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勇者「最期だけは綺麗だな」
1
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/09/22(土) 19:48:17 ID:jTtUkYE.
【#1】相容れぬ
勇者「あぁ〜、今日も殺ったな。おい、ちょっと休むぞ」
僧侶「……」
勇者「ぼけっとしてんな。休める内に休んどけ」
僧侶「……何であんなことをしたんですか?」
勇者「はぁ? あんなことってなに? 言いたいことがあるならはっきり言えよ」
僧侶「っ、何で村人まで殺したんですか!」
勇者「何かと思えば、そんなことか。相変わらずバカだな、お前」
僧侶「馬鹿は貴方です! 村人は洞窟の魔物を退治して欲しいとーー」
勇者「そうだな。女子供を攫って喰っちまう化け物を皆殺しにしろって頼まれたな」
僧侶「皆殺しって……」
勇者「だってそうだろ? 懲らしめたり追っ払うわけじゃない。殺してくれと懇願されたんだからな」
574
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 19:23:57 ID:UUobO9Fk
【#20】感情論
狩人「彼女には随分と好かれているようだね」
勇者「お前はそんな話がしたくて残ったのか?」
狩人「迂遠な会話は不要か……では、早速本題に入ろうじゃないか。その力を渡せ」
勇者「それは出来ねえな。渡そうにも甲冑が邪魔をする。蓋をされてるようなもんだ」
狩人「それが事実だと証明出来るのかね」
勇者「出来ねえな。殺して確かめてみるか? 欲しいものが消えちまっても知らねえけどな」
狩人「……質問を変えよう。君はどうするつもりだ?」
勇者「あ?」
狩人「君はその力で何をしようとしているのかと聞いているのだ」
勇者「龍を殺して終わりだ。他にはない」
狩人「終わった後なら譲渡すると?」
勇者「その時、誰かがいれば、そうするかもしれねえな」
狩人「(蓋云々の話は嘘だろうが、万が一にも力が消えてしまえば、そこで終わりだ)」
狩人「(やはり、魔女とやらを排除しないことにはどうしようもないようだな)」
575
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 19:25:09 ID:UUobO9Fk
勇者「お前はどうなんだ」
狩人「どう、とは?」
勇者「何故、国のやり方に従う」
狩人「どちらが正しいのかという話なら遠慮するよ。言い争いになるだけだからね」
勇者「議論するつもりなんてねえよ。ただ、お前を知りたいだけだ」
狩人「……」
勇者「お前は俺のことを色々と知っているみてえだが、俺はお前を知らない。善悪なんてのはどうでも良い」
狩人「……」
勇者「話したくねえなら、それでいい。こっちもそうするだけの話だ」
狩人「……必要だからだ」
勇者「あ?」
狩人「間違いだ何だと言われようと、今の人々にそれが必要ならば、私はそれを受け入れる。今は、受け入れるしかないのだ……」
勇者「……受け入れた先に何があるんだ。人は弱い。真実に、押し潰されるだけだ」
狩人「ああ、分かっているさ。だから、見えないようにしているのだ」
狩人「罪は背負う。後には残さない。未来を生きる者達には、理想の世界を届けてみせる」
576
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/06(土) 19:31:34 ID:UUobO9Fk
勇者「……」
狩人「数多の屍を踏み拉いてでも、人は進まなければならない。人でなしと罵られても構わない」
狩人「苦しみのない世界を届けること。それが、私が死者に出来る唯一の弔いだ」
勇者「その未来に、この力がどう関係する」
狩人「それを話す前に、君はその力がどんなものか知っているのかね」
勇者「滅ぼす力だ」
狩人「端的に、極めて分かりやすく言えば、そうだな。だが、それは表面的な部分でしかない」
狩人「それは遙か昔から存在する力だ。神の一欠片、滅びの遺児、様々な呼び名がある」
狩人「時代の時々に現れては、ふと消える。そして、また現れる。未だ、解明はされていない」
勇者「それで?」
狩人「その力は様々な恩恵を与えると言う」
狩人「王位の悪魔と対等に戦える力、強靭な肉体、龍の炎にすら耐えうる堅固な魂」
勇者「大袈裟に言うな。何度か耐えられるってだけの話だ。死なないわけじゃねえ」
狩人「だが、それ程の力を持つ人間は君の他にはいない」
577
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 19:33:09 ID:UUobO9Fk
勇者「お前も戦っただろうが」
狩人「君と私では違う。私が羅刹王に真正面から挑んでも勝てなかっただろう」
狩人「私にはこの体質を生かして、先程のように不意を突くくらいしか方法はない」
狩人「それも、君が羅刹王を引き付けてくれてやっとだ。王位相手に一人では戦えない」
勇者「それは俺も同じだ。僧侶がいなければ、魔術でやられていた」
狩人「意外だな……」
勇者「何がだ」
狩人「他人を認めるような発言をするとは思わなかった。彼女を、信頼しているのだな」
勇者「……」
狩人「……まあいい。君はそう言うが、私は逆だと思う」
勇者「何?」
狩人「君が窮地に陥ったのは、その甲冑と僧侶さんの存在があったからだ」
狩人「君が一人ならば、そうはならなかったはずだ。僧侶さんがいなければ矢を受けることもなかった」
578
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 19:35:16 ID:UUobO9Fk
勇者「煩え女だな」
狩人「それは済まなかった。では、話を戻そう」
狩人「先程も言ったように、それ程の力を持つ人間は君の他にはいない」
狩人「悪魔を打ち倒す力、強靭な肉体、堅固な魂を持っている。正に、人を超えた存在だ」
勇者「それは聞いた。何が言いたい」
狩人「君は、進化したのだよ」
勇者「進化だと?」
狩人「そうだ。君だけが進化したのだ。自分以外の人間を置き去りにしてね」
勇者「……」
狩人「責めているわけではないよ。それは君個人に宿った力だからね」
狩人「しかし、おかしいとは思わないか? 何故個人に宿る。継承も一人にしか出来ない。それでは不公平だ」
勇者「……目的は、力の共有か。その為に俺を?」
狩人「より正確に言うなら君ではない。君の持つ力が必要なのだ」
狩人「その力が全ての人間に宿れば、人は何ものにも縛られない完全な種となるだろう」
579
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 19:36:17 ID:UUobO9Fk
勇者「本気で言ってんのか?」
狩人「勿論だ。君は知らないだろうが、既に幾度か研究されているのだよ」
狩人「これまで力を宿した人間全てが、君のように戦いの道を選んだわけではない」
狩人「その力を人類の発展に役立てようとした探求者は、確かに存在したのだ」
勇者「やけに詳しいな。何処で知った」
狩人「……」
勇者「……」
狩人「……そう遠くない過去」
勇者「?」
狩人「先人の遺志を継ぎ、全人類への継承を夢見た研究者がいた」
狩人「彼女は力を宿していた。言わば、当時の勇者だ。彼女が着目したのは肉体の強化だった」
狩人「どんな障害、如何なる体質を持つ人間も、それによって改善または克服出来ると信じていた」
勇者「……」
狩人「だが、力の複製を目的とした研究は危険視され、教会は禁忌に触れると糾弾した」
狩人「研究で得られたものは全て焼き尽くされ、彼女は程なくして捕らえられた」
580
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 19:38:22 ID:UUobO9Fk
勇者「彼女はどうなった」
狩人「大罪人として処刑されたよ」
狩人「要は悪用すると考えられたわけだ。彼女は弁明したが、遂に受け入れられることはなかった」
狩人「誰からも理解を得られないまま処刑台に上がり、衆目に晒され、罵声を浴びながら……」
勇者「……」
狩人「彼女は、最期まで抵抗しなかった」
狩人「力を使えば逃げることなど容易かっただろう。牢を破壊することも出来たはずだ」
狩人「それをしなかったのは、自分の研究は人類の為であったのだと証明する為だったのかもしれない」
勇者「それが、彼女の最期か」
狩人「……いや、まだ続きがある」
狩人「彼女は力が消えぬよう、死に際に力を託したそうだ。自らの命を絶つ存在にね」
勇者「……」
狩人「処刑に用いられたのは切っ先も刃もない鉄の塊。優秀な処刑人に主君から贈られた品だ」
狩人「処刑人は、主君にそれを使うことを強要された。見事、首を刎ねて見せろと……」
581
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 19:39:35 ID:UUobO9Fk
勇者「……」ギュッ
狩人「彼は見事、首を刎ねて見せた」
狩人「二人がどのような関係だったのかは分からない。ただ、彼だけは泣いていた。彼女の為に」
勇者「そうか……」
狩人「君と会うことが出来たら、どうしても聞きたかったことがあるんだ」
勇者「何だ」
狩人「彼がその後に歩んだ道は正しかったか?」
勇者「そう信じてる。あの人も、人の為に生きた。最期まで……」
狩人「……そうか。それならば良いのだ。彼女も報われることだろう」
勇者「だと良いけどな……」
狩人「長くなってしまったな……」
勇者「構わねえよ。聞いたのは俺だ」
狩人「……君は本当に、復讐の為だけに戦うつもりなのか?」
勇者「それだけで良いと思ってた。戦って戦って、最期まで戦い抜いて死ぬ」
582
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 19:40:36 ID:UUobO9Fk
狩人「今も、同じか?」
勇者「どうだろうな。良く、分からねえんだ」
勇者「あいつと歩いている内に色んなものを貰っちまった。今はあいつ等もいる。もう、俺だけじゃない」
狩人「……」ギュッ
勇者「どうした」
狩人「君は勇者に相応しくない。その力は相応しき者へと渡すべきだ」
勇者「……」
狩人「それが、もう一つの捕らえる理由だった」ザッ
勇者「良いのか、それで」
狩人「そう簡単に答えは出ない。魔女とやらと倒すまでは共に歩こうと思っている。今はね」
583
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 19:41:27 ID:UUobO9Fk
勇者「答えは出る。必ず」
狩人「君の望まない答えかもしれないがね」
勇者「それでも良い。今はそれだけで充分だ」
狩人「では、行こうか」
勇者「ああ、行こう。まだ間に合う」
狩人「ああ、そうだな……」
ザッザッザッ…
魔女『…………』
サァァァァ…
>>彼女は選んだ
>>連なる一つが、未来が、また一つ確定した
584
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 20:26:29 ID:PRgANrq2
【#21】不在
巫女「…スー…スー」
僧侶「……」
僧侶「(あの人は今、どの辺りにいるんだろう。本当に大丈夫なのかな……)」
僧侶「(ううん、きっと大丈夫。考えがあってのことだ。大丈夫、明日には合流出来るんだ)」ウン
巫女「…スー…スー…」
僧侶「(でも、早く会いたいな……)」コテン
僧侶「(あの人がいないと、何だか変な感じがする。話したいことだって沢山あったのに)」
僧侶「(……駄目だ。さっきから同じことばっかり考えてる。疲れてるのに、眠れないや)」
シーン…
僧侶「……」
羅刹王『一つ聞きたい。お前は何処から来た?』
羅刹王『どうやら我々とは異なる進化を遂げているようだ。我々以前の存在なのか』
585
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 20:28:52 ID:PRgANrq2
僧侶「(動揺を誘っただけだ)」
僧侶「(あの言葉には何の根拠も証拠もない。それなのに、何故こんなにも引っ掛かるのだろう)」
羅刹王『お前は疑問を抱かなかったのか? 俺の魔術を妨害する程の魔力を扱えることに』
僧侶「(そんなの知ってる。言われるまでもなく、知ってることだ)」
僧侶「(私の当たり前が、皆の当たり前ではないことくらいは分かってる)」
僧侶「(そもそも、悪魔の言葉に意味なんてない。深く考える必要なんてないのに……)」
騎士『こんな体になって更に痛烈に突き付けられた!! 私が独りだということを!!』
騎士『誰も助けてはくれない。この苦しみを分かってくれる同類などいない』
騎士『私を救ってくれたのは後にも先にも唯一人。勇者様だけだ。同じ印を持つ、たった一人』
僧侶「(どっちも同じ、悪魔の言葉)」
僧侶「(そのはずなのに、頭から離れない。声に宿った熱も、想いの強さも、胸を刺すような痛みも、消えてくれない……)」
巫女「…スー…スー…」
僧侶「(っ、頭の中がぐちゃぐちゃだ。このままじゃ駄目だ。気持ちを切り替えないと)」ザッ
ザッザッザッ…
586
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 20:31:28 ID:PRgANrq2
助手「……」
僧侶「助手さん?」
助手「え? あっ、僧侶さんでしたか……」
僧侶「どうしました? 眠れないのですか?」
助手「ええ。こうも静かだと、余計に考え込んでしまって」
僧侶「何かありましたか?」
助手「特別なことは何も……ただ、此処に来て、皆さんと話して、考えさせられてしまいました」
僧侶「そうですか……」
助手「あくまで理想、甘い考えですが、誰もが希望を抱いて生きることが出来たらと、そう思います」
僧侶「私もそう思います。今や、痛みや悲しみで溢れていますから……」
助手「ええ。魔物が異常に増え、それによって被害も増した。今も増え続けていることでしょう」
助手「元凶である龍を倒せば魔物は消えると言う。しかし、軍や教会による幾度かの討伐は失敗に終わっています」
助手「だからこそ、人々は勇者という存在に希望を抱いている。僕も、その一人です」
僧侶「……」
助手「僧侶さんの前でこんなことを言うのは気が引けますが、神様は何処で何をしているのでしょうね……」
587
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 20:32:58 ID:PRgANrq2
僧侶「えっ?」
助手「神が世界を創造したと言うのなら、何故こんな世界にしてしまったのか。神は、この現状すらも創造したのか……」ウーン
僧侶「……ごめんなさい。私にも、分かりません」
助手「えっ!? いやあの、決して責めているわけではないですよ?」
僧侶「……」ギュッ
助手「……僧侶さん。良かったら、話して下さいませんか。話すだけでも、楽になります」
僧侶「……………よく、分からないんです」
助手「分からない?」
僧侶「色々知って、分からないことが増えて、自分が分からなくなっていくんです」
僧侶「上手く言えないですけれど、知らない存在になってしまうような。そんな気がして……」
助手「……」
僧侶「知っていますか? 悪魔も恋をするんです」
助手「えっ?」
僧侶「傷付いて、迷って、誰かに縋る。弱くて、悲しい、一人ぼっちの女の子でした」
僧侶「悪魔だったのか人間だったのか、それは今でも分からないけれど……」
588
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 20:33:57 ID:PRgANrq2
助手「……」
僧侶「ごめんなさい。変な話をしてしまって……」
助手「いえ、そんなことは……分からないのは、僕も同じですから」
僧侶「?」
助手「狩人さんと出会って、たった数日で世界の見え方がすっかり変わってしまった」
助手「知り得た一つ一つが大きくて深い。これまで生きてきたのが、幻だと思えてしまう程に」
僧侶「幻……」
助手「世界は分からないことだらけです。でも、分からないのなら知ればいい」
助手「そうすれば、いつかは分かる時が来る。答えは見つかるはずです」
僧侶「ありがとうございます……」ペコッ
助手「いえ、そんな……」
助手「(こうしていると、同じ年頃の女性にしか見えない。金砕棒の存在が異質だけど)」
589
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 20:35:09 ID:PRgANrq2
僧侶「一つ、聞いても宜しいですか?」
助手「何でしょうか?」
僧侶「どうして狩人さんと?」
助手「……街の地下を見て、真実を知って、そこで助手になるように言われました。強制的でしたけどね」
僧侶「後悔はないのですか?」
助手「ない、とは言えないです。ですが、これで良かったのではないかとも思っています」
僧侶「何故です?」
助手「元は兵士でした。民を守る兵士として、自分なりに出来ることをしてきたつもりです」
助手「でも、僕は何も知らなかった。世界の仕組みも、こんなにも人間が窮地に立たされていることも」
僧侶「……」
助手「それが、この数日で真実を知って、狩人さんと出会って、本当のことに触れている」
助手「それが嬉しくもあり、怖ろしくもあります。付いて行くのに必死ですけどね」ニコリ
僧侶「ふふっ、私もです」
助手「何だか不思議ですね。こんな風に話せるなんて思ってもいませんでした」
僧侶「……この出会いが、良い方向に進んで行くと、そう信じたいです」
590
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 20:36:25 ID:PRgANrq2
助手「勇者さんが心配ですか?」
僧侶「心配というか……勿論心配ですけど、あの人らしくないような気がして……」
助手「らしくない?」
僧侶「ん〜、らしくないと言うか、何でしょうね」
僧侶「あの人が、狩人さんと共に行動するだなんて思いませんでした。はっきりしている人ですから」
助手「(確かに、危うく殺されるところだった。敵と判断したら容赦しない人なのだろう)」
僧侶「向かって来る敵は何がなんでも倒す人です。目付きが変わって、倒すことだけを考えるんです」
僧侶「そういう姿を何度も見ていますから、何があったのかなあって……」
助手「そんなに意外なのですか?」
僧侶「疑えというのが、あの人から教えられた一つですから……」
591
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 20:43:25 ID:PRgANrq2
助手「ですが、僕を信じてくれましたよ?」
僧侶「ええ、そこにも驚いています」
僧侶「街を出てから考えることも多くなったようですし、何かあったのかなあ……」
助手「うーん。気になるのは分かりますが、そればかりは本人に聞くしかないですよ」
僧侶「そ、そうですよね。そうしてみます」
助手「(何だか、僧侶さんが小さく見える。いや、大きく見えていただけなのかもしれないな)」
助手「(こんなに小さな体躯で悪魔と戦っていのか。きっと、それだけ強く、勇者さんをーーー)」
僧侶「どうしました?」
助手「いえ、良い関係だなと思っただけです」
僧侶「?」
助手「(二人は、互いを信頼しているのだろう。狩人さんと僕も、そうなれるだろうか……)」
サァァァ…
助手「(……たった数日。たった数日が、僕のこれまでを容易く塗り替えた。この先にも、更なる何かがあるのだろう)」
助手「(その間に、僕は何かを見つけられるだろうか)」
592
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 20:44:46 ID:PRgANrq2
【#22】次々と
巫女「早く、来ないかな……」
僧侶「昼までには来ると思う。もう少し待っていよう?」
巫女「わたし、あの人に話したいことがあるの」
僧侶「……そっか、でも本当に大丈夫? 無理に話さなくても良いんだよ?」
巫女「ううん、わたしは話さなきゃいけないの。もう、決めたの……」
僧侶「頑張ったんだね。今まで、ずっと我慢していたんでしょう?」
巫女「ガマン、なのかな……わたしも、よく分からない。あの人を見て、決めたの」
僧侶「?」
ザッ
助手「僧侶さん、おはようございます」
僧侶「あ、おはようございます。どうしました?」
助手「もうすぐ来ると思います。昼まで掛かると思いましたが、急いで来たようですね」
593
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 20:45:51 ID:PRgANrq2
僧侶「そうですか、良かった……?」
ザワザワ…
助手「到着したようですが、何だか騒がしいですね」
僧侶「行きましょう!」タッ
ーーー
ーー
ー
勇者「悪い、待たせちまったな」
僧侶「いえ。それより、皆さんが……」
ザワザワ…
狩人「まあ、歓迎されていないのは分かる」
助手「昨夜説明したのですが、まだ受け入れてはいないようです」
狩人「それはそうだろう。もう一度、私からも説明した方が良さそうだ」ザッ
僧侶「ど、どうしましょう?」
勇者「俺が行く。お前等は此処にいろ」
594
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 20:47:08 ID:PRgANrq2
狩人「……」
>>彼女が狩人か……
>>僧侶さんによると国側の人間らしい
>>それは昨日の男も同じだろ?
>>昨日の子は無害そうだったじゃない
狩人「(こうなると想定はしていた。しかし、思ったよりも多い。これは苦労しそうだ)」
>>どちらも国側の人間だ
>>昨日は受け入れてたじゃないか
>>全員が納得してるわけじゃないわ
>>本当に信用出来るのか?
狩人「(この雰囲気を見るに、私が幾ら話しても良い結果は得られそうにないな)」
ザッ…
勇者「俺が話す」
狩人「済まないね。そうしてくれると助かるよ」
595
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 20:48:48 ID:PRgANrq2
勇者「聞いてくれ」
勇者「こいつは俺の力を狙っているが、この甲冑が外れるまでは手出しは出来ない」
勇者「甲冑が外れるまでは協力すると言っている。裏切ることは、まずないだろう」
勇者「お前等には近付けない。俺の傍に置いて監視する。それで納得してくれないか」
>>何で、そんな奴と一緒に?
>>置いてくれば良かったじゃないの
狩人「そうされても追うだけだ。大して意味はない。傍に置いた方が楽だと考えたのだろう」
狩人「安心したまえ。彼の目もある。貴方達に手出しは出来ないよ。手出しをするつもりなどないがね」
狩人「勿論、戦闘には参加する。彼との約束は守る。質問は以上かな?」
シーン…
狩人「宜しい。では……」
勇者「遅れを取り戻す。此処からは急ぐぞ」ザッ
596
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 20:49:58 ID:PRgANrq2
>>態度のデカい女だったな
>>それは彼にも言えることだろ?
>>お前達、いつも守られといて良く言えるな
>>単に性格の話だよ。そう目くじらを立てないでくれ
>>狩人さんか、綺麗な女性だ
>>ああ、肌なんか真っ白だ。不健康そうだけど
>>やめてよ、こんな時に気持ち悪いわね
>>なっ!? そういう君だって、助手とかいう男を可愛いとか何とか言っていたじゃないか!!
>>下らない喧嘩は止せ。早く来ないと置いて行かれるぞ
勇者「……」ハァ
狩人「ははは。賑やかで良いじゃないか」
勇者「まあな、そこら辺は助かってる。落ち込まれるよりはずっと良いからな」
597
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 20:51:08 ID:PRgANrq2
狩人「ところで、目的地のことだが」チラッ
巫女「……」サッ
狩人「やれやれ。それで? 目的地は何処なのかね?」
勇者「東にあるとしか聞いてねえな」
狩人「君は馬鹿なのか?」
勇者「言わねえもんは仕方ねえだろうが、何度聞いても着けば分かるとしか言わねえんだ」
クイッ
勇者「?」
巫女「言っても信じないから、言わないだけ」
勇者「だとよ」
狩人「彼女には随分甘いじゃないか。それで良いのか、君は」
僧侶「(な、仲良くなってる)」
僧侶「(何を話したんだろう? でも、戦うよりはずっと良い。ずっと良いけど……)」ギュッ
598
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 20:52:29 ID:PRgANrq2
勇者「近々話す。そうだろ?」
巫女「う、うんっ!」
狩人「そうか。では、楽しみに待っておこう」
勇者「目的地が何処でも文句は言うなよ」
狩人「……ふむ。君、本当は既に知っているね? 何故言わない。皆も不安がると思うのだが」
勇者「それも、後で話す」
狩人「いいだろう」
ザッ…
助手「あの、少し宜しいですか」
勇者「どうした?」
助手「ちょっと此方へ。直接見た方が早いと思われます」
勇者「分かった。僧侶、代わってくれ」
僧侶「えっ? あ、はいっ」
巫女「……」
狩人「言いたいことがあるなら、言った方が良い。隠し事は、時に悲劇を生むからね」コソッ
599
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 20:53:37 ID:PRgANrq2
巫女「……」
狩人「私には見えている。変わった魂の形をしているな。敵ではないようだが、何故隠す」
巫女「真実は、時に人を傷付ける。私にも目隠しが必要だと判断しただけ」
狩人「それが貴方の本性かね。貴方が何を話すのか、非常に興味がある」
巫女「……」
ザッ…
勇者「何してる」
巫女「……」
狩人「いや、なんでもないよ。それより、何があったのかね」
勇者「聖水の入った小瓶が割れた」
狩人「あれはそう簡単に割れるものではない。管理者は何をしていたのだ。残りは幾つある」
勇者「ない」
狩人「何?」
勇者「俺達が所持していた聖水も、助手の奴が所持していた聖水も、全て割れていた」
狩人「割れていたのではなく、割られていたの間違いではないのか」
600
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 20:54:26 ID:PRgANrq2
勇者「出発前に確認した時は割れていなかったらしい。助手のもな」
狩人「私達が合流してから、それ程時間は経過していない。割られたのなら分かるはずだ」
勇者「だろうな。だが、誰も異変には気付かなかった」
狩人「他に手掛かりはないのかね」
勇者「小瓶には針を刺したような複数の穴があった。それ以外にはない」
狩人「保管方法は」
勇者「複数人が分担して所持していた」
狩人「不可解だな。誰一人気付かないとは……」
勇者「お前が持っていたのはどうだ」
狩人「……その可能性は考えたくはないが、確かめた方が良さそうだな」スッ
601
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 20:56:02 ID:PRgANrq2
勇者「……」
狩人「……」
勇者「半分、残っていたな」
狩人「そのはずだ」
勇者「……面倒なことになったな」
狩人「どういうことだ。衣服は濡れてすらいない……」
勇者「(手の込んだ嫌がらせだな。魔女の仕業か?)」
僧侶「魔物が来ます!!」
勇者「考えるのは後だ」ジャキッ
狩人「ああ、分かっている」ガチリ
602
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 20:56:54 ID:PRgANrq2
【#23】異種の台頭
勇者「皆、下がれ!!」
巫女「結界はわたしがやる」
僧侶「うん、お願い。皆さん、落ち着いて一ヶ所にまとまって下さい!」
狩人「助手、私の背後に付け。万が一魔物が抜け出した場合の処理を頼む」
助手「了解しました」
ザザザザザ…
勇者「(雑魚相手に癪だが、いつも通り避けながら戦うしかねえな)」ダンッ
ズドンッ!グシャッ…
勇者「(何だ、この数は……!!)」
ガリッ!ガリガリ…
勇者「ぐっ、離…せッ!!」ガシッ
ゴキンッ!
勇者「(魔物って言っても犬畜生じゃねえか。くそ、こんな奴等に噛まれた程度で……)」
603
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 20:57:59 ID:PRgANrq2
僧侶「んっ!!」
ゴシャッ! ドサドサッ…
僧侶「立って!! しっかりして下さい!!」
勇者「……っ、分かってる」
僧侶「(もう出会った頃とは違う。この人に頼るわけにはいかない。私が、守る)」ジャキッ
僧侶「土、掴め」ザクッ
ゾゾゾゾッ!
僧侶「狩人さんっ!!」
狩人「了解した」ダンッ
ズパンッッ!
狩人「……減る気配がないな。どうする。このままでは押し切られて囲まれてしまうぞ」
僧侶「私がやります。下がって」
狩人「了解した」タンッ
僧侶「(岩、壁)」ザクッ
ドゴンッ!ドゴンッ!
604
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 21:02:55 ID:PRgANrq2
僧侶「……」ジャキッ
狩人「(壁で挟んだ。が、塞いだわけではない。彼女は何をするつもりだ……)」
僧侶「焼き尽くせ」ザクッ
ゴォォォォッ…
狩人「(一匹残らず、確実に殺す為の壁か。土から炎、つまりは属性の切り替え。その上、この高威力……)」
僧侶「終わりましたね」
勇者「皆は無事か」
僧侶「はい、大丈夫です。魔物は一匹も通していません。あの、立てますか?」スッ
勇者「悪いな……」ガシッ
グイッ…
僧侶「さあ、先を急ぎましょう?」ニコッ
勇者「……僧侶」
僧侶「何です?」
勇者「助かった。ありがとな」
僧侶「へへっ、私も戦えるようになったでしょう?」
605
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 21:04:20 ID:PRgANrq2
勇者「ああ、そうだな……」
僧侶「どうしました?」
ザッ
狩人「おそらく、貴方に戦わせるのが心苦しいのだ。女性に無理を強いるのは、男性としては恥ずべきことらしい。助手がそう言っていた」
僧侶「へっ?」
助手「えっ!? いやその、別に僕は聞かれたから答えただけであって……」チラッ
勇者「……」ザッ
僧侶「あっ、待って下さい」タッ
ザッザッザッ…
狩人「ふむ、行ったか」
助手「狩人さん、何であんなことを……」
狩人「少し二人で話がしたくてね。ところで、君は彼女をどう思う」
助手「えっ、僧侶さんですか? 凄まじい魔術の使い手だと思いますが」
狩人「彼女はね、まだ数回しか戦っていないそうだ。実戦で魔術を扱うのも、数えられる程度だ」
606
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 21:05:24 ID:PRgANrq2
助手「そんな馬鹿な……」
狩人「戦いに関してはは素人だが、突出した魔術の才能を持っている。最初はそう考えていた」
狩人「だが、人間には、属性の異なる高威力の魔術をほぼ同時に扱うなど出来はしない」
狩人「少なくとも、彼女以外にそのようなことが出来る魔術師を、私は知らないよ」
助手「何が、言いたいのですか……」
狩人「そう戸惑うな。魂に異常はなかった。彼女は間違いなく人間だよ。しかしーーー」
羅刹王『歪みを消し去れば、与えてやる』
羅刹王『その娘。そして、共にいる男だ。生かしておけば、人すらも滅ぼすだろう』
羅刹王『お前は存在してはならない歪みだ。その矢が、お前を殺すだろう』
狩人「しかし彼女は、何かが違うようだ。何かがね……」
607
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 21:06:40 ID:PRgANrq2
【#24】岩屋
僧侶「男性は此方にお願いします」
>>男の方が狭いような気がするな
>>こんな時に文句言うな。眠れる場所を作ってくれただけ有難いと思え
>>彼女がしてくれる。それが当たり前になってるのさ。感謝は長続きしない
>>みたいだな。俺達は忘れないようにしよう
>>そうだな……
ザワザワ…
狩人「まさか此処までとはな。簡易的だが、寝床まで場所まで作ってしまうとは驚いた」
助手「あの状態を維持するにも魔力を消費するはずですよね……」
狩人「勿論だ。四方を囲む岩の壁、簡易住居、結界。彼女にしか出来ない芸当だよ」
ザッ…
僧侶「あの、狩人さんは私と一緒でも良いですか? ちょっと離れた場所ですけど……」
狩人「私は何処でも構わないよ。面倒を掛けて申し訳ない」
608
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 21:07:42 ID:PRgANrq2
僧侶「助手さんは、その隣です」
助手「わざわざ別の場所に? 心遣い、感謝します」
僧侶「いえ、今日はお疲れ様でした。短い時間ですけど、しっかり休んで下さいね」
狩人「ところで、彼は?」
僧侶「えっと、向こうです。今は巫女ちゃんと一緒にいます。大事な話があるらしいです」
狩人「……」
助手「勇者さんは、いつも一人なのですか?」
僧侶「はい、あの姿に慣れていない方が多いので……」
助手「……そうでしたか」
僧侶「では、行きましょう」
助手「は、はい。お願いします」
トコトコ…
狩人「(あの二人が何を話しているのか、非常に興味がある。だがーーー)」
僧侶「狩人さん、行きましょう?」
狩人「(なる程、監視は彼女に任せたと言うわけか。仕方がない、ここは従うとしよう)」
609
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 21:14:45 ID:PRgANrq2
【#25】我
勇者「で、話ってのは何だ?」
巫女「わたしのこと、僧侶のこと。そして、魔女のこと」
勇者「何故、俺にだけ話す。あいつには話さないのか?」
巫女「話しても受け止められない。混乱を招くだけ。出来ることなら、貴方から伝えて欲しい」
勇者「何故だ」
巫女「その方が安全」
勇者「取り敢えず話せ。それからだ」
巫女「分かった。まず、僧侶と私の魔力が同じであることには気付いていた?」
勇者「ああ、会った時にな。だが、今の魔力は出会った時とは違う」
勇者「魔力の質を変えるなんてのは聞いたことがねえ。偽装は出来ないはずだ」
巫女「全ては僧侶の為にしたこと。僧侶は、私や魔女とは違う。記憶を持たない」
勇者「記憶がない? いや、いい。続けてくれ」
巫女「魔力が同じなのは、私と僧侶が同じ存在だったから。それから、魔女も」
610
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 21:16:02 ID:PRgANrq2
勇者「……続けろ」
巫女「元々は同じ場所にいた」
巫女「あらゆるものを見渡せる場所で、あらゆるものを見渡せる目を持った存在として」
勇者「……」
巫女「始めは存在と呼べるのかさえ分からない何かだった。見ているだけの何かだった」
巫女「見ているという意識などなかった。見ていたというのも、正しい表現なのかどうか分からない」
巫女「私は生命の移り変わりを、大地の形成を、種の滅びと誕生を、その繰り返しを見ていた」
巫女「私が私を認識したのは、人が誕生してからだった。いや、認識させられた」
勇者「人間にか」
巫女「そう。人は奇妙なことをし始めた。存在しないはずの何かを崇め、祈り、願い、愛し、怖れた」
巫女「供物を捧げ、踊り、歌った。それは人だけが取った行動だった」
巫女「太古の獣にも、木から下ることを選んだ獣にも、そんなものはなかった」
勇者「……」
巫女「それは無視できないものとなり、私はそこにいられなくなってしまった」
611
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 21:17:27 ID:PRgANrq2
勇者「何故」
巫女「世界を自由に飛び回り、全てを見渡す目を持った鳥が、突然窓のない箱に閉じ込められた。それが、どれ程のことか分かるでしょう」
勇者「……」
巫女「視野は急速に狭まり、全ての私が一つとなり、私は私に押し込められ、更に混乱を来す」
巫女「私は何とかしようとしたけれど、事態は改善しないまま、時だけが過ぎた」
巫女「その間も聞き続けていた。貴方達の声を、あらゆる声を、私は聞き続けてきた」
巫女「私を呪う声、私に救いを求める声、存在を揺るがす程の叫びが、長い長い間、私を苦しめた」
巫女「遂には、私は私を忘れ、更に小さな存在となって、何も知らぬまま、此処にいた」
勇者「居た?」
巫女「そう。移動したわけではなく、物質として、肉体を得て存在して、私は此処にいたの」
巫女「ただ、以前の記憶を失っていたのは幸運だった。同じような混乱は避けられた」
巫女「私は此処で生きる人々と同様に無知で、何かに縋らなければ生きていけない、弱い生物となっていた」
勇者「……」
巫女「そして、初めて出会ったのが、貴方」
勇者「待て。お前は出会った時から知識を持っていた。無知ではなかったはずだ」
612
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 21:18:21 ID:PRgANrq2
巫女「貴方が教えてくれた」
勇者「何かを教えた覚えはねえな」
巫女「貴方が私を助けてくれた」
巫女「無知で希薄な私を守ってくれた。世界を見せてくれた。私を教えてくれた」
勇者「何をーーー」
巫女「私は貴方の傍にいることを望んだけれど、貴方は私を置いて龍と戦い、敗れた」
勇者「なっ……」
僧侶『貴方は私を置いて、一人で龍と戦ったわ』
僧侶『私が目を覚ました時には終わっていたわ。息絶えた貴方と、傷だらけの龍がいた』
僧侶『何度も甦らせようとしたけれど、幾ら魂に呼び掛けても、貴方は戻って来なかった』
巫女「どうしたの?」
勇者「いや、今はいい。続けてくれ」
巫女「分かった。私は何度も蘇生を試みたけれど、貴方が蘇ることはなかった」
巫女「私には、貴方の死を受け入れられるはずがなかった。そして、爆発が起きた」
613
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 21:20:04 ID:PRgANrq2
勇者「爆発?」
巫女「そう、あれは爆発だった。芽生えた自我と、溢れ出る強烈な感情が、元々の記憶を呼び覚ました」
巫女「そして、一ヶ所だけを残して、あらゆるものが爆発に巻き込まれた」
勇者「何?」
巫女「それが、今目指している場所。貴方が行くべき場所。戦う意味を、探す場所」
勇者「……」
巫女「話が逸れた。爆発は力を生んだが、一つの存在には、到底耐えられるものではなかった」
巫女「想いに任せた爆発の連続が終わった時、気付けば、私達は三つに分かれていた」
勇者「それが、お前と僧侶、そして魔女か」
巫女「そう。何が起きたのかを把握するには、私にも時間が掛かった」
巫女「彼女。いや、魔女は、元に戻ったと言っていた。次は、自分自身の意思で決めるのだと」
勇者「何を決める……」
巫女「救うに値する生命なのか、救うに値する世界なのか、人の望みし存在として、世界を見定める」
勇者「……」
巫女「魔女は既に決めている。貴方を利用して、滅ぼそうとしている」
614
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 21:21:53 ID:PRgANrq2
勇者「神としてか? 馬鹿げてる」
巫女「そうしたのは、人。私達をそうしたのは人の意思。信仰と、呪詛」
勇者「人が、神を創ったってのか……」
巫女「その解釈が正しいとは断言出来ない。私達は、始まりから存在していたから」
勇者「押し付けたんだな。人が、お前達に、この世界の全てを……」
巫女「……」
勇者「一つだった時と今は違うのか? 誰が三つに分かれることを決めた?」
巫女「決めたのは、元の私。一番近いのは魔女。多くの力と、感情を引き継いでいる」
巫女「魔女は、私や僧侶とは違う。何か別のものを宿している。だから、魔力も違う」
勇者「僧侶は何なんだ。あいつには僧侶としての記憶、過去がある」
巫女「僧侶は創造された命、創られた過去、極めて人に近い性質、信仰と現実で揺れる存在」
勇者「意味が分からねえ。何故そんなに面倒なことをした」
巫女「僧侶は人間として決める。それが役目」
勇者「何もかもが偽りか」
巫女「彼女の中では本当の過去。でも、綻びはある」
615
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 21:22:52 ID:PRgANrq2
勇者「綻び?」
巫女「爆発によって生まれた歪み。記憶の辻褄が合わない部分は必ずある」
勇者「気付くのか」
巫女「いずれは」
勇者「半端臭えことしやがって……」
勇者「お前は俺から伝えろと言ったが、俺が言ったところで混乱する」
巫女「私も力を貸す。矛盾をなくす」
勇者「そんなことは不可能だ」
巫女「私には、それが出来る。信じて」
勇者「……もう一つ、聞きたいことがある。この屍肉と骨には、魂が宿っていると言っていた。狩人が言うには俺の魂らしい」
巫女「だから貴方は……」
勇者「あ?」
巫女「貴方が羅刹王を倒せなかったのは、魂が分散していたから。よって、力も分散した」
勇者「それはいい。お前には魔女が何をしたのか分かるのか?」
巫女「過去と呼んで良いのか分からないけれど、過去の貴方の魂を宿らせたのだと思う」
616
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 21:24:33 ID:PRgANrq2
勇者「どうやって? お前の言ってることが真実なら、その俺は既に死んだはずだ」
巫女「無理矢理に魂を呼び起こし、定着させたと考えられる。爆発の際に持ち出したのかも分からない」
勇者「何でもありだな」
巫女「そうでもない。貴方を蘇生出来なかったのが、その証。優れた力も、扱えなければ意味がない」
勇者「それで爆発か。ガキみてえだな」
巫女「正しく、その通り。あの時の私は、生まれたばかりの赤子同然だった」
勇者「お前は何処まで知っている。全てが見えているのか?」
巫女「今の私には見えない。何もかもが見えていた頃の私には、決して戻れない」
勇者「……」
巫女「話を戻す。先の話が事実なら、魂は重なり始めているはず。何か兆候は?」
勇者「夢を見た」
巫女「夢……」
勇者「俺は夢の中で、魔女を僧侶だと認識していた。以前からそうだったようにな」
勇者「どんな関係だったかは知らねえが、随分と気を許していたよ」
617
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 21:26:07 ID:PRgANrq2
巫女「記憶の混乱はあるの?」
勇者「ああ、気持ち悪くて吐きそうだ。夢を見てからな」
巫女「完全に繋がるまでは、それが続く」
勇者「……繋がれば、どうなる」
巫女「分からない。魂の同化が何を及ぼすのか想像は出来ない。見たことがない」
勇者「死んだ俺は、俺と違うのか?」
巫女「僧侶と出会うまでは同じ。貴方と僧侶だけが、前とは違う。歪められた存在」
勇者「(歪みってのは、このことか)」
勇者「死んだ俺とは何が違う?」
巫女「そんな姿にはならなかった」
勇者「魔女はいねえからな。それは分かる。他にはねえのか」
巫女「それから、狩人と助手はいなかった。旅は私と貴方だけ。全てが同じにはならない。貴方も、前とは違う」
勇者「何が?」
巫女「前は私を育ててくれた。兄であり、父のような、頼れる存在だった」
618
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 21:27:58 ID:PRgANrq2
勇者「冗談だろ……」
巫女「冗談じゃない。本当」
勇者「俺が育てただと? 馬鹿言うな、そんなことをするはずがねえ」
巫女「あの人を悪く言うのはやめて。貴方だって、勇者を馬鹿されたら怒るくせに」
勇者「……悪かったな」
巫女「別にいい」
勇者「しかし、育てたってのはどういうことだ? まさか、赤ん坊の状態から育てたのか?」
巫女「違う。この状態から育てた。此処に来た時の姿が、私」
勇者「成長するのか」
巫女「元の私は成長した。成長速度は人間とは違う。精神に見合った姿になる」
勇者「いきなり大人になるってのか」
巫女「そんな感じ」
勇者「……そうか。つーか、お前ってそういう奴だったんだな。いつものは演技か?」
巫女「あれは違う」
巫女「私は薄いから、巫女のような人格を作った。それは巫女も薄々分かっている。理解出来ているかは分からないけど」
619
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 21:28:49 ID:PRgANrq2
勇者「薄いってのは何だ」
巫女「感情が希薄。表現が下手」
巫女「これでは人に溶け込めない。だから創った。魔女が感情を色濃く受け継いだから、そうなった」
勇者「僧侶は?」
巫女「自我が芽生え始めた頃の私に似ている。世界を知り始めた時の私に近い」
巫女「あの年頃の性格に近付ける為に、意図的にそうしたのだと思う。それぞれ違う」
勇者「肉体的な状態もか?」
巫女「精神的にも肉体的にも違う。原型となった姿も三つある」
巫女「私は最初の頃、子供。僧侶が中間、子供と大人の間。魔女は成長した後、大人」
勇者「……」
巫女「どうしたの?」
勇者「お前も魔女も、最初から僧侶の存在を知っていたんだよな」
巫女「知ってた。魔女は僧侶が大嫌い」
勇者「それは分かる。僧侶も嫌いだろうけどな。だが何故? 元は一つなんだろ?」
620
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 21:30:35 ID:PRgANrq2
巫女「だから嫌いなの」
巫女「何も知らない頃の、貴方を失う前の自分を見せられているようで、許せないんだと思う」
勇者「……お前は、どうなんだ」
巫女「私は力になりたい。僧侶は、私や魔女とは違う。過去に囚われず、前を見ている」
巫女「囚われる過去がないとも言えるけど、私や魔女のように記憶があったら、私達と同じだったと思う」
勇者「……そうか」
巫女「貴方はどうするの?」
勇者「何も変わらねえよ。龍を殺し、魔女も殺す。それしかねえだろう」
巫女「魔女と、戦える?」
勇者「それ以外に、何がある」
巫女「……魂が完全に繋がるまでに何とかした方が良い。そうしないと、躊躇いが生じる」
勇者「何てことはねえさ……なあ、巫女」
巫女「?」
勇者「よく、話してくれたな」
621
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 21:32:21 ID:PRgANrq2
巫女「信じるの?」
勇者「どうだろうな。何となく理解はしたが、信じられるかどうかは分からねえよ」
勇者「お前と僧侶の魔力が同じなのは気になってたが、こんなことになるとは思わなかった」
巫女「魂が繋がれば、信じる」
勇者「……かもな。ところで、聖水の小瓶を割った奴を知ってるか?」
巫女「知らない。以前は、そんなことは起きなかった」
勇者「……そうか。なら、何とかするしかねえな。もう話すことはないか?」
巫女「昨夜のことを話したい」
勇者「昨夜? 何かあったのか?」
巫女「昨夜、助手が言っていた」
巫女「神は何処にいるのかと、何故こんな世界にしたのだと、神が居てくれたらと……」
勇者「お前は神じゃない。世界を創ったのも、お前じゃないんだ」
巫女「分かってる。でも、考えた」
勇者「何をだ」
巫女「もしも私が神だったら、どうするのだろうって」
622
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 21:34:57 ID:PRgANrq2
勇者「どうするのか、決めたのか?」
巫女「分からない。でも」
勇者「……」
巫女「でも、もし、私が神だったら、今のような世界にはならなかったと思う」
勇者「そうか、そうかもな……」
巫女「神が憎い?」
勇者「いなくて清々してる」
巫女「じゃあ、私のことは?」
勇者「お前が神なんかじゃなくて良かったと思ってるよ」
巫女「これからも、一緒にいていいの?」
勇者「他に行くとこがあるのか?」
巫女「……ない」
勇者「だったら、此処にいろ」
巫女「う、うんっ!」
勇者「さあ、そろそろ休め。今日は疲れただろ」
623
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 21:35:50 ID:PRgANrq2
巫女「待って」
勇者「ん?」
巫女「僧侶とも話をして欲しい。悩んでいるみたいだったから」
勇者「分かったよ」
巫女「……ねえ、あなた」
勇者「ん?」
巫女「知りたいこと、聞きたいことは、まだ沢山あると思う。でも、直に分かる。何もかも」
勇者「そうかい……」
巫女「きっと、大丈夫。前と同じにはならない。僧侶がいる。皆もいる。私もいる」
624
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 21:37:06 ID:PRgANrq2
勇者「そうか、そうだな。ありがとう……」
巫女「ねえ、もう少しだけ、一緒にいてもいい?」
勇者「好きにしろ。こんな化け物と一緒でいいならな」
巫女「貴方は化け物じゃない。幾ら魔女でも、貴方の心までは変えられない」
勇者「……」
ポカッ…
巫女「なんで?」
勇者「随分と気が利く返しをすると思ってな。巫女、変に気は遣わなくていい。お前が疲れるだけだ」
ポンッ…
巫女「(あっ。これ、懐かしいやつだ)」
勇者「いいか、ちゃんと戻って寝ろよ。俺が連れて行くと、あいつ等が叫ぶだろうから」
巫女「(前とは違うけど、本当は違わない。この人は、この人のままだった……)」
625
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 21:38:50 ID:PRgANrq2
簡単に
全部見える。見えるだけ。自我とかない何か。
↓
人が進化、神と名付けた何かに祈ったりし始めた。
↓
私は私を認識した。一つの存在になる。狭い。
↓
人増える。宗教作る。祈り続ける。
↓
苦しい。私はますます存在を固定されて、以前のように飛べなくなる。
↓
私はそれに耐えきれずに墜落。肉体を得てしまう。容量少ない。記憶ない。
↓
勇者と出会う。勇者が助ける育てる旅をする。
↓
私は懐いた。とんでもない速さで成長した。
↓
勇者が私を置いていく。追う。絶対見つける。
↓
626
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/06(土) 21:39:27 ID:PRgANrq2
勇者が龍と戦って死んでいた。
↓
勇者死ぬのは絶対嫌だ。私は私を思い出した。目茶苦茶しても助ける。
↓
爆発。良く分からないけど時間が戻った。
↓
とんでもない力だ。私は一つの存在ではいられない。元の私を三分割。
↓
魔女、巫女、僧侶。
↓
魔女と巫女は自分で決めること。僧侶は勇者と旅して人間目線で決めること。
↓
僧侶はそれを知らない。勇者と出会う。旅をする。
↓
魔女は滅ぼすと決めた。
↓
今
627
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/07(日) 17:18:18 ID:em74N0TY
【#26】彼女の気持ち
助手「はぁ」トスン
助手「(狩人さんと旅をしてから、一日一日の内容が濃すぎる。多分、まだ三日くらいのはずだ)」
助手「(もう何ヶ月も旅をしているような感じがする。しかも勇者さんと一緒に旅するだなんて……?)」
僧侶『あの』
狩人『何かな?』
助手「(そ、そういえば隣だった。壁際だからか、僅かに声が漏れてくる)」
助手「(速やかに此処を出るべきだろうか。しかし、他の人も警戒していたしーーー)」
僧侶「何故、あの人と一緒に?」
狩人「やれやれ、まだ私を疑っているのか。少しは彼の判断を信じたらどうだ」
僧侶「それは……」
狩人「まあいい、このままでは互いに疲れるだけだ。貴方にも話しておこう」
僧侶「えっ?」
狩人「何を驚くことがある。彼には既に話しているのだ。今更隠す必要もないだろう」
僧侶「それは、そうですけれど……」
628
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/07(日) 17:19:15 ID:em74N0TY
狩人「意外かな?」
僧侶「……はい。他人に目的を知られるのは、極力避けているように思っていました」
狩人「それも仕方のないことだよ。そう思われて当然の言動を取っていたからね」
狩人「では、一度しか話さないから良く聞きたまえ。質問は後にしてくれると助かる」
僧侶「はい。分かりました」
ーーー
ーー
ー
僧侶「……彼女を処刑したのが、先の勇者」
狩人「そういうことになるね。我ながら、過去に縛られているとは思うよ」
狩人「その点で言えば、私も彼のことは言えない。彼と私では、目指すものが違うがね」
僧侶「(彼女は、狩人さんにとってどんな人だったんだろう。母親、とかなのかな?)」
僧侶「(あらゆる障害の克服。進化。それは、狩人さんにとっても希望だったはずだ)」
僧侶「(もしかして、復讐するつもりだったのかな。力を受け継いだ、あの人に……)」チラッ
狩人「いや、そんなつもりはないよ。彼にも、先の勇者にも、憎しみはない」
629
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/07(日) 17:21:31 ID:em74N0TY
僧侶「何も言ってないです」
狩人「顔に出ていた。彼と再会してからの貴方は、非常に分かりやすいよ」
僧侶「うっ……はぁ、あの人にも同じことを言われました。お前は分かりやすい女だって」
狩人「はははっ、まあ良いじゃないか。知られて困るようなことでもないだろう」
僧侶「でも、何か嫌です……」
狩人「(小さくなってしまった。こうして横顔を見ると、まだ少女の域を出ないな)」
狩人「(少女のような振る舞いに反して、魅惑的な身体。本人は気付いていないようだが、ある意味で危うい女性だ)」
狩人「(庇護欲そそる女性というのは、このことを言うのだろうか? 私には理解出来ないが)」
僧侶「あの、狩人さん」
狩人「何かな」
僧侶「狩人さんは、彼女の為に研究を?」
狩人「影響を受けたのは確かだが、決めたのは私だ。言っただろう、進化の道を作ると」
僧侶「勇者とは人に奉仕する存在だと言うのもそこから? 勇者であった彼女の姿を見ていたから、貴方はあの人を……」
狩人「……」
僧侶「ご、ごめんなさい。勝手に推察してしまって……」
630
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/07(日) 17:23:10 ID:em74N0TY
狩人「いや、構わないよ。彼を勇者だと認めなかったのは、それも関係しているだろう」
狩人「勇者が人に尽くす存在であるべきだという考えは、今も変わらない」
僧侶「今でも、あの人が嫌いですか?」
狩人「好き嫌いではないよ。ある点に於いては信頼出来るが、全てを信じているわけではない」
僧侶「じ、じゃあ、あの人の体が元に戻ったら? あの人と戦うのですか?」
狩人「それを決めるのは私だけではない。彼がどのような決断をするかで、また変わる」
僧侶「そう、ですよね……」
狩人「あまり楽しい話ではないな。この話は、もうやめよう。貴方の精神にも良くない」
僧侶「……はい」
狩人「僧侶さん、私からもいいかな。少し別の話をしよう。気分転換だ」
僧侶「気分転換? 何でしょうか?」
狩人「彼をどう思っているのかね」
僧侶「えっ!?」
狩人「私ばかり情報を与えるのは不公平と言うものだ。貴方もそうするべきだと思うのだが」
僧侶「そんなことを言われても、と言うか、気分転換になってないです……」
631
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/07(日) 17:24:35 ID:em74N0TY
狩人「無理に話さなくてもいい。ただ、その場合は此方で勝手に判断する」
僧侶「は、話します。話しますから、そういうのはやめて下さい」
狩人「む、そうか」
僧侶「(変な誤解されるのも嫌だし話そう。狩人さん、あんまり興味なさそうだけど……)」
僧侶「ありふれた言葉ですけど、とても大切な人です。色々気付かせてくれた人でもあります」
僧侶「あの人、今はとても弱っているから……私が守りたいなって、そう思います」
狩人「肉体関係はあるのかね?」
僧侶「あははっ、そんなのないですよ……ん?」
狩人「……」
僧侶「に、肉体関係!? ないですよ!! 貴方は何を言い出すんですか!!」
狩人「これは至って真面目な質問だ。街で見た幾つかの資料にはそう記されてあった」
僧侶「……神聖娼婦、ですか?」
狩人「ああ、貴方の項目にはそうあった。しかし、貴方を見ていると、どうもそのようには見えなくてね」
狩人「獣性を収めるだけの肉体関係では、そこまで献身的にはなれない。記載内容とは違うと思ったのだよ」
632
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/07(日) 17:26:09 ID:em74N0TY
僧侶「……」
狩人「複雑な事情があるなら、話さなくても構わない」
僧侶「いえ、話します。私も、それについては整理したいと思っていたので」
狩人「……」
僧侶「私は、あの人の力になるようにと、司教様の計らいで同行することになりました」
僧侶「もしかしたら、そのような役目も期待されていたかもしれません。あの人も知っていたかも知れない」
狩人「……」
僧侶「けれど、私は一度たりとも、そのような行為を強いられたことはありません。行為を求められたこともありません」
僧侶「望まれたことも。勿論、他に何らかの理由があって行為に及んだこともありません」
僧侶「私は、そのような存在として、あの人の傍にいたことはありません」
僧侶「あの人は、そんな人じゃない……」ギュッ
狩人「……」
僧侶「今も傍にいるのは私自身の意思です。私が、そうすると決めました」
狩人「……そうか。済まないな、結局嫌な話になってしまった」
僧侶「いえ、話せてすっきりしました。ずっと、もやもやしていたので良かったです」ウン
633
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/07(日) 17:27:38 ID:em74N0TY
狩人「それは良かったよ。しかし、別の面で気になってしまうな」
僧侶「何がです?」
狩人「いや、数ヶ月共に過ごしているのだろう?」
僧侶「はい、そうですけど……」
狩人「彼は大丈夫なのかと思ってね。性欲、それによる獣性の昂ぶりというのは馬鹿に出来ない」
僧侶「へえ〜、そうなんですか」
狩人「……」
僧侶「?」
狩人「本当に、何もなかったのか」
僧侶「な、ないですってば。あの人は強いんです。そんな気持ちには負けません」
狩人「成る程、それは素晴らしい。性衝動に抗うには余程の精神力、自制心が必要だからね」
僧侶「そうです。あの人は強いんです。そういう素振りは見せたこともないですからね」ウン
634
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/07(日) 17:30:09 ID:em74N0TY
狩人「ふむ」ジー
僧侶「えっ、何ですか」
たゆんっ
狩人「まあ、貴方に問題があるわけではなさそうだ。貴方を女性として見た時、興奮しない男性はいないだろう」
僧侶「興ふ………………ん!?」バッ
狩人「どの部位に興奮するのかは、人それぞれだがね」
僧侶「部位とか言わないで下さい……」
狩人「だとすると、彼の方に問題があるのかもしれないな」
僧侶「へっ?」
狩人「今の時代、男色の気があるのは別段おかなしなことではない」
僧侶「あははっ。まさか、あの人に限ってそんなことは有り得ませんよ」
狩人「……」
僧侶「……本気で言ってます?」
狩人「勿論だ」
僧侶「絶対に有り得ません。あの人がいやらしい目で見られていたことはありますけどね」
635
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/07(日) 17:31:34 ID:em74N0TY
狩人「男性にか?」
僧侶「いえいえ、性別を問わずです。露骨にそのような誘いをする方もいましたからね」ウン
狩人「何故貴方が誇らしげなのだ」
僧侶「それは、えっと、あの人、顔立ちは良いですから。今はちょっと、あれですけど……」
狩人「顔や肉体の造形が美しいのは私も認めるよ。男性まで虜にするとは驚きだ。しかし」
僧侶「?」
狩人「しかし、それは何の証明にもならない」
僧侶「」
狩人「戦いの途絶えない旅路の中、貴方のような女性が傍にいる。その先は想像に難くない」
狩人「そう考えると、彼が何かしらの問題を抱えていると思わずにはいられないのだよ」
僧侶「問題なんてありません。あの人は男性的です。口調や振る舞いを見れば分かるでしょう」
狩人「そうは言うが、此方には助手がいる。少々不安なのだよ」
僧侶「ば、馬鹿なこと言わないで下さい!!」
狩人「証明出来るのかね?」
僧侶「出来ます!! えっと、え〜っと…………!!」ハッ
636
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/07(日) 17:32:34 ID:em74N0TY
狩人「?」
僧侶「も、揉まれたことならあります!」
狩人「揉まれた? それを?」
僧侶「それとか言わないで下さい」
狩人「失礼。乳房を揉みしだかれたわけだね?」
僧侶「違います。揉みしだかれてはないです。揉まれただけです」
狩人「それで?」
僧侶「それだけですけど……」
狩人「それでは何の証明にもならないだろう」
僧侶「ぐっ。もうっ、何なんですかさっきから!! 何が言いたいんですか!?」
狩人「事実を述べているまでだよ」
僧侶「事実無根です! そっちだって証明出来ないでしょ!?」
狩人「いや、私は男性として少々問題があるのではないかと言っているだけだよ」
僧侶「疑ったら何とでも言えるじゃないですか!! ないものは証明出来ませんよ!!」
637
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/07(日) 17:33:36 ID:em74N0TY
狩人「ほう。随分と必死じゃあないか」
僧侶「ば、馬鹿にしてますねぇ?」イラッ
狩人「いや? そんなことはないよ?」
僧侶「くぅ……!!!!」ハッ
狩人「ふふっ、どうしたのかね?」
僧侶「狩人さんっ!! 貴方、本当は女性が好きなんでしょう!?」
狩人「何を馬鹿な。それこそ有り得ない」
僧侶「じゃあ証明してみて下さいよ!!」
狩人「!?」
僧侶「おやぁ? どうしましたかぁ? 早くして下さいよ、さあさあさあっ!!」
狩人「いや、私はただーーー」
僧侶「3、2、1。ほら出来ない!! 同じことですよ!! はいっ、この話は終わりっ!!」バンッ
狩人「……っ」
僧侶「(ふん、勝った。狩人さんに勝ってやった。私の勝ちだ。馬鹿なこと言うからだ)」
638
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/07(日) 17:34:42 ID:em74N0TY
狩人「くっ。フフッ、アハハハッ!!」
僧侶「え?」
狩人「私はからかっただけだよ。それを貴方は、勝ち誇った顔で……っ、アハハハッ!」
僧侶「……私もからかっただけですけど?」
狩人「フ、フフッ、見え透いた嘘と、その顔はやめてくれ」
僧侶「……」
狩人「からかっただけですけど? フフッ…」
僧侶「真似しないで下さい」
狩人「フフッ…」
僧侶「ひ、人の気持ちを弄ぶなんて最低です!」
狩人「人聞きの悪いことを言わないでくれないか。貴方が勝手に話しただけだ」
僧侶「っ、屁理屈じゃないですか!!」
狩人「ちなみに、胸を揉まれたと高らかに言い放ったのも貴方だ」
僧侶「〜〜!!」カァァ
狩人「ハハハッ、冗談だよ。悪かったね。貴方の反応があまりに面白くて、つい」
639
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/07(日) 17:35:41 ID:em74N0TY
僧侶「ふん、もう良いですよ。真面目に考えた私が馬鹿でした」
狩人「真面目に?」
僧侶「っ、真面目にもなりますよ。だって……」
狩人「……」
僧侶「……」
狩人「……言わなくてもいい。何となくだが、貴方を見れば察しは付く」
僧侶「そんなんじゃないです。この感情がどんなものか、自分でも分からないですから」
狩人「大丈夫だ。彼も、男性も気があるわけではないよ。それは私にも分かる」
僧侶「そんな心配はしていません!!」
狩人「貴方に手を出さないのは、己を強く律しているからだろうね」ウン
僧侶「あの、からかうのか真面目に話すのかどちらかにしてくれます?」
狩人「それを可能にしているのは、貴方に対して特別な思いを抱いているからに違いない」
僧侶「無視しないで下さい。と言うか、何故言い切れるのですか?」
狩人「彼は貴方の手を取った。それが証明だ」
僧侶「それだけで特別だなんて、言い過ぎですよ……」
640
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/07(日) 17:37:24 ID:em74N0TY
狩人「私の手は掴まなかった」
狩人「それも、魂が砕け散ってもおかしくない状態で、羅刹王の矢に貫かれたにも拘わらずだ。どうかな、少しは安心したかね?」
僧侶「……安心とは、少し違います」
狩人「いや、ひょっとすると、単に貴方を性行為の対象として見ていないだけなのかもしれないな……」
僧侶「えっ?」
狩人「彼は私のように細身の女性が好みなのかもしれないよ? 性的、肉体的嗜好と言うやつだ」
僧侶「……」ジー
狩人「?」
僧侶「(確かに、細身だけど艶めかしい。病的に白い肌が、妖しさを醸し出している)」
僧侶「(男性って、こういう雰囲気の女性に弱いのかな。妖艶と言うか、魔性と言うか)」
僧侶「(手首なんて、握ったら簡単に壊れちゃいそうだ。守りたいって、思うのかなぁ……)」
狩人「そこまで遠慮なく観察されると注意する気もなくなるよ。存分に見たまえ」
僧侶「い、いえ、もう結構です。ありがとうございました」
狩人「ふふっ、そうか。それで? 私の身体を見て何か分かったかね?」
僧侶「と、とても、お美しいと思います。白くて、細くて……(そもそも綺麗だし)」
641
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/07(日) 17:38:37 ID:em74N0TY
狩人「ははは。ありがとう」
狩人「しかし、まじまじと見ておいて感想はそれだけか。もっと、じっくり見てもいいのだよ?」
僧侶「(うっ。思わずドキリとしてしまった。こういうことをさらっと言えるのが大人なのかな)」
狩人「ああ、言っておくが先程のも冗談だから安心したまえ。彼は私に欲情などしていないし、そもそも、私をそういった目では見ていない」
僧侶「……」
狩人「悪かったね。つい、からかいたくなってしまった」
僧侶「冗談には聞こえないので今後はやめて下さい」
狩人「はははっ。分かったよ」
ザッ…
僧侶「?」
勇者「僧侶、ちょっと来い」
僧侶「は、はいっ! 今行きます!」
狩人「良かったじゃないか、誘われて」
僧侶「狩人さん、本当に怒りますよ」
狩人「早く行きたまえ。彼が待っているよ?」
642
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/07(日) 17:39:31 ID:em74N0TY
僧侶「くっ……」
狩人「何かな?」
僧侶「何でもありません。では、行ってきます。すぐに戻りますので」
狩人「遠慮は要らないよ。ゆっくりしてくるといい」
僧侶「すぐに、戻りますっ!!」
ザッ
狩人「……行ったか。ああして話すのも、悪くなーーーッ、ゲホッ、ゲホッゲホッ…?」
ボタボタッ…
狩人「(当然の結果だ。王位と戦って、無事に済まないことは分かっていた)」
狩人「(あれだけ回転を速めたのだ。寿命を縮めるのは承知の上だ。しかしーーー)」
狩人「ッ、ゲホッゲホッ」グラッ
狩人「(しかし、これ程までとはな。少々、無理をしすぎたようだ)」
ザッ…
助手「狩人さん、しっかりして下さい!」
狩人「……大丈夫だ。まだ、大丈夫だよ。少し横になれば、落ち着く」
643
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/07(日) 17:40:57 ID:em74N0TY
助手「僧侶さんを呼んできます」
ガシッ!
助手「狩人さん、何を……」
狩人「止せ、呼ばなくて良い」
助手「しかし、そのままでは」
狩人「私に治癒の魔術は通用しない。私の体が邪魔をするのだ」
助手「そんな……」
狩人「そんな顔をするな。君にはまだ教えることがある。まだ、逝くことはしないよ」
助手「本当に、大丈夫なんですね?」
狩人「ああ、この痛みは以前にも経験したことがある。助手、聞いてくれ」
助手「な、何ですか? 何でも言って下さい」
狩人「盗み聞きは、感心しないな」ニコリ
助手「い、いやっ、僕は別に」
狩人「ふふっ、まあいいさ。最初から、君に聞こえるように話していたからね」
助手「(……やられた。この人には、あらゆる面で勝てる気がしない)」
644
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/07(日) 17:42:25 ID:em74N0TY
狩人「研究内容については、いずれ話す」
狩人「君には、もっと多くのことを知って貰わなければならないからね」
助手「はい、お願いします」
狩人「……たった数日で、顔付きが変わったな。少しだけ頼もしくなったような気がするよ」
助手「……」
狩人「しかし、その瞳は変わらないな。いいか、助手。決して、曇らせてはならないよ?」
助手「……はい」
狩人「分かればいいのだ。私は、少し眠るよ」
助手「此処にいます」
狩人「フッ。まったく、君は心配性だな。まあいいさ、好きにしたまえ……」
助手「(狩人さんには残された時間は少ない。その時間を、無駄にはさせない)」
645
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/08(月) 08:50:50 ID:SIP/yJ0M
【#27】受心の兆し
勇者「……」
僧侶「(この人が私を呼ぶなんて珍しい。巫女ちゃんと話したことで何かあったのかな?)」
勇者「お前、何か気になることはあるか」
僧侶「気になること、ですか……」
勇者「……」
僧侶「……羅刹王は、貴方と私を歪みと言っていました。それが気掛かりで、少し不安です」
勇者「……」
僧侶「あのぅ、聞いていますか?」
勇者「ああ、聞いてる。そのことだが、ついさっき巫女から聞いた」
勇者「あの化け物が、俺とお前を歪みと称した理由も分かった」
僧侶「分かったって、どういう……」
勇者「自分から言っといて何だが、今は話せない」
646
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/08(月) 08:53:06 ID:SIP/yJ0M
僧侶「何故ですか……」
勇者「少し、聞いてくれ」
僧侶「……分かりました」
勇者「聖水の件でもそうだが、事実を知って傷を負うこともある。今回もそうだ」
勇者「話したくないわけじゃない。どう伝えるべきか、俺にはまだ分からないんだ」
僧侶「(この人も悩むんだ。でも、そうだよね。何を聞いたのかは分からないけれど……)」
勇者「けどな、必ず話す。あいつ等を預けて落ち着いたら、必ずな」
勇者「だから、何だ……今話さない理由は、お前に対しての疑いや何かが原因じゃない」
僧侶「大丈夫です。それは分かります」ニコッ
勇者「……」
僧侶「?」
勇者「僧侶、俺はお前を裏切らない。何があっても、お前を死なせはしない。いいな」
僧侶「は、はいっ」
勇者「まあ、お前から守られてる俺が言えたことじゃないけどな」
僧侶「(びっくりした。この人が、そんなことを言うなんて……)」
647
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/08(月) 08:59:38 ID:SIP/yJ0M
勇者「俺からは、それだけだ」
僧侶「あのっ、それを言う為だけに私を?」
勇者「何だ、不満か?」
僧侶「いえ、別にそういうわけでは……」
勇者「そうかよ」
僧侶「(へへっ、嬉しいな。もっと頑張ろ)」
勇者「無理はするなよ」
僧侶「はいっ!」ニコッ
勇者「じゃあ、もう寝ろ」
僧侶「えっ……」
勇者「何だよ、その面は」
僧侶「もうちょっと話したりしたいです」
勇者「何? 何かあんの?」
僧侶「………あの、男の人が好きだったりしないですよね?」
648
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/08(月) 09:14:01 ID:SIP/yJ0M
勇者「次に言ったら殺すぞ」
僧侶「ひっ、ごめんなさいっ!!」
勇者「……チッ、真剣に聞いてんのは分かる。お前が言うような嗜好を持った奴等は確かにいる」
僧侶「え?」
勇者「国の権力者、教会の指導者。どいつもこいつも、似たような奴等ばかりだったよ」
僧侶「何で、そんなことを……」
勇者「見てきたからさ」
僧侶「……」
勇者「美しさは力になる。力は利用する。使えるものは何を使ってでも生きる。何でもな」
僧侶「……」
勇者「僧侶。お前は、そのまま生きろ」
僧侶「!!」
勇者「いいな」
僧侶「……」コクン
勇者「さあ、もう戻れ。戻って、狩人と下らねえ話でもしてこい」
649
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/08(月) 09:20:38 ID:SIP/yJ0M
僧侶「はい……じゃない!! 聞いてたんですか!?」
勇者「聞こえたからな。悪かったな、いつまでも手を出さなくて」
僧侶「別にそういうのは望んでません!!」
勇者「そういうのって何だよ」
僧侶「そういうのはそういうのです!」
勇者「肉体関係と性行為だっけ?」
僧侶「っ、そうです。でも、私には必要ないです」
勇者「こうなる前に抱いてやれば良かったな。女としては不安になって当然だ。傷付けちまってごめんな?」
僧侶「抱くとか言わないで下さい。そもそも傷付いてなんかいませんから」フイッ
勇者「そうなのか?」
僧侶「そ、そうなんです……」
勇者「ふーん」
僧侶「……あの」
勇者「ん?」
僧侶「私が神聖娼婦と記されていたことを知っていたんですか?」
650
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/08(月) 09:26:23 ID:SIP/yJ0M
勇者「知らねえ」
勇者「つーか、知ってたら何なんだよ。どうでもいいだろ、そんなもん」
僧侶「どうでも、いい?」
勇者「お前は神聖娼婦じゃねえんだ。だったら、それでいいだろうが」
僧侶「……」ギュッ
勇者「何、他にもあんの?」
僧侶「何で私を? 同行を断ることだって出来たはずなのに」
勇者「置いて行こうとしたけど付いて来た。お前が折れなかっただけの話だ。俺は何もしてない」
僧侶「(……きっと、何もかも知っていた。だから、今まで何も言わずにいてくれたの?)」
勇者「……」
僧侶「……もう少し、良いですか?」
勇者「あ?」
僧侶「さっきの続きで、気になることがあって……」
勇者「続き? 何だよ」
僧侶「貴方って、やっぱりその、経験豊富なんですか? 女性の対応とか慣れてそうですし」
651
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/08(月) 09:29:03 ID:SIP/yJ0M
勇者「はぁ? 何だそれ、必要?」
僧侶「い、嫌だったら答えなくても大丈夫です」
勇者「あ、そう。じゃあ、言いたくないから言わない」
僧侶「えっと、何歳くらいで経験するものなんですか?」
勇者「知らね」
僧侶「えっと、初めての時は緊張ーーー」
勇者「何なんだよお前、性への興味で脳内満たされたのか? そんなにやりてえの? 性の獣?」
僧侶「せ、性獣じゃないです」
勇者「うるせえ。卑しい性獣、肉欲の僧侶」
僧侶「変な二つ名を付けないで下さい……」
勇者「月夜に吠える妖しき変態の方がいいか?」
僧侶「何ですかそれ、どっちも嫌ですよ」
勇者「残念だな、とても似合ってるのに」
僧侶「(結構真面目に聞いたのに、すぐにからかう。確かに変な質問だったけど……)」
僧侶「(そう言えば、悩んでる理由を聞いてなかった。今なら、聞けるかな)」チラッ
652
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/08(月) 09:32:56 ID:SIP/yJ0M
勇者「どうした?」
僧侶「……最近、貴方が悩んでいるような気がして……何か、あったのですか?」
勇者「別に何もねえよ」
僧侶「でも、以前の貴方なら、狩人さんと一緒に行動するなんて判断はしなかったはずです」
勇者「殺してたかもな」
僧侶「じゃあ、何で……貴方らしくないというか、何か、変わったようにも思えます。何かあったのですか? 」
勇者「どうだろうな」
僧侶「(はぐらかされた。やっぱり、私には話してくれないんだ……)」
勇者「……俺が変わったように見えるなら、変わったんじゃない。多分、変えられたんだ」
僧侶「変えられたって、誰に……」
勇者「お前さ、全部言わなきゃ分からねえのか」
僧侶「……………あっ……」カァァ
勇者「落ち込んだり赤くなったり忙しい奴だな」
僧侶「だって、そんなこと一度も言わなかったじゃないですか……」
勇者「君のお陰で僕は変わったって? んなこと言うかよ、馬鹿じゃねえのか?」
653
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/08(月) 09:35:30 ID:SIP/yJ0M
僧侶「(久々に言われた気がする)」
勇者「でもまあ、確かにらしくねえかもな」
僧侶「そ、そんなことはありませんっ!」
勇者「どっちだよ。そう言ったのはお前だろ?」
僧侶「それはもういいです。それが悪いって言ってるわけじゃないですから」
勇者「へえ、女ってのは気が変わるのが早いんだな」
僧侶「それは、あれです。変化を受け入れただけです。そういうのも大事ですよ」ウン
勇者「へ〜、そうなんだ」
僧侶「うっ。あの、ここから先は真面目に聞いて下さい。本当に大切な話ですから」
勇者「なに?」
僧侶「……私が貴方を守ります。絶対に死なせません。何があっても、貴方を守ります」
654
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/08(月) 09:39:03 ID:SIP/yJ0M
勇者「それは、お前の意思か?」
僧侶「当たり前です。私以外に誰がいるんですか。勿論、私の意思です」
勇者「……そうだな」
僧侶「(暗い顔、どうしたんだろう……)」
勇者「なあ、僧侶」
僧侶「何です?」
勇者「お前は、お前のままでいてくれ」
勇者「誰に何を言われても、自分の存在を疑うな。俺もお前を信じる。それから……」
僧侶「……それから?」
勇者「……」
僧侶「……」
勇者「俺が、傍にいる。これからも」
僧侶「は、はいっ。私も、貴方の傍にいます! これから先も、ずっと!」
655
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/08(月) 09:47:02 ID:SIP/yJ0M
【#28】遠雷
勇者「……」ゴロン
シーン…
勇者「……」
僧侶『私が、貴方を守ります。絶対に死なせません。何があっても』
勇者「……守る」
バチッッ!
勇者「ッ、何だーーー」
勇者『次から次へと出てきやがって』ダンッ
ゴシャッ!ズドッッ!
勇者『チッ、最近多いな。まあ、龍を殺せば、それも終わるか』
僧侶『……』
勇者『おい、無事か』
僧侶『わたしは平気』
656
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/08(月) 09:48:06 ID:SIP/yJ0M
勇者『ならいい。行くぞ』
僧侶『ねえ』
勇者『どうした?』
僧侶『わたしは戦わなくてもいいの?』
勇者『俺一人で戦える。お前が戦わなくても問題ない』
僧侶『わたしが戦った方が早く終わる。あなたの役に立ちたいの』
勇者『……いいか、僧侶。確かに、お前には強い力がある。魔術の才能もあるだろう。でもな、お前に頼るわけにはいかないんだ』
僧侶『なんで?』
勇者『……』
僧侶『?』
勇者『子供は戦わなくていい。子供が武器を手に取るようになったら、この世は終わりだ』
657
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/08(月) 09:50:01 ID:SIP/yJ0M
僧侶『わたしが戦ったら、世界が終わるの?』
勇者『そうじゃない。お前に頼るようになったら、俺の終わりってことだ』
僧侶『よく、わからない……』
勇者『分からなくていい。さあ、行くぞ』
僧侶『……うん』
勇者『大丈夫だ。今は分からなくても、いつかは分かる。その時が来る。きっとな』
僧侶『ほんとう?』
勇者『ああ、本当だ』
僧侶『わかるまで、傍にいてくれる?』
勇者『………ああ』
658
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/08(月) 09:51:16 ID:SIP/yJ0M
ーーー
ーー
ー
勇者『ぐっ…』ガクンッ
ザザザザ…
勇者『……うじゃうじゃいやがる。数だけは多いな、人食いの化け物共が』
僧侶『っ!!』ダッ
勇者『よせっ!! やめろ!!』ダンッ
ズドッッ!ズシャッッ!
勇者『はぁっ、はぁっ、はぁっ……』
僧侶『血がーーー』
勇者『触るな。俺は何ともない。お前は何もするな。これまで通りだ、いいな』
僧侶『っ、何でなの!? 貴方はいつもそう言うばかりで何も話してくれない!!』
勇者『黙ってろ』
僧侶『こんなんじゃ大きくなった意味がない!! 貴方を助けたくて大きくなったのに!!』
659
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/08(月) 09:54:24 ID:SIP/yJ0M
勇者『聞こえなかったのか、黙れ』
僧侶『っ、嫌だ。もう言いなりにはならない。私だって戦える。もう大人だもん』
バチンッ!
僧侶『っ、何でーーー』
勇者『いい加減にしろ。お前はまだガキだ。耐えられるわけがない』
僧侶『私が子供なら貴方だって子供じゃない!!』
勇者『俺とお前じゃ違うんだ。俺はガキの頃から殺してる』
僧侶『だから何だって言うの!?』
勇者『殺したのは化け物だけじゃない。人も殺してる。大勢な』
僧侶『そんなの嘘だ』
勇者『嘘じゃない。お前が気付いてなかっただけだ』
僧侶『何で、人を殺したの……』
勇者『敵が化け物だけとでも思ったのか? 俺を付け狙う奴等は大勢いるんだよ』
勇者『見えていないだけだ。この世界は、お前が思っているような美しい世界じゃない』
660
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/08(月) 09:56:26 ID:SIP/yJ0M
僧侶『……』
勇者『……化け物だろうが人間だろうが、殺すってことは終わらせるってことだ』
勇者『そいつらが歩むはずだった道も、そいつらが生きるはずだった未来も、何もかもをな』
勇者『そいつらの顔、声が焼き付く。相手がどんなに屑でも、家族には心底恨まれるし憎まれる』
勇者『罪だと感じる。自分を疑う。それが死ぬまで続く。お前はそれに耐えられるか?』
勇者『ついこの前まで子供だったお前が、殺した奴等の命を背負って生きていけるってのか?』
僧侶『私は、ただ……』
勇者『考えたこともなかったか? それがガキだって言ってんだよ』
僧侶『そんなの関係ない!! 私はただーーー』
勇者『俺の役に立ちたいか? 俺のために戦って、俺のために殺すのか。そんなんじゃ続かねえ』
勇者『すぐに折れる。いつかは耐えられなくなり、いずれは俺を憎む。罪を押し付ける』
僧侶『そんなことはしない!!』
勇者『だったら、もう少し考えろ。お前が戦う理由を見付けろ。お前の意思で、決めるんだ』
僧侶『……』ギュッ
勇者『……話は終わりだ。行くぞ』
661
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/08(月) 10:01:46 ID:SIP/yJ0M
ーーー
ーー
ー
勇者『ッ!!』ダンッ
ゴシャッ!
勇者『僧侶、此処はもういい。お前は上に戻れ』
僧侶『囚われの難民を助けるんでしょう? 一人じゃ無理だよ。私も手伝う』
勇者『……分かった。下に何がいるか分からねえ。俺から離れるなよ』
僧侶『うん、分かってる』
ザッ…
勇者『此処は……』
僧侶『……あれは、なに?』
勇者『ッ、見るな。お前は此処に隠れてろ』
僧侶『ねえ、あれは何なの? 何で人が溶かされているの? ねえ、何を造っているの!?』
662
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/08(月) 10:04:50 ID:SIP/yJ0M
勇者『僧侶、落ち着ーーー!!』
ゾロゾロ ガチャガチャ!
勇者『ッ、何が出て来るかと思えば騎士に修道士……そうか、人を捨てたんだな、お前等は』ダンッ
ドギャッッ! ドサドサッ…
勇者『僧侶!! お前は逃げろ!!』
僧侶『何で、あんなことを、同じ人間なのに、何で……だってあれは、私も、何度も使って……』ガクガク
勇者『しっかりしろ!! 此処は俺が抑える。早くーーー』
僧侶『や、やめてっ、来ないで!』
勇者『!!』バッ
ザクッ!ザクッ!
勇者『……』ボタボタッ
僧侶『……?』
勇者『……行け』
僧侶『あ、あ、あぁ、そんなっ……』
勇者『いいから、行け。俺が突っ込んだら走れ。いいな』ダンッ
663
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/08(月) 10:05:39 ID:SIP/yJ0M
僧侶『嫌、待っーーー』
ゴシャッ!
勇者『はぁっ、はぁっ……』
僧侶『……』フラッ
勇者『何してる!! 早く行け!!』
僧侶『……』ヨロッ
勇者『僧侶!! ッ!!』ダッ
ゴシャッ!
僧侶『(また、いつもと同じ。あの人を置いて、一人安全な場所に逃げるの?)』クル
僧侶『(見ているだけで……)』
ザクッ!
勇者『ッ、あああっ!!』ググッ
ドギャッッ!ズドンッ!
僧侶『(いつまで、あの人に傷を負わせるの? いつまで、あの人だけに背負わせるの?)』
664
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/08(月) 10:11:18 ID:SIP/yJ0M
勇者「はぁっ、はぁっ……ッ!!」ダッ
僧侶『(苦しみだけを与え続けて、何もしないまま終わり? 本当にそれでいいの?)』
僧侶『……』 ギュッ
僧侶『(奴等は人を喰らう怪物と変わらない。戦うべきだ。消し去るべきだ。思い知らせるべきだ)』
僧侶『……私は』
僧侶『(あの所業を、許せるの?)』
僧侶『……許せない』
僧侶『(あの人を傷付ける存在を許せるの?)』
僧侶『許さない』
僧侶『(私には力がある。きっと、あの人の為に授かったんだ。今が、その時なんだ)』
ザッ…
僧侶『焼けて、爛れろ』
ゴォォォッ!
勇者『あの炎は……まさか……』ダッ
665
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/08(月) 10:13:24 ID:SIP/yJ0M
僧侶『……』
勇者『僧侶……』
僧侶『……ごめんなさい、あなた』クラッ
勇者『!!』
ガシッ
勇者『しっかりしろ』
僧侶『……私も、一緒に背負う』
勇者『……』
僧侶『もう、貴方だけにはーーー』
ぎゅっ…
僧侶『あっ』
勇者『苦しいだろ。無理するな』
666
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/08(月) 10:15:06 ID:SIP/yJ0M
僧侶『……苦しくない』
勇者『嘘言うな』
僧侶『嘘じゃないよ』
勇者『……』
僧侶『本当に大丈夫だよ? 私、何にも苦しくないよ? だって私が殺したのは、人じゃ……ないもん』
勇者『……』
僧侶『人じゃない……グスッ…あれは、怪物だった。そうでしょう?』
勇者『……』ギュッ
僧侶『う、うぅっ……』
勇者『……俺が傍にいる』
僧侶『…うん……うんっ』ギュッ
667
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/08(月) 10:17:17 ID:SIP/yJ0M
ーーー
ーー
ー
勇者『何してんだ?』
僧侶『この腕輪が気になるのよ。こういった類の物には詳しくはないけれど、とても綺麗だわ』
勇者『腕輪? お前が?』
僧侶『なに? 悪いの?』
勇者『いや? しかし、お前が腕輪に興味持つなんてな』
僧侶『い、いいじゃない別に。もう大人だもの』
勇者『大人ね……』
僧侶『何よ、文句あるの?』
勇者『どれだよ』
僧侶『え?』
勇者『だから、どれが気に入ったのかって聞いてんだよ』
僧侶『こ、これ。この連環の腕輪。綺麗でしょう?』
668
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/08(月) 10:18:19 ID:SIP/yJ0M
勇者『ふーん。じゃあ買うか』
僧侶『へっ?』
勇者『欲しくねえのかよ』
僧侶『欲しいけど、いいのかしら……』
勇者『誰も文句言わねえだろ。つーか言わせねえ。買ってくるから待ってろ』ザッ
僧侶『あっ、もう……ふふっ』
ザッ…
勇者『ほら、買って来たぞ』
僧侶『……』
勇者『何だよ』
僧侶『何だか、あまり嬉しくないわ。他に言い方があると思うのだけど』
勇者『だったら他の男にでも頼め。今のお前なら簡単に引っ掛けられるだろ』
669
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/08(月) 10:20:04 ID:SIP/yJ0M
僧侶『そんなことしないわよ。貴方でいいわ』
勇者『そうかよ。ほら、さっさと手ぇ出せ』
僧侶『ねえ、もうちょっと優しく言えないの?』
勇者『今更優しくしてどうなるもんでもねえだろ。ほら、手を出せ』
僧侶『はいはい、分かったわよ』スッ
勇者『細いな。もっと食え、そんで太れ』
僧侶『絶対に嫌よ。私は綺麗でいたいの』
勇者『この前まで子供だった奴がよく言うぜ』
僧侶『うるさいわね。さっさとしてよ』
カチリ…
勇者『ん、出来た』
僧侶『綺麗……』
勇者『壊すなよ?』
僧侶『ええ、ずっと大切にするわ。こんなにも何かを気に入ったのは、初めてだから……』
670
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/08(月) 10:22:37 ID:SIP/yJ0M
勇者『……そうか。そりゃ良かったな。さあ、行くぞ』
僧侶『ねえ』
勇者『ん?』
僧侶『私、貴方と出会えて良かったわ』ニコッ
勇者『何だそりゃ、腕輪買ってくれたからか?』
僧侶『茶化さないで。私は真面目に話してるの』
勇者『……』
僧侶『初めて会ったのが貴方で良かった。心から、そう思っているわ』
僧侶『運命なんて信じないけれど、貴方と出会えたのが運命なら、信じてあげてもいい』
勇者『そうかい。いつにも増して偉そうだな』
僧侶『前世では偉人か何かだったに違いないわ。だって、こんなにも優れた魔術を使えるのだから』
勇者『そうかもな』
僧侶『あら、否定しないのね』
勇者『お前はきっと、何か大きなものになれる。俺なんかより、ずっと大きなものに』
僧侶『これ以上大きくならなくてもいいわ。今のままで、貴方の傍にいたいから』
671
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/08(月) 10:24:30 ID:SIP/yJ0M
勇者『……』
僧侶『ちょっと、なにか言ってよ』
勇者『もう、子供に掛ける言葉は言えない』
僧侶『何を言っているの?』
勇者『お前は此処に残れ。俺とは別の道を歩くんだ。お前はもう、一人で歩けるはずだ』
僧侶『っ、急に何を言い出すの!? そんなのーーー』
バチッ!
魔女「……」
魔女「……そんなの嫌よ。いつまでも傍にいるって言ったじゃない。だったかしら」
魔女「……」スッ
シャラ…サラサラ…
魔女「…………運命」
672
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/09(火) 18:17:19 ID:gs5rTee2
【#29】失われた時の中で
勇者『今のが、魂の記憶……』
僧侶『どうかしら? 主だった記憶の断片は見せたつもりだけれど』
勇者『夢の中で夢を見るってのは妙なもんだな。何というか、他人の記憶を垣間見た気分だ。時間の流れが早過ぎて、付いて行けねえ』
僧侶『直に慣れるわ』
勇者『……そうかい。で、お前は誰なんだ? 前に夢を見せたのはお前なのか。姿は魔女に近いようだが』
僧侶『私は三人の元となった存在。その残滓。貴方の夢だけに生きる者』
勇者『色々いて誰が誰だか分からねえな』
僧侶『そう難しく考えることはないわ。どの私も私だもの。私達は一つから生まれた。皆が貴方を知っているのよ』
僧侶『過ごした時間、場所、体験。違っていても、共に過ごした人間はただ一人。貴方だけ』
勇者『……お前は、どのお前だ』
僧侶『面白いことを言うのね。どういう意味?』
勇者『さっきも言ったが、お前の姿は魔女に近い。だが、感じるものはまるで違う』
僧侶『私は、現在の巫女に近いわ。過去にではなく、未来を生きようとしている』
僧侶『その逆、誰よりも過去に囚われているのが魔女。彼女は、過去を取り戻そうとしている』
673
:
◆GC8HKbhIcg
:2018/10/09(火) 18:18:44 ID:gs5rTee2
勇者『囚われていると言ったな』
僧侶『ええ、魔女は元の存在の気質を最も強く受け継いでいる。誰よりも強いけれど、それ故に危うい』
勇者『元のお前とは? どんな奴だ』
僧侶『先程、貴方も見たでしょう。貴方に甘え、貴方を慕い、貴方の傍にいることだけを望んだ存在を』
勇者『……』
僧侶『何を犠牲にしても貴方を選ぶわ。その性質をそのまま受け継いだと言っていい』
勇者『……』
僧侶『大丈夫? どうしたの?』
勇者『本当に、俺が育てていたんだな。あれで育てたと言っていいのか分からねえが』
僧侶『貴方が育て、貴方が守り、貴方が教えたわ。全ての私達に』
勇者『一つ、聞きたい』
僧侶『なにかしら?』
勇者『何故、俺を恨まない。違う人間と出会っていたら、今とは違った未来を生きていたはずだ』
勇者『お前を決めてしまった俺を、そうしてしまった俺を、何故そうまでして……』
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