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【ぼく勉】小美浪先輩「この前は本当に悪かった」成幸「はい?」

1以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/10(月) 23:23:54 ID:w/7Zs4bc
………………海での一件から数日後 予備校

成幸 「なんです、藪から棒に」

小美浪先輩 「いや、メールでも謝ったけど、これだよ。ほれ」

成幸 (紙袋? 中身は……)

成幸 「あっ……ああ。これ、海で貸したシャツですね」

小美浪先輩 「いや、ほんと悪かったな。返すの忘れて先に帰って」

小美浪先輩 「メールでは大丈夫だったって言ってたけど、本当に大丈夫だったのか?」

成幸 「えっ、あー……」

成幸 (……帰りに乗せてもらった桐須先生の車の運転は、正直全然大丈夫ではなかったけど、)

小美浪先輩 「? 後輩?」

成幸 (それをこの愉快的な先輩に話したら、また桐須先生をからかうネタにしかねないし)

成幸 (わざわざ言うことではないな。よし)

小美浪先輩 「おーい、こうはーい。どうしたー?」

成幸 「……すみません。大丈夫でしたよ。海の家ですぐに新しいシャツを買えましたし」

小美浪先輩 「そ、そうか……」 ホッ

620以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/17(水) 00:02:01 ID:rF/gHjg6
>>1です。
読んでくださった方ありがとうございました。


また投下します。

621以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/17(水) 01:13:46 ID:aPrPpRks
まじで筆早すぎだろ
めっちゃ嬉しいがどうなってんだw

622以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/17(水) 18:13:08 ID:xve6QS.6
変な意味一切無くホントに爪垢売ってくれねかな…(俺と真ッ対極だ(半泣))

623以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/17(水) 22:22:29 ID:6fiblvPM
先生ええな
そら一番人気にもなりますわ

624以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/19(金) 11:49:50 ID:Ddm3Mlw2
貧乳文系かわいい

625以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/19(金) 18:57:22 ID:GZ5e3XKQ
https://i.imgur.com/878OMeB.png

626以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 21:37:08 ID:kETrs9EE
>>1です。
投下します。


【ぼく勉】文乃 「なんてベタな……」

627以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 21:38:22 ID:kETrs9EE
………………一ノ瀬学園 グラウンド

滝沢先生 「今日から体育は長距離走だ。初日だから、無理するなよ」

滝沢先生 「身体を慣らす程度でいい。ただししっかり走れよー」

成幸 (ふっふっふっふ……)

成幸 (長距離走はただ走るだけ! 不器用な俺が体育の内申点を上げるチャンスだ!)

成幸 (まぁ、体力はないから良いタイムは望めないが、努力さえすれば多少はなんとかなる)

成幸 (一学期と二学期前半の水泳の分も挽回しなければ……!!)

文乃 「おー。なんか、成幸くん燃えてるね」

成幸 「ん……? ああ、古橋か。そうか、今日の体育はAB組合同か」

文乃 「うん。あと、長距離走だから男女混合だね。男子は外周五周、がんばってね」

成幸 「女子は三周だっけか。うらやましいぞ……」

文乃 「私は走るの嫌いじゃないからいいんだけどね、五周でも」

文乃 「成幸くんより足速い自信あるし」 エッヘン

628以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 21:38:59 ID:kETrs9EE
成幸 「む……言ったな? じゃあ、今日のタイムで勝負しようぜ」

文乃 「ほうほう。つまり、わたしのタイムを3/5倍して勝負だね?」

成幸 「うん。考え方は間違ってないけど5/3倍な」

文乃 「……こっ、細かいことはいいんだよ!」

コソッ

文乃 「ただ勝負するだけじゃつまらないから、何か賭けない?」

成幸 「ほー。俺に勝つ自信があるみたいだな。いいぞ、乗ってやる」

成幸 「負けた方は勝った方に購買のパン一つ奢る……ってのでどうだ?」

文乃 「うん。まぁ成幸くんの経済状況を考えたら妥当なところだと思うよ」

成幸 「冷静に人のサイフの中身を分析しないでくれ、古橋……」

鹿島 (……古橋姫と唯我成幸さん、何か話してますね)

猪森 (古橋姫、楽しそうっスね)

蝶野 (こっちまで幸せになってくるな……)

629以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 21:39:54 ID:kETrs9EE
………………スタート直前

成幸 (ふっふっふ……。古橋、悪いが、手をぬくつもりはない。単純な体力だけなら、さすがに負けないぞ)

成幸 (球技ならわからんが……)

文乃 (ふふふ……。成幸くんったら、私は体育は得意なんだよ?)

文乃 (キャラクター紹介ページでもATHLETICは○なんだよ。そしてきみは×だって知ってるんだから)

文乃 (成幸くんがなぜあんなに自信満々なのかわからないけど、絶対に負けないからね)

滝沢先生 『準備はいいかー? 公道を走るから、車や歩行者に気をつけろよー』

滝沢先生 『では、よーい……スタート!』

成幸&文乃 ((パンは!))

成幸 (俺が!!)  文乃 (わたしが!!)

成幸&文乃 ((いただく!!) んだよ!!)

630以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 21:40:34 ID:kETrs9EE
………………

大森 「はぁ〜、長距離走なんてだるいよなー。どっかでサボれないかな」

小林 「うるさいなぁ。喋ってると体力なくなるぞ」

小林 「少しは成ちゃんを見習えよ。ほら、あんなにまじめに走ってる」

成幸 「ゼェ……ゼェ……ゼェ……」

大森 「……まじめに走ってるのに、ダベりながら走ってる俺たちの少し前ってのが悲しいけどな」

成幸 (ふふ……いい、ペースだ……)

成幸 (男子の中でも真ん中の方にいるだろ……ふふ、負けんぞ、古橋……)

631以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 21:41:52 ID:kETrs9EE
………………ゴール後

成幸 「………………」

グタッ

成幸 (し、死ぬ……滝沢先生の言うとおり、慣らし程度で走るべきだった……)

成幸 (肺が痛い……)

文乃 「やーやー、成幸くん。結果はどうだったかな?」

成幸 「ふ、古橋……ふふ、お前の、その、余裕そうな顔も、そこまでだぜ……」 ゼェゼェ……

文乃 「うん。きみの方にそこまで余裕がないとわたしはどんどん余裕が出てくるんだけどね」

文乃 「ちなみにこれが今日のわたしのタイムだよ? で、5/3倍も計算しておいたよ」

成幸 「………………」

ガクッ

成幸 「う、うそだ……。俺、結構全力で走ったのに……」

文乃 「ふふふ、どうやらわたしの勝ちのようだね。じゃあ、昼休み、パンをよろしく頼むよ、成幸くん?」

成幸 「うぅ……」


―――― 「ほう。なかなか興味深い話をしているな、唯我、古橋」

632以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 21:42:34 ID:kETrs9EE
文乃 「わっ……た、滝沢先生!?」

滝沢先生 「まさかお前たち、体育の授業で賭け事をしていたわけじゃないだろうな?」

文乃 「あ、あはは……」

成幸 「えっと……あの……」

滝沢先生 「………………」

成幸&文乃 「「すみません!!」」

滝沢先生 「素直でよろしい。まぁ、パン程度なら遊びの延長というところで目はつむってやる」

成幸 「本当ですか!? 助かります……」

滝沢先生 「その代わり、といってはなんだが、少し手伝いをしてもらおうか」

滝沢先生 「外周にパイロンが設置してあっただろう? 放課後、あのパイロンの回収を頼みたいんだ」

滝沢先生 「体育の教員の手が空いてなくてな。頼めるか?」

文乃 「それくらいなら、まかせてください」

成幸 「はい、やります!」

滝沢先生 「じゃあ頼んだ。体育用具倉庫にあるカートを使って回収してほしい」

滝沢先生 「回収した後は、体育用具倉庫にしまっておいてくれ」

633以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 21:43:15 ID:kETrs9EE
………………放課後

成幸 (……と、いうわけで、外周を回りながらパイロンを回収しているわけ、だが……)

グイッ……グイッ……

成幸 (重い!!)

成幸 (ひとつひとつのパイロンは軽いが、カートに乗せていくにつれてどんどん増えていく!)

成幸 (重い!!)

文乃 「成幸くん、顔真っ赤だよ? 大丈夫? カート引くの代わろうか?」

成幸 「いや、さすがに……これを、女子にはさせられないだろ……」

成幸 「俺は男子だから、大丈夫……」

文乃 「む……男子とか女子とか、あんまり関係ない気もするけどな」

文乃 「結局、わたしの方が長距離走も速かったわけだし」

成幸 「ど……同一距離だったら、きっと負けてない、はず……」

文乃 「わたし今日結構流してたけど?」

成幸 「……お、俺だって、慣らしだったぞ?」

634以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 21:43:48 ID:kETrs9EE
文乃 「ふーん。そう? じゃ、カート引きがんばってね。パイロン追加するよ」

ゴトッ

成幸 「うぉ……」

成幸 (お、重い……)

グイグイ……

文乃 「ほら。後ろから押してあげるから、がんばって」

成幸 「わ、悪い……助かる……」

文乃 (だから、きみがずっとカート引いてるんだから、悪いなんて思う必要ないんだってば……)

文乃 (本当に損な性格。きみの将来が心配だよ、お姉ちゃんは)

成幸 (あ、あと少し……あと少しで、一周だ……)

成幸 (長距離走より疲れるぞ、これ……)

635以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 21:44:29 ID:kETrs9EE
………………体育用具倉庫

成幸 「うおお、おわった……」

ゴトッ

成幸 「これで全部のパイロンをしまえたか……長かった……」

文乃 「おつかれさま、成幸くん」

成幸 「いや、古橋もおつかれさま。つか、悪いな、変なことに巻き込んで。俺がパンを賭けようなんて言ったから……」

文乃 「いやいや、それはおかしいよ。わたしが何か賭けようかって言い出したのが悪いんだから。ごめんね」

成幸 「ん……いや、まぁ、俺もそれに乗ったわけだし、べつに……」

成幸 「そんなことより、早く戻ろうぜ。今日は図書室で勉強の日だろ」

文乃 「それもそうだね」 クスッ 「いつまでも成幸くんを独り占めしてたら、りっちゃんとうるかちゃんに怒られちゃうね」

成幸 「独り占め? なんだそりゃ。俺はべつに――」


――――ガシャン


成幸 「へ……?」

636以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 21:45:24 ID:kETrs9EE
………………外

真冬 「………………」

真冬 (まったく、なぜ私が体育用具倉庫の施錠をしなければならないのかしら……)

真冬 (体育の先生方も忙しいのはわかるけれど、そのあたりしっかりとしてもらわないと困るわ)

真冬 (……外周にパイロンが残っていないのは確認したし、カートも帰ってきている)

真冬 (滝沢先生は生徒にお願いしたと言っていたけど、その生徒たちはパイロンをしっかり回収したようね)

真冬 (さっさと鍵をかけて仕事に戻りましょう……)

ガシャン

真冬 (これでよし、と。さっさと仕事に戻りましょう)

637以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 21:46:18 ID:kETrs9EE
………………体育用具倉庫

文乃 「い、今の音って……」

成幸 「鍵がしまったような音だったな?」

文乃 「鍵って、ひょっとして……」

バッ……ガチャガチャガチャ……!!!

成幸 「開かねえ!! これは、ひょっとしてひょっとすると……」

成幸&文乃 「「閉じ込められた!?」」

成幸 「誰かー! 誰かいませんかー!」

ドンドンドン……!!!

成幸 「……ダメだ。鍵をかけた人はもうどこかに行っちゃったみたいだ」

文乃 「……うーむ」

成幸 「古橋? なんだ、考え込むような顔をして」

文乃 「いや、大したことじゃないんだけどさ、一言だけ言わせてほしくて」

文乃 「なんてベタな……」

638以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 21:47:03 ID:kETrs9EE
………………

文乃 「成幸くん、携帯電話持ってる?」

成幸 「あいにく、荷物は全部教室だ。古橋は?」

文乃 「同じく、だよ……」

成幸 「助けを呼んでも聞こえるような場所じゃないしなぁ……」

成幸 「仕方ない。このまま、気づいた誰かが助けに来てくれるのを待とう」

成幸 「図書室に俺たちが現れなけりゃ、緒方が心配して先生に相談してくれるだろ」

文乃 「カバンも教室に置きっぱなしだから、きっと滝沢先生が気づいてくれるよね」

成幸 「ゆっくり待とう。ちょっとした休憩だな」

文乃 「……うん」

639以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 21:47:38 ID:kETrs9EE
成幸 「………………」

文乃 「………………」

成幸 (……気まずい)

成幸 (と、いうよりは、どういう顔をしていたらいいのか分からない)

成幸 (今さらな話ではあるが、古橋はそれはもうとてつもない美少女だ)

成幸 (間違っても、薄暗い密室で一緒にいて心安らぐような相手じゃない)

成幸 (そして何より、向こうは恐らく、もっとそう思っているだろうということだ)

文乃 「………………」

成幸 (古橋のアンニュイな顔がそれを物語っている)


―――― 『実はわたし…… 威圧してくる男の人が怖くて……』


成幸 (俺はそういうタイプの男じゃない……とは思いたいが、)

成幸 (もしも万が一、古橋が今のこの状況を山岡に迫られたときのように感じているとしたら、)

成幸 (俺は今、絶対、古橋に近づいちゃいけない……!!)

640以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 21:48:14 ID:kETrs9EE
文乃 「………………」

文乃 (ど、どどど、どうしよう……)

ズーン

文乃 (わたしがそもそも賭け事なんてイケナイことを提案しなければ、こんなことには……)

文乃 (当たり前だけどなんの勉強道具も持ってきてないし、わたしはともかく、成幸くんは……)

成幸 「………………」

文乃 (めちゃくちゃ険しい顔してるー!! そりゃそうだよ。だって、わたしのせいで勉強が……)

文乃 (わたしの勉強が進まないのは自業自得として、それに成幸くんを付き合わせてるのはまずいんだよ)

文乃 (な、なんとしても早くここから脱出しないと……!!)

文乃 (出られるとすれば……)

チラッ

文乃 (あの、天井近くの採光用の窓。薄べったいけど、届きさえすれば、わたしなら通れる!)

文乃 (そのためには……)

641以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 21:49:06 ID:kETrs9EE
文乃 「あ、あのあの、成幸くん」

成幸 「!? お、おう、なんだ、古橋」

文乃 「ひとつ提案があるんだけど、あの採光窓から外に出てみない?」

文乃 「成幸くんが踏み台になってくれれば、わたしひとりなら出られると思うんだ」

文乃 「そうしたら、職員室に助けを呼べるし、すぐにここから出られるよ」

成幸 「……ん、まぁ、たしかにお前なら出られそうだな、あの窓」

成幸 「………………」

フルフル

成幸 「……でも、ダメだ。さすがに危なすぎる。こちら側は俺が肩車でもすればいいかもしれないが、」

成幸 「外に踏み台になるものがあるとも限らない。あの高さから変な飛び降り方をしたら、お前がケガをする」

成幸 「危険すぎる。だからダメだ」

文乃 「そ、そっか。そうだよね……。ごめん」

成幸 「おとなしく先生を待とうぜ。すぐ助けに来てくれるって」

642以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 21:49:46 ID:kETrs9EE
………………図書室

理珠 「………………」

カリカリカリ……

理珠 「……成幸さんと文乃、遅いですね」

理珠 (今日は体育の片付けを命じられたとかで行ってしまいましたが……)

理珠 (そんなにたくさんの片付けを命じられたのでしょうか。かわいそうに……)

フンスフンス

理珠 (うるかさんも水泳の練習でいませんし、)

理珠 (いまのうちに問題を解いて解いて解きまくって、みんなを驚かせてあげましょう)

カリカリカリカリカリ…………

643以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 21:50:23 ID:kETrs9EE
………………数時間後

成幸 「……日、暮れてきたな」

文乃 「うん……」

成幸 「………………」

文乃 「………………」

成幸&文乃 ((気まずい!!!!))

成幸 (うわー! どうしたらいいんだ俺はー! 古橋の奴、絶対俺のこと怖がってるよー!!)

文乃 (どうしようどうしようどうしよう!! 成幸くん、絶対わたしのこと怒ってるよー!!)

成幸 (ええい!)

文乃 (ままよ、だよ!)

成幸&文乃 「「あ、あのさ!」」

成幸 「!? あ、えっと……」

文乃 「な、成幸くんから、どうぞ?」

成幸 「い、いや、そっちからでいいよ……」

文乃 「えっ、ずるいよ、成幸くん……」

644以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 21:51:36 ID:kETrs9EE
成幸 「ずるいって、お前……。わかったよ……」

成幸 「えっと……なんか、その……ごめんな?」

文乃 「へ……?」

成幸 「怖くないか? お前、女の子だし、その……あんまり、男、得意じゃないだろ?」

成幸 「俺、どうしてたらいい? もっと離れてた方がいいか?」

文乃 「………………」

クスッ

文乃 「……ひょっとして、そんなことずっと考えてたの?」

成幸 「わ、笑うなよ。ずっと考えてたよ。悪いかよ……」 プイッ

文乃 「ごめんごめん。でも、可笑しくってさ」

文乃 「……旅館でふたりで泊まったこともあるんだよ? 今さらきみが怖いわけないでしょ」

成幸 「なっ……/// あ、あのときは、仕方なかっただろ……」

文乃 「きみはわたしの弟みたいなものだからね。大丈夫だよ。怖くなんてないよ」

645以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 21:52:14 ID:kETrs9EE
成幸 「……そうかよ。ならよかったよ」

成幸 「で? そっちは何を言おうとしたんだよ」

文乃 「うん……あの、成幸くん。ごめんなさい」

成幸 「……? ごめんって、何が?」

文乃 「さっきも言ったけど、わたしが賭け事なんて提案したから、こんなことになって……」

文乃 「成幸くんの勉強時間まで取っちゃって……」

成幸 「いやいや、さっきも言っただろ。パンを賭けようって言ったのは俺だし、そもそも乗ったのも俺の判断だ」

成幸 「お前は悪くないよ」

文乃 「……ありがと。そう言ってくれると、助かるな」

文乃 (そっか。きみがずっと難しい顔をしていたのは、わたしに悪いと思っていたからなんだ)

成幸 (お前がずっと物憂げだったのは、俺に申し訳ないと思っていたからなのか)

クスッ

文乃 「……ほんと、きみはお人好しだよね、成幸くん」

成幸 「お前に言われたくないよ、古橋」

646以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 21:53:38 ID:kETrs9EE
………………図書室

『間もなく閉館時間です。本を元の場所に戻して、退室してください』

理珠 「……!? も、もうこんな時間ですか!?」

理珠 (結局成幸さんも文乃も来ませんでしたが……)

理珠 (ま、まさか……!!)

理珠 (私に内緒でふたりきりで何か美味しいものでも食べに行ったのでしょうか!?)

理珠 (だとしたら許せません。こちらはがんばって勉強しているというのに……)

理珠 (うるかさんでも誘って、私たちも何か美味しいものを食べに行ってやります!!)

647以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 21:54:08 ID:kETrs9EE
………………

文乃 「………………」

ブルッ

文乃 (……まずい)

文乃 (何がどうまずいのかは、ご想像にお任せするというか、乙女的な意味で絶対に口にはできないけど、)

文乃 (まずい!!)

文乃 (長距離走の後に水分補給をしすぎたのが原因かな!!)

成幸 「……古橋? どうかしたか? 顔が青いぞ? 寒いのか?」

文乃 「だ、大丈夫! 全然大丈夫だよ!」

文乃 (成幸くんがニブチンで良かった。彼はきっと気づかないだろう)

文乃 (ただ、わたしの中で色々なものが終わってしまうタイムリミットまで、そう時間はない)

文乃 (助けを待つなんて悠長なことは言っていられない。これは、もう……)

文乃 (採光窓から出るしかない!!)

648以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 21:55:12 ID:kETrs9EE
………………プール

うるか 「へ……? 今日、成幸も文乃っちも来なかったん?」

理珠 「そうなんです。本当に腹立たしい限りです。約束をしていたというのに」 プンプン

理珠 「もうふたりなんて知りません。このあと私たちだけで美味しいものでも食べに行きましょう」

滝沢先生 「ん? おお、緒方。なんかえらくご機嫌ナナメだな」

理珠 「滝沢先生。成幸さんと文乃に約束をすっぽかされたのです」

滝沢先生 「ん……? 唯我と古橋が……?」

ハッ

滝沢先生 「……いや、まさか、そんなことは……」

滝沢先生 「そういや、施錠を桐須先生にお願いしてたな……」

滝沢先生 「あの人、ときどき抜けてるからな……」

ダラダラダラ……

滝沢先生 「……ちょっとふたりとも来い。嫌な予感がする」

649以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 21:55:46 ID:kETrs9EE
………………

成幸 「お、おい、古橋、本当にやるのか?」

文乃 「やるといったらやるんだよ! もう時間がないんだよ!」

成幸 「……?」 (なんか急ぎの予定でもあるのか?)

成幸 「絶対無理するなよ? ケガするなよ?」

文乃 (少しくらいケガしてでも乙女の尊厳を守りたいんだよこっちは!!)

文乃 「ほら、肩車してもらうから、早くかがんで」

成幸 「……まぁ、それはいいけどさ」

成幸 (す、スカートの女子を肩車か……)

スッ

成幸 「ち、ちゃんと頭持ってろよ?」 (ふ、ふとももの感触が……)

成幸 (いかんいかん! 不埒なことを考えるな。集中しろ)

文乃 (平常時であれば色々と思うところもあるんだろうけど!)

文乃 (今はあまりそのあたりは考える余裕はないかな!!)

650以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 21:56:35 ID:kETrs9EE
成幸 「ゆっくり立ち上がるぞ……」

文乃 「うん」

スクッ……

成幸 (き、きつい……古橋が重いとかじゃなくて、長距離走の後に重いものを運んだからだ……)

成幸 「よし、っと……。届きそうか?」

文乃 「大丈夫。手が届いたよ。窓も……うん。開けられる」

文乃 「ちょっと足をしっかり持っててもらっていいかな。少し窓に身体を預けてみるね」

成幸 「お、おう」

グッ

文乃 「……うん。いけそうかな。窓からちゃんと飛び降りられれば、外に出られると思う」

成幸 「危なくないか?」

文乃 「これくらいの高さなら大丈夫だと思う。窓のへりに移っちゃうね」

成幸 「本当に大丈夫か? 危険は……」

……ガクッ

成幸 (あっ……)

651以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 21:58:30 ID:kETrs9EE
文乃 「きゃっ……!?」

ドタドタドタ………………

成幸 「……いたたた」

成幸 (しまった……。急に足の力がガクッと抜けてしまった)

成幸 (下がマットで助かったな……)

成幸 「古橋? 大丈夫か……? ごめんな、ちょっとバランスを崩しちまって……」

文乃 「う、うん、大丈夫だよ。やわらかいマットの上だから……」

成幸 「……!?」

文乃 「ふぇっ……!?」

成幸 (ち、近っ……!? 俺、マットに仰向けに寝て……その上に、古橋が……)

文乃 (こ、これじゃまるで、わたしが成幸くんを押し倒してるみたい……!!)

ドキドキドキドキ……

成幸 「ふ、古橋……? どいてくれると、助かるというか……」

文乃 (う、動けないよー! 外に出られないと分かった絶望感と今のショックで、もう決壊寸前なんだよー!)

成幸 (うっ……。な、なんでそんなうるんだ目でこっちを見るんだよ……)

652以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 22:00:05 ID:kETrs9EE
成幸 「古橋……」

文乃 「成幸くん……」

文乃 (ああ、終わった……。さようなら、乙女としてのわたし)

文乃 (明日からわたしは、不名誉なあだ名をもらうことになるんだ)

文乃 (文学の森の眠り姫なんて大それたあだ名、そもそもわたしに相応しくなかったんだ……)

文乃 (成幸くんの女心の師匠もやめることになるんだろうな……)

文乃 (ああ、色んなことが走馬灯のように……――)

――――――ガシャン!!! ガラッ

理珠 「文乃!! いるのですか!?」  うるか 「成幸!! 大丈夫!?」

理珠&うるか 「「!?」」

滝沢先生 「お前たち急ぎすぎだよ……って……」

滝沢先生 「……何をやってるんだ、唯我、古橋?」

文乃 「あっ……」

文乃 (開いたぁあああああああああああ〜〜〜〜〜)

タタタタタタタ……!!!

653以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 22:00:45 ID:kETrs9EE
理珠 「ふ、文乃!? ……行ってしまいました」

うるか 「な、成幸! どういうことか説明してよ!! 何をしてたの!?」

成幸 「お、落ち着けうるか! 何もないから!」

うるか 「何もなくて、どうして文乃っちが涙目で飛び出していくの!?」

成幸 「俺が聞きたいよ!!」

滝沢先生 「あー……まぁ、色々と後手に回った私が悪いのは重々承知しているが、」

滝沢先生 「高校生の男女が密室にいたんだから、気持ちは分からなくもないが……」

滝沢先生 「そういうのは、もっとこう、ロマンチックな場所でだな……」

成幸 「だから違いますって! 先生までどんな勘違いしてるんですか!!」

理珠 「……不潔です。見損ないました。成幸さん」

うるか 「あたしもだよ! 成幸のケダモノー! アクマー!」

成幸 「なぜ俺が責められているんだ!?」

654以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 22:01:20 ID:kETrs9EE
………………お手洗い前

文乃 「ふー……」

パァアアアアアアアアア……!!!!

文乃 (守られた! わたしの、女子としての尊厳……!!)

文乃 (良かったよう……危うく、成幸くんにとんでもない姿をさらしてしまうところだったよ)

文乃 (……まぁ、成幸くんのことだから、そうなっていたとしても、きっとわたしをバカにしたりはしないだろうけど)

理珠 「……あ、いました! 文乃」

タタタタ……

文乃 「りっちゃん。今日は図書室に行けなくてごめんね」

理珠 「文乃が悪いわけではありませんから、気にしないでください」

理珠 「それより、これからうるかさんと成幸さんとファミレスで勉強会をしようという話になったのですが、」

理珠 「もちろん、文乃も来ますよね?」

文乃 「うん。一緒に行くよ。今日の分の勉強を取り返さないといけないからね」

655以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 22:02:16 ID:kETrs9EE
文乃 「………………」

―――― 『怖くないか? お前、女の子だし、その……あんまり、男、得意じゃないだろ?』

―――― 『俺、どうしてたらいい? もっと離れてた方がいいか?』


文乃 (……成幸くんのバカ。今さらそんなこと気にするはずないのに)


―――― 『デートみたいだな! 古橋』


文乃 (どっちかといえば、わたしは台風のときの映画館を思い出していたんだけど)

文乃 (ニブイきみは、きっとそんなこと分からないし気づかないだろうね)

文乃 (だから絶対内緒だよ)

クスッ

文乃 (……実はちょっとだけ、そんなことを思い出して)

文乃 (きみにドキドキしていただなんて)


おわり

656以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 22:02:51 ID:kETrs9EE
………………幕間 「兄の危機」

水希 (えーっと、今日の晩ご飯は何が作れるかな……)

ピキューン

水希 「!? お兄ちゃんが危機に瀕している気がする!!」

花枝 「はぁ? 危機ってどんな?」

水希 「貞操!!」


おわり

657以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/20(土) 22:05:55 ID:kETrs9EE
>>1です。
読んでくださった方ありがとうございました。


ぶっちゃけてしまいますと(というかこのスレを読んでくださっている方は薄々勘づいているかもしれませんが)、
わたしは文乃さんが一番好きです。
ただ、他のキャラクターも皆かわいくて大好きです。
一番好きな文乃さんに関して、書きたい要素が多すぎて、まとめきれなかったのが今回投下したものです。
何もかも中途半端な話になってしまったかなと反省しています。


また折を見て投下します。

658以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 01:25:15 ID:AR9F6gVQ
>>1です。
ぼちぼち書いていたら書き上がってしまったので投下します。


【ぼく勉】文乃 「成幸くん、最近紗和子ちゃんと仲良いよね」

659以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 01:26:07 ID:AR9F6gVQ
………………放課後 一ノ瀬学園 図書室

成幸 「緒方、いいか? 少し考えてみろ」

理珠 「はい」

成幸 「李徴は虎になってしまった。お前は虎になってしまったらどういう気持ちだ?」

理珠 「………………」

理珠 「……虎になったことがないので分からないです」

理珠 「というか、どういう理屈で人間が虎に姿を変えるのですか?」

成幸 「そういうことじゃないんだよ……」

文乃 「あはは……。りっちゃんは特に、そういうローファンタジー要素が出てきてしまうと思考が止まっちゃうんだよね」

成幸 「ぐぬぬ……。じゃあ、もう少し身近なところに話を移そう」

成幸 「緒方、お前うどん好きだよな?」

理珠 「はい! 大好きです!」 キラキラ

成幸 「うどんという言葉が出てきただけで目を輝かせやがって……。まぁいい」

成幸 「虎になってしまったら、うどんも食べられないぞ?」

理珠 「!?」

660以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 01:26:57 ID:AR9F6gVQ
理珠 「た、たしかに……! 虎はネコ科……つまり猫舌! 熱いうどんは食べられませんね!」

理珠 「でもざるうどんなら食べられます!」

成幸 「確かにその通りだな」

成幸 「――って違う!」

うるか (成幸楽しそうだなぁ……)

成幸 「虎になったお前を、親父さんは家に入れてうどんを食わせてくれると思うか?」

理珠 「………………」

理珠 「……はい。あの父であれば、私が虎になっても可愛がって育ててくれると思います」

成幸 「確かにあの親父さんならそうしそうだなぁ」

成幸 「――ってだから違う!」

文乃 (楽しそうだなぁ成幸くん……)

成幸 「じゃあこれならどうだ、緒方。俺はお前が虎になったら怖いぞ。たぶん近づかないぞ?」

理珠 「えっ……」

661以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 01:28:26 ID:AR9F6gVQ
理珠 「わ、私がもし虎になってしまったら……成幸さんは、怖い、ですか?」

成幸 「へ……? そりゃそうだろ。虎は怖いよ」

理珠 「………………」

理珠 「い、いやです。私は虎になりたくありません」

成幸 「だろう? 李徴だってきっと嫌だっただろ――」

理珠 「――いやです……」 グスッ

成幸 「……!?」

文乃 「………………」 ジロッ 「……成幸くん、りっちゃん泣かしてどうするの?」

成幸 「ち、違う! 俺はそんなつもりじゃ……」

理珠 「いやです……――」

成幸 「――と思ったけど違うな! お前が虎になっても怖くもなんともないわ!」

成幸 「お前が変身しただけの虎なら、きっとかわいいだろうな。飼ってやりたいくらいだ!」

うるか (成幸、言ってることメチャクチャだよ……)

理珠 「飼っ……///」 プイッ 「な、なら、虎になってもいいかもしれません……」

662以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 01:29:21 ID:AR9F6gVQ
成幸 「おお、そうだな。虎も悪くないかもしれないな!」


  「唯我成幸、甘やかしてどうするのよ。それじゃ李徴の気持ちが全然わからないでしょ」


成幸 「ん……? ああ、関城」

文乃 「紗和子ちゃんも勉強?」

紗和子 「ええ。けど、まさかこんな気の抜ける会話を聞かされるとは思わなかったわ」

紗和子 「あなたたち、よくこんな会話を聞きながら勉強できるわね」

うるか 「まぁ、慣れちゃったというか……」

文乃 「お互いに気の抜けること言うから、気にならないというか……」

紗和子 「……まぁ、あなたたちはそうよね」

理珠 「せっかくですし、関城さんも一緒に勉強していきませんか?」

紗和子 「ん、とても嬉しい提案だけれど……」 チラッ

成幸 「?」

紗和子 「やめておくわ。お邪魔になってもいけないしね」

理珠 「お邪魔……?」

663以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 01:30:13 ID:AR9F6gVQ
紗和子 「じゃ、私向こうで勉強するから」

成幸 「ん……あ、関城。ちょっと待ってくれ」

紗和子 「なにかしら?」

成幸 「この前はありがとな。助かったよ」

紗和子 「この前……? ああ、あのこと? あれくらい大したことじゃないわ」

成幸 「いや、でも俺にはできないからさ。本当に助かったんだ。ありがとう」

紗和子 「また必要になったら言いなさい。いつでもやってあげるわ」

成幸 「本当か!? 実はまた、新しいのがな……」

成幸 「……もしお前の都合が良ければ、今日の夕方とか空いてないか?」

紗和子 「べつにいいわよ? 息抜きにもなるし」

紗和子 「勉強が終わったら言いなさい。付き合ってあげる」

成幸 「本当か!? 助かるよ。ありがとな、関城」

紗和子 「どういたしまして。じゃあ、またね」

成幸 「おう」

664以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 01:31:03 ID:AR9F6gVQ
理珠 「………………」

うるか 「………………」

文乃 「………………」

理珠&うるか&文乃 (((今の会話は何ーーー!?)) ですかーーー!?)

文乃 (というか、たぶんわたしだけじゃなくて、りっちゃんとうるかちゃんも思ってることだろうけど……)

文乃 「……ねぇ、成幸くん」

成幸 「ん? なんだ?」

文乃 「ひとつ聞きたいことがあるんだけどさ、」



文乃 「成幸くん、最近紗和子ちゃんと仲良いよね」



理珠&うるか 「「………………」」 ピクッ

成幸 「ん、そうか? 元々あんなもんだと思うけど……」

文乃 「っていうか、教えてほしいんだけど、さっきの会話は何?」

665以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 01:31:57 ID:AR9F6gVQ
成幸 「さっきの会話……?」

文乃 「きみが紗和子ちゃんと楽しそうに話してたことだよ」

文乃 「傍から聞いてるだけじゃ、内容がわからなかったから、教えてほしいなー、って」

成幸 「………………」

成幸 「あー、えっと……その……」

文乃 (あからさまに焦った顔して目を泳がせてる……)

キリキリキリ……

文乃 (お願いだからあんまりわたしの胃をいじめないでほしいなぁ……)

成幸 「た、大したことじゃねぇよ。ちょっと関城にお願いしてることがあるんだ」

文乃 (そうやって誤魔化されてしまうと、さすがにこれ以上突っ込んで聞くわけにもいかないよね)

文乃 (でも……)

理珠 (成幸さんと関城さん、最近本当に仲良しですよね……) ジトーッ

うるか (どういう関係なんだろう……。さわちん結構可愛いし、ひょっとして、成幸……) ジーッ

文乃 (胃が痛い)

666以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 01:34:27 ID:AR9F6gVQ
………………夕方

成幸 「……ん、時間的にそろそろリミットかな」

成幸 「どうしたんだ、お前ら? 今日は進みが遅かったぞ?」

文乃 「う、うん。どうも勉強が捗らなくてさ……」

文乃 (こっちの気もしらないでこの野郎)

うるか 「……ごめん。今日、帰ってからがんばるから」 ズーン

理珠 「……はい。私も、夜がんばります」 ズズーン

文乃 (想像で勝手に落ち込んでるー!)

成幸 「? まぁいいか。じゃあ、俺ちょっと用事があるから行くな」

トトトト……

成幸 「関城! 悪い、待たせた。行こうぜ」

紗和子 「あら、もう終わりなのね。じゃあ行きましょう」

紗和子 「緒方理珠……と他二名、またね。さようなら」

667以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 01:35:03 ID:AR9F6gVQ
………………帰路

成幸 「今日は急に頼んで悪かったな」

成幸 「今日から始まるらしくてさ。早く行かないとなくなっちまうし……」

紗和子 「べつにいいわよ。予定があるわけでもないし」

成幸 「ありがとう、関城」

紗和子 「どういたしまして」


………………物陰

理珠 「ふ、文乃。本当にこんなことをしていいのでしょうか……」

うるか 「な、なんか、すごく悪いことしてる気分……」

文乃 「しょうがないよ。だってふたりとも気になるんでしょ? そのままじゃ勉強も手につかないでしょ?」

理珠&うるか 「「………………」」 コクッ

文乃 (成幸くんと紗和子ちゃんには悪いけど、少し尾行させてもらうよ!)

文乃 (ふたりの集中とわたしの胃の健康のために!)

668以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 01:38:20 ID:AR9F6gVQ
………………歓楽街

文乃 「………………」

文乃 (なんかフツーにデートっぽい場所に来たよ!?)

成幸 「……」

紗和子 「……」

文乃 (ああ、しかも全然聞き取れないけど、ふたりともめちゃくちゃ楽しそうに会話をしてるね?)

理珠 「………………」 ズズーン 「……なんか、楽しそうです」

うるか 「………………」 ズズズーン 「さわちん、うらやましいよぅ……」

文乃 「ほ、ほらほら、ふたりが行っちゃうよ。ふたりとも、がんばって!」

文乃 (胃が痛いなぁ!)

文乃 「ん……? ふたりが建物に入った……」

文乃 (……ゲームセンター?)

669以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 01:39:11 ID:AR9F6gVQ
………………ゲームセンター内

文乃 「……うーむ」

文乃 (あまり近づくわけにもいかないし、遠くから見ていての感想だけど……)

文乃 (普通にゲームセンターで遊んでいるだけのように見える……)

文乃 (というか、見ようによってはそのまんまカップルだ)

文乃 (そろそろ私の胃も限界だし、何より、)

理珠 「……やはり、成幸さんは……」

うるか 「さわちんと、付き合ってるのかな……」

ガクッ

文乃 (このふたりの精神状態が限界だ)

文乃 「ほらほら、元気出して、ふたりとも」

文乃 「考えてごらんよ。もし万が一成幸くんが紗和子ちゃんと付き合っていたとして、」

文乃 「それをわざわざわたしたちに隠すような不義理なことをすると思うかな?」

670以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 01:39:48 ID:AR9F6gVQ
理珠 「………………」

理珠 「……これは大変遺憾なことなのですが」

理珠 「『恥ずかしくってなかなか言い出せなかったんだ。ごめんな』 とか言う成幸さんが容易に想像できます」

うるか 「リズりんそれめっちゃわかる」

文乃 (……わたしもなんとなく想像できるな、それ)

文乃 (いやいや、でも、そんなまさか。成幸くんが紗和子ちゃんと付き合ってたりなんて……)

文乃 「………………」

シュッ!!!!!

文乃 (……もし、本当にそうだったとしたら、)

文乃 (ちょっと一発くらい、手刀入れてもいいかな?)

文乃 (なんにせよ、もう少し近づいて、会話を聞かないと分からないかな……)

671以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 01:40:38 ID:AR9F6gVQ
………………

成幸 「ひっ……!?」

紗和子 「? どうかしたの、唯我成幸。顔真っ青よ?」

成幸 「いや、ちょっと寒気がしてな……」

成幸 「それより、今日もありがとな。欲しがってたのは全部コンプリートできたよ」

成幸 「お前がいてくれると助かるな……」

紗和子 「いいわよ。私もただで遊べて得してるわけだし」

紗和子 「それじゃ、そろそろ帰りましょうか」

成幸 「ん……あ、そうだ。今からうちに来ないか?」

紗和子 「へ……? あなたのおうちに? どうして?」

成幸 「いやな、お前を紹介したくてさ。お前のことを話したら、ぜひ会いたいって言うんだよ」

紗和子 「ああ……そういうこと。お邪魔して迷惑でないなら、行ってもいいけれど」

成幸 「本当か? ぜひ来てくれよ。あいつらも喜ぶと思うんだ」

672以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 01:41:31 ID:AR9F6gVQ
………………物陰

理珠 (ふ、文乃……) コソッ (ち、近づきすぎじゃないですか? バレませんか?)

文乃 (虎穴に入らずんば虎児を得ず、だよ、りっちゃん) コソッ


「ん……あ、そうだ。今からうちに来ないか?」


文乃 「!?」 (成幸くんの声だ! 紗和子ちゃんを家に誘ってるの……!?)


「へ……? あなたのおうちに? どうして?」

「いやな、お前を紹介したくてさ。お前のことを話したら、ぜひ会いたいって言うんだよ」


うるか 「!?」 (家族に紹介!? 家族が会いたいって言ってる!?)

理珠 (おふたりの関係はもうそんなところまでいっているのですか!?)

ズーン……

文乃 「………………」

シュッ

文乃 (……覚えてろよ、だよ。成幸くん……。ふふふ……)

673以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 01:42:16 ID:AR9F6gVQ
………………唯我家外

文乃 (結局、成幸くんと紗和子ちゃんは仲睦まじく連れ添って当たり前のように家の中に入っていった)

文乃 (後ろから気づかれないようにつけ回していただけのわたしたちをあざ笑うかのように……)

理珠 「………………」 チーン

うるか 「………………」 チーン

文乃 (りっちゃんとうるかちゃんはもう限界だし、家の外にいても、何が覗けるわけでもないし……)

文乃 (ふたりが家から出てくるのを待っているのも不毛だ)

文乃 (……もし万が一、紗和子ちゃんが一晩中家から出てこなかったりしたら、それこそコトだし)

文乃 (そろそろ帰ろうかと提案するべきかな……――)


「――あら? ふみちゃんにりっちゃんにうるかちゃんじゃない」


文乃 「!? な、成幸くんのお母さん! と水希ちゃん!」

水希 「……人の家の前で何をやってるんですか、あなたたちは」

ハッ

水希 「ま、まさか、兄のストーカーですか!?」

674以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 01:43:32 ID:AR9F6gVQ
文乃 「うっ……」 (あ、あながち間違いでもないところが辛い……!)

文乃 「いや、実は、ちょっと成幸くんに用事があったんだけど……」

水希 (“成幸くん” ……?)

文乃 「お、お取り込み中だから、今日はいいかなー……なんて……」

花枝 「? せっかく来てくれたんだし、上がっていったらいいわよ」

花枝 「ほらほら、どうせだから晩ご飯も食べて行きなさい。どうぞどうぞ」

文乃 「えっ、あ、いや、その……」

ズルズルズル……

花枝 「成幸ー、ふみちゃんたちが来てるわよー! ……って、あら?」

紗和子 「あっ……」 スッ 「は、初めまして。唯我成幸……くんの、お友達の、関城紗和子といいます」

花枝 「あら……あらあらあらあら……」 ニンマリ 「はじめまして。成幸の母です」

水希 (また新しい女!?)

花枝 「こんな大人っぽい女の子まで連れ込んで……うちの息子も隅に置けないわねぇ……」

成幸 「母さん、帰って早々変なこと言うなよ……って、古橋!? 緒方にうるかも!? なんで!?」

675以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 01:44:37 ID:AR9F6gVQ
………………

成幸 「……なるほど。そういうわけで、俺と関城をつけ回していた、と」

文乃 「ごめんなさい! 悪いのはわたしなんだよ! わたしが提案したんだよ!」

理珠 「いえ、私もなんだかんだ、積極的に参加していたので同罪です。ごめんなさい」

うるか 「あたしもだよ……。気になって仕方なかったんだ。ごめんね、成幸。さわちん」

紗和子 「私はべつに気にしてないけど……」

紗和子 (というかうかつだったわね。唯我成幸のことが好きな緒方理珠が気にするのは当たり前だもの)

紗和子 (悪いことしちゃったわね……)

成幸 「にしても、俺と関城が付き合ってるなんて、よくそんなこと思いつくな……」

文乃 「いやいや、きみたちがニブイだけで、男女が一緒に歩いてたらそれってもうデートだからね?」

成幸 「今日俺たちデートしてたらしいぞ、関城」

紗和子 「びっくりね、唯我成幸。気づかなかったわ」

文乃 (この……! 人のことは気遣うくせに自分のことは無自覚コンビめ!!)

676以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 01:45:13 ID:AR9F6gVQ
うるか 「でもでも、ふたりがそういう関係じゃないなら、今日は一体どうしてふたりでゲームセンター行ったの?」

理珠 「それを隠したのはなぜですか? やましいことでもあったのですか?」

文乃 「あと、どうして紗和子ちゃんを家に招待したのかも気になるかな?」

成幸 「質問が矢継ぎ早すぎるだろ……。仕方ない、ひとつひとつ答えてくぞ」

成幸 「ゲームセンターに行ったのは、これを取るためだよ」

うるか 「……! それ、フルピュアのぬいぐるみだ!」

成幸 「ああ。ゲームセンターのUFOキャッチャーのプライズだよ」

成幸 「出来は悪くないし、何より最安で100円で取れるからな。グッズを買うより安上がりなんだよ」

成幸 「俺はUFOキャッチャーが得意じゃないから、関城に頼んでたんだ」

理珠 「あっ……」


―――― 『うぎゃーっ 緒方理珠!! 何故ここに!?』


理珠 「そういえば、ペンケースを買いに行ったとき、UFOキャッチャーでぬいぐるみをたくさん取ってましたね」

677以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 01:46:23 ID:AR9F6gVQ
紗和子 「まぁ、UFOキャッチャーは嫌いじゃないからね。それなりに上手と自負しているわよ」

紗和子 「唯我成幸にときどき頼まれるから、取ってあげてるの。今までも何回かやってあげたわ」

紗和子 「でも、それをあなたたちに隠していることは、私も初耳なのだけど……」

成幸 「うっ……いや、だって……なんか……」

成幸 「『教育係』 のくせにゲームセンターで遊んでるのか、って思われたくなくてさ……」

成幸 「……すまん。俺のくだらない見栄だ。そのせいでお前たちに心配をかけたんだな」

文乃 「うっ……謝られるとこっちが申し訳ないから、謝らなくていいよ……」

文乃 「……で? どうして紗和子ちゃんをおうちにご招待したの?」

成幸 「それは……――」


「――キャー!! 新しいフルピュアのぬいぐるみよー!!」


文乃 「あっ……葉月ちゃん」

葉月 「わっ……お、お姉ちゃんたちが勢揃いしてるわ」

和樹 「ほんとだ。この狭い家によくこんなに人が入るもんだよな」

678以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 01:47:13 ID:AR9F6gVQ
成幸 「ちょうどよかった。葉月、和樹。この人がぬいぐるみを取ってくれるお姉さんだぞ」

紗和子 「あっ……え、えっと……お兄ちゃんの友達の、関城紗和子よ。よろしく」

葉月 「! お姉ちゃんがぬいぐるみのお姉ちゃんなのねー!」

ギュッ

紗和子 「あっ……」

葉月 「ありがとー、お姉ちゃん!」

葉月 「あんまりぬいぐるみとか買えないから、お姉ちゃんが取ってくれたぬいぐるみ、とっても嬉しかったの!」

葉月 「大事にするね! 紗和子お姉ちゃん!」

紗和子 「さ、紗和子お姉ちゃん……」 テレッ 「わ、悪くないわね……でへへ……」

成幸 「うん。人の妹でその表情されるとちょっと気持ち悪いな」

紗和子 「う、うるさいわね!」

成幸 「……ま、早い話がさ。葉月と和樹が会いたがったんだよ」

成幸 「ぬいぐるみを安く取ってくれる紗和子お姉ちゃんに、さ」

文乃 「そっか……」

679以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 01:48:00 ID:AR9F6gVQ
文乃 (……下衆な想像をしていた自分が恥ずかしい)

文乃 (紗和子ちゃんは成幸くんに頼まれて、ゲームセンターでぬいぐるみを取っていただけだったんだ)

文乃 (そして、今日家に招いたのは、紗和子ちゃんにお礼を言いたいという葉月ちゃんのため)

文乃 (はぁ……本当に、自分が恥ずかしい……)



水希 「……お、お兄ちゃん! ちょっと晩ご飯作るの手伝って!」



成幸 「わっ……み、水希? どうしたんだ、急に」

水希 「なんでもいいから、ほら! 早く台所に来て」 (こんな女が多いところにいさせられないし!)

成幸 「ひ、引っ張るなよ……。じゃあ、みんな、ちょっとゆっくりしててくれ」

成幸 「葉月と和樹の相手だけ頼むー……」 グイグイグイ……

紗和子 「? なんか、ちょっと怖い感じの妹さんね」

葉月 「あー、まぁ、水希姉ちゃんはちょっと……アレだから……」

和樹 「うん。ちょっとアレだから。気にしないでいいよ」

紗和子 (アレ……?)

680以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 01:48:32 ID:AR9F6gVQ
理珠 「………………」

ホッ

理珠 (……なぜ、私はこんなにも安堵しているのでしょうか)

理珠 (なぜこんなに、よかった、と思っているのでしょうか)

理珠 (成幸さんと関城さんがそういう関係でないと知って、どうして私は……)

理珠 (こんなに、笑みが止まらないのでしょう……)

理珠 (不可解です……)

うるか 「………………」

ホッ

うるか (よ、よよよ、良かったよぅ〜)

うるか (ぶっちゃけ、さわちんって大人っぽいし、色気もあるし、)

うるか (成幸と付き合いだしたりしたら、もう勝ち目ないと思ってたんだよ〜!)

うるか (本当に良かった。神様ありがとー!)

文乃 「………………」 ホッ (良かった。これでわたしの胃に平穏が戻る……)

681以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 01:49:23 ID:AR9F6gVQ
理珠 「……あ、あの、関城さん」

紗和子 「? 何かしら、緒方理珠」

理珠 「一応、その、関城さんのほうにも確認を取っておく必要があるかと思い、お聞きしたいのですが、」

理珠 「関城さんは、本当に、成幸さんとなんともない……のですよね?」

紗和子 「はぁ? さっき唯我成幸も言っていたじゃない。何もないわよ」

紗和子 (っていうか、大親友の好きな人を好きになるわけないじゃない……)

紗和子 (なんて、言うわけにもいかないのだけど)

理珠 「……よかったです」 ホッ

紗和子 「まったく。心配性ね。大丈夫よ。唯我成幸を取ったりしないわ」


成幸 「ん? 俺がなんだって?」


和樹 「あ、兄ちゃん戻ってきたー」

うるか 「お手伝いもう終わったの?」

成幸 「いや、まったく意味がわからないんだ。台所に行ったら、母さんには早く戻れって言われてさ」

成幸 「……なんだったんだ?」

682以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 01:50:51 ID:AR9F6gVQ
葉月 「まぁ水希姉ちゃんはアレだからねー……」  和樹 「アレだしな……」

紗和子 (アレって本当になんなのかしら……?)

成幸 「……で? 俺の話してたんだろ? なんだよ、気になるから教えてくれよ」

紗和子 「はぁ?」 (そんなの、言えるわけないじゃない……)

紗和子 (ん……待って。これは……緒方理珠に気持ちを自覚させるチャンス!)

理珠 「?」

紗和子 「……ねえ、唯我成幸。この子たちには私たち、付き合ってるように見えたらしいわよ?」

成幸 「は、はぁ? いや、それさっきも聞いたよ。何でまた言うんだよ……」

紗和子 「それってつまり、お似合いに見えたってことでしょう? じゃあ、いっそ付き合っちゃう?」

成幸 「は……?」

理珠 「は!?」  うるか 「へぇ!?」  文乃 (胃に激痛が走る!)

成幸 「い、いきなり……何を……関城……///」

成幸 「そ、そういうのは……その、もう少し、お互いを知ってから、というか……///」

紗和子 「何本気で照れてるのよ。冗談に決まってるでしょ」

成幸 「!? は、はぁ!? お前……言っていい冗談と悪い冗談があるだろ!?」

683以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 01:51:28 ID:AR9F6gVQ
紗和子 「はいはい。ごめんなさい。悪かったわ」

紗和子 (……ねえ、緒方理珠) コソッ

理珠 (な、なんですか、関城さん……)

紗和子 (ボーッとしてると、私以外の誰かに、先越されちゃうかもしれないわね?)

理珠 (な、何の話ですか……)

紗和子 (自分の気持ち、もう少しよく考えてみなさい。今日、どうして一喜一憂したのかとか)

理珠 (自分の気持ち……)

紗和子 (ええ。がんばってね。私は、あなたを応援しているから)

文乃 「……えーっと、紗和子ちゃん?」

紗和子 「? 何かしら?」

文乃 (……ねえ、気づいてる?) コソッ

紗和子 (……何よ?)

文乃 (紗和子ちゃん、成幸くんに “付き合っちゃう?” って言ってからずっと、)

文乃 (顔、まっかだよ?)

紗和子 「……!?」

684以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 01:53:01 ID:AR9F6gVQ
紗和子 (う、うそ……!? あ、でも……)

カァアア……

紗和子 (た、たしかに、顔が熱いわ……)

成幸 「? なんだ、関城。変な顔して」

紗和子 「な、なんでもないわよ!」

紗和子 (うそよ、こんなの。だって……そんなの、ありえてはいけないもの……)

紗和子 (きっと、緒方理珠が近くにいるから嬉しくてこうなってるのよ。そうよ。そうに決まってるわ)

紗和子 (そうに、決まってるわ……だって、そうでないと……)

紗和子 「………………」

紗和子 (……大丈夫。絶対ない)

紗和子 (絶対好きになんてなるはずがない)

紗和子 (大親友が好きな人のこと)


おわり

685以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 01:53:35 ID:AR9F6gVQ
………………幕間 「晩ご飯」

ワイワイガヤガヤ……

花枝 「………………」

花枝 (こうして、見回してみると……)

理珠 「本当に美味しいです、水希さん。ありがとうございます」

水希 「べつに、わたしが好きで作ったわけじゃありません。お母さんが言うから、仕方なく作っただけです」

文乃 「この煮物とか絶品だよ〜。どうやって作るの?」

うるか 「おだしの取り方も上手だよ。こんなに香りを出すのは難しいんだよ」

紗和子 「……本当に美味しいわね。この晩ご飯」

紗和子 「毎日こんなお料理が食べられるなら、毎日ぬいぐるみ持って家に行くわよ」

成幸 「おいおい、葉月と和樹が本気にするからやめろよ」

紗和子 (私も結構本気なんだけど……)

花枝 (……うーん。嬉しい反面、息子の将来が心配だわ)

花枝 (刺されたりしないでよー、成幸ー?)


おわり

686以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 01:55:08 ID:AR9F6gVQ
>>1です。
読んでくださった方、ありがとうございました。

これでちょうど20個目でした。
また投下します。

687以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:27:52 ID:AR9F6gVQ
>>1です。
投下します。

【ぼく勉】あすみ 「妹が修学旅行?」

688以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:28:25 ID:AR9F6gVQ
………………メイド喫茶 High Stage

成幸 「そうなんですよ。来週から二泊三日だそうです」

成幸 「妹はすごく楽しみにしてるみたいなんですけど、心配もしてるみたいで……」

あすみ 「心配? 修学旅行がか?」

成幸 「いや、そうじゃなくて、妹がいない間の家のことです」

成幸 「母親は仕事で忙しいし、弟妹はまだ小さいし、俺は料理は苦手だし」

成幸 「以前、妹が部活の遠征で留守にしたときは、母親が仕事の都合をつけてくれたんですけど、」

成幸 「今回はそうもいかないみたいで……」

あすみ 「ふーん。お前ん家も大変なんだな」

成幸 「あ、すみません。勉強に関係ない話をしてしまって……」

あすみ 「いいよ。理科のことばっか考えてたら頭がどうにかなっちまう。気晴らしだよ」

あすみ 「でも実際どうすんだ? 料理とか死活問題だろ」

あすみ 「お前だけならまだいいとして、あのおチビちゃんたちもいるんだろ?」

689以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:29:03 ID:AR9F6gVQ
成幸 「一応考えてはいるんです。近所のスーパーが閉店間際に惣菜や弁当の半額セールをするので、それを買おうかな、なんて……」

あすみ 「………………」

成幸 「またすげー嫌そうな顔しますね、先輩」

あすみ 「お前なぁ……スーパーの閉店時間って早くても九時だろ?」

あすみ 「育ち盛りのチビちゃんたちにそんな時間に飯を食わせるつもりか?」

あすみ 「しかも保存料や油まみれで、味の濃い惣菜を?」

成幸 「うっ……。それを言われると辛いですけど、他にどうしようもなくて……」

あすみ 「ん、悪い。家族のお前の方がいろいろ考えてるよな」

あすみ 「外野が横から変なこと言った。悪い。忘れてくれ」

成幸 「いえいえ、先輩の言ってくれたことももっともですから。気にしてないですよ」

成幸 「和樹と葉月のことまで考えてアドバイスしてくれたんですよね。ありがとうございます」

あすみ 「別に礼を言われるようなことじゃ……――」

マチコ 「――そんなあなたに朗報です!」

バーン!!!!

マチコ 「今ならなんと、当店の家事代行サービスが特別クーポンでとても安くなったりならなかったり!?」

690以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:29:54 ID:AR9F6gVQ
あすみ 「突然なんだよ。盗み聞きってのは感心しねーぞ。っつーか勉強の邪魔だから仕事に戻れ」

マチコ 「まぁそう言わずに聞いてよあしゅみー。勉強してなかったじゃない」

マチコ 「唯我クンが三日間、家事代行サービスを申し込んでくれれば、バイト代がすごいことになるよ?」

マチコ 「唯我クンも助かってWin-Winじゃない?」

成幸 「いや、そもそもうちに家事代行サービスを頼むようなお金はないです……」

あすみ 「だ、そうだ。残念だったな、マチコ」

マチコ 「ちぇーっ、せっかくお店も儲かっていいことずくめだと思ったのになー」

あすみ 「それが本音だろうが。ったく……」

マチコ 「でも、あしゅみーだって、いつもお世話になってる成幸くんに恩返しとかしたいんじゃない?」

あすみ 「む……いや、まぁ、それは……」

成幸 「まぁ、うちのことはうちでなんとかしますから大丈夫ですよ。ご心配なく」

成幸 「さ、先輩、勉強に戻りますよ」

あすみ 「ん、そうだな。ちとサボりすぎちまった。ほら、マチコ、おまえも早く仕事に戻れよ」

マチコ 「はーい」

691以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:30:29 ID:AR9F6gVQ
成幸 「………………」

カリカリカリカリ……

あすみ (……来週のこと、不安だろうに、いつも通り涼しそうな顔して勉強しやがって)

あすみ (本当に大丈夫なのか……?)

ハッ

あすみ (い、いや、べつにあたしにはカンケーないけどな。別に心配なんかしてないぞ?)


―――― 『でも、あしゅみーだって、いつもお世話になってる成幸くんに恩返しとかしたいんじゃない?』


あすみ (そりゃ、勉強だって教えてもらってるし、親父に医学部受験を許してもらってるのも後輩のおかげだし……)

あすみ (……彼氏のフリなんてアホなこともしてもらってるしな)

あすみ (手を貸してやれるなら貸してやりたいが……)

あすみ (とはいえ、よくわからねー女が急に家に尋ねてきたら、後輩の親だってびっくりするだろうし)

692以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:30:59 ID:AR9F6gVQ
成幸 「……? どうかしました? 先輩」

あすみ 「……何でもねえよ」

あすみ (当のこいつは何でもねえような顔しやがって、ちくしょう……)

あすみ (何でアタシの方がこんなにそわそわしなきゃならないんだよ)

あすみ (……ん? 待てよ。“彼氏のフリ” ……)

あすみ 「………………」

あすみ 「なぁ、後輩。ちょっと夜聞きたいことがあるかもしれないからさ、」

あすみ 「家の電話番号教えてもらってもいいか?」

成幸 「へ? べつにいいですけど……」 (携帯電話じゃダメなのかな……?)

ニヤリ

あすみ (いいこと思いついちまったぞ)

成幸 (先輩、なんでニヤニヤしてるんだろ。ちょっと怖いんだけど……)

693以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:31:52 ID:AR9F6gVQ
………………翌週 修学旅行初日早朝

水希 「お兄ちゃん、本当に大丈夫? やっぱりわたし、修学旅行行かない方が……」

成幸 「おいおい、やめろよ。せっかく母さんがしっかりお金を積み立ててくれたんだから」

成幸 「家のことは心配せず楽しんでこいよ」

和樹 「そうだよ。姉ちゃんずっと楽しみにしてたじゃん」

葉月 「いってらっしゃい! お土産楽しみにしてるわー」

水希 「……うん。ありがと。じゃあいってきます!」

成幸&和樹&葉月 「「「いってらっしゃい!!」」」

694以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:32:27 ID:AR9F6gVQ
………………一ノ瀬学園 昼休み

うるか 「成幸、今日はお弁当じゃないの?」

成幸 「んあ? ああ、水希がいないからな」 モシャモシャ

うるか (っていうか、またパンの耳食べてるの……)

文乃 「水希ちゃん、また部活?」

成幸 「いや、今度は修学旅行。またしばらく帰ってこないから当分パンの耳だな」

うるか 「へ、へぇ、そうなんだ……」

うるか (こ、これは、またお弁当を作ってきて食べてもらうせんざいいちぐーのチャンス!?)

理珠 「そうですか。それは大変ですね。良かったら、明日からうどん持ってきましょうか?」

うるか 「!?」 (り、リズりんに先を越された!?)

文乃 「………………」 キリキリキリ (胃が痛いよう……)

成幸 「いや、お前にも親父さんにも悪いしいいよ」

成幸 「明日からは和樹と葉月のお昼も考えなくちゃだし、自分でなんとかするさ」

理珠 「そうですか……」 ショボーン

成幸 「でも、そう言ってくれるのが嬉しいよ。ありがとな」

695以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:33:20 ID:AR9F6gVQ
理珠 「い、いえ……。べつに、お礼を言われるようなことでは……」 パァアア

うるか (うぅ〜〜〜! せめてあたしもお礼だけでももらいたかったよ〜〜)

文乃 (……りっちゃんもうるかちゃんもかわいいなぁ)

ギリギリギリ……

文乃 (……でも胃が猛烈に痛いなぁ)

成幸 「………………」 モシャモシャモシャ……

成幸 (……でもほんと、どうしようかな)

成幸 (俺はパンの耳でいいとしても、)


―――― 『お前なぁ……スーパーの閉店時間って早くても九時だろ?』

―――― 『育ち盛りのチビちゃんたちにそんな時間に飯を食わせるつもりか?』

―――― 『しかも保存料や油まみれで、味の濃い惣菜を?』


成幸 (あしゅみー先輩の言うことは間違ってない。三日間だけとはいえ、あいつらに不健康なことはさせたくない)

成幸 (かといって、他にどうしたら……)

成幸 (うーん……)

696以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:34:28 ID:AR9F6gVQ
………………放課後

成幸 「……はぁ」

成幸 (結局、何も良い考えが浮かばないまま放課後になってしまった)

成幸 (うちの経済状況を考えると、外食というのはありえない)

成幸 (水希が心配するのももっともなんだよな。俺、ほんとに情けない兄貴だな)

トボトボトボ

成幸 (……なんて自己嫌悪してるうちに家についてしまった)

成幸 (うぅ、こんな情けない兄ちゃんを許してくれ、水希、和樹、葉月……)

ガラッ

成幸 「ただいまー……――」

あすみ 「――――お帰りなさいましゅみー!」

成幸 「のわっ……!? えっ? えっ……ええっ!?」

あすみ 「ごはんにする? おふろにする? それとも……」

和樹 「………………」 葉月 「………………」 ジーーーーーッ

あすみ 「……いや、チビちゃんたちの前でこの先は教育上よくないな。やめとこう」

697以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:35:25 ID:AR9F6gVQ
成幸 「急に素に戻らないでくれますか!? いや、そんなことはどうでもよくて!」

成幸 「なんで先輩がうちにいるんですか!?」

あすみ 「何でってお前……まぁ、なんとなく?」

成幸 「なんとなくでメイド服で後輩の家尋ねるんですかあんたは!?」

あすみ 「うるせーなー。うるさいお兄ちゃんだなー、チビちゃんたち?」

和樹 「たしかに、兄ちゃん、リアクションがオーバーなときあるよな」

葉月 「わかるわー」

成幸 「当然のように先輩を受け入れてるお前たちにもびっくりなんだけど!?」

和樹 「まぁ、おれたち母ちゃんから聞いてたし。メイドの姉ちゃんが来るって」

成幸 「はぁ? いや、待て。状況が飲み込めない。いまここに先輩がいることを、母さんは知ってるのか?」

葉月 「うん。だってわたしたちに教えてくれたもの」

成幸 「じゃあ何で俺には言わないんだよ」

葉月 「お母さんが、“面白そうだからお兄ちゃんには黙っておきましょう” って」

成幸 「母親ー! 息子を遊び道具かなんかと勘違いしてないか!?」

698以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:35:59 ID:AR9F6gVQ
あすみ 「まぁそれくらい許してやれよ。お前のお母さん、わざわざお金払ってアタシを雇ったんだぞ?」

成幸 「へ……? 家事代行頼んだんですか!? 母さんが!?」

あすみ 「おう。電話があってさ。息子に苦労をかけてしまうから、三日間ぜひお願いしたいって」

あすみ 「……ってことで、これから三日間よろしくな、後輩」

あすみ 「いや、違うか……オホン」 キャルン 「よろしくお願いしますっ、御主人様」

成幸 「いや、ちょっと落ち着かないんでいつもの先輩でお願いします」

あすみ 「んだよ、ノリわりーな。せっかく金もらってるから営業スマイルしてやろうと思ったのによー」

あすみ 「ま、いいや。風呂はまだだけど、飯はできてるから食えよ」

成幸 「あ、はい……」

成幸 (うーん、うちは家事代行を三日間もお願いできるような財政ではないと思うんだが……)

成幸 (母さん、臨時ボーナスでもあったのか?)

699以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:37:12 ID:AR9F6gVQ
………………夜

成幸 「………………」

カリカリカリ……

成幸 (こうしてひとりでゆったりと勉強できるなんて、いつぶりだろう)

成幸 (晩ご飯もめちゃくちゃ美味しかったし、先輩に感謝してもしきれないや……)

あすみ 「………………」

パタパタ……ペタペタ……

成幸 「あっ……先輩、洗濯物たたむの手伝いますよ」

あすみ 「おいおい、何を言ってんだよ。これはアタシの仕事だよ。勝手に取るな」

成幸 「いや、でも……なんか俺だけボーッとしてるのも悪い気がして……」

あすみ 「ボーッとはしてねぇだろ。ずっと勉強してるじゃねーか、お前」

成幸 「そりゃそうですけど……。っていうか、先輩も勉強しなきゃじゃないですか」

あすみ 「心配すんな。仕事が全部済んだら勝手にやるよ」

700以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:37:45 ID:AR9F6gVQ
成幸 「っていうか、もう結構遅い時間ですけど……」

成幸 「帰らなくて大丈夫なんですか?」

あすみ 「ああ? 何で帰るんだよ」

成幸 「え?」

あすみ 「さっき言っただろうが。三日間よろしくって」

成幸 「……へ?」

成幸 「!? ま、まさか、三日間うちで寝泊まりするんですか!?」

あすみ 「そのまさかだが、どうかしたか?」

成幸 「い、いや、だって……いくら何でも、それは……」

あすみ 「ははーん……」

ニヤリ

あすみ 「発情してんのかー、後輩? このスケベ」

701以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:38:22 ID:AR9F6gVQ
成幸 「ち、違いますよ! でも、俺だって一応男子なんだから、少しは……」

あすみ 「少しは? 少しは、なんだよ?」

成幸 「……け、警戒、とか……その、した方が、いいと思いますよ?」

あすみ 「ほうほう。つまりアタシは今晩、お前の夜這いを警戒しなくちゃいけないわけか?」

成幸 「い、いや、そんなことするわけないじゃないですか!」

あすみ 「じゃあいいじゃねぇか。っていうかお前、言ってること矛盾してるぞ?」

成幸 「いや、だから、俺が言いたいのはそういうことじゃなくて……」

成幸 「もっと、自分を大切にしてほしいというか、なんというか……」

702以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:38:56 ID:AR9F6gVQ
あすみ 「………………」

あすみ 「後輩、お前……」

成幸 「せ、先輩……?」

ピラッ

あすみ 「……なんの面白みもないパンツ履いてんのな。つまんねー」

成幸 「!? ひ、人のパンツ広げないでください! っていうか自分でたたみます!」

成幸 (まったくー! こっちは真剣に先輩のこと心配してるのに!)

プンプン

あすみ 「………………」

クスッ

あすみ (……アタシの心配するなんて百年早えんだっての)

あすみ (でも、まぁ……悪い気は、しねーけどさ)

703以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:40:35 ID:AR9F6gVQ
………………

葉月 「……晩ご飯も美味しかったし、お掃除もお洗濯も完ぺきね」

和樹 「手際もよかったぜ。家事やり慣れてる感が半端ねーぜ」

葉月 「これは大幅加点ね。メイドのお姉ちゃん、ぜひお嫁に来てほしいわ」

和樹 「兄ちゃん奥手だからなー。あれくらいグイグイ来てくれる方がいいかもな」

あすみ 「……よしっ。洗濯物たたみ終えたし、あとは片付けして終わりかな」

あすみ 「ん、あ、おチビちゃんたち、ちょうどいいところに」

あすみ 「お風呂、そろそろお湯張り終わるから、一緒に入るぞ。おいで」

葉月 「!?」 (これは、身体を確認するまたとないチャンスだわ!)

あすみ 「おーい、後輩。お前も一緒に入るかー?」

成幸 「入りませんよ! 何言ってんですか!」

成幸 「……でも、お言葉に甘えて、和樹と葉月のお風呂はお願いしてもいいですか?」

あすみ 「当たり前だろ。何度も言わせんな。全部アタシの仕事だ」

あすみ 「よーし、じゃあ行くぞー、おチビちゃんたちー!」

和樹&葉月 「「はーい!」」

704以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:41:19 ID:AR9F6gVQ
………………

成幸 「………………」

キャッキャ……バシャバシャ……

成幸 (楽しそうな声が風呂場から漏れ聞こえてくる……)

成幸 (ふふ、楽しそうで何よりだ。さすがあしゅみー先輩だな。子どもの相手も得意なんだな)

『メイドの姉ちゃん、小さいのにすごいよなー。何でもできるんだなー』

『こらこら、小さいは余計だぞー、おチビちゃん』

『あと、アタシはメイドの姉ちゃんじゃなくて、小美浪あすみっていうんだ』

『あすみ姉ちゃんと呼んでくれよ』

『わかったわー。あすみお姉ちゃん!』

『でも、俺たちもおチビちゃんじゃなくてちゃんと名前があるんだぜー?』

『おう、そうだったな。んじゃ、和樹、葉月』

『『うん!』』

成幸 (はは、微笑ましい会話だな。すっかり懐いちまって……)

705以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:42:09 ID:AR9F6gVQ
『でも、あすみお姉ちゃん、もっと細いのかと思ってたけど、』

『結構おむねもおしりもしっかりしてるのね』

成幸 「ぶっ……」

成幸 (あ、あいつら、また変なことを……)

『そうかぁ? でも緒方や武元に比べたら大したことないぞ?』

『でも、文乃姉ちゃんよりは断然あるぜ!』

『おうおう、それを古橋に言ったら悲しむから、言っちゃダメだぞー?』

成幸 (本当になんの話をしてるんだあの三人組は……!!)

『それにな、きっとお前らの兄ちゃん、今ごろ聞き耳立ててるぞ?』

『お前らにもっと際どいことを質問しろって念を送ってんじゃねーか、今ごろ』

成幸 「そんなことしてないですよ!!」

『ほら、やっぱり聞き耳立ててただろ?』

『兄ちゃんもお姉ちゃんの身体に興味津々なのね』

『兄ちゃんはちょっとむっつりなところあるからなー』

成幸 「あ、あいつら……」

706以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:42:46 ID:AR9F6gVQ
………………

葉月 「きゃー」  和樹 「わー」 ドタドタドタ……

あすみ 「おう、後輩。お風呂空いたぞ。冷めないうちに入っちまえよ」

成幸 「はい、ありがとうございます、先輩……って」

プイッ

あすみ 「ん? なんだ? どうしたんだよ?」

成幸 「いや、べつに、何でもないですけど……」

あすみ 「ほーう。何でもないならこっち向けよ」

あすみ 「人とのコミュニケーションは目と目を合わせることが基本だぞ?」

成幸 (向けるかー! 人の気も知らないで!!)

成幸 (当たり前だけど、先輩パジャマ姿だし、上気した顔はなんか……こう……)

ハッ

成幸 (お、俺は仕事で来てくれている先輩になんて不純なことをー!)

あすみ (こいつ本当に面白いな)

707以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:43:24 ID:AR9F6gVQ
成幸 (っていうか先輩わかってるのか!? 自分のパジャマ姿の破壊力とか!)

成幸 (先輩、身体は小さいけど、しっかり出るところは出てるし、美人さんだし……)

ハッ

成幸 (って、だから俺は何でそういうことばっかり考えてしまうんだー!)

成幸 (と、とにかくこのままじゃ精神衛生上よくない。特に、この後先輩はうちに泊まるんだから……)

成幸 (……泊まる。先輩が、うちに、泊まる……)

ハッ

成幸 (お、俺は! また先輩で変なことをー! いい加減にしろ! しかりしろ唯我成幸!)

あすみ (考えてることが手に取るように分かる。大丈夫かこいつ……)

成幸 (いかん! とりあえず、風呂に……)

あすみ 「……へくしっ」

708以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:44:30 ID:AR9F6gVQ

あすみ (あー、ちと寒いな。部屋着、羽織るものも持ってくればよかったかな)

あすみ (ま、しょうがねぇ――)

――ファサッ

あすみ 「ん……? 後輩、これ……」

成幸 「……俺の部屋着ですけど。よかったら使ってください」

成幸 「何か困ったことがあったら、言ってくださいね」

成幸 「前も言いましたけど、俺、言ってくれないと分からないですから」

あすみ 「後輩……」

ハッ

あすみ 「わ、悪い。これ、借りるな。ありがとう」

成幸 「いえいえ。じゃあ俺、風呂入ってきますね」

709以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:45:21 ID:AR9F6gVQ
あすみ 「……おう。じゃあその間に、和樹と葉月、寝かしつけとくな」

成幸 「すみません。お願いします」

あすみ 「………………」

あすみ (……後輩のやつ、調子狂うようなことしやがって)

ドキドキドキ……

あすみ 「!? いや、べつに、ドキドキなんてしてねーよ。風呂上がりだから心拍数が上がってるだけで……」

葉月 「意外や意外、あすみお姉ちゃんの方も兄ちゃんに気があるのかしら?」

和樹 「だなー。からかって遊んでるだけかと思いきや、さては姉ちゃん、兄ちゃんのこと結構好きだな?」

あすみ 「……ほら、アホなこと言ってないで、寝に行くぞ」

和樹&葉月 「「はーい!」」

710以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:46:07 ID:AR9F6gVQ
………………入浴後

成幸 「……ふー、風呂でゆっくりできると、この後の勉強もがんばれる気がするな」

あすみ 「おう、ちゃんと温まってきたか、後輩」

成幸 「あれ、先輩。あいつらを寝かしつけに行ったんじゃ……」

あすみ 「もう寝かしつけたぞ? あいつら良い子だな。少し子守歌歌ってやったら、すぐ寝ちまったよ」

成幸 (……!? 俺が寝かしつけるときはいつもなかなか寝ないのに……)

成幸 「……先輩はすごいですね。なんでもできるんですね」

あすみ 「ああ? べつに何でもはできねぇよ。何でもできるなら今ごろ医学部生やってるよ」

成幸 「あっ……す、すみません。そういうつもりで言ったわけじゃ……」

あすみ 「謝るなよ。冗談だ。こっちこそ変なこと言っちまったな。悪い」

あすみ 「この家は賑やかでいいな。なんだかアタシまで楽しくなってくるよ」

成幸 「それなら何よりです。でも、迷惑かけちゃってすみません……」

あすみ 「だから何度も言わせんなよ。アタシは仕事で来てるんだ。迷惑も何もねぇよ」

711以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:47:27 ID:AR9F6gVQ
成幸 「……それならいいんですけど」

成幸 「ま、いいや。和樹と葉月が寝たなら都合がいいですね。一緒に勉強しましょう?」

あすみ 「ん、いや、でもな。そろそろお前のお母さんが帰ってくるだろ?」

あすみ 「まだなんかやっておくことないか、気になってさ」

成幸 「いや、もう十分やってもらいましたよ。大丈夫ですって」

成幸 「ほら、先輩も早くテキスト出してくださいよ」

成幸 「色んなコトしてもらっちゃいましたから。俺もはりきって勉強教えますよ!」

あすみ 「わかったよ。でも、お前だって自分の勉強があるだろ? アタシはべつに……」

成幸 「先輩のおかげで勉強捗りましたから、大丈夫です。少しはお返しさせてください」

あすみ 「……だから、アタシは仕事で来てるんだっての」

あすみ 「……まぁ、せっかくだし、ちょっとお言葉に甘えて、教えてもらおうかな」

成幸 「はい! まだまだ夜はこれからですよ! ふたりでみっちりやれますね!」

あすみ 「ほー?」 ニヤニヤ 「アタシとふたりで、みっちり何をするつもりだ?」

成幸 「勉強ですよ!!」

712以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:48:09 ID:AR9F6gVQ
………………翌朝

成幸 「………………」

パチッ

成幸 「ん……。もう朝か……」

キャー……ドタドタドタ……

成幸 (和樹と葉月のやつ、もう起きてるのか。まったく、子どもの朝は早いな……)

成幸 (仕方ない。俺も起きるか……)

モゾモゾ……ガラッ

成幸 「……おはよー、和樹、葉月、母さん」

葉月&和樹 「「兄ちゃんおはよー!」」

花枝 「あら、おはよう、成幸。今日は早いのね」

成幸 「目が冴えちゃってさ。まぁ、早めに家出て学校で勉強するよ」

あすみ 「ん、そうか。じゃあもう弁当仕上げちまうか」

成幸 「ああ、そうしてくれると助かります。すみません」

713以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:48:57 ID:AR9F6gVQ
成幸 「……ん?」

成幸 「……って先輩!? どうしてここに!?」

あすみ 「おー。朝から随分なご挨拶だな。さてはアタシのこと忘れてやがったな」

成幸 「い、いや、そういうわけじゃ……」

成幸 (そ、そうだった。先輩、これからしばらく、うちで寝泊まりするんだったー!)

成幸 「おはようございます、先輩。ひょっとして、朝ご飯とお弁当まで作ってくれてるんですか?」

花枝 「そうなのよー。本当に良い子ねー、あすみちゃん」

ニヤニヤ

花枝 「こんな良い子と、一体どこで知り合ったんだか」

成幸 「予備校で席が隣なだけだよ。下世話なこと言うなよ、先輩にも迷惑だろ」

花枝 (予備校で席が隣なだけの女の子とこんなに仲良くなれるだけのコミュ力……)

花枝 (我が息子ながら、すごいわね……)

714以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:49:39 ID:AR9F6gVQ
成幸 「すみません、先輩。変なこと言う親で……」

成幸 「先輩は仕事で来てくれてるだけなんだから、あんまり変なこと言って困らせるなよ?」

花枝 「へ? 仕事?」

あすみ 「ほら、いいからいいから、後輩もお母さんも、席についてください」

あすみ 「和樹と葉月も、はい、席につく」

葉月&和樹 「「はーい」」

あすみ 「お味噌汁が冷めちゃう前に食べてください。どうぞ」

成幸 「わー、美味しそうな朝ご飯だ……」

あすみ 「いつも妹さんが作ってるっていう朝ご飯の献立を参考に作ってみました」

あすみ 「お口に合うといいんですが……」

715以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:50:25 ID:AR9F6gVQ
花枝 「………………」

モグモグモグ……

花枝 「……あすみちゃん」

あすみ 「へ? お母さん? 箸を置いて、どうしたんですか?」

あすみ 「ひょっとして、味付けが気に入らなかったですか……?」

花枝 「とんでもない。とっても美味しいわ。ねぇ、あすみちゃん、このままうちにお嫁に来ない?」

あすみ 「へ……?」

花枝 「成幸、情けないところも多いけど、やるときはやる自慢の息子なのよ」

成幸 「だー! 母さん! だからそれをやめろって言ってるんだよ!」

あすみ 「……えっとー、どうしようかなー」

キャルン

あすみ 「成幸クンがいいなら、あすみもいいかな、なんて……」

成幸 「キャピキャピしないでください! うちの母親と弟妹は本気にしますよ!」

716以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:51:21 ID:AR9F6gVQ
………………玄関

成幸 「はぁ……朝から疲れたな……」

あすみ 「いいじゃねーかよ。楽しくてさ」

成幸 「楽しいのは俺以外だけです!」

あすみ 「ほれ、お弁当。我ながらメチャクチャ美味しく仕上がってるから、機嫌直せよ」

成幸 「……べつに、機嫌悪くはなってないですけど」

成幸 「俺も楽しかったし……」

あすみ 「……はは、お前ってほんと、可愛い奴だな」

あすみ 「ほら」

バン!!!

成幸 「わっ……な、なんですか。急に背中を叩いて……」

あすみ 「背筋伸ばせよ。丸まってちゃ、気分だって上がらないぞ」

ニヤリ

あすみ 「それとも、いってらっしゃいのチューでもしてやった方がやる気が出るか?」

717以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:52:11 ID:AR9F6gVQ
成幸 「ち、ちゅ……!? なんてこと言い出すんですか、先輩!」

あすみ 「冗談だよ、冗談。そんなに顔真っ赤にするなよ」

あすみ 「まったく、からかい甲斐のある奴だな、お前は」

成幸 「っ〜! 先輩は、まったくもう……!」

あすみ 「悪かったよ。ほら、学校がんばってこいよ」

ニコッ

あすみ 「いってらっしゃい、後輩」

成幸 「っ……」 (その笑顔は反則だろ……まったく……)

ニコッ

成幸 「……はい。いってきます、先輩」

718以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:53:19 ID:AR9F6gVQ
………………一ノ瀬学園

小林 「……ん、成ちゃん?」

成幸 「おお、小林、おはよう」

小林 「おはよ。どうしたの? 今日はかなり早いね」

成幸 「ん、ああ、まぁちょっとな。そういうお前こそ早いな。どうしたんだ?」

小林 「国体に向けて朝練を始めた武元の付き合いで早朝から登校する智波ちゃんに付き合って早く学校に来た、って感じ?」

成幸 「なるほど。複雑だな」

成幸 「……武元のやつ、がんばってるな。俺も負けてられないぜ」

小林 「十分負けてないと思うけどね」

小林 「ちょうどいいや。ヒマしてたんだよ。ちょっと分からないところがあるから教えてよ、成ちゃん」

成幸 「おう、いいぞ。何でも聞いてくれ」

小林 (……? なんか、今日の成ちゃんはえらくご機嫌だなぁ)

小林 (なんかいいことでもあったのかな?)

719以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/21(日) 19:54:00 ID:AR9F6gVQ
………………昼休み

うるか 「………………」 グッ


―――― 『明日からは和樹と葉月のお昼も考えなくちゃだし、自分でなんとかするさ』


うるか (昨日、ああは言ってたけど、やっぱりお昼がパンの耳だけなんてよくないよ)

うるか (今朝、朝練もあるから四時起きで眠い目をこすりながら作ったお弁当! というかお重!)

バーン!!

うるか (たまたま作りすぎちゃったからあげるって言えば、大丈夫だよね?)

理珠 「……あれ、うるかさん? 3-Bに何かご用ですか?」

うるか 「あ、リズりん。いやー、ちょっと成幸に勉強を教えてもらおうかと……」

うるか 「……って、何その大量のうどん!?」




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