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山間喫茶シベリアのようです
1
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:24:14 ID:wXS1EycE0
・日常もの
・地の文混在
・こまけぇこたぁいいんだよ
備考・気分転換系遅筆
以下一話
2
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:24:58 ID:wXS1EycE0
ミセ*゚Д゚)リ「まじやばいんですけど……」
⊂( -д- ⊂⌒`つ
ミセ;゚Д゚)リ「このひと山の中の森の中で遭難中なんですけど!」
ミセ*゚ー゚)リつ ゴソゴソ 「やべぇ、やべぇよ……」
ミセtっ゚ー゚)リっ ガサゴソ 「こんな軽装で山歩きなんて金目のものも無……ん?」
ミセ;゚Д゚)リっ■ 「……これは」
ミセ*゚ー゚)リっ□ ピコン 「……」
ミセ* ー )リっ■ シュン 「んー……、なるほど、なるほど……」
ミセ*゚ー゚)リ「よし」
ゴソゴソ
( -дミセ*゚ー゚)リ「わっせと背負いーの……」
ズリズリ :....((( -дミセ*゚ぺ)リ「店長になんて説明しよう……」
「わたしも雇ってもらえたし、ダイジョブかな……」
.
3
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:26:03 ID:wXS1EycE0
大戦より冷戦状態の続く合衆国ヴィップとラウンジ連邦共和国の間には、
戦争とはほとんど無縁の中立国ダットが挟まるように位置していた。
地図上ではボード大陸最大のソクレス山脈を区切るように国境線が引かれ、
砂時計のようにくびれた形でダットの国土を確認することができる。
その奇妙なくびれ――通称「コルセット」――が何故生まれてしまったかといえば、
ダットがラウンジ連邦への参加要請に従わなかったことによるラウンジの計算外に起因していた。
ヴィップとラウンジが最も国土的に近づくその場所は、二国とも常に警戒の様相を崩しておらず、
なおかつ国境線を二本管理する義務のあるダットも目を光らせていなければならない、
いわゆる緊張状態の続くはりのむしろ状態にあった。
∩从 ゚∀从∩「マジヤベえんだけど」
そんな「コルセット」付近では、
三か国間での国民の出入り、軍事・経済活動、ラウンジからの脱走兵、
冷戦をぶち破りたいダット以外二国の過激派、各国テロリズム推進活動、
社会的弱者、変質者、カップル、研究者、戦争ビジネスマン等々、
様々な人種が右往左往している。
∩川д川∩「ダットの銃剣類フリー所持制度ってヤバいですよね。中立国ゆえの護身がメインとはいえ」
そのためコルセット内の憩いの場の一つである小さな喫茶店「シベリア」でも、
些細なトラブルが日常的に巻き起こっていた。
_
(#゚∀゚)つ=l三ヲ「もうコロコロしちゃおっかなァー! ぶっ刺しちゃおっかなァー!」
ヾ≡l=て(゚Д゚#,,)「んだゴラァ! ヤってやんぞゴラァ!」
.
4
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:27:28 ID:wXS1EycE0
∩从 -∀从∩「殺すのはダメだっつーの……」
「シベリア」店長T・ハインは溜め息をついた。
幸い今日のトラブルメーカーは、どちらも単なるチンピラでしかなさそうなのがせめてもの救いだった。
片方はキッチリ眉毛。もう片方はオシャレアゴヒゲ。特徴的である。
彼らの喧嘩の発端は、洗いものをしていたハインの耳にも聴こえていた。
眉毛が店内上方に設置したテレビのニュースを見て、「これだからラウンジは駄目なんだ」と呟いた。
その途端に、女連れだったアゴヒゲの機嫌が急に悪くなり、
女がトイレに立った途端、アゴヒゲは眉毛に食ってかかったのだ。
(,#゚Д゚)「てめぇアレだぞゴラァ! 彼女の故郷馬鹿にしやがってよぉ!」
_
(#゚∀゚)「ハァーん? 知るかよファック! ラウンジはヒトのハナシ聞かねえから悪ぃんだよ!」
二人の主張はほとんど噛み合っていないまま、どちらも勝手にヒートアップしていた。
(*゚ー゚)「これマジやばくない……?」
アゴヒゲの連れのショートヘアが戻ってくる頃には、二人とも刃渡りそれなりのナイフを取り出し、
他に居た客は逃げ、店長ハイン、ウエイトレスのサダコは、彼らを刺激しないよう両手を挙げたのだった。
「あのぉ店長さん……」(;゚ー゚)っ ∩从 ゚∀从∩「ぬ……?」
連れの女が戻ってきたことに彼らは気付いていない。
女も気付かれたくないのか、こそこそしゃがんでカウンター裏に侵入し、ハインに声をかけてきた。
从っ゚∀从っ(*゚ο゚)そ ガシッ 「っし! これで……」
5
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:28:02 ID:wXS1EycE0
_
(#゚∀゚)つ=l三ヲ「あのよぉあの世! 刺したら逝くよ!」
ヾ≡l=て(゚Д゚#,,) ゴラゴラゴラァ!
从 ゚∀从っ(*゚н゚) (どうせ掃除代は俺が持つんだろ……? そいつぁ嫌だね……!)
もう店内に血の雨が降るのは目前。特にアゴヒゲはかなり熱くなっている。
だからこそハインはショートヘアの首根っこを掴み、この場を諌めることにした。
从#゚∀从つ(;>д<) イタイイタイ (だいたい、他の客も金払わずに逃げてんだよ!)
ギリッ
从#゚∀从「おいてめえらこいつがどうなっても――
( -дミセ;゚Д゚)リ「――うおおおあああまた事件起きてるぅううう!!!!」
_
( ゚∀゚ ) !? (,゚Д゚,) !?
喫茶店のドアが開け放たれた。
入り口に現れたのは木苺採りに行かせたアルバイトのミセリと、彼女に背負われた青年だった。
ボテッ
(д- )彡 ミセ*゚Д゚)リ「またですか! またヤっちゃってんですか店長!? もーいつもいつも――」
(,#゚Д゚)「あれっ!? シぃぃッ! てめえらどういうことだゴラァ!」 (゚ο゚;)と从∀゚ 从「あー……」
「だったら!」 ダッ Ξ(,#゚Д゚)つ Ξミセ;゚Д゚)リ「なんでぇぇぇぇっ!」
∩川д川∩ (あーあーこじれてきた……)
6
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:28:48 ID:wXS1EycE0
从#゚∀从;゚ο゚)「いい加減出てけよチンピラァ……」
(,#゚Д゚)つ三セ;>ー<)リ イタタタ 「シィを離さねえとエラいことになるぜ……」
_
( ゚∀゚)川;д川 アワワ 「キミおっぱいでかいし髪綺麗だね……」
三者三様。
ハインは連れの女をエサに退店を促すつもりだったのに、
まさかアゴヒゲにミセリを人質に取られるとは思ってもみなかった。
頼みの綱のサダコも何故か眉毛野郎にベタベタ密着されている。
(,#゚Д゚)「賠償金だ……」
从 ゚∀从「!?」
(,#゚Д゚)「この店の金ェ……、全部ここに出せやゴラァ!」
_
(;゚∀゚)「おいおいなぜそうなる……」
(,#゚Д゚)「テメェらヴィップのマワシモンだろ! ラウンジの何が悪いってんだ!」
_
(#゚∀゚)「あ!? ラウンジのトップが古くせえプライドで国内の議員の交渉にも応じようとすらしねえんだろ!」
(,#゚Д゚)つ三セ;>д<)リ イタイッテ 「何言ってるかわかんねえぞゴラァ! 金出せゴラァ!」
从 ゚∀从;゚о゚) 「やっべえ駄目だコイツ……」
_
( ゚∀゚)川*д川 アッ・・・ 「マズいな……どうやら変な火を点けちまったらしい……」
| つ モゾモゾと
7
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:29:53 ID:wXS1EycE0
オイアバレルナ (,;゚Д゚)つ三セ;>д<)リ「いたいよおおおお!! テンチョオオオオオ!!」
_
( ゚∀゚)(おい店長さん)ヒソヒソ
从 ゚∀从(コイツ直接脳内に……)ボソボソ
_
( ゚∀゚)(もう金出せ)ヒソヒソ
从 ^∀从「ちぎるぞ」
_
( ゚∀゚)「この場を丸く収めるにはレジから金出すしかないだろ。あの女の子も人質になってる」
从 ゚∀从「元はといえばおまえのせいだろ」
_
( ゚∀゚)「ああ俺のせいだ。だからチンピラから女の子が離れればどうにかしてやる」
从 ゚∀从「離れないまま連れてかれたらどうすんだ」
_
( ゚∀゚)「逃げるなら隙ができるし……、アイツ馬鹿だからなんとかなるだろ」
从 -∀从「一理……、ねーよ」
(,#゚Д゚)「ごちゃごちゃ話してんじゃねーぞゴラァ! やっぱてめーらグルなんだろ! 金ェ!」
从 ゚∀从(; Д )「つーか条件おかしいだろ……あいつ金と女どっち大事なんだっつの……」
_
( ゚∀゚)っ「あーそこはほら、あんたが締めあげてる女に訊けばいい」
8
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:30:27 ID:wXS1EycE0
オチツケ
(,;゚Д゚)っミセ#゚Д゚)リ 「はなして! 超はなして!」
( う=l三ヲ
从 ゚∀从「おい女」コソコソ
(;゚ー゚)「はい」
从 ゚∀从「お前彼女だよな? アイツ止めろ」
(*゚ー゚)「いや……」
从 ゚∀从「無理ってんなら俺にも考えがないわけじゃない」
(*゚ー゚)「はぁ」
从 ゚∀从「お前をぶちのめしてそれに発狂した男をぶちのめす。バカップル制裁」
(*゚ー゚)「たぶん私はぶちのめせないですよ」
从 ゚∀从「さあな。とにかくこっちもバイト人質にされて売り上げ奪われそうなんだからよ」
(*゚ー゚)「でも」
从 ゚∀从「まあお前に決めさせてやる。とりあえずバイトが暴れてるうちに決めろ」
イイカゲンニ・・・ (,#゚Д゚)つ=l三ヲ);゚Д゚)リ そ ヒィィ
从 ゚∀从「ごめんやっぱ早く頼む」
9
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:32:02 ID:wXS1EycE0
(*゚ー゚)「……」
ショートヘアの女は一度息を飲むようなそぶりを見せる。
しかし、その呼吸音はハインの耳には入らなかった。
ミセリがマジヤバい。
頬に突きつけられたナイフが少しでも動いたら、その肉を貫きそうで。
もしもそこから出血でもしたらヤバすぎて困ってしまう。
血が駄目なのだ。どうしようもないくらい駄目だ。
駄目すぎて大変だから、こんな喫茶店をやっているのだ。
_
( ゚∀゚)「おいマジでヤバいっての。もういっそ――」
从 ゚∀从っ ・・・ 三 ヾ(*゚ー゚)ノ「ギコくん!! やめて!!」
「シィィィッ!」(゚Д゚,,)っミセ*;н;)リ
( う=l三ヲ
そこでハインを振り切り、ショートヘアは飛びだした。
ナイフを持ったギコくんはミセリを離さないまま、目だけで彼女を受け止めた。
(*゚ー゚(,,゚Д゚)「よし、これで安心だ……」
(;>д(,゚Д゚,)っミセ*;н;)リ 「オラァ! さっさと金出せやゴラァ!!」
( っ ( う=l三ヲ) て)
从;゚∀从「おい! ふざけんじゃねーよ! お前ら実はただの強盗だろ!」
_
( ゚∀゚)「こいつぁ極悪人だぜ……」
10
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:33:27 ID:wXS1EycE0
確かにあり得ない話ではないのだ。
喫茶店強盗なんて間抜けな響きではあるが、
この喫茶店「シベリア」はコルセット内唯一の憩いの場として機能している。
規模はそれほどではない。客のキャパシティも三十二名が限度だ。
しかしコルセット内に店を置くにあたって
割高な飲食品や無意味に割高なサービス、やたら割高なお持ち帰り品など、
ハイリスク故に黙認される割高無秩序経営が行われている。
客が本当に安心してランチタイムなどを過ごせるよう、
三国の緊張状態なんてぜんぜん思い出させないよう、
フランクであり固有の空気感をハインは店に意識しているためだ。
だからこその無防備。それゆえのフリーダム。
客の求めるノーボーダーの対価にしては、一級守銭ディストであるハインのそれは妥当な経営だった。
从 ゚∀从「三か月に一度くらいの強盗がきやがったってな」
_
( ゚∀゚)川*д川 「んで店長さんどうするんだ? 結局バイトちゃんは……」
(*゚ー゚)(゚Д゚,,) ヒソヒソ
強盗犯のギコくんは完全優位に立ったことで余裕のコソコソ話をしている。
だがミセリは普通の少女だ。気を抜いているとはいえ刃物を持った男の隙を突くのは厳しい。
从 ゚∀从「サダコ。いい加減眉毛から離れろ」
_
ア・・・ ( ゚∀゚)っ 川д川 「すみません気持ち良くて。どうしますか?」
从 -∀从b「そりゃおめーアレ。チンピラ二人の未来と、ウチの労働力を天秤にかけるだけだろ?」
11
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:34:09 ID:wXS1EycE0
川д川「そうですか」
サダコはあっさり言って、紺と白のウエイトレス服のロングスカートへ手を伸ばした。
動きに淀みはない。クセや素振りもない。手先がスカートの腰元に寄っただけ。
チンピラのギコくんが気付くような、大仰としたものではなかった。
_
( ゚∀゚)「えっ、殺すの?」
すると、所在ない様子だった眉毛がポロリと口を挟んだ。
(,#゚Д゚)「あァ!? んだゴラァ!」
从 ゚∀从「っせーなアイツ……。別に殺さねえ。お引き取り願う」ボソッ
_
( ゚∀゚)「殺さないにしろ俺ら若者から未来奪っちゃ駄目だぜ。どうせこっちのケンカだ」
从 ゚∀从「お前のせいでこじれてんだっつの。そろそろ付き合ってられねえ」
川д川「店長?」
从 ゚∀从「待てサダコ。……ならマジでてめえがなんとかしろ。ちなみに流血厳禁な」
_
(;゚∀゚)「流血ナシって……、さらに厳しい条件まで……」
そこで眉毛は強盗犯のほうを見て溜め息をついた。
_
( ゚∀゚)「ま、しゃーねえか」
きっ、と表情を固めた。
こいつもさっきの女みたいに逃げたらブチキレよう。そうハインは思った。
12
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:34:43 ID:wXS1EycE0
_
∩( ゚∀゚)∩「おいチンピラ」
(,,゚Д゚)「あ?」
_
∩( ゚∀゚)∩「まずは状況を整理しようぜ」
(,,゚Д゚)「んだと」(*゚ー゚)「ギコくんやめっ」
_
∩( ゚∀゚)∩「……そりゃ俺も悪かったよ。あんたの彼女の故郷をバカにしたし、喧嘩買ったしな」
(,,゚Д゚)「おう。てめえが悪い。ヴィップ国人が適当な言い草でバカにしやがった」
ギコの様子は比較的落ち着いているようだった。
シィとかいう女がすぐそばに戻り、ストッパーの機能を果たしているのかもしれない。
_
∩( ゚∀゚)∩「うーん。ところでお前、生まれはどこだ?」
(,,゚Д゚)「あ?」
_
∩( ゚∀゚)∩「彼女さんはラウンジで、お前は違ったりしないか?」
(,,゚Д゚)「……俺ぁダットだ。なんでわかった」
_
∩( ゚∀゚)∩「多分まあ、そこが俺とお前の感覚の違いだろうよ」
(,#゚Д゚)「あ? どういうことだゴラァ」
_
∩( ゚∀゚)∩「何か勘違いしてるみたいだが、俺はラウンジ国民。いわゆる『ラウンジャー』だ」
.
13
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:35:16 ID:wXS1EycE0
从 ゚∀从「ふぅん」
ハインは少し驚いた。
眉毛男のダボダボした服装や、若干濃い目の顔や眉毛は、ヴィップ人の特徴だった。
だからギコも無意識に勘違いをして、「ヴィップ人に」噛みついたのだ。
_
∩( ゚∀゚)っ□ ウォン 「ほれ。見えるか? コルセットまわりで使ってるパスポート」
(,,゚Д゚)「……」
ギコは眉毛の掲げたパスコード端末に目を細め、じろじろと確認している。
ハインも横目でそれを伺うと、「N・ジョルジュ」の名前と、国籍がラウンジにあることは確認できた。
_
∩( ゚∀゚)∩「俺はヴィップの人間じゃない。自国民として、ラウンジは駄目だって言っただけだ」
(*゚ー゚)「そうだよギコくん。さっきこの人内政のこと言ってたけど、私でもあれはどうかと思ったもん」
(゚Д゚,,)「……あ? そうなのか?」
_
∩( ゚∀゚)∩「別によ。お前みたいにどこの国でも肯定できる感情は否定しねえ。
むしろ素晴らしいね。ダット人らしいっちゃらしいっつーか、戦争とは無縁のスタンスだ」
_
( ゚∀゚) 「ただ、こっちの事情もちょっとはわかってほしいわけよ。
ラウンジ国内だとどこに居てもラウンジを悪く言いにくいんだ。俺みたいなツラだと特にな」
ウンウン (*゚ー゚)(゚Д゚,,) マジカヨ
_
( -∀-)「だからここ……えーっと、ほら、良い店だよな『シベリア』って。
店長可愛いし、ウエイトレス超可愛いし、外国人の愚痴も適当に聞き流してくれるんだからよ」
.
14
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:37:37 ID:wXS1EycE0
_
( ゚∀゚)「お前もここがフリーな場所だから、彼女さんとここに来てお茶してんだろ?」
_
( -∀-)「俺もあんたらと同じだよ。冷戦のくせにフリーで居心地いいからここでゆっくりさせてもらってる。
お互いそんな大事なことがわかってんのに、小さいことでケンカすんのはやめようぜ。
彼女さんもさ、ラウンジ国民の立場で、俺の言ってることはわかってくれるよな?」
(*゚ー゚)「はい。ギコくんと会えるのも、こういう場所だけだから……」
(,,゚Д゚)「シィ……」
(,,-Д-)っミセ;゚д゚)リ ?? 「そうだな……お前を誤解していたことは、俺も悪かった」
( う=l三ヲ) と)
从 ゚∀从(じゃあミセリ離せよクソが……)
川д川(二時半からお客さん減るから休憩だったのに……)
(,,゚Д゚)「だが、重要なことをお前たちは理解してねえ」
_
( ゚∀゚)「おう。なんだい」
(,,-Д-)「馬鹿野郎簡単な事だ。そいつは、そうさ……っ!
キャー (*>ー(,゚Д゚,)っミセ;>Д<)リ !! 「――俺達はッ! 喫茶店強盗なんだよォ!」
( っ ( う=l三ヲ) と)
从# ∀从 「……ッ、の…………ッ!」
15
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:38:22 ID:wXS1EycE0
从#゚∀从「サダコォォォオオオオッ!!!!
ソイツを潰せェェェッ!!!!」
.
16
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:39:13 ID:wXS1EycE0
ハインが叫ぶよりも早くサダコは飛びだしていた。
ロングスカートを摘まんで白い腿を露わにし、三つ並ぶ四人掛けテーブルの上を跳びはね、
店の入り口付近でミセリに刃物を構えているギコの足元に猫のように着地した。
(,;゚Д゚)「ヌォッ!?」
川д川「んほぉっ……」
ぎょっと身を強張らせたギコの、刃物を握った右手。
サダコはギコの目を引っぱたきつつその手首を掴んで、ミセリと反対側へ力任せに捻りあげた。
(,;゚Д )「イッテテ!!」
川д川「ミセリ」
Ξミセ;゚Д゚)リっ「うわわぁぁぁぁ!」
ミセリが逃れたのを確認したサダコはそのまま、
無防備に体が開いた彼の腹を三発殴りあげる。
(;゚Ο゚) Ξ サッ 「ギコくん!」 ←心配しつつ逃げてる
川д川「三発! 耐えたら! 格闘家!」
ドムッ、とギコの体内に響く打撃音が、店内カウンター近くにいるハインにも聞こえた。
今日のサダコも容赦ない。客足の途絶える二時半からは小休憩だったのだ。
彼女の苛立ちが腹パンに乗ってしまうのはごく自然なことに違いない。
川#д川「六発! 耐えたら! サイボーグ!」
.
17
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:40:16 ID:wXS1EycE0
四発目でギコは完全に意気消沈していた。
じっくり抉っていくように繰り出されたサダコの腹パンは、十二発でなんとか止まった。
(;゚ー゚)っ「あ、れ……、ヤバくない?」 c⌒っ; Д )っ
川д川「大丈夫です」
ヨシヨシ 从 ゚∀从っ⊂( リ彡 Ξ ウワァァテンチョォォ
ハインはふらふらやってきた ↑ミセリを受け止める。
外臭いが特に怪我もしていないようだった。
从 ゚∀从(アイツ内臓破裂してね? 自業自得だけど……)
_
( ゚∀゚)「アイツ内臓破裂してね? 口から……」ボソ
从;゚∀从「し、してねえよ物騒だな! やめろ!」
_
( -∀-)「つーか結局俺なんもしてねえ……」
从 ゚∀从「しゃーないだろそれは。結局強盗だったんなら俺達が対応するしかない」
_
( ゚∀゚)「あの子で?」
川д川「ええ私で」
_
(;゚∀゚)「あーあせっかく可愛いのに……。なに、もしかしてサイボーグとか特殊部隊?」
川д川「近いですね。特殊個人ですよろしくどうぞ」
.
18
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:41:19 ID:wXS1EycE0
(,,Д(;゚ー゚)「お、お騒がせしました……、それでは……」
ハインらが話している間に、シィはダウンしたギコをひょいと肩に担いで逃げ出そうとしていた。
从 ゚∀从「あ? 行く宛てあんのか?」
(;゚ー゚)「えっ?」
从 ゚∀从「こんなとこで強盗するカップルなんて、どういう状況かだいたい想像つくぜ」
(;゚ー゚)「あはは……」
从 ゚∀从「それに、ちっこいナリで男担げるラウンジ人だろ? もう一択しかあり得ねえって」
(*゚ー゚)「あ、店長さんは詳しいんですね……」
从 ゚∀从「そりゃこの喫茶店のある場所考えてくれよ」
(*- -)「……そうですね。こういう場所、もっと増えたらいいのに」
からんからん、とシィは出ていった。
店正面の大きな防弾ガラス越しに、ギコを担いだ彼女が歩いていくのが見え、すぐに居なくなった。
从 ゚∀从「いやいや増えたらまずいだろ……このへん危ないし……」
ミセ*゚ー゚)リ「……へ?」
从 ゚∀从「なんだよ」
ミセ*゚ー゚)リ「あのひとたちなんなんですか? 話聞くとこ、女の人はサイボーグですか?」
19
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:42:32 ID:wXS1EycE0
从 ゚∀从「まーそんなとこだろ。呼吸してないみたいだし、もしかしたら人間じゃないかもしれん」
ミセ*゚д゚)リ「えぇ……」
从 ゚∀从「ここ六年くらいのラウンジはマッド過ぎるからな。
お偉方だけがグリグリ政治転がして、民衆はほとんど振りまわされてる状態だ。
舗装具だとか人工臓器、あと脳の研究が流行っててさ。目的は結局軍事なんだけど」
ミセ*゚д゚)リ「軍事ビジネスですね!」
从 ゚∀从「違う。ラウンジは世界でトップクラスの医療技術と、その手の特許もかなりあるから金は潤沢だけどな。
共和国内の元の国の一つに、今の先進医療の走りがあったんだっけよ、確か。
まあ詳しい経緯も知らんが、とにかく国の金は『国民を戦争から守るために』、軍備とソッチに傾いてる。
しかもそのへんの研究に関しては、何故かある程度グローバルに開いてるらしい」
_
( ゚∀゚)「で。そんだけ腕が回るなら今の事態を収束できるように動けってハナシよ。
ヴィップとの折り合いつけるのも大変だろうが……、国内でも独裁みてえな動きに反発が起きてる。
だいたい冷戦のきっかけになったエネルギー保有問題なんてほとんど解決してんだからさ」
从 -∀从「その問題なぁ。波及の仕方が最悪だったせいで、世界への二次被害のほうが……」
ミセ*>ー<)リ「あ、ついていきたくないからもういいです!」
川д川「あなた一応留学の体でダットに来ているんでしょう? 店長の話くらい理解したら?」
ミセ*゚ー゚)リ「わたし理工学部なのでどうでも」
川д川「私は大学も出てないからガクブなんてのもさっぱりなのに……」
从 ゚∀从「あー。要するにあの女、ラウンジのマッドな研究で迷惑被って逃げたんだろうってコト」
20
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:43:16 ID:wXS1EycE0
_
( ゚∀゚)「それで国外の男引っ掛けて『どこかに逃げよう!』ってか? ロマンスだな」
从 ゚∀从「鉄臭いロマンスにならなきゃいいけどな。
他国にとってのオーバーテクノロジーが外歩いてる場合もあるんだし。
そんな場合なら国外に出りゃ確実に監視がついてる。国出られるなら問題はないだろうけど」
_
( ∀゚)+「オバテクね……」
从 ゚∀从「こっちみんな」
_
( ゚∀゚)「胸に使ったらどうだい」
从 ^∀从「消すぞ」
ミセ*゚ー゚)リ「あ、そうだ店長。木苺とってきました」
从 ゚∀从b「サンキューミッセ」
_
( ゚∀゚)「えっ。買ってないの?」
从 ゚∀从「数使わないから採ってきた方が安上がりなんだよ。商売舐めてんのか?」
_
(;゚∀゚)「飯とかデザートに期待してないからいいけど、客商売舐めてんのそっちだろ……」
ミセ*゚д゚)リ「あれ。きいちご、ないちご……」
Ξ ミセ*゚ヮ゚)リ「そーだ。さっき強盗に捕まった時に落としたのかな? 道路道路♪」
_
( -∀-)「食いもんなんだからさぁ……」
21
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:44:25 ID:wXS1EycE0
バタン
从 ゚∀从「つーかお前いつまでいんの? さっさと金払え」
_
( ゚∀゚)「あ……もう三時か……」
川д川「あと私のお腹むにむに触った代金ください」
_
( ゚∀゚)「えっ。逆に、金払ったら触っていいの? 柔らかいのに武闘派ウエイトレスちゃん」
川д川「考えておきます」
_ ∩
( ゚∀゚)彡 ? ?
⊂彡
川д川「それはへし折ります」
从 ゚∀从「そっちの営業は俺のプライドが許さないから」
_
( ゚∀゚) ・・・
⊂彡
从#゚∀从「あるだろ! 腕振れオラァ!」
_
( ゚∀゚)「冗談はさておき俺も帰るかな。領収書ェ」
( -дミセ;゚Д゚)リ「うわあああテンチョオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」
川д川「うるさいなぁ……」
22
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:45:33 ID:wXS1EycE0
从 ゚∀从「どうした忙しい奴」
ミセ;゚ー゚)リ「忘れてました!!」
ミセ*゚ー゚)リっ ポイッ
ミ ドシャッ
,c⌒っ -д-)っ,, 川д川「捨てた……」
ミセ;゚д゚)リ「この人! 山の中で行き倒れになってたんですよ!」
从 ゚∀从「なにこいつ」
ミセ*゚ー゚)リっ□「パスコード見てください」
从 ゚∀从っ□「……シタラバ人の、C・ミルナ?」
川д川「C姓?」
从 ゚∀从「クォッチだってよ」
川д川「あ、ヒッチコック好きです。語呂が」
ミセ*゚ー゚)リ「……名前じゃなくて! この人わたしと出身が同じなんです!」
从 ゚∀从「は? 国全然遠いだろ。お前このシタラバの……カコログ大だろ?」
ミセ*゚д゚)リ「だからおかしいんです!
出身シタラバ、年齢はわたしの一個上の若者が、ダットに来る意味がないんです!」
从 ゚∀从「旅行じゃね? まあ行き倒れなら大使館連れてくか」
23
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:46:24 ID:wXS1EycE0
ミセ*゚皿゚)リ「ぐぬぬ」
从 ゚∀从「何故キレられてんだ……」
ミセ*゚ー゚)リ「ダットに旅行なんて何考えてるんですか! このご時世!」
从 ゚∀从「いやお前留学じゃ……」
ミセ*゚ー゚)リ「それにですよ!」
┣¨
|
ミセ*゚Д゚)リ「このひと! |
名前と出身地以外のパスコードデータが!
全部抹消されてしまっています! 」
|
|
ン
!!!!
从 ゚∀从「じゃあ尚更大使館だな、さっさと行ったほうがいい」
川д川「ですね。車出しますよ」
ミセ;゚Д゚)リ「うわぁっ! たしかに!」
从 ゚∀从「パスコードなんて人間住所みたいなもんだし、大使館でシタラバのほうに訊けばすぐだろ?」
ミセ*>д<)リ「そうかぁ……詰めが甘いなぁ消したひとぉ……」
.
24
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:49:39 ID:wXS1EycE0
……瞼越しにほのかな光と、騒がしい音を感じた。
そこでようやく、現在まで自分が眠っていたことを認識し、体はついていかずに痛んでいるのがわかった。
重い疲労感。まるで落下し続けた後のように全身の関節がふわふわとして、掴みどころがない。
吐き気と頭痛の混ざったような淀みが後頭部で泥のように滞留しており、つまるところ最悪のコンディションだった。
「あれっ! ジョルジュさんがいつの間にかいなくなってる! お代はあるけど!」
高い声で喚いてる。
その甲高い少女の声がよく聞こえ、他にはハスキーな発声で喋る女と、柔らかい発音の女性らしい声がある。
「そういやあのジョルジュってヤツ、変だったよな」
ハスキー声が言った。
「何か変でした?」
女性らしい声が応じた。
「あいつこの店来るの初めてだったくせに、なにウチの店のことチンピラに語ってんだよ」
「ああ、雄弁と語るわりに見たことのない顔でしたね。客商売なので馴れ馴れしいのも黙ってましたけど」
「……んっ? あ、このひと動いてますよ! 生き返りました!」
肩をゆすられた。
死んでいたとはさすがに思えないが、どうやら生き返ったらしかった。
それでは仕方ない。いつまでも死体ではいられないので、彼は瞼を開けてみることにした。
_,
( ゚д゚ )「っ……眩しい、な……」
.
25
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:50:12 ID:wXS1EycE0
照明が輝いてる。
白の大きなものと、オレンジの小さなものが天井に点在し、暖かい印象だった。
寝転がっていたのはソファの上らしかったが、すぐ真横にテーブルがあって狭い。
テーブルに手をかけて体を起こしてみると、飲食店に置くようなの固定テーブルとソファだと気付いた。
ミセ*゚ヮ゚)リ「起きましたよ!」
从 ゚∀从「見りゃわかる」
川д川「どうも彼は、状況がわかっていないようですね」
( ゚д゚ )「ええっと。どうも。初めまして……」
彼が見た女性達の顔は、あまり見慣れていないタイプの造形が多かった。
髪の跳ねた少女は懐かしい印象があるが、片目の隠れた前髪女と、顔が隠れぎみの女は、鼻が高い。
いいや。
見慣れていない造形だが、片目の隠れた女の顔には、確かに見覚えがあった。
ミセ*゚ー゚)リ「どうもわたしはミセリです! あなたと同じシタラバ出身! そしてあなたを助けたの!」
从 ゚∀从「自己紹介要るか? あとは大使館送るだけだろ」
ミセ*゚ー゚)リ「えー要りますよ。ほら自己紹介お願いします」
( ゚д゚ )「……自己紹介要るんですか?」
ミセ*゚д゚)リ「だから要りますってば! セイ!」
.
26
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:50:53 ID:wXS1EycE0
( ゚д゚ )「あー、よくわかりませんが助けていただいたようですね。俺の名前は――」
名前は。名前は。
セルバンテス。ヒッチコック。エリザベス。
浮かんできた言葉がどれも自分の名前でないことは印象でわかるが、
( ゚д゚ )「名前、は……」
从 ゚∀从「えっ」
ミセ*゚ワ゚)リ「えっ!」
川д川「……」
( -д- )「……助けていただいたようでありがとうございます」
ミセ*゚Д゚)リ「ごまかしたぁぁぁー!!」
意識を一時的に失っていたのだ。記憶の混濁が起こっているに違いない。
まさか自分が記憶喪失になるなんて。そもそも考える頭があるのに自分の情報が無いなどあり得るのか。
記憶の保持形態は、いくつかに別れているはず。そうだ。健忘にも程度があるという知識は、ある。
もしかしたら、単に名前だけ忘れているだけなのかもしれない。
( ゚д゚ )「いや。あの。ド忘れしたみたいで……、持ち物とかでわかりますか?」
ミセ*゚ー゚)リ「やっぱり忘れてるじゃないですかぁ」
なぜ少女が楽しそうなのかさっぱりわからないが、疑問は飲み込んでおく。
.
27
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:52:05 ID:wXS1EycE0
ミセ*゚ー゚)リっ□「あなたはクォッチ・ミルナさんです。出身はシタラバ。わたしと同じ。以上です」
そう言われればそんな気がしないでもない。
一応彼は、ミルナとして自分を把握しておくことにした。
ミセリと同じ出身というのも、なんとなく見慣れた雰囲気への印象と矛盾しない。
( ゚д゚ )「クォッチ・ミルナに、シタラバ……? それだけ?」
从 ゚∀从「だけだぜ。やべーな、記憶喪失が山に行き倒れだったか」
川д川「ラウンジの話聞いた後だし……この人も逃げてきたのかと思っちゃいますね」
( ゚д゚ )「ラウンジ? 逃げた?」
ミセ*゚ー゚)リ「ラウンジ知らないんですか?」
( ゚д゚ )「いえ、知っていますが……。ではここはどこですか?」
从 ゚∀从「ラウンジの隣、ダットの中部。コルセット地域ってわかるか。そこにあるしがない喫茶店」
ラウンジ、ダットは国。コルセットは……、特徴的な地域だったような覚えがあった。
一般教養はあるらしい。いっそ自分に、もう少し明確に勉強しておけとも思った。
ミルナは居場所を知ったついでに、全身の調子を確認した。
節々は痛むが怪我はなさそうだった。頭痛も収まり始めている。
服装は黒いジーンズと、薄手の洋服の上にクリーム色のジャケットを着ていた。
( ゚д゚ )「じゃあ、喫茶店の名前は?」
从 ゚∀从「シベリア」
28
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:52:39 ID:wXS1EycE0
シベリア。
シベリア。
シベリア。
( -д- )「…………」
反響した言葉に感触がある。
持っている知識に噛み合う感じがこれなのかもしれない。
そのまま思考は、「だとしたら」と連鎖して流れた。
ダット。コルセット。
喫茶店。「シベリア」。
だとしたら。
マスターがいるはずだ、と。
ふとしたひらめきに周囲を見回す。
ミセ*゚ー゚)リ ネチャッタ? 从∀゚ 从 ナワケネーダロ 川д川 ・・・
感覚的に「知っている」顔は、一人だけだ。
( ゚д゚ )「シベリアのマスターは、スカルノチフ?」
从 ゚∀从「……は?」
.
29
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:53:23 ID:wXS1EycE0
ミルナの言葉は、自分でも驚くほど自然に出てきた。
「シベリアのマスターはスカルノチフ」。それは何度も練習したかのように反射的に告げられた。
从 ゚∀从「俺は、T・ハインだ」
( ゚д゚ )「いえ、よくわかりません。俺もこれだけは覚えているみたいで」
从 ゚∀从「…………」
ハインと名乗ってはいるが、ハインはスカルノチフではないかと確信のように思っていた。
知識だ。ミルナ自身が経験したようなものではなく、知っておくべき知識の一つがそれなのだろう。
川д川「店長」
从 ゚∀从「あー……………………」
ハインはぽかんと口を開けていたが、眼光だけは鋭くしていた。
ミルナを睨んでいるわけではなく、思いつめたような目だった。
从 -∀从「ミセリよ」
ミセ*゚ー゚)リ「はい?」
从 ゚∀从「コイツ、大使館に連れてくの辞める」
ここはダットで出身国はシタラバ。前後不覚だし、事件に巻き込まれていたのかもしれない。
確かに本来なら、これはもう大使館に行って自国の助けを求めるべきだ。
ミルナはそこでようやく、自分の状況をほんのり理解した。
(;゚д゚ )「……って、あれ? 何故ですか? 大使館に行けば、あなた達に迷惑もかけずに済む」
30
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:54:25 ID:wXS1EycE0
从 ゚∀从「うさんくせえよ、お前」
ハインはきっぱりと言った。
从 ゚∀从「山に行き倒れてて、記憶失ってて、ミセリに拾われて、俺のことだけは知ったかぶり?」
( ゚д゚ )「知ったかぶりというか……」
从 ゚∀从「確かに俺もちょっとした立場だ。三国それぞれから見て、完全無視は不可能だろう。
『喫茶店のマスター』って肩書きだけじゃないのは、客も仕入れの仲介業者もわかってるはずだ」
( ゚д゚ )「……立場?」
从 ゚∀从「さっきのジョルジュとかいう野郎もだが、あの手の『マワシモン』が嗅ぎ回りに来るのはよくある」
川д川「店長、急に何を……」
从 ゚∀从「いいから」
川д川「……」
从 ゚∀从「可能性としちゃ、コイツも俺の周りを嗅ぎまわってるワンコロってことはありえるんだ」
ミセ*゚ー゚)リ「それじゃ記憶喪失設定が非合理すぎますけど……」
从 ゚∀从「なんでも知らないふりしてりゃ、ポロっと言っちゃいけないことこぼすかもしれねえ」
ミセ;゚д゚)リ「いやそれは、」
(;゚д゚ )「何だ。話についていけん……」
31
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:55:42 ID:wXS1EycE0
从 ゚∀从「だから……。お前はこのまま大使館なんて連れてっても大人しく国に帰らねえだろ?」
( ゚д゚ )「そんなことは」
从 ゚∀从「お前の視点だったらどうだ。何故この辺で記憶失ってたのか、知らないままでいいのか」
( ゚д゚ )「気にならないわけでもありませんが……」
从 ゚∀从「シタラバはここから400キロは離れてる。
『事件性がなさそうだという判断をしたら』、シタラバもダットもすぐに捜査を打ち切るだろうな。
もちろん、お前が何故ここで倒れていたのか、って明らかな不自然があってもだ」
( ゚д゚ )「……何が言いたいのかわからない」
从 ゚∀从「合理的に考えるなら、お前をここにいさせるのがベターだってことだよ」
余計にわからなくなってしまった。
从 -∀从「お前がどっかの犬なら、どうせこのあたりを嗅ぎまわり続ける。
それなら首輪をつけて監視したほうがいいってのが俺の判断。
お前の「事情」はもう把握したから、この提案を断る理由はないぜ」
从 ゚∀从「なぜならだ。
お前が本当に記憶喪失なら、喪失の原因と、失くした記憶をできるだけ取り戻さねえと、
最悪の場合、いつか何も知らずにわけのわからん奴にぶっ殺されるかもしれない」
(;゚д゚ )「な……」
从 -∀从「何驚いてんだよ。お前が倒れてたのは『コルセット』。
冷戦の板挟みになったこの場所では、不審死体が挙がるなんてしょっちゅうだぜ?」
32
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:56:33 ID:wXS1EycE0
( ゚д゚ )「コルセット、か」
そうだ。確かにハインの言うとおり、コルセットはそういう危険地帯だった。
これは知っている。一般教養だとか、歴史の教科書に載っているだとか、それくらいの知識。
ならばそこに住むハインには、多少オーバーだとしてもおかしなことは言えないはずだ。
ハインはミルナを疑っている。ここに論理性がなければ話にならない。
首輪をつけるというのだから、すぐバレる嘘をつく意味がない。
そして先程の言葉。
もしも自分が、仮にコルセット内で暗躍する人間だとしたらどうだ。
ハインの今の言葉は、「尻尾を見せたらお前に殺す」という解釈をするのではないか。
( -д- )「ふむ……」
从 ゚∀从「あ?」
しかしそこまでするのか。そこまでしても許される場所なのか。
やはり、このまま大使館に行って助けを求める方が自然ではないだろうか。
ミルナからすればこれは全く身に覚えのない、ただの理不尽、不条理な状況でしかないのだ。
だいたい彼女にまとわりつくような人間でないことは、
他ならぬ自分こそがわかっている「はず」なのに……。
( ^д^ )ゞ「ははは。こりゃ大変」
从 ^∀从ミセ*^ー^)リ(うわきっも)
33
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:57:55 ID:wXS1EycE0
(;゚д゚ )「だってぇ……」
从 -∀从「あのなー。マジでアタマ吹っ飛んでるなら俺達が保護してやるってことだぜ?」
( ゚д゚ )「なんと」
从 ゚∀从「それにお前の言ったスカルノチフ、一応は俺の知らない名前ではねーからな」
ミセ*゚ー゚)リ「……」
从 ゚∀从「ま、別にいいんだ。
お前が店を出た瞬間にヘッドショット決められようが、この道の先で刺されようが、
シタラバ帰りの飛行機が爆散しようが、実家が全部灰になってようが、
戦争の火種をお前がシタラバに持ち込もうが――」
从*>∀从b「――そんな目に遭う可能性もなく身柄もどうにか保障され、
祖国が同じ現役女子大生と同じ部屋に住み込みでのんびり働こうがなぁ!」
(*゚д゚*)そ !? ミセ;゚Д゚)リ !?
川д川「……ええ。いずれにせよ、決めるのはあなた自身……」
从 -∀从「そうさ……、別に無理を言ってるわけじゃあない……」
川д川「私たちから言えるのは、一つだけなの」
从*^∀从6m「喫茶店シベリアは、いつでもあなたのご来店をお待ちしておりm」m9川*д川
ヽミセ#゚Д゚)リノ「この茶番すらスルーしなければならない事案が発生したのでぇ!」
.
34
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 21:58:56 ID:wXS1EycE0
ミセ*゚Д゚)リ「どういうことですか! 一緒に住むとか嫌ですよ!」
从#゚Д从「おめーがコイツ連れてきたんだろうが! っざっけんじゃねえぞオラァ!」
ミセ*;ー;)リ「あまりの正論が身に染みる」
从 ゚∀从「じゃあいいよコイツ見捨てろ。死んだら全部お前のせいだ。よく顔覚えときな」
ミセ*゚−゚)リ「それは……」
从 ゚∀从「なんで渋る」
ミセ*゚⊿゚)リ「見捨てるっていうのもちょっと……」
从 ゚∀从「目的でもあんのか」
ミセ*゚З゚)リ「そりゃ……。ない、です、けどぉー」
川д川「ヒッチコックさんにも訊いてみません? さすがにいきなり死ぬのも嫌でしょうし」
( ゚д゚ )「嫌ですね。住み込みというのもいい話だと思います」
ミセ;゚д゚)リ「……、さっき、さっきえっちな顔してたくせに……っ!」
( -д- )「ハインさんに言われた通り、確かに自分の記憶は知っておくべきでしょう。
自分がシタラバ出身だというのはなんとなく納得できるし、ダットに居たのは気になる」
( ゚д゚ )「それに俺はあなた達と普通に話せているし、理解の齟齬も無いというのも不思議だと思っていたところだ」
ミセ*゚ー゚)リ「……?」
35
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 22:00:13 ID:wXS1EycE0
( ゚д゚ )「シタラバの公用語、ヴィップの公用語、
ラウンジの公用語とダットの公用語は、それぞれで違いますね。
そして俺は今、チャンネル語で話しているのはわかっている」
ミセ*゚ー゚)リ「わたしマルチリンガルなので関係ないです。先進国の九種類」
从 ゚∀从「俺は十五」
川д川「すみません私、三で……このあたりで暮らしてるので、公用語に困ることはないですし」
( ゚д゚ )「……ナチュラルに話せる自慢しようと思ったのにあまり効果がない……」
ヴィップ、ラウンジ、ダットの言語は、隣接した地域のため根幹に「チャンネル語」があり、
そしてチャンネル語との細かい差異(字や発音など)として、三か国それぞれの言語が独立している。
しかしミセリの話だとミルナはシタラバ人らしい。
シタラバの公用語に「チャンネル語」はなく、周辺地域でよく用いられているのは「ネチ語」。
そのため、必要がなければチャンネル語を習得しなくてもいいのだ。
ミセ*- -)リ「というかわたしもシタラバ人なので……すみまっせ」
(;゚д゚ )「ぐぬ」
从 ゚∀从「つーかお前はシタラバ人って確定したわけでもないし、クォッチ・ミルナかもわからんぞ。
パスコードが改ざんされてる可能性もあるんだから、結局見えてるもんは一つだけで……」
( ゚д゚ )「……スカルノチフ?」
从 -∀从「そーだ。お前が体以外に明確にしてることは、その人並み程度らしい教養と、
『スカルノチフ』って言葉だけなんだぞ。残念だったな」
36
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 22:02:23 ID:wXS1EycE0
ミルナは結局頭を抱えた。
言語では自分の立場を把握できないようだ。
思考も「言語」というよりは不定形の「ニュアンス」で個別に整理をしているらしく、
チャンネル語で話している現在では、チャンネル語での出力が多い気がしないでもない、という程度だった。
( ゚д゚ )「スカルノチフは、どこの名前?」
从 ゚∀从「ラウンジ。つーかお前さっきもそんな風にラウンジ語で訊いてきただろ。微妙に拙い感じの」
( ゚д゚ )「……」
これは無意識だった。完全に。
(;-д- )「これは……いよいよもって、自分がわからなくなってきました」
从 ゚∀从「だから匿ってやるって言ってんだ。ここなら情報も集まるし、ろくでもない奴も来るからよ」
( ゚д゚ )「えっ」
从 ゚∀从「俺とサダコがいるから、もしもそういう連中にお前が引っ掛かった場合でもなんとかしてやれる。
その中でなんとか情報を集めていけば、もしかしたらお前の記憶も戻るかもしれない」
( ゚д゚ )「なぜそこまでしてくれるんですか?」
从 ゚∀从「してやってる気はねーよ。自惚れてんのか」
( ゚д゚ )「それならどうして」
从 ゚∀从「大したことじゃない。俺の守銭ディストセンサーにかかった。金になるかもしれないからだ」
37
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 22:04:45 ID:wXS1EycE0
( ゚д゚ )「ああ……なるほど」
从 ゚∀从「驚かないなら話が早いぜ。
単純なことで、お前がどっかの被験者である可能性も考慮しておくってだけだな」
ミセ*゚ー゚)リ「記憶操作マシンですか?」
从 ゚∀从「記憶操作に限る気はねーよ。
ヴィップかラウンジか。それとも全く無関係か。
もちろんどっかのスパイだったり、この店自体に目的があるにしても。
自称『謎の人物』をそばに置いておけば、何かが起こるのは間違いねえ。コイツ自身にしても……」
ミセ*゚ワ゚)リ「ご都合主義ですね!」
从 -∀从「必然だバカ。コイツがお前と小部屋で共同生活になっても何も起きないって言う気かよ。
それこそご都合主義ってもんだぜ」
ミセ*゚д゚)リ「まじで同じ部屋にされたら……!」
从 ゚∀从「ま、優男一人だしサダコに監視もさせる。こっちの都合上、外部との連絡も断たせてもらうぜ」
(;゚д゚ )「はぁ」
从 ^∀从「そんで、もしコイツがどっかの研究対象としてエラい鍵を握ってたりでもしたら、
接触してきた関係者全員強請って金ふんだくる。『モルモットぶっ殺すぞ』って」
川д川「妥当なところです」
从 ゚∀从「つーわけだ。オーケー? あとはお前がどうするかだけ聞いてやるよクォッチ・ミルナ(仮)。
もちろんお前が無害のアムネジアだとも思ってるが、大使館には行かせねえとは言っておく」
38
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 22:06:11 ID:wXS1EycE0
( ゚д゚ )「なんですかそれは。最終的に話は戻って、どちらにしても俺をここに置くと」
从 ゚∀从「イエス。そしてここでの返答次第で、マスターの俺がお前の待遇を決める」
川д川「店長……」 ミセ*゚ー゚)リ「店長……」
( -д- )「…………」
全くの記憶の無い状態から、ミルナ自身が出せる考えはもうなかった。
というよりも状況が狭窄的すぎて、自由がないのだからどうしようもない。
しかし、この付近に倒れていた意味はあるのだろうという想像はついた。
ラウンジ語名の、「スカルノチフ」。
その単語がこの喫茶店シベリアに関わっている、記憶を失くした自分がそれだけを知っている。
この場所に自分が無理矢理にでも置かれる理由も、おそらくこの言葉にあったのだ。
ではその大元はどこにあるのか。
知っている顔が一つあったことは話していないが、彼女なら、知っているのではないだろうか。
( ゚д゚ )「……わかりました」
从 ゚∀从「お?」
ミセ*-д-)リ「まじかぁ……」
川д川「……休み増えるかな……」
そのための一つ。大事なのは、ファーストインプレッションだ。
39
:
同志名無しさん
:2012/12/12(水) 22:07:16 ID:wXS1EycE0
(*^д^ )ゞ「俺……この店で自分探し、始めようかなっ!」
ミセ*^ー^)リ 从*^∀从 川*д川 (うわきっも)
山間喫茶のようです
第一話「こっちみんな」・おしまい
.
40
:
同志名無しさん
:2012/12/13(木) 02:07:13 ID:pJjPAgCs0
乙
面白そう
41
:
同志名無しさん
:2012/12/14(金) 19:03:43 ID:gysUXzCc0
乙
読ませるねぇ
42
:
同志名無しさん
:2013/04/21(日) 11:47:57 ID:Okbv/NuU0
乙
続き気になる
43
:
同志名無しさん
:2013/07/10(水) 11:31:07 ID:m.JlHS6U0
マダー?
44
:
同志名無しさん
:2014/09/26(金) 11:13:48 ID:FP1RHG2E0
+ ;
* ☆_+
: , xヾ:、__,..-‐‐:、、,へ.........._
く '´::::::::::::::::ヽ
/0:::::::::::::::::::::::', 爆破オチ逝きまーす
= {o:::::::::(´・ω・):::}
':,:::::::::::つ:::::::つ
= ヽ、__;;;;::/
し"~(__)
ヽ`
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ノi|lli; i . .;, 、 .,, ` ; 、 .; ´ ;,il||iγ
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`;;i|l|li||lll|||il;i:ii,..,.i||l´i,,.;,.. .il `, ,i|;.,l;;:`ii||iil||il||il||l||i|lii゙ゝ
゙゙´`´゙-;il||||il|||li||i||iiii;ilii;lili;||i;;;,,|i;,:,i|liil||ill|||ilill|||ii||lli゙/`゙
´゙`゙⌒ゞ;iill|||lli|llii:;゙|lii|||||l||ilil||i|llii;|;_゙ι´゚゙´`゙
´゙゙´`゙``´゙`゙´``´゙`゙゙´´
┼ヽ -|r‐、. レ |
d⌒) ./| _ノ __ノ
45
:
同志名無しさん
:2024/06/26(水) 23:47:21 ID:VByJaKUc0
乙
殺伐と癒しとミステリーが混在してワクワクした
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