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善子「猫の恩返し」

1 ◆XksB4AwhxU:2019/04/24(水) 12:41:33 ID:VmS9V0jI
私は生まれながらの不幸──そう、美貌に嫉妬した神様が天界からこの世へ堕天させたから。
外に行けば雨に降られ、遠足に行けば大雨、大事なテストの日はインフルエンザ──極めつけは何も無いところで躓いて海に堕ちるなんてことも。
そう、どうしようもない程不幸なの。

私は堕天使ヨハネだから。
でもね、人を呪いたくない。
私の不幸は誰かのせいじゃない──私のものだから。

「うぅ。せっかく買った傘なのに.......」

20 ◆XksB4AwhxU:2019/04/24(水) 12:58:16 ID:VmS9V0jI
指で触れる──生暖かい感覚が消えない頬に。

「な、なん.......で?」

指腹は真っ赤に染まり、知りたくない一心でもう片方の手を口への中に入れる──歯が噛み締めていたものを取り出すために。
気持ち悪く生々しい感触に鳥肌が立ち、真っ赤な鮮血を零しながら指でつまみ出したそれは──。

「───────────────!?!!?」

大量の血を垂らす生肉だった──まるでたった今生きてる人から剥ぎ取ったかのような。
だが肉に生えた黒い毛には見覚えがあった。
事故で死んだ猫の。

善子は衝動的に全てを吐き出してしまい、血色混じりの吐瀉物がテーブルの上に撒き散らされ、その海の中で野菜の代わりに大量の黒い毛が生えた肉塊が蠢いていた。

声にならない叫び声をあげ、善子は寝間着であろうと気にせず家を飛び出す──猫の鳴き声から逃げるように。

21 ◆XksB4AwhxU:2019/04/24(水) 12:58:56 ID:VmS9V0jI
♢♢♢

快晴だった天候は沼津に到着する頃には土砂降りの雨と化していた。
穏やかな風は吹き荒れる嵐のようで、どす黒い雲からは突き刺すような雨が煩いほど車を叩きつける。

「あ!ここです!」

小原家の車で送ってもらったルビィと花丸は善子のマンションで降りると運転手に礼を告げて、去っていく車を背に今も孤独に苦しんでる仲間を助けるため1歩を踏み出す。

「花丸ちゃん.......善子ちゃんは1人できっと寂しいと思う」

ホールのエレベーターが1階へ降りるまでの数字がもどかしく、見上げる瞳は善子を助けたい思いでいっぱいだった。

「そうだよね。善子ちゃん寂しがり屋なのに強がっちゃうもんね」

「堕天使ヨハネ、なんてね」

余裕は無いけれど、いざ言葉にするといつものふざける彼女の姿がいとも簡単に思い浮かび明日にはまたひょっこりと顔を出すのでは?なんて錯覚するほど善子との日々は当たり前で。
今回の不幸はきっと何かの間違いだから、絶対に助けたい──そう決意して1階へ到達したエレベーターの扉が開くのを待つけれど、

22 ◆XksB4AwhxU:2019/04/24(水) 12:59:37 ID:VmS9V0jI
「え!?善子ちゃん!?」

その瞬間、飛び出してきたのは口周りに血の跡がこびり付いた津島善子だった。

「ちょっと善子ちゃん!待って!」

ルビィと花丸のことなど見えてないのか、2人の間を強引に割った善子はそのまま外へと走り去ってしまう。まるで何かから逃げるように──。


暗い世界はあまりにも温度を感じられず突き刺さす雨は痛々しく、目を開けて前を向くのも精一杯だったが逃げ続ける善子をずぶ濡れになりながらも追いかけないと2度と見失ってしまいそうだった。

水しぶきを上げながら道路を走る車には血の気を感じず、一刻でも早くこの世界から助け出したい気持ちに駆られるけれど不幸の死神が嘲笑うように善子との距離は空いていく──。

「善子ちゃん待ってよ!ルビィだよ!」

必死に伝えるけれど雨が遮り、伸ばす手も声も何もかも届かない。
善子ちゃんお願いだから止まって──眼前に待ち構える赤いランプは不気味に佇みその下を鉄の塊が行き交い、

23 ◆XksB4AwhxU:2019/04/24(水) 13:00:13 ID:VmS9V0jI
「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

誘われたように吸い込まれて車に突き飛ばされ地面へ堕ち押し潰され、鳴り止まないクラションの中、少女は生命を否定されるように見るも無残な肉塊へと成り果ててしまった。最初から存在してないように。
膝から崩れ落ち、地面へ横たわるそれが善子だと2人は認識したくなかった。

止まった時の中、堕天使の血に汚れた雨はまるで救いを求めるように崩れ落ちた膝へ伸ばされ、生暖かいはずなのに酷く冷え切っている。
「ごめんなさい.......」そうルビィの口から無意識に漏れた時、

「なにこれなにこれ!」

「え!?誰か轢かれたの!?」

「ちょ、めちゃくちゃグロ.......!」

騒ぎを聞きつけたのか、野次馬のシャッター音と歓喜の声が雨音を描き消し人の死を陵辱していく。まるで1種の娯楽のように。

24 ◆XksB4AwhxU:2019/04/24(水) 13:00:50 ID:VmS9V0jI
どうして笑うの?
どうして撮影してるの?

水溜まり越しに見える地獄の光景にルビィは心の底から煮えたぎるどす黒い感情と、助けられなかった重すぎる罪悪感に挟まれ、隣で嘔吐を繰り返す花丸に気づけないほど壊れそうになり、

「──────────────────!!!」

終わらない慟哭を狂ったように泣き叫んだ。

25 ◆XksB4AwhxU:2019/04/24(水) 13:01:42 ID:VmS9V0jI
♢♢♢

「お久しぶりですわね、善子さん」

お墓に顔を合わせるのは何十年も先なのに「津島家」と書かれたお墓へ花を添えることが信じられない。

「あれからルビィも塞ぎ込んでしまい、花丸さんもショックで.......」

枯れ果てたはずの涙、しかし顔を覆う手を拭うことが出来ず必死に「また、来ますわね」と唇を噛み締めながらも告げ現実から逃げるように立ち去ってしまう──。

「ごめんなさい」
と涙に潰れた謝罪を零しながら。

「.......」
その光景を無表情の善子が轢かれた猫と共に眺めていた。

26 ◆XksB4AwhxU:2019/04/24(水) 13:02:30 ID:VmS9V0jI
終わりです。


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