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川 ゚ -゚)子守旅のようです

183同志名無しさん:2015/12/06(日) 19:26:41 ID:XtofEtDE0

( ´ー`)「もしものためにとみんなで掻き集めた金だヨ。
      人ひとり雇うのには充分すぎる額だ」

川 ゚ -゚)「私を、買うのか」

 男が頷く。
 ずだ袋を私の手元に押しつけ、深く頭を下げた。

(;´ー`)「──頼む、俺達を手伝ってくれ!
      ロマネスクが宿を出るときに、少しの間だけ護衛を引き留めておいてほしい。
      それ以外には何もしなくていいから!」

 しばし、路地裏に静寂が満ちた。

 私は薄く溜め息をつき、袋を押し返す。
 男が失望した顔を上げ、その後ろで何人かが身構えた。
 ここで私が断るなら、彼らは口封じのために私を始末しなければならない。

川 ゚ -゚)「私は何もしない」

( ´ー`)「……そうかヨ」

184同志名無しさん:2015/12/06(日) 19:27:30 ID:XtofEtDE0

川 ゚ -゚)「ロマネスクに話すこともしない。
     話せば、あいつは護衛に、あなた達を殺すように命じるだろうから。
     だから私は聞かなかったことにする。あなた達は勝手にするといい」

 真意であることが伝わるように、目に力を込め、皆を見渡した。
 ちゃんと通じたのか、それとも言葉の内容に怯んだのか、敵意が弱まったのを感じる。

川 ゚ -゚)「ただ……あなた達が手を出した場合、無事でいられる保証はしない。
     だから、よく考えてくれ」


 そして、結局また、こうして釘を刺すだけ。





185同志名無しさん:2015/12/06(日) 19:28:24 ID:XtofEtDE0



『中央から発表された「新政府案」、立候補者の登録期限まであと2日となりました──』

 ラジオからは定期的に同じ話題が流れている。

川 ゚ -゚)「もう、すぐそこだな」

(*ФωФ)「そうであるな」

 酩酊状態のロマネスクは、あやふやな発音で答えた。

 すっかり日が暮れている。
 私は空いた皿をワゴンに重ねて、それを廊下に出した。
 窓辺へ戻り、ラジオに耳を傾ける。

186同志名無しさん:2015/12/06(日) 19:29:43 ID:XtofEtDE0

(*ФωФ)「貴様ともあと2日でお別れだ」

川 ゚ -゚)「……うん」

 契約は、中央に着くまで。

 しょせん私は間に合わせだと、初日にロマネスクは言っていた。
 中央に着けば、昼に男から聞いた通り、
 厳重な警備でもって守られるだろう。

(*ФωФ)「まあ貴様が望むなら中央まで持っていってやってもいいが」

 その言葉にロマネスクの方を見れば、特にこちらを気にした風もなく、チーズを口に入れていた。
 聞かなかったふりをする。

川 ゚ -゚)「私の子守唄がなくなって、寝られるのか?」

(*ФωФ)「はっ。随分と自信満々な発言であるな。
       貴様より歌が上手い奴など中央にはごまんといるだろう。
       ……いずれ慣れる」

川 ゚ -゚)「それはまた嬉しい話だ。清々する」

 こんな言い合いも、あと2日。

 実際、離れてしまえばロマネスクだって他の人間の子守唄で眠れるようになるだろう。
 子守唄自体いらなくなる日だって、いずれは。

187同志名無しさん:2015/12/06(日) 19:31:13 ID:XtofEtDE0

 窓を見遣った私は、ふと、ロマネスクに顔を向けた。

川 ゚ -゚)「お前、5年間どうしてたんだ?」

(*ФωФ)「おう?」

川 ゚ -゚)「天災が始まってから、新政府案が出されるまでの5年間。
     誰に子守唄を歌ってもらってた?」

川 ゚ -゚)「何日も付き合ってくれる奴なんかいないだろうし、
     かといって、毎日違う人間を捕まえられるわけでもないだろ」

 それに、あれだけ他者から恨まれている人間が、よくもまあ5年も無事でいられたものだ。

 ロマネスクは半眼で壁をぼんやり眺め、
 酒を舐めてから、先程より幾分はっきりした声で答えた。

(*ФωФ)「……まあ、5年の内4年ほどは、なぜ眠れないのか分からなかったな。
       そこから更に半年経って、ようやく子守唄がなければ寝られないと気付いたのである」

 それまでは酒や本で時間をやり過ごしていた──
 その回答に、私は眉根を寄せる。

188同志名無しさん:2015/12/06(日) 19:32:21 ID:XtofEtDE0

川 ゚ -゚)「ってことは、お前、天災の前は子守唄聴かなくても大丈夫だったのか」

(*ФωФ)「うむ」

 首長の話といい、ロマネスク本人の話といい、
 天災以前は今よりも随分まともであったらしい。

 何があったのだろう。
 ここ最近ずっと気になっていた疑問が、ますます強くなる。

(*ФωФ)「4年……寝ても息苦しくなってすぐに目が覚めた。
       だんだん夢を見るようになった。中身はぼんやりとしか思い出せない。
       だが、あるとき夢の内容をはっきり思い出せるようになった」

(*ФωФ)「我輩の首を絞める母の顔だ」

 酒を一口。
 ロマネスクの目は、相変わらず壁を向いている。

(*ФωФ)「記憶通りの笑みで首を絞めていた。
       子守唄を歌うように口も動いていたが……」

川 ゚ -゚)「……」

(*ФωФ)「声が聞こえないのだ」

 ロマネスクが右手で首を摩る。
 私はラジオを止めた。

189同志名無しさん:2015/12/06(日) 19:33:40 ID:XtofEtDE0

(*ФωФ)「子守唄が聴こえないと、まるで、本当に殺されているようで──
       このまま死んでしまいそうで、恐くて堪らなかった。
       それで起きてしまう」

川 ゚ -゚)「……だから、誰かに子守唄を歌ってもらうのか」

(*ФωФ)「うむ。子守唄さえあれば、夢をやり過ごしてゆっくり眠れた。
       録音した歌声でも眠れるのか試してみたこともあったが、まあ、駄目だったな。
       誰かに傍で歌ってもらわないといかんらしい。面倒な話である」

 グラスを持つ手をすいと振り、ふふ、などとしおらしく笑う。
 酒が入っているのと、そろそろ中央に着くのとで機嫌がいいらしい。
 それに饒舌だ。

 私は逡巡し、昼のことを思い返して、ロマネスクの寝台に腰を下ろした。
 途端、拗ねたような表情でこちらを一瞥する。

川 ゚ -゚)「どうしてそんな夢を見るようになった?
     ──天災のときに何があったんだ」

 その顔と向き合うように覗き込む。
 ロマネスクは目を眇めて、「しつこい奴だな」と私の顔を押しやった。

 けれど、きっとあの夜、宿で母親の話をしたときだって、
 こうして話を天災時期へ繋げるつもりだったのだろう。
 ならばもう、そろそろ話してくれたっていい筈だ。2日後にはどうせ離れ離れ。

190同志名無しさん:2015/12/06(日) 19:34:43 ID:XtofEtDE0

 めげずにロマネスクの目をじっと見つめていると、やがてロマネスクは嘆息して口を開いた。
 酔いの赤らみは薄まっている。

( ФωФ)「──死んでしまうのかと、思っただけだ」

 あまりに簡潔な答えは、それゆえ難解だった。
 少し間をあけ、改めて語り出す。

( ФωФ)「イトー家のシェルターに、第三避難組まで入れる予定だったのである。
       それ以降は別の避難所へ」

( ФωФ)「しかし第三避難組を連れていったとき、
       シェルターは暴徒が占拠していた」

川 ゚ -゚)「……シェルターを奪われたというのは、ペニサスさんも首長も言っていたな」

( ФωФ)「うむ。──災害の動きは、予測のつかんものでな、
       そのシェルター近辺は既に被害が出始めていたのである。
       シェルターを巡って争っている暇はなかったし、そもそも争うための人手が足りなかった」


 ロマネスクが上層部へ指示を仰ぐと、
 シェルターは暴徒にくれてやれという答えがあったそうだ。

 そうしてロマネスクは第三避難組と、
 暴徒に追い出されていた(イトー家の関係者と思われたらしい)第一・第二避難組を抱え、
 次の避難所へ向かった。

 けれど。
 そこも、別の地区の人間で一杯になっていた。

.

191同志名無しさん:2015/12/06(日) 19:36:37 ID:XtofEtDE0

( ФωФ)「他所の担当者が話を通さずに使ったようだった。
       ……何百何千、何万という命に関わる緊急事態においては、結局、
       早い者勝ちという子供のようなルールがまかり通るのだ」

川 ゚ -゚)「……それからどうなった?」

( ФωФ)「空きを作るから待てと上が言うのでな、待機した」

 「手間取っているが、すぐに次の迎えが来る」──
 またんきの話では、下っ端にそう説明させている内にロマネスクが逃げたということだった。

 けれども、もしかして、それは真実だったのではないか?

 ロマネスクが逃げた、その結論があるから、下っ端からの説明を時間稼ぎの嘘と判断しただけで。
 実際、彼は想定外の事態に手間取っていたのではないか。

( ФωФ)「だが天災で指揮系統も絶たれてしまった。
       そうなれば、我輩1人で動くしかあるまい」


 少し距離のある小さな島にも、ヴィプ国が管理する避難所があった筈だと思い至り、
 無理を承知で船を出したという。

 ヴィプ国近辺の天災は、まず海が荒れたところから始まったので、
 よほど無謀な者でなければ、わざわざあの小さな島に向かうこともないだろうと判断したのだ。

 当然、難航であった。
 波に飲まれた者も大勢いた。

 ──避難所に着く前に死んでしまうのではと思った瞬間、
 幼い頃の記憶と共に、耳の奥で子守唄が聴こえた気がした。

192同志名無しさん:2015/12/06(日) 19:39:32 ID:XtofEtDE0


( ФωФ)「……死ぬと思うと、恐くて恐くて仕方がなくなったのである。
       島に着き、案の定少数しか避難者のいなかった避難所に入ることが出来ても、
       恐怖でずっと震えていた」

 恐らくそれが睡眠障害を引き起こした原因だろう。
 子供じみた振る舞いをするようになったのも、多分。


 ──やがて国を飲み込んだ災害は、しばらく土地と住人を蹂躙し尽くした後、
 何喰わぬ顔で去っていった。

 避難所に留まり続けるわけにもいかず、
 海が落ち着いた頃、小舟で地元──があった筈の場所──へ戻り、
 金と私物を抱えて、更に他所の土地へ逃げたそうだ。

 ロマネスクの持つ金は、意外にも、全て元からあった自分の資産だという。
 避難時に集めた金は既に誰かが横から手を出し持ち去っていた。


( ФωФ)「そうして5年、ひっそりと隠れるように生きてきた」

( ФωФ)「当然ながら我輩の担当地区はとびきり犠牲者が多かったが、
       その原因は結局のところ、国全体にある。
       イトー家、暴徒、横取りした役人、指示を整理しきれなかった政府……」

( ФωФ)「それらの責任がほとんど我輩のものになっていたから、
       堂々と生きていくことは出来なかったのである」

川;゚ -゚)「……そんな」

193同志名無しさん:2015/12/06(日) 19:40:51 ID:XtofEtDE0


 ロマネスクが無茶をして島へ渡ったことは、政府へ伝わっていなかった。
 指揮系統が僅かばかり復活した頃には既に島へ向かっている最中だったし、
 まさか海を越えているなどとは誰も思わず、
 ロマネスクは避難者もろとも死んだと判断されていた。

 故にヴィプ国の高官は、ロマネスクの担当地区の惨状に関わる責任を
 丸ごとロマネスクに被せたのだ。
 既にこの地区は手遅れ、死ぬならロマネスクを恨んで死んでいけとばかりに。


川;゚ -゚)「……」

 額を押さえる。
 思考がまとまらない。指先が冷えるが頭は熱い。

 ぐちゃぐちゃと色々考えている内、ある憶測まで浮かんできた。

 人に頼まれてロマネスクを殺しにきた輩がいた、とは、だいぶ前に記した通りだ。
 てっきり犠牲者の身内が依頼したものかと思っていたが──
 ロマネスクが中央に向かい始めたことで生存を知った元高官が、その口を封じるために差し向けたのではないか。

194同志名無しさん:2015/12/06(日) 19:42:25 ID:XtofEtDE0

川;゚ -゚)「……それじゃあ……」

( ФωФ)「……」

川;゚ -゚)「それじゃあ、お前は、悪くないじゃないか……
     いや、悪いところはあっても、お前の責任じゃ……」

 私の声は間抜けに震えていた。
 ずっと信じていたことを根底から覆されて、声だけでなくどこもかしこも震えてしまいそうだった。

 ロマネスクは精一杯やっていた。
 彼へ向けられる恨みのほとんどが、他者に操作されたものだったのだ。

 どうしていいか分からない。
 右手を持ち上げ、彷徨わせ、ロマネスクの肩に触れさせた。

 ロマネスクは。

 冷めた目を私に向け、手を叩き落とした。
 口元に嘲りが浮かんでいる。

( ФωФ)「貴様は単純であるな」

川;゚ -゚)「え……」

( ФωФ)「馬鹿と言うべきか」

 語意を図りかねた。
 考え、それから、腹がちりちりと沸いた。

川 ゚ -゚)「……嘘をついたのか?」

 そう結論を出してロマネスクを睨む。
 彼は更に嘲笑を濃くしてグラスを空けた。

195同志名無しさん:2015/12/06(日) 19:44:26 ID:XtofEtDE0

( ФωФ)「いいや、事実である。
       話してないことが一つあるだけで」

川 ゚ -゚)「何を」

( ФωФ)「──島に避難したとき、もう一往復くらいは、出来た筈である。
       しかし我輩はそうしなかった」

 もう一往復。
 ──避難者を船に乗せて、ということだろうか?
 取り残された人々をもう一往復分、運ぶことが出来た筈ということか?

 私は叩き落とされた右手をもう一度持ち上げた。
 今度こそロマネスクの肩を掴む。
 頭は相変わらず熱い。しかし胸は冷えている。

川 ゚ -゚)「……助けられる人達が、本当は、もっといたのか」

( ФωФ)「うむ。避難所にはまだ幾らか余裕があった。
       海も、少しばかり落ち着いていたし」

川 ゚ -゚)「何で行かなかった」

 ロマネスクがグラスをサイドテーブルに置く。
 ふ、と酒臭い呼気を漏らして、口を開いた。


( ФωФ)「他人のために我輩の命を賭けてやることに、嫌気が差した」

.

196同志名無しさん:2015/12/06(日) 19:47:25 ID:XtofEtDE0

 ──左手を振りかぶっていた。
 ロマネスクの目に怯えが浮かばなかったら、そのまま殴っていたかもしれない。

川#゚ -゚)「……結局逃げたのか、お前は!!
     大勢見捨てて!!」

 理性で左手を止めたが、代わりに、両手で胸ぐらを掴んだ。

 ほんの数秒前まで同情していた自分と、そうさせたロマネスクへの苛立ちがある分、
 その怒りは今までの何倍も大きかった。

 臆病なロマネスクは少したじろいだが、私が相手だと幾許か余裕があるらしく、
 同じように顔と声を怒りに染めた。

(#ФωФ)「なぜ貴様が怒る必要があるのだ!!」

川#゚ -゚)「お前が撒いた種の始末を私がさせられてるんじゃないか!!
     お前が5年前にもっと命を救っていれば、
     ──せめて迎えを待つ人達のもとに行って説明していれば、こんなことにならなかった!!」

 またんきと、彼の母と、路地で恨みを訴えた彼らと、今まで私が殺してきた人々。
 たくさんの泣き顔が、怒号が、脳裏を駆け巡る。

川#゚ -゚)「……私が何人も殺す必要はなかったんだぞ!!」

(#ФωФ)「貴様はその種の始末で飯を食っているのだろう!?
       今まで散々仕事をしておいて、今更何を善人ぶっているのだ人殺しが!!」

川#゚ -゚)「人殺しはお前も同じじゃないか!!」

 散々、人を殺した。
 散々殺したから、今、こうして怒っている。

197同志名無しさん:2015/12/06(日) 19:49:22 ID:XtofEtDE0

川#゚ -゚)「……どうして行かなかった……!」

 同じ質問を、もう一度。
 ロマネスクは私の手首を握り締め、叫んだ。


(#ФωФ)「生き残りたくて何が悪い!!」

川#゚ -゚)「みんなだって生きたかった!!」


 2人、荒く息をつく。
 口を閉ざして睨み合う。

 ずるりと手を落とし、私は俯いた。

川#゚ -゚)「……どうして、こんな奴、守って……」

(#ФωФ)「今更……、……そんなに嫌なら、我輩に付いてこなければ良かったであろう!」

川#゚ -゚)「お前が雇ったんじゃないか!」

 勝手な言い分に怒鳴り返せば、ロマネスクは一瞬ぽかんと口を開け、
 今までで最も怒ったような顔をした。

 そうして私を突き飛ばす。
 いい加減近くにいるのも嫌だったので、わざと転がるようにして寝台から下りた。

198同志名無しさん:2015/12/06(日) 19:50:24 ID:XtofEtDE0

(#ФωФ)「──貴様がこれほどの馬鹿だとは思わなかったぞ!
       ああもう好きにしろ、出ていけ!
       解任の予定が2日早まるだけだ、問題なかろう!」

 給与だろうか、札束を投げつけたロマネスクがドアへ向けて腕を振る。
 私は札束を無視し、飛び出すように部屋を後にした。

 馬鹿らしいとは、分かっていた。



 宿を出ると、例の男がいた。

( ´ー`)「何か騒いでたか」

川 ゚ -゚)「なんでもない」

 夜気が、頭を冷やしていく。
 ああやって人と怒鳴り合うなど、初めてだった気がする。
 適当な場所へ歩き出そうとして、ふと、男へ振り返った。

199同志名無しさん:2015/12/06(日) 19:50:53 ID:mqQt6RhE0
クーさん護衛失格すぎる

200同志名無しさん:2015/12/06(日) 19:52:10 ID:XtofEtDE0

川 ゚ -゚)「昼はああ言ったが、今はもう、ロマネスクに護衛なんていないんだ」

( ´ー`)「え」

 呆気にとられた男が、黙考し、「本当か」と訊ねてくる。

川 ゚ -゚)「ああ。……前まではいたけど」

( ´ー`)「そう──か。そうなのか」

 頷いて返す。
 男は、路地の仲間達のようにぎらついた光を瞳に灯した。

 身を翻し、私は今度こそ歩き出した。





201同志名無しさん:2015/12/06(日) 19:52:41 ID:XtofEtDE0



川 ゚ -゚)

 ──そうして私は今、廃墟の3階から、彼らを眺めている。
 誰もこちらに気付く余裕はない。


 せめて見届けようと思った。
 手出しはせずに。

 ロマネスクが殺されるか、あるいは、彼らが思い留まるか。
 いずれにせよ見届けようと。

202同志名無しさん:2015/12/06(日) 19:53:19 ID:XtofEtDE0


(#´ー`)「お前が、……、……」


 男が喚いている。
 昨日私を案内した彼が、今日はロマネスクをここへ連れてきた。

 夕方になり宿から出てきたロマネスクに、刃物を押しあて脅したのだ。

 私はそれを、物陰から見ていた。
 何もせず。怯えるロマネスクを助けず、気配を殺し、後をつけてきた。


 もはや聞き飽きたほどの恨み言をぶつけ、彼らはロマネスクに武器をちらつかせる。

 初めに手を出したのはまたんきの母親だった。
 叫び、闇雲に包丁を振り回してロマネスクの腕を切りつけたのだ。

 そうされるとロマネスクはもう動けなくなって、
 泣きそうな顔をしてへたり込んでしまった。
 彼女が続けざまに包丁を振りかぶる。ロマネスクの絶叫が響いた。

203同志名無しさん:2015/12/06(日) 19:54:31 ID:XtofEtDE0

ノハ;⊿;)「死ねえええっ!!」

「ヒートさん、まだ殺すのは早いよ」

 初老の男が、またんきの母を抑える。
 その言葉に、ロマネスクがますます顔を青くさせた。

(;ФωФ)「や、やめ……っ」

 男が、女が、またんきの母親が、憎悪を撒き散らしながらロマネスクに迫る。

 楽に殺しはしないだろう。
 ぼんやり考えている間にもう4回ほど殴られているが、その程度ではまだ死なない。

 誰かの振り上げた金属製の棒が、ロマネスクの肩を打った。
 硬い音。ロマネスクが悲鳴をあげる。

川 ゚ -゚) …〜♪

 私は子守唄を3番まで歌いきる。1番から、もう一度。

204同志名無しさん:2015/12/06(日) 19:55:06 ID:XtofEtDE0


 ──私だって。

 あの顔を殴り抜いて、首を絞めてやりたい。
 憎らしくて憎らしくて仕方がない。


 なのに、袋叩きにされたあいつが野垂れ死ぬ様を想像すると、どこかに焦燥が滲むのだ。
 こうして傍観することへの罪悪感か。

 けれど私は、強盗などを殺すことには罪悪感を抱かない。
 私の定義で「悪」と認めた相手ならば、多少の躊躇はあれ、後悔は薄い。

 ロマネスクは間違いなく悪だ。

 復讐している彼らは善ではないが、悪でもない。

 なのにどうしてか、──困る。

 もちろん手は出さない。
 私は既にあいつの護衛ではないし、助けてやりたいと思っているわけでもない。

205同志名無しさん:2015/12/06(日) 19:56:01 ID:XtofEtDE0

川 ゚ -゚) 〜♪

 空の橙が濃くなっていく。
 地面にロマネスクから流れた赤が広がっていく。
 空の色はくすんでいる。

(; ω )

 ロマネスクの抵抗が弱まってきた。
 ああ、このまま、死んでしまいそうだ。

 あいつは死というものがとびきり恐いようだから、今も死んでしまいそうな心持ちだろう。
 死にそうだから死んでしまいそうな心持ち、とは、あまりにそのまますぎる。

206同志名無しさん:2015/12/06(日) 19:56:22 ID:XtofEtDE0


 ──果たして死ぬとはどういうものなのだろうか。

 今まで殺してきた人達の顔が脳裏を過ぎる。
 なるべく苦痛が長引かないような殺し方をしてきたつもりだから、
 苦悶の表情で死んでいった例はあまり知らない。

 大抵は、そっと眠るような死に顔だった。


 もしかしたら。
 本当に、眠りにつくようなものなのかもしれない。

207同志名無しさん:2015/12/06(日) 19:57:40 ID:XtofEtDE0

 目を閉じて。
 視界が真っ暗になって。
 意識の一方がふわりと上へ持ち上がり、もう一方は下へ沈んで広がって。
 けれども、「二度と目覚めないだろう」という予感はある──

 それはどんなに寂しくて恐いことなのだろう。

 ロマネスクはそれを4年間体験していた。
 死にたくなくて、眠れなかった。

 昨夜は徹夜しただろうか。
 だいぶ酒が入っていたから、もしかしたら眠ってしまって、その都度苦しんで目を覚ましたかもしれない。

208同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:01:01 ID:XtofEtDE0


 ロマネスクが動かなくなる。
 周りがいったん手を止めたが、逃げようと身じろぎする気配すらない。
 それでも息はあるらしく、確認した誰かが、にやりと笑った。まだ続けられると。



 ──このまま。
 殴られ続けて、切られ続けて。
 あいつが眠ってしまったら、もう、起きられないのだろうか。


 私が手を握ってやっても、目覚めなくなるのだろうか。

209同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:01:56 ID:XtofEtDE0


川  - ) ♪……


 声を、止める。

 誰かの持つ刃物が光を反射し煌めいた。

210同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:02:42 ID:XtofEtDE0



 ──同時に、窓から飛び降りる。

 壁に寄り添うパイプを踏み、積まれた瓦礫を踏み、
 近くにいた男を蹴飛ばして、着地した。



ノハ;⊿;)「あ」

 またんきの母と目が合う。
 ベルトからナイフを抜き、即座に彼女の胸へ埋め込んだ。

 瞬間、噛み締めた唇の皮膚が、ぶつんと裂けた。

211同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:03:24 ID:XtofEtDE0

川 ゚ -゚)「……私が護衛だ……」

 ナイフを捻る。肉を抉る。

 固まる彼らへ、声を向けた。

川#゚ -゚)「私がこいつの護衛だ!!」

 彼女が目を見開いた。
 同時にその口から血が溢れる。

ノハ;⊿;)「またん、き、」

 ──そうだ。
 護衛の私が、またんきを殺したのだ。

 そうやって、ロマネスクを護ってきた。


 胸や腹が、裂けたように痛んだ。
 瞬間的に目元へ熱が集まった。

212同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:04:05 ID:XtofEtDE0



 私は、何がしたいんだろう。


.

213同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:04:54 ID:XtofEtDE0

ノハ;⊿;)「あ」

 ナイフを抜く。彼女がくずおれる。

 振り返ると、ロマネスクと目が合った。
 驚いたような顔をしていた。

川 ; -;)「……何でお前なんか守らなくちゃいけないんだ!!」

 叫び、前へ向き直る。
 例の若い男が目の前にいて、顔を憤怒に染めていた。

(#´ー`)「てめえ! 騙しやがったな!」

 襲いかかる彼をかわし、額を貫く。
 痛い。痛い。全身が痛くて、だから、どこが痛いか分からない。
 痛みを誤魔化すために、喉が裂けるくらいに叫んだ。

川 ; -;)「死ね! 死んじまえ! お前なんか人でなしだ!」

 ロマネスクへの罵声をあげながら他の人間を殺す自分が、滑稽だった。

 すぐ前方にいた女に走り寄る。
 脇腹にナイフを突き刺し、力任せに横へ引いた。

 悲鳴。周りの人間からだ。
 当の女はくぐもった呻きを漏らすのでやっとだった。

214同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:06:00 ID:XtofEtDE0

川 ; -;)「死んじまえ! 死んじまええっ!!」

 手当たり次第、近くにいる人間から殺していく。
 一部は私を抑えようとしていたが、そうした者から返り討ちにされていくにつけ、
 何人かは逃げ出してしまった。

川 ; -;)「うう、……ああああっ!!」

 たくさん、しんでいく。
 ころしている。

 ナイフを握りづらくなる。私の手が、返り血でぬるぬる滑るからだと気付いた。
 切れ味が鈍る。ナイフが、相手の血や肉で覆われているからだと気付いた。
 何人も殺したからだと気付いた。

 ナイフを捨て、手をシャツに擦りつけ、ベルトに括りつけてある別のナイフを握る。
 引き抜きざまに、逃げ惑う男の背に切りつけた。
 相手がふらついた隙に、足を使って仰向けに転がし、のし掛かって胸を刺す。

 これで何人殺したっけ。あと何人いるっけ。

 ナイフを両手で握ったまま、ほんの一瞬、そんなことを考えた。
 俯いた途端、ぼろぼろと大きな雫が私の目からたくさん落ちた。

215同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:06:54 ID:XtofEtDE0

川 ; -;)「ふ……うーっ、ふー、ううー……っ」

 絶命した男からナイフを抜こうとしたのに、上手く力を入れられない。

 もたついたせいで、後ろに迫る気配に気付かなかった。

川 ; -;)「うあ゙っ!!」

 左足、ふくらはぎに激痛。

 ふりむくと、まだ少年と青年の狭間であろう男の子が、
 先ほど捨てたナイフで私の足を貫きながら、こちらを睨みつけていた。

 「父さんを」──
 その言葉で、いま殺した男の息子なのだと察した。
 いや、あるいは数秒前に殺した方の男か、それともその前か、はたまた数ヵ月前に別の町で──

 とにかく私が彼の父を殺した。

 昔ロマネスクが彼らの身内である誰かを殺し、
 いま私が彼の父親を殺した。

 だから彼らはロマネスクを殺そうとし、
 彼は私を殺そうとしている。


 とっくの昔に世界の殺し合いは終わったのに、私達はこんな路地で、また殺し合いをしている。

.

216同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:07:41 ID:XtofEtDE0

 私は持ち歩いている分で最後のナイフを取り出し、
 男の子の首を裂いた。
 彼は泣いていた。憎くて仕方ないという顔をして泣いて、死んだ。

 かつてロマネスクに向けられていた目が、私を向いていた。

 わんわんと耳の奥が痺れている。
 足を負傷してしまったから、早く残りの者を始末しなければ私がやられてしまう。

 立ち上がろうとして、どちらの足をやられたか一瞬忘れていたのか
 間違えて左足に力を入れてしまい、当然うまく行かなくて転がった。


 そうして──既に誰もいないことに、ようやく気付いた。

 あらかた殺して、それ以外は逃げてしまったらしい。

217同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:08:46 ID:XtofEtDE0

川 ; -;)

 ふうふう、震えた呼吸を一向に整えられない。

 疲れたからではなくて、しゃくり上げているからだ。

 辛うじて汚れていない左手首を口に当てる。
 殺しきれない声が、ぐるぐると喉の奥で響いた。

 ──ぽつり。
 空を向く鼻先に、何かが当たる。

 ぽつり。ぽつり。
 すっかり暗くなっていたが、それが雨であるのは分かった。
 どんどん強くなる。


 廃墟に挟まれた路地、たくさんの死体と殺人鬼。
 そこに降る雨。

 まるで映画みたいで、私の呻き声が笑い声に変わる。
 大口開けて哄笑して、それにつられて涙が引いていく。
 代わりに雨が顔を濡らしていった。

 泣いてどうする。笑え笑え。
 私も人でなしだ。家族を失った彼らを殺し、そのせいで家族を失った者がまた増えたろう。
 人でなしは、こういうとき、きっと笑うのだ。

.

218同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:09:45 ID:XtofEtDE0

 のそり、視界の隅で何かが動いた。

( ФωФ)「……ここに居続ければ、逃げた奴らが自警団でも連れてくるやもしれん」

 何だ、お前、まだ逃げていなかったのか。

 ぼろぼろのロマネスクが私の腕を引いた。
 私は身を起こし、左足が痛かったのでそのまま止まる。
 痛みを我慢すれば歩くことくらい出来たろうが、それすら億劫だった。

 薄暗い中、ロマネスクは必死に目を凝らして私の姿を確認し、
 ハンカチを取り出すや否やふくらはぎの上を縛って、
 しゃがんだまま私に背を向け腕を伸ばした。

川 ゚ -゚)「……」

(#ФωФ)「……早くしろ、馬鹿が!」

 黙って見つめていたら、焦れた様子のロマネスクに怒鳴られた。

 まさかな、と思いつつ、背負われる形でロマネスクにのし掛かると、
 そのまさかだったらしくロマネスクが立ち上がる。

 私が彼を担いだり背負ったりすることはたまにあったが、
 逆に背負われるのは初めてだった。

 ロマネスクだってたくさん怪我をして、動くのすら辛いだろうに。
 護衛として鍛えている上、ぐったりと身を預けているぶん余計に重いだろうに。

219同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:10:24 ID:XtofEtDE0


 適当に路地を曲がりながら、人気の少ない方を選んで歩いていく。
 途中、やはり辛くなったらしいロマネスクが一度転んだが、
 また私を背負って歩き出した。

(#ФωФ)「重い!」

 吐き捨てるように怒鳴る。
 ならば下ろせばいいのに。
 私など放り捨て、1人で逃げればいいのに。

 ふたりで逃げる必要など、もう無いのに。

川 ゚ -゚)「……」

 だらりとロマネスクの肩に垂らしていた両腕を曲げる。
 目の前の首を、軽く絞める。

220同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:11:13 ID:XtofEtDE0

川 ゚ -゚)「……死んじまえ……死んじまえ、お前なんか……お前なんか」

 囁く。
 けれど私の腕は、それ以上力を入れようとはしなかった。

 雨が一層強くなる。
 死ねという私の呟きが掻き消える。

 手も口も、殺意を全く伝えられないのがどうしようもなく歯痒い。

 こんな奴、死ねばいい。
 なのに殺せない。どうしてだろう。
 唇を噛み締める。先ほど切れた皮膚から血の味がする。

 その痛みに我に返った。

川#゚ -゚)「──下ろせ!!」

 何故おとなしく背負われているのだ。

 殺せないなら、せめて、こいつと離れていたい。
 勝手にどこへでも行けばいい。

 肩を押しやる。
 なのにロマネスクは、私の足を抱える腕に力を入れた。

221同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:11:42 ID:XtofEtDE0

川#゚ -゚)「放せ! やめろ! ──いい加減にしろ!」

(#ФωФ)「いい加減にするのはどっちであるか!!」

 びくりと、手が震えた。

 ざあざあ、強まる雨に負けじと、ロマネスクが叫ぶ。

(#ФωФ)「この碌に動けない足で、貴様を置いていったらどうなる!
       すぐに残党や自警団に見付かるぞ!」

 動けないわけではない、動きたくないだけであって。
 それに見付かったら何だというのだ。
 お前は自分1人さえ無事なら、他はどうだっていい人間だろう。

 反論は次々浮かぶ。
 口は動かない。
 代わりに腕へ力が入る。首を絞めるためでなく、しがみつくために。


(#ФωФ)「……まったくもって貴様はガキだ!!」


 その声が、一際、雨音より耳に染み込んだ。

222同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:15:08 ID:XtofEtDE0


(#ФωФ)「甘ったるい道徳観と理想に振り回されて、勝手に傷付き腹を立てて!
       平和ごっこがしたいなら護衛なんて仕事をするな、我輩に付いてくるな!
       いい歳をしているんだから、生き方など自分で決められるだろう!!」

(#ФωФ)「貴様はただ流れに任せて、その中で自分の手を汚されるのが嫌なだけだ!
       本当に他人を思いやってるわけではない!」

川 ; -;)「……っ、」

(#ФωФ)「折り合いをつけられないからガキなのだ!
       何かを諦めることも! 何かを貫くこともできないからガキなのだ!
       そのくせ勝手に拗ねる! 馬鹿だ、馬鹿なガキだ!!」

 人のことを言えないくせに。
 お前だって、どうしようもなく、子供のくせに。

 そう思っても文句を返せない。
 震える口を、ロマネスクの肩に押しつける。

223同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:17:06 ID:XtofEtDE0

(#ФωФ)「馬鹿なガキでほとほと愛想が尽きるが、
       それでも貴様は我輩の護衛なのだろう、……我輩のものなのだろう!」

 少しの間をあけ、ロマネスクは心底怒ったような声で、最後に怒鳴った。


(#ФωФ)「ならば我輩が守るしかなかろうが!!」


 ──こんなときに限って、雨が弱まる。

 顔を濡らし流れていく生温い感触を、雨の冷たさで誤魔化せなくなる。

川 ; -;)

 スーツを噛む。唇がわななく。
 息苦しくて、は、と呼気を吐き出すために口を開いたら、勝手に声も出た。

 わあん、なんて、馬鹿みたいに泣いた。
 愚痴も文句も言葉にならず、意味もなく喚きながら泣いた。


 恥ずかしくて、腹が立って、辛くて、苦しくて、痛くて、恐くて、嫌で、きらいで、どろどろして、
 ──嬉しくて、何かがすっきりしそうだから、泣いた。



 子供がぐずるみたいだった。





224同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:18:39 ID:XtofEtDE0



( ^ω^)「──えー、今日が新政府役人候補者の集合期日となりますお。
       さっそく明日から面接等を開始します。
       今日の15時までに、1区の管理所で登録を──」



 首長の声がする。
 中央を始め、その周辺の町に流しているのだそうだ。
 朝から何度か繰り返されている。

川 ゚ -゚)「……」

 私はそれを、中央の3区にある病院で聞いていた。

 昨夜、馬車を呼びつけてロマネスクと共に乗り込み、
 そのまま中央の病院に向かった。着いたのは早朝だった。

 手当てを受け、休ませてもらって、今はもう正午を回っている。

225同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:19:35 ID:XtofEtDE0

( ФωФ)

 ロマネスクは寝台の横に座って黙っていた。
 彼も至るところに包帯を巻かれているが、見た目ほどは重傷でないらしい。頑丈だ。

川 ゚ -゚)「……受付、あと3時間だって……」

( ФωФ)「分かっている」

 私が顔を上げると、ロマネスクは、分かっている、ともう一度呟いた。

川 ゚ -゚)「行かないのか」

( ФωФ)「行ってどうなる」

 どうなると言われても。
 戸惑う私に、ロマネスクはもう何度目かの溜め息をついた。

( ФωФ)「貴様、昨日何人殺した?」

川 ゚ -゚)「……さあ」

( ФωФ)「さすがに騒ぎになっているだろうし、すぐに、こっちにも情報が伝わる」

 そうか。
 生き残った人々が、事情を話すだろう。
 いくらか事実を曲げたとしても、ロマネスクと私のことは確実に説明する筈。

 自警団も首長も、さすがに何人も殺した輩を放ってはおかないだろう。
 しかし。

226同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:20:30 ID:XtofEtDE0

川 ゚ -゚)「殺したのは、私だろ……お前が手を出したわけじゃない。
     私が勝手にやったと言えば、お前はお咎めなしかもしれないぞ。
     実際、それだけ怪我をしたならお前は被害者だ」

( ФωФ)「馬鹿を言え」

 くしゃり。ロマネスクの手が、俯きかけた私の頭を撫でるように押さえた。

( ФωФ)「我輩も貴様も、人殺しだ」

 ロマネスクの顔を見る。
 ちゃんと見ているのに、表情が分からない。
 俯いて、ぽたりと水が落ちて、それで視界が曇っていたのだと理解した。



 ──ごめんなさい。
 ごめんなさい。
 みんなだって生きたかったろうに。

 でも、私の目の前にいるこの人だって、生きたがっているのだ。







227同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:22:42 ID:XtofEtDE0





('A`)「……おかしくねえか……」

 ──ドクオはぴっしりしたスーツに包まれた身を眺め、
 隣に立つ、かつての同僚に顔を向けた。

ξ゚⊿゚)ξ「たしかに似合ってないわね」

('A`)「いやそういうことじゃなくてよ。
    何で! 俺が! 外務長官なんだよ!」

 窓の外は賑々しい。

 新政府の候補者が集まってから一ヵ月。
 ついに各部門の長官とその補佐が決定したので、
 今日はその式典が開かれる。

 部下となる役人達も暫定的に決まっているので、
 式典に出る人数もそれなりだ。

 その名簿を何度も眺めて、「外務長官 ウツ・ドクオ」の欄が目に入る度にドクオは震える。

228同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:24:05 ID:XtofEtDE0

(;'A`)「何で俺……? あのひと俺に甘すぎやしねえか……?」

ξ゚⊿゚)ξ「身内を甘やかすためにそんな大層な役職を与えるような方じゃないわよ。
      ここ一年間、各地で頑張ってきたから外務長官に相応しいと思ったんじゃない?
      というか正直、この役職だけは消去法で決めたようなもんでしょ」

('A`)「最後のは余計だな」

 護衛の任を解かれた後、ドクオは組織も抜けた。
 名実ともにブーンの部下になるためだ。

 誠心誠意、ブーンのため、世界のために尽くすとは決めたが、
 この采配は予想外にも程がある。

ξ゚⊿゚)ξ「ほら、あと少しで式典始まるわよ」

(;'A`)「あ、あがががが緊張してきた」

ξ;゚⊿゚)ξ「顔色悪ッ。ちょっと、式の最中に倒れるとかやめてよね」

(;'A`)「でもよう」

('(゚∀゚∩「ドクオさーん!」

(;'A`)「うお!」

 部屋──これからは外務長官の執務室となる──のドアが、ノックも無しに開けられた。

 少年、なおるよが男の腕を引っ張りながら入室する。

229同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:25:06 ID:XtofEtDE0

('(゚∀゚∩「ネクタイ余ってませんかよ?」

ξ゚⊿゚)ξ「どしたの」

('(゚∀゚∩「ショボン様ったらセンスが悪いんですよ!
      こんな大事な日は服に気を遣うべきです!」

(;`・ω・´)「だからこの青いやつでいいって」

('(゚∀゚∩「駄目です!」

 なおるよの雇い主、ショボンという男は辟易とした顔でなおるよを見ていた。

 隙あらばシャツのボタンを外そうとするショボンに、
 護衛である筈の少年は顔に似合わぬ凄みを利かせた声をあげる。

('(゚∀゚∩「こら」

(;`・ω・´)「息が詰まっちまう」

('(゚∀゚∩「2、3時間は我慢してくださいよ」

230同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:26:47 ID:XtofEtDE0

ξ゚⊿゚)ξ「素敵ですわ、ショボン様。スーツがよくお似合いで」

(*`・ω・´)「え、あ、そお? へへへ、惚れちゃう?
       いひひ……今日から一つ屋根の下で暮らすんだし、仲良くしようぜツンちゃん」

('(゚∀゚∩ グッ

(;`゚ω゚´)「ぎいいい」

 クローゼットから薄紫のネクタイを取り出したなおるよが、
 それをショボンの首に引っ掛け思い切り絞った。
 一連の流れをツンが冷めた目で眺めている。

('(゚∀゚∩「そういうのをやめろと何度言わせるつもりですかよ?
      さっきデミタスさんにシメられたのに懲りない人ですよ」

(;`゚ω゚´)「しめっ、し、絞められてる……っ、なおるよさんに今まさに絞め、絞められっ」

('A`)「……まあとりあえず、適当に好きなネクタイ使っとけ。
    ツン、一緒に見繕ってやれ」

ξ゚⊿゚)ξ「はいはい」

('(゚∀゚∩「はーい! ありがとうございます!」

 にこにこ可愛らしい笑みを浮かべるなおるよに片手を挙げて挨拶して、
 ドクオは部屋を出た。

 今日からあのショボンが自分の補佐となる。
 品性を疑う(人のことを言えないが)ような男だが、ブーンが決めたのだから、何か考えはあるのだろう。
 正味、扱いやすそうな男ではあると思う。

231同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:27:50 ID:XtofEtDE0


 廊下を歩いていると、抱き合う男女がいた。
 こんなところで何を、と呆れつつ近付く。

('A`)「おい」

('、`*川「あ、ドクオさん。──ありがとうデミタス、もう大丈夫よ」

(´・_ゝ・`)「まだふらついているようですが」

 ペニサスと、その護衛デミタス。
 デミタスの言葉に、ただ抱き合っていたわけではないと知る。

('A`)「具合悪いのか」

('、`*川「いえ、慣れない靴を履いたらよろけてしまって」

 見れば、なるほど、踵が高い。
 ワタナベさんに勧められたのだけど、とペニサスが言う。

 ワタナベというのは教育長官に選ばれた老婦である。ペニサスはその補佐。

(´・_ゝ・`)「お嬢様が望むのであれば、私がお抱えして式典に出席いたします」

('A`)「いや……それは気持ちわりいよお前……」

 血迷ったことを言い出したデミタスを窘めれば、物凄い目で睨まれた。理不尽。

232同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:28:58 ID:XtofEtDE0

('、`*川「いいわ、大丈夫。式が始まるまでに歩く練習しましょう」

(´・_ゝ・`)「転んでしまったらどうするんです」

('、`*川「転ぶ前に、デミタスが助けてくれるわ」

(´・_ゝ・`)「はい、勿論です」

(;'A`) ヒィ

 溶けた脳味噌が蜂蜜になって耳から流れ出てくるのではないかという声色での返事だった。
 体調が悪くなりそうだ。他所でやれ。

 そういえば先程ショボンがデミタスにシメられたのだったか。
 大方、ペニサスにちょっかいを出したのだろう。

('、`*川「それでは失礼します、ドクオさん。また後で」

('A`)「ああ……」

 ペニサスはくるりと踵を返し、颯爽と──去っているつもりなのだろうが、
 実際は危なっかしい足取りで、かなり狭い歩幅で少しずつ少しずつ進んでいる。

 それに合わせてゆっくり付いていくデミタスの顔は、愛玩と嘲笑の狭間のような、
 複雑極まりないものだった。

233同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:30:14 ID:XtofEtDE0

('、`*川「そういえばデミタス、やっとそのネクタイつけてくれたのね」

(´・_ゝ・`)「勿体なくてつけられませんでしたが、今日は晴れの日ですので」

(;'A`)(あんな恐い奴だったかな、あいつ……)

 見たことがないほど丁寧な物腰なのは雇い主に合わせた結果だろうが、
 ペニサスに向ける不健全極まりない目顔は何なのだ。

 5年会わない内にみんな変わるものだなと思いつつ、階段を下りる。

ζ(゚ー゚*ζ「妹者さん、可愛いです! ワンピース似合ってますよ」

l从・∀・*ノ!リ人「ふへへ。どうじゃニュッさん」

( ^ν^)「おう」

l从・∀・ノ!リ人「おうって何じゃおうって」

('A`)(……一番変わったってえと、こいつか……)

 玄関前のホールでにこにこしながら少女を褒めるデレを視界に収め、
 未だに慣れないその姿に溜め息をついた。

234同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:31:45 ID:XtofEtDE0

∬´_ゝ`)「ネクタイ曲がってる」

( ´_ゝ`)「お、ありがとう姉者」

(´<_` )「ああ、ドクオさん。どうも」

 姉に身嗜みを整えられている双子の内、弟──だった筈──の方がドクオに気付いて一礼した。

 兄の方のネクタイを直していた流石姉者が、びくりとして双子の後ろに隠れる。
 別にドクオだけに向けられる反応ではないが、やはり少し傷付く。
 家族と、護衛のニュッ以外の男に近付くのが苦手らしい。

('A`)「よう。相変わらず仲いいな」

l从・∀・*ノ!リ人「当然じゃ!」

 彼らに会ったときに家族仲の良さを褒めてやるのは、定番の挨拶と化しつつある。
 妹者が喜ぶのだ。

 彼らの両親が名前のある官職につき、息子である双子は部署こそ違うが一役人となった。
 エリート家族である。姉妹は部外者だが、式典前に様子を見に来たのだろう。
 姉妹もいくらかフォーマルな服を着て、頭には揃いの髪飾り。華やかだ。

235同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:32:28 ID:XtofEtDE0

ζ(゚ー゚*ζ「こんにちはドクオさん。外務長官おめでとうございます」

( ^ν^)「は、似合わね」

('A`)「俺が一番わかってんだよニュッ坊よお」

 鼻で笑ってくれたニュッの足を踏む。
 が、実際のところ、デレの方がよほど腹の内で笑っているだろう。

 表でにこにこしながら裏で散々馬鹿にされるくらいなら、
 昔のように最初から嘲りを見せてくれる方が、まだやりやすい。

('A`)「ナイトー様見なかったか」

ζ(゚、゚*ζ「首長さんですか? あ、もう首長じゃないか」

∬;´_ゝ`)「だ、大統領ね」

( ^ν^)「あっち」

('A`)「おう、サンキュ」

 またなと挨拶して、ニュッの指した方角へ歩いていく。
 こちらに進むのなら、たぶん渡り廊下だろう。

236同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:33:30 ID:XtofEtDE0



( ^ω^)

 予想通り、渡り廊下の真ん中にブーンが立っていた。

 一年前、彼はここで初めて己の意思を貫き、決意した。
 あのとき大勢と対立した場に、彼は今1人。

('A`)「旦那」

( ^ω^)「やあ、外務長官殿」

('A`)「それ何なんすかね……」

 会ったら文句の一つでも言おうかと思っていたが、
 実際に彼を前にすると、大して言葉が出てこなかった。

 何となく彼の隣に立ち、ぼけっと空中を眺める。

237同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:38:45 ID:XtofEtDE0

( ^ω^)「顔色が悪いお」

('A`)「緊張してんすよ」

( ^ω^)「みんなの前でスピーチしてもらうのに大丈夫かお?」

('A`)「あー駄目駄目無理無理」

 ますます顔色が悪くなるのを感じる。

 盛大な式の中心に立つこと自体への緊張のみではない。
 己が仕出かしたものを民に伏せ、その民に祝われることへの罪悪感。
 それが大きい。

(*^ω^)「僕なんてもう、パーティーで並ぶ料理が楽しみで楽しみで」

('A`)「はあ……あ、レモンパイ焼きましたよ」

(*^ω^)「おっおー」

 ブーンが体を揺らし、喜びの声をあげる。
 その姿があまりに間抜けで、会話を続けられなかったので数秒ほど間が出来た。

 そして、数秒前とは打って変わって真面目な顔のブーンが沈黙を破る。

238同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:39:35 ID:XtofEtDE0

( ^ω^)「……ここまで来たおー……」

('A`)「来ちまいましたねえ……」

 あと十数分後に、壇上へ立ち、民に認められるための式を開く。
 自分が──認められる。真実を隠したまま。

 左のふくらはぎを右足で掻く。裾が汚れるか、と慌てて足を下ろした。

( ^ω^)「……共犯だお」

 ブーンが横目にドクオを見て、呟く。
 ドクオも隣を一瞥し、何も言わずに頷いた。

239同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:41:27 ID:XtofEtDE0

( ^ω^)「頑張るお、ドクオ」

('A`)「そりゃ勿論。頑張りましょうや、大統領」

 フィレンクトは、監視をつけた上で中央──これからは「ニチャン国」となる──から追い出した。
 反省の色がない彼を、ここに置き続けるわけにはいかないからだ。

 しかしこれからはきっと、今まで以上にブーンの負担と敵が増えるだろう。
 守らねばならない。護衛としてではなく、部下として。

( ^ω^)「……スギウラさん、どこ行ったもんかおー」

('A`)「へえ? あ、ヴィプ国の人ですかい」

 不意に出てきた名前に、首を傾げる。

 以前、ブーンとツンが会ったという、ヴィプ国の元役人だ。
 中央へ向かっている道中だったという。

 それからしばらくして、隣の町で11人もの刺殺体が見付かる事件が起き、
 現場に居合わせた者の証言から、ロマネスクとその護衛の仕業であることが発覚した。
 一方的な殺戮というわけでもなかったらしいが、かといって、11人も民間人を殺して許容されるわけもない。

 その一報を耳にしたとき、ブーンはあからさまに落胆していた。
 ロマネスクと護衛を捕らえろと中央や近隣地の自警団へ通達を出したが、
 今に至るまで彼らは見付かっていない。

 そんな男の名前が、何故いま出るのだろう。
 視線を滑らせたドクオは、ブーンの手に何か握られているのを見付けた。

240同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:41:52 ID:XtofEtDE0

('A`)「旦那、それは?」

( ^ω^)「お? ──ああ、今朝届いたんだお」

 ひらり、ブーンが紙を翳す。
 封筒だ。宛名はブーン。
 ドクオが視認した頃合いに、彼は封筒を翻した。裏面に差出人の名前。

 スギウラ・ロマネスク。

 その名に、ドクオはぎょっと目を丸くした。





241同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:43:33 ID:XtofEtDE0



(-@∀@)「手紙ですか」

 暖かな日差しが射し込む部屋。
 手紙を読んでいるモナーに、受付が声をかけてきた。

( ´∀`)「超速達モナ」

 そう答えてモナーが揺らす紙は、
 組織が各地に置いている「連絡係」からの伝言に使われる便箋である。

 数日前に中央の連絡係が伝言を預かり、中継地の連絡係達が持てる限りの手段を駆使して
 このビルへ届けたという、特に重要な連絡事項の際に行われる「速達」による伝言だ。

 モナーは寂しげな、しかしすっきりしたような笑みを浮かべて便箋を畳む。

(-@∀@)「誰からです?」

( ´∀`)「クール」

(-@∀@)「はあ、何と?」

 予定通りなら彼女の雇い主はとっくに中央に着いているだろうし、
 その時点で契約は終了している筈だ。
 速達での伝言となると、契約の延長だろう──

 そんな風にあたりをつけているであろう受付に、モナーは便箋を手渡しながら答えた。

242同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:44:49 ID:XtofEtDE0

( ´∀`)「組織、抜けるらしいモナ」

(;-@∀@)「……ええっ!?」

 受付がひったくる勢いで受け取った便箋を広げる。

 便箋には、これといった理由も書かれず、ただ組織を辞めることと、モナー達への礼が書かれている。

(;-@∀@)「んな馬鹿な! ドクオといいクールといい、優秀な奴が抜けるのはほんとに痛いですよ!
      横堀もやっとクックルが見付けてきたのに勝手に休養させるし、プギャーも行方不明だし!
      人手が足りなくなってきてるの分かってます!?」

( ´∀`)「ひとまず新政府も決まったことだし、
       中央に行ってた護衛達もぼちぼち戻ってくるモナ。
       しばらくすれば世界も落ち着いてくる。そしたら今ほど火急の用にはならん筈モナ」

(;-@∀@)「でも!」

( ´∀`)「まあ、寂しくはなるけど。
       自立モナ。自立」

(;-@∀@)「……せめて直接挨拶くらい……」

 受付の言葉に、モナーが笑う。

 要は受付も寂しいのだ。
 我が子とまでは行かずとも、それに近い感覚を護衛達に抱いているので。

243同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:48:43 ID:XtofEtDE0

( ´∀`)「いいモナ。あいつに似合わない仕事をさせてた僕らなんかには、
       伝言一つあっただけでも充分なんだから」

 便箋を返してもらい、引き出しにしまって、そっと引き出しを閉じた。

 ラジオをつける。
 新政府に関するニュースが流れている。
 報じる声は、どこか明るい。

 窓越しに空を見上げて、モナーは笑みを深くした。


 精神的に大人になりきれていない彼女を派遣したことが、ずっと気掛かりだった。
 たくさん傷付き、そして誰かをたくさん傷付けただろう。


 あの子が「護衛」でなくても生きていける、平和な世界になればいい。





244同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:49:23 ID:XtofEtDE0





 式典の開会を告げる声を聞き届け、ロマネスクが踵を返した。
 私もそれに続く。

( ФωФ)「手紙は届いたであろうか」

川 ゚ -゚)「届いただろう」

 ロマネスクが言うのは、首長──大統領に宛てた、
 一年間の旅で集めた各地の重要事項をまとめた手紙のことだ。
 さすがに堂々と姿を見せるわけにはいかないので、手紙として送るしかなかった。

川 ゚ -゚)「伝言は届いただろうか」

( ФωФ)「知るか」

 私が言うのは、組織の脱退を宣言した伝言のことだ。
 隣町での事件が先生に伝わっているかは分からないが、
 さすがに合わせる顔がないので伝言で済ませた。

245同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:50:28 ID:XtofEtDE0

( ФωФ)「……この辺りには居られんな……」

川 ゚ -゚)「そうだな。さすがに隠れ続けるのは無理だ。なるべく遠くに行かないと」

 荷物を半分ずつ持って、とりあえず適当な方角へ歩いていく。
 中央に近い地域では、列車も馬車も避けた方がいい。

 しばらく歩かねばならないことを知り、ロマネスクが顔を顰めた。

( ФωФ)「どれほど歩けばいいのである……」

川 ゚ -゚)「何日かは掛かるな。まあテントも買ったし大丈夫だろ」

( ФωФ)「何日も掛かる時点で大丈夫ではない」

 ふ、と私の口から笑いが漏れる。
 ふん、とロマネスクが鼻を鳴らす。

246同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:51:25 ID:XtofEtDE0

川 ゚ -゚)「遠くに着いたら、また、堂々と移動できるさ。
     そしたらどこに行く?」

( ФωФ)「高級宿で風呂に入って美味い飯を食ってデカいベッドで寝る」

川 ゚ -゚)「じゃあそこそこ大きな街じゃないとなあ」

( ФωФ)「貴様はどこで何をしたい」

川 ゚ -゚)「そうだな、……お前と大体一緒だな。
     久しぶりに、夜から朝までぐっすり寝てみたいよ。
     護衛をやってたときは短時間睡眠でないといけなかったから」

( ФωФ)「ではデカくて安全な街だ。
       その後はどこに行くのである?」

川 ゚ -゚)「お前が決めればいい」

 一歩進むごとに、一言交わすごとに、背後の喧騒が離れていく。

 一つになろうとしている世界に背を向けて、進んでいく。
 それでも世界はどうしようもなく繋がっているから、
 結局、私達もまた一つになる世界の一員なのだ。

247同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:54:31 ID:XtofEtDE0


川 ゚ -゚)「……組織も抜けたし、護衛でもなくなったし、私はもうお前のものでもないな。
     有り金奪って一人旅ってのもいいか」

( ФωФ)「馬鹿め。貴様はまだレコードである、我輩のものだ」

川 ゚ -゚)「レコードって」

( ФωФ)「子守唄の」

川 ゚ー゚)「ばあか」

.

248同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:55:19 ID:XtofEtDE0



 ──旅をしよう。

 今までとどこか変わった世界で、
 今までと同じ世界で、
 2人で旅をして、生きて、大人になっていこう。

249同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:55:44 ID:XtofEtDE0





 この広すぎる世界の上では私達、まだちっぽけな子供なのだから。




.

250同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:56:11 ID:XtofEtDE0



10:こどもたち   終

251同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:56:54 ID:XtofEtDE0





川 ゚ -゚)子守旅のようです     完




.

252同志名無しさん:2015/12/06(日) 21:01:05 ID:LJ8ODxSM0
うおお超乙

253同志名無しさん:2015/12/06(日) 21:01:22 ID:XtofEtDE0
終わりです
読んでいただきありがとうございました
(´・ω・`)gatherさん、まとめてくれてありがとうございます。お世話になりました


番外編 >>32

最終話 >>107


質問・指摘等ありましたらお願いします

254同志名無しさん:2015/12/06(日) 21:02:23 ID:OlJ8ijGw0
人間臭いキャラクターたちの様々な生き方や成長のカタルシスが読んでいて最高に楽しかった。
乙。久しぶりに良作に出会えて幸せだったよ

255同志名無しさん:2015/12/06(日) 21:02:49 ID:qFb9B7gw0
終わってしまった……!
乙でした
この作品読めて良かった

結局ひとりの人が見えるのは一面にすぎなくて、世界はうんと複雑だって痛感させられた

256同志名無しさん:2015/12/06(日) 21:02:55 ID:2BiZMbP20
超乙
悪くない終わりだ

257同志名無しさん:2015/12/06(日) 21:08:16 ID:XtofEtDE0
割と痛いミスなんですが、
>>222

川 ; -;)「……っ、」

ってとこ、

川  - )「……っ、」

に脳内補完しといてください……
フライング泣きさせてもうた

258同志名無しさん:2015/12/06(日) 21:16:00 ID:dwfVXgx.0
乙乙
すげえ細かい事だけど>>171の待ったたって所以下略

259同志名無しさん:2015/12/06(日) 21:22:11 ID:XtofEtDE0
>>258
地の文でまで噛んでしまったか……

260同志名無しさん:2015/12/06(日) 22:25:14 ID:B7N4LAlQ0
乙! いろいろな人の話が見れるのもいいもんだな

261同志名無しさん:2015/12/06(日) 22:44:15 ID:W8QTOdQg0
超乙ってやつだぜえ
まさか2板でこんなおもろいのみれると思わなかった
めっちゃ乙
さらに乙

262同志名無しさん:2015/12/06(日) 23:09:54 ID:yHvPQZmg0
うおおおと超乙!!!!

子守、なるほど……!
ひとりひとりの物語が眈々と、色濃く描かれていてとても読み応えがあった!
終わって寂しいけどまた何回も読み返すのが楽しみだ!

予告スレの分も楽しみに待ってるぜ!

263同志名無しさん:2015/12/06(日) 23:21:12 ID:u4Lp46mw0
みんないいキャラしてるなー


264同志名無しさん:2015/12/07(月) 01:27:08 ID:L7jSlfqM0
乙!
本当に素晴らしい作品で感動した
ロネマスクが新政府の役人になってなかったのはこういう事情があったからなのね…

265同志名無しさん:2015/12/07(月) 01:38:15 ID:w2c0VwkA0
スレタイも子守り旅なんだよな
ブーンの存在がでかすぎてそっちに気が引かれてしまうけど、クーの話が主軸なんだよな

266同志名無しさん:2015/12/07(月) 03:25:27 ID:ahgHi/iA0
おつです!

267同志名無しさん:2015/12/07(月) 04:30:31 ID:0QYROlVs0
乙!
擬人化注意
( ФωФ)と川 ゚ -゚)
http://i.imgur.com/OL6eceh.jpg

268同志名無しさん:2015/12/07(月) 06:04:37 ID:01HsCnJ.0
乙乙

269同志名無しさん:2015/12/07(月) 07:58:53 ID:P0eVxMHw0
おつです
ぶっ通しで読んじまって寝不足だよコンニャロ
やっぱりプギャーはダメだったか……

270同志名無しさん:2015/12/07(月) 08:56:06 ID:7FIO1o1E0
>>267
ありがとうございます!!!!
クールすげえ美人だしロマネスクもめちゃくちゃ渋かっこいい
色使いめっちゃ好きです

271同志名無しさん:2015/12/07(月) 09:52:48 ID:N/HzTw7o0
このつー新鮮
すっげぇ可愛い雇いたい

272同志名無しさん:2015/12/07(月) 11:23:07 ID:y1DClgsE0
乙!!!
ゆるやかに始まってゆるやかに終わる良作だった

273同志名無しさん:2015/12/08(火) 04:09:17 ID:3YRj4Hq60
プギャーどんまい

274同志名無しさん:2015/12/08(火) 14:14:39 ID:5zpa7NPY0
一言だけ、本当にお疲れ様でした

275同志名無しさん:2015/12/08(火) 16:47:19 ID:Tm..9u6.0



この作品を読むことができて良かった……

276同志名無しさん:2015/12/08(火) 17:41:41 ID:HxEkLheE0
プギャーやまたんきとか切ない結末も多かったけど、更新楽しみだった
面白かった おつ
他の現行や、キノコの続編にこっそり期待してる

277同志名無しさん:2015/12/09(水) 13:28:57 ID:yG5OGB5Q0


終わってしまったー
寂しくなるなあ

278同志名無しさん:2016/01/11(月) 16:25:59 ID:.nZLEMqs0
なんだこれ最高に面白かった

279同志名無しさん:2016/01/14(木) 03:26:36 ID:wLZt3y5Q0
作者さん。ありがとうございます。
幸せな気分になりました。

280同志名無しさん:2016/02/09(火) 22:48:53 ID:fo8ZOYi60
大分たってるけども改めて乙

281同志名無しさん:2016/11/03(木) 17:36:31 ID:bl32UekE0
まさか今になって乙されるもは思うまい



282同志名無しさん:2018/07/13(金) 05:34:15 ID:Mz/2gf2Y0



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