?」
優子は俯いている。泣かないように、必死に歯をくいしばっているように見える。
「いいよ、話しても。俺は一晩中でも聞くから」
優子は、少しずつ話はじめた。話の大筋は真央ちゃんに聞いていたけど、本人の口から聞くと、もっともっと辛くなって、仕方がなかった。事故の詳細や、リハビリのこと、そして鬱になってからの話。耳を塞ぎたくなる。でも優子が話してくれる限りは、俺は受けとめなくてはいけない。きっと思いだしたくもない記憶に抗うように、途切れ途切れに言葉を紡ぐ優子に寄り添って、彼女の両手を擦りながら、俺は聞いていた。
63
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 23:37:38 ID:???
彼女は、ベルトを外し、パンツに手をかける。ここに来てからもう何時間経ったろう。まるで幻覚をみているかのような時間。現実とは思えない時間。
彼女がパンツをおろす。下着、そして膝が露出する。膝の上で彼女の手がとまる。俺は息を呑む。この先に何があるのか、頭では理解しているはずなのに。まるで開けてはいけないパンドラの箱のような、でも俺は、この先に何があっても受け入れなければならない。それが俺の宿命だと、強くつよく思う。それが厄災なんかであってよいはずはないのだ。
彼女の手が動く。彼女の手が一気に踝までおりる。
彼女の右足は、膝で途切れ、その先には人工物があった。その人工物が、これが、彼女の足。
彼女は義足を外した。彼女の膝の下には、ぽっかりとした空間しかなかった。
俺の目から、堰を切ったように涙が溢れ出た。俺は彼女の膝に突っ伏して、泣いた。ただひたすら、激しく嗚咽しながら、俺は泣いた。おそらく十年前の夏の日の公園以来、俺は激しく泣いた。
彼女は俺の頭をやさしく撫でる。俺と彼女の嗚咽だけが部屋に響く。俺の頭に幾粒もの水滴がこぼれ落ちた。
64
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 23:40:05 ID:???
「俺のこと…許して…もう一度、俺と、つきあって…」
「私こそ…ごめんね…許して…」
「でもね…私なんかと、一緒にいたら、大変だよ…直樹くん、不幸になるかもしれないよ…」
「そんなこと…」
「私は、あなたのこと、思い出だけでいいよ…今日、逢えてよかった…だから、今日が、最後の思い出でいいよ…」
「そんなこと言うなって…」
「私のせいで、直樹くんが、辛い思いをするなんて、私には、耐えられない…」
「だから、お願い。もし、私のこと、無理だって思ったら、私のこと…捨てて」
「なんで…そんなこと言うんだよ…俺は、お前のこと、これからずっと…」
「お願い…言わないで…私になにも誓わないで…」
「やだよ…お前ともっと、いろんな思い出作りたいよ…いっぱいデートしようよ…映画も観に行こうよ…俺のためにまたご飯作ってよ…一緒に散歩もしたいよ…公園でまた一緒に弁当食べたいよ…優子の作ってくれた弁当食べたいよ…」
「優子…お前…今日が最後でいいなんて、そんな顔してないよ…」
「頼むから、頼むから俺を頼ってほしい…五年もほっといて、こんなこと言えた義理じゃないけど、俺のこと、信じてほしい…」
「信じてる。信じてるけど、私のせいで直樹くんの人生が狂ったら、嫌なの…怖いの…」
「直樹くんに捨てられても、私、恨んだりなんかしない…信じて…だから、だから、どうか、どうか、私になにも誓わないで…」
65
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/08(金) 23:49:36 ID:???
目が覚める。右腕に重みを感じる。懐かしい感触。時計を見る。朝7時を回っている。俺は、彼女を起こさないように、そっと腕を彼女の頭から抜き取る。床に落ちたトランクスを拾い、身につける。乱れた掛け布団を、そっと彼女にかける。
目が痛い。喉が痛い。鏡を見る。思わず笑ってしまう。酷い顔だ。バスルームでさっと顔だけ洗う。
冷蔵庫を開き、オレンジジュースを取り出す。ベッドに腰掛け、ジュースに口をつける。彼女はよく眠っている。昨夜はよほど疲れたのだろう。
昨夜のことに思いを馳せる。裸の体の内面が燃えるように熱く鼓動するのを感じる。
五年ぶりの彼女との口づけ。包みこまれるような下唇の感触。その懐かしい温もり。彷徨を続けてきた魂の帰着点は、ここだったんだと感じた。いつまでも、いつまでも涙が流れ続けた。
彼女の膝の上で泣き、泣きながらキスをして、泣きながら彼女と繋がった。もう、しばらく涙は出そうにない。
「私になにも誓わないで」
繋がったあと、彼女はそういった。その言葉の意味を考える。
彼女のやすらかな寝顔を見る。俺は、これから彼女と向き合っていかなければいけないんだ。
俺が向き合わなければいけないのは、思い出の中の十代の頃の彼女じゃない。俺には想像もつかないほどの痛み、苦しみ、悲しみを経験し、一生消えない傷を負った25歳の彼女なんだ。
今の俺に、何を彼女に誓えるだろうか。
一生かけて君を支えるとか、俺が君の足になるとか、そんな陳腐な台詞を言うのは簡単だ。俺には彼女がすべてだと、自信をもって言えるだろうか。
言えない、と思う。
25歳の俺には、社会人としての生活があり、そこには責任がある。彼女のためにすべてを投げうつ覚悟など、今の俺にはない。
でも、それでも―
俺は、彼女になにかを誓えるようになりたい。
俺は、彼女のやすらかな寝顔を、いつまでも見つめていた。
66
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/09(土) 00:21:30 ID:???
俺は、実家の自分の部屋で、昔のものを整理していた。自分の部屋といっても、新築後一年で他県の大学に進み、そのままその街に住み着いてしまったから、この部屋で過ごした時間は、それほど多くはない。
高校時代の教科書、昔好きだった漫画本、タンスの引き出しに敷いてある十一年前の新聞、そんなものに気をとられていては、整理なのか散らかしているのかわからないな、と思う。
タンスの中に、昔の手紙のはいった箱を見つけた。小学時代から高校時代に至るまでにもらった年賀状、中学時代にはまっていた作家に出したファンレターの返事、それらの中に、一通の、封を開いていない手紙を見つけた。
それは今からもう十三年近くも前、彼女とのはじめてのデートのときに渡すつもりで書いた、人生ではじめてのラブレターだった。
俺はこの手紙に、そのときに彼女に言いたい、いちばん大事な言葉を書いた。それはなんとしても自分の口で直接彼女に伝えたい言葉だったけど、もし万が一、言えなかったときに、彼女に渡すつもりで書いたのだ。
手紙の内容はあまりよく覚えていない。そのときの自分の素直な感情を、ただひたすらに綴った、たぶん今読むと恥ずかしくてどうしようもなくなるような内容だったと思う。
たしか、中学時代に好きだった女の子のことまで書いたっけ。ラブレターに他の女の子のことを書くなんて、どうかしている。
ただ、便箋の最後の一枚、もっとも彼女につたえたかった、いちばん大事な部分だけは、手紙を手にした瞬間、まるで昨日書いたものであるかのように、一語一句はっきりと思い出された。
この手紙が今ここにある、それはその言葉を、自分の口から彼女に伝えられた、ということを意味する。そう、それはあの夏の日に、海の見える公園で。
67
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/09(土) 00:26:16 ID:???
その夏の日から十一年後
その日と同じ日同じ場所で、俺は再び彼女と向かいあっていた。
そして、俺は、彼女に誓った。
もう何の迷いもなく、安らかな気持ちで、俺は彼女に永遠の愛を誓った。
「僕と結婚してください」、と…
俺は、もういちど手紙の宛名を眺める。
石川優子様
そうだ。あと数日で、彼女は『石川優子』ではなくなるんだ。
彼女が石川優子であるうちに、この手紙、渡してみようかな。ふと、そう思った。
68
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/09(土) 00:50:47 ID:???
優子と再会してから、これまでの三年間は、けっして平坦なものではなかった。
もちろん最初から将来を約束しあえる環境ではなかった。それは、遠く、高く、険しい道程であることは最初からわかっていた。
再会後まもなく、俺は優子のご両親に挨拶に出向いた。
ご両親は優子の状況について、俺が理解していることは承知してくださっていた。だがやはり、心配だったのだろう。
本当に娘で大丈夫か。障害者と交際することは肉体的にも、精神的にも想像以上に大変であること、周囲の好奇な目線にも耐えねばならないということ、俺の家族、親族の理解は本当に得られるのか、などなど。
まだ結婚など考えられる段階ではないものの、それでも、本当に、俺のことを案じてくださった。
俺の両親には、とにかく優子のこと、石川家のことを悪く思わないでくれと説得した。俺の姉は十九才で嫁に行った。デキ婚だった。当時俺は中一。そんなことがあったから、母親は、姉の旦那とその母親のことを、影で嫌っていて、俺にも度々愚痴るのだ。
まだ親同士が挨拶するほどの関係ではない時期だったが、優子のお姉さん夫婦が石川家一族を代表して、俺の親に会ってくださったりしたのはありがたかった。
お姉さんの言葉は、俺にとって涙が出るほど嬉しいものだった。
「直樹くんが優子のところに戻ってきてくれてから、あの子、すごくよく笑うようになったよ。直樹くん、ありがとうね。」
69
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/09(土) 00:58:17 ID:???
こうして一年と二ヶ月あまり、俺達は少しずつ愛を育み、俺は優子にプロポーズした。優子のご両親からは、入籍前に一年間一緒に生活すること、それでもし無理だと思えば婚約解消しても構わないという条件で認めてもらった。
結婚は早くて二年後、俺達は28才になる。子供も欲しいし、本当は少しでも早く結婚したいけど、俺達はこの条件を受け入れることにした。俺のことを信用していない訳じゃなく、本当に俺の人生を案じてくださっているのだと、痛いほどわかっていたから。
実のところ、既成事実を作ってしまえば、とか考えなかった訳でもない。でも、やはりそれはできない。ご両親は、俺を信頼して、優子を託してくださるのだから。俺達は、15歳で初体験してから、本当にいちどもゴム無しでしたことはなかった。
婚約から同棲をはじめる春までの8ヶ月間、優子の新しい職場を決め、新居を決め、引っ越しの準備をし、さらにその他諸々の手続きと、慌ただしく過ぎた。
そして、俺達はひとつ屋根の下で暮らしはじめた。
一緒に暮らしてはじめて見えてくることは確かにある。楽しいことも、辛いこともあった一年四ヶ月。俺達は同棲生活で泣き、笑い、ケンカもし、そして優子の障害に纏わる苦労も経験した。長年暮らした実家を離れ、慣れない街で暮らすことも、容易なことではなかったろう。
結婚への準備も着々と進めた。不安が全く無いわけじゃない。子供ができればどうなるか、きちんと育てることができるか。今はまだ若くて体力もあるけれど、果たして年齢を重ねればどうなるか。でも、俺達はそれを乗り越えていかなければならない。障害のせいにすることは許されない。
俺は、優子を愛している。きっと、優子も、俺のことを。
俺達は、この街で、生きてゆくんだ。
70
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/09(土) 01:06:51 ID:???
結婚を目前に控え、大学時代の友人達が、祝いの席をもうけてくれた。要は俺をダシにして久しぶりに集まろうや、ということだ。
お世辞にも盛大とは言えない会だが、みんな温かく俺の前途を祝してくれた。
その後、小島先輩の家で二次会となった。
メンバーは小島先輩と俺の同期生ふたり、それに先輩の妹で俺の元恋人の小島茜。茜とは別れてからも数回顔を合わせてるけど、ちゃんと話すのは約四年ぶりだ。
「一時は、松原が俺の弟になるかと思ったんだがな」先輩が、俺と茜を交互に見ながら言う。
「何言ってんのよ兄ちゃん!ないない!だって私まだ学生だったもん。ねー」茜が俺に同意を求める。
「いや、俺は、君とならって思ってたよ。マジで」俺は真顔で答える。これは嘘じゃない。もう四年も前、それは一年に満たない期間だったとはいえ、俺達は嘘偽りなく愛しあった仲だ。俺が冗談を言ってる訳じゃないことは、目を見ればわかるだろう。
「ちょっと、直樹、飲み過ぎじゃない?」茜は明らかに困惑している。俺は思わず、こいつやっぱり可愛いわ、と思ってしまう。ようし、ちょっとからかってやれ。
「そんなことない。俺は、君を、真剣に、愛していた」俺は茜の目をまっすぐに見つめて言う。ちょっといじめてやろうと、あえてのクサイ芝居モードに入っている。あと一押しだ。
「今からでも俺とやり直さないか?」言ってから、さすがにこの台詞はまずかったかなと思う。
「もう!私なんかより奥さんのこと考えなよ!奥さんが聞いたら怒るよ!」茜は呆れてる。先輩はヘラヘラしている。あんた、妹が結婚前の男に洒落とはいえこんなこと言われて気にならんのか。
71
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/09(土) 01:22:22 ID:???
「でも、奥さんの話聞いたら、やっぱり私じゃ敵わないなって思う。私は直樹のこと好きだったよ。でも、私は奥さんほど、直樹のこと好きじゃなかったと思う。ぜったい」茜がしみじみ言う。だいぶ酒が回ってきている。さすがに茜も、ちょっと寂しそうだ。
「直樹も、奥さんより私のこと好きになったことないと…思う…」茜の大きな目が潤む。一瞬、場が静まる。完全にスイッチ入ってやがる。恋愛について、語る、語る、とめどなく語る。こんな茜の姿、つきあってる時にも見たことはない。
「だってさ、純愛じゃん。私だったら、自分のこと第一に考えちゃう。もし私とつきあってた頃に、直樹が義足になったら、私はたぶん…」と言いかけて、茜は急に黙ってしまった。急に酔いが覚めたみたいに。
「ごめんね…私なんてこと言っちゃったんだろう…直樹にも、奥さんにも、すごく失礼なこと言っちゃった…ごめんね…」
茜は顔面蒼白だ。許しを乞うように俺を見る。
「大丈夫だよ。気にするな。君はやさしいから、自分のことのように考えたんだろ。でもな、俺はたまたま嫁があんなことになったから、たまたまひとつ決断をしなきゃならなくなった。で、俺は嫁と結婚することにきめた。それだけなんだよ。嫁が義足なのは、俺には特別なことじゃない」
「俺には特別なことじゃないけど、君には嫁みたいなことになってほしくない。なっちゃいけない。君のこれから出逢う大切な人にも。だから、こんなことは考えるな。考えちゃいけない」
「うん、ありがとう。ごめんね」茜はすこし救われたような表情だ。
「君にはしんみりした顔は似合わないよ。やっぱり笑顔のほうが可愛いよ。だからしあわせになってくれ。本当に君はやさしい子だよ。絶対にしあわせになれる。俺が保証する」
相変わらず、茜は可愛い。もう25歳になっている筈だが、本当に変わらぬ可愛いさだ。こんなに可愛い女の子が、俺の恋人だった頃もあったんだな。
もうすぐ結婚するのに、昔の彼女と会って、歯の浮くようなクサイ台詞吐いて、こんなことを考えてるのは不誠実だろうか。
でも、彼女ならそんなこときにせずに、笑って許してくれるよな、きっと。
72
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/09(土) 01:33:47 ID:???
目が覚める。まだ眠い。昨夜は夜更かししたから。いつもの朝、でも今日は特別な一日。
いつものように、洗面所で顔を洗い、髭を剃り、歯をみがく。
キッチンではコトコトと鍋が音をたてる。いつもの音、いつもの匂い。
「おはよう」
「おはよう」
いつものように、彼女と挨拶をかわす。食卓に腰をおろし、ご飯をよそう。味噌汁と焼き魚と卵焼きが並ぶ、いつもの朝食。ふたり向かい合って
「いただきます」
「いただきます」
箸を口にはこぶ。いつもの、そしてこれからの『わが家』の味。
いつものようにネクタイを締め、いつものようにスーツに袖を通す。
いつものように、玄関で見送ってくれる。「はい、お弁当」
「ありがとう。じゃ、後でね。6時に、区役所で」
今日は、仕事終わりに彼女と待ち合わせて、一緒に婚姻届を提出する約束だ。その後はふたりでちょっと気のきいたレストランで夕食の予定。今日は、特別な一日なんだ。
「これ、後で読んで。感想は言わなくていいからね」
俺は二通の手紙を彼女に手渡す。一通は、先々週実家で見つけた、十三年前に書いた手紙。十五歳のとき、はじめて書いたラブレター。
もう一通は、昨夜書いた手紙。独身時代最後のラブレター。
「いってきます」いつものように、彼女にいった。
73
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/09(土) 01:37:51 ID:???
石川優子様
この間のカラオケとボウリング、楽しかったです。どうもありがとう―
―今まで、君のことは苗字でしか呼んだことないけれど、ちゃんと口に出して言うときは、名前で呼ばせてほしいと思っています。だから馴れ馴れしいかもしれないけど、この手紙でも名前で書きます。
僕は、優子が好きです。どうか、僕とつきあってください。よろしくお願いします。
大好きです。
1994年7月30日 松原直樹
石川優子様
久しぶりに君に手紙を書きますね。独身最後の手紙です。改まって書くと、やっぱりなんだか恥ずかしいな。
何から書こう。昨夜のハンバーグおいしかったです。って違うか―
―いろいろ遠回りもしたけれど、今日、僕達は夫婦になります。今までほんとうに、ありがとう。
僕は、優子が好きです。どうか、これからも、ずっとずっと僕のそばにいてください。よろしくお願いします。
大好きです。
2007年7月30日 松原直樹
74
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/09(土) 09:58:47 ID:???
今年2018年―平成30年
結婚から11年目になります。
今、彼女―優子は、僕のそばにはいません。
いや、別に何かよくないことがあったわけではありません。むしろ逆です。
今、彼女は生まれたばかりの三人目の子供と一緒に、病院にいます。
結婚の翌年に長女が生まれ、その三年後には長男が誕生しました。
三人目は、女の子です。
75
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/09(土) 10:01:05 ID:???
昨年、親父が急死しました。
長男である僕が喪主となって葬儀を執り行いました。
その後もしばらく、法要や相続の関係などで、週末のたびに自宅と実家をひとりで往復する生活が続きました。
平日の仕事が終わってから、土曜日の早朝に出発し、ひとりで車を運転し、土日の間用事を片付け、日曜の夜に帰ってくるという生活でした。
この間、相当疲労が溜まったのは当然で、不謹慎な話ですが、優子との『営み』をもつ余裕もありませんでした。
ようやく一区切りついた時、僕は優子に「君がもし大丈夫なら、もうひとり、子供が欲しい」と相談しました。
僕は『生まれかわり』といったものは信じていませんが、自分にもっとも近い人間の死を目の当たりにして、すこしでも多く自分の遺伝子を残したいという、動物的な本能が働いたのかもしれません。
もともと、長男が生まれた時点で、子供はふたりで打ち止めだろうと思っていたし、もう39歳、いわゆるアラフォーといわれる年齢での出産は決して容易なものではありません。しかも優子は義足というハンディキャップを抱えています。
三人の子育てはかなりの負担です。
しかし、優子は「私、頑張るよ。直樹くんも、一緒に頑張ろうね」と言ってくれました。
そうして、優子は、元気な女の子を産んでくれました。
76
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/09(土) 10:07:56 ID:???
これまでの僕と優子の物語を、さまざまな形で彩ってくれた旧友たち。彼らもそれぞれに平成30年の今を生きています。
桜木紗千子―中学生時代好きだった女の子は、今も音楽業界で活躍しているそうです。今もお正月のあけおめメールの交換は続いています。ただ、現在まで独身のままというのは、僕にとっても複雑な気持ちです。
真央ちゃん―広沢真央は、僕達の一年前に結婚し、現在の名は中野真央。二児の母親です。辻本あらため東晶子もいまは同じく二児の母。
彼女らは今でも地元からほど近いところに暮らしており、帰省の最、優子は子供たちを連れて、ママ友会と称して彼女らと食事会をします。
僕は毎回毎回、その度に運転手として使われてます。マジで勘弁してくれって感じです。
高橋は三十才で結婚。男の子の父親です。今でも年に何回か出張でこちらに来た最に飲み交わす間柄は変わっていません。
77
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/09(土) 10:09:29 ID:???
小島茜とは、あの飲み会以来会っていません。ですが、小島先輩経由で、三十をだいぶ過ぎてからようやく結婚したと聞きました。
長らく「独り身のほうが気楽。結婚するつもりはない」なんて言ってたそうで、先輩には冗談めかして「お前が嫁にもらってくれなかったせいだ」なんて言われて心配していましたが、今では子供もひとり生まれたそうで何よりです。
ちなみに先輩も今は二児の父親です。
二十歳から約二年交際した戸田理恵とは、その後連絡はとっていません。
きっと今ではしあわせに暮らしているでしょうし、心からそうあってほしいと願っています。
他にも、初恋の女の子である井上晴花など、もう二十年以上会っていない、消息も知らない面々。みんながどこかでしあわせでいてくれたらいいなと思います。
78
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/09(土) 10:11:31 ID:???
結婚の翌年に生まれた長女は現在、四年生です。
長女はほんとうに子供の頃の優子にそっくりで、メチャ可愛いです。親バカです。
すごいパパっ子で、娘とはラブラブです。今でも一緒にお風呂に入るし、キスもする(してくる)し、娘とふたりで手つなぎデートもします。
でも、これから難しい年頃になるし、いつまでラブラブでいてくれるかなと思うと、娘の成長は楽しみだけど、ちょっぴり切なくなったりします。
優子の妊娠中は僕よりママと一緒にお風呂に入りたがり、おなかをさすって喜んでたらしいです。お姉ちゃんというより自分もママになったような気分みたいですね。
今は僕が仕事から帰ってくると、妹に会いたくて、はやく病院に行こうよと急かします。
79
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/09(土) 10:38:23 ID:???
息子は今年一年生になりました。長女が母親似なら息子は僕似、とはいかず、やっぱり母親似です。
でも優子に言わせると、僕のおもかげのようなものはすごく大きいみたいで、「甘えん坊なところは直樹くんそっくり」だとか。うん。僕はたしかに甘えん坊だ。
というわけで、娘がパパっ子なら、息子はママっ子です。でも、お姉ちゃん同様、優子が妊娠してからは、だんだんお兄ちゃんらしくなってきたなと、親の欲目でなく思います。ええ、親バカですとも。
親父が死んでから、やっぱり僕と息子を、親父と僕に重ねてみることが多くなりましたね。親父の最期はアル中でどうしようもなかったけど、子供の頃は忙しいなりに僕との時間も作ってくれましたから。
もう少し大きくなったら、男同士でふたり旅なんてしてみたいな、と思います。
子供たちにとっては、母親が障害者という点は、正直かなり負担になってると思います。それは彼女にとって、本当に不幸な出来事でした。彼女は今でも事故と、その後遺症と闘っています。
でも、彼らが生まれた時から、僕にとって、優子の障害と向き合うことは悲しむべきことじゃない。これは喜びなんだと、子供たちにも伝わるように示しているつもりです。
彼らが僕の背中を見ている以上、彼らが、優子の子供として生まれてよかったと、自信をもって生きていってくれると、僕は確信しています。
そして、そんなお姉ちゃんとお兄ちゃんの妹として生まれた次女も、きっとやさしい女の子になってくれると、僕は確信しています。
80
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/09(土) 10:43:13 ID:???
最後に、僕と優子の今について。
今年結婚11年目になりますが、今でもラブラブです。遠慮なくノロケます。ラブラブです。
優子とは、家族であり、夫婦であると同時に、恋人同士です。僕は優子に恋をしています。だから、優子は恋人です。
セックスのペースも二十代の頃とあまり変わっていません。でも三人目生まれてどうなるかな。
僕は実年齢よりだいぶ若く見られます。「松原さんって年上だったんですか!?」とよく驚かれます。さすがに二十代とはいかずとも、普通に三十代前半に見られます。
でも中身は四十前のおっさんです。持病も抱えてます。頭に白いものもちらほら目立ちはじめてます。加齢臭が気になりはじめるお年頃です。
性欲は落ちてないし、気持ちもまだまだ若いつもりだけど、正直、体力面でいうと、いつまでこのペースでできるかな、と思います。
優子も、元々チビで童顔なのもあって、年齢より若いです。はっきり言って、可愛いです。
あと、やっぱり僕と優子は相性が良いんだと思います。体の相性も最高だと思ってます。十五才で、お互い童貞と処女でスタートしてから、ふたりでいっしょに、ゼロから開発してきた間柄です。途中五年のブランクがあったとはいえ、あれから24年。お互い一番気持ちいい部分を、もう熟知しています。
最後微妙なエロ話で締めるのも何ですが、充分ノロケましたので、第三子誕生を期に綴ってみたこれまでの僕と優子の物語をそろそろまとめとしたいと思います。
81
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/06/09(土) 10:47:10 ID:???
この物語は、僕の小学生時代の初恋から始まりました。それはほろ苦い初恋でした。
しかし時を同じくして、もうひとつの初恋の物語が始まっていました。
僕の物語は中学時代の、今にして見れば幼く、未熟な恋を経て、もうひとつの恋物語と結束していきます。
いちどはひとつになったかに見えた僕達の恋物語は、お互いの未熟さゆえに、ふたたび離ればなれになり、彷徨を続けてゆくことになります。
しかし、お互いの恋物語が、お互いの魂が帰着するべき場所は、ひとつでした。
僕と優子の物語は、ふたたびひとつの物語となりました。もう分離することはありません。
僕達は、これからも、ひとつの恋物語を紡いでゆきます。
82
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/09/11(火) 19:44:41 ID:???
優子と俺の恋物語〜思い出のH編〜
83
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/09/11(火) 20:23:56 ID:???
優子との恋が始まったのは高校一年の夏休み。
お互いの両親にも紹介しあい、高校生らしく健全な交際をしていた俺と優子であった。
一方で寝ても覚めてもエッチへの関心でいっぱいな童貞少年な俺は、なんとしても夏休み中に優子と一線を越えたいという思いを募らせていた。
さて当時俺は父親の勤める会社の社宅アパート暮らし。母親は専業主婦でだいたいいつも家に居る。俺家でのエッチ、無理。
一方優子の家は一戸建てで両親共働き。大学生のお姉さんが居なければ、平日昼間ならば優子とふたりきりになれる。
するなら優子の家一択。だが、夏休みが終わってしまえば平日昼間に優子の家に行くことはできない。
半年前まで中学生だった俺達にはホテルに行くには敷居が高い。周囲の友人達も童貞ばかり。インターネットなんて言葉などない時代に『ラブホテルの利用方法』なんてわかりゃしない。優子の家でやるしかない。
なんとしても、夏休み中にしたい。夏休み中に優子とひとつになりたい。
84
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/09/11(火) 21:02:10 ID:???
夏休みも終わりに近づいた8月下旬のある日の午前中。俺は決意を胸に石川家に向かった。
俺はその日までにゴムを購入し、入念に装着の練習を行い、イメージトレーニングに励んだ。オナニーも数日我慢した。頑張れ俺。頑張れ童貞。
お昼は優子の作ってくれたオムライスだった。優子は俺のために料理を覚えはじめていた。今では立派に料理自慢な主婦も、当時はまだまだ未熟。でも、この日の不格好で大味なハートのケチャップの描かれたオムライスの味は、一生忘れられない。
食後は二階の優子の部屋へ。いよいよその時、でいいのか?今のタイミングでいいのか?大丈夫か童貞少年!?
ま、しばらくテレビ観たり雑談したりして過ごすわけだが、いちいち書いてるときりがないのではしょる。
「あ、あの、優子あのね…」
ベッドに並んで座った俺は、優子の手を握り、おもいっきり吃りながら
「優子…セックスしよう…」
85
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/09/11(火) 23:35:21 ID:???
顔を赤らめ、俺の目をじっと見つめ、優子は…
「…うん」
「え、えーと…本当にいいの?」
「うん。直樹くん、セックスしよ」
自分から誘っときながら、以外とあっさり同意されて一瞬たじろぐ。本当にやるのかよ?セックスするんだぞ?つーか女の子の口からセックスて!セックスて言ったよこの子!
つい最近までただのチビなガキンチョだと思ってた女の子がセックスて!
でもさ、考えてみたら優子も思春期の女の子なのよ。女の子だってエッチな事に興味あるさ。女の子同士ならエッチな話もするじゃろうて。だけども、ここで俺はもう完全にテンパっちゃってる。
頑張れ俺!行くんだ俺!俺は優子の唇に吸い付く。ブチューっと吸い付く。はじめてのキスから1ヶ月たったけど、こんなにも自分を制御できない乱暴なキスに自分自身戸惑う。
優子の下唇を舌で嘗め回す。「フハッ、フハッ、フハッ」お互いの吐息が洩れる。優子の下唇がプルプル揺れる。
舌を優子のなかに入れる。優子の舌に触れる。お互いの舌が絡み合う。はじめてのディープキス。ああ、これが優子の舌の味なんだ。ああ、これが優子の舌の感触なんだ。美味しいよ。優子の舌美味しいよ。気持ちいいよ。優子の舌気持ちいいよ。
ああっ、優子、好きだ、好きだ、好きだ、優子、好きだ。
86
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/09/12(水) 00:40:04 ID:???
「はぁーっ、はぁーっ…」
唇が離れる。お互いの顔を見合せる。「フフフッ」優子が微笑む。かわいい。優子大好き。
「じゃあ…胸…触るよ」
ブラウスの上からそっとおっぱいに触れる。優子の口からため息が漏れる。おっぱいのかたちを確かめるように、ゆっくりと、少しずつ揉んでゆく。
右手で、左手で、そして両手で。
これが女の子のおっぱい。優子のおっぱい。ちゃんと膨らんでるんだ。
「脱がすよ…」
ブラウスの裾に両手をかけて、少しずつ上へ上へずらしてゆく。スカートとブラウスの間に肌色の隙間ができる。そしてやがてかわいいおへそが姿を現す。その上にブラジャー。膨らみを包み込む白いブラジャー。優子のおっぱい。白いおっぱい。おっぱいを包み込む白いブラジャー。
優子を抱き寄せ、上半身ブラジャーだけになった優子にキスをする。そして唇から顎、首筋へと舌を這わせる。「んああぁっ」優子がこれまでになく色っぽい喘ぎ声をあげる。
ブラジャーの上から左のおっぱいに触れる。そして右のおっぱいに顔を埋める。ブラジャーの上からおっぱいにキスする。ブラジャーに吸い付き、嘗める。
「ああっ、直樹くん…直樹くん…」優子の切なげな声が響く。
俺は舌を優子のからだから離すことなく、胸からおへそに這わせる。
「ひゃあ!直樹くん!くすぐったいよ〜」
優子のおへそを嘗める。おいしい。どうおいしいのか聞かれても困るけれど、とにかくおいしい。
「ひゃあ…ひゃあ…ひゃあ…」
スカートに手をかけ、上にめくる。
87
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/09/12(水) 01:23:18 ID:???
スカートをめくる。白いパンティが姿を現す。小さなリボンのついたかわいいパンティ。
俺は一旦呼吸を整えると、優子のかわいいパンティに口づけした。
「あああーーーっ!」
優子が甲高い声をあげる。まだ感じているというより、恥ずかしくてたまらないという感じの喘ぎ声。
「ジュルッ、ジュルッ」俺はパンティに唾液を染み込ませるように吸い付く。そして味わう。たぶん、ほんのりおしっこの味。
「じゃあ…ブラ…取るよ」
すっかり涙目になった優子がコクリと頷く。両手でぎこちなくホックを外す。片手でなんてできないよはじめてだもの。
ブラジャーを取る。これが優子のおっぱい、これが優子の乳首…俺はあまりの感動的な光景に暫し見とれる。
服の上から見るよりも、ブラの上から見るよりもはっきりと感じる膨らみ。幼児体型だと思ってた優子のからだだけど、おっぱいけっこう大きいんだ。
「優子…かわいい…おっぱい、かわいい…」
「あーん…直樹くぅーん…恥ずかしいよぉ〜」
両手で顔を隠す優子。ああっ、もうかわいくてたまらないよ。愛しくてたまらないよ。
両手でおっぱいを揉む。手のひらで、ゆっくりと、ゆっくりと、おっぱいの感触を確かめる。
ほんのりピンク色と薄茶色の間くらいに色づいた乳輪を人差し指でなぞる。
そして、指はピンク色した乳首へ。ビンビンに勃起した乳首へ。
88
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/09/12(水) 02:27:33 ID:???
「ああっ、ああっ、ああっ」
人差し指で乳首を撫でる。そして舌の裏側で乳輪をなぞる。舌の裏側で乳首を舐める。
ざらざらした表側で舐めるより、ツルツルした裏側で舐めるほうが刺激が少ない。童貞なりに優子のはじめてを傷つけないように、どっかのエロ漫画で仕入れた知識を動員して乳首を愛撫する。
この時点でお互いに上半身は裸、下半身は下着一枚。
俺のトランクスはカウパー汁で、優子のパンティは俺の唾液と彼女の愛液ですっかりベトベトだ。
今度は優子の手をとり、俺の股間へ導く。トランクス越しに優子の手がチンコに触れる。
「今度は優子にして欲しい…」「うん…」
布地を通して優子の手の感触がチンコに伝わる。優子は完全に勃起した俺のチンコの形を確かめるようにやさしく擦ってくれる。物理的な刺激よりも、大好きな優子に触ってもらってるんだという精神的な快感でトランクスはますます湿り気を増す。
「ああっ、優子、ストップ」
これ以上続けると、トランクスの中で暴発の恐れがある。手を止めた優子は、トロンとした目で俺の股間を見つめている。
89
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/09/12(水) 03:44:38 ID:???
「優子…脱ぐよ」俺は肩で息をしながら、意を決して、ゆっくりとトランクスを脱いだ。「キャッ!」優子が両手で顔を覆う。
「優子、大丈夫?」「うん…でも、恥ずかしいよ…」「落ち着いてからでいいからね…」「うん…大丈夫…」
優子が、俺のチンコを見つめている。「できる?」「うん…」
優子の手が、俺のチンコに直に触れる。「ゆっくり擦って…」
すこすこ、すこすこ。優子の白くてかわいい手が、俺のチンコを擦ってくれる。ゆっくりと、ぎこちなく、でも懸命に。愛情たっぷりの優子の手コキ。
「はあーっ、はあーっ」俺はあまりの気持ちよさに、情けなく喘ぎ声をあげる。
「少し、強く擦ってみて…」「うん…こうかな…」
ギュッ、ギュッギュッという感じで、強さとスピードを増した優子の手が俺のチンコを上下する。
「おごわっ!」
亀頭を下から、ギュッと絶妙な角度で握られた瞬間、今までの人生で経験したことのないほどの快感が身体中を走り抜け、俺は悲鳴ともつかぬ絶叫をあげた。
優子は慌てて手を離すと「直樹くん大丈夫!?痛かった!?ごめんね、ごめんね…」
この時の俺は多分相当イッちゃった顔をしていた筈だ。白目剥くくらいしてたかもしれない。優子は涙目で謝っている。無理もない。
「違う…違う…大丈夫…続けて…今みたいにして…」「本当に、いいの…?」「うん、頼む…」
優子は心配そうに手コキを再開してくれた。徐々に力を込めながら、でもやさしく、一生懸命に…
「ああああっ!ああああっ!」再び優子の手が、俺のいちばん気持ちいいところを、いちばん気持ちいい角度で刺激した。今度は優子も手を止めない。そして、俺は遂に絶頂に達した。
「あぁ〜!!優子、気持ちいい!優子、出そう・・・優子、出るっ!!優子っ!優子っ!優子っ!優子おぉーっ!」
90
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/09/12(水) 18:00:52 ID:???
「優子、ごめ〜ん…」
俺は優子の手の中で大量に射精して、ベッドにへたりこんだ。精子は優子の手と、身体にも飛び散った。優子はポーッと虚ろな表情で手のひらの精子を眺めている。
「直樹くん…私で、気持ちよくなってくれたの…?」「うん…優子が、気持ちよかった」
「ありがと…」「おいどうしたwww」
「私みたいなコドモでも、直樹くん気持ちよくなってくれたんだなーって…私なんて、ちびっこだしスタイルもよくないし…直樹くんももっとオトナな女なほんがいいんじゃないかって…」
ただの同級生な頃から、散々チビだのガキだの言ってたけど、彼女なりにコンプレックス感じてたんだな。でもね…
「バーカ。俺は優子が好きなの。ちびっこな優子が好きなの。ちびっこな優子がかわいくてかわいくてかわいくてかわいくてかわいくて好きで好きで好きで大好きなんだよ」
「わーん!直樹くん大好きだよー!」
優子が抱きついてくる。かわいくて愛しくて嬉しくてたまらないけど、先に手のひらの精子は拭いて欲しかった…
91
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/09/12(水) 20:09:18 ID:???
優子とベッドに並んで座り、一休み。麦茶がおいしい。
だいぶ余裕出てきて、慣れてきた優子は、ニーッと笑いながら俺のチンコをいじくり回す。
「ココがいちばん気持ちいい?」「うん、さっきみたいにもっと強く扱かれたらヤバい」「じゃあ、ココ、覚えておこっとw」
「透明なのが出てくるね。これ、精子と違うんだよね」「これガマン汁ってやつ。大好きな女の子に触られて嬉しいときに出てくんのね。」
「へへへーwww直樹くんのおちんちん大好き〜」
「もー、あんまり触られてたらまたイくから…次は優子にする番…」
俺は優子を抱き寄せてキスした。舌を絡めあい、お互いの唾液を交換する。
左手でおっぱいを揉む。親指と人差し指で乳首を愛撫する。乳首がビンビンに勃起し、優子の感情が昂るのを確かめると、左手を少しずつ下へと移してゆく。
おなか、おへそ、そしてびしょびしょに濡れたパンティへと手を這わせる。「うぅ〜ん」優子の切なげな吐息が俺の口の中に充満する。
指でパンティ越しに優子のまんこを愛撫する。
薬指、中指、人差し指、三本の指でまんこを愛撫する。
「ああーっ!ああーっ!」優子が快感に耐えるように俺にしがみつく。優子のおっぱいが胸に密着する。密着しすぎて左手が動かせなくなってしまった。
92
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/09/13(木) 18:55:52 ID:???
優子の股間に添えた左手を抜き取り、両手で彼女を抱きしめ、そのままベッドに押し倒す。そして耳元で、そっと囁いた。
「優子、いいか?」「うん…」
俺は優子の両足を広げ、ふたたび股間を愛撫する。太ももの付け根から、パンティの裾へ。そしてすっかり染みになったクロッチへ。
じゅるっ、じゅるっ
「んっああっ、ああっ、ああっ」
俺は布越しに優子のまんこに吸い付く。優子が太ももを締め付けてくる。頭をホールドされ、さらにパンティの湿り気と彼女のまんこから沸き上がる温もりで息苦しさを感じてきた。
「優子、脱がすよ…」「うん…」
両手で優子のパンティに手を掛け、ズッ、ズッ、と少しずつ下へとずらしてゆく。陰毛が姿を表す。
この頃はたしかヘア解禁の前後でまだエロ本やAVで陰毛を見る機会もあまりなかったと思う。ましてや同年代の女の子の陰毛なんて見たことあるはずもない。だから比較はできないのだけれど、優子の陰毛はかなり濃いめだと思った。
わりと毛深いほうの自分の陰毛と比べても負けないくらいの濃さで、おしりの割れ目のほうまで生えていた。
「けっこう毛深いね」思わずボソリと口に出てしまった。
93
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/09/13(木) 20:12:11 ID:???
「いじわる言わないでー!」
俺的には意地悪言ったつもりなんか全然なくて、むしろ感動してんだけどね。『陰毛の濃い女は愛情深い』たぶん週刊プレイボーイかなんかに書いてあった眉唾話だけど、そんなんにも影響される性への興味旺盛な童貞少年は、彼女の濃いめのお毛毛にいたく感動しちゃったわけで。
「いやそんなこと…すっごく、すごく綺麗だよ」
「やだぁ…恥ずかしいよぉ…」
俺は優子の粘液にまみれた陰毛に見とれていた。そして、その陰毛の奥にあるはずの部分へ、本当に触れていいのだろうか。そこに踏み出すまでに少しの時間と勇気を要した。
「優子、見せて…」俺は意を決して彼女の股を拡げる。茂みの奥に優子のあそこが見え隠れする。緊張の一瞬。感動の瞬間。
優子のまんこ。これが優子のまんこ。しっとりと濡れた優子のまんこ。
無修正モノなんて手に入らない、見たこともない高校生にとって、はじめて見る女性器。それは童貞同士の噂話で聞くようなグロテスクなものでもなんでもない。
綺麗だと思った。かわいいと思った。愛しいと思った。これが優子なんだ。
94
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/09/13(木) 21:04:49 ID:???
俺は優子のまんこに顔を近づける。ぐちょぐちょになった優子が、綺麗なピンク色の優子が、もう、すぐ目の前にいる。
両手の指でまんこの両側を開いてみる。クリトリスだのなんだのはわかるはずがない。理屈ではどう扱ってよいのかわからない。でも、とにかく、本能のままに。
「はあんっ!」
俺は優子にキスをした。そして優子を舐め続けた。優子を吸い続けた。
優子のかたち、優子の色、優子の音、優子の味、優子の匂い、優子の体温。すべてを感じる。すべてが愛しい。
優子の部屋に、彼女の喘ぎ声と俺の荒い呼吸、俺の口と優子が密着し愛しあうクチャクチャとした音が響いた。
95
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/09/14(金) 00:01:07 ID:???
俺は優子のまんこから口を離すと、お互い一糸纏わぬ姿で抱き合い、口づけを交わす。クチャクチャと音をたてながら、お互いを高めあう。
「じゃあ…しよっか…」「うん…」
「俺で、いいよね…」「はい…お願いします…」
優子は上目遣いで微笑む。もう、頭の中は俺とのセックス以外考えられないような、幸せに満ちた表情で。
「ゴム着けるね。ちょっと待って」
床に脱ぎ散らかしたジーンズのポケットからゴムを取りだし、はやる気持ちを抑えながら装着する。それをじっと見つめる優子。
「これ着けないと、赤ちゃんできるんだよね…」「うん。まだ、子供できたらヤバいしね…だから、ちゃんと避妊はしようね」
今から優子とセックスするんだ。優子と子作りの行為をするんだ。俺は、今から優子と交尾するんだ。今はまだ優子を妊娠させるわけにはいかない。でも、いつかは…
いつかは、優子とほんとうのセックスがしたい、優子と子作りがしたい。心の底からそう思った。
96
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/09/14(金) 18:32:30 ID:???
ベッドに仰向けになり、大きく股を開いた優子は、じっと目を瞑って俺の受け入れを待つ。とめどなく愛液を分泌し続ける彼女のまんこは、早く彼の股間の恋人と愛し合いたいと俺を誘う。
その姿に俺のちんこは極限まで膨張している。早く優子の股間の恋人と愛し合いたいと訴える。
「じゃあ…入るよ…」
「うん…直樹くん…大好き…」
「俺も大好きだよ…ありがとう、優子…」
俺は優子の体に覆い被さると、ちんこを割れ目に添え、正上位での結合を試みる。優子の入り口を求めて押し付け、擦り付ける。その度に彼女は切なげに喘ぎ声をあげる。
散々AVやエロ本でイメージトレーニングを積んできたが、現実にモザイクのない優子の姿を目の前にすると、それらはただの仮想現実でしかないことを思い知る。
求めるポイントに達したのか、ある一点で、ちんこににゅるっと挿入感を覚えた。ここかな?と優子の腰をしっかりとホールドし、その一点にちんこを突き立てる。
「ああああああーーーんっ!」
歯を食い縛り、涙目になった優子が、俺にしがみつく。
俺の先端が、少しずつ、優子のなかに入っていく。
97
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/09/14(金) 20:24:02 ID:???
俺は、優子のなかに入っていく。先端に優子のぬくもりを感じる。
「んーっ!んーっ!」優子が歯を食いしばる。
「痛い?大丈夫?」「うん…大丈夫」「もうちょっと奥まで入るよ…」
「うぐっ!」俺のちんこは途中まで入ったところで、壁にぶち当たったように進まなくなった。顔を真っ赤に染めた優子は、見るからに痛みに耐えるように、力を込めて俺の首に抱きつく。
処女だから痛いとか入りにくいとかいう程度の知識はあっても、所詮は童貞。いざその時が訪れると、本当にこれが正解なのか不安になってくる。
「大丈夫?無理そう?やめる?」「んーっ…だっ、大丈夫だよう…」
「うん、じゃあ、もうちょっと頑張って。力抜いてみて」
俺は指で結合部を擦ってみた。指に優子から溢れ出る愛液が絡みつく。擦るたびにじゅわっ、じゅわっと滲み出て、ゴムの表面を潤す。
そして俺は、思いきって下半身に力を込めて、優子のなかに押し入っていく。再び壁にぶち当たる。
頼む、優子。君のなかに入りたい。最後まで君のなかに入りたい。どうか、どうか俺を受け入れてくれ!優子、優子、愛してる!
「んーっ!優子!入るよーっ!」
ずぶり、ずぶり。ついに俺は一線を越える。俺は根元まで優子のなかに入った。
98
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/09/14(金) 21:26:02 ID:???
俺は完全に優子のなかに入った。優子はものすごい圧力で俺を締め付ける。ものすごい快感が押し寄せる。俺は、優子と、セックスしている。
「優子…入ったよ」「んーっ、直樹くぅーん…熱いよー」
「痛くない?」「痛い…痛いよーでも嬉しいよー」
「優子…ありがとう…愛してる…」「あーん!直樹くーん!愛してるよーっ!」
俺は優子と唇を絡めあう。クチャクチャと、激しく。上半身と下半身とで優子と繋がりながら、俺は彼女とのこれまで、そしてこれからに想いを馳せる。
小学生の頃、苛められていた優子。
バレンタインに、他の女の子の付き添いみたいな顔してチョコレートをくれた優子。
ホワイトデーに、さも当たり前のような顔しながらも嬉しそうにお返しの品を受けとる優子。
中学校の休憩時間の、なんでもない雑談。
中学生の頃、俺が好きだった女の子のことをニヤニヤしながらからかう優子。
俺には優子との思い出は決して多くはない。君のことなんて見ていなかったから。俺は他の女の子を見ていた。そんな俺を君はどんな思いで見ていたんだろう。
「優子、ありがとう…ありがとう…」
俺のことを好きになってくれてありがとう。俺が好きなのは優子だ。俺は優子を愛している。俺は、優子とセックスしている。
ずっと、ずっと優子と一緒にいたい。俺は優子のなかで、そう思った。
99
:
名無しさんの住居は極寒の地
:2018/09/15(土) 01:22:15 ID:???
夏の午後、俺と優子は、ひとつになっている。部屋にはクーラーがついてはいるけれど、ふたりは汗みどろで肌と肌を、口と口を、そして性器を密着させている。
「優子、動いても大丈夫?」「たぶん…大丈夫」「じゃあ、ちょっと動いてみるね」
俺は下半身を少しばかり上下させてみる。瞬間、ぐぐっと快感が押し寄せると同時に、優子が悲鳴をあげた。
「おぁっ…」「あんーっ!」
まだまだ、優子は辛そうだ。
「直樹くん…動いたら気持ちいい?」「まだ痛いんだろ?無理しないでいいよ…」
「痛いけど、直樹くんが気持ちよかったら、私、痛くていい…」
「もうっ!かわいいなぁー!優子はぁーっ!」
優子のあまりの愛らしさに、全身に快感が走り、急激に射精感が押し寄せた。
たぶん、もうあとわずかで俺は絶頂に達するだろう。
「直樹くん…好きだよぅ…」「くうっ…優子…愛してる…愛してる」
「直樹くん…痛いよお…嬉しいよお…」
「優子…気持ちいいよぉ…」
「あぁーん!直樹くんが気持ちいいの嬉しいよぉー!痛いけど嬉しいよぉー!」
「優子…ありがとう…優子のなかが嬉しい…あぁ…イきそう、優子、優子、出すよ、出すよ、あああああ優子好きだあっ!優子、優子、優子おおお……あッ」
「あっ、ひっ、ひっ……あっ……ぅ」
「あッあッあッ、うあああっ優子、優子、優子おおおぉっ!!!」
「ひっ、うっ、あっ……」
100
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名無しさんの住居は極寒の地
:2018/09/15(土) 11:31:52 ID:???
「あぁ…イっちゃったわ…ゴメンな、痛くしてゴメンな…」
「んっ……はぁーっ」
「優子…セックスしちゃったな…俺たちセックスしたんだな…」「うん、そーだね…」
俺は優子のからだの上でぐったりしている。なんとも言えない高揚感と脱力感。
「最後夢中でなんかよくわかんなくなっちまったわ。痛かったな。ゴメンな」「ううん。大丈夫だったよ…」
「優子…俺たぶんちゃんと出来なかった。俺だけイってお前のことちゃんと気持ちよくさせられなかったかもしれない。ゴメンな…」
「そんなことないよぉ…私、しあわせだよぉ…直樹くん、ありがとう…」「俺もしあわせだ…ありがとう…」
優子のなかで俺のちんこは少しずつ硬度を弱める。まだジンジンと奇妙な感覚が残る。
俺はゆっくりとちんこを抜いた。優子のまんこから赤い液体が出ている。ああ、やっぱり処女喪失すると出血するんだと、実感が湧かないままボーッと考える。優子の血はシーツも赤く染めていた。俺はちんこからゴムを外して、練習通りに処理すると、優子の隣に仰向けに寝そべった。
101
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名無しさんの住居は極寒の地
:2018/09/15(土) 14:09:31 ID:???
優子が俺にべったりと甘えてくる。お互いに目を合わせては「ふふふっ」と微笑みあう。
優子は俺の首につよく腕を巻きつけ、俺も優子をギュッと抱きしめ、キスをする。
優子の手が俺の下半身にのびる。「もーなんだよwwwww」「なんか安心する〜」
「優子エロいわ〜」「直樹くんがうつったwwwww」「うるせー馬鹿wwww」
「ねぇー……」「なんだよー」
「ダーwwwwwリーンwwwww」
「ダーリンwwwwwやめろwwwww」
「ほらーwwwダーリンおちんちんおっきくなってるーwwwww」
「優子はまだ痛い?触っても大丈夫?」「んー、まだちょっと痛い、かな…」
「俺、次はもっと上手にできるように頑張るから…」「私のほうこそごめんね…私も、頑張る。だから…これからも、仲良くしょうねっw」
「…直樹くん…末永くよろしくお願いします!」
「優子ありがとうー愛してるーっ!」「私も!私も!愛してるよーっ!」
ただの同級生から恋人に、そして男と女の関係に。ここまでたった1ヶ月なのが信じられないほどに、俺たちは強い絆で結ばれているんだと実感する。
「そろそろ後片付けしないとね…シーツめっちゃ汚しちゃったね」「うーん、私が何とかする。直樹くん気にしないでいいよー」
「ありがとう、ごめんね。じゃあ、シャワー、借りてもいい?」「うん」
「じゃあ行こっか。一緒にキレイにしよう」「うんっ!」
〜俺と優子の恋物語〜初体験編 おしまい
102
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名無しさんの住居は極寒の地
:2018/09/15(土) 19:28:14 ID:???
〜俺と優子の恋物語〜新婚初夜編
俺と優子が結婚したのは、28歳の夏。15歳でつきあいはじめてちょうど13年の記念日に入籍した。
夕方、仕事終わりに区役所で待ち合わせて、婚姻届を提出。それから海を一望するタワーで夕日を眺め、予約したレストランで食事。帰宅したのは午後9時過ぎ。
「あー、明日も仕事だしなーさっさと寝よーぜw」
と言いつつ、『今からエッチしょうね』と目でサインを送る。とはいえ、昨夜は優子に渡す手紙を書いたりして夜更かししたし、軽くアルコールも入って眠いのは確かだ。
優子が明日の朝食とお弁当の準備にかかる間に、俺はお風呂にお湯を張る。優子と同棲をはじめてからの毎日の生活リズムだけど、今日からは同棲相手ではなく夫婦になったんだ。
これから、何年、何十年と続けてゆく夫婦生活が、今日、始まった。
103
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名無しさんの住居は極寒の地
:2018/09/15(土) 20:13:07 ID:???
「お湯入ったよ。入ろうか」
義足を外した優子を支えて脱衣場へ。イチャつきながら脱がしあいっこ。そしてお風呂へ。『奥さん』の裸に俺は早くもフル勃起です。
「えへへ、直樹くん元気になってるね。してあげよっか?」「後でゆっくりしようよ。もったいないじゃん」
俺たちは15歳で初体験してから、昨日までずっと避妊は欠かさなかった。そりゃあ生とか中だしとかしたかったに決まってる。ゴムなんか着けるより直に優子と繋がりたいに決まってる。
だけど、結婚するまでは、真に優子に対して、彼女のご両親に対して、そして生まれてくる命に対して責任を果たせるまでは絶対にできなかった。
結婚したらすぐに子供作ろうねと、ずっと話し合ってきた。そして今日、俺たちは結婚した。
お風呂あがり、ソファーでまったり、今夜の食事のこと、今週末の結婚式のこと、来週の新婚旅行のことなどを語り合う。時間は午後10時半過ぎ。
「じゃ、寝よっか」
俺は優子をお姫様だっこして寝室に連れていく。
こうして俺と優子は、新婚初夜を迎えた。
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