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【ぼく勉】小美浪先輩「この前は本当に悪かった」成幸「はい?」

1以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/10(月) 23:23:54 ID:w/7Zs4bc
………………海での一件から数日後 予備校

成幸 「なんです、藪から棒に」

小美浪先輩 「いや、メールでも謝ったけど、これだよ。ほれ」

成幸 (紙袋? 中身は……)

成幸 「あっ……ああ。これ、海で貸したシャツですね」

小美浪先輩 「いや、ほんと悪かったな。返すの忘れて先に帰って」

小美浪先輩 「メールでは大丈夫だったって言ってたけど、本当に大丈夫だったのか?」

成幸 「えっ、あー……」

成幸 (……帰りに乗せてもらった桐須先生の車の運転は、正直全然大丈夫ではなかったけど、)

小美浪先輩 「? 後輩?」

成幸 (それをこの愉快的な先輩に話したら、また桐須先生をからかうネタにしかねないし)

成幸 (わざわざ言うことではないな。よし)

小美浪先輩 「おーい、こうはーい。どうしたー?」

成幸 「……すみません。大丈夫でしたよ。海の家ですぐに新しいシャツを買えましたし」

小美浪先輩 「そ、そうか……」 ホッ

147以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:06:19 ID:SWSJNpPk
………………翌朝 学校 3-B教室

成幸 「………………」

グターッ

大森 「……? 唯我の奴どうしたんだ?」

小林 「なんでも、徹夜で本を読んじゃったらしいよ」

小林 「眠くて仕方ないから放っておいてくれってさ」

大森 「めずらしい。受験に命かけてる唯我が勉強以外でグロッキーなんて」

小林 「俺もまったく同感だよ」

成幸 「………………」 (めちゃくちゃ面白かった……)

成幸 (……そうだ。古橋に、この感動を伝えなきゃ)

成幸 (いや、違う。俺がただ単に、この本について語れる相手がほしいというだけだ)

成幸 (ぜひ、古橋と話したい……)

148以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:07:26 ID:SWSJNpPk
………………3-A

ピロン……

文乃 「うん……? 成幸くんからメッセージ?」


『大事な話がある』


文乃 「へ……?」


『今日の昼休み、いつもの場所に、ひとりで来てほしい』


文乃 「ふぇっ……?」


『頼む』


文乃 「い、一体なんだっていうの、かな……?」

文乃 「とりあえず、返信を、と……」


『どうしたの? どういう用件かだけ、今教えてくれない?』

149以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:08:24 ID:SWSJNpPk
鹿島 「? 古橋さん、どうかしたんですか〜」

文乃 「へっ? い、いや、何でもないよ、鹿島さ――」

――ピロン


『メッセージじゃだめなんだ』

『お前に会って、面と向かって、言いたいことがあるんだ』

『頼む。いま、お前に会いたくて仕方ないのを我慢してるくらいなんだ』

『昼休みより先なんて考えられない』


鹿島 「あら〜……」

文乃 「ち、違うからね!? きっとなんか、成幸くんとち狂ってるだけだからね!?」

鹿島 「まさかこんな熱烈なメッセージが来ているとは……」

鹿島 「わざとではないにせよ、勝手に画面を見てしまって申し訳ございません〜」

150以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:10:07 ID:SWSJNpPk
文乃 「違うからね!? 鹿島さんが考えてるようなことは何もないからね!?」

鹿島 「昼休みですね。いつも唯我成幸さんとの逢瀬に使っている場所ですね〜?」

鹿島 「誰も近づかないように見張っておきますので、ご安心くださいね〜」

文乃 「!? いつも成幸くんと話してるあの場所を知ってるの!?」

鹿島 「それはもちろん、いつも覗いていますから〜……って、これは内緒なんでした」 テヘペロ

文乃 「てへぺろじゃないよ! っていうか、えっ? えっ? えっ?」

鹿島 「ふふふ〜。私の相手なんかしてる場合じゃないですよね〜?」

文乃 「こんな熱烈なお誘い、どうされるおつもりですか、古橋姫?」

文乃 「……そ、そんなの……」

ドキドキドキドキ……

文乃 (こ、これって……どういうこと、なのかな……)

文乃 (そういうこと、なのかな……)

151以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:12:13 ID:SWSJNpPk
文乃 「い、いや、そんな、まさかぁ。きっと成幸くんのことだから、」

文乃 「何か間違えてるだけだって。水希ちゃんへのメッセージを間違えて送ってるだけとかじゃないかな」

鹿島 「実の妹にこんなメッセージを送っている方が問題と思いますが〜」

ピロン


『どうした? 今日は都合が悪いのか? だとしたら、無理を言って悪かった』

『明日でもいい。その先でもいい。できるだけ早く、お前に会える日を教えてくれ』

『時間は取らせない。古橋、お前に少し話があるだけなんだ』


文乃 「ふぁっ……」

カァアアアアア……

鹿島 「あらぁ〜」 ニヤァ 「しっかり名指しされちゃいましたねぇ〜、古橋さん」

文乃 「もっ、もうっ! 鹿島さんは向こう行ってて!」

152以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:13:40 ID:SWSJNpPk
文乃 「………………」

ドキドキドキドキ……

文乃 (こ、こんなの……)

文乃 「………………」

ピッ……ピッピッ……


『大丈夫だよ。昼休み、お昼ご飯持って、いつもの場所、行くね』


文乃 (とりあえず、これで……)

ピロン


『ありがとう。急に変なこと言い出して悪かったな』

『嬉しいよ。楽しみにしてるな』


文乃 「なっ……」

文乃 (何が楽しみだって言うの〜〜〜!?)

153以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:14:25 ID:SWSJNpPk
………………

鹿島 「……かくかくしかじか、ということがありまして〜」

蝶野 「なんと。そんなことがあったっスか」

猪森 「苦節数ヶ月。唯我成幸の方からその気になったのなら僥倖と言うべきか」

猪森 「そもそも、古橋姫の美貌を考えればなびかぬ方がどうかしている」

鹿島 「ふふふ♪ 私、いまから楽しみで仕方がありません」

鹿島 「いばらの会総力をあげて、唯我成幸さんの“大事な話”とやらを守ろうではありませんか〜」

蝶野 「当然っス。古橋姫の恋路を実らせる。それが目下の我々の目標っスから」

猪森 「幹部以外も総動員だ。メッセージの通達は我々で分担する」

猪森 「鹿島は作戦の子細立案を頼む。昼休みまでだが、いけるか?」

鹿島 「ふふ、当然です〜。私を誰だと思っているんですか〜?」

鹿島 「いばらの会リーダー、鹿島の名は伊達ではありませんよ〜」

154以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:15:35 ID:SWSJNpPk
………………3-B

成幸 (……しまったな。興奮してメッセージをたくさん送ってしまった)

成幸 (謝っておくか。いや、それでまたメッセージを重ねてしまっては本末転倒だ)

成幸 (っていうか、ちょっと小説の影響を受けてアメリカナイズなメッセージになってしまった……)

成幸 「……ま、古橋なら笑って許してくれるよな」

成幸 「はぁ〜。昼休みは古橋に会える……」 (そしてたくさん語り合える……)

成幸 「楽しみだなぁ」

小林 「!?」 (な、成ちゃん……!? とうとう、女の子と……!)

小林 (そうかぁ。成ちゃんは武元でも緒方さんでもなく、古橋さんを選んだのか……)

ホロリ

小林 「……智波ちゃんに、武元を慰める会を開いてあげてってメッセージ送っとかなきゃ」

大森 「………………」

ギリギリギリギリ……!!!

大森 「くそぉぉおおおおおおお! 俺の春はどこだぁあああああああああ!!!」

155以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:25:11 ID:SWSJNpPk
………………3-A

古橋 (うぅ……今日は幸いにして成幸くんと同じ授業はないけど……)

キリキリキリ……

古橋 (それが余計に昼休みまでの重圧を強くするよ……)

古橋 (一体全体、成幸くんは何を考えてあんなメッセージを送ってきたんだろう)

古橋 (それに、話があるって……何の話だっていうのかな)

古橋 (そっ、それに……)


―――― 『お前に会って、面と向かって、言いたいことがあるんだ』

―――― 『頼む。いま、お前に会いたくて仕方ないのを我慢してるくらいなんだ』


古橋 (なっ、何を言ってんの、もーっ////)

古橋 (……って、わたしったら、何を喜んでいるのかな)

古橋 「………………」

ハッ

古橋 (!? 喜んでるの!? わたしが!?)

156以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:26:23 ID:SWSJNpPk
桐須先生 「で、あるからして、当時の列強諸国はどの国もこういった政策を……」

桐須先生 「……?」

古橋 (わ、わたしが!? 唯我くんに情熱的なメッセージをもらって!?)

古橋 (喜んでるの!?)

桐須先生 「……古橋さん? 顔が真っ赤だけれど、調子でも悪いのかしら?」

古橋 (そんなわけないない! だって現に、胃がすごく痛いし!)

キリキリキリ……

古橋 (うん、痛い! 大丈夫! 痛いもん!)

古橋 (……いや、胃が痛くて喜んでどうするのわたし……)

桐須先生 「今度は真っ青よ? 百面相ね。というか、私の話を聞いてるかしら?」

古橋 (いや、でも……実際……)

古橋 (もし、成幸くんに……ゴニョゴニョ……されちゃったら、わたしは……――)

桐須先生 「――――古橋さん?」

古橋 「ひっ……!? き、桐須先生!?」

157以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:27:03 ID:SWSJNpPk
桐須先生 「私の授業なんて、聞く意味もないという確固たる意思表示かしら?」

桐須先生 「良い度胸ね……」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

古橋 「ち、違うんです! ちょっと、考え事があって……」

桐須先生 「ほぅ。私の授業より大事な考え事。とても興味深いわね」

桐須先生 「……話は後で聞かせてもらうわ。昼休み、生徒指導室に来なさい」

古橋 「へ……?」

古橋 「本当ですか!?」 パァアアアア

桐須先生 「不可解。なぜ嬉しそうなの、古橋さん」

古橋 「なんでもありません! 昼休み、生徒指導室ですね!」

古橋 (ただの対処療法なのは百も承知だけど!)

古橋 (これで、昼休みに成幸くんと会わない口実ができた!)

古橋 (いまの精神状態で成幸くんに会ったら、どうなるかわかったもんじゃないもんね!)

158以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:28:24 ID:SWSJNpPk
………………休み時間 3-B


『ということで、ごめん、成幸くん』

『昼休みは桐須先生に呼び出されてしまったので』

『会えそうにないです』


成幸 「………………」

ガクッ

成幸 「……まぁ、桐須先生に呼び出されたんじゃ仕方ないよな」

成幸 「大丈夫だ。気にするな……送信、と……」

ピッ

成幸 「はぁ……。残念だなぁ。会いたかったなぁ、古橋……」

小林 (寝不足のせいかもしれないけど、いろいろダダ漏れだよ成ちゃん……)

ガラッ

桐須先生 「時間厳守。五秒後にチャイムが鳴るわ。席に着きなさい」

成幸 (やべっ。次、桐須先生の授業か。準備しないと……)

159以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:29:44 ID:SWSJNpPk
………………

成幸 (……やばい)

成幸 (徹夜のツケが、こんなところで……)

成幸 (ねっっっっむい……)

桐須先生 「……と、いうことで、列強諸国の施策に対し、我が国は……」

成幸 (しかも古橋と会えないって分かって、少し落ち込んでるから……)

成幸 (余計に……眠い……)

成幸 (ッ……!) ブンブンブン (しっかりしろ、唯我成幸!)

桐須先生 「……? 唯我くん?」

成幸 (勉強をさせてもらっている学生という身の上で、授業中に寝るなど言語道断!)

成幸 (働いてくれている母さんにも! お弁当を作ってくれている水希にも申し訳が立たない!)

桐須先生 「唯我くん。聞いているのかしら? 唯我くん?」

成幸 (俺はVIP推薦をもらわなきゃならない! 授業中に寝ている暇なんか――)

桐須先生 「――……唯我くん?」

成幸 「ひっ……!? き、桐須先生!?」

160以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:31:07 ID:SWSJNpPk
桐須先生 「私の授業はそんなに退屈かしら、唯我くん?」

桐須先生 「世界史の授業に日本の歴史もまじえて、分かりやすく話をしていたつもりなのだけど」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 (し、しまった! 寝ないことに集中するあまり、授業を聞いていなかった!)

成幸 「ち、違うんです、桐須先生! ちょっと眠くて……」

桐須先生 「なるほど。私の授業は居眠りに最適な退屈な授業、と……?」

成幸 「!? そうじゃないんです、先生!」

桐須先生 「話は後で聞きます。昼休み、生徒指導室に来なさい」

成幸 「は、はい……。わかりました……」

成幸 (しょうがないよな。居眠りしそうになってた俺が悪いわけだし……)

成幸 「ん……?」

成幸 (桐須先生に呼び出された……? それって……)

161以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:41:04 ID:SWSJNpPk
………………昼休み 生徒指導室

文乃 「………………」

文乃 「ど、どうして……」

文乃 「どうして君まで生徒指導室に来るのかな!? 成幸くん!?」

成幸 「いや……ちょっと授業中に居眠りしそうになっちゃってさ……」

桐須先生 「喧噪。ここは生徒指導室よ。静かにしなさい、古橋さん」

文乃 「あっ……す、すみません……。つい……」

文乃 (……これほんとに、ほんとのほんとのマジのやつだー!!)

文乃 (成幸くんは本当にわたしに会いたくて会いたくて仕方なかったんだー!)

文乃 (だからわざと桐須先生に怒られるようなことをして……)

文乃 (生徒指導室に呼ばれてわたしに会おうと……)

文乃 (そっ、そこまでして……?)

文乃 (そこまでして、わたしに会いたかったの……?)

カァアアアア……

162以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:42:22 ID:SWSJNpPk
桐須先生 「あなたたちの今日の態度は、いくらなんでもだらけすぎです」

桐須先生 「普段の素行は問題ないので、今日はお説教と反省文だけで済ましますが、」

桐須先生 「今後も続くようであれば、本格的な生徒指導に入りますよ?」

桐須先生 「とにかく、しっかりとしなさい」

文乃 「は、はい……」

成幸 「返す言葉もありません。すみませんでした……」

桐須先生 「……よろしい。では、この原稿用紙に反省文を書きなさい」

文乃 (ほっ……。桐須先生には悪いことをしたけど、反省文で済んで良かった)

文乃 (先生の監督があれば、成幸くんとふたりきりになることはないだろうし……)

桐須先生 「書き終えたら、私に提出すること」

桐須先生 「書き上がらない場合は、放課後も残しますからそのつもりで」

桐須先生 「では、私は仕事があるので職員室に戻ります」

文乃 「へ……?」

163以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:43:18 ID:SWSJNpPk
文乃 「せ、先生!? 行ってしまうんですか!?」

桐須先生 「し、仕方ないでしょう? 私だって、他に仕事があるのだから……」

桐須先生 「古橋さん、あなた、今日は本当に変よ? 何かあったの?」

文乃 「何か、って……」 チラッ

成幸 「?」

文乃 (い、言えるわけねー!! だよっ!)

文乃 「……すみません。大丈夫です」

桐須先生 「そう? 何かあったらすぐに言いなさい」

桐須先生 「それじゃ、しっかりと反省文を書きなさい。いいわね」

ガチャッ……

文乃 (い、行っちゃった……)

成幸 「……さ、書くか」

文乃 (結局成幸くんとふたりきりだよー!)

164以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:44:02 ID:SWSJNpPk
………………

成幸 「………………」

カリカリカリ……

文乃 「………………」 ジーッ (……何か言い出すんじゃないかと身構えたけど、)

文乃 (身構えてたのがバカみたい。成幸くん、真面目に反省文書いてるだけだよ)

文乃 (やっぱりわたしの勘違いだったのかなぁ……)

成幸 「……よしっ。これでいいだろう」

文乃 「あっ、成幸くん、できたの?」

成幸 「おう。やってしまったこと。その原因。対策。しっかりと書いたからな」

成幸 「反省文の見本にしてもらっても恥ずかしくないくらいだぜ」

文乃 「ふふ。ほんと、面白いこと言うなぁ、成幸くんは」

文乃 (よかった。普通だ。この分なら、やっぱりわたしの勘違いだったんだね)

成幸 「俺が書き上がってるくらいだから、お前はもう書き上がってるだろ?」

成幸 「じゃあ、改めて、場所は違うけど、ここで話をしてもいいか?」

文乃 「へ……?」

165以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:44:59 ID:SWSJNpPk
成幸 「………………」 キリッ

文乃 (勘違いじゃなかったー!! めっちゃ真面目な顔してこっち見てるよー!)

文乃 「だ、だめだよ、成幸くん! わたしまだ書き上がってないから!」

文乃 (ほんとは君が書き上げるはるか前に書き上がってたけど!!)

成幸 「へ……? あ、そうなのか……」

シュン

成幸 「すまん……。てっきり、古橋はもう書き上がってると思ったから……」

文乃 「うっ……」

文乃 (成幸くん、君はなんて罪な顔をするんだい……?)

文乃 (そんなしょぼくれた顔しないでよ……。嘘ついたのがすごく悪いことに思えるよ……)

文乃 「……ち、ちなみに」

成幸 「ん?」

文乃 「話、ってどんな話なのかな? それだけでも、教えてくれると……」

文乃 (心の準備ができるんだけど……)

166以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:46:30 ID:SWSJNpPk
成幸 「いやいや、お前まだ反省文書き上がってないんだろ?」

成幸 「まずそれを終わらせないと、また桐須先生に怒られるぞ?」

文乃 「そ、そうだね」

成幸 「それに、メッセージでは“時間は取らせない”なんて言ったけどさ、」

ニコッ

成幸 「よく考えたら、すぐ終わりそうにないからさ」

文乃 (君は一体何を言うつもりなのー!?)

文乃 「………………」

文乃 (……いや、これは、もう確定的)

文乃 (成幸くんは、きっと、わたしに……ゴニョゴニョ……しようとしてるんだ)

文乃 (……で、でも、成幸くんには、りっちゃんとうるかちゃんがいるし)

文乃 (友達の好きな人と、なんて……だめ。わたしにはできないよ……)

167以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:47:40 ID:SWSJNpPk
成幸 「……古橋? えんぴつが動いてないぞ?」

文乃 (成幸くんを傷つけたくない)

文乃 (何より、成幸くんと気まずくなりたくない)

文乃 (成幸くんに勉強を教えてもらいたい)

文乃 (……だから、わたしは)

成幸 「古橋?」

文乃 (ずるい女だ、わたし……)

文乃 「……ねえ、成幸くん。ごめん」

成幸 「へ?」

文乃 「成幸くんがしようとしてる話を、わたしは聞けない」

成幸 「えっ……?」

成幸 「ど、どうして……」

168以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:48:41 ID:SWSJNpPk
文乃 「だって、それは……わたしにとって、本当に大事なものを裏切ることになるから」

文乃 「裏切ることにならなくても、傷つけることになってしまうかもしれないから」

成幸 「………………」

文乃 「……成幸くんの気持ちは嬉しいよ? でも……」

文乃 「わたしは、その大事なものを壊したくないんだ」

文乃 「……君も、その大事なもののひとつだから」

成幸 「古橋……」

成幸 「……すまん。俺が悪かった」

成幸 「安易な俺を許してくれ……!」

文乃 (わ、わかってくれたぁ……) パァアアアア

文乃 「ううん、いいんだよ、成幸くん」

文乃 「わたしの方こそごめんね。君の言葉すら聞いてあげられなくて」

文乃 「でも、君の気持ちは嬉しいから。それだけは覚えておいて」

169以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:49:22 ID:SWSJNpPk
成幸 「ああ、古橋……。俺は、なんて愚かなことをしようとしていたんだ……」

文乃 「いいんだよ。本当にごめんね」

成幸 「謝らないでくれ、古橋!」

ヒシッ

文乃 「ふぇっ……?」

文乃 「!?」 (何で!? どうしてわたしの手を取ってるのかな、成幸くん!?)

成幸 「お前にとって本当に大事な思い出だもんなぁ……!」

ポロポロポロ……

文乃 「ふぇっ!? 泣いてるの、成幸くん!?」

成幸 「うぅ……すまん。古橋……」

文乃 (泣くほど辛かったんだ……)

文乃 (……それなのに、わたしは)

文乃 (その想いを聞いてあげることすらできないって……)

文乃 (……それは、いくらなんでも、ひどい気がする)

170以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:50:07 ID:SWSJNpPk
文乃 (だってもし、わたしが将来……ゴニョゴニョ……するとき、)

文乃 (相手からこんな風に、言う前に拒絶されてしまったら、きっとショックだもん)

文乃 (だから、わたしは……。きちんと断ってあげないといけないんだ)

文乃 (断って……)


―――― 『かっこいいよな。古橋は』


文乃 (……どうして)

文乃 (どうして、旅館に泊まったときのことなんて、思い出してるの……)

171以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:51:10 ID:SWSJNpPk
文乃 (わたし……わたしは……っ)

文乃 (違う。断るのが怖いんじゃない。今までの関係が壊れるのが怖いわけでもない)



文乃 (――わたしが成幸くんの言葉を、拒絶できないって分かってるから、怖いんだ)



文乃 「………………」

文乃 「……いいよ」

成幸 「へ……?」

172以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:52:04 ID:SWSJNpPk
文乃 (それでも、わたしは……聞いてあげないといけない気がする)

文乃 (ううん。認めるのは怖いけど、認めてしまおう)

文乃 (わたしは、成幸くんの言葉が聞きたいんだ……)

文乃 「話して。大事な話があるんでしょ?」

成幸 「で、でも、それはお前にとって、とっても大切な……」

文乃 「……そうだよ。でも、聞いてあげたいって思うのも、本当のことだよ」

文乃 「わたしは今、君の言葉を聞きたいって思ってるんだよ」

173以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:53:36 ID:SWSJNpPk
成幸 「古橋……」

ジーン

成幸 「ありがとう、古橋。本当にありがとう」

成幸 「じゃあ、言ってもいいか?」

文乃 「うん。どんとこい、だよ」 (わたしは、きっと……)

文乃 (成幸くんの言葉を、受け入れて……――)



成幸 「―――――― 『天の光はすべて星』 読んだよ! めちゃくちゃ面白かったよ!」



文乃 「わ、わたし、わたしは……」


文乃 「………………」


文乃 「……は?」

174以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:54:40 ID:SWSJNpPk
成幸 「いや、本当におもしろくてさ!」

成幸 「昨日偶然図書館で見つけて読んでみたら止まらなくてさ!」

成幸 「徹夜で読んじまったよ! だから居眠りしそうになったんだけどな」

成幸 「お前と語り合いたくてさー。だから昼休みゆっくり話したかったんだけど……」

成幸 「でも、そうだよな。あの本、お前とお袋さんの思い出の本だもんな」

成幸 「俺みたいな、SFもそう詳しくない奴と話したくはないよな」

成幸 「気遣いさせて悪かったな。語り合えはしないまでも、感想だけでも言えてすっきりしたぜ」

文乃 「………………」

成幸 「……? 古橋? どうかしたか?」

成幸 「顔真っ赤だぞ? 手もプルプル震えてるし、涙目だし……」

成幸 「や、やっぱり、俺がこんな話するの、嫌だったか……?」

文乃 「……べつに、なんでも、ないですし」

175以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:56:00 ID:SWSJNpPk
成幸 「へ……? なぜ丁寧語?」

文乃 「なんでもないです。ほら、早く提出しに行くよ。成幸くん」

成幸 「え? でもお前、反省文書き上がって……る!? いつの間に書いたんだ古橋!?」

文乃 「うるさい。いいから。早く出しに行こう」

成幸 「な、何を怒ってるんだよ。古橋」

文乃 「怒ってないです。怒ってると思うなら、その原因を探してください」

成幸 「やっぱり怒ってるじゃないか!?」

文乃 「女心の練習問題だよ! 少しは自分で考えろバカー!」

176以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:57:18 ID:SWSJNpPk
………………放課後

成幸 「……なんていうか、今日は本当に悪かったな、古橋」

文乃 「その話はもうしないでって言ったでしょ」

成幸 「うっ……。わ、わかった……」

成幸 (結局、謝罪は受け入れてくれたようだけど、何に怒っているのかは未だに教えてくれていない)

成幸 (やっぱり、安易にお袋さんとの思い出に触れてしまったから、怒ってるんだろうか……)

ズーン……

成幸 (俺は無神経だ。古橋と同じように親父を亡くしている俺が、)

成幸 (古橋の気持ちを慮ってやれないなんて……。教育係失格かもしれん)

文乃 「………………」

文乃 (……はぁ。また変なこと考えてへこんでいるんだろうなぁ)

文乃 「……言っておくけど、成幸くんが『天の光はすべて星』を読んでくれたことは、すごく嬉しかったんだよ」

成幸 「え……?」

177以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:58:43 ID:SWSJNpPk
文乃 「……嬉しくないわけないでしょ」

文乃 「友達が、わたしの大切な思い出を話したこと、覚えてくれてて、」

文乃 「……本まで読んでくれるなんて。そんなの、嬉しいに決まってるじゃない」

成幸 「古橋……」

成幸 「ん……? だとすると、一体何に怒ってたんだ?」

文乃 「………………」

ツーン

文乃 「……知らない。自分で考えろ! だよ」

成幸 「なんでそこは教えてくれないんだ!?」

文乃 (……教えられるわけ、ないじゃん)

文乃 (君から……ゴニョゴニョ……されると思い込んでいたなんて)

文乃 (……そして、その言葉を、たぶん、期待してしまっていた、なんて)

文乃 (……言えるわけ、ないじゃん)

文乃 (成幸くんの、バカ)

おわり

178以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 21:59:32 ID:SWSJNpPk
………………幕間1 唯我家

水希 「……お兄ちゃんの様子がおかしいときは、メッセージのチェックをしないと」

水希 「ん……? 古橋さん宛に大量のメッセージが……」

『大事な話がある』
『今日の昼休み、いつもの場所に、ひとりで来てほしい』
『頼む』
『メッセージじゃだめなんだ』
『お前に会って、面と向かって、言いたいことがあるんだ』
『頼む。いま、お前に会いたくて仕方ないのを我慢してるくらいなんだ』
『昼休みより先なんて考えられない』
『どうした? 今日は都合が悪いのか? だとしたら、無理を言って悪かった』
『明日でもいい。その先でもいい。できるだけ早く、お前に会える日を教えてくれ』
『時間は取らせない。古橋、お前に少し話があるだけなんだ』
『ありがとう。急に変なこと言い出して悪かったな』
『嬉しいよ。楽しみにしてるな』

水希 「………………」 ニヤリ 「……へぇぇえ」

水希 「……さて、とりあえず、古橋さんと、“お話”しないと……」

ユラリ

水希 「ふふ……ふふふふ……」


※その後、誤解はちゃんととけました。

179以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 22:00:30 ID:SWSJNpPk
………………幕間2  いばらの道のいばらの会

鹿島&蝶野&猪森 「「「………………」」」 ニヤニヤニヤニヤ

文乃 「……なに? 鹿島さんたち」

鹿島 「いえいえいえ。残念でしたね、古橋さん〜」 ニコッ 「告白ではなくて」

文乃 「聞いてたの!? だってあそこ生徒指導室だよ!?」

蝶野 「ふふ、甘いっスよ、古橋さん」 キリッ 「桐須先生が怖くて我らの責務が果たせるか、っスよ」

猪森 「まぁ、放課後、生徒指導室に張り付いていたことについてみっちりお説教は受けたがな」

猪森 「しかし“氷の女王”恐るるに足らず! この程度で我々が反省すると思っ――」

桐須 「――ほう。まだ反省していないのね」 ゴゴゴゴゴ……!!!

鹿島&蝶野&猪森 「「「!?」」」

桐須 「三人とも来なさい。今日は最終下校時刻に帰れると思わないことね」

アアアアアーーーオタスケヲーーーオジヒヲーーー……ズルズルズル………

文乃 「……ふぅ」 (……あの三人がいないと)

文乃 (平和で、いい……)

180以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 22:01:16 ID:SWSJNpPk
………………幕間3 慰める会

海原 「うるか、元気出して!」

川瀬 「ああ。男は唯我だけじゃないぞ」

うるか 「へ……? へ? へ?」


おわり

181以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/17(月) 22:05:10 ID:SWSJNpPk
>>1です。
いつも読んでくださっている方、ありがとうございます。

今回、今までで一番楽しく書けました。
こんなことをわたしが言うのも大変恐縮な話ですが、
『天の光はすべて星』、読みやすくて面白いのでオススメです。
軽妙なかけ合いで物語が進むので、SF初心者の方でも読みやすいと思います。
興味があればぜひ。

うるかさんと理珠さんの話も書いています。
が、先に文乃さんの2つ目が書き上がってしまいました。
申し訳ないことと思います。

書いている最中興奮して、「文乃」が「古橋」になっていたりしますが、
脳内補完していただければ幸いです。

長くなりました。また投下します。
また読んでくれたら嬉しいです。

182以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/18(火) 14:03:33 ID:hvelzK5Q
眠かったり焦ったりすると自分が何やってるか分からなくなるからいいんじゃない?

183以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 01:20:45 ID:DUtC6N3c
>>1です。
ひとつ投下します。


【ぼく勉】文乃 「わたしはそれで満足だから」

184以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 01:21:54 ID:DUtC6N3c
………………十年後 春 喫茶店

文乃 「………………」

フゥ

文乃 「……遅いなぁ」

通行人1 「……わっ、すごい美人」

通子人2 「きれいな髪〜。肌も真っ白よ」

通行人3 「喫茶店でお茶をする姿も、様になってるなぁ……」

文乃 「……?」

文乃 (なにか分からないけど、じろじろ見られているような……)

?? 「……あっ、いたいた。悪い、待たせた。古橋」

文乃 「あっ……」 ハッ (し、しまった。嬉しそうな顔をしてしまったけど、ダメだよ)

文乃 (時間を守るのは社会人の基本。ここは厳しい顔をして叱ってあげなくちゃ)

文乃 「……も、もうっ。ダメだよ、成幸くん」

文乃 「時間、十五分も過ぎてるよ?」

185以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 01:22:43 ID:DUtC6N3c
成幸 「悪い悪い。会議が長引いてさ。許してくれよ」

成幸 「先生ってのはほんと、話好きな生き物だよ」

成幸 「みんな好き勝手喋るんだから、会議なんて終わるわけないよな」

文乃 「ふーん、だ。言い訳は聞きたくありませーん」

成幸 「だから、悪かったって……ごめん。パフェ奢ってやるから許してくれよ」

文乃 「パフェ!?」 パァアア……!!

ハッ

文乃 「……じゃない! そんなんじゃ誤魔化されないからね、成幸くん!」

成幸 「なんだよ。いま少し誤魔化されかけただろ」

成幸 「悪かったよ。俺は何をすればいいんだ?」

文乃 「………………」

文乃 「……つまで、……はし、って……ぶの?」

成幸 「へ? どうした? 全然聞き取れなかったんだけど……」

186以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 01:23:22 ID:DUtC6N3c
文乃 「っ〜〜〜〜〜〜〜〜」

文乃 「だ、だから!」

文乃 「……いつまで、古橋って呼ぶつもりなの、って……」

文乃 「……言ったんだよ。バカ」

成幸 「へ……? あっ」

成幸 「俺、古橋、って呼んでたか」

成幸 「すまん。えっと……」

成幸 「……ごめん。悪かったよ、文乃」

文乃 「っ……////」

文乃 「しっ、仕方ないから、今回は、それとパフェに免じて許してあげる」

成幸 「本当か? ありがたい」 ニコッ

成幸 「でも、遅れて本当に悪かったな。文乃」

文乃 「っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

187以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 01:24:05 ID:DUtC6N3c
………………

文乃 「……ん〜、美味し〜〜い! ここのパフェは絶品だよ!」

成幸 「喜んでもらえて何よりだよ。相変わらずよく食う奴だな」

文乃 「むっ……人を食いしん坊みたいに言ってぇ……」 モグモグ

成幸 「もぐもぐしながら喋るなよ。せっかくの美人が台無しだぞ?」

文乃 「びっ……美人、って……。な、何を言ってるのかな、まったく……」

成幸 「?」

文乃 「……で、今日は一体どんな用なのかな? いきなり呼び出すなんてめずらしいよね」

成幸 「ん……まぁ、ちょっと、な……」

成幸 「………………」

文乃 「……? うつむいちゃってどうしたの? 何か悩み事?」

188以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 01:24:58 ID:DUtC6N3c
成幸 「……まぁ、悩み事って言ったらそうだな」

成幸 「文乃ぐらいにしか話せそうになくてさ」

成幸 「というか、文乃に聞いてもらいたい話がある、というか……」

文乃 「わ、わたしに?」

成幸 「ああ。お前にしか言えないんだ」

文乃 「な、何の話かな?」

ドキドキドキドキ……

文乃 (これは、ひょっとして……ひょっとすると……)

文乃 (……いや。大体こういうときは、ただの早とちりで終わるんだ。だから、きっと……――)

成幸 「――……実は、結婚指輪のこと、なんだ」

文乃 「ふぇっ!? ほ、本当に!?」

成幸 「へ……? 何で驚いてるんだ、文乃?」

成幸 「俺まだ話してないだろ? 結婚指輪をなくしたこと……」

文乃 「へ……?」

189以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 01:25:39 ID:DUtC6N3c
文乃 「……? あっ」

文乃 (わたしは一体何を考えていたのだろう)

文乃 (どうして、こんな恥ずかしい勘違いをしていたのだろう)

文乃 (……目の前の、唯我成幸という男は)

文乃 (もうすでに結婚しているではないか)

文乃 (ああ、そうだ。そして、わかった。そうだ。どうして気づかなかったのかな)




文乃 (これは、夢だ)




文乃 (だから、記憶は曖昧で、目の前の成幸くんも少しぼやけていて、)

文乃 (わたし自身の輪郭も曖昧なんだ)

文乃 (これは、将来を思い描いた、わたしの夢だ)

文乃 (そしてその夢の中で、成幸くんはどこかの誰かと結婚しているのだ)

190以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 01:26:32 ID:DUtC6N3c
文乃 「……なくしちゃった? 結婚指輪を?」

成幸 「ああ。いつもは薬指にちゃんとつけてるからなくすはずはないんだ」

成幸 「でも、先週水泳の補習の監督を頼まれてしまってな」

成幸 「さすがにプールに入ることになるから、外したんだよ」

成幸 「でも、ちゃんとロッカーの中にしまったんだぜ」

文乃 「鍵は?」

成幸 「………………」

文乃 「……かけてなかったんだね」

成幸 「面目ない。まさかあの短時間でなくなると思わなかったんだよ」

191以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 01:27:29 ID:DUtC6N3c
文乃 「それで、一週間かけて毎日校内を探し回ったけど、見つからなかった、と」

成幸 「そうなんだよ。もう考えられるところは全部見たんだよ」

成幸 「でも、見つからなくて……」

成幸 「文乃だったら何か思いつくんじゃないかと思って、相談したんだ」

文乃 「そう言われてもねぇ……」

文乃 (一ノ瀬学園には、もう十年くらい戻っていない)

文乃 (……って、これは夢の中だから、実際は毎日登校しているのだけど)

文乃 (っていうか、夢の中のことに、わたしは何を必死になってるんだろ)

文乃 (どうせ夢から覚めたら忘れてしまうようなことなのに)

成幸 「うぅ……」

文乃 (……でも、)

ハァ

文乃 (放っておけないよね)

文乃 (わたしはこの人の、お姉ちゃんだから)

192以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 01:28:41 ID:DUtC6N3c
………………一ノ瀬学園

成幸 「悪い。学校まで来てもらって……」

文乃 「べつにいいよ。それより有給取って出てきてるのに、」

文乃 「職場に戻って大丈夫? 気まずくない?」

成幸 「それくらいは我慢するよ。仕事は全部終わらせてるから、先生方も文句はないだろ」

文乃 「ふーん……」

文乃 (……夢の中とはいえ、十年後の世界)

文乃 (なんか、わくわくするなぁ)

193以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 01:29:43 ID:DUtC6N3c
………………プール 男子更衣室

文乃 「ふむふむ。ここで水着に着替えたんだね」

成幸 「お前ってなんていうか、結構すごいよな」

文乃 「へ?」

成幸 「調べるためとはいえ、男子更衣室にためらいもなく入るところとか」

文乃 「………………」 ジロッ 「……わたしはべつに協力しなくてもいいんだけど?」

成幸 「うわぁ! すまん、冗談だよ、文乃!」

文乃 「……まったく。本当に君は調子がいいんだから、成幸くん」

文乃 「で? 指輪はたしかに外したんだよね?」

成幸 「外したよ。外して、上の棚にのせたんだ」

文乃 「影も形もないねぇ。下にも落ちてはなさそうだし」

成幸 「ああ。補習が終わって戻ってきたら、もうなかったんだ」

文乃 「……ふむ」

194以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 01:30:38 ID:DUtC6N3c
成幸 「……一体どこにいったんだろうな」

文乃 (……はぁ)

文乃 (そんなのわかりきってるでしょ、と言ってやりたいよ)

文乃 (ロッカーの扉がひとりでに開くわけがない)

文乃 (指輪が勝手に転がり落ちるようなわけもない)

文乃 (こんなの、答えは当たり前のように出ている)

文乃 (……誰かが鍵のかかっていないロッカーを開け、成幸くんの指輪を持ち出したのだ)

成幸 「うぅ……奥さんに申し訳なくてさぁ……」

文乃 「………………」

文乃 (……言えるかー! だよ!)

文乃 (こんな純朴で良い子に育った弟に、そんな人の悪意が介在するようなこと、言えるかー!)

――――――ガサッ

195以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 01:31:49 ID:DUtC6N3c
文乃 「ん……?」

女子生徒 「あっ……」

文乃 (女の子……? なつかしい。うるかちゃんと同じ水着だ。水泳部かな?)

文乃 (でも、この子……今、男子更衣室を覗いていたの……?)

成幸 「ん……? ああ、○×。今日も部活か。ご苦労さんだな」

女子生徒 「は、はい。唯我先生も、お仕事お疲れ様です」

成幸 「はは、こどもが大人を労うもんじゃないよ」

成幸 「それに今は一応有給休暇中だ。仕事じゃない」

女子生徒 「……あの」

成幸 「ん?」

女子生徒 「そちらの方は……?」

196以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 01:32:54 ID:DUtC6N3c
成幸 「ああ、先生の古い友人でな。古橋文乃さんっていうんだ」

成幸 「ここのOGだから、○×の大先輩だな」

女子生徒 「そ、そうなんですか……。はじめまして。○×です」

ジロッ

女子生徒 「わたし、唯我先生が担任なんです」

文乃 「へ……? あ、そ、そうなんだー」

文乃 「はじめまして。古橋文乃です。そういえば、わたしも昔は成幸くんに勉強を教わってたんだよ」

女子生徒 「……“成幸くん”……?」 ギリッ

文乃 「……?」

女子生徒 「あ……あはは。なんでもないです。すみません」

文乃 (この子……)

197以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 01:33:38 ID:DUtC6N3c
キラッ……

文乃 「ん……?」

文乃 「ねえ、あなた。その手に持ってるのは……」

女子生徒 「!? あ……」

女子生徒 「す、すみません。用事を思い出しました! 失礼します!」

タタタタ……

成幸 「お、おい? 廊下は走るなよーーーー!!」

成幸 「……? ○×のやつ、一体どうしたんだ……?」

文乃 「………………」

文乃 「……なるほど」

成幸 「文乃?」

文乃 「成幸くん、君は、まったく……」

文乃 「ほんと、罪な男だよねぇ」

198以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 01:34:32 ID:DUtC6N3c
成幸 「い、いきなり何の話だ?」

文乃 「なんでもないよ。相変わらず女心が分からない愚弟だよ君は」

文乃 「わたしの出す女心の練習問題をしっかりやってこなかったせいだよ、まったく」

成幸 「なんだかわからんが、すまん……」

文乃 「……わたしさ、なんとなく指輪がどこにあるか検討ついちゃったんだよね」

成幸 「なに!? 本当か!? それはどこだ!?」

文乃 「……内緒。君には言えないよ、成幸くん」

成幸 「な、何で……?」

文乃 「何でもだよ。いいから、少し待っててよ」

文乃 「……わたしが、指輪を取ってきてあげるから」

199以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 01:36:04 ID:DUtC6N3c
………………女子トイレ 個室内

女子生徒 「………………」

キラキラ……

女子生徒 「……これ、どうしよう――」

?? 「――どうしようも何も、返すしかないんじゃないかな?」

女子生徒 「!? だ、誰!?」

?? 「名前は名乗らない方がいいんじゃないかな。お互いのためにも」

?? 「トイレの壁一枚隔てて、会話もできるわけだしね」

?? 「わたしは君のことが誰だか分からないし、君もわたしが誰か分からない」

?? 「それでよくないかな?」

女子生徒 「……どうして、ここにいるってわかったんですか?」

?? 「そりゃまぁ、競泳水着のまま行ける所なんて限られてるからね」

?? 「プールサイドにいない。女子更衣室にもいない。だとすれば、このプール併設のトイレしかないよね?」

女子生徒 「……そう、ですね」

200以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 01:37:13 ID:DUtC6N3c
?? 「……さて、本題に入ろうか」

?? 「君が今手に持って眺めているであろうその指輪を、どうするかという話だよ」

女子生徒 「………………」

?? 「うん。まぁ、君がそれを認めたくない気持ちもわかる」

?? 「でも、そこにそれがあるのは紛れもない事実のはずだよ」

?? 「わたしはさっき、君が指輪を隠し持っているのを、見てしまったからね」

?? 「競泳水着にポケットなんてないもんね。指輪を持つなら手の中しかない」

女子生徒 「……わ、わたしはっ」

女子生徒 「これを、盗もうとしたわけじゃないんです」

女子生徒 「悪いことだって分かってました。男子更衣室に侵入して、勝手に先生のロッカーを開けて……」

女子生徒 「……指輪を少し眺めて、それでよかったんです」

女子生徒 「でも、そのときちょうど、水泳部の男子が来る声が聞こえて……」

女子生徒 「指輪を持ったまま、逃げ出しちゃったんです……」

201以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 01:38:24 ID:DUtC6N3c
女子生徒 「唯我先生を困らせるつもりなんてなかったんです」

女子生徒 「ただ、ほんの少し……近くで、見てみたくて……」

?? 「………………」

?? 「……大好きな唯我先生の指輪を?」

女子生徒 「……!? な、なんで……?」

?? 「うーん、君がはるか年下の女の子じゃなければ、「わからいでか!」ってツッコんでるところだよ」

?? 「成幸くん良い子だもんねぇ。きっと良い先生なんだろうねぇ」

女子生徒 「……良い先生です。いつもわたしたちのために一生懸命だし、」

女子生徒 「わたしたちのために学園長とも戦ってくれるし、」

女子生徒 「わたしたちのこと、全力で庇ってくれるし、」

女子生徒 「……格好良いんです。唯我先生は。って、あなたはよくご存知ですよね、きっと」

202以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 01:39:32 ID:DUtC6N3c
?? 「ちなみに君が誤解しているようだから言っておくケド、わたしは彼の奥さんじゃないよ?」

女子生徒 「へ……? 違うんですか?」

?? 「違うよ。奥さんは別の誰か。わたしは彼の古い友人だよ」

?? 「……とまぁ、そんな話は置いておくとして、」

?? 「わたしからひとつ提案があるんだ。聞いてくれるかな?」

女子生徒 「……提案?」

?? 「わたしは学生のころ、“眠り姫”なんてあだ名されるくらいの寝ぼすけでね」

?? 「どんなところでも寝られるんだ……っていうのは言いすぎだけど」

?? 「わたしはいますごく眠い。だから、ちょっと洗面台で手を洗っている間に寝てしまうかもしれない」

?? 「そのとき、隣に誰かが立って、そっと洗面台に指輪を置いていっても、きっと気づかない」

女子生徒 「………………」

?? 「……とまぁ、そういう提案だよ。もしわたしが起きたときに指輪があったら、」

?? 「成幸くんには指輪は女子トイレに落ちてたよ不思議だねぇ、とだけ言おうかな」

?? 「きっとあの純朴な好青年は、それをまったく疑うことなく受け入れるだろうね」

?? 「……さて、どうする?」

203以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 01:40:55 ID:DUtC6N3c
………………

文乃 「……ほら」

成幸 「!? わっ、本当に指輪だ!?」

成幸 「どうやって見つけたんだ!? っていうかどこにあった!?」

文乃 「女子トイレに落ちてたよ。たぶん、君が眼鏡を外している間に、」

文乃 「指輪はコロコロ転がって女子トイレまで行ったんだろうね」

成幸 「……?」

文乃 (……少し苦しいかな?)

成幸 「なるほど。女子トイレだったら俺が今まで見つけられなかったのも合点がいく」

成幸 「女子トイレとは盲点だったな。ありがとう、文乃。さすがは俺の師匠だ」

文乃 「……成幸くん、君はさぁ」

成幸 「ん?」

文乃 (……少しは人を疑うってことも覚えた方がいいと思うよ?)

文乃 (って、わたしの夢の中の君に言っても仕方ないから、言わないけどね)

204以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 01:42:00 ID:DUtC6N3c
………………唯我邸前

文乃 「……本当に、いいから」

成幸 「そんなわけにいくかよ」

グイグイ……

成幸 「ぜひお礼をさせてくれ。電話で伝えたら、奥さんもお礼が言いたいって言ってたぞ」

文乃 「……いや、でも……」

文乃 (夢の中とはいえ、成幸くんの奥さん……)

文乃 (誰だろう。気になるけど、見たいような、見たくないような……)

文乃 (誰だろう、っていうのも野暮な定義だ)

文乃 (……“どちらだろう”と言うべきかもしれない)

……――ガチャッ

? 「……あら? 帰ってらしたんですか、あなた」

? 「そんな玄関前にいないで、入ってらしたらいいのに」

文乃 「……あっ」

205以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 01:43:09 ID:DUtC6N3c
? 「ああ、あなたが古橋文乃さんですのね」

? 「主人からお噂はかねがね聞いております」

? 「なんでも、すごい天才でいらっしゃるのに、苦手分野に挑戦したすごい人だと」

? 「わたくし、一度でいいからしっかりお話したかったんですのよ」

? 「主人があんまりにも楽しそうにあなたのことを話すものですから、」

? 「わたくし、実を言うと少しあなたに嫉妬しておりましたの」

成幸 「お、おい。やめろよ。恥ずかしいだろ……」

文乃 「なっ……」

? 「? 冗談のつもりだったのですけど、少し不謹慎すぎたかしら……?」

? 「不愉快にさせるつもりはなかったんですの。ごめんなさいね」

文乃 「なっ……なんなの……?」

ギリッ




文乃 「――――あなたは、誰……!?」

206以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 01:44:12 ID:DUtC6N3c
文乃 (この女性は、誰だ……?)

文乃 (りっちゃんではない。うるかちゃんでもない)

文乃 (当然、小美浪先輩でも、桐須先生でもない)

文乃 (誰……?)

成幸 「お、おいおい。何言ってんだ、文乃。結婚式で少しだけ話もしただろう?」

成幸 「俺の奥さんだよ。○○○○だよ」

文乃 「誰?」

成幸 「へ……?」

文乃 「……だから、誰だって、言ってるんだよ?」

文乃 「君は一体誰と結婚をしたんだって訊いてるんだよ!」

207以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 01:44:52 ID:DUtC6N3c
文乃 (だっておかしいだろう)

文乃 (こんなのあんまりだろう)


―――― ((大丈夫 絶対ない))

―――― ((絶対好きになんてなるはずがない))

―――― ((友達が 好きな人のこと))


文乃 「わたしは、だって……!」

文乃 「君が、わたしの友達と……りっちゃんと、うるかちゃんと……」

文乃 「……だから、わたしは……」

文乃 (だから……? だから、なんだというの?)

文乃 (友達のことを思っていた。だから?)

文乃 (だから、わたしは、彼のことを、あきらめた……?)

………………………………………………

………………………………

………………

208以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 01:46:00 ID:DUtC6N3c
………………

『……おい、古橋……』

『……古橋……』

『……文乃……』

『……文乃っち〜……』

文乃 「あ……」

パチッ

文乃 「……あれ……?」

文乃 「ここは……」

成幸 「何寝ぼけてんだ、古橋。図書室だよ」

成幸 「気持ち良さそうに居眠り始めやがって。今日の分全然終わってないじゃねーか」

文乃 「………………」

文乃 「……成幸くん?」

成幸 「……? どうした、古橋? なんか変だぞ?」

209以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 01:47:23 ID:DUtC6N3c
文乃 (そっか……。夢、覚めたんだ)

文乃 「………………」

文乃 「……ううん。なんでもない。寝ちゃってごめんね。すぐ追いつくから」

カリカリカリ……

成幸 「お、おう。そうか。がんばってな」

文乃 「うん!」

文乃 「………………」

文乃 (ふふ……。変な夢を見たなぁ。途中から夢だって分かったし)

文乃 (あれが明晰夢ってやつだね。貴重な経験をしたよ)

文乃 「………………」

文乃 (……大丈夫。自分でも驚くくらい、平静だよ)

文乃 (わたしは、大丈夫。変な気持ちもない)

文乃 (わたしは……)

210以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 01:48:13 ID:DUtC6N3c
文乃 (……もしも、成幸くんがりっちゃんか、うるかちゃんと結ばれて、)

文乃 (そうしたらわたしは、それを心の底から喜ぶことができる)

文乃 (きっとできる)

文乃 (……でも、どうなのだろう)

文乃 (わたしは、それ以外の誰かが、成幸くんと結ばれたら、どう思うのだろう)

文乃 (あの夢は、あくまで夢だ。夢の中だから、変なことを思ってしまっただけだ)

文乃 (……けど、)

文乃 (もしも本当にそうなったとき、わたしは後悔せずにいられるのか?)

文乃 (もしかしたら、わたしは、自分では気づいていないだけで、すでに……)

文乃 (成幸くんのことを……)

成幸 「……古橋?」

211以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 01:49:56 ID:DUtC6N3c

文乃 「へ……?」

成幸 「大丈夫か? 顔色悪いぞ?」

理珠 「文乃、大丈夫ですか?」

うるか 「文乃っち。なんか元気ないよ」

文乃 「あ、いや……」

文乃 「あはは。ちょっと寝ぼけてるだけだよ。大丈夫……」

文乃 (……そう。わたしは、大丈夫。大丈夫でなければならない)

文乃 (夢の中のようなことには、きっとならない)

文乃 (だって、わたしの友達は、こんなにも魅力的な女の子だから)

文乃 (わたしは、そんなふたりの応援ができれば、)

文乃 (そして、成幸くんの幸せな未来を、お姉ちゃんとして応援できればそれだけで……)

文乃 「……うん。大丈夫だよ。心配かけてごめんね」

ニコッ

文乃 (わたしはそれで満足だから)

おわり

212以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 01:51:28 ID:DUtC6N3c
………………幕間  兄も幕間もわたしのもの

水希 「どうも、古橋さん」

キラキラキラ……

水希 「わたしがお兄ちゃんの嫁の水希です」 ニコッ

文乃 「おおう……」



おわり

213以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 01:53:54 ID:DUtC6N3c
>>1です。
読んでくださった方、ありがとうございます。

夢オチとだけ決めて、コメディ調にするつもりが、気づけばシリアスになっていました。
文乃さんファンの方におかれましては、文句を言いたくなるような話かもしれません。

では、また折を見て投下します。

214以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/24(月) 22:46:10 ID:/e/Ctk6o
ほんとに良い出来だな
何様目線の感想だとは思うけれども

215以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 00:54:15 ID:FA1UwXeg
追いついてしまった
楽しんで見てるよー

216以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 02:07:51 ID:LAfruxaA
>>1です。
投下します。


【ぼく勉】あすみ「遊園地のペアチケット?」

217以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 02:08:33 ID:LAfruxaA
………………小美浪家

小美浪父 「ああ。福引きで当たったんだ。お前にあげるから、唯我くんと行ってきなさい」

あすみ 「ああ? 前から思ってたけど、あんた受験生をなんだと思ってるんだ?」

小美浪父 「おや、一日勉強を抜きにしたところで落ちるものでもあるまい?」

小美浪父 「……というよりは、その程度で落ちるならそもそも受からんと思うがね」

あすみ 「ぐっ……くそ親父……」

小美浪父 「私が医学部に入学した頃は、競争率も今の何倍も……っと」

小美浪父 「今はお説教の時間ではないな」

小美浪父 「たまには彼氏と水入らずでゆったり遊んできたらいいじゃないか」

小美浪父 「……それとも、まさかあんないい彼氏と会いたくない、なんて言うわけではあるまいな?」

あすみ 「だー、もう! わかったよ! 行きゃいいんだろ行きゃ! 後輩と予定が合えばだけどな!」

小美浪父 「よろしい。後でデートの写真を見せてくれよ。楽しみにしているからな」

218以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 02:09:39 ID:LAfruxaA
………………数日後 遊園地

あすみ 「……と、いうことで、毎度毎度、本当にすまん、後輩」

成幸 「あははは、まぁ、あのお父さんだったら、遊園地のペアチケットなんて当てたらそうなりますよね」

成幸 「俺は気にしてませんから、大丈夫ですよ、先輩」

キラキラキラ……

成幸 「それより、遊園地なんて本当に久々で、嬉しくて……」

あすみ 「男子高校生が遊園地で目をキラキラさせんなよ……」

あすみ 「まぁ、あのクソ親父もまさか仕事をさぼって遊園地に来て監視、ってことはないだろうから、」

あすみ 「どっかのベンチで勉強でもしてようぜ。後で写真撮影だけ付き合ってくれれば……――」

あすみ 「――……って、なんで悲しそうな顔をしてるんだよ、後輩」

成幸 「……いや、もちろん俺たちは受験生で、今の時期は本当に勉強していなきゃいけないですけど、」

成幸 「……遊園地楽しそうだなぁ」

219以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 02:10:31 ID:LAfruxaA
あすみ 「……お前な」

ハァ

あすみ 「しょうがねぇ。こんなところに付き合わせてるのはアタシだしな」

あすみ 「せっかくだ。息抜きがてら、今日一日遊ぶとするか、後輩」

成幸 「いいんですか!?」 キラキラキラキラ 「嬉しいです、先輩!」

バッ

成幸 「じゃあまずどこ行きます? 俺はこのジェットコースターに行きたいです!」

あすみ 「お、お前……。いつの間にパンフレットなんかもらってたんだよ」

成幸 「先輩はどこに行きたいですか?」

あすみ 「人の話聞けよ。……いや、いいや。いいよ。ジェットコースターで」

成幸 「じゃあ早速行きましょう、先輩!」

ギュッ

あすみ 「……!?」

成幸 「? どうかしましたか、先輩?」

220以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 02:11:57 ID:LAfruxaA
あすみ 「どうかしたかって、お前、手……」

成幸 「あ……」

パッ

成幸 「す、すみません」

あすみ 「べつにいいけどさ。お前がアタシに本気になっちまったのかと思って焦ったぞ」

あすみ 「今日はえらく積極的じゃねーか、後輩?」

成幸 「ち、違いますよ! 昔のくせで……」

あすみ 「癖……?」

成幸 「小さい頃、知らないところに行くと、いつも妹の手を引いてあげてたから……」

成幸 「その……つい、先輩の手を握ってしまって……」

221以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 02:12:35 ID:LAfruxaA
あすみ 「……ほぅ」

あすみ 「それは、アタシがちんちくりんだから妹扱いしなきゃ、ってことか?」

成幸 「ご、誤解ですよ! そんな風に思ったことなんか一度もないです!」

あすみ 「……わかってるよ。冗談だ」

クスッ

あすみ 「ほら、手、引いてくれるんだろ?」

成幸 「へ……?」

あすみ 「どうせだったら本当にデートっぽくした方が親父を誤魔化すにもいい写真が撮れるだろう」

あすみ 「……ほら、早くしろよ。行くんだろ、ジェットコースター」

成幸 「は、はい!」

……ギュッ

222以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 02:13:47 ID:LAfruxaA
………………ジェットコースター降車後

成幸 「………………」

グターッ

あすみ 「……おい。ジェットコースターに乗りたいって言い出したのはお前だよな?」

あすみ 「なんでアタシがピンピンしてんのに、お前がボロボロなんだよ」

成幸 「お、おかしいな……。子どもの頃は楽しかったんだけどな……」

あすみ 「ったく。仕方ねーな。なんか飲み物でも買ってきてやるから待ってろ」

成幸 「すみません……。よろしくお願いします……うっぷ……」

223以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 02:14:24 ID:LAfruxaA
………………

あすみ 「……ったく。ジェットコースター程度でダウンしやがって。情けない」

あすみ 「本当に……」

クスッ

あすみ 「しょうがない奴だ。まったく」

prrrrr……

あすみ 「ん、電話……? げっ、親父からかよ」

ピッ

あすみ 「……何の用だよ」

小美浪父 『いや、デート中にすまんな』

小美浪父 『ひとつお前に言っておきたいことがあったのを忘れていてな』

小美浪父 『昨日もお前と話していて思ったのだが、唯我くんと付き合い出して結構経つというのに、』

小美浪父 『いつまでも“後輩”と呼ぶのはいかがなものかと思うぞ』

あすみ 「あんた本当に最近あいつのことばっかりだな。どんだけ気に入ったんだ、あいつのこと」

224以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 02:15:28 ID:LAfruxaA
小美浪父 『お前、そんなことだと、唯我くんに愛想を尽かされてしまうぞ?』

小美浪父 『言っておくがな、あんなに良い青年はこれから探したってそうそう見つかるものじゃない』

小美浪父 『特にお前みたいな跳ねっ返りは……――』

あすみ 「お説教はいいんだよ。要点だけ話せ要点を」

小美浪父 『む……。たしかにその通りだな。では、言わせてもらうが』

小美浪父 『唯我くんを名前で呼んであげなさい』

あすみ 「ああ!? なんでいきなりそんな話になるんだよ!」

小美浪父 『なんでも何もないだろう。唯我くん……、いやこの際私も名前で呼ばせてもらおうか。な、成幸くんと……////』

あすみ 「なんであんたが照れてるんだよ! 気持ち悪いな!!」

小美浪父 『うるさい。いいから聞きなさい。成幸くんに愛想を尽かされたらお前、どうするつもりだ』

小美浪父 『言っておくが、ああいう好青年がお前のことを見てくれているから、』

小美浪父 『お前の医学部受験を許しているということを忘れるなよ』

あすみ 「ぐっ……」

225以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 02:16:21 ID:LAfruxaA
小美浪父 『……で、どうするんだ?』

あすみ 「わかった。わかったよ。後輩のことを名前で呼べばいいんだろ?」

あすみ 「そんなのわけないしな。普段は名前で呼び合ってるし」 (うそだけど)

小美浪父 『ほう。そうであれば何の心配もないな。では今度唯我くんが家に来たときに、見せてもらうからそのつもりで』

あすみ (っ……適当に流してごまかすつもりが、そうもいかねぇか)

あすみ 「わかったよ。要件はそれだけか? 切るぞ」

小美浪父 『ああ。最後にひとつだけ』

あすみ 「あんだよ」

小美浪父 『お前は唯我くんのことを名前で呼び捨てにしていると思うが、唯我くんはお前のことをなんと呼んでいるんだ?』

あすみ 「は……?」

小美浪父 『やはり彼らしく慎ましやかに「あすみさん」だろうか。それとも、ふたりきりの時は積極的に「あすみ」なんて呼ばれているのか?』

あすみ 「………………」

ピッ……ツーツーツー……

あすみ 「付き合いきれねぇぞ、あのバカ親父」

あすみ 「……あしゅみー先輩って呼ばれてる、なんて言えるかよ。ったく」

226以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 02:16:58 ID:LAfruxaA
………………

あすみ 「……ってな電話があってな」

成幸 「なるほど。さすが先輩のお父さん。鋭い指摘ですね」

あすみ 「そ、そうか……?」

成幸 「では、今日一日、遊園地デートのフリをしながら、名前で呼び合う練習もしましょう」

成幸 「お父さんのリクエスト通り、呼び捨てで呼びましょうか? “あすみ” って……」

あすみ 「あ゛?」 ゴゴゴゴゴゴゴ…………

成幸 「じ、冗談ですよ!! えっと……あ…… “あすみさん” ……?」

あすみ 「……おう。悪くないな」 ニヤリ 「じゃ、アタシも呼び捨てはやめて、優しい先輩っぽく、」

あすみ 「“成幸くん”?」

成幸 「っ……///」

あすみ 「……ほーぅ」

ニヤニヤ

あすみ 「一丁前に照れやがって。名前で呼ばれただけで発情か? スケベくん?」

227以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 02:18:12 ID:LAfruxaA
成幸 「や、やめてくださいよ! 仕方ないじゃないですか」

成幸 「……先輩みたいな美人さんに名前を呼ばれたら、そりゃ照れますよ。仕方ないでしょ」

あすみ 「っ……」

あすみ 「………………」

成幸 「……? 先輩?」

あすみ 「……お前ってさ、ほんと時々ずるいよな」

成幸 「へ? へ? どういうことですか?」

あすみ 「教えねぇよ。それくらい自分で考えろ、バカ」

あすみ 「……それから、先輩、じゃなくて、“あすみさん”、だろ?」

成幸 「あ、そうでした。すみません。えっと…… “あすみさん”」

あすみ 「おう」

スッ……

あすみ 「……ほら。もうだいぶ気分も良くなっただろ?」

あすみ 「せっかくの息抜きなんだ。ちゃんとエスコートしてくれよ、“成幸くん”」

成幸 「あ……は、はい……!」 ギュッ

228以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 02:19:19 ID:LAfruxaA
………………ミラーハウス

成幸 「どっちが出口か分からない……。“あすみさーん” ! どこですかー!」

あすみ 「大声で呼ぶな! 恥ずかしいだろ、バカ」

成幸 (そう言いながらも迎えに来てくれるんだよなぁ……)

係員 (ラブラブだなぁ……)


………………お化け屋敷

あすみ 「……へぇ、“成幸くん” は、こういうアトラクションで女の子に頼られるのが好きなのか」

あすみ 「せっかくだし抱きついてやろうか?」

成幸 「ち、違いますよ! そんな不純な動機で選んだわけじゃないですよ!」

ギュッ……

成幸 (とか言いながら、先輩、俺の手をすごい勢いで握りしめてるんだけど……)

成幸 (指摘したら怒りそうだから黙っておこう)

お化け (ラブラブだなぁ……)

229以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 02:20:13 ID:LAfruxaA
………………広場 キャラクターグリーティング

成幸 「はい、チーズ……っと」

成幸 「うん。良い感じに写真が撮れましたね」

あすみ 「うーん、でも着ぐるみを挟んでるとカップルっぽくないって親父にイチャモンつけられそうだな」

あすみ 「念のためキャラクター抜きで一枚くらい撮っておくか」

ムギュッ

成幸 「!? お、大勢の人がいる前で、くっつくのはちょっと……」

パシャッ

あすみ 「おお、良い具合に真っ赤な顔が撮れたぞ、“成幸くん”」

成幸 「やめてくださいって! 仕方ないじゃないですか!」

着ぐるみ (ラブラブだなぁ……)

230以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 02:20:59 ID:LAfruxaA
………………メリーゴーランド

成幸 「こ、この歳でこれに乗るのは少し恥ずかしいですね」

あすみ 「じゃあ、こうすりゃいいんじゃないか?」

ムギュッ

成幸 「あ、“あすみさん” !? 何で俺の馬に座るんですか!?」

あすみ 「もう少し下がれよ。それともこれくらい密着してる方が好みか? スケベくんは」

成幸 「や、やめてくださいってば!」

成幸 (メリーゴーランドの馬にふたりで乗るって、本物のカップルみたいだ……)

あすみ 「………………」

あすみ (予想以上に狭いな。後輩の体温が背中にダイレクトだ)

係員 (ラブラブだなぁ……)

231以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 02:21:36 ID:LAfruxaA
………………夕方

成幸 「……はーっ、楽しかった。色んなアトラクションを回れましたね」

あすみ 「お前、はりきりすぎだ。結局ほぼ全部のあトラクション回ったじゃねーか」

成幸 「せっかくいただいたチケットですから。目一杯有効活用しないと」

あすみ 「そうかよ。そこまで喜んでくれるなら、親父も嬉しいだろうな」

あすみ 「……ん?」

成幸 「? どうかしました?」

あすみ 「………………」

クスッ

あすみ 「……なぁ、最後にアレに乗ろうぜ。恋人のフリにはうってつけだろ?」

成幸 「アレって……」

成幸 「……観覧車?」

232以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 02:22:21 ID:LAfruxaA
………………観覧車

成幸 「………………」

あすみ 「………………」 ニヤリ

あすみ (後輩の奴、緊張した顔して黙り込んで……)

あすみ (からかってやるのに最適な場所だと踏んだが、まさにうってつけだな)

あすみ 「“成幸くん”」

成幸 「……? なんです、“あすみさん”」

あすみ (……あれ? コイツ意外と動じてない? っていうか、平然とアタシのこと名前で呼びやがったな)

あすみ (……このヤロウ。もうアタシを名前で呼ぶのに慣れたってことかよ)

あすみ (ん?)

ハッ

あすみ (アタシは、アタシに照れない成幸に、ムカついてるのか……?)

あすみ (……いや、べつに、ただ単に、からかい甲斐がなくてムカついてるだけだ)

あすみ (それ以外の何でもない)

233以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 02:23:05 ID:LAfruxaA
成幸 「あの、“あすみさん” ?」

あすみ 「ん? ああ、すまん」

あすみ 「そっち、行ってもいいか?」

成幸 「へ……? こっちって、だって……――」

あすみ 「――じゃ、失礼しますよ、と」

ポフッ

成幸 「!?」 (ち、近い! 狭い観覧車だから、隣に座られると、すごく近い!)

成幸 (っていうか、もうほとんど密着してるぞこれ!?)

成幸 (何でわざわざこっちに座り直したんだ!?)

あすみ 「………………」 クスッ (成幸のやつ、動揺してるのが手に取るように分かるな)

あすみ (面白い。これだから、成幸をからかうのはやめられない)

あすみ (……つってもこれ、いくら何でも近すぎたかな)

あすみ (隣に座るとこんなに密着することになるとは、思ってなかったな)

234以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 02:24:00 ID:LAfruxaA
成幸 「あ、あの……」

あすみ 「んー? なんだよ、成幸?」

成幸 「えっ……?」

あすみ 「? なんだよ、鳩が豆鉄砲食らったような顔して」

成幸 「あ、いや……なんでもないです。そ、それより、」

成幸 「どうしてわざわざ俺の隣に座り直したんですか?」

あすみ 「……さて、どうしてだろうな?」

成幸 「わ、わかりませんよ」

あすみ 「じゃあ、教えてやろうかな」

あすみ 「………………」

あすみ (にしし、成幸の奴、目つぶったアタシにドキドキして……――)



成幸 「――……なつかしい、な」



あすみ 「……?」

235以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 02:24:49 ID:LAfruxaA
あすみ 「成幸……?」

成幸 「あっ、すみません。ちょっと昔のことを思い出して」

成幸 「……まだ和樹と葉月が生まれる前、俺が小学生の頃、遊園地に来たときのこと、思い出しちゃって」

成幸 「あのときも、最後にこんな風に妹の水希とふたりで観覧車に乗ったな、なんて」

クスッ

成幸 「すみません。変なこと言いました」

あすみ 「………………」

成幸 「……先輩?」

あすみ 「………………」 (……なんだよ)

あすみ (アタシは結局、妹扱いかよ)

あすみ (ドキドキしてくれてたんじゃないのかよ)

あすみ (……美人って言ってくれたじゃねぇかよ)

あすみ (なのに、お前が思い出すのは、妹との思い出かよ)

あすみ (……なんで)

あすみ (なんでアタシはこんなに、悔しい、って思ってんだろ)

236以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 02:26:00 ID:LAfruxaA
成幸 「先パ――あ、…… “あすみさん”、どうかしましたか?」

あすみ 「……何でもない。お前のことをからかって遊ぼうと思ったけど、やる気もなくなった」

成幸 「へ?」

あすみ 「アタシはどうせ、妹扱いしかされないちんちくりんだしな」

あすみ (美人だって……)

あすみ 「そりゃ、アタシなんかにドキドキするわけもないよな」


あすみ (美人だって、言ってくれたくせに……)


成幸 「……? えっと、あの……あすみさんが何を言ってるのかよく分からないですけど、」

成幸 「こんなこと言うの恥ずかしいですけど、普通にドキドキしてますよ、俺」

あすみ 「へ……?」

成幸 「いや、そこで何でキョトンとするのかよく分からないです。さっきも言ったじゃないですか」


成幸 「“あすみさん” みたいな美人さんがこんなに至近距離にいたら、ドキドキしないわけないでしょうが」


成幸 「……っていうか、妹の話をしたのだって、気を紛らわすためなんですからね」

237以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 02:26:58 ID:LAfruxaA
あすみ 「……そ、そうか」

あすみ (……!? そうか、じゃねーよアタシ!)

あすみ (何をやってるんだ、アタシは。一体何を……)


―――― 『……何でもない。お前のことをからかって遊ぼうと思ったけど、やる気もなくなった』

―――― 『アタシはどうせ、妹扱いしかされないちんちくりんだしな』


あすみ (何を言ってるんだアタシは!?)

あすみ (うわ、なんか思い出したくもないくらい、ただの面倒くさい女じゃねーか)

成幸 「それに、“あすみさん” 、さっきからずっと俺の反応見て遊んでるじゃないですか」

あすみ 「……?」

成幸 「さっきから俺のこと呼び捨てで呼んでるの、俺をからかうためでしょう?」

あすみ 「呼び捨て? アタシが……?」

あすみ 「………………」

238以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 02:28:05 ID:LAfruxaA
成幸 「……先輩? どうしたんです? 何で急にそっぽ向いたんですか?」

あすみ 「……うるせぇ」

成幸 「体調でも悪いんですか? あ、ひょっとして高いところが苦手とか?」

あすみ 「うるせぇ」

成幸 「……ん? 首元が赤いですよ? 熱でもあるんじゃ……」

あすみ 「だから、うるせぇっての。今こっち見るな」

あすみ (こちとら首どころじゃなく顔全体真っ赤なんだよ!!)

あすみ (アタシ、当たり前のように、呼び捨てにしてたのか、こいつのこと……)

あすみ (それに気づいてなかったのか……)

あすみ (ムカつく。ムカつくのに、なんでか、さっきみたいに嫌じゃない)

あすみ (嬉しい、なんて思ってる……それが一番、ムカつく)


―――― 『言っておくがな、あんなに良い青年はこれから探したってそうそう見つかるものじゃない』


あすみ (ああ、ちくしょう。親父のやつ。そんなのわかってるよ)

あすみ (そんなの、アタシが一番、わかってるんだよ)

239以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 02:28:40 ID:LAfruxaA
………………帰路

成幸 (先輩、どうしたんだろ。なんか機嫌が悪いというか、なんというか……)

成幸 (ずっと黙り込んでるし、俺、なんかしちゃったかな……)

成幸 「あ、あの、“あすみさん” ……」

あすみ 「なぁ、“成幸くん”」

成幸 「あ、は、はい!」

あすみ 「名前を呼ぶ練習は今日だけで十分だろ」

あすみ 「もう元に戻していいぞ。また、ウチに来てもらうことがあったら、やってもらうかもしれないけどな」

成幸 「……わかりました。先輩」

あすみ 「おう、後輩」

240以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 02:29:23 ID:LAfruxaA
あすみ 「……今日は付き合わせて悪かったな。お前にも勉強があるのに」

成幸 「そんなの先輩も一緒じゃないですか。それより、滅多に来られない遊園地に来られて、すごく楽しかったですし、」

成幸 「ありがとうございます、 “あすみさん”」

あすみ 「っ……」 プイッ 「お前、戻ってるぞ」

成幸 「へ……? あっ」

カァアアアアア……

成幸 「す、すみません」

あすみ 「べつにいいけど――――」


  「――――仲睦まじそうで何よりだ。嬉しいぞ、あすみ、唯我くん」


あすみ 「!? 親父!? どこから湧いた!? っていうか仕事はどうしたんだよ!」

小美浪父 「診療時間が終わった瞬間に家を出て駆けつけた」

あすみ 「あんた本当にアホなんじゃないか!?」

241以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 02:30:13 ID:LAfruxaA
成幸 「あ、どうも、お父さん。いつもあすみさんにお世話になってます」

小美浪父 (お義父さん!? ああ、息子よ……)

小美浪父 「いやいや、こちらこそ、いつも娘がお世話になっています」

あすみ 「お父さん呼びに悶えんな! ほんと何しに来たんだよあんたは!」

小美浪父 「娘の遊園地デートを観察しに来たに決まってるだろう! 何を言ってるんだお前は!」

あすみ 「なんで逆ギレしてんだよ!」

成幸 「ま、まぁまぁ。お父さんもあすみさんも、抑えて抑えて……」

242以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 02:31:01 ID:LAfruxaA
小美浪父 「いや、しかし、デート本番には間に合わなかったようだが、」

小美浪父 「今の君たちが見られれば来た甲斐があったというものだ」

あすみ 「い、今のって、べつに何もないだろ」

小美浪父 「すばらしい。今の状況が何でもないことなのか」

小美浪父 「君たちは私が想像するよりはるかにラブラブだったようだ……」

あすみ 「だから何の話をしてんだよ!」

小美浪父 「気づいていないのか? それくらい自然なことなのか?」



小美浪父 「父親を前にしても、手を繋ぎ続けていることが」



成幸 「え……?」

あすみ 「へ……?」

成幸&あすみ 「「わぁ!?」」

バッ

243以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 02:31:39 ID:LAfruxaA
成幸 (し、しまった……)

あすみ (デート中、ずっと手をつないでいたから……)

成幸&あすみ ((今も当たり前のように手をつないだままだったー!!))

小美浪父 「照れなくてもいい。若いというのはそういうものだ」

あすみ 「したり顔で変なこと言ってんじゃねー、このバカ親父!」

小美浪父 「こんなことならば声をかけるべきではなかったね。失礼した」

小美浪父 「私はまっすぐ家に帰るよ。邪魔したね」

あすみ (ああ、ちくしょう。言いたい放題言いやがって)

あすみ (まぁいい。早く帰れ)

小美浪父 「あ、そうそう」

ニコッ

小美浪父 「今日は外泊してきてもいいぞ、あすみ」

あすみ 「なっ……」

244以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 02:32:21 ID:LAfruxaA
小美浪父 「ただし、唯我くんはまだ高校生なのだから、しっかりと親御さんの許可をもらってからにすること。いいね?」

あすみ 「何を言ってんだこのバカ親父!」

成幸 「あ、うちは電話をすれば、すぐOKがでると思います」

あすみ 「お前もマジメに答えなくていいよ!」

小美浪父 「では、私は失礼するよ」

あすみ 「……くそ、あの親父、言いたいだけ言ったら本当にいなくなりやがった」

あすみ 「自分の娘のことをなんだと思ってやがるんだあの親父は」

成幸 「ははは、きっとあすみさんのことが心配なんですよ」

あすみ 「そうは見えないけどな。楽しんでるだけだろ」

あすみ 「……この際、本当に外泊してやって、驚かしてやろうかな。なぁ後輩?」

成幸 「かわいそうだからやめてあげてください。あと俺を巻き込まないでください」

245以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 02:33:26 ID:LAfruxaA
成幸 「……さ、行きましょうか」

あすみ 「ん? 何だよ、この小妖精メイドあしゅみぃの同伴デートが足りないのか?」

あすみ 「それとも、まさかあの親父の言葉を真に受けたんじゃないだろうな?」

あすみ 「一緒にお泊まりしてやってもいいが、高いぞ?」

成幸 「何を言ってるんですか。勉強ですよ。ファミレスかどっかでしていきましょうよ」

あすみ 「ああ……」 クスッ 「……ま、お前はそうだよな」

成幸 「へ? 何です?」

あすみ 「何でもない。ほら、行くんだろ、ファミレス。仕方ないから、勉強くらい付き合ってやるよ」

成幸 「はい、ありがとうございます!」

あすみ (……ま、べつに、いいか)

あすみ 「勉強してる方が、アタシたち、って感じだしな」

成幸 「へ……?」

あすみ 「今日も頼りにしてるぜ、“成幸くん”」

成幸 「はい、“あすみさん”!」

おわり

246以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/02(火) 02:34:20 ID:LAfruxaA
………………幕間 胃痛のタネ

文乃 (……偶然街に買い物に出たら、成幸くんと小美浪先輩が手を繋いで歩いているのを見かけてしまった)

文乃 (明日本人に確認するべきか、それともそんな野暮なことをするべきではないか……)

文乃 (恋人のフリのわりには、仲睦まじそうに見えるし……)

キリキリキリキリ……

文乃 「……胃が痛い」

文乃 (成幸くん、覚えてろ。だよ)

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

文乃 (今度学校で会ったら、絶対、ぶつ)


おわり




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