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( ^ω^)優しい衛兵と冷たい王女のようですζ(゚ー゚*ζ 第二部
639
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:20:17 ID:cnF.ZKJk0
叫んで呼ぶ。
返事はない。
それでも続ける。
痛感した。
彼女の姿を見ているうちに、対抗することをおそれていた。
なんて、バカな。
俺はまた、本音を隠して。
( A )「起きろよ、なあ、起きてくれ」
640
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:21:20 ID:cnF.ZKJk0
涙がようやく頬を伝った。
(;A;)「ごめん、ごめんよ、クー。俺、お前のこと、わかったつもりでいたのに」
(;A;)「お前はずっと本音を明かしたかったんだ。そうなんだろ、クー」
クーは目を覚まさない。
呼吸はある。
だがとても小さい。
萎みつつある火種に急いで風を送り込むように、ドクオは声を掛け続けた。
声も、腕も、すべてが震える。
火炎はもう、目の前にある。
☆ ☆ ☆
641
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:22:15 ID:cnF.ZKJk0
最初に反応を示したのは女の子だった。
(〆 ヽ)
从´ヮ`从ト「!!」
と、手をばたつかせてブーンとツンに知らせたのである。
着陸してから、ドクオを陸から探し続けていた。
ブーン一人だったころよりも目は増えたが、依然として捜索は終わらず、森も燃えはじめていて長居はできない。
そう思っていた矢先の兆候に、興奮せざるを得なかった。
(;^ω^)「見つけたのかお!?」
ξ゚⊿゚)ξ「どこ?」
女の子は一点を指し示す。
火に包まれた木々の隙間に、広い野が見える。
642
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:22:58 ID:cnF.ZKJk0
遠くの木陰に、人が二人。
寄り添って座っているのがかすかに見えた。
(;^ω^)「ドクオさん!」
呼びかけて、駆け寄ろうとするが、荒れ狂う火柱に阻まれた。
(;^ω^)「くそお」
目の前にいるのに、近寄れない。
643
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:23:40 ID:cnF.ZKJk0
ξ;゚⊿゚)ξ「無理にはだめよ! ブーンも焼けちゃう」
(;^ω^)「でも、だって、あんなにそばに」
焦りが声色にあらわれてくる。
言い争っているうちに、景色がオレンジに染まりゆく。
すると、そのとき、女の子がブーンの足をつついてきた。
(〆 ヽ)
从つヮ`从ト スッ
手のひらを自分の額に当てて、ブーンに視線を向けてくる。
( ^ω^)「なんだお? いったい」
首を傾げる。
そこへ、ツンが「それって」と声をかけてきた。
644
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:24:33 ID:cnF.ZKJk0
ξ゚⊿゚)ξ「もしかして、契約するつもりなの?」
魔人の契約。
ブーンもはっと思いつく。
魔人は、人間と契約を交わすことで不思議な力を扱えるようになる。
その方法は簡単で、手のひらをじっとその額に当て続け、契約を宣言すること。
契約を交わす姿は見たことないが、知識として教わってきていた。
( ^ω^)「君なら、救えるのかお」
(〆 ヽ)
从つヮ`从ト コクコク
即答だった。
話せなくとも、言葉は十分に理解しているのだろう。
( ^ω^)「確か、手のひらを」
645
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:25:07 ID:cnF.ZKJk0
迷うことはない。
そうブーンは確信する。
手のひらを、女の子の額に。
炎の熱を差し引いても、熱っぽい肌の感触がある。
ブーンは一言、告げる。
( ^ω^)「あの人を助ける力になってくれお」
特別なことは何も起こらない。
それでも、女の子の身体にはもう、人智を越えた力が宿っている。
(〆 ヽ)
从´ヮ`从ト コクリ
一回首肯し、女の子が上空に諸手を上げた。
手のひらまで一杯に広げている。
まるでこの空をつかみ取ろうとするかのように、一心に伸ばして。
646
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:27:19 ID:cnF.ZKJk0
猛烈な風が吹き寄せてきた。
(;^ω^)「おわ!」
ξ;゚⊿゚)ξ「きゃっ」
髪の毛や服を抑え、目を閉じた。
あたりが暗くなる。
いつの間にか、空には雲が大量に押し寄せてきている。
ξ゚⊿゚)ξ「そんな・・・・・・もしかして、空を」
薄目を開けて、ツンが絶句する。
空の色は黒くなり、雲がぶつかりあう。
目に見えるほどの激しい衝突は、静電気を生み、そこかしこで閃光が走る。
647
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:29:29 ID:cnF.ZKJk0
(;^ω^)「これが不思議な力なのかお」
なりゆきを見ながら唖然とする。
人の手が全く届かない領域を、これほどまでに無理矢理動かしてしまうなんて。
ブーンの頬に、滴がひとつ。
それを皮切りに、地面を湿らしはじめた。
雨が降り始めたのだ。
ξ;゚⊿゚)ξ「天候を操るだなんて、まるで神様みたいじゃない」
雨音が強くなり、風に吹かれて森に注ぐ。
火は縮み、途切れ、消えていった。
あれほど暴れ回ったというのに、しぼむときは速い。
焼けただれていた木は、その暴力の後だけを残してたたずんでいた。
☆ ☆ ☆
648
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:30:33 ID:cnF.ZKJk0
こんなことがあるだろうか。
ドクオは目を疑った。
突然の雨。
足下まできていた火が消えた。
偶然にしてはできすぎている。
あれだけ身近に感じていた死が、いとも簡単に消えてしまうなんて、ありえるのか。
('A`)「クー」
と、声をかける。
雨に負けそうなほどちいさな声。
クーは眠っていた。
息はある、が、弱々しい。
傷口からの血は引ききらない。
649
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:31:29 ID:cnF.ZKJk0
縫合しなくてはならない。
そう思った矢先、視界の先で人をみた。
驚いて、顔を上げる。
( ^ω^)「ドクオさん!」
呆気にとられた。
なんでここに、と思う瞬間、別の悲鳴。
ξ゚⊿゚)ξ「クー!」
女の子が駆け寄ってくる。
ラスティアで、一度見かけたことのある女の子だ。
魔人のにおいがする女の子。
650
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:32:22 ID:cnF.ZKJk0
('A`)「どういうことだよ」
途方に暮れて、つぶやく。
答えてくれる者はいない。
それでも、彼らが救いにきたことはわかった。
('A`)
途端に、目頭が熱くなる。
こんなことがあっていいのか。
再度心に疑問をかける。
答えてくれるものはない。
651
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:33:08 ID:cnF.ZKJk0
女の子がクーにかけより、名前を呼びかけている。
知り合いなのだろうか。親しげで、本気で悲しんでいる。
その姿を横目に、ドクオはブーンと向かい合った。
('A`)「ブーン、どうして」
( ^ω^)「助けにきましたお。みんなが、ドクオさんのことを心配していたから」
そうか、とつぶやく。
温かいものが胸を埋めた。
そして、止めどない悔いも。
('A`)
( A )
652
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:33:57 ID:cnF.ZKJk0
口が震える。
身体の奥が悩んでいる。
口を開けば、嗚咽にまみれそうだ。
崩れ落ちそうになるのを賢明にたえ、
( A )「ブーン、頼む」
と続ける。
振り絞るように、頭を下げ、言う。
(;A;)「こいつを、助けてやってくれ」
それがドクオの、精一杯の本音だった。
653
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:40:17 ID:cnF.ZKJk0
.
――第十四話 戦士ドクオと魔女クー 終わり――
ED「星の在処」
https://www.youtube.com/watch?v=MMj0rFTybQ8
――第十五話 故郷と未踏 へ続く――
.
654
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:42:05 ID:cnF.ZKJk0
今日はここまで。
それでは。
655
:
同志名無しさん
:2015/01/25(日) 00:27:46 ID:NR5PKu8Q0
乙乙
続きが楽しみです
656
:
同志名無しさん
:2015/01/25(日) 00:53:15 ID:NKxvDWtM0
乙
657
:
同志名無しさん
:2015/01/25(日) 12:34:50 ID:7RKv5cVk0
乙
クーとドクオいいなあ
658
:
同志名無しさん
:2015/01/25(日) 14:18:00 ID:ttNTTy2c0
最近更新が早くて嬉しいおつ
659
:
同志名無しさん
:2015/02/02(月) 17:42:22 ID:FBhYnZx2O
来てたのか乙
一回の文量が多くて読み応えあっていいな
660
:
同志名無しさん
:2015/02/16(月) 16:24:54 ID:lFF0o1BQ0
乙乙
661
:
同志名無しさん
:2015/03/20(金) 05:47:37 ID:0ZrNMx1Y0
乙
662
:
同志名無しさん
:2015/03/30(月) 04:17:41 ID:pM3jeVeg0
続きまだかなー
663
:
同志名無しさん
:2015/04/08(水) 21:55:00 ID:x9X9K47Q0
.
――第十五話――
―― 故郷と未踏 ――
.
664
:
同志名無しさん
:2015/04/08(水) 21:55:49 ID:x9X9K47Q0
小鳥の声が耳を擦った。
いつの間にか、研究室に光が満ちている。
ぬくもりが身体に伝わってくる。
朝はもうやってきていた。
ハインは動くのをやめ、天窓を仰いだ。
从 ゚∀从「……夜が明けちまった」
呟いて、そこでようやく自分の声が掠れていることにようやく気付いた。
戦い始めたのはまだ夜だった。
怒りに任せて夢中に戦い、意識していないうちに時間が経ってしまっていた。
自分が衰えたのか。
それとも相手が強くなったのか。
从 ゚∀从「邪魔してくれたな」
665
:
同志名無しさん
:2015/04/08(水) 21:56:45 ID:x9X9K47Q0
先刻までの戦いの相手、自分の弟へ、ハインは視線を向けた。
(メ;;;∀;;;)
息はしている。
だがとても起き上がれそうにない。
傷だらけの身体で、仰向けに寝そべりながら、胸だけを上下させている。
動けないのは無理もないことだ。
時間にしておよそ四時間、彼は一心にハインの全力の攻撃を受け続けたのだから。
女帝というあだ名に名前負けすることなく、ハインの戦闘能力はずば抜けていた。
だからこそ、金の鎧などという大層なものも操ることができた。
この研究室での戦いも、決して拮抗していたわけではない。
終始ハインが、その圧倒的な力でジョルジュを追い込み続けていた。
四時間という長丁場になってしまったのはむしろジョルジュの努力の賜物だった。
徹底して防戦を決め込むジョルジュのスタイルに、ハインがどうしても決定打を編み出せなかったのだ。
逆に言えば、それこそがジョルジュの狙いだったのだろう。
時間を稼ぐ。
その隙に飛行機を外へと逃がす。
666
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 21:57:49 ID:x9X9K47Q0
飛行機が飛び去るのはハインももちろん見えていた。
いくら戦いに熱中していたとはいえ、あんなに大きな機械が出ていくのを見逃せるわけはない。
それでも後を追うことができなかったのは、ジョルジュの妨害があったからだ。
少しでも飛行機に迫ろうとすれば俊敏に剣が振るわれ、近づくことを許さない。
絶対に通さないという気迫が、嫌というほど伝わってくる戦い方だった。
从 ∀从「ふん」
ハインは内心、喜んでいた。
もっとずっと、ジョルジュのことを弱い人間だと思っていた。
戦いだって、簡単に蹴散らせると思っていた。
それなのに、事実自分は足止められていた。
認めないわけにもいかない。
667
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 21:59:18 ID:x9X9K47Q0
かつてジョルジュは、家出をたくらんだことがあった。
城での生活の圧迫感に耐えられず、逃げ出そうとしたのである。
その企みは失敗に終わったが、このときの事情を汲まれて、ジョルジュはラスティア国に暮らす親戚の家に預けられた。
ジョルジュとしては自分の願いがかなったといったところだったのだろう。
その顔は笑みに満ちていた。
しかし、ハインにとってみれば、それは『逃げ』に他ならなかった。
城の生活が窮屈なのは当たり前だ。
王族である以上、それを甘受して生きていくしか方法は無い。
そう信じて、従順に教えを守って生きてきていた。
それなのに、痺れを切らして勝手に行動した弟が、わがままを通しただけで望む自由を手に入れた。
憤らないわけがなかった。
ハインの中に、弟を誹り蔑む気持ちが生まれたのはこのころからだ。
お城に連れ帰ってきてからも、彼を下に見る気持ちは同じだった。
668
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:00:19 ID:x9X9K47Q0
それが、今回の戦いで、その気持ちが初めて揺らいだ。
从 ゚∀从「……」
未だ寝そべっているジョルジュを見下ろして、それから顔を背けた。
从 ゚∀从「いいつらになったじゃねえか」
自然と笑みが込み上げてくる。
戦えないと思っていた男が、戦えるようになって帰ってきた。
これほど嬉しいことはない。
足音を高らかに響かせ、研究室の出口へと歩んでいく。
669
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:01:01 ID:x9X9K47Q0
そのとき、背後で音がした。
すすり泣く人の声。
ひどく小さく、弱々しく、だけど確かに泣いている。
从 ∀从
言葉はいらなかった。
足を止める必要もない。
ただ胸に確かな満足感だけを抱いて。
ハインは静かにその場を後にした。
☆ ☆ ☆
670
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:01:48 ID:x9X9K47Q0
308年12月23日
アイトネ山脈の西方一帯に広がった火災は、突然の降雨の助けもあり、鎮静化に成功した。
テーベ国軍の負傷者は300名中32名。
うち、軽傷が25名、重傷が7名、死亡者は0名。
計画的大規模火災という予期せぬ事態に対し、被害が比較的軽微で済んだことは幸運であった。
山村にいた魔人たちのほとんどが消息不明。
山を伝ってマルティア国ラスティア領に亡命したものと思われる。
まるで手がかりを残さない手口から、何者かの手助けもあったものとの推測もあるが、証拠はない。
マルティアの関所からは有力な情報は得られておらず、詳細については以前として調査中。
5名の魔人が捕虜となったが、いずれも事件の経緯を黙して語らず、火災の首謀者も不明のまま。
いくつかの目撃情報等が寄せられているが、いずれも証拠能力に乏しく、保留とせざるをえない。
アイトネ山脈の西方で展開されていた国営石炭採掘場では、
当初より被害が懸念されていたが、軍の調査により石炭資源の損害は微小と判明。
テーベ国政府技術開発部は309年の3月を目途に採掘場の復活を目指すと発表。
復旧について、国の全域にわたり民間技術者の協力を求めることを決定した。
国民感情を反映し、テーベ国は魔人の他国への移送を決断。
結果、国からすべての魔人がいなくなった。
671
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:02:45 ID:x9X9K47Q0
☆ ☆ ☆
山の中で戦っていた魔人たちは、兵士たちを散々に襲い、脅かせた後、煙と共に消えてしまった。
もとより勝てるとも思ていなかったのだろう。
人間への反抗を見せつけることが彼らの主目的であったようだ。
国軍は残りの軍隊を後から大量に導入し、山の中をくまなく探らせた。
魔人が残っていたらひとたまりもないほどの人員だ。
指揮にはハインも参加し、一触即発の雰囲気が流れていたが、一度も戦闘が行われることは無かった。
石炭資源の被害は予想されていたよりも少なかったが、それでも責任追及は発生し、ハインが蒙ることに決まった。
避難や誹りを受けながら、ハインはまず第一に臨時の集会を開き、頭を下げた。
更迭の声もささやかれたが、ハインが反省と対策への意気込みを叫び、引き続き高い支持率を保ち続けた。
その後、ハインは作戦系統を指揮していた国軍幹部を解雇し、反省点の分析も進めた。
ハインの眠れない日々は続いている。
それはジョルジュについても同じであった。
視界の半分が潰れるほどの大怪我にもかかわらず、民衆に要望され、あるいはハインに尻を蹴られつつ、無理やりに会議に出席した。
672
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:03:29 ID:x9X9K47Q0
アイトネ山脈の火災から一週間後の朝早く。
イオカの街に、一艘の連絡船が辿り着いた。
テーベ国とイオカの港を繋ぐ船のうちのひとつだ。
潮風に晒された石造りの家々。
古くより堅牢な貿易港として栄えた街並み。
その中を駆け抜けていく一団があった。
先頭を走る男が、やがてひとつの家に辿り着き、その玄関を一心に叩きつける。
力が強くて、危険なふうにも捉えられかねない威力で、実際中から出てきた顔には不安の色が浮かんでいた。
こいつは何者なのだろう、という顔で。
lw´‐ _‐ノv「どちらさんですか」
673
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:04:39 ID:x9X9K47Q0
少女のことは知らなかった。
なぜ彼女がその家にいるのかも知らなかった。
だけど、それは気にすることなく、男はまくしたてた。
(;^^ω)「妻に会いに来たホマ! 会わせろホマ!」
lw´‐ _‐ノv「は? なんだお前」
( ^^ω)「いいからどくホマ!」
lw´‐ _‐ノv「うわ、こわい」
扉を挟んでひと悶着。
少女、シュールからすれば、その人が同居人の夫だとはどうにも信じられず、
無理やり家に入ろうとする怪しい男に見えた。
マルタスニムも慌てていたものだから、説明もままならず、
誤解はぶつかりあい、ドアを押し返しあってしまっていた。
674
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:05:42 ID:x9X9K47Q0
と、そこへ一声。
「シュール、久しぶり」
かけられた声に、少女が振り向く。
バランスを崩した扉が翻って、マルタスニムが「おわあ」と情けない声を発する。
だけどそれをものともせずに
( ^^ω)「今ホマ!」
と、室内へ駆け込んでいった。
もうシュールは扉を閉めようとはしなかった。
目は来客に注がれている。
675
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:06:19 ID:x9X9K47Q0
lw´‐ _‐ノv「……ああ、元気だったか」
思わず口元がにやりとめくれる。
相手もまた、然り。
ノパ⊿゚)「もちろんさ」
ヒートは親指を立てて大きく頷いた。
そしてそのまま、顔を後ろに向けていく。
ノパ⊿゚)「な、そうだろ?」
後ろにいた男は、あまり動じず、静かに応えた。
('A`)「……まあ」
ヒート、ドクオ、マルタスニム。
三人がイオカの町へくることになったのは、マルタスニムにブーンとの約束を果たさせるため。
そして、かつての自分たちの仲間、シュールと出会うためだった。
☆ ☆ ☆
676
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:07:22 ID:x9X9K47Q0
lw´‐ _‐ノv「濃いな」
一通りの出来事を聞いたシュールは、ハーブティーを啜りながら、そう呟いた。
ノハ‐⊿‐)「ひと月くらいのことなんだけどね、ほんと、いろんなことがあった」
しみじみと溜息をつくヒートの手の中で、空っぽのティーカップがくるくる回されていた。
ノパ⊿゚)「姉さんのことは話したことはあったよね」
lw´‐ _‐ノv「昔、ちょっとだけな。ドクオと仲が良かったけど、どこかに行ってしまった人だとか」
ノパ⊿゚)「うん。その人が、魔人の中にいたらしいんだ」
lw;´‐ _‐ノv「なっなんで」
ノパ⊿゚)「事情はよく知らない。とにかくドクオは傭兵として魔人の討伐に参加し、姉さんと戦った」
lw;´‐ _‐ノv「……」
677
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:08:14 ID:x9X9K47Q0
何を言っていいものだかわからない。
シュールの表情の崩れが、その当惑を表していた。
lw´‐ _‐ノv「落ち込んでいるだろうか」
ノパ⊿゚)「かなり、ね」
ヒートの視線は、自然と下へ向けられる。
戦いが終わってから、ドクオはますます口をきいてくれなくなった。
傭兵団の帰還時に駆け寄ったときも反応は薄く、出来事を尋ねても生返事ばかりでまともな答えは返ってこない。
ドクオは遠いところを見ていた。ヒートが一緒にいるときも、心はずっと、あの火に燃えるアイトネ山脈の中にいるかのように。
lw´‐ _‐ノv「ドクオはどこへ行ったんだ」
ノパ⊿゚)「外。海を見てるって言ってたよ」
678
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:09:14 ID:x9X9K47Q0
lw´‐ _‐ノv「一人で行かせて大丈夫なのか」
ノパ⊿゚)「どういうこと?」
lw´‐ _‐ノv「落ち込みすぎて、自殺でも計るかもしれない」
ヒートの指が止まり、ティーカップは制止する。口元に、ふっと笑みが浮かんだ。
ノパ⊿゚)「それはない」
lw´‐ _‐ノv「ん、どうしてだ」
ノパ⊿゚)「ドクオは細いし、なよなよした見た目をしているけど、あれで結構熱があるのさ。脳筋と言ってもいい。
悩んでいるときはそれを忘れようと体を動かす。そういう奴だ。間違っても自分から海に飛び込んで死のうだなんて思わない」
lw´‐ _‐ノv「よくご存じで」
囃し立てるシュールの言葉を受け、ヒートは首を横に振った。
679
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:10:16 ID:x9X9K47Q0
ノパ⊿゚)「もちろん全部を知っているわけじゃないよ。
あいつはだいたい人に自分の話をしようとしないから、推測してやるしかないんだ」
lw´‐ _‐ノv「なに、そんなに気を遣ってやったのか」
ノパ⊿゚)「まあね」
lw´‐ _‐ノv「ほほー、それはご苦労様なことで」
ノハ^⊿^)「昔馴染みだから、いいんだよ」
話が途絶えた。
ヒートにとって、ドクオもクーも同じくらい親しい人だ。
二人は仲が良くて、そしてお互いにわからない部分があった。
昔はそのわからなさに翻弄された。
きっと今も、かんぺきにわかっているとは言えない。
誰にもわかってもらおうとしないのが、彼ら二人の共通点だった。
680
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:11:10 ID:x9X9K47Q0
あの火災の前日、行ってしまうドクオを見送った後で。
三匹のカエルの店内で、カウンターに座りながら、ヒートはそのことばかりを考えていた。
自分にいったい何ができたのか。
結論を言えば、何もできなかった。
自分ではない、目新しい友人のブーンに頼み込んだだけだ。
藁にも縋る思いで、ただの知り合いである彼にずいぶんな重荷を背負わせてしまった。
それから、ブーンは戻ってきていない。
テーベの城下町にいた彼は、その日の晩のうちに飛行機で移動してしまった。
今どこにいるのかは定かではない。
が、ドクオは彼に会ったという。
彼は空飛ぶ機械を操り、負傷したクーを連れて大空を飛んでいった。
後に残ったドクオは、火を眺めてじっとし続け、やがて軍の仲間に発見され、麓町の医療施設に運ばれた。
681
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:12:22 ID:x9X9K47Q0
lw´‐ _‐ノv「元気なのか、ドクオは」
ノパ⊿゚)「息はしてるよ」
窓の外から、汽笛の音が聞こえてきた。
他国を往来する巡回船が帰ってきたのだ。
シュールもヒートも、同時に外を見た。
見えたところで何をするわけでもないのに、首は勝手に回ってしまった。
外は灰色がかって見えた。
空には広く薄く雲が張っている。
もう少したまれば雨となるだろう。
今は薄明りが主としてこの世界を照らしている。
682
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:20:16 ID:x9X9K47Q0
いま、ドクオは何をしているだろう。
何を考えているのだろう。
答えは返ってこない。
たとえ目の前にいても返ってこない。
ずっとそのことをヒートは苦痛に感じていた。
ブーンに頼みこんだときは、ちょうどそのもどかしさがピークに達していた。
だけど、今は少し違うことを考えている。
きっかけは、戦いが終わって、戻ってきたドクオが憔悴しきっているのを見たときだ。
ヒートは何も言わず、急いでドクオをベッドに寝かしつけた。
水を欲しがればすぐに用意し、熱を訴えれば濡らした手拭いを駆けてやり、話がしたいと言いだせばじっと傍で聞いてあげた。
何も問いかけないで見守ることもありだ。
そんなことをヒートは思い始めている。
今にも頽れそうな人を前に、言葉をかける必要はないだろう。
ドクオはあまり話さないが、それでもヒートにとっては大切な仲間であることに変わりはない。
だったらそれで十分じゃないか。
683
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:20:44 ID:x9X9K47Q0
部屋の扉がノックされた。
マルタスニムと、ヒートの知らない男の人が立っている。
( ^^ω)「遅くなったけど、妻が本当にお世話になったホマ」
マルタスニムが頭を下げる。
lw´‐ _‐ノv「お礼ならそこのミルナ先生にも言ってあげなよ。
私は料理ばかり作っていた。それ以外の介護は全部ミルナ先生がやってくれたんだ」
( ゚д゚ )「恐縮です」
背が高く、目力の強い男の人は、かすかに照れているようだった。
( ゚д゚ )「しかしシュールさんの料理だって称賛に値するものだったよ。
病人に消化のしやすい柔らかさ、十分な栄養、そして味付け。僕が食べても美味しいと思えたくらいだ。きっと、喜んでもらえたろう」
lw*´‐ _‐ノv「はは、それしか取り柄がないのでな」
跳ねるような口調が、満更でもない気持ちを如実に物語っていた。
684
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:21:07 ID:x9X9K47Q0
( ^^ω)「今、妻は起きていますホマ。今お昼を少し過ぎた時刻。もしよかったら、その自慢の料理をふるまってもらえないホマか?」
マルタスニムは目を大きく開いて、シュールを見つめた。
lw´‐ _‐ノv「がってん。このうちの食材もだいたい把握しているぞ」
( ゚д゚ )「ここにいるのも長いからね」
(;^^ω)「いやはや、すいませんホマ」
lw´‐ _‐ノv「いいって」
ひとしきり笑いが起こり、それが収まってから、ヒートは静かに提案した。
ノパ⊿゚)「ドクオ、呼んでくるね」
☆ ☆ ☆
685
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:21:46 ID:x9X9K47Q0
潮の香り漂うイオカの港の桟橋に、彼は一人たたずんでいた。
目の前にあるのはカリストの海。
テーベ、旧ラスティア国の南側に広がる海だ。
この海を越えていった先には別の陸地がある。
聞いたところによる、このカリストの海は内海であり、東や西南にまっすぐいけば海峡があって、さらに広大な海へと続いているのだという。
地球が丸く、世界が途方もなく広いことは知っていた。
だがしかし、丸さのわかるところを見たことはない。
実感のない知識など、本当に知っているとは言えない。
魔人が現れたての頃は、それこそ天変地異が起こり、世界の様相が一変してしまったと言い伝えられている。
その後、魔人たちは人間の従者となろうとした。
あとは、これを積極的に従わせるもの、要らないとして森へ忌避するもの、様々な対応が生まれた。
('A`)(だからだろうか、この世界はどこか歪だ)
686
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:22:30 ID:x9X9K47Q0
それはかつて、友と語り合ったことだ。
見た目も、中身も、人のありようも、どこか、この世界は変わっている。
その原因は何か。どうして魔人は来たのか。彼らは何をしたいのか。
話し合いはいつも終わらなかった。
「ドクオ」
考え事をしていると、声を掛けられた。
振り向くと、見知った赤毛が潮風に揺れていた。
ノパ⊿゚)「いくよ、ドクオ。お昼だよ」
ヒートはドクオの傍に寄り添い、避ける間もなく、その手をつかんでくる。
('A`)「……?」
687
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:23:29 ID:x9X9K47Q0
すぐに連れていかれるものかと思ったが、そうではなかった。
ノパ⊿゚) ジッ
ヒートはドクオの腕を握ったまま、じっと顔を見つめてきていた。
('A`)「どうしたんだよ」
ノパ⊿゚)「……聞かせて」
ノパ⊿゚)「姉さんは生きているんだよね?」
ずっと、ヒートはそれを聞きたかった。
森の中でクーと出会ったことまではドクオも話してくれたのだが、
どうして怪我をしたのか、どうしてブーンが連れて行ったのか、詳しい事情までは何も聞かされていなかった。
688
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:24:48 ID:x9X9K47Q0
貨物船はひっきりなしに港へと押し寄せてくる。
近くで見える船は大きく、速く、人の力では止められそうにない。
('A`)「死にかけている」
かき消されるかされないか、ぎりぎりの音量だった。
('A`)「ひどい怪我を負わせてしまった。他でもない、この俺の手で」
そう言いながら、ドクオは自らの手のひらに視線を落とし、しばらくじっと項垂れていた。
数日前、その手のひらが彼女の血で染まっていたことを思い浮かべながら。
ノパ⊿゚)「ドクオの、手?」
('A`)「クーは魔人の中にいた。だから、俺の敵として現れたんだ」
ヒートの中で、断片的だった情報が組み合わさっていく。
ドクオが落ち込んでいた理由がようやくわかる。
自分の戦いが、自分の知っている者を苦しめているなんて、嫌だし、知らない方がましだ。
689
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:26:39 ID:x9X9K47Q0
穏やかな漣の音がする。
大自然の止まることのない営みが、このときばかりは嫌らしく耳を打った。
('A`)「そのあと、空から機械が降ってきた」
前振りもなくドクオが話し始めた。
('A`)「何事かと思ってはいたんだ。大きな音もしたから。
そしたらしばらくして、火の海の向こう側からブーンがやってきた」
('A`)「あいつは不思議な奴だ。俺はあいつを見た途端、戦う気持ちがどっかいっちまった」
「死を受け入れていたつもりだったのに」と、ドクオはほんの少し口元をゆがめ、ぽつりとこぼす。
('A`)「どうしてもクーを助けたくなって、俺はあいつにそれを頼んだんだ」
690
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:27:55 ID:x9X9K47Q0
ノパ⊿゚)「……そんなことが」
ブーンは本当に約束を守っていた。
本当にドクオを見つけ、そのそばにより、戦いを止めてくれた。
その結果、クーは瀕死ながらも生き延びることができた。
ノパ⊿゚)「そうか」
ノハ;⊿;)「姉さん、生きてるんだな」
また警笛の音がする。それだけ危ないということだ。
港に泊まろうとするとき、もっとも注意が必要となるのだろう。
そうでなければ、船はどこかにぶつかって破損し、敢え無く沈没してしまう。
691
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:29:04 ID:x9X9K47Q0
ノハ;⊿;)「今度はあたしも会いたい」
ヒートは海の向こうを見つめた。
水平線の彼方は、冬の灰色の空とが溶け合っている。
その境目がどこにあるのか、見極めるのはとても難しい。
('A`)「……生きていたら」
ドクオはつぶやく。
くぎを刺すつもりだったが、言い切らずに、そこで言葉が終わる。
ノハ;⊿;)「生きるさ。そうに決まってる。そう信じ切ってやる」
('A`)「信じる?」
ノハ;⊿;)「そうだよ。信じてもらえなくなったら、それはきっと死ぬよりつらいんだ」
692
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:29:40 ID:x9X9K47Q0
('A`)「……」
ドクオもまた、海を見た。
絶えない波。音。黒ずんだり白んだりを繰り返す水面。
太古の時代、海から大勢の生き物が生まれ、活動し、仲間を作り、やがて止まって、土と海へと還っていった。
これから先の百年の間に、自分だって必ずいなくなる。
自分という生き物は、水の一滴、土の一塊、そういうもののひとつの変遷に過ぎない。
何度も何度も、同じことが繰り返される。
戦争の無い時代が終わりを迎えつつあることをみなが感じ始めている。
クーは何を想っているだろう。
('A`)「……あ」
そこまで考え至ったとき、ドクオは気づいた。
693
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:30:14 ID:x9X9K47Q0
クーに何かを想っていてほしい。
そのために生きていてほしい。
そしていつか、想っていることをすべて話してほしい。
( A )
クーの血潮は、まだ流れているはずだと信じたい。
彼女が土にも水にもならず、人としてこの世にいてほしい。
諦めたくない。
諦めてたまるか。
694
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:30:48 ID:x9X9K47Q0
( A )「生きていろよ、クー」
( A )「いつか必ず、会いに行くから」
ヒートの視線を感じたが、ドクオは構わなかった。
胸を反らし、息を吸い込み、空を漂う数多のカモメたちめがけて、
( A )「――――ッ」
大声で叫んだ。
ノハ;゚⊿゚)「ドクオ!?」
細身のそのすべてを震わせて、海老のように背を曲げて、ドクオは目を閉じ、叫び続けた。
止めようにも、まるでヒートの方を見てくれない。
695
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:32:00 ID:x9X9K47Q0
街の方にだって聞かれているはずだ。
騒音だとして文句を言われるかもしれない。
そんな無茶を、まさかドクオがするなんて思いもよらなかった。
感情を露わにすることがとても苦手な奴なのに。
(; A )
ノパ⊿゚)「…………」
獣のようだ、とヒートは思った。
獰猛な牙を持つ野生の獣が、荒れた山の岩場に上り、空を見上げて立てる遠吠え。
それが今のドクオの声。
696
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:32:22 ID:x9X9K47Q0
ノパ⊿゚)
ノハ‐⊿‐)
叫び声が止まった。
ノハ‐⊿‐)「お疲れ」
(; A )ゼエ、ゼエ
言葉を発せないまま、ドクオは頷き、そしてその場に座った。
(; A )「くそ、体力が落ちてやがる」
舌打ちし、立ち上がるが、再び叫びだすことはできなかった。
697
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:33:17 ID:x9X9K47Q0
ノパ⊿゚)「じゃあ、ご飯だ。あの家に戻るぞ」
ヒートは両手でドクオの腕をつかんだ。
(;'A`)「え?」
ノパ⊿゚)「身体を鍛えるのにも、まずは体力だ」
(;'A`)「それはいいが、急になんて」
ノパ⊿゚)「織り込み済みだよ。みんなが待っているんだ。行こう」
ぐいぐいと、ドクオを無理やり引っ張っていく。
獣になろうとする彼を宥めたくて。
すぐそばに自分がいて、仲間がいるってことを教えてあげたくて。
必死に。
☆ ☆ ☆
698
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:34:06 ID:x9X9K47Q0
とある西方の深い森の中。
( ∵) ピョコ
ピョコ ( ∴)
小さなふたつの影が、ひょっこり草むらから出てきた。
( ∵) デタノハ オトガ シタカラー
オトガ シタカラ デテキター ( ∴)
( ∵) ゲンインヲ サガスノハ キニナルカラー
キニナルカラ ゲンインヲ サガスー ( ∴)
699
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:34:47 ID:x9X9K47Q0
ふたつのものはとても小さく、丸く、そして無機質な顔をしていた。
目も口もただの点で、何かを食べることもできない。
草むらから、もうひとつ、今度は2メートルはあるかという巨大な影が現れた。
先に出ていたふたつに向かって、「こら」と呼びかける。
その大きな者は、人の言葉を使いこなしていた。
∩ ∩
( ´∀`)「勝手に出歩いちゃ危ないモナ。
常に危険がそばにいることを意識するモナ」
熊のようなその巨体に、丸い小さな獣耳がついている。
700
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:36:14 ID:x9X9K47Q0
( ∵) イシキー
イシキー ( ∴)
∩ ∩
( ´∀`)「そう、意識モナ」
草木を踏み分け、獣道を抜けていき、開けた空間が見えてきた。
冬で木々が枯れていたからまだ見通しがいい。
落ちてきたものはそこに会った。
金属でできたフォルムに、長い翼。ひしゃげたプロペラ。燃料の鼻をつく匂い。
( ∵) コレハ ナニー
ナニ コレー ( ∴)
∩ ∩
( ´∀`)「おそらく人間の発明品モナ」
男はそういうと、機体に手を触れた。
じんわりと温かさが手のひらに広がった。
701
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:37:08 ID:x9X9K47Q0
∩ ∩
( ´∀`)「仕組みはシンプルモナ。エネルギー効率に難ありモナ」
男は機体を眺め回し、やがて操縦席の傍にたどり着いた。
そこには、人が寝そべっていた。
機体の中にいたものが、落下の衝撃で飛び出してしまったのだろう。
全員意識は失っているが、怪我をしている様子もない。
軽い脳震盪でも起こしているようだ。
( ∵) オチタノ ドウシテー
∩ ∩
( ´∀`)「機械の使い過ぎモナ。プロペラも機体もぼろぼろモナ。そうとう無理をしたモナね」
ツカイスギ ムリ オチタッター ( ∴)
∩ ∩
( ´∀`)「うんうん、そうモナ」
702
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:38:05 ID:x9X9K47Q0
男は落ちている人にまず手を触れた。
小柄で、服の肌蹴た中肉中背のごく普通の少年。
深手を負った長髪の少女。
( ω )......
川 - )......
∩ ∩
( ´∀`)「人間モナ」
( ∵) ニンゲン!
ニンゲン! ( ∴)
∩ ∩
( ´∀`)「こんなところに紛れてくるなんて変わっているモナ。ここは魔人しかいないのに」
モナーはブーンの腰のあたりを両手でつかむと、肩にしょい込んだ。
703
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:38:43 ID:x9X9K47Q0
( ∵) オモクナイ?
∩ ∩
( ´∀`)「平気モナ」
( ∴) ドウシテ タスケル
∩ ∩
( ´∀`)「それは決まり事モナ」
ブーンを乗せる位置を微調整し、モナーは言った。
∩ ∩
( ´∀`)「人間は僕たちのマスターモナ。だから歓迎するんだモナ。わかったモナか?」
( ∵) ワカッター
ワカッター ( ∴)
ふたりの丸い小人はくるくるとモナーを取り巻いた。
モナーは重症のクーを見て、肩には乗せず、機械の剥がれた装甲から橇を作って台車とした。
多少の揺れは覚悟してもらいたい、とこっそり言う。
704
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:39:33 ID:x9X9K47Q0
∩ ∩
( ´∀`)「さて、と」
男の視線は、別の倒れている人に注がれた。
(〆 ヽ)
从 ヮ 从ト......
ξ ⊿ )ξ......
やはり、眠ってしまっている。
∩ ∩
( ´∀`)「丸っこい耳の子はあの探し人モナ。
早く連れていって安心させてあげるといいモナ」
∩ ∩
( ´∀`)「くるくる髪のこの子はあそこへ運ばなくちゃいけないモナ。
ビコーズ、ゼアフォー。手伝ってくれモナ」
( ∵) ワカッター
ワカッター ( ∴)
小さい彼らは、その風貌に似あわない力強さでツンと女の子を抱え上げた。
705
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:40:08 ID:x9X9K47Q0
∩ ∩
( ´∀`)「日が暮れる前につけばいいモナ」
大きな男の名はモナー。
( ∵) ヒガ クレルト アブナイカラー
アブナイカラ ヒガ クレルマエニー ( ∴)
ふたりの小さい者たちの名は、ビコーズ、そしてゼアフォー。
三人は魔人である。
706
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:40:43 ID:x9X9K47Q0
目指すのは、西方に広がるエウロパの森、魔人の里。
( ω ) ウ......ン...
人間たちのほとんどが忘れ去ってしまった森。
その奥地を目指し、彼らはゆっくりと歩き始めた。
.
707
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:41:32 ID:x9X9K47Q0
.
第十五話 故郷と未踏 終わり
第二部 完
.
708
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:42:16 ID:x9X9K47Q0
.
────────── 予告 ─────────
.
709
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:43:01 ID:x9X9K47Q0
.
生きているということ
いま生きているということ
.
710
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:43:55 ID:x9X9K47Q0
.
ξ;⊿;)ξ「
泣けるということ
ξ^ー^)ξ「……
笑えるということ
(#゚ω゚)「 ! !!
怒れるということ
(*^ω^)「 、 ……
自由ということ
.
711
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:44:44 ID:x9X9K47Q0
.
生きているということ
いま生きているということ
.
712
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:45:23 ID:x9X9K47Q0
.
(;A;)「 っ!
いま遠くで犬が吠えているということ
(´∀` )「 。
いま地球が廻っているということ
川 - )...
「 」( ∵)(∴ )「 」
いまどこかで産声があがるということ
713
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:46:11 ID:x9X9K47Q0
从#゚∀从「 !
d(゚∀゚ )「 、
いまどこかで兵士が傷つくということ
( ゚д゚ )「 ?
ノハ^⊿^)「 」
lw´‐ _‐ノv「………… 」
いまぶらんこが揺れているということ
ミセ*゚ー゚)リ (゚、゚トソン
つ ⊂
.
714
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:46:56 ID:x9X9K47Q0
.
( -∀-)
いまいまが過ぎていくということ
ζ(^ー^*ζ
.
715
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:47:40 ID:x9X9K47Q0
.
生きているということ
いま生きてるということ 。
鳥ははばたくということ .
海はとどろくということ . . ・
かたつむりははうということ 。
. _ ,.... -‐‐
. ,...- ' ゙゙
, '´ヽ ヽ _/
・ / j´ `'ー、_ j
. / /`´ !ノ
/ '!.j
. ,!'
.
716
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:48:24 ID:x9X9K47Q0
.
|:::: |
|:::: |
|:::: |
, , l::::: l
γヽ ゝ \ /:::: l
.... ヽ:::::\ \::::/:::: '
,{:::::\\:::::\/:::: ',
::::\:::::.\\/:::: ,
人は愛するということ
|:::: / /
Y:::: / /
}:::::::: / ./
ゝ,/:::: ノ /
ゝ、/ / /
/:::: / /
ゝ,;;;ノ j
ヽ:::: /
/:::: /
/:::: /
/:::: /
/:::: /
.
717
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:49:23 ID:x9X9K47Q0
.
「ツン、僕だって知りたいんだお」
「この世界の広さを」
「だから」
「うん」
「わかってるよ」
「いこっか、ブーン」
.
718
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:50:14 ID:x9X9K47Q0
.
あなたの手のぬくみ
いのちということ
――――谷川俊太郎 「生きる」
.
719
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:51:06 ID:x9X9K47Q0
.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
『( ^ω^)優しい衛兵と冷たい王女のようですζ(゚ー゚*ζ』
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
☆
第三部
旅人と衛兵の章
☆
.
720
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:52:09 ID:x9X9K47Q0
.
────────── 続く ─────────
.
721
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/04/08(水) 22:52:41 ID:x9X9K47Q0
今回はここまで。
それでは。
722
:
同志名無しさん
:2015/04/08(水) 22:54:17 ID:iW2iehPA0
初めてリアルで見た。乙
次回も楽しみ
723
:
同志名無しさん
:2015/04/08(水) 23:35:57 ID:HCBMzo2A0
乙乙
724
:
同志名無しさん
:2015/04/09(木) 04:12:43 ID:aGpfEr/kO
乙
725
:
同志名無しさん
:2015/04/11(土) 00:52:33 ID:/Y1zN9lw0
乙
726
:
同志名無しさん
:2015/04/12(日) 09:04:15 ID:6MjGuMkg0
乙です
やっぱり言葉選びなのかな、視覚的にも綺麗だー
次も楽しみ
727
:
同志名無しさん
:2015/04/12(日) 12:13:33 ID:wO8uCTI60
おつ
728
:
同志名無しさん
:2015/04/19(日) 23:36:55 ID:YcoC/U760
追いついた!やっぱ面白いなー!
三大楽しみ作品だわ
729
:
同志名無しさん
:2015/04/21(火) 17:55:42 ID:UIQUlXWY0
ワクワク
730
:
同志名無しさん
:2015/04/26(日) 18:24:15 ID:DBViRpT60
乙ぅ
731
:
同志名無しさん
:2015/06/05(金) 01:35:50 ID:S7RU/2m20
板2で唯一の名作かつ生き残りだと思ってる!
つまり続き楽しみにしてます!
732
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/07/20(月) 15:28:49 ID:EczTYDn.0
お久しぶりです。レスポンスどうもありがとうございます。
創作板にて番外編を投下しました。
優しい衛兵と冷たい王女のようです 番外編 『暁の綾蝶』
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1437365178/
それでは。
733
:
同志名無しさん
:2015/07/20(月) 16:53:30 ID:B8F7pzpY0
三部は創作板?小説板?
どっちにしろすっごい待ってるから!!!
734
:
同志名無しさん
:2015/09/17(木) 17:46:46 ID:r24RYa460
乙
三部期待
735
:
同志名無しさん
:2015/11/22(日) 02:57:56 ID:H.2NqNRU0
三部まだかなー!楽しみにしてるよ!
736
:
同志名無しさん
:2016/02/27(土) 14:36:38 ID:VcVyIZC60
1年近く経つのか…楽しみにしてるよー
737
:
同志名無しさん
:2016/05/04(水) 17:11:45 ID:rhJ/8TkU0
もう一年か…まだかな、楽しみにしてるよ!
738
:
同志名無しさん
:2016/06/02(木) 01:18:48 ID:hYk7q0jo0
定期巡回!
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