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【ぼく勉】小美浪先輩「この前は本当に悪かった」成幸「はい?」

1以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/10(月) 23:23:54 ID:w/7Zs4bc
………………海での一件から数日後 予備校

成幸 「なんです、藪から棒に」

小美浪先輩 「いや、メールでも謝ったけど、これだよ。ほれ」

成幸 (紙袋? 中身は……)

成幸 「あっ……ああ。これ、海で貸したシャツですね」

小美浪先輩 「いや、ほんと悪かったな。返すの忘れて先に帰って」

小美浪先輩 「メールでは大丈夫だったって言ってたけど、本当に大丈夫だったのか?」

成幸 「えっ、あー……」

成幸 (……帰りに乗せてもらった桐須先生の車の運転は、正直全然大丈夫ではなかったけど、)

小美浪先輩 「? 後輩?」

成幸 (それをこの愉快的な先輩に話したら、また桐須先生をからかうネタにしかねないし)

成幸 (わざわざ言うことではないな。よし)

小美浪先輩 「おーい、こうはーい。どうしたー?」

成幸 「……すみません。大丈夫でしたよ。海の家ですぐに新しいシャツを買えましたし」

小美浪先輩 「そ、そうか……」 ホッ

371以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/07(日) 20:48:55 ID:N1TkqDFg
真冬 「そもそも、ハウスクリーニングを頼むくらいの部屋だもの」

真冬 「本来であれば、金銭の授受が発生する類いのものだわ」

真冬 「私と君は利害関係者。そういったことはできないわ」

真冬 「私は、君が生徒であるのをいいことに――」


成幸 「――お金の代わりに、勉強を教えてくれてるんですよね」


真冬 「えっ……?」

成幸 「先生くらい教えるのが上手な人に個人授業をしてもらえるんです」

成幸 「同じ事を予備校でしようとしたら、いくら取られるかわかりませんよ」

成幸 「でも、俺は先生にお金を払うわけにはいかないから、代わりに部屋の掃除をしてあげているんです」

真冬 「………………」

成幸 「……あっ、えっと……先生がお金の話をするなら、俺の方もそういう風に捉えられるかなー、って……」

成幸 (……表情が読めない。ひょっとして怒ってる……?)

372以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/07(日) 20:49:35 ID:N1TkqDFg
真冬 「……生意気」 ボソッ

成幸 「うっ……」

真冬 (でも、それ以上に、私が教師として未熟すぎる)

真冬 (生徒に、こんなに気遣いをしてもらうなんて……)

真冬 「……でも、実際、あなたの言っているとおりのことを、きっと私はしているのね」

成幸 「……はい。だから、気にしなくていいです。俺はめちゃくちゃ助かってますから」

真冬 「私が教員である以上、そういうわけにはいかないけれど、」

真冬 「……でも、ありがとう。君は本当に優しい子ね」

成幸 (……先生が落ち込んでいるのを、俺にどうにかできるなんて思ってないけど、)

成幸 (少しは気持ちが楽になったかな……?)

373以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/07(日) 20:50:17 ID:N1TkqDFg
成幸 「あ、ところでケガはどうですか?」

真冬 「ん、血は止まったみたいね。ぱっくり切れていたから心配していたけど」

真冬 「君の処置のおかげで、このままふさがりそうだわ」

成幸 「それは何よりですけど、俺がいないときにケガしたらどうするんですか」

成幸 「止血くらい自分でできるようになってくださいね」

真冬 「うっ……。ぜ、善処するわ」

成幸 「あと、今日はシャワーくらいにしてくださいよ。お風呂に入って傷が開いたら目も当てられないですから」

真冬 「わ、わかってるわ。私だって早く治したいもの」

成幸 「カッターの傷はきれいに塞がりますから、大丈夫ですよ。極力傷が動かないようにしてくださいね」

成幸 「……早く治してあげないと、彼氏さんにも悪いですから」

真冬 「……? 彼氏?」

成幸 「へ……? あ、いや……」

成幸 (し、しまった。口が滑った……)

真冬 「彼氏とは、一体何を指しているのかしら、唯我くん?」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

374以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/07(日) 20:51:08 ID:N1TkqDFg
成幸 「い、いや、あの……」

成幸 「……小美浪先輩から、桐須先生には部屋を掃除しに来てくれる男性がいると、聞いたもので」

真冬 「部屋を掃除しに来てくれる男性……?」


―――― 『愚問ね 私にだって……その……』

―――― 『部屋に来て掃除をしてくれた男子くらいいるわっ』


真冬 「……あ、あのときの電話!? いや、それは、売り言葉に買い言葉というか……」

真冬 (というか、その男子って……)

成幸 「?」

真冬 (あなたのことよ! ……なんて言えるわけないわね……)

真冬 「……オホン。それは、小美浪さんの勘違いよ」

成幸 「勘違い?」

真冬 「ええ。勘違いよ。部屋を掃除に来てくれる男子なんて、あなた以外いないわ」

375以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/07(日) 20:51:53 ID:N1TkqDFg
成幸 「そ、そうですか……」

ホッ

成幸 (……ん? 何で俺、安心してるんだ……?)

真冬 「ただ、ここで勘違いをしてほしくはないのだけど、」

成幸 「? なんですか?」

真冬 「部屋を掃除してくれる人はあなた以外いないだけであって、」

真冬 「彼氏がいるかいないかについては、何も明言をしてはいないのよ。勘違いしないでね」

成幸 「……あ、はい。わかりました」 (彼氏、いないんだ……。悪いこと言っちゃったな)

成幸 (っていうか、やっぱり面倒くさいなこの人……)

成幸 「でも、小美浪先輩は何でそんな勘違いをしたんでしょうね?」

成幸 「先輩は、桐須先生から電話で聞いたって言ってましたけど……」

成幸 「今度確認してみようかな……」

真冬 「や、やめておきなさい! きっと大した理由なんてないわ!」

真冬 (あの小賢しい小美浪さんのことだもの)

真冬 (唯我くんから変な話を聞いたら、私が誰のことを言っていたのか察してしまうかもしれない)

376以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/07(日) 20:52:42 ID:N1TkqDFg
成幸 「そうですか? でも……」

真冬 「い・い・か・ら、やめておきなさい」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

真冬 「あなたは受験生なんだから、余計なことは考えず、勉強に集中しなさい」

成幸 「は、はい……」

成幸 (……でも、そっか。先生、そういう相手、いないんだ)

成幸 「……じゃあ、また俺が掃除に来ないといけないですね」

真冬 「むっ……失敬。私だって、いつまでもあなたのお世話になる気はないわ」

真冬 「見ていなさい。今度は、私ひとりの力で綺麗にした部屋に招待してあげるわ」

成幸 「いや、その前にもう汚くしないでください」

真冬 「………………」 プイッ 「……わかっているわ」

成幸 (……っていうか、分かってるのかな)

成幸 (掃除もないのに先生の家にお邪魔しちゃったら……それこそ、)

成幸 (ただ先生の家に俺がひとりで遊びに行くってことになっちゃうんだけど……)

377以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/07(日) 20:53:43 ID:N1TkqDFg
真冬 「………………」

真冬 (……君は、いつでも、私が困っているときに来てくれる)

真冬 (今日だって、部屋がぐちゃぐちゃになってしまって、)

真冬 (現実を直視できずに外に出たら、君に出会った)

真冬 (……心のどこかで、君が来てくれるんじゃないか、なんて思っていたら、君が現れた)

真冬 (家に虫が出たときも、美春が突然帰ってきたときも、同じ)

真冬 (どうして君は、私が困り果てているときに、私の前に現れてくれるのかしら)

成幸 「……まぁ、困ったときはお互い様ですから」

真冬 「えっ……?」

成幸 「また何か困ったことがあったら、協力しますから」

成幸 「まぁ、先生の立場上、それを受け入れるわけにはいかないんでしょうけど、」

成幸 「でも、先生に勉強を教わるのを期待して、先生のお手伝いをしているだけですから」

真冬 (……うそよ。だって、あなたは何の見返りも求めず、私を助けてくれるもの)

真冬 (あなたがそうやって優しいうそをつくから、私は)

真冬 (いけないことだと分かっていながら、あなたに甘えてしまうのよ)

378以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/07(日) 20:54:27 ID:N1TkqDFg
真冬 「……また今度、勉強を教えてあげるわ」

成幸 「えっ」

真冬 「勘違いしないでちょうだい。ただ、約束を履行するだけよ」

真冬 「……先日のお礼のうな重は、まだ奢っていないから」

成幸 「ああ……」

真冬 「そのときは、あなたがしっかりと勉強に集中できるように、部屋をきれいにしておくから」

真冬 「だから、また……」

真冬 (……家に来なさい、なんて、教師として絶対に言うことはできない)

真冬 (次に家に来る日取りを決めるなんてそれこそ論外)

真冬 (だから、こんな言い方しかできない。言い方はどうでも、私は教師として間違ったことをしている)

真冬 (でも、私は……)

379以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/07(日) 20:54:59 ID:N1TkqDFg
成幸 「……わかりました」

成幸 「では、また明日、学校で。桐須先生」

真冬 「ええ。また明日、学校で」

成幸 (俺が、なんとなく、このマンションの前を通りかかったときに、)

真冬 (私が、なんとなく、マンションの前でたたずんでいたときに、)

成幸 (勉強を教えてもらうために、)

真冬 (約束を果たすために、)

成幸 (また “今度”、“ここで”)

真冬 (……また “今度”、“ここ” で。唯我くん)



おわり

380以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/07(日) 20:55:55 ID:N1TkqDFg
………………幕間1 めぐりあいマンション前

成幸 「………………」

ピキューン!!!

成幸 (……また桐須先生がヘルプを必要としている気がする!)

うるか 「? 成幸のおでこなんで光るの? すっごーい!」



………………

グチャァ……

真冬 「……またひどい惨状になってしまったわ」

ピキューン!!!

真冬 (!? 五分後に唯我くんが家の前を通りかかる気がするわ! 急いで外へ……)

真冬 (……って私はそれでいいの!? 教師として以前に人間として!) ズーン



おわり

381以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/07(日) 20:57:28 ID:N1TkqDFg
………………幕間2 校舎裏

成幸 「……ってことがあってさー」

文乃 「うん。君と桐須先生は付き合いたてのカップルなのかな?」

成幸 「なんで?」

文乃 「純粋に疑問しか浮かんでいないその顔に怒り心頭だよ」

ギリギリギリギリ……

文乃 「……っていうか胃が猛烈に痛いから一発たたくね?」

成幸 「なんで!?」



おわり

382以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/07(日) 21:01:28 ID:N1TkqDFg
>>1です。
読んでくださった方、ありがとうございます。
感想や乙、とても嬉しいです。個別レスしませんが、ありがとうございます。

また投下します。

383以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 00:38:20 ID:wsCAEQkk
おつおつ

384以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 20:56:17 ID:dqC8eIGA
>>1です。
投下します。


【ぼく勉】文乃 「カレ? もう食べちゃったけど?」

385以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:03:20 ID:dqC8eIGA
………………水希の誕生日から数日後 図書館

うるか 「た、食べちゃったって……///」

理珠 「食べた!? どういうことですか!?」

文乃 「? ふたりとも、一体何をそんなに驚いているの……?」

うるか (そりゃ驚くよー! 文乃っちがそんなに大胆だったなんて……///)

理珠 (そりゃ驚きますよ! 食べたって……人間を食べたということですか!?)

うるか (友達として言ってあげた方がいいのかな……。もっと自分を大事にしてよ、とか……)

理珠 (友達として言ってあげた方がいいのでしょうか。人を食べるのは犯罪ですよ! と……)

うるか 「い、一体どこで食べちゃったのかな……?」

文乃 「えっ? えっと……」

文乃 (……!? しまった! よく考えたら、この二人に唯我くんと一緒にうちでカレーを作って、)

文乃 (あまつさえ唯我家でご家族と一緒に美味しくいただいたなんて、口が裂けても言えないよ!)

文乃 「あー、えっと、うちで作って、(唯我くんの)うちで美味しくいただいたよ……?」

文乃 (う、うそはついてないよね……?)

386以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:05:09 ID:dqC8eIGA
理珠 「家!? 家で、た、たた、食べてしまったのですか!?」

うるか (自分の家に連れ込んで、食べちゃったとか……えっちすぎるよ、文乃っち!) カァアア……

理珠 (も、もも、もう、文乃の家には行けませんね。絶対呪われます……) ガタガタガタ……

文乃 (こ、これ以上話を続けたらボロが出そうだよ! 話を変えないと……)

文乃 (うぅ、でもふたりにうそをついてるみたいで罪悪感が……)

うるか (ふ、文乃っち、目が泳いでる……)

理珠 (今さら、言ってはまずいことを言ったと気づいたのでしょうか……)

うるか (だ、大丈夫だよ、文乃っち。あたし、友達のこと言いふらしたりしないから!)

理珠 (だから、口封じだけは勘弁してください!)

うるか (けど、後で成幸にだけは相談しておかないと……)

理珠 (唯我さんなら、きっとなんとかしてくれるはず……)

387以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:05:50 ID:dqC8eIGA
成幸 「おー、全員そろってるな」

文乃 「あっ、唯我くん!」 (助かった……)

理珠 「唯我さん!」 (助かりました!)

うるか 「成幸!」 (助かった!)

成幸 「遅れて悪いな。ちょっと和樹と葉月に捕まっちゃってさ……」

成幸 「……って、どうしたんだ、お前ら。武元は顔が赤いし、緒方は逆に青いし、古橋は汗ダラダラだし」

成幸 「大丈夫か?」

文乃 (……誰のせいでこうなってるのか分かってるのかなこの野郎)

うるか 「だ、大丈夫だよ。ちょっと動揺しちゃっただけで……」

理珠 「私も、大丈夫です。ちょっと驚いてしまって……」

文乃 「わたしは、ちょっと胃が痛くてさ……。胃薬飲んでくるね?」

理珠 「!?」 (や、やはり人間の肉は食用でないから、胃に負担が……!?)

388以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:06:46 ID:dqC8eIGA
………………

カリカリカリ……

成幸 「………………」 (みんな体調悪そうだったから心配したけど、)

成幸 (見る限りちゃんと勉強に集中できてるな)

成幸 (まぁ、全員やりたいことをやるためにがんばってるんだもんな。当たり前か)

うるか 「……ね、ねえ、成幸。ちょっと分からないところがあるんだけど」

成幸 「ん? どこだ?」

スッ

『今日、勉強が終わった後、文乃っちに内緒で相談したいことがあるんだケド』

『みんなと別れた後、もう一回会ってもらえる?』

成幸 「へ……?」 (な、なんでノートにメッセージを書いたんだ……? 古橋に内緒ってどういうことだ?)

うるか 「………………」

成幸 (……ああ。わかった) コソッ

うるか (……ありがと)

389以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:07:46 ID:dqC8eIGA
理珠 「唯我さん、次いいですか?」

成幸 「お、おお、なんだ、緒方?」

理珠 「参考書を取りに行きたいのですが、大変遺憾ながら私の身長では届かない高さにあるものもあります」

理珠 「付き合っていただけますか?」

成幸 「ん、ああ。いいけど……」

理珠 「ありがとうございます。では、行きましょうか」

成幸 (参考書……? 現代文読解の元の小説でも見たいのか?)

理珠 「………………」

ピタッ

理珠 「……この辺でいいでしょうか。文乃には聞こえませんね」

390以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:08:39 ID:dqC8eIGA
成幸 「ん? どうしたんだ? ここ、図鑑のコーナーだぞ?」

理珠 「少しうそをつきました。すみません。どうしても、文乃に内緒で唯我さんとお話したかったので」

成幸 「古橋に内緒? 一体……」

理珠 「今はあまり時間がありません。文乃に不審がられる前に戻らなければ」

理珠 「今日、夜、うちに来てくれませんか? 相談したいことがあるんです。うどんをごちそうしますから」

成幸 (今日は武元といい緒方といいどういうことだ? わけがわからんな……)

成幸 (とはいえ……)

理珠 「………………」 ガタガタガタ……

成幸 (未だに青い顔をしているこいつを放ってはおけないか……)

成幸 「わかった。閉店直前くらいの時間に行くよ」

理珠 「あ、ありがとうございます! 助かりました……」

理珠 「私ひとりでは、あまりにも荷が重すぎることだったので……」

理珠 「では、夜、お店で待っています」

391以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:09:54 ID:dqC8eIGA
………………勉強後 図書館前

うるか 「成幸ぃ-!」

成幸 「ん……。武元意外と早かったな」

うるか 「ごめんね、待たせて。ありがとう」

成幸 「いいよ。俺はお前たちの教育係だからな」

成幸 「……で? 古橋に内緒で相談したいこと、ってなんだ?」

うるか 「……うん。それなんだけどね……」

うるか 「絶対に文乃っちに内緒だよ? 相談って言うのは、文乃っちのことなんだけど……」

うるか 「あ、あのね……文乃っちがね……すごく、こう、性についてホンポーみたいなの」

成幸 「………………」

成幸 「……は?」

うるか 「だ、だから、文乃っちがね……できたばっかりのカレと……エッチナコト……しちゃったみたいなの!」

成幸 「ぶっ……! お、お前、何言って……///」

うるか 「あたしだってこんなこと言うの恥ずかしいんだよー! バカー!」

392以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:10:53 ID:dqC8eIGA
………………

成幸 「……なるほど。話は分かった」

成幸 「つまり、古橋は、できて間もない彼氏と……ゴニョゴニョ……というわけだな?」

うるか 「う、うん……///」 プシュー

成幸 「お前が照れるな! 俺だって恥ずかしいんだ!」

成幸 「……オホン。で、武元はそんな古橋に、自分をもっと大事にしてほしいと思っている、と」

うるか 「うん……」

成幸 「………………」

成幸 「……何で俺に相談した!? どう考えたって俺にどうこうできるわけねーだろ!?」

うるか 「成幸ならなんとかしてくれると思ったんだもん! キョーイク係だし!!」

成幸 「うっ……た、たしかに俺はお前たちの教育係だが……」

成幸 「……はっ、ま、待てよ……」

成幸 「もしも、古橋が不純異性交遊にかまけてしまったら……」

393以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:11:37 ID:dqC8eIGA
ポワンポワンポワンポワン……

成幸 『お、おい、古橋。どこに行くんだよ。今日は勉強の約束だろ?』

文乃 『ええー? だって、勉強ってつまんないんだもーん』

成幸 『つまらないってお前、お前の夢のために必要なことだろう?』

文乃 『そんなことどうでもよくなっちゃったー。今が楽しければいい、みたいなー?』

成幸 『語尾を伸ばすな語尾を! 文学の森の眠り姫だろ、お前!』

文乃 『しらなーい』

prrrr……

文乃 『あっ、○○くーん? 文乃さびしいよー。早く会いたいよー』

文乃 『オッケー。じゃ、いつもの場所ね。会えるの楽しみー』

成幸 『お、おい!? 古橋! どこに行くんだ古橋!』

ポン

学園長 『……唯我くん。君のVIP推薦は、なしだ』

成幸 『そ、そんなー!?』

……ポワンポワンポワンポワン

394以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:12:18 ID:dqC8eIGA
成幸 「いかん! それはすごくいかんことだぞ!!」

成幸 「教えてくれてありがとう、武元。古橋のことは俺に任せろ!」

うるか 「な、成幸ぃ……」 キュン

うるか (やっぱり成幸は頼りになるなぁ……)

キュンキュン

うるか (成幸に相談してよかった……っ)

うるか 「成幸……。文乃っちのこと、よろしくね」

成幸 「ああ。なんとしても、古橋に不純異性交遊をやめさせてみせる!」

成幸 (俺のVIP推薦のために……!!)

成幸 「………………」

成幸 (……あと、純粋に古橋のことも心配だし)

成幸 (あいつ、父親との関係も微妙みたいだし、いつも家でひとりみたいだし……)

成幸 (きっと、寂しいんだろうな……)

395以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:13:01 ID:dqC8eIGA
………………緒方うどん

ガラッ

成幸 「こんばんはー」

理珠 「あっ! 唯我さん!」

パタパタ……

成幸 (……駆け寄ってくる着物緒方……小動物みたいだ)

理珠 「待っていました。今日は夜にご足労いただいて、すみません」

成幸 「いや、いいよ。俺はお前たちの教育係だからな」

成幸 「……で、相談って一体なんだ?」

理珠 「……ゆっくり話します。とりあえず、うどんを一杯どうぞ」

396以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:13:52 ID:dqC8eIGA
………………

理珠 「……事の始まりは、先日文乃から送られてきた、このメールです」

成幸 「メール……?」


―――― 『りっちゃんお願い!』

―――― 『美味しいカレの作り方教えて!』


成幸 「美味しい、カレ……?」

成幸 「……? わけがわからないな。カレとは、彼氏のことか?」

成幸 「それにしても、美味しいカレとはどういうことだ? まさか人間を食べるわけでもあるまいし」

理珠 「そのまさかだったのです!」 ガバッ

成幸 「どわっ……ち、近い! 緒方! 近いから!」

理珠 「……あっ/// す、すみません……」

成幸 「い、いや、いいけど……/// で、そのまさかだった、ってのはどういうことだ?」

397以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:14:34 ID:dqC8eIGA
理珠 「……そ、その、文乃は、どうやら、人間を食べてしまったようなのです」

成幸 「………………」

成幸 「は?」

成幸 「……緒方、お前なぁ。冗談でも、言っていいことと悪いことが……」

理珠 「冗談だったらどんなにいいことか……」

グスッ

理珠 「……唯我さんなら、話を聞いてくれると思ったのに……」

成幸 「あっ……な、泣くなよ。俺が悪かったよ。ちゃんと話を聞くから……――」


親父さん 「――センセイ? 人ん家で何人の娘を泣かせてるんだぁ?」


ユラリ

成幸 「うわぁ!? 包丁持って背後に立たないでください!」

成幸 「っていうかこれ以上話をややこしくしないでくれませんか!」

398以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:16:04 ID:dqC8eIGA
………………しこたま親父さんと追いかけっこをした後

成幸 「……では、改めて聞くが、」 ボロボロ

成幸 「古橋は、本当に人を食べたのか?」

理珠 「はい。私はこの耳でたしかに聞きました」


―――― 『ええっ!? できた!? して……その「カレ」はどこに!?』

―――― 『え? もう食べちゃったけど?』

―――― 『えええっ!? だだだ大胆すぎるよ文乃っち!!』


理珠 「文乃は、それをまるで何でもないことのように……」

グスッ

理珠 「……文乃はもう、人間を食べてしまう、恐ろしい喰人鬼になってしまったのでしょうか……」

成幸 「………………」

成幸 (な……なんだとぉーーーー!?)

399以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:17:12 ID:dqC8eIGA
成幸 (いつも冷静な緒方が、泣くほど動揺するなんて……)

成幸 (ま、まずい。このままでは非常にまずい!)

成幸 (さっきの武元の相談とも繋がるぞ!)

成幸 (つまり、古橋は彼氏を作り、武元の言うとおり……ゴニョゴニョ……して、)

成幸 (そして、殺害し、その肉を……)

成幸 (……ありうる)

成幸 (古今東西、人間に仇なす怪物は、性行の後に害意を示すパターンが多い……)

成幸 (神話や伝承にも詳しい古橋はその慣例に則り、……ゴニョゴニョ……してから、彼氏を食べたのだ)

成幸 「……まずい」

成幸 「これはまずいことだぞ、緒方!」

理珠 「……唯我さんなら、グスッ……わかってくれると……エグッ……思ってました……」

成幸 (こんなことが学園長の耳に入ったら……)

400以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:18:14 ID:dqC8eIGA
ポワンポワンポワンポワン……

成幸 『古橋の奴、逮捕されちまったな……』

うるか 『うん……ぐすっ……』

理珠 『うっ……ぐすっ……うっ……文乃ぉ……』

あすみ 『古橋の奴……なんだってこんなバカなことを……っ、ちくしょう!』

真冬 『……これはすべて、教師として私が至らなかったせいだわ』

真冬 『学園長。私は今日限り教職を辞させていただきます』

真冬 『そして、尼寺で一生、失われた命を供養しながら生きていくつもりです』

真冬 『……あなたたちも来る?』

うるか&理珠&あすみ 『『『はい!!』』』

学園長 『………………』

学園長 『うん。唯我くん。君のVIP推薦はなしだ』

……ポワンポワンポワンポワン

401以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:19:04 ID:dqC8eIGA
成幸 (……いやいやいや!! もうそうなったらVIP推薦とかどうでもいいわ!)

成幸 (古橋だけじゃない! みんなが不幸になる!!)

成幸 (そんな未来だけはごめんだ!)

成幸 (『ぼくたちは読経ができない』 がスタートしてしまう!!)

成幸 (って違う!!)

成幸 「緒方……!」

ガシッ

理珠 「ふぇっ……!? ゆ、唯我さん!?」

成幸 「教えてくれてありがとう! あとは俺に任せておけ!」

成幸 「なんとしても、古橋を正しい人の道に戻してやるぜ……!」

理珠 「唯我さん……」 キュン

理珠 「やっぱり、唯我さんに相談してよかった……」 キュンキュン

成幸 「古橋のことは俺に任せておけ。緒方は……」

 『センセイ……センセイ……テメェ、人の娘の手を掴んで……ッ』

成幸 「俺の背後で蠢いている怨霊のような親父さんを頼んだぞ!!」

402以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:21:36 ID:dqC8eIGA
………………帰路

成幸 「……とは言ったものの」

トボトボ……

成幸 「どうしたもんかな。不純異性交遊に加えて食人行為……」

成幸 「俺にどうにかできるとは思えんが……」

成幸 「……だが、俺は古橋の教育係だ。そして、古橋は俺の女心の師匠だ」

成幸 「古橋のために、俺は……」

ザッ……!!!!

成幸 「お前を、なんとしても、正しい道に導いてみせる……!」

成幸 (……とかなんとか勢いで古橋の家の前まで来てしまった)

成幸 (さて、どうするかな……)

403以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:22:15 ID:dqC8eIGA
………………古橋家

文乃 「………………」 カリカリカリ……

文乃 「……ふむ。三角関数っていうのが何のために必要なのか、少しずつ分かってきた気がするよ」

文乃 「単位円に対しての比率っていうのは、早い話が波形のカタチをしめしているんだね」

文乃 (……すごい。三角関数なんて名前を聞くのもいやだったのに、)

文乃 (今はすんなりと感覚で理解できている気がする)

文乃 (……これも全部、唯我くんのおかげかな、なんて)

文乃 (えへへ。唯我くん、きっと喜んでくれるだろうな……)

ピロリン

文乃 「……ん? 唯我くんからメール?」


『夜遅くに悪い』

『今から会えないか?』


文乃 「へ……?」

404以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:23:01 ID:dqC8eIGA
………………

成幸 「悪い。急に家を尋ねてしまって……」

文乃 「本当だよ。夜に女の子の家にお邪魔するなんて、本当なら許されないことだよ」

クスッ

文乃 「……なんて、ね。唯我くんはそんなこと分かってるもんね」

文乃 「何か急ぎの用事があったんでしょ? 上がりなよ」

文乃 「いつも通り、お父さんはいないからさ」

成幸 (いや、それは逆にまずい気もするんだが……)

成幸 (とはいえ、そんなことを言ってる場合じゃないな)

成幸 「悪い。お邪魔します」

文乃 「紅茶でもいれてくるね。部屋で待ってて」

成幸 「お、おう……」

成幸 (本来であれば、家にひとりの女の子の部屋にお邪魔するのはドキドキするものだろうが……)

成幸 (別の意味でのドキドキが止まらないぞ! 俺は生きてこの家から出られるのか……?)

405以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:23:34 ID:dqC8eIGA
………………文乃の部屋

文乃 「お待たせ。お茶どうぞ」

成幸 「あ、ああ。ありがとう……」

文乃 「それで? 今日は一体どうしたのかな?」

文乃 「深刻な顔してるけど、何かあった?」

文乃 「……ひょっとして、りっちゃんやうるかちゃんに関することかな?」

成幸 「っ……」 ビクッ (さ、さすがは古橋だ。もう大体の見当をつけているのか……)

成幸 (なら、もう隠し事をするだけ無駄だな……)

成幸 「……ああ、そうだ。ちょっとそのふたりから相談を受けてな」

文乃 「相談?」

成幸 「ああ。お前に関してのことだ、古橋」

文乃 「……えっ? わ、わたしについて……?」

文乃 (てっきり、恋愛がらみだと思ってたけど……違うのかな?)

406以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:25:01 ID:dqC8eIGA
文乃 「わたし、あのふたりに何かしちゃったかな……」

成幸 「いや、お前が何かをしてしまったのはあいつらにじゃないだろ?」

成幸 「もう、誤魔化すのはやめよう。古橋。俺も辛いんだ」

文乃 「へ? 一体何のことを言っているのかな? 全然分からないんだけど」

成幸 (っ……なぜここでシラを切ろうとするんだ、古橋)

成幸 「俺はもう全部を知ってるんだ。お前が……カレを作り、そして、食べたことを!」

文乃 「………………」

文乃 「……は?」

文乃 (カレ……? ひょっとしてこの前食べたカレーのことかな?)

文乃 (いやいやいや、それはもちろん食べたよ。っていうか君も一緒に食べたよね?)

文乃 (唯我くんが何を言ってるのか皆目検討もつかないんだよ)

407以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:25:45 ID:dqC8eIGA
文乃 「……ええと、なんていうか、それがどうかしたのかな?」

成幸 「なっ……!」

成幸 (あ、当たり前のように認めただと!?)

成幸 (あまつさえ、それを悪びれる様子もなく、人として至極当然のことのように……!)

成幸 (ふ、古橋、お前は……もう……)

成幸 「……もう、戻れないんだな」

文乃 「……?」

ハッ

文乃 (ひ、ひょっとして、唯我くんの家で唯我家の皆さんとカレーを食べたことがふたりにバレた!?)

文乃 (それが元で、わたしはりっちゃんとうるかちゃんに裏切り者と見られている!?)

文乃 (そ、そして、りっちゃんとうるかちゃんはきっとわざと唯我くんをここに寄越したんだ……!)

408以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:26:40 ID:dqC8eIGA
―――― 理珠 『分かっていますね? 文乃?』

―――― うるか 『文乃っち。成幸を家に行かせたから、はっきりして』

―――― 理珠 『私たちとの友情を取るのか!』

―――― うるか 『あたしたちを裏切って、成幸との愛を取るのか!』


文乃 「ち、違うよ! わたしはそんなつもりだったんじゃないんだよ!」

成幸 「な、なんだ、急に……今さらそんなこと言ったって……!」

成幸 「もう、(失われた命は)戻らないだろう! 戻れねえんだよ!」

文乃 「そ、そんな……。わたしはただ、(カレーを)作って、食べただけなのに……」

成幸 「“だけ” なんて、そんなこと言うな!」

成幸 「……それは、とても重要なことだろう! お前にとって……!」

文乃 「!?」

ハッ

文乃 (そうだ……わたしは……)

409以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:27:21 ID:dqC8eIGA
文乃 (……わたしは、唯我くんとカレーを作って……)

文乃 (唯我くんの家で、温かいご家族と一緒に食べて……)

文乃 (とっても楽しかった……嬉しかった……)

文乃 (久々に、“家族” と一緒にご飯を食べているような、気持ちで……)

グスッ……

文乃 「わ、わたし……」

成幸 (な、泣いてる……!? 人の心を失った喰人鬼古橋文乃が泣いている……!?)

成幸 (人間の心を取り戻したのか!?)

ガシッ

文乃 「ふぇっ……!? ゆ、唯我くん……!? なんで、手、握って……?」

成幸 「……何も言うな、古橋。俺はここにいる。お前をずっと待ってるよ」

成幸 「だから安心しろ。(お前が刑務所から戻ってくるのを)俺はずっと待ってるから……」

文乃 「ゆ、唯我くん……」 (わ、わたしを、待っててくれるって……)

文乃 (わたしが、唯我くんの家にお嫁に行くのを、待っててくれるってこと……!?)

410以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:28:07 ID:dqC8eIGA
文乃 「ふ、ふぇぇええええ!? そ、そんな、まだ心の準備が……」

成幸 「……大丈夫だ。ずっと待ってるから」

文乃 (わ、わたしの気持ちが唯我くんに向くのも待ってくれるっていうの!?)

文乃 「唯我くん……」 キュン

文乃 「わ、わたし、わたし……」 キュンキュン

文乃 (か、顔真っ赤だ、わたし……目も潤んじゃってるし……)

文乃 (は、恥ずかしい……)

プイッ

成幸 (……ふぅ。落ち着いたみたいだな)

成幸 (あとは、折を見て自首を勧めればいいか……)

成幸 「……ノドが乾いたな。お茶、いただくな、古橋」

文乃 「あ……う、うん。どうぞ」

成幸 「………………」

ゴクッ

411以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:28:54 ID:dqC8eIGA
成幸 「……ん?」

成幸 「!?」

成幸 (に、苦い!? なんだ、この苦みは……!?)

成幸 (明らかにお茶の苦みじゃない! これは……クスリ!?)

成幸 (まさか、毒か……!?)

成幸 「ふ、古橋、これ……?」

文乃 「……?」

文乃 「!?」 (し、しまった! だよ!)

文乃 (お茶にも溶かせるお手軽ダイエットサプリ、間違えて唯我くんのお茶に混ぜちゃってた!?)

文乃 (……でも、ただでさえ痩せ型の唯我くんがもっと痩せたらって想像したら……)

クスッ……

成幸 「!?」 (わ、笑ってる……! まさか、古橋、お前……)

成幸 (俺を消して、事件の隠蔽と食人を兼ねるつもりか……!?)

成幸 (お前は、俺を騙したのか……?)

412以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:30:17 ID:dqC8eIGA
文乃 「……ふふ、ごめんね、唯我くん」

文乃 「でも、それ害はないから安心して」

成幸 (害はない……? はっ! ひょっとして毒蛇なくて睡眠薬か……!?)

スッ……

成幸 (た、立った……!? お、俺を、どうするつもりだ……!?)

成幸 「ま、待て、落ち着け。話をしよう」

文乃 「? 変な唯我くん。話ならしてるじゃない」

成幸 「ち、違う。やめろ。来るな……」

文乃 「? 大丈夫?」

成幸 「ち、近づくな。来るな。俺が悪かった……だ、だから……」


成幸 「こ、殺さないでくれーーーーー!!」


文乃 「………………」

文乃 「……は?」

413以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:31:10 ID:dqC8eIGA
………………

文乃 「………………」

成幸 「………………」

成幸 「ほんっっっっとうに、申し訳ございませんでした!!」

文乃 「………………」

ツーン

文乃 「……どんなに土下座しようと、わたし、当分きみのこと許すつもりはないから」

成幸 「すまん! 本当に悪かった! ごめん! 今度アイス奢るから!」

文乃 「君の中のわたしはどんだけ安い女なのかな!?」

文乃 「快楽殺人鬼に喰人鬼の汚名まで着せられて、アイスで済まされると思ってるのかな!?」

成幸 「悪かった! ごめん! 本当に! 悪かった!!」

文乃 「………………」

ハァ

文乃 「……もういいよ。怒るのもバカらしくなってきちゃった」

414以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:32:17 ID:dqC8eIGA
成幸 「古橋……」 ジーン 「許してくれるのか……?」

文乃 「まぁ、君が悪いというよりは、変な勘違いをしたりっちゃんやうるかちゃん、」

文乃 「それから、勘違いさせるような誤字をメールで送ってしまったわたしも悪いし」

文乃 「……いや、そもそもわたしにカレー作りの手伝いを依頼したきみが一番悪いのかな?」

成幸 「ごめん!」

文乃 「冗談だよ。もう怒ってないよ」

文乃 「……まぁ、りっちゃんとうるかちゃんは後でちょっとつねろうかなとは思うけど」

成幸 (怖い)

文乃 「でも、唯我くん、君はミステリー小説とかを読むことはないのかな?」

成幸 「へ……?」

文乃 「わたしのことを殺人鬼だと思ってたんでしょ? そんな人の家にひとりで乗り込むなんて……」

文乃 「いわゆる “死亡フラグ” ってやつだよ、それは」

成幸 「いや、まぁ……そりゃ、怖くないって言ったらうそになるけどさ、」

成幸 「古橋なら、話を聞かずに問答無用ってことはないだろうし……」

成幸 「お前が俺のことをどうこうするって、想像できなかったからさ」

415以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:33:06 ID:dqC8eIGA
文乃 「……唯我くん」

文乃 (一応、わたしのことを信頼してくれてたってことでいいのかな?)

文乃 (まぁ、その信頼が “殺されるか否か” ってところが引っかかるところだけど)

文乃 (……でも、君は、人殺しになったわたしを、説得するために来てくれたんだね)

文乃 「……きみは、わたしがどんなになっても、わたしを助けてくれるんだ」

成幸 「へ……?」

文乃 (なんて、ね。いきなりこんな冗談言われても……――)

成幸 「――当然だろ? 俺はお前の教育係だし、お前は俺の師匠だからな」

文乃 「えっ……」

文乃 「あっ……そ、そう?」

文乃 (……そっか)

文乃 (きみは、わたしを助けてくれるんだ……)

カァアアアア……

文乃 (助けて、くれるんだ……)

416以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:33:55 ID:dqC8eIGA
成幸 「じゃあ、いつまでもお邪魔しても悪いし、もうそろそろ帰るな」

成幸 「今日は遅くにアホなことに付き合わせて悪かった。アイスは絶対奢るから」

文乃 「そう? でも、君のお小遣いが少ないのは知ってるから、遠慮しておくよ」

成幸 「む……。最近は勉強しながらバイトできるところを見つけたから、」

成幸 「実は結構余裕があったりするんだぜ? ……まぁ、参考書で消えるけど」

文乃 「でしょ? だから無理しなくていいよ。もう怒ってないし……」

成幸 「……ん、そうだ。今度うちに来いよ」

文乃 「へ……?」 カァアアア…… 「な、何、いきなり……///」

成幸 「晩ご飯ごちそうするよ。って言っても、作るのは水希だけどさ」

成幸 「誕生日のカレー、水希がすごく喜んでくれたみたいでさ、」


―――― 水希 『今度、古橋さんにお礼をしなくちゃね。たっぷり……それはもうたっぷりと……』


成幸 「って言ってたからさ。今度水希のお返しも合わせて晩ご飯、食べに来いよ」

文乃 (それは間違いなく喜んでいる反応じゃないんだけど……)

417以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:34:33 ID:dqC8eIGA
文乃 「……わたし、お邪魔してもいいの?」

成幸 「へ? 当たり前だろ? お前が来ると、母さんも和樹も葉月も喜ぶしな」

成幸 「お前がよければ、ぜひ来てくれよ」

文乃 「………………」

文乃 (……また、ご家族と一緒に、ごはん、食べていいんだ)

文乃 「……うん。ありがとう。ぜひ、ごちそうさせてもらいたいな」

文乃 (……わたし、期待してるんだ)

文乃 (きみが、わたしのことを助けてくれることを)

文乃 (ねえ、唯我くん)

文乃 (……きみは、本当にわたしのことを助けてくれるのかな)

文乃 (唯我くん、わたしは……)

文乃 「……じゃあ、楽しみにしてるね、唯我くん」

成幸 「おう! 任せてくれ、古橋!」

文乃 (……きみに、期待してもいいのかな)


おわり

418以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:35:42 ID:dqC8eIGA
………………幕間  「お礼」

文乃 「……!? な、何このカレー!? とんでもなく美味しいよ!?」

水希 「ふふふふふ、そうでしょうそうでしょう? 腕によりをかけましたから」

水希 「三日ほど煮込み続けました。おかげさまでガスを使いすぎてお母さんに少し怒られました」

文乃 「美味しいよう……美味しいよう……」 グスッ……

水希 「な、涙ぐむほどですか!?」

文乃 「美味しいよう……水希ちゃん、ありがとう……!!」

水希 「べっ、べつに……お礼なんて……」

水希 (お兄ちゃんと一緒にカレーなんか作りやがったあなたに対してのあてつけのつもりの)

水希 「お返しですから、気にしなくていいですよ……」 プイッ

水希 (こ、こんなに喜んでもらえるとは、不覚だわ。少し嬉しい……)

和樹 「おー。文乃姉ちゃんすげー!」

葉月 「水希姉ちゃんを籠絡するなんて、嫁レースを制したも同然だわー!」


おわり

419以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 21:38:31 ID:dqC8eIGA
>>1です。
読んでくださった方ありがとうございます。
そしてごめんなさい。悪ノリをしすぎました。


原作の勘違いコメディ回を目指して書きましたが、くどすぎた気がします。反省しています。
申し訳ないことです。
文乃さんファンの方もごめんなさい。
ただ、書いていてすごく楽しかったです。

あまりコメディコメディしたコメディは得意ではないので、ここまでひどいのは今後ないと思います。


また投下します。よろしくお願いします。

420以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 22:34:41 ID:RhMupaUg
更新頻度高くて嬉しい限りだ

421以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:11:07 ID:RvhuIwbk
シエンタ

422以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:33:12 ID:N3EY2ei2
>>1です。
投下します。


【ぼく勉】理珠 「テレビの取材ですか?」

423以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:34:45 ID:N3EY2ei2
………………緒方家

親父さん 「そうなんだよ、リズたま」

親父さん 「地元ローカルのテレビ番組から電話があってよ。うちを取材したいって」

親父さん 「なんでも、『私たちの街の美味しいお店』って特集を組んでるらしい」

理珠 「美味しいお店、ですか。そう言われてしまえば、引き下がるわけにはいきませんね」

理珠 「受けて立とうじゃありませんか、お父さん」

親父さん 「おう、リズたまならそう言ってくれると思ってたぜ!」

親父さん 「……それでだな。実はリズたまに2つばかり頼みたいことがあるんだが」

理珠 「なんですか? うどんの美味しさを広めるため、私にできることならなんでもしますよ」 フンスフンス

親父さん 「さすが俺の愛娘だ。ありがてえ」

親父さん 「うちのうどんは、テメェで言うのもなんだが絶品だ」

親父さん 「でもな、ただのうどんじゃちっとばかしインパクトに欠けるとも思うんだ」

親父さん 「だから、リズたまには、いま流行の『いんすたばえ』とやらを意識した新メニューを考えてもらいてぇんだ」

理珠 「……『いんすたばえ』……?』」

424以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:35:21 ID:N3EY2ei2
理珠 (……なんということでしょう。お父さんの言っていることが一ミリメートルも理解できません)

理珠 (『いんすたばえ』とは、一体なんでしょうか……)

親父さん 「リズたま? どうかしたかい?」

理珠 「い、いえ。なんでもありません。そのくらいであればお安い御用です」

理珠 「早速明日、新メニューの開発に取りかかろうと思います」

親父さん 「おう! 家の台所は好きに使ってくれて構わねぇから、思う存分やってくれ」

親父さん 「リズたまみたいな頼もしい娘がいて、俺は幸せモンだなぁ……」

理珠 (……引き受けてしまった以上、やるしかありません)

理珠 (新メニュー……なら、)


―――― 『なぁ緒方』

―――― 『ニーズを広げるためにも トッピング類のバリエーションを増やしてみるのはどうだ?』


理珠 (や、やっぱり……文化祭のときのように…… “あの人” に……)

425以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:35:58 ID:N3EY2ei2
………………翌日 緒方家

親父さん 「………………」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 「あー、えっと……どうも、こんにちは、親父さん」

親父さん 「……おう、センセイ。今日は一体、どういった御用向きで?」

理珠 「何を威圧しているのですか、お父さん。邪魔です」

理珠 「お父さんが新メニューの開発をお願いしたのでしょう?」

理珠 「成幸さんにはそのお手伝いをお願いしたんです」

親父さん 「こ、こいつがうちのうどんの新メニュー作りの手伝い……!?」

理珠 「むっ……」

理珠 「成幸さんはすごいんですよ。文化祭のときだって、すごい思いつきで……」


―――― 『恋人…… 恋人だ!!!』


理珠 「ふぁっ……///」 (な、なぜ私は、あのときのことを思い出して……っ)

成幸 「?」

426以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:36:58 ID:N3EY2ei2
親父さん 「ぐぅ……っ」

親父さん 「……まぁ、いい。ただ、覚えとけよ、センセイ」

親父さん 「ハンパなモンを出してきたら、俺はそれを新メニューとして認めたりしないからな」

成幸 「も、もちろんです。仮にもお店の経営に関わることですから」

成幸 「俺だって、全力で手伝いますよ!」

理珠 「……と、いうことで、お父さんは早くお仕事に戻ってください」

理珠 「必ず、お父さんが満足するような新メニューを考えてみせますから」

427以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:37:43 ID:N3EY2ei2
……………………

理珠 「……では、改めて、今日はよろしくお願いします。成幸さん」

成幸 「ああ。ただ、俺は料理とかはからっきしだからな」

成幸 「手伝いって言っても、正直どこまで役に立てるかわからないぞ」

理珠 「心配いりません。成幸さんは新メニューを考えて、試食してくださるだけで大丈夫です」

理珠 「調理はすべて私がやりますから」

成幸 「ああ、それならなんとかなるかな……?」

理珠 「なります。私、成幸さんと一緒なら、きっと良いメニューができると思います」

理珠 「成幸さんと一緒なら、きっと。いいえ、絶対」

成幸 「お、おう。そうか」

成幸 (なんかしらんが、めちゃくちゃ信頼されてる……!)

成幸 (これはヘタなメニューは考えられないぞ! 本気で臨まなくては……!)

成幸 「よし、やるぞ、緒方。まずは――」

理珠 「――はい。まずはこれをどうぞ」

428以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:38:33 ID:N3EY2ei2
成幸 「……!? もうできてるのか!?」

理珠 「はい。以前成幸さんが考えてくれたメニューを作ってみました」

成幸 「以前俺が考えたメニュー……?」

コトッ

理珠 「とろけるチーズとケチャップのピザ風うどんと、」

コトッ

理珠 「たまごで包んだオムうどんです」

成幸 「あっ……」


―――― 『とろけるチーズとケチャップでピザ風……』

―――― 『たまごで包んでオムうどん……』


成幸 「これ、文化祭のとき俺が言った……」

理珠 「はい。実際に作ってみました。食べてみてください」

429以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:39:04 ID:N3EY2ei2
成幸 「ん。じゃあ、まずはピザ風うどんから。いただきます」

成幸 「これは、チーズのまろやかさとケチャップの酸味がうどんに絡まって……」

成幸 「……うん。うまい」

ズルズルズル……

成幸 「ごちそうさま。美味しかったけど、想像がつく味かな」

成幸 「あと、見た目的にインスタ映えとは程遠いと思う」

理珠 「ふむふむ……。なるほど。参考になります」 メモメモ

理珠 (さすがは成幸さんです。『いんすたばえ』 とやらも理解しているのですね)

430以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:39:45 ID:N3EY2ei2
成幸 「次はオムうどんだな。いただきます」

成幸 「薄い味付けのオムレツからバターが香るな。食欲をそそる匂いだ」

成幸 「……うん。薄味のスープにバターが溶けて、うどんにもバターの濃厚さが移ってるな」


成幸 「これも美味しいぞ」

ズルズルズル……

成幸 「ごちそうさま。これも美味しいとは思う」

成幸 「オムレツがふんわり仕上がれば、インスタ映えもするかもな」

成幸 「ただ、作る手間を考えると、一回一回オムレツを作るのはかなり手間だな」

成幸 「親父さんひとりだと厳しいような気がするぞ」

理珠 「ふむ……。たしかに、お父さんひとりでは難しいかもしれないですね」 メモメモ

431以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:40:26 ID:N3EY2ei2
理珠 「ありがとうございます。成幸さんの意見のおかげで、作ってみたものが客観的に見られます」

理珠 「さぁ、どんどんアイディアを出してみてください。私が全部実現しますから!」

成幸 「おう……」

成幸 (正直、うどんを二杯食べてもうおなかいっぱいだが……)

成幸 (こんなにがんばってる理珠の意志を無下にはできない!)

成幸 「よし! がんばって新メニュー開発を成功させるぞ! 緒方!」

理珠 「はい、よろしくお願いします、成幸さん!」

432以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:41:06 ID:N3EY2ei2
………………数時間後

理珠 「………………」 ゼェゼェゼェ……

成幸 「………………」 ゲフッ……

成幸 (……あれから、一体何杯の創作うどんを食べたことだろう)

成幸 (ほぼすべて俺が考案したものとはいえ。間違いなく食べすぎだ……)

成幸 (もうダメだ。これ以上は絶対に入らない。お腹いっぱいとかそういう次元じゃない)

成幸 (それに、緒方ももう限界だ。疲れ果てている……)

理珠 「……うぅ」

成幸 「……? 緒方?」

理珠 「悔しいです。せっかく成幸さんに手伝ってもらっているというのに」

理珠 「ピンとくるうどんが作れません。『いんすたばえ』とやらが何を求めているのか、まったくわかりません」

成幸 「まぁ、それは分からなくもないが……」

成幸 (見た目ばっかり意識して、味が悪くなってしまっては本末転倒だからな……)

433以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:41:56 ID:N3EY2ei2
理珠 「成幸さんにも申し訳ないです。せっかく手伝ってもらったのに……」

成幸 「俺のことは気にするなよ。俺のアイディアが不甲斐ないのが一番悪いんだし」

理珠 「ち、違います! 私がうまく成幸さんのアイディアをカタチにできないのが悪いんです……」

成幸 「! 何を言ってるんだ! 緒方の作るうどんはどれもめちゃくちゃ美味しいぞ」

成幸 「俺がこんなにたくさんうどんを食べられるのは、緒方が作るうどんだからだ」

成幸 「だから、そんなこと言うなよ……」

理珠 「成幸さん……」

成幸 「それにさ、緒方の作る美味いうどんがたくさん食べられるんだから、役得って感じだよ」

理珠 「ふぁっ……、そ、そんなこと、ないですよ。お父さんの作るうどんに比べれば、私なんてまだまだ……」

成幸 「そんなことないぞ? そうでなきゃ、文化祭で1000食完売なんて無理だっただろ」

成幸 「お前の作るうどんは美味しいよ。なんだったら毎日食べたいくらいだ」

理珠 「へっ……?」

成幸 「……ん?」

成幸 「!?」

434以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:42:56 ID:N3EY2ei2
成幸 (一体俺は何を口走ってるんだー!?)

成幸 (これじゃまるで、毎日うどん作ってくれって、ぷ、ぷぷぷ、プロポーズしたみたいに……)

成幸 (ち、違う! 俺はただ、落ち込んでる緒方を元気づけようとしただけで……)

成幸 (勢い余って、アホみたいなことを言ってしまっただけで!)

成幸 (決して、変な意図は……――)

理珠 「――成幸さん」

成幸 「お、おう、なんだ、緒方……」

理珠 「………………」

成幸 (お、怒ってる? 軽蔑されてる? わからん……)

理珠 「……嬉しい、です」

成幸 「……へ?」

理珠 「そんな風に、成幸さんに言ってもらえるのは、すごく、嬉しいです」

理珠 「わ、私も……。成幸さんに、毎日、私の作るうどんを、食べてもらいたい、です……」

成幸 「あっ……え、えっと……」

ドキドキドキドキ……

435以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:43:47 ID:N3EY2ei2
理珠 「………………」

成幸 「………………」

成幸 (まさかのプロポーズ返し!? って違う!)

成幸 (緒方にそんな意図はない! 文化祭のときだって……)


―――― 『私達が2人でお店を出したら』

―――― 『繁盛するかもしれませんね』


成幸 (そう。そうだ。あのときだって、緒方はまるっきりその意味を理解してなかったじゃないか)

成幸 「………………」

カァアアア……

成幸 (バカなのか俺は!? 今そんなこと思い出して一体どうするっていうんだ!?)

理珠 「……成幸さんは、文化祭のときのことを覚えていますか?」

成幸 「へ……!? そりゃ、もちろん覚えてるけど……」

成幸 (っていうか今まさにそれを思い出してしまって心中穏やかじゃないんだけど!)

436以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:44:19 ID:N3EY2ei2
理珠 「私、あのとき、本当に嬉しかったんです」

理珠 「文化祭でうどん1000食完売しなくちゃいけないことになって、」

理珠 「私はどうしたらいいか分からなくなってしまって……」


―――― 『よし! とにかく……「できない」と思わないことから始めよう!』

―――― 『俺も手伝うからさ』


理珠 「あのとき、もう無理だとあきらめそうになった私に、成幸さんが声をかけてくれたから」

理珠 「本当に、たくさんたくさん、手伝ってくれたから……」

理珠 「……私達の作るうどんを、たくさんの人に美味しいと言って食べてもらえた」

理珠 「私は、それが本当に嬉しかったんです」

理珠 「だから、私……もしも、私がうちのお店を継いだら、」

理珠 「毎日、成幸さんにサポートしてもらえたら、って……」

理珠 「す、すみません。変なこと言ってますね。忘れてください」

437以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:45:06 ID:N3EY2ei2
成幸 「緒方……」

理珠 「成幸さん……」


  「……えらく楽しそうじゃねぇか、ええ? センセイ?」


成幸 「ひっ……!? お、親父さん!?」

親父さん 「……それで?」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

親父さん 「肝心の新メニューの方はどうなったのかねぇ、センセイ?」

成幸 「あっ、いや、それは……」

成幸 「まだ……」

親父 「まだぁ……!?」

理珠 「お父さん、違います。成幸さんは色々と考えてくれました」

理珠 「私が、成幸さんのアイディアをうまくカタチにできないから……」

理珠 「文化祭のときだって、成幸さんのアイディアでうまくいったのに」

成幸 「緒方……」

438以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:46:06 ID:N3EY2ei2
親父さん 「………………」

親父さん 「文化祭のときの話はリズたまから聞いたよ」

親父さん 「何でも、リズたまのために方々を駆け回って宣伝し、」

親父さん 「最後の最後までうどんの完売のために尽力してくれたって話じゃねぇか」

成幸 「いや、そんな……。娘さんとクラスメイトのみんなががんばったからであって、俺は別に……」

親父さん 「リズたまが今日お前さんを連れてきたとき、お前さんならもしかしたら、とも思ったんだ」

親父さん 「普段は悔しいから言わねぇが、これでも俺はおめえのこと信頼してんだぜ?」

成幸 「親父さん……」

親父さん 「手間ぁ取らせて悪かったな、センセイ。あとはこっちでやらせてもらうことにするぜ……」

親父さん 「せめて、『いんすたばえ』とやらの意味がわかればなぁ……」

成幸 「……えっ」

成幸 (……ま、まさか、この父娘)

成幸 (インスタ映えの意味がわかってない!?)

439以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:46:49 ID:N3EY2ei2
成幸 「……緒方、念のため確認するが、インスタ映えの意味って分かるか?」

緒方 「それが分かっていたら苦労はしていません……」

成幸 「なるほど」

ガクッ

成幸 「……なるほどなぁ」

緒方 「ど、どうしたんですか、成幸さん」

成幸 「……なぁ、緒方。文化祭の最後で作った、あのうどんを作ってもらってもいいか?」

緒方 「えっ、それって……あの、もみじおろしと大葉を使ったうどんですか?」

緒方 「でも、あんなの、ただのうどんに具を乗せただけで……」

成幸 「いいから、ちょっと作ってみてくれ」

440以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:47:23 ID:N3EY2ei2
………………

緒方 「できました」

親父さん 「ほーぅ。これが文化祭の最後に作ったってぇうどんか……」

成幸 「今からおふたりにインスタ映えというものについて説明します」

成幸 「とはいえ、言葉だけでは伝わりにくいと思いますから、見ていてください」

パシャッ

成幸 (……って言っても、俺もインスタやってるわけじゃないし、)

成幸 (何より、機械もあんまり得意じゃないから、うまくできるか分からないけど……)

成幸 「……撮った写真を、こんな風に加工して」

成幸 「こんな感じかな……。えっと、これをSNSにアップするんです」

理珠 「!? もみじおろしのハートマークが綺麗な色になってます!」

親父さん 「ほう……」

成幸 「フォトジェニックな写真を撮ってSNSにアップすると、たくさんの人に見てもらえます」

成幸 「それが、たぶん、インスタ映え、という奴なんだと思います」

理珠 「なるほど……。『いんすたばえ』 とは奥が深いものなのですね」

441以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:48:09 ID:N3EY2ei2
成幸 (そうかなぁ……)

親父さん 「ふむ……。しかしなぁ、そうなると難しいな」

親父さん 「見た目のために味を犠牲にするなんて、俺は絶対にしたくねぇし……」

成幸 「まぁ、そりゃそうですよね……」

親父さん 「ただ、どうせ多くの人にうちの店を知ってもらうなら、見栄えも良くした方がいいのも確かだ……」

親父さん 「……っと、せっかくリズたまが作ったうどんだ。伸びるともったいねぇ」

親父さん 「俺がもらうぜ」

理珠 「あ、どうぞ。食べちゃってください」

親父さん 「ふむ……」 ズズズズズ……

親父さん 「……ん?」

ズゾゾゾゾゾゾゾゾゾ……

親父さん 「………………」

理珠 「お父さん? どうかしましたか……? ゆで加減が変でしたか?」

親父さん 「……いや、うめぇな、これ」

442以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:49:54 ID:N3EY2ei2
理珠 「へ……?」

親父さん 「あ、いや、昔から店の手伝いをしてくれてるリズたまの作るうどんが美味いのは当たり前なんだが、」

親父さん 「このもみじおろしの辛みと甘みが絶妙にうどんにマッチして……」

親父さん 「これはこれでアリだな。すげぇモンを考えたもんだ、リズたまは」

理珠 「い、いや、ですからそれを考えたのは成幸さ――」

成幸 「――でしょう!? すごく美味しいんですよ、そのうどん」

成幸 「学園祭でも大好評だったんです。さすがは緒方うどんの娘ですね」

理珠 「な、成幸さん……?」

親父さん 「そうだろう、そうだろう。リズたまは勉強もうどん作りもすげぇからな」

成幸 「せっかくです。娘さんが考えたそのうどんを新メニューにしてはどうですか?」

親父さん 「む……?」

成幸 「さっき見せたとおり、インスタ映えするでしょうし、味も悪くない。父親想いの娘が考えたメニューとなればドラマ性もある」

成幸 「テレビでこのうどんをうまく使えれば、きっとたくさんのお客さんが店に来てくれますよ」

親父さん 「……悪くねぇな」

443以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:51:01 ID:N3EY2ei2
親父さん 「リズたまは、店でこのうどんを提供しても構わねぇか?」

理珠 「そ、それはもちろん、私は構いませんが……」

理珠 (そのうどんを考えたのは、成幸さんで……)


―――― 『恋人…… 恋人だ!!!』


理珠 (っ……)

親父さん 「そうと決まれば、このうどんを俺なりにアレンジして新メニューにしてやるぜ」

親父さん 「大葉は天ぷらにして、もみじおろしの配分も考えて……」

親父さん 「……っし。明日中には仕上げてやるぜ」

親父さん 「センセイも、今日は手伝ってくれてありがとな!」

成幸 「いや、俺は何もしてないですよ」

成幸 「そのうどんを考えたのは娘さんですから。さすが、親父さんの娘ですね」

親父さん 「いやー、ほんとだぜ。リズたまがいてくれなかったらどうなっていたか……」

親父さん 「ありがとう、リズたま。リズたまは最高の娘だぜ」

444以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:51:59 ID:N3EY2ei2
理珠 「………………」

理珠 (……なんでしょう。何か、釈然としないというか、なんというか、)

理珠 (ムカつきます)

理珠 (あのうどんを考えたのは成幸さんなのに)

理珠 (お父さんは私にではなく成幸さんに感謝するべきなのに)

理珠 (どうして私を褒め称えるのですか)

理珠 (成幸さんも成幸さんです)

理珠 (なぜ自分で考えたうどんを、私が考えたかのように言うのですか)

理珠 (それではまるで、私が成幸さんの功績を盗んでしまったようではないですか)

理珠 (成幸さんは一体何を考えているのでしょう)

成幸 「……? 緒方、どうかしたか? なんか不機嫌そうだけど……」

理珠 「……別になんでもありません」

プイッ

成幸 (あー、これは絶対何か怒ってるやつだ)

成幸 (俺が考えたメニューを、自分で考えたことにされたのが、納得いかないんだろうなぁ……)

445以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:53:17 ID:N3EY2ei2
………………夜 緒方家

理珠 「………………」

ムカムカムカムカ……

理珠 (……あれから何時間も経ったのに、未だにイライラします)

理珠 (一体なぜ成幸さんはあんなことを言ったのでしょう。理解に苦しみます)

理珠 (おかげで、勉強も全然捗りません)

……コンコン

理珠 「……? はい、どうぞ」

親父さん 「リズたま〜。勉強中にごめんね」

理珠 「いえ、大丈夫です。何か用ですか?」

親父さん 「ひとつ言っておかなくちゃならないことを忘れててね」

親父さん 「リズたま、週末のテレビ取材なんだけど、リポーターの対応をお願いしてもいいかな?」

理珠 「え……? 私がテレビに出るということですか?」

親父さん 「うん。ほら、パパは厨房だし、ママは恥ずかしがって出たくないって言うし……」

親父さん 「アルティマキュートなリズたまが看板娘として出てくれれば、宣伝にもなると思うし……」

446以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:53:55 ID:N3EY2ei2
理珠 「いや、私はそういうのは……」

ハッ

理珠 (……いいことを思いつきました)

理珠 (お父さんも成幸さんも私の話を聞いてくれない。なら……)

理珠 「……分かりました。リポーターの応対をすればいいのですね」

理珠 「それくらいであれば、簡単です。私に任せてください」

親父さん 「本当かい!? ありがとうリズたま! 感謝のハグを――」

理珠 「――では、おやすみなさい、お父さん」

バタン

理珠 「ふふふふ……」

理珠 「……お父さんも成幸さんも話を聞いてくれないなら、」

ニヤリ

理珠 「言ってあげればいいんですよ。テレビで」

理珠 「ふふふ……。当日が楽しみです」

447以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:54:35 ID:N3EY2ei2
………………テレビ取材当日 唯我家

成幸 「今日、緒方の家のテレビ取材だよな……」

成幸 (見るのが怖いような、見ない方が怖いような……)

成幸 (まぁ、やきもきしてても仕方ない。見るか……)

パチッ

リポーター 『皆さーん、こんにちはー。「私たちの街の美味しいお店」のコーナーです』

リポーター 『今日は、うどんの名店、緒方うどんさんにお邪魔しています!』

リポーター 『では、早速お話を伺ってまいりましょう、このお店の看板娘、理珠さんです』

理珠 『……どうも。こんにちは。緒方うどんの娘、理珠と申します。今日はよろしくお願いします』

成幸 (お、おお。さすがは “機械仕掛けの親指姫”。いつもと全く変わらない様子だな)

リポーター 『きゃー、本当に可愛らしい娘さんですね。中学生さんですか?』

理珠 『っ……こ、高校3年生です』

成幸 (あ、そこもいつも通り少しイラッとしてる)

448以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:55:21 ID:N3EY2ei2
………………数分後

成幸 (ハラハラしながら見ていたが、リポートはつつがなく進んだ)

成幸 (緒方は持ち前の冷静さで終始上手に受け答えしているように見える)

成幸 (心配するまでもなかったか。しっかりとやってるじゃないか)

リポーター 『それでは、今日から店に置くことになった新メニューをいただきましょう』

理珠 『どうぞ。新メニューのもみじおろしうどんです』

成幸 (おお。なんか自分が考えたうどんがテレビに映ってるのは、少し気分がいいな)

リポーター 『まぁ、これは可愛らしいうどんですね』

リポーター 『もみじおろしと大葉でハートマークが描かれています』

リポーター 『なんでも、これは理珠さんが自分で考えられたとか』

理珠 『……そのことですが、それは、父の勘違いです』

リポーター 『え……?』

成幸 「……お、おいおい。緒方さん? 一体何を……」

理珠 『そのうどんは、私の友人が考えてくれたものです』

理珠 『……それだけは、訂正しておきたくて、言いました。すみません』

449以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:56:11 ID:N3EY2ei2
成幸 (台本とかもあるだろうに、またとんでもないことをしたな、緒方……)

成幸 (……でも、緒方の性格じゃ、俺が考えたメニューを自分が考えたことにされたら嫌だろうな)

成幸 (親父さんに新メニューとして認めてもらうために、軽率な嘘をついてしまったが……)

成幸 (反省だな。緒方に悪いことをしてしまった)

リポーター 『そうだったんですか。そのご友人というのは学校のお友達ですか?』

理珠 『え? は、はい。まぁ、そうですね……』

理珠 『学園祭でうどんの売上が伸び悩んで、困っているときに、このメニューを考えて助けてくれたんです』

リポーター 『ほうほう。発想力が豊かな方なんですね』

理珠 『そうなんです。成幸さんはすごいんです。勉強を教えるのも上手だし、何より努力家です!』

成幸 (……緒方。俺のことをそんなにすごい奴だと思ってくれてたのか……) ジーン

リポーター 『では、そんなご友人が考えたメニューをいただきましょう。いただきます』

リポーター 『……ん。これは、スープに溶けたもみじおろしがうどんにからまって、』

リポーター 『辛さと甘みがちょうどいいですね。とても美味しいです』

リポーター 『見た目が可愛らしいだけでなく、味は本格的です。おだしもきいていてとても美味しいです』

450以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:57:04 ID:N3EY2ei2
理珠 『……あ、ありがとうございます。父の作るうどんは絶品です』

理珠 『成ゆ――友人が考えてくれたもみじおろしのトッピングも、見た目がきれいでとても美味しいんです』

理珠 『ぜひ、食べに来てください!』

リポーター 『……ちなみに、つかぬことを伺いますが』

理珠 『はい?』

リポーター 『“成幸さん” というのが、そのお友達のお名前ですか?』

理珠 『わ、私、名前を言っていましたか?』 カァアア…… 『す、すみません、勢い余って……』

リポーター 『……あー、なるほど』 クスッ 『ハートマークのうどんを考えるなんて、ロマンチックな彼氏さんですね』

理珠 『……!? か、彼氏!? ち、違いますよ! 私と成幸さんは、そんな……――』

リポーター 『と、いうことで、本格的なうどんが楽しめて、可愛らしい看板娘がいる緒方うどん、』

理珠 『私の話聞いてますか!? ち、違いますからね!? 本当に違いますから!』

リポーター 『ぜひ一度来てみてください。以上、「私たちの街の美味しいお店」でしたー』

成幸 「………………」

カァアアア……

成幸 「な、なんていらんことを言うリポーターだよ、まったく……」

451以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:58:03 ID:N3EY2ei2
成幸 (緒方も緒方だよ。俺のことなんか話さなきゃいいのに……)

成幸 (まぁ、仕方ないか。恥ずかしい思いをしたのはあいつだし、ちょっと可哀想だな……)

成幸 (明日、うどんでも食いがてら、様子を見に行ってやろうかな……)

prrrrr……

成幸 「ん、電話……?」

ガチャッ


『覚えてろよ、センセイ……!』


ガチャッ……ツーツーツー……

成幸 「………………」

成幸 「……あー、俺、当分緒方ん家には近寄れなそうだなぁ」



おわり

452以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 19:58:38 ID:N3EY2ei2
………………幕間 「あたしん家にも」

うるか 「今日はリズりん家がテレビに出る日だよね〜」

ピッ

うるか 「おお、本当に出てる! っていうか、改めて見ると、リズりんほんと美少女、って感じだよね」

うるか 「………………」

うるか 「……ん?」

うるか 「……彼氏……?」

うるか 「……テレビの取材にかこつければ、成幸のことを彼氏と思ってもらえる……?」

うるか 「………………」

うるか 「ねー! おかーさーん! うちにもテレビの取材来ないかなー?」

うるか母 「なにいきなりバカなこと言ってんのあんたは。来るわけないでしょ」



おわり

453以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 20:00:58 ID:N3EY2ei2
>>1です。
読んでくださった方ありがとうございます。



また投下します。よろしくお願いします。

454以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/10(水) 21:16:04 ID:t4Aw006g
父の顔が浮かぶようだw

455以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:33:55 ID:ceaM/etY
>>1です。
投下します。



【ぼく勉】小林 「成ちゃんを一番幸せにできるのは、――――だと思うからさ」

456以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:35:03 ID:ceaM/etY
………………登校中

海原 「……ねぇ、陽真くん」

小林 「ん? なに、智波ちゃん?」

海原 「わたしの意図するところを忖度せず、陽真くんが思うことをそのまま答えてください」

小林 「えっ、何いきなり?」

海原 「唯我くんのまわりにいる女の子の中で、誰が一番魅力的だと思う?」

小林 「えっ、ごめん本当に何、いきなり」

海原 「いいから答えて。十秒前、9、8、7、……」

小林 「しかもカウントダウンありなの!? 急だなぁ……」

小林 (…… “忖度するな” ってことは、暗に本当は忖度してほしいって言ってるんだろうなぁ)

海原 「4、3、2、……」

小林 「えっと……やっぱり、智波ちゃんが一番カワイイかな、なんて……」

海原 「………………」

小林 (しまった。選択をミスったか……?)

海原 「………………」 ニヘラァ 「……も、もう、陽真くんったら! そういうのじゃないんだって!」

457以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:36:43 ID:ceaM/etY
海原 「陽真くんが本当にわたしのこと大好きっていうのはよくわかったから……///」

小林 (少し面倒くさいけど……でも、やっぱりかわいいなぁ、智波ちゃん)

海原 「そうじゃなくて……じゃあ、質問を変えるね?」

海原 「唯我くんのまわりにいる女の子の中で、誰が一番唯我くんとお似合いだと思う?」

小林 「………………」

小林 「……ん、それ、すごく難しい質問だね」

海原 「そうかな? 正直に答えてくれればいいんだけど……」

小林 「うーん、俺は成ちゃんと小さい頃からの付き合いだけど、そういう話って滅多にしないからなぁ」

小林 「男女間のこととかあんまり好きじゃないし、興味もないみたいだし……」

小林 「……で? 智波ちゃんは、俺に武元かな、って言ってほしかったの?」

海原 「うっ……まぁ、それもあるんだけど……」

海原 「もしうるかじゃないなら、うるかに足りないところを、男の子の立場から教えてもらえたらな、とか思ってたんだ」

小林 「なるほど。まぁ、武元のために色々してあげたい智波ちゃんの気持ちも分かるけどさ、」

小林 「そういうのは本人たちが決める以外、俺たちには何もできないんじゃないかな」

小林 「この前の模試の帰りみたいに、二人っきりにしてあげるくらいなら協力するけど」

458以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:37:20 ID:ceaM/etY
海原 「うぅ……そう言われると弱いなぁ」

小林 「あ、でも、智波ちゃんが武元に協力してあげたい気持ちは分かるし、いいと思うよ」

小林 「ただ、成ちゃんの友達の俺としては、成ちゃんの意志を知らないまま、協力はできかねるかな、って」

小林 「……ごめんね、こんなノリの悪い彼氏で」

海原 「ううん、いいの。陽真くんの、イケメンのくせにそういう義理堅いところ、本当に大好きだから」

小林 「イケメンのくせにって……」 クスッ 「嬉しいよ。俺も、智波ちゃんのそういう理解あるところが大好きだよ」

海原 「えへへ……照れるね」

小林 「うん。でも、嬉しいよ」

小林 「……一応、有益かどうか分からないけど、成ちゃんの女の子のタイプだけ教えてあげようか?」

海原 「え!? それほんと!? ぜひぜひぜひ!」

小林 「参考にならないと思うけど…… “貧乏でも一緒に家族を支えてくれる人” だよ」

海原 「へ?」

小林 「だから、“貧乏でも一緒に家族を支えてくれる人”」

海原 「……重いね」

小林 「それは俺も否定できないかな」

459以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:37:59 ID:ceaM/etY
小林 「成ちゃんはよくも悪くも、本当に真面目だからさ」

小林 「結局、今はまだ家族のことしか考えられないんだよ」

小林 「だから、武元のことも、長い目で見てあげてくれると、俺としては嬉しいかな」

海原 「……ん、そうだね。あんまり焦りすぎてもよくないね」

海原 「って言っても、うるかの片思いはもうすでに五年目の領域だからなぁ」

小林 「ある意味武元も一途で重いタイプだから、成ちゃんと相性いいかもね」

海原 「“貧乏でも一緒に家族を支えてくれる人” かぁ……。うるか、ぴったりだと思うけどなぁ」

小林 「それを決めるのは成ちゃんだからね。なんとも言えないよ」

海原 「……でも、よかった」

小林 「へ? 何が?」

海原 「陽真くんが友達想いの良いイケメンだって、改めて分かったから」

小林 「……あはは、べつに、そういうわけじゃないんだけどね」

小林 「成ちゃんは特別なんだ。本当に俺にとって、大切な友達だから」

小林 (……でも、そうだよな。四月からずっと成ちゃんのまわりはめまぐるしく動いてる)

小林 (成ちゃんの人生が大きく動くようなことが、受験以外で起こるような気がする)

460以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:38:57 ID:ceaM/etY
………………一ノ瀬学園 3-B 昼休み

小林 「………………」

ジーッ

成幸 「……なんだよ。その熱い視線は。どんなに見つめられたって、水希の弁当はやらんぞ」

成幸 「おかずひとつくらいなら考えてやらんでもないが……」

小林 「えっ? ああ、ごめんごめん。ちょっとボーッとしててさ」

成幸 「ボーッとして男友達の顔を見つめるなよ気持ち悪いな!」

大森 「見つめるなら美少女がいいよな。お前がよくつるんでるお姫様たちみたいな」

成幸 「大森、お前のその発言は素で気持ち悪い」

小林 「………………」

小林 (……智波ちゃんにああは言ったものの、俺も常々似たようなことを考えている)

大森 「なんだとテメェこら唯我ー! お前に俺の気持ちが分かるかー! いつも美少女侍らせやがってー!」

成幸 「やめろコラ大森! 誤解を招くような言い方をするなこのバカ!」

461以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:39:55 ID:ceaM/etY
小林 (ただ、“誰がお似合いか” とかではなく、“誰が一番成ちゃんを幸せにできるか” だけど)

小林 (正直、答えはもう出ている。ただ、それを智波ちゃんに言うのはためらわれただけだ)

小林 (……というか、たぶんこれを俺は誰にも言わないだろう。成ちゃんのことを考えればこそ、言うべきじゃない)

大森 「せめて水希ちゃんが作った弁当のオカズくらいよこせー!」

成幸 「嫌だ! なんか今の気持ち悪いお前にだけは食わせたくない!!」

小林 (……そう。成ちゃんの幼なじみの俺だからこそ、これは胸にしまっておきたい)

小林 「……はいはい、ふたりとも騒がないの」

小林 「成ちゃん、昼休みはあの三人と勉強の予定でしょ? 早くご飯食べて行ってあげた方がいいんじゃない?」

成幸 「そ、そうだった! サンキュー、小林! 大森、お前に構ってる暇はない!」

ガツガツガツガツ……ゴックン

成幸 「ごちそうさま! じゃあ行ってくるな!」

大森 「あーっ! 俺の弁当がー!」

成幸 「お前のじゃねぇ! じゃあこのバカ頼んだぞ、小林!」

小林 「はいはい。じゃ、いってらっしゃい、成ちゃん。……お前はこっちだよ、大森」

大森 「ぐえっ」

462以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:41:10 ID:ceaM/etY
………………図書室

小林 「………………」

小林 (……とかなんとか言って、気になって結局来てしまった)

小林 (智波ちゃんに正面切って相談されたからっていうのもあるけど、)

小林 (改めて、成ちゃんとあの三人の様子をちょっと見たくなったからだ)

成幸 「………………」

理珠 「………………」

文乃 「………………」

うるか 「………………」

カリカリカリ……

小林 (……うん。そして、想像通り、色気も何もなく、真面目に勉強している)

小林 (さすがは成ちゃんだ。しっかり先生やってるんだね)

うるか 「……ん、この問題……」

成幸 「? どうかしたか、うるか?」

小林 (……これだ。やっぱり、名前呼びになったアドバンテージは大きい)

463以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:42:06 ID:ceaM/etY
小林 (夏休み中、間違いなく何かがあのふたりにあったはず)

小林 (成ちゃんにそれとなく聞いてみても、顔を赤くして誤魔化すだけだ)

小林 (逆に、それが何かがあったという裏付けになっているんだけど)

小林 (でも……)

理珠 「む……成幸さん、次、いいですか?」

成幸 「ああ、理珠――じゃなくて、緒方」

理珠 「はうっ……///」

成幸 「す、すまん……」

小林 (これもある。いつの間にか、緒方さんが成ちゃんのことを名前で、)

小林 (そして時々、言い間違えるように、成ちゃんも緒方さんのことを名前で呼ぶ)

小林 (武元に対抗しているのかな。だとすれば、緒方さんもがんばってるよなぁ)

464以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:43:43 ID:ceaM/etY
文乃 「……ん、成幸くん。わたし、その次いいかな。合ってるか確認してほしい問題があるんだ」

成幸 「おう、わかった、古橋」

小林 (……これは、どう解釈したらいいのか、ちょっと分かりにくい)

小林 (古橋さんもごく自然に成幸くんと呼んでいる。けど、成ちゃんはよそよそしく名字のままだ)

小林 (けど、時々冗談なのかなんなのか、“文乃姉ちゃん” と言っているのを見かける)

小林 (もちろん冗談なのだろうけど、引っかかる)

小林 (……成ちゃんは長男で、お父さんを早くに亡くして、“兄” や “姉” に憧れている節がある)

小林 (ひょっとしたら、古橋さんのことをそういう目でみている可能性もある……)

小林 「………………」 ハァ

小林 (……俺、何やってんだろ。智波ちゃんに偉そうに高説垂れておいてこれだもんなぁ)

小林 (結局、俺は心配なんだ。幼なじみの成ちゃんのことが)

小林 「……ん?」

関城 「………………」 ハァハァハァ 「……今日もいい感じね、緒方理珠。ふふ……ぐへへ……」

小林 (えっ待ってちょっと怖い)

小林 (この人いつの間に俺のすぐ横に来てたんだ!?)

465以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:44:37 ID:ceaM/etY
小林 (っていうか、何だこの双眼鏡。何? 緒方さんを覗いてるのか? ストーカー?)

関城 「ん……?」

関城 「ああ、誰かと思えば、よく唯我成幸と一緒にいる男じゃない」

小林 「へ……? あ、ああ、そういえば、君は文化祭の後夜祭で成ちゃんたちと一緒にいた……」

関城 「関城紗和子よ。緒方理珠の大親友よ。おたくは?」

小林 「小林陽真……。成ちゃん――唯我成幸の、幼なじみ……かな?」

関城 「ふーん……幼なじみ、ねぇ……」

ニヤリ

関城 「ちょうどいいわ。ちょっと付き合いなさいよ」 ガシッ

小林 「えっ? い、いや、俺は……――」

関城 「ジュースくらい奢ってあげるわ。ほら、行くわよ」 グイグイグイ

小林 「いや、ちょっ、待って……」

ズルズルズルズル……

466以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:50:44 ID:ceaM/etY
………………自販機前

関城 「コーヒーでいいかしら?」

小林 「なんでもいいよ、もう……」

関城 「そう? じゃあ、はい?」

小林 「……ありがとう」

関城 「さすが、唯我成幸の幼なじみね。急に連れてこられてもお礼を言えるなんて」

小林 「俺は成ちゃんほどお人好しじゃないけどね。じゃ、遠慮なくいただきます」

小林 「……で、一体何の用?」

関城 「単刀直入に言いましょう。私は緒方理珠の大親友で、緒方理珠の恋を応援しているわ」

小林 「は? 緒方さんの恋を応援? 緒方さんのストーカーなのに?」

関城 「し、失敬ね! ストーカーじゃないわよ。……ちょっと心配で観察してしまうだけで」

小林 「ストーカーはみんなそう言うんだけどね……」

ハァ

小林 「ま、いいや。で、君は緒方さんが成ちゃんに恋してるのを、応援してるんだ?」

関城 「む……。さすがは唯我成幸の大親友ね。よく分かってるじゃない」

467以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:51:51 ID:ceaM/etY
小林 「まぁ、あれだけ分かりやすく好意を示してたらいやでも分かるでしょ」

関城 「違いないわね」

小林 「で? 緒方さんの恋を応援している君が俺に何の用?」

関城 「緒方理珠、客観的に見てどうかしら? 唯我成幸の幼なじみに目線でもいいわよ?」

小林 「どうって言われてもなぁ。小さくて可愛いと思うよ? きれいな顔立ちだし」

関城 「唯我成幸的にはどうかしら? 彼は背は低い方がタイプ?」

小林 「いや、そういう話、成ちゃんが嫌がるからあんまりしたことないし、分からないよ」

関城 「……そう」

関城 「残念ながら、私の方でも、唯我成幸について、“貧乏でも一緒に家族を支えてくれる人” がタイプということしか分かってないのよ」

小林 (それ知ってるだけでもだいぶすごいと思う)

関城 「唯我成幸と緒方理珠をくっつけるにはどうしたらいいのかしら?」

関城 「幼なじみなら、何か有益な情報を持っているんじゃない?」

関城 「教えなさいよ。私の大親友、緒方理珠の恋を成就させるために!」

小林 「………………」

小林 「……あー、えっと、関城さん? それ、緒方さんに頼まれてやってるの?」

468以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:52:23 ID:ceaM/etY
関城 「へ……? ち、違うけど……」

小林 「……うーん、まあ、俺が口を挟むことでもないんだけどさ、」

小林 「外野がどう騒いだって、なるようにしかならないと思うよ」

小林 「……っていうか、場合によっては、緒方さんの迷惑になるかもしれないけど、分かる?」

関城 「うっ……」

小林 「だから、関城さん 緒方さんの親友だっていうなら、恋を応援するくらいにしておけば?」

小林 「きっと、関城さんが何をしても空回りにしかならないと思うよ?」

関城 「………………」

グスッ

関城 「……そんなの、わかってるわよ。えぐっ……」

小林 (なぜ泣き出す!? えっ? 俺なんかひどいこと言った!?)

469以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:53:01 ID:ceaM/etY
関城 「……後夜祭の花火、だって……緒方理珠のことを思って、突き飛ばしたのに……」

関城 「キライって、言われるし……ひぐっ……」

小林 (俺も見てたけどそれは仕方ないと思う)

関城 「わかってるけど、せっかくできた友達なんだもん……」

関城 「幸せになってもらいたいもん……」

小林 「あー……」

ポンポン

小林 「関城さんは、緒方さんのことが大好きなんだね。だからがんばりたいんだね」

関城 「………………」 コクリ

小林 「きっといつか、その気持ちは緒方さんに伝わるよ。だから、あんまり過激なことは控えようね?」

関城 「……うん」

470以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/13(土) 22:54:19 ID:ceaM/etY
小林 (……めんどくさい。成ちゃんはいつもこんな子たちの面倒を見てるのか?)

小林 (俺にはとても無理だよ成ちゃん。やっぱり成ちゃんはすごいな)

関城 「……急に取り乱してごめんなさい。ありがとう」

小林 「いや、いいよ。落ち着いてくれたなら何よりだよ」

小林 「いつか、もしも緒方さんが成ちゃんと結ばれたらさ、一緒に祝ってあげたらいいじゃない」

小林 「で、もしも、万が一緒方さんの恋がやぶれてしまったらさ、」

関城 「?」

小林 「こうやって緒方さんのことを慰めてあげなよ」

関城 「……!?」

関城 「な、なるほど……。失恋して弱っている緒方理珠のことを慰めれば……」

関城 「私たちの親友度はうなぎ登り!? なるほど、すごいことを聞いたわ……」

小林 「………………」 (いや、そういうつもりで言ったんじゃないんだけど……)

関城 「万が一のときはそうさせてもらうわ! ありがとう、小林陽真!」

関城 「でも、緒方理珠の涙なんか見たくないから、これからもできる限りがんばるわ!」

小林 (……ま、立ち直ってくれたみたいだし、いいか)




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