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【ぼく勉】小美浪先輩「この前は本当に悪かった」成幸「はい?」

1以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/10(月) 23:23:54 ID:w/7Zs4bc
………………海での一件から数日後 予備校

成幸 「なんです、藪から棒に」

小美浪先輩 「いや、メールでも謝ったけど、これだよ。ほれ」

成幸 (紙袋? 中身は……)

成幸 「あっ……ああ。これ、海で貸したシャツですね」

小美浪先輩 「いや、ほんと悪かったな。返すの忘れて先に帰って」

小美浪先輩 「メールでは大丈夫だったって言ってたけど、本当に大丈夫だったのか?」

成幸 「えっ、あー……」

成幸 (……帰りに乗せてもらった桐須先生の車の運転は、正直全然大丈夫ではなかったけど、)

小美浪先輩 「? 後輩?」

成幸 (それをこの愉快的な先輩に話したら、また桐須先生をからかうネタにしかねないし)

成幸 (わざわざ言うことではないな。よし)

小美浪先輩 「おーい、こうはーい。どうしたー?」

成幸 「……すみません。大丈夫でしたよ。海の家ですぐに新しいシャツを買えましたし」

小美浪先輩 「そ、そうか……」 ホッ

446以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:53:55 ID:N3EY2ei2
理珠 「いや、私はそういうのは……」

ハッ

理珠 (……いいことを思いつきました)

理珠 (お父さんも成幸さんも私の話を聞いてくれない。なら……)

理珠 「……分かりました。リポーターの応対をすればいいのですね」

理珠 「それくらいであれば、簡単です。私に任せてください」

親父さん 「本当かい!? ありがとうリズたま! 感謝のハグを――」

理珠 「――では、おやすみなさい、お父さん」

バタン

理珠 「ふふふふ……」

理珠 「……お父さんも成幸さんも話を聞いてくれないなら、」

ニヤリ

理珠 「言ってあげればいいんですよ。テレビで」

理珠 「ふふふ……。当日が楽しみです」

447以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:54:35 ID:N3EY2ei2
………………テレビ取材当日 唯我家

成幸 「今日、緒方の家のテレビ取材だよな……」

成幸 (見るのが怖いような、見ない方が怖いような……)

成幸 (まぁ、やきもきしてても仕方ない。見るか……)

パチッ

リポーター 『皆さーん、こんにちはー。「私たちの街の美味しいお店」のコーナーです』

リポーター 『今日は、うどんの名店、緒方うどんさんにお邪魔しています!』

リポーター 『では、早速お話を伺ってまいりましょう、このお店の看板娘、理珠さんです』

理珠 『……どうも。こんにちは。緒方うどんの娘、理珠と申します。今日はよろしくお願いします』

成幸 (お、おお。さすがは “機械仕掛けの親指姫”。いつもと全く変わらない様子だな)

リポーター 『きゃー、本当に可愛らしい娘さんですね。中学生さんですか?』

理珠 『っ……こ、高校3年生です』

成幸 (あ、そこもいつも通り少しイラッとしてる)

448以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:55:21 ID:N3EY2ei2
………………数分後

成幸 (ハラハラしながら見ていたが、リポートはつつがなく進んだ)

成幸 (緒方は持ち前の冷静さで終始上手に受け答えしているように見える)

成幸 (心配するまでもなかったか。しっかりとやってるじゃないか)

リポーター 『それでは、今日から店に置くことになった新メニューをいただきましょう』

理珠 『どうぞ。新メニューのもみじおろしうどんです』

成幸 (おお。なんか自分が考えたうどんがテレビに映ってるのは、少し気分がいいな)

リポーター 『まぁ、これは可愛らしいうどんですね』

リポーター 『もみじおろしと大葉でハートマークが描かれています』

リポーター 『なんでも、これは理珠さんが自分で考えられたとか』

理珠 『……そのことですが、それは、父の勘違いです』

リポーター 『え……?』

成幸 「……お、おいおい。緒方さん? 一体何を……」

理珠 『そのうどんは、私の友人が考えてくれたものです』

理珠 『……それだけは、訂正しておきたくて、言いました。すみません』

449以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:56:11 ID:N3EY2ei2
成幸 (台本とかもあるだろうに、またとんでもないことをしたな、緒方……)

成幸 (……でも、緒方の性格じゃ、俺が考えたメニューを自分が考えたことにされたら嫌だろうな)

成幸 (親父さんに新メニューとして認めてもらうために、軽率な嘘をついてしまったが……)

成幸 (反省だな。緒方に悪いことをしてしまった)

リポーター 『そうだったんですか。そのご友人というのは学校のお友達ですか?』

理珠 『え? は、はい。まぁ、そうですね……』

理珠 『学園祭でうどんの売上が伸び悩んで、困っているときに、このメニューを考えて助けてくれたんです』

リポーター 『ほうほう。発想力が豊かな方なんですね』

理珠 『そうなんです。成幸さんはすごいんです。勉強を教えるのも上手だし、何より努力家です!』

成幸 (……緒方。俺のことをそんなにすごい奴だと思ってくれてたのか……) ジーン

リポーター 『では、そんなご友人が考えたメニューをいただきましょう。いただきます』

リポーター 『……ん。これは、スープに溶けたもみじおろしがうどんにからまって、』

リポーター 『辛さと甘みがちょうどいいですね。とても美味しいです』

リポーター 『見た目が可愛らしいだけでなく、味は本格的です。おだしもきいていてとても美味しいです』

450以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:57:04 ID:N3EY2ei2
理珠 『……あ、ありがとうございます。父の作るうどんは絶品です』

理珠 『成ゆ――友人が考えてくれたもみじおろしのトッピングも、見た目がきれいでとても美味しいんです』

理珠 『ぜひ、食べに来てください!』

リポーター 『……ちなみに、つかぬことを伺いますが』

理珠 『はい?』

リポーター 『“成幸さん” というのが、そのお友達のお名前ですか?』

理珠 『わ、私、名前を言っていましたか?』 カァアア…… 『す、すみません、勢い余って……』

リポーター 『……あー、なるほど』 クスッ 『ハートマークのうどんを考えるなんて、ロマンチックな彼氏さんですね』

理珠 『……!? か、彼氏!? ち、違いますよ! 私と成幸さんは、そんな……――』

リポーター 『と、いうことで、本格的なうどんが楽しめて、可愛らしい看板娘がいる緒方うどん、』

理珠 『私の話聞いてますか!? ち、違いますからね!? 本当に違いますから!』

リポーター 『ぜひ一度来てみてください。以上、「私たちの街の美味しいお店」でしたー』

成幸 「………………」

カァアアア……

成幸 「な、なんていらんことを言うリポーターだよ、まったく……」

451以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:58:03 ID:N3EY2ei2
成幸 (緒方も緒方だよ。俺のことなんか話さなきゃいいのに……)

成幸 (まぁ、仕方ないか。恥ずかしい思いをしたのはあいつだし、ちょっと可哀想だな……)

成幸 (明日、うどんでも食いがてら、様子を見に行ってやろうかな……)

prrrrr……

成幸 「ん、電話……?」

ガチャッ


『覚えてろよ、センセイ……!』


ガチャッ……ツーツーツー……

成幸 「………………」

成幸 「……あー、俺、当分緒方ん家には近寄れなそうだなぁ」



おわり

452以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:58:38 ID:N3EY2ei2
………………幕間 「あたしん家にも」

うるか 「今日はリズりん家がテレビに出る日だよね〜」

ピッ

うるか 「おお、本当に出てる! っていうか、改めて見ると、リズりんほんと美少女、って感じだよね」

うるか 「………………」

うるか 「……ん?」

うるか 「……彼氏……?」

うるか 「……テレビの取材にかこつければ、成幸のことを彼氏と思ってもらえる……?」

うるか 「………………」

うるか 「ねー! おかーさーん! うちにもテレビの取材来ないかなー?」

うるか母 「なにいきなりバカなこと言ってんのあんたは。来るわけないでしょ」



おわり

453以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 20:00:58 ID:N3EY2ei2
>>1です。
読んでくださった方ありがとうございます。



また投下します。よろしくお願いします。

454以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 21:16:04 ID:t4Aw006g
父の顔が浮かぶようだw

455以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:33:55 ID:ceaM/etY
>>1です。
投下します。



【ぼく勉】小林 「成ちゃんを一番幸せにできるのは、――――だと思うからさ」

456以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:35:03 ID:ceaM/etY
………………登校中

海原 「……ねぇ、陽真くん」

小林 「ん? なに、智波ちゃん?」

海原 「わたしの意図するところを忖度せず、陽真くんが思うことをそのまま答えてください」

小林 「えっ、何いきなり?」

海原 「唯我くんのまわりにいる女の子の中で、誰が一番魅力的だと思う?」

小林 「えっ、ごめん本当に何、いきなり」

海原 「いいから答えて。十秒前、9、8、7、……」

小林 「しかもカウントダウンありなの!? 急だなぁ……」

小林 (…… “忖度するな” ってことは、暗に本当は忖度してほしいって言ってるんだろうなぁ)

海原 「4、3、2、……」

小林 「えっと……やっぱり、智波ちゃんが一番カワイイかな、なんて……」

海原 「………………」

小林 (しまった。選択をミスったか……?)

海原 「………………」 ニヘラァ 「……も、もう、陽真くんったら! そういうのじゃないんだって!」

457以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:36:43 ID:ceaM/etY
海原 「陽真くんが本当にわたしのこと大好きっていうのはよくわかったから……///」

小林 (少し面倒くさいけど……でも、やっぱりかわいいなぁ、智波ちゃん)

海原 「そうじゃなくて……じゃあ、質問を変えるね?」

海原 「唯我くんのまわりにいる女の子の中で、誰が一番唯我くんとお似合いだと思う?」

小林 「………………」

小林 「……ん、それ、すごく難しい質問だね」

海原 「そうかな? 正直に答えてくれればいいんだけど……」

小林 「うーん、俺は成ちゃんと小さい頃からの付き合いだけど、そういう話って滅多にしないからなぁ」

小林 「男女間のこととかあんまり好きじゃないし、興味もないみたいだし……」

小林 「……で? 智波ちゃんは、俺に武元かな、って言ってほしかったの?」

海原 「うっ……まぁ、それもあるんだけど……」

海原 「もしうるかじゃないなら、うるかに足りないところを、男の子の立場から教えてもらえたらな、とか思ってたんだ」

小林 「なるほど。まぁ、武元のために色々してあげたい智波ちゃんの気持ちも分かるけどさ、」

小林 「そういうのは本人たちが決める以外、俺たちには何もできないんじゃないかな」

小林 「この前の模試の帰りみたいに、二人っきりにしてあげるくらいなら協力するけど」

458以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:37:20 ID:ceaM/etY
海原 「うぅ……そう言われると弱いなぁ」

小林 「あ、でも、智波ちゃんが武元に協力してあげたい気持ちは分かるし、いいと思うよ」

小林 「ただ、成ちゃんの友達の俺としては、成ちゃんの意志を知らないまま、協力はできかねるかな、って」

小林 「……ごめんね、こんなノリの悪い彼氏で」

海原 「ううん、いいの。陽真くんの、イケメンのくせにそういう義理堅いところ、本当に大好きだから」

小林 「イケメンのくせにって……」 クスッ 「嬉しいよ。俺も、智波ちゃんのそういう理解あるところが大好きだよ」

海原 「えへへ……照れるね」

小林 「うん。でも、嬉しいよ」

小林 「……一応、有益かどうか分からないけど、成ちゃんの女の子のタイプだけ教えてあげようか?」

海原 「え!? それほんと!? ぜひぜひぜひ!」

小林 「参考にならないと思うけど…… “貧乏でも一緒に家族を支えてくれる人” だよ」

海原 「へ?」

小林 「だから、“貧乏でも一緒に家族を支えてくれる人”」

海原 「……重いね」

小林 「それは俺も否定できないかな」

459以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:37:59 ID:ceaM/etY
小林 「成ちゃんはよくも悪くも、本当に真面目だからさ」

小林 「結局、今はまだ家族のことしか考えられないんだよ」

小林 「だから、武元のことも、長い目で見てあげてくれると、俺としては嬉しいかな」

海原 「……ん、そうだね。あんまり焦りすぎてもよくないね」

海原 「って言っても、うるかの片思いはもうすでに五年目の領域だからなぁ」

小林 「ある意味武元も一途で重いタイプだから、成ちゃんと相性いいかもね」

海原 「“貧乏でも一緒に家族を支えてくれる人” かぁ……。うるか、ぴったりだと思うけどなぁ」

小林 「それを決めるのは成ちゃんだからね。なんとも言えないよ」

海原 「……でも、よかった」

小林 「へ? 何が?」

海原 「陽真くんが友達想いの良いイケメンだって、改めて分かったから」

小林 「……あはは、べつに、そういうわけじゃないんだけどね」

小林 「成ちゃんは特別なんだ。本当に俺にとって、大切な友達だから」

小林 (……でも、そうだよな。四月からずっと成ちゃんのまわりはめまぐるしく動いてる)

小林 (成ちゃんの人生が大きく動くようなことが、受験以外で起こるような気がする)

460以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:38:57 ID:ceaM/etY
………………一ノ瀬学園 3-B 昼休み

小林 「………………」

ジーッ

成幸 「……なんだよ。その熱い視線は。どんなに見つめられたって、水希の弁当はやらんぞ」

成幸 「おかずひとつくらいなら考えてやらんでもないが……」

小林 「えっ? ああ、ごめんごめん。ちょっとボーッとしててさ」

成幸 「ボーッとして男友達の顔を見つめるなよ気持ち悪いな!」

大森 「見つめるなら美少女がいいよな。お前がよくつるんでるお姫様たちみたいな」

成幸 「大森、お前のその発言は素で気持ち悪い」

小林 「………………」

小林 (……智波ちゃんにああは言ったものの、俺も常々似たようなことを考えている)

大森 「なんだとテメェこら唯我ー! お前に俺の気持ちが分かるかー! いつも美少女侍らせやがってー!」

成幸 「やめろコラ大森! 誤解を招くような言い方をするなこのバカ!」

461以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:39:55 ID:ceaM/etY
小林 (ただ、“誰がお似合いか” とかではなく、“誰が一番成ちゃんを幸せにできるか” だけど)

小林 (正直、答えはもう出ている。ただ、それを智波ちゃんに言うのはためらわれただけだ)

小林 (……というか、たぶんこれを俺は誰にも言わないだろう。成ちゃんのことを考えればこそ、言うべきじゃない)

大森 「せめて水希ちゃんが作った弁当のオカズくらいよこせー!」

成幸 「嫌だ! なんか今の気持ち悪いお前にだけは食わせたくない!!」

小林 (……そう。成ちゃんの幼なじみの俺だからこそ、これは胸にしまっておきたい)

小林 「……はいはい、ふたりとも騒がないの」

小林 「成ちゃん、昼休みはあの三人と勉強の予定でしょ? 早くご飯食べて行ってあげた方がいいんじゃない?」

成幸 「そ、そうだった! サンキュー、小林! 大森、お前に構ってる暇はない!」

ガツガツガツガツ……ゴックン

成幸 「ごちそうさま! じゃあ行ってくるな!」

大森 「あーっ! 俺の弁当がー!」

成幸 「お前のじゃねぇ! じゃあこのバカ頼んだぞ、小林!」

小林 「はいはい。じゃ、いってらっしゃい、成ちゃん。……お前はこっちだよ、大森」

大森 「ぐえっ」

462以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:41:10 ID:ceaM/etY
………………図書室

小林 「………………」

小林 (……とかなんとか言って、気になって結局来てしまった)

小林 (智波ちゃんに正面切って相談されたからっていうのもあるけど、)

小林 (改めて、成ちゃんとあの三人の様子をちょっと見たくなったからだ)

成幸 「………………」

理珠 「………………」

文乃 「………………」

うるか 「………………」

カリカリカリ……

小林 (……うん。そして、想像通り、色気も何もなく、真面目に勉強している)

小林 (さすがは成ちゃんだ。しっかり先生やってるんだね)

うるか 「……ん、この問題……」

成幸 「? どうかしたか、うるか?」

小林 (……これだ。やっぱり、名前呼びになったアドバンテージは大きい)

463以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:42:06 ID:ceaM/etY
小林 (夏休み中、間違いなく何かがあのふたりにあったはず)

小林 (成ちゃんにそれとなく聞いてみても、顔を赤くして誤魔化すだけだ)

小林 (逆に、それが何かがあったという裏付けになっているんだけど)

小林 (でも……)

理珠 「む……成幸さん、次、いいですか?」

成幸 「ああ、理珠――じゃなくて、緒方」

理珠 「はうっ……///」

成幸 「す、すまん……」

小林 (これもある。いつの間にか、緒方さんが成ちゃんのことを名前で、)

小林 (そして時々、言い間違えるように、成ちゃんも緒方さんのことを名前で呼ぶ)

小林 (武元に対抗しているのかな。だとすれば、緒方さんもがんばってるよなぁ)

464以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:43:43 ID:ceaM/etY
文乃 「……ん、成幸くん。わたし、その次いいかな。合ってるか確認してほしい問題があるんだ」

成幸 「おう、わかった、古橋」

小林 (……これは、どう解釈したらいいのか、ちょっと分かりにくい)

小林 (古橋さんもごく自然に成幸くんと呼んでいる。けど、成ちゃんはよそよそしく名字のままだ)

小林 (けど、時々冗談なのかなんなのか、“文乃姉ちゃん” と言っているのを見かける)

小林 (もちろん冗談なのだろうけど、引っかかる)

小林 (……成ちゃんは長男で、お父さんを早くに亡くして、“兄” や “姉” に憧れている節がある)

小林 (ひょっとしたら、古橋さんのことをそういう目でみている可能性もある……)

小林 「………………」 ハァ

小林 (……俺、何やってんだろ。智波ちゃんに偉そうに高説垂れておいてこれだもんなぁ)

小林 (結局、俺は心配なんだ。幼なじみの成ちゃんのことが)

小林 「……ん?」

関城 「………………」 ハァハァハァ 「……今日もいい感じね、緒方理珠。ふふ……ぐへへ……」

小林 (えっ待ってちょっと怖い)

小林 (この人いつの間に俺のすぐ横に来てたんだ!?)

465以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:44:37 ID:ceaM/etY
小林 (っていうか、何だこの双眼鏡。何? 緒方さんを覗いてるのか? ストーカー?)

関城 「ん……?」

関城 「ああ、誰かと思えば、よく唯我成幸と一緒にいる男じゃない」

小林 「へ……? あ、ああ、そういえば、君は文化祭の後夜祭で成ちゃんたちと一緒にいた……」

関城 「関城紗和子よ。緒方理珠の大親友よ。おたくは?」

小林 「小林陽真……。成ちゃん――唯我成幸の、幼なじみ……かな?」

関城 「ふーん……幼なじみ、ねぇ……」

ニヤリ

関城 「ちょうどいいわ。ちょっと付き合いなさいよ」 ガシッ

小林 「えっ? い、いや、俺は……――」

関城 「ジュースくらい奢ってあげるわ。ほら、行くわよ」 グイグイグイ

小林 「いや、ちょっ、待って……」

ズルズルズルズル……

466以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:50:44 ID:ceaM/etY
………………自販機前

関城 「コーヒーでいいかしら?」

小林 「なんでもいいよ、もう……」

関城 「そう? じゃあ、はい?」

小林 「……ありがとう」

関城 「さすが、唯我成幸の幼なじみね。急に連れてこられてもお礼を言えるなんて」

小林 「俺は成ちゃんほどお人好しじゃないけどね。じゃ、遠慮なくいただきます」

小林 「……で、一体何の用?」

関城 「単刀直入に言いましょう。私は緒方理珠の大親友で、緒方理珠の恋を応援しているわ」

小林 「は? 緒方さんの恋を応援? 緒方さんのストーカーなのに?」

関城 「し、失敬ね! ストーカーじゃないわよ。……ちょっと心配で観察してしまうだけで」

小林 「ストーカーはみんなそう言うんだけどね……」

ハァ

小林 「ま、いいや。で、君は緒方さんが成ちゃんに恋してるのを、応援してるんだ?」

関城 「む……。さすがは唯我成幸の大親友ね。よく分かってるじゃない」

467以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:51:51 ID:ceaM/etY
小林 「まぁ、あれだけ分かりやすく好意を示してたらいやでも分かるでしょ」

関城 「違いないわね」

小林 「で? 緒方さんの恋を応援している君が俺に何の用?」

関城 「緒方理珠、客観的に見てどうかしら? 唯我成幸の幼なじみに目線でもいいわよ?」

小林 「どうって言われてもなぁ。小さくて可愛いと思うよ? きれいな顔立ちだし」

関城 「唯我成幸的にはどうかしら? 彼は背は低い方がタイプ?」

小林 「いや、そういう話、成ちゃんが嫌がるからあんまりしたことないし、分からないよ」

関城 「……そう」

関城 「残念ながら、私の方でも、唯我成幸について、“貧乏でも一緒に家族を支えてくれる人” がタイプということしか分かってないのよ」

小林 (それ知ってるだけでもだいぶすごいと思う)

関城 「唯我成幸と緒方理珠をくっつけるにはどうしたらいいのかしら?」

関城 「幼なじみなら、何か有益な情報を持っているんじゃない?」

関城 「教えなさいよ。私の大親友、緒方理珠の恋を成就させるために!」

小林 「………………」

小林 「……あー、えっと、関城さん? それ、緒方さんに頼まれてやってるの?」

468以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:52:23 ID:ceaM/etY
関城 「へ……? ち、違うけど……」

小林 「……うーん、まあ、俺が口を挟むことでもないんだけどさ、」

小林 「外野がどう騒いだって、なるようにしかならないと思うよ」

小林 「……っていうか、場合によっては、緒方さんの迷惑になるかもしれないけど、分かる?」

関城 「うっ……」

小林 「だから、関城さん 緒方さんの親友だっていうなら、恋を応援するくらいにしておけば?」

小林 「きっと、関城さんが何をしても空回りにしかならないと思うよ?」

関城 「………………」

グスッ

関城 「……そんなの、わかってるわよ。えぐっ……」

小林 (なぜ泣き出す!? えっ? 俺なんかひどいこと言った!?)

469以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:53:01 ID:ceaM/etY
関城 「……後夜祭の花火、だって……緒方理珠のことを思って、突き飛ばしたのに……」

関城 「キライって、言われるし……ひぐっ……」

小林 (俺も見てたけどそれは仕方ないと思う)

関城 「わかってるけど、せっかくできた友達なんだもん……」

関城 「幸せになってもらいたいもん……」

小林 「あー……」

ポンポン

小林 「関城さんは、緒方さんのことが大好きなんだね。だからがんばりたいんだね」

関城 「………………」 コクリ

小林 「きっといつか、その気持ちは緒方さんに伝わるよ。だから、あんまり過激なことは控えようね?」

関城 「……うん」

470以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:54:19 ID:ceaM/etY
小林 (……めんどくさい。成ちゃんはいつもこんな子たちの面倒を見てるのか?)

小林 (俺にはとても無理だよ成ちゃん。やっぱり成ちゃんはすごいな)

関城 「……急に取り乱してごめんなさい。ありがとう」

小林 「いや、いいよ。落ち着いてくれたなら何よりだよ」

小林 「いつか、もしも緒方さんが成ちゃんと結ばれたらさ、一緒に祝ってあげたらいいじゃない」

小林 「で、もしも、万が一緒方さんの恋がやぶれてしまったらさ、」

関城 「?」

小林 「こうやって緒方さんのことを慰めてあげなよ」

関城 「……!?」

関城 「な、なるほど……。失恋して弱っている緒方理珠のことを慰めれば……」

関城 「私たちの親友度はうなぎ登り!? なるほど、すごいことを聞いたわ……」

小林 「………………」 (いや、そういうつもりで言ったんじゃないんだけど……)

関城 「万が一のときはそうさせてもらうわ! ありがとう、小林陽真!」

関城 「でも、緒方理珠の涙なんか見たくないから、これからもできる限りがんばるわ!」

小林 (……ま、立ち直ってくれたみたいだし、いいか)

471以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:55:39 ID:ceaM/etY
………………廊下

小林 (まずいまずい。早く教室に戻って五時間目の準備をしないと)

小林 (……ん?)

鹿島 「……あら〜。そこを行くは、唯我成幸さんのお友達の、小林陽真さんではありませんか〜」

小林 「へ……?」

蝶野 「時間は取らせないっス。少し、お話でもどうっスか?」

小林 「い、いや、もう予鈴もなるし……」

猪森 「教室ダッシュは本鈴が鳴ってからが本番だろう。大丈夫。授業に遅れるようなことはない」

小林 (何がどう本番なのだろう。よくわからないけど……)

小林 (……急がば回れ、かな。断ってもしつこそうだし、)

小林 「えっと……A組の、古橋さんとよく一緒にいる子たちだよね」

小林 「間違ってたらごめん。鹿島さんと、蝶野さんと、猪森さん……だっけ?」

鹿島 「さすが唯我成幸さんの幼なじみさんですね〜。完ぺきです〜」

小林 「まぁ、文化祭のときの話は成ちゃんから聞いてるし……」

小林 「で、話って何かな?」

472以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:58:42 ID:ceaM/etY
蝶野 「時間もないしスパッと行くっスね。ぶっちゃけ、唯我さんとうちの古橋姫、お似合いだと思いません?」

小林 「………………」

小林 「……えっと、質問の意図が分かりかねるというか、なんというか」

小林 「誘導尋問のようにも思えるんだけど……」

猪森 「失礼した。質問を変えよう。唯我は古橋姫のことをどう想っているだろうか」

小林 「……そんなの俺に分かるわけないでしょ」

鹿島 「本当ですか〜? 小林さんは、幼少の頃より唯我さんの家に出入りしていたと聞きますが〜」

小林 (……怖い。なんでそんなこと知ってるんだろう)

鹿島 「唯我さんが古橋姫のことを憎からず想っていることも、ご存知なんじゃないですか〜?」

小林 「ほらまた誘導尋問する。そんなの俺が知るわけないでしょ。成ちゃんはそういう話題好きじゃないし」

鹿島 「ほ〜」 (考えが浅そうなイケメンを想像していましたが、意外と冴えてますね〜)

小林 「……まぁ、べつに、そっちが何をしようと俺には関係ないけどさ、」

小林 「成ちゃんの迷惑になることや、成ちゃんの意向に沿わないことをしたら、俺、たぶん怒るよ?」

猪森 「むっ……」

473以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:59:40 ID:ceaM/etY
猪森 「私たちは、そんなつもりは……――」

小林 「――悪意がなけりゃいいってもんでもないと思うけどね」

小林 「文化祭のとき見てたけどさ、っていうか、もう古橋さんに怒られただろうから強くは言わないけど、」

小林 「成ちゃんのこと騙して王子役をやらせようとか、古橋さんを突き飛ばしてジンクスを達成しようとか、」

小林 「そういうの、俺は嫌いだし、応援できないかな、って思うよ」

蝶野 「ひぇっ……」

鹿島 (これは、なんというか、想像以上というか……)

鹿島 「……失礼しました〜。たしかに、やりすぎたと、私たちも反省はしているんですよ〜」

小林 「そう。ならいいけどね」

蝶野 「き、気に触ったなら、わ、悪かったっス。ごめんなさい……」

小林 「へ? いや、俺、べつに怒ってはいないからね?」

猪森 (うそつけ。メチャクチャ怒ってたじゃないか。すごく怖かったぞ……)

蝶野 (だ、ダメっスよ、猪森さん。変なこと言ってまたご機嫌を損ねたら、今度こそ怒られる気がするっス……)

鹿島 「ふむふむ。小林さんは、お友達想いの方なんですね〜」

小林 「うん。成ちゃんは俺にとって特別な友達だから」

474以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 23:00:16 ID:ceaM/etY
小林 「けど、べつに俺は成ちゃんと誰かが付き合ってほしいなんて思いもないし」

小林 「成ちゃんが幸せならそれでいいと思うし」

小林 「きみたちが古橋さんと成ちゃんをくっつけたいと思うなら、勝手にしたらいいと思うし」

小林 「……けど、あんまりハメを外しすぎないようにね」

小林 「成ちゃんはお人好しだから、あんまり怒ったりしないと思うけどさ、あんまりやりすぎたら、俺が怒ると思うから」 ニコッ

鹿島 「……はい。肝に銘じておくとします〜」

鹿島 (将を射んと欲すればまず馬を射よ、と思い、小林さんに声をかけましたが、)

鹿島 (藪をつついて蛇を出してしまった感じですね〜)

キーンコーンカーンコーン……

小林 「あっ、予鈴だ。じゃ、もう行くね。役に立てなくてごめんね」

鹿島 「いえいえ。お引き留めしてすみませんでした〜」

蝶野 「……っス。すみませんっした!」

猪森 「悪かった……」

小林 「?」 (なんでみんなこんなに萎縮してるんだろう……?)

475以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 23:01:13 ID:ceaM/etY
………………放課後

小林 (いや、昼休みは色々とひどい目にあった……)

成幸 「大丈夫か、小林? なんか疲れてそうだけど……」

小林 「ん? ああ、大丈夫大丈夫。ちょっと色々あってさ」

成幸 「そうか。あと、海原はいいのか? 一緒に帰らなくて」

小林 「智波ちゃんは今日は部活に顔出すって言って行っちゃったよ。川瀬と一緒に武元の国体の練習に付き合ってあげるんだってさ」

成幸 「なるほど。海原も川瀬も友達想いだな。うるかは幸せ者だ」

小林 「本当にそう思うよ」

成幸 「あと、お前も幸せ者だよ」

小林 「へ?」

成幸 「あんな良い彼女ができてよかったな。正直、本当にお似合いだと思う」

小林 「あっ、そ、そうかな……/// 嬉しいよ。ありがとう、成ちゃん」

成幸 「おう!」

成幸 「ん、そうだ。新しい参考書をチェックしたいから、本屋寄ってもいいか?」

小林 「オッケー。ついでに俺も問題集でも見ようかな」

476以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 23:02:07 ID:ceaM/etY
………………駅前

マチコ 「さー、今日もお仕事がんばるとしますかねー」

ヒムラ 「うむ。今日はあしゅみーがいないし」

ミクニ 「その分わたしたちでがんばらないと」

マチコ 「……ん?」

マチコ 「あそこに見えますは、ひょっとして唯我クンじゃないかな?」

ミクニ 「ほんとだー。お友達と一緒かな?」

ヒムラ 「……結構イケメンだね」

マチコ 「あしゅみーの話だといつも女の子侍らせてるイメージだったけど、」

ヒムラ 「ちゃんと男友達もいるんだね」

ミクニ 「……これは」 ギラリ

マチコ 「チャンス」 ギラリ

ヒムラ 「だね」 ギラリ

477以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 23:03:53 ID:ceaM/etY
………………本屋

「ありがとうございましたー」

成幸 「付き合ってくれてありがとな、小林」

小林 「ううん。こちらこそ、いい問題集が買えたよ」

成幸 「じゃ、また明日学校でな」

小林 「うん。また明日」

小林 (……成ちゃんはこの後も図書館でいつものメンバーとお勉強、か)

小林 (一緒にどうだと誘われはしたものの、それについていく勇気は俺にはないし)

小林 「……さて、帰りますか」

ガシッ

小林 「へ……?」

マチコ 「やぁやぁやぁ、唯我クンの友達のイケメンくん」 グイッ

ヒムラ 「君に恨みはないが、少し顔を貸してもらってもいいかな?」 グイッ

ミクニ 「ジュースとご奉仕くらいはごちそうするから、ね?」 グイッ

小林 「め、メイド……? って、ちょっ、待っ……!?」

478以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 23:05:22 ID:ceaM/etY
………………メイド喫茶 High Stage

マチコ 「ふむふむ。小林陽真くん。唯我クンの幼なじみ……なるほど」

小林 「えっと、あの……。俺、見ての通り高校生ですし、あんまりお金はないんですけど……」

マチコ 「だから、ごちそうしてあげるって。はいジュース」

小林 「どうも……」

小林 (……なんか今日飲み物おごってもらってばっかりだな)

小林 「さっき成ちゃん……唯我くんの名前を出してましたけど、ひょっとしてここって……」

小林 「成ちゃんが時々話す、“あしゅみー” さんのお店ですか?」

ヒムラ 「あしゅみーを知っているのか。それなら話が早いね」

ミクニ 「わたしたちはそのあしゅみーの同僚だよ。だから緊張しなくていいからね」

小林 (メイド三人に取り囲まれて緊張するなという方が無理な話だと思うんだけど)

小林 「……で、俺に一体何の用ですか?」

ヒムラ 「まず前提として知っておいてもらいたいのが、わたしたちはあらゆる意味であしゅみーのことを応援しているということ」

ミクニ 「なので、当然、勉強面においても私生活においても、あしゅみーにはがんばってもらいたい」

マチコ 「そして、もちろん、恋愛面でもがんばってもらいたいなー、なんて思ってるの」

479以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 23:05:55 ID:ceaM/etY
小林 「えっと……」

マチコ 「つまりだね、あしゅみーが唯我クンのことを憎からず想っているであろうことが問題でね」

ミクニ 「わたしたちとしては、あしゅみーにぜひ唯我クンといい感じになってもらいたいんだよ」

ヒムラ 「唯我クン良い子だしね。あしゅみーとお似合いだと思うんだ」

小林 (またこれか。今日は一体どういう日なんだ……)

小林 「えっと、俺はそのあしゅみーさんのことを知らないですし、なんとも……」

小林 「文化祭で軽く見かけましたけど、たしかに、綺麗な人ではありましたけど……」

マチコ 「文化祭のときってことは、バンギャっぽい格好でしょ?」

マチコ 「これはどうかな? 接客中の写真」

バーン

小林 「雰囲気少し違いますね。でも、やっぱり綺麗な人だ」

マチコ 「そうなの! あしゅみーはちっちゃいけど美人で、この店のナンバーワンメイドなんだよ!」

小林 「はぁ……」

ヒムラ 「どうかな? 唯我クンは小柄な女性がタイプとか、そういうのはないかな?」

480以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 23:06:40 ID:ceaM/etY
小林 「聞いた事ないから分からないですけど……。そういう話、成ちゃんキライだし……」

ミクニ 「ところでさっきから “成ちゃん” って呼んでるのに萌えてるのわたしだけかな?」

マチコ&ヒムラ 「「すごくわかる」」

小林 「あの、俺帰って良いですか?」

ミクニ 「じょーだんじょーだん。ごめんごめん」

ヒムラ 「さっき唯我クンからあしゅみーの話が出ているようなことを言っていたけど、」

ヒムラ 「どうかな? 唯我クンはあしゅみーのことをどう想っているかな?」

小林 「いや、そこまでは分からないですけど……」

小林 「勉強を教える相手が増えた、とか。でもその先輩はアドバイスもくれる、とか」

小林 「悪い話は聞いてないから、たぶん成ちゃんも悪く思ってはいないと思いますけど……」

小林 「いかんせん、成ちゃんはお人好しなので、あまり人を嫌うようなタチでもないですから」

マチコ 「まぁ、たしかに良い子だもんねぇ、唯我クン。なんだったらわたしが彼女に立候補したいくらいだよ」

小林 「そういうこと言うと成ちゃん本気で顔真っ赤にすると思うんでやめてあげてくださいね」

マチコ&ヒムラ&ミクニ 「「「わかるー」」」

小林 (帰りたい……)

481以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 23:07:22 ID:ceaM/etY
マチコ 「あしゅみーはすごく良い子なんだよ」

ヒムラ 「仕事はテキパキこなすし、誰かが困ってたらすぐヘルプ入ってくれるし」

ミクニ 「ナンバーワンなのに気取らないし。姉御肌だし」

マチコ 「お料理上手だし掃除洗濯なんでもござれだし」

ヒムラ 「はすっぱに見えて優しくて面倒見いいし、まじめだし意志も強いし」

ミクニ 「とにかくいいとこだらけの完ぺき美少女なんだよ」

小林 「はぁ……」

マチコ 「だから、小林くんの方から、唯我クンに言ってあげてくれないかな」

マチコ 「“そのあしゅみーって人、唯我クンのこと好きなんじゃない?” とか……」

小林 「………………」

ミクニ 「そうしたら、きっと唯我クンもあしゅみーのこと意識して……」

ミクニ 「……って、小林くん? 聞いてる?」

小林 「………………」

小林 「……俺は、成ちゃんの幼なじみです。だから、成ちゃんには幸せになってほしい」

小林 「俺が成ちゃんに、そういうことで口を出すことはないです。すみません」

482以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 23:08:21 ID:ceaM/etY
マチコ 「あっ、えーっと……ひょっとして、怒った、かな?」

小林 「えっ? あ、いや、怒ってはいないです。すみません」

ヒムラ (いや、今めちゃくちゃ怖い顔してたけど……)

ミクニ (や、藪をつつくのも怖いから黙ってよう、ヒムラちゃん)

小林 「成ちゃんは、今受験で忙しいですし、話を聞く限りそのあしゅみーさんも忙しいでしょう」

小林 「あまり外野がどうこう言うものでもないでしょうし、タイミングもあまり良くないと思います」

小林 「成ちゃんは受験が終わるまではそういうことは考えないタチですから」

小林 「それまでそっとしておいてもらえたら、って思います。それは俺の個人的な考えですけど」

ヒムラ 「……っあー、そっか」

ミクニ 「なんか悪いことしちゃったね。ごめんね?」

小林 「いや、全然、俺はなんとも思ってないですから。すみません、生意気なことを……」

マチコ (絶対うそだよ……。めちゃくちゃ怒ってたよ……)

マチコ 「本当にごめんね。わたしたちも無理矢理、ってことは思ってないから安心してね」

小林 「あ、それは、はい。成ちゃんから、店の皆さんはとてもいい人たちだと聞いていますから」

483以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 23:09:02 ID:ceaM/etY
小林 (まぁ、その他にも、あしゅみーさんのニセモノの彼氏になったとか)

小林 (ふたりきりでカラオケルームで写真を撮りまくったとか)

小林 (ふたりだけで海に行って色々大変だったとか)

小林 (家事代行サービスのときは帰りがけに家に寄って色々してもらったとか)

小林 (色々聞いてはいるけど……)

ヒムラ 「残念だね。でも、わたしたちはできることをやってあげよう」

ミクニ 「そうだね。あしゅみーと唯我クン、絶対相性ぴったりだし、」

小林 (……このことはこの人たちには言わない方が良さそうだ。成ちゃんのためにも、あしゅみーさんのためにも)

小林 「ジュースごちそうさまでした。お役に立てなくてすみません」

マチコ 「ううん、こちらこそ時間取っちゃって悪いことしたね。これ、このお店の割引券だから、」

マチコ 「また今度、唯我クンとか、お友達を連れてきてね」

小林 (……大森をこんな綺麗どころばっかりのお店に連れてきたらまた面倒なことになりそうだからやめておこう)

小林 「ありがとうございます。失礼します」

484以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 23:09:40 ID:ceaM/etY
………………帰路

小林 「………………」

小林 「……さすがに疲れたな。一体今日はなんなんだ」


  「そこを行く男子ー! 止まりなさーい!!」


小林 「うん。そろそろ驚く元気もなくなってきたよね」

小林 (さて、今度は一体誰だろうか、と……)

? 「……そうです。あなたです。あ、でもそれ以上は近づかないでくださいね」

小林 (……誰?)

? 「急に話しかけてすみません。あなたが唯我成幸さんと一緒にいたところ見かけたもので」

? 「申し遅れました。私、桐須美春と申します」

小林 「桐須、さん……? えっ、その名字って……」

美春 「やはりご存知ですか。そうです。あの完全無欠のスペシャルな、桐須真冬姉さまの妹です」

小林 「はぁ……。あー、えっと、桐須先生にはいつもお世話になってます」 ペコリ

美春 「これはご丁寧に。私も姉さまにはいつもお世話になってました」 ペコリ

485以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 23:10:39 ID:ceaM/etY
小林 「えっと、で、その桐須先生の妹さんが何のご用でしょうか?」

小林 「……あと、なんか遠くないですか?」

美春 「この距離が適切です。それ以上近づいたら痴漢と見なします」

小林 (どういうことだよ……。10メートルくらい離れてるんだけど)

美春 「用というのは他でもない、姉さまのことについてです」

美春 「より深く申し上げるならば、先ほどあなたが一緒に歩いていらした、唯我成幸さんのことでもあるのですが」

小林 (メイドさんたちだけじゃなく、この人にも見られてたのか……)

小林 (今日は本当に一体何なんだ……?)

美春 「単刀直入に申し上げます。あなたは姉さまと唯我成幸さんの関係をご存知ですか?」

小林 「は? 関係? そんなの、ただの教師と生徒でしょう?」

美春 「……やはり、お友達にも内緒にしているのですね。唯我成幸さん、義理堅さは評価に値しますが、それだけ姉さまに本気でもあるということですね……」

小林 (どうしよう。この人が何を言っているのか本当に分からない)

486以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 23:11:43 ID:ceaM/etY
小林 「えっと、どうして桐須先生の妹さんが、成ちゃんのことをご存知なんです?」

美春 「一度会ったことがありますから」

小林 「えっ? どこで?」

美春 「そんなの決まってます。姉さまの家でですよ」

小林 「……へ? 成ちゃん、桐須先生の家にお邪魔したことがあるんですか?」

美春 「お邪魔したことがあるも何も、定期的に来ているようですよ? なんせあの二人は、遺憾ながら半同棲中のラブラブカップルですから」

小林 「………………」

美春 「………………」

美春 (し、ししし、しまったぁああああああああ!!)

美春 (私としたことが、とんでもないことを暴露してしまいました!!)

美春 「あ、あの……」

小林 「……あー、えっと、今のは、聞かなかったことにします」

小林 「何も聞こえませんでした。成ちゃんにとってもあんまりいいことではなさそうなので」

小林 (……っていうか成ちゃん。先生の家に定期的に行ってるって、それかなり問題なことだけど分かってるのかな)

小林 (まぁ、それ以上に問題になるのは桐須先生の方だろうけど……)

487以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 23:12:45 ID:ceaM/etY
美春 「こ、こうなったらもう仕方ありません。ぶちまけますが、」

美春 「私は、あのふたりの関係を認めるつもりはありません」

小林 「いや、そりゃ当たり前でしょ……。教師と生徒ですよ?」

美春 「それもありますが、たとえ唯我成幸さんが姉さまの生徒でなくとも、関係を認めるわけにはいかないのです」

美春 「……姉さまには、こちらに戻ってきてもらわなければならないから」

美春 「そのための障害となる唯我成幸さんとの関係を認めるわけにはいかないのです」

小林 「………………」

美春 「……? 聞いてますか? 唯我成幸のご友人さん?」

小林 「……小林陽真です。えっと、桐須美春さんでしたっけ?」

美春 「はい?」

小林 「これをあなたに言うのはフェアじゃない気もするし、気が引けるんですが、ひとつだけ言わせてほしいです」

小林 「……俺の幼なじみは、教師とそういう関係になるほど、落ちぶれてはいませんよ?」

美春 「は……?」

小林 「………………」

488以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 23:13:53 ID:ceaM/etY
美春 (こっ、これは、えっと、なんというのでしょう……)

美春 (ひょっとしてこの殿方は、私に、怒っている!?)

美春 「え、えっと、あの……――」

小林 「――あと、もうひとついいですか?」

美春 「は、はいっ!」 ビクッ

小林 「それこそ、俺に言えた義理じゃないんですけど、」

小林 「桐須先生も、そういうことをするような先生じゃないと思いますよ? 妹さんなのに分からないんですか?」

美春 (やっぱり怒ってるーーーーー!!!)

美春 (こ、怖い……怒った殿方、怖い……)

美春 「す、すすす……」

小林 「?」

美春 「すみませんでしたぁあああああああああ!!!」

タタタタタタ…………

小林 「……行っちゃった。何だったんだろう、一体?」

小林 「っていうか、最後何でちょっと涙ぐんでたんだろう……?」

489以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 23:14:50 ID:ceaM/etY
………………小林家

小林 「……ふぅ。なんか今日、疲れちゃったなぁ」

小林 「それにしても……」

小林 「みんな成ちゃんのこと大好きなんだなぁ……」

小林 (……まぁ、俺も人のこと言えないけどさ)

小林 (成ちゃんいい奴だもんなぁ)

小林 「………………」

小林 「……誰が一番成ちゃんとお似合いか、ねぇ」

小林 「みんな、結局自分の友達に幸せになってもらいたいんだよね。ま、当たり前か」

小林 (でも、俺だけは成ちゃんの味方でいてあげないと)

小林 (いずれ、きっと成ちゃんは大きな選択を迫られることになる。そのときに、成ちゃんはひょっとしたら傷つくかもしれない)

小林 (誰かが成ちゃんのことを嫌うかもしれない。憎むかもしれない。そんなとき、俺だけは成ちゃんの味方でいてあげたい……)

prrrr…………

小林 「ん、電話……武元から?」

490以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 23:15:31 ID:ceaM/etY
小林 「……もしもし?」

うるか 『あっ、こばやん? ごめんね、急に』

小林 「いや、家で寝転がってただけだから大丈夫。どうしたの? 武元が俺に電話なんてめずらしいじゃん」

うるか 『いやー、ちょっとこばやんに謝っておかなくちゃって思ってさ』

うるか 『ごめんね。こばやん』

小林 「いや、えっと……なんか武元に謝られるようなことあったっけ?」

うるか 『いや、大したことじゃないかもしれないんだけどさ、気になっちゃって……』

うるか 『今日、海っちから変なこと言われたっしょ? 成幸と誰がお似合いか、とか……』

小林 「ああ……智波ちゃんから聞いたのか。まぁ、言われたといえば言われたけど……」

うるか 『うん。なんか、海っちが少し落ち込んでてね、』

うるか 『“陽真くんに嫌われたかもー” って、最初は笑ってたけど、少し悲しそうな顔してたから……』

小林 「俺に嫌われる? なんでまたそんな……」

うるか 『こばやんが成幸のこと大好きだって分かってたのに、彼女って立場を利用して、変なこと聞いちゃったから……だと思う』

小林 「……そんなの、気にしてないのに」

491以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 23:17:00 ID:ceaM/etY
小林 (朝の様子では和やかに会話を終えたつもりだったけど……)

小林 「智波ちゃんに悪いことしちゃったな……謝らないと」

小林 「でも、それで何で武元が俺に謝るんだ?」

うるか 『だって、海っちがこばやんにそんなこと聞いたの、あたしのためだから。だから、海っちのこと怒らないであげて』

うるか 『あたしが踏ん切りがつかなくて、何年も片思いを続けてるのを見かねた海っちがしてくれたことだから……』

うるか 『だから……』

小林 「……まったく。だから俺、べつに怒ってないって」

小林 「智波ちゃんにも、武元にも怒ってないよ。だから大丈夫」

うるか 『本当に!? 良かった……』

うるか 『あたしのことでこばやんが嫌な思いをしたり、海っちとの仲が悪くなったりしたら、嫌だったから……』

小林 (本当に安心したような声を出して……。本当に、友達想いの奴だな)

小林 (……武元。お前は、本当に友達想いの良い奴だよな)

小林 (そうだよ。だから、俺は……)

小林 「……なぁ、武元。ひとつだけいいか?」

うるか 『うん? なぁにー?』

492以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 23:22:12 ID:ceaM/etY
小林 「お前に言っておきたいことがあるんだ」

うるか 『言っておきたいこと?』

小林 「ああ。ただしそれは一度しか言わないし、それを俺が言ったことを、誰にも言わないでほしい」

小林 「……ただ、お前にだけは言っておきたいんだ。聞いてもらってもいいか?」

うるか 『へっ? い、いいけど……。聞いたことを内緒にすればいいの?』

小林 「そうだ。誰にも、絶対言わないって約束してくれ」

うるか 『……うん。わかった!』

小林 「ありがとう。じゃあ、言うな。本当に、一度しか言わないからな」

うるか 『うん! どんとこい、だよ』

小林 「……俺は成ちゃんのことが大好きなんだ」

うるか 『……へ?』

小林 「成ちゃんは昔からずっと苦労してるのも知ってる」

小林 「誰より努力家で、場合によっては報われない努力もたくさんしてきたことも知ってる」

493以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 23:23:17 ID:ceaM/etY
小林 「だから、できれば今後、成ちゃんにはたくさん幸せになってもらいたい」

小林 「俺は、成ちゃんには、成ちゃんを一番幸せにできる人と結ばれてほしいと思うんだ」

小林 「その上で言うけど、」



小林 「俺は、成ちゃんを一番幸せにできるのは、武元だと思うからさ」



うるか 『え……?』

小林 「……だから、がんばれよ、武元」

うるか 『えっ……あっ……えーっと……』

小林 「話はそれだけだ。聞いてくれてありがとな。智波ちゃんに電話かけなくちゃだから、切るな」

うるか 『あっ、ちょっと……――』

プツッ

小林 「……一度しか言わないって言っただろ。武元。でも、それが俺の本心だよ」

小林 (……誰にも言わないつもりだったのになぁ。本人に言っちゃったよ)

494以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 23:23:50 ID:ceaM/etY
小林 「……さてさて、それじゃ、智波ちゃんに電話しなくちゃな」

小林 「俺、怒ってないのに、智波ちゃんったら……」

小林 (……まぁ、そういうところもかわいいというか、なんというか)

小林 (俺のことを考えてくれてる証拠だし、嬉しいな)

prrrr……

海原 『あっ……は、陽真くん……?』

小林 「うん。今、電話大丈夫?」

海原 『うん……』

小林 「今、武元から電話があってさ。智波ちゃんが落ち込んでたって聞いたから……」

小林 「一応言っておくけど、俺、智波ちゃんのこと嫌いになったり、怒ったりしてないからね」

海原 『……ほんと?』

小林 「ほんとだよ。うそなんかつかない」

小林 「だから、元気出してよ。声も元気ないよ?」

海原 『……うん。でも、もし陽真くんに嫌な思いをさせちゃったらって思うとね』

海原 『なんか、元気でなくて……。ごめんね』

495以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 23:25:17 ID:ceaM/etY
小林 「………………」

クスッ

小林 「……智波ちゃん、いま帰り?」

海原 『えっ? うん、歩いてるトコだけど……』

小林 「今から少しお茶でもどう?」

海原 『!? いいの?』

小林 「うん。もちろん、智波ちゃんが大丈夫ならだけど――」

海原 『だいじょぶだいじょぶ! ダメなことなんか何一つないよ!』

海原 『あ、でもわたし、プール入ったばっかりだから髪パサパサだし、』

海原 『ドライヤーも適当だから髪も跳ねてるし……』

小林 「大丈夫だよ。どんな智波ちゃんでもかわいいよ」

海原 『はうっ……』

海原 『で、でもでも、わたし、今日、ちょっと落ち込んでるから……』

海原 『すごく甘えちゃったりとか、しちゃうかも……?』

小林 「嬉しいよ。気にせず甘えてよ」

496以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 23:25:47 ID:ceaM/etY
海原 『えへへ……』

小林 「じゃあ、今から行くね。商店街で待ち合わせでいいかな?」

海原 『……うん。ありがと、陽真くん』

小林 「こちらこそ。じゃ、商店街で」

ピッ

小林 「……さて、可愛い彼女を甘やかしに行くとしますか」

小林 (なんて言って、結局……)

小林 (今日一日色々あって疲れた俺の方が癒やされることになるんだけどさ)

小林 「………………」

小林 「……がんばれよ、武元」

小林 (がんばって、いつか……成ちゃんにも、こういう幸せな気持ちを、教えてあげてくれ)

小林 (……あの不器用でお人好しな幼なじみのことを、幸せにしてあげてくれ)


おわり

497以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 23:26:46 ID:ceaM/etY
………………幕間   「強敵すぎる」

小林 「ところで成ちゃんって結局どんな女の子がタイプなの?」

成幸 「何度も言わせるな、小林。俺はそんなことを考えてる暇はないんだ」

小林 「ま、そうだよねぇ。でも、受験が終わったら少しは考えられそう?」

成幸 「知るか。というか、こんなガリ勉男、女子のほうが願い下げだろう。俺はお前みたいなイケメンじゃないんだよ」

小林 「関係ないと思うけどなぁ……」

成幸 「それに、受験が終わったからって油断はできない。大学の授業についていくための予習復習をしなきゃだろうし、」

成幸 「本格的にバイトを初めて、少しでも母さんに楽させてあげたいし、」

成幸 「水希も色々と忙しくなるだろうから、しっかりと料理を勉強しておきたいし、」

成幸 「……とにかくやるべきことがたくさんあるんだ。受験が終わってもそんな暇はねぇよ」

小林 「あー……」

小林 (……まぁ、なんというか、相手は本当の本当に強敵だぞ)

小林 (がんばれよ、武元)


おわり

498以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 23:31:38 ID:ceaM/etY
>>1です。
読んでくださった方、ありがとうございました。

主要でないキャラを妄想で補いながら作ったお話という一体誰が得するんだというものを投下しました。
申し訳ないことです。
小林くんのキャラクターは本編だけではいまいち把握しかねますが、
わたしの中では成ちゃんと智波ちゃん(とついでに大森くん)のことが大好きなイケメンというイメージです。
多分にわたしの個人的な見解が入っているので、不快に思われる方もいるかもしれません。ごめんなさい。

今まで色々な作品でSSを書いてきましたが、こんなに多くのSSを書けた作品は初めてです。
まだまだ書ける気がしますので、気が向いたら覗いてくださると嬉しいです。

自分語りが長くなりました。
ではまた折を見て投下します。

499以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 23:57:24 ID:gxcO8Rn6
つまららら

500以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 00:39:08 ID:N0hORQvs
おつ

501以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 02:01:39 ID:osSM0aYY
エレファントカシマシ

502以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 14:46:34 ID:4bT1U2zI
>>1です。
投下します。


【ぼく勉】あすみ 「アイドルデビュー?」

503以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 14:47:34 ID:4bT1U2zI
………………?

『ねぇ、おとーさん!』

『うん? なんだい?』

『あたし、おとなになったら、このびょーいんのせんせーになる!』

『お医者さんになるのかい?』

『うん! それでね、おとーさんのお手伝いするの!』

『……そうかぁ。嬉しいな。じゃあ、お父さん、お前がお医者さんになるの、楽しみに待ってるよ』

『うん!』

504以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 14:48:41 ID:4bT1U2zI
………………小美浪家

あすみ 「………………」 zzz……

パチッ

あすみ 「ん、あ……。っ、寝ちまってたのか……」

あすみ (一次試験まで時間がねぇ……。とはいえ、根を詰めすぎたか……)

あすみ (……懐かしい夢も見ちまった。ちくしょう。あんときに戻れりゃな)

あすみ (まだ小せえアタシに、理科だけは死に物狂いでやっとけよって言ってやるのに)

あすみ (……なんて現実逃避してる場合じゃねぇ)

カリカリカリ……

あすみ (……くそっ、化学生物ならまだいいが、なんで物理なんてやんなきゃなんねーんだ)

あすみ (今日は後輩が店に来る日か……。癪だが、しっかり教えてもらわねーとな)

505以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 14:49:39 ID:4bT1U2zI
………………メイド喫茶 High Stage

あすみ 「おい、後輩。なんでこの世には縦波と横波なんてものがあるんだ?」

成幸 「いきなりとんでもないこと言い始めましたね。なんですか」

あすみ 「力学はまぁ、なんとか、分からんでもないような領域に来たような気がするが……」

あすみ 「相変わらず波がよくわからねーんだよ。横波はまだいいよ。なんだよ縦波って。舐めてんのか」

成幸 「珍しくめちゃくちゃなこと言ってますね。前に古橋も似たようなこと言ってましたよ?」

あすみ 「……あいつらと同レベルのことを言ってしまった……」

ズーン

成幸 (……めずらしく感情の浮き沈みが激しい。相当波に手こずってるみたいだな)

成幸 (とはいえ……)

ガヤガヤガヤガヤ……

成幸 「先輩、波の単元については分かりやすくまとめておきますから、仕事に戻ってください」

成幸 「お客さん増えてきましたよ」

あすみ 「む……。たしかにそうだな。よし、戻るか……」

あすみ 「………………」

506以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 14:50:13 ID:4bT1U2zI
パッ

あすみ 「……今日も一日がんばりましゅみー! 小妖精メイド、あしゅみぃ復活でーっす!」

客1 「あ、あしゅみーだー! 俺、注文あるからこっち来てー!」

あすみ 「はーい、ただいま参りましゅみー!」

客2 「その次こっち来てねー!」

あすみ 「はいはーい。おねーさんちょっと待っててねー」

客3 「あしゅみー、あとで愛してるゲームお願い! 今日こそ勝つからねー!」

あすみ 「きゃー、今日こそ負けちゃうかもー!」

成幸 「………………」

成幸 「……相変わらずすごい変わり様だ」

成幸 (俺にもああいう調子でいてくれればなぁ……)


 『成幸くんっ、いつもお勉強教えてくれてありがとうございましゅみー!』


成幸 (……いや、やっぱり気持ち悪いからいつもの先輩でいいや)

507以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 14:51:13 ID:4bT1U2zI
………………

?? 「ふむ……」

?? 「あれが噂の、小妖精メイドあしゅみぃか……」

?? 「噂に違わぬカリスマ性……いや、アイドル性を持ち合わせたメイドだな」

?? 「………………」

?? 「……ふむ」

クスッ

?? 「欲しいな」

マチコ (……うーん)

マチコ (あの隅の席に座ってる人、あしゅみーをずっと見てるような……)

マチコ (一体なんなんだろう……?)

508以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 14:52:07 ID:4bT1U2zI
………………閉店後 掃除

あすみ 「……っふぅー。やっとバイト終わりかー。今日はお客さんめっちゃ多かったなー」

成幸 「そうですね。先輩も今日はやけに気合い入ってましたね」

あすみ 「まぁなー。勉強で分からないところにぶち当たったストレスは、仕事で発散するに限るからな」

マチコ 「はは、バイトとストレス発散が兼ねられるなんて、あしゅみーはほんとすごいよね」

あすみ 「……っつーか、マチコ、後輩に掃除までさせてるのかよ。アタシの勉強を見るだけじゃないのか?」

マチコ 「心配召されるなー。ちゃんと店長にバイト代払わせてるから大丈夫」

成幸 「俺も、問題集を買うお金になるから助かってます」

あすみ 「……お前がいいならいいけどさ」

カランコロン……

マチコ 「ん……? 入店のベル? 変だなぁ。閉店の札は下げといたはずだけど……っと」

?? 「……失礼するよ」

成幸 (女の人……?) 「あ、すみません。お店はもう閉店で……」

マチコ (……この人、閉店までずっと店の隅にいた……あしゅみーのことずっと見てた人だ!)

マチコ (まさか、あしゅみーのストーカー……!?)

509以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 14:53:23 ID:4bT1U2zI
?? 「ああ。閉店後でないとつかまらないと思ったからね」 ニコッ 「“あしゅみー” さん?」

あすみ 「えーっと、どちらさまですかー?」 キャルン

?? 「素晴らしい変わり身の速さだな。私が店の客だと見抜いたか」

?? 「ともあれ、すまない。先に名乗るべきだったな。名刺をあげよう」

?? 「こういう者だ。以後お見知りおきを」

あすみ 「……? “アイドル事務所 『ジャムレーズン』 社長兼プロデューサー 五反田音羽” さん……?」

?? 「まぁ、“ここ” で名前を出すものでもないだろうから、気軽にプロデューサーと呼んでくれ。アイドルたちからもそう呼ばれている」

マチコ 「……!? ジャムレーズン!? ジャムレーズンってあの、“レーズンデート” の事務所の!?」

あすみ 「有名なのか?」

マチコ 「テレビとか見ないのあしゅみー!? 唯我クンは……ああ、当然のようにクエスチョンマークが浮かんでるね!」

マチコ 「今年メジャーデビューして、人気急上昇中のアイドルユニットだよ!」

あすみ 「お察しの通り、テレビあんまし見ねぇしなぁ」

成幸 「同じく……」

プロデューサー 「手前味噌ではあるが、それなりに有名になったつもりだったが、まだまだみたいだな」

マチコ 「いや、このふたりがストイックすぎるだけなので、お気になさらずに……」

510以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 14:54:34 ID:4bT1U2zI
あすみ 「えーっと、話が読めないんだが……アイドル事務所のプロデューサーさんがアタシに何の御用向きで?」

プロデューサー 「ゆっくり話したいことがある。が、今日はもう遅い。明日あたり、時間をもらえないだろうか」

あすみ 「なんか、えらくもったいぶりますね。べつにアタシとしちゃあ興味もないし、聞く気もないんですが」

プロデューサー 「素の君は随分と弁が立つようだな。ますます興味が湧いたよ」

プロデューサー 「まぁ、隠すことでもないし、一言だけはっきりいうとすれば……」


プロデューサー 「君に光り輝くアイドルのオーラを見た。うちの事務所でアイドルとしてデビューしないか?」


プロデューサー 「……といったところかな。ま、興味があったら明日、電話をくれ。この辺のファミレスででも話をしよう」

プロデューサー 「電話をくれることを期待してるよ。じゃあね」

あすみ 「言いたいことだけ言って行っちまった。結局なんだったんだ?」

成幸 「さぁ、俺にもよく分からないですけど……」

マチコ 「……あ、あしゅみー、す、すす、すごいことになったよ」

あすみ 「あ?」

マチコ 「あしゅみー、アイドルになれるかもしれないんだよ!?」 キラキラキラ

あすみ 「……はぁ?」

511以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 14:55:24 ID:4bT1U2zI
………………

マチコ 「これがレーズンデートのメンバー。四人組だね。リーダーのカトルちゃんと……」

あすみ 「あー、いい。どうせ覚えられないから」

成幸 「なんかメイド服っぽい格好ですね」

マチコ 「いいところに気づいたねえ唯我クン。レーズンデートのモチーフはメイドだからね」

マチコ 「で、これがレーズンデートのPV」

あすみ 「………………」

マチコ 「もう少し楽しそうな顔して観て欲しいかな?」

あすみ 「んなこと言われてもなぁ……」

成幸 「え、えっと、可愛らしい衣装と振り付けですね。歌も上手です」

マチコ 「唯我クンの気遣いが胸に刺さるよ……」

あすみ 「……それより事務所の社長のページ、ほんとにさっきの女の人の写真があるな」

あすみ 「本物かよ。暇なのか、アイドル事務所の社長って?」

成幸 「プロデューサーも兼ねてるって言ってましたから、暇なことはないと思いますけど……」

マチコ 「仕事だと思うよ? 新しいアイドルの発掘もプロデューサーの仕事だろうから」

512以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 14:56:05 ID:4bT1U2zI
あすみ 「それでアタシに目をつけるって……大体、アタシみたいなちんちくりん、テレビ映えしないだろ」

マチコ 「そのあたりは詳しくないから知らないけど……でも、そういうところも含めて、お眼鏡に適ったんだと思うよ?」

あすみ 「これほど嬉しくないことも初めてだけどな……」

マチコ 「えーっ、あしゅみー、アイドル興味ないの!? 女の子だったら誰だって憧れるでしょ!?」

あすみ 「それだとアタシ、女の子じゃないことになるな。まぁ別に構わねぇけど」

マチコ 「唯我クンもそう思うよね!? アイドル憧れたこととかあるよね!?」

成幸 「すいません。俺はそもそも女の子じゃないので分かりません」

マチコ 「かーっ。これだからよー。これだから受験戦争は百害あって一利無しなんだよー」

あすみ 「関係ねーだろ。意味なくやさぐれんな。アタシはアイドルなんぞ興味ない。っつーか、アタシがなりたいのは医者だ」

あすみ 「医者とアイドルなんて方向性が真逆じゃねぇか。アタシには縁のない話だよ」

マチコ 「……えー、でも、もったいないなぁ。あしゅみー、可愛いし、アイドルになれば大人気だと思うけどな」

マチコ 「軽音だってやってたんでしょ? ギターもやれるメイドアイドルとか最高じゃない?」

あすみ 「何がどう最高なのか分からねぇよ。ギターだって趣味程度だ。仕事にする気はない」

マチコ 「……はぁ。せっかくアイドルデビューするあしゅみーの推し一号になれるかも、とか思ったけど、本人にその気がないんじゃ仕方ないね」

あすみ 「ああ。まぁ、気をもたせんのも悪いから、明日断りの電話だけ入れておくさ」

513以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 14:57:20 ID:4bT1U2zI
あすみ 「変なことがあったせいで掃除が長引いちまったな。さっさと帰ろうぜ」

マチコ 「はーい」

成幸 「………………」


―――― 『……今日も一日がんばりましゅみー! 小妖精メイド、あしゅみぃ復活でーっす!』

―――― 『あ、あしゅみーだー! 俺、注文あるからこっち来てー!』

―――― 『はーい、ただいま参りましゅみー!』

―――― 『その次こっち来てねー!』

―――― 『はいはーい。お嬢様もちょっと待っててくださいねー』

―――― 『あしゅみー、あとで愛してるゲームお願い! 今日こそ勝つからねー!』

―――― 『きゃー、今日こそ負けちゃうかもー!』


成幸 (……こんなこと言ったら絶対不機嫌になるから言わないけど、)

成幸 (たしかに、店での先輩を見ている限り、先輩にアイドルってぴったりなんじゃないか?)

成幸 (本人が気にしている通り背は低いけど美人さんだし、顔が小さいから全体のスタイルだって悪くない)

成幸 (……まぁ、絶対本人には言わないけど)

514以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 14:58:06 ID:4bT1U2zI
あすみ 「………………」 コソッ 「……おい、後輩」

成幸 「わっ……き、急に距離を詰めないでくださいよ。びっくりした……」

あすみ 「店で発情してんじゃねーよ、スケベ君。それより、この後暇か?」

成幸 「へ? まぁ、家に帰って勉強するだけですけど……」

あすみ 「じゃあ、悪いけどちょっと付き合えよ。親父がお前を家に連れてこいってうるさいんだよ」

あすみ 「お前のことえらく気に入ったみたいでな。最近じゃあの人お前のこと息子って呼んでるぞ……」

成幸 「待ってください。怖くなってきました。嘘だってバレたらどうなるんですか!?」

あすみ 「……まぁ、そんときゃそんときだ。それに……」

ギュッ

成幸 「!?」 (ち、ちかっ……つか、なんで腰に手を回して……!?)

あすみ 「嘘を本当にするのも、アリかな、なんて……」

成幸 「へっ!? そ、それって……」

あすみ 「……お前、いい加減学習しろよ。冗談だよ」

成幸 「だぁあああああ!! そういう冗談やめろって言ってるでしょーが!」

成幸 「っていうか肉体的接触は冗談でもなんでもないですよ!?」

515以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 14:58:46 ID:4bT1U2zI
あすみ 「怒るなって。帰りにコンビニで肉まんおごってやるから」

成幸 「ごちそうさまです!」

あすみ 「……肉まんひとつで機嫌を直しちまうお前の将来が少し心配だよ」

マチコ 「ほらー、唯我クンもあしゅみーも、じゃれてないで早くかえろーよー」

あすみ 「ああ、悪い悪い。じゃあ行くぞ、後輩」

成幸 「あ、はい。ちょっと待ってください、荷物取ってきます!」

あすみ 「おうよー」

あすみ 「………………」

あすみ (……アイドルかぁ)

あすみ (考えたこともなかったし、そんなことを急に言われたって、全然実感わかねぇよ……)

あすみ (ジャムレーズン、ねぇ……)


―――― 『君に光り輝くアイドルのオーラを見た。うちの事務所でアイドルとしてデビューしないか?』


あすみ 「………………」

あすみ (……いや、光り輝くアイドルのオーラってなんだよ)

516以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 15:00:01 ID:4bT1U2zI
………………小美浪家

あすみ 「………………」

成幸 「………………」

小美浪父 「………………」

プロデューサー 「………………」

あすみ (……なぜだ。なぜ、こんなことになっている?)

あすみ (途中まではなんの問題もなかった。ピザまんと肉まんを買い、後輩と交換こしながら食べたりしたくらいまでは)

あすみ (家に帰ってすぐ、違和感があった。いつもは父の靴しかないはずの玄関に、なぜか女物のパンプスがあった)

あすみ (よもや女でも連れ込んでるのかクソ親父と息巻いて居間に行ったら、ほんの数十分前に会ったうさんくさいプロデューサーの姿がそこにあった)

あすみ 「……いや、あんた明日電話をくれとか言ってなかったか!?」

プロデューサー 「いやー、私も途中まではそのつもりだったんだけどなぁ」

プロデューサー 「社長として、いや、プロデューサーとしての直感で 「あ、こいつ断るつもりだな」 って分かったからさ」

プロデューサー 「先手を打って外堀を埋めるためにおうちにお邪魔しちゃいました」

あすみ 「笑顔でえげつないこと言うなあんた!」

517以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 15:01:30 ID:4bT1U2zI
成幸 「……えっと、とりあえず、俺はお邪魔みたいですから、帰りますね」

ガシッ

成幸 「へ……? 先輩?」

あすみ (……このカオスな空間にアタシひとり置いていくつもりか!?) コソッ

成幸 (そんなこと言われたって、俺にもどうすることもできないですよ!?) コソッ

あすみ (いいから、ここにいてくれるだけでいいから! 頼む……)

成幸 (うっ……そ、そんな顔しないでくださいよ。わかりました。俺もここに残りますから)

あすみ (……悪い。サンキュな、後輩)

プロデューサー 「……ふむ」

プロデューサー 「突然申し訳ないが、その仲睦まじい様子、君たちは付き合っているのか?」

成幸 「はい!? え、えっと……」

小美浪父 「………………」

成幸 「は、はい。付き合ってます……」 (お父さんの手前、この人にもうそをつかなくちゃ……)

あすみ 「そ、そうだ! アタシと後輩は付き合ってるんだ。だからアイドルなんて――」

プロデューサー 「――その点なら安心して欲しい。恋人がいようがなんだろうが、私は構わない」

518以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 15:02:12 ID:4bT1U2zI
あすみ 「は……? い、いや、でも、アイドルって普通、そういうの厳禁なんじゃ……」

プロデューサー 「普通はね。でも、私はべつにそうとは思わない」

プロデューサー 「現に、君とユニットを組んでもらおうと思っているこの写真の子、一ノ瀬一乃というが、」

プロデューサー 「ファンのヨシくんと清く正しいお付き合いをしている」

プロデューサー 「他のファンもそれを理解した上で、ファンでい続けてくれているよ」

あすみ 「いや、えっと……」

あすみ 「お、親父! なんでさっきから黙ってるんだよ! 娘がわけわからんアイドル事務所に勧誘されてるんだぞ!」

あすみ 「親父、あんたこういうの好きじゃないだろ? ビシッと言ってやってくれよ」

小美浪父 「………………」

小美浪父 「……この事務所の中期経営計画を見せてもらった。堅実な経営方針だ」

あすみ 「は……?」

小美浪父 「上場も視野に入れているようだし、何より投資も積極的に行っている。副業の喫茶店経営の方も順調そのものだ」

あすみ 「親父……?」

小美浪父 「……そして何より、娘がアイドル……」 パァアアア 「……パパ、アリかな、なんて思うんだ」

成幸 「お、お父さん……?」 (見たこともないような晴れやかな顔だ……)

519以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 15:03:13 ID:4bT1U2zI
あすみ 「ダメだこの親父! 完全に向こう側についてやがる!!」

あすみ 「ああ、くそ! 誰がなんと言おうとダメなものはダメだ! アタシは、この病院を継ぐって決めてるんだよ!」

あすみ 「アイドルなんかやってられるか! アタシは勉強で忙しいんだよ!」

プロデューサー 「ほう。では、あしゅみーさんはいま、医学部の学生さんということかな?」

あすみ 「っ……」 ギリッ 「まだ、違うけど……」

プロデューサー 「そうか。それはそれで構わない。医者を目指しながらでも、アイドルはやれる」

あすみ 「舐めんな! アタシは、そんな半端な気持ちで何かをやるつもりはない!」

小美浪父 「……なぁ、あすみ」

あすみ 「……なんだよ、親父」

小美浪父 「……なら、本気でやってみたらどうだ?」

あすみ 「なっ……。お、親父、あんた……」

小美浪父 「……色々なことを考えた。お前の将来のことや、この病院のことも」

小美浪父 「お前は、私がどんなに諦めろと言っても、医学部受験を諦めなかったな」

小美浪父 「他の道など考えられないと。他にやりたいことなどないと」

520以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 15:03:49 ID:4bT1U2zI
あすみ 「親父……。何が言いたいんだよ」

小美浪父 「たしかに、他にやりたいことがないのに、適当な進路を目指すのは苦痛だろう」

小美浪父 「なら、アイドルはどうだ? 今まで考えたこともなかった進路が目の前にあるんだ」

小美浪父 「少し考えてみろ。そうやって、そのときの気持ちで感情的になるのは、お前の悪いところだ」

あすみ 「っ……」

小美浪父 「お前、人前で歌ったりするの好きだろう? 高校でも軽音をやっていたじゃないか」

小美浪父 「今だってときどき、ギターの練習をしているのを聞いているぞ」

あすみ 「そ、それは! ただの趣味だよ……そんなの……」

小美浪父 「もちろん、本当のアイドルになるのはとても大変なことだろう。なれる保証もない」

小美浪父 「だが、お前の苦手な理科科目を苦しい思いをして乗り越えて、その先にお前は本当に幸せになれるのか?」

小美浪父 「……なぁ、あすみ」


小美浪父 「……お前は、本当に医者になりたいと思っているのか?」


あすみ 「ッ……!」

小美浪父 「……これはずっと、言おうと思って言えなかったことだ。言ってしまえば、戻れないと思ってな」

521以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 15:04:36 ID:4bT1U2zI
あすみ 「……なんで」

あすみ (なんで、あんたがそんなことを言うんだよ……)

あすみ (なんで……!)


―――― 『……お前は、本当に医者になりたいと思っているのか?』


あすみ (……そんなの)


―――― 『あたし、おとなになったら、このびょーいんのせんせーになる!』

―――― 『お医者さんになるのかい?』

―――― 『うん! それでね、おとーさんのお手伝いするの!』

―――― 『……そうかぁ。嬉しいな。じゃあ、お父さん、お前がお医者さんになるの、楽しみに待ってるよ』


あすみ (そんなの、あんたが一番よく知ってるだろうが!!)

グスッ

あすみ 「ッ……」 ガタッ

成幸 「先輩!? ど、どこに行くんですか!!」

522以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 15:05:26 ID:4bT1U2zI
成幸 「っ……お、お父さん! 今のはいくらなんでも……」

小美浪父 「……なぁ、唯我くん。あすみは本当に国立医学部に入れると思うかい?」

成幸 「そ、そんなの……」

成幸 「やってみなくちゃわからないじゃないですか!!」

成幸 「わからないから、がんばってるんでしょう。わからないから、やるしかないんですよ」

成幸 「少なくとも、先輩はそのために最大限の努力をしていると、俺は思いますよ」

小美浪父 「………………」

成幸 「……すみません。言いすぎました。先輩を追いかけます。失礼します」

タタタタ……

小美浪父 「……と、いうことです。足を運んでいただいたのに、申し訳ない」

プロデューサー 「いえいえ。というか、私のせいで家庭不和を起こしてしまったのなら、謝っても謝りきれないのですが……」

小美浪父 「いや、避けては通れない道ですから。いい機会でした」

小美浪父 「……彼がそばにいてくれるなら、私ももう少し、あすみの自由にさせてあげようかと思います」

小美浪父 「すみません。お引き取りください」

プロデューサー 「わかりました。それでは、失礼します」

523以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 15:06:14 ID:4bT1U2zI
………………公園

あすみ 「………………」

グスッ

あすみ (……情けねぇ。泣き止めよ、アタシ。そんなに弱かねぇだろうが)

あすみ (べつに、アタシは、アタシがなりたいから医者を目指してるだけだ)

あすみ (アタシが、あの医院を継ぎたいから、医者になろうとしているだけだ)

あすみ (親父なんか関係ない。親父のことなんか……)

グスッ

あすみ 「っだー!! ちくしょう! いい加減止まれよー!!」

  「……珍しく荒れてますね。先輩らしくないですよ」

あすみ 「へっ……こ、後輩……?」

ハッ

あすみ 「こ、こっち見んな!」

成幸 「……泣き顔見せたくないのはわかりますけど、今さら見ても見なくても変わりませんからね?」

あすみ 「う、うるせー!」

524以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 15:06:57 ID:4bT1U2zI
成幸 「あと……」

ファサッ

あすみ 「へ……? これ、お前の上着……」

成幸 「さすがに夜は冷えますよ。ノースリーブじゃ寒いでしょ」

成幸 「へくしっ……」

あすみ 「……お前がくしゃみしてるじゃねぇか」

成幸 「俺はいいんですよ。女性が身体を冷やすのはよくないって、医者志望なら知ってるでしょ」

あすみ 「……調子狂うこと言いやがるな。なんだ? 弱ったアタシなら勝てると踏んだか?」

成幸 「先輩と勝ち負けを競った憶えはありませんよ。でも、良かった」

あすみ 「あん?」

成幸 「泣き止みましたね」

あすみ 「ぐっ……」 ジロッ 「なんだ、後輩。今日はえらく調子狂うことばっかり言うじゃねぇか」

成幸 「先輩の方こそ、やけに弱気で調子狂いますよ。お父さんに何も言い返さずに逃げるなんて、らしくない」

あすみ 「……うるせぇ」

525以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 15:07:51 ID:4bT1U2zI
あすみ 「お小言垂れるためにアタシを追いかけてきたのか?」

成幸 「それもありますけどね。“いてくれ” って言ったくせに、自分が逃げ出すし……」

あすみ 「うっ……。それは、悪いとは思ってるけど……」

成幸 「それに、お父さんの手前、追いかけないわけにもいかないでしょう?」

成幸 「俺は、先輩の彼氏なんですから」

あすみ 「っ……」

あすみ (……本当に、調子狂うことばっかり言いやがる)

あすみ 「……お前は、」

成幸 「はい?」

あすみ 「……お前も、アタシにアイドルになれって言うのか?」

成幸 「………………」

成幸 「……まぁ、正直、先輩はアイドル気質っていうか、ぴったりだと思いますけどね」

あすみ 「………………」

成幸 「でも、先輩は医者になりたいんでしょう? あの病院を継ぎたいんでしょう?」

あすみ 「……ああ」

526以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 15:08:35 ID:4bT1U2zI
成幸 「じゃあ、アイドルなんて目指してる場合じゃないでしょう」

あすみ 「え……?」

成幸 「……一次試験も近いんです。気は抜いてられませんよ」

成幸 「早く帰って勉強しましょう? 波の部分、俺がまとめたノート、ちゃんと読んでおいてくださいよ?」

成幸 「せっかくがんばって書いたんだから……」

あすみ 「………………」 クスッ (……そうか。そうだよな。お前は、)

あすみ (……お前は、アタシのことを、よく分かってやがるな)

成幸 「……先輩? 聞いてます?」

あすみ 「聞いてるよ。わかってる。お前がせっかく書いてくれたんだから、ちゃんと読んでおくよ」

あすみ 「……読んでおくから、明日、また勉強付き合ってくれ。すぐ確認したい」

成幸 「いいですよ。さっさと苦手を潰しちゃいましょう」

あすみ 「ああ。頼むぜ、後輩」

成幸 「はい、先輩」

527以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 15:09:15 ID:4bT1U2zI
………………小美浪家

小美浪父 「………………」


―――― 『あたし、おとなになったら、このびょーいんのせんせーになる!』

―――― 『お医者さんになるのかい?』

―――― 『うん! それでね、おとーさんのお手伝いするの!』

―――― 『……そうかぁ。嬉しいな。じゃあ、お父さん、お前がお医者さんになるの、楽しみに待ってるよ』


小美浪父 「……もちろん、覚えているさ」

小美浪父 「覚えているからこそ、お前が昔の約束に縛られているんじゃないかと不安になるんだ」

小美浪父 「私が不用意に言ったことで、お前が不自由な思いをしているんじゃないかと、怖いんだ」

小美浪父 「だから……――」


あすみ 「――関係ねぇよ。そんなの」


小美浪父 「……!? か、帰っていたのか、あすみ」

あすみ 「おう。ただいま」

528以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 15:09:48 ID:4bT1U2zI
あすみ 「………………」

小美浪父 「………………」

あすみ 「……アタシは、べつに、そんな昔のことを引きずってるわけじゃない」

あすみ 「たしかに、きっかけはそれだったかもしれない」

あすみ 「でも、もっと色んなことを考えて、医者っていう進路を選んだんだ」

小美浪父 「あすみ……」

あすみ 「だから、べつにあんたが責任感じる必要はねぇよ。アタシはアタシだ」

小美浪父 「………………」

小美浪父 「……そうか。それもそうだな」

小美浪父 「まぁ、無理だとは思うが、せいぜいがんばりなさい。国立大医学部」

あすみ 「……けっ。後で吠え面かいてもしらねぇからな」

小美浪父 「唯我くんに迷惑をかけるのもほどほどにな」

あすみ 「うるせぇ。……わかってるよ」

529以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 15:10:43 ID:4bT1U2zI
小美浪父 「……ところで、その上着は、唯我くんのか?」

あすみ 「ん……あ、やべ、返すの忘れた……」

小美浪父 「……なぁ、あすみ」

あすみ 「あん?」

小美浪父 「……医学部を目指そうとアイドルを目指そうと何を目指そうといい」

小美浪父 「後生だから、唯我くんだけは離すなよ。私は将来、彼と酒を酌み交わすのを楽しみに今を生きているんだ……」

小美浪父 「ああ、息子よ……」 キラキラキラ……

あすみ 「………………」

あすみ (……悪い、後輩)

あすみ (お前、マジでアタシと結婚することになるかもな)

あすみ (……まぁ、) クスッ (アタシはべつに構わないけど、なんて……)

あすみ (……明日言ってやったら、また顔、真っ赤にするかな)

あすみ (楽しみだな。また明日、後輩と勉強……)

あすみ (あいつ、どんな顔をするのかな)


おわり

530以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 15:11:24 ID:4bT1U2zI
………………幕間 「IDOROLL 受難のスカウト」

プロデューサー 「……もしもし? 一乃か? ああ、悪い。取りそこねたよ、新人」

プロデューサー 「お前と身長的にもぴったりだから、期待したんだけどな」

プロデューサー 「しかも、ギターもやってたっていうし、こりゃ願ったり叶ったりって感じだったんだが……」

プロデューサー 「琴弾をセンターにおいて、お前と新人で両サイドギター……なんて……」

プロデューサー 「……あー、わかってるよ。できるだけ早くメジャーデビューさせてやるから焦るなって」

プロデューサー 「じゃあな。明日の公演もあるんだから、早く寝ろよ?」 ピッ

プロデューサー 「……あしゅみー、かぁ。惜しいなぁ。アイドルやってくれないかなぁ」

プロデューサー 「……まぁ、仕方ない。大人しく次の候補を……――」

トトトトトト……

理珠 「……えっと、次の出前先は……」

プロデューサー 「!?」 (あ、あの小ささに、あの凶悪なブツ……そして和服に眼鏡!? 萌え要素の怪物か!?)

プロデューサー 「き、君! アイドルやらないか!?」

理珠 「は? やりませんけど?」

おわり

531以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 15:15:14 ID:4bT1U2zI
>>1です。
読んでくださった方、ありがとうございました。

興味がある方は、IDOROLLもぜひ読んでみてください。


では、また折を見て投下します。

532以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 16:58:52 ID:r2IFscTc

筆早いっすね

533以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 22:24:01 ID:4bT1U2zI
>>1です。
投下します。


【ぼく勉】うるか 「フルピュアダンスショー?」

534以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 22:24:47 ID:4bT1U2zI
………………水泳部

滝沢先生 「そうなんだ。文化祭でのダンスが好評だったみたいでな」

滝沢先生 「ぜひダンスショーをお前たちにやってほしいと、近くの幼稚園たってのお願いなんだそうだ」

滝沢先生 「近隣の幼稚園や保育園の子どもたちと、地域の子どもたちを集めて、学校で開催するらしい」

海原 「センセー、一応私たち受験生なんですけど」

滝沢先生 「んなことわかってるよ。私だって悪いと思ってるんだ。武元は国体も控えてるしな」

滝沢先生 (学園長め。近隣の幼稚園からほいほい仕事を引き受けてきやがって、)

滝沢先生 (最終的に生徒にお願いするのは私たち教員だって分かってんのか、あの人……)

滝沢先生 「こういう言い方をするといやらしいが、ボランティアの実績にもなるし、推薦書や願書にも書ける」

滝沢先生 「あと、やってくれたら飯くらい奢ってやるよ。だから引き受けてくれ、頼む」

海原 「んー、まぁ、わたしは構わないけど……」

川瀬 「私もだ。先生にここまで言われちゃ、やるしかないっしょ」

滝沢先生 「本当か? 悪い、助かる」

うるか 「………………」

滝沢先生 「武元……? やっぱりお前は、国体もあるし、難しいか?」

535以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 22:26:03 ID:4bT1U2zI
うるか 「へっ? あ、いや、そうじゃなくて、ちょっと考え事してて……」

うるか 「あたしも、やってもいいです。ただ、衣装が……」

滝沢先生 「衣装? 文化祭で踊ったときの衣装が三人分あるだろ?」

うるか 「いや、あれだけだと、主人公のフルピュア・ピンクがいなくてバランスが悪いっていうか……」

うるか 「そもそもフルピュア・ダークネスを含めた四人でフルピュアというか……」

うるか 「あ、いや、もちろんダークネスはまだライバルキャラですけど、気持ちは完全にピンクに傾いているし……」

うるか 「そろそろ正式にフルピュアに加入する気がするんですよね。そうしたら名実ともに――」

滝沢先生 「――ま、待て、武元。お前が何を言っているのか少しも理解できん」

滝沢先生 「ともあれ、私の記憶違いかもしれんが、ピンク色の衣装も文化祭の予算で買っていたはずだが……」

うるか 「……あー、えっと……桐須先生が着て……」

滝沢先生 「着て?」

うるか (……破いちゃったとか言ったらかわいそうだよね……えっと……)

うるか 「……気に入ったって言って、持って帰っちゃいました」

滝沢先生 「………………」

滝沢先生 (……驚いた。桐須先生にそんな趣味があったのか。これは、聞かなかったことにした方がよさそうだ)

536以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 22:30:55 ID:4bT1U2zI
滝沢先生 「……まぁ、なんにせよ三着しか衣装がない上に、踊れるのがお前たち三人だけなら、」

滝沢先生 「三人でやってもらうしかないだろうな」

うるか (……うーん、でもなぁ。ピンクがいないんじゃ、きっと子どもたちもガッカリだよ)

うるか (なんとか手はないかな……)

ハッ

うるか 「あっ……」

滝沢先生 「どうかしたか?」

うるか 「……良いコト思いついちゃいました!」

うるか 「先生、ちょっとあたしに任せてもらってもいいですか?」

うるか 「絶対、かんぺきなフルピュアダンスショーを開いて見せますから!」

滝沢先生 「お、おう。いきなりやる気だな」

滝沢先生 「わかった。お前に任せる。頼んだぞ、武元」

うるか 「はい!」

537以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 22:31:34 ID:4bT1U2zI
………………

うるか 「……っていうことで、お願い、成幸。フルピュア・ピンクの衣装作って?」

成幸 「………………」

ハァ

成幸 「お前なぁ……。俺だって暇じゃないんだぞ?」

うるか 「わかってるよー。でも、他にお願いできる人なんていないしさ」

うるか 「つ、作ってくれたらさ、お礼にまた今度、うちでご飯ごちそうしてあげるし……」

海原 「おー、いつになく積極的ですな、川瀬隊員。お礼にかこつけて家に連れ込もうとしてますしな」

川瀬 「そうですな、海原隊員。というか、すでに一度家に入れたことがある的な発言が気になりますな」

うるか 「も、もー! 海っち川っちうるさい!」

成幸 「……まぁ、お前たちも先生に頼まれて仕方なくってところだろうし、」

成幸 (きっと滝沢先生もあの学園長に振り回されてるだけだろうし、)

成幸 「仕方ない。協力してやるよ。それに、お前の作る料理、本当に美味かったからまた食べたいしな」

うるか 「は、はうっ……///」

538以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 22:32:11 ID:4bT1U2zI
川瀬 「おーおー、甘すぎて砂糖吐きそうだ。なぁ、海原隊員?」

海原 「ほんと、早く付き合っちゃえばいいのに……」

ピロリン

海原 「ん、メール……あ、陽真くんからだっ……」

川瀬 「………………」 (私も早く彼氏作ろう……)

成幸 「ところで、衣装を作るのはいいが、誰が踊るんだ? 当たり前だけど、お前らだけじゃ無理だろ?」

うるか 「ふっふっふ、このうるかちゃんを舐めてもらっちゃ困るぜ、成幸」

うるか 「そんなの、頼める相手なんてひとりしかいないじゃん。今からお願いに行くから、付き合ってよ」

成幸 (あっ、なんか猛烈に嫌な予感がする)

海原 「わたし、ちょっと陽真くんからメール来たから行くね。あとよろしく、うるかっ」

川瀬 「……私もちょっと気分が落ち込み気味だから先帰るわ。あとは頼んだ、唯我」

成幸 「お、お前ら!? ち、ちょっと待て――」

――ガシッ

うるか 「さ、行くよ、成幸!」

ズルズルズルズル…………

539以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 22:32:54 ID:4bT1U2zI
………………職員室

うるか 「ということなんで、先生、また一緒に踊りませんか?」

真冬 「………………」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 (怖え!! 半端なく怖え!!)

成幸 (絶対怒ってる絶対怒ってる絶対怒ってる! 顔がいつもの怒ってる顔だし! なのになんで……)

うるか 「……? 先生? 聞いてます? お留守ですかー? なんちってー」

成幸 (なんでうるかはそれに気づけないんだよぉぉおおおおおお!!)

真冬 「……唯我くん」 ギロリ

成幸 「は、はい!?」 (何で俺を睨み付けるの!?)

真冬 「これはどういうことなのか、もう一度説明してほしいのだけど」

成幸 「せ、説明も何も、俺も今さっきうるかに巻き込まれただけで、詳しくは……」

真冬 「……は?」

成幸 (いや俺を威圧されてもー!?)

540以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 22:33:41 ID:4bT1U2zI
成幸 「えっと……」 コソッ 「先生、嫌だったら断ってもらっても大丈夫ですよ?」

真冬 「そうしたいのはやまやまなのだけれど、」 コソッ

真冬 「学園長からのお願いに付き合わされている水泳部の子たちのことを考えると、そういうわけにもいかないわ」

真冬 「学校側のお願いを聞いている彼女たちの希望なら、できる限り叶えてあげる必要があるもの」

成幸 (相変わらず律儀というか、面倒くさいというか……生きづらそうな人だよな、この人)

真冬 「………………」

真冬 「……あなたが衣装を作るのよね?」

成幸 「え、ええ。一応、その予定ですが……」

真冬 「……わかったわ。引き受けます」

うるか 「!? ホントですか!? ありがとうございます、桐須先生!」

真冬 「ただし、ボランティアとはいえ、手をぬくことは許されないわ」

真冬 「あなたたちの振り付けまですべて私がコーチします。いいですね?」

うるか 「願ったり叶ったりです! よろしくお願いします、先生!」

真冬 「え、ええ……」 (……普通の生徒であれば、怖じ気づくところだというのに、)

真冬 (武元うるかさん。不思議な子だわ)

541以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 22:34:14 ID:4bT1U2zI
成幸 「先生、本当に引き受けちゃっていいんですか?」

真冬 「仕方ないでしょう。私だって気乗りはしないけれど、生徒だけにやらせるわけにもいかないわ」

真冬 「それに、子どもたちのことを考えれば、ピンクが必要というのも分かる話だわ」

真冬 「キャラクターが欠けるというのは、どうであれ子どもたちが気にする要因になりかねないもの」

成幸 「先生がいいならいいんですけどね……」

真冬 「それより、」

コソッ

真冬 (後で時間をちょうだい。約束よ)

成幸 (へ……? べつにいいですけど……)

542以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 22:35:00 ID:4bT1U2zI
………………放課後 真冬の家

真冬 「……こ、これでいいかしら?」

成幸 「……は、はい……」

真冬 「へ、変な顔をしないでもらえるかしら? 私だって恥ずかしいのだから……」

成幸 「すみません……。じゃあ、行きますよ?」

真冬 「ええ」

スッ

真冬 「んっ……あっ……」

成幸 「へっ、変な声、出さないでください……」

真冬 「ごめんなさい。こんなの、初めてだから……」

成幸 「俺だって初めてですよ……」

成幸 (こんな……)


成幸 (女性の部屋で女性の採寸をするなんてー!!)


成幸 「っていうか大体のサイズ分かりますよね!? 何でわざわざ採寸するんですか!?」

543以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 22:36:12 ID:4bT1U2zI
真冬 「そんなの決まっているでしょう?」

真冬 「もしも幼稚園でのダンスショー中に衣装がはじけ飛んだりしたら……」

ガタガタガタガタ……

真冬 「私は間違いなくクビだわ……」

成幸 「あ、ああ、なるほど……」

成幸 (文化祭のとき、衣装がはじけ飛んだことがよっぽどショックだったんだな……)

成幸 「……ん、肩幅は終わったので、次、腕の長さを測ります」

真冬 「ええ。お願いするわ」

成幸 (桐須先生、ジャージは身につけてるけど……)

成幸 (丈を計るってことは、否応なしに身体に触れることになるわけで……)

真冬 「あっ、ん……」

成幸 (先生は先生で俺の指が触れるたびに変な声を上げるしー!)

544以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 22:37:17 ID:4bT1U2zI
成幸 「これ俺じゃなくてもいいですよね!? うるかにやってもらったら良かったじゃないですか!」

真冬 「愚問。あなたが裁縫をするのだから、あなたが採寸すれば私の丈を知るのはあなただけになるじゃない」

成幸 「理屈は分かりますけどね……」

真冬 「それに、武元さんに私の色々なサイズを知られるのは、少し怖いし……」


―――― 『それにせんせー……すっごいいい体してましたしっ! マジソンケーですっ!!』


真冬 「っ……」 ブルッ

成幸 (一体うるかとの間に何があったのだろうか……)

成幸 「……っと、ほとんど丈を計り終えましたけど、スリーサイズは――」

真冬 「――は?」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!

成幸 「当たり前ですけど俺が測るわけないですよね。すみません、失言でした」

真冬 「……スリーサイズは私がメモしておくわ。後で見てちょうだい」

成幸 「えっ……で、でも、それだと俺が先生のスリーサイズを知ることに……」

真冬 「し、仕方ないでしょう! 衣装がはじけ飛ぶよりマシだわ……」

545以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/14(日) 22:38:02 ID:4bT1U2zI
成幸 「わかりました。じゃあ、スリーサイズも頂きますけど……」

成幸 「天地神明に誓って、衣装作り以外には使いません!」

真冬 「ふ、不潔! 私の体のサイズを衣装作り以外の何に使うと言うの!?」

成幸 「ち、違います! そういう意味で言ったわけじゃありません!」

真冬 「……オホン。では、衣装作り、よろしくね。あなたの勉強時間を取ってしまって恐縮だけど……」

成幸 「いやいや、先生こそ、忙しいでしょうに、うるかのお願いを聞いてくれてありがとうございます」

成幸 「本当に、先生って実は生徒想いで優しいですよね」

真冬 「っ……。あまり変なことを言わないでくれるかしら? 不愉快だわ」

成幸 「不愉快って……」

成幸 (生徒想いって言われて不愉快に思う先生もなかなかいないだろうなぁ……)

成幸 (まぁ、照れ隠しってわかるからいいんだけど)

真冬 「さっそく明日からダンスの練習ね。振り付けをしっかり覚えておかないと……」

成幸 「へ? 振り付けはうるかたちと明日覚えるんじゃ……」

真冬 「それは生徒側のことでしょう? 生徒が覚えるときに教師も一緒に覚えるなんてお話にならないわ。教師は先んじて覚えておくのが筋でしょう?」




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