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( ^ω^)LIFE - omnibus -

1名も無きAAのようです:2016/09/23(金) 22:01:38 ID:SQfXJ0mA0
一作品10レス前後の短編集
基本単品
過去の作品もまぜまぜするよ

21-1:2016/09/23(金) 22:02:38 ID:SQfXJ0mA0
割れんばかりの声援は、蝉の叫びも搔き消して、それでも対峙する二人には届いていなかった。


(;`ω´)


(;`・ω・´)


数秒前、フルカウントからの3球目。ボールは勝敗を分かつ柱の、すぐ側を通り過ぎた。
たくさんの感情が、一瞬でぐちゃぐちゃに混ざった。


ファール。

アンパイアの声が感情を割く。

堰が切れた様に溜息を吐く人。
唸り声を上げた人の拳は、力強く握られた。
祈る人の手は震えている。

マウンドは、それでも、氷った世界のようだった。

31-1:2016/09/23(金) 22:03:48 ID:SQfXJ0mA0
( `ω´)

投手には、もはや何も無かった。
ただ、投げる事、それだけだった。
疲れも、痛みも、悩みも、何もかも。
あの不可視の、宙に浮ぶ四角形しか見えなかった。

ーサインは決まっている。見る必要も無い。違っていても知るものか。

曲げる事なんて、できないー

(`・ω・´)

打者には、確信があった。
振り抜けば、柵を越える。
バットを振れば勝ち。思う事はそれだけだった。
今一度グリップを握り直し、前だけを見据える。

ーこのベースの上を、球が通り過ぎる事はもはや無い。

次は、捉えるー

(*゚ー゚)

マネージャーには、涙があった。
金属音が鳴り響いた時、悲鳴とともに眼を伏したから。
その涙は、後悔と、恐怖だった。それでも。

ー最後まで、最後まで、見据えなけきゃー

( ´∀`)

監督には、信頼があった。
彼なら打ち抜いてくれる、何の不安もない。
私が胸を張って誇れる、素晴らしいチームなのだから。

ーおまえも信じろ、おまえなら打てるー

41-3:2016/09/23(金) 22:04:37 ID:SQfXJ0mA0
( ,,゚Д゚)

捕手には、約束があった。
最後まであいつを支えると、風呂場で語り合った。

川 ゚ -゚)

母には、願いがあった。
今まで誰よりも頑張ってきたあの子が、今日、報われるようにと。

ξ ゚⊿゚)ξ

幼馴染には、思い出があった。

(´・ω・`)

兄弟には、絆があった。

はたまた、何の縁も無い人までも、何かがあった。

そのすべてがぐるぐると渦巻いて、音の無い嵐となって、投手に握られたボールに集まっていた。

51-4:2016/09/23(金) 22:20:01 ID:SQfXJ0mA0
そして。

マネージャーの堪えきれなかった涙が、渇いた地面に跳ねたと同時に

ライトの髪に凭れた汗が、拭われる事なくグラウンドへと染み込んだと同時に

( `ω´)

弛緩した指先から
白球が
白煙を吹きながら飛び立ち

(`・ω・´)

音も色も褪せた世界
止まった像の中に
唯一つ動く白い影



( `ω´)

(`・ω・´)

( `ω´)

(`・ω・´)

( `ω´)



(#`・ω・´)






夏の空に

歓声が響いた。

6名も無きAAのようです:2016/09/23(金) 22:22:40 ID:SQfXJ0mA0
まさか「コンク リート」がNG引っかかって書き込めないだなんて

>>8
>>2-5のタイトル

7名も無きAAのようです:2016/09/23(金) 22:40:12 ID:4WgNGPn.0
iine

8名も無きAAのようです:2016/09/24(土) 07:36:16 ID:cxN69Msc0
喪失

9名も無きAAのようです:2016/09/24(土) 08:15:57 ID:2fb2FhFw0
>>2-5
( `ω´) 喪失 (#`・ω・´)

102-1:2016/09/24(土) 08:17:35 ID:2fb2FhFw0
万雷の拍手に包まれた荒巻先生の演奏は、非の打ち所がなかった。
手前味噌などではなく、本当に完璧だった。『感情を持つ精密機械』と評された先生に、芥ほどの衰えさえ見えなかった。

あくまで、演奏上は。

(;・∀・)(先生…ッ!)

拍手を受ける先生は、一見普通に拍手を受けている様に立っている。
しかし、目が虚ろだった。おそらく、拍手も聞こえていないだろう。

アンコールを求める観客は、音に酔いしれ気づかない。

(;・∀・)「先生…!」

ただ一人拍手をしない、ただ一人の先生の弟子である僕は。

再び座り、ピアノに向かうあなたを。

(  ∀ )「僕は…!」

ただ見届けるべきだと、そう言うんですね。

112-2:2016/09/24(土) 08:19:43 ID:2fb2FhFw0
/ ,' 3

幼少から、身体が悪かった。
夭折すると医者から言われていた。
外で遊ぶ事をせず、いつも家の中に居た。
それでも幸せだったと言えるのは、音楽に出逢えたから。

指先を動かせば鳴る、そんな楽器に魅了された。
飽きもせず、毎日弾いた。
飯も食わず、寝る暇も惜しんで弾いた。
気づいたら、喜寿を迎えていた。

生き過ぎたとも思えた。もっと早く死ぬだろうと思っていた。

先日、医者に公演を止められた。
最期にと思っていた、この公演を。
目の前で点滴を引き抜いた。それならここで死ぬだけだ、と言った。

本当にそう思った。
医者には悪い事をしたと思う。
辛そうな、何か言いたげな顔をして、それでも何も言わない、あの愛弟子にも。

ああ。
そうだ、あの馬鹿弟子。今頃どんな顔をしているのだろう。

まったく。
だから、弟子は、取りたくなかったんだ。

122-3:2016/09/24(土) 08:20:32 ID:2fb2FhFw0
/ ,' 3

息を呑んだ。
ホールの誰もが。

先生は、座った。
それだけで。

既に演奏が始まっているかのように。
いや、きっともう始まっているのだ。

拍手の余韻が完全に消えて、ここしか無いというタイミングで。

音楽が、流れた。

涙も、流れた。

(  ∀ )(…ズルいですよ先生…あれだけ弾かないって言ってたじゃないですか…)

132-3:2016/09/24(土) 08:22:07 ID:2fb2FhFw0
/ ,' 3 「何度言ってもダメだ」

(;・∀・)「なぜですか!理由を…」

/ ,' 3 「ホロヴィッツ」

(;・∀・)「?」

/ ,' 3 「ヒビ割れた骨董品、などと揶揄されることもあったが」

/ ,' 3 「彼の考えに感銘を受けていてな」

/ ,' 3 「私も、そう生きている」

( ・∀・)「…ホロヴィッツは、他の演奏者の曲を聴かず、作曲家の思いをより知るために、その作曲家のすべての曲を自ら弾き、すべての書簡を読んだ…というあれですか」

/ ,' 3 「初めての作曲家の曲を扱うのに、最低、半年は要る」

( ・∀・)「5月のコンクールまでは、間に合わないと」

/ ,' 3

( ・∀・)

( ・∀・)「…先生、僕は先生の門下です」

/ ,' 3 「?」

( ・∀・)「弟子は取らないと公言していた、あの先生の、唯一の」

/ ,' 3 「…あまりにもしつこいんでな」

( ・∀・)「違いますよね」

/ ,' 3 「…何がだ」

( ・∀・)「先生の憧れがホロヴィッツであったように」

( ・∀・)「僕の憧れは荒巻先生でした」

( ・∀・)「ホロヴィッツの信念にはやや背きますが、僕の手本は先生であり、僕の聞くのは全て先生の音楽でした」

142-5:2016/09/24(土) 08:22:48 ID:2fb2FhFw0
( ・∀・)「だから、先生が、どんな風に師匠へ弟子入りしたのか」

/ ,' 3 「…!お前…」

( ・∀・)「自分と重なった。きっとそうですよね」

/ ,' 3 「…」

( ・∀・)「どんな曲を演奏したか、何のコンクールに出たのか、そして何の賞を取ったのかだって」

/ ,' 3 「待て」

( ・∀・)

/ ,' 3 「今思い出した。何故その曲に固執したのかがわからなかったが…お前は…」

( ・∀・)「…僕は、次のコンクールで優勝します」

/ ,' 3 「…ならん」

(;・∀・)「先生!」

152-6:2016/09/24(土) 08:23:34 ID:2fb2FhFw0
ーーーーーーーーーー

(  ω )

何としても優勝したかった。
病に伏した師の為に。
彼の最も得意とした曲で。
せめてものはなむけをしたかった。

遮二無二練習した。
完璧に弾ける自信があった。

当日、練習通り完璧な演奏をした。
正確無比と謳われた。

表彰式。
名前が呼ばれた。



銅賞であった。

( ;ω;)

( ;ω;)「何故だ…何でだ…!」



師は、間も無く亡くなった。

ーーーーーーーーーー

162-7:2016/09/24(土) 08:24:35 ID:2fb2FhFw0
荒巻の指により、鍵盤の海に波が立つ。

/ ,' 3 『いくら速いパッセージでも、音は常に、置く。背骨から肩を通り、肘を通り、二の腕、手首、関節、そして指先を通って、置く』

鍵盤の溝が埋まり、一つの線として音が紡がれる。
細い線は、やがて膨らみをもってホールを覆う。

/ ,' 3 『フォルテは鍵盤の遥か下にある。それを掬う。押すのでは無く、掬う』

巨大な音のエネルギーが、広大な鍵盤の海からサルベージされる。

そして。
突如の空白。

/ ,' 3 『楽譜に書かれていない事は、実に多い。間《ま》も、その一つ』

フェルマータさえ想起される、非常に長い、間。
エネルギーが残響と共に宙に舞う。
意識が混濁した様な、しかし、明快になった様な。
鼓動ひとつ感じない。

ふいに、高音が、雨音の様に。
天から降りだす。

/ ,' 3 『p《ピアノ》とは、ただの、弱く、ではない。チェンバロを筆頭に、昔は強弱が付きにくい楽器が多かった。現代と同じp《ピアノ》と解釈するのは愚かであり、また、その楽器と同じ様に弾くのも愚かだ』

もし、この作曲家が生きていて、このピアノフォルテという楽器を知っていたなら。
現代に降り立ったドッペルゲンガーか、はたまた霊媒師か。

さもありなんと流れゆく音の河。

それはまさに、愛弟子に向けたレッスンであった。

172-8:2016/09/24(土) 08:25:23 ID:2fb2FhFw0
涙は堪えられそうになかった。
しかし、拭う気も起きなかった。
この最期になるだろう先生の姿を、目に焼き付けるために。



先程は出来なかった拍手。

全力で、本心で、手を叩いた。



先生が舞台裏に入った後も。

拍手をするのが僕一人になっても。



遠くでサイレンが響くまで。ずっとずっと、手を叩いた。

18名も無きAAのようです:2016/09/24(土) 08:26:48 ID:2fb2FhFw0
>>20
>>10-17のタイトル

数字を間違えているのはご愛嬌

19名も無きAAのようです:2016/09/24(土) 08:43:11 ID:IUXwIRqQ0

いいね

20名も無きAAのようです:2016/09/24(土) 12:20:35 ID:Ao2TNd.IO
濃密なワンシーンだけを見せられる事で前後の物語の想像がいくらでも広がるな。
期待支援

21名も無きAAのようです:2016/09/24(土) 12:50:25 ID:sw1zugdU0
あら。最安価しますね。
>>22
>>10-17のタイトル


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