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【ぼく勉】小美浪先輩「この前は本当に悪かった」成幸「はい?」

1以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/10(月) 23:23:54 ID:w/7Zs4bc
………………海での一件から数日後 予備校

成幸 「なんです、藪から棒に」

小美浪先輩 「いや、メールでも謝ったけど、これだよ。ほれ」

成幸 (紙袋? 中身は……)

成幸 「あっ……ああ。これ、海で貸したシャツですね」

小美浪先輩 「いや、ほんと悪かったな。返すの忘れて先に帰って」

小美浪先輩 「メールでは大丈夫だったって言ってたけど、本当に大丈夫だったのか?」

成幸 「えっ、あー……」

成幸 (……帰りに乗せてもらった桐須先生の車の運転は、正直全然大丈夫ではなかったけど、)

小美浪先輩 「? 後輩?」

成幸 (それをこの愉快的な先輩に話したら、また桐須先生をからかうネタにしかねないし)

成幸 (わざわざ言うことではないな。よし)

小美浪先輩 「おーい、こうはーい。どうしたー?」

成幸 「……すみません。大丈夫でしたよ。海の家ですぐに新しいシャツを買えましたし」

小美浪先輩 「そ、そうか……」 ホッ

248以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 20:46:41 ID:LAfruxaA
>>1です。
投下します。


【ぼく勉】理珠 「うどんフェスティバルですか!?」

249以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:05:39 ID:LAfruxaA
………………一ノ瀬学園

成幸 「ああ。昨日偶然、駅前でチラシを見つけてさ。今週末らしいぜ」

成幸 「会場の公園、電車で三十分もかからないだろ?」

成幸 「緒方はうどんが大好きだから、教えてやったら喜ぶかなー、なんて……」

理珠 「日本中のうどんが集まる、夢の祭典……すごいです……!」

成幸 「当たり前のように大喜びみたいだな。よかった」

成幸 「そのチラシやるから、行ってこいよ。古橋かうるかでも誘ってさ」

理珠 「あ、でも……文乃は今ダイエット中で、誘うのはためらわれますし……」

理珠 「うるかさんは国体前の練習で週末も空いてないかと……」

成幸 「ん、そうなのか……」

成幸 「じゃあ、週末一緒に行くか?」

理珠 「へ?」

成幸 「息抜きにうどんを楽しんだ後、どこかで勉強して帰ろうぜ」

理珠 「は……は、はい……/// ぜひ、そうしましょう……//」

250以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:06:46 ID:LAfruxaA
関城 「緒方理珠ー! すごいものを見つけたわよー!」

バーン!!!!

成幸 「……お前はもう少し静かに登場できないのか、関城」

関城 「あら、唯我成幸もいたのね。ごきげんよう」

関城 「それより、緒方理珠、大変よ! 今週末とんでもないイベントが開催されるの!」

関城 「その名もうどんフェスティバルよ! うどんフェスティバル!」

関城 「あなたうどん大好きでしょ? ぜひ一緒に……って」

ハッ

関城 (緒方理珠がもうチラシを持っている!? ってことは、唯我成幸が……!?)

成幸 (なんだと!? 関城も同じチラシを持ってきたのか!? ってことは……)

関城 (私!)  成幸 (俺!)

関城&成幸 ((とんでもないお邪魔虫をしてしまったのではー!?))

251以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:07:50 ID:LAfruxaA
理珠 「あ、関城さん、ちょうどよかったです。今、成幸さんとそのイベントの話をしていて、」

理珠 「週末、成幸さんと一緒に行く予定だったので、関城さんも一緒にどうですか?」

関城 「ごふっ……こ、光栄な申し出だわ。嬉しすぎて吐血しそう……」

関城 「で、でも、あなたは唯我成幸とふたりで行きたいのではないかしら?」

理珠 「? なぜですか?」

成幸 「そ、そうだよな。どっちかといえば、友達の関城と2人で行きたいよな?」

理珠 「? そっちもなぜですか? 私にとってはお二人とも大切な友人ですが」

成幸 (言葉がドストレートだから!)  関城 (その言葉はとてつもなく嬉しいけれど!)

成幸&関城 ((そういうことじゃないーーーーー!!!))

理珠 「……むっ」 プイッ 「なんだか知りませんが、お二人だけで通じ合っている気がします」

理珠 「……もしかして、私は邪魔ですか? 本当は、お二人だけで行きたい、とか」

成幸&関城 「「そんなわけねーだろ!!」 ないわよ!!」

理珠 「そ、そうですか……。なら、いいじゃないですか。三人で行きましょう」

理珠 「楽しみですね、うどんフェスティバル。成幸さん、関城さん」

252以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:08:40 ID:LAfruxaA
………………少し後

成幸 「……なんというか、本当にすまん」

関城 「なんであなたが謝るのよ。こちらこそごめんなさいだわ」

関城 「あなたが緒方理珠を誘っていると知っていたら、あんな愚を犯さなかったというのに……」

成幸 「いや、それは俺の方だ。お前も、友達とふたりきりの方がよかっただろ?」

関城 「私はべつに……」

関城 「……というか、当日はふたりきりにしてあげるから、しっかり緒方理珠をエスコートしてあげるのよ?」

成幸 「なんでそんな話になるんだよ。っていうか、前のペンケースの時も思ったけどさ、」

成幸 「なんでお前はいちいち俺と緒方をふたりきりにさせたがるんだ?」

関城 (この男……。鈍いにもほどがあるでしょうに)

関城 (感情の機微にそう敏感でもない私が気づいてることに、どうして気づかないのかしら)

関城 (緒方理珠は、まだ自覚もしていないけれど、あんなに分かりやすいサインを出しているというのに……)

関城 (いっそ、この鈍い男に緒方理珠の気持ちを言ってやれたら、どんなにすっきりするだろうか……)

関城 (……でも、違う。わかってる。それは私がやることじゃない)

関城 (緒方理珠が自分でやることだから)

253以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:09:44 ID:LAfruxaA
成幸 「関城?」

関城 「……言わないわ。言えないもの」

成幸 「そうかよ。全然、意味わかんねーけどな」

成幸 「……俺の方こそ、当日は仮病を使うから、緒方とふたりで行ってこいよ」

成幸 「俺は、偶然、流れで一緒に行くことになっただけだから」

成幸 「お前は、緒方を誘うためにわざわざチラシを持ってきたんだろ?」

成幸 「だったら……――」

関城 「――ダメよ。あなたも一緒に来なさい」

関城 「それだけは絶対譲れないわ」

成幸 「……わかった。じゃあ、お前も絶対来いよ。三人で行くんだからな」

関城 「ええ」

成幸 (こうなった以上、仕方ない! 三人で和気藹々とうどんを食べながら、)

関城 (隙を見て、ひとりで抜け出す! そうすれば、ふたりきりにしてあげられる!)

254以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:10:23 ID:LAfruxaA
………………物陰

理珠 「……ふたりで楽しそうに、私をのけ者にして」

理珠 「……ずるい、です。きっとふたりでどのうどんを食べるか相談しているんです」

理珠 「私だって、一緒にうどんフェスティバルの話をしたいのに……」

理珠 (そういえば、いつだか、うちで成幸さんと勉強しているとき、)

理珠 (関城さんがすごい勢いで成幸さんに興味を示していることがありましたね)


―――― 『君って どんな女の子がタイプなのかしら……?』

―――― 『や やっぱり恋人とは同じ大学行きたいわよね!?』

―――― 『は 初デートはどこがいいかしら!?』

―――― 『子供は何人欲しい!?』


理珠 (ま、まさか……)

理珠 (私が知らなかっただけで、ふたりは実は、もうお付き合いをしていて……!?)

理珠 (関城さんは、成幸さんがうどんフェスティバルに私を誘ったことを怒っているのでは!?)

理珠 (と、とと、とんでもないことをしてしまいました……)

255以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:11:14 ID:LAfruxaA
理珠 (ひょっとして、私はとんでもないお邪魔虫になってしまったのでは!?)

理珠 (というよりは、まるで関城さんと成幸さんの間に入り込む泥棒猫……)

理珠 (浮気相手!? 不倫相手!? 愛人!?!?)

理珠 (ま、まずいです……ど、どうしたら……)

ズキッ

理珠 「ッ……」

理珠 「………………」

理珠 (……なぜ)

理珠 (なぜ、こんなにも胸が締め付けられるのでしょう)

理珠 (なぜ、涙が出そうになっているのでしょう……)

グスッ

理珠 (……なぜ、こんなにも、嫌な気持ちになっているのでしょう)

256以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:12:13 ID:LAfruxaA
………………当日 会場の公園

成幸 「………………」

関城 「………………」

成幸 「……何で俺とお前がしっかり時間通りに来て、緒方が来ないんだ?」

関城 「知らないわよ。さっきからメッセージ送ってるけど、返信はないし」

関城 「そっちにも返信はないの?」

成幸 「ないな。ここ数日、なんか浮かない顔してたから心配だったんだが……」

関城 「……一体どうしたのかしら」

ヴヴッ……

関城 「! 緒方理珠から返信だわ!」

関城 「なになに……? “お店の都合で行けなくなりました。すみません”」

関城 「“おふたりだけで楽しんできてください”、って……」

関城 「………………」

成幸 「……えっと、つまり、緒方は来られない?」

関城 「そうみたいね」

257以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:13:01 ID:LAfruxaA
成幸 「………………」

関城 「………………」

成幸 「……ん、えっと、どうする?」

関城 「どうするもこうするも、緒方理珠がいないんじゃ、ねぇ?」

成幸 「だよなぁ……」

関城 「………………」

成幸 「………………」

成幸 「……でもまぁ、ボーッとしてても仕方ないし、ちょっと回ってみるか?」

成幸 「せっかく屋台もたくさんあるし、美味しそうだし」

関城 「………………」

関城 「そ、そうね……」

258以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:14:13 ID:LAfruxaA
………………物陰

理珠 「………………」

理珠 「ん、動き出しましたよ、文乃」

文乃 「……うん。わたしも見てるからわかるよ、りっちゃん」

文乃 「それはそれとして、どうしてわたしたちはこんな出歯亀みたいなことをしているのかな?」

文乃 「わけわかんないことしてないで、りっちゃんもふたりと合流したらいいじゃない」

理珠 「そんなことできません! さっきも言ったでしょう、文乃!」

理珠 「あのふたりはお付き合いをしているんです! 邪魔はできません!」

文乃 「あー……うん」 (これまたとんでもない勘違いをしちゃったもんだなぁ)

文乃 (どうしたものかなぁ……)

キリキリキリ……

文乃 (胃が痛いなぁ。とりあえず、今度成幸くん、一発ぶつ)

259以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:14:47 ID:LAfruxaA
理珠 「私は、ふたりの邪魔をしてしまったんです」

理珠 「ふたりは本当なら、ふたりきりでこのイベントに来たかったはずです」

文乃 (絶対違うと思う)

理珠 「ふたりは私を気遣って、私にも声をかけてくれましたが……」

理珠 「本当はふたりきりがいいはずなんです」

文乃 (ぜっっっっったい違うと思う)

理珠 「だから、私はこうして、せめてもの罪滅ぼしとして、ふたりが楽しくイベントを回れるように、」

理珠 「見守ってあげなければならないのです」

文乃 「……うん。話は分かったけど、どうしてわたしが呼ばれたのかな?」

理珠 「ひとりだと心細かったので」

文乃 「……あ、うん。まぁいいけどね」

文乃 (成幸くん、今度きれいに手刀をキメてやるから覚えてろ、だよ)

260以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:15:42 ID:LAfruxaA
………………

関城 「あっ……、あのうどん、緒方理珠が好きそうよね」

成幸 「ん? ああ、正統派のうどんって感じだな。たしかに好きそうだ」

関城 「せっかく来たわけだし、食べてみようかしら」

関城 「写真を撮って送ってあげたら、緒方理珠の奴喜ぶかしら」

成幸 「ああ、そりゃいいな。俺もどれか買って写真送ってやろうかな」

関城 「……よく考えたら、緒方理珠の心境を考えれば、私たちは目一杯楽しまないといけないわね」

成幸 「へ……?」

関城 「だってそうでしょ? 自分が行けなかったから私たちが楽しめなかった、なんてことになったら、」

関城 「緒方理珠はきっと申し訳ない気持ちでいっぱいになるわ」

成幸 「!? それもそうだな。じゃあ、俺たちは今日、目一杯楽しんだ風を装わなければならないのか」

成幸 「そうと決まれば善は急げだ。俺は別のうどんを買ってくるから、またここ集合な」

関城 「わかったわ、唯我成幸。これ以上ないってくらいうどんフェスティバルを楽しんでる写真を撮らなくてはね!」

261以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:17:05 ID:LAfruxaA
………………物陰

文乃 「何事か囁きあって別れたね。また集合するみたいだけど……」

理珠 「?」

文乃 「ああ、別々の屋台に並んだよ。それぞれ食べたいうどんを買ってるみたいだね」

理珠 「……それをシェアしたりするのでしょうか」

文乃 「えっ、いや、たぶんあのふたりのことだから、それはないと思うけど……」

理珠 「きっとするんでしょうね」

ズーン

理珠 「何と言ったって、あのふたりは恋人同士なのですから……」

文乃 (自分で言ったことで勝手にへこまないでほしいかな!?)

文乃 (まぁ、でもこれではっきりするかな)

文乃 「あのふたりが恋人同士なんてありえないって。見てれば分かるよ」

理珠 「そうでしょうか……」

262以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:18:12 ID:LAfruxaA
………………

成幸 「………………」

関城 「………………」

成幸 「……うどんを目一杯楽しそうに撮るって、どうしたらいいんだ?」

関城 「あなたたち以外まともに友達のいない私に分かるわけがないでしょう」

成幸 「悲しいことを自慢げに言うなよ……」

成幸 「とりあえず普通にうどんだけ撮って送るか。……いや、」

成幸 「関城、うどんの器を持て」

関城 「へ? いいけど……」 スッ

成幸 「で、笑え。良い感じに」

関城 「い、良い感じって……」

パシャッ

成幸 「……ん、まぁいいだろ。これを緒方に送る」

成幸 「ついでに、お前も俺を撮れ。ほら」 スッ

263以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:19:06 ID:LAfruxaA
………………物陰

ピロリン

理珠 「……関城さんと成幸さんからメッセージが届きました」

理珠 「写真付きです」

理珠 「今まさにふたりが仲睦まじく撮り合ってたお互いの写真です」

文乃 (……成幸くんほんと今度覚えてろよ、だよ)

理珠 「すごく楽しそうに見えます……。これも見間違いですか、文乃?」

文乃 「いや、それは……」

ピロリン

理珠 「……今度は、食べてる最中の写真です」

理珠 「美味しそうにうどんをすする関城さんと、鶏天にかぶりついてる成幸さんの写真が送られてきました」

理珠 「これは私に送るための写真というよりは、おふたりの思い出を保存するためのものなのではないですか?」

ズーーーーン

理珠 「やっぱり、本当に楽しそうです……」

文乃 (ほんと覚えてろよ成幸くん……) ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

264以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:20:04 ID:LAfruxaA
………………

関城 「……ねぇ、唯我成幸」 ズルズルズル……

成幸 「うん?」 ズルズルズル……

関城 「なんかこうしてご飯食べながら写真を撮るって、本当に友達みたいね」

成幸 「なんだいきなり。そりゃ友達なんだから当たり前だろ」

関城 「……え、ええ。そうね」

関城 (……私って、やっぱり面倒くさい人間だわ)

関城 (こうして確認しないと、相手が本当に友達って思ってくれてるか分からないんだから)

成幸 「……緒方の奴、これで俺たちふたりだけでも楽しかったって伝わるかな」

成幸 「でも、あいつのことだから、写真のうどんを店の参考にしたいとか言い出しそうだな」

成幸 「ちゃんと味の記録とかもつけておいてやらないとな」

関城 「ふふ、そうね。あと二、三杯は食べなくちゃいけないわね」

成幸 「そうだな。ゆっくり美味しそうなの食べて回ろうかね」

265以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:21:01 ID:LAfruxaA
関城 「………………」 ジーーーッ

成幸 「……? どうかしたか、関城。じっとこっちを見て」

関城 「……うん。唯我成幸、その鶏天美味しそうね。少しちょうだい?」

成幸 「いいけど……。口つけちゃってるぞ?」

関城 「そんなの気にしないわよ。だって私たち友達なんでしょう?」

成幸 (こいつ、友達って言葉を神格化しすぎてないか……?)

成幸 「ほら、取って食べて良いぞ」

関城 「ん、ありがとう。……はむっ……あら、結構美味しいわね」

成幸 「だろ? お前のうどんのスープ、少しもらってもいいか」

関城 「どうぞ。好きなだけ飲んだらいいわ」

成幸 「じゃあお言葉に甘えて、と……」

成幸 「ん、うまいな。でも緒方んちのうどんの方が好みかな」

関城 「奇遇ね。私も同じ事を思っていたわ」

266以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:21:59 ID:LAfruxaA
………………

成幸 「ふぅー、美味しかった。でもまだまだ食べられるな」

関城 「量自体はそう多くないし、リーズナブルだものね」

成幸 「次はどんなうどんにするかなぁ。こうやってシェアすれば倍の味が楽しめるな」

関城 「じゃあ、私は今度はあの青森ミルクカレーうどんって奴にしようかしら」

成幸 「ん、じゃあ俺は、山梨ほうとう風うどんにしようかな」

関城 「………………」 (なにかしら。本来の趣旨から外れまくっている気がするけれど)

成幸 (うーん、本当なら緒方を楽しませるために来るつもりだったのに、)

関城&成幸 ((普通に楽しい……))

関城 「あ、せっかくだし空っぽの器も撮っておこうかしら」

成幸 「いいな、それ。じゃあせっかくだし一緒に撮るか」

パシャッ

267以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:23:47 ID:LAfruxaA
………………物陰

理珠 「………………」 ズーン

理珠 「……完食後のきれいに空になった器を持ったツーショットが送られてきました」

文乃 「ち、違うよ? きっとふたりは来られなくなっちゃったりっちゃんのためを思って写真を送ってくれてるんだよ」

理珠 「そうでしょうか。でも、このメッセージを見る限りそうは思えません」


―――― 『緒方理珠! うどんフェスティバル、とっても楽しいわ!』

―――― 『あなたがいなくても私たちふたりはとっても楽しめてるから、心配しないでね!』

―――― 『PS.食べ物をシェアするのって楽しいのね! 色んな味が楽しめてオススメよ!』


文乃 「………………」 (ああ、どうしよう……)

シュッシュッ……

文乃 (今度会ったら紗和子ちゃんにもこの必殺の手刀をお見舞いしてしまうかもしれない……)

文乃 (あっ、紗和子ちゃんと成幸くんが別れた。またうどんを買いに行くのかな……?)

文乃 (このままじゃりっちゃんがダークサイドに落ちてしまう。わたしがなんとかしないと……)

文乃 「……りっちゃん、ちょっと待っててくれる? ちょっとお手洗いに行ってくるから」

268以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:25:40 ID:LAfruxaA
………………

成幸 「………………」 (……どうしよう、楽しい)

成幸 (受験生ってのもあって、最近まともに遊んでないせいかな……)

成幸 (友達との食べ歩きって、やっぱり楽しいよな。関城って、過激なところもあるけど基本的には常識人だし)

成幸 (たぶん一緒にいて楽ってのもあるんだろうな……)


  「……さて、お話聞かせてもらってもいいかな、成幸くん?」


成幸 「へ……? って、古橋!? なんでここに!?」

文乃 「なんでだろうね? それは正直わたしが一番聞きたいんだけど……」

文乃 「……とりあえず、お話を聞かせてもえるかな?」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 「ひ、ひょっとして、怒ってる?」

文乃 「ううん、怒ってないよ。これっぽっちも怒ってないよ……」

文乃 「紗和子ちゃんとツーショット写真を撮ったこととか、全然怒ってないよ?」

成幸 「うそつけ! 絶対怒ってるだろ!?」

269以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:26:23 ID:LAfruxaA
………………

文乃 「……なるほど。よくわかったよ」

文乃 「つまり、成幸くんと関城さんが楽しそうな写真をりっちゃんに送ったのは、」

文乃 「りっちゃんに対する嫌がらせではなく、りっちゃんのためを思ってのことなんだね」

成幸 「と、当然だろ! 緒方のことだから、お店の都合で来られなくなったことに罪悪感を抱いているだろう?」

成幸 「その罪悪感を少しでも減らしてやろうと、緒方がいなくても楽しくやってるよって写真を送ってたんだよ」

文乃 「うん。わたしもそんなところだろうと思ってはいたけどね」

文乃 「……実はいま、この会場に、りっちゃんが来ています」

成幸 「へ!? 緒方が!? だってあいつ、お店の都合で来られないって……」

文乃 「嘘も方便、のつもりだったんだろうね、りっちゃんとしては」

文乃 「なんでそんな嘘をついたかっていうと、君と紗和子ちゃんに遠慮したからだよ」

成幸 「遠慮?」

文乃 「うん。早い話が、りっちゃんは君と紗和子ちゃんが付き合ってるって勘違いをしているんだよ」

270以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:27:55 ID:LAfruxaA
成幸 「は、はぁ!? 俺と関城が付き合ってる!?」

文乃 「勘違いの経緯はともかく、そんな勘違いをしているりっちゃんが、」

文乃 「君たちから送られてくる、とても楽しそうな、ある種ラブラブな写真をどう受け止めたと思う?」

成幸 「か、勘違いに拍車がかかりそうだな……」

文乃 「うん。と、いうことで、お店の用があるっていうりっちゃんのうそは、君たちを思ってのことだから、許してあげてほしいな」

文乃 「その上で、どうにかりっちゃんを君たちと一緒にしてあげられないかな」

文乃 「……りっちゃんはすごく頑なになってて、成幸くんたちの前に姿を現す気はないみたいなんだよ」

成幸 「……うーん、そうだなぁ」

成幸 「………………」

成幸 「……よし。一芝居打とう。関城には俺から説明するから、古橋、お前も協力してくれ」

文乃 「一芝居?」

成幸 「ああ。まずは緒方の勘違いを正すところから始めないとな……」

271以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:28:38 ID:LAfruxaA
………………物陰

文乃 「おまたせ、りっちゃん」

理珠 「ああ、文乃。戻ってきてくれたんですね」

理珠 「長いこといなくなってしまったから、私に愛想を尽かして帰ってしまったのかと思いました……」

文乃 「そんなことしないよ。ちょっとトイレが混んでてね、なかなか入れなかったんだ」

文乃 「で、ふたりの様子はどう?」

理珠 「うどんを買ってきて、ふたりで食べています。やっぱり楽しそうです」

文乃 「……本当かなぁ」

理珠 「えっ……?」

文乃 「本当にふたりが仲良しで、ラブラブで、楽しそうかどうか、」

文乃 「もっと近くで見てみない? りっちゃん」

272以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:30:17 ID:LAfruxaA
………………

関城 「………………」

成幸 「………………」

ピロリン

成幸 「……!」 ボソッ (……古橋から合図のメッセージが来た。始めるぞ、関城)

関城 (わ、わかったわ)

成幸 「……っあー、やっぱり、お前とふたりだけじゃ、つまらないなー」

関城 「そうねー。やっぱり、緒方理珠がいないと、つまらないわねー」

成幸 (うぅ……こんな説明的な台詞を、大声で言わなきゃいけないのか……)

成幸 (自分で思いついたこととはいえ、恥ずかしすぎる……)

成幸 「緒方がここにいてくれたらなー、きっとうどんももっと美味しくなるだろうになー」

関城 「本当だわー。あーあ、緒方理珠と一緒にうどんを食べたかったわー」

273以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:31:02 ID:LAfruxaA
………………物陰

文乃 「……だってさ。聞こえたよね、りっちゃん」

理珠 「わ、私がいないと、つまらない……?」

理珠 「あれは本当ですかね、文乃?」

文乃 「まぎれもない本心だと思うよ?」

理珠 「で、でも、やっぱり、ふたりは私がいなくても楽しそうでしたし……」

理珠 「ツーショット写真を撮るくらいラブラブなふたりが、私を必要とするとはとても……」

文乃 「………………」

プツン

文乃 「……うん。あのね、ちょっと本音で喋らせてもらうよりっちゃん」

理珠 「へ? 文乃?」

文乃 「わたしも、早く、いろんな、うどんを、楽しみ、たいんだよ、りっちゃん」

文乃 「だ・か・ら」

文乃 「さっさとふたりのところ行って謝って仲間に入れてもらってこーい!!」

ドン!!!

274以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:31:50 ID:LAfruxaA
理珠 「わっ……わわわっ……」

関城 「緒方理珠!」

成幸 「緒方!」

理珠 (な、何をするのですか文乃ー! 文乃が押したせいで、ふたりの目の前に飛び出してしまいました!)

理珠 (わ、私は、どんな顔をしてこのふたりと顔を合わせれば……)

成幸 「良かった! お店の都合が済んだんだな!」

理珠 「へ……?」

関城 「それでここに来られたのね! 良かったわ!」

理珠 「い、いえ、その……」

成幸 「ほら、緒方。ここ座れよ」

関城 「ここのおうどん、結構美味しいわよ。食べてみて」

理珠 「あ……えっと、あの……」 カァアア…… 「あ、ありがとう、ございます……」

275以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:33:11 ID:LAfruxaA
………………物陰

文乃 「……ふぅ。まぁ、変に関係がこじれる前に修復できて良かったよ」

文乃 (……ふふ、でも、こういう言い方したら、三人とも怒るかもしれないけど、)

関城 「ち、ちょっと落ち着いて食べなさい、緒方理珠。うどんは逃げないわよ」

理珠 「はむはむはむ……むぐむぐ……」

成幸 「ダメだ、聞きゃしねぇぞ。俺、水もらってくるから、関城は緒方を見ててやってくれ」

関城 「任されたわ!」

文乃 (……成幸くんがお父さんで、紗和子ちゃんがお母さん。りっちゃんが小さな娘さんみたい)

文乃 「……さて、わたしもいくつかうどん食べて帰ろうかな」

文乃 「あの三人にとっては、わたしは本当にお邪魔虫だろうし……――」

成幸 「――……あ、いたいた! おい、古橋。なんでそんなところで隠れてるんだよ」

文乃 「へ……?」

成幸 「お前も一緒に会場回るだろ? いま関城が緒方のこと見ててくれてるから、一緒にいてやってくれ」

成幸 「お腹が空いてたんだろうな。緒方がすごい勢いでうどんを食べてて手がつけられないんだ」

276以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:34:01 ID:LAfruxaA
文乃 「………………」

文乃 「……わたしも、ご一緒してもいいの?」

成幸 「はぁ? 当たり前だろ? っていうか、今日はお前に迷惑かけたみたいだな。すまん」

成幸 「いつもありがとな、古橋師匠」

文乃 「……まぁ、わたしにかかればこれくらいのすれ違い、すぐ解消可能ってもんだよ」

文乃 (……えへへ、そっか)

文乃 (成幸くん、わたしも、誘ってくれるんだ……)

文乃 「……じゃあ、お言葉に甘えて、ご一緒しちゃおうかな」

文乃 「さっきから、メガ盛りMAXスタミナうどんっていうのが気になってるんだよね」

成幸 「……? お前、ダイエット中じゃないのか?」

文乃 「………………」

文乃 「……何か言ったかな? かな? 成幸くん?」 シュッシュッ

成幸 「何も言ってない! 何も言ってないから手刀の素振りをやめろ!」

277以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:35:14 ID:LAfruxaA
………………

理珠 「………………」

ズルズルズル……モグモグモグ……ゴックン……

理珠 「……あの、関城さん」

関城 「ん? 何かしら?」

理珠 「じ、実は今日、お店の都合っていうのは、本当は……――」

関城 「――……なんか、気を遣わせちゃったみたいね」

理珠 「……?」

関城 「でも、それ空回りよ。だからこれからは、あんまり自分ひとりで思い詰めない方がいいと、私は思うわよ」

理珠 「……はい。その通りだと思います。今日もいっぱい、迷惑をかけてしまいました」

関城 「でも、私も同じだもの。同じように空回りして、あなたや唯我成幸たちに迷惑をかけてばかりね」

ニコッ

関城 「私たち、似たもの同士ね」

理珠 「……はい。本当に、そう思います」

278以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:37:12 ID:LAfruxaA
理珠 「あ、あの、ひとつだけ確認させてください」

関城 「何?」

理珠 「関城さんは、成幸さんのことを、その……好き、だったりは……」

関城 「しないわ。少なくとも異性として意識したことなんて一度もないわ」

理珠 「そ、そうですか……」 ホッ 「よかったです」

関城 「へぇえ……」 ニヤリ 「“よかった” ってどういう意味かしら、緒方理珠?」

理珠 「へぇ!? い、いや、それは……その、べつに、大した意味じゃ……」

関城 「……ま、今はいいわ」

関城 「でも、どうして “よかった” って思ったのかは、しっかりと考えておきなさい」

関城 「いつかきっと、それがあなたにとって、とても大切なものになると思うから」

理珠 「……私にとって、とても大切なもの……」

関城 「いつか、わかるといいわね」

関城 (……そのときに、願わくは。この大親友が、笑っていられますように)

関城 (緒方理珠が、唯我成幸の隣で、幸せそうに、笑っていられますように)

おわり

279以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:37:59 ID:LAfruxaA
………………幕間 翌日  なぜ?

文乃 「………………」

ズーン

文乃 「な、なんで体重増えてるの……!?」

文乃 「だって昨日は、スタミナうどんに豚キムチうどん、」

文乃 「かつとじうどんにスペシャルとろろうどん、天ぷらうどん天ぷら全乗せ、」

文乃 「他諸々……しか食べてないのに!」

文乃 「……なぜ???」


おわり

280以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 21:41:12 ID:LAfruxaA
>>1です。
読んでくださった方、ありがとうございます。

理珠さんメインで書くつもりでした。
が、どちらかというと、関城さんメインになってしまいました。
わたしがいかに関城さんが好きか改めて認識した次第です。

また理珠さんメインで書くつもりです。
うるかさんメインもそろそろ投下できると思います。

また投下します。よろしくお願いします。

281以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/03(水) 12:26:33 ID:MmlrOR5E
おつである

282以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 00:40:24 ID:BlhIJ9pQ
>>1です。
投下します。



【ぼく勉】うるか 「あたし、がんばるからね。成幸」

283以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 00:41:27 ID:BlhIJ9pQ
………………夏休み後半 武元家

うるか 「………………」

ガリガリガリガリ……

うるか 「……ふー。つかれたー」

うるか (長文読解は本当に苦手だなぁ。見てるだけで頭がガンガンしてくるし)

うるか (でも、今日だけでかなり進んだし、理解も深まった気がする)

うるか 「……えへへ、成幸、褒めてくれるかなぁ」

ポワンポワンポワン…………


『うるか、よくやったな』

『偉いぞ。これはご褒美だよ』

『……ふふ、可愛い奴め』

『なんだ? もっと欲しいのか?』

『じゃあ、この続きは家に帰ってからだな』

『覚悟しておけよ、うるか』

284以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 00:42:12 ID:BlhIJ9pQ
…………ポワンポワンポワン

うるか 「……なんてね! なんてね! なんてね!!」

うるか 「………………」

うるか 「……もう少しがんばったら、もっと褒めてくれるかな」

うるか (すごく眠い、けど……)

うるか (夏の大会も終わったし、国体までまだ時間もあるし……)

うるか (いまのうちに、できるだけがんばらないとだよね)

うるか 「よし、もう一題だけ、がんばろう!」

ピロリン♪

285以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 00:42:43 ID:BlhIJ9pQ
うるか 「ん? メール? ……!?」

うるか (成幸から!?)


『夜中に悪い』

『お願いしたいことがあるんだ』

『今度の週末、ちょっと付き合ってくれないか?』


うるか 「へ……?」

うるか 「………………」

うるか 「……えええぇええええええ!!??」

286以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 00:43:41 ID:BlhIJ9pQ
………………週末 駅前


―――― 『突然わるい。チビどもがプールに行きたいって言い出してさ』

―――― 『折良く母さんが職場で市営プールの優待券をもらってきて』

―――― 『母さんは仕事があるし、水希は部活があるし、俺しか一緒に行ってやれないんだけど』

―――― 『俺、泳げないだろ? もしものとき、チビたちを助けられないからさ』

―――― 『もしうるかが大丈夫なら、一日俺とチビたちに付き合ってくれないか?』

―――― 『泳ぎのスペシャリストのうるかがいれば、俺としては安心できるんだけど……』


うるか 「………………」

うるか (……好きな男子にそんな風にお願いされたら、断れるわけないじゃんねえ)

うるか (っていうか、まぁ、弟妹くんたちはいるにしても、渡りに舟っていうか……)

うるか (カタチはどうであれ、成幸とプールデートってことに変わりはないわけで……)

287以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 00:44:28 ID:BlhIJ9pQ
うるか (海っちと川っちにお願いして、水着選び手伝ってもらったし……)

うるか (な、成幸、この水着見てどう思うかな)

うるか (かわいいとか、きれいとか、え……ええ、えっちとか、思ってくれるかな……)

うるか (なんてねなんてねなんてね!! 何考えてるんだろ、あたし……)


  「あ! おねーちゃんだー!」  「おねーちゃんだー!」


タタタタタ……

ポフッポフッ

うるか 「んあ? おお、弟妹クンズじゃないかー」 ギュッ

和樹 「今日はよろしくな、おねーちゃん!」

葉月 「よろしくね!」

うるか 「うん、よろしくね!」

うるか (ち、小さい成幸を見てるみたいで、カワイイよぅ……)

288以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 00:45:05 ID:BlhIJ9pQ
成幸 「い、いきなり走り出すなよ、お前ら……」

うるか 「あ、成幸。どしたん? フラフラだけど」

成幸 「和樹と葉月が急に走り出すから、追いかけたらな……」

うるか 「運動不足すぎだよー。まったくもー」

成幸 「面目ない……」

うるか (……はぅ〜〜〜〜〜〜〜。フラフラな成幸もかわいいよぅ……)

成幸 「待たせて悪かったな。来てくれてありがとう。助かるよ、うるか」

うるか 「う、うん。気にしなくて良いよ。あたしも(成幸と)市営プール行きたかったし」

和樹 「ねーねー、早く早くー」  葉月 「プールいこー! 兄ちゃん、おねーちゃん!」

グイグイ

成幸 「わ、わかったから、引っ張るなよ」

成幸 「悪いな、うるか。今日一日こんな感じになるけど……」

うるか 「全然オッケー! 楽しそうだし問題ないよ!」

うるか 「さ、おチビちゃんたち、プールにレッツゴー!」

和樹&葉月 「「ゴー!」」

289以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 00:45:57 ID:BlhIJ9pQ
………………電車内

和樹 「プール、プール♪」 葉月 「プール、プール♪」

うるか 「ふたりとも楽しそうだねぇ。プールが本当に嬉しいんだ」

和樹 「うん! 市営プールってなかなか行けないからね!」

葉月 「スライダー乗れるかなぁ……楽しみ……」

成幸 「……この前話しただろ? うち、親父がいないからさ」 コソッ

成幸 「和樹も葉月も、プールってあんまり行ったことがないんだよ」

うるか 「ああ、そっか……」

グッ

うるか 「じゃあ、今日は目一杯楽しませてあげなくちゃね!」

成幸 「……ああ。ありがとな、うるか」

うるか 「うん!」

290以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 00:46:48 ID:BlhIJ9pQ
………………市営プール 入り口

成幸 「じゃあ、葉月の着替え、頼むな」

成幸 「たぶん俺たちの方が先に着替え終わってると思うから、入り口付近で待ってるから」

うるか 「うん、わかった! じゃあ行こうか、葉月ちゃん」

葉月 「うん!」


………………更衣室

うるか 「お着替えひとりでできる?」

葉月 「うん、大丈夫よ! うんしょ、うんしょ……」

ヌギヌギ……

うるか (大丈夫そうかな。じゃあ、あたしも早く着替えて、と……)

うるか 「………………」

ドキドキドキドキ……

うるか (普段、競泳水着しか着てないから、こういう水着を自分が着るんだって思うと……)

うるか (やっぱりちょっと緊張するな……)

291以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 00:48:22 ID:BlhIJ9pQ
葉月 「おねーちゃん?」

うるか 「へ……? あ、ごめんごめん、お姉ちゃんもすぐ着替えるね」

うるか (でも、海っちと川っちに付き合ってもらったし……)

うるか (成幸に見せるため、成幸にみせるため、成幸に見てもらうため……)

スルスルスル…………

うるか 「ん……。ん?」

うるか (……しまった。普段、競泳水着しか着ないから、想定してなかったけど、)

うるか (背中のヒモを結ぶタイプの水着、む、結ぶの、ちょっと難しい……)

うるか (試着の時は川っちに結んでもらったから気づかなかったけど……)

うるか (まずい)

葉月 「? おねーちゃん、ひも、うまく結べないの?」

葉月 「結んであげようか?」

うるか 「本当に? じゃあお願いしようかな……」

292以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 00:48:58 ID:BlhIJ9pQ
キュッキュッ……ムギュッ

葉月 「結べたわよ〜」

うるか 「ありがとう、葉月ちゃん」

葉月 「………………」

フムフムフム……

うるか 「葉月ちゃん?」

葉月 「おっぱいもおしりも大きくて、日焼けも健康的ね。体力もあるし……」

葉月 「兄ちゃんが料理も上手って言ってたし、すごく理想的なお嫁さんだわ」

うるか 「へ? へ? へ?」

葉月 「おねーちゃん、兄ちゃんのお嫁に来ない?」

うるか 「なっ、なななな、何を言ってるのかなー!?」

うるか 「ほ、ほら、成幸も和樹くんも待ってるだろうし、行くよ、葉月ちゃん」

葉月 「はーい」

うるか (成幸のお嫁さん……) カァアアア…… (望むところだけど、まだ早いよぅ……///)

293以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 00:49:46 ID:BlhIJ9pQ
………………

うるか 「おーい、成幸ー、和樹くーん」

葉月 「兄ちゃーん」

成幸 「お、着替え終わったのか。意外と早かったな……って……」

成幸 「!?」

うるか 「成幸……? どしたん? 目逸らしちゃって……」

うるか (こ、これは、間違いない……!)

うるか (効いてる!!)

成幸 「い、いや、なんでも、ない……ことも、ない、けど……」

成幸 「い、いつもの水着じゃないから、びっくりして……。いや、当たり前か、あはは……」

和樹 「兄ちゃん?」  葉月 「顔真っ赤ね。大丈夫?」

成幸 「だ、大丈夫だよ。さ、混雑する前に、ビニールシート敷いて場所取りしに行くぞ」

294以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 00:50:23 ID:BlhIJ9pQ
成幸 (び、ビキニ、っていうのかな、ああいう水着……)

成幸 (先輩の水着姿はこの前見たけど……うるかのこういう水着姿って、なんていうか……)


―――― 『ほー 緒方や武元くらいないと物足りないってか?』


成幸 (なまじ中学の頃から知ってるだけに、余計になまめかしいというか……)

成幸 (やっぱり、先輩より肉付きがよくて、大きいというか……)

成幸 (!? って俺は何を考えてるんだ!? 和樹と葉月のために一日潰してくれてるうるかに、)

成幸 (俺はなんてヨコシマでひどいことを考えてるんだ……!)

うるか 「……成幸? 大丈夫?」

成幸 「お、おう、大丈夫大丈夫。な、何も問題ないぞ。水着似合ってるぞ、うるか。可愛いぞ。きれいだ」

うるか 「ふぇっ……!?」

成幸 「……!?」

成幸 (勢いよく口から勝手に言葉が飛び出したー!)

成幸 (場合によってはセクハラになりかねん! 早く訂正を……!)

295以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 00:50:56 ID:BlhIJ9pQ
成幸 「い、いや、その……今のは……――」

うるか 「――嬉しい」

成幸 「え?」

うるか 「すごく嬉しいよ、成幸。ありがと……」

成幸 「あ、ああ。ど、どういたし、まして……」

うるか 「えへへ……///」

うるか (……がんばってこの水着にしてよかった〜〜〜! 海っち川っちありがとー!!)

葉月 「ねぇねぇ」 コソッ

和樹 「ああ」

葉月 「うるかおねーちゃんは、嫁の最有力候補、と……」 メモメモ

和樹 「ぜってー兄ちゃんのこと好きだぜ、あれ」

葉月 「問題は、それでも気づかない兄ちゃんの鈍さなのよね〜」

296以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 00:52:54 ID:BlhIJ9pQ
………………子ども用プール

パシャパシャパシャ

和樹 「冷たくてきもちーなー!」

葉月 「えへへ、お風呂よりひろわー!」

うるか (まだふたりとも小さいもんね。子どもプールくらいしか入れないよね)

成幸 「悪いな、うるか。泳げるお前にはフラストレーションがたまるかもしれないけど……」

うるか 「ううん、全然。むしろ、泳ぐことも勉強も忘れられてボーッとしてられるよ」

うるか 「にひひ。それに、成幸じゃこの浅いプールでも溺れちゃうかもしれないしね」

成幸 「ああ。その可能性は十分にあると思う」 ゴクリ

うるか (じ、冗談のつもりだったんだけどな……)

葉月 「兄ちゃん、兄ちゃん」

成幸 「うん?」

バシャッ

成幸 「ぶわっ……、み、水……?」

297以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 00:53:49 ID:BlhIJ9pQ
和樹 「えへへ、兄ちゃん、スキありだぜ!」

成幸 「お前たち〜〜、やったなー!」

葉月 「きゃー、兄ちゃんが追いかけてくるわー!」

バシャバシャ……キャッキャッ……

うるか 「………………」

クスッ

うるか 「……楽しそう。あたしまで楽しい気分になってくるよ」

うるか 「こちらこそ、一緒に来させてくれてありがとう、だよ」


―――― 『……ちょうど武元に出会った頃 中学の入学式の数日前だったかな』

―――― 『親父が死んだんだ』


うるか 「………………」

うるか (ああやって、お父さんの代わりみたいなことを、ずっとしてきたんだよね)

298以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 00:54:44 ID:BlhIJ9pQ
うるか (……成幸はすごいなぁ。なんか、すごく申し訳ない気持ちになってきたよ)

うるか (あたし、成幸と一緒にプールに行けるって、浮かれて、はしゃいで……)

うるか (あたしは、学校も水泳も、好きに選ばせてもらって……)

うるか (がんばれることだけがんばって、今までフツーに生きてきたんだ)

うるか (そんな間もずっと、きっと、成幸はこうやって……)

うるか (誰かのためにがんばってきたんだろうな)

うるか (それに引き換え、あたしは……――)


  「――うるか」


うるか 「へっ……?」

バシャッ

うるか 「わひゃっ、冷たっ……」

299以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 00:55:16 ID:BlhIJ9pQ
成幸 「何ボーッとしてるんだよ、らしくもない」

成幸 「一緒に遊ぼうぜ」

うるか 「………………」 クスッ 「……よーし、やったなー、成幸ぃー!」

うるか 「うるかちゃんに喧嘩をふっかけたこと、後悔させてやるぜー!」

バシャバシャバシャバシャ

成幸 「うおっ!? さ、さすがは武元うるか、すごい水量だ……!」

葉月 「兄ちゃん兄ちゃん、このままじゃ負けちゃうわ」

和樹 「よーし、じゃあおれは強い方につくぜー!」

成幸 「そこで裏切るのかお前は!?」

葉月 「じゃあわたしもうるかおねーちゃんにつくわ」

成幸 「葉月まで!?」

バッシャァアーーン

成幸 「ごふっ……!?」

ブクブクブク……

うるか 「……成幸!? 子ども用の浅いプールで本当に溺れてる!?」

300以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 00:55:47 ID:BlhIJ9pQ
………………木陰

成幸 「うぅ……やっぱり、水は苦手だ……」

うるか 「ご、ごめん、成幸。ちょっとやり過ぎちゃった……」

葉月 「気にしなくていいのよー、うるかおねーちゃん」

和樹 「逆に、どうやったらあんなに浅いプールで溺れられるのか知りたいぜ」

成幸 「まったく、面目ない……」

成幸 「すまん、うるか。俺は少しここで休んでるから、チビどもをお願いしてもいいか?」

うるか 「それはいいけど、成幸はひとりで大丈夫?」

成幸 「ああ、俺のことは気にしなくていい。悪いけど、頼めるか?」

うるか 「もちろん。そのために今日はここに来てるんだから」

うるか 「じゃ、葉月ちゃん、和樹くん、いこっか!」

和樹&葉月 「「うん!」」

301以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 00:56:38 ID:BlhIJ9pQ
………………

トコトコトコ……

葉月 「あのね、うるかおねーちゃん」

うるか 「うん?」

葉月 「兄ちゃんね、あんな風に情けなくて、弱っちいところもあるけど、」

葉月 「それでもね、すごく格好いいところもあるのよ」

葉月 「だから、ああいうところを見ても、幻滅しないでほしいな、って……」

うるか 「……うん。大丈夫。そんなのわかってるって」

うるか 「あたしは成幸と中学生の頃からの付き合いだからね」

うるか 「あたしだって、いつも成幸のお世話になってるんだから」

和樹 「……うむ」 コソッ

葉月 「これはもう、うるかおねーちゃんが嫁に来たら全部解決なんじゃないかしら」 コソッ

和樹 「あとは、水希姉ちゃんがどういう反応をするかだな」

和樹 「もしうるかおねーちゃんの方がお料理が上手だったりしたら、」

葉月 「荒れるわね。間違いなく」

302以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 00:57:15 ID:BlhIJ9pQ
うるか 「……?」 (何をコソコソ話してるんだろう……?)

うるか 「ん? あっ……」


『浮き輪、レンタルできます』


うるか 「………………」

和樹 「おねーちゃん?」

うるか 「ねえ、和樹くん、葉月ちゃん、少しだけ深いプール、行ってみよっか」

葉月 「?」

うるか 「あ、おじさーん、子ども用の浮き輪ふたつ貸してー!」

303以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 00:58:50 ID:BlhIJ9pQ
………………流れるプール

葉月 「わ、わわ……」

和樹 「足がつかない……!」

うるか 「大丈夫だいじょーぶ。浮き輪があるから沈まないからね」

うるか 「それに、いざとなったらうるかお姉ちゃんがついてるよ」

葉月 「うん……」

プカプカプカ……

和樹 「すげぇ。プールが川みたいに流れてる……」

うるか (人がたくさんいるから、ぶつからないように気をつけないと……)

うるか (それに、万が一のこともあるから、絶対ふたりから目を離さないように……)

うるか (……きっと、成幸はずっと、こうやってこのふたりの面倒を見てきたんだろうな)

304以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 00:59:30 ID:BlhIJ9pQ
葉月 「足つかなくても怖くないわね」

和樹 「うん! うるかおねーちゃんがいるもんな」

うるか 「にひひ、嬉しいこと言ってくれるじゃないのー」

うるか 「じゃあ、ちょっとだけスピードアップするよ。しっかり浮き輪につかまって」

和樹&葉月 「「?」」

うるか 「それー!」

葉月 「きゃーっ、すごい勢いだわー!」

和樹 「すげー! もっともっとー!」

うるか (ふたり同時に浮き輪を押すって、結構疲れるんだね……)

うるか (ん……少し前が空いた。これなら……)

うるか 「よーし、しっかりつかまってるんだよー!」

うるか 「少しだけ、このうるかちゃんの本気を見せてあげようかなー!」

ザブン……ビュン!!!

305以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 01:00:24 ID:BlhIJ9pQ
葉月 「ひゃっ……!」

和樹 「うおー!? めちゃくちゃ速い!?」

うるか 「えへへ、そうだろうそうだろう? これがうるかちゃんの泳ぎの力だー!」

バシャバシャバシャ……

うるか (って言っても、顔は出したままだし、周りの迷惑になっちゃうからちょっと足動かしてるだけだけど)

うるか (でも、ふたりとも楽しそうでよかった……)

ハラリ……

うるか 「ん……?」

うるか 「!?」 (こ、このそこはかとない開放感は……)

うるか 「………………」

うるか (やっぱりトップスがない!? え、うそ……どこ……? 流された……!?)

葉月 「おねーちゃん?」 和樹 「どうかしたの?」

うるか 「う、ううん。なんでもないよ」

うるか (まずい! 浮き輪を持っていないとふたりが流されちゃう!)

うるか (胸を手で隠すこともできないし、肩まで水に浸かって誤魔化すしかない……)

306以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 01:01:26 ID:BlhIJ9pQ
うるか (水着を探すどころの話じゃない。とりあえず、ふたりをプールサイドに上げて……)

うるか 「……ふたりとも、ちょっと一回、プールを上がろうか」

葉月 「? まだ入ったばっかりよ?」

和樹 「もう少し入ってたいなぁ……」

うるか 「うっ……」

うるか (……まぁ、そうだよね)

うるか 「………………」


―――― 『……この前話しただろ? うち、親父がいないからさ』

―――― 『和樹も葉月も、プールってあんまり行ったことがないんだよ』

―――― 『じゃあ、今日は目一杯楽しませてあげなくちゃね!』


うるか (……成幸にふたりをお願いされてるんだ。だったら、あたしは、)

うるか (水着の上がないくらいで、泣き言なんか言ってられないよ!)

307以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 01:02:05 ID:BlhIJ9pQ
うるか 「よーし、じゃあもう何周かしちゃおうかー!」

うるか (回ってれば、きっと水着も見つかるだろうし……)

葉月 「わーい! するわするわー!」

和樹 「おねーちゃん、おねーちゃん、またバシャバシャって速いのやってよー!」

うるか 「よしきた。じゃあ、人がいなくなって、前が開けたら……それ!」

バシャバシャバシャ

葉月 「きゃー」 和樹 「わーい!」

うるか (大丈夫。大丈夫。水に肩まで浸かってれば、きっと誰にもバレない……)

うるか 「………………」

うるか (バレてない、よね……?)

308以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 01:04:27 ID:BlhIJ9pQ
………………

葉月 「お水つめたーい」 ポー

和樹 「太陽あったかーい」 ポー

うるか (……しばらく流れるプールを周回したけど、ふたりとも疲れてきてる感じかな)

うるか 「そろそろプール上がろうか? ふたりとも疲れてるみたいだし」

葉月 「うん、上がるわ」  和樹 「ノドも乾いてきたしなー」

うるか 「……!?」

うるか (そうだ。このふたりはまだ小さな幼児だ)

うるか (幼児がノドの乾きを訴えるって、熱中症一歩手前だって救急救命(※)の講習で言ってたっけ……)

うるか (ど、どど、どうしよう。プールサイドにふたりを上げれば、当面の危険はないけど、)

うるか (このまま水分を取らせられなかったら、最悪、熱中症に……)

うるか (かといって、この人混みでふたりだけで成幸のところに行かせるわけにはいかないし……)


>>1の経験則ですが水泳部はソレ系の講習を受けることがままあります。

309以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 01:06:09 ID:BlhIJ9pQ
うるか 「………………」

うるか (こうなったらもう仕方ないよね)

うるか (恥ずかしいけど、ふたりの安全には代えられないモン)

うるか (あたしが恥ずかしい思いをする程度で済むなら、それでいい)

うるか (み、見られて減るもんじゃないし! べつに、いいし……)

葉月 「……おねーちゃん?」

うるか 「あっ……ご、ごめんごめん。じゃあ、行こうか……――」


  「――……そんな格好でどこ行くってんだよ、うるか」


うるか 「へ……? 成幸!?」

和樹 「兄ちゃん!」

成幸 「悪い。てっきり子ども用プールにいると思ってたから、探すのに手間取った」

成幸 「ずっとひとりでチビたちのお守りをさせて悪かったな」

成幸 「ほら、和樹、葉月。プールから上がるぞー!」

ザバァ

310以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 01:07:02 ID:BlhIJ9pQ
成幸 「ほら、飲み物。ふたりとも、これ飲んでそこで少し待ってろよ」

葉月&和樹 「「はーい!!」」

成幸 「……ってことで、」

ザブン

成幸 「うおお……足がつくって分かってても、水流があるから少し怖いな……」

成幸 「っていうか、一度でも足を滑らせたら俺は溺れるからそこんとこよろしく」

うるか 「じゃあなんでプールに入ってきたの!?」

成幸 「……これに決まってるだろ」 コソッ

うるか 「これって……あ、あたしの水着!?」

成幸 「お、大きな声出すなよ。俺だって恥ずかしいんだから……」

成幸 「さっきお前たちを探してるときに、偶然排水溝にひっかかってるのを見かけたんだよ」

成幸 「お前の水着に見えたから、もしかして、と思って持ってきたんだ」

311以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 01:07:51 ID:BlhIJ9pQ
成幸 「違ったら落とし物センターに届けようと思ってたけど……」

カァアアアア……

成幸 「その様子じゃ、本当にお前のみたいだな……」

うるか 「……!? な、成幸のえっち! こっち、見ないでよ……」

成幸 「見てねえよ。それより、早く受け取れよ、水着」

うるか 「う、うん……」

うるか 「ありがと、成幸……」

成幸 「いや……」 カァアアアア…… 「い、いいから、早くつけろよ」

うるか 「うん……」

スルスルスル……

うるか 「……ねえ、成幸」

成幸 「うん?」

うるか 「水の中だし、あんまり後ろで結ぶのも慣れてないからさ、」

うるか 「背中のヒモ、結んで?」

312以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 01:08:29 ID:BlhIJ9pQ
成幸 「!? い、いや、それは、ちょっと……」

うるか 「……じゃあ水着つけないままプールから上がれって言うの?」

成幸 「わ、わかったよ! 結ぶよ!」

うるか 「ひゃうっ……」

うるか (な、成幸の手が、背中に……///)

成幸 「ん……こんな感じでいいのか……? こう、っと……」

うるか 「ひゃんっ」

成幸 「へ、変な声出すなよ!」

うるか 「だ、だって、成幸が背中をまさぐるから……」

成幸 「仕方ないだろ! 見ないようにして結んでるんだから!」

成幸 「……よし。これでいいだろ。大丈夫そうか?」

うるか 「……うん。大丈夫。ちゃんと結べたみたいだよ」

うるか 「……ありがと、成幸」

313以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 01:09:51 ID:BlhIJ9pQ
成幸 「……いや、礼を言うのはこっちだよ。うるか。それに、謝らないとな」

成幸 「お前ひとりにあのふたりの世話を押しつけるようになってしまって、本当にごめん。悪かった」

うるか 「い、いいよいいよ。あたしも楽しかったし、」

うるか 「それに、あたしが勝手に浮き輪を借りて、流れるプールに入ったのが悪かったし……」

うるか 「成幸に一言いってからにすればよかったね。ごめんね」

成幸 「いや……それは大丈夫だよ。お前が責任持ってふたりを見ててくれたからさ、」

和樹 「めちゃくちゃ楽しかったなー!」 葉月 「ねー! またおねーちゃんにバシャバシャしてもらいたいわねー!」

成幸 「あのふたりは、安全に楽しく遊ぶことができたんだろうしさ」

成幸 「それに、お前、あのふたりのために、水着の上がないままプールから上がろうとしただろ」

うるか 「そ、それは……だって、ふたりに水分を摂らせなきゃって思ったから……」

成幸 「そこまでやってくれてさ、文句なんか言うわけないだろ。だから、本当にありがとう」

成幸 「あのふたりのお姉ちゃん代わりをしてくれて、本当に、本当にありがとう、うるか」

うるか 「うっ……」 ドキッ 「そ、そんな、お礼なんかいいよ……。あたしも、楽しかったから……////」

うるか (うぅ……。嬉しいなぁ。成幸に……大好きな男の子に、ここまで言ってもらえるなんて……)

うるか (嬉しいなぁ……)

314以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 01:10:48 ID:BlhIJ9pQ
………………帰路 電車内

葉月 「………………」 zzzzz……

和樹 「………………」 zzzzz……

成幸 (嬉しそうな顔しちまってまぁ……)

成幸 (幸せそうな寝顔だ。まぁ、今日一日目一杯遊んだからな。眠くもなるよな)

成幸 「ふぁーあ、俺も眠いや……」

うるか 「……いいよ。寝ても」

成幸 「ん……?」

うるか 「あたし、水泳部で鍛えてるからさ。駅についたら起こしてあげる」

うるか 「だから、寝てなよ。成幸も慣れないプールで疲れたでしょ?」

成幸 「あー……」

成幸 「……じゃあ、お願いしてもいいか?」

うるか 「うん。あたしは気にせず、ゆっくり寝たらいいよ」

315以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 01:11:24 ID:BlhIJ9pQ
………………

成幸 「………………」 zzzz……

うるか 「……成幸?」 ボソッ 「寝ちゃった……? かな」

うるか (さ、さすがに人もいるし……恥ずかしいけど……)


―――― 『ちょっとしたゲームみたいな感じで……姉弟ごっこを少々……』


うるか 「……文乃っちが、お姉ちゃん役をやったなら、あたしだって」

うるか 「少しくらい、いいよね……」

ドキドキドキ……

うるか 「………………」

ナデナデナデ

うるか 「……いつもがんばってて偉いね、成幸」

うるか 「今くらいは、うるかお姉ちゃんに甘えても、いいんだよ……?」

ポフッ

うるか 「……うん。うるかお姉ちゃんの肩を貸してあげるから、ゆっくりおやすみ。成幸」

316以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 01:12:14 ID:BlhIJ9pQ
うるか 「………………」

うるか (……あたし、もっと勉強がんばらないと)

ゴソッ

うるか (あたしは、だって、成幸よりはるかに恵まれた環境にあるから)

うるか (あたしは、水泳だけがんばっていればいいなんて、そんなわけないんだ)

うるか (何もかもに一生懸命な成幸の隣に立つつもりなら、)

うるか (ううん。奥さんとして、成幸の傍にい続けるつもりなら、)

うるか (あたしは、もっともっとがんばらないと。甘えてなんかいられないんだ)

ペラッ……ペラッ……

うるか 「……待っててね、成幸」

うるか 「あたし、がんばるから」

うるか 「いつか、成幸の隣で、成幸のことを支えてあげられるように」

うるか 「あたし、がんばるからね。成幸」


おわり

317以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 01:12:59 ID:BlhIJ9pQ
………………幕間

水希 「……!?」

ピキューン

水希 「……今、誰かがお兄ちゃんの奥さんになる決意を固めた気がする!」

花枝 「部活から帰ってきてすぐ何言ってんのあんた」

花枝 「あたしも仕事で疲れてるんだから勘弁してね」

水希 「……!?」

ピキューン

水希 「またひとり、お兄ちゃんの“お姉ちゃん”を自称する女が現れた気がする!」

花枝 「うんうん。お母さんはあんたの将来がただただ心配だわー」



おわり

318以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/04(木) 01:16:35 ID:BlhIJ9pQ
>>1です。
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>308の※は余計かとも思いましたが一応つけました。
物語をもう少し工夫できれば必要ないものだと思います。申し訳ないことです。

うるかさんの話も無事投下できたので、これでメインヒロインは一通り書いたかなと思います。
(理珠さんの話はやや関城さんに浸食されていたので微妙かもしれません)。
また思いついた話を書き上げられた順番で適当に投下していこうと思いますので、よろしくお願いします。

また折を見て投下します。見てくれたら嬉しいです。

319以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/05(金) 12:42:58 ID:qxoAiXSU
先生の妹がいるじゃないか!

320以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/05(金) 18:53:30 ID:6FwYPcrQ
古橋さんのことお姉ちゃんと思ったままだっけか

321以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/06(土) 01:00:11 ID:7gBWQ9QA
>>1です。
投下します。


【ぼく勉】成幸 「愛してます」

322以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/06(土) 01:02:28 ID:7gBWQ9QA
………………一ノ瀬学園 職員室 昼休み 「愛してるゲーム」 直後

真冬 「………………」

真冬 (……一体何だというの)

真冬 (唯我くんは一体なぜあんなことを言ったというの)


―――― 『えっと……あ……あぅ……』

―――― 『愛してます……』


真冬 「ッ……」

ガツン……!!!!

鈴木先生 「!? き、桐須先生……?」

佐藤先生 「急に頭を机に打ち付けて、大丈夫ですか?」

真冬 「え、ええ。全く問題ありません」

真冬 「文部科学省学習指導要領改訂の第四次答申について考えていたら、つい熱が入ってしまって」

真冬 「お騒がせしてしまい、申し訳ありません」

323以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/06(土) 01:03:16 ID:7gBWQ9QA
鈴木先生 「さ、さすがは桐須先生……」

佐藤先生 「新しい学習指導要領への対応もばっちりというわけですね……!」

真冬 「……ふぅ」 (なんとかごまかせたわね)

真冬 (まったく、唯我くんは、何をバカなことを……)


―――― 『愛してます……』


真冬 「ぐっ……」

ガツン……!!!!!!!!

鈴木先生 「今度はすごい勢いで後頭部を壁に打ち付けましたけど!?」

佐藤先生 「大丈夫ですか!?」

真冬 「え、ええ。まったくもって、問題ありません」

真冬 (……唯我くん。どうして君の発言で私がこんなに心を乱されなければならないのかしら)

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

324以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/06(土) 01:04:14 ID:7gBWQ9QA
佐藤先生 (す、鈴木先生、桐須先生が静かに怒りを燃やしているぞ!) コソッ

鈴木先生 (きっと世界史の学習指導要領改訂の答申が気にくわなかったんですね!) コソッ

佐藤先生 (俺たちもしっかりと目を通さねば! 文科省の資料!)

鈴木先生 (っス!)

真冬 「………………」

真冬 (平常心。平常心よ、真冬。幸い私は午後、授業がない)

真冬 (放課後に唯我くんを指導するまでには、時間的余裕があるわ)

真冬 (それまでに彼の意図と、彼をどのように教え導くべきか、考える時間はたっぷりある)

真冬 (……待っていなさい唯我くん。君を、教師としてしっかりと指導してあげるわ)


―――― 『愛してます……』


真冬 「ふんっ……!!!」

ガツン……!!!!!!

佐藤先生 「こ、今度は拳を壁に叩きつけたぞ!?」

鈴木先生 「よっぽど腹に据えかねることがあったんですね!」

325以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/06(土) 01:06:40 ID:7gBWQ9QA
………………五時間目授業中 職員室

真冬 「……はぁ」

真冬 (意気込んだはいいものの、具体的にどうしたらいいのか全くわからないわ)

真冬 (彼がどういう意図であんなことを言ったのか、冷静に分析する必要があるわね)

真冬 (……ひょっとしたら、愛という言葉には、私が知らないだけで、)

真冬 (若者特有のスラングのようなものが含まれている可能性があるわね)

カタカタカタ……

真冬 (……ネットで調べても、特に、そういったことは見つからないわね)

真冬 (愛。国語辞書で改めて調べる……必要はないわね)

真冬 (……もしも)

真冬 (もしもよ)

真冬 (もしも、唯我くんが、さっきの言葉を本気で言っていたとしたら……)

真冬 (……私は本当に、どう指導したらいいというの!?)

326以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/06(土) 01:07:22 ID:7gBWQ9QA
………………廊下

真冬 (生徒とはいえ、男性から好意を向けられたときにどうしたらいいかなんて……)

真冬 (……ダメよ。私に分かるわけがないわ)

真冬 (……どうしたらいいかしら。誰かに相談すべきかしら)

真冬 (学園長……却下。その他の男性教諭……却下)

真冬 (ならば……女性教諭しかないけれど……)

真冬 (………………)

真冬 (……“あの人” は空いてるかしら)

真冬 (体育科教官室、行ってみようかしら……)

327以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/06(土) 01:08:22 ID:7gBWQ9QA
………………体育科教官室

真冬 「失礼します」

? 「ん……? ああ、桐須先生。こっちに来るなんて珍しい」

? 「またなんか提出してない書類でもあった? だとしたら悪いね」

真冬 「……いえ、そういうわけではないのですが、」

真冬 「ちょっと、先生にご相談したいことがあるのですが……」

真冬 「少しよろしいでしょうか、滝沢先生」

滝沢先生 「ん、私に相談? 桐須先生が?」

滝沢先生 「珍しいことがあるもんだね。明日は雨かな」

真冬 「そ、そんなに言うほどですか……?」

滝沢先生 「冗談、じょーだん。ごめんね。でも、あんまり人に相談するタイプじゃないと思ってたから意外でさ」

滝沢先生 「幸い他の先生は授業で出払ってるし、」

滝沢先生 「テキトーに座んなよ。お茶でもいれるからさ」

328以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/06(土) 01:09:16 ID:7gBWQ9QA
………………

滝沢先生 「……で? 相談ってなんだい?」

滝沢先生 「わざわざ私のところに来るってことは、あんまり男性教諭に聞かれたくないようなことだろうけど」

真冬 「え、ええ。まぁ、そうなのですが……」

真冬 「……今から話す内容を、ご内密に願えますか?」

滝沢先生 「私はそんなにお喋りじゃないよ。桐須先生が口外してほしくないことは誰にも言わない。約束するよ」

真冬 「はい……。では、言いますが……」

真冬 「……あの、その……男子生徒に、ですね……」

滝沢先生 「うん」

真冬 「……先ほど、その……『愛してる』という旨の言葉を、かけられてしまって……」

滝沢先生 「………………」

真冬 「それで、その……どうしたらいいか、考えあぐねてしまって……」

真冬 「先生にこうして、相談に乗ってもらえればと思いまして……」

滝沢先生 「……驚いた」

真冬 「え、ええ。私も驚いてしまって、どうしたらいいかわからなくて……」

329以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/06(土) 01:10:10 ID:7gBWQ9QA
滝沢先生 「いやいや、そこに驚いたんじゃなくてさ……」

真冬 「えっ……?」

滝沢先生 「勝手なイメージだけど、桐須先生が男子からそんなこと言われたら、」

滝沢先生 「一瞬で一刀両断にしそうだと思ったからさ」

滝沢先生 「そんな風に顔を真っ赤にして言葉を詰まらせてるとさ、」

滝沢先生 「……ギャップっていうのかな。すごく可愛く見えて驚いたんだよ」

真冬 「か、かわ……っ!? っていうか、顔を赤くしてなんか……――」

滝沢先生 「――……ほい、手鏡」 スッ

真冬 「や、やめてください!」

滝沢先生 「ははっ、ごめんごめん。でも、うちの武元並にかわいいよ、桐須先生」

真冬 「それは教員としては嬉しくありません!」

330以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/06(土) 01:10:44 ID:7gBWQ9QA
滝沢先生 「……にしても、愛してる、ねぇ」

滝沢先生 「桐須先生にそんなことを言う度胸がある男子生徒だったら、受け入れてもいい気がするね」

真冬 「何を言ってるんですか! 教師としてそんなことはありえません!」

滝沢先生 「ま、そりゃそうだ」

滝沢先生 「……私も昔はそんな経験あったけどね」

滝沢先生 「当たり前だけど、何人か振ってやったよ」

真冬 「や、やはり。滝沢先生も同じような経験をされているのですね!」

滝沢先生 「というか、桐須先生みたいな美人が、今までそういうことがなかったのが逆に不思議だけど」

滝沢先生 「高校生ってのは微妙なお年頃でね。ちょっとしたことで惚れたなんだで忙しいもんだよ」

滝沢先生 「桐須先生みたいにきれいな年上に憧れてる男子は多いだろうね」

真冬 「わ、私はそんな、生徒が憧れるような存在では……」

滝沢先生 「先生がどうでも、生徒は勝手に憧れるんだよ」

滝沢先生 「……ま、仕方ないことさ」

331以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/06(土) 01:11:25 ID:7gBWQ9QA
真冬 「私はどうしたらいいのでしょうか」

滝沢先生 「断るしかないだろう。もちろん、断らなくてもいいけど、教師としてはオススメできない」

真冬 「どうやって断ったらいいか、教えていただけたら……」

滝沢先生 「それはできないね。だって、私は桐須先生がどこの誰に告白されたのか知らないし、」

滝沢先生 「知ってたとしても、その生徒との関係性を知らない。だから、断り方なんて分からない」

真冬 「うっ……」

滝沢先生 「生徒は人間だよ。その人間と相対するとき、誰に対しても同じような指導はできないだろう?」

滝沢先生 「……というか、しちゃいけないんだ」

滝沢先生 「だから、それは、その生徒との関係性を考えて、適切と思える断り方をするしかないんだ」

滝沢先生 「……告白された、桐須先生自身がね」

滝沢先生 「桐須先生が自分で考えた言葉なら、生徒は受け入れてくれるさ」

真冬 「そうでしょうか……」

滝沢先生 「……もし、桐須先生が、その相手をできる限り傷つけないようにしたいと考えているなら、それは難しいよ」

真冬 「えっ……」

332以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/06(土) 01:11:55 ID:7gBWQ9QA
滝沢先生 「断るってのは、傷つけるってことだよ。“傷つけたくない” ってのは、“傷つきたくない” ってことさ」

滝沢先生 「気を持たせるようなことは言わず、すっぱりさっぱり、振ってやるしかないさ」

真冬 (“傷つけたくない” ……そう。私は、たしかに、唯我くんに対してそういう気持ちを持っている)

真冬 (できることなら、傷つけたくない。彼が、すごく良い子であるということを、私は知っているから)

真冬 (でも、傷つけない答えは、言えない。傷つけないように断ることは、できない……)

真冬 (なら、私は……)

真冬 「……そう。そうですね」

真冬 「ありがとうございます、滝沢先生。少し気が楽になりました」

滝沢先生 「そう? そりゃ何よりだ」

滝沢先生 「大変だと思うけど、がんばんなね、桐須先生」

真冬 「……はい」

333以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/06(土) 01:12:32 ID:7gBWQ9QA
………………放課後 生徒指導室

真冬 「………………」

ドキドキドキ……

真冬 (……大丈夫。大丈夫よ真冬。だって何回もシミュレートをしたもの)

真冬 (何回もシミュレートをして、簡単に、それこそただ断るだけというのが最適解だと分かったもの)

真冬 (だから、余計な言葉や、フォローはなし。いつも通り、スパッと言うことだけ言えばいい)

真冬 (唯我くんだからって特別扱いしてはいけない。唯我くんに適するカタチで、断ってあげればいいだけ)

真冬 (……大丈夫)

ドキドキドキ……

……コンコン

真冬 「!?」 (き、来たわね……)

真冬 「入りなさい」

成幸 「し、失礼します……」

334以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/06(土) 01:13:07 ID:7gBWQ9QA
真冬 「座りなさい」

成幸 「はい。失礼します」

真冬 「……さて、なぜ呼び出されたかは分かるわね」

成幸 「はい……」

真冬 「………………」

真冬 (……さぁ、言うのよ、真冬)

真冬 (ごめんなさい、と。私たちは教師と生徒。そういう言葉は交わされるべきではない、と)

真冬 (あなたの気持ちは受け入れられない、と)

真冬 (そう言って、それで……――)

成幸 「――あ、あの、桐須先生」

真冬 「は、はい」 ビクッ 「何かしら?」

成幸 「さっきはその、すみませんでした!」

335以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/06(土) 01:14:57 ID:7gBWQ9QA
真冬 「えっ……」

真冬 「あ、いや、べつに……その、謝らなくても、いいのだけど……」

成幸 「でも、桐須先生を困らせるようなことを言ってしまって……」

成幸 「本当にすみません……」

真冬 (す、すごく落ち込んでいるわ。これは想定外の反応だわ……)

真冬 (私に迷惑をかけてしまったことを、申し訳ないと思っているのね)

真冬 (こんなに落ち込んでいる唯我くんに、私、言えるの……?)

真冬 (……いや、それでも、言わなくてはいけない)

成幸 「すごく不快な思いをさせてしまったと思いますし、場合によってはセクハラになっても仕方ないようなことですし……」

真冬 「そ、そんなに気にするようなことではないわ」

真冬 「相手が嫌と思わなければセクハラではないのよ」

真冬 「私はこれっぽっちも嫌だと感じなかったし、あなたの気持ちは嬉しかったし……」

真冬 (……ん?)

真冬 「……!?」

336以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/06(土) 01:15:57 ID:7gBWQ9QA
真冬 (って、私は何を言っているの!?)

真冬 (お、おお落ち着きなさい真冬。落ち込む唯我くんを見ていて、つい我を忘れてしまっただけよ)

真冬 (だから、決して今のは私の本心というわけでは……)

成幸 「……? 嬉しかった? どういうことですか、先生?」

真冬 「え……?」

成幸 「……その、ゲームで、先生相手にふざけたことをしてしまったのが、嬉しいとは到底思えないのですが……」

真冬 「……ゲーム?」

成幸 「え、ええ。あの、あ……『愛してるゲーム』っていうんですけど、」

成幸 「相手に愛してるって言って、照れた方が負けってゲームなんです……」

真冬 「………………」

真冬 「……へぇ」

ゴゴゴゴゴゴゴ…………

真冬 「……なるほど。ゲーム。へぇ。さっきのはゲームだったと?」

成幸 (あっ……俺、たぶん死んだな……)

337以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/06(土) 01:18:27 ID:7gBWQ9QA
………………指導後 廊下

成幸 「……はぁ、ひどい目にあった」

成幸 「いや、まぁ俺が悪いから仕方ないんだけどさ……」

理珠 「あっ、成幸さん! ご無事でしたか」

成幸 「ん? 緒方、古橋、うるか。どうしたんだ?」

文乃 「大森くんたちから話を聞いてさ。桐須先生に呼び出されたって」

うるか 「大丈夫、成幸? なんかやらかしたんー?」

成幸 「あ、ああ、いや。気にしなくていいよ。大丈夫だったから」

成幸 (い、言えない! こいつらには、アホらしすぎて絶対に言えない!)

成幸 (桐須先生相手に 『愛してるゲーム』 をやったなんて、絶対に言えない!)

文乃 「……? 成幸くん、なんか隠し事してない?」

成幸 「へ!?」 ビクッ 「な、何もないよ? ないない。何もない」

文乃 「……ふーん」 ニコッ

文乃 (ちょっと、表、出ようか。成幸くん) アイコンタクト

成幸 (……は、はい。文乃姉ちゃん) アイコンタクト

338以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/06(土) 01:18:59 ID:7gBWQ9QA
………………指導室

真冬 「………………」

真冬 「……全部、私の独り相撲だった、ということね」

真冬 「ふふ。私らしい結末だわ」

真冬 (……恥ずかしい。私は、唯我くんが私に好意を向けているであろうと、勝手に思い込んで)

真冬 (あまつさえ、あんなことを……)


―――― 『私はこれっぽっちも嫌だと感じなかったし、あなたの気持ちは嬉しかったし……』


真冬 (……まったく、本当に私は一体なぜあんなことを言ってしまったのかしら)

真冬 (あんな言い方をしてしまったら、まるで私が唯我くんに……ゴニョゴニョ……と言われて、喜んでいるみたいだわ)

真冬 (……まったく。自分が嫌になる)

真冬 (そんなことあってはいけない。私と彼は教師と生徒。だから……)

真冬 (だから……?)

真冬 (……もしも、仮に、教師と生徒でなければ?)

339以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/06(土) 01:23:23 ID:b2POdDJY
ハッ

真冬 「な、何をバカなことを考えているの、私は」

真冬 「………………」


―――― 『愛してます』


真冬 「っ……」

ドキドキドキドキ……

真冬 (これは、驚いたことを思い出して、鼓動が早くなっているだけ……)

真冬 (そうでしかない。そうでないはずがない)


―――― 『愛してます』


真冬 「……あー、もうっ」

真冬 (……なのに、どうして)

真冬 「どうして、私は彼の言葉を思い出してしまうのよ……」

おわり

340以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/06(土) 01:24:02 ID:b2POdDJY
………………幕間の幕間  唯我家の日常

水希 (……ほぁぁ、お兄ちゃんにたくさん 『愛してる』 って言われちゃったよ)

水希 (もっと言ってもらえばよかったかな……)

水希 (ん……待って。よく考えたら……)

水希 (お兄ちゃんは、一体どこの誰から 『愛してるゲーム』 なんて教えてもらったんだろう)

水希 「………………」

ピキューン!!!!

水希 「女の気配がする……!?」

和樹 「はーい、水希姉ちゃーん」 葉月 「催眠術かけるからこっち向いてー」


おわり

341以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/06(土) 01:30:12 ID:b2POdDJY
>>1です。途中から諸事情でID代わっていますが>>1です。
読んでくださった方ありがとうございます。

問55で昼休みから放課後の間、多分桐須先生は思い悩んでいたんじゃないかと勝手に妄想して書きました。

滝沢先生の設定がほぼ手元にないので、ほとんど想像で書いています。
あまり、二次創作として好ましい話ではないと思います。
そもそも二次創作そのものが好ましいものではないかもしれませんが。
申し訳ないことです。
(滝沢先生は水泳部の顧問のあの女性の先生です)。


また投下します。

342以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/06(土) 08:47:14 ID:D85d6M/U
更新早くてうれしい

343以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/06(土) 21:01:10 ID:TkCuPoiY
毎回乙です

344以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/07(日) 05:42:34 ID:UW7lhD6w
少ししか出てない登場人物の名前とかまでよく調べてるな(謎の上から目線)

345以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/07(日) 20:16:02 ID:N1TkqDFg
>>1です。
投下します。



【ぼく勉】真冬 「また今度、ここで」

346以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/07(日) 20:16:39 ID:N1TkqDFg
………………メイド喫茶 High Stage

成幸 「そこ、前と一緒ですよ。物体が静止状態ってことは、力学的に釣り合ってるんです」

成幸 「だから、物体に働いている力を全部図示してしまえば、あとは計算するだけですよ」

あすみ 「ん……。重力と、押す力と、摩擦力……ああ、なるほど」

あすみ 「あとはそれぞれの力で方程式を立てればいいのか」

成幸 「そうですそうです。できたじゃないですか、先輩」

あすみ 「……よし。今の感覚を忘れないうちに練習問題いくつか解くわ」

あすみ 「悪いけど、解き終わったら採点してもらってもいいか?」

成幸 「わかりました」

ガタッ

成幸 「じゃあ俺はその間に店の掃除をしてますね」

347以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/07(日) 20:17:10 ID:N1TkqDFg
………………

あすみ 「今日も助かった、後輩。いつもありがとな」

成幸 「いえいえ。俺もバイト代もらいながら勉強できますし、お礼を言われるようなことじゃないですよ」

成幸 「どちらかと言えば、鷹揚な働き方を許してくれている店長やマチコさんたちに感謝ですね」

あすみ 「……ほんとにな」

成幸 「じゃ、今日はこれで失礼します。先輩は引き続きバイト、がんばってください」

成幸 「俺はあんまりここにいると、桐須先生に補導されちゃいますから」

あすみ 「“九時以降は” って言ってたじゃねぇかよ。まだ昼だぞ」

あすみ 「あの人、誤解されやすいけど、あんまり怖い人じゃないからな?」

成幸 「冗談ですよ。怖い人じゃないっていうのは、俺もよく知ってます」

あすみ 「……ん、そういえば、後輩に耳寄りな情報があるぜ?」

成幸 「なんです?」

あすみ 「この前とある事情でまふゆセンセと電話したんだけどな、」

あすみ 「……なんでも、“部屋を掃除してくれる男子” と良い仲らしいぜ、あの人」

成幸 「へ……?」




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