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( ^ω^)優しい衛兵と冷たい王女のようですζ(゚ー゚*ζ 第二部
539
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/18(日) 20:34:53 ID:aSLEuLGE0
( ゚゚)「……」
間があった。
表情は仮面に隠れている。
何を考えているのかは読み取れない。
( ゚゚) コクリ
仮面の者は言葉を発さず、小さな頷きをしただけだ。
それが唯一の意思表示。
あとにはもう、隙がない。
下手に近づけば斬りかかってくる気配がする。
540
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/18(日) 20:35:59 ID:aSLEuLGE0
ドクオは背筋を伸ばし、剣を両手で握りしめ、戦闘態勢を整えた。
熱気が頬を襲ってくる。
視線はぶれない。
目の前の仮面に神経を集中させる。
('A`)「なら、容赦はしない」
踏み込んで、地面を蹴り、真っ直ぐに跳んでいく。
俯き気味だった仮面がドクオを向いてくる。
敵の双剣もまた振りかかってくる。
ドクオも身を翻す。
541
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/18(日) 20:37:25 ID:aSLEuLGE0
思考も情感も遠ざかる。
もう戻れない。
彼らが生きてきた戦いの世界は、今再び、その始まりを告げている。
.
542
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/18(日) 20:40:05 ID:aSLEuLGE0
.
――第十三話 「君が為」と「君が為」 終わり――
ED「キミガタメ」
https://www.youtube.com/watch?v=9ZuMRqGAV8Y
――第十四話 戦士ドクオと魔女クー へ続く――
.
543
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/18(日) 20:40:47 ID:aSLEuLGE0
今回はここまで。
それでは。
544
:
同志名無しさん
:2015/01/18(日) 20:51:22 ID:6kTwaoEg0
乙乙
545
:
同志名無しさん
:2015/01/18(日) 21:06:05 ID:LpS/UwEY0
うわぁ……
続きが気になる乙
546
:
同志名無しさん
:2015/01/18(日) 23:04:22 ID:QyNi0Qj.0
ブーン間に合ってくれ
547
:
同志名無しさん
:2015/01/18(日) 23:25:03 ID:7HBE1lRg0
乙
ブーンが飛行機に乗り込むまでの、次々にいろんな人が助けてくれるシーンが好きだ
548
:
同志名無しさん
:2015/01/19(月) 14:19:21 ID:71GXS6Qg0
うぉぉ乙乙
549
:
同志名無しさん
:2015/01/21(水) 18:38:15 ID:hfrCirQY0
おつ
550
:
同志名無しさん
:2015/01/21(水) 23:33:05 ID:RYtX/y360
おーーー乙!
この出来事がどう終着するのか
551
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:00:43 ID:cnF.ZKJk0
はじめます
552
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:01:51 ID:cnF.ZKJk0
.
――第十四話――
―― 戦士ドクオと魔女クー ――
.
553
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:02:47 ID:cnF.ZKJk0
もう六時を過ぎていることが、コックピットに備え付けられた時計から読み取れた。
夜空の変化が著しい。黒から紺、そして朝焼けの橙へと目まぐるしく彩られていく。
散らばっている星々も、あと数分もすれば太陽の前に霞んで見えなくなるだろう。
夜が明けた。
西の方に雲がまとまっているが、上空は高く晴れている。
その抜けるような青空の中、ブーンの運転する飛行機は飛んでいた。
石炭を高密度に圧縮した固形燃料は、飛行機の貴重な動力源であり、機体の内部に大量に備蓄されている。
出発時の点火の後は、操縦手が足下にあるレバーによって逐次燃料を蒸気機関に送り込むことになっていた。
送り込む量については手探りで判断するしかなく、
最初のうちは速度が高くなりすぎたり、逆に低速すぎて機種が下を向いたりと蛇行を繰り返していたが
慣れてくるとなんとか前を向いて飛ぶことができた。
プロペラの回転も好調。
公開実験の直前だったので整備されていたのだろう。
三本羽根の高速回転の生み出す止めどない推進力が、機体を前へと進めていく。
554
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:03:26 ID:cnF.ZKJk0
技術革命は扱うエネルギーの拡大により引き起こされる。
熱エネルギーの変換を可能とする蒸気機関は、
その汎用性の高さ、材料のそろえ易さも相まって、生活に革新をもたらしうる技術だった。
人を空に飛ばしうる夢。
その最先端を、ブーンは今邁進していた。
( ^ω^)「お」
煌めきが一つ、見えた。
流れ星だ。
消えかけつつある夜の名残に、その儚い輝きがはっきりと見て取れた。
夜にも一度見ていることを思いだした。
願い事を今度は考えることができた。
というよりも、ずっと考え続けていた。
555
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:04:00 ID:cnF.ZKJk0
間に合いたい。
腹の底から力が湧く。
(#^ω^)「おおおおおお」
燃料をさらに機関に放り込む。
機体の揺れ、そののちの加速。
視界のずっと向こう側に、黒い影が見える。
アイトネ山脈が、長大にそびえ立っているのがよく見えた。
森の様子まではまだ判別することができない。
だけど、話によれば今頃はもう・・・・・・
556
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:05:10 ID:cnF.ZKJk0
(#^ω^)「速く、行くんだお」
レバーを握り、機体を調整する。
風の流れを振動で読みとる。
前へ、前へ、青空の中を、
ブーンは夢中で飛んでいく。
※BGM 『悲しき蒼穹を翔ける』※
https://www.youtube.com/watch?v=sIgkWDiQCdM
☆ ☆ ☆
557
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:06:05 ID:cnF.ZKJk0
太刀筋は鋭い。
迷いがなく、一心に自分の命を奪おうとしている。
所詮模造刀を使って行う訓練での相手とは気迫が違う。
受けるプレッシャーも段違いだ。
久しぶりの殺気に、ドクオは全身から吹き出す汗で呼応していた。
敵は双剣。
構えは一定ではない。
( ゚゚) スッ
剣を持つ手が自由に弧を描いている。
最初は顔の前に両方の剣を据えていたが、動き始めると身の翻りと連動して上下左右に揺れ動いた。
勢いを十全に活かしきる独特のスタイルだ。
訓練場ではまず見たことがない武器である。
それというのも、軍隊では規律を揃えるために、一部隊が同じ武器を携行するからだ。
558
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:06:56 ID:cnF.ZKJk0
癖のある双剣を使い手とする者など、現実の戦いではほとんどお目にかかれない。
個人よりも総体としての戦闘力に重きを置くテーベ国ではなおさらだ。
殺傷のためというよりも、戦いの象徴として、伝統芸能の舞踊の中にひっそりと息づいているような代物である。
それを使いこなす仮面の者の正体もまたわからない。
ローブに包まれてしまって体躯は確認できないが、攻撃の際に姿を見せる腕の白さと細さから、まだ若いしなやかな青年の印象を受けた。
とはいえ、それは未熟という意味ではない。
ドクオが戦い慣れていないスタイルだからいくらかハンデがあるのかもしれないが、それを差し引いても手練れである。
流れるような攻撃の組み立て方は付け入る隙を与えない。
('A`)「ふん」
連続する斬撃を片手剣で受け流し、地を蹴って身を引いた。
構えなおした剣先を仮面の方へ向ける。
相手は腰を引いて、上段と下段それぞれに剣を据えた。いずれの切っ先もまたドクオを向いている。
見慣れない構えは、獅子の伏せにも似て、古い東洋の武術を想起させた。
559
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:07:32 ID:cnF.ZKJk0
間が空いた。
ドクオは、右に、左に、と足を組み替え攻撃を誘う。
しかし仮面もドクオの動きに同調して、止まることなくつま先を組み替えてくる。
先に動揺した方が攻めいられるのは、洋の東西、戦法の新古を問わない道理である。
('A`)「やるじゃねえか」
声をかける、その口には笑み。
余裕がある、というのではない。
相手の意識の拡散と、自身の緊張を解すことが目的だ。
仮面は答えない。
それもまた反応のひとつ。
ドクオの隙を狙う意識を一瞬たりとも切りたくはないという意志の現れだ。
560
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:08:25 ID:cnF.ZKJk0
ドクオはなおも話しかけた。
('A`)「俺だってそれなりに技術はある。だからわかる。
お前の技は見事だ。軍隊にも所属せず、独学で身につけたというなら、相当のセンスだ」
先述のように狙いのある語りだが、内容に嘘偽りはない。
攻撃が続くのは、隙を狙うだけの観察力と瞬発力を兼ね備えているからだ。
無論、ドクオがわざと作りあげた誘いの隙もある。
それらの隙を仮面は必ずたたき、さらにこじ開けようとしてきさえしてきていた。
('A`)「傭兵にでもなれば、さぞや活躍したことだろう」
ドクオは口の端を吊り、「どうだ」と提案する。
('A`)「いっそのこと、本当に志願したらどうだ。俺と一緒に戦ってみないか」
561
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:09:30 ID:cnF.ZKJk0
当然のことながら本気ではない。
相手の意識を散らすふざけた語りの締め言葉だ。
気持ちなどこもっているはずもない。
だが、そのとき
( ゚゚) フッ
と、敵の笑う音がした。
とても小さく、そして思いの外澄んだ声で。
若いのは間違いない。
もしかしたら、声変わりも定かではない少年かもしれない。
反応が返ってくるとは思っておらず、ドクオは意外に思った。
それほど面白い話だと思ったのだろうか。
それとも一笑にふしただけか。
562
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:09:52 ID:cnF.ZKJk0
首を傾げる間は無かった。
( ゚゚)
首を心持下げ、ドクオに目を向けてくる。
無表情の仮面は腰を低めたかと思うと、間合いを詰めに飛び込んできた。
転じてきた攻撃の勢いは、さっきまでより速く、より鋭い。
('A`)「くっ」
右の双剣を払い、左の双剣には身を反らすことで対応する。
帷子に触れ、擦過のかすかな振動が伝わってくる。
反りを続け、右足を軸に、片手剣を横薙に振るう。
仮面の者は飛び退く。
剣の先はローブを掠めず空を切る。
563
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:10:30 ID:cnF.ZKJk0
あと半歩反応が遅ければ、先手は取られていた。
('A`)「・・・・・・惜しかったな」
ドクオは額にたまる汗の玉を腕で無理矢理拭いさった。
仮面に表情はない。
二つの穴から瞳の輝きが見えるだけだ。
目は口ほどにものを言うとはいうものの、知らない者の目からは、案外、表情はつかめない。
剣の柄を腰に寄せる。
動きを見極めるための待ちの姿勢。
('A`)「続けてこいよ。受けて立つ」
564
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:11:26 ID:cnF.ZKJk0
遠くで空気の爆ぜる音がする。
黒い煙が空のかなたへ立ち上っている。
火の手の気配が、すぐそこまで迫ってきていた。
もうじきここも火に包まれるだろう。
それまでに、決着をつけなければ逃げ遅れる。
ドクオは、今再び駆け出す仮面へと集中した。
( ゚゚)
近づいてくる瞳を見て、気づいた。
双眸が、潤んでいる。
565
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:12:08 ID:cnF.ZKJk0
('A`) ?
なぜ、と問う意識が若干の油断となる。
斬撃が二つ。
立ち止まる暇はない。
慌てて剣を動かす。
受け身を取ろうとする足が、もつれる。
ひとつは受け流した。
もう一つは。
☆ ☆ ☆
566
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:12:44 ID:cnF.ZKJk0
魔人たちが村を出たのは、夜が明ける直前だった。
アイトネ山脈の森の中、ゆるやかな坂を上り続けている。
半日も歩けば隘路に出て、関所へと到達するはずだ。
関所以外を通った場合は逮捕される。
もっとも、国境を抜けた先がマルティア国となった今の事情をツンは詳しくは知らなかった。
後方で爆発音が聞こえたのは、歩き始めて一時間もしたときだ。
見れば、煙が立ち上っている。
クーの仕掛けた作戦が成功したのだとわかった。
村を燃やす。
その決断をしたときも、クーは淡々としていた。
567
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:13:30 ID:cnF.ZKJk0
どうすればいいのかをずっと自分の内側で葛藤し続けていて、
口に出したときにはもう、そうせざるを得ないという結論を明確に下し終えていたのだろう。
そう、ツンは推している。
ξ゚?゚)ξ「クー・・・・・・」
人間と戦うという決意にも、ツンが問いかけたときにはもう揺らぎがなかったに違いない。
戦地へ赴くクーの後姿に、掛けるべき言葉も見つからなかった。
なんであんなに強くいられるのだろう。
ツンには、クーの落ち着きが不思議でならなかった。
仲間として出会えたことは嬉しかった。
一緒にいるうちに、彼女にも悩みがあって、葛藤しながら生きていることを知った。
魔人と人間の狭間で揺らいで、答えを見つけようとしている。
そして実際に行動まで起こしている。
568
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:14:16 ID:cnF.ZKJk0
クーを見つめるときはいつでも羨望を込めていた。
自分で考え、自分で行動する。
その生き方を目の当たりにして、一方の自分がひどく惨めに思えた。
自分は逃げ隠れをし続けている。
もう何年も、自分の姿を隠して、友達にも嘘をついて生きてきた。
ブーンには打ち明けたけれど、あれは例外中の例外だ。
人間の世界にいたものの、彼以上に親しくなれた人はいない。
秘密を打ち明けてもいいと思えた者は他に誰も・・・・・・
いや。
569
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:15:02 ID:cnF.ZKJk0
「いつか一緒に旅をしよう」
ずっとずっと昔、一人だけいた。
自分の気持ちを伝えた人が。
ξ゚?゚)ξ「いいの?」
「もちろんだとも。教えてあげたいんだ」
「この空が本当に、どこまでも続いているってことを」
570
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:16:15 ID:cnF.ZKJk0
ラスティア国の従者見習いになるよりずっと前の話だ。
そこにはたくさんの”できそこない”がいた。
不思議なコミューン。
作業の休憩時間に、芝生の上で、あの人は私たちに聖書を説いてくれた。
「メティス国教では、君たちは神の使いとされている」
「恩恵をもたらす者。常にそばにいてくれる者。そして奇跡を起こす者」
「じゃあ、どうして私たちは……」
あのときにはまだ彼女がいた。
二人で並んでお話を聞いていた。
571
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:17:01 ID:cnF.ZKJk0
私は外に憧れた。
あの人と一緒にどこまでも歩きたいと思った。
いつか。
「ようやく完成したよ」
手渡されたのは、ペーパークラフトの小さな地球儀。
あのコミューンの人たちと力を合わせて作ったものだ。
あのころはまだ新品で、何の落書きもなかった。
572
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:17:53 ID:cnF.ZKJk0
どんなに忘れようとしても忘れられないものがある。
それが地球儀、それがあの共同体。
「すまない」
と、あの人は言った。
思い描いた夢は、たとえ打ち砕かれたときだ。、
胸が苦しくなるから、忘れようと努めているのに、
感情が昂ぶるとついつい思い出してしまう。
573
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:19:12 ID:cnF.ZKJk0
顔を思い出す。
最後の朝は緑に包まれていた。
軍靴の音。
突きつけられた銃。
衛兵たちに捕らえられる間際になって、あの人は私に耳打ちした。
( ゚д゚ )「夢のことを、どうか忘れないでくれ」
先生のこと。
心の中で、いつまでも色褪せない記憶だ。
574
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:20:53 ID:cnF.ZKJk0
魔神たちは歩みを止めない。
火の手は次第に近づいてきていて、熱気も空気を漂ってくる。
ペースをあげないと飲み込まれる。
(〆 ヽ)
从´ヮ`从ト !!
足下にいた女の子が、突然立ち止まった。
ξ゚?゚)ξ「どうしたの?」
一行が先をゆくのに、女の子だけが取り残される。
ツンは急いで駆け寄った。
(〆 ヽ)
从´ヮ`从ト「・・・・・・♪」
575
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:21:55 ID:cnF.ZKJk0
軽やかな鼻息。
それが拍だとわかったのは、女の子が歌を奏でたからだ。
(〆 ヽ)
从´ヮ`从ト「月やあらぬ〜」
聞き慣れない音。
それは異国の言葉だった。
月やあらぬ 春や昔の 春ならぬ 我が身ひとつは もとの身にして
576
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:22:43 ID:cnF.ZKJk0
ξ゚?゚)ξ「・・・・・・歌?」
短い調べ。
流れるような歌の内容はわからない。
女の子はもう口を閉ざしてしまっている。
自分の頬に涙が伝うのを、ツン自身が驚いた。
意味が分からなかったのに、女の子の顔は悲しくて、それが悲哀の歌だとわかった。
(〆 ヽ)
从´ヮ`从ト
話していた姿がまるで嘘みたいに、何も言わない。
その視線は、立ち上る火のうねる柱を瞳に輝かせていた。
☆ ☆ ☆
577
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:23:24 ID:cnF.ZKJk0
油断した。
そう思ったときには、弾き飛ばされた剣を見ていた。
縦に回転し、地面に突き刺さる。
刃は折れなかったが、距離があいた。
ドクオと仮面から、ちょうど同程度に離れている一点へ。
双剣の閃きに気づき、ドクオは半歩距離を置く。
振るわれる刃を見切り、向きを変えてもう半歩。
剣からは遠ざかるが、安全は確保できた。
仮面は振り抜いた腕を戻して、また腰を低く構え直す。
武器を持たない相手にずいぶん慎重なことだ。
578
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:24:06 ID:cnF.ZKJk0
それか、気づいているのだろう。
武器がもうひとつあることに。
('A`)「しかたない」
腰に手を伸ばす。
できれば使いたくなかった、もう一つの柄。
手に入ったときから整備は怠らなかった。
汚れを拭き、刃を整え、ときどき振るって感触を確かめた。
表だって使うのははばかられて、いつも腰に提げるだけだった。
でも、今はそうも言っていられない。
('A`)「誉めてやる。俺の剣を弾き飛ばせたんだ。お前はおそらく、並のテーベ兵より強い」
('A`)「だが、ここからは俺も本気だ」
579
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:24:40 ID:cnF.ZKJk0
( ゚゚)
仮面は微動だにしない。
警戒心を消さないまま、ドクオをにらみつけている。
('A`)「借りるぞ」
小さく、告げる。
柄を握り、一気に引き抜いた。
真っ直ぐに伸びた、鋼の諸刃。
ドクオの背丈の半分以上も長い、大柄な姿。
鍔の中央で煌めく深紅の宝石。
('A`)「モララー」
580
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:25:13 ID:cnF.ZKJk0
振り下ろすと、空気が切れ、小気味よい音と共に風が舞う。
ラスティア城で奪い返した、もっとも親しき戦友の剣。
構えを変えた。
柄を右肩に引き寄せ、刀身を水平に近く傾ける。
基本の戦術は待ち。
よけいな足裁きはもう必要ない。
隙の前段階、攻撃の気配のすべてが起爆剤となる。
木々の崩落、火炎の熱、赤らんだ景色、
視覚情報は遠ざかり、真っ白の仮面のみが映し出される。
敵は動かない。
横にも動けず、剣を揺らさず。
581
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:26:03 ID:cnF.ZKJk0
張りつめた時間が流れた。
暴れる火の音が、近づく。
広場の端で、枝の折れる音。
火はもう、彼らを包み始めている。
倒木の振動が地に伝わる。
揺れ。
そして、仮面が地を蹴った。
旋風を思わせる回転でドクオへと飛びかかる。
双の剣が交互に舞う。
隙はない。
いや、ほんの少し。
582
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:26:49 ID:cnF.ZKJk0
見えた。
二つの剣の間隙。
(#'A`)(もらった!)
思考よりも速く動く。
赤い宝石が陽光を散らす。
鋼が、鋼とぶつかり、
そして――弾け飛んだ。
☆ ☆ ☆
583
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:27:36 ID:cnF.ZKJk0
煙があがっているのが見えたときから嫌な予感がした。
森が、燃えている。
あちこちから火柱が立ち上り、黒い煙を吐き、木々をなぎ倒している。
(;^ω^)「大変なことだお」
身体が震えた。
山火事は只でさえ鎮火に苦労する。
まして、山中に火が燃え広がっているとなれば、人の手でどうこうするのはほとんど不可能だ。
あの中に人がいるのならば、誰であろうと危険だろう。
(;^ω^)「ドクオさん・・・・・・」
高速の飛行機は間に合ってくれた。
森の上に鳥のようなシルエットが浮かぶ。
太陽を背にした飛行機の影だ。
584
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:28:25 ID:cnF.ZKJk0
速度を落とし、旋回する。
いつでも地面へ向かえるように。
速度が落ちれば機体は下がる。
動力の生きているうちに機種を持ち上げ、車輪をだし、地面に接触すれば、着陸は成功する。
あとは木に引っかかって損傷しないことを祈るだけ。
狙うのは広く開けた場所。
着陸に適するには、どうしても空間が必要だった。
旋回しながら、目を四方八方に巡らせた。
(;^ω^)「どこだお・・・・・・どこに降りればいいお」
ただ降りるだけじゃない。
ドクオがそばに行る場所じゃなければ意味がない。
どこか、人陰でもあれば。
585
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:29:07 ID:cnF.ZKJk0
( ^ω^)「お?」
目の端で、それを捉えた。
ある程度走ることのできる、理想的な広い空間。
木々の空けた場所。
その中央に、二人の影がある。
目を凝らし、
(;゚ω゚)「あれは・・・・・・まさか!」
誰だかわかった。
目を擦り、錯覚じゃないことを確認する。
586
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:29:40 ID:cnF.ZKJk0
意志は決まった。
(;゚ω゚)「うおおおおおお!!」
速度変化の影響で機体が揺れる。
重力に魂ごと吸い寄せられる。
震動が全身を打つ。
速度が落ちたら、機首を上へ。
(;゚ω゚)「あがれええええええええ!!」
主翼を操作し、空気をとらえ、機種を持ち上げる。
水平飛行でできたことが、重力にひかれることで途端に難しくなる。
587
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:30:31 ID:cnF.ZKJk0
レバーがミシミシと不穏な音を鳴らす。
それでも続ける。
汗がにじみ、吹き出し、視界を汚す。
(;゚ω゚)「ああああああ!!」
空が見えた。
機体が上を向いているから。
成功だ。
思うやいなや、すぐにホイールを引きずり出す。
588
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:31:16 ID:cnF.ZKJk0
地面が迫る。
(;゚ω゚)
絶叫がもはや声にならない。
音、
そして衝撃。
耐え難い震幅とともに、舞い上がった土煙がコックピットを覆いつくす。
飛行機は、そこへ、着陸した。
☆ ☆ ☆
589
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:31:57 ID:cnF.ZKJk0
短い剣、敵の双剣の片割れが、弧を描いて飛んでいく。
( ゚゚)「!!」
驚愕の瞳が、その後を追う。
これまでの慎重さに似つかわしくない、大きな隙。
「あ」と、仮面の声が漏れる。
自分の付中に気づいたのだろう。
敵の視線はドクオに戻り、残ったもう片方の剣を顔の前へ。
だけど。
('A`)「遅え」
言い放つのは、斬り込みと同時。
一度目は受けられた。
二、三と続け、仮面は下がる。
590
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:32:35 ID:cnF.ZKJk0
双剣は短剣と化した。
受け流すには頼りない。
四度目の斬り込み。
仮面の背が、木にぶつかる。
追いつめた。
さらに。
――五。
短剣が下から弾き飛ばされる。
591
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:34:32 ID:cnF.ZKJk0
仮面の目が大きく見開く。
揺れている。
('A`)「あばよ」
柄を真横へ。
刀身を水平に。
狙いは、首。
そのとき、音がした。
592
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:36:39 ID:cnF.ZKJk0
( ゚゚)「……やめろ」
か細く震えた、高い、声。
「……やめろ、ドクオ」
(゚A゚) !!
知覚が電流のごとく体内を駆けめぐる。
達観も、情感も、戦意も殺意も失意も、すべてが消える。
593
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:37:37 ID:cnF.ZKJk0
浮かぶのは、懐かしき顔。
何度も思い出して、何度もかき消してきた顔。
そんな。
身体が止まらない。
制止の意志が伝わりきらない。
剣の先が、真横に、そして
貫いた。
☆ ☆ ☆
594
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:38:11 ID:cnF.ZKJk0
青空に鳥が飛んでいる。
そう見えていたのが、近づいてきて、違うと気づく。
鳥よりもずっと大きく、ギラギラと光を反射してる。
ξ;゚?゚)ξ「あれは・・・・・・」
見たことのない機械の鳥が、広場に近づき、轟音とともに地面を滑っていった。
全体を上下に揺らしながら何メートルもすすんでいく。
やがて、木に激突して止まる。
ξ;゚?゚)ξ「なに?」
足下で女の子も震えている。
その肩を支えながら、ツン自身も震えていることに気づいた。
呆然としながら、見つめる先で、中から人が飛び出してきた。
手を振る男のその姿に、ツンは目を疑った。
595
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:38:43 ID:cnF.ZKJk0
ξ;゚?゚)ξ「ぶ、ブーン!?」
信じられなかった。
どうして彼が、今このタイミングで、こんなところに。
疑問が吹き出して抱えきれなくなる。
(;^ω^)「ツン!」
駆けつけてきた彼は、早速ツンに向かって頭を下げた。
(;^ω^)「お願いだお! 教えてほしいことがあるんだお!」
ξ;゚?゚)ξ「ちょ、ちょっと、待って! どういうことよ!」
596
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:39:17 ID:cnF.ZKJk0
ξ゚?゚)ξ「教えてほしいことなんて、こっちだってたくさんあるわよ!」
(;^ω^)「うん、うん。それはわかるお! でも僕はいそいでいるんだお!」
ξ゚?゚)ξ「だから意味わかんないって・・・・・・
ここ、もうすぐ燃えちゃうかもしれないの! 私だって速く行かなくちゃ」
あれが証拠と言うように、ツンは森のあちこちに視線を飛ばした。
立ちこめる煙の筋はすぐそばに幾筋もあり、今も発生し続けている。
熱も、音も、ほんの数分間足を止めているだけで倍増しになった。
歌を詠った女の子が再び動かなくなってから、ツンも彼女につきあっていた。
怖いとは想いながらも、放ってはおけなかったのだ。
597
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:46:41 ID:cnF.ZKJk0
女の子といえば、さっきまではずっと空を向いていた。
どんなに近くで爆発や崩落が聞こえても、じっと空を見据えてたたずんでいた。
ξ゚⊿゚)ξ「あれ?」
ところが、さきほどまでいた場所に女の子はいなくなっていた。
(〆 ヽ)
从´ヮ`从ト ツン
いつの間にか、女の子はブーンのそばにたち、その脚をつついている。
( ^ω^)「ん? あれ、君はどこかで・・・・・・」
ブーンが目を瞬かせている。
598
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:48:25 ID:cnF.ZKJk0
ξ゚⊿゚)ξ「知ってるの?」
声が思わず高くなる。
( ^ω^)「確か、そうだお! ラスティアで見かけたことがあったお」
女の子はラスティア国から逃げてきた。
クーが説明した内容と一致する。
( ^ω^)「あのときはすぐに目を逸らされたから、嫌われたのかとも思ったけど。
覚えていてくれたのかお?」
(〆 ヽ)
从´ヮ`从ト コクコク
恐がりな女の子が、素直に首肯する。
もしも知らない人ならば、もっと怯えていることだろう。
ξ゚⊿゚)ξ「本当、みたいね」
599
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:49:06 ID:cnF.ZKJk0
しばらくの空白が、また火の活動の音で埋められる。
こうしちゃいられない、とツンは息巻いた。
ξ゚⊿゚)ξ「で、あんた、なんでここにきたのよ」
前に、あんなに拒絶したのに、といいたくなるのを堪えた。
ブーンの様子からして、すっかりそのことが忘れ去られているほど焦っていた。
( ^ω^)「人を探しているんだお。傭兵の中に、僕の知り合いがいるんだお」
( ^ω^)「その人を止めなくちゃいけないんだお。名前は、ドクオ」
ξ゚⊿゚)ξ「ドク・・・・・・オ?」
聞き覚えがある。
どこかで聞いた。
つい最近。
600
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:51:23 ID:cnF.ZKJk0
ξ;゚⊿゚)ξ「それって、まさか」
クーが聞かせてくれた話。
彼女が一緒に過ごしていた人の名前。
その人が、傭兵?
ξ゚⊿゚)ξ「どういうことよ!」
( ^ω^)「へ? なにがだお!?」
ξ;゚⊿゚)ξ「ドクオって人、よく知らないけれど、傭兵なはずがないじゃない!
だって、あの人はクーの・・・・・・」
言葉が淀む。
クーの話し方、そして昨夜の受け答えから、推測はしていた。
ドクオはクーの想い人のはずである。
601
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:51:59 ID:cnF.ZKJk0
その人が、傭兵としてここにいる?
疑ったのは、まさかと思ったからだ。
だって、そしたら。
ξ;゚⊿゚)ξ「そんなの、嘘よ・・・・・・そんなわけ」
消え入るように口にする。
ありえない、とは言い切れない。
人はどんな生き方をするかわかったものじゃない。
602
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:52:29 ID:cnF.ZKJk0
きょとんとしているブーンをよそに、ツンは空を見上げた。
ξ;゚⊿゚)ξ「嘘でしょ、クー」
青空の向こうで鳥が羽ばたく。
この空の下でいったい何が起きているのか。
それはツンにもわからなかった。
☆ ☆ ☆
603
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:53:01 ID:cnF.ZKJk0
深い手応えがあった。
剣は確かに、敵の左肩を貫き、背後の幹に達している。
締め付ける肉の中、骨と思しき堅さに触れる。
( ゚゚)「あ・・・・・・かっ、あ」
やはり細く、高い音。
喉は刺せなかった。
気の迷いか、刀身の切っ先は脇に逸れてしまった。
腕を振り上げ、剣を抜き去る。
切り裂かれた肉片が地に落ちた。
鮮血が宙を舞い、ドクオの頬にかかる。
604
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:53:39 ID:cnF.ZKJk0
( ゚゚)「ーーーっ」
声ではなかった。
喘ぎと悲鳴の合いの子がその喉の奥から絞り出されてくる。
瀕死へ赴く動物が、肺の空気を漉し出す音。
仮面の腰が折れ、木を支えにしてずり落ちた。
尻が地面に落ちる振動にすら耐えられず、その首が撥ね、横に枝垂れる。
仮面がわずかに浮いていた。
隠れていた片側の髪が溢れ、乱れて下がっている。
ローブは肩からはだけていた。
身にまとっているのは木綿の簡素な衣服だ。
緑の上衣と短い焦げ茶の腰布が、収まり手を失った二つの鞘の括られた革のバンドで締め付けられている。
ズボンの生地は厚いが、他に装甲らしきものは見あたらない。
驚くほどの軽装備は動きのしなやかさを損なわないためのものだったのだろう。
崩れ落ちる全体の仕草は力もなく、朽ちかけの植物のようだ。
605
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:54:24 ID:cnF.ZKJk0
華奢な身体つきをしている。
肩幅も狭く、腕や脚は引き締まっているが、色は白く、幅は細い。
骨格と肉の付き方の根本からドクオと違う。
('A`)「女、なのか」
胸騒ぎはしていた。
さきほど声を聞いたときからだ。
俺の名前を知っている?
一瞬思ったその問いが、言いようのしれない予感を誘った。
身を屈める。
微動だにしない仮面と同じ高さに顔を持ってくる。
においをかいだ。
魔人のにおいがするが、仮面本人からのにおいではない。
魔人と接するだけの、人間のにおいだ。
606
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:54:59 ID:cnF.ZKJk0
音がでるほど、唾を飲み込む。
ドクオの右手が、仮面の隙間に向かう。
指を伸ばして、触れようとする。
と、そのとき。
手首に彼女の右手がしがみついてきた。
('A`)「うっ」
( ゚゚)「やめろ」
すごみはある。
が、か細い反抗だった。
( ゚゚)「やめてくれ・・・・・・頼む」
言葉の終わりが、裏がえり、掠れる。
泣いている女の声。
607
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:55:38 ID:cnF.ZKJk0
予感は肥大化してくる。
止められようとしている右手が、次第に前進する。
必死に止めようとしているから、震えが伝わってくる。
それでも指が伸びる。
仮面がわずかに横に振られる。
血が、また一筋。
( ゚゚)「ぐあっ」
濁った呻きで、力が離れる。
ドクオの指が白面に触れ、引っかかり、そして真横へはじいた。
隠されていた長髪が、一気に広がり静かに落ちる。
横顔が露わになった。
白い肌に、赤らみた頬、腫れた泣き目は堅く強く閉じている。
608
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:56:41 ID:cnF.ZKJk0
遠くで仮面が落下した。
川 - )「・・・・・・」
('A`)「お前」
まだ自信はなかった。
ドクオの手が触れようとする。
と、
川 - )「やめろっ!」
切り裂くような声で彼女が叫ぶ。
609
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:57:17 ID:cnF.ZKJk0
('A`)「クー」
とうとう、口にした。
疑問はすでに確信へと変わっている。
川# - )「違う!」
彼女はなおを目を閉じ叫んだ。
川# - )「違う、そんな名じゃない。その名で呼ぶな」
610
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:57:51 ID:cnF.ZKJk0
('A`)「なんで」
問いたいことが多すぎた。
喉の奥から、あまりにも大きい混濁したものがせり上がってくる。
見下ろしながら、ドクオの口は愕然と震えていた。
川# - )「なんで?」
クーの目が開いた。
虚空を見つめていたのが、ゆらりと、首を回してドクオに向けられる。
漫然としながら、ドクオを確かに見ている。
その口元が歪み、捻られていく。
川 ゚ ー゚)「く、は、はは」
閉じていた口が、震えながら開き、舌が踊る。
611
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:58:38 ID:cnF.ZKJk0
泣きながらも、笑っていた。
それもひどく、めちゃくちゃに。
川 ゚ ー゚)「なんで、だと? わかるだろ。なあ、おい!」
クーの首が前に飛び出し、額をつきだしてくる。
とっさのことによけられず、ドクオの額にぶつかって、ごつっと鈍く響く。
('A`)「な!」
目を瞬いて、下がろうとする。
だがそのドクオの顎にクーの右手が伸び、鷲掴みにして、引き寄せてきた。
不格好に屈んで、彼女の顔と相対する。
目はもう閉じておらず、火の灯りを受けて赤く揺らめいている。
川 ゚ ー゚)「君と私は、敵なんだ。そうなってしまったんだ! それ以外に何があるというんだ」
612
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:59:09 ID:cnF.ZKJk0
クーはひときわ高く口の端を持ち上げた。
川 ゚ ー゚)「君は驚いているようだな。私の正体を知って、愕然としている。
当然の反応だ。私だなんて思っていなかったんだから」
ドクオの顎はさらに引かれた。
目線の高さが同じになる。
「だけど」と、クーは続けた。
川 ゚ ー゚)「私はすぐに気づいたんぞ。この場所で君を見て、すぐにな」
川 ゚ ー゚)「君は傭兵となり、魔人を討ち取る側にいる。
経緯は知らないが、それが君の選択だった。そういうことなのだろう」
('A`)「それならどうして、戦うのを――」
やめなかったんだ、と問おうとしたが、
顎を掴む手に力が入り、ドクオの言葉は痛みで途切れた。
613
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 22:59:55 ID:cnF.ZKJk0
川 ゚ -゚)「私が魔人の味方だからだよ。
私は私の意志でこの途を選択してきた。悔いはない。今更動揺などしてたまるか」
川 ゚ -゚)「動揺するなら、それは、余計な情だ。
今の私には必要のないものだ。だから――」
川;゚ -゚)「ぐっ」
歯噛みして、左手をかばう。
傷口から流れる血はすでにいく筋にもなっている。
顔色も悪い。
クーの意志は目に見えて弱りつつある。
ドクオは寄った。
川;゚ -゚)「止まれ」
614
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:01:49 ID:cnF.ZKJk0
('A`)「黙れ」
クーの左腕をつかみ、水平に引き延ばした。
川;゚ -゚)「あ、があぁぁっ」
悲鳴が上がる。
それを無視して、ドクオはポケットから救急テープを取り出し、すばやく巻き付けていく。
クーがもだえた。
ドクオから逃げようと必死に喚きたてる。
('A`)「じっとしてろ」
川;゚ -゚)「触れるな!」
('A`)「死ぬぞ」
川;゚ ー゚)「……いいさ、それでも」
615
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:02:21 ID:cnF.ZKJk0
クーが小さく息を吐く。
「見ろよ」とでも言うように、右手で広場を指し示した。
あたりはもう火の海だ。
木の枝はすべて燃え、止めどない猛烈な熱風が二人を包み込んでいる。
空は青いが、直に火の赤と煙の黒に染まるだろう。
川;゚ -゚)「どのみち死ぬんだ」
('A`)「死ぬもんか」
川;゚ -゚)「死ぬさ。この火をみればわかるだろ。手当しようと、しまいと、変わらない」
('A`)「死なねえっつってんだろ」
結び目を作る手つきが荒々しくなり、クーがまた悲鳴を小さくあげる。
ドクオは吐き捨てるように言う。
('A`)「死なせてたまるか。やっと、お前に会えたってのに」
616
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:02:58 ID:cnF.ZKJk0
テープが固定される。
クーはドクオを見て、つぶやいた。
川;゚ -゚)「君は、いつからそんなに頑固になったんだ」
('A`)「年取ったんだ。俺も、お前も」
ドクオは手早く針と糸を用意した。
('A`)「仮の縫合だ」
川;゚ -゚)「できるのか?」
('A`)「歯、食いしばれ」
抗議をさせる隙を与えず、ドクオはクーの腕に針を突き刺した。
かみ合わせた歯の隙間から悲鳴が漏れ聞こえてくる。
617
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:03:32 ID:cnF.ZKJk0
川;゚ -゚)「――っ!」
背を幾度も反らしながら、クーは耐えた。
火の囲いが高くなる中、作業は続いた。
縫合を終えた腕をドクオは持ち上げ、肩に担いだ。
クーの横に収まり、木に寄りかかる。
暫くの間、動かず、クーの傍に寄り添っていた。
痛みで喘いでいたクーの呼吸が次第に落ち着いてくるのがわかった。
川 ゚ -゚)「……下手、だな」
掠れた声でクーが訴えた。
川 ゚ -゚)「もっと痛みを抑える縫い方があったはずだ」
618
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:04:03 ID:cnF.ZKJk0
('A`)「戦場じゃそれで十分なんだよ」
息を吐くと同時に言う。
('A`)「死ぬよりましだろ」
横目でクーに目をやる。
向こうはドクオを見ていなかった。
川 ゚ -゚)「自分で刺したくせに」
口をあまり動かさないで言ってくる。
('A`)「それは・・・・・・」
頭をかいて、言葉を探したが、金脈はなかった。
619
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:04:33 ID:cnF.ZKJk0
('A`)「俺には俺の立場があった。仮面がお前だとも気づかなかった。
刺したのは、だから、不可抗力だ」
クーから目を逸らし、ため息混じりに口にする。
間が、また少し、空いた。
川 ゚ -゚)「後悔してるか?」
('A`)「・・・・・・」
川 ゚ -゚)「私だとわかっていたら、刺さなかったか?」
クーの視線が向いているのを感じる。
少しだけ時間をおいた。
きっとクーはいつまでも見ている。
そうわかったので、ドクオは肩を落として目を向けた。
('A`)「そうだ、と言ったら?」
620
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:05:08 ID:cnF.ZKJk0
「それは卑怯」と、クーが笑う。
彼女の柔らかい微笑みをはじめて見た。
出会ってから、初めて。
川 ゚ ー゚)「でも、そう言ってくれたなら」
クーの頭が肩にかかる。
髪が鼻先をかすめ、においが漂う。
魔人のにおいがしみついている。
だけど、その奥に、彼女のもあるのを初めて感じた。
クーが言う。
川 ゚ ー゚)「嬉しいな、ドクオ」
621
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:05:51 ID:cnF.ZKJk0
クーの右手が、ドクオの右手に触れる。
覆い被さるようにして、指と指との間が埋まる。
ずっとそれを聞きたかったんだ。
今頃になって気づくなんて。
俺もだよ、と言おうとして、ドクオの喉は詰まった。
黙り込むドクオを相手に、クーは何も言わなかった。
これまでの話をしたい気持ちはあったのだけど、できなかった。
伝えたいこと、考えたいこと、聞きたいこと、
言いたいことがあまりにも多すぎてまとまらなかった。
お互いどこですれ違ったのか。
どうしてこの森で刃を向け合ったのか。
知りたかったのに、
迫り来る火の光景はすべての回想を無に帰すほど熱く猛っていた。
622
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:06:23 ID:cnF.ZKJk0
川 ゚ -゚)「逃げなくていいのか」
('A`)「いい」
川 ゚ -゚)「置いていってもいいんだぞ。私はお前を恨まない」
('A`)「そんなことしたら、俺は俺を恨み続ける」
川 ゚ ー゚)「・・・・・・ははは」
クーの頭がさらにもたれかかってくる。
動かない左手を伸ばしたまま、ドクオの胸に身を寄せる。
鼓動が伝わってくる。
血を流していても、死が近くとも、関係なく心臓は動く。
二人の姿は、もう抱擁と同じだった。
623
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:07:00 ID:cnF.ZKJk0
川 ゚ -゚)「邪魔か?」
('A`)「全然」
川 ゚ -゚)「良かった。あまり慣れていないんだ」
('A`)「俺もだ。そんな暇がなかった」
川 ゚ -゚)「会っているうちに、もっとすればよかった」
('A`)「・・・・・・」
川 ゚ -゚)「ドクオ」
('A`)「なんだ」
624
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:07:37 ID:cnF.ZKJk0
川 ゚ -゚)「私はいつも、君のことが頭から離れなかった」
('A`)「そうか」
川 ゚ -゚)「君のためになりたかった」
('A`)「俺も」
川 ゚ -゚)「え?」
('A`)「お前のためだった。全部」
川 ゚ -゚)「・・・・・・」
625
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:08:07 ID:cnF.ZKJk0
('A`)「クー」
川 ゚ -゚)「なに?」
('A`)「謝りたい」
川 ゚ -゚)「そう」
('A`)「このままじゃ、頭も下げられない」
川 ゚ -゚)「それならば、絶対に離れない」
('A`)「・・・・・・?」
626
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:09:48 ID:cnF.ZKJk0
川 ゚ -゚)「必要ないんだ。そんなもの」
('A`)「じゃあ」
川 ゚ -゚)「?」
('A`)「顔が見たい」
川 ゚ -゚)「なんだ、こんなときにそれか」
(;'A`)「いや待て。違う。顔を見たいだけなんだ」
627
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:10:26 ID:cnF.ZKJk0
川 ゚ -゚)「本当に?」
('A`)「本当に」
川 ゚ -゚)「・・・・・・」
('A`)「・・・・・・」
川 ゚ -゚)「ドクオ」
('A`)「なんだ」
628
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:11:12 ID:cnF.ZKJk0
川 ゚ -゚)「君はまさか、本当に慣れていないのか?」
(;'A`)「なっ」
川 ゚ ー゚)「変わり者だな」
('A`)「・・・・・・そっちこそ」
川 ゚ -゚)「信じているのか?」
('A`)「!!」
川 ゚ ー゚)「ふふふ」
('A`)「……実際、どうなんだよ」
629
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:11:51 ID:cnF.ZKJk0
川 ゚ -゚)「口では言わんぞ」
('A`)「くっ」
川 ゚ -゚)「さあ、どうする」
('A`)「・・・・・・・・・・・・クー」
川 ゚ -゚)「ああ」
('A`)「顔、見せてくれ」
630
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:12:25 ID:cnF.ZKJk0
本当に慣れていなかった。
ドクオにも、
普通のそれが歯型の残るようなものではないことはさすがにわかった。
クーは笑って、ドクオも苦笑して。
そして二人は、死を覚悟した。
631
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:13:35 ID:cnF.ZKJk0
火は目の前だ。
草の焦げるにおいがする。
景色は赤い。
蒼穹も飲み込まれた。
思い残すことはもうない。
下手に生きていたら、またすれ違うかもしれない。
お互いに罪を抱くくらいなら、今この場でともに火に焼かれよう。
二人はそう取り決めた。
632
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:14:13 ID:cnF.ZKJk0
川 ゚ -゚)「できるだけ、こうしていたい」
('A`)「死ぬまでこうしてやる」
クーを囲う腕に力を込めた。
彼女が首を振る。
川 ゚ -゚)「もっと」
('A`)「骨になっても、魂になっても、抱いてやる」
川 ゚ -゚)「離さないで」
('A`)「離れない」
633
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:14:49 ID:cnF.ZKJk0
川 ー )
クーが笑った気がした。
でも、錯覚かも知れない。
クーの身体が、前触れもなく倒れかかる。
力が抜けていくようだ。
左腕の付け根から鮮血がほとばしる。
所詮は付け焼き刃だったのだ。
縫合は、その役目を終えたと言わんばかりにちぎれて飛んだ。
634
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:16:01 ID:cnF.ZKJk0
もう、いいと思った。
このまま炎に包まれて死んでも、一向に構わない。
会いたいと思っている人と出会えた。
たとえ敵としてであっても、今ここに倒れている彼女は、紛れもなくクーだ。
なら、いいじゃないか。
もう戦う意味はない。
満足が、ドクオの胸中を内側から穏やかに舐めた。
力尽きたクーが、苦しげな呼吸を零す。
その背に触れて、ドクオは口にする。
('A`)「このまま、燃え尽きるまで、お前と一緒にいてやる」
思い残すことはもうない。
635
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:16:40 ID:cnF.ZKJk0
ドクオはクーの背中を摩った。
せめて最期の時は、痛みが薄まるように、なんども。
クーがドクオに視線を向けた。
不安定に揺らしながら、それでも芯は曲げずにドクオを見る。
川 ー )「ドクオ」
掠れて細く、消え入るようで。
間近の日の爆ぜる音に、簡単にもみ消されてしまえる声。
話そうとしている。
命の灯火は鎮まりへ向かっている最中で。
('A`)「ああ」
クーに顔を寄せた。
636
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:17:55 ID:cnF.ZKJk0
クーの頬が、堅く強ばる。
力を失っていた青い顔が、急に苦悶へと変わる。
どうしたのだろう。
ドクオは首を傾げる。
しばらく待って、
クーの喉が声を発した。
川 д )「死にたくないよ」
637
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:18:58 ID:cnF.ZKJk0
弾けるように、ドクオは身を起こした。
今のは。
(;'A`)「クー?」
返事はない。
クーは目を閉じている。
今のは、本音だ。
心臓が跳ねあがり、強く脈を打つ。
痺れていた感覚が戻ってくる。
熱い。
息苦しい。
クーは今なんと言った。
638
:
◆MgfCBKfMmo
:2015/01/24(土) 23:19:32 ID:cnF.ZKJk0
死にたくない。
生きたい。
それが本音。
俺は、なんて。
(;'A`)「クー! おい、クー!!」
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