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ζ(゚ー゚*ζ あな素晴らしや、生きた本 のようです
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・夏の飯テロ祭に間に合わなかったやつ
・関連作 ://boonsoldier.web.fc2.com/ikitahon.htm
↑を読んでなくても、内容忘れてても大丈夫。多分
・作中の時期としては「児童文学」の直前くらい
投下します
予告編スレに貼った部分は所々変更してる
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「そうか、僕は怪物なのか」
*****
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ζ(゚、゚*ζ「……じゃあ私は、その『怪物』のためにご飯を作ればいいんですか?」
( ^ν^)「まあ、そういうこったな」
少女──長岡デレの問いに、
青年──内藤ニュッは頷く。
ζ(゚、゚*ζ「もしも私の料理が、理想通りでなければ……」
( ^ν^)「『怪物』は飢え死にする。そんで次の日の夜からもう一回やり直しだ」
ハハ ロ -ロ)ハ∩「頑張って、デレ!」グッ
ζ(゚、゚;ζ「ハローさんも一緒に作るんですよっ」
ガッツポーズと共に無責任な声援を送る女に焦りを覚えつつ、デレは溜め息をついた。
頬を押さえて天井を仰ぐ。
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ζ(゚、゚;ζ「……お気に召すものが出てくるまで、
あの人は毎晩死に続けるんですよね……」
( ^ν^)「そうだよ。だから早い内に終わらせた方がいい。
あの人のためにも、……お前らのためにも」
ζ(゚、゚;ζ「荷が重いいい。うう、どうして私が選ばれたんだろ」
そんな嘆きの声に、
( ^ν^)「お前がメイド服なんて着たのが悪い」
だから「本」に目をつけられたのだ──とニュッはぶっきら棒に答えた。
ごもっとも。何も言えない。
デレはもう一度溜め息を吐き出して、発端とも言うべき
昨夕からの出来事を思い返した。
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ζ(゚ー゚*ζ あな素晴らしや、生きた本 のようです
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お腹が空いたよ、お母さん。
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番外編 あな美味しや、ゴシック小説・前編
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街の外れに林がある。
林の入口からまっすぐ進んでいくと、2階建ての洋館にぶち当たるだろう。
館の名前は「VIP図書館」。
その少し変わった図書館には、少し変わった人々と──
少し変わった「本」が住んでいる。
(*;∩;)
2階の居住スペース、食堂。
ざっと10人は余裕で使えるほど広いテーブルの上に、
口元を手で覆って、はらはらと涙を零す女がいた。
かと思えば、胸元まで下ろした両手を固く組み合わせる。
それはまるで、祈りのポーズ。
ほぼ下着に近い服装でなければ、高潔な姿であったろう。
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(*;ー;)「……ありがとう……デレちゃん、ありがとう……」
涙と共に落ちるは感謝の言葉。
彼女から真っ直ぐ見つめられ、長岡デレは「はあ」と気の抜けた声を返す。
ありがとうありがとうと繰り返していた女はついに鼻水まで垂れ流し、
歯を食い縛るようにして、最大の感謝を絞り出した。
(*;ー;)「あ゙り゙がどゔ、デレ゙ぢゃん゙!!!!!
メイド服、似合ってるよおおおう!!!!!」
ζ(゚、゚;ζ「ぎゃあ!!」
叫ぶなり、女がデレに向かって跳躍した。
デレは咄嗟に頭を庇うため両手を翳す。避ける、という選択肢はすっぽ抜けていた。
が、予想したような衝撃は訪れない。
女がデレのすぐ目の前に着地し、土下座の体勢をとったからである。
ζ(>、゚;ζ(あれ?)
違和感。
いつもの彼女ならばあのまま突っ込んできて、
胸の一つや二つは平気で掴んでくるだろうに、と。
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──が、単にアプローチの方向が違っただけで、この女はどこまでも平常通りであった。
(*;ー;)「お願いします!!!!! デレちゃんのスカートの中で!!
呼吸させてください!!!!!
それだけでいいです!!!!!」
( ^ω^)「気持ち悪っ」
テーブルの左側、一番奧の席にいた黒スーツの男が
思わずといった様子で呟いた。
デレも同感であった。
-
(*;ー;)「う……うおっ……館長それいいよ、いいよそれ、
いつもはにこにこしてる館長から素で罵られるのすっごくイイ……もっとください」
( ^ω^)「気持ち悪っ」
(;* ー )「ひい……! ありがとうございます……!」ゾクゾクッ
( ^ω^)「もうやだこいつ」
男、VIP図書館の館長である内藤ホライゾンは
いつもの柔和な顔つきに若干の冷ややかさを含ませている。
それにめげるどころか却って助長した痴女は、
突然仰向けに倒れ、悟りを開いたような顔をした。
(*゚-゚)「ああ〜ドジっ子メイドデレちゃんの零した紅茶が染み込んだ絨毯吸いてえな〜
ちゅうちゅうちゅうちゅう吸いてえなあ〜!」
ζ(゚、゚`*ζ
業の深い願望を漏らしながら床を転がり出す痴女。
今後一切の関わりを断ちたくなる有様である。見ていられない。
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おいおいまじか
-
ζ(゚、゚*ζ(軽率にこんな格好するんじゃなかった……)
後悔しつつ、デレはエプロンに付いたフリルをつまんだ。
──いわゆるメイド服というやつを、今日、初めて着た。
デレは普通の高校2年生であり、このような服とは縁遠い筈だった。
再来週に控えた文化祭なんてものがなければ、多分、一生着なかっただろう。
ζ(゚、゚*ζ「もう着替えてきます……」
(;^ω^)「えっ!?」(゚ー゚*;)
げんなりと呟けば、内藤と痴女が勢いよく顔を上げた。
(;^ω^)「何で!? 勿体ない!」
(;*゚ー゚)「吸わせて! せめてスカートの中の空気一回だけ吸わせて!」
ζ(゚、゚;ζ「ひええまだ諦めてないこの人」
言っておくが、デレはちょっと彼らを驚かせたかっただけだった。
突然メイド服を着て現れれば多少の笑いを取れるのではと思ったし、
そうすることで、この格好で人前に出る恥ずかしさに慣れたかっただけなのだ。
だからトイレを借りていつもの制服からこれに着替え、
照れながらも食堂に入った。それだけだ。
まさかこんな気持ち悪い反応が返ってくるとは思わなかった。
-
(;^ω^)「せめて写真一枚!」
(;*゚ー゚)「写真なんて贅沢言わないから一時間延長で!」
ζ(゚、゚;ζ「内藤さんはともかく、しぃさんは何でそんな必死なんですか」
思いのほか引き留められたので、デレは扉に伸ばした手を下ろし、
内藤達がいるテーブルへ歩み寄った。
それまで黙って成り行きを見守っていた面々が口を開く。
( ・∀・)「しぃって、メイドさんとか執事さんとか好きだからね」
テーブル右側、真ん中辺りの席から答えたのは
和装の美青年、茂等モララー。
( ゚∋゚)「しぃの書く小説は召使キャラがよく出てくるもんな」
それに頷いたのは堂々クックル。
全体的にごつごつした強面の大男だが、ちびちびと美味そうに生チョコを味わっている。
2人の回答に、なるほどとデレは納得した。
デレが入室するなりテーブルに飛び乗って涙を流し始めたくらいなので、
まあ実際かなり好きなのだろう。
-
(*゚ー゚)「いいよね召使……いいよね。執事とかも好き」
先程より幾分か落ち着いたのか、痴女、椎出しぃがしみじみ呟いた。
じっとりした目を向けてくる。
(*゚ー゚)「たまらんな……ね、ニュッちゃん」
( ^ν^)「知らねえよ」
残る1人は右側一番奥の席、内藤ニュッ。
肩を掴んできたしぃの手を無下に払い落とし、開きっぱなしの本へ視線を戻している。
今日は仕事が休みなのだろう、せっかくの休暇にこんな騒ぎに巻き込んで申し訳ない。
クックルが、呆れたような目をしぃに向けた。
( ゚∋゚)「いくら好きとはいえ興奮しすぎじゃないか」
(*゚ー゚)「何を言うクックル。ロング丈のクラシックタイプのメイドだぞ、興奮しないでどうする!」
( ・∀・)「丈の長さそんなに重要? むしろ脚が隠れるからしぃは嫌いそうだけど」
-
(#゚ー゚)「あ? ばっか……お前何を……おま……本気で言ってんの? お前それ……お前」
(;・∀・)「えっ。え、あ、短い丈だと駄目なの? 逆に?」
(#゚ー゚)「ちッッッげ──よ馬鹿! 逆も何もないよ長いのも短いのもいいんだよ!
ただデレちゃんが今時ロング丈着てるのがあざとくて最高だっつー話なの!
だーからお前は馬鹿なんだ、馬鹿モララー!」
何をそこまで怒るのか。
思い切り睨まれた時点で萎縮していたモララーは、
続けて浴びせられた罵声に肩を竦めて一瞬硬直した。
じわじわと目を丸くさせ──その目から溢れた水が一滴、頬を伝う。
それを皮切りに、ぼろぼろ大粒の涙をこぼし始めた。
( ;∀;)「お、俺、ちょ、ちょっと訊い、訊いただけじゃん……。
なっ、何でそこまで怒られなきゃいけないんだよー! わあああん!」
念のために言っておくが、モララーは成人男性である。
机に突っ伏し、小学生(あるいはそれ以下)のように泣きわめいているが、
びええん、という表現がしっくり来る泣きっぷりだが、成人男性である。
彼は本当に、これさえ無ければ誰もが認める二枚目なのに。
-
( ^ν^)「うるせえ」
( ;∀;)「うええええんニュッ君ひどいよ゙お゙お゙お゙」
成人男性である。
あまりの光景に、デレ、内藤、クックルが咎めるような目をしぃに向けた。
こうなっては、流石のしぃからもスケベ心が失せてしまったようだ。
ニュッの傍からモララーのもとへ移る。
(;゚ー゚)「わー、もう、泣くな泣くな。悪かったよ。ごめんね。よしよし」
( ;∀;)「うわああっどこ撫でてんだよ馬鹿ー! いやあああ!!」
訂正しよう。しぃのスケベ心はデレからモララーへ移行した。
そもそも彼女の関心は常に全方位へ向けられているので、
その時々で目に留まった者が餌食になるだけに過ぎない。
ζ(゚、゚;ζ(メイド服着ただけで、こんな騒ぎになるかな普通……)
( ゚∋゚)「デレ、座ったらどうだ」
ζ(゚、゚*ζ「あ、失礼します」
どこでもいいと言うので、クックルと内藤の間、ちょうど空いている椅子に腰を下ろした。
ここならまたセクハラをかまされても守ってもらえるだろう、と。
-
ふわりと香水の匂いが鼻を擽る。
バニラに似た甘い香り。内藤がつけているものだ。
その匂いに負けぬくらい甘ったるい顔をして──というか、
鼻の下を伸ばして、彼はデレをじっくり眺めている。
(*^ω^)「それにしてもデレちゃん、何でまたそんな格好を」
ζ(゚、゚*ζ「今度、文化祭がありまして……その関係で」
(*^ω^)「あー、文化祭。ベタだおー。……いやあ、可愛い。
僕もこんなメイドさんに身の回りのお世話をされたいお」
( ^ν^)「兄ちゃん、しぃと変わんねえぞ」
( ^ω^)「えっ嘘でしょ」
対面でニュッが呟く。
たしかに内藤の顔はスケベとしか言いようがなかった。
-
(;*゚ー゚)「文化祭の出し物でメイド!? じゃあデレちゃん以外にも大量のメイドが!?」
ζ(゚、゚*ζ「あ、いや、これは私だけです」
興奮するしぃに真顔で首を振り、デレはエプロンのポケットから携帯電話を取り出した。
データフォルダから一つの画像を開き、しぃに画面を向ける。
【o川*゚ー゚)o ζ(゚ー゚*ζ】
デレと、友人の素直キュートが並んでいる。
デレは今と同じ格好だが、キュートの方は浴衣姿だ。
名前に違わず、正に美少女といった風情のキュート。
白地に水色の花が散る浴衣はとても爽やかで、彼女の可愛らしさを健全に引き立てていた。
その隣に並ぶイロモノ(自分)を改めて客観視して、デレの精神が削られる。
-
待ってた!支援
-
(*゚ー゚)「キュートちゃんは浴衣!? やべえなそれすげえな! 帯くるくるしたいな!」
(*^ω^)「ほうほう、これはこれは」
隣の内藤とクックルにも写真を見せる。
今日の衣装合わせのときに撮ったのだ。キュートの姿をカメラに収めたがるクラスメートは多かった。
(*゚ー゚)「やっぱキュートちゃんすっげー可愛いねー。な、クックル」
(*^ω^)「もう9月も中盤だけど、こんな浴衣を着た子と夏祭り行きたいもんだおー。ね、クックル」
( ゚∋゚)「うん?」
なぜ俺に振る、と心底不思議そうに首を傾げたクックルは、改めて写真を見直して、
( ゚∋゚)「まあ、似合ってるよな」
と当たり障りない返答。
しかしちょっと考えるような素振りをして、一言付け足した。
( ゚∋゚)「あいつは大体何でも似合うだろうし」
──キュートがここにいなくて良かったような、今の言葉を聞かせてやりたかったような。
デレは複雑な心境のまま、携帯電話をポケットにしまった。
クックルに全く他意がない辺りが、本当に厄介だ。
-
ξ゚⊿゚)ξ「そんなんだから毎回キュートの心臓がもたないのよね」
ζ(゚ー゚*ζ「あ、ツンちゃん」
厨房に続くドアが開き、今度は金髪の少女が現れた。
話は聞こえていたのだろう、デレの服装を見ても、これといったリアクションはなかった。
デレと同じ年頃である彼女は、名をツンという。
ツンは1人分のティーカップをデレの前に置いた。カップの中で紅茶が揺れる。
内藤の隣を譲るためデレが立ち上がりかけたが、
すぐにまた厨房に戻るから、と断られた。
ξ゚⊿゚)ξ「それにブーンも。あなた30歳にもなって、なに馬鹿なこと言ってるの」
(*^ω^)「いやいや、メイドも浴衣もロマンだお、ロマン」
元より締まりのない顔を更にとろけさせながら、内藤はデレの手を取った。
すりすりと手の甲を摩られる度に、デレはツンが気になって仕方がない。
-
ζ(゚、゚;ζ「あのー、内藤さん……」
(*^ω^)「はあ、いつもの制服もいいけど、こういうのも可愛いもんだお。
うわーデレちゃんの手すべすべ。小さい。可愛い」
(*^ω^)「ああ文化祭……女の子の山……! ぴちぴちすべすべの大合唱!
デレちゃん、僕、絶対に行くから! 待っててね!」
ξ゚⊿゚)ξ≡⊃))^ω゚)「チャールズッ!!」
ああ、ほら。案の定、ツンの拳によって黙らされた。
ツンは己の手を見下ろして眉間に薄く皺を寄せると、
ごめんなさいと内藤に謝罪してから、窘めるように言う。
ξ゚⊿゚)ξ「あなたは出入禁止だから行けないでしょ」
(##)ω^)「あれから一年近く経ってるし、きっと職員も忘れてるから大丈夫な筈……。
僕は何としても女の子を見に行くお……!」
ξ゚⊿゚)ξ∩" スッ
(##)ω^)「調子乗ってすみませんでした」
ζ(゚、゚;ζ「内藤さん、何で懲りないんです……?」
頬を腫らした女好きへ、デレは呆れ顔を向けた。
デレの高校で女生徒を口説きまくった挙句に出入禁止を喰らったほどの男である。
まあ色々ゆるい顔付きなので誰も相手にしなかったが、
これがモララーであったらデレの学校は大変なことになっていたかもしれない。
感情の窺えない瞳を眇めて、ツンが息を吐き出す。
-
ξ゚⊿゚)ξ「ブーンの女の子好きはもう治らないわね」
(*^ω^)「んもー、やきもち可愛い」
ξ゚⊿゚)ξ≡⊃))゚ω゚)「ディケンズッ!!!」
ζ(゚、゚;ζ(なぜ懲りない)
2度目の問い掛けは心の中で。
ξ゚⊿゚)ξ「いつまで思春期なのかしら、このおじさん」
言いながら、ツンは内藤の前にあった空のカップを引き寄せ、
そのカップへティーポットを傾けた。
ティーセットを滑らかに扱うツンの所作に、溜め息が出る。
白い肌、大きな目、薄めの唇。人形のように綺麗な顔と、きらきら輝く金髪。
キュートやモララーも美形だが、ツンのそれは最早、別物だ。
これほど美しい少女に「ブーン」と親しげに愛称で呼ばれ、
正に身の回りの世話を焼かれているというのに、
どうして内藤は他の女に目を向けることが出来るのやら。
──まあ。彼らも過去に色々あったし、その「色々」ゆえにこんな状態になっているわけだけれど。
-
ζ(゚、゚*ζ「ツンちゃんがメイド服着たら、きっと、本物って感じがするんだろうなあ……。
私が着てもただのコスプレだよ」
思わずデレが内心を漏らせば、ツンは首を傾げつつティーカップを内藤に差し出した。
ξ゚⊿゚)ξ「似合ってると思うわよ」
(*゚ー゚)「そうだよ、デレちゃん胸大きいからさ……何着ても大体いやらし、」
何やら携帯電話をいじりながらうろうろしていたしぃが、
どう考えても誉めてはいない言葉尻を切って飛び上がった。
隣のニュッを睨みつける。
(;*゚ー゚)「いって! 足踏みやがったな! チクショーもっと踏めよ!
本読みながらこちらに一瞥もくれず無関心に私の至るところを踏めよ!!
たまに漏れる私の声に冷たい目をしろ! さあ!!」
そして仰向けに転がり、大の字になって叫んだ。
期待に息を弾ませる彼女に、本当に一瞥もくれずニュッは読書を続けている。踏みはしない。
しばらくそのまま沈黙が流れ、やがて聞こえ始める寝息。
毎日毎日全力で生きている人だなあとデレは思う。
-
(*- -) グーグー
ζ(゚、゚;ζ「寝た」
ξ゚⊿゚)ξ「徹夜で執筆してたらしいから、寝不足なんでしょう」
ζ(゚、゚*ζ「あ、そうなんだ。こんな人でも小説書くときは真面目だよね……」
( ^ω^)「『こんな人』ってデレちゃん」
( ・∀・)「デレちゃんたまに辛辣だよね」
いつの間にやら泣き止んでいたモララーが鼻をかんで呟く。
──ところで、と、他所から声が入ってきた。
声の主はクックルだ。しぃのもとへ移動し、抱え上げた彼女を
並べた椅子に寝かせている。
( ゚∋゚)「文化祭で何をやるんだ? メイド服と浴衣じゃ、統一感が無いように思うが」
ζ(゚ー゚*ζ「あのですね、喫茶店なんですけど……。
ただの喫茶店じゃつまらないってことで、変わった衣装を着ることになって」
( ・∀・)「へー」
-
ζ(゚ー゚*ζ「衣装はクジ引きで決まったんですよ。
キュートちゃんは自前の浴衣があったから良かったですけど、
私は演劇部の子が去年使った衣装を借りるしかなくて……」
まあ借りられただけマシだろう。演劇の衣装だけあって、見た目は大人しい。
雑貨屋で見かけたパーティーグッズのメイド服は丈が短く派手だったので、あれは避けたかった。
( ^ω^)「喫茶店かお、いかにも文化祭って感じでいいおね」
ζ(゚、゚*ζ「私は裏方で調理してる方がいいんですけどね……」
( ・∀・)「え、デレちゃんは接客だけなの?
勿体ないね、デレちゃん料理上手いのに」
茶請けのクッキーに手を伸ばしながら、モララーが言う。
あまり頭が良くなく、人付き合いも活発でないデレの数少ない自慢の一つが料理の腕だ。
小学生の頃から母親に教えられ、
今は訳あって一人暮らしをしているためそれなりにこなれている。
ζ(゚、゚*ζ「女子はほとんど接客に回されたんですよ。調理は基本男子で、女子がローテーションで手伝い。
だからメニューも簡単に作れるものとか、出来合いばかりで」
カップケーキ、ホットケーキ、サンドイッチ……とデレがメニューを挙げていくと、
モララーが不満そうな顔をした。
-
( ・∀・)「洋食ばっかりだね。和菓子とかはないの?」
ζ(゚、゚*ζ「ないですね、和風なのはドリンクの緑茶くらいかな……」
( ・∀・)「えー、和菓子とか出そうよ……和食出そうよ」
ζ(゚、゚*ζ「肉じゃがとか欲しいですよね」
( ^ω^)「そんなお袋の味あふれる喫茶店はちょっと……」
一応デレは本気である。
肉じゃがやら焼き魚やら味噌汁やらを出した方が、客もゆっくり出来るのではないかと思っている。
ご飯や副菜を付ければ腹も膨れるし。
それでは喫茶店というより定食屋だが、生憎デレは頭が悪いので気付かない。
-
ζ(゚、゚*ζ「お袋の味、いいじゃないですか」
ξ゚⊿゚)ξ「というか今時もお袋の味って肉じゃがなのかしら」
( ^ω^)「そういや僕の場合は煮物とかよりもカレーだお」
ζ(゚ー゚*ζ「あ、何か分かります。コロッケとかハンバーグとか洋食。
うちのハンバーグは刻んだレンコン入れるからしゃきしゃきした食感が美味しいんです」
(*^ω^)「こっちのカレーは、とろけるような玉ねぎが……」
(;・∀・)「わー、お腹減るからやめてやめて。ていうかみんな、もっと和食を食べろよ!」
ζ(゚ー゚*ζ「肉じゃがも我が家の定番の一つですよ、べたに」
文化祭から話題が逸れて、和みが広がる。
デレもさることながら、この図書館の住民も食事というものが好きなので、こういう話題が弾むのだ。
だが。
(;・∀・)「もー、肉じゃが食べたくなってきたじゃん。あ、ニュッ君のお袋の味は何? 和食?」
このパスは、あまり良くなかった。
-
モララーはほぼ無意識に、沈黙して話に加わらないニュッに気を回したのだろうが、
そもそもの話題がまずい。
( ^ν^)「まず『お袋の味』が分かんねえ」
案の定。
本に目を落としたまま返された素っ気ない答えに、場は静まりかえった。
(;・∀・)「……あっ、あ、ぇあ、そ、そっか、」
(;^ω^)「……えっとー……」
──内藤ニュッと、内藤ホライゾン。
彼らは従兄弟同士である。
17年前に事故でそれぞれの両親を亡くして、祖父の住んでいたこの館に引き取られた。
(その祖父も数年前に亡くなり、今では内藤ホライゾンが家主だが)
事故当時の内藤ホライゾンが13歳の中学生であったのに対し、
ニュッの方は、まだ5歳の幼子。
5歳など、物心がついて間もない頃だろう。
そこに交通事故、両親の死というショッキングな出来事があり、
あれよあれよという間に、それまで関わりのなかった祖父との生活が始まって──
母親の手料理どころか、両親との思い出そのものが覚束なくても仕方ないではないか。
-
(;゚∋゚)「あー……」
( ;∀;)「にゅ……ニ゙ュッぐ……ごめっ……」
顔を青くさせたモララーがどんどん涙ぐむ。
クックルとツンは視線を逸らして事態を窺い、内藤はニュッに何か言いたそうに口を開閉した。
空気が重い。
ニュッも顔を上げて固まっている。
こんな雰囲気にするつもりはなかったのだろう、本人さえも珍しく戸惑いを見せていた。
何とかしなければ。
焦ったデレは、碌に頭を回さぬまま発言した。
ζ(゚ー゚;ζ「……あっ! じゃあ私がニュッさんのお母さんになりますね!?」
( ^ν^)「いえ、結構です」
物凄い反応速度でぶった切られた。いや受け入れられても困るが。
それと同時に、ぴんと張られていた空気も切られる。
-
ζ(゚ー゚;ζ「遠慮しなくていいんですよ、何が食べたいですか?
あっ、チキンライス好きですよねニュッさん、チキンライスどうですか!?」
( ^ν^)「こんな服装で平然としてられる奴が母親とか」
ζ(゚、゚;ζ「へ、平然とはしてませんよ、着替えたいですよ正直。
じゃあいつもの制服とか私服ならいいんですか?」
( ^ν^)「マヂムリ」
( ^ω^)「何の話が始まってるのこれ?」
気付けば今度は話題が妙な方向へ捩れ始めていた。概ねデレのせいである。
──それを打ち破ってくれたのは、この場にいる誰でもなかった。
(´・_ゝ・`)「館長、いる?」
そう言って扉を開けた中年の男。
盛岡デミタス。
彼は一斉に視線を向けられたことに怯み、ついでにデレの服装に怯み、
とりあえず反応を諦めて、館長こと内藤に向き直った。
-
( ^ω^)「どうしたんだお?」
(´・_ゝ・`)「下に、お客さん来てるよ。──『本』の件で」
そうしてまた、空気は変わる。
少しの緊張と、少しの喜びと。
(´・_ゝ・`)「……僕の書いた本だったよ」
( ^ω^)「そうかお」
内藤が腰を上げ、厨房に戻りかけていたツンが彼に続く。
デレは逡巡し、好奇心に負けて立ち上がった。
*****
-
この図書館には現在、10人の住人がいる。駄洒落でなく。
( ^ω^)
( ^ν^)
ξ゚⊿゚)ξ
家主であり館長の内藤ホライゾン。
その従兄弟の内藤ニュッ。
世話係のツン。
そして、「作家」7名。
-
(´・_ゝ・`)
(*゚ー゚)
( ゚∋゚)
( ・∀・)
盛岡デミタス、椎出しぃ、堂々クックル、茂等モララー、
それから今日はまだ会っていない他3人──
彼らはツン同様、血の繋がりがない同居人であるが、世話係のツンとは違い、
「ニュッのために小説を書く」という特殊な役目を持っている。
ζ(゚、゚*ζ(ニュッさん、異様に本が好きだから……)
本というものへ多大な愛情を向けるニュッは、いつしか市販の本だけでは物足りなくなった。
自分のためだけに書かれた物語を欲するようになったのだ。
デミタス達はここに住まわせてもらう代わりに、自作の小説をニュッに提供している。
一応は素人だけれど、小説そのものの出来はプロ並みだ。
デレもたまに読ませてもらうが、いつも夢中になってしまう。
-
しかし。
この図書館で彼らが書いた本の中には──「命」を持ってしまったものが、何冊かある。
.
-
( ^ω^)「──本の中の出来事が現実に起こり始めた、と?」
1階、図書館。
だだっ広い空間に並ぶ、たくさんの本棚。
その手前、いくつか置かれたテーブルセットの一つにて、
内藤は相手の発言を繰り返した。
¥・∀・¥「ええ……その、変な話と思うでしょうが」
( ^ω^)「いやいや。この図書館は、本に関する悩みなら何でも聞きますお。
どうぞ肩の力を抜いて」
¥・∀・¥「はい、……たまたまホームページを見掛けたので来てみたのですが、来て良かった」
内藤と相対するのは、彼と同年代、30代に入るか入らないかというくらいの男である。
ピアスや指輪や腕時計、いかにも高そうなアクセサリーをつけているが、
いずれもシンプルで、シックなスーツのおかげで品よくまとまっている。
金井マニー、と話の初めに名乗っていた。
-
ζ(゚、゚;ζ(わあ……何か、すごい、こう、お金の気配が……)
近くにある本棚の陰からこっそり覗きつつ、デレは圧倒されていた。
マニーもさることながら、内藤の方もいい値段のスーツを着ているので、
何だか2人から金ぴかのオーラが漂ってくる。
こういった物の価値に詳しくないデレですら、そう感じるほどに。
──元々この館を持っていた内藤の祖父が、とんでもない大金持ちで。
その遺産がたんまり渡されたのだから、内藤とニュッも必然的に金持ちとなった。
2人共あまり無駄遣いをしないし、ニュッは外で働いているし、
内藤は不動産関係の不労所得などがあるので、金っ気は尽きない。
ξ゚⊿゚)ξ「何してるの?」
ζ(゚ー゚;ζ「わ。何って、お話が気になって」
(´・_ゝ・`)「堂々と来ればいいのに」
盆を持ったツンが、通りすぎざまに顔を覗き込んでくる。
その後に続くデミタスは苦笑いをして、デレの肩をぽんと軽く叩いていった。
ζ(゚、゚*ζ(この格好では堂々と出ていけないもん……)
( ^ν^)"「……」
ζ(゚、゚*ζ「あれ、ニュッさん」
さらにニュッが現れた。
テーブルへ向かうツンやデミタスとは違って、そのままデレと共に覗き見を始める。
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ξ゚⊿゚)ξ「どうぞ」
¥・∀・¥「あ……いただきます」
上品な香りのコーヒーと、小振りのドーナツがマニーの前に差し出された。
ドーナツで良かっただろうかと問うツン
にマニーは頷いて礼を言い、
フォークでドーナツを切り分け口に運んだ。
ツンとデミタスもテーブルにつく。
内藤はコーヒーを一口飲んで、卓上の中心へ手を伸ばした。
( ^ω^)「拝見しても?」
伏し目がちに神妙な顔で咀嚼していたマニーが、どうぞ、と答える。
許可を得て、内藤は、そこにあった赤い本を手に取った。
一見すると、ハードカバーの分厚い本だ。
内藤が表紙を開く。
デレの位置からは中身まで見えないが、しかし、どんなものかは大体予想できる。
手書きの小説──
赤い本はデミタスの本、デミタスの本ならば高確率でミステリ小説。
-
( ^ω^)「作者の名前は、盛岡デミタス、ですかお」
ぱらぱらと流し読みした内藤は、再び表紙へ目を戻した。
隣に座るデミタスは素知らぬ顔。マニーに名乗る気はないようだ。
¥・∀・¥「はい、聞いたことのない作家で──というか、
手書きなところからして、一般人が趣味で書いたものなのでしょうけど」
( ^ω^)「そのようで」
¥・∀・¥「ただ、どこかの作家が別名義で書いたものかもしれません。出来がいい」
(*´・_ゝ・`)「本当ですか」
ほんのり頬を染めるデミタスは嬉しそう。
にこにこしながらドーナツを齧り、コーヒーを啜る。
好物のコーヒーとドーナツを前にし、さらに作品を褒められて、さぞ気分がいいことだろう。
¥・∀・¥「以前、古本屋に無料で置かれていたのを見掛けて何となく譲ってもらったんですが……」
反対に、マニーは声に戸惑いを滲ませた。
¥・∀・¥「それ以来、その本の中に描かれた事件が、私の身の回りで起こるようになったんです」
-
( ^ω^)「……どのような?」
¥・∀・¥「ええと、その本はオムニバス形式になっていて、
4つの事件が扱われているのですが──」
一つ目は、屋敷の中で頻繁に自室のみが何者かに荒らされ、私物が少しずつ消えていくという事件。
お抱えの使用人を疑い、隣人を疑い、独自に調べていけば──
単に、飼い犬が窓の隙間から入り込み、
持ち出した小物を庭に埋めていただけだった、というコメディ調の話。
¥・∀・¥「全く同じことが起こったんです。
私の家でも犬を飼っていて。そいつが私の部屋を……」
それしきのこと、普通であれば単なる偶然で済むのだろうが──
¥・∀・¥「……うちの犬は、老犬です。身軽に動き回ることなど出来ません。
まして、誰にも見付からずに家の中と庭を何度も行き来するなんて不可能だ」
なのに飼い犬は昔のように、ひょいと窓を越えて庭に下り、
「作業」が終わればまた軽々と屋内に戻ってみせた。
-
おお、好きな作品の投下に立ち会えるとは…
支援
-
また、妙なのはそれだけではない。
自分や身内がちょくちょく、小説の登場人物と同じ台詞を吐いていたことに気付き、
ぞっとしたのだという。
マニー自身は小説を読んでいたから無意識に発していたのかもしれないが、
彼以外の者は、あの本を読んでいない筈だった。
¥;・∀・¥「何だか、こう……何者かに『演じさせられて』いるような感覚でした」
( ^ω^)「ははあ、演じさせられて……はあ、なるほどなるほど」
¥;・∀・¥「それから間もなく、2つ目、3つ目と、小説の展開と全く同じ事件が起こったのです」
ξ゚⊿゚)ξ「何か危険なことはありました?」
¥・∀・¥「あ、いや、全体的にほのぼのとした話でね。
ちょっと物が壊れたり軽い怪我をしたりはあったけど、
危険と言うほどのことは何も」
答えてから、いま思い至ったとばかりにマニーは顔色を悪くさせた。
¥;・∀・¥「……いやはや、これが殺人を扱ったミステリだったらと思うと、ぞっとする」
-
( ^ω^)「4つの事件が描かれてるんですおね?
最後の事件は起こりましたかお?」
¥・∀・¥「はい、つい先日……。
これで一応、完結した筈なんですが」
( ^ω^)「それ以降も、何か変わったことが?」
¥・∀・¥「いえ、それきり。犬も元の通りによぼよぼです。
その件だけは少々残念に思いますが、やはりそれ以上にほっとしました。
使用人たちも台詞めいたことを言わなくなりましたし」
ζ(゚、゚;ζ(し、使用人がいるんだ……家に……)
¥・∀・¥「……でも、このまま本を持ち続けていればまた同じことが起こりそうな気がして、恐くて」
捨てるのも売るのも気が引ける、とマニーは言う。
誰かが拾って、自分のような目に遭うのではと。
かといって燃やすのも嫌だ──そう続けて、マニーは顔を顰めた。
¥・∀・¥「職業柄、どうにも」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ、そうでしょうとも。金井さんならば」
含みのあるツンの物言いに、おや、とマニーが片眉を上げる。
-
¥・∀・¥「私のことを知ってるのかい」
(*´・_ゝ・`)「図書館の人間が知らないわけがありますか。
『夫婦シリーズ』、いつも楽しみにしてます」
( ^ω^)「僕の従兄弟なんか新刊は必ず発売日に買ってくるほどですお」
ζ(゚、゚*ζ(しんかん?)
夫婦シリーズ、というのは聞き覚えがある。
巻ごとに異なる夫婦関係を主軸としたミステリ小説。
いつだったか、人気小説を映画化とか何とかいうニュースで知ったのだ。
デレはたっぷり熟考し、ようやく会話の意味に思い至った。
ζ(゚、゚*ζ「小説家なんですかね?」
( ^ν^)「知らねえのかよ、超売れっ子だぞ」
10年前、高校卒業と共にデビューしてからずっとヒット作を産み出し続ける天才作家──
ニュッの説明に、デレは感心と得心を同時に覚える。
ζ(゚、゚*ζ「すごい人が来たもんですね……あ、じゃあ」
首を捻って振り返れば、
内藤が言うところの「従兄弟」、ニュッがこちらを見下ろしてきた。
-
うおおまじか
支援
-
ζ(゚ー゚*ζ「だからニュッさんも覗きに来たんですね」
( ^ν^)「……」
デミタスあたりから聞かされて、見に来たのだろう。
無愛想な彼にもミーハーなところがあるのだと思うと、何だか微笑ましくて、
デレはへらへら笑った。
途端、ニュッが眉間に皺を寄せ、脳天にチョップを落とす。
ζ(゚、゚;ζ「あだっ。な、何ですかいきなりっ」
( ^"ν^)「馬鹿にすんな」
ζ(゚、゚;ζ「馬鹿にしてないですよ、寧ろ私は和やかな気持ちで……」
そのまま小声で言い合う2人。
チョップの状態でデレの頭に手を乗せていたニュッは、何を思ったか、
そのままヘッドドレスをいじり出した。
ζ(゚、゚;ζ「わあ、ニュッさん、あんまり引っ張らないでくださいっ。
100均のカチューシャにフリル付けただけらしいですから」
( ^ν^)「ふーん」
手を離したかと思えば、今度は肩紐のフリルを引っ張られた。
彼の手が顔の傍にあると、どうにも落ち着かない。
頬を抓られたり鼻フックを仕掛けられるのではないかと。
しかし純粋に、衣装そのものに興味を持っているだけらしい。
-
¥・∀・¥「──では、これで失礼します」
( ^ν^)「あ」ζ(゚、゚;ζ
がたんという音に意識を向けると、マニーが立ち上がるところだった。
いつの間にやら話が終わっていたようだ。内藤の手には赤い本がある。
( ^ω^)「それじゃあ、この本はうちで預かりますお。
──他に、こういう手書きの本は持っていませんかお?」
その問いにマニーは考え込む素振りを見せ、
¥・∀・¥「……いや、ないですね。それだけです。
ありがとうございました、よろしくお願いします」
(´・_ゝ・`)「来月出る新作も楽しみにしてます」
デミタスの言葉にも礼を言い、マニーは図書館を出ていった。
ぱたんと扉が閉められ、内藤らにまとわりついていた緊張感が消える。
デレは恐る恐るニュッに視線を戻した。
-
( ^"ν^)「お前のせいで碌に見られなかった」
ζ(゚、゚;ζ「えーっ! にゅ、ニュッさんが人のこと好き勝手いじくり回してたんじゃないですか!」
(;^ω^)「えっ何!? いやらしい話!?」
(´・_ゝ・`)「館長も結構しぃと同レベルだよね」
( ^ω^)「不名誉なことを今日2度も言われた」
本好きのニュッならば、好きな作家にだって興味があっただろうに。
衣装の方に気を取られるとは。
ζ(゚、゚*ζ「……ニュッさんもメイドさんとか好きなんですか?」
( ^"ν^)
もしやと思って問うてみたが、物凄く見下げられたうえ、
ニュッの手が滑るような動きで鼻フックに移行した。
ζ(゚、゚;ζ「ふぎゃああああああ!!」
ハハ ロ -ロ)ハ「タッダーイマー!」
ξ゚⊿゚)ξ「あら、ハロー。おかえり」
-
ζ(゚、゚;ζ「やめてやめてニュッさん広がっちゃう鼻広がっちゃうハローさんおかえりなさあああい!」
ハハ ロ -ロ)ハ「まーたニュッ君がデレいじめテル」
先程マニーが出ていったばかりの扉が開かれ、
今度は癖のある金髪と眼鏡が特徴的な女が入ってきた。
ハロー・サン。ここに住む「作家」の1人だ。
ニュッやモララーと同い年で、その2人と取り分け仲がいい。
とある一件でデレにもよく懐いている。
-
また釣りスレかと思ったら・・・・何たることだ けしからん
支援
-
(;´・_ゝ・`)「え、ハロー、何その格好」
ハハ*ロ -ロ)ハ「ウフフ。タキシードですヨ。
さっきネ、しぃからメールがあったノ。次回作に執事を出すカラ、資料として手伝って、ッテ。
だからレンタルしてきマシタ」
ξ゚⊿゚)ξ「それ騙されてるわよ」
ハハ*ロ -ロ)ハ「正直そんな気はしてたケド、面白そうだったカラ」
片言で説明しながら、ハローは上着の襟を摘まんでみせた。
白いシャツに黒い蝶ネクタイ、同じく黒のカマーバンドに上着とスラックス。
背が高くスタイルのいい彼女が着ると、存在感がすごい。
ニュッもそちらに意識を取られたようで、デレの鼻から手を離した。
ζ(゚、゚*ζ「ふわー、ハローさん格好いい……」
( ^ω^)「胸ぱっつんぱっつんじゃないかお……」
ハハ ロ -ロ)ハ「ッテ、デレも何かスゴイ服着てマスネ」
ξ゚⊿゚)ξ「メイドと執事が揃ったわね」
文化祭の話をハローはにこにこ聞いてくれたが、
ふと話題が途切れたところで、「そういえば」とツンに振り返った。
-
ハハ ロ -ロ)ハ「さっき男の人とすれ違いましたケド。
もしかして金井マニー? この前テレビで見たのと同じ顔デシタ」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ、『本』を持ってきたの」
ツンが内藤の手にある本を指差せば、自然とそちらに皆の意識が向く。
ハローやデレ達も本へ近付き、表紙を覗き込んだ。
ハハ ロ -ロ)ハ「デミタスの本。……生きてるノ?」
(´・_ゝ・`)「うん。幸い、危険な内容じゃなかった」
( ^ν^)「おい、触んな」
ζ(゚、゚;ζ「あっ、はいっ」
表紙に触れようとしたデレの手を、ニュッが掴んで止めた。
そうだ、「生きている」本には、不用意に触れてはいけない。
本来の持ち主であるニュッやデミタス、その家族である内藤達以外は。
-
──VIP図書館。そこに住む作家達。
彼らが書いた本の中には、命を宿してしまったものがある。
と言っても喋ったり物を食べたりするわけではない。
ある欲求を抱くようになるだけだ。
──自分に記されている物語を、現実世界で表現してほしい。
そんな純粋な願い。
その欲が高まったとき、「本」は、自身を手に取った人間を主人公と定めて周りまで巻き込み、
己に書かれたストーリーを無理矢理「演じさせる」。
要は内藤が先に述べたように、
本の中の出来事が現実にも起こってしまうということ。
本にも性格があるらしく、演じさせ方は様々。酷いときには空間までねじ曲げる。
解放されるには、物語を演じ終わるか、本を燃やす──殺す──しかない。
運が良ければ、本が飽きるなり心変わりするなり、中止してくれる場合もあるけれど。
-
ζ(゚ー゚*ζ「……とりあえず、戻ってきて良かったですね。本の状態も綺麗ですし」
不慮の事態により、本は全国に散らばってしまっている。
内藤達はそれを集めなければならない。
今もどこかで誰かが、マニーのように、本が引き起こす不可解な事態に悩まされているのだから。
デレもかつて「主人公」にさせられ、そしてこの図書館に辿り着いた。
内容が内容だけに大変困らされたが、こうして彼らと出会えたのだから、結果的には良かった。
本集めの手伝いは時々危険もあるけれど、いいこともたくさんあるから好きだ。
(´・_ゝ・`)「うん、そうだね。──おかえり」
デレの言葉に微笑み、デミタスは本の表紙をそっと撫でた。
*****
-
¥・∀・¥「戻ったよ」
林を抜けたマニーは、傍で待たせておいた車に乗り込んだ。
運転手に帰宅の旨を伝える。
¥・∀・¥「……はあ」
吐息とも唸りともつかぬ声を漏らし、柔らかなシートに身を預けた。
ずっと持っていた鞄を撫で、金具を外す。
「夕食は、ご自宅で?」
運転手の声に、うん、と呻くように返せば、
運転手は車を出す前に携帯電話で自宅の使用人へ指示を送ってくれた。
¥・∀・¥「……」
( ^ω^)『他に、こういう手書きの本は持っていませんかお?』
内藤という館長の問い掛けを思い出す。
左手を鞄の中に滑り込ませた。
硬い感触。
-
¥・∀・¥(……嘘を、ついてしまったな)
手に触れたそれ──藤色の本を引きずり出す。
著者の名前は椎出でぃ。
開いてみれば、盛岡デミタスの本同様、手書きの小説がそこにある。
マニーは最初のページ、冒頭の台詞を指で撫でながら読み上げた。
¥・∀・¥「……『お腹が空いた』……」
所謂ゴシック小説と呼ばれる類のジャンルだろうか。
古城に住む、飢えた怪物の物語。
台詞を独り言と思ったか、運転手が「すぐに帰りますよ」と返してから
物珍しそうに笑うので、マニーも少し笑ってしまった。
マニーが空腹を覚えることも、ましてやそれを言葉にすることも、
ここ数年、経験していない。
現に今、図書館で出されたドーナツとコーヒーだけで既に満腹に近い。
けれどもマニーの言葉を誤解した運転手がどことなく嬉しそうにしているから、
小説の台詞なのだと訂正する気も起きなかった。
*****
-
ζ(゚、゚*ζ「ふう」
その日の夜。長岡家。
自室にて、デレはきっちり畳んだメイド服の前で満足げに息をついた。
とりあえず文化祭までは出番もないだろう。
欠伸をし、部屋の電気を消してベッドに潜った。
夏が終わったばかりで夜も冷えてきたので、布団をしっかり肩まで掛ける。
ζ(-、-*ζ(おやすみなさーい)
両親が仕事の都合で遠方に行っている今、挨拶を返してくれる者もいない。
胸中で1人呟き、眠りについた。
*****
-
おいおい年の瀬に嬉しい投下がくるじゃあないか
-
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚*ζ「?」
ぱちくり。
まばたきして、デレは首を傾げた。
まっすぐ下ろした手が、硬い床に触れている。
どうやら座っているようだ。
ζ(゚、゚*ζ「んん?」
──何がどうなって、こうなっているのやら。
直前の記憶がない。
気付けばこうして、見知らぬ場所で座っている。
ぼうっとしたまま思考を巡らせ、ようやく「直前」を思い出した。
-
ζ(゚、゚*ζ(……布団に入って寝た筈では……)
そうだ。
明日の時間割や、再来週の文化祭や、その後に控える中間テストと修学旅行など、
とりとめのないことを考えている内に意識が溶けていき──
はっと気付くと、この状態。
あまりに唐突に覚醒したので、眠った、という自覚がない。
目を開けたらいきなり世界が変わっていたような感じだ。
ζ(゚、゚*ζ(夢かなあ)
明晰夢というやつ。
立ち上がり、よろける。
暗くて足元がよく見えない。
うっすらと視認できる範囲に大きな扉を見付け、取っ手を掴んで押してみれば、
重そうな見た目の割にすんなり開いた。
-
ζ(゚、゚;ζ(ふおっ。廊下広っ)
デレが10人は並べそうな幅の廊下に出る。
定間隔に設置された燭台。しかしその内のいくつかにしか蝋燭が立てられておらず、
先程の室内よりマシといえど、相変わらず暗い。
ずらりと並ぶ大きな扉、果ての見えない廊下。
人の気配はない。
物音さえ。
不安に襲われつつも、じっとしていられず、壁に手をつきながらしばらく歩いた。
廊下は長い。時たま分かれ道に出くわすが、ひとまずまっすぐ進む。
ζ(゚、゚;ζ(……洋館、かな。
映画で見たようなお城に似てるけど……さすがにお城はないよね。ていうか暗……)
ハハ ロ -ロ)ハ「デレ」
ζ(゚、゚;ζ「わーっ!!」
ぽんと肩に手を置かれ、絶叫した。
悲鳴は辺りに反響し、わんわんと余韻を残しつつ消えていく。
後ろへ振り返れば、見覚えのある金髪眼鏡。
-
ζ(゚、゚;ζ「……あっ、ハローさん!?
良かったあ、1人じゃなくて……」
ハハ ロ -ロ)ハ「同感デス」
デレの悲鳴に痛めたらしい耳を摩りつつ、ハローが頷く。
夢なのだけど、その自然な仕草にリアリティがあって、僅かに安心した。
ハローは辺りを見渡してから、再びデレに目を戻し、首を傾げる。
ハハ ロ -ロ)ハ「その格好何デスカ?」
ζ(゚、゚;ζ「え?」
ハハ ロ -ロ)ハ「何でメイド?」
蝋燭のついた燭台が近くにあるので比較的明るい。
デレは己の体を見下ろして、
ζ(゚、゚;ζ「……あれ?」
指摘通り、例のメイド服を着ていることにようやく気付いた。
-
ζ(゚、゚;ζ「て、ていうか、ハローさんも……」
ハハ ロ -ロ)ハ「え? アッ」
続けてハローの姿を見たデレがそちらを指差すと、
ハローも不思議そうに眉を寄せた。
夕方同様、タキシードを着ているのだ。
あのあと仮眠から目覚めたしぃがデレとハローの前に正座して
涙を流しながらじっくり鑑賞する、という気持ちの悪い出来事があったので、
そのインパクトが夢に影響したのかもしれない。
ζ(゚、゚;ζ「何でしょう、この夢……私とハローさんがコスプレしてお屋敷にいるって……」
ハハ ロ -ロ)ハ「……ンー? ……夢……夢デスカ……」
デレの呟きに、ハローが妙な反応をしてみせた。
頬に手を当て、考え込んでいる。
──かと思えば、突然デレの手を握り、踵を返した。
ζ(゚、゚;ζ「わっ」
ハハ ロ -ロ)ハ「アッチに、人がいそうな部屋がアリマシタ。行ってミマショウ」
ζ(゚、゚;ζ「え、ほんとですか?」
-
しえん
-
ハハ ロ -ロ)ハ「エエ。面白そうな夢ダト思ったノデ、探険を優先させマシタが……」
デレなら、人恋しくてすぐにその部屋へ入っていただろう。
こんな恐ろしげな場所をすすんで探険したがる辺り、サスペンス小説を好むハローらしい。
やはり変に現実味のある夢だ。
しかし夢の登場人物であるハローまで、この状況を夢と認識しているのが何とも可笑しい。
くすくす笑って、デレはハローの隣に並んだ。
ζ(゚ー゚*ζ「ハローさんも夢見てるんですか」
ハハ ロ -ロ)ハ「ハイ。晩ゴハン食べて、オ風呂入ッテ、モララーの部屋でニュッ君とゲームして、
新しい小説書き始めて、ソレカラ寝まシタ。
寝たと思っタラ、ココに」
ζ(゚ー゚*ζ「楽しそうですねえ」
ハハ ロ -ロ)ハ「デレも今度一緒にゲームしまショウネ、──あ、コッチ」
廊下をいくつか曲がったところで、ハローが足を止めた。
そこだけ明るかった。
他に比べれば、という程度だが。
突き当たりになっていて、そこに、今まで以上に大きな扉がある。
うっすらと開いた隙間から光が漏れているようだった。
声のようなものも聞こえる。
自然、デレもハローの手を握り返した。
-
でぃの本か
-
ζ(゚、゚*ζ「……たしかに、誰かいるみたいですね……」
ハハ ロ -ロ)ハ「入りマショウ」
先は、人のいる部屋に入らなかったというハローを物珍しい目で見たが、
いざ眼前にすると何やら不気味に思えて、デレも入るのが億劫になってしまった。
ハローの顔を見上げる。ハローはデレに微笑み、
把っ手から下げられたノッカーで扉を叩いた。
返事はない。
もう一度。声はするが、答えは返ってこない。
ハハ ロ -ロ)ハ「……失礼シマース!」
ζ(゚、゚;ζ「は、ハローさん、ちょっと……!」
痺れを切らしたハローが、思いきり扉を開けた。
デレは咄嗟にハローの背中に隠れる。
光が溢れ、一瞬、目が眩んだ。
-
ζ(>、゚;ζ「……」
ζ(゚、゚;ζ「?」
扉が開ききったことにより、声がいくらか鮮明に聞こえる。
何かを喋っているようには聞こえない。
平坦な──これは、呻き声か。
ハローの背中から、こっそり顔を出す。
ζ(゚、゚;ζ(うひゃあ)
──案の定、広い。
体育館に出来そうな広さと高さ。
天井から下がるシャンデリアが、煌々と光を注いでいる。
左右の壁にはアーチ型──てっぺんが尖った、いわゆる尖頭アーチ──の大きな窓が並び、
一部はステンドグラスになっていた。
窓の外が暗いので、今は恐らく夜。明るい時間帯であれば、
ステンドグラス越しに綺麗な光が射し込むだろう。
-
ハハ ロ -ロ)ハ「まるで教会の聖堂デスネ」
教会に馴染みのないデレでも、ハローの言うことは何となく分かる。
実際、部屋の中央に置かれた縦長の大きなテーブルが無ければ、
教会と思ったかもしれない。
白いテーブルクロスが掛けられたそれには、空の皿とナイフ、フォークが並んでいる。
数十人分の椅子と食器があるが、誰もいない。
──って。
ならば、この呻き声はどこからしているのだ。
ζ(゚、゚;ζ「ひっ、ひええ! おばけ!?」
ハハ ロ -ロ)ハ「マア、おばけの1人や2人は居そうな場所デスガ……」
ハローが歩き出す。
デレも慌てて付いていき、タキシードの背中を握った。
壁にはダークブラウンの落ち着いた色合いの調度品や、
デレにはよく分からない宗教的な(ように見える)像が取りつけられている。
2人が奥に進むにつれ、声が近付く。
それと、何か、変な音も。
-
そういやまだでぃ出てなかったか
-
ζ(゚、゚;ζ「……?」
やがてテーブルの端に着いた。
上座というか、お誕生日席というか、とにかくそこにひときわ大きく立派な椅子がある。
ハローがその椅子の陰を覗き込んだ。デレも倣う。
¥; ∀ ¥「うう……ぐうう……」
(´-;;゙#)「……」
倒れている男。
高そうなスーツ。きらめくアクセサリー。
──金井マニーだ。
その隣に、傷だらけの女が座っている。
-
ハハ ロ -ロ)ハ「でぃ? ──ジャ、ないデスネ」
女は、ハローが口にした名を持つ知人に似ていたが、
よく見れば顔つきも体つきも違った。
ともかく普通の人間が倒れている上、その傍らに怪我人がいるのだ。
恐怖どころでなくなったデレはハローの後ろから飛び出し、彼らに駆け寄った。
ζ(゚、゚;ζ「だっ、大丈夫ですか!? えっと、マニー……さん? と、ええと」
名前で呼んでいいのかという疑問が一瞬過ぎったが、
口に出してしまったのでそのまま続けた。
(´-;;゙#)
ζ(゚、゚;ζ「……あ、」
近くに来て、女の傷が全て古傷であるのに気付く。
きょとんとした目でデレを見ているので、こちらは多分大丈夫だろう。
ならば目下の問題はマニーの方だ。
同様に近付いてきたハローが、マニーの上半身を抱え起こした。
-
¥; ∀ ¥「う……うああ……。……が……」
ζ(゚、゚;ζ「え? 何です?」
マニーがゆるゆると手を持ち上げる。
震えている。
¥; ∀ ¥「……いた……」
ζ(゚、゚;ζ「?」
聞こえない。
声が小さいのもあるが、謎の音が鳴っているせいで聞き取りを邪魔される。
デレが彼の口に耳を寄せると、マニーは掠れ声を些か大きくして、ようやく一言落とした。
-
¥; ∀ ¥「……お腹が空いた……」
と、同時に。
声の他に鳴っている音の正体に気付いた。
ぐうぐう。腹の音。
ζ(゚、゚;ζ「……ええ?」
ハハ ロ -ロ)ハ「お腹が空いて倒れてるんデスカ」
以前にも空腹で倒れた男に遭遇したことのあるデレは、ちょっと冷静になった。
またこのパターンか、と。
ζ(゚、゚*ζ「な、何か食べます……?」
¥; ∀ ¥「……お願いしたい……」
お願いされた。
何となく訊いてみたものの、辺りに食べ物は見当たらない。
テーブルにあるのは前述通り、食器だけだ。
-
ハハ ロ -ロ)ハ「ね、デレ」
マニーを床に転がし直したハローが、ちょんちょんと肩をつついてくる。
それに顔を向けてみせれば、彼女はすぐそこにある壁を指差した。
ハハ ロ -ロ)ハ「コノ奥に、まだ何か部屋があるみたいデスヨ」
示す先には、なるほど、壁と同色で分かりづらいがドアが一つあった。
*****
-
ζ(゚、゚;ζ「いやいやいや」
ドアを開けたデレは、ますます頭が冷えるのを感じた。
厨房だ。
別にそれ自体は問題ないというか寧ろありがたいが、
ζ(゚、゚;ζ「世界観めちゃくちゃだあ」
──どう見ても、現代の一般家庭風のキッチンである。
3口のガスコンロに、やや広めのシンク、冷温切換の蛇口、棚に並んだ調理器具と調味料、
果ては少し大きめの冷蔵庫。
天井の明かりも普通の蛍光灯だ。
-
ζ(゚、゚;ζ「何……もう、詰めが甘いなあ。しょせん私の夢か……」
厳かな食堂に振り返ってからもう一度キッチンを見ると、落差が酷い。
まあ、こういった建築様式の厨房がどんなものなのか知らないデレが見ている夢なのだから、
仕方ないかもしれない。
ハハ ロ -ロ)ハ「イイじゃないデスカ、カマドとかがあるヨリは。扱いやすくて」
ζ(゚、゚*ζ「それもそうですね」
単純な頭をしている。ある種、美徳だ。
ζ(゚、゚*ζ「何かないかな……」
ハハ*ロ -ロ)ハ「ホットケーキ食べタイ!」
ζ(゚、゚;ζ「ハローさんに作るんじゃないんですよう」
好物を主張してくるハローを宥めた瞬間、
ごとん、と冷蔵庫の中から音がした。
びくりと肩を竦めたデレとハローが顔を見合わせる。
前へ出ようとしたデレを留め、ハローが冷蔵庫に近付いた。
デレも、そろそろと、冷蔵庫の中が見える程度の距離まで移動する。
ハローが扉に手をかけ、勢いよく開く、と──
-
ハハ ロ -ロ)ハ「アラ」
ζ(゚、゚;ζ「え」
──ホットケーキミックス、卵、牛乳。ついでにバターとメープルシロップ。
ハローの要望にピンポイントで応えたような材料が、そこに揃えられていた。
ハハ*ロ -ロ)ハ「ホットケーキ作れッテことデスヨ」
ζ(゚、゚;ζ「いや、そんな……呑気に作ってる場合じゃないですよ、マニーさんお腹空かせて──」
ハハ ロ -ロ)ハ「ソンナ時間かかんないデショ? ソレニ、他にはナニもナイし」
たしかに。
今のところ一番早いのは目玉焼きだろうが、それだけをぽんと出すよりは、
ホットケーキの方が腹に溜まるだろう。手間も然程ではない。
図書館でドーナツを食べていたので、甘いものも平気な筈だし。
-
ζ(゚、゚*ζ「……じゃ、ぱぱっと作りましょうか」
ハハ*ロ -ロ)ハ「ワーイ。デレのホットケーキー」
ナチュラルに自分ひとりで作ることになっている事実に疑問も持たず、
必要な器具を棚から取り出し、調理を開始した。
ζ(゚ー゚*ζ「ハローさん、フライパン2つ温めてください」
ハハ ロ -ロ)ハ「ハーイ」
3つあるコンロの内2つにフライパンをセットし、温める。
その間にデレが必要な材料を必要な分だけボウルにぶち込み、掻き混ぜた。
混ぜ終われば後は焼くだけ。本当にシンプルだ。
フライパンがそこそこ大きかったので、生地も多目に流し込んだ。
片面に熱が通ったら引っくり返す。
ハハ*ロ -ロ)ハ「イイ匂い」
ζ(゚ー゚*ζ「ですねえ」
ふんわり、甘い香りが漂う。
こんがり焼けたすべすべの表面。
鼻から目から食欲をそそられ、デレまでお腹が減ってきた。
ハローも同じようで、ぺろりと唇を舐めつつデレの隣からフライパンを見つめている。
と、同時に2人の腹が鳴った。
へへ、と誤魔化すように笑い合う。
-
なんだこのほのぼの空間
-
ζ(´ー`*ζ「あとで私達の分も焼きましょ」
ハハ*ロ -ロ)ハ「ウン」
ひとまず今はマニーの分。
焼き上がったホットケーキを2枚、皿(ハローが食堂から持ってきていた)に重ねる。
ぽふ、なんて可愛らしい音。
ハハ*ロ -ロ)ハ「デレのホットケーキ、厚くて好き」
ζ(゚ー゚*ζ「ちょっと自慢です」
生地を作るときは先に卵と牛乳をよく混ぜ、それからミックスを入れる。
ミックスを入れてからは軽く混ぜるだけ。だまが残る程度でいい。
デレが母から教わった、手軽に分厚く焼くコツ。
少し悩んでから、バターとメープルシロップは乗せず、
ホットケーキとは別にして食堂へ運ぶことにした。人によって好みがあるだろう。
-
(´-;;゙#)
ζ(゚、゚;ζ「わっ!」
さて運ぶかと振り返れば、傷だらけの女が立っていた。
年齢が分かりづらいが、割合に派手なデザインのワンピースを着ているので、若いのかもしれない。
女はしばらくデレと皿を眺め、不意に近付き、皿を覗き込んだ。
ζ(゚、゚*ζ「あ……食べます? 作りましょうか」
"(´-;;゙#)" フルフル
無言で首を横に振る。
見た目だけでなく仕草も知人に似ていると思った。
ハハ ロ -ロ)ハ「アナタはドチラ様?」
くたりとハローが首を傾げる。
女はそちらを見て、小さく口を開けた。
(´-;;゙#)「ウ……ウギ……」
呻きに似た奇妙な声を漏らし、女は驚いたように喉元を押さえた。
唸りながら瞳を左右に揺らして、地面を見下ろし、顔を上げる。
-
(´-;;゙#)「ギ……び……、……びぃ」
ζ(゚、゚*ζ「びぃ、さん?」
(´-;;゙#)「びぃ。わたし」
今度は嬉しそうに頷いている。
何なのだろう。
ζ(゚、゚*ζ「私はデレです、こっちはハローさん。
びぃさん、どうしました?」
(´-;;゙#)「マニー様が、お腹すかせてる」
マニー様、と来たか。
ζ(゚ー゚*ζ「ですね。だから、これ食べてもらおうかなって」
びぃはもう一度ホットケーキを見て、「ありがと」と不安定な発音で呟いた。
そうして食堂へ戻ろうとするので、デレ達も続く。
-
マニーは椅子に座っていた。ぐうぐう、腹の虫が鳴き続けている。
彼の前にハローがバターとシロップを、
デレがホットケーキの皿と牛乳入りのマグカップを置いた。
その姿は、端から見ると本当にメイドと執事のようであっただろう。
びぃは適当な椅子を引きずってきて、マニーの隣に座った。
ζ(゚、゚*ζ「びぃさんは本当にいらないんですか?」
(´-;;゙#)「いらない」
¥・∀・¥「びぃ?」
そこで初めて気付いたように、マニーは隣を見た。
びぃを視界に収め、目を少しばかり見開いている。
¥・∀・¥「びぃ、どうして」
マニーは困惑し、やがて、青白い顔に微笑を浮かべた。
そのまま何か言いたげであったが、一際大きく腹が鳴った途端、皿に目を戻した。
-
ζ(゚ー゚*ζ「ホットケーキ、大丈夫ですか? 苦手だったりしませんか」
¥・∀・¥「……大丈夫」
ζ(゚ー゚*ζ「良かった。バターとシロップはどうします?」
¥・∀・¥「わからない」
わからないと言われても。
まあ嫌ではないようだから適当にやっておこう、とデレはバターナイフでバターを掬った。
マニーは少しも口を出さない。
ζ(゚ー゚*ζ「すみません、先に召し上がっててください」
バターを乗せてメープルシロップをかけて、あとはご自由にとデレはマニーから離れた。
まるでマニーに釣られるように、デレの空腹感が強まっていた。
ハハ*ロ -ロ)ハ「ワタシにも」
ζ(゚ー゚*ζ「分かってますよー」
キッチンに戻り、残りの生地を使って2枚焼く。
焼き上がったそれは2人で分けることにした。
一枚ずつ分けるのではなく、重ねてから半分に切る。
ホットケーキは重なっていてこそだろうという拘りだ。
-
デレが2つの皿を、ハローが2人分の牛乳を持って食堂に入ると、
マニーとびぃはじっと座ったままホットケーキを見つめていた。
ζ(゚、゚*ζ「食べないんですか?」
¥・∀・¥「食事は、みんな揃わないと」
ハハ ロ -ロ)ハ「アラまあ」
律儀な。
空腹だろうに待たせてしまったのが申し訳なくて、
ごめんなさい、と謝ってから2人も席に着いた。
マニーの席から角を挟んで左側にデレが。
そしてその真向かいにハローが座った。
ほかほかのきつね色にバターとシロップをかけて、左手にフォーク、右手にナイフを握る。
-
ζ(゚ー゚*ζ「それじゃあ、いただきます」
デレが言えば、マニーとハローもいただきますと声をあげ、
ようやくホットケーキにフォークを触れさせた。
ふかふかのホットケーキにナイフが沈む。
甘いそれに、溶けたバターの匂いも加わって香ばしい。
皿に垂れた琥珀色のシロップをホットケーキの底面で拭い、
大きく開いた口に収めた。
ハハ*ロ -ロ)ハ「んー」ζ(´ー`*ζ
図らずも、ハローと同じタイミングで声が出た。
ふわふわのホットケーキ。それ自体の甘味は控えめで優しい。
含まれている熱が、ぽっと口内を温める。
-
びぃ珍しいな
-
シロップを多めに吸い込んだ部分は溶けるような舌触り。
舌先と歯に挟まれただけで、じゅんわり、蜜を溢れさせた。
甘味でとろけそうな舌をバターの仄かな塩気が引き留めて、また新鮮な甘さを感じさせてくれる。
よく味わって飲み込んだら、牛乳を一口。
冷たさとまろやかさが甘味の名残と混じって、
ζ(´ー`*ζ(しあわせ)
満たされる。
ほうと息をつき、さらにもう一口、とフォークを握り直した。
.
-
──空腹感のせいもあり、あっという間に食べ終わってしまった。
若干物足りないくらいだ。
口の端に付いたシロップを舐め、ナイフとフォークを置く。
ζ(゚ー゚*ζ「ごちそうさまでした」
言って、あ、と口を押さえた。
つい夢中になっていたが、本題はこっちではない。
慌ててマニーに目を向ける。
¥*・∀・¥
(´-;;゙#)
嬉しそうな顔でぱくついていたので、ほっとした。
気に入ってもらえたようだ。
びぃもにこやかにマニーを眺めている。
-
ハハ*ロ -ロ)ハ「美味しかったデス」
ハローはデレより先に食べ終えていたのか、空の皿を前にしてにこにこ笑っていた。
デレ独自の味付けなど勿論していないので、
味に関しての手柄は各材料のメーカーにある。
それでも仕上げに焼き上げた身として、素直に照れておいた。
¥*・∀・¥「──ごちそうさま」
単純に考えてデレの2倍の量があったホットケーキを、間もなくマニーが食べ終えた。
結構急いで食べた筈だが、それでもどこか品がいい。
¥*・∀・¥「美味しかった」
ζ(゚ー゚*ζ「良かったです」
(´-;;゙#)「よかった」
マニーはしばらく皿をにこにこ眺めていた。
この場にいる全員が微笑んでいる。
何とまあ平和な空間。
-
食事の後は片付けだ。思い至り、デレが腰を上げる。
ζ(゚ー゚*ζ「ハローさん、お皿洗うの手伝って──」
言いかけ、口を止めた。
¥・∀・¥
マニーの笑顔が、虚ろなものになっていた。
どこともなく、宙を見つめている。
(´-;;゙#)「マニー様?」
びぃが声をかける。マニーの口が小さく開かれる。
¥・∀・¥「……ちがう……」
か細い声でそう言って、
──びぃの手が肩に触れた瞬間、その体はずるりと傾いた。
-
ζ(゚、゚;ζ「えっ」
ハハ ロ -ロ)ハ「アッ」
どさ、と。
マニーが床に倒れる音が、重たく響いた。
びぃは軽く指先を触れさせただけであって、決して押してはいなかった筈だ。
(´-;;゙;)「マニー様っ」
ζ(゚、゚;ζ「ま、マニーさん!?」
びぃがすぐに床へ膝をつき、デレとハローも彼らに駆け寄る。
マニーは真っ白な顔をして、腹を抱えるように丸まっていた。
体はがたがた震えている。
-
ζ(゚、゚;ζ「マニーさん? どうしました!?」
(´-;;゙;)「マニー様、ご飯食べたのに、なんでっ」
ハハ ロ -ロ)ハ「……」
¥; ∀ ¥「は、あ、ああ、ああ……お、おなかが、すいた、おなか、」
ζ(゚、゚;ζ「おなか?」
耳を済ませば、ぎゅうぎゅう、また腹が鳴っていた。さっきよりも酷く。
ζ(゚、゚;ζ「た、足りなかったですか?
あのっ、もっと作ってきます、まだ材料あるから、ま、待っててください!」
デレが立ち上がると同時に、マニーの震えが弱まった。
嫌な予感がして、デレは足を止めてしまう。
心臓が激しく跳ねる。ぞわぞわ、背中を伝う悪寒。
不明瞭な呻きを漏らしてマニーがますます背中を丸め、
──ふるりと一際大きく震えて。
彼は脱力した。
腹の音が消えていた。
.
-
ζ(゚、゚;ζ「え……」
(´-;;゙;)「……」
ハハ ロ -ロ)ハ「びぃサン、ちょっとダケどいてクダサイ」
ハローがマニーの胸元に耳を寄せる。
少し間をあけ、上げた顔を左右に振った。
ζ(゚、゚;ζ「マニーさん……?」
¥ ∀ ¥
デレは再びしゃがみ込む。
肩に触れて呼び掛ける。返事がない。
そんな。どうして。急に。
-
(´-;;゙;)「マニー様、……マニー様……」
声を震わせ、びぃが揺さぶる。それでも起きない。
その光景にデレの足も震えた。
碌に知らぬ人だが、目の前でこうなった以上、黙ってもいられない。
何故だろう、くらくらする。混乱しているからか。
ζ(゚、゚;ζ「マニーさん、……起きてください、マニーさん!」
呼び掛けるごとに目眩が激しくなって、
何度目かに瞼をきつく下ろした。
ζ(゚、゚;ζ「まに、」
瞼を上げる。
──見覚えのありすぎる天井が、そこにあった。
-
ζ(゚、゚;ζ「へ……」
まったく広くない部屋。
カーテン越しに射す陽光。
デレはしばらく天井を眺めた後、勢いをつけて体を起こした。
ぎしりと軋む、馴染んだスプリング。
──デレの部屋だ。
呆然としながら掛け布団を端にやり、体を見下ろしてみれば普通のパジャマ。
ζ(゚、゚;ζ「あっ」
そういえば夢だったんだ、と思った途端に力が抜けた。
あまりに様々な感覚が生々しくて、すっかり頭から抜けていた。
ζ(゚、゚;ζ「どういう夢……」
メイド服を着て、見知らぬ女が出てきて、執事のハローとホットケーキを食べて、マニーが動かなくなって──
何ともわけの分からぬ夢である。
へらりと苦笑して、ベッドから下りる。
夢の中ではっきりした意識を保っていたせいか、あまり眠った気がしない。
-
ζ(゚、゚*ζ(あとでハローさんに話そ)
雑談の種が出来たなという結論に落ち着いて、
登校の準備をするため、まずは顔を洗わねばと洗面所へ向かった。
*****
-
¥;・∀・¥「──!」
びくり、体が跳ねて、ばちんと瞼が持ち上がった。
先ほど止まった心臓がどくどく跳ね回り──いや、いや、夢か、
心臓が止まったのは夢の中のことだ、目が覚めたのだ、ここは自室だ。
天井を呆然と見つめ、やがて、震える腕で支えながら身を起こす。
-
¥;・∀・¥(なんてリアルな夢だ……)
飢餓感も、与えられたホットケーキの味も、
体の中が空っぽになってしまったような虚しい終わりも。
どれもが現実的な感覚に満たされていた。
¥;・∀・¥「……」
頭と心臓を落ち着かせるために室内をうろうろ歩き回りながら、
夢の内容を思い返し、整理する。
しばらくそうしていると、ドアがノックされた。
躊躇いがちな女の声。
「──マニー様」
¥・∀・¥「ん……おはよう」
ドア越しに返事をする。やや間があって、声は続いた。
「朝食はいかがいたしましょう」
朝食。
鸚鵡返しにしながら、腹を摩る。
-
¥・∀・¥「……うん、もう少ししたら、食べに行くよ」
そう答えれば、ドアの向こうで、ぱっと喜ぶような気配を感じた。
分かりました、と少し弾んだ声の返事があって、足音が遠ざかっていく。
極度の少食で、普段は朝飯を抜いてばかり──というか何も食べない日すらあるので
使用人たちにはいつも迷惑と心配をかけている。
申し訳ないとは思うが、いまいち腹が減らないのだから仕方ない。
けれども今は、夢の名残を引きずっているのか何か食べたい気分だった。
¥・∀・¥(……久しぶりに、あんなに夢中になって物を食べたなあ)
ベッドに腰を下ろす。
ふと、サイドテーブルに目をやった。
-
藤色の本。
淡い色味が今はやけに自己主張しているように見えて、
何となく手に取り、表紙を開く。
¥・∀・¥(……この本と、シチュエーションがまるで同じだったな……)
──「お腹が空いた」。
そんな台詞から始まる小説。
飢えた怪物が毎夜、召使に料理を作らせる物語である。
怪物が求めるのは、かつて母親が食べさせてくれたものと同じ味。
どんなに美味しそうな料理でも、母の料理を再現できていなければ、
先の夢のように怪物は満たされず飢え死にしてしまう。
けれども主人公は怪物であるので、次の日の夜には復活し、また飢餓に苦しむ。
不気味な世界観と、純粋な怪物のいじらしさや苦悩が入り交じる切ない話だ。
-
先程の夢はそれになぞらえたかのようだった。出されたメニューは違ったが。
あれではまるで、自分がその主人公になったみたいだ。
そう考えると、ふ、と笑いが零れた。
¥・∀・¥「そうか、僕は怪物なのか」
本を閉じる。
無意識に、少し乾いた口内を舐めた。
ああ、 が食べたい。
*****
-
ζ(゚、゚*ζ「あ」
つつがなく一日の授業を終えて、放課後。教室。
何気なく携帯電話を開いたデレは、小さな声をあげた。
メールが一通。
o川*゚ー゚)o「どしたの?」
声が聞こえたのか、近くにいた友人──素直キュートが首を傾げる。
毎日会っているが、今日も可愛いなと改めて思った。
首を傾げた拍子にさらりと揺れる髪も、小さな顔も、ツンより丸みの強いどんぐり眼も。
今こうしている間にも、教室にいるクラスメートのうち何人かの視線が彼女に向けられている。
-
ζ(゚、゚*ζ「ニュッさんからメール」
o川*゚ー゚)o「え、あのひとメールとかするんだ」
ζ(゚ー゚*ζ「たまに来るよ」
o川*゚ー゚)o「へえ。メールでも意地悪言ってそう、ニュッ君さん」
ζ(゚、゚*ζ「まあそれがニュッさんだから」
本当に言ってんのかよ、と若干乱暴なツッコミが桜色の唇から落ちる。
デレにしか聞こえない程度の小声だったので、
他の者の目には、相変わらず天使のように愛らしいキュートが映っているだろう。
o川*゚ー゚)o「で、どんな用だって?」
ζ(゚、゚*ζ「『事務所に来い』、だって」
o川*゚ー゚)o「遮木さんのとこ?」
ζ(゚、゚*ζ「うん、何の話だろ……。
あ、キュートちゃんは今日、図書館行くの?」
o川*゚ー゚)o「んーん、今日は友達と遊ぶんだ。
さっき職員室に呼ばれてたから待ってるの」
ζ(゚、゚*ζ「そっか」
-
冒頭と繋がった
-
o川*゚ー゚)o「図書館、何かあったの?」
ζ(゚、゚*ζ「ううん。ただ、昨日クックルさんに衣装合わせの写真見せたら、
キュートちゃんの浴衣似合ってるって言ってたから。
今日図書館に行けば、直接言ってもらえるんじゃないかと思って」
──言ってから、しまった、と思った。
返事のメールを打ちかけていた携帯電話から、恐る恐る視線を上げる。
o川;*゚ー゚)o
キュートが目を見開き、首から上を真っ赤にさせ、歪に笑い、ぶわっと汗を吹き出させていた。
美少女としては、ちょっとよろしくない顔だった。
-
ζ(゚、゚;ζ「うわっ!」
物凄い勢いで腕を掴まれ、教室から引きずり出される。
そのまま、東棟の端、人気のない階段の下へ連れ込まれた。
ζ(゚、゚;ζ「きゅ、キュートちゃん、」
o川;*゚ー゚)o「……いや、別に、どうでもいいんだけどさ!!」
デレを壁際に追い詰める形で迫るキュートが、息を切らして叫んだ。
o川;*゚ー゚)o「どうでもいいけど、……く、くっ、クックルさんが、それ、似合うって、それ、……本当?」
ζ(゚、゚;ζ「は、はい」
o川;*゚ー゚)o「ほっ、他に何か言ってた!? ……どうでもいいんだけどね!?」
ζ(゚、゚;ζ「……キュートちゃんは何でも似合うって……」
言わない方がいいかなと思いつつ、あまりの気迫に、つい正直に答えてしまった。
キュートがのけ反った。
すぐ背後にあった掃除用具入れに後頭部を打ちつけ、崩れ落ちる。
-
ζ(゚、゚;ζ「わああっ、大丈夫!? すごい音したよ!?」
o川;* ー )o「ふざっっっけ……あのやろう……! 何……ふっざけん……」
後頭部に構うことなく、小さな拳で床を殴りながらぶつぶつ呟いている。恐い。
──生粋のナルシスト故に、「美少女」であることに誇りを持つキュートは、
「清楚で可憐な美少女・素直キュート」を自ら演出することに余念がない。
仕草ひとつにまで拘るほど。
そんな彼女だが、堂々クックルが関わると、途端に取り繕うのが下手になる。
現状はマシな方だ。
これでクックル本人が目の前にいて、昨日の賛辞を直接ぶつけていたら、
キュートは奇声を発しながらのたうち回るだけの生物に成り果てていただろう。
ζ(゚、゚;ζ(ここに誰か来たらまずい……)
学校の中のキュートは、ふわふわ柔らかくて甘ったるい、綿菓子のような女の子である。
うふふと優雅に微笑み華奢な手指で可愛らしい仕草をして皆を魅了する女の子である。
こんな異常者ではない。
四つん這いのまま震える背中を撫でてやりながら、デレは殊更やさしく声をかけた。
-
ζ(゚、゚;ζ「キュートちゃん、私そろそろ行くよー。
キュートちゃんも教室戻らないといけないんじゃないの? 大丈夫?」
o川;* ー )o「余裕じゃこんなん。今はあれだから……ただ校舎を押し倒してるだけだから」
ζ(゚、゚;ζ「そう……」
程々にね、と言い残し、デレは逃げるように教室へ戻ると
自分の鞄を手にして学校を出ていった。
間もなく「他に何か言っていませんでしたか」とキュートから何故か敬語のメールが来たので、
「あれ以外は特になかったよ」とありのままに返信したら、
5秒くらいで返事が来た。「マジかよ」。どうやら正気に戻ってくれたらしい。良かった。
と、こんな感じのことがあったので、デレは夢のことをすっかり記憶の隅にやってしまったし、
それ故、なぜニュッに呼び出されたのか、その理由にも全く思い至らなかった。
*****
-
さて。
事務所──「遮木探偵事務所」は、とあるビルの3階にある。
ステンドグラスの嵌め込まれたドアの前に立ち、デレは耳を澄ませてみた。
数人の話し声。その内1人は、デレを呼び出したニュッである。
それ以外に聞こえるもう1人の男の声に、そりゃあ居るか、とほんの少し嘆息。
覚悟を決めてドアをノックし、返事をもらってから開けてみれば、
(´・ω・`)「やあデレちゃん。文化祭の売上金ってちょろまかせないの?」
相変わらず下衆なことしか考えていない探偵様が、随分な挨拶をかましてくれた。
番外編 続く
-
乙!ショボンwwwwwwww
-
今回はここまで
ホットケーキを厚く焼くコツは本当に有効なのか知らないので誰か試して教えてください
読んでいただきありがとうございました!
次回は中編。多分30日か31日に
-
乙
ショボンの台詞で笑うわww
いやあ懐かしい、続き楽しみに待ってるよ
-
乙乙
-
もう完結してるから番外編超嬉しい!
乙です
-
よっしゃ楽しみできたぞ、おつ
そういえばでぃの本ってそんなんだったな懐かしい
-
校舎をwwwww押し倒してるwwwwwwだけだからwwwwwwwwwwww
-
おつ
-
久々のゲスショボンだけど早速強烈でワロタ
乙です!
-
びぃがブーン系に出てるのなんて初めて見たよ。
乙です
-
乙
面倒臭がってたけどこのスレ読んでるうちに読み直したくなってきたから本編読んでくるわ
-
あなポンチョ懐かしいな!読み返してくる!
-
あなポンチョとは
-
あな本マジかよ…!
乙!!
-
乙乙!!
あな本がまた読めるとは……
-
本物かよ!
別スレのデレニュッの絡み見て懐かしくなって読み返したとこだったわ
-
乙!
-
まず読む前に言わせてくれ
乙!予告された時からこの時を待ってたんだ!
今から読んでくる
楽しみだ!
-
きてれう!
今から読んできます!乙乙!
-
乙乙
最近また最初から最後まで読んだところだったんだ
続きも楽しみにしてる
-
読んできた。
最近ホットケーキ食べたばっかりだってのに、また食べたくなってきた。
1枚だけでもかまわないが、かさねてあると一層おいしそうに見えるんだよなあ
重ねた間にバター塗って食べるの好き
自分の母親はシリコンのわっかみたいなやつで分厚いのを焼いたりしてる。
-
マジで?マジでまた穴本を読んでいいのか
ショボンが相変わらずの一撃必殺っぷりでワロタ
-
穴イキの続編だぁ・・・!
ショボンの人気っぷりに笑う
-
ホットケーキに炭酸水を混ぜるとふわふわ感増すよね。
-
おお!番外編か続き楽しみだわ
-
うおおおお乙うううう待ってたぜええええ
-
乙!!!!!
まさかまた読めるなんて思ってなかった
-
ちょっとあな本読み返してくる
-
釣りかと思ったら本物だった。乙!
改めて読み返してくるか〜
-
乙です
デレちゃん大好きです
http://imepic.jp/20151229/088780
続き楽しみにしてます!
-
可愛いのお可愛いのお!
-
>>142
ありがとうございます!! おっぱい!
可愛い。目がめっちゃ綺麗
ホットケーキ美味しそう
-
今年最後に読む小説が一番好きな作者の作品とは贅沢な・・・うわあぁぁぁ嬉しい!!
-
>>142
デレちゃんかわいい……アシモフしたい……
-
>>142
可愛い!!これはスカートの中で呼吸するしかない!!!
-
>>147
おさわりこまちんっです
-
ざわ・・・ざわ・・・
-
>>142
デレちゃん!すばらしい!おっぱい!
-
中編投下します
-
要点を述べよう。
( ^ν^)「金井マニーが、『本』の主人公にさせられた」
ζ(゚、゚*ζ「えっ」
( ^ν^)「ついでにお前とハローも脇役として巻き込まれてるっぽい」
ζ(゚、゚*ζ「えっ」
( ^ν^)「頑張れ」
ζ(゚、゚*ζ「えっ」
-
番外編 あな美味しや、ゴシック小説・中編
.
-
遮木探偵事務所。
ほんの数人の所員を抱えた小ぢんまりとした探偵事務所だが、実績は確かだ。
その事務所の所長が、
(´・ω・`)「まーた面倒くせえことになってんね、君達」
気弱そうな顔をした男、遮木ショボン。
顔つきに反して傲岸不遜で高飛車で下衆な拝金主義の性悪だが、
内藤の友人であり、図書館住人との付き合いも長い。
彼らと仲良くやれているからには、ショボンも根っから悪い男ではないだろう。多分。
そのショボンは現在、己の席にふんぞり返って鼻をほじりながら
応接用のソファに座るデレ達を眺めていた。
-
ζ(゚、゚;ζ「そうみたいですね……」
( ^ν^) ハァーーー
ハハ ロ -ロ)ハ「テイウカ、今の今マデ気付いてなかったんデスカ、デレは」
ローテーブルを挟む形で置かれた2つのソファ。
一方のソファにはデレとハローが、
そしてもう一方にはスーツ姿のニュッが座っている。
ζ(゚、゚;ζ「……ええと、確認しますが……」
デレは腕を組み、俯き気味の顔を傾けた。
向かいに座るニュッを上目に見て、
ζ(゚、゚;ζ「私が昨夜見た夢は、『本』が作り上げた──舞台ってことなんですね?」
( ^ν^) ハァーーー
そう訊ねてみれば、ニュッは皺が寄る眉間を指先で揉み込みながら、
本日5度目──デレの知る限りで──の深い深い溜め息をついた。
-
ハローが、ぴっと人差し指を立てる。
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシとデレ、そして金井サンの意識が、
『本』の用意した舞台に繋げられたんデショウ。
キット金井サンも同じ夢を見た筈デス」
デレが見た夢を、ハローも見たのだという。
異様なリアリティに疑念を抱き、朝食の席で夢の内容を話してみれば、
案の定「そのストーリーに覚えがある」という答えが、2人の男女から挙がった。
内1人はニュッ。
もう1人は──
ζ(゚、゚*ζ「……まあ、夢の中で演じさせるのは、でぃさんの本ですよね」
(#゚;;-゚)、
ニュッの隣で申し訳なさそうな顔をしている傷だらけの女、椎出でぃ。
VIP図書館に住む作家だ。
-
彼女はしぃの双子の姉でありながら、あの痴女とは正反対の性質を持っている。
露出の激しい服装を好むしぃ、顔と指先以外はあまり露出させないでぃ。
常に動き回り何事にも関心を向けるしぃ、基本的にぼうっとしがちなでぃ──といった具合。
特に顕著なのが、
(#゚;;-゚)ノシ
ζ(゚、゚*ζ「え? 何です?」
ハハ ロ -ロ)ハ「『巻き込んでごめんね』ッテところジャないデスカネ」
この無口なところ。
いつもきゃあきゃあ騒いでいるしぃとは大違いだ。
ζ(゚、゚*ζ「別にでぃさんが悪いわけじゃ……」
"(#゚;;-゚)" ブンブン
デレの言葉に、でぃは首を横に振った。ニュッが6度目の溜め息。
デレ達の見た夢──
そのシチュエーションが、でぃが昔書いた小説と一致しているのだという。
-
命を持った「本」にはそれぞれ性格の違いがあるが、
その多くは作者の性質に似る。
消極的なでぃに似た「本」は、演じさせ方も消極的だ。
主人公に選ばれた人間の、夢の中でのみ演劇を展開させていく。
多くの「本」が現実に干渉してくるのに比べれば、控えめと言えるだろう。
まあ、ある意味では、一番大胆な手法なのかもしれないが。
ζ(゚、゚*ζ「あれ? 主人公はマニーさんなんですよね?」
( ^ν^)「その筈だ」
ζ(゚、゚*ζ「なら、マニーさんの夢の中だけで展開する筈じゃ……?」
個人の夢の中だから、舞台も脇役も、自由に作り出すことができる。
だからあくまで「本」の影響が及ぶのは、主人公に選ばれた者の脳内だけ。
今回のデレやハローのように、「助演」として他者が捩じ込まれることはない筈だ。
その指摘にニュッが唸り、頭を掻いた。
-
支援ぬ
-
( ^ν^)「多分……本が、お前とハローを気に入ったんだ」
(#゚;;-゚)) コクン
ζ(゚、゚;ζ「気に入った? って?」
( ^ν^)「まず前提としてあの本には、主人公に仕える2人の召使が登場する」
ζ(゚、゚;ζ「……はあ。それが私とハローさんなんですね?
どうして私達が本に気に入られたんです?」
( ^ν^)「昨日の夕方、お前と金井マニーは同じ場所にいた。
──金井の鞄の中にでも、でぃの本が入ってたんじゃねえかな。
それできっと、本は、覗き見してるお前に気付いてた」
──メイドの格好をしているデレに。
ζ(゚、゚;ζ「……あ」
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシは、タキシードを着てる状態で金井サンとすれ違いましたしネ」
(´・ω・`)「てめえらの図書館はいつからコスプレ喫茶になったんだ」
心底馬鹿にするような目付きのショボンが、茶々を入れてくる。
だが一応まじめに話を聞いてくれてはいるらしい。
-
(´・ω・`)「んで? 実際に……まあコスプレだけど、実際にメイドと執事然とした人間を見て、
脇役に採用したくなったってわけ? 本が」
(#゚;;-゚)) コクコク
( ^ν^)「だからお前らを召使として出演させることにして、
お前らの夢を繋げたんだろう」
ζ(゚、゚;ζ「めちゃくちゃだあ」
(´・ω・`)「今更でしょ」
たしかに今更だ。
「本」の起こす事件は、基本的に何でもありなのだから。
とりあえず、演者として巻き込まれてしまったことは理解した。
ならば次に重要なのは、その内容。
-
ζ(゚、゚*ζ「どんなお話なんです?」
( ^ν^)「薄暗い城に住む怪物の話。いわゆるゴシック小説」
ζ(゚、゚*ζ「ごしっく?」
( ^ν^)「……城とか洋館とか化物とか幽霊とか因縁とか
そういう要素の多いホラーやSF……に限らないが、近いもんだと思っとけ。
明確な線引きもないだろうから雰囲気で分かってればいい」
ζ(゚、゚*ζ「……はあ……?」
( ^ν^)「……『フランケンシュタイン』、『オペラ座の怪人』、『嵐が丘』」
ζ(゚、゚;ζ「す、すみません、名前くらいしか知らないです……」
じとりと凝視される。
ごめんなさいともう一度謝って、デレは肩を縮めた。
とりあえずもう一度説明を受けて雰囲気は何となく察したので許してほしい。
-
(´・ω・`)「で、何。でぃの本に出てくる怪物とやらはどういう奴なの」
( ^ν^)「常に飢えで苦しんでる」
(´・ω・`)「ひゃあ。危険しか感じないフレーズだなあ。
もしかしてデレちゃんとハローは食べられちゃうの?」
ζ(゚、゚;ζ「ひえっ」
( ^ν^)「いや、よくある『心優しい怪物』系。
死んだ母親の手料理が恋しくて、召使に毎晩料理を作らせるが
気に入るものが無くて満足できない。だから飢える」
飢えるという言い方は、決してオーバーには感じない。
あのマニーはたしかに、ただ単に腹が減ったとか、そういうレベルではなかった。
( ^ν^)「怪物は夜毎に飢え死にし、夜になるとまた生き返る。
満足するまでその繰り返しだ」
飢え死に──
じゃあ、やはり、昨夜の夢の最後でマニーは。
死んだのか。
ぶるり、デレは震えた。
-
(´・ω・`)「オチはどうなんの?」
( ^ν^)「望む料理を見事に作り上げ、怪物の心寂しさも解消されてめでたしめでたし。
まあ結末に至るまでに死にまくってるから暗い話ではあるんだが」
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシたち召使は、タダ料理をするダケで危険はナイんデスヨネ?」
(#゚;;-゚)) コクリ
ζ(゚、゚;ζ「お話通りなら、今夜もまた夢で演じさせられるんでしょうか」
( ^ν^)「そうなる筈だ」
ならば今夜もマニーは飢える。
あんなに苦しそうだったのに──今夜も、また。
ζ(゚、゚;ζ「あの、マニーさんと連絡はとれないんでしょうか?
本を取りに行くか、図書館に持ってきてもらって……」
実のところ、「本」は朗読するだけでも満足してくれる場合がほとんどだ。
ニュッ達も手元にある分の「本」は定期的に朗読してやることで、欲求を解消させている。
本なりのルールがあるらしいので断言は出来ないが、
今回の場合は、今から朗読に切り替えても許される、筈だ。
しかしデレの提案は否定された。首を振ったのはショボン。
-
(´・ω・`)「さっきデレちゃんが来る前にハロー達も話してたけど、駄目みたいだよ」
ζ(゚、゚;ζ「え? どうして……」
(´・ω・`)「昼頃、ブーンが金井マニーの連絡先を調べて電話したそうだ。
それはもう単刀直入に、『これこれこういう内容の紫色の本を持っていませんか』と」
ζ(゚、゚;ζ「結果は?」
(´・ω・`)「ノーだ。じゃあ家の中にあるかどうか探してもらえないかとブーンは伝えた。
それにもノー。……というか、忙しいからと電話を切られたらしい」
──デレにとっては又聞きの更に又聞きだが、それでも怪しさは鮮烈である。
まあ真偽がどうであれ、取り合ってくれないのなら本の回収もできない。
( ^ν^)「そもそも昨日うちに来た時点で、マニーはでぃの本も持ってきてた筈だ。
なのに兄ちゃんの『他にも持ってるか』って質問に嘘をついて隠した。
理由は分かんねえけど、素直に出すつもりはないんだろうよ」
それもそうだ。
ならば、今すぐ本を回収することも、まして朗読だけで済ませることも出来ないわけで。
-
ハハ ロ -ロ)ハ「諦めて、おとなしく演じるしかナイですネー」
ζ(゚、゚*ζ「……じゃあ私は、その『怪物』のためにご飯を作ればいいんですか?」
( ^ν^)「まあ、そういうこったな」
ζ(゚、゚*ζ「もしも私の料理が、理想通りでなければ……」
( ^ν^)「『怪物』は飢え死にする。そんで次の日の夜からもう一回やり直しだ」
頑張れとハローが拳を握る。他人事極まりないが、
現実、彼女が料理に親しむ姿もこれといって記憶になかった。
-
ζ(゚、゚;ζ「……お気に召すものが出てくるまで、
あの人は毎晩死に続けるんですよね……」
( ^ν^)「そうだよ。だから早い内に終わらせた方がいい。
あの人のためにも、……お前らのためにも」
マニーが死ぬのは、あくまで夢の中でのみ。
現実で死ぬわけではない。
しかし──あれだけ生々しい感覚を伴う夢なのだ。
飢えも、絶命も、マニーはそっくりそのまま味わっている。
そんな夢を何日も繰り返していいわけがない。
荷が重い。なぜ自分なのだろう。そう愚痴れば、メイド服を着たからだろ、とニュッに正論を返された。
ζ(゚、゚;ζ(ぐうの音も出ない)
──デレがメイドの格好をしなければ、しぃが興奮してハローにタキシードを強要することもなかった。
もしかして、というかほぼ確実に、ハローまで巻き込まれたのは自分のせいか。
どんどん自己嫌悪に陥るデレに、ニュッは一瞬だけ気遣わしげな目を向けて(気のせいかもしれない)、
視線を隣のでぃに滑らせた。
-
( ^ν^)「……まあ幸いなのは、その本が、あまり細部にはこだわってないって点だ」
ζ(゚、゚*ζ「え?」
( ^ν^)「夢の中だから姿形、名前、登場人物の行動なんて自由に操れる。
にもかかわらず、お前らも金井も現実通りの姿だったし、
デレはデレ、ハローはハローとしての意識をしっかり持ってたんだろ?」
ハハ ロ -ロ)ハ「エエ、そうデス。それに、自由に動き回れマシタ」
( ^ν^)「その上──ええと、デレはホットケーキを作ったんだったか」
ζ(゚、゚*ζ「はい」
( ^ν^)「記憶にある限り、あの小説にはホットケーキやそれに類する料理は出てこない。
──ハローがホットケーキ食いたいっつったら食材が現れたんだよな。しかもミックス。
なら『本』は、物語通りの展開を強制するつもりはないわけだ。
お前らの意思を優先させてる」
(#゚;;-゚)) コクコク
(´・ω・`)「ははあ。じゃあ──仕方なく展開を省略する羽目になっても、
許してくれるかもしれないね」
ショボンが悪巧みをするような笑みを浮かべ、
ニュッとでぃがそれに同意した。
ハローも理解したように手を叩く。
こういうとき、頭の悪いデレは一歩遅れがち。
-
ζ(゚、゚*ζ「えーと……?」
( ^ν^)「さっさと正解の料理を作って結末まで持ち込んじまえば、
今夜の内に演じ終えられる。かも」
ζ(゚、゚;ζ「……えー?」
ニュッのおかげでデレも理解した。
理解はしたが、納得は出来なかった。
ζ(゚、゚;ζ「い、いいんですかね? そんな雑に終わらせちゃって」
(´・ω・`)「なあにを言うのデレちゃん。
役者側のアドリブを許容した本が悪いんだから、そこに付け込んでナンボでしょ」
ショボンの言い分に、でぃは困ったように唇の両端を持ち上げつつ首肯した。
ζ(゚、゚*ζ「でぃさんはそれで大丈夫ですか? 作者として……」
(#゚;;-゚)b
サムズアップ。
でぃが良しとするなら、本も許してくれるかもしれない。
ニュッの計画通り、今夜の内に終わらせられるのであればそれに越したことはないだろうし。
満足した本はしばらく大人しくしていてくれるから、
マニーから回収する策を考える余裕も出来る。
-
ζ(゚、゚*ζ「それで、正解のお料理は何なんです?」
( ^ν^)「キッシュ」
(´・ω・`)「キッス? は? メルヘンかよ」
(;゚;;-゚)ノシ
ハハ ロ -ロ)ハ「キッシュ。タルトとかパイ生地とかに色々ぶち込んで焼いたヤツですヨ」
(´・ω・`)「説明雑すぎでしょ。お菓子なの?」
ζ(゚ー゚*ζ「中に入れるのはお野菜やお肉ですから、お菓子とはまた違いますよ」
(´・ω・`)「うーわデレちゃんに知識で負けた。死にたい」
ζ(゚ー゚*ζ「どういう意味ですかそれは」
-
ハハ ロ -ロ)ハ「別に珍しい料理デハないんデスケドネー。喫茶店にもアルし」
( ^ν^)「ラーメン屋の倅にゃ、おフランスの伝統料理は馴染みがねえか」
(´・ω・`)「ナメんな。昔ブーンと一緒に高級フランス料理店に殴り込んだことあるわ」
ハハ ロ -ロ)ハ「館長が席を外した隙に支払い押しつけて逃げたヤツ?
あのトキの館長メッチャぶちギレてマシタよ」
(´・ω・`)「その後ちゃんと焼き鳥おごってあげたもん僕」
( ^ν^)「それで対等と言い張る思考回路こえーよ」
(#´;;-`)
どうにも緊張感が持続しない。
図書館メンバーに加えショボンまでいるのだから、仕方ないかとデレは思った。
実際はデレも元凶としての役目を存分に果たしている。
ふと、ニュッが一枚の紙をデレに差し出した。
メモ用紙だった。癖はあるが読みやすい文字で、食材やレシピが書かれている。
-
( ^ν^)「電話でクックルに作りかた訊いといた。
──でぃは、作中の料理の描写は、うちで作る料理を参考にしたっつってたから
このメモ通りに作れば『怪物』の望む味になる……と思う」
クックルは指一本に至るまで平均より大きい割に、かなり器用で几帳面だ。
細々とした作業が好きで、料理も得意。
彼のレシピなら当然美味いだろう。
( ^ν^)「ハローにも暗記させといたけど、一応」
ζ(゚ー゚*ζ「ありがとうございます! 助かります」
メモ用紙を受け取りがてら、ニュッの手を握って上下に揺すった。
途端、全力で握り返される。ついでに捻られる。
ζ(゚ー゚;ζ「あだだだだだだ」
(´・ω・`)「キッシュなあ。しゃらくせえ。お袋の味っつったら肉じゃがか味噌汁だろ」
ハハ ロ -ロ)ハ「あんなフンイキ溢れる古城に醤油と味噌のニオイ漂わせられマセンヨ」
(;´;;-`)
傍らの会話を聞き、ニュッが手を離す。
──何か、物憂げな目をしていた。
-
ほんとショボンぶれねぇなwwwww
-
( ^ν^)「……もしかしたら……」
ζ(゚、゚*ζ「?」
言いかけ、口を噤む。
デレが首を傾げても教えてくれなかった。
代わりにこちらを見て、また溜め息。
ζ(゚、゚;ζ「何ですかニュッさん、さっきから溜め息ばっかり」
( ^ν^)「別に」
(´゚ω゚`)「心配してましゅうーwww」
( ^ν^)「死ねボケ」
白目をむいて鼻に指を突っ込みながら舌を出してぎゃはぎゃは笑うショボンに、
ニュッが5、6回ほど舌打ちをかました。
ああ心配してくれているのかとデレは納得する。
彼が存外に情け深いたちなのはとっくに知っているので、驚きはない。
特にハローは彼にとって家族であり親友でもあるのだから、なおさら心配だろう。
-
ζ(゚ー゚*ζ「一生懸命やりますよ」
∩(#゚;;-゚)∩
(´・ω・`)「しかし金井先生との共演を一日二日で終わらせるってのは勿体ないんじゃないの、ハロー。
作家としてはさ」
ハハ*ロ -ロ)ハ「ワタシは以前、金井サンが連載シテル雑誌に短編小説載りマシタからネ。
そういう意味デハ共演済みデスシ」エヘン
ζ(゚、゚;ζ「えっ!? そうなんですか!?
え、え、ハローさん、普通の雑誌に小説とか載せてるんですか?」
ハハ ロ -ロ)ハ「オ小遣い稼ぎのタメに、たまに、たまーに短編を載せてもらうノ。
モチロン偽名でネ。別名義で作品発表するノモ、作家にはヨクあるコトですカラ。
ア、月刊文芸の今月号にクックルの短編載ってマスヨ。今朝届いてマシタ」
ζ(゚、゚;ζ「へええええ……もう半分プロじゃないですか」
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシの場合は館長のコネで出版社に話通してモラッテ、
たまに穴埋めのお仕事モラウ程度デスから。大したモンじゃナイデス」
得意気に謙遜して(矛盾している)、ハローが微笑む。
ニュッ君がやめろと言うならやめますけど、と顔を傾ける彼女に、ニュッは吐息のみを返した。
-
(´・ω・`)「はいはいはい、話がまとまったのなら、帰った帰った。
お前らのためにわざわざ他の所員ども追っ払った上、
ここでの業務2時間近くストップしてんだ。さっさと出てけー」
ζ(゚、゚;ζ「あ、ごめんなさい、ありがとうございました」
(´・ω・`)「しかもうちの貴重な事務員こと下僕もといニュッ君まで貸してやったんだ。
この2時間分のこいつの給料はお前らが出せよ。5万」
ζ(゚、゚;ζ「ニュッさんの2時間に5万円の価値あります?」
( ^ν^)「お前たまに無自覚で喧嘩売ってくんのやめろ」
ハハ ロ -ロ)ハ「時給2万5千円じゃないデスか、月給に見合わナイんデスケド」
(´・ω・`)「業務を停止させられた諸々の慰謝料を含んでいる」
ハハ ロ -ロ)ハ「慰謝料ッテ言えばイイと思ってるチンピラ思考デスよソレ」
(;゚;;-゚) オロオロ
実際これ以上ここに居るのも迷惑だろう。
デレが立ち上がると、ハローとでぃも腰を上げた。
-
ζ(゚、゚*ζ「──あ」
メモを見下ろし、不意に、ある人物を思い出した。
ζ(゚、゚*ζ「あの、私とハローさんとマニーさんの他に、もう1人いたんですけど……。
びぃさんって人。その人、でぃさんにちょっと似てて……」
( ^ν^)「ああ、ハローから聞いた。
──正直そいつはよく分かんねえ。けど、何か変だ」
ζ(゚、゚*ζ「変?」
( ^ν^)「たしかに作中には『怪物』の恋人として、傷だらけの女が出てくる。
でぃに似てるのは、本が、作者のでぃを参考にしたからだろうな」
ζ(゚、゚*ζ「あ、それじゃあびぃさんは夢の中で作られた登場人物であって、
現実には存在しない人?」
( ^ν^)「いや。──本来そのキャラクターは、『びぃ』って名前じゃない」
ということは──どういうことだ。
首を捻る。
ハハ ロ -ロ)ハ「それに、金井サンとびぃサンは知り合いみたいデシタしネ」
ζ(゚、゚*ζ「あ、そうですね。……んん? じゃあやっぱり現実にいる人?」
-
(´・ω・`)「びぃっていう、『中身』は実在する人なんでしょ。
外見は原作に寄せられたけど」
( ^ν^)「そんなとこだろうな。
デレとハローは仮装のせいで外見も重視されてたから、
姿を変えられずに済んだだけで」
──ただ、そうなると、金井マニーまで現実通りの見た目であったことが納得いかなくなる。
そう言って、ニュッは天を仰いだ。
そのまま溜め息。本日──何度目だ、もう。
ζ(゚、゚*ζ「マニーさんも服装や顔が『本』の望む通りだったとか?」
( ^ν^)「金井の服装は昨日と同じだったんだろ」
ζ(゚、゚*ζ「はい、スーツとアクセサリーつけてました」
( ^ν^)「『怪物』は怪物らしく人間離れした見た目の設定だった。
それならやっぱり、金井がそのままの姿だったのは妙だ」
ζ(゚、゚;ζ「ええー、じゃあ何で金井さんだけ……いや、寧ろびぃさんだけ?」
-
ハハ ロ -ロ)ハ「マア、いいじゃありマセンか。
終わらせちゃえば、ソンナの関係ありマセン」
d(#゚;;-゚)b
たしかに、ここで考えても仕方ないことではある。
別に外見が展開に関わるわけでもないだろうし。
──デレはショボンとニュッに挨拶し、ハロー、でぃと共に事務所を後にした。
とりあえず午後11時くらいには眠るようにしよう、と約束してからハロー達と別れる。
1人になって、何となくレシピのメモを広げ、思案した。
ζ(゚、゚*ζ(このメモ、夢の中には持っていけないかなあ)
ハローが暗記したらしいから心配はいらないだろうが、
でもやはり、万が一ということもある。
一応、寝るときに握っていよう。
*****
-
ハハ ロ -ロ)ハ「コンバンハ、デレ」
ζ(゚、゚*ζ「……こんばんは、ハローさん。待ちました?」
ハハ ロ -ロ)ハ「イイエ、いま起きマシタ。……起きたトイウカ、寝たトイウカ」
顔を上げると、向かいのハローがひらひらと手を振っていた。
──だだっ広い食堂。高い天井。大きなシャンデリア。アーチ型の窓。ステンドグラス。
昨夜と同じ場所。
デレはつい先程、自室で眠りに就いた筈だった。
しかし次の瞬間にはこうして、食堂のテーブルで目を覚ましている。
やはりメイド服。ハローはタキシード。
改めて確認するまでもない。昨日の夢の続きだ。
-
(´-;;゙#)「マニー様……」
¥;・∀・¥「くうう……」
昨夜と同じ席に、マニーとびぃが座っている。
マニーは腹を押さえて呻いているが、昨日のように倒れていない分、いくらか安定して見えた。
実際は昨日と変わらないのだろうけど。
ζ(゚、゚;ζ「ご、ご飯! 作ってきます!」
慌てて立ち上がり、ハローと共に厨房へ向かう。
びぃは、席に着いたまま気遣わしげにマニーの背を撫でていた。
.
-
ハハ ロ -ロ)ハ「──作りたい料理に必要な材料が、自在に出てくるワケですヨネ」
厨房、冷蔵庫の前にしゃがんだハローが呟く。
たしかに昨日、ホットケーキが食べたいという言葉に応えるように、
ホットケーキミックスやら卵やらが現れたのだったか。
ζ(゚、゚*ζ「そうみたいですね」
ハハ ロ -ロ)ハ「食材ジャなくて、完成した料理そのモノは出てこないもんデショウか」
ζ(゚、゚;ζ「ど、どうなんでしょう?」
ハハ ロ -ロ)ハ「キッシュ〜」
ハローが冷蔵庫に手を添え念じてみれば、がこん、と内部から硬い音。
2人は顔を見合わせ、冷蔵庫に視線を戻し、一緒に把っ手を引いた。
-
ζ(゚、゚*ζ「あー」
ハハ ロ -ロ)ハ「ダメかあ」
中にあるのは、卵、生クリーム、牛乳、ほうれん草、ベーコン、チーズ。
生クリームもベーコンも、スーパーで見かけるような市販のパック製品だ。
チーズもピザ用のもの。
ζ(゚、゚*ζ「さすがに調理はしなきゃ駄目なんですね……。
あ、パイシートだ。良かった、これくらいは準備してもらえるんだ」
冷蔵庫の奥からパイシートを取り出し、安堵する。
パイ生地も一から作らねばならないのかと不安だったから、これは助かる。
食材を抱えて流しの前に立った。
と同時にあることを思い出し、エプロンのポケットに手を突っ込む。
──紙の感触。
-
ハハ ロ -ロ)ハ「アラ。レシピ?」
ζ(゚、゚*ζ「はい……夢の中に持ってこられるのかなって思って、持ったまま寝たんです」
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシがちゃんと覚えておいたノニ。
……デモ、夢の中に物を持ち込めるってコトは分かりましたネ」
原理はともかく、持ち込みに成功したことは事実だ。
とりあえずメモ用紙を広げ、食材と見比べる。
ζ(゚、゚*ζ「材料、クックルさんのレシピ通りですね」
ハハ ロ -ロ)ハ「コッチの意思を汲んで本が便宜ヲはかってくれてるヨウデスね。
どうやらコノ本、特に甘い性格してるみたいデスヨ。
コレなら、すんなり終わらせられるカモ」
-
ζ(゚ー゚*ζ「ですね! ぱぱっと作っちゃいましょう! まずほうれん草のアク抜きしないと。
ハローさんはベーコンを切っておいてください」
ハハ ロ -ロ)ハ「ハーイ」
ハローは脱いだ上着を適当な棚に引っ掛けると、シャツの袖をまくった。
デレも袖を少し引き上げる。
キッシュの調理自体はそれほど複雑ではない。
切って、混ぜて、流し込んで、焼く。大雑把に見れば概ねこんなものだ。
クックルが決めた調味料各種の加減があるので、そこさえ気を付ければ問題ないだろう。
ただ、下処理だとかオーブンでの焼き上げだとか、いくらか時間を食う。
その間マニーは苦しんでいる──それがデレには気掛かりだった。
*****
-
処理を終えて、適当な大きさに切ったほうれん草とベーコンを焼く。軽く塩胡椒。
その間にハローには、生クリームと卵、牛乳を混ぜてもらう。
こういう、色々混ぜた生地をアパレイユというらしい。メモに書いてある。
大きめのタルト皿にパイシートを敷き、炒めた具を入れ、アパレイユを流し込む。
たっぷりチーズを乗せたら、あとは温めておいたオーブンへ。
ζ(゚、゚*ζ(このまま20分から30分……)
食堂で待っているであろうマニーを思い、何度も壁の時計を見る。
そうしたところで時間の流れは変わらない。じりじりと針が進むのみだ。
余っている材料で、色々作れる。ソテーやオムレツ、チーズ焼き。
オーブンだけでなく電子レンジもトースターも揃っているから、
それらを使えばキッシュよりも早く出来上がるメニューが、いくつもある。
けれど多分、駄目なのだ。
キッシュが焼けるまでの繋ぎとして別の品を出してしまえば、
恐らくそちらが今夜のメニューと認められてしまうだろう。
一晩につき一品。
「本」では、そういう風に描かれている。らしい。
-
ハハ ロ -ロ)ハ「何か飲み物、ありませんカネ」
ハローの言葉で我に返る。
そうだ、飲み物。
牛乳なら残っているが、クリームとチーズと牛乳を使った料理のお供にまた牛乳、というのも。
くどいだろう。
ハハ ロ -ロ)ハ「アノ冷蔵庫、飲み物も出してくれるんデショウか」
ζ(゚、゚*ζ「出てくるとして、キッシュには何が合うんでしょう?」
ハハ ロ -ロ)ハ「ンー。ブッチャケ麦茶トカでイイんじゃナイかと思いマスが、
雰囲気出すナラ、ワイン? トカ?」
ζ(゚、゚*ζ「お酒飲ませて大丈夫なんでしょうか?」
ハハ ロ -ロ)ハ「……お腹空かせてるヒトにお酒は良くないデスネー」
ζ(゚、゚*ζ「ですよね。それなら麦茶の方がいいのかもしれません。
……でもこれ、飲み物も『本』の展開に関わってたりしませんかね……」
-
ハハ ロ -ロ)ハ「飲み物も関係あるナラ、ニュッ君かでぃが言ってる筈デス。
彼らが言わなかったというコトは、物語上、飲み物は然して重要ではナイし、
それナラ『本』もソコに拘る可能性は低いと思いマス」
ζ(゚ー゚*ζ「そっか。じゃあ……うん、せめて洋風の雰囲気を保つために、
紅茶にしときましょうか」
ハハ ロ -ロ)ハ「異論アリマセン」
ごとん。冷蔵庫から物音。
開けてみれば、缶入りの茶葉がぽつんと置いてあった。
棚からティーセットを取り出し、水を入れたヤカンをコンロにかける。
沸くのを待ちながら、オーブンを見遣る。
あと10分くらい。
ζ(゚、゚*ζ「……本は、これで許してくれますかね。2日目でいきなり結末って」
ハハ ロ -ロ)ハ「食べサセテみなきゃ分かりマセン。
──マア、チョット可哀想な気も、しますケドね。実際」
「本」達は、悪気があって人間を巻き込んでいるわけではない。
ただひたすらに自分を演じてほしい──純粋にわがままを通そうとしているだけなのだ。
しかし悪気がないからといって、苦しむ人を放っておくわけにもいかない。
それでもやはり、ハローの言うように、可哀想だと思う気持ちも少しはある。
-
ハハ ロ -ロ)ハ「セメテ、召使らしい振る舞いトカして、役ダケでもソレらしくシマス?」
ハローがいたずらっぽく笑って、小首を傾げる。
そんなこと言われても。
ハハ ロ -ロ)ハ「文化祭ノ練習も兼ねて」
ζ(゚、゚;ζ「め、メイドさんっぽい振る舞いって分かりませんよ私。どうすればいいんですか?」
ハハ ロ -ロ)ハ「トリアエズ普通に丁寧な対応しとけばイイんじゃないデスカ?」
ζ(゚、゚;ζ「とは言われても」
-
ハハ ロ -ロ)ハ「メイド喫茶みたいなのでイイデショウ、もう」
ζ(゚、゚;ζ「ああいう感じで大丈夫ですか?」
ハハ ロ -ロ)ハ「この本書いたでぃだって本物のメイドに会ったコトなんてナイんデスカラ」
ζ(゚、゚;ζ「はあ。……。……。
お、お帰りくださいませご主人様?」
ハハ ロ -ロ)ハ「何デスカそのベタなミス」
その後も何度か挑戦したが、いまいちよく分からない。
やっぱり普通でいい、とハローが笑うと同時にヤカンが鳴った。
火を止め、適温になるのを待つ。
デレは時計を見て、思いのほか時間が進んでいることに安堵した。
マニーや本に意識を向けて焦るデレの気を逸らすため、
下らぬやり取りに付き合ってくれたのだろう。
ζ(゚、゚*ζ「ありがとうございます」
ハハ ロ -ロ)ハ「ウフフー」
*****
-
焼き上がった円形を切り分け、皿に乗せる。
ふわりと香り立つ湯気に、ぐう、とデレとハローの腹が鳴った。
今回も、時が経つにつれデレ達まで空腹を覚えていた。
4人分の皿とティーカップを何度かに分けて食堂へ運ぶ。
マニーが待ちわびるような目を向けてきた。
¥・∀・¥「……キッシュ」
そう呟く彼は訝しげにデレを見上げて、すぐにまた皿を見下ろし、フォークを持った。
配膳を済ませたら、デレとハローも席に着いて。
ハハ ロ -ロ)ハ「いただきます!」ζ(゚、゚*ζ
両手を合わせ、声も合わせる。
マニーも唇を舐め、いただきます、とか細い声で続いた。
-
ζ(゚、゚;ζ(……うう、限界)
出来ればマニーが食べるのを待ちたかったし、召使としても待つべきなのだろうが、
既にデレの空腹感もピークに達していた。
フォークを手に取り、キッシュへ向ける。
扇形に切られたキッシュ。
表面に浮かぶほうれん草やベーコンは溶けたチーズに覆われて、てらてら光っている。
程よく焦げたチーズの香りが堪らない。
フォークを沈ませて一口大に切る。
持ち上げれば、とろり、チーズが少し伸びて、ゆっくり千切れた。
ζ(゚、゚*ζ「ん」
ぱくりと口に収めた途端、一層強い香りが鼻に抜けた。
咀嚼する。さくさくと小気味良く砕けるパイ生地。
それに包まれていたアパレイユと、上面のチーズがとろけ合う。
-
ζ(´、`*ζ(チーズとろとろもっちり……)
オーブンで焼かれたことでアパレイユは固まっていて、食感はふわふわした茶碗蒸しに似ていた。
さくさく、とろとろ。それらの食感の中に、ベーコンのかりっとした感触がたまに混ざる。
もともと塩気のあるベーコンとチーズに、更に塩胡椒で炒めたほうれん草もあるのだが、
それを包むクリーミーな卵が全体をまろやかに仕上げてくれている。
濃厚だ。噛めば噛むほど、肉の旨味やほうれん草の風味も混ざり、飽きが来ない。
そのうえパイ生地に使われているバターのコクまで加わって。
ζ(´ー`*ζ マッタリ
美味しい。
-
たっぷり味わってから飲み込み、もう一口。
今度は外側の方を。
ζ(´ー`*ζ パリッ
パイ生地のフチに薄くかかったチーズが焦げて、ぱりぱり、かりかり。
とてつもなく香ばしい。
その2口目を飲み込んだところで、ようやく少しばかりの余裕が出た。
周りに目を向ける。
ハハ*ロ -ロ)ハ フワトロ-
口いっぱいに頬張るハロー。
気に入ってくれたようだ。まあ彼女にも馴染みのあるレシピだから当然か。
¥*・∀・¥ サクサクッ
マニーも美味そうに食べてくれている。
既に半分近く消費済み。
(´-;;゙#)
──その隣のびぃは。
目の前に置かれたキッシュと紅茶に手をつけず、ただ不思議そうに見つめていた。
-
ζ(゚、゚*ζ「びぃさん、食べないんですか?」
デレが問えば、びぃはデレに視線を移した。
マニーも食事の手は止めぬまま、横目にびぃを見る。
(´-;;゙#)「私は、いいの」
ζ(゚、゚*ζ「でも。……びぃさんはお腹空いてないんですか?」
(´-;;゙#)「大丈夫」
ふるふると首を振り、びぃは窺うようにマニーを見て、
自分の皿を彼の前へやった。
(´-;;゙#)「マニー様、食べて。お腹いっぱいになって」
¥・∀・¥「いいのかい」
(´-;;゙#)「マニー様がお腹いっぱいなら、私は幸せ」
昨日も彼女はホットケーキを拒否した。
遠慮しているのか、食べたくないのか、あるいは「怪物の恋人」が物を食わない設定なのか。
ともかくマニーはびぃの言い分に納得したのか、照れ臭そうに彼女の皿を受け取っていた。
.
-
──ごちそうさまでした。
空の皿を前に、デレとハローが再び声を合わせる。
ハハ*ロ -ロ)ハ「ふう」ζ(´ー`*ζ
たとえ感想がなくとも、この満足げな吐息で充分通じるだろう。
美味かった。
ハハ*ロ -ロ)ハ「クックルのキッシュ、しっかり再現できてマス」
ζ(゚ー゚*ζ「本当ですか?」
それならば期待できる。
2人は食い入るようにマニーを観察した。
こちらの視線に気付かず夢中で食べるくらいには気に入ってくれたようだが、果たして。
少しして、びぃの分まで食べ終えたマニーが顔を上げた。
-
¥*・∀・¥「ごちそうさま。ありがとう、美味しかった」
反応も良好。デレは向かいのハローと顔を見合わせた。
予定通りなら、ここから何かしら展開があって、そのまま終わる筈。
デレ達が見守る中、マニーがフォークを置くために手を下ろした──
が。
その動作が遂行される前に、フォークは彼の指を離れた。
かしゃん。フォークが皿にぶつかり悲鳴をあげる。
マニーの手は震え出し、その顔は、また食前の青白さを取り戻していた。
-
¥; ∀ ¥「う……!」
(´-;;゙;)「マニー様!」
ζ(゚、゚;ζ「あっ……」
マニーがテーブルに突っ伏す。
爪を立てるように右手が平面を掴み、それによりテーブルクロスが引っ張られた。
呻き声。
絞り出すように、一言。
¥; ∀ ¥「……違う……!」
その声を聞き、弾かれたように立ち上がったデレとハローが彼に駆け寄る。
駆け寄ったところで、こうなってしまえばどうにもならない。
それでもデレはマニーの名を呼びながら引き留めるように背中を摩っていたし、
ハローも堪えるような表情でマニーが苦しむ姿を見つめ、伸ばしかけた手を引っ込めていた。
弱まる声。痙攣。
──停止。
昨晩と概ね同じ流れを経て、マニーは──「怪物」は死亡した。
-
(´-;;゙;)「マニー様……」
びぃが呆然と呟く。そして、凭れるようにマニーの背に縋りついた。
マニー様。もう一度呼ぶ。返事があろう筈もない。
ζ(゚、゚;ζ(……駄目、だった)
キッシュも駄目だった。
ニュッとでぃが、本の内容を覚え間違うことはない。特に作者であるでぃは。
ならば、本の中では、間違いなくキッシュが正解の料理だったのだ。
なのにマニーは違うと言った。
固まるデレの隣で、ハローが薄く口を開く。
ハハ ロ -ロ)ハ「……ニュッ君の懸念が当たってしまいマシタね」
ζ(゚、゚;ζ「懸念……?」
-
ハハ ロ -ロ)ハ「コノ本は、展開を忠実になぞるヨリも、ワタシやデレの意思を優先させていマス。
──それナラ、金井サンの意思だって優先されてイルと考えるべきデショウ」
動転する頭を懸命に動かし、デレはハローの言葉を飲み下した。
それは。つまり。
ζ(゚、゚;ζ「物語の『怪物』の好みじゃなくて……」
マニー本人の好みが反映されているということ。
絶句する。
それではあまりに、途方もない。
一から模索しなければならぬではないか。
ζ(゚、゚;ζ「じゃ、じゃあ、……それじゃあ……」
ああ、何ということだ、それでは、そんなことでは──
-
ζ(゚、゚;ζ「この雰囲気溢れる古城に、お醤油やお味噌の匂いを
漂わせなきゃいけない可能性もあるってことですか……?」
ハハ ロ -ロ)ハ「……ウン。ソウネ」
投げやりに答えたハローの顔は、「そこかよ」と言いたげであった。
*****
-
目を開ける。
どくどくと跳ねる心臓のおかげで、生きていると安堵した。
どくどくと跳ねる心臓のせいで、生きていると失望した。
¥・∀・¥「……」
自室のベッド。寝返りをうつ。
夜明けの薄明かりに照らされる室内をぼんやりと眺めながら、口元を摩った。
¥・∀・¥(美味しかったな……)
起き抜けの口は少し乾いていたが、なめらかなキッシュの味わいが残っているかのようだった。
もう一度寝返り。
サイドテーブルの上には、何冊かの小説雑誌と一緒に、藤色の本が乗っている。
-
¥・∀・¥(舞台設定は同じでも、展開は一緒じゃないんだなあ)
キッシュは最終章に出てくる料理の筈だったが、今日はまだ2日目だし、
本の中では正しい答えであったのに夢の中では間違いだった。
そもそも初日の料理からして違う。
見知らぬメイドの少女と執事のような女も奇妙なものである。
執事の方はこのまえ図書館の前ですれ違った人かもしれないが、
だからといって、なぜ彼女が2日連続で夢に出るのか。
それに──びぃも何だか変だ。
¥・∀・¥「……」
──まあいい。
何か不思議な力が働いているにしろ、
本に影響された自分が勝手に見ている夢にしろ。
あのストーリーならば、いずれ、自分が欲する「答え」を得られるかもしれない。
-
ベッドから下りる。
徐々に明るくなっていく窓の前で、あ、と小さく声をあげた。
¥・∀・¥「母さんに電話しないと……」
発奮のために口にしたら、腹の底が痛んだ気がした。
*****
-
(´・ω・`)「ははは。ニュッ君の予想外れてやんの。うける」
──昼。
VIP図書館、2階。食堂。
テーブルの角に半ば腰掛けるように凭れたショボンが、けたけたと笑う。
(#^ω^)「笑い事じゃねえお! おまえ自分が関係ないからって!」
そこに一番近い席に座っていた内藤が、がんと拳を叩きつけた。テーブルに。
ショボンに向けるかどうかで一瞬迷ったのは、彼には見えていなかっただろう。
ぎゃんぎゃんショボンに噛みついていたら、温度の低い声がかけられた。
-
川д川「……笑ってる余裕も、怒鳴ってる暇もないでしょお……」
言って、顔を隠すほど長い黒髪の女──山村貞子は
どんぶりの乗った盆を持って、のそりと厨房から現れた。
( ゚∋゚)「貞子の言う通りだ」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ、対策を考えないと」
配膳を手伝うクックル、ツンが彼女に賛同する。
──今日は、珍しく図書館住民が揃っていた。
ニュッは職場──探偵事務所──の方に行っているので不在だが、
代わりに(というのもおかしいが)彼の上司であり内藤の友人、いや知人であるショボンがいるので、
10脚の椅子は一応すべて埋まる。まあショボンはこうして行儀悪くテーブルに寄り掛かっているけれど。
-
(´・ω・`)「お昼ご飯なに?」
川д川「ラーメン……醤油ラーメン誰だった……?」
( ^ω^)∩(#゚;;-゚)∩( ゚∋゚)∩ ハーイ
( ゚∋゚)「塩ラーメンは?」
( ・∀・)∩(*゚ー゚)∩ξ゚⊿゚)ξ∩川д川∩ ハーイ
ξ゚⊿゚)ξ「味噌はデミタスとハローね」
(´・_ゝ・`)「ありがとう」
ハハ ロ -ロ)ハ「ン……」
-
(´・ω・`)「すっげえな、9人分のラーメンいっぺんに作れんの」
( ゚∋゚)「寸胴鍋3つ使ってまとめて茹でたからな」
(´・ω・`)「へえー。僕の分は?」
川д川「ご予約いただいておりませんのでえ……」
冗談めかして言い捨て、貞子は内藤の向かいに腰を下ろした。
普段から席は固定でなく、そのときそのときで空いている場所に適当に座る形だ。
今日の内藤は右側一番手前。その隣にツン。
席自体は固定でなくとも、内藤とツンは大抵隣り合う。
作ろうか、と気を遣うクックルに、内藤は首を横に、右手を上下に振って着席を促した。
作家もツンもお人好しで、何だかんだショボンを甘やかすから助長するのだ。
お人好しという点では内藤もどっこいどっこいだが、ショボンに対してはその限りでない。つもり。
(´・ω・`)「ブーン君ひっどい。僕様は飢え死にしそうなのに」
( ^ω^)「いま何の話をしてるか分かってて、そういう無神経な発言するのかお」
腰を捻って内藤に振り返ったショボンが、底意地の悪い目付きで笑う。
内藤はそれに視線のみを返した。
何の連絡も無しにいきなり昼飯時に飛び込んでくる男に出してやる飯はない。
-
(´・_ゝ・`)「話の続きは?」
バターを溶かしたスープをレンゲで掬いつつ、デミタスが言う。
ああ、バターとコーンの乗った味噌ラーメン。美味そうだ。
味噌にすれば良かったかなと思いつつ内藤は箸を持った。
──デレとハローが役者として参加させられた「夢」が、厄介なことになっている。
朝食時、やや落ち込んだ様子のハローから聞かされた報告。
それを受け、朝から今に至るまで、図書館の面々はうんうん唸っていた。
どうしたものかと。
(*゚ー゚)「金井センセーにとっての『お袋の味』を当てなきゃいけないわけでしょ。
和洋中のジャンルすら分かんないまま」
塩ラーメンは他より野菜が多い。
キャベツをしゃきしゃき言わせていたしぃが嘆息する。
あのあっさりしたスープと野菜の甘みも魅力的だ。
-
(;^ω^)「しかも今のところノーヒントだお」
内藤は自分のどんぶりを見下ろし、やっぱり醤油味にして良かったと思い直す。
クックルが暇なときに作り置きしてくれるチャーシューは、醤油味との相性が一番いいので。
最初にスープで口の中を馴染ませ、次に麺を啜る。
麺は細い方が好きだ。醤油味ならば。
それからようやくチャーシューをかじる。
舌の上でほどけていくチャーシューは、柔らかすぎず、しっかり「肉」らしさを保っていて味わい深い。
続けてもう一度麺の方。チャーシューをおかずに麺を食べるような感覚である。
(;^ω^)「ツンと貞子と、クックル。えと……何か、こう、思いつかないかお?」
黙々と食事を続けていた3人に話を振る。
住民の多いVIP図書館、もちろん家事は当番制だが
料理に関してはこの3人に任せられることが多い。
人形のような美しい無表情のまま、
可愛らしい唇でずるずると音を立てて麺を啜ったツン(こういうところを内藤は気に入っている)が
咀嚼と嚥下を済ませてから口を開いた。
-
ξ゚⊿゚)ξ「さすがに何も……。ご飯系じゃなくて、お菓子の可能性もあるしね」
( ゚∋゚)「何が好きかってより、苦手な物から探れないだろうか」
川д川「好き嫌いが分かっても、創作料理だったらお手上げだわあ……」
(´・ω・`)「本人に訊けば?」
ξ゚⊿゚)ξ「昨日『本』のことを隠した金井さんに?」
沈黙。全員が同時に溜め息。
デミタスがコーンを一粒ずつ箸で掴んでレンゲに盛りながら、
「でも」と取り繕うように声をあげた。
(;´・_ゝ・`)「デレさんって料理得意だよね? 何とかなるんじゃない?
全く料理できない人が選ばれるより、よっぽど希望はあるよ」
( ・∀・)「まあ、デミタスが選ばれるよりはマシだったよね……フライパン駄目にするもんデミタス」
フォローするような2人の意見に、貞子はゆるゆると首を振る。
川д川「かといって、好みの味を完璧に再現するってのも気の遠くなるような話よ……」
まあ──そうか。
「お袋の味」を追求する話なのだ。
己の発言を振り返った貞子が、顔を斜めに下げた。
-
川д川「……もう無理なんじゃないかしら……」
(;´・_ゝ・`)「いやいやいやいや諦めないで」
(;^ω^)「やめて貞子やめて」
低めの声でぼそぼそ言われると、本当に絶望的に思える。
──しかしそれとは反対の、底抜けに明るい声が否定の意を示した。
(*゚ー゚)「いや、味にはあんまりこだわらないでいいんじゃない?」
(´・ω・`)「理由を述べろ雌豚」
(*゚ー゚)「ありがとうございますチャーシューのように縛ってください!
──『本』はさ、人間に、自分のストーリーを表現してもらいたいわけじゃん?
ストーリーって、起承転結、序破急、そういうのまとめてひとつじゃん。大抵」
-
(*゚ー゚)「多少、起承転を長引かせることはあるかもだけど、
結局は『結末』に辿り着くのが最大で最終の目標じゃん。『本』による演劇は」
( ^ω^)「……まあ、そうだおね」
「本」はあくまでも、自分の物語を表現してもらいたいだけ。
常に現実世界へ影響を及ぼし続けたいわけではない。
もちろん例外はあるが、極々一部だし、その例外だって、
演じさせられた人間側に何らかの原因がある場合がほとんどだ。
本が何より求めているのは、クライマックスまで演じてもらうこと。
ゴールはちゃんと定められている。
(*゚ー゚)「だから、味の完全再現までは要求してこないと思うよ。
だってそこまで入れちゃったら、絶対に終わらせられないもん」
ξ゚⊿゚)ξ「品目さえ当てられれば、それで許してくれる……かもしれないわけね」
(*゚ー゚)「そ。まあ、たとえ味にまでこだわってたとしても、
ハローとデレちゃんがもたもたしてれば、いずれ本が痺れを切らして
無理矢理にでも話を展開させるだろうしね」
少なくとも、いずれは解放される筈──
しぃの言葉はこれまでの経験から推測されうる事実であり、希望を齎してくれた。
だが、
-
(*゚ー゚)「……まあ、だとしても。
本が痺れを切らすまでに、どれくらい時間かかるか分かんないけどさ」
これもまた、事実である。
何日か、何週間か、何ヵ月か──何年か。
どれだけ経てば、本の方が音を上げるのかが分からない。
でぃの本は概ね気が長い。下手をすれば、本当に一年以上かかりかねないのだ。
(;´;;-`)、
( ゚∋゚)「……いずれは終わる、っていう希望はあるが……
それがいつになるか分からないっていうのも、また絶望的だよな」
( ・∀・)「『いつか終わる』じゃ駄目だよ」
珍しく、モララーが真剣に咎めるような声を発した。
皆の注目が彼に向かう。
どうしたと問おうとした内藤は、モララーの隣に座るハローを視界に収め、口を噤んだ。
-
ハハ ロ -ロ)ハ「……ショボン、ワタシのラーメン食べマス?」
( ・∀・)「スープちょっと飲んだだけじゃん、ハロー」
ハハ ロ -ロ)ハ「アンマリ、オ腹空いてないノ」
(´・ω・`)「じゃあ遠慮なく」
本当に遠慮せずにショボンがハローのもとへ向かう。
ハローは腰を上げ、席ごとショボンに譲った。
ハハ ロ -ロ)ハ「オ水飲んできマスネ」
(;・∀・)「ハロー」
水差しもコップも卓上にあるのに、彼女は厨房に入って扉を閉めた。
モララーが不安げに扉を見つめている。
──ハローはサスペンス小説を好む。
危機に瀕した人間の恐怖を描くのが好きだ。
ただそれは作風がそうなだけであって、
現実に誰かが苦しむのは寧ろ嫌っている。
そんなハローだから、マニーが死ぬ──それも餓死の──瞬間に二度も立ち会って、だいぶ参っているのだろう。
昨日の朝など、顔色を悪くしてぼんやりしていたくらいだ。
-
彼女と最も仲のいいニュッとモララーは非常に心配している。
同い年であり、子供の頃から一緒に育っている分、他の面々より些か特殊な繋がりがあるので。
そしてハローがこれなのだから、デレも、そして当然マニーも大きな負担を感じている筈。
「いつか」は終わる、という消極的な解決に甘える暇はない。
モララーはそう言いたいのだろう。
(*゚ー゚)「……ハローもデレちゃんも、おっぱい大きいよね……」
( ^ω^)「は?」
──と、皆が神妙な表情を浮かべていたら、痴女が何か言い出した。
内容には同意するが、さすがに内藤も空気を読んで、訝しい声をあげるに留める。
-
もしかして、場を和ませようと気を遣ったのだろうか?
考え、いや、と思い直す。
寧ろ今まで「気を遣っていた」のだ。この女は。
(;*゚ー゚)「ちッッッッッくしょ─────!!
私だって巨乳のメイド2人侍らせてえよお!! 巨根の執事も欲しいよお!
貧乳も粗チンも欲しいよ私の思い通りになる男女1ダース欲しいよおお!!」
(#´;;-`) ドンビキ
痴女が、クソ痴女が、頭を抱えて叫ぶ。
双子の姉はそれを切ない目で眺めている。
落ち込むハローに気を遣って真面目な発言を繰り返した反動か。
その欲望は簡明で直接的で、とっても頭が悪そうだった。
お食事時にやめてほしい。切実に。
あと、そんなに叫んだら普通にハローにも聞こえる。我慢していた意味は一体。
-
(;*゚ー゚)「天才作家がナンボのもんじゃい!!
売れっ子なら乳に挟まれてご飯アーンされても許されるのかよ!?
それなら私だって本気出して全力で大手雑誌の賞とりに行くわニュッちゃんに怒られようとも!!」
(;´・_ゝ・`)「アーンはされてないだろうし、大手雑誌の賞をナメちゃ駄目だよ」
(#゚ー゚)「ナメるわバッカヤロー! ぺろっぺろ舐めたいんだよ私はー! ぺろぺろとー!
ぺろぺろとー!!」
(´・ω・`)「貧乳の巨根で良ければ5分10万で手を打つ」
(*゚ー゚)「下剋上プレイに発展するだろお前! 問題なし! 買った! 館長お金貸して!」
( ^ω^)「ドブに捨てた方がマシ」
ξ゚⊿゚)ξ「……どうしてみんな、真面目な話が出来ないのかしら」
(*゚ー゚)「よしすっきりしたわ真面目な話に戻ろうぜ」
(#゚;;-゚) ムリ
クックルとモララーは最早なにも言えないくらいに呆れ返っていて、
貞子は関わり合いを拒否してラーメンを啜っている。
ここから先程の空気に戻すのは至難の業だ。
まあ──戻したところで話は進まないだろうし、
しぃもそれを分かっていて、どうにでもなれと欲を解放したのだろうけど。
-
(´・ω・`)「ドブとは酷いな。
しぃはともかく、ブーンは僕に金を寄越すべきじゃないの?
5分10万とまでは言わないけどさ」
(#^ω^)「あ?」
( ;∀;)「ちょっとショボンそれ俺の!」
モララーのどんぶりから煮卵を奪い取ったショボンが、
にんまり笑って、続けた。
(´・ω・`)「調査は探偵様の仕事だろ」
ぐ、と内藤が詰まる。
その反応に、奴は目を細めてみせた。
──大方、ニュッから話を聞き、稼ぎどころだと思ってここに来たのだろう。
正直ショボンが言い出さずとも、そろそろ内藤から頼もうかと考えていたところだった。
この男は人間としては信用できないが、探偵としてなら信頼できる。
-
(´・ω・`)「金井マニーの生い立ち、普段の食生活、資産額に至るまで調べてやるよ」
左手の平を上向け、親指と人差し指で輪を作るショボンに、
最後のはいらないですと丁重にお断りした。
*****
-
o川*゚ー゚)o「デレちゃん、何かあった?」
ζ(゚、゚*ζ「へ?」
人通りの少ない道を歩いていたデレは、隣のキュートから掛けられた声に顔を上げた。
放課後、キュートと共に図書館へ向かう途中であった。
左に目をやれば、高いフェンスがずっと奥まで伸びていて、
その金網の向こうに林がある。
-
ζ(゚、゚*ζ「何かって」
o川*゚ー゚)o「今日ずっとぼんやりしてるよ」
「本のこと?」。
キュートの問いはとても大雑把であったが、的確でもあった。
ζ(゚ー゚*ζ「うん……でも大丈夫」
対するデレの答えも大雑把で、しかしこちらは的確ではなかった。
──人気作家が標的になっている。
デレとハローが何とかしなければ彼は死に続ける。
昨日の内に終わらせられるかと思ったけれど、終わりが見えなくなってしまった──
こう説明すれば、確実に心配をかける。
かといって上手く誤魔化すことも苦手なので、「話さない」という選択をとるしかない。
o川*゚ー゚)o「ふーん……?」
デレと違ってキュートは頭がいい。
こうすればデレが話したがっていないのだと察してくれるし、
それを察したら、ちゃんと触れないでいてくれる。
こういうところもキュートの魅力だとデレは思っている。さすが美少女。
-
( ゚∋゚)「2人とも、図書館に行くのか?」
o川;*゚д゚)o「びえええええええええええええええ!!!!!????」
──背後から掛けられた声。
途端に美少女が思い切り体を跳ねさせた、というか軽く跳んだ。
振り返れば、買い物袋を両手に提げたクックルの姿。
ζ(゚ー゚*ζ「クックルさん。お買い物の帰りですか?」
(;゚∋゚)「ああ、夕飯の材料を……キュート大丈夫か」
o川;*゚д゚)o「いいいいいきなり背後から声かけんなボケェ!!
心臓止まったらどうしてくれんの責任とれんの!? 責任!? は!? 責任とるって何!? け、けっこ、」
ζ(゚、゚;ζ「落ち着いてキュートちゃん」
o川;*゚д゚)o「だってだだだってこの人がいきなり責任とかけっ、けっこ、とか、」
ζ(゚、゚;ζ「全部キュートちゃん発信だよ」
キュートの肩を掴み、無理矢理クックルを視界から外させる。
金網を握りしめて深呼吸を始めるキュートの背を撫でて、
デレは困惑するクックルに会釈した。意味はない。
-
(;゚∋゚)「俺はいつもキュートを驚かせてるみたいだな……。
あんまり話し掛けない方がいいか?」
o川;*゚д゚)o「はああああああ!!? 人のこと散々もてあそんどいて何言ってんの!?」
ζ(゚、゚;ζ「クックルさん何もしてないよキュートちゃん」
キュートが涙目になっているが、緊張と興奮のせいなのか、
今のクックルの発言のせいなのか判断がつかない。別につけなくてもいい。
一度俯き、先よりも深い呼吸を何度か繰り返して、キュートはようやくクックルに向き直った。
今日は最初から騒ぎ倒したおかげで、いくらか落ち着くのも早かったようだ。
o川;*゚ー゚)o「……あ、あなたの声が低くてびっくりするだけだし、
いつか慣れるし、絶対いつか慣れてやるし、ほんと慣れるから、気にしないで」
(;゚∋゚)「お、おう」
o川*゚ー゚)o「……ていうか荷物多いね、どれか持ってあげようか」
学校では重いものを運ぶ際、「頑張って運ぼうとするけれど
ちょっと上手くいかなくて申し訳なさそうに手伝ってもらう健気な美少女」であるキュートが、
照れ臭そうに視線を逸らしながらクックルに手を伸ばしている。
-
( ゚∋゚)「じゃあ、これ」
頷き、クックルは小さなビニール袋をキュートに持たせた。
たぶん一番小さいタイプの袋で、この程度でクックルの負担が減ったようには見えない。
o川*゚ー゚)o「何これ」
( ゚∋゚)「やる。本を読んでたら何となく食べたくなって買っただけだから」
袋詰めの、べっこう飴。
キュートが膝から崩れ落ち、地面を殴りながら何か呟いている。デジャヴ。
o川;* ー )o「ふざけんっ……荷物持ってやるっつってんのに……プレゼントて……!」
ζ(゚、゚;ζ「キュートちゃん、そろそろ図書館行こ……?」
支えながらキュートを立ち上がらせる。
キュートは袋を開け、個包装のべっこう飴をいくつかデレとクックルに分けてから、
残りは大事に大事に鞄へしまった。
-
( ゚∋゚)「文化祭はいつだっけか」
ζ(゚ー゚*ζ「再来週の土日です」
今日は金曜日。
文化祭まで、ちょうど2週間。
( ゚∋゚)「準備とかで忙しくないのか? うちに来る暇あるのか」
o川*゚ー゚)o「ん、それで来週から居残りが増えるから、
図書館の皆さんには可愛いキューちゃんに会えない寂しさを味わわせちゃうんだよね。
だから今日、寄っていこうかなって」
( ゚∋゚)「そうか、館長が寂しがるなあ」
o川*゚皿゚)o
ζ(゚ー゚;ζ(『お前の反応を寄越せよ』って顔だこれ……)
あわよくば浴衣の件にも触れてほしいのだろうが、
「本」のことがあったからか、それ以上文化祭の話は長引かなかった。
デレとキュートの歩幅に合わせて歩くクックルが、
少し沈黙して、デレを一瞥する。
-
( ゚∋゚)「なあ、デレ」
ζ(゚ー゚*ζ「はい?」
林の入口に着き、3人は足を止めた。
フェンスの扉は南京錠で閉ざされ、閉館日、と書かれた札が下がっていた。
右手のビニール袋を左手にまとめたクックルが、空いた手で鍵を南京錠に差し込む。
林に入って、鍵を掛け直して、
奥へ進んでいけば、間もなくVIP図書館だ。
( ゚∋゚)「しばらく、うち泊まってくか」
ζ(゚、゚;ζ「……ええええ?」
o川;゚ー゚)o「は!? 何でそうなるの?」
( ゚∋゚)「その方が、都合がいいと思う。
そしたら夢を見た後、ハローやニュッ君達と相談する時間もとれるだろ」
「夢?」と首を傾げたキュートが、本に関する話題だと気付いたのか口を噤んだ。
素知らぬ顔で前へ向き直っている。
クックルの誘いはたしかに、いくらか合理的であった。
-
マニーが「死んで」しまうと、それから間もなく目が覚める。
するとハローとも離れてしまうので、反省会も出来ないし──
あの気分のまま一人きりの家で目覚めるのも、何というか、こたえる。
それに、相談できる相手が常に周りにいるようなものだから、一石で何鳥にもなるだろう。
絶対に必要というほどでもないが、メリットはある。
ζ(゚、゚*ζ「私としてはありがたいですけど……迷惑じゃありません?」
( ゚∋゚)「まあ10人が11人になってもな」
o川*゚ー゚)o「……そうまでしなきゃいけないような事態なの?」
デレちゃん大丈夫なの、と問うキュートの声には、純粋な心配が滲んでいた。
さすがに一大事ならば放っておけないと思ってくれているのだろう。
ζ(゚ー゚*ζ「うん、私には、危険なことはないよ」
嘘はない。デレとハローには危険は及ばない。
案ずるべきは、マニーの方なのだ。
*****
-
クックルの提案が内藤にあっさり承諾されて、一旦家に戻って荷物を取ってきて、
色々、それはもう色々あったが割愛するとして。
とりあえずハローの部屋に客用の布団を敷いて寝かせてもらうことになった。
ハハ ロ -ロ)ハ「べっこう飴、持ちマシタ?」
ζ(゚ー゚*ζ「はい」
夕方にキュート──正しくはクックルと言うべきか──から貰ったべっこう飴を握り締め、
デレとハローは頷き合った。
昨晩、メモ用紙を握って寝たら、夢に持ち込むことが出来た。
では食べ物も持ち込めるのか、というのを検証したい。
-
川д川「飴、溶けそう……」
ヽ(#゚;;-゚)ノ
ハハ ロ -ロ)ハ「溶けテモ包装紙に多少へばりつくクライですヨ。
──ジャ、ヨロシクね。でぃ、貞子」
今夜だけは就寝中、でぃと貞子が夜通し傍についていてくれるらしい。
ドスケベ女がやって来ないように監視する意味も勿論あったが、
実際のところはデレ達が夢を見ている間に、何か異常がないか確かめるため。
ζ(゚ー゚*ζ「それじゃあおやすみなさい」
ハハ ロ -ロ)ハ「オヤスミナサーイ」
川д川「おやすみ……」
(#゚;;-゚)ノシ
明かりを消し、貞子達のために卓上型のスタンドライトをつけて。
デレは敷き布団、ハローはベッドに横たわる。
静かな室内で時おり確認し合うように声を交わし、眠気を待った。
.
-
というわけで。
ζ(゚、゚*ζ「こんばんは」
ハハ ロ -ロ)ハ「コンバンハ」
例によって聖堂じみた食堂で、広いテーブルを挟んで目覚めたデレとハローは、
実に数秒ぶりの再会を果たした。
ζ(゚、゚*ζ「えっと……私の方が先に寝ましたかね?」
ハハ ロ -ロ)ハ「イイエ、デレが眠ったノを確認シタ覚えがないノデ、
デレもワタシが寝たのヲ見てないナラ、ほとんど同時だったんダト思いマス」
ならば、眠るタイミングすら「本」に操られているのかもしれない。
確認を終えて、視線を横にやる。
¥;・∀・¥「……お腹が空いた……」
(´-;;゙#)「マニー様、大丈夫、大丈夫……」
腹を空かせたマニーと彼に寄り添うびぃ。
これまでと変わりない。
さあ、3日目の始まりだ。
-
ζ(゚、゚*ζ「えっと……ご飯つくってきます」
3度目ともなれば、デレも多少は落ち着いている。
テーブルに頬を押しつけるマニーが、視線のみを上げてデレを見た。
ζ(゚、゚*ζ「マニーさん、食べたいものありませんか? 好きなものとか……」
¥;・∀・¥「……わからない……」
ζ(゚、゚;ζ「わからないって……」
そういえば、初日もバターやシロップの好みを訊いたときに「わからない」と言っていた。
マニー本人から、直接ヒントとなるような台詞は得られないのかもしれない。
その辺りは寝る前にハローも推測していた。
ハハ ロ -ロ)ハ「嫌いなモノは?」
¥;・∀・¥「特に、ないけれど」
こちらは明確な答えだ。何でも食べられる。結構なことだが、つまり何のヒントにもならない。
やはり一からやっていくしかないようだ。
-
ζ(゚、゚*ζ「分かりました、じゃあ、勝手に決めますね」
言って、ハローと共に厨房へ入る。
合図もなしに、2人同時にエプロンや上着のポケットに手を突っ込んだ。
ハハ ロ -ロ)ハ「飴は?」
ζ(゚、゚;ζ「んー……ないですね……ハローさんの方は?」
ハハ ロ -ロ)ハ「マッタク」
スカートをばさばさ振ってみたが、何も出てこない。
寝る前に握り締めたべっこう飴は、欠片ひとつ現れなかった。
ζ(゚、゚;ζ「やっぱり、食べ物は持ち込めないんですかね」
ハハ ロ -ロ)ハ「そうみたいデスネ……」
ζ(゚、゚;ζ「うーん、起きてる間に料理作って夢に持ってくる作戦は無理か……」
ハハ ロ -ロ)ハ「マア仮に可能だったとシテモ、お鍋トカ抱えて寝るノ嫌なんですケド……」
ハローが腕を組み、デレは腰に手を当て、厨房を眺める。
それから互いを見て、同時に小首を傾げた。
-
ハハ ロ -ロ)ハ「ジャア、予定通り、カレーで?」
ζ(゚、゚*ζ「そうしましょうか」
たとえば内藤にとってのお袋の味はカレーライスらしいし、
家庭料理としてのイメージが強いメニューだし、
カレーが嫌いな人間もそんなにいないだろう──ということで、候補としては最有力だったのだ。
いかにも育ちの良さそうなマニーが、一般家庭と同じ食生活を経たのかどうかはさておき。
ζ(゚、゚*ζ「問題は味付けなんですけど……」
ハハ ロ -ロ)ハ「デレの好きにやっちゃってクダサイ。
こうなっタラ、ウチの味付けに合わせても意味ナイし、
金井サンのゴ家庭の味でなきゃいけないのナラまず無理デスシ」
まあ、そうである。
しぃが提唱したらしい、「メニューさえ合っていれば味付けは問わない」という可能性に賭けよう。
ζ(゚、゚*ζ「じゃあ遠慮なく……えっと、カレー作ります」
宣言して冷蔵庫に頭を下げる。
物音がしたのを確認してから扉を開けた。
材料を取り出しながらハローに渡していく。
-
ζ(゚、゚*ζ「人参、じゃがいも、玉ねぎ、豚肉……」
ハハ ロ -ロ)ハ「デレはポークカレー派デスカ」
ζ(゚、゚*ζ「気分によります、今日はポークカレー。
あ、カレーのルー、中辛にしちゃいましたけど大丈夫ですか?」
ハハ ロ -ロ)ハ「平気デスヨ、ウチも具材や辛さは作るヒトの気分によりますカラ。
ニュッ君や貞子は辛めの方が好きミタイ」
ζ(゚ー゚*ζ「ニュッさんは辛いのが好きですかー。じゃあ私も辛口に慣れとかないとなあ」
ハハ ロ -ロ)ハ「エ?」
ζ(゚ー゚*ζ「え?」
ハハ ロ -ロ)ハ「何のタメに?」
ζ(゚ー゚*ζ「だって別々に作るの面倒臭いじゃないですか?」
ハハ ロ -ロ)ハ「エ?」
ζ(゚ー゚*ζ「え?」
生温い目を向けられる意味が分からないが、
とりあえずそのままにして、残りの食材も取り出す。
にんにくとりんご。定番の隠し味だ。
-
飯テロ成分豊富過ぎて直視出来ない
支援
-
ζ(゚、゚*ζ「あれ、お米はないのかな……?」
ハハ ロ -ロ)ハ「デレ」
呼ばれたので振り返ると、ハローが左手側、オーブンや電子レンジの置かれた一画を指差した。
炊飯器がある。「炊飯」のボタンが点灯していた。
ハハ ロ -ロ)ハσ「ご飯、炊いてるミタイ」
ζ(゚、゚;ζ「えー本当ですか? つくづく便利な……わあ最新式だこれ。美味しく炊けるやつ……」
ありがたくないのかと訊かれれば間違いなくありがたいけれど、
ここまで至れり尽くせりなら、もう少しマニーに関するヒントもくれと思う。
まあそれはともかく、これならカレー作りに集中できる。
デレはじゃがいもの皮を剥きながら、上着を脱いでいるハローを横目に見た。
ζ(゚、゚*ζ「圧力鍋探してみてもらえます?」
ハハ ロ -ロ)ハ「ハーイ」
目当てのものは、シンクの下の棚からすぐに見付かった。
良かった、煮込む時間が短縮できる。
ζ(゚ー゚*ζ「じゃあハローさんは人参お願いします」
ハハ ロ -ロ)ハ「ワカリマシタ!」
-
──特に滞りもなく。
処理を終えた具材を煮込みながら、すりおろしたにんにくとりんごを適量入れる。
ハハ ロ -ロ)ハ「デレの隠し味はにんにくとりんごなんデスネー」
ζ(゚ー゚*ζ「牛乳も少しだけ入れるんですよ、いつもは。
まろやかになって美味しいんです。
でもちょっと甘くなるから、好み分かれるかと思ったので今日はやめときました」
ハハ ロ -ロ)ハ「ヘー。ヨーグルト入れるようなものデショウか」
ζ(゚ー゚*ζ「かもしれませんねー。ヨーグルトだと酸味もあってまた別の風味になりますよ」
ハハ ロ -ロ)ハ「デレ、料理中はあんまりおバカに見えマセンネ」
ζ(゚ー゚*ζ「何で急に悪口言われたんですか今?」
ハハ ロ -ロ)ハ「褒めたノニ」
そういえば飲み物、とハローが呟く。
ああそうだ、忘れていた。
-
ζ(゚、゚*ζ「どうしましょう」
ハハ ロ -ロ)ハ「熱々のカレーを食べるトキは、キンキンに冷えたお水がアルとワタシ嬉しい」
それでいいか。
かたん、と冷蔵庫から物音。
見てみれば、氷水の入った水差しがあった。気のきく「本」だ。
やっぱり飲み物は展開にあまり関係ないみたい、とハロー。
たしかに、氷水はこれで既に完成品だ。デレ達の関与する余地はない。
なのにそのまま出してくれたのだから、本にとっては重要でないのだろう。
ひとまず水差しは冷蔵庫の中に置いておく。配膳のときに出そう。
-
ζ(゚、゚*ζ「カレーの具合はー……」
そろそろいい頃合かというところで、炊飯器から軽快なメロディが流れて
保温のランプが光った。
炊飯器を開ければ、ふわりと香る白米の匂い。
ぐるる、と2人の腹が割と豪快に鳴った。恥ずかしい。
3人分の皿にご飯を盛り、お玉で掬ったカレーをかける。とろとろ。
カレーはやはり、この匂いが強烈だ。
こんな美味そうな匂いを振りまいている食べ物が、不味いわけがない。
隠し味として入れたにんにくの香りもほんのり混ざって、空きっ腹に響く。
ごくり、思わず喉を鳴らしたのはデレかハローか。
ζ(゚ー゚;ζ「は、早く運びましょう、マニーさんがお腹すかせてますし……」
ハハ ロ -ロ)ハ「ソウデスネ、エエ」
わざとらしく言いつつ、ハローがマニーの分、デレが自分とハローの分の皿を持って厨房を出る。
既に香りが食堂にまで流れていたか、マニーは皿の中身を見る前に「カレーだ」と嬉しそうに言った。
-
¥・∀・¥「ずっと美味しそうな匂いがしてて、気が狂うかと思った」
相変わらず空腹で辛そうな顔だったが、3日目ともなれば彼も慣れたのか、
そんな風に声をかけてきて少しだけ微笑む程度の余裕があるようだった。
──彼は、ここ3日間の夢をどう思っているのだろうか?
同じシチュエーションの夢が3度も続いていることに、疑問を持たないのだろうか。
どうして、こうも穏やかにいられるのだろう。
何もかも受け入れているみたいに。
望んでここに居るかのように。
ハハ ロ -ロ)ハ「ポークカレーですヨ」
ハローが恭しい手つきでマニーの前に皿とスプーンを置く。
その間にデレはハローと自分の席に皿を。
-
キッシュもカレーもいいな……
支援
-
(´-;;゙#)
ζ(゚、゚*ζ「……びぃさんは、今日もいらないんですか?」
興味深そうに皿を覗くびぃに、訊ねる。
びぃはすっと背筋を伸ばして座り直し、「いらない」と首を振った。
ζ(゚、゚*ζ「一口だけでも食べてみません?」
¥・∀・¥「びぃは、いいんだ」
今度はびぃではなくマニーが答えた。いいんだ、ともう一度。
彼の瞳は優しい。
首を傾げつつ、デレは水差しを持ってきて、
水を注いだグラスをそれぞれの前に置いてから、椅子に腰を下ろした。
¥・∀・¥「いただきます」
ハハ*ロ -ロ)ハ「いただきます!」ζ(゚ー゚*ζ
今日はちゃんと、マニーが先に食べるのを待った。
一口含んだマニーが、血の気のない顔に少しばかり色を乗せてゆっくりと噛み締める。
口に合ったようで、何より。
-
ζ(゚ー゚*ζ(いただきます)
改めて心中で呟いてから、スプーンを握る。
カレーライスを掬い上げ、ふうふう息を吹きかけて冷まし、口に入れた。
やはり最初に感じるのは香りだ。
噛んだ瞬間、鼻に抜けていく。スパイス。にんにく。炊きたてのご飯。
もう匂いが美味い。
ζ(´、`*ζ ハフッ
ぴりっとした軽い刺激の後に隠し味のりんごが利いて、ほのかな甘みを滲ませる。
攻撃的でない、マイルドな味。
米もやわらかすぎず硬すぎず、程よい塩梅。噛めば噛むほど風味が広がる。
続けて二口。三口。
野菜は大きめ。
小さければひたすらに優しい舌触りに浸れるし、大きければそれぞれの食材にその都度集中できる。
-
ζ(´ー`*ζ(ああ、いいお野菜だ)ホクホク
ほっくりとしたじゃがいも。甘い人参。とろける玉ねぎ。
美味しい。じゃがいもが煮崩れてしまわないよう気を遣った甲斐があった。
まあ溶けかかったじゃがいもも、それはそれで好きなのだが。
そしてやはり豚肉は強い。
カレーと肉と米が一口の内に収まったときが、デレは一番好きだ。
米が本領を発揮する。気がする。
炒めた豚肉と米の組み合わせだけで色々な味付けを試せるのに、
カレー味で覆い尽くすのだから贅沢である。
-
ζ(´、`*ζ(美味しいなあ……海老フライ欲しいなあ……)
カレーのトッピングは数あるが、海老フライはデレのお気に入り。
ざくざく香ばしい衣とぷりぷりの海老。カレーに合わない筈がない。というか揚げ物は大体合う。
冷めて衣がやわらかくなった揚げ物だって、カレーライスと合わされば無敵だ。
時間に余裕があれば、海老フライや豚カツも作りたかった。
ハハ ロ -ロ)ハ「──金井サンは」
はたと、我に返った。
顔を上げれば、ハローがマニーに視線をやっていた。
-
ハハ ロ -ロ)ハ「コノ夢について、ドウ思いマス?」
ζ(゚、゚;ζ(わあ)
訊いてしまうのか。
ごくり。カレーと共に、息を呑む。
¥・∀・¥「どう、とは」
頬を緩めてカレーライスを口に運んでいたマニーは、
手を止めてハローの問いに首を捻った。
ハハ ロ -ロ)ハ「タダの夢ダト思いマスカ?」
真剣なハローの表情に、デレは開きかけた口を閉じた。自分が喋れば邪魔になる。
代わりにグラスを持ち上げて水を一口。カレーの風味と熱がリセットされて、すっきりさっぱり。
マニーは考え込むように静止したが、存外、沈黙は長く続かなかった。
¥・∀・¥「どうだろう」
返されたのは曖昧な答え。
少し待ってみると、彼は更に続けた。
-
¥・∀・¥「私の頭の中で作り上げられたものなのか、
それとも──本が何かしているのかは、分からないが」
ζ(゚、゚;ζ「!」
本、と言ったか。今。
やはりマニーは、でぃの本の存在を知っていた。
なのに一昨日と昨日、「持っていない」「知らない」と2度も嘘をついたのだ。
¥・∀・¥「……それでも私にとっては、とても有意義な夢だ」
ζ(゚、゚;ζ「へ……」
身を強張らせていたデレは、予想外の発言に間抜けな声を漏らしてしまった。
有意義とは、どういうことだろう。
飢えに苦しみ、期待に応えてもらえず死んでいく夢の、どこが有意義なのだ。
穏やかに微笑むマニーは喋るのをやめ、黙々と食事を再開させる。
ハローもそれ以上は訊かなかった。
(´-;;゙#)「……」
やり取りを黙って聞いていたびぃも、そのまま沈黙を保っていた。
.
-
¥*・∀・¥「──美味しかった。ごちそうさま」
デレとハローが食べ終えてから数分後、
スプーンを置き、マニーは満足げに言った。
彼の反応がいいからといって油断は出来ない。
これまでだって料理自体は喜んでくれていても、結果は失敗に終わっていたのだから。
ζ(゚、゚;ζ(……カレー、どうかな……)
固唾を飲んで、マニーを見つめる。
彼はグラスを持ち上げると、水を一口含んで、
¥; ∀ ¥「っ……!」
──持ち上げたばかりのグラスを落とした。
ごとりとグラスが鳴らした重たい音が、デレの胸でも響いた気がした。
-
(´-;;゙#)「……これも違うの、マニー様」
デレとハローの思いをびぃが口にすると同時、
マニーは昨夜のように突っ伏した。
デレは立ち上がり、けれどどうしようもないのは嫌というほど分かっているから、
ただテーブルクロスを握り締めて、唇を震わせた。
ζ(゚、゚;ζ「ご、ごめん、なさい」
それしか言えなかった。
¥; ∀・¥
マニーが閉じかけていた左目を無理矢理こじ開ける。
何か言いたげに弱々しく口を開き、掠れた息を吐き出し──
結局何も言えないまま、事切れた。
.
-
デレは俯く。対面のハローすら見ることが出来ない。
また死なせてしまった。
唇を噛む。──また、間違えてしまった。
(´-;;゙#)「……あなた達は、気にしないでほしい」
ζ(゚、゚;ζ「え、」
顔を上げる。
びぃが、ぎこちない手付きでマニーの頭を撫でていた。
彼女も既に慣れてきたのか、昨日や一昨日のように取り乱してはいない。
(´-;;゙#)「マニー様が、これを望んでいるようだから……」
そうして彼女はこちらに顔を向けると、深く、お辞儀をした。
-
(´-;;゙#)「もうしばらく、マニー様に付き合ってあげてほしい……お願いします……」
*****
-
( ^ν^) クァー
大口開けて欠伸をしながら、ニュッは自室を出た。
Tシャツに手を突っ込み、ぼりぼりと腹を掻いて、もう一度欠伸。だらしない。
今日もアラームのスヌーズ機能に4、5回ほど働いてもらってからようやく起きた。
ζ(゚ー゚*ζ「あ」
( ^ν^)「あ?」
ζ(゚ー゚*ζ「おはようございます、ニュッさん」
顔を洗うかと洗面所のドアを開けたら、デレと鉢合わせた。
洗顔を終えたところだったようで、タオルで両頬を押さえたデレが、へへっと笑う。
それからパジャマ姿であるのを思い出したのか、気恥ずかしそうにまた笑って、その場を去っていった。
それを見送りニュッも洗面所に入る。
お湯を顔にぶつける程度の洗顔をして、眠気を振り払うために冷水も顔面に当てて、
水気を拭わないまま鏡を睨んだ。元から人相は良くないが、いつも以上に悪い。
-
( ^ν^)(──何だあれ)
何故アホがいる。何を当たり前の顔をして人の家の洗面所を使っている。
勝手に洗面所を使って勝手にバカ面さらすとは図々しい。しかもパジャマでうろついて。
何なのだあれは。まるで泊まっているような、
( ^ν^)(……ああ泊まってんだった)
ここでようやくニュッは完全に目を覚ました。
寝起き時におけるニュッの頭の回転速度は、だいたい調子がいいときのデレと同等だ。
.
-
同棲したてのカップルかよもげろ
-
ζ(゚、゚*ζ「──って感じでした」
食堂。
ニュッの右隣に座るデレが、夢の内容を説明し終えた。
朝食の席は、日によって顔触れが変わる。
今日はテーブル左側に、奥からニュッ、デレ、ハロー、モララーが座り、
その対面に内藤とツン、椎出姉妹。
夜通しデレ達を見守っていた貞子は仮眠をとるため自室へ戻ったらしいし、
デミタスはニュッに負けず劣らず寝起きが悪いのでまだ部屋でぐだついているのだろうし、
クックルは多分、先に朝食を済ませて玄関先の掃除をしている。
-
時折血管切れそうになる場面が
-
( ^ω^)「……金井さんは現状、『本』を手放す気はなさそうということかお」
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシは、ソウ感じました。
少なくとも、本がアノ夢を見せてイル、という可能性を疑ってイル限りは
自ら手放すつもりはナイと思いマス」
ハローは水を飲みながら頷き、
デレもマグカップに入ったコーンポタージュを冷ましつつ聞いている。
夢を見始めてから、朝は食欲が湧かないのだと2人は言っていた。
リアルな夢の中で食事をしているから、現実に腹は膨らんでいなくとも
満腹感を得た気分になっているせいだろう。
何より人が死ぬ瞬間を強制的に見せられているわけだし。
せめてスープくらいは、とツンがインスタントのコーンポタージュを出したのでデレはそれを啜っているが、
ニュッとしては、もっとしっかり食べてほしい。
普段よく食べるハローが水だけを飲んでいる姿は痛々しいし、
ただでさえ頭の悪いデレが朝食を抜けばますます頭の回りが悪くなる。
トースト一枚だけで済ませている自分が言えた義理もないのだろうが。
-
( ・∀・)「……ハロー、ご飯食べない?」
モララーも気にしたのか、自分の朝食をハローの前に差し出した。
白米、焼き鮭、ほうれん草のお浸し、豆腐とわかめの味噌汁。
内藤と椎出姉妹も同じメニュー。
朝からよくそんなに食べられるなと貧弱なニュッは常々考えている。
ハハ ロ -ロ)ハ「ン、平気。お腹空いたら、適当に何か食べマス」
(*゚ー゚)「ていうかモララーの食べかけは嫌でしょ」
( ;∀;)「まだ手つけてないもん!!」
ぱりぱりに焼けた鮭の皮で白米をもりもり食べるしぃ。
こいつは寧ろ朝食を抜いて気力を削いだ方がいい。
-
(*゚ー゚)「いや、まあね? 私はね? 皆様の残飯も喜んで食べますよ。
お前はVIP図書館の三角コーナーだと罵られればヨダレ垂らして貪りますよ。
飲み込んだことをアピールするために空っぽになった口を開けて見せるから、
そのときにはご褒美くれ。最悪ご褒美は無くてもいい」
( ^ω^)「もうお前が生ゴミみたいなもんじゃないかお」
ξ゚⊿゚)ξ「相手するとつけあがるから放っておきなさい」
クックルと一緒に食事を済ませていたらしいツンの前には、紅茶だけ。
カップを揺らして、ツンはでぃを見た。
ξ゚⊿゚)ξ「……えっと、ハローとデレは同時に寝て、同時に起きたのよね? でぃ」
(#゚;;-゚)) コクリ
ζ(゚、゚*ζ「何か寝言とかいってました?」
ヽ(#゚;;-゚)>
(*゚ー゚)「起きる直前くらいに、うなされてたってさ。2人共」
マニーが死んだ辺りだろうか。
やはり精神的な負担が掛かっている。ニュッは眉間に皺を寄せた。
-
(#゚;;-゚)v
(*゚ー゚)「他にはこれといって異変なかったって」
ξ゚⊿゚)ξ「そう……。ねえブーン、金井さんの方はどうするの?」
( ^ω^)「……どうしたもんかね。
デレちゃん達はびぃさんっていう女性から、直々にお願いされてしまったわけだけれども」
頬を掻きつつ、先程デレから聞かされた話に内藤は唸った。
その辺りはニュッも気になっている。
マニーやびぃという女がその状況を受け入れているのなら、
そして理由は分からないが「夢」を必要としているのなら、
そこは自己責任、満足するまでしばらく待ってやるのもやぶさかではない。
──マニーとびぃだけの問題ならば、だ。
マニー達は良くとも、こちらの家族とついでに馬鹿1人にまで影響が出ている。
呑気に長々と付き合ってやる義理はない。
何よりいつまでも本を預け続けるつもりもないから、
いずれは必ず回収してやる。
あれはニュッの本だ。でぃがニュッのために書いた本だ。
いかなお気に入りの作家金井マニーとはいえ、自分のものを他人の手に留まらせておきたくはない。
ニュッは独占欲が強いのである。本に関しては。
-
ζ(゚、゚*ζ「……私は、もう少し、頑張れます」
ニュッがじりじりと苛立ちを燻らせていると、
マグカップを両手で支え持ったデレが口を開いた。
ζ(゚、゚*ζ「マニーさんやびぃさんにとって大事なことなら……。
マニーさんがお腹空いてても、何度も死んじゃっても、大丈夫なら」
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシも、本人が嫌がってないのナラ付き合えマス。
ソノ事実が分かったダケでも気は楽になりマシタ。
──ソモソモ頑張ってるノハ、デレと金井サンですカラ。ワタシは口を挟めマセン」
( ^ω^)「……2人がそう言うのなら、僕も金井さんに対して
今すぐ無理強いするような真似はしないお。本当に平気かお?」
ζ(゚、゚*ζ「はい。……もうちょっと、泊めさせてもらっても大丈夫ですか?」
(*^ω^)「そりゃ勿論。今回だけでなく、いつだって歓迎するお」
にっこり笑った内藤が、ぱん、と両手を打った。
食事を続けていたモララー達が手を止めて彼を見る。
-
( ^ω^)「じゃあデレちゃんとハローは、金井さんにとっての『正解』を引き当てることに専念。
ショボンが金井さんの生い立ちを調べてくれているから、
そこからヒントを得られるかもしれないお」
( ^ω^)「僕は金井さんに然るべき交渉と連絡を。
ニュッ君とでぃはデレちゃん達の話を積極的に聞いて、何か異変がないかたしかめてくれお。
それ以外のメンバーは随時サポート。──いいかお?」
はい、と景気のいい声が返される。
ニュッとでぃは片手を挙げただけだったが。
ひとまず方向は固まった。これだけでも結構な収穫。
トーストを食べ終え、コーヒーも飲み干したニュッは、腰を上げた。
バターをたっぷり塗ったトーストは朝の強者だと思う。
-
( ^ν^)「……」
ζ(゚、゚;ζ「うぉう」
ハハ ロ -ロ)ハ「ワッ」
( ;∀;)「何で!?」
デレの軽そうな頭を鷲掴みにして軽く揺らし、ハローの頭にはぽんと手のひらを乗せ、
特に意味はないが何となくモララーの頭を引っ叩いていき、食堂の出入口へ向かった。
出勤の時間だ。
行ってらっしゃい、と揃えた声が投げ掛けられたので、
これにもまた片手を挙げるだけで応えた。
*****
-
待ってた!支援
-
頭なでなでだ…………
-
ζ(゚、゚;ζ『ご、ごめん、なさい』
目覚める直前の、少女の声と表情が頭の中に残り続けている。
君が悪いのではない。気にしなくていい。こちらこそごめん。
そう言いたかったが、それらが声になる前に夢を終えてしまった。
¥・∀・¥「……いい子なんだろうな、多分」
ここ3日、嫌なものを見せてしまっている。申し訳ない。
実在する人なのか、自分の脳内で生まれた人なのかは分からないけれど。
椅子に深く腰掛けたまま、机上の電話を見つめて、頭を掻く。
-
──「ごめんなさい」。
昨日。母に電話をかけて互いの近況報告を済ませ、一つ二つ世間話をした後、
通話を切る間際にも聞かされた言葉だ。
そのときにも思った。あなたが悪いのではないと。
そしてそのときにも声にはならなかった。聞かなかったふりをして電話を切った。
¥・∀・¥(……ああ)
少女の表情に不思議な既視感を覚えていたのだが、その正体に、今ようやく気付いた。
何年も見ていなかったから忘れていた。
あの悲しげな目が、どこか、母に似ていたのだ。
番外編 続く
-
相変わらず面白い乙!
-
今回の投下終わり
次回後編は早ければ1月3日、その日に投下できなければ8日とか9日になるかもしれません
読んでいただきありがとうございました!
よいお年を
前回つけるの忘れてたので、念のため酉つけ
目次的なの
中編 >>152
-
乙!良いお年を!
来年もよろしく!
-
でぃちゃんがかわいいよぉぉぉぉぁうぁぁ
-
読み直してぐっどたいみんぐで中編乙です。
-
乙
来年の楽しみが一つ増えた!
-
乙
-
乙
-
キッシュだけじゃなくラーメンやカレーまで
バターたっぷりのトーストは最強だよな、乙。
予告スレの時も思ったけど
>>217〜のしぃのセリフには同意する
-
乙ー!
ニュッ君なんなの?デレちゃんとどこまでいってるの?もげるの?もげろ
-
なんという飯テロだ……塩ラーメン食いたい
あな本読めたから今年はいい年だったよ
-
乙
年越しはそばじゃなくラーメンにしよう
-
キューちゃんは平常運転だな
-
こんな時間に読むんじゃなかったよチックショウ完全に食欲がビンビンに奮い立ってる
-
あな本懐かしすぎる乙
諸々読みなおそう
-
本編は登場の順番でどうしてもデミタスの出番少なかったから今回ちょこちょこ出てきて嬉しい
-
初めて読んだブーン系があな本だったなぁ…デレのAAが大好きになった。
-
乙ぅ来年が楽しみですぜ
-
乙!
ところで今の最新作って裁判でいいんだよね?見落としてないよね?
-
>>287
子守り旅
-
り要らなかった。すみません
-
>>288
ありがとう探してくる
-
>>290
ヒント:小説板2
-
おつ
よいお年を
-
子守旅ってこの作者だったのか知らんかったわ
-
今日来なかったらデレの鞄に開封済みコンドーム仕込む
-
あけましておめでとうございます
今日は後編投下できなさそう
なので多分8日か9日に
おまけの(*゚ー゚)祭
ttp://imepic.jp/20160103/642950
ttp://imepic.jp/20160103/642960
ttp://imepic.jp/20160103/642970
キャラの髪型とかは、あくまで一つのイメージです
想像してたのと違ったら見なかったふりしといてください
-
>>295
ゼリーであしらわれてるww
-
うおおいつものだ……ありがたや……
なんか前より絵が上手くなったように見える
いつも楽しい絵をありがとう頑張れ
-
>>295
二つめ2コマ目といいオチといいクソワロタ
-
>>295の絵が検索しても出てこねえorz
-
ブラウザ変えたら見れた
すまん
-
ええのおええのお!
-
デレの顔が常にζ(゚、゚*ζになっとる……流石しぃ
-
>>302 でぃちゃんなんで自分の姉を勝手に登場キャラと結婚させとるん
-
ゼリーひとつで黙るしぃが可愛い
-
でぃのが姉ちゃんじゃないっけ
-
ほんとだゴメン
精神年齢のせいで勝手に逆転してた
-
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-
遅ればせながら乙です
今回も楽しませていただきました!
http://imepic.jp/20160103/808700
しぃ祭りも面白かったです!
旬のパンツとは一体……
-
>>310
ありがとうございます!! ショボンwwwww
ハローすごくいい。超いい。デレすごく可愛い。そしてしぃワロタ
びぃの服は作中で全然描写してないのに、想像してたものに近くて感動してます
-
デレちゃんのまんげきょう見たい
-
今日はハローさんで初スペル放出祭しますね
-
あな本のしぃは特にぶっとんでて好きだ
-
漫画乙 かわいいなー
自動絵本がどの話だったか思い出せんから読み直してくる
-
>>294
http://imepic.jp/20160104/650930
髪型とかはあくまで一つのイメージ以下同文>>295
-
しぃと組ませるとブーンがまともな人間に見えてくるから困る
-
箱で入れるんかい
-
業務用ってどんな業務に使うんですかねぇ…
-
>>319
マジレスするとラブホ用
-
はいはいラブホ用ね知ってたし
逆に当然すぎて忘れてたわぁ
-
絵クッソwwwww何故ベストを尽くしたwwwww
-
しぃならきっと水とき片栗粉をやってくれる
-
数個とかリアルな感じじゃなくてよかったわ
-
業務用wwwwwwデレの反応も見てみたいけどコンドーム知らなさそう
-
やつやつやつ
-
>>325
ζ(゚、゚*ζ「保健の授業で習いましたし……知ってますし……
たまごアイス入れるのにも使うって知ってますし……」
( ^ω^)「デレちゃんそれショボンから聞いたでしょ? 何で信じるの?」
(*゚ー゚)「待ってアレおっぱいアイスって名前じゃないの?
まあいいやデレちゃんあのアイス食べよう! 最後白いやつが飛び出すアイス食べよう!」
( ^ω^)「井村屋に怒られろ馬鹿」
-
たまごアイスクソワロタ
-
しぃwww
デレちゃんほんと可愛いなぁ
-
今時コンドーム知らない高校生なんていねーよ現実見ろ
どれだけ清純そうな女の子もそれくらい見たことあるわ、何夢見てんだ
え?幽霊裁判のツンさん……?
アッ……
-
幽霊裁判のツンさんが4コマのツンさんの様な顔で>>330を見ている!
-
ζ(゚、゚*ζ「保健の授業で習いましたし……知ってますし……
たまごアイス入れるのにも使うって知ってますし……」
( ^ω^)「デレちゃんそれショボンから聞いたでしょ? 何で信じるの?」
クソワロタwwwwwww
-
たまごアイスの下りクソワロタwww
-
>>330
悲しくなるからやめてさしあげろ
-
完結してから読もうと思ったけど……
誘惑に抗いきれなかった……
続きが楽しみすぎる!!
しぃが悪化してるwww
-
作者さんが描いたイラストってまとめられてます?
-
完全なまとめはないけど作者さん本人がpixivでまとめてるから探してみ
-
え?
なんて名前?
あなほんじゃないよね?
-
>>336
生きた本では完結してしばらく経った後にちょろっと上げただけ&まとめないようお願いしてたので、まとめられてない筈です
>>337の通り、落書きとかはピクシブにまとめてるのでよろしければどうぞ
ブーン系でタグ検索すれば、年末ぐらいに上げた支援絵まとめが出てくるので、そこから辿れると思います
-
あまり期待しないでね
-
探してきます!ありがたい
-
俺も気になってpixiv覗いてみたけど
今まで見てきたブーン系のイラストの4分の1くらいが穴本ってことを知って驚愕してる
作風幅広えなあ・・・
-
俺は百物語も書いてるのに驚きを覚えたぞ....
-
俺は伊東四朗をイラスト化してることに驚いて、そのクオリティの高さに漏らした
-
あさぴーがハローになってて、ツンが「それやーよ」みたいなことを言ってる漫画はまとめられてないんだよ
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あれ?渋で見た気がするけどまとめられてないんけ
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>>345
幽霊裁判のはまとめられてたよ
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ほんっとごめんなさい、10日、10日に投下します
とおか(10日)だけに投下っつって はい
例によって長いので、もしかしたら前半後半に分けるかもしれません
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私待つわ
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ん?なんだって?
待ってる
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>>348
職場で見ててクスッと笑ってしまった
ゆるさん!
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本当にすまないという気持ちで・・・・・・
胸がいっぱいなら・・・!
どこであれ投下ができる・・・!
たとえそれが・・・
肉 焦がし・・・
骨 焼く・・・・
鉄板の上でもっ
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今日のいつ頃になるかな
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>>353
まだ推敲が完全には終わってないので何時頃になるかいまいち決まりません
ちょっと引くほど長いので、
なるべく夕方くらいから投下できたらなあとは思ってるんですが
毎度毎度長くなって申し訳ない
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がんばれ♡がんばれ♡
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どれくらい長いのかわからないがこのスレ内で終わり切るのかしら
新しいスレを建てるとしたらVIPかな?
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安心してください、空いてますよ
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wktk
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後編投下します
長いので、途中で体力尽きたら明日に回すかもしれません
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( ^ω^)「──今しばらく、そちらに『本』を預けておきますお」
昼下がり。図書館の1階。
カウンターに座るツンの背後で、内藤は電話の向こうの人物へそう言った。
返事はない。だが聞いてはいるだろうから、そのまま続ける。
( ^ω^)「ただし、無事に結末まで辿り着いた暁には、
速やかに返却していただきます」
カウンターに置かれた「返却」の札を指でいじっていたら、
ツンの手にやんわりと下ろされた。
( ^ω^)「たとえ金井さんがまだ夢を見続けていたくても、
彼女らが偶然『正解』を引き当て、結末に流れ込んだのなら、
そのときには諦めてほしいですお」
『……分かりました』
ようやく返事。
思いの外、金井マニーの声はしっかりしていた。
-
『今夜いきなり終わったとしても、ごねたりはしません』
( ^ω^)「それはありがたい。──あと……10日。10日経っても『夢』が終わらなかった場合にも、
問答無用で回収させていただきますお」
『10日』
( ^ω^)「うちの大事な家族と、大切なお友達が心を砕いているので。
あんまり砕きすぎたら無くなっちゃいますお」
『……やはりあの子たちも、私のように、あの夢を見ているのですか』
( ^ω^)「そのようですお。びぃさんも夢の話をしてませんでしたかお?」
『びぃは……』
少し間をおいて、マニーは「分かりました」と先の答えを繰り返した。
-
『言われた通り、きちんと返します。──あなたの本なのですね』
( ^ω^)「正確には、僕の従兄弟の本ですお。
……ともかく、ご理解いただけて感謝いたしますお」
それでは、と言いかけ、口を止める。
もう一つ付け足しておこう。言わずとも分かっているだろうが、念のため。
( ^ω^)「このことは、他言無用で」
その一言を最後に、内藤は電話を切った。
こちらを見上げるツンと目を合わせ、ぐにゃっと笑う。
(*´ω`)「交渉成立だお〜ツンちゃん褒めて〜」
ξ゚⊿゚)ξ「やめて」
後ろから抱きついて頬擦りしたら、冷めきった声で拒絶された。
殴られるより痛い。
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番外編 あな美味しや、ゴシック小説・後編
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-
¥・∀・¥「面倒をかけてすまないね」
マニーの言葉に、デレとハローは顔を上げた。
4日目。豪奢な食堂。──夢の中。
食事中にマニーの方から話を切り出したのは、これが初めてだ。
ζ(゚、゚*ζ「……どうしました?」
¥・∀・¥「今日、館長さんから電話があったよ。
君達を私のわがままに付き合わせて申し訳ない」
何も言えなくて、デレはハローと顔を見合わせる。
──マニーが諸々を承諾したというのは、夕方に内藤から聞いた。
先にデミタスの本によって演じさせられていた経験が効いたのだろう、
この現象自体への抵抗感は薄いようだった。
寧ろ積極的に受け入れている。
彼に何かしらの目的がある──らしい──のも大きな要因だろうが。
-
¥・∀・¥「あの本がどういうものなのかはよく分からないが、
ありがたいと思っているんだ。この状況は望ましい」
ハハ ロ -ロ)ハ「……はあ」
¥・∀・¥「だから私のことはあまり心配してくれなくていい……というか、
どうか、気を楽にしてくれないか。
君達が心を痛めることはない」
無茶を言っているだろうけど、と目を伏せたマニーは、
少し口を閉じた後、何か思いついたような顔をした。
¥・∀・¥「そうだ、食事を終えたら君達は食堂を出ていくといい。
せめて私が死ぬところを見ずに済むように」
ハハ ロ -ロ)ハ「ソレはソレで、チョット」
ζ(゚、゚;ζ「心苦しいですよ」
ハローはマニーの提案をあっさりと拒み、それから、眉尻を下げた。
-
ハハ ロ -ロ)ハ「……ソノ言い方だと、今日も死ぬのは確定なんデスネ?」
ζ(゚、゚;ζ「あ、たしかに」
しまった、という表情を浮かべたマニーが、誤魔化すように苦笑する。
──今日は肉じゃが。
お袋の味の定番といえばこれ、ということで決めたメニューだった。
ζ(゚、゚*ζ「……ごめんなさい……」
¥;・∀・¥「君が謝る必要はない!」
思わずデレが俯くと、マニーが慌ててこちらを向き、いくらか声を張った。
目を合わせれば、彼は、どこかほっとしたような雰囲気を滲ませる。
¥・∀・¥「これは無茶な謎解きみたいなものだ。君には何の責任もない。
──それに、とても美味しいよ。
そういう意味では、毎日満足させてもらっている」
お世辞なのかもしれないが、褒められるのはやはり嬉しい。
援護するように、それまで黙っていたびぃが続いた。
-
(´-;;゙#)「こんなに美味しそうにご飯を食べるマニー様、久しぶり」
ハハ*ロ -ロ)ハ「ウチのデレはオ料理が得意デスカラね、当然デス。今日もこんなにオイシイ」
ζ(゚、゚*ζ「ハローさんのお手伝いがあってこそですよ」
デレ君、ハロー君──マニーが2人の名を反復する。
そういえば彼には自己紹介をしていなかった。
¥・∀・¥「君達には、料理と食事を普通に楽しんでいてほしい。お願いだ」
申し訳なさそうに言って、マニーが皿に目を落とす。
これ以上デレ達が気にする素振りを見せれば彼が料理に集中できなくなるだろう。
食事に戻ろうか。デレは自分の正面へ向き直り、箸を握った。
ζ(゚、゚*ζ(……まさかお箸やお茶碗まであるとは思わなかった)
各自の前──今日もびぃの分は除くとして──には、皿と茶碗が置かれている。
皿には肉じゃが、茶碗には白米が盛りつけてあった。
漆塗りの箸もばっちり。
和食でもフォークやスプーンを使うしかないのかと思っていたが、
厨房の棚に箸も碗も一式揃っていたのだ。
古城の雰囲気はどこに。いや、食べやすいからいいけれど。
-
¥*・∀・¥ モグッ
食事を再開させたマニーが本当に美味しそうに食べているのを確認して、
デレも茶碗を持ち上げた。ちらと対面を盗み見れば、ハローも箸を持ち直している。
とりあえず、ご飯を一口。
ζ(゚、゚*ζ(ご飯おいしい)
今日もご飯は炊きたて。つやつやふっくら。
シャンデリアの明かりを受けて、光り輝いているようにさえ思える。
出せる料理は一品のみということで少々不安だったが、
ご飯は別物、というか肉じゃがとセットだと認識してもらえたらしい。気付けば炊飯器が作動していた。
それならば味噌汁も、と思ったのだけれど、
そちらは冷蔵庫に受け付けてもらえず、材料が出てこなかった。残念。
-
ζ(´、`*ζ(肉じゃがー)
次に皿の方へ箸をつけた。
肉、じゃがいも、人参、玉ねぎ、白滝、それとデレはうずらの卵も入れる。
最後2つ以外は昨日のカレーとほぼ同じ材料だ。
肉は牛肉にした。豚肉もあっさりしていて好きだが、昨日使ったので。
ζ(´、`*ζ ハムッ
人参と玉ねぎは煮込まれたおかげでとても柔らかい。ストレートに出汁を味わわせてくれる。
他と異なる食感で歯と舌を楽しませてくれる白滝も程よいアクセント。
ζ(´ー`*ζ(お芋ほっくほく)
じゃがいもをぽくっと箸で割ってみれば、中は黄金色だ。
いずれも、噛めば煮汁がたっぷり染み出す。
甘くてしょっぱくて、すぐにご飯が欲しくなってしまう。
特に肉はずるい。
やわらかいながらも噛みごたえがあるから何度も噛めば、
その度に煮汁と牛肉の味が混じって広がり舌を染めていく。
ご飯と合わぬ筈がない。
-
ハハ*ロ -ロ)ハ「タマゴおいしい」
しみじみとハローが呟いた。
同感だ。
うずらの卵は、何故そこにあるだけで嬉しくなるのだろうか。美味いからだ。
小さい分、旨味が凝縮されている気がする。
まろみのある、こってりとした味わいが一口に収まる快感。
そこに出汁も加わるのだから最高の後味。
ζ(´、`*ζ(一晩置いた方がもっと美味しいけど……)
一度完成させた後に時間を置けば、ただでさえ美味いこの肉じゃがが、
さらにじっくりとコクを増して進化する。
この甘じょっぱさが全体に馴染んで、更に具材を引き立てるのだ。
そんなもの、ご飯のお供にせずにどうする。
-
¥・∀・¥「……」
ζ(゚、゚*ζ「?」
視線を感じて顔を上げると、マニーがこちらを見ていた。
テーブルに乗せた左手、人差し指につけている指輪を親指で摩っている。
そういえば指輪をいくつかつけているが、薬指には何もつけていない。
独身なのだろうか。夫婦シリーズとかいう小説で人気を博しているというから、
何となく、既婚者であるイメージを持っていたが。
ζ(゚、゚*ζ「何か?」
¥・∀・¥「いいや、なんでも」
首を傾げるデレに、マニーは微笑む。
そのまま黙って肉じゃがをつついている。何なのだろう。
(´-;;゙#)
彼の隣、びぃはマニーとデレを見比べ、物憂げに目を伏せた。
.
-
ζ(゚、゚*ζ「ごちそうさまでした」
箸を置き、麦茶で口をさっぱりさせる。
麦茶が欲しい、と冷蔵庫にお願いしたら市販のペットボトル入りの麦茶が出てきたのである。
見ればハローも食べ終えており、マニーはあと二口ほどといったところ。
彼には毎回多めに盛りつけてあるが、今のところ、多すぎるという文句は出ていない。
自分の作った料理をたくさん食べてもらえるのは、とても嬉しい。
¥*・∀・¥「──ごちそうさま。ありがとう、とても美味しかった」
かち、と食器を置く音が響いて、デレの心臓が少し冷える。
彼の言うように、料理そのものは口に合っているのだろう。空腹のせいもあるとしても。
けれど、食事自体を楽しめていても、
¥;・∀・¥「……!」
──こうして最後には無駄になる。
-
マニーはぱくぱくと口を開閉し、テーブルに左腕をついて前のめりになった。
しかし突っ伏すことはなく、右手で腹の辺りを握り締める体勢で固まる。
──デレ達に気を遣っているのかもしれない。
(´-;;゙#)「マニー様、大丈夫。大丈夫よ、すぐに起きるから……」
慈しむように囁きながら、びぃがマニーを抱き締める。
焦点のずれ始めたマニーの目が、自身のアクセサリーを順に追っていき──
¥;・∀・¥
伸ばした左手の指輪を見て、その先にいるデレを視界に収めた。
そのときたしかに彼の口角が上がり、
反対に瞳は泣きそうに揺れたのを、デレは見た。
.
-
──視界に広がる天井。
デレが身を起こすと、隣のベッドでハローが身じろぎした。
枕元から拾った眼鏡をかけ、デレを見下ろしてくる。
ζ(゚、゚*ζ「……おはようございます」
ハハ ロ -ロ)ハ「オハヨウ、デレ」
挨拶を交わし、互いに背を向け、のそのそと朝の支度を始めた。
ハローは素肌に被せたシャツのボタンを半ばまで開けた状態で寝るので、
同性といえども目のやり場に困る。
-
ハハ ロ -ロ)ハ「……金井サンの目的ッテ何なんデショウネ?」
ζ(゚、゚*ζ「……さあ……」
「死ぬ」直前にマニーが見せた表情を思い返しても、あれが何を意味するのか分からない。
デレは首を傾げつつ、鞄から歯みがきセットを取り出した。
今日は日曜日。
昼にショボンが来るらしい。
マニーに関する調査報告だ。何か、彼を知る手掛かりがあればいいのだが。
*****
-
(´・ω・`)「──金井マニーは母子家庭で育った」
昼。食堂。
書類をめくったショボンの一言目がこれだった。
テーブルについてそれを聞いているのはデレとハロー、内藤とツン、でぃ、モララーの6人。
(´・ω・`)「経済的には、まあ標準くらいかな。
特別余裕があるわけでもないけど、食うに困るわけでもないってくらいの」
ζ(゚、゚*ζ「昔からお金持ちだったわけじゃないんですか?」
(´・ω・`)「たしかに今はお屋敷住まいで使用人なんぞ雇って生活してるけど、
これは小説家として大成してからだね」
根っからのお坊っちゃんではないということか。
立派なスーツやアクセサリーをそつなく身につけ、物腰穏やかな様子から、
何となく「そういう」育ちの人かと思っていたのだが。
-
( ^ω^)「高級食材を使った洒落た料理がお袋の味、って可能性はなくなったおね」
(´・ω・`)「まあ十中八九」
ξ゚⊿゚)ξ「お袋の味というか、ふるさとの味みたいなのはないのかしら?」
(´・ω・`)「これといって特産物のない地域のようだし、
親しみのあった食品とかも特定できないな」
ζ(゚、゚;ζ「じゃあ結局ヒントは無いも同然では」
デレが呟くも、焦りを覚えたのはデレ1人だけだったようだ。
いや、と首を振ったショボンが、テーブルの前をうろつきながら人差し指を立てる。
(´・ω・`)「母子家庭、かつ祖父母は既に亡くなっていて、近所付き合いもやや希薄。
母親は働いていて、金井氏は1人で留守番することが多かったそうだ」
ξ゚⊿゚)ξ「……なら、手の込んだ料理は日常的じゃなかった?」
(´・ω・`)「恐らく」
立てた人差し指は、ツンに向けられた。
ショボンには気障ったらしい仕草がよく似合う。
嫌味に感じないから、ではなく、そもそも嫌味たらしいものが似合うのだ。
-
ζ(゚、゚*ζ「じゃあ、手軽なものが馴染み深かったってことですか?」
(´・ω・`)「いや、出来合いのもので済ませる人が多いと思うんだ、こういう環境だと。
実際、少年時代の金井氏はよく総菜屋や弁当屋で晩飯を買っていったそうだよ」
そういう証言が得られるくらいには、かつて常連であったということだろう。
なるほど、とデレが噛み砕いて納得すると同時に、ハローが手を挙げる。
ハハ ロ -ロ)ハ「気に入ってるオ総菜トカ、なかったんデスカ?」
(´・ω・`)「そこまでは流石に」
( ・∀・)「じゃあさじゃあさ、特別な日に母親が作る贅沢な料理が一番の思い出──
って可能性高くない? その場合」
(#゚;;-゚)σ ソレダ
(´・ω・`)「鋭いなモララー。馬鹿のくせに」
(;・∀・)「お、俺馬鹿じゃないよ!? 馬鹿じゃないからね!?
デレちゃんと同じカテゴリーに入れないで!」
ζ(゚、゚*ζ「何故この流れで私がディスられるんです……?」
うろうろしていたショボンが足を止める。
書類をクリアファイルに挟み、それを内藤の手元へ滑らせた後、
鞄の中から重たそうな大判の本を取り出した。
-
(´・ω・`)「はいコレなーんだ?」
( ^ω^)「……卒業アルバム?」
大きめのアルバム。表紙には、どこかの小学校の名前。
訝しげな目をする内藤に、ショボンが爽やかに微笑んだ。
嫌な予感でもしたのか、内藤がアルバムに手を伸ばす。即座にショボンが一歩下がった。
(´・ω・`)「いくら出す?」
( ^ω^)「は?」
(´・ω・`)「このアルバムと、それに付随する情報はそこそこ価値があると思うんだけど。
いくら出す?」
( ^ω^)「殺してでも うばいとる」
真顔で答えて立ち上がる内藤から本気の殺意が窺えたので、
慌ててデレが手を振った。
ζ(゚、゚;ζ「しょ、ショボンさん、今度ショートケーキ作りましょうか」
(´・ω・`)「ショートケーキ出せば僕が動くと思ってんの? なめんなよ。はい注目」
茶番を済ませ、ショボンはアルバムを開いた。
付箋が貼ってあるページを、皆に見えるように掲げる。
-
おー待ってた!支援。
-
ハハ ロ -ロ)ハ「運動会?」
左上に運動会と書かれたページ。何枚もの写真が載っている。
徒競走で1位の子供がゴールしている瞬間だったり、応援席で笑っている子供達だったり。
微笑ましい。
アルバムを支え持つショボンの左手、人差し指が、右下の写真をとんとん叩いた。
【 ¥*・∀・¥ 】
マニーだろうか。面影のある少年が、カメラを見上げている。
彼の隣には友達であろう子供もいた。大人の女性の足も見える。母親だろうか。
レジャーシートに座って、弁当を食べているところだった。
(´・ω・`)「このアルバムは小学生時代に金井氏と仲が良かったという人から借りた。
その人が言うには、金井氏は毎年、
運動会のために母親が作ってくれるお弁当をとても楽しみにしていたそうだ」
(´・ω・`)「特に唐揚げを喜んで食べてたらしい」
写真は上から見下ろす形で撮られており、弁当の中身もいくらか見えた。
おにぎり、唐揚げ、玉子焼き、ポテトサラダ、ハンバーグ──他にも何種類かあるようだが、
視認出来る限りで識別できるのはそれくらい。
写真の中でマニーは正に唐揚げを箸で持ち上げているところで、
とても嬉しそうに笑っている。
-
( ・∀・)「唐揚げだって、デレちゃん」
ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ今夜の夢は、唐揚げにしてみます」
ハハ*ロ -ロ)ハ「ワタシも唐揚げ好きヨ」
(*゚;;-゚)ノ
唐揚げ。唐揚げか。
たしかにあれは、多くの人間を魅了する食べ物だ。
閉じたアルバムをテーブルに乗せ、ショボンが手を払う。
(´・ω・`)「と、小学生までの情報はこんなところだ。
──さて。今回のことに関係あるかは分からないが、
金井マニーの人生に大きな影響を与えたであろう事実が発覚したんだけど」
「どうする? 聞く?」。
当たり前のことを訊いたショボンは、やはり当たり前のように、
誰からの返答も得ないまま喋りだした。
-
(´・ω・`)「金井氏は母子家庭だったわけだが、父親が死んだとか離婚したとかじゃない。
彼は私生児だった」
ζ(゚、゚*ζ「しせーじ」
( ・∀・)「結婚してない男女から生まれた子供ってことだよ、デレちゃん」
ζ(゚、゚*ζ「へえー」
(´・ω・`)「このことは周りの人も知らなかったそうだ」
──マニーの母親は結婚指輪をしていたし、
父親らしき男が頻繁に訪れていたので、近所からは、
何かしら事情があって別居している家族なのだろうとは思われていたらしい。
(´・ω・`)「けれど15年ほど前──金井氏が中学1年生の冬、やっと事実が周知された。
……不倫だったんだな。簡潔な話」
マニーの母は愛人であった。
指輪は、夫婦の気分を味わいたくてつけていたに過ぎなかったのだ。
-
(´・ω・`)「本妻が夜中に金井氏の家に殴り込みをかけて、ちょっとした騒ぎになったんだ。
……とはいえ具体的にどういう騒ぎだったのかは誰も知らない。
父親はそこそこ金持ってたみたいでね、どうも内々に済ませたらしい」
(´・ω・`)「けれど、本妻から恨みを買った愛人が灸を据えられたっていう事情は広まった。
やれ妊娠中の腹を刺されただの指を詰められただの寧ろ愛人がやり返しただの、
勝手な噂ばかり肥大して、真相は闇の中だ」
(;^ω^)「ひええ……」
(;・∀・)「昼ドラだあ」
(;゚;;-゚) ドキドキ
ハハ ロ -ロ)ハ「でぃコウイウ話好きですヨネ」
(´・ω・`)「んで、そんな場所に住み続けていられる筈もなく、
金井氏と母親はすぐに引っ越した」
そこまで話して、ショボンは一度口を止めた。
ツンが淹れた紅茶を飲んで一息。
-
(´・ω・`)「……そっから先は大して情報を得られなかったな。
男とは縁も切れたようだし、そういうことがあった後だからなのか
あまり他所と関わらず、実にひっそりしている」
(´・ω・`)「……んで金井氏は高校卒業時に作家デビューして……
それから5年後に今の屋敷へ移り住むと同時に、
母親とは別居になったみたいだね」
ξ゚⊿゚)ξ「お母様はどうしたの?」
(´・ω・`)「金井氏が御立派なマンションの一室を買ってやって、そこに1人で暮らしてるみたいだ。
結構離れた町だよ」
(´・ω・`)「近所からの評判聞いた限り、品のいい女性だとさ。
穏やかで、外に出るときは日傘差したり手袋したり、まあー振る舞いは金持ちマダムだと。
実際は元愛人だけど」
小馬鹿にするような色合いが、声から感じ取れる。
それを目付きで咎めた内藤は、ふと何かが気になったのか口を開いた。
-
( ^ω^)「……金井さん、独身だおね?」
(´・ω・`)「うん。恋人は今までに何人かいたようだけど、今はいない」
( ^ω^)「どうして母親と別居したのかおー……。
お屋敷住まいなら母親も一緒に住めるだろうに」
ξ゚⊿゚)ξ「一緒に住めるだろうけど、わざわざ一緒に住む必要もないでしょ」
( ^ω^)「まあそうだけど」
(´・ω・`)「いや、どうやら母親とは滅多に会わないらしい。
どっちが拒絶してんだか遠慮してんだかは知らないけどね。
──デレちゃん、大丈夫? 追いつけてる?」
デレが長らく黙っているのに気付いたようで、
腰を屈めたショボンが顔を覗き込んできた。
ζ(゚、゚;ζ「は、はい」
(´・ω・`)「どこら辺まで分かってる?」
ζ(゚、゚;ζ「えっ、えっと、マニーさんは唐揚げが好きで、
マニーさんは不倫で生まれた人で、
マニーさんは今お母さんと離れて暮らしてる……?」
(´・ω・`)「デレちゃんにしては上出来だ」
どう見ても褒めているとは思えぬ表情と声音だったが、
デレは最低限わかっていればいい、というツンの言葉で少し気が楽になった。
-
(´・ω・`)「さ、こっからは正直何のヒントにもならないと思う。
でも調べた以上は話しておこう」
(´・ω・`)「金井氏は食に対して物凄く消極的なんだそうだ」
(#゚;;-゚) ?
(´・ω・`)「出されれば何でも食べるが、自分から腹が減ったとかコレが食べたいとかは言わない。
放っておけば、何も食べずに一日終えることもある。
やっと食べたかと思えばほんの少しだけ──って感じ」
ζ(゚、゚;ζ「え? マニーさん、いっぱい食べてくれますけど……」
ξ゚⊿゚)ξ「夢の中ではお腹を空かせてるからじゃない?」
ハハ ロ -ロ)ハ「ソレにしたッテ随分な食べっぷりデスヨ?」
(´・ω・`)「まあ待てお前ら、さっきの運動会の写真思い出せ。
昔は普通だったんだ。
件の旧友が言うには、寧ろよく食べる方だったらしいし」
( ・∀・)「じゃあ……」
-
(´・ω・`)「多分、正妻が乗り込んできた騒ぎか、あるいはそれ以降に
彼の心を変えるような切っ掛けが何かしらあったんじゃないかな。
夢の中ではそれが取っ払われてんだろうね」
どのタイミングで何があったのかは知らないけど、と付け足すショボン。
マニーの屋敷に最近雇われたというお手伝いさんからしか
話を聞けなかった──それより上の者に接触するのは避けたい──ため、
いまいち深いところまで調べられなかったという。
(´・ω・`)「お手伝いさん曰く、金井氏は何でも食べるからメニューは自由に決めていい。
使用人がお伺いを立てて、飯を食うと言われたときだけ作る……って感じなんだとさ。
そんなんだから、あんまり金井氏や他の使用人と関われないんだと」
( ^ω^)「びぃさんってのは屋敷にいたかお?」
(´・ω・`)「訊いたけど、そういう名前の人はいないって。
雇われてる人間なんて10人程度だから、新入りのお手伝いさんでも把握してる。
それでもいないって言うなら、びぃって人は本当にいないんだろう」
いないのか。
びぃは彼のことを「マニー様」と呼ぶ。
だから彼に仕えている者だと思ったのだが。
-
(´・ω・`)「過去の恋人も洗ってみたけど、びぃなんて女は見付からなかった。
同級生にもいない」
(;・∀・)「一日二日で、よくそこまで調べられるね……」
(´・ω・`)「有名人だから調べやすいんだよ、こういうネタは」
結局びぃに関しては謎ばかり、ということだ。
デレとハローは同時に首を捻った。
(´・ω・`)「──はい、こんな感じ。
あ、この調査結果はニュッ君にも伝えてあるからね」
( ^ω^)「ありがとう、ショボン」
(´・ω・`)「お礼よりお札くれない?」
( ^ω^)「嫌いお前」
内藤が、懐から封筒を取り出した。
それをわざとらしく恭しい態度で受け取り、中身を確認したショボンは
毎度あり、と舌を出しつつ己の懐にしまった。
-
ζ(゚、゚*ζ「ありがとうございます、ショボンさん」
ハハ ロ -ロ)ハ「アリガトネー」
(´・ω・`)「まったく、僕がいないと駄目な奴らだなあ」
( ^ω^)「……言っとくけど、こんだけ散々話しといて、
唐揚げくらいしか有力な情報なかったからなお前」
(´>ω・`)「そこ突かれたくなかったトコォ〜☆」
猫撫で声を出したショボンは、ティーカップを持って適当な席に座った。
頬杖をつき不満げに眉を寄せる。
(´・ω・`)「正妻殴り込み事件あたりから、あからさまに情報が減ってんだよね。
その不倫してた男が金ばらまいて何か揉み消してんのかも」
ξ゚⊿゚)ξ「……それより金井さんのお母様に話を訊けなかったの?
一番手っ取り早いと思うのだけど」
(´・ω・`)「ガードが堅い。ちゃんとした雑誌の取材すら受けない人なんだ。
若き天才作家の親なら取材依頼もあるだろうに、一度も受けてない。
──まあ過去が過去だから仕方ないのかもしれないけどね」
-
ζ(゚、゚*ζ「……何か、他の方向から調べられないでしょうかね……」
何気なくデレが呟くと、それを受けたショボンが、
「そういえば」と何か思い出したように声をあげた。
──のだが、続いた言葉とこれまでの話題に、どんな関連性があるのかデレには分からなかった。
(´・ω・`)「ニュッ君さあ、ちょっとした空き時間とか休憩時間になると
持ち込んだ本を一心不乱にぱらぱら読んでくんだけど、アレやめさせられないの?
デレちゃん達のため(笑)なのは分かるけどさ」
( ^ω^)「空き時間ならいいだろうがお」
(´・ω・`)「声かけても反応しないから退屈」
ξ゚⊿゚)ξ「家でも本めくってばっかりよ。
ニュッ君ったら、デレとハローにはとびきり甘いから仕方ないわ」
( ・∀・)「俺もデミタスみたいに手伝うべきなんだろうけど
俺は3作くらいしか読んだことないからなあ……」
ハハ ロ -ロ)ハ「ああいう確認作業は、前々カラ読み込んでるニュッ君やデミタスに任せた方がイイんデスヨネ。
なまじ数が多いダケに」
ζ(゚、゚*ζ「?」
何の話かと問おうとしたら、腹を空かしたしぃが食堂に突撃してきて、
話題はそこで切り上げられた。一体何なのだ。
ツンが昼食の準備をするというので手伝いを申し出たが、
毎晩料理をしているのだから休んでおけ、と座らされてしまった。
*****
-
さて5日目。
¥・∀・¥「唐揚げだ」
皿の上に盛られた唐揚げを前にして、マニーは見たままを口にした。
今日もお供にご飯。飲み物は冷たい烏龍茶。
(´-;;゙#)「からあげ……」
びぃは皿を覗き込み、少しだけ笑みを浮かべてマニーの顔を見た。
──初めて見る反応だ。デレの胸が高鳴る。
やはり、何か特別な意味合いがあるメニューなのだろうか。
-
ζ(゚ー゚*ζ「びぃさんも食べませんか」
(´-;;゙#)「いい」
ハハ ロ -ロ)ハ「頑なデスネー」
ζ(゚、゚*ζ(私の手料理だから嫌なんだろうか……)
ニュッからは、寝る前、「怪物の恋人」も作中で料理を食べていると聞いたのだが。
もしや嫌われているのか。あるいは潔癖か。はたまたグルメか。
マニーが困ったように笑い、びぃの頭を撫でる。
それからすぐに皿へ向き直った。こうする間にも腹が鳴り続けている。
正直デレも空腹で仕方ない。
デレとハローが椅子に座って、同時に口を開いた。
-
ハハ*ロ -ロ)ハ「いただきます!」ζ(゚ー゚*ζ
¥*・∀・¥「いただきます」
まずは箸を持ち、皿を見る。
唐揚げの表面で、ぷちぷちと小さく油の跳ねる音がする。揚げたての証拠。
一つ持ち上げ、ふうふう冷ましてかぶりつく。
かりっとした衣に包まれた、ぷりっとした鶏肉。
噛めば、むちむちと歯応えを返しながらほぐれていく。
ζ(´、`*ζ ハグハグ
じゅわり、溢れる肉汁。
下味は時間短縮のため、にんにくや醤油で鶏肉をよく揉み込み、その後20分ほど寝かせただけなのだが、
しっかりと染み込んで肉汁にも風味が溶け出していた。
やはりにんにくの香りは食欲を刺激する。
-
ζ(´、`*ζ パリッ
ああ、皮。鶏皮が。ぱりぱり。
衣の味を特に強く感じられる場所だけれど、皮自体のまったりさで中和される。
皮を除く人もいるらしいが、デレは鶏皮がなければ物足りない。
この脂がいいのだ。
冷蔵庫からほぼ丸鶏の状態で出てきたときは困ったが、
驚くことにハローがぱぱっと捌いてくれた。
小説の資料として色々学んだため、肉の解体は得意だという。詳しくは聞かないでおく。
結果的に、既に下ろされた肉を使うよりも良かったと思う。
ζ(´ー`*ζ(大きさと脂の残し具合が絶妙だもの……)
ハハ*ロ -ロ)ハ カリカリムチッ
ハローはといえば、これまでで一番の食い付きだ。
とろけそうな顔で頬張っている。
-
ζ(´ー`*ζ(いくらでも食べられそう)
はふ、と口の中の熱を逃がしたら、肉汁が唇に垂れたので舌先で拭った。
全ての行為が美味いと感じる。
油で濃ゆい口内に白米を迎え入れた。
揚げたての唐揚げに炊きたての米だ。もはや何を説明する必要がある。
しつこく感じてきたら烏龍茶の出番。
さっぱりリセット。茶の独特の渋みが、また唐揚げを恋しく思わせて。
さあ次の一口、と箸を伸ばしかけたデレの手は、マニーの声に動きを止めた。
¥*・∀・¥「……子供の頃にね」
マニーの口角は柔らかく持ち上がり、頬に赤みが差していた。
¥*・∀・¥「運動会のときはいつも、母が作ってくれるお弁当に唐揚げが入っていて……
それがとても嬉しかったんだよ。
他に入っているおかずも全て美味しかったけれど、唐揚げには勝てない」
ふふ、とマニーが笑う。
細められた目がとても優しい。
ζ(゚ー゚*ζ(ショボンさんすごい)
こんなに幸せそうに語るのだ、マニーにとって特別な料理で間違いないのだろう。
-
(´-;;゙*)「マニー様、おいしい?」
¥*・∀・¥「美味しい」
(´-;;゙*)「うれしい?」
¥*・∀・¥「嬉しいよ」
びぃも喜色を表していて、隣のマニーに顔を寄せると、その肩に頬擦りした。
「怪物の恋人」という役回りらしい仕草である。
けれどショボンの調査では、マニーにびぃという恋人がいた過去はないらしいし。いったい誰なのだろう。
ハハ ロ -ロ)ハ「金井サンとびぃサンは、どういうゴ関係デスカ?」
ζ(゚、゚;ζ(わーハローさんまた単刀直入に)
マニーと彼女は互いを見て、ほぼ同時にハローへ顔を向けた。
¥・∀・¥「内緒だ」
からかうように、マニーが言う。
いたずらな子供のように幼い笑顔だった。
ハハ ロ -ロ)ハ「ケチ」
¥・∀・¥「はは、すまない」
唐揚げのおかげだろうか、随分と機嫌が良さそうだ。
これは。ひょっとしたら、ひょっとするかもしれない。
ζ(゚ー゚*ζ(『正解』なのかも)
.
-
──しばらくして、ハロー、デレの順に食べ終えた。
食事の前には空虚感すらあったお腹が、唐揚げとご飯で満たされている。
そしていつものように、少し遅れてマニーが箸を置く。
¥*・∀・¥「ごちそうさま。──良かった。すごく、良かった」
(´-;;゙*)
しみじみ言って、彼はハローとデレを順繰りに見た。
びぃも我がことのように満足げ。
今日は物凄く手応えがある。
期待に胸を弾ませ、何よりですと答えつつデレは彼を凝視した。
さあ、どうだ。
-
¥*・∀・¥「美味しかったよ」
その視線に応えようとしたのか、マニーはデレと目を会わせてまた笑った。
そのまま見つめられる。何だ。どうした。どういう目だ。
些か戸惑うデレにマニーは笑みを深め、グラスに手を伸ばした。
烏龍茶を飲み込んで、
ζ(゚、゚;ζ「え」
目を見開くなり胸を押さえて俯き、皿の上にグラスを落とした。
-
¥; ∀ ¥「ぁぐ……っ!」
ハハ;ロ -ロ)ハ「コレも違うんデスカ!?」
¥; ∀ ¥「っす、すま、ない、」
ハハ;ロ -ロ)ハ「イヤ金井サンが謝るコトじゃありマセンが」
(´-;;゙;)「マニー様、辛かったら喋らないで」
ζ(゚、゚;ζ「あ……」
デレも何か声をかけたいのに、口から漏れたのは意味のない呻きだけ。
やがてマニーの体はずるずると滑り、びぃの手によって辛うじて椅子に留まったまま、
ぴくりとも動かなくなってしまった。
-
静寂。
びぃは丁寧な手付きでマニーの体を座り直させると、
真っ白な顔をそっと撫でた。
(´-;;゙#)「……ありがとう……」
ζ(゚、゚;ζ「へ……」
その言葉の意味を一瞬忘れていた。
おおよそ、このタイミングで出てくるものだとは思えなかったからだ。
(´-;;゙#)「マニー様が、お母様のこと、あんなに嬉しそうに話してた」
お母様──先ほど唐揚げを食べながら語っていたことだろうか。
(´-;;゙#)「デレとハローは、あと、どれくらいマニー様の相手をしてくれる?」
ハハ ロ -ロ)ハ「……『正解』が分からないままナラ、アト9日デス」
ζ(゚、゚;ζ「一応、その予定です」
答えながら、デレは目眩を覚えた。
もう少しで目を覚ます。
-
(´-;;゙#)「……そう……」
どこか残念そうな声だった。
瞼を下ろし、マニーを優しく抱き締めるびぃ。
動きの一つ一つが、彼への慈愛を湛えているようだ。
──直後、足元がぐんにゃり歪んだ。ような気がした。
.
-
ζ(゚、゚*ζ
瞼を上げる。
ハローの部屋。
デレは枕元を探って、携帯電話を持ち上げた。
6時前。
ハハ ロ -ロ)ハ「……唐揚げも違いマシタネー」
ベッドの方からハローの声がした。
2人とも起き上がらないまま、声を交わす。
ζ(゚、゚*ζ「ですね……正解は一体何なんでしょう。
本人に訊いても、夢の中では答えてもらえないんでしょうけど……」
ハハ ロ -ロ)ハ「夢の中ジャなく現実で訊いテモ、本が邪魔しそうデスシネ」
びぃも気になる。どういう存在なのだろう。
マニーの屋敷にはいなくて、彼の恋人でもなくて、立場は平等ではなさそうで、
けれどとても親しげで、マニーを深く愛している。
何となく沈黙。
溜め息をつき、ハローがようやく身を起こした。
デレも起き上がる。
-
ハハ ロ -ロ)ハ「マ、収穫はチョットありマシタネ。正解のヒントみたいなの。トテモ間接的に」
ζ(゚、゚*ζ「え、何かありましたっけ?」
ハハ ロ -ロ)ハ「金井サンが言ってマシタ、運動会のオ弁当デハ、唐揚げが一番ダッタと」
¥*・∀・¥『他に入っているおかずも全て美味しかったけれど、唐揚げには勝てない』──
たしかに、そんなことを言っていたか。
ハハ ロ -ロ)ハ「他のメニューは、唐揚げホドのインパクトはナイというコトデス」
ζ(゚ー゚*ζ「そっか、なるほど! えっと、唐揚げ以外にあの写真に写ってたのは……」
ハハ ロ -ロ)ハ「おにぎりと玉子焼きとポテトサラダ、ハンバーグでしたネ。
コレらはヒトマズ外してしまってイイと思いマス」
ζ(゚、゚;ζ「あ、そろそろハンバーグ試そうかと思ってたとこです。危なかったー」
ハハ ロ -ロ)ハ「デレの作るハンバーグも、食べてみたかったデスケドネ。
唐揚げであんなに喜んで思い出話マデしてましたカラ、
ソノ唐揚げに及ばないのナラ可能性は低いデショウ」
言って、ハローが着替えのために勢いよくシャツを脱いだので
デレは慌てて顔を逸らし、自身もパジャマのボタンを外していった。
今日は月曜日だが、敬老の日。休日である。
別に急ぐ必要はないけれど、泊まらせてもらっている身だ。
朝食前に食堂の掃除くらいはやらねば。
*****
-
支援
-
ハハ ロ -ロ)ハ「……デレ、大丈夫デスカ?」
昼過ぎ。食堂。
ふと思い立ったように、ハローがそんなことを訊ねてきた。
ζ(゚ー゚*ζ「はい?」
携帯ゲーム機(ハローのもの)でモララーと対戦していたデレは、
その問い掛けを咄嗟に飲み込めなかった。
──先程、約2名を除いたほぼ全員で宅配ピザを食べたのだが、
食後は図書館の整理やら買い物やら散歩やら小説執筆やらで皆が散り散りになり、
結果として現在、デレとハロー、モララーの3名のみが広い食堂にぽつんと残っていた。
今回の「本」事件が発生してから、モララーは積極的にデレ達の傍にいてくれる。
ハハ ロ -ロ)ハ「『夢』を見てる間ッテ、寝てるコトには変わりないカラ、体は休めてるケド……
意識とシテは、ずっと起きてるようなモンじゃないデスカ?」
ζ(゚、゚*ζ「あー……」
たしかに、起きっぱなし、という感覚はある。
体が重いとか怠いとかいうことはないけれど、精神的な疲れは残っていた。
-
答えは一体…
支援
-
( ・∀・)「大丈夫? 昼寝とかする?」
ζ(゚、゚*ζ「昼寝したらまた『夢』に入っちゃいませんかね?」
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシ、この前オ昼寝しましたケド、特に夢は見なかったデスヨ」
やはり演じさせられるのは夜だけなのか。
なんて考えていたら、モララーがデレの手からゲーム機を奪った。
ζ(゚、゚*ζ「あっ」
( ・∀・)「明日から学校だし、放課後は文化祭の準備もあるんでしょ?
いま休んどかないと、しばらくは昼寝するような時間ないよ」
正論だ。
常にこの調子で冷静にしていれば、本当に、ただの二枚目なのに。
( ・∀・)「ハローも。前よりはマシだけど、まだ顔色良くない」
ハハ ロ -ロ)ハ「モララーがイケメンぶっててキモチワルイ……」
( ;∀;)「ぶってるって何だよ! 普通に心配してるだけじゃん! ハローの馬鹿!」
喋ればやはり、残念な二枚目半。
-
デレがモララーを宥めていると、食堂の扉が開いた。
内藤やクックル辺りかと思いきや、
(´・_ゝ・`)「ああ、良かった。ハローとデレさん一緒にいるね」
( ^ν^) チッ
デミタスとニュッ。
昼飯のときに席を外していた2人だ。
( ;∀;)「なっ、何で俺を見て舌打ちしたのニュッ君!?」
ハハ ロ -ロ)ハ「イツモのことデショウ」
ζ(゚、゚*ζ「デミタスさん、その本何ですか?」
デミタスが5冊ほど本を抱えているのを見て、デレはストレートに訊ねた。
しかしハローとモララーは、その姿で何か察したらしい。
ハハ ロ -ロ)ハ「終わりマシタ?」
( ^ν^)「持ってる分は」
( ぅ∀;)「何十冊もあったでしょ……お疲れ」
ζ(゚、゚;ζ「?」
近付いてくるニュッに、モララーがデレの隣の席を譲った。
デミタスはニュッの前に本を置いてから対面に移動する。
-
( ^ν^)「コロッケ」
ζ(゚、゚*ζ「へ?」
本を睨む彼の口から落ちたのは、単語だけ。
コロッケ。食べたいのか。2人は昼食を抜いているし。はて材料はあるだろうか。
デレがのほほんと思考を展開している横で、彼は本を指先で叩いた。
( ^ν^)「金井の本に、よくコロッケが出てくる」
金井。
デレはようやく、一番上の本に「金井マニー」という名が書かれているのを見付け──
そして鈍い彼女にしては珍しく、その意味を正しく理解した。
遮木探偵事務所は祝日も営業しているが、
ニュッには今朝、休暇が言い渡されたらしい。
それを受けるなりニュッは自室に篭って何やら作業をしていた。何をしているのかと思っていたが。
ζ(゚、゚*ζ「マニーさんの本、全部確認してくれたんですか?」
実際に口にしてみれば、色々なことが腑に落ちた。
昨日の昼にショボン達が話していたニュッの様子も、
今朝、突然ニュッに休暇が与えられたのも、
彼らが昼飯もとらず作業に没頭していた理由も。
マニーの小説を読み返して、頻出する──思い入れがありそうな──食べ物を調べてくれていた、
ということで諸々納得できる。
マニーの本を好んで読んでいるらしいニュッとデミタスならば、
めぼしいシーンも探しやすいだろうし。
-
ζ(゚ー゚*ζ「……ありがとうございます、ニュッさん、デミタスさん」
(´・_ゝ・`)「確実性の薄い調べ方で申し訳ないけどね」
デミタスが苦笑した。
ニュッは何も答えなかったが、目の下に隈が出来ているのを見て、
デレの笑顔がへなへな緩んでいく。
ζ(´ー`*ζ「ニュッさんのそういうとこ好き」
ハハ;ロ -ロ)ハ(;´・_ゝ・`)「!?」
( ^ν^)
( ・∀・)「こんなんだけど根はそこそこ優しいからねー」
ぎょっとしたハローとデミタスがすぐさまニュッの顔を窺って、
本を持ち上げようとしていたニュッが硬直し、
あれこれを一切把握していないモララーが普通に頷く。
当のデレは、ニュッの手元を覗き込みながら「それで、」と話を続けた。
-
ζ(゚、゚*ζ「コロッケでいいんですか?」
( ^ν^)「……登場回数で言えばコロッケが飛び抜けてる。
唐揚げもそれなりだが、そっちは昨日作ったろ。
それ以外の料理は大して差がない」
ζ(゚、゚;ζ「ぎええええ何で爪先を踏みつけながら話すんですか徐々に力入れないでくださいやだニュッさん嫌い」
ハハ ロ -ロ)ハ(デレとの会話がジェットコースターすぎてニュッ君の心臓イツカ止まりソウ……)
ニュッが本を広げた状態で手渡してくる。
マニーの代表作である「夫婦シリーズ」とやらの一作らしい。
読んでみると、話の前後は分からないが、主人公らしき中年男性が
妻子の作ったコロッケに舌鼓をうつシーンが2ページほどにわたって記されている。
ζ(゚、゚;ζ ゴクリ
その描写は精緻で、先ほど食事をとったばかりのデレすら食欲が刺激された。
なるほど、こんなにも描写に熱を入れるのなら、たしかに思い入れも深そうだ。
-
デレちゃんのターン
-
( ^ν^)「これなんかは、コロッケが題材になった短編すらあった。
少なくとも、気に入ってる料理であることは間違いないと思う」
短編集らしい文庫本を持ち上げてニュッが言う。
そちらも見せてもらうと、これまた詳細にコロッケの良さが表現されていた。
この場には、特に描写に力を入れていそうな5冊を持ってきただけであって、
コロッケを食べるシーン自体は他にも何作かあるという。
(´・_ゝ・`)「作品数が多いと、その作者が拘るものや拗らせているものの傾向が分かりやすくなる。
金井先生の場合、食べ物ならコロッケ、
題材なら夫婦というものが顕著だね。あと母親との関係」
ハハ ロ -ロ)ハ「夫婦や母親に関しテハ、タシカニ、何かしら拗らせててもオカシクないデショウネ」
( ・∀・)「そうだねー……」
ショボンからの報告を思い出しているのか、ハローとモララーがしみじみ頷く。
既婚者の愛人であった母親。
その母と現在は距離を置いているらしいマニー。
そりゃあ、抱えるものも当然あるだろう。
( ・∀・)「あれっ?」
勝手に同情しているのか涙ぐんでいたモララーが、頓狂な声をあげた。
ニュッの背後から本を眺め、怪訝そうに首を傾げている。
-
ζ(゚、゚*ζ「どうしました?」
( ・∀・)「これ、作者違うじゃん」
言ってモララーが指差した文庫本には、マニーの名前が書かれていなかった。
聞いたことのない名だ。
間違えたんですか、とデレが問えば、ニュッに鼻をつままれ引っ張られた。
ζ(゚、゚;ζ「ふがが」
( ^ν^)「これも金井の本だ」
ζ(゚、゚*ζ「え? でも名前……」
ハハ ロ -ロ)ハ「アア、別の名義デスカ?」
ζ(゚、゚*ζ「あ」
ぽんと手を叩いて頷いたハロー。
彼女の言葉にデレも合点がいった。
そういえば、別の名前で小説を書く作家もいると、先日彼女が言ったのだ。
-
( ^ν^)「金井マニーの別名義だと公言されてはいないが、
文章や展開の癖が所々似通ってる。
ついでに言うと、金井作品のコアなファンにだけ通じるようなネタがたまにあるんだ」
(´・_ゝ・`)「だからファンの間では、十中八九同一人物だろうと認識されてるんだよ」
ζ(゚、゚*ζ「なるほどー……」
( ^ν^)「こっちの名義は実験的な作品が多い。
──その分、金井の本音っつうか、心理みたいなのが若干あからさまだ。
何かしら問題のある母子関係の話が多いな」
デミタス達のものにしろ、市販のものにしろ、
小説の話をするときのニュッは生き生きしている、とデレは思う。
少なくとも普段より饒舌だ。
-
( ・∀・)「母親のこと嫌ってるのかな?」
ハハ ロ -ロ)ハ「嫌いなヒトをわざわざ自分のオ金で高級マンションに住まわせるデショウカ」
( ^ν^)「まあ金出してやるから干渉してくんなって意思表示の場合もあるだろうが、
小説読んだ感じ、嫌ってはいないと思う」
(´・_ゝ・`)「心優しい母親が苦労させられるけど最後は報われるって展開が多いからね。
……これが理想の母親像だっていう可能性もあるけど」
( ・∀・)「あ、この書き方いいなあ。たしかに嫌悪感はなさそうだね」
ζ(゚、゚;ζ(心なしかデミタスさん達も生き生きしている)
この様は、あれだ。筆者の気持ちを答えなさい、のやつだ。
ハハ ロ -ロ)ハ「テイウカ、金井サンの母子関係は正直ドウデモイイんデスガ……」
真っ先に飽きたのか、いきなりハローがぶった切った。
たしかに、こちらが把握するべきなのはマニーの求める料理だ。
お袋の味、ということなのでもちろん母親とのあれこれは関係あるだろうけれど、
マニーと母親の関係性のみを考えたところで正解の料理に辿り着けるわけではない。
本を読んだだけで母親と料理を絡めて推理することが出来るなら、
ニュッとデミタスがとっくに答えを出しているだろうし。
-
ハハ ロ -ロ)ハ「金井サンが何か抱えていても、デレの料理と母性で丸く収めればイイんデス」
ζ(゚ー゚;ζ「母性って……」
( ・∀・)「そうだね。ニュッ君のお母さんになるとか言えるくらいだし、母性あるよ」
(;´・_ゝ・`)「え、何それ?」
( ^ν^)「がんばってねオカーサン」
ζ(゚ー゚;ζ「わー思いの外ニュッさんにそう呼ばれるの気色悪い」
( ^ν^)「ざけんな」
ニュッが文庫本の背表紙でデレの頭を叩く。と同時に、彼の腹が鳴った。
冷凍食品あったっけ、と厨房へ向かうニュッ。
その背を眺めていたハローは、ふとテーブルへ目を戻すと、
座りが悪そうに眉を顰めて首を傾げた。
ζ(゚、゚*ζ「何かありました?」
ハハ ロ -ロ)ハ「コノ名前、最近ドコかで見た気がするんデスヨネー」
ううん、と唸りながら、ハローがマニーの別名義を指で擦る。
-
(´・_ゝ・`)「その名義での作品数は多くないから、そこにある短編集2冊で全部だよ」
ハハ ロ -ロ)ハ「ンー。本屋サンで見たのカモ」
( ^ν^)「お前ら鯛焼き食うか」
ハハ*ロ -ロ)ハ(*・∀・)「食べる!」
(*・∀・)「俺あんこね!」
ハハ*ロ -ロ)ハ「ワタシはクリームのがイイデス」
(*・∀・)「レンジで温めた後にトースターにもかけてね! かりかりになるから!」
(´・_ゝ・`)「ニュッくん僕にも何かご飯ちょうだい」
厨房から顔を覗かせたニュッが、自分で食べるのであろうお好み焼きの袋とは別に
鯛焼きのパッケージを掲げてみせれば、
あっという間にハローの頭から直前の話が吹っ飛んでしまったようだった。
お前は、と訊いてきたニュッにデレもクリーム鯛焼きをお願いする。
──そういえば昼寝するのを忘れていたな、と気が付いたのは、
ぼちぼち食堂に人が集まり、夕飯の準備が始まった頃だった。
*****
-
¥*・∀・¥「コロッケ」
6日目。
皿の上でほかほか湯気を立てるコロッケと茶碗に盛られた白米に、マニーの顔が緩んだ。
(´-;;゙*)「ころっけ」
びぃは皿ではなくマニーを見て口元を綻ばす。
食べる前から反応がいい。
腰を下ろしたデレとハローが手を合わせれば、マニーもそれに倣った。
ζ(゚ー゚*ζ「それでは、いただきます!」
いただきます、ハローとマニーの声が重なる。
今日も手に握るのは箸だ。
ソースを入れた小皿も付けているが、3人共、まずはそのままコロッケに箸を伸ばした。
箸で一口大に切り分ける──という食べ方よりも、
コロッケは、そのまま持ち上げて齧りつきたいところ。
-
ζ(゚、゚*ζ シャクッ
しゃくしゃくと小気味良く砕ける、軽い衣。この音がいい。
噛むごとにパン粉の香ばしさが増す気がする。
中身は潰したじゃがいもと合挽き肉、玉ねぎ、人参。実にシンプル。
じゃがいもは、ごろごろした食感が少し残る程度の潰し具合。
さらりとした滑らかさとほくほく感が入り交じる、いい案配だ。
ζ(´、`*ζ シャクシャク モフモフ
濃い目の下味のおかげで、そのままでも充分美味い。
美味いが、そこにもうひと味加わるのもコロッケの醍醐味だろう。
というわけで、半分ほどまで食べた頃合いに、
小皿を持ち上げてソースを垂らしてみる。
とろり、絡みつく褐色。中濃ソースだ。
-
ζ(´ー`*ζ(ピリ辛とろ甘ー)シャグッ
ひやりとしたソースが口の中でコロッケの熱と混ざり、互いの風味を引き立て合うのが堪らない。
しかもソースのおかげでご飯とますます合ってしまうのだ。なんて卑怯。
くどく感じてきたら、付け合わせの千切りキャベツで仕切り直し。
すると今度はあっさりしすぎた口内が、またコロッケを欲して。
ζ(´ー`*ζ ホフホフ
止まらない。
¥*・∀・¥「──すごく美味しい」
一つ食べ終えた辺りで、マニーが吐息混じりに呟いた。
やわらかい笑顔。こんな表情で食べてもらえると、デレも嬉しい。
-
¥*・∀・¥「何だか、懐かしい味だ」
ハハ*ロ -ロ)ハ「金井サンの本を参考にシテ、金井サンが好きそうなコロッケをデレが作ったんデスヨ」
¥*・∀・¥「やあ、はは。そうか、そういう分析の仕方があったか。
うん、おかげで実に私好みだ」
(´-;;゙*)「マニー様、そんなに美味しいの……」
¥*・∀・¥「ああ。こんなに夢中になれたのは久しぶりだよ。思い出の味だね」
本当に懐かしい──
感じ入ったようなマニーの声に、デレの心臓が大きく跳ねる。
これは。今日こそ。今度こそ。
デレが見つめていると、目を合わせたマニーが照れ臭そうに笑った。
2つ目をかじって、うん、と頷き、
¥*・∀・¥「昔、よく行っていたお弁当屋さんのコロッケが大好きだったんだ」
爽やかに、そう言い放った。
*****
-
ζ(゚、゚;ζ「そっちかあ……!」
目を覚ましたデレは、開口一番叫んだ。
同時に隣のベッドから枕を叩くような音がする。
──もはや言うまでもないだろうが、食後、マニーはまた餓死した。
たまご形の育成ゲームだってまだ死ににくい方だろう。
ハハ;ロ -ロ)ハ「母親じゃなくてオ弁当屋サンの思い出だったんデスネ……」
ζ(゚、゚;ζ「お弁当屋さんの常連だったんですもんね、そりゃ有り得るか……ああ何か悔しい!」
ニュッとデミタスが頑張ってくれたのに。
そう思うと、余計に無念だ。
デレはうつ伏せになって枕を抱え、ベッドを横目に見上げた。
身を乗り出しているハローと視線がかち合う。
ハハ ロ -ロ)ハ「……どうしマス? 多分、新しいヒントはなさそうデスヨ」
ζ(゚、゚*ζ「……勘でやるしかないですかね。残り8日しかないけど……」
同時に溜め息。
不貞腐れたように枕に顔を埋め、デレは唸った。
*****
-
──7日目は鯖の味噌煮にした。
そういえば魚料理を出していなかったなと。
箸を入れれば抵抗なくほぐれる程やわらかな身。
甘めの味噌が絡んだそれを口へ運べば、ふんわり広がる優しい香りと味。
生姜のおかげで、全体の風味がきゅっと締まる。生姜の効果は臭み消しだけではないと実感する。
今までで一番と言えるほどマニーが夢中で白米を掻き込んでいたが、結果は駄目だった。
8日目は餃子。
せっかくなので、焼き餃子と水餃子と揚げ餃子の3種類。
時間が掛かっても待てるとマニーが言うので。
焼き餃子は程よく焦げ目のついたぱりぱりの皮と、肉汁溢れる具の組み合わせが基本の美味しさ。
酢醤油で食べるのがいい。
水餃子は皮のもちもち感が口に優しい。心なしか、具もふんわりしている。
これはポン酢でさっぱりと。
揚げ餃子はタレを付けずにそのままで。
ざっくり砕ける皮とジューシーな具、これだけで充分に完結しているのだ。
揚げ餃子は初めてなんだ、とマニーは楽しそうに食べていたが、やはり、これも違った。
-
9日目はご飯路線から外れて、ケーキを作った。
特別な日に母親が作る料理が印象深かった筈──というモララーの推理に改めて注目し、
では特別な日というと例えばどんな日だ、と皆で話し合い、
子供にとって一番の楽しみはクリスマスや誕生日に食べるケーキなのでは、と結論が出たのだ。
とりあえず普通の、苺のショートケーキにした。
恐らく最も一般的であろうという理由で。
ショボンも好きだし。
ふわふわのスポンジを甘さ控えめのホイップクリームで包み、真っ白なそれに真っ赤な苺を乗せる。
苺の酸味のおかげで甘くなりすぎずにまとまっていて、
飲み込んだ後に無糖の紅茶を口に含めば、全てがそこに収束し、ふわりと優しい後味を残した。
期待通りにマニーは誕生日やクリスマスの思い出を語ってくれたが、
大抵は母親の手作りでなく既製品だった、と申し訳なさそうに言った辺りでデレとハローは脱力した。
もちろん不正解。
そして10日目、11日目、12日目──
*****
-
ζ(゚、゚;ζ「今回も駄目でした」
マニー達とオムライスを食べる夢から目覚めた朝。
食堂にいた内藤とニュッに、デレは力なく報告した。
13日目も不正解に終わったのだ。
ハハ ロ -ロ)ハ「金井サンは喜んでましたケドねー……」
デレはチキンライスにオムレツを乗せて割ったタイプのオムライスよりも、
薄く焼いた玉子でチキンライスを包む派だ。
どちらも好きだけれど、やはり包んだ方が、整ったものを崩しつつ食べ進める楽しみがある。
ついでにスライスチーズを一緒に包んでおいたところ、
スプーンで割ったオムライスから溶けたチーズがとろとろ溢れるのを見て、マニーが破顔していた。
トマトの風味とチーズの組み合わせはまず外れない。
まあメニューとしては外れたのだが。
-
ああ…全部美味そうだ…腹減るわこんなん
-
( ^ν^)「オムライス……デレのチキンライス」
まだ若干寝ぼけている様子のニュッが、トーストにバターを塗りながら
ぼんやりした声で呟く。
今日は苺ジャムも塗るらしい。バター多め、ジャムは少なめ。
ζ(゚、゚*ζ「今度作りましょうか?」
( ^ν^)「うん……」
ζ(゚、゚;ζ「ひえっ。ニュッさんが素直だ。こわっ」
( ^ω^)「それはともかく」
ぱん。内藤が手を叩く。肩を跳ねさせ、デレはそちらに顔を向けた。
-
( ^ω^)「今日が『期限』だお。デレちゃん、ハロー」
ζ(゚、゚*ζ「……ですよね」
ハハ ロ -ロ)ハ「ハア……」
──内藤がマニーに提示した期限は、今日である。
泣いても笑っても、今夜が最後のチャンス。
今夜の内に正解を引き当てなければ、明日、内藤が強制的にマニーから「本」を回収し
朗読して物語を終わらせる。
そうすれば、マニーやデレ達は解放される。
──マニーの求めるものを差し出せないまま、終わる。
それでは何だか収まりが悪い。
理由は分からないまでも、あの夢の中でデレとハローが作った料理を食すことは、
マニーとびぃにとって大きな意味があるのだろう。
彼らの納得いく結末を迎えないまま終わらせるのは、デレもハローも望まない。
けれど。何を作ればいいのかがさっぱり分からないのだ。
ζ(゚、゚*ζ(どうしよう……)
*****
-
結局、答えを出せないまま「夢」を迎えた。
14日目。演じさせられ始めてから、ちょうど2週間。
¥・∀・¥「お味噌汁だね」
ぽんと置かれたお碗を見て、マニーが言う。
ζ(゚、゚*ζ「これも定番かなと思いまして」
ハハ ロ -ロ)ハ「日本の食卓には付き物デスシ」
(´-;;゙#)「おみそしる……」
──びぃがぴんと来ていないのを見て、間違えたか、と思ってしまった。
未だに彼女とマニーの関係は分からないが、マニーの好みをある程度は理解しているようなので、
彼女の反応も判断基準にはなっていた。
ζ(゚、゚;ζ(いや、食べるまでは分からない!)
頭を振って席に着く。
「いただきます」、ハローの言葉に続いて、箸と碗を持ち上げた。
-
投下中にすまん、一言だけ言わせて
飯テロ祭りは終わったんだからこんなに美味しそうな描写しないでくれよ!!
-
腹は鳴るわ壁は鳴るわ忙しい作品だなほんと
代行はよ
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ζ(゚、゚*ζ(……とりあえず具もド定番で)
豆腐とわかめ、ねぎ。
それらの具を順番に口へ運ぶ。
ほろりと崩れる豆腐。独特の歯応えのわかめ
絡んだ味噌汁が、それらを噛む度に口に広がる。
斜め切りにしたねぎはくったりとやわらかくなり、ほのかに甘い。
ζ(´、`*ζ チュルッ
汁を啜る。味噌の香りが鼻に抜け、こくり、飲み込めば、
喉と腹がじんわり暖まった。
ほっとする。
¥*‐∀‐¥
マニーからも、ほうっと息をつくのが聞こえた。
落ち着く、という一言も。
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ζ(゚、゚*ζ「……今日で、最後なんですけど……」
恐る恐るデレが言うと、マニーは碗を下ろした。
どこか物寂しそうな顔をしている。
¥・∀・¥「うん。ありがとう。付き合わせて、すまなかったね」
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシはただ美味しいゴ飯食べてたダケなので、割と楽しかったデスケド」
¥・∀・¥「ふふ、……うん、毎日とても美味しかったし、楽しかったよ。
それだけでも充分に価値のある時間だった。
これ以上を望むのは厚かましいというものだ」
──ああ、やはり、味噌汁も不正解か。
申し訳ないなと思った。
けれどもマニー本人が「充分だ」と言ってくれるから、それに甘えてしまう。
マニーは指輪を摩りつつ、隣のびぃにも笑みを向けた。
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うわ味噌汁違うのか
一緒に出てこなかったとか書いてたからもしやと思ってたけど
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¥・∀・¥「びぃも、ありがとう。思えば、君とこんな風に会えたのが一番の驚きだった」
(´-;;゙#)「……」
¥・∀・¥「……びぃ?」
いつもマニーの一挙一動に一生懸命だったびぃは、このときだけ、
何かしらの思考に気を取られていたのか黙っていた。
訝ったマニーが顔を覗き込み、ようやくびぃの瞳が彼を捉える。
(´-;;゙#)「……マニー様は、もう少しわがままになっていいと思う……」
¥・∀・¥「君は昔から私に甘いなあ」
笑顔を苦笑いに変えて、マニーがびぃの頭を撫でる。
──「昔から」。
付き合いの長い仲なのは予想がついているが、結局、彼女の正体は分からないまま。
マニーとデレが再び碗を持ち上げる。
びぃは、じっと彼の横顔を見つめていた。
.
-
¥・∀・¥「──ごちそうさま」
次にマニーが声を発したのは、味噌汁を食べ終え、碗と箸を置いたときだった。
デレとハローもほぼ同時に終えていた。
マニーが面々を順繰りに見る。それから、深く頭を下げて。
¥・∀・¥「改めてお礼を言いたい。ありがとう、いい2週間だった」
ζ(゚、゚*ζ「いえ、……ごめんなさい、ご期待にそえなくて」
あまりに丁寧な対応にますます申し訳なさがつのって思わず謝罪すると、彼は、ぱっと勢いよく顔を上げた。
──眉根を寄せた表情に、違和感。
デレが声をかけようとした瞬間、マニーは腹を押さえてまた頭を下げた──というか俯いた。
だから先ほど眉を顰めたのか、とデレは納得する。
¥;・∀・¥「、本当に、……ありがとう……」
最後にまた礼を言い、マニーが目を閉じた。
びぃは何も言わず、彼の肩口に頭を預けた。
*****
-
( ^ω^)「駄目だったかおー……」
食堂。
頬杖をつき、内藤は、先ほど登校のため出ていったデレの姿を思い返した。
全くすっきりしていなさそうな顔だった。そりゃあそうか。
ξ゚⊿゚)ξ「延長する?」
紅茶を淹れながらツンが問う。
朝っぱらから美貌を振り撒く彼女を眺め、内藤は首を振った。
( ^ω^)「……いや、しない。夢が始まってから2週間だお、2週間。
デレちゃんもハローも明らかに疲れてるし、
いい加減、デレちゃんは学校、ハローは執筆に専念しなきゃいけないお」
ξ゚⊿゚)ξ「そうよね」
こちらの回答などとうに予測できていたのか、
ツンは至って普通に頷いている。
図書館に入り浸っているとはいえ、高校生であるデレの本分は学業にある。
文化祭も中間テストも近いらしいから、そちらに集中させてやらねばなるまい。
今日で彼女が自宅に戻ってしまうのは少し寂しいが。
それにハローも、新作を書き始めた頃に巻き込まれたので、執筆が止まっている。
これ以上マニーに付き合って小説の完成が遅れれば、ニュッが不満を溜め込むだろう。
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ξ゚⊿゚)ξ「それじゃあ予定通り、3時頃に金井さんのお宅へ?」
( ^ω^)「そうするおー」
マニーとは、昨日の内に電話で予定を取りつけておいた。
15時に内藤とツンがマニーの屋敷へ行き、「本」を出してもらって
マニーに主な台詞などを朗読してもらいつつ、内藤とツンが脇役の台詞を読み上げる──
といった形で終わらせるつもりだ。
ξ゚⊿゚)ξ「でぃの本なら、これで終わらせてくれるわよね」
( ^ω^)「まあ、行ってみないと分かんないけどもね」
──別に、予感があったわけでもなく。
普通に、一歩引いた意見として口にしただけだった。
本当にそれだけ。
だから、
-
( ^ω^)「──は?」
15時過ぎ。
金井邸の客間でふかふかの椅子に座らされた内藤には、
向かいで気まずそうにするマニーの言葉を
すぐに飲み込めるような下地が整ってなかった。
¥;・∀・¥「私も、必死に探したんですけれども」
思わず困惑を込めて漏らしてしまった内藤の声を、
責めているものだと勘違いしたのか、マニーが顔を青くさせて舌を動かす。
-
¥;・∀・¥「今朝はたしかに、サイドテーブルに乗っているのを見たんです。
けれど打ち合わせのために出版社に赴いて、
昼頃に帰ってきたら、……その……」
ようやく把握し始めた内藤は、横目にツンを見た。
ツンはいつも通り、静かな目付きでマニーを見据えながら
ティーカップを口元で傾けている。
彼女の横顔によって心を落ち着かせ、内藤は改めてマニーと向かい合った。
反対にマニーは戸惑いを顕にし、足元を見下ろしながら、先の言葉を繰り返す。
¥;・∀・¥「『本』が、なくなっていたんです」
*****
-
ζ(゚、゚;ζ「勝手に移動したってことですか?」
夜、に近い夕方。ハローの部屋。
制服のまま椅子に腰掛けたデレは、ベッドに座るハローとでぃ、
携帯電話を握って床に座るしぃを順に見て、そう訊ねた。
──どうもマニーのもとから「本」が消えたらしいのだ。
(*゚ー゚)「演じ終わらせないために、金井センセーが嘘ついてる可能性もあるけどー……」
携帯電話の画面を見ながら、しぃが答える。
マニーの屋敷にいる内藤から、メールで状況の説明が送られてくるのだそうだ。
彼女の言葉にデレは口を開きかけた。が、それより早くハローが反応する。
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ハハ ロ -ロ)ハ「金井サンはそういう、せこいマネはしないと思いマス」
ζ(゚、゚*ζ「私もそう思います」
(*゚ー゚)「いや、図書館来た日に、でぃちゃんの本のこと隠したんでしょ?
しかも館長が最初に電話したときも、知らないって嘘ついたんでしょ?」
ζ(゚、゚*ζ「それはそうなんですけど……」
ハハ ロ -ロ)ハ「今日返すッテ館長と約束していたナラ、チャント約束を守る筈デス。
ソウイウ人だと思いマスカラ」
(*゚ー゚)「……絆されてんなあ……」
ハハ ロ -ロ)ハ「それにホラ、でぃの本デスシ。
コレまでの流れカラして、自分で隠れた可能性が高いカナと」
(#゚;;-゚)) コクン
──「本」は時おり、身を隠したり、新たな主人公のもとへ勝手に移動したりする。
あんな終わり方で演劇が終了するとは思えないから、
今回は、本が自らどこかに隠れているパターンだろう。
理由は──内藤達に持ち帰らせないため、といったところか。
どうやら本は、意地でもマニーやデレ達に最後まで演じさせたいらしい。
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ハハ ロ -ロ)ハ「多分、本が金井サンに肩入れしてるんデショウ」
でぃの「本」に関して言えば、
自分の欲のためだけにここまで食い下がることは少ない。らしい。
演じ終わる前に内藤達が迎えに来るとしても、少なくとも隠れはしない。
しかし今回こうして姿が見えなくなったとなると、
自分のためではなく、誰かのために行動しているパターンが考えられる。
そしてその「誰か」は恐らくマニー。
この場合が厄介なのだ。
でぃの本は情け深い。そしてちょっと不器用。
マニーが夢の続行を望む限りは、出てこないだろう。
ζ(゚、゚*ζ「内藤さんから続報ありました?」
(*゚ー゚)「んー。使用人さんたち総出で屋敷のなか探しても見付かんなかったから、
今日は諦めて帰ってくるってよ。
デレちゃんのお泊まり続行決定の瞬間です」
┐(#´;;-`)┌ ヤレヤレ
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(*゚ー゚)「……ねえねえ、そのさ、びぃって人が隠した可能性はないの?
金井センセーに甘いんでしょ?」
ハハ ロ -ロ)ハ「ナイと思いマス。金井サンは昨日、びぃサンに
『こんな風に会えたのが驚き』、トカ何とか言ってマシタ。
その口振りだと、ドウモ、普段はびぃサンと顔を合わせていないヨウナ……」
ζ(゚、゚*ζ「あ、ですね。たしかにそんな感じはあります……」
しぃが唸り、足を開いて床に上体を倒した。体前屈。やわらかい体だ。
そのまま、うんうん呻いている。
ハハ ロ -ロ)ハ「ドウシマシタ、しぃ」
(*゚ぺ)「だってデレちゃん達まで巻き込んでるからさあー……。
でぃちゃんの『本』の中じゃ、特に大胆で変わり者の部類なのかなと思ってさ……。
それなら、金井センセーのために姿隠すこともしないんじゃないかとも思ってるわけよ。私はね」
まあ推測でしかないけど、としぃが拗ねたように付け足す。
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ζ(゚、゚*ζ「でぃさんより、しぃさんの方が詳しそうですね。でぃさんの本に」
(*゚ー゚)「双子の姉妹だもの。私の本については、でぃちゃんが一番詳しいかもね」
(*´;;-`)ゞ テレテレ
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシ達の本に一番詳しいのはニュッ君デショウ」
(*゚ー゚)「それもそうだわ! あ〜ニュッちゃんに何もかも知られてる感覚たまんねえ」
(*゚;;-゚) ポッ
(*゚ー゚)「ああそうだ、ニュッちゃん帰ってきたらデレちゃん達から説明しときなね……。
心労やら何やらでニュッちゃんぶちギレるかもだけど、
デレちゃんとハローがへらへらしとけば毒気抜かれるだろうからね……」
ζ(゚、゚;ζ「ぶちギレられますかねえ……」
ちょくちょく鼻フックをされたり頬を抓られたりするが、
デレがニュッに本気で怒られたことなど数えるほどしかない。
記憶にある限り、ニュッに怒鳴られたのは、ある事件でデレが軽率な行動をとったときだけだ。
要は、すこぶる心配させられればニュッは怒る。
それ以外で彼が激怒するのは本が関わったとき。
主に、VIP図書館の作家が書いた本に対する独占欲が刺激された場合である。
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ζ(゚、゚;ζ(……あれ、結構やばいなこれは)
ニュッを怒らせる要因トップ2が揃っているではないか。
別にデレ達が悪いわけではないが、怒りのやり場がない分、危険だ。
今日こそデレの鼻穴と頬が伸びきるかもしれない。
無意識に鼻を押さえるデレを一瞥し、しぃが唇を尖らせる。
(*゚3゚)「さっさと円満解決しないと、ハローとデレちゃんに気兼ねなくセクハラできないからつまらん」
ζ(゚、゚*ζ「……それなら演じ終わらなくていいかもしれませんね」
ハハ ロ -ロ)ハ「ネ」
(*;ー;)「やだやだ無防備なメロンとスイカを揉みくちゃにしたいよー」
(#゚;;-゚) セクハラ シトルガナ
しぃの集中力が切れたらしく、またピンク色の発言しかしなくなったので聞き流す。
それから、まだ真面目であった先程までの会話を反芻した。
(*゚ぺ)『でぃちゃんの「本」の中じゃ、特に大胆で変わり者の部類なのかなと思ってさ』
何故だか、その言葉が強く印象に残ったのだ。
*****
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¥;・∀・¥「申し訳ない」
目を開けるなり、ぐうぐうきゅるきゅると腹の中から大合唱を響かせつつ
マニーが土下座していたので、デレはぎょっとして立ち上がった。
ζ(゚、゚;ζ「ちょっ、ちょっとマニーさんやめてください! 顔上げて!」
大きなテーブルも、シャンデリアも、並ぶ食器も、
昨日までと何ら変わりない。
至って普通に、夢の続きが開幕した。
¥;・∀・¥「こんなことになるとは思っていなくて……」
ハハ ロ -ロ)ハ「仕方ナイことデス、気にしナイで」
いつの間にやらハローも近付いてきており、膝をついてマニーの顔を上げさせた。
デレもしゃがみ込む。
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ハハ ロ -ロ)ハ「金井サンが隠したワケじゃないんデショウ?」
¥;・∀・¥「勿論!」
ζ(゚、゚*ζ「これは本の意思ですから。
本が、何が何でも続行するぞっていうなら、私達にはどうしようもないんです」
¥;・∀・¥「……もう、私の口から正解を言うべきかな……。
夢の中ではヒントも言えないようだけれど、現実でなら伝えられるだろうか」
ハハ ロ -ロ)ハ「可能かは怪しいデスガ、試してもらえると助かりマス」
マニーは眉を顰め、すまないと再び呟いた。
彼に落ち度はない。──あるとしたら、初日に、さっさと内藤へ本を渡さなかったことだろうけど。
今さら言っても仕方ない。
もしくはデレがメイド服など着なければ。
(´-;;゙#)「……マニー様、今日からもずっとご飯食べられる?」
──マニーの斜め後ろに立っていたびぃが、ぽつりと言った。
ハローに支えられて立ち上がったマニーが、彼女へ振り返る。
-
¥;・∀・¥「そうだけど……彼女達には迷惑だろう。
びぃだってこんなことに付き合って、」
(´-;;゙#)「私は幸せ。マニー様が美味しくご飯を食べられるなら」
びぃが目を伏せた。
──その様子から、マニーの顔に疑念が滲んだ。
¥;・∀・¥「……びぃ、何かしたのかい?」
(´-;;゙#)「……私に出来ると、マニー様は思う?」
問い掛けに逆に問い返されて、マニーは黙った。
その顔からはもう、疑いが消えている。
──何だ。何なのだその意味深なやり取りは。
デレはパンクしそうな思考を一旦閉じた。
現実での本の行方は内藤達に任せて、こちらは料理に集中しよう。
マニーが椅子に座るのと同時にデレは腰を上げた。
びぃが、じっとこちらを見つめてくる。
-
(´-;;゙#)「……よろしくね、デレ、ハロー」
¥;・∀・¥「また、世話をかけるね」
ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫です、こっちは問題ありません」
夕食後にN.Nさん(仮名)に鼻を思い切り引っ張られたのだが、
まあ問題ないということにしておこう。
寧ろ、少しほっとしているのだ。
昨日のあれで終わり、では消化不良だったから。
勿論みんなに心配をかけているのは分かっているので、今日終わらせるのが一番いいのだが。
ハローの手を取って厨房へ向かう。
この厨房に立つのも15回目。不安げなハローの顔を見上げ、デレは小首を傾げた。
ζ(゚ー゚*ζ「さ、何を作りましょうか?」
*****
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ハハ ロ -ロ)ハ「……デレ、恐くないんデスカネー……」
昼。図書館の食堂。
テーブルに額をくっつけ、ハローは呟いた。
その場にいたモララー、クックル、貞子が顔を見合わせる。
ハハ ロ -ロ)ハ「昨日もにこにこシテ炊き込みゴ飯つくったんデスヨ。
お出汁と醤油と具材の香りや味がよく染み込んでて美味しかったデス。
鶏肉がふわふわシテ、キノコとタケノコがこりこりシテ……」
( ・∀・)「貞子、おれ今日炊き込みご飯食べたい」
川д川「今日わたし洗濯当番だからあ……でぃかしぃに言ってちょうだい……」
(;゚∋゚)「飯の話がしたいんじゃないだろ、ハロー」
ううん、と唸りながら頭の向きを変えて、隣のクックルを見る。
無骨な見た目にそぐわず、繊細で器用ゆえに凝った料理が得意な彼を眺め、
ハローは溜め息をついた。
それから今度は斜交いに座る貞子。この図書館で一番料理が上手いのは彼女であろう。
その隣のモララーは、まあ、ハローとあまり変わらないか。
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ハハ ロ -ロ)ハ「……ワタシがやるのは軽いオ手伝いダケで、
オ料理のほとんどはデレがやってくれてマス。
だからデレが一番疲れてる筈なんデス」
川д川「まあ、あんたは料理っていったら肉料理かホットケーキしか作らないものねえ……」
ハハ ロ -ロ)ハ「ウン……。……延長するコトになって、しかもイツ終わるのか本格的に分からなくなって、
余計に疲れた筈で、なのにデレはにこにこシテ、
食材の下拵えも丁寧にやってご飯つくって……」
ハハ ロ -ロ)ハ「……せめて貞子やクックルが『執事』だったナラ、
デレ、もっと楽だったデショウに……」
そうしてハローはまたテーブルに顔を伏せた。
こんなことなら、普段からもっと色んな料理に挑戦しておけば良かった。
昨日ハローが役立ったことといえば、唐揚げのとき同様、鶏肉を捌いたくらいで。
出汁と醤油の必要な分量すら教わらないと分からない。
( ;∀;)「そっ、そん゙なッ、そんな゙こどな゙いッ! ハローだっでェッ、ちゃ、ちゃん゙どォ!」
(;゚∋゚)「何でお前が泣く」
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川д川「……モララーがうるさいから、深く考えないの、ハロー……。
私は、あんたが執事役になって良かったと思うわよお……」
溜め息混じりの貞子の言葉に、ハローは再び視線を上げた。
貞子が卓上の菓子入れから小さな包みを一つ持ち上げる。
彼女の好きな米菓専門店のおかきだ。
ハローの方へ包みを滑らせ、頬を掻く。
川д川「あんたは美味しいもの食べて笑っときなさい……」
ハハ ロ -ロ)ハ「……ワタシが執事で良かったデスカ? 何で?」
川д川「……やあよ、そんなの説明するの。恥ずかしいわあ……」
それから貞子はもう一つ包みを取って、おかきをぽりぽり食べ始めた。
ハローがクックルを見上げても、彼もよく分からないのか肩を竦めるだけだった。
とりあえず貞子の中では、ハローが不要なわけではないらしい。
ありがとうと礼を言い、あとでデレと一緒に食べよう、と包みをシャツのポケットにしまった。
( ;∀;)「お゙、俺の方がよっぽど、2人の役に゙立でな゙い゙しィッ」
ハハ ロ -ロ)ハ「モララーうるさい」
( ;∀;)「酷くない!?」
.
-
ζ(゚ー゚*ζ「──今日は炒飯つくりましょう」
夜。
歯磨きを済ませてハローの部屋に戻る途中、デレがそう言った。
昼過ぎにマニーから内藤へ電話があったようだが、
相変わらず本は見付からないし、マニーに正解の料理を教えてもらおうとしたら
いきなり電波状況が悪くなって結局聞けなかった──明らかに本の仕業──らしいので、
やはり、自力で正解を探るしかないようだ。
ハハ ロ -ロ)ハ「炒飯デスカ」
ζ(゚ー゚*ζ「もうローラー作戦しかないかなあって。ちなみに炒飯はしぃさんの案です」
ハハ ロ -ロ)ハ「デスヨネー……みんなも色々考えてくれてるケド、なかなかネー……」
川д川「あ、ちょっとハロー……」
呼ばれて振り返ると貞子が立っていた。
叱るときの声色だったので、何かやらかしてしまったらしい。
ぱたぱたスリッパを鳴らしながら近付いてきた貞子が、ハローの右手に何か握らせた。
小さく平たい包み──昼に貞子からもらった、おかきだった。
-
川д川「さっき洗濯しようとしたら、あんたの服からこれ出てきたんだけど……。
洗濯出す前にポケット調べなさいっていつも言ってるでしょお……」
ハハ ロ -ロ)ハ「ア、ゴメンナサイ」
ζ(゚ー゚*ζ「何です?」
ハハ ロ -ロ)ハ「おかき……歯磨いちゃったカラ、明日食べマスネ」
とりあえず寝間着のポケットに突っ込む。
また忘れないでよ、と小言を漏らし、貞子が踵を返した。
──と、そのとき。
ぐっと瞼が重くなった。
-
ハハ;ロ -ロ)ハ「ン」
ζ(-、゚;ζ「あ……」
どうやらデレも同じなようで、ほぼ同時に目を擦った。
眠い。
ハハ;ロ -ロ)ハ「チョットゆっくりしすぎマシタカ。
──ワタシ達が布団にいなくテモ、関係ナイのネ」
ζ(-、゚;ζ「みたいですね……あ、だめ、眠……」
自室のドアを開けた。いやに重く感じる。
そうして2人は部屋の灯りも消さぬまま、
それぞれのベッドと敷き布団に、なだれ込む勢いで潜った。
*****
-
¥*・∀・¥「──今日も美味しかった」
空の皿を前に、マニーが微笑む。
そこには先程まで山盛りの炒飯があったのだが、米一粒も残さず綺麗に完食してくれた。
ζ(゚、゚*ζ(……今日も違うか……)
対するデレは少し残念に思っていた。
ぺろりと平らげ、美味いと言ってもらえるのは嬉しいけれど、
この夢の中に限ってはそれだけでは足りないのだ。
何か思い出を語るでもなく黙々と食べていたので、これも違うのだろう。
(´-;;゙#)
びぃの反応も芳しくない。
きょとんと炒飯を眺めていた。
──ああ、ほら、そうこうしている内に。
マニーが空咳をして俯く。
-
¥; ∀ ¥「……すまない、本当に、ご飯は美味しいのだけど……っ」
ハハ ロ -ロ)ハ「大丈夫、分かってマスヨ」
ζ(゚、゚;ζ「そうですよ。マニーさんは気にしないでください」
傍に立ち、背を撫でる。
意味があるかは分からないが、何もしないのも心苦しい。
(´-;;゙#)「……ありがとうね、デレ」
ζ(゚、゚;ζ「いえ」
¥; ∀ ¥「──さむい……」
小声でマニーが訴える。ほぼ無意識の声に思えた。
今までも、そう感じていたのかもしれない。いつも死の間際にはがたがた震えていたから。
ハハ ロ -ロ)ハ「寒いデスカ?」
ハローが上着を脱ぐ。
この場で、そういうことが可能な服装をしているのは彼女だけだった。
マニーにかけるため、真っ黒な上着をひらりと広げ──
-
ハハ ロ -ロ)ハ「……ンッ?」
くしゃり、という音。
それを聞き、ハローとデレ、びぃは上着に目をやった。
マニーに上着を被せてから、ハローがポケットにを突っ込む。
何か見付けたようで、すぐに引き抜き顔の前に持ち上げた。
ζ(゚、゚;ζ「それは?」
握り込めるくらいに小さな、薄い袋。
見覚えがある。
たしか眠る直前に見たのだ。
何だったか。
──目眩がする。
マニーの震えは止まっていた。
ハローの手にある袋は。ええと。目がちかちかして頭が回らない。
あれは。たしか。
そうだ。
お菓子の、
*****
-
ζ(゚、゚;ζ「ハローさんっ!」
目覚めた瞬間、デレは跳ね起きた。
ベッドの上でもハローが同じように飛び起きていて、
何か言うよりも先に、パジャマのポケットから包みを取り出していた。
顔を突き合わせ、それを確認する。
ハハ;ロ -ロ)ハ「……コレでしたヨネ」
ζ(゚、゚;ζ「これでした」
おかきの入った包み。
平べったいからタキシードに入っていたのに気付かなかった、とハローが呟く。
念のため開けてみたが、中身は勿論おかきである。
-
ζ(゚、゚;ζ「食べ物は夢に持ち込めない筈じゃ……?」
以前、メモ用紙は持っていけた。
べっこう飴は駄目だった。
あの夢は、マニーのために料理をする、というのが前提にある。
だから食べ物はあくまで夢の中の冷蔵庫から出さねばならないし、
既に出来上がっているものを持っていくなど以ての外──なのだろうと納得していたのだが。
違うのだろうか。
ζ(゚、゚;ζ(おかきだけ持ち込めた……?)
いや。やはり「料理を作る」ことが前提としてある夢なのだ。
そこが重要な筈。そこを中心として考えれば、何かが浮かび上がってきそうになる。
おかきが特別だったのではなくて。
寧ろ特別ではなかったからこそ、そのまま持ち込めたのかもしれなくて──
だとしたら。もしかしたら──
ハハ ロ -ロ)ハ「……べっこう飴は、『作らなきゃいけないモノ』だったのカモしれマセン」
──デレのまとまらぬ思考は、ハローの一言で収束した。
*****
-
──17日目。
夢の中。お城の厨房。
並んで立ったデレとハローは互いを見交わし、頷いた。
ζ(゚、゚*ζ「必要なのは、お砂糖と……」
ハハ ロ -ロ)ハ「それと水だけデスネ」
この日は初めて冷蔵庫を使わなかった。
調味料は元から置かれているし、水も、蛇口からいくらでも出てくる。
-
( ^ν^)『べっこう飴?』
朝、食堂にいたニュッへ一番に報告したところ、
彼は首を傾げてしばらく沈黙した。
( ^ν^)『……金井の本では見たことないな』
ζ(゚、゚;ζ『でも、これって何か重要な筈です!』
ハハ ロ -ロ)ハ『何にせよ、べっこう飴かおかき、ドッチかに何かがあるんダト思うノ』
ニュッは眉間に皺を寄せ、顎を摩り、「じゃあ」と口を開いた。
( ^ν^)『今日は、飴と米菓以外の菓子持って寝ろ。
それも夢に持ち込めたら、べっこう飴つくれ』
指示に従い、今日はチョコレート菓子を持ったまま眠りについた。
溶けるとまずいので、個包装の上から更にラップで包んだ状態で。
──結果として、現在、チョコレートはデレのメイド服とハローのタキシードに入っている。
やはりべっこう飴が特別なのだ。
-
ζ(゚、゚*ζ「ハローさん、まな板にクッキングシート広げておいてください」
ハハ ロ -ロ)ハ「ハーイ」
砂糖を大さじ4、水を大さじ1。
それだけを片手鍋に入れて火にかける。
箸などで掻き混ぜるのではなく、鍋をぐるりと回すようにして溶かしていく。
ぶくぶくと泡が立ち、黄色がかってきたところで火を止めた。
色が濃くなるほど苦みが出てしまうので、火から離すタイミングが大事。
再び鍋を回して、蜂蜜のような色合いになったら
広げておいたクッキングシートに適量ずつ垂らしていく。
とろとろ、輝く金色。
一口大の円形がいくつか出来た。
固まるまで置いておく。
-
ハハ ロ -ロ)ハ「盛りつけはドウシマショウ」
ζ(゚、゚*ζ「お皿に乗せるだけでいいかと……というか、どれくらい食べますかね、マニーさん」
ハハ ロ -ロ)ハ「何個も食べるヨウなモノじゃありマセンしネ……。
金井サンには一応2個くらい出しときマスカ。
物足りなそうナラ、厨房カラ補充する感じデ?」
ζ(゚、゚*ζ「そうしましょうか」
固まったべっこう飴をクッキングシートから剥がして、
マニーの皿に2つ、デレとハローの皿に1つずつ乗せた。
余った分は寄せておく。
今日もデレ達まで空腹を覚えていて、今すぐお腹いっぱい食べたい気分なのに、
皿にぽつんと置かれた琥珀色の小さな円が
何よりのご馳走に見えた。
-
¥・∀・¥「……べっこう飴……」
──マニーの瞳は、幼く輝いていた。
デレが彼の前に皿を置いてからというもの、ずっと飴だけを凝視している。
(´-;;゙*)「べっこー」
びぃもまた、輝かんばかりの笑顔。
彼女は胸の前で両手をつかね、デレとハローを交互に見た。
(´-;;゙*)「デレ、ハロー、すごい。……すごい」
その瞳は潤んでいて。
想像以上の反応に、デレとハローは思わず肩を竦めた。
-
ζ(゚、゚;ζ(食い付きがすごい)
ハハ;ロ -ロ)ハ(コレで不正解トカないデスヨネ?)
声には出さなかったが、互いの言いたいことは目線で伝わった。
さすがに、こんな反応をしておいて、不正解な筈は。ないだろう。いくら何でも。
¥・∀・¥「……早く、食べたいな」
ζ(゚、゚;ζ「あっ、はい、ごめんなさい」
デレとハローは慌てて着席した。
全員がテーブルにつかねばマニーは食べようとしないのだ。
ζ(゚、゚*ζ「えっと、それじゃあ……」
ハハ ロ -ロ)ハ「イタダキマス」
¥・∀・¥「いただきます」
そう言ってからも、マニーはすぐには手を出さなかった。
ぼうっとしたような目でしばらく飴を見つめ、ようやく左手を伸ばす。
-
薄く、平べったい、小さな黄金色。
もう一度じっくり眺めてから、一つ、口に含んだ。
もごもご動く唇。じわじわ持ち上がる口角。
¥*・∀・¥
愛おしむような瞳。
あまりに美味しそうに食べるから、つられてデレとハローも自分の皿にある飴を口に運んだ。
ζ(´、`*ζ(……あま……)
砂糖と水だけで出来ているから複雑な味はない。
ひたすらに甘い。
その素朴な味が優しくて、何だか無性に泣きたくなった。
薄っぺらい飴たった一つ。
なのに舌を包む甘味が、少しずつ少しずつ喉に流れていくにつれ、
激しかった空腹感が収まっていく。
(´-;;゙*)
まるでそれが伝わっているかのように、びぃの顔がますます甘ったるくとろけていった。
視線はやはり、マニーにのみ注がれている。
-
¥・∀・¥「……昔。母がよく作ってくれたんだよ」
デレが口の中で飴を溶かし終えた頃。
同じく一つ目を食べ終えたのか、もう一枚持ち上げながらマニーが口を開いた。
シャンデリアの光にべっこう飴を透かして、
じわりと優しい声を出して。
¥・∀・¥「とてもシンプルな食べ物だけどね。
すごく、好きだった。
きらきらして、つやつやして。母の指輪についている石に似ていたのも理由かもしれない」
ぱくり。口に放り込んで笑みを深めると、
彼は自身の左手につけている指輪を撫でた。その指輪には、石は付いていなかったけれど。
¥・∀・¥「私にとって、母との一番の思い出といえば……
この小さな琥珀色なんだ」
(´-;;゙*)「うん……マニー様、よく食べてた……」
びぃが、マニーの左手を握る。
それを握り返してマニーは目を閉じた。
穏やかに笑ったまま、べっこう飴の甘さに浸っている。
ハハ*ロ -ロ)ハb
dζ(゚ー゚*ζ
向かいを見ればハローが親指を立てていたので、デレも同じように応えた。
今までにないほど静かで、優しい時間だった。
.
-
──2つ目を食べ終えるのに、大した時間はかからない。
マニーが満足げに息をつく。
ずっと繋ぎっぱなしだったびぃの手を彼の右手が撫でれば、
びぃは擽ったそうに目を細めて手を離した。
¥・∀・¥「ありがとう……正直、これに辿り着くとは思ってなかった」
ハハ ロ -ロ)ハ「物凄い偶然で分かったヨウなモノなんデスけどネ」
ζ(´ー`*ζ「あはは、そうですねー」
たしかに偶然だった。
あの日べっこう飴が手元になければ、ずっと分からないままだったろう。
──考え、はて、とデレは首を傾げた。
何故あのとき、べっこう飴を持っていたのだっけ?
クックルにもらったからだ。
あれ、クックルは何故べっこう飴を買ったのだったか。理由を言っていた気がするが──
デレの思考は、がしゃん、と響いた音で断ち切られた。
-
¥; ∀ ¥「──!!」
ζ(゚、゚;ζ「──え」
マニーが左手で腹を押さえ、右手でテーブルクロスを握り締めていた。
それにより、皿が床に落ちたのだろう。
音の正体は分かった、けれど、マニーのこの状態は。
¥; ∀ ¥「……そんな──そん、な、うそだ、うそだろう、うそだ……」
マニーが囁くごとに、右手に力が篭る。
デレは、それを呆然と眺めるしかなかった。
-
ハハ;ロ -ロ)ハ「金井サン!?」
(´-;;゙;)「マニー様! なんで、あんなにべっこーあめ喜んでたのにっ」
¥; ∀ ¥「ああ、いやだ、いやだ……! うそだ……!」
マニーが叫ぶ──いや、碌に声を出せないのか、絞り出すようなか細さではあったが。
これほど苦痛を顕にするのは初めてだった。
苦痛──苦悩?
その様に、足が竦む。
しかしハローがマニーに駆け寄るのを見て、デレもようやく動いた。
ハハ;ロ -ロ)ハ「アレでも、駄目ナノ」
椅子から落ち掛けたマニーを支えながら、ハローが唖然としつつも何とか声を出した。
その間にもマニーは嫌だ嫌だと何かを拒絶していて、
ハローの反対側からはびぃが縋りついている。
-
¥; ∀ ¥「や、やめて……やめてくれ、なんでちがうの、どうして、ぼくは……やっぱり……」
ζ(゚、゚;ζ「ま、マニーさん、だ、大丈夫ですか……」
大丈夫なわけがないだろうに。
思うことがありすぎて──でも目の前のマニーが恐くて、頭が回らない。
デレは無意識に、びぃの後ろから手を伸ばした。
声が届いたのだろうか。マニーは口を止め、虚ろな目をこちらに向けた。
ぶれる目線が、ぴたりとデレに定まる。
瞬間、ぞくりと寒気がした。
彼の震える手がデレの手を掴んだ。痛いほどに握り締められて、
¥; ∀ ¥「……やっと出た答えが、これなのか……」
──絶望にまみれた声を零し、彼は沈黙した。
力の抜けた手が落ちる。首が、がくりと後ろに反る。
びぃが、はらはらと涙を流して彼を抱き締めた。
-
(´-;;゙。;)「……ごめんなさい、ごめんなさいマニー様、
私が、私が……」
さめざめと泣きながら、びぃは何かを懺悔している。
足に力が入らなくて、デレはへたり込んだ。
ハローを見上げる。顔色が悪い。きっとデレも。
静寂を湛えた食堂にびぃの泣き声が響くのを聞いている内、目眩がし始めた。
*****
-
しえん
-
──言葉が頭に入らなかったので、聞き返した。
ζ(゚、゚*ζ「え?」
(;^ω^)「だから、今日、文化祭だおね? 大丈夫かお?」
聞き取りやすいようにゆっくり区切りながら、内藤が繰り返す。
ああ、とデレは声を落とし、目の前の扉に目をやった。
この扉を開ければ、図書館から外に出る。
ζ(゚、゚*ζ「はい、大丈夫です」
先程──朝食をとる際に同席していた内藤とツン、ニュッとモララーに夢の内容を報告してからずっと、
内藤はデレ達を気遣う素振りを見せていた。
こうして玄関まで見送りに来てくれている。
顔色が最悪で見ていられないとは、ツンの談。
-
ζ(゚、゚*ζ「ちょっと、まだびっくりしちゃってるだけで」
数日前に自宅から持ってきておいた、衣裳の入った袋を抱え直す。
今日は土曜日。文化祭1日目。
土曜日は校内公開──学校関係者のみが対象だ。
一般公開は明日。なので、明日よりは、今日の方が客も少ないだろう。
だからたぶん大丈夫。だと思う。
内藤は胸元で両手の指を擦り合わせ、目を泳がせてから、デレの腕を掴んだ。
(;^ω^)「車で送ってくお。何かデレちゃん、ふらふらどっか行っちゃいそう」
ζ(゚、゚*ζ「ハローさんについててあげてください、だいぶ参ってるみたいだったし」
(;^ω^)「あっちにはニュッ君とモララーがついてるお。
こんなデレちゃん放っといたら、僕がニュッ君とツンに殺される」
.
-
──学校はカラフルな装飾と浮かれきった空気に満ちていて、
己との乖離があまりに激しく、「夢」よりも現実感が薄く思えた。
o川;゚ー゚)o「ちょっとデレちゃん大丈夫?」
ζ(゚、゚*ζ「へ」
o川;゚ー゚)o「顔まっしろ」
喫茶店を開く多目的ホールに入って早々、キュートにまで心配されてしまったし。
ζ(゚、゚*ζ「んー……こわい夢見ただけ」
嘘ではない、というか真実だ。
マニーでさえ「正解」をべっこう飴と思い込んでいるようだった。
なのにそれが違ったとなると、もはやヒントなどどこにも無いだろう。
絶望的としか言えない。
そして何より、嫌だ嫌だと喚きながら徐々に命が失われていく彼の姿。
それが単純に恐ろしかった。
今までは静かに息を引き取っていたため、
彼の死というものにいくらか慣れて麻痺していたのだろう。そのぶん反動が大きい。
だがデレは深く考えないようぼんやりしているからまだマシだ。
ハローなどは唸ったり床を転がったりを繰り返していた。
-
o川;゚ー゚)o「夢って」
ζ(゚、゚*ζ「……あ、そういえばクックルさんがね、雑誌に短編載ったんだって」
o川*゚ー゚)o「は? くわしく」
キュートの気を逸らせないものかと頭を回し、クックルに関する話題を探して、
以前聞いた話を振ってみたところ上手いこと釣れた。
そのままクックルの話をしながら着替えや準備を済ませ、
文化祭の開始を迎える。
ここ半月以上、毎晩メイド服で動き回っていたので
羞恥心も戸惑いもほとんど感じず、スムーズに対応できた。
そのおかげか、クラスメートや教師に褒められたのが嬉しい。
.
-
o川*゚ー゚)o「で、何。どの雑誌。どれ」
ζ(゚、゚;ζ「後でクックルさんに訊いたらメール送るから……」
o川*゚ー゚)o「よろしくね。別にどうでもいいんだけどね、まあ読んでやりますわ」
あっという間に1日目が終わった。
朝からずっとクックルの話題を引きずっていたキュートを宥め、校門で別れる。
帰りは迎えに行くから連絡して、と内藤から言われていたが、
接客などで気が紛れたおかげでデレもだいぶ落ち着いていたので、
ゆっくり歩いて図書館に戻った。
モララー達に慰めてもらったか、同様に落ち着いたらしいハローと今晩の相談をする。
あの様子ではマニーも戸惑っているだろうから、
何か、ほっとするような料理にしよう──という方向で固まった。
具体的なメニューは実際にマニーの顔色を窺ってから決めることにして、
あとは普通に過ごし、夜を待つ。
クックルから雑誌のタイトルを訊いてキュートに報告して、風呂に入り、夕飯を食べ、
内藤と改めて夢やマニーの話──内藤が電話を掛けても出なかったという──をして。
眠気を覚え始めた頃にハローと共に彼女の部屋へ入り、それぞれ布団に潜って、
-
この日は夢を見なかった。
*****
-
ζ(゚、゚*ζ「一体どうしたんでしょう……」
朝7時。VIP図書館の食堂。
ツンの握ったおにぎりを食べながら、デレは呟いた。
具は焼き鮭。焼いて間もないのか、ふっくらやわらかい。
塩気が強くてご飯との相性が最高だ。
考えてみれば、久しぶりにちゃんと朝食をとったような。
ハハ ロ -ロ)ハ「拍子抜けトイウカ、肩透かしトイウカ……」
昨晩から意気込んでいたハローは、
複雑な表情でスライスチーズがとろけたトーストを齧っている。
-
( ^ν^)「まだ結末に行ってない筈だが」
( ・∀・)「『本』が諦めたのかも?」
(#゚;;-゚) ?
(*゚ー゚)「なーんか変だよなあ。何なんだろ」
ニュッとモララー、椎出姉妹にも、何が何やらさっぱり分からないらしい。
彼らに分からないならばデレに分かろう筈もない。
既に食事を終えた内藤が、ネクタイを締めながら頭を振った。
彼の前にツンが紅茶を差し出す。
( ^ω^)「僕は昼にでも金井さんのところに行ってみるお。
もし終わってるのなら、本も大人しく出てくる筈だし」
ξ゚⊿゚)ξ「そうね。逆に、出てこなければまだ夢が続くかも」
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシも一緒に行く」
( ^ω^)「ハローは休むように。ゆっくりしとけお。
金井さんに挨拶がしたいなら後日にしなさいね」
ハローは不服そうに頬を膨らませた。
見た目は充分に大人なのだが、こういう仕草が似合う不思議な人である。
おにぎりを食べ終えたデレが立ち上がると、ツンが皿を回収して厨房へ入っていった。
それを見届けてから内藤がこちらに声をかけてくる。
-
( ^ω^)「今日も送るおー」
ζ(゚、゚*ζ「平気ですよ、もう」
( ^ω^)「文化祭に行けないのなら、せめて校門の前で女の子を眺めたい……」
ζ(゚、゚*ζ「お、おう」
引き気味に内藤の申し出を受けることにした。
日曜日、文化祭2日目。
昨日より忙しくなるだろうし、行き帰りくらいは甘えよう。
──久しぶりにゆっくり眠った心持ちだった。
なのに、不可解な事態のせいで、すっきりしない。
*****
-
o川*゚ー゚)o「今日は昨日より顔色いいね」
ζ(゚ー゚*ζ「そう?」
学校。
更衣室で着替えていたら、既に浴衣を着終えたキュートが隣に立ち、
つんつんと頬をつついてきた。
へらり、笑ってみせればキュートも安心したように笑う。
o川*゚ー゚)o「さあて、今日は一般公開日だ。他所にも美少女の噂を轟かしちゃうぞー」
小さな声で明るく言って、拳を握るキュート。随分と機嫌が良さそう。
彼女の足元の鞄から文芸雑誌が覗いているのを見付け、
これに触れてしまえばまたしばらく美少女が美少女でなくなりそうだな、とデレは口を噤んだ。
.
-
──今日も滞りなく進んでいった。
いや、デレに関して言えば滞りはあったのだが、
幸い接客にまで影響するほどではなかったのだ。
昼を回り交替が言い渡される。
制服を抱えたキュートが、更衣室に行こう、と誘いをかけてくれた。
o川*゚ー゚)o「2時間空いたし、一緒に回ろ」
一拍遅れて彼女の言葉を理解する。
欠伸を堪え、目元を擦りながらキュートに振り返った。
ζ(ぅ、゚*ζ「ん……ごめん、キュートちゃん……」
──少し前から、眠気を覚えていた。
足が重い。瞼が重い。
夜に充分寝た筈なのに。
疲れが溜まっていたのだろうか。
ふらふら、出入口へ進む。
-
o川*゚ー゚)o「? デレちゃん?」
ζ(゚、-*ζ「私ちょっと、保健室で……休……」
──言葉は最後まで続かなかった。
デレの両目が勝手に閉じ、がくんと膝が落ちたからだ。
キュートに名前を呼ばれた気がしたが、答えようとして開いた口からは声が出てこなかった。
*****
-
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚*ζ「え?」
目を開けたら違う場所にいた。
デジャヴ。
ζ(゚、゚*ζ「え? ん?」
広い部屋。
所々剥がれた壁紙、薄汚れた縦長の窓。
崩れかけの調度品、座面のクッションが破けた椅子。
──どう見ても学校ではないし、何なら、夢に出てくる城の一室にしか感じられなかった。
灯りは壁に付いたランプ一つしかないのにやけに明るくて、部屋全体を見通せた。
端の扉が開いていて、そこから暗い廊下が見える。
-
ζ(゚、゚;ζ「んー……?」
こめかみを指で押しつつ記憶を手繰る。
文化祭の最中だった。
眠くなった。
キュートと話していたら意識が薄れた。
明らかに、完全に、寝たのだ。
それで気が付けばこんな場所にいる──
明らかに、完全に、例の夢だ。
ζ(゚、゚;ζ(え? お昼だよね? 何で今?)
眠ったときは間違いなく昼だったが、窓の外は暗い。
現実の時間とリンクしているわけではないのか。
もしかしたら「本」は関係ない、ただの夢かもしれない──
そう考えてから、ぺたりと座り込んでいる床の感触や、埃っぽい空気の生々しさに、
やはり例の夢だと思い直した。
ひとまず立ち上がる。メイド服。
ぱたぱたとエプロンを払い、顔を上げる。
-
ζ(゚、゚*ζ「……女の人……?」
──壁に、たくさんの額縁が飾られていた。
一際大きな額には、女性を描いた絵画が嵌め込まれている。
すっきりとした美人。
服装はドレスなどではなく、至って普通のブラウスとエプロン。
現実世界では普通の格好だが、この空間においては浮いているように思えた。
お腹の辺りで手を組んでおり、左手の薬指に指輪がある。
ζ(゚、゚*ζ(誰だろ……)
一頻りその絵を眺めてから、周りに飾られている他の絵にも目を向ける。
──直後、ぞくりと背筋が震えた。
ζ(゚、゚;ζ(……手?)
絵の数は10枚以上ある。
なのに、一番大きな中央の絵──先程の人物画──以外は、
全て、様々な角度から描かれた手しかなかった。
それも左手ばかり。
-
爪の形や全体の丸み、何より薬指に嵌められた指輪が同じなので、
同一人物の左手のみを抜き取った絵であるのが分かる。
改めて人物画を見ると、指輪に付いた琥珀色の石が共通しており、
この女性の手なのだと思い至った。
──琥珀色の石。指輪。
そういえば一昨日、あの人がそんなことを──
¥・∀・¥「……驚いたな……」
ζ(゚、゚;ζ「わあっ!!」
今まさに考えていた人物の声がして、デレは飛び上がった。
振り返る。開けられた扉の傍に立つ、1人の男。高そうなスーツとアクセサリー。
2日ぶりに見たマニーの顔は記憶通りの筈なのに、別人に思えた。
-
ぐるぐると彼の腹から音がする。
絵に夢中で、彼が近付いているのに気付かなかったようだ。
呆然と絵画を見つめていたマニーはふらふらと部屋に入ってきて、
今更デレに気付いたのか、顔を顰めた。
¥・∀・¥「……寝ないように、していたのにな……。
すまない、眠気に負けてしまったようだ」
寝ないように──
もしかして、昨夜はマニーが眠らなかったから夢を見なかったのだろうか。
「主人公」はマニーだ。たしかに彼がいなければ始まらない。
それで、いま眠ってしまったからデレも引きずられた。ということか。
なるほど、納得。したところでどうというわけでもないが。
¥・∀・¥「君のためだったのだけど」
マニーのその一言はあまりに小さすぎて、
ハローもどこかの部屋にいるだろうかと思案していたデレの耳に入らなかった。
デレの隣に立ち、マニーは再び絵画を見上げた。
そうして、唇を薄く開く。
¥・∀・¥「……これはね、私の母だ」
*****
-
「デレちゃん!?」
──焦ったような声が聞こえて、足を速めた。
人込みを掻き分け、デレのクラスの出し物であるのを看板で確認し、飛び込む。
目的の人物は入口の近くにいた。
気を失っているらしいそいつを、キュートが抱えている。
舌打ち。不安げに声をかける生徒や客が慌てて一歩引いた。
( ^ν^)「おい」
o川;゚ー゚)o「あ……ニュッ君さん!」
ζ(-、-*ζ
デレの体はぐったりと力を抜いており、下ろされた瞼は開く気配もない。
ニュッは彼女らの傍にしゃがみ込むと、デレが深い寝息を立てているのを確かめた。
そんなニュッの後ろからひょっこり覗き込んできた男が、呑気な声を出す。
-
(´・ω・`)「あららー。ビンゴだニュッ君」
o川;゚ー゚)o「うわっ、遮木さんも」
(´・ω・`)「うわって何」
o川;゚ー゚)o「いえ。……え、2人とも仕事中? スーツ着てる」
(´・ω・`)「まあね」
数十分前、勤務中にショボンと話していたニュッは、ある可能性に気付いた。
それにより嫌な予感が湧き、こうしてデレの様子を見に来たわけだ。
ニュッが気付いた「可能性」は、2つある。
その内ひとつが早速当たってしまったかもしれない。
o川;゚ー゚)o「そうだ、デレちゃんが急に倒れたの! ……あっ、救急車呼ばないと!」
( ^ν^)「いい。寝てるだけだ」
o川;゚ー゚)o「は? え? 寝てるだけ?」
-
(´・ω・`)「はいはい、メイドさん1人お持ち帰りしますよー」
o川;゚ー゚)o「その言い方やめてよ、いかがわしいお店みたいじゃん」
ショボンがデレを米俵のように担ぎ上げる。
せめてお姫様抱っこにしてあげてとキュートが言うが無視されていた。
( ^ν^)「連れていくぞ、いいな?」
o川;゚ー゚)o「今はデレちゃん休憩時間だから大丈夫……え、どこに連れてくの?」
(´・ω・`)「図書館連れてくか。早退になるけど仕方ないよね」
図書館。
その言葉だけで大体察したらしいキュートが、きゅっと表情を引き締めた。
話が早くて助かる。
o川*゚-゚)o「……先生やクラスメートには、私が言っときます」
(´・ω・`)「ありがとうね」
おざなりに礼を言って出ていこうとしたショボン──だったが、
キュートに袖を掴まれ、足を止めた。
彼に続こうとしていたニュッが、担がれているデレにぶつかる。
ζ(-、-*ζ ムグゥ
o川*゚ー゚)o「ちょっと待ってて、私も行く」
( ^ν^)「は?」
-
o川*゚ー゚)o「絶対ろくな状況じゃないじゃん。
このままサヨナラしたら、気になって文化祭どころじゃないですからね、私」
むすっとしたような声は、ニュッ達にしか聞こえない声量。
やや遠巻きに様子を窺っているクラスメートに気付いたキュートが
何でもないよ、とにっこり微笑むと、彼らはあっさり誤魔化された。
それを半眼で見やったショボンが呆れたように言う。
(´・ω・`)「看板娘がいなくなったらみんな悲しみますよ〜」
o川*゚ー゚)o「売上が8割ぐらい減るだろうけど致し方ない」
( ^ν^)「言いすぎだろ」
o川*゚ー゚)o「いやマジなんすよ」
売上8割美少女様が、しょんぼり儚い笑顔を作って
クラスメートに事情(といっても具合が悪いから早退する、程度の内容だろうが)を説明しに行く。
ええっ、と上がる声を聞き流しつつ、ニュッはショボンが担いでいるデレの寝顔を睨んで、
やわらかい頬を抓った。
.
-
──ショボンの運転する車内で、キュートには事情を粗方説明した。
頭がいいので、最低限の話でも一度で理解してくれるからありがたい。
o川*゚-゚)o「どこが『何でもない』なの」
隣で眠り続けているデレを睨み、後部座席のキュートが呟く。
そのとき、ニュッの携帯電話が鳴った。
ちょうど掛けようと思っていた相手からだった。
( ^ν^)「兄ちゃん」
通話ボタンを押して相手を呼べば、内藤も「ニュッ君」とこちらを呼んだ。
-
『デレちゃんに連絡とれるかお?』
( ^ν^)「……色々あって、いま図書館に連れてってる。
いきなり寝始めたらしくて全然起きねえ」
デレの鞄から勝手に携帯電話を引っ張り出してみる。
内藤からの着信が数件。
『さっき金井さんのところに着いたんだけど、
昼寝してるみたいだって使用人さんに言われたんだお。
──昨夜は一睡もしてなかったようだから、とも』
( ^ν^)「……やっぱりか」
再度言うが、ニュッは事務所でショボンと話した結果、
2つの「可能性」に気付いた。
その内の一つが、これだ。
昨夜はマニーが眠らなかったからデレとハローも夢を見なかったのでは、という可能性。
どうやら当たったらしい。
が、こちらは大したことではない。
夢の有無はマニーが握っていると判明しただけである。
重要であり、かつ予想が外れてほしいのは、もう一つの可能性の方なのだ。
*****
-
¥・∀・¥「──母はね、私の父が既婚者であることを知らなかったんだ。
言いくるめられて、別居を受け入れていた」
空腹で辛いだろうに、マニーは淡々と語り始めた。
空気を読むように腹の音が収まっていたのが、少し可笑しい。
¥・∀・¥「然るべき時が来たら結婚しようと父は言って、
母にあの指輪を贈った。──妙な話だが、
父は本気だったんだよ。本当に母を愛していた。だから母も信じていた。
仕事と家の都合で、今は結婚できないだけなのだと」
¥・∀・¥「なまじ、父は裕福な人間だったからね。
親戚まわりが納得してくれなければ婚姻を結べない、という嘘も
信じやすかったんだろう」
ζ(゚、゚*ζ「……はあ」
-
¥・∀・¥「けれども父は意気地無しでもあったから、
正妻に別れを切り出すこともできなかった。
正妻は、とうに事実を全て知っていたのにね」
¥・∀・¥「この場合、誰が一番苦しむかといったら正妻だ。
当然だね、彼女はただただ被害者でしかない。
……私の母だって、何も知らなかったから被害者ではあるけれど……」
マニーが一歩出て、左手のみが描かれた絵画を優しく撫でた。
薬指、指輪の上で手を止める。
¥・∀・¥「──ある日の夜中、正妻が我が家にやって来た。
そのとき私は眠っていたが、騒がしさで目が覚めてね。居間を見に行った」
¥・∀・¥「彼女が母に掴み掛かっているところだった。
ひどく錯乱しているようだったよ。きっと、ずっと我慢し続けて、限界が来てしまったのだろう」
ひくり。
マニーの喉が震えて、声が途切れた。
ζ(゚、゚*ζ「……マニーさん?」
呼び掛ける。
彼は唾を飲み込み、話を再開させた。
-
¥・∀・¥「彼女は包丁を握り締めていた。
ぎらぎら光る刃物と彼女の剣幕に、私は動けなかった」
¥・∀・¥「そして彼女は、母の左手を掴んで、」
*****
-
べっこう飴、とニュッの話を反芻していたキュートが、
突然ぱっと顔を上げた。
助手席に座るニュッはミラー越しにその動きを見ていた。
内藤との通話は繋がったままだが、向こうに進展がないので黙っている。
o川*゚ー゚)o「ねえ、金井さんの他のペンネームって何て名前なの?」
( ^ν^)「あ?」
o川*゚ー゚)o「考えすぎかもしれないんだけど……」
キュートは自身の鞄から一冊の雑誌を引っ張り出した。
月刊文芸。先日クックルの短編が載ったとハローが言っていた雑誌だ。
爪まで丁寧に磨かれた手がぱらぱらとページをめくり、ある箇所で止まる。
o川*゚ー゚)o「クックルさんがね、この前べっこう飴くれたの。
そのときに言ってた。『本を読んでたらべっこう飴が食べたくなった』って」
( ^ν^)「……」
-
o川*゚ー゚)o「これ、クックルさんの短編が載ってる雑誌。
この中にべっこう飴が出てくる話があってさ。
何か、すっごくきらきらしてて美味しそうなの」
o川*゚ー゚)o「それに、母親がどうこうって話だった」
差し出された雑誌を受け取り、そのページに目を通す。
タイトルの横に書かれた著者名に、心臓が跳ねた。
( ^ν^)「……金井の小説だ。別名義のやつ」
(´・ω・`)「何だよニュッくんは読んでなかったの? クックルが書いた話が載ってんのに」
( ^ν^)「どっかの誰かさんが人使い荒いせいで、買ったもん溜め込んでんだよ。
それに俺のために書いた話じゃないなら、優先して読もうとは思わないし」
(´・ω・`)「うーわ」
重症だ、とショボンが嘯く。知っている。
ひとまず、文面を追うのに集中した。
-
──やけにふわふわした話だった。
大人になると体のどこかに宝石が現れるという世界観。
語り口は子供の一人称視点で、幼い言い回しと複雑な比喩表現が多用されており、
じっくり読まねば全貌を把握できないような構成をしている。
だが、主人公の母親に関しては直接的で細かい描写がなされていた。
特に宝石。
『 そして左手に、ぴかぴか、こがね色の石が光っているのでした。
だれの手にある宝石よりも、ぼくは、おかあさんの持つ石が一番きれいに見えました。
つやつやしていて、べっこうアメみたいに、とても甘そうに思えたのです。』
そこから、主人公の好物だというべっこう飴の描写に移る。
その筆致はたしかに細かく幻想的で、有らん限りのボキャブラリーで
砂糖の固まりである以上の価値を描き出していた。
この一編だけで、彼がどれだけべっこう飴に特別な思いを持っているかが分かる。
とんだ無駄骨だったなとニュッは数日前の己を笑った。
頻出する料理を探すより、これたった一つ読んでいれば、マニーの好物などすぐ分かったのだ。
-
(´・ω・`)「それもしかして金井本人の話?」
要所要所を朗読するニュッの声を聞き、ショボンが前を向いたまま問うてくる。
( ^ν^)「多分」
o川*゚ー゚)o「その、大人になると体に現れる石って
結婚指輪の暗喩だよね?」
( ^ν^)「ああ、だろうな」
(´・ω・`)「キュートちゃんはほんと話が分かる子でいいわあ。
デレちゃんと話してると自分の知能まで下がる気がして恐ろしいからさあ」
ζ(-、-*ζ ム゙ーン
後部座席から身を乗り出したキュートが雑誌を覗き込む。顔が近い。
ページをめくりながら、中ほどの展開を要約してくれた。
-
o川*゚ー゚)o「何かね、ある日、急にお母さんの手から『石』が落ちちゃうの。
そしたら主人公がうっかり、それ食べちゃうんだよ」
o川*゚ー゚)o「泣きじゃくるお母さんに主人公が色んな石あげるんだけど、
お母さんは全然受け取ってくれなくて……」
『「あの石じゃなきゃだめなの?」
悲しくって、ぽろぽろ泣きながらたずねると、おかあさんは首をふって、ちがうのと答えました。
「ぼくがあげる石じゃだめなの」
それにもちがうのと言うおかあさんがわからなくて、ぼくはもっと泣いてしまいそう。
でもおかあさんはやさしく頭をなでて、さみしそうに笑うのです。
「なくなったのは、石じゃないのよ」
どういうことだろう? あのきれいな石は、まだあるの? ぼくが食べたのは?
おかあさんの左手を見ようとして、でも見られなかったので、
ああ、そっかと、ぼくは空っぽの胸に汚い石ばかりを詰めこまれたような気分になったのでした。』
──それで話は終わりだ。
ニュッは深々と溜め息をつき、額に手を当てた。
-
『……ニュッくーん、それ結局、どういうこと?』
スピーカー設定にした携帯電話から、内藤の声。
何も喋らないので聞いていないかもと思ったが、しっかり耳を澄ませてくれていたらしい。
(´・ω・`)「……僕ね。あれからも、たまに金井マニーの母親を観察してたんだけどさ」
ニュッではなくショボンが話し出したためか、
電話の向こうで内藤が「は?」と些か棘のある声を漏らした。
──再三言おう。ニュッが高校に顔を出したのは、
ショボンと話していて、嫌な可能性に2つ思い至ったからだ。
ひとつは前述の通り、マニーが昼寝でもしてしまえば
デレやハローも引きずり込まれるのではないかという可能性。
それは当たっていた。そして然ほど重要なことでもない。
問題は、もうひとつの「可能性」。
こちらは絶対に当たってほしくない──当たってはいけないことだった。
なのに、どうやら、その予想も正しかったらしい。
最悪だ。
-
(´・ω・`)「どうもねー……」
『さっさと言えお、ショボン』
(´・ω・`)「……左手の薬指、時々なくなってるみたいなんだよね」
キュートも内藤も黙った。
内藤がこの場にいたら、とびきり怪訝な顔をしていただろう。
(´・ω・`)「彼女、ずっと手袋してるって言ったろ? だから、しっかり確認は出来てないけどさ。
左手の薬指の部分、普通に動いてる日もあれば
何もないみたいにぺらぺら揺れてる日もあるんだよ」
o川;゚ー゚)o「……それって」
(´・ω・`)「うん。──義指を外してるか外してないかの違いだと思うな」
キュートの顔が、じわじわ青くなっていく。
きっと電話の向こうの内藤も。
ツンは顔色を変えないだろうが、眉根を寄せる程度の変化はあるだろう。
キュートはもはや血の気の失せきった顔を、目覚めぬデレに向けた。
空気の冷えきった車内に、運転手が相変わらず呑気な声を落とす。
-
(´・ω・`)「『お袋の味』ってか。はは、悪趣味だ」
*****
-
ζ(゚、゚;ζ「……」
デレは口を押さえた。
──半ば狂ってしまった正妻が、マニーの母親を散々痛めつけ、
ついには母親の左手薬指を切り取ってしまった、なんて。
想像するだけでも凄惨な光景だ。
けれども話はまだ終わらないらしく、マニーは口を動かし続けている。
-
¥・∀・¥「指輪をしていたのが気に入らなかったんだろう。
そりゃあそうだ。たかだか愛人がまるで妻を気取って
薬指に指輪なんかしていたら、腹立たしくもなる」
ζ(゚、゚;ζ「そ、そうかもしれませんけど……でも切るなんて……」
¥・∀・¥「彼女はそれほど傷付いていたんだ。
……それだけ父を愛していたんだろう。浮気者であっても」
マニーが目を細める。デレは彼の視線を追った。
数々の絵画。金色の石が煌めく薬指。
この指が──切り落とされたのか。
¥・∀・¥「そして彼女は私も憎んでいた。
──私が生まれなければ、父も、私の母にそこまで入れ込みはしなかっただろうからね」
横目にマニーを見る。
彼も何かされてしまったのか。
母のように、どこかを傷付けられたのか
そう思い胸を痛めたデレだったが、
事実は、もっと恐ろしいものだった。
-
¥・∀・¥「気絶した母を転がして、彼女は私の口に母の薬指を押し込んだ。
お前が噛めと、──お前が始末をつけろと」
私は、恐くて抵抗できなかったんだ。
マニーは泣きそうな目をして、苦笑した。
ζ(゚、゚;ζ「……え」
口に?
指を?
デレの目は、自然、休みなく動くマニーの唇に留まった。
-
¥・∀・¥「彼女にとっては、あれで最大の譲歩だったんだと思う。
あのとき母の薬指が彼女の視界にあり続ければ、
きっと彼女は我慢できずに母を殺していた筈だ」
¥・∀・¥「だから私は、それを口に含むしかなかった」
乾いた唇を舐める舌。
その赤さに、目が眩む。
¥・∀・¥「噛めと彼女は言う。私は泣きながら、嘔吐きながら顎を──」
マニーはそのときの状況を克明に語っていった。
けれどもデレの頭はそれを遮断する。
聞いてはいけない気がした。理解してはいけない気がした。
彼の母の、匂いなど。味など。デレが知ってはいけない気がした。
¥・∀・¥「──少しして、たくさんの大人がやって来た。
父と、あとは……警察か救急隊か、正直それどころではなかったから正確には分からないが」
ようやく思考と聴覚を繋ぎ直す。
ただ話を聞いているだけなのに、その場に他者が介入したことにデレはとてつもない安堵を覚えた。
-
¥・∀・¥「彼女が取り押さえられると、母は気絶から目を覚ました。
──そのとき丁度、私は、男の人から口の中のものを出してもらっていたんだ」
¥・∀・¥「崩れたそれを見て、母は……」
忙しなかったマニーの口が止まる。
震えている。
次に発した声は一段と低く、冷たい。
¥・∀・¥「ひどく怯えた目を私に向けた」
ようやくデレの視線が上がった。マニーの唇から、瞳へ。
そうしてぞっとする。
──なんて暗い目なのだろう。
-
¥・∀・¥「あれ以来、何となく互いに避けている。
むりやり食わされたということは母も理解している筈だけれど、
それでも私に怯えている節があるんだ」
¥・∀・¥「まあ仕方ない。息子の口から自分の噛み潰された指が出てくる瞬間なんて、
とんでもない衝撃だったろうから」
マニーから目を逸らす。
──愛した人と繋がっていた唯一の部位を、
愛した人と繋がっていた唯一の子供が食んで、壊した。
それはどんなに恐ろしくて悲しいことなのか。
¥・∀・¥「母はね、私と話すとき、いつも謝るんだ。ごめんなさいって。
まるで人食いに命乞いをするみたいじゃないか。
そんな相手と話していられないだろう。だからつい、すぐに話を切り上げてしまう」
ζ(゚、゚;ζ「っ」
左手に絡みつく感触があり、デレは肩を竦めた。
正面から隣へ意識を滑らせる。
マニーがデレの左手を握り、持ち上げていた。
-
¥・∀・¥「母にとって、私はもう息子ではないのだろう。
……あの人に謝られる度にね、私は、こう思ってしまう」
ζ(゚、゚;ζ「マニーさ、」
¥・∀・¥「『そうか、僕は』──」
ζ(゚、゚;ζ「!」
足を払うと同時に、突き飛ばされる。
硬い床に背中から倒れ込み、頭を打って、意識が一瞬明滅した。
混乱しながらも何とか起き上がろうとしたが、覆い被さってきたマニーに動きを封じられた。
ランプの火が揺らめき、明るさが薄らぐ。
こちらを見下ろすマニーの顔には影が落ちて、表情が見えない。
¥ ∀ ¥「『怪物なのか』」
.
-
また、火が揺れる。
すると先のような明るさが戻り、マニーの顔も照らされた。
ζ(゚、゚;ζ「、」
──彼が子供のように顔を歪めて涙を流していたから。
デレは、開いた口を閉じた。
¥;∀;¥「……私は許してほしいだけなのに……」
ぽたぽた、落ちた雫がデレのエプロンに染み込む。
ぐっと彼が顔を覗き込むと、それはデレの頬にまで垂れた。
¥;∀;¥「ねえ、ねえ君、お願いだ……私を、ぼ、僕を許してくれ、僕は、僕を、……」
ζ(゚、゚;ζ「っい、ッ……」
再び左手を掴まれた。
強い力で握り締められた上、強引に持ち上げられて、指先から肩まで痛みが走る。
泣きながら、息を荒らげながら、薬指の付け根に口を寄せられて、デレの肌が粟立った。
-
¥;∀;¥「許してくれ。許しておくれよ、
母と同じその目で僕を見て、許すと言ってくれ……」
真っ赤な舌が指を這う。かと思えば、薬指のみを立たせ、軽くくわえた。
彼の歯が肌に触れる。それだけなのに、その先を予測した脳が、勝手に痛みを感じさせた。
ぼろっと、デレの目からも涙が落ちる。
ζ(;、;*ζ「ひ、や、やめて、マニーさん、やめて……」
¥;∀;¥「違う!! どうして君もそんな目をするんだ!」
怒鳴られ、びくりと身を竦ませる。
こわい。
かたかた、体の震えを止められない。
喉をひくつかせながら、デレは懇願するようにマニーを見た。
-
ζ(;、;*ζ「ごめ、ごめん、なさい、ごめんなさい……」
¥;∀;¥「君までそんなことを言うのか!
……そんなに僕が恐ろしいのか!?」
指から口を離して、けれども手は離さぬままに、
マニーが顔を近付ける。
ひたすら悲しい彼の瞳が、怯えるデレの目と向かい合う。
¥;∀;¥「恐くないのだと言ってくれ! 痛くないから平気だと!
……大丈夫だと言って、撫でておくれよ……お願いだ、お願い……」
──そう囁いて、あまりにも寂しそうに泣くから。
拒めば、砕け散ってしまいそうに脆く見えたから。
-
¥;∀;¥「……母さん……」
応えてやらねばいけないだろうかと、麻痺した思考が頭の隅に転がった。
*****
-
ζ(-、-;ζ「んう、ん……」
o川;゚ー゚)o「ちょっと、デレちゃん魘されてるんだけど!」
──図書館。ハローの部屋。
ベッドに横たえられたデレを、7人もの男女が囲んでいる。
( ^ν^)「……」
ニュッはデレに伸ばしかけた手を下ろした。
つねろうが叩こうが、起きないだろう。
(´・ω・`)「やばい状況なのかなー、夢の中」
(;・∀・)「なっ、何でショボンはそんなに落ち着いてんだよ!」
ヾ(;゚;;-゚)ノシ「……っ」
ニュッとキュートの間でショボンが呟けば、
モララーとでぃが大層慌てて無意味に手を振った。
-
(;゚∋゚)「今、夢の中で金井マニーとデレが2人きりかもしれないのか?」
( ^ν^)「多分……」
ショボンほど落ち着いてはいないがモララー達ほど慌ててもいない様子で、クックルが問う。
ニュッが頷くと、彼を含めた6人の目が、デレの一番近くに寄り添う女に向けられた。
ハハ;ロ -ロ)ハ「……デレ……」
──ニュッはてっきりハローも眠っているだろうと思っていたし、
彼女が付いているなら、デレもある程度は安全だろうと油断していた。
だから、図書館に着いたニュッ達をハローが出迎えたとき、心臓が止まるかと思ったのだ。
(;・∀・)「何でハローは起きてるの?」
(;゚;;-゚) ???
( ^ν^)「……金井とデレさえいれば進行できると判断したのかもしれない」
ζ(-、-;ζ「んぐ」
びくりとデレの体が跳ねる。真っ青な顔には汗が滲んでいた。
先程から、彼女の寝言と寝相ひとつで皆の肝は冷えっぱなしだ。
1人を除いて。
-
(´・ω・`)「所詮は夢でしょ? 食われても実際に怪我するわけじゃなし。
食われて夢が終わるなら、それを待つのも手じゃない?」
本気で言っているのだ、この男は。
たしかに、それもまた一つの方法ではある。
けれどもその提案にハローが声を張り上げた。
ハハ;ロ -ロ)ハ「駄目デス!!」
デレより青い顔をした彼女の剣幕に、ショボンが片眉を上げる。
ハハ;ロ -ロ)ハ「夢の中デモ、痛みは現実と同じヨウに感じマス!
痛みとか恐怖とか、ソウイウのがそのまま記憶に残るんデスヨ!」
それはとても切実な叫びで。
その声にますます緊迫感を煽られた面々が改めて慌て出した。
慌てるだけで、解決策など出てこないけれど。
o川;゚-゚)o「……ど、どうするの、これ……」
浴衣姿のままのキュートが、隣のクックルの腕を掴む。
普段の彼女であれば即座に絶叫して飛び跳ねるところだろうが、それどころではないらしい。
自分大好きなキュートだけれど、友人への愛情だってちゃんとある。
ショボンが頬を掻き、枕元に置かれたニュッの携帯電話を持ち上げた。
内藤とは未だに繋がっている。
-
(´・ω・`)「ブーン、まだ屋敷の近くにいる?」
『かーなーり無茶言って、客間で待機させてもらってるお』
(´・ω・`)「なら待機じゃなくてさ、金井氏を叩き起こせよ」
(;・∀・)「それより『本』だよ! 本の方どうにかしないと!」
(;゚∋゚)「そうだな。仮に起こせたところで、本が諦めてないならまた眠らされるだけだ」
『つったって、どこにあるんだか……。
……そもそも見付けられたとして、どうすりゃいいんだお。
せめて「主人公」の金井さんを起こさないと、朗読もさせられないし』
(;゚;;-゚)「……」
途端、でぃがぱたぱた両手を振りながら辺りを見渡した。
しかし、いつも彼女の代弁をしてくれる妹は出掛けてしまっている。
少し離れた机上のペンに目を留めたようだが、結局そちらに手を出さず、
ショボンの腕に縋りついて電話に口を寄せた。
-
(;゚;;-゚)「も、燃やしても、いい……!」
『え、誰……あ、でぃ!? 久しぶりに声聞い……え?』
(;゚;;-゚)「燃やせば終わる!」
『……お前の書いた、大事な本だお、でぃ。本を殺すことになるお』
(;゚;;-゚)「私の本なら、か、覚悟も、してる筈……」
『……ニュッ君はいいのかお?』
いきなり振られて、ニュッはすぐに答えられなかった。
デレを見る。掠れた呻き声。苦しげな顔。
( ^ν^)「……いい」
『……分かった、こっちで改めて探してみるお。
見付かるかは怪しいけど』
(´・ω・`)「おう頑張れ」
一旦切る、という内藤の声を最後に、携帯電話は沈黙した。
強制的に終わらせるとしたら、頼りは内藤とツンだ。
にわかに室内が静まり返った。
-
──が。
ζ(-、-;ζ「……!」
デレが息を詰めて喉を反らせたことで、また空気が慌ただしくなった。
o川;゚ー゚)o「待って待って、内藤さんが本を見付ける前に行き着くとこまで行っちゃったら意味ないよ!?」
(;゚∋゚)「しかし俺達にはどうしようも……」
(;・∀・)「てか下手したらもう……」
(´・ω・`)「あ、水に沈めてみたら起きるかもよ?
風呂に水溜めてくるわ」
(;´;;-`)ノ
正直ショボンの過激な提案が有効である可能性も否定できないので、
彼が上着を脱いで腕捲りをしながら退室するのを誰も止めなかった。
水が溜まるまでの数十分の間に事態が動かなければ、デレがますます可哀想なことになるだろう。
-
ハハ;ロ -ロ)ハ「ど、ドウシヨウ、ドウシヨウ! ワタシも夢に行かなきゃ、デレ助けなきゃ!」
( ^ν^)「……落ち着け、ハロー」
ハハ;ロ -ロ)ハ「落ち着けナイ!」
ハローはもはや錯乱状態だ。
彼女の書いた「本」が関わる事件で、デレは怪我を負ったことがある。未だに痕が残っているほどの。
それに対しハローは責任を感じている。
もしかしたら、そのことを思い出して余計に焦っているのかもしれない。
宥めるため、ニュッはハローに手を伸ばそうとした。
が。
ハハ;ロ -ロ)ハ「モララー……!」
ニュッよりも近くにいたからか──いや、今回の件において、
ずっと気遣って彼女の傍についていたからだろう、
ハローはモララーに縋りついた。
モララーが目を丸くする。
彼の胸元を握り締めたハローの瞳から、ついに涙が溢れた。
-
(;・∀・)「は、ハロー、」
ハハ;。ロ -ロ)ハ「モララー、ドウシヨウ、眠れナイ、
寝なきゃいけないノニ眠れナイの、ドウシヨウ……!」
泣き虫のモララーは普段から頼りなくて、
そのため、何か困り事があってもハローは大抵ニュッに相談する。
けれど本気で悩んだときには、ニュッとモララー、どちらにも頼るのだ。
根っこの部分で、ハローはニュッもモララーも同等に見ている。
(;・∀・)「っ……」
泣きじゃくるハローの肩を抱き、モララーは宙を見つめ硬直していた。
思考が止まっているわけではない筈だ。モララーだって「作家」の1人。
異常事態における状況整理、その解決策の羅列作業は普段から机の上で散々やっている。
──そして数秒後。
結論が出たのか、彼もまた涙を流し、ハローの体をぐるりと反転させて。
-
( ;∀;)「……ああああっ! ごめん、ハロー、ごめん!!」
ハハ;。ロ -ロ)ハ「エッ」
後ろから腕を回すと、左手でハローの頭を固定しながら右腕で彼女の首を締めつけた。
o川;゚ー゚)o「はっ!?」
(;゚∋゚)「おい何してんだ馬鹿!!」
(;゚;;-゚) !?
(´・ω・`)「えっ何これ」
一旦風呂場から戻ってきたらしいショボンがドン引きした声をあげる。
クックルがモララーを止めようとしたので、ニュッは慌ててその服を引っ張った。
-
( ;∀;)「ごめんねハロー許して! 後で俺のこと殴っていいから! ごめんね!!」
ハハ;ロ -ロ)ハ「……ッ、……ッ!」
( ^ν^)(わー……)
泣いて謝りながら首を絞める姿は正直かなり恐ろしかったが、
今すぐ彼女を「眠らせる」には、たしかにこの方法が手っ取り早い。
ハローが必死に床を叩くがもちろん離されることはなく、
いつの間にやら涙も引っ込んでいき、
そうして──
ハハ; - )ハ ガクッ
ハローの首が下がった。
オチた。
*****
-
(;^ω^)「あいつらも無茶言う……」
金井邸の客間にて。
携帯電話をポケットにしまった内藤は、隣に座るツンに苦笑を向けた。
( ^ω^)「はてさて、探すとは言ったものの、どうしたものか」
ξ゚⊿゚)ξ「普通に探しても出てこないわよね、──『本』が自分から隠れてるのなら」
冷静な声で言い、ツンが唇に指を当てる。
──そう、出てくるわけがない。
「本が自らの意思で隠れているのであれば」。
つまり、
( ^ω^)「僕らは、『誰かが本を隠した』可能性に賭けるしかないわけだおね」
ξ゚⊿゚)ξ「そうね」
不確定な前提条件に頼らねばなるまい。
内藤はポケットから香水を出して、手首に吹き掛けた。
甘い匂いを嗅いで思考を深める。
-
( ^ω^)「一番疑わしいのは、金井さんと……」
ξ゚⊿゚)ξ「びぃって人」
マニーが隠したとして、彼は眠ってしまっているので聞き出せない。
いくら声をかけてもデレが起きないのなら、マニーも起こせないだろう。
まず彼の部屋に入れてもらえる筈がない。
それに彼の部屋や屋敷の中は、先日、使用人達が隈なく探してくれたのだ。
けれど見付からなかった。
なのでひとまずマニーは疑いから外そう。
こういう消極的な推理しかできないのが歯痒い。
さて残るは、びぃとかいう女である。
( ^ω^)「……まず、彼女がどういう立場の人なのか分からん……」
ξ゚⊿゚)ξ「この屋敷にはいないのよね、ショボンの調査によれば」
( ^ω^)「らしいお」
ショボンの調査は正確だ。
彼が調べた結果、屋敷に「びぃ」がいないというのなら、本当にいないのだろう。
-
( ^ω^)「──ん?」
いや。
いない──と言っただろうか?
ショボンは、新入りの使用人に訊いたのだ。
その人が、びぃという名前の者は知らないと答えただけ。
待て。待てよ。マニーの言葉を思い出せ。
彼との会話。いた筈だ。
ショボンが見落とした、「びぃ」に繋がりそうな存在が──
(;^ω^)「え、嘘でしょ」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
ツンも同じ結論に至ったか、冷めた目でティーカップを見下ろした。
嘘でしょ。内藤はもう一度繰り返す。
-
(;^ω^)「……えっと、どうやってたしかめよう、ツンちゃん」
ξ゚⊿゚)ξ「……普通に訊けばいいんじゃないかしら?」
当たり前に言って、ツンが立ち上がる。
その「普通」がいまいち思いつかないのだ。
困惑しつつ、ドアへ歩いていく彼女に内藤も続く。
ξ゚⊿゚)ξ「すみません」
ドアを開け、ツンが廊下に向けて少し声を張った。
少しの間をおいて、30代ほどの女性──使用人が現れる。
<(' _'<人ノ「申し訳ありません、マニー様はまだ……」
ξ゚⊿゚)ξ「あ、そうではなくて」
一体どうするのかと、はらはらしながらツンを見守る内藤。
使用人はツンの顔に見惚れている。
何度見ても惚れ惚れしてしまう美顔だよねと内藤は頭の片隅で頷いた。
ξ゚⊿゚)ξ「『びぃちゃん』、お加減いかがですか?」
表情に反してやわらかい声での問い掛け。
使用人が、ぱちくりと瞬き。
-
<(' _'<人ノ「びぃをご存知なんですか?」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ、金井さんからお話を聞いていて。気になっていたんです。
……顔を見せていただくことは出来ませんか?」
<(' _'<人ノ「びぃも、今は眠っていて……」
ξ゚⊿゚)ξ「一目見るだけでいいんです。触れたりはしません」
ツンの顔は、こういう交渉──要するに「ちょっとしたお願い」──に大層有利である。
物静かな態度も相俟って、無茶を言っているように思わせないのだ。
案の定、使用人も少し迷ってから、頷いた。
<(' _'<人ノ「そっとしていただけるなら」
ξ゚⊿゚)ξ「ありがとうございます」
(*^ω^)「ありがとうございますお」
さすがツン。惚れ直した。最高だ。
心の中で賛辞を送りながら、内藤は、踵を返した使用人についていくツンの背を追った。
──目的の部屋まで大した距離はない。
静かにしていてくださいね、と念をおした使用人が、
そのドアをゆっくり開く。
そこには、内藤達が思った通りの姿の、「びぃ」がいた。
-
▼-ェ-▼
──篭の中に敷かれた毛布の上で、小さな体を丸めて眠る犬。
老犬だと話していたマニーの言葉通り、体は痩せ細り、四肢も頼りなかった。
-
<(' _'*<人ノ「ビーグルだから『びぃ』って、安直な名前なんですけどね」
使用人がころころ笑う。
内藤も笑みを返して、改めて「びぃ」を見た。
──夢の中で、びぃだけが原作に忠実な姿にさせられていたのは、
この姿では登場させられなかったからだろう。
デレの料理を頑なに食べなかったのは、人間の食べ物だからだ。
随分と行儀のいい犬である。
▼-ェ-▼
ξ゚⊿゚)ξ「あの子、何歳なんです?」
<(' _'<人ノ「ええと、話によれば15歳とか16歳とか……長生きな子でしてね。
マニー様が子供の頃から飼ってたらしくて、とても可愛がってらっしゃるんですよ」
それほどの年齢ならば──過去にマニーと母親の間に起きたことも知っているかもしれない。
マニーが抱えているものを知っていて、
癒やしてやりたいと、思うかもしれない。
-
( ^ω^)「以前、びぃちゃんが物を隠したことがあったでしょう」
<(' _'<人ノ「え? ええ……いつもは歩くのも大変そうなのに、あのときだけは……」
( ^ω^)「『大変そう』ということは、決して歩けないわけではないんですおね?
かなり無理をすれば、それなりに動けるんじゃありませんかお」
使用人はきょとんとしていたが、その話と、
内藤が先日も探し物の件で訪れていたことを上手く関連づけてくれたらしい。
戸惑い、苦笑する。
<(' _';<人ノ「──びぃが、その、内藤様の本を隠したと?」
ξ゚⊿゚)ξ「可能性はありますよね?」
<(' _';<人ノ「……」
▼-ェ-▼
使用人はびぃを見つめ、ううんと唸り、一歩引いた。
-
<(' _'<人ノ「……前に、びぃが物を埋めた場所を見てみましょうか」
( ^ω^)「お庭ですかお?」
<(' _'<人ノ「はい。まさか本を庭に埋めるなんて思わないですから、
誰も庭までは探していない筈です」
内藤のゆるい顔が、更に緩む。
そっとドアを閉じて、踵を返す使用人の後を追った。
──歩きながら、そういえば、とびぃの部屋へ振り返る。
( ^ω^)(『びぃ』も眠ってるなら、夢の中にいるんじゃ?)
*****
-
見入る
-
ζ(;、;*ζ「まにーさん」
名前を呼び、デレはマニーを見上げた。
涙は止まったが、手を押さえられているので拭えなくて、目は潤んだままだ。
¥;∀;¥「あなたを騙していた父より、僕の方が怪物だというの……
あなたを傷付けた女よりも、僕が……」
マニーはデレを見ているようで、見ていなかった。
許してとか、ごめんなさいとか、この場にはいない母への言葉を繰り返している。
──デレは、握られたままの左手を見た。
何度もマニーの口元に引っ張られては、やわく歯を立てられてから下ろされている。
躊躇しているのではない。その度にデレが悲鳴を零して縮こまるからだ。
彼を恐がってはいけないのだろう。
怯えずにマニーを許さねばならないのだから。
-
¥;∀;¥「……ふ」
吐息のような声で、我に返った。
──先程までさめざめと泣いていたマニーが、口元を歪めていた。
自嘲。
¥;∀;¥「……やっぱり僕は怪物なのだね……恐ろしい怪物なんだ。
べっこう飴よりも母の肉を求める怪物だ」
震える声は、一昨日、彼が死にゆくときのものとそっくりだった。
¥;∀;¥「だから君も、そんなに怯えているんだろう」
ζ(;、;*ζ「……っ」
その笑みは、あまりに悲しすぎた。
首を振る。
その拍子に余計な水分がぱらぱら散って、視界が幾分かクリアになった。
-
ζ(゚、゚*ζ「……だ、大丈夫、です」
¥;∀;¥「……?」
ζ(゚、゚*ζ「私、」
恐怖で喉が震える。
いいや、これでは駄目だ。
己を奮い立たせ、むりやりに正した声を出す。
ζ(゚、゚*ζ「食べ、ても。大丈夫です……」
何とか言い切る。
もっと付け足さねばならぬだろうと思うのに、これ以上は無理だった。
口を開けば、やっぱりやめてほしい、なんて言ってしまいそうで。
抑えるために唇を噛み締める。そうして目を閉じた。
目を開けていても、やっぱりやめてほしい、と視線で伝えてしまいそうだったので。
-
ぽたり。頬に雫が落ちる。マニーの涙だろう。
震える手がデレの左手を持ち上げる。
生暖かい吐息が指先を湿らせた。
ζ(-、-;ζ(せめて一思いに)
これくらいは伝えた方がいいだろうか。
デレがうっすらと口を開けた、
ら。
ハハ;ロ -ロ)ハ「ッッッ馬鹿──!!」
馴染みのある声が馴染みのない叫びを轟かせ、
同時に、物凄く重たい打撃音と呻き声が響いた。
-
追いついた
悲し過ぎる……
-
何度もF5を押してしまう
-
ζ(゚、゚;ζ「うぇっ!?」
ハハ;。ロ -ロ)ハ「ワタシ、デレのコト大好きデスケド!!
物凄く頭が悪いトコロはタマにキライ!!」
両手の圧迫感が薄れたので反射的に身を起こす。
と、タキシード姿で息を切らし、ぼろぼろ泣いているハローに怒鳴られた。
ハローは何故か持っていた椅子を床に放り投げ、デレの前にしゃがんで抱き着いてきた。
そのまま、馬鹿だ何だと罵られる。
ζ(゚、゚;ζ「は、ハローさん?」
ハハ;。ロ -ロ)ハ「何でこんなに自分のコト大事に出来ナイの!
頭突き喰らわして股グラ蹴りあげるクライの抵抗が何で出来ナイの!」
ζ(゚、゚;ζ「い、いや、」
一応、デレなりに考えた結果なのだけれど。
だってデレがここでマニーに指を齧られたとて、命をとられるわけでなし。
逆にマニーを拒めば、きっと、彼の心が死んでしまう。
デレの指の怪我は夢から覚めれば消えるけれど、
マニーの心の傷は永遠に残るのだ。
そんなの、デレだって後味が悪い。ならば一丁、覚悟を決めるしかあるめえという具合。
マニーのためであり、デレのためでもあった。
-
ζ(゚、゚;ζ(あれ、マニーさんは)
ハローの肩越しに前方を確認したデレは、
マニーが後頭部を押さえて転がっているのを発見し、椅子の用途を察した。
いや、まずいだろう、それは。餓死より先に別の死因を迎えそうだ。
ハハ;。ロ -ロ)ハ「……テイウカ! アナタも、何で止めナイんデスカ!」
デレから身を離し、ハローが開きっぱなしのドアに向かって怒鳴った。
何かと思えば、
(´-;;゙;)「……だって、マニー様は、デレにお母様を重ねてるみたいだったから……」
びぃが、おずおずと現れた。
え、いたの。
未だ追いつかぬデレの思考が、そんな瑣末な囁きを零す。
-
ハハ;。ロ -ロ)ハ「ダカラ、デレを食わせてやろうッテ? 酷い、酷すぎマス!」
(´-;;゙;)「いやっ、そうじゃない……。
デレ、抵抗すると思ってたの。……デレが嫌がれば、
マニー様も本気で食べようとしないだろうから放っといた……
それでマニー様がデレを諦めるの待ってただけで……」
(´-;;゙;)「……まさか受け入れるなんて思わなかったの……」
ハハ;。ロ -ロ)ハ「コノ子はネ、スゴい馬鹿なんデスヨ!!
他人の気持ちには聡いノニ自分のコトは深く考えられないタイプの馬鹿なんデスヨ!!
脳みそ使う配分が下手ナノ!!」
(´-;;゙;)「ごめん……知らなかった……」
ζ(゚、゚*ζ(胸が痛い)
¥; ∀ ¥「……う……」
ハハ;。ロ -ロ)ハ「!」
マニーが唸り、がくがく腕を揺らしながら半身を起こす。
ハローは慌ててデレを抱き締め直して後ろに下がった。
反対に、びぃが彼の傍に膝をつく。
-
(´-;;゙;)「マニー様、大丈夫?」
¥;・∀・¥「し……死ぬかと思った……」
びぃがマニーを抱き締め、頭を撫でる。
ハローとデレ、びぃとマニーで鏡合わせになっているような体勢だった。
ぼんやりとデレを見つめるマニーの頬に手を添えたびぃが、その顔を自分に向けさせる。
(´-;;゙#)「……マニー様、デレのことは、諦めて」
¥;・∀・¥「……びぃ」
(´-;;゙#)「マニー様もお母様も、悪くないのよ……
ごめんね……びぃは牙も爪もあるのに、2人を守れなかった……」
そりゃあ爪はあるだろうが、牙とは何だ。
デレとハローはクエスチョンマークを浮かべつつ彼らを眺めた。
訊けるような雰囲気ではない。
-
胸が痛いwwwww
-
本当のことだから仕方がないね
-
¥;・∀・¥「びぃは小さかったから仕方ない。……踏みつけられて、痛かったろう」
(´-;;゙#)「マニー様とお母様が泣いている方が、辛かった」
びぃの左手がマニーの頭を滑り、頬を撫でた。
細い指が唇を這う。
(´-;;゙#)「ごめんね、マニー様。びぃは昔も、今も、マニー様を守れなかったね……。
……私が本を隠したの。きっと、マニー様が好きだった料理が『正解』なんだと思って。
デレとハローの美味しいご飯食べて、笑っててほしかったの……」
(´-;;゙#)「こんなことになるの分かってたら、本、隠さなかった……」
ζ(゚、゚;ζ「……びぃさん……?」
指先でマニーの口を何度もなぞる。
くすぐったそうにマニーが唇をひくつかせた拍子に、彼女は指を口内へ潜り込ませた。
-
マニーが、いや、彼だけでなくデレとハローも、瞠目してびぃの顔を見た。
そうして、
(´-;;゙#)「こんな夢、早く終わらせて、忘れちゃおうね……」
慈母のごとき彼女の言葉に、頭の奥を殴られる。
(´-;;゙#)「……びぃの指を食べて。大丈夫、びぃはマニー様のこと、こわくないから」
──そんな。
そんなの、おかしくないか。
-
ζ(゚、゚;ζ「びぃさん!?」
ハハ;ロ -ロ)ハ「何言ってるんデスカ!」
デレはハローのおかげで助かった。
だが、その代わりに別の人間が痛い思いをするのを黙って見ていろというのは。
納得できない。
瞳を揺らしたマニーが、誘惑されるがままに、その指を受け入れる。
¥;・∀・¥「……」
ζ(゚、゚;ζ「ま、マニーさん待って! まだ噛まないで!」
ハハ;ロ -ロ)ハ「駄目デスヨ、駄目!」
(´-;;゙#)「食べなきゃ、終わらないよ」
ζ(゚、゚;ζ「……そんなことない!!」
──違う気がするのだ。
食べて、おしまい──というのは、違う。
違うのだ。理由なんて、分からないけれど。
第一、もしも彼が彼女のそれを食らって、満足して演劇が終了すれば──
それこそマニーは、己を怪物と認めてしまうのではないか。
「それ」を求めて腹を空かしていたのだと認めたら、そのときこそ彼は絶望するのでは。
とはいっても実際、求めていたものを食することが、この物語の結末なわけで。
それ以外のオチはない──
-
ζ(゚、゚;ζ(──本当にない?)
ぞわり。背筋を何かが走る。悪寒ではない。寒気でもない。
何かを掴みかけた感触。
ζ(゚、゚;ζ(この、本は)
ぐるぐる、色んな声が頭を回る。
──この本は誰の本だ?
でぃの本。
主人公に選ばれた人間の、夢の中だけで演じさせて完結する。
だから本来ならば、デレやハローのように他者が介入することはない。
更に言えば、登場人物の姿形、名前すらも本の通りに再現させるのが常なのだ。
なのに皆──びぃは分からないが──そのまま起用されている。
-
この本は。
( ^ν^)『なら「本」は、物語通りの展開を強制するつもりはないわけだ。
お前らの意思を優先させてる』
(*゚ぺ)『でぃちゃんの「本」の中じゃ、特に大胆で変わり者の部類なのかなと思ってさ……』
変わり者なのだ。
ζ(゚、゚;ζ「──マニーさん」
演者のアドリブを許容し、話の筋が変わっても咎めない。
こちらの意思を優先する。
それなら、きっと──
-
ζ(゚、゚;ζ「……私達には、マニーさんが望むもの、絶対にあげられないと思います」
結末だって、本の通りでなくてもいいのではないか。
.
-
ハハ;ロ -ロ)ハ「……ハイ?」
(´-;;゙#)「……何を言ってるの、デレ……」
ζ(゚、゚;ζ「だって。だってマニーさん、
『それ』が食べたいわけじゃないでしょう?」
¥;・∀・¥「……は、」
ζ(゚、゚;ζ「マニーさんにとっては、『それ』を食べた後に許してもらうってのが重要なんでしょう?
マニーさんが欲しいのは『それ』じゃなくて、その後の方……」
ζ(゚、゚;ζ「──お母さんに、許してもらいたかったんでしょう?」
マニーが息を呑む。
口の中から、びぃの指が抜けた。
-
ζ(゚、゚;ζ「私達じゃ駄目なんです。
私達から許されたって、マニーさん、きっと満足できない」
¥;・∀・¥「そんな、」
ζ(゚、゚;ζ「だって! ……今日は、食堂で目覚めなかった!
今日は、マニーさんが何かを食べなきゃいけない日じゃないんですよ、きっと」
今日は、多分──
絵画を見上げ、デレは確信する。
──マニーが、己の中の母と向き合う日。
この本は変わり者だが、それでもやはり、でぃの本。
マニーの背負うものを下ろしてやるために、この半月以上、ゆっくりと話を進めていたのではないか。
この結末に至るために。彼を救ってやりたいという優しさで。
-
デレちゃん の 汚名挽回 だ !!
-
ハローの手の力が弱まる。
デレは彼女の腕から抜け出して、マニーへにじり寄った。
ζ(゚、゚*ζ「……起きましょう、マニーさん。
起きて、……頑張ってお母さんと話し合ってみませんか」
¥;・∀・¥「話す、って、でも……
母さんは、……」
ζ(゚、゚*ζ「難しいのは、分かるんですけど。
でも、話すのを拒んでたのは、マニーさんの方なんでしょう?
お母さんが謝ってくるなら、向こうが疲れるくらい謝らせて、それから本音を聞きましょうよ」
マニーの手を握る。
彼の顔には、血の気が戻り始めていた。
──生気が戻り始めていた。
-
しかし 名誉返上できない!
-
ζ(゚、゚*ζ「話し合いって、すごく大事なんですよ。
話し合わなかったせいでとんでもないすれ違いしてた人たち、私知ってます」
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシも知ってマス」
ζ(゚、゚*ζ「マニーさんのお母さんじゃなきゃ、
こんなに拗らせたマニーさんのこと、どうしようも出来ませんよ」
¥;・∀・¥「でも! ……そ、それで、拒絶されたら。僕はどうしたらいいんだ……」
ζ(゚、゚*ζ「……そしたらね、」
そしたら、どうしようか。
母親にとって、本当にマニーが「怪物」でしかなかったら。
マニーが言うように、もはや彼を息子として見れなくなっていたら。
そしたら──マニーには、「母親」がいなくなってしまうのだろうか。
ζ(゚、゚*ζ「……あ、じゃあ」
それなら、そのときは。
-
ζ(゚ー゚*ζ「私が、マニーさんのお母さんになりますね」
冗談めかして言うと、マニーも、びぃもハローも、ぽかんとデレを見つめた。
沈黙。5秒。10秒。
¥・∀・¥「──は」
マニーの口から吐息が漏れて──
大きな笑い声が響き渡り、沈黙は破られた。
うむ。この言葉、どうやら暗い空気を打ち壊すのには最適らしい。
デレの粗末な頭がいらない学習をした。
-
( ^ν^)「死ね」
-
(´-;;゙#)「……本当に、お馬鹿なのね……」
ハハ ロ -ロ)ハ「ソウなんデスヨ」
¥;* ∀ ¥「はっ、ははっ、待ってくれ、ふっ、何、っははは! ──苦しい!」
マニーが腹を抱えて蹲る。
この体勢をとる彼の姿は散々見てきたが、今日だけは、腹を押さえる意味合いが違った。
これなら、何度だって見ていられる。
-
デレちゃんララァ説
-
地の文のなじりに吹く
-
わん公にまで馬鹿扱いされるデレちゃん可愛い
-
デレママ…
-
¥;*・∀・¥「ふっ! ……ああもう、予想外だ……っくく……
くそっ、僕があれだけ真面目に……!」
びぃに抱え起こされたマニーは、涙が滲むほど笑っていた。
しばらく笑いが収まらなかったが、びぃに背を撫でられる内、だんだん落ち着いてくる。
最後に長く息をついて、彼はデレと正面から向かい合った。
¥・∀・¥「……うん、君を母にするのは遠慮しておくけど……」
ζ(゚、゚*ζ(マニーさんにも断られてしまった……)
¥・∀・¥「もしも、駄目だったら」
笑いすぎて滲んだ涙を拭うマニー。
──それから彼が、
¥・∀・¥「何か、美味しいものを作ってほしいな」
そう言って、優しく、穏やかに、それでも不安げに笑うので。
ζ(゚ー゚*ζ「はい!」
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシも、出来る限り頑張りマス」
安心させたくて、デレとハローも笑顔で答えた。
-
デレちゃんはやっぱりアホかわいい
-
まだ本気でいってないないところが救われたな
-
どうなるかなど分からない。
無責任に背中を押しただけかもしれない。
マニーは笑ってくれたけれど、本心は、恐くて仕方ないだろう。
それでも彼らが向き合わねばならないことには変わりない。
¥; ∀ ¥「……っあ……!」
ζ(゚、゚;ζ「あっ」
直後、マニーがいつものように苦しげに倒れた。
いつもの、夢の終わりのように。
デレは一瞬だけ焦り、それはすぐに安堵へ変わった。
¥; ∀ ¥「は……はは……何も食べてないのに、死ぬんだな……」
ハハ ロ -ロ)ハ「……マア普通は、何も食べてないカラ死ぬわけデスヨ」
──やはり今日は、何も食べなくていい日なのだ。
マニーが「それ」を食べる必要などない日だったのだ。
-
¥; ∀ ¥「……それじゃあ、起きようか。びぃ」
(´-;;゙#)「……はい、マニー様」
マニーとびぃが手を繋ぐ。
何となく、デレとハローも手を重ねた。
目眩がする。
そろそろ、夢が終わる。
-
「ごめんね。ありがとう」
2人の声が重なった直後、マニーは動かなくなった。
きっと、明日の夜になっても生き返らない。
-
「怪物」は、今日限りで死んだのだ。
*****
-
( ^ω^)「えーと」
一週間後の日曜日。昼。
VIP図書館の2階、廊下。
深刻な顔をして廊下に座り込む貞子、デミタス、椎出姉妹の前に、
何やら箱を抱えた内藤とツンが立っている。
食い入るようにこちらを見つめてくる彼らを順繰りに眺め、
内藤は咳払いの後、重い口を開いた。
-
( ^ω^)「──金井さんから、めっっっちゃ高そうな牛肉が届きました」
(;*゚ー゚)「ィイヤッホォオ─────イ!!!!!」
(*゚;;-゚)人 パチパチ
(;´・_ゝ・`)「戦争が起きる……」
川д川「多分ねえ……」
内藤の手から箱を取り上げ、ツンがゆるゆると首を振った。
ξ゚⊿゚)ξ「普通の一家族で食べるなら2食か3食いける量だけど、
うちで食べるとなると、一食であっという間になくなるわ」
( ^ω^)「まさか金井さんも10人住んでるとは思わなかったろうしね……
──というわけで、この牛肉の使い道を決めたいと思います」
-
(;*゚ー゚)「ステーキしかねえだろ!? わさび醤油でさあ!」
(*^ω^)「ふむ、ステーキ。肉汁じゅわっじゅわの肉をもぎゅもぎゅいきたいおね」
(*´・_ゝ・`)「しゃぶしゃぶがいいなあ……ポン酢とかゴマだれで……」
(*^ω^)「あーっしゃぶしゃぶ! 火を通しすぎずに絶妙なやわらかさを保った肉をポン酢で爽やかに!」
川д川「焼肉食べたい……ステーキみたいに厚いのじゃなくて……」
(*^ω^)「タレをつけた薄い肉でご飯巻くのはステーキには出来ない食べ方だおね!」
ξ゚⊿゚)ξ「金井さんが色々解消できたのは、でぃの本があってこそだと思うの。
でぃが食べたいものを優先させたら?」
(*´;;-`) スキヤキ
(*^ω^)「ああっすき焼き好き! くつくつ音を立てる鍋の賑やかさ!
肉だけでなく野菜やお豆腐までも主役になり得る宝石箱!」
(´・ω・`)「みんなの大好きなショボン君が美味しいお肉を独り占めしてご満悦な様子を楽しく鑑賞するコース」
( ^ω^)「帰って」
間。
内藤は隣に立つショボンを4度見して、「あ、ショボンがいる」と認識した瞬間、
その顔面に拳を叩き込もうとした。
ショボンが物凄い背筋力を見せたので空振りに終わったが。
-
この時間に肉は反則だろ…………
-
(´・ω・`)「何いきなり酷いなあ」
( ^ω^)「貴様が我が家の風呂回りを水浸しにした恨みは忘れていない」
一週間前、金井邸から帰還した内藤とツンを出迎えたのは、
風呂場から脱衣所、洗面所とその前の廊下に至るまで広がる巨大な水溜まりであった。
精神的疲労が溜まりに溜まったところへのあの衝撃は、下手をすれば人を殺せるかもしれない。
-
ショボン流石だな
-
(´・ω・`)「いや、ぼく悪くなくない? モララーが泣きながらハロー締め上げるっていう
面白スキンシップしてたせいで、風呂に水溜めてんの忘れちゃったんだもん。
しばらくしたらハローとデレちゃんが起き上がってさ、みんな大喜びしてて僕も思わず感動ですよ。
そんなハッピー空間にいたら、水止めてないの思い出してもなかなか言い出せませんて」
( ^ω^)「お前しか悪くないんですけど」
ξ゚⊿゚)ξ「言い出せなくても水は止めておきなさいよ」
(*゚ー゚)「帰ってきてびっくりしたわ私。片付けさせられたのにもびっくりだわ」
(´・_ゝ・`)「同じく帰ってきて早々、関係ない僕が掃除手伝わされたの解せないんだけど……」
川д川「ショボンしばらく立入禁止にしたらあ……?」
(#゚;;-゚) サンセイ
(´・ω・`)「やッだ〜集中砲火。
いいじゃん、デレちゃんハローも無事に演劇終了、金井氏トラウマ克服、
『本』の無傷回収でニュッ君とでぃもにこにこ、全方位ハッピールンルン円満解決。
お茶目なショボン君の可愛いミスくらい見逃してよ」
( ^ω^)「はーい僕いまからコイツ窓から吊るしまーす」
(#´゚ω゚`)「やれるもんならやってみろコルァアアア!!
ねちねちうるせえええなあああテメエはよおおお!!」
(#゚ω゚)「いきなり逆ギレすんのやめろお前!!」
-
おふくろの味でまさかと思ったらびぃはビーグルかよ
-
なんかワロタ
-
ショボンほんとすき
-
ξ゚⊿゚)ξ「……まあ、ショボンが電話をかけてくれなかったら
私達が『本』を燃やしてしまっていたでしょうし、そこは差し引きしてあげましょう」
可愛いツンにそう言われては、内藤も引っ込まざるを得ない。
──あの日、内藤とツンが金井邸の庭から「本」を掘り起こして。
火をつけようとした瞬間に、ショボンが電話でデレとハローの無事を報告してきたのだ。
ぎりぎりだった。もし燃やしていれば、でぃが許可したとはいえ、彼女もニュッも無念だったろうから。
ちなみにショボン以外の者は、起き上がったデレとハローの対応でいっぱいいっぱいだったらしい。
あの本の虫さえ。
(´・ω・`)「ていうか何で廊下で牛肉の相談してんの」
川д川「食堂は今ニュッ君達にのんびり使わせてるからあ……」
(´・ω・`)「あーそう」
(*゚3゚)「私も混ざりたいわ。あーあ、デレちゃんまた泊まっていかねえかなあ。
風呂覗けてないし歯ブラシの匂いも嗅いでねえ」
(#゚;;-゚) ヤメテ
-
(´・_ゝ・`)「ところで牛肉の使い道どうするの?」
ξ゚⊿゚)ξ「でぃの希望通り、すき焼きにする?」
(´・ω・`)「牛丼食べたい」
(;^ω^)「うわあ〜ここに来て高価な和牛を贅沢にも超庶民的料理に使っちゃう誘惑〜」
*****
-
──1階。図書館。
テーブルセットの一つに、クックルとキュートが座っている。
クックルは愛用するノート──分厚いハードカバー、外装は花柄──に書き付けた小説の確認をし、
キュートは適当な本を読むふりをしてクックルをちらちら眺めていた。
( ゚∋゚)「上に行かなくていいのか」
o川;*゚ー゚)o「え!? 何!? 本読んでたから聞いてなかったわー!」
(;゚∋゚)「す、すまん。……ここにいても暇じゃないか?」
o川;*゚ー゚)o「や、まあ、あれですよ。たまには静かなのもいいかなと」
そうか、と納得した様子で、クックルが自分の小説に目を戻す。
話が終わってしまったかと少し残念に思ったキュートが必死で話題を探していると、
顔を上げないまま、彼が再び口を開いた。
( ゚∋゚)「そういえば、結局文化祭を見に行けなかったな。
昼過ぎにちょっと行ってみようかと思ってたんだが」
o川;*゚ー゚)o(来なくて良かった……!!)
不意討ちで会っていたら、死んでいたかもしれない。
校内でのキュートのイメージ的な意味で。
-
( ゚∋゚)「自分からデレに付き添ってきたんだってな、キュート。
途中で抜けて良かったのか? 文化祭」
o川*゚ー゚)o「……ニュッ君さん達にも言ったけどさ、あの状況で置いてかれたところで、
文化祭に集中できるわけないし」
文化祭は来年もある。
今年の一日分がふいになっても大したことではない。
それに、いきなり倒れたデレを見知らぬ男2人が連れ去るなど、ちょっと絵的にまずい。
下手をしたら変な噂を流されかねないくらいである。
しかし純真無垢な絶世の美少女キュートが笑顔でついていくことで、ニュッ達の信用性は多少なりとも上がるのだ。
( ゚∋゚)「いい奴だな」
o川*゚ー゚)o「美少女だからね」
澄ました顔で答えておいたが、内心は暴風雨。
いきなり褒めてくるから油断ならない。
-
( ゚∋゚)「それと、キュートがたまたまあの雑誌を持ってたおかげで
ニュッ君が緊急性に気付けたようなもんだしな。お前がいて良かった。
恥ずかしながら俺はあれが金井マニーだと知らなくてな」
o川*゚-゚)o
とりあえず無の世界に没した。
でなければテーブルに額を打ちつけたのち奇声を漏らしながら前転を繰り返していた筈だ。
いったい今日はどうした堂々クックル。
本を閉じたクックルは、表紙を撫でて、思い出したようにこちらを見る。
( ゚∋゚)「たしかキュートが着てた浴衣って、自前のなんだっけか」
o川*゚ー゚)o「え? ああ。そう、今年の夏祭りで着るために買ったやつ。それが何?」
( ゚∋゚)「いやな、」
今度は何だ。浴衣姿を褒める気か。
いいだろう、既にデレから聞いているから少しくらいは耐性が出来ている。
絶対に動揺などしてやらない。さあ来い。
クックルは花柄の表紙を、とん、と大きな指先で叩いて、
彼にしては珍しく声を漏らして笑った。
( ゚∋゚)「俺の本と、柄が似てたなあ」
-
死んだ。
*****
-
これは悶えるわ
-
これはキュート主人公のクックル作者のフラグかな?また番外編が…
-
ハハ*ロ -ロ)ハ「おいしー」(・∀・*)
ζ(´ー`*ζ「美味しいですねえ」
( ^ν^) ムシャモグ
食堂。
テーブルの左端にハローとモララー、その向かいにデレとニュッが座って、
昼ご飯の真っ最中。
各自の前には広めのランチプレートが置かれており、
デレが作ったオムライスと海老フライとプリン、
ハローが作ったおにぎりと唐揚げとだし巻き卵、それとサラダが盛りつけられている。
どう見ても、
( ^ν^)「何なんだこのお子様ランチ」
ζ(゚ー゚*ζ「気のせいじゃないですか?」
( ^ν^)「爪楊枝で作った旗まで刺しといて何をとぼけてんだ」
ニュッに頬を抓られたデレは、あははと朗らかに笑った。
オムライスとおにぎりはいくらか小振りに作ってあるので、
食べきれないということはない。
-
ζ(゚ー゚*ζ「お子様ランチ食べるニュッさん面白い」
( ^"ν^)
( ・∀・)「最近のデレちゃんは母性が爆発してるね」
ハハ ロ -ロ)ハ「『面白い』は母性とは違うのデハ」
別に、初めから計画していたわけではなく。
ニュッとモララーにご飯を作ってあげよう、とハローと相談し、
メニュー案を出し合ったらまるでお子様ランチのようだったので、ノリで盛りつけにこだわっただけなのだ。
ζ(´ー`*ζ「だし巻き美味しい」ジワーッ
(*・∀・)「美味しいよね! ハロー、肉料理以外も出来るんだ」
ハローが焼いただし巻き卵は綺麗な山吹色で、見た目からして美味しそう。
口に入れればふわふわしていて、噛むと甘い出汁がじゅわじゅわ溢れる。
きっと冷めても美味しい。
-
ハハ ロ -ロ)ハ「練習したノ」
ζ(´ー`*ζ「そうなんですか! 大成功ですよハローさん」
褒めたにもかかわらず、
常ならば子供のようにはしゃぐであろうハローが、この日はしゅんと縮こまるので。
デレは思わず食事の手を止めた。
ζ(゚、゚*ζ「?」
ハハ ロ -ロ)ハ「……ごめんネ」
ζ(゚、゚*ζ「はい?」
しかも急に謝る始末。
ハローはもじもじしながら、ぽつり、続けた。
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシ、全然デレのオ手伝い出来なかった」
ζ(゚、゚*ζ「お手伝いも何も、今日はお互い自分が作るものだけ担当してましたし……」
ハハ ロ -ロ)ハ「ソウじゃなくて」
少し考え、一週間前までの「夢」の件だと理解する。
-
ζ(゚、゚*ζ「ハローさん、椅子持って助けてくれたじゃないですか」
ハハ ロ -ロ)ハ「ソレでもなくて、あの、オ料理……。
ワタシ、貞子達みたいにオ料理得意でもナイし詳しくナイし」
ζ(゚、゚*ζ「鶏肉捌いてくれたの助かりましたよ」
ハハ ロ -ロ)ハ「ツンやクックルの方がもっと上手く出来マスシ」
そうなのか。
ハローもかなりの手際だったが、あれ以上とは。ちょっと見てみたい。
──まあ。
料理の腕、といえば、たしかに貞子達には劣るのかもしれないが。
ζ(゚ー゚*ζ「ハローさんは明るいけど落ち着きもある人だから、
ああいうとき一緒にいると、すっごく安心するんですよ」
だからハローさんが一緒で良かった。
最後にそう付け足せば、ハローは口に運ぼうとしていた唐揚げを落として、
更にぶるぶる震え、ついには隣のモララーにしがみついた。
何故だか泣いている。
-
ハハ。ロ -ロ)ハ「モ゙ラ゙ラ゙〜」
( ;∀;)「良かったねハロォオオ!」
ζ(゚ー゚;ζ(何事)
与り知らぬところで何やら色々あったらしい。
とりあえず食事に戻る。海老フライをフォークで刺すと、ざくざくぱりぱりの感触が伝わってきた。
感触と音だけでもう美味い。
それに酔っていたら、ニュッに足を踏まれた。
( ^ν^)「……ハローから聞いたぞ。
ビビってたくせに、金井に向かって、どうぞ食べてくださいっつったらしいな。
お前ますます馬鹿になってねえか」
ζ(゚、゚*ζ「モララーさんから聞きましたよ。
ニュッさん、私の手握っててくれたんですよね」
( ^"ν^)「死ね」
( ;∀;)「あだっ!」
ニュッが投げた胡椒の瓶が、モララーの額にクリーンヒットした。
話を聞いていなかったらしいモララーは
わけも分からずしばかれた痛みと驚きで、一層激しく泣いた。
-
ζ(゚ー゚*ζ「私が学校で寝ちゃったときも、ニュッさんが来てくれたんですって?
ありがとうございます」
( ^ν^)「たまたまだ」
ζ(゚ー゚*ζ「そんなこと言って」
デレは知っている。
何だかんだ、そういうとき、彼はデレのもとに来てくれる人だ。
唐揚げを一口。デレが作るものよりスパイシーで、
それをおかずにおにぎりを頬張ると、たまらなく幸せ。
ζ(´ー`*ζ「もしもまた私がピンチになるようなことがあったら、
ニュッさんは真っ先に駆けつけてくれるでしょ」
( ^"ν^)「まずピンチになるなっつう話だ馬鹿」
あはは、とデレはまた笑う。
この図書館に関わり続ける限り、完全に安全、ということはないのかもしれない。
けれど彼らがいてくれるなら、完全に安全と言えるのかもしれない、とも思う。
彼らは優しくて、頼りになるから。
オムライスを咀嚼し飲み込んだニュッが、じろりとデレを一瞥して、またオムライスをスプーンで崩した。
-
( ^ν^)「それにしたって、よくもまあ毎晩毎晩、
碌に知らねえ奴のために一生懸命メシ作り続けたもんだな」
( ・∀・)「あ、それ俺も思った。デレちゃんえらいなあって。
その気になれば手抜きでやり過ごすことも出来たでしょ」
えらい、だろうか。
もしかしたら──相手がマニーでなければ、
たしかに手を抜く日もあったかもしれない。
ζ(゚ー゚*ζ「……だってマニーさん、すごく美味しそうに食べてくれるんですよ。
美味しいって言ってくれるんですよ。
嬉しくて、もっと美味しいもの食べてほしいって、思っちゃいますよ。」
( ^ν^)「……ふうん」
ζ(゚ー゚*ζ「ニュッさんも将来お嫁さん出来たら、ご飯美味しいよって言ってあげなきゃ駄目ですよー。
そしたらもっと美味しいご飯つくってもらえますからね」
へらへらしながらニュッをつつく。
彼は面倒臭そうな顔をして、何も言わずに食事に戻った。
( ・∀・)「ニュッ君にお嫁さん来るかな……」
ハハ ロ -ロ)ハ「モウ、ワタシ、敢えて何も言いマセン」
そこから少し、沈黙が続いた。
決して気まずくはない。静かに賞味する、穏やかな時間。
-
ζ(゚、゚*ζ(マニーさんも、こうやってご飯食べてるかな)
夢の中と同じように、食事を楽しんでいるだろうか。
正体が飼い犬だったというびぃは、マニーが美味しそうにご飯を食べる姿を喜んで見ているだろうか。
それは分からないけれど。
何か作ってほしい、とマニーから連絡が来ないということは、
少なくとも、傷付いてはいないのだろう。
ζ(´ー`*ζ
こんな風に、楽しく食事が出来ていればいい。
次はサラダをいこうかと考えていると、視線を感じた。
横に目をやればニュッと視線が絡む。
彼のプレートからは、すっかりオムライスがなくなっていた。
一番に食べきってくれたのなら、それなりに気に入ってくれたのかもしれない。
-
ζ(゚、゚*ζ「何です? おかわりですか?」
( ^ν^)「いや、……あー、っと」
ζ(゚、゚*ζ「何なんですか」
ああ、うう、ニュッが唸る。
デレがじっと待っていると、観念したらしい彼が、ようやく呟いた。
( ^ν^)「……美味かったよ」
ζ(゚、゚*ζ
目を逸らしながらでは、あったけど。
-
ζ(゚ー゚*ζ「……はいっ!」
──だから、また今度、何か作ろうと思った。
正直言うと、いつも美味しいものを食べていてほしいと
デレが一番願っている相手は、ニュッなのだ。
これはやっぱり、母性ってやつなのだろうか。
番外編 終わり
-
おつ
-
ちょうど追いついた。
登場人物みんないい人だよなぁ
-
おつ!
-
おつ 面白かった!!
-
おつ!!とても面白かった!!
あと飯テロやばいっすわ……気合い入り過ぎだよホント……
ニュッくんは爆ぜろ!!
-
おつおつおつ!
-
終わりです
飯テロ祭に間に合わなかったけど、どのみち終盤の内容的に出せなかったやつ
お蔵入りにしようと思ってたけど、秋頃の総合で、百選での得票数一位だったというのを見て
とてもとても嬉しかったので投下することを決めました
生きた本(それ以外も)を挙げてくださった方、投票してくださった方々、本当にありがとうございました
名乗ってない作品含めると百選には13個入ってます。これはただの自慢なので全然関係ないです
本当に本当にありがとうございました
そして読んでくれた方、本当に本当に本当にありがとうございました!
目次的なの
中編 >>152
後編 >>360
-
乙!
もっかいあなほん読み直すわ
-
長い時間本当に乙です!
一時はどうなることかと思ったけど、幸せな終わりで良かった
-
この読後感やっぱり最高だよ
面白かった。おつ!
-
乙。
そういや金井マニーのもう一つのペンネームってなんだったんだ?
-
乙です!!
最近の一番の楽しみが最後まで読めて嬉しいような寂しいような
出てくる食べ物が全部おいしそうで、こんな時間なのにお腹空いてる……
今回もう色々と萌え死にそうだった
-
5時間弱も乙
>濃ゆい
もしかして九州か
-
おつ!番外編がくるなんて思ってなかったからすごいうれしかったよ!
-
>>619
何だろう……金持銭太郎とかですかね
-
バレバレじゃねーかそのPN
-
投下は嬉しくて、待つのは苦手で支援はしても読み直しに行ってました。
ところで、食事でいうあんばいって案配じゃなくて塩梅では?って思いました。投下お疲れさまでした
-
13/100も選ばれてたのか……流石だわホント
今数えてきたらパッと分かる範囲で9作品だけだった
本当に乙です
-
わかってたけど! この流れは言うだろうと! 言わなければヘタレだろうと!
わかってたけど萌えましたありがとうございます
おつかれさまでした。楽しくお腹に響く物語をありがとうございます
なんか、料理したくなったや……
-
>>625
オアア……ミスってますね
ありがとうございます
-
いいってことよ
乙
-
料理の描写で思わず喉が鳴ってしまった……
そしてニュッくんやデレをはじめ、登場人物一人ひとりが魅力的で味があったよ
とても「美味しい」小説だった
乙 また食べられる時を待ってる
-
>>461
ポケットにを→ポケットに手を、でおk?
-
>>631
そうです!!! 誤字脱字!! 多くて! 恥ずかしい
絶対まだあるなこれ
-
面白かったです、クライマックスは手に汗握るシーンばかりでした!
おつ!
メイド服デレちゃん
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1909.png
-
乙!
素晴らしい作品をありがとうございました!!
-
>>633
ありがとうございます!! デレ超かわいい
やわらかそうな手がめっちゃ好きです
身につけてるものが基本白黒で、ゴシックな感じが出てるのすごくいい
-
投下乙
途中離席してしまったんで今からまた読むが楽しみ
-
乙、また穴本が読めるとは思ってなかったし最高だった
あと最後の5分で考えたような別名義のPNで噴いた
-
好きな作品の特別編が読めて嬉しかったしとても満足だよ、乙!
-
乙乙
-
本当に素晴らしかった……!
途中の人肉でまとめ絵のかき氷の暗示かと思った
乙!
-
やっぱり面白いんだよなぁ
乙
-
今回も面白かった!!!
乙です!!
-
すごく面白かったとしか言えない
こんなに面白かったのにお蔵入り考えたとか信じられない もっと読ませてください
本当に乙!!
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うわあぁ…うわああぁ…素晴らしかった…素晴らしかった…!!
言いたいことが沢山あるはずなのに…感動で胸がいっぱいで…気持ちを抽出したくない!読後の余韻にずぅっと浸っていたい!
あな本大好きだ!また読めて嬉しいですありがとうございますありがとうございますニュッは爆発しろ
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百選にそんな入ってるとか嫉妬するわ
何はともあれ乙
前作から読み直す
-
乙!
デレちゃんの優しさがほんま女神やでぇ…時間ができたらまた作品読み直したいわ
さて、本日の壁殴りスレはこちらですか?
-
全身全霊の乙を捧げる
登場人物みんなかわいいし料理も美味そうだし何より面白いし最高だった
穴本本編もう一周しようかなそれとニュッもげろ
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年末VIPにブーン系紹介スレ立ってて、そこから来ました
まとめ読みきって最後にとっといたこのスレ読み終わったとこです
お疲れ様でした、裁判もそうだったけど全編通して目が腫れるほど泣かされました
次はせいとかいと百選読んできます
ほんとにありがとう
-
またこのあな本メンバーの話が読めるとは思っていなかったからめっちゃ嬉しかった
ストーリーも相変わらずの面白さで本当に素晴らしい
-
まじで腹減るわ
乙!
-
久々に覗いたらまさかあな本の新作がきてるとは…
めっちゃおもしろかった…
-
ブーン芸さんが番外編をまとめてくださいました
ありがとうございます! 誤字脱字の修正も本当にありがたいです
おまけ
http://imepic.jp/20160112/727670
本当は昨日上げるべきだったやつ
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うんこやん
-
うんこに似てるよね
-
ショボンはぶれない
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うんこみたいなもんやし
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お前らカレー食ってる時にカレーの話すんじゃねーよ
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ショボンwww
-
言い忘れてた
キャラの髪型などはあくまで一つのイメージ以下同文>>295
-
今ちょうどカレーと餅余ってるからやってみよ
-
>>660
うんこに似てるよね
-
是非お試しください
口に合わなかったら罵ってください
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美味しい描写で満足感と幸福感やばし。
ごちそうさまでした!
-
盛大に乙!!!
終盤のフェティッシュにゾクゾクしたわ
飯テロ成分もたっぷりで最高!
別んとこでも言ったけど、本当ずっと読んでたい
とにかく乙!!!!!!
-
乙 やっぱり話書くの上手い
特にこの作品、更にこの話はかなりのハイレベルで仕上がってて魅了された
-
また読めるとは思わなかったよ…面白すぎ
たまたま久しぶりにブーン芸開いたら上がってて、作者コメ見たくてここに来ました。
最後の伏線回収最高でした
読み応えのあるブーン系小説を読めたことに感謝
うんこ味のカレーって少し前に販売してたよね
-
某ムカデがなんか言ってたなそんなもの……
カレーはカレー味が一番だろ……
-
>>1がさりげなく>>662で性癖暴露してる件について
-
あぅ、ごめん ごめんよぅ、ごめんよぅ、ごめん カレー
-
個人的にもみのりって味付海苔のイメージなんだけど普通に焼きのりをちぎってのっけるってことでいいのかな?
-
鏡餅ってカビなかったことがないわ
カビたとこ削ってもカビ毒ヤバイらしいし目出度さ半減でもプラスチックの容器に小さい餅がいっぱい入ってる鏡餅一択だな
-
>>670
自分は焼き海苔ちぎってやりました。でも味付け海苔でもいいのかもしれません
大量の餅を可及的速やかに処理しなければならない状態で砂糖醤油にも磯部焼きにも飽き、
前日のカレーと焼き海苔しかなかったため捨て鉢になって組み合わせた結果の産物でした
なので厳選した組み合わせなわけでもないし、何なら海苔よりももっとカレー餅に合う食材があるんじゃないかと思います
チーズ乗せてトースターぶち込んでカレー餅ドリアとか。多分
-
ヒント:冷凍
-
投下終わっても飯テロしてくる初志貫徹っぷり
餅 カレーで検索したら割とメジャーな組み合わせっぽい
本編エピローグであった回収したデミタスの本ってマニーが最初に持ってきた本?
-
ブーン系小説で出会えてよかったと思える作品の中で一二を争うと思ってたあな本の新しい話を読めるなんて幸せだ(*´∀`*)
-
>>673
小さな冷蔵庫の冷凍室が既に餅でいっぱいだったと言えばどれだけ恐ろしい餅責めにあっていたかお分かりいただけるだろうか
>>674
あ、それとはまた違います
時期としては 本編エピローグ→今回→児童文学 の順番です
ていうか今確認のためにエピローグと児童文学見てみたら、児童文学のロマネスクに対する描写で
> こうしてホームページを頼りにやって来たのは、彼が初めてだ。
って書いてたのに今回マニーが先にホームページ経由で図書館に来てしまってますね(>>37)
> ¥・∀・¥「はい、……たまたまホームページを見掛けたので来てみたのですが、来て良かった」
この台詞を、
¥・∀・¥「はい、……たまたま話を聞いたので来てみたのですが、来て良かった」
に脳内補完しておいてください
ショボンあたりが流してた宣伝を聞いたってことで
-
キュートのクックル耐性も児童文学の方が弱い気がするがw
-
今回で仲が微進展して悪化したとか?
最後のは脈0だと思ってた好きな人に暗に「お揃いだね」って笑顔で言われたようなもんだし
-
多分マニーさん本当はホームページ見て来たんだよ
でも偶然ページを反転させたら「何故か」卑猥な文章が浮き出てきて、気まずくなったから言わなかったんだよ(超適当)
-
>>662見た瞬間しぃを連想したわ
-
ご馳走さま
-
次回作のご予定はありますか
-
>>682
今のところは特にないです
とりあえず長らく放置してる祭り作品以外はしばらく新規で何か書くことはありません。恐らく。きっと
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やっぱりくっそ面白い
強要はしないけど書きたい時に番外でもなんでも書いてください
-
祭り作品完結までずっと待ってる
-
http://ssks.jp/url/?id=348
-
今更かもしれない質問なんだけど、生きている本は全てモナーが命を与えたの?
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>>687
モナーが命を与えたのは作者達とツンと作者達がお願いした本じゃないのかな
作者達が作った本の中でも想いが強いのが生きた本になるけど作者達は全てを生きた本にはできないでしょ
-
>>687
そうです
本に命を与える「魔法」はモナーしか使えません
モナーは若い頃に本以外のほぼ全てのものを嫌っていた(本しか愛せなかった)時期があるので「魔法」を手に入れられました
逆にニュッは、本以外にも愛を向けられるもの(両親やモナーやブーンやツンなど)があったし今もたくさんあるので、
いくら本が好きでもモナーのような力を持つことは出来ません
作家達も同じく
-
>>688
生きた本ってツンや作者がお願いしたり本だったり作者の想いが強い本じゃなくてモナーが個人的に気に入ったお話をなんか手でなんかするとなんかこう命が吹き込まれる的な感じのアレじゃないっけ?
なんかファンタジー小説辺りで?ツンが書いた本でそういうことしてた気がする?みたいな?
-
俺にそんな能力あったらまずエロ本に命吹き込む
こういう雑念だらけだとそもそも能力を授からないんだろうなぁ……(遠い目)
-
しぃの書いた官能小説に命が与えられている可能性も……!
-
モナーが生きてたら電子辞書プレイに命が吹き込まれる可能性すらあったのか……
-
官能小説朗読とかそれなんてイジメ
-
>>692
それは危ないな、是非デレとニュッ君に演じてもらわねばならんな
-
おいおいお前らしぃさんの本業はSF小説だったはずだろ?
-
SF官能小説とは新しい
-
宇宙エロ
-
SF官能…祭…宇宙戦艦…うっ頭が
-
(*゚ー゚)宇宙ではエロも書かれるようです
-
http://ssks.jp/url/?id=348
-
厚かましいのはわかってるんだ……!
でも言わせてくれ!!
冬の迷い子のブーン篇とツン平気が読みたいですっ……!!!
-
ちんたら描いてたらとても遅くなった
久しぶりのあな本サイコーでした
http://imepic.jp/20160121/808000
-
>>703
ありがとうございます!! 綺麗
こういう色味がすごく好きです。タイトルの入れ方もお洒落で凄い
ホットケーキ焼いてほしい
-
改めて乙でございます
素敵な時間をありがとうございました!
http://imepic.jp/20160122/282930
-
>>705
うおおおお!すげえ!
メイドデレちゃんかわいいし、好きなシーンばっかだし、後ろに飾ってある絵がいい!
-
みんなかわええ……あと左上爆ぜろ
(モララーの締め方だとどう見ても落ちない気がする)
-
>>707
モララーだからしかたないよ
-
おっぱい!(歓喜)
-
>>705
おっぱい!!!!! 毎回ありがとうございました!!
モララーwwwww キュートの「TEKITOU」に吹いた
さりげなく過去作品の絵もあって嬉しいです
-
読後に思わず奇声あげそうになる程に良かった
やっぱりあなたの作品大好き
-
ああああまたあな本が読めて幸せです…ありがたやありがたや
差し支えなければ百選に載ったものも含めて
過去作を教えていただきたいのですが、いかがでしょうか?
-
んなもんテメェで調べろって思うんだが
-
http://ssks.jp/url/?id=348
-
>>712
長編
( ^ω^)七大不思議と「せいとかい」のようです
ζ(゚ー゚*ζ あな素晴らしや、生きた本 のようです
('、`*川 フリーターと先生の怪奇夜話、のようです (´・_ゝ・`)
ξ゚⊿゚)ξ幽霊裁判が開廷するようです
川 ゚ -゚)子守旅のようです
短編
('A`)燃え尽きた後のようです
ξ*゚⊿゚)ξふたりはなかよし(^ω^*)のようです
(*'A`)ふたなりなかだし(゚- ゚*川のようです
川 ゚ -゚)日和のようです
( ^ω^)の川 ゚ -゚)ルなナイトのようです
( ^ω^)が拳の王となるようです
( ^^ω)クリスマスには間に合わなかったようです
( ∴)早く人間になりたいようです
('A`)ドクオには幼なじみがいるようです
( ^ω^)ドラゴンボールのようです
【+ 】ゞ゚)は異世界で出会ったようです
川д川おばけやしきのようです
(-_-)ストライクヒッキーズのようです
(・ ∀・) また明日、のようです
爪'ー`)y‐小泥棒のようです
( ФωФ)いつでも変われるようです
lw ´‐ _ ‐ノ v 六度目の大量絶滅のようです
( ^ω^)はボクサーのようです
/ ,' 3 荒巻老人は80代にして妻以外の女性を愛したようです
('A`)おしりをかじらなければ虫になるようです
ξ゚⊿゚)ξ わるいひと! ζ(゚ー゚*ζ のようです
ミンミンミセ*゚ー゚)リのようです
l从・∀・*ノ!リ人 超絶プリティ!流石家のアイドルのようです
川 ゚ -゚)冬の迷い子のようです
( ^ω^)猫娘を拾ったようです
〈::゚-゚〉行灯業者の鐘の声が聞こえるようです
(-@∀@)誇り無き吸血鬼のようです
( ^ω^)姉が孕んだようです
|゚ノ ^∀^)にとってはそれが真実だったようです ほか(大きな古時計・ふぐり・キノコ)
( ゚д゚ ) 学生と先生の怪奇夜話、のようです (´・_ゝ・`)
-
百選入ったやつで名乗ってないもの
(´・_ゝ・`)奴からはカフェインが滲み出ているようです
( ・∀・)滑落、ふたりぼっちのようです
ふたりかくれんぼのようです
夜の校舎のようです
こんな感じです
ブーン系のホラーといえばこの人、みたいな認識をされるようになりたい
-
圧巻だなぁ
-
まあほぼ全部読んでるんだよなあ
-
行灯業者穴本だったのかよ
これ即興じゃなかったっけか
たまげたなあ
-
元々こいつのっとり即興が本業みたいなところあったからな
にしてもほんとすげーわ
-
滑落もあんたかよマジか
-
拳の王とかのっとりだったよな…
ホント面白かったわ
-
怪奇夜話やっぱりお前だったのか!
前に見た過去作品一覧では載ってなかったからびっくりしたわ。
-
今回の投下がなければ俺がこの時期にせいとかいと( ∴)と怪奇夜話のリレーをすることはなかったはず
いつも面白い作品を本当にありがとう次は幽霊裁判読んでくる
-
ふたりかくれんぼもだったのか…
-
知ってた奴だけでもかなり百選に入ってるなあとは思ってたが
長編とか子守旅以外全部入ってるもんなぁ
-
作家にならないの?
-
ニュッデレといえばこの人
-
>>728
わりとこれ
-
割とっていうかそもそも創始者だろ
-
http://ssks.jp/url/?id=348
-
この作品が終わってから幽霊裁判を読み返してるんだけど、やっぱり面白いわー
アサピーとツンの絡みが大好き
読み終わったら未読の怪奇夜話も読んでみるよ
-
過去作を教えてくださってありがとうございます
カフェインは支部で見たため読んでいましたが
滑落もふたりかくれんぼも夜の校舎もとは…
けれど言われてみればあのクオリティ、納得です
子守旅だけがまだだったようなので近々読んできます
でも読み切ってしまうのも少し勿体ない気がしますね
>>713
1、2年前時点での過去作一覧は知っていたのですが、
最近の作品を含めた全作はわからなかったのです
-
結構まだ読んだことがないのが多かった
作者さんありがとう、質問してくれた>>712にも感謝
-
ブーン芸さん、以下の投下はまとめないでいただけるとありがたいです
-
ζ(゚、゚*ζ ザクザク
キャベツ。
ζ(゚、゚*ζ トントントン
ねぎ。
ハハ ロ -ロ)ハ 〜♪ ゴリゴリ
長いも。
ζ(゚、゚*ζ ガサガサ
玉子、乾燥小エビ、刻みスルメ、天かすを用意。
ハハ ロ -ロ)ハ グルグル
水で溶いたお好み焼き粉に先程すり下ろした長いもを入れて。
ζ(゚、゚*ζ マゼマゼ
準備しておいた具材と混ぜていく。
お好み焼き粉は既に出汁が入っているので一手間ぶん楽だ。
-
お?
-
ハハ*ロ -ロ)ハ ζ(゚ー゚*ζ デキタ
デレは大きなボウルいっぱいの生地と追加の具材を、
そしてハローは食器棚の脇に置かれていたホットプレートを2つ抱え、順番に厨房を出た。
¥;・∀・¥「……」
(´-;;゙#)"
テーブルに伏せていたマニーが顔を上げ、
彼の背を摩っていたびぃは視線のみを持ち上げる。
¥;・∀・¥「……? これから焼くのかい」
ζ(゚ー゚*ζ「はい!」
-
──「夢」、10日目。
今夜は関西風のお好み焼きを食べよう。
.
-
スレ埋め番外 あな美味しや、ゴシック小説・の番外
.
-
じゅわあ、と生地の焼ける音が心地よい。
ホットプレートに引いた油が、生地の縁の下でぱちぱち弾けている。
Σ(´-;;゙;) ビクッ
¥・∀・¥「大丈夫だよ、びぃ」
ぱちんと大きく響いた音に、びぃが跳ねた。
少し前、デレがプレートに生地を落とした瞬間から
彼女はびっくりしたように立ち上がってマニーの後ろに隠れたのであった。
-
(´-;;゙;)「す、すごい音してる。危なくないの……?」
ハハ ロ -ロ)ハ「近くにいると、油が跳ねて手につくカモしれマセン」
(´-;;゙;)「跳ねる? の? 手についたら、どうなるの?」
ハハ ロ -ロ)ハ「熱いデスヨ、そりゃ」
ハローの説明に、びぃはぴくりと身を震わせ、マニーの肩を掴んだ。
(´-;;゙;)「ま、マニー様、離れなきゃ」
¥・∀・¥「そんな大したことじゃないんだよ、びぃ。
熱いといっても、ちょっとちくっとするだけだ」
ζ(゚、゚*ζ「びぃさん、お料理はあまりしないんですか?」
デレが問うと、何が可笑しかったのかマニーがくつくつ笑いながら頷いた。
-
──今日は、マニーを挟む形でデレとハローが座っている。
びぃは先述通りマニーの背後にいるので都合がいい。
3人の目の前にはホットプレートが2台。
片方のホットプレートでは大きめの生地を一つ、
もう片方ではそれよりやや小振りの生地を2つ焼いている。
無論大きい方がマニーの分、それ以外はデレとハローの分だ。
ホットプレートはコンセントに繋がなくても使えた。
調理に関してはとことん便利な世界である。
-
(´-;;゙;)「ど、どうしてここで作るの?」
ζ(゚ー゚*ζ「お好み焼きって、焼けるのを眺めたり引っくり返したりするのも含めて
食事の楽しみ、って感じありません?」
まあ祭の屋台で見るような、既に焼かれているお好み焼きだって食べるけれど。
じゅわっと焼ける音や香り、ぺたんと引っくり返す感触も、
お好み焼きを味わう上ではそれなりに意味のある行為だとデレは思っている。
びぃはいまいちよく分からないのか首を傾げていた。
色々と謎な女性だが、食事というものにおいては特に読めない。
どういった食生活を送っているのだろう。気になる。けれど訊くのも失礼な気がする。
もしかしたら元々一般人だったマニーと違って、
こちらは生粋のお嬢様なのかもしれない。
料理は全て使用人に任せるような。──でもマニーのことを「マニー様」と呼んでいるし。
やっぱりよく分からない。
-
¥・∀・¥「いい匂いがする」
ζ(゚ー゚*ζ「ですねー」
焼ける生地と油の匂い。空腹のマニーには酷かもしれない。
ぱちぱちじゅわあ、なんて音だけで既に挑発的なのに、
香りや、焼けていく生地の姿まで目の前で捉えてしまうのだから。
例によって強制的に空腹感を覚えさせられているデレもかなり辛いのだから、
こちらより更に腹を空かせているであろうマニーにはもっと厳しい筈だ。
一応焼き始める前にマニーに確認はとっているし、彼自身が構わない、見たいと言ったのだが、
それでも独りよがりだったかなと今さら小さな罪悪感が湧いてしまう。
-
ハハ ロ -ロ)ハ「ソロソロ引っくり返す?」
ζ(゚ー゚*ζ「そうですね、そっちはハローさんお願いします。
マニーさん、出来そうですか?」
¥・∀・¥「どうだろう……少し大きいから」
ハローがぽんぽんと手早く2枚引っくり返している間に、
デレはびぃと場所を替わってもらった。ハローからフライ返しを2本受け取る。
マニーの両手に一本ずつ握らせ、更にその手を後ろからデレが握った。
背もたれが高いため真後ろからは無理だったので、彼の左斜め後ろから身を乗り出すような感じで。
当然彼の左半身へ自分の体を押しつける形になる。申し訳ないし気恥ずかしいが、仕方ない。
手が重なった瞬間、マニーがほんの少し肩を竦めた。
-
ζ(゚、゚*ζ「ごめんなさい、嫌でしたか」
¥・∀・¥「いや」
大丈夫。
そう答えるマニーの声は、先よりも幾らか硬くなっていた。
不快なわけではなさそうだ。かといって照れているのでもなさそう。
気にはなったが、さっさとお好み焼きを引っくり返さないと。
ごめんなさいと謝ってから、デレはマニーの手を誘導した。
ζ(゚、゚*ζ「素早くやりましょうね、でないと崩れちゃうかもしれません」
引っくり返す瞬間は、デレの手はただ添えるだけに留める。
少々危なっかしいながらも上手く出来た。こんがり焼けた面が崩れずに上を向く。
マニーの口元が緩むのを見て、やっぱり本人に任せて良かったと思う。
一方、じゅう、とまた激しく響いた音に、びぃが「ひゃあ」と小さな悲鳴をあげていた。
生地に乗せた豚バラ肉が下面になったので音が些か大きい。
-
ζ(゚ー゚*ζ「もう少し待ってくださいね」
言って、近くに置いていた蓋(ホットプレートに付属していた)を見やる。
蓋をすればしっとりふわふわになるし、火の通りが早い。
マニーの分は蓋をした方が良さそうだ。生地を厚めにしている分、時間もかかるので。
それに、恐らく今のままだとデレ達の分と完成する時間がずれるし。
ζ(゚ー゚*ζ「こっちは蓋しましょう」
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシ達の方は?」
ζ(゚ー゚*ζ「んー……ハローさんがしっとりした方が好きなら」
今のデレは、しっとりふわふわより、もうちょっとしっかりした歯応えを味わいたい気分だ。
小首を傾げたハローは壁にかかる大きな時計(針は動いていないが)を見上げて、いいや、と答えた。
好みではなく、多分、完成時間のズレの方を考えたのだろう。
とりあえずデレはマニーから右手を離し、
蓋を持ち上げて、目の前のプレートに被せた。
こもる音に、びぃが安堵したように息をつく。
-
ζ(゚ー゚*ζ「びぃさん、別にお好み焼き恐くないですよ」
(´-;;゙;)「うん……」
びぃに微笑みかけ、ふと、まだ左手がマニーの手を掴んでいることに気付き、
慌てて離そうとした──のだが。
ζ(゚、゚*ζ「……マニーさん?」
いつの間にやら、マニーの左手がデレの手を掴んでいた。
ひやりとした指輪の感触に、反射的に指が震える。
¥;・∀・¥「あ──すまない」
我に返った様子で、マニーがいくらか大袈裟に左手をどけた。
何だろう。やけに左手を見られていたような。
訝るデレから目を逸らし、彼は下ろした手を膝に乗せると、指輪を摩った。
.
-
火が通った頃合に、もう一度引っくり返す。
マニーの分は、蓋を外した状態で両面を軽く焼き直した。表面をかりかりさせたかったので。
ζ(゚ー゚*ζ「──出来ました!」
仕上げにソースとマヨネーズ、青のり、かつお節。
皿へ移したお好み焼きに、ハローとマニー、デレが拍手をする。
びぃがすっかり静かになったホットプレートを覗き込み、つつこうとしたので慌てて止めた。
-
ハハ*ロ -ロ)ハ「それじゃあ食べマショウ。お腹ぺこぺこ」
いつもの席に戻る。びぃもマニーの隣に。
湯気と香りを放つお好み焼きに、ごくり、喉が鳴る。
手を合わせ、いただきます、とデレが言えば、続けてマニーとハローも声を揃えた。
数日前の昼にニュッが食べていたのを何となく思い出したのと、
デレの母がよく作ってくれたから、お好み焼きにしてみたが。
果たしてこれは正解だろうか。それとも今日も不正解なのだろうか。食べ終わってみなければ分からない。
ζ(゚、゚*ζ(とりあえず食事を楽しもう……)
まずはソースのかかっていない端っこを箸で一口大に割る。
ぱり、と小気味よい音が鳴った。
割れたところから、更にほわっと湯気と香りが立つ。
もちろん熱々。息を吹きかけ、口に含む。
-
ζ(゚、゚*ζ パリッ
きつね色の焦げ目が香ばしい。
中はふわふわというよりはふっくら、少しもっちり、そしてこれまた少し、とろり。
デレ好み。山芋がいい仕事をしている。
デレはお好み焼きを作るとき、いつも天かすを心持ち多めに入れる。
だって、
ζ(´、`*ζ「ん」サクサクッ
表面に浮き出た天かすが、じっくり焼かれたことで、さくさくのかりかりになるのだ。
そのスナックのように軽い食感が堪らない。
-
ζ(´ー`*ζ モチリ
表面のぱりぱりさくさくを堪能して、今度は内部にも意識を向けた。
やはりお好み焼きだ、たっぷり入れたキャベツと真っ先に出会う。
キャベツの優しい甘み。芯に近い部分の、こりこりした感触も楽しい。
ζ(´ー`*ζ ハフハフ
乾燥小エビに刻みスルメに天かす。とにかく旨味を出すために混ぜ込んだ食材。
勿論しっかり貢献してくれており、お好み焼き粉の出汁と相俟って、深い味わいを生んでいる。
どの食材も多すぎるとクドくなる。今回はどれも程よいバランスで、もう、ただひたすら純粋に美味い。
コクの深さはいっそ暴力的だが、全体的な印象としては、まったり穏やかな旨味。
それに浸るため、よく噛む。噛む度に美味しいと思う。
-
飲み込んで、一息。
今日のドリンクは烏龍茶だ。
でもデレはきっと、食べるのに夢中であまり飲み物には手をつけないだろう。
風味を口の中に馴染ませておきたいのだ。
ハハ*ロ -ロ)ハ サックリ
¥*・∀・¥ フカフカ
(´-;;゙#)「美味しい?」
¥*・∀・¥「すごく」
あんなに恐い音してたのに、とびぃが疑わしげにお好み焼きを眺める。
しかし頬を緩ませているマニーを見ると、彼女も嬉しそうに微笑んだ。
とりあえずマニーとハローの口に合ったらしいのを確認して、
再び自分の皿へ箸を向ける。
今度はソースとマヨネーズが掛かった部分を割って口に入れた。
-
ζ(´、`*ζ ホワッ
香りが強い甘めのソース。塩気と酸味があるのにまろやかなマヨネーズ。
それらがとろとろと生地を滑らかに包み、混ざり合い、
キャベツの甘みや出汁と具材の風味をまた別の味わいに変化させてくれる。
ζ(´、`*ζ(ソースとマヨネーズの組み合わせは強い……)
濃厚なソースだけでは甘さが強くなる。
そこをマヨネーズの酸味が上手いこと調整してくれるのだ。
-
ζ(´、`*ζ ハフハフ
ζ(´〜`*ζ モチョモチョ
三口目は、ソースとマヨネーズの上に
青のりとゆらゆら揺れるかつお節まで乗ったところを切り取る。
下には焼けた豚バラ肉も。
要は、今回使った全ての食材が口の中に収まるわけで。
ζ(´ー`*ζ フワーッ!
それぞれの美味しいところがそれぞれを更に美味しくさせて、口内に広がっていく。
一切ムダが無い。
-
熱も香りも食感も、もちろん味も、全てが幸福感を運んでくる。
今回はシンプルなネタにしたが、シーフードとか玉子とかチーズとか、
正に「お好み」で具材を足せばまた一味違う魅力が湧いてくるのだから
お好み焼きの可能性は無限大だ。
ζ(´ー`*ζ(好き)
飲み込んでからも、口に残るソース諸々の後味をゆったり楽しむ。
それから皿を見下ろして、まだ3分の2以上も残っていることに喜びを覚えた。
ぺろりと唇を舐め、また天かすのさくさく感を味わうために端っこへ箸を伸ばす。
*****
-
ζ(゚、゚;ζ「むーん」
それでも残念ながら、お好み焼きも不正解だった。
食べている間はとても幸せな気分なのだけれど、
こうしてマニーが死んで夢から覚めてしまえば、食事の余韻には浸っていられない。
髪を梳かしながら、今夜は何を作ろうかと考える。
今日は土曜日。図書館の何人かにメニューの相談をしてみようか。
ハハ ロ -ロ)ハ「……」
ちらと横目にハローを見ると、何やら神妙な顔で凝視されていた。
-
ζ(゚、゚*ζ「?」
ハハ ロ -ロ)ハ「デレってオ金持ちナラ誰でもイイの……?」
ζ(゚、゚*ζ「えっ何ですかいきなり失礼なんですけど」
ハハ ロ -ロ)ハ「夢の中デハ黙っておきましたケドネ、
アナタあんなに金井サンと密着した挙げ句に手を握り合って……」
ζ(゚、゚;ζ「待って待って待って」
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシちょっとニュッ君に言いつけるベキか悩んでるんデスケド……」
ζ(゚、゚;ζ「ニュッさん関係なくないですか?」
ハハ ロ -ロ)ハ「……」
こいつマジか、という目を向けられたが、
何故そんな目をされなければいけないのかがデレには分からない。
自分のことに関してはとことんぽんこつなのだ。略してとんこつ。
-
ハハ ロ -ロ)ハ「……マア、ニュッ君は置いといて。
デレ、金井サンは独身の男性なんですカラネ。
不用意にべたべたくっついたらイケマセン。既婚者デモ良くないデス」
ζ(゚、゚;ζ「お好み焼き引っくり返すの手伝っただけ……」
ハハ ロ -ロ)ハ「ナラ引っくり返したらスグに離れるベキです。しばらくくっついてたデショウ」
ζ(゚、゚;ζ「そ、そこはうっかりですけど、でも、しばらくっていうほどじゃ……。
……まあ私が軽率だったのは認めますけど、
でもハローさんが言うことですか!? ハローさんだっていつも誰かにくっついたりちゅーしたり、」
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシは仲いいヒトにダケだからイイの!
テイウカその、ワタシが見境ない尻軽みたいな言い方やめてクダサイ。
チャント弁えてマスヨ。キスもほっぺマデだし」
ζ(゚、゚;ζ「それ弁えてるんですか?」
-
ハハ ロ -ロ)ハ「ニュッ君と館長とツンとおじいちゃんとデミタスと貞子とクックルとしぃとでぃとショボンにはチューしたコトあるケド
他の人には抱きつく程度デスシ!」
ζ(゚、゚;ζ「だからそれ弁えてr……
モララーさん仲間外れじゃないですか!? 可哀想ですよ!」
ハハ ロ -ロ)ハ「モララーは何か癪」
ζ(゚、゚;ζ「本当に仲いいんですか? 変な溝とかありませんか?」
説教をされていた筈が、何故かモララーの不憫さが露呈していた。
何の話だったっけ、とデレが考え込む。
ハローも話が逸れているのに気が付いたらしく、二、三度頭を振った。
-
空腹がやべえよ
-
ハハ ロ -ロ)ハ「アンナ密着してサポートする必要ナイですカラネ、
引っくり返すの失敗シテモ、失敗しちゃったアハハで済むんデスカラ」
ζ(゚、゚*ζ「でもやっぱり綺麗なの食べてほしいし……」
ハハ ロ -ロ)ハ「アレがしぃだとしても、デレはぴったりくっついて手伝ってあげるんデスカ?」
ζ(゚、゚*ζ「いやそれは絶対にしませんけど……」
〜食堂〜
(*゚ー゚)「何かおっぱいが遠ざかる気配感じたな今」
(´=_ゝ=`)"「でぃ、お醤油とって……」ネムイ
(#=;;-=)"つ占 フラフラ
ξ゚⊿゚)ξ「ちゃんと目を覚ましてから来なさいね」
(*゚ー゚)「何かおっぱいが遠ざかる気配感じたな今!!」
( ^ω^)「何回言っても触れてやらんからな」
(;゚∋゚)「触れてるじゃないか」
〜〜〜〜〜
-
ハハ ロ -ロ)ハ「ソウイウね、警戒心を他のヒトにも持ってクダサイ。女の子トシテ」
ζ(゚、゚;ζ「はあ……いやでもやっぱり、あの状況は仕方ないというか。
別に私もマニーさんも下心ないし、マニーさんそういう人じゃないと思うし、」
ハハ ロ -ロ)ハ「たしかに金井サンは館長なんかに比べれば節度のあるヒトだろうトハ思いマスが、
彼にしろアナタにしろ、人間ナニがあるか分かりませんカラ」
ζ(゚、゚;ζ「うう……何なんですか、どうしてハローさん急にこんな真面目にお説教なんか」
ハハ ロ -ロ)ハ「チョットやきもち」
ζ(´ー`;ζ「うわあ理由かわいかった」
-
ハハ ロ -ロ)ハ「なんか大体言ったらスッキリしました、モウ好きにしてイイデス。
金井サンに色々と気を遣うべきなのは確かデスしネ。
それにアト4日しかないカラ、マアそうそう変なコトにはならないデショウ」
ζ(´、`;ζ「何だったんですか今の時間」
ハハ ロ -ロ)ハ「デモ無闇に優しさ振り撒く前にチョットやり方とか考えた方がイイのは本当デスヨ」
ζ(´、`;ζ「とは言われましてもね……」
とりあえず話は一段落ついたらしい。
ハローが着替え始めたので、デレは背中を向けた。
──夢の中でマニーに握られた左手を見下ろす。
あのとき、実は、ほんの少し寒気を覚えた。
握られたことが嫌だったわけではない。驚きはしたけれど。
手ではなくて──
マニーの目に、ひどく心許ない気分にさせられたのだ。
-
数日前にも向けられた目付きだった。
たまに、あの目でデレを見てくる。一瞬だけ。
最初にあの瞳になったのは──
ζ(゚、゚*ζ(……カレー食べた日か)
3日目。カレーライスを食べて、マニーが「餓死」する間際。
デレが思わず、ごめんなさいと謝ったときだ。
何がどうマニーの心に触れたのかはよく分からない。
決して好意的な目ではない、と思う。
かといって敵意があるわけでも、恐らくない。
何なのだろう。
-
ζ(゚、゚*ζ(うーん……)
マニー自体は穏やかで、いい人だと感じている。
危険な部分があるようには見えない。
だから彼に警戒心を抱くことはないのだが。
ハハ ロ -ロ)ハ『彼にしろアナタにしろ、人間ナニがあるか分かりませんカラ』──
ハローの言うように、こちらが抱くマニーのイメージにも変化が起こり得るのだろうか。
この認識が引っくり返されることも、あるのだろうか。
ぺたんと。お好み焼きみたいに。
-
ζ(゚、゚*ζ「……」
──だとしてもやっぱり、マニーは、きっといい人だろうと思うのだ。
お好み焼きだって、引っくり返しても美味しさは変わらない。
だからデレは今夜もマニーのために精一杯おいしいご飯を作りたいし、
手伝えることは出来る限り手伝いたい。
実際のところハローだってそうだろう。
着替え終わったハローへ視線を送ると、彼女は小首を傾げた。
それから何故か、お腹を摩る。
ハハ ロ -ロ)ハ「マタお好み焼き食べタイ。今度は色んなトッピングありで」
ζ(゚ー゚*ζ「お昼にお好み焼き屋さん行きましょうか」
呟きにそう返せば、行く、と元気な答えが寄越される。
注文するとき、デレの分は天かす多めにしてもらおう。
なんて考えていたら。
-
ζ(゚ー゚*ζ(……あ、天ぷら食べたい……)
あのさくさくの衣をまとった海老やらカボチャやらちくわやらが食べたくなってきた。
揚げたての天ぷらに、ほんのり温かい天つゆをちょっとだけつけて。
あるいはシンプルに塩だけつけるのもいい。
今夜の夢は天ぷらを作ってみようか。
唐揚げやコロッケなど、マニーは揚げ物が好きなようだし。
もしかしたら天ぷらも好物かもしれない。
-
ζ(´ー`*ζ(あとでハローさんに相談してみよ)
直前まで真面目に考え込んでいた頭が、あっという間に美味しそうな食べ物で染まっていく。
ぺたん。引っくり返る思考に、デレの表情も緩んだ。
おしまい
-
残り300レス近くなら頑張れば埋められるんじゃないかと思ったので
やっぱ無理かなとも思いつつ
というわけで何か、こういうのが見たいとか小話のリクエストみたいなのあったらお願いします
だらだら書いてきます、もしくは描きます
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乙
人気作家になるとJKが後ろから抱きついてくれるらしいので今から小説家を目指すことにしました
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乙です!お好み焼きの描写がたまらん……今すぐお好み焼き食べたくなった。
マニーさんデレちゃんのおっぱい当たったのかな……羨ましい
>>770
せいとかいとか怪奇夜話とか幽霊裁判とかとのクロスオーバーが読みたいです!
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乙です!
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クロスオーバーネタなら
子守旅のデレとコミュニケーションを取ろうとしたら精神をバッキバキにされて勃起不全になるニュッ君をください
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とりあえずニュッくんが苦しんでくれればなんでもいいです!
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モナー過去編お願いします!
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ニュッくん運転免許取得編おなしゃす
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久々にビコーズ先生が見てみたいです!
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ちらっとだけやった厨二小説を番外編レベルまで膨らせたものが読んでみたい
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子守旅とのクロスオーバーみたいなーチラッチラッ
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官能小説の世界がみたいけどみたくなくなくない?
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キュート噴死
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もらった高級肉を食べるシーンという飯テロ
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>>759で吹いて>>763でとどめ刺された
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寒いからポタージュ飲みながら番外編読んでた。
ポタージュはドロッとしてるけどダマがないのが好きです
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胞子まき散らかしてほしい
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番外編が関係なくなるけど渡辺とビコーズ先生の絡みもまた見てみたいね
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ふざけんな腹減った
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なんで俺は早朝から本格パスタを作って1人で食ってんだ。。
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朝っぱらなのに急激に腹減ったガッツリ肉焼いてやる
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ちくしょう・・・朝食べる時間がない・・・ちくしょう・・・
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2時間後には試験だが関係ねぇ!暴食だ!!
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幽霊裁判の番外編とかも読みたい…なって…
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私の推測によると>>1が言いたいのはあな本の小話であって他の作品の小話ではないと思います眼鏡クイ
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貞子の話を読みたい
-
眠ったところを男2人に誘拐されたデレちゃんは学校でその後噂になったりしませんでしたか
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あな本全体で良いならキュートとクックルのお話しが読みたい
今回と関係した話ならマニーさんと図書館の面子で(当然デレも)鍋食べるのとか読みたい
-
やはりビコーズ先生にご登場願いたい
-
>>794
ごめんなさい、他の作品単体でのリクエストはひとまず見送らせてください
-
>>773
「──罪名及び罰条!
呪詛の罪、おばけ法第75条。
つきまといの罪、第88条──」
(*゚ー゚)「以上の事実について、審理を願います」
.
-
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
-
ζ(゚、゚;ζ「デミタスさんとハローさんと貞子さんの合作、ですか?」
( ^ν^)「3人の得意分野をごちゃ混ぜにした話だったな」
ζ(゚、゚;ζ「3人の得意分野って、つまり……」
( ^ν^)「ミステリとサスペンスとホラー」
ξ゚⊿゚)ξ「そういやさっき、内藤君を大人にした感じの人に会ったわ。甘い匂いと金の匂いがしてた」
( ^ω^)「僕も、ツンさんを若くしたような人と話を……
あ、でもツンさんと比較にならないくらい綺麗だったし大人しかったですけど」
ξ゚⊿゚)ξ「ただでさえ若くてお淑やかな絶世の美女である私を更に濃縮……?
そんな存在を本当に見たのなら、内藤君なんか全身痙攣させて失神しちゃうでしょうに」
( ^ω^)「会話する気力を削ぐことに関しては本当に天才的ですお、あなた。
──それよりほら、検察側の証人が出てきますお。集中しないと」
.
-
ζ(゚、゚;ζ「……ぱられる?」
( ^ν^)「複数の平行世界が繋がっちまったところから話は始まる。
……これがマジで平行世界とやらが繋がった結果なのか、
それとも『本』が作り出した世界の中に俺らが放り込まれたのか……」
ζ(゚、゚;ζ「さすがに後者じゃないですか?」
( ^ν^)「だとしたら原作との食い違いが多すぎるんだよな……。
……ここらへん考えても答えは出ねえし、出すのも何か恐いから一旦やめよう」
ζ(゚、゚;ζ「……ともかく、いま私達は、その『本』に演じさせられてるわけですよね」
( ^ν^)「そうなる」
ζ(゚、゚;ζ「デミタスさんとハローさんと貞子さんの書いた『本』に?」
( ^ν^)「そうなる」
ζ(゚、゚;ζ「ミステリでサスペンスでホラーな『本』に?」
( ^ν^)「そうなる」
ζ(゚、゚;ζ「……だからって……」
ζ(゚、゚;ζ「幽霊が起こした事件の裁判なんて有りですか!!?」
.
-
【+ 】ゞ゚)「それでは証人……被害者の1人でもあるんだったな。
証人、事件について証言を」
「……」
【+ 】ゞ゚)「……」
「……」
【+ 】ゞ゚)「……証人?」
「……」
【+ 】ゞ゚)「……おーい」
川#゚ 々゚)「オサムを無視するなんて……!!」ギリィッ
「……」
「……ねえ」
「え?」
('、`;川「さ、裁判長? が、証言してって言ってるんだけど。先生に」
(´・_ゝ・`)「……何を?」
.
-
('、`;川「何をって。私も状況よく分かってないけど、ほら、あれ。
心霊写真とかのことじゃない?」
(´・_ゝ・`)「ああ、え、これ、本当に始まってるの?
変な弁護士さんと変な少年と変な検事さんと変な刑事さんと変な傍聴人が数人と変な伊藤君が居るだけじゃないか。
幽霊は?」
('、`;川「変な教授が何言って……──って、先生、これでもおばけ見えないの!?
ぎっしりいるわよ!?」
ξ;゚⊿゚)ξ「へ」
(;*゚ー゚)「はあ!? 見えてないだと!?」
( ^ω^)「霊感が無い人でもおばけが見えるように、結界を張ってある筈じゃ?」
(´・_ゝ・`)「そう聞いてるけど。さっきから君達がちょくちょく虚空に話しかけてるからリハーサルかと思った」
(;*゚ー゚)「……神社の職員め、手を抜いたか」
(,;゚Д゚)「いえ……極々稀に、そういうのも撥ねのけちゃうくらい強烈な『鈍感さん』がいるらしいわよ……。
実際に会ったのは初めてだわ」
(´・_ゝ・`)「……まーた僕だけ仲間外れか。ずるいなあ」
('、`;川「……私は先生が羨ましい」
【+ 】ゞ゚)「本当に見えてないんだな」
川;゚ 々゚)「うん、嘘のニオイしなかったよ……」
.
-
ζ(゚、゚;ζ「主人公は誰なんですか? さっさと本を回収して、朗読で演じ終わらせれば──」
( ^ν^)「……分からない」
ζ(゚、゚;ζ「はい?」
( ^ν^)「この『本』の主人公は、何か特別な役割で物語に関わってくるわけじゃない。
事件に関わることもない。
警察や弁護士に助言するでもないし、いち早く真相に気付くわけでもない」
ζ(゚、゚;ζ「?」
( ^ν^)「──傍観者なんだ。モブの一人による一人称視点。
語り部は本当にただの傍観者でしかない。何の個性もないし名前すら出ない」
ζ(゚、゚;ζ「へ……? じゃ、じゃあ、探しようがないのでは……」
( ^ν^)「『本』に触れないことには『主人公』に選ばれることもないわけだから、
俺達と同じ世界から来てる奴らの中に『主人公』がいる筈だけど。
──まあ、こんな状態じゃ、誰がどの世界から来たか見極めるのも難しいな。モブなら尚更」
*****
-
TRPGのシステムちゃんぽんを思い出した
支援支援
-
ξ゚⊿゚)ξ「へー、ほんとにおばけの裁判やってるんだ。
こっちにもそんな法律あったら、クーやモララーは誘惑罪とやらが適用されんのかしら?」
(*'A`)「クーさんの色香はたしかに罪だよなあ……なのに俺の方が愛の牢獄に囚われちまったぜ……へへっ」
<_プー゚)フ「どうしたドクオ、いつにも増して気持ち悪いぞ!」
(;^ω^)「……ちょっと待って、うちの学校ひょっとして犯罪者だらけじゃないかお?」
<_フ´゚ー゚)フ「……俺も憑依罪くらっちゃいそうだなあ」ションボリ
(;^ω^)「うわあああっ、平和な学校だと思ってたのに!
ど、どうしよう、警察の人達が学校に来るんだお!?
みんなに大人しくしててもらわないと!」
(*'A`)「そうだな! 女おばけは俺が面倒見とく! 特に破廉恥なクーさんは俺が傍についててやらないとなぐひひひひ!」
ξ*゚⊿゚)ξ「ミルナは美少年の罪で捕まっちゃいそうだから私が匿ってあげるわぐへへへへ!!」
(;^ω^)「駄目だこの2人から何とかしないと!!」
<_プー゚)フ「手遅れだと思う」
*****
-
( ^ν^)「おーおー、照屋よりは可愛げがあるじゃねえか。
あいつもこんぐらい素直で馬鹿なら扱いやすいしペットとして可愛がってやれるんだがなあ」グリグリ
ζ(;、;*ζ(こっちのニュッさん恐い何かやだニュッさん助けて、あああややこしいもうやだ)
ξ゚⊿゚)ξ「おい何しとんじゃ陰険クソインポ。
照屋刑事に弄ばれてる腹いせにJKにイタズラかます気?
おまわりさーん早く来て〜」
( ^ν^)「男っ気なさすぎて中学生とおばけ侍らせてる奴に言われたかねえな。
可哀想になあ、普通の人間に相手されなくてなあ……
おう内藤、大丈夫か? 欲求不満のクソ貧乳に食われてねえか?
何かあったら言えよ、お兄さんが一頻り笑った後に助けてやるぞ」
( ^ω^)「実はツンさんが時々いやらしい目で僕を……」
ξ゚⊿゚)ξ「貴様」
ζ(;、;*ζ(私の知ってる内藤さんとツンちゃんとニュッさんじゃない……逃げたい……)
-
ただのガサ入れじゃねーかwwww
-
ζ(´、`;ζ「あうう、お腹すいた……私のご飯はどこ行きましたかね……」グウゥ
ζ(゚、゚;ζ「あ、ご飯……もといニュッさん! やっと見付け──うん?
あら、ニュッさん、に似てる、けど違う人かな……?」
( ^ν^)(デレの奴どこ行った。あの馬鹿)ウロウロ
ζ(゚、゚;ζ「……」
ζ(゚、゚*;ζ グウゥゥゥウ
ζ(゚、゚*;ζ(どこか怪我してるんでしょうか、美味しそうな匂いがする……
普段いいもの食べてる人の血の匂いだ……
それにあのファッキン陰険クソインポほど性根が捩じ曲がっちゃいないようですね)
ζ(゚、゚*;ζ(あああお腹空いた、飲みたい、血、血……美味しい血……
……ちょ、ちょっと、吸っちゃいましょうか、
ニュッさんと間違えちゃったことにして……いえ、あれはニュッさんです、ニュッさんなんです)
ζ(゚、゚*;ζ(私がうっかり噛みついて吸血してしまっても、仕方ないことです……
ニュッさんに似てるのが悪……いえ似てるとかじゃなくてあれはニュッさんです、
だから私が今から彼の血を吸うことも当然なんです、ええ、それはもう)
ζ(゚、゚*;ζ「……」
ζ(゚、゚*;ζ「……い、いただきまあす!!」
*****
-
川 ゚ -゚)「本当に私のことが見えていないのか?
この学校、立地条件の関係でおばけが実体化するようになってるんだが」
(´・_ゝ・`)「……」
('、`;川「……見えてないみたい。ごめんなさい」
川 ゚ -゚)「いや、謝らなくていい。
しかし参ったな、訊きたいことがあったんだが……」
('、`;川「私が通訳やろうか?」
(´・_ゝ・`)「伊藤君、なに、そこに何かいるの?
どんなの? 足ある? 首なし? 出血は?」
('、`*川「高校生ぐらいの女の子。
素肌にセーラー服着てて、上着の前は開けっ放しで
スカート短くて網タイツつけててガーターベルトもつけてる……」
(´・_ゝ・`)「うわ」
川 ゚ -゚)「物凄い蔑みを込めた目だな……こっち向いてたらさすがの私でも泣いてたかもしれん」
('、`*川(……顔とか色っぽい雰囲気とか、うちの衣装人形に似てるなあ)
-
(´・_ゝ・`)「色情霊かな。そこまで下品だと見えなくて良かったのかもしれないとさえ思える」
('、`*川「でも美人ですごくスタイルいいよ」
(´・_ゝ・`)「そうか。見られなくて残念だな」
('、`;川(棒読みだと本気なのか冗談なのか分かんない)
*****
-
(;*゚ー゚)「うわ───ん!! 色情霊来い! 来いよ! 訴えないから来てよォ!! 満足させてやるからよ!!」
(#´;;-`)
川д川「色情霊じゃなくて『主人公』探すのよお……」
(;*゚ー゚)「無理だってえ〜〜!! 諦めよ、諦めてこの世界楽しもう?
色情霊ってどうやったら来る? 脱ぐ? 脱げばいい?」
ハハ ロ -ロ)ハ「おばけトカ関係なく普通に捕まるカラやめて」
(*゚ー゚)「あっ、分かったぞ! 警察とか検察にいれば、罪を犯した色情霊が向こうからやって来るもんな!
何だよ〜私に似てたあの検察官、それが目的だったのかあ〜。
私に似てるのにスケベじゃないわけがないと思ってたんだよなあ〜あの淫乱が!」
ハハ ロ -ロ)ハ「おばけトカ関係なく普通に訴えられる発言もヤメテ」
川д川「あのしぃとこのしぃ交換していきましょ……あっちのしぃを連れて帰りましょ……」
ハハ ロ -ロ)ハ「ア、じゃあアノ赤いマントつけてた普通にハンサムなモララーも交換していきマショウ」
川д川「どっかにマトモなショボンもいないかしら……」
(;゚;;-゚)ノシ
*****
-
【+ 】ゞ゚)「……弁護人? いつもと様子が違うようだが。
というか出連ツンではないな」
ξ゚⊿゚)ξ「……出連さんではないけれど、ツンです。図書館の司書をやっています」
川 ゚ 々゚)(としょかんの師匠?)
【+ 】ゞ゚)「隣の内藤ホライゾン、も、……別人だな」
(;^ω^)「内藤ホライゾンではありますお。中学生じゃなくて図書館の館長ですけど」
(;*゚ー゚)「何であなた方が弁護人席に立ってるんだ!
出連ツンはどこに行った!?」
(;^ω^)「何か直前になって、今なら重要な証拠を見付けられそうだから
出連さん達のふりをして時間を稼いでおいてくれと言って走り去っていきましたお」
(#゚ー゚)「稼げるか! 馬鹿か! 一瞬で見破られてるじゃないか!!」
(,;゚Д゚)「開廷前からキレないの、しぃ。
……どうするのオサムちゃん? ツン達が戻るの待つ?」
【+ 】ゞ゚)「うん……というか、俺はそこの内藤ホライゾンの隣の……」
「あ、開廷して結構です。必要ならば弁護人の代理やってみせますよ?」
【+ 】ゞ゚)「うちの禰宜に似ている男が気になるんだが……」
(´・ω・`)「ネギ? 僕は遮木ショボン。探偵ですよ」
.
-
……まともなショボンっていたっけ?
-
やべー
オールスターかよ
-
(#゚ー゚)「探偵が代理? ふざけてるのか!?」
( ^ν^)「まあいいだろ、カッカすんなよ嬢ちゃん」
(#゚ー゚)「……鵜束検事……!」
( ^ν^)「あのクソアマが戻るまで、俺らが事件について『お話し』するだけだ。
ただの雑談だよ、ちょっと裁判の真似事も混ざるかもしんねえけどな?
嫌なら座っとけ。俺がお喋りすっから」
(#゚ー゚)「……裁判長」
【+ 】ゞ゚)「まあ、まだ開廷の合図はしていないし、何を話しても裁判とは関係ない。自由にしろ」
(#゚ー゚)「……とのことだ、勝手にしろ鵜束検事! 僕は静観させてもらう。
その代わり弁護人が戻ってきたら、あなたには黙っていてもらうぞ!」
( ^ν^)「はいはい、ならお前も今からしばらくきゃんきゃん吠えんなよ。
──さて。昨日ぶりだな探偵様。相変わらず偉そうにふんぞり返りやがって」
(´・ω・`)「人のこと言えないだろ検事様。
っかあー、あの顔でナメた口きかれると最高に腹立つな。
……せっかくだし、楽しくお話ししましょうや」
-
(;^ω^)「ツン、僕やだお……下衆と下衆のぶつかり合いに同席したくないお……
巻き込み事故が多発する予感しかしないお……」
ξ゚⊿゚)ξ「私も帰りたいけれど、ショボン一人置いていくのも恐いでしょう」
(,;゚Д゚)「あーん、いつもより空気がぎすぎすしてるう」
.
-
せいとかいのショボンは比較的マシでは…?
-
ζ(゚、゚*ζ(『本』の通りなら、ひこくにん? の幽霊は本当に犯人だってニュッさんが言ってた)
ζ(゚、゚*ζ(言ってたけど……)
ζ(゚、゚*ζ(……悪い人に、思えなかったな……)
あな素晴らしや、せいとかいとフリーターと先生の幽霊裁判のようです
3016年春公開
-
乙
1000年待ちか、余裕だな
-
ワクワクするけど収集がつかないことこの上なし
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おまけ。生きた本と幽霊裁判の( ^ω^)ξ゚⊿゚)ξ
http://i.imgur.com/lZF73qf.jpg
髪型とかはあくまで一つのイメージなので、想像と違ってたら無視しといてください
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ブーン変態すぎかwww
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顔wwwwww
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なんという俺得ごった煮
公開楽しみにしてます何世先かはわからんが
>>825(アカン)
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ずっと表情の変わらないツンちゃんがとてもツボ
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まさかの先生登場ありがとうございます!
-
クソワロタ
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なんという夢のオールスター……
3016年まで生きねば
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こんな情報を入手しました!
極秘情報です。
マイナンバーの○○○
↓↓↓↓↓↓↓
http://www.girlsheaven-job.net/11/spa_fckagoshima/blog/17905452/
こんな事もマイナンバー
↓↓↓↓↓↓↓
http://www.girlsheaven-job.net/11/spa_fckagoshima/blog/17905452/
必要???マイナンバー
↓↓↓↓↓↓↓
http://www.girlsheaven-job.net/11/spa_fckagoshima/blog/17905452/
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>>825
流石にひくわー…
クロスオーバーで全て出てくるとどれがどれだかわかんなくなってきた
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カオスwww
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中学生( ^ω^)が( ^ω^)にあるまじき顔にw
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これがほんと大人ってどうしようもねぇなの顔か
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でもさぁ…ほんとに…
ツン胸ねぇなwwwwww
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いやっほおおおおおう!クロスオーバーありがとうございます!!本当にありがとうございます!!!こういうの大好きだ!!千年後ですね待ってます!
>>825
ブーン……
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千年後か、幽霊だろうけど読むわ
こうみるとオカルト関係の話が多いな、あな本もオカルトっちゃオカルトだし
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俺の中でこの作者はホラーとミステリーとオカルトと飯テロが好きな人
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>>840
作者も幽霊かそれに準じたものになっている(はずだ)から安心して待てるな。
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怪奇夜話大好きだからまた2人が見れて泣きそうな位嬉しい
もっかい一話から読み直して泣いてくるノシ
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「まともなショボン」でしばらく考え込んじまったよ!
-
わあああああクロスオーバー!!ありがとうございます〜〜!!
千年とか幽霊裁判傍聴してたらあっという間だな
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http://ssks.jp/url/?id=348
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あ、でも死後100年とか経つと消滅対象になっちゃうのか?
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>>847
神様になって裁判官やるか高位の幽霊になって補佐になるなりすればいいんじゃない?
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無駄話するとレス勿体無いからリク出すわ
ショボンの探偵事務所内でのやり取りとか書いて欲しい
ニュッくんが他の人たちとどういう風にコミュニケーション取ってるのか気になる
-
>>1の書く話はキャラが立ってて、同じ顔のAAなのにどの物語からのキャラかわかるから凄いなって再認識したわ
本当にみんないいキャラで好きだ
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>>775
>>781
http://imepic.jp/20160131/693060
http://imepic.jp/20160131/694500
http://imepic.jp/20160131/695130
精神折られた後に不能になってるという点では合ってるはず
髪型等はあくまでも一つのイメージ
-
>>776 >>778
夏だった。
「お出掛けしよっか。ホライゾンお兄ちゃんも一緒だよ」
まだ眠くて、夢うつつのまま母に着替えさせられていたニュッは、
その言葉で一気に目が覚めた。
現金な反応にくすくす笑った母が、ニュッの小さな体に引っ掛けたシャツから手を離す。
「お着替えして、歯みがきしようね。
早くしないとホライゾンお兄ちゃんが待ちくたびれちゃうよ」
(*^ν^)「ん」
急いでシャツのボタンを留め始めたニュッの頭を撫でると、
母はキッチンへ向かい、カウンターに置かれた大きな弁当箱を丁寧に包んで鞄へしまった。
その間にボタンを留め終わる。
この服のボタンは小さくて他のより幾つか多いし、シャツも硬めな生地だから
いつもはもう少しもたつくのだけれど、早く出掛けたい気持ちのおかげか、すんなり出来た。
-
きた!支援支援
-
「できた? えらいね」
普段から寝起きの悪いニュッのぐずつきを知っている母は、
しっかり靴下まで履き終えたニュッの頭をもう一度撫でてくれた。
もう5歳だし、これくらいは出来るのだが
やはり褒められれば嬉しいし誇らしい。
歯みがきとトイレもしっかり済ませて、母と手を繋いで家を出る。
家の前には、いつも伯父たちとドライブするときに乗る車が停まっていた。
(*^ω^)「ニュッ君おはようおー」
(*^ν^)「おはよう」
ニュッが「兄ちゃん」と呼んで親しんでいる従兄弟は、
挨拶しながらニュッを抱え上げると、くるりと一回転してからゆっくり地面に下ろしてくれた。
じい、じい、辺りに響く蝉の鳴き声。
今年も一緒に蝉の抜け殻を探してくれるだろうか。
-
( ^ω^)「今日はちゃんとトイレ行ってきたかお?」
( ^ν^)「行った」
( ^ω^)「えらいえらい」
この前のドライブでは、周りに何の建物も公園もないような場所を走っているときに
ニュッが尿意を催してしまい、ちょっとしたパニックになったのだ。
幸い、コンビニを見付けて事なきを得たが。
だから今日は、母に言われる前に自分からトイレに行った。
( ^ω^)「じゃ、車乗るお」
(*^ν^)「うん」
車の運転席に伯父が、助手席にニュッの父が座っている。
「兄ちゃん」はその後ろに伯母と並んで座った。
いつもみたいに兄ちゃんの隣が良かったなと思いつつ、
母の隣もやっぱり嬉しいので、ニュッはにこにこしながら車の最後列へ乗り込んだ。
(*^ν^)「おはよう、ございます」
伯父と伯母に、心持ち大きな声で挨拶する。
内気なところのあるニュッは、兄ちゃんにはとてもよく懐いているが
彼の両親である伯父夫婦には消極的であった。
けれど今日は頑張った。いつもは向こうの挨拶に小声で返すだけだったけれど、
勇気を出して、自分から言ってみた。
すると伯父夫婦はにっこり笑って、いい挨拶だと褒めてくれた。
助手席の父からも、えらいぞと声がかけられる。
-
( ^^ω)「きちんと挨拶できるいい子にはお小遣いあげるホマ」
( ^ω^)「おはようございますお父様!」
( ^^ω)「はい聞こえない」
伯父は兄ちゃんをあしらいながら財布を開き、
伯母からの分も含めてお小遣いをくれた。とはいっても、すぐに母へ預けるのだが。
頑張ってお礼も大きな声で言ってみせると、何だか心地よかった。
──近場のファミリーレストランで朝ご飯を食べた。
母の作った弁当はお昼用だろう。
{´┴`}「今日はよく食べるなあ。お昼入らなくなっちゃうぞ」
(*^ν^)「だいじょぶ」
子供用の小さなオムライスを頬張るニュッの口元から米粒を取りつつ、父が言う。
からかうような口調だが、その顔は優しくて、どことなく喜んでいるようだった。
普段から食の細いニュッのことを気にしているから、
たまに、こうしていつもより多く食べる姿を見せると
父は嬉しそうに笑ってくれるのだ。
-
子供向けのサイズとはいえ、ニュッの幼い手と口では食べるのに時間が掛かる。
もたもたスプーンを動かしている内に、他の皆は食事を終えてしまった。
「ゆっくりでいいよ」
焦るニュッの肩を撫で、母が微笑む。
安堵し、自分の口に丁度いい量を掬った。
──それから少しして。
ようやく完食したニュッに父がまた笑う。
期待していると、大きな手で頭を撫でてもらえた。
車に戻るなり、父と伯父が地図を広げて道の確認をする。
どこに行くのだろう。満腹感で若干うとうとしつつ2人の声を聞く。
今日はいい日だな、と思った。
朝からいっぱい褒められた。
昨日までよりもずっと立派な人間になれたような気さえする。
夏休みが終わって、幼稚園に行ったら、みんなより少し大人になっているかもしれない。
-
(*ぅν‐)
車が発進する。
寝たら勿体ない気がして、目をこすったり頭を振ったりして何度も眠気を誤魔化した。
眠いけれど寝たくない、というニュッの気持ちを察してくれたのか、
ちょくちょく母や兄ちゃんが話し掛けてきた。
時にはっきり、時にぼんやり、波に揺られながら答える。
たまに頓珍漢な返しをしてしまうらしく、
何度かニュッには分からないタイミングで車内に笑い声が響いた。
そんな調子だったから、ニュッは、家族との最後の会話がどんなものだったか覚えていない。
ぎらっと妙な角度から反射してきた日光で眠気が飛ばされたかと思うと、
どん、という衝撃があって、天地が逆転し、何かに頭を打ちつけて、
それで終わりだった。
次に目が覚めたとき、ニュッは病院にいて、泣きじゃくる兄ちゃんに手を握られていた。
父も、母も、伯父も伯母もいなくなっていた。
.
-
1日経って理解する。
交通事故とやらに遭ったのだ。
2日経って理解する。
両親と伯父夫婦は死んだのだ。
ニュッは5歳という年齢から考えれば、死というものをよく把握している方だった。
3日経って理解する。
あの事故は衝突してきたトラック側に問題があったのだ。こちらは巻き込まれただけ。
ならば、ほんの少し時間がずれてさえいれば、接触せず助かっていた筈だった。
たとえばニュッが着替えに手間取っていれば。
たとえばニュッがトイレに行かなければ。
たとえばニュッが元気に挨拶していなければ。
たとえばニュッが──
-
( ;ν;)「ひぐ、」
布団を頭まで被って、丸くなる。
ここは親戚の家だ。
ニュッと兄ちゃんの今後について皆で話し合っている間、
一時的にニュッを預かっているだけの家だ。
迷惑をかけてくれるなよと態度で示されているため、
基本的に部屋の隅で縮こまるか布団に篭るかしか出来ない。
( ;ν;)「う、うう」
枕を噛み締めて、喉から溢れそうになる声を口の中でぐるぐる回す。
大声で泣き喚いたら、うるさいと言って追い出されるのではないかと思った。
兄ちゃんはどこに行ったのだろう。
また洗面所で手や顔を洗っているのかもしれない。変な臭いなんてしないのに。
( ;ν;)「ご、ごめ、ごめん、なさい……」
涙と鼻水と涎でぐしゃぐしゃの枕に、声を染み込ませる。
兄ちゃんには聞かせたくなかった。聞かれたら、ニュッが悪いのだと怒られそうで。
-
( ;ν;)「ごめんなさい……」
ボタンを留められてごめんなさい。
トイレに行ってごめんなさい。
大きな声で挨拶してごめんなさい。
お腹いっぱい食べてごめんなさい。
ほんの数時間で築いた自信は、
ほんの一瞬の事故で、全て崩されてしまった。
ほんの一瞬。
ほんの一瞬で、自信も、家族も、全て消えたのだ。
-
何もかも無くなった。
兄ちゃんにしがみついても覚束ない。
兄ちゃんだってたくさんのものを無くしていて、ニュッを支えることなど出来やしないだろう。
それでもニュッにとって最後の砦に思えたから離れられなかった。
離れてあげられなかった。
このまま寄り掛かり続けたら、一緒に倒れてしまうかもしれない。
けれど何も無いニュッは、兄ちゃんに掴まっていないと、そのまま消えてしまいそうで恐かった。
何も無い。寂しい──
事故の直後からふわふわしていた頭は、
1人の老人の声で、ゆっくりと着地していった。
「──安心するモナ。お前らまとめて、うちに押しつけられたモナよ」
*****
-
( ^ν^)「あー……疲れた」
( ^ω^)「別に、とらなきゃとらないでいいと思うけどね。免許」
──夜中。VIP図書館、食堂。
テーブルに突っ伏し唸るニュッの手元にマグカップを置き、
兄ちゃん──内藤は嘯いた。
それから自分のカップを片手に持ったままニュッの隣に座る。
食堂には2人しかいない。
-
( ^ω^)「ニュッ君、一応ただの事務員だし。基本は事務所内での仕事だし。
通勤も今んとこ、バスで充分足りてるんだから」
( ^ν^)「免許とってから言われてもな」
( ^ω^)「免許とる前に一言くらい報告してくれてたら、然るべきタイミングで言ってたお」
2人の視線は、テーブルの上、本日発行されたばかりの運転免許証へ同時に向けられた。
教習所に通い始めたことを誰にも──ハローとモララー、ショボンは除く──報告しなかったのは、
たしかに、少々素っ気なさすぎたとは思っている。
(まあ今日に至るまでバレなかったのも予想外だったのだが)
話す気がなかったというより、もしも試験に落ちてしまったら報告するのが恥ずかしいという
下らぬプライドによる判断だった。
しかし思ったよりもとんとん拍子に進行し、ストレートで合格できたので
こうして事後報告と相成ったわけである。
一応、真っ先に内藤に伝えようとは思っていたので
他の図書館住民が知るのは明日以降になるだろう。
-
幼少時にはまだ可愛げがあったニュッ君……
-
( ^ω^)「運転、恐くないかお」
( ^ν^)「……別に。普通」
普通──としか言いようがない。
運転を誤ったら、とか、事故に巻き込まれたら、とか。
そういう不安は勿論あるが、それは、誰しも持っている程度のものだ。
ニュッにはフラッシュバックするほどの記憶もないし、
いわんや、それが原因で運転できなくなることもない。
( ^ν^)「兄ちゃんは恐くなかったの」
( ^ω^)「初めてのドライブのとき助手席からちょっかい出してくるショボンが恐かった」
( ^ν^)「ああ、うん」
後部座席に乗っていたツンが涙目でぶちギレていたのを覚えている。
そもそも初めてのドライブにショボンを同乗させたのが悪いのだろうが。
そういえば、祖父は内藤が運転に慣れるまでは決して乗ろうとしなかった。
素人の運転で怪我をしたくない、と臆面もなく言い切ったものだ。
今も生きていたら、きっとニュッにも同じことを言うのだろう。
( ^ω^)「……まあ祖父ちゃんのおかげで恐くなくなったとこもあるけど」
今まさに考えていた人物が話題にあがり、少し驚いた。
が、当然というか、必然だろうなとすぐに納得する。
自分だって、彼のおかげで車への恐怖感を消せたのだ。
-
マグカップを満たすコーヒーを見下ろす。
黒い水面にニュッの顔が映っている。
卑屈で嫌味な顔である。恐らく幼い頃はもう少しまともな顔付きだったろう。
それでも子供だった頃の自分に比べれば、今の方がよほど自信というものを持っている筈だった。
本を読む楽しみを教えてくれたのは祖父だ。
読めば読むほど得るものがあった。
知識だとか思考力だとか、言葉で表しにくいほど細かな感情だとか。
本以外にも与えられたものは沢山あって、それらは全て、
生きる上で何かしらの役には立っている。
あの日壊された、いくつかの自信。
それより遥かに多くのものを、数年かけて得られたのだ。
そう簡単には崩されない。
( ^ν^)「人間、死ぬときはあっさり死ぬしな。事故じゃなくても」
( ^ω^)「だお。いちいち車ひとつに怯えてらんないおね」
当時こわいさみしいと泣きじゃくっていたガキ2人が、今ではこれだ。
前向きなのか後ろ向きなのか分からないが、これも一つの自信に繋がっていることには変わりない。
──本当に、あっさり死ぬのだ。生きているものなど。
帰宅して、血を吐き倒れている祖父を前にしたときに
改めて思い知らされたことだった。
こうして考えると、本当に色んなことを祖父から与えられ、そして教わってきた。
あの人こそ──生きた本のようなものだったのかもしれない。
-
( ^ω^)「今度ドライブ連れてってくれお」
コーヒーを飲み干した内藤が立ち上がる。
ぽんと頭を叩かれたので、その弾みで頷いた。
空のカップを持って厨房に消えていく背を見送り、またテーブルに突っ伏す。色々疲れた。眠い。
・∀・) ソーッ
ロ -ロ)ハ
,,,( ・∀・)
,,,ハハ ロ -ロ)ハ
(*・∀・) !
ハハ*ロ -ロ)ハ !
(*・∀・)つ
ハハ*ロ -ロ)ハつ
(・∀・*)≡
ハ(ロ- ロ*ハハ≡
( ^ν^)「……」
一応説明しておくと。
モララーとハローがこっそり入ってきて、こっそり近付いてきて、
こっそり免許証を確認して、こっそり何かを置いていって、普通にダッシュで帰っていった。
薄目で全て見ていたので間違いない。
-
かわいい2人だ
-
何を置いていったのやら。
顔を上げてみると、
( ^ν^)(お守り……)
交通安全のお守りが免許証の隣に置かれていた。
順調に行けば今日の内に免許をとる、とあの2人には事前に話していたので、
前もって買ってきてくれたのだろう。
実際の結果を内藤に伝えるまで待ってくれていたらしい。
至るところがむずむずする。
何となく恥ずかしくて、免許証諸共、お守りをポケットに突っ込んだ。
( ^ν^)(……中古車でも買って、最初に兄ちゃんとツンとショボン乗せて……)
最初はやはり、その3人を連れてドライブに行こう。
付き合いが一番長いし。返さねばならない恩が特に多いのも、その3人だから。
その後にモララーとハローを乗せて、適当に走ろうか。
これは友人としての贔屓で。
それから、その後は。
あの阿呆面を乗せてやらないでもない。
冷めかけたコーヒーを一気に飲んで、カップを片付けるため、
ニュッも厨房へ向かった。
.
-
その数日後。
阿呆面を乗せてその辺を走った翌日。
何故かテンションの上がったしぃが
「ニュッちゃんがデレちゃんに乗っています」と書かれたステッカーを貼った車に乗り込み、
ぎしぎしゆさゆさ揺らしている様をショボンが撮影する──という地獄絵図を目撃した瞬間。
それこそが間違いなく、ニュッの人生において最大最悪の事故であったと思う。
おしまい
-
思いのほかレスが進んだので、>>849で一旦リクエスト打ち切り。色々ありがとうございました
書けそうなものから消化していきます。ぐだぐだお付き合いくださいませ
とりあえず今日はここまで
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乙
しぃとショボンは組ませちゃあかんな
-
幼少時にはまだ可愛げがあったニュッさんは可愛いなあ
-
乙乙
-
モララーもハローもかわいいなぁ
-
乙!
ニューソがニュッくんにお昼入らなくなっちゃうぞってとこでうるっときた
そして、幽霊裁判でもニューソがニュッくんの父親だったの思い出して泣いた
-
>>851
クソワロタ
子守旅のデレちゃんほんとすき
こう並べてみると天使のデレちゃんは希少やね……
-
思えば(ネタバレになるからうまく言えないけど)怪奇夜話の二人もいるって貴重だよな
気づいたら涙出てきた。
クロスオーバーありがとうございました。
>>851
姉者美人!妹者可愛すぎ!
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そういえば>>735の対象って>>736-770のおまけのみ?
それとも>>736-1000まで全部?
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>>777
※独身時代
|゚ノ*^∀^)「わあ、このお紅茶、美味しいですね! お金目当てなんですが結婚してください」
( ´∀`)「頭がおかしいのか?」
|゚ノ ^∀^)「そういえば内藤さんって、こんなに広いお家に1人で暮らしてらっしゃるんですか?」
( ´∀`)「そうモナね」
|゚ノ ^∀^)「私なら持て余してしまいそうです」
( ´∀`)「まあ僕も本当は小ぢんまりしてる方が落ち着くけど、
本があるからね……これからも増えるだろうし」
|゚ノ ^∀^)「内藤さんのお家というより、本のお家みたいですねえ……。
1人は寂しくありませんか? 結婚しませんか?」
( ´∀`)「ずっとこうして暮らしてきたから、これが当たり前なんだモナ。
──そもそも本があるから1人じゃないモナ」
|゚ノ ^∀^)「そうですか……」シュン
( ´∀`)「そうモナ」
-
|゚ノ ^∀^)「でもでも、人恋しくなる日もありませんか?」
( ´∀`)「まず人を恋しいと思ったことがないし」
|゚ノ ^∀^)「家族に会いたいなと思うくらいは」
( ´∀`)「ないない」
|゚ノ ^∀^)「お母様とモツ鍋を一緒に食べたいとかも思いませんか……?」
( ´∀`)「何? 何でモツ鍋? 君はそろそろ脈絡を覚えなさい」
|゚ノ ^∀^)「……前から気になっていたんですが、内藤さんってご家族と仲が悪いんですか?」
( ´∀`)「僕も向こうも碌な人間じゃないからね」
|゚ノ ^∀^)「内藤さんは素敵な方ですよ。優しくて頭が良くて、お金持ちです」
( ´∀`)「なぜ最後の一言を飲み込めなかった。
……ともかくお互い、関わり合いたいような相手じゃないモナねえ」
|゚ノ;^∀^)「そ、そんなことありませんよ!
きっとご家族の方は、内藤さんのことを愛してる筈です!」
( ´∀`)「バカ言うなモナ。10の頃から会話もなくなったし、15の頃には追い出されたモナよ。
正直、親や兄弟だと思ったことなんてなかったモナ」
-
|゚ノ;^∀^)「それでも愛してるんです!
でなきゃ、私にあんなこと頼まな──」
|゚ノ;^∀^)「……あ……」ハッ
( ´∀`)「……どんなことを頼まれたって?」
|゚ノ;^∀^)「あう」
( ´∀`)「……」
|゚ノ;^∀^)「……こ、この前、内藤さんのお家から帰る途中に、女の人に声をかけられて……
内藤さんのお母様だと言うから、色々お話ししたんです……。
そしたら何だか、鶏? の? モツ鍋?」
( ´∀`)「僕と親の仲を取り持つように言われたモナね?」
|゚ノ;^∀^)「あ、とりもつ……はい」
( ´∀`)「逆に訊きたいんだけどどうやって鶏のモツと勘違いしたまま話を進められたんだモナ……」
|゚ノ;^∀^)「一気にたくさん喋られたからよく分からなかったけれど、
とりあえず一緒にモツ鍋を食べるほど仲良くなりたいのかと思って……」
( ´∀`)「奇跡的に大まかな方向性は正しく理解できてたみたいモナね」
-
|゚ノ;^∀^)「と、とにかくですね。お母様は私なんかに頼むほど、内藤さんと仲良くなりたいと──」
(#´∀`)「あれは僕じゃなくて僕の持ってる金と仲良くしたいだけだモナ!!」
|゚ノ;^∀^)「っ」ビクッ
(#´∀`)「僕が金を稼ぎだした頃から、何度もあの手この手で近付こうとしてきた!
あいつらの目的は金モナ、──お前と同じモナ!!」
|゚ノ;^∀^)「!」
(#´∀`) ハー…
( ´∀`)「……怒鳴って悪かったモナね。今日はもう、何も言わずに帰ってほしいモナ」
|゚ノ;^∀^)「な、内藤さん……ごめんなさい……あの……」
( ´∀`)「もう君と話したくないと直接言わなきゃ分からないモナ?
……君はもう、あいつらの手先にしか思えんモナ」
|゚ノ;^∀^)「あ……、……」
|゚ノ;^∀^)「……さようなら……」
パタパタ… ガチャ バタンッ
( ´∀`)「……」
( ´∀`)「また、お前らと僕だけの生活に戻るモナね」ペラッ
( ´∀`)「元通りモナ」ペラ、ペラ…
*****
-
|゚ノ ^∀^)「おはようございます」
( ´∀`)「……昨日の今日で、よく顔を出せたモナね」
|゚ノ ^∀^)「私、あのあと色々考えてみたんです……。
私は馬鹿だから、家族って、離れててもまた当たり前に仲良くできるものだと思ってて……
あんなに怒らせてしまうと思ってなかった」
|゚ノ ^∀^)「正直、内藤さんのご家族がお金目当てで近付こうとしてるのか、
それともやっぱり本当に内藤さんと仲良くしたいのか、
どちらなのか私には今でも分かりません」
( ´∀`)「……」
|゚ノ ^∀^)「でも、……どちらにせよ内藤さんは会いたがってないでしょう。
内藤さんは本を新しい家族だと思っていて、それで満足してるんでしょう。
なら、私は、それでいいやって」
|゚ノ ^∀^)「内藤さんさえ幸せなら、私はいい。
ご家族からの頼みも、聞かなくていいやって思いました。たとえ彼らが本気でも」
( ´∀`)「……それはまた、熱烈モナね」
|゚ノ ^∀^)「だからね、」
|゚ノ ^∀^)「私が内藤さんのお母さんになろうと思って来ました」
( ´∀`)「頭がおかしいのか?」
-
( ´∀`)「もういい……やっぱり君と話したくない……帰って……こわい……」
|゚ノ ^∀^)「色々考えてたら、この広いお家で暮らすにはお母さんが必要だって気付いたんですよ」
( ´∀`)「こわい……たすけて……」
|゚ノ ^∀^)「内藤さんにとって今の『家族』は本ですけど、
でも本は、ご飯を作ったりお洗濯したりお掃除したりは出来ないでしょう。
内藤さんはお仕事があるから、1人で家事をするのも大変ですし」
|゚ノ ^∀^)「だから、内藤さんの身の回りのお世話をする『お母さん』がいるべきなんですよ!
かといって本物のお母様に会うのは嫌みたいだから、
それなら私が内藤さんのお母さんになれば解決するかなと」
( ´∀`)「言いたいことがありすぎて頭が捩じ切れそうだけど、とりあえずね、
家事をするのは、そのー……君が普段言ってるように、ええ、
君が僕の妻になるのでもいいんじゃないモナ? わざわざ母親じゃなくても」
|゚ノ ^∀^)「だって私は、お金目当てで内藤さんと結婚したいんですよ。
でもそれじゃ、内藤さんにはお母様やお父様たちと同じような人間に思えるんですよね?
そしたら私のことも嫌いになってしまうでしょう……それはイヤです」
-
|゚ノ ^∀^)「だから、お金はいらないから、内藤さんのお母さんにさせてください」
( ´∀`)「待って……待って……こんなに日本語を無駄にしてる会話聞いたことない……
単語が可哀想……」
|゚ノ ^∀^)「外国語なら分かりやすく伝えられるでしょうか……?
お勉強する時間をいただいてもよろしいですか?」
( ´∀`)「話が通じなさすぎて吐きそう。
いや、いい、母親とかもういいから。
これならいつもみたいに金目当てだけど結婚してくれと言われた方がマシだモナ」
|゚ノ*^∀^)「本当ですか? じゃあお金目当てですが結婚してください!」
( ´∀`)「断る」
|゚ノ;^∀^)「内藤さんの嘘つき!」
( ´∀`)「マシとは言ったけど結婚するとは言ってない。紅茶飲むモナ?」
|゚ノ*^∀^)「飲みます」
( ´∀`)「上がってけモナ。ったく、玄関先でこんなに頭の悪い会話したことないモナ……」
|゚ノ*^∀^)「お邪魔します!」
ガチャ パタン
.
-
モナーはよく話を続ける気になるなあww
-
女を見る目が脈々と引き継がれててワロタ
-
>>782
〜朝・VIP図書館 食堂〜
(;*゚ー゚)「みんな! そこを動くな!」バーン!!
(;^ω^)「えっ!?」ビクッ
ξ゚⊿゚)ξ「どうしたの?」
( ^ν^) モグモグ
川д川「何よう、遊ぶなら朝ご飯の後にしてよねえ……」
(#゚;;-゚) ムシャムシャ
( ・∀・)「え……ハロー、納豆に何入れてるの」
ハハ ロ -ロ)ハ「砂糖」ワシワシ
( ゚∋゚)「お前は納豆に色々入れて試すの好きだな」
(*゚ー゚)「ちくしょう話を聞きやしねえなこいつら!! ツンが女神に見える!!」
( ^ω^)「まあツンたんが女神級に美しいのなんて周知の事実ですし……
とりあえずさっさと女神の質問に答えて話進めなさいお」
-
(;*゚ー゚)「それもそうだ、──私が昔書いた『本』が一冊消えた! この中の誰かが主人公の筈だ!」
( ^ν^)「は?」
(;^ω^)「えーっ!」
ξ゚⊿゚)ξ「あらまあ……」
川д川「やだあ……そんなに焦るような本なの……?」
ヽ(;゚;;-゚)ノ ドヒャー
ハハ ロ -ロ)ハ「ア、意外とイケる」ネバー
(;・∀・)「えー? 嘘でしょ、ハローの味覚がちょっと変なだけじゃないの」
( ゚∋゚)「まあ醤油と砂糖だから、甘辛いタレみたいになるだけなんじゃないか?」
(*゚ー゚)「嘘だろここまで来て話聞いてねえ奴ら居るぞ!?」
ハハ ロ -ロ)ハ「聞いてマスヨ」
( ゚∋゚)「聞いてるぞ」
( ・∀・)「俺はやっぱりスタンダードにネギたっぷりのがいいなあ」
(*゚ー゚)「確実に聞いてない奴が1人いるじゃねえか!!」
「話聞きなさいモララー」ハハ ロ -ロ)ハつ<;∀; )イタタタ
-
(;*゚ー゚)「あっ、……モララーとハローは主人公じゃないみたいだな」フーッ
(;^ω^)「ええ? 何で判断したんだお」
ξ゚⊿゚)ξ「どういう内容の本なの?」
(;*゚ー゚)「ああ、実は……官能小説なんだよ」
(;^ω^)「はああああああ!!?」
(;゚;;-゚) !?
(;゚∋゚)「何だって!?」
川д川「モナーさんは官能小説には命を与えないようにしてた筈じゃ……?」
(*゚ー゚)「すまん驚かせたくてちょっと大袈裟に言った。本当はどっちかというとコメディ小説だ」
( ^ω^)「ふっざけんな」
ξ゚⊿゚)ξ「……でも『どっちかというと』ってことは、そういう要素がある話なのね?」
-
(*゚ー゚)「うん……要はね、ラッキースケベに見舞われまくる主人公の話なのさ。
ただ話が進むにつれ過激になっていくから、お子様にはよろしくないレベルだ」
川д川「ラッキースケベて……」
(*゚ー゚)「もしもハローかモララーが主人公だったなら、今ハローがモララーの頬をつねったとき
うっかり手が滑って乳首でもつねっていた筈だ。
だから2人は主人公ではないと判断した」
(;^ω^)「そんな気持ち悪いことが起こり得るの!?
正直ちょっと主人公になりたいと思ってたけど嫌だなそれ!
こんな図書館にいられるか! 僕は外出させてもらう!」
(;*゚ー゚)「待て! だから動くな! 誰が主人公か分からんから下手に動いちゃ駄目だ!」
ハハ;ロ -ロ)ハ「主人公ジャなくて良かった」ゾッ
(;・∀・)「いや、主人公じゃなくても、その相手として巻き込まれる可能性はあるわけだから
全然安心できないでしょ」
( ^ν^)「……そんな本、読んだ覚えがないんだが……」
(;*゚ー゚)「さっきも言った通り、お子様にはちょっと読ませにくい内容でね。
当時のニュッちゃんは小学生だったからさ……まあモナーさんは別に構わなかったみたいだけど、
せめて中学卒業するまでは見せないでおこうと、私が自主的に保管しといたんだよ」
( ゚∋゚)「なのに未だに見せてなかったのか?」
(*゚ー゚)「そんな本に命が宿ってると知ったら、確実に取り上げられるでしょ。
そうなる前に個人的に有効活用してやろうと思い直してな、
今まで隠し続けていた」
( ^ω^)「クズかよ」
-
ξ゚⊿゚)ξ「……それ使って犯罪とか起こしてないでしょうね?」
(*゚ー゚)「いや、機会を窺いまくってたら逆に使えんかった。
とりあえず一年周期で朗読してやって、『本』の欲求は解消させてたんだけど……」
( ^ν^)「うっかり朗読し忘れて、『本』が暴走したと」
(;*´-`)「そういうこと……ごめん……」
川д川「でぃ、同じ部屋にいたのに本の存在に気付かなかったの……?」
"(;゚;;-゚)" ブンブン
(*゚ー゚)「私の個人的なスペースには絶対に近寄らんからな、でぃちゃんは」
ハハ ロ -ロ)ハ「ソリャあんな一種の御神体みたいになったアダルトグッズの塊が置かれてタラ……」
( ・∀・)「あれ? 隠し続けてたなら、しぃ以外の誰も『本』に触ってない筈だよね?
なら主人公になることもないでしょ」
(*゚ー゚)「いつか面白い事態になることを期待して、こっそりみんなの手や背中に本をくっつけたことがある。
浅はかだった。今は後悔している。ごめん」
( ^ν^)「こっちおいで」
(*゚ー゚)「フォーク構えながら言われるとさすがに行きづれえなあ〜!」
-
ξ゚⊿゚)ξ「それにしても、しぃが喜びそうな事態に思えるのだけど……
何だか普通に焦ってるみたいね。意外だわ」
(*゚ー゚)「みんなが私に向ける態度が最近ますます冷たくなっている気がしていたので、
今回こんなことになって命の危機を感じました」
( ^ω^)「態度が冷たくなってるの感じてたなら自重してくれ頼むから」
(;゚∋゚)「で、どうする? 主人公を特定しないことには始まらないぞ」
川д川「……もう、悲劇が一度起こるのは覚悟の上で、みんな一斉に行動してみる……?
それで主人公を特定できたら、本が見付かるまで主人公に近付かないようにして……」
ξ゚⊿゚)ξ「そうしましょうか」
(;゚;;-゚) ハラハラ
( ^ω^)「ツンがラッキースケベに巻き込まれたら僕死んじゃう……」
( ^ν^)「兄ちゃんがラッキースケベに巻き込まれても死ぬだろ」
(;・∀・)「とりあえず、全員いっぺんに立ち上がってみようよ」
(;*゚ー゚)「本当にごめんねみんな! 反省してる!」キラキラ
( ゚∋゚)「目を輝かせながら謝られてもな……じゃあ行くぞ、せーの、」
ガタンッ
ハハ ロ -ロ)ハ「アッ納豆が入ったお皿が」ツルッ ガチャン
(´・_ゝ・`)「みんなおはようわあああああああ」ガチャツルドサネバモミーッ
(;*゚ー゚)「ああー! デミタスが入室するなり床に零れた納豆を踏みつけ滑り
納豆を片付けるためしゃがんでいたハローを押し倒す形で転び
砂糖で粘度を増した納豆にまみれた手でおっぱいを鷲掴みに──!!」
( ^ω^)「嘘でしょ?????」
-
ξ゚⊿゚)ξ「どうやらデミタスが主人公みたいね」
(;´・_ゝ・`)「ごっ、ごめんハロー!」バッ
ハハ ロ -ロ)ハ「ウーン、デミタスならあんまり気になりマセンネ」
川д川「まあデミタスならねえ……」
(#゚;;-゚)) コクリ
(;´・_ゝ・`)「え? 何? 何が? うわ納豆くさっ」
(;・∀・)「何でデミタスならいいの!?」
ハハ ロ -ロ)ハ「イヤらしい目で見てこないし……逆に被害者な感じアルし……」
川д川「地味だし……」
(;´・_ゝ・`)「地味だと何がいいの……ハロー大丈夫? 立てる?」スッ
ハハ ロ -ロ)ハ「ひゃん」
(;´・_ゝ・`)「わああごめぶっ」ズルンッ
(;*゚ー゚)「うわああー! 立ち上がらせるために伸ばした手が再びおっぱいに当たってまた転んだー!
しかも今度はちょっとセクシーな声が追加された上に2人とも頭から粘液まみれだァ──!!」
( ^ω^)「どうにも納豆のせいでラッキーもスケベも感じられねえ」
*****
-
(;´・_ゝ・`)「納豆を洗い流すためにお風呂入ってたら途中でうっかりしぃが入ってくるハプニングがあったけど無事にお風呂を済ませたぞ」
( ゚∋゚)「その間に色々探してたら食堂の棚の陰から本が出てきたぞ」
( ^ω^)「説明ありがとう」
( ^ν^)「どう考えてもしぃはうっかりじゃねえだろ」
(*゚ー゚)「この状況なら許されると思った」
(´・_ゝ・`)「ところでみんなが僕から5メートル以上離れてるのはどうにかならないの」
ハハ ロ -ロ)ハ「あんまり気にならないトハ言うものの、ヤッパリ巻き込まれナイに越したコトはナイし……」
ξ゚⊿゚)ξ「とりあえず、さっさと朗読しちゃって」
(´・_ゝ・`)「う、うん」
(´・_ゝ・`)「……」
(;*´・_ゝ・`)「……ど、どうしても声に出して読まなきゃ駄目? これ……」
川д川「このままでいた方がよっぽど恥ずかしいことになるわよお……」
(*゚ー゚)「照れてる場合じゃねえぞ中年!」
( ^ω^)「放課後になってデレちゃんが来たらマズいお。
あの子絶対に何が何でも不可思議な力が働いて巻き込まれるお。
図書館来るなって言っても確実に不可思議な力によって来るお」
(;・∀・)「うわあ想像つく」
(;´;;-`)
-
川д川「中年と女子高生のラッキースケベはヤバいわ……。
デミタスが社会的に死ぬしニュッ君が普通に死ぬ……」
( ^ν^)「死なねえわ」
(*゚ー゚)「今はまだ服越しおっぱいタッチで済んでるけどさ、進行するにつれ過激になっていくんだぜ」
(;゚∋゚)「頑張れデミタス。今の内に朗読で終わらせるのがみんなのためだ」
(;´・_ゝ・`)「わ、分かった、やるよ。やるけどさ……
部屋で読んでくるよ……別にみんなに聞かせる必要ないよね?」
(#゚ー゚)「あア゙ン!? ふざけるなよせめて朗読羞恥プレイぐらい見せてもらわなきゃ私に何の得もねえだろうが!!
出来れば主人公の台詞はデミタス固定として他キャラの台詞はハローや貞子やツンが交代で読んでくれると尚良し!!」
( ^ω^)「ここをどんな空間にしたいのお前は」
*****
-
〜夕方・VIP図書館 1階〜
( ゚∋゚)「──ということがあった」
ζ(゚、゚;ζ「うわー……朗読は終わったんですか?」
( ゚∋゚)「ああ。デミタスが部屋に篭って終わらせてきた」
ξ゚⊿゚)ξ「しぃはしつこく聞きたがってたけどね」
o川*゚ー゚)o「その本はどうしたの?」
ξ゚⊿゚)ξ「ニュッ君が読むって言って持っていったわ」
o川*゚ー゚)o「あの仏頂面でそういう内容の小説読むのか……」
ξ゚⊿゚)ξ「何でも読むからね」
(;^ω^)「ツンー!」バタバタ
ξ゚⊿゚)ξ「なあにブーン」
(;^ω^)「例の本がまた消えたお!」
( ゚∋゚)「例の本って、まさか……」
(;^ω^)「ラッキースケベ」
ζ(゚、゚;ζ「えー!」
-
(;^ω^)「ニュッ君が言うには、机に置いといたのに目を離した隙に忽然と……」
ξ゚⊿゚)ξ「でも朗読で演じ終わったし、本も満足してる筈じゃ……」
(;^ω^)「ほら、しぃの本だから。はっちゃけて、さっそく次の主人公を選んだんじゃないかって
ニュッ君が言ってるお」
ζ(゚、゚;ζ「似てほしくないところが似ちゃったパターンですね」
(;^ω^)「色々やったけど誰が主人公なのかまだ分からないから
先に本を探すことにしたんだお。ツン、手伝ってくれお!」
ξ゚⊿゚)ξ「分かったわ」
ζ(゚、゚;ζ「私も手伝います」
(;^ω^)「あーほら早速自ら巻き込まれに来たよこの子〜!」
ξ゚⊿゚)ξ「なるべく他の人に近付かないようにすればまあ大丈夫でしょう。
それじゃあ2階行ってくるから、ここの棚の整理よろしくね、クックル」
( ゚∋゚)「ああ」
o川*゚ー゚)o「行ってらっしゃーい」
パタパタ…
( ゚∋゚)「早く見付かるといいなあ」
o川*゚ー゚)o「そうだね」
( ゚∋゚)「……」
( ゚∋゚)(……今日のキュートはおとなしいな)
( ゚∋゚)(しかも近い)
o川*^ー^)o ニコーッ
o川*゚ー゚)o「ね、クックルさん」
( ゚∋゚)「うん?」
o川*゚ー゚)o「ちょっと、手、貸して」
あないやらしや、官能小説に続かない
-
>>797
ザワザワ
(´・ω・`)「さあ行くよ」
o川;゚ー゚)o「遮木さん、せめておんぶにして……そんな抱え方じゃ目立つから。
せっかく私の美少女スマイルで誤魔化したのに
そんなに扱いが雜だと怪しむ人が出てくるから……」ヒソヒソ
( ^ν^)「美少女スマイル()」
o川*゚ー゚)o「言いたいことあるなら言ってみろ貴様」
< ねえキュートちゃん、その人たち本当に信用していいの……?
o川;゚ー゚)o「えっ! も、勿論! いい人たちなんだよ、すっごく!」
< でも長岡さんとの関係が全く見えてこないんだけど……
o川;゚ー゚)o「え、えーっと……デレちゃんの……親戚」
(´・ω・`)「こんな馬鹿と血の繋がりがあって堪るか」
o川;゚ー゚)o(黙ってろよ〜〜〜〜〜)
ザワザワ
( ∵)「騒がしいですね、何かありました?」ヒョイッ
< ひっ ビコーズ先生だ
o川;゚ー゚)o(ぎええええヤバいのが来たああああ
ヤバいヤバいヤバいこの人わたしの美少女スマイルが効かないよどうしよう)
-
ビコーズが最早F.O.Eみたいな扱いになってら
-
( ∵)「あれっ、あなた……」
( ^ν^)(……誰だっけ)
( ∵)「長岡さんの彼氏」
o川*゚ー゚)o
( ^ν^)
(´・ω・`) フヒッwww
( ∵)「でしたよね? 何ですこの状況。そちらの方は……」
o川*゚ー゚)o「はいっ! デレちゃ、長岡さんが体調を悪くして倒れたところに
この彼氏さんと彼氏さんの上司さんが来てくれて、
病院に連れていくことになったんですっ!」ビショウジョスマイル!!
( ^ν^)「おい」
(´・ω・`)「フッww遮木ショボンとwwwいいますwwwブヒュンwwwww
父がいつもお世話にグヒェッwwwww」
( ∵)「遮木さんって、ああ、はい、いつもお世話してます。
そろそろ塩味以外のラーメンも普通に作れるようになれとお伝えください」
ザワザワ… カレシ… センセイノ シリアイ… キューチャンカワイイ… ナーンダ… ザワザワ…
o川*゚ー゚)o(すまぬ……! デレちゃんすまぬ……!)
(´・ω・`)「ヒギィwwwwwwwwww」
.
-
>>880
736から1000までのつもりです
ただの自己満でスレ埋めるために書いてるので、わざわざまとめてもらうのも申し訳なくて
あとはまあスレ見てくれた人へのサービスにもなればなと
-
( ^ν^)「こっちおいで」
(*゚ー゚)「フォーク構えながら言われるとさすがに行きづれえなあ〜!」
この流れ愉快すぎるだろズルいわ
乙
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キャラ全員が魅力的過ぎてなんか卑怯ってレベルだ
こんなん一度読んだらファンになるに決まってるじゃないか
-
どのキャラも設定がしっかりしてるからなぁ
-
少しでも多く投下してもらいたくてレスするのが辛いおつ!
-
オレはやっぱりこのしぃが好きです。はい。
-
みんなおはようわあああああああで負けた
-
ヒギィwwwwwwww
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穴イヤらしいや……
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乙です、楽しませていただいています!
夢のオールスターに滾りました!!
http://imepic.jp/20160202/412290
3016年が今から楽しみです(真顔)
-
>>913
すげぇ!!
やっぱツンはまな板だな
-
>>913
!!? ありがとうございます!!!
まさかこれを描いてもらえるとは思わなくて物凄く感動してます。ブーンはそろそろ捕まる
見えそうで見えないクールがたまらないし涙目のデレが可愛すぎるし色々盛り沢山で楽しいです
-
>>913
うおおおおお!すげえ!これで千年くらい持ちこたえられる!
-
>>779 >>788 >>799
〜学校〜
ζ(゚、゚;ζ(まずい……どうしよう……)フラフラ
ζ(゚、゚;ζ(英語の小テストで平均を遥かに下回ってしまった……)
ζ(゚、゚;ζ(しかも先月から2回連続……こ、これは……)
ζ(゚、゚;ζ(ビコーズ先生のお説教からの流れるような補習コース……!!)
( ∵)「あ、長岡さん」ポン
ζ(゚、゚;ζ「ギャー!!」
( ∵)「わあ、すごい跳ねましたね」
ζ(゚、゚;ζ「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい小テストの範囲間違って覚えてたんですごめんなさい
先月の分は完全に頭の悪さが原因ですけど今回のはそういうミスのせいであって、
勉強はちゃんとしてたんです予習復習たくさん頑張ったんですそこは認めてください」
( ∵)「はあ、そうなんですか」
ζ(;、;*ζ「ほっ、本当なんです信じてください!」
( ∵)「誰も疑ってるなんて言ってないでしょうに。
長岡さんは勉強が苦手でもちゃんと努力をする人ですからね、
あなたが頑張って勉強したというなら本当にしたんでしょう。次から気を付けなさいね」ナデナデ
ζ(;、;*ζ「え?」
( ∵)「分からないことがあれば気軽に聞きに来てください。それでは」
ζ(;、;*ζ
ζ(;、;*ζ「え?」
-
(・∀ ・)「うぇーい」キャッキャ
\(^o^)/「漫画返してー。僕まだ読んでないよー」キャッキャ
(・∀ ・)「じゃんけんして勝った方が先に読むルールな。さーいしょーはグー」
\(^o^)/「いや買ったの僕だからね、普通に僕から読むって」
(・∀ ・)「残念でしたー、今は俺の手にあるから俺のものでーす」
\(^o^)/「何その理くt……」
\(;^o^)/「ア゙アーッ!! またんき後ろー!!」
(・∀ ・)「えっ?」
ドンッ
「わ」(・∀ ・)( ∵)"「いたっ」
-
(;・∀ ・)「あ゙あああああああ!?」ガクガクガク
\(;^o^)/「い゙や゙あ゙ああああああ」ブルルルル
( ∵)「……何ですかこれ、漫画……?」
(;・∀ ・)「ぎぃいいいいいあああああ」
\(;^o^)/「わああああああビコーズ先生にぶつかった罪とビコーズ先生の進行を邪魔した罪と漫画持ってきた罪で死刑だああああああ」
(;・∀ ・)「ごめんなさいオワタは関係ないんです俺が漫画持ってきて1人ではしゃいだんです!!」
\(;^o^)/「またんきお前ぼくを庇って……!? ち、違うんです先生、漫画は僕が!」
( ∵)「怪我はしてないですか? 大丈夫ですか?」
(;・∀ ・)\(;^o^)/「え?」
( ∵)「今回は先生だから良かったですが、他の人にぶつかれば相手もあなたも危ないんですよ。
もっと周りを見て、迷惑がかからないように遊びなさいね。
漫画を読むのも学校の外で。まあ授業中に読むのでなければ多少は黙認しますけどね」
( ∵)「それでは」
(;・∀ ・)\(;^o^)/
::(;・∀ ・)\(;^o^)/:: ガタガタガタガタガタガタガタ
-
〜駅前〜
o川*゚ー゚)o「お姉ちゃんこれ買ってー」
川 ゚ -゚)「しょうがないなあ」
o川*゚ー゚)o「わーい。ありがとうお姉ちゃん、大好き!」
川 ゚ -゚)「代わりに今日の風呂掃除はお前がやるんだぞ?」
o川*゚ -゚)o「えーっ」
( ∵)「お姉さんとお買い物ですか、素直さん」
o川;゚ー゚)o「ぐえええええ!!」
川;゚ -゚)「びええええん!!」
-
( ∵)「お久しぶりですクールさん」
川 ; -;)「ごごごごめんなさい先日は誠に申し訳ありませんでした許してくださいもうお説教しないでください」
o川;゚ー゚)o「せ、先日って一年近く前だよお姉ちゃん! お姉ちゃんはもう充分償ったよ!」
( ∵)「姉妹仲が良さそうで何よりです。
大学はどうです? ああ、彼氏さんとは順調ですか?」
川;゚ -゚)「はいっ!? は、はあ、特に問題もなく、はい……」
( ∵)「それは良かった。しっかりした妹さんと彼氏さんがいますからね、
何かあったら頼るんですよ。あなたはとても真面目そうなので、抱え込まないか心配です。
もしも家族や恋人や友達に話しづらいことがあったら、先生で良ければ聞きますよ」
o川;゚ー゚)o川;゚ -゚)「え?」
( ∵)「それでは」
o川;゚ー゚)o川;゚ -゚)
o川;゚ー゚)o川;゚ -゚)「誰?」
*****
-
〜アパート〜
从'ー'从「うわ〜奈良場さんだ〜」
( ∵)「こんばんは」
从'ー'从「いい気分で帰ってきたのに最悪〜さっさとお酒飲んで寝よ」
( ∵)「程々にしなさいね。寝るときは暖かくして寝るんですよ」
从'ー'从「えっキモッえっ」
( ∵)「あなたはお酒飲むとそのまま寝る癖がありますから。今の時期は風邪引きますよ」
从'ー'从「キモッ奈良場さんちょっと顔こっち向けてキモッ」
( ∵)「はい?」
从'ー'从つ(∵ ) ピトッ
从;'ー'从「あっつい! やっぱり! も〜、熱あるならそれらしい顔してよね〜!
そんなに朦朧としてるってかなりの高熱じゃないのヤダ〜。
お邪魔します〜」ガチャガチャッ
( ∵)「あれ、熱あるんですか……そうなんだ……」ズルズル
.
-
从'ー'从「はい、おかゆ。レトルトだけど。これ薬ね。
おかゆ食べたら薬飲んで寝て、朝一で病院行ってよね〜」
( ∵)「渡辺さんが優しい……天使のようですね……。
去年先生が風邪を引いたときは大笑いしながら尻にネギを突き刺そうとしてきたのに……」
从'ー'从「あのときは今ほど重症じゃなかったもの〜。
今はほんっっっっっと心の底から気持ち悪いから、早く治すか死ぬかしてほしい」
( ∵)「おかゆふーふーしてください」
从;'ー'从「グエェ〜ッ率直に言って死んで〜」
*****
-
〜2日後〜
从'ー'从「こんばんは〜」ズビッ
( ∵)「顔面が汚い。チェンジ」ギィ
从'ー'从「殺すぞ」ガッ
( ∵)「ちょっとドア離してくださいよ閉められないじゃないですか。
指ごとイッてもいいなら閉めますけど」
从'ー'从「閉めんな。あのね奈良場さん、私ね風邪引いちゃって〜」
( ∵)「うわっ近寄らないでください。うつされると困るんですけど」
从'ー'从「私はあんたからうつされたんじゃボケが」
( ∵)「せっかく治ったのにまた風邪引くとか勘弁ですよ。
明日は補習と生徒の持ち物チェックしなきゃいけないのに」
从'ー'从「知るかバーカバーカ。
このあいだ私が看病してあげたんだから今日は奈良場さんが看病しなさいよ〜」
( ∵)「面倒くせえババアだな。
ちょっと待っててくださいね、突き刺しやすいようにネギを尖らせてきますから」
从'ー'从「ふざけんなよクソッ逆に迎え撃ってやるわ来いオラ」
( ∵)「尻が汚い。チェンジ」
从#'ー'从「見る前から言わないでよね〜! あったま来た、いかに美しいヒップか見せつけてやるわお邪魔しま〜す」
( ∵)「あなたも熱が出ると大概おかしくなりますよね」
-
>>780
〜16年前・中学校〜
( ^ω^)(14歳)「邪気眼を持たぬ者には分かるまい……」
(´;ω;`)(14歳)「ヒョオwwwww何その唐突な五七五wwwwwwwwww」
( ^ω^)「今宵も血の香りが俺を戦場へ誘う……」
(´;ω;`)「お前のトラウマスイッチじゃねえかwwwwwギュウンwwwwwwwwww」
( ^ω^)「ふっ、お前は常に楽しそうで羨ましいな……
笑いを失くした俺にはいっそ眩しく映る」
(´;ω;`)「最初の『ふっ』は何なんだよwwwwwwwピョェーwwwwwwwwwwwwwww」
< 先生ー、ホライゾン君とショボン君がうるさいでーす
< おい遮木、わざわざ内藤の隣に机移動させてまでイジるな。難しい年頃なんだから。
みんなもそっとしておけよ
< はーい
(´;ω;`)「モギョォwwwwwwwwwwwwwww」
-
〜内藤邸〜
(´;ω;`)「おいジジイwwwwアレやめろwwwwwやめさせろwwwww死ぬwwwwwww」
( ´∀`)「もうちょい! もうちょい!」
( ^ω^)「束の間の休息……今宵、月が出たら俺は死地へと旅立ち二度と此処へは戻らぬだろう……」
(´;ω;`)「今日新月wwwwwwwwwwww」
ξ;゚⊿゚)ξ「モナーさんお願い、何とかして。このブーン会話しづらい」
(;^ν^)(6歳)「じいちゃん……」
( ´∀`)「不用意に『本』に触ったのが悪いモナ。
あとで反省させるためにも、もうしばらくこのままにしておきなさい。
おい悪ガキ、これ使って撮影しておけモナ」
(´;ω;`)「ウィーーーッス」
ξ;゚⊿゚)ξ「ねえモナーさんも楽しんでるでしょ、ねえ」
(;^ν^) アワアワ
( ^ω^)「禁断の果実を食した俺への罰……か」
(´;ω;`)「ンパスwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
*****
-
(´・ω・`)「数年後に爺さんの遺品整理してたらそのテープが出てきて親戚一同の前で再生された話も聞く?」
ζ(゚、゚;ζ「も、もういいです、聞いてるこっちがキツいです」
( ω )「誰か僕をそっと殺せ!!!!!!!!!!!」
番外編レベルまで膨らませられなかった
-
>>796
〜夜・貞子の部屋〜
川д川「今夜の『夢』は、鯖の味噌煮にしてみたら……?」
ζ(゚ー゚*ζ「あ、そうですね! 魚料理まだでしたし。
ありがとうございます、あとでハローさんにも話してみますね」
川д川「ええ、頑張ってね……」
ζ(゚ー゚*ζ「はい!」
川д川「……」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
川д川「……寝る時間にはまだ早いわよねえ、一緒にDVDでも見ない……?」
ζ(゚ー゚*ζ「いいんですか? 見たいです!」
川д川「お気に入りのシリーズの新作が出たのよお……
あ、続き物じゃないから安心してね……」ガチャ ウィーン…
ζ(゚ー゚*ζ(どんなのかな?)ワクワク
ζ(゚ー゚*ζ(……あれ? 貞子さんが好きそうなDVDって……)
.
-
ζ( ー *ζ チーン
川д川「うーん、前回のに比べたらちょっと微妙かしらあ……」
ζ( ー *ζ(案の定ホラーだった……しかもめちゃくちゃ怖かった……)
川д川「あんまり面白くなくてごめんねえ……
でも普段、ハローとでぃくらいしか付き合ってくれないから楽しかったわあ……」
ζ( ー *ζ「それは何よりです……ハローさんのとこ行きますね……」フラフラ
川д川「おやすみ……」
ζ( ー *ζ「おやすみなさい……」フラフラ
*****
〜翌日〜
川д川「デレちゃん……」ヌッ
ζ(゚、゚;ζ「うわあっ! あ、貞子さん」
川д川「昨日はごめんなさいね……」
ζ(゚、゚;ζ「……だ、大丈夫ですよ」
川д川「そう? なら今夜も部屋来ない……? 私のコレクションの中で一番怖いの見せてあげるから……」
ζ(゚、゚;ζ(昨日のでもだいぶ怖かったのに、今日は『一番』……!?)
-
ビコナベもゲスショボもオニチクジジイも、皆いい味出しすぎだろwwwwwww
-
ζ(゚、゚;ζ「い、いえっ! 今日は、あの、ハローさんと長めに作戦会議するので!
ごめんなさい!」
川д川「あらそう……なら仕方ないわね……」
ζ(゚、゚;ζ「そうですね、仕方ないです、はい」
川д川「じゃあまた明日……」
ζ(゚、゚;ζ「はい、おやすみなさい」
,,,川д川 テクテク
ζ(゚、゚;ζ(寝る前によくあんな怖いの見られるなあ)
ξ゚⊿゚)ξ「あら、デレ。貞子の部屋に行くんじゃないの?」
ζ(゚、゚*ζ「え? 何で?」
ξ゚⊿゚)ξ「さっき貞子が厨房に来て、デレと一緒にDVD見るんだって
ジュースやお気に入りのお菓子をたくさん持っていってたから……」
ζ(゚、゚;ζ「え……あっ!? あの人もしかしてはしゃいでたの!? 分かりづらい!!
急に罪悪感がすごい! さ、貞子さーん! やっぱり見ます、
見るけどもうちょっと人数増やした状態でお願いしますー!!」
.
-
ハハ ロ -ロ)ハ「マタこれデスカ? 何回見るんデスカ、貞子」
(*゚;;-゚) ワクワク
ξ゚⊿゚)ξ ギュウウウ
(*゚ー゚)「ツンさんや、服が破けるからそんなに全力で握らないでおくれ。破けたら私ほぼ全裸だよ」
川д川「もう、6人もいると煩くてホラーの雰囲気が薄れるのよねえ……」イソイソ
ζ(゚ー゚;ζ(あ、よく聞くと声がちょっと弾んでる……やっぱりはしゃいでるんだ……)
-
>>849
(´。ω゚`)
( A * )
<ヽ"∀">
N| "゚'` {"゚`lリ
( ^ν^)
N| "゚'` {"゚`lリ「死んでるな」
( ^ν^)「連日泊まり込んでたからな」
-
N| "゚'` {"゚`lリ「そうなのか? でかい依頼でも入ったか」
( ^ν^)「それに加えて、対象が近くのホテルに宿泊してたから
こいつらあんまりここから離れられなかったんだ。
まあさっき調査終了したけど」
N| "゚'` {"゚`lリ「なるほど。別件担当で良かったぜ」
( ^ν^)「事務員で良かった」
N| "゚'` {"゚`lリ
( ^ν^)
N|*"゚'` {"゚`lリ「2人っきりだね、ニュッ君……」モジモジ
( ^ν^)「近付いたらボールペンで刺す」
N| "゚'` {"゚`lリ「俺は挿すのも挿されるのも得意なんだぜ」
( ^ν^)「はい」
N| "゚'` {"゚`lリ「はい」
( ^ν^)
N| "゚'` {"゚`lリ
N| "゚'` {"゚`lリ .。*゚+.*.。 2人っきりだね、ニュッ君 ゚+..。*゚+
( ^ν^)「きらきらさせんな」
N| "゚'` {"゚`lリ「何がきらきらしてるんだろうこれ」
( ^ν^)「暇なのかおっさん」
N| "゚'` {"゚`lリ「割と」
-
(´・ω・`)「この事務所で暇などという発言は許さん」ムクッ
N| "゚'` {"゚`lリ「お、生き返った」
(´・ω・`)「仕事しろ」
N| "゚'` {"゚`lリ「一区切りついたからここに来たんだぜ。
2週間も他県に行かされてた俺のことも労ってほしいもんだ」
(´・ω・`)「じゃあコンビニで食べ物買ってこい。僕ちゃんしばらく動けない。動きたくない」
N| "゚'` {"゚`lリ「土産として色々買ってきてるんだが」ドサッ
(゚A゚* )「おっちゃんでかしたわ、ニュッ君の尻さわってええで」ムクッ
<*ヽ`∀´>「一日ぶりのご飯ニダー」ムクッ
N| "゚'` {"゚`lリ「ヒュ〜」ガッツポ
( ^ν^)「帰っていいかな」
(゚A゚* )「あかんよー。ニュッ君お茶入れてー」
(´・ω・`)「僕にも」
N| "゚'` {"゚`lリ「じゃあ俺も」
(^ν^ ),,, ノソノソ
(゚A゚* )「ニュッ君は割と素直に言うこと聞いてくれるからええなあ」
(´・ω・`)「態度は悪いけどね」
-
N| "゚'` {"゚`lリ「ニダーは飲み物いらないのか?」
<ヽ`∀´>「はっ……ウリがお茶を欲しがると、いつものーちゃんが何かしらの薬入りのお茶を出してくるから
この事務所でお茶を要求しない癖が出来てたニダ……」
<*ヽ`∀´>「ニュッ君、ウリにもお茶を!」
( ^ν^)「はいはい」
(゚A゚* )「あ、それなら棚の右上の一番奥に
ニダやん用のカップあるからそれ使ってあげてな」
( ^ν^)「そのカップ既に何かしらの粉末が入ってるんだが……」
(゚A゚* ) チッ
(´・ω・`)「仕事のためなら犯罪すれすれな行為も許すけど
仕事関係ないのに事務所で犯罪起こすのはやめてくれ」
-
( ^ν^)「いいこと言うなお前、じゃあこの事務所からセクハラとパワハラを撲滅しよう」
N| "゚'` {"゚`lリ「ひどい事務所だなここ」
(´・ω・`)「お前がそれ言うの?」
(゚A゚* )「いや所長こそソレ言うなや」
( ^ν^)「俺とニダーさん以外誰も言っちゃいけねえんだよここでは」
<*ヽ`∀´>「ようこそニュッ君……この事務所の被害者枠へ……」
( ^ν^)「死ぬほど癪だから同類にすんな」
<ヽ´∀`>(こいつの扱い方が未だによく分からんニダ……)
(゚A゚* )「何だかんだニダやんもニュッ君も所長にやり返すことあるから
特別被害者って感じもせんけどねえ」
(´・ω・`)「アットホームな職場です!」
N| "゚'` {"゚`lリ「まあアットホームだよな、何せ所員が数日ほど家のように寝泊まりしてる実績がある」
(゚A゚* )「物は言いようやな。待てよ? ここを仮想の家とするならば、
一緒に連泊したウチとニダやんは同棲、いや寧ろ結婚したと同義では?」
( ^ν^)「もうやだここ」
-
今日はここまで
-
ワタナベさんだけ風邪と気付けるところがちょっとだけキュンときた
ショボンのツッコミが面白すぎてやばい
あと年甲斐もなくウッキウキのじじいもツボった
レスたくさんしたいけどもっと読みたいからまとめたら、小学生の感想文みたいになった……
乙!!
-
このずっと読んでたくなる感がたまらない
乙おつ
-
確かにそれはアットホームだなwww
-
http://urx.red/rNLl
-
乙おつ
どれもこれも読み返したくなるな! さっそく行ってくる
-
ショボンの笑い方に笑うわ
-
ショボンほんとすき
-
ンバスwwwwwwwに噴いたわ
-
2人っきりだねのくだりで和んだ
-
>>798上段
〜図書館 食堂前〜
o(゚ー゚*;川o≡o川;*゚ー゚)o ウロウロ
( ゚∋゚)「何してるんだ?」
o川;* д )o「秋祭りに行きたい!!!!!」
(;^ω^)「えらいおキュートちゃん! 本題を悲鳴にすることで話の進みをスムーズにした!」
ξ゚⊿゚)ξ(まず悲鳴を我慢できないのかしら……)
( ゚∋゚)「秋祭り? ああ、隣町のか。明日だよな」
(*・∀・)「あーいいなあ、俺も行きたいn」
o川*゚ー゚)o「その口を閉じろ」
( ^ω^)「いや今ほとんど言いきってたから手遅れだお」
( ;∀;)
( ゚∋゚)「モララーと一緒に行ってきたらどうだ?」
( ^ω^)「ほら拾っちゃったよ」
-
ハハ ロ -ロ)ハ「モララーは明日、ワタシとスプラッタ映画鑑賞会やるんデス」
( ;∀;)「やらないよそんなおぞましい会!!」
川д川「空気読みなさいよモララー……」
o川*゚ー゚)o「何でぞくぞくと後ろから現れるの? もしかして誰も食堂にいないの?
私が食堂に入るか入らないか悩んでた時間何だったの?」
ξ゚⊿゚)ξ「食堂では今しぃが昼寝してるデミタスに色々やらかしてる最中だから誰も近付きたくないのよ」
o川*゚ー゚)o「勇気出さなくて良かったなあ〜クソが〜〜」
( ゚∋゚)「それにしても秋祭りか。俺も行こうかな」
o川;*゚ー゚)o「!!」
(*^ω^)「おおーっと明日は奇しくもクックル以外の図書館メンバー全員に予定があるおー!?
これはもうクックルとキュートちゃんが一緒に行くべきではー!?」
( ・∀・)「え、俺は何もn」
ハハ ロ -ロ)ハ「イイ加減にしないとモララーのスプラッタを鑑賞する会になりかねマセンヨ」
( ゚∋゚)「本当に誰も空いてないのか?」
o川*゚ー゚)o「なぜ食い下がる?」
( ゚∋゚)「俺と2人じゃキュートが楽しめないだろう」
o川;* ー )o「ごぼおおおおおおお!!!!!」ズシャッ
⊂( ^ω^)⊃「作戦タイム!!!!!」
(;゚∋゚)「え? お、おう?」
-
(;^ω^)「ねえ、いま何が琴線に触れたのキュートちゃん。脈絡なさすぎて恐かったお」ヒソヒソ
o川;* ー )o「奴は今『キュートが』楽しめないだろうと申した……
つまり奴は私と2人きりでも楽しめるということ……いや寧ろそれを望んでいる……?」ボソボソ
(;^ω^)「正直深読みが過ぎるとしか思えないし
あいつは誰が一緒でも楽しめるっていうかぶっちゃけ1人でもそれなりに堪能してくる奴だけど
素直に『2人で充分だよ』って言えば2秒後には約束をとりつけられるお、頑張れキュートちゃん!」
⊂( ^ω^)⊃「作戦タイム終了!!」
ハハ ロ -ロ)ハ「館長のテンション何なノ」
ξ゚⊿゚)ξ「ショボンから受けるストレスが限界を突破したのよ。しばらくすれば収まるわ」
川д川「どうして友達やれてるのかしら……」
o川;*゚ー゚)o「よし、同行を許可する!!」
( ^ω^)「まあそうなるだろうなとは思った」
( ゚∋゚)「そうか。じゃあ明日、駅前で待ってる」
( ^ω^)「クックルお前すごいよ」
*****
-
〜2日後・学校〜
ζ(゚ー゚*ζ「おはようキュートちゃん。無事にクックルさんとお祭り行けたんだって?
浴衣で一緒に出掛けたかったんでしょ、どうだった?」
o川*゚ー゚)o「色々あった末にたこ焼き屋の前でブリッジした拍子に頭打ちつけて以降記憶がない」
ζ(゚ー゚*ζ「ごめんね全然無事じゃなかったね……」
o川*゚ー゚)o「その直前に金魚すくいの水槽に頭突っ込んだことは覚えているけれどショックが強くて原因を思い出せない。
クックルさんが笑顔で何か言っていたような気はする」
ζ(゚ー゚*ζ「キュートちゃんが一番のお祭り騒ぎだったんだね……」
-
>>784 >>798下段
じゅうう、と鉄板の上で肉が焼けている。
ζ(゚、゚*ζ ホワー
それを見つめるデレの瞳は、子供のように輝いていた。
(*゚ー゚)「クックル、早くー!」
( ゚∋゚)「ハローとキュートの分が先だ」
テーブルの上に置かれた鉄板。
その前に立つクックルが、さっと肉を引っくり返す。
高い肉は甘い匂いがするのだと、デレは今日初めて知った。
o川;゚ー゚)o「おおお……あれが私の口に入るのか……」
ζ(゚、゚*ζ「未だに信じられないね……一生縁がないと思ってた」
.
-
──マニーから立派な牛肉が届いたから、みんなで食べよう。
夕方、帰ろうとしたデレとキュートを引き留め、内藤はそんな提案をしてみせた。
( ^ω^)『デレちゃんへのお礼も含んでるって、手紙にも書いてあったし』
o川*゚ー゚)o『私まで混ざったら皆の取りぶん減りません? それに、わたし何もしてない』
( ^ω^)『可愛い女の子に美味しいもの食べさせないでどうすんだお』
それもそうかと頷いたキュートの、そういう開き直りぶりはデレも好きだ。
それにしても、昼間デレがニュッ達とお子様ランチを楽しんでいるあいだに
キュートはまたクックルに爆弾を落とされたのだろうか。
悟りを開いたかと疑うほどの静謐さを瞳に湛えていた。
まあ食堂に上がって肉を目にしたら、普通に狼狽したのだが。
こんなのテレビでしか見たことない、と。デレも同意見だった。
-
( ^ω^)『どうやって食べるかで揉めてね、
最終的にすき焼きとステーキで意見が割れたんだお』
ζ(゚、゚*ζ『どっちになったんです?』
( ^ω^)『もう両方やっちまえってことになって、
テーブルの奥半分をすき焼きゾーン、手前半分をステーキゾーンにしたお。
はい皆、希望する方に分かれて』
言って内藤が手を叩くと、入口付近に固まっていたメンツが一斉に移動した。
キュートはクックルがステーキ側に行くのを確かめてから、そちらへ。
デレは少し悩んで、すき焼きの方へついた。
図書館住人10名、プラス、デレとキュートとショボン。計13名。
その内6人がすき焼きに、7人がステーキに、とほぼ半々に分かれたので、
牛肉もほぼ半分にわけられた。
ξ゚⊿゚)ξ『一人あたりの量はちょっと少ないけど、我慢してね』
調理を始める前にツンがそう言った。
何人かは不満そうだったが、少ないくらいで丁度いいと思う。
少し物足りない方が、一口一口が貴重に感じられて美味しさも増す気がする。
-
付け合わせの調理や下拵えはデレとキュートも手伝って先ほど済ませたし、
すき焼きは貞子とモララーが準備をしてくれていて、やることがないので
その間にステーキを眺めさせてもらおう、とデレはステーキ組に混じっている。肉が焼ける様は壮観だ。
( ゚∋゚) ジュワーッ
卓上用の鉄板では、2人分までしか焼けないらしい。
一番に食べさせてもらえるハローとキュートはそわそわしているが、
それ以外のメンツは気を逸らすためか、背を向けてしりとりをしている。
( ^ω^)「す、す……ステーキ」
( ^ν^)「牛肉」
(*゚ー゚)「食いてえ」
( ^ω^)「えー……A5ランク」
( ^ν^)「黒毛和牛」
(;*゚ー゚)「美味そう……だァーッ!! 全ッ然まぎれない!! 全然気が紛れねえよ!
じゅーじゅーじゅーじゅーいい音させやがって!!
胡椒の香りが弾けてるよお!!」
ξ゚⊿゚)ξ「焼くのはそんなに時間かからないから、すぐに順番が来るわよ」
-
言っている間に、クックルは肉を食べやすいように切り分けると、
2つの皿にそれぞれ盛りつけ、それぞれハローとキュートの前に差し出した。
肉の中心は赤みが残っている。ミディアムレアだ。
続けてツンが、先に作っておいたサラダとフライドポテト、にんじんのグラッセを別の皿に盛って
醤油の入った小皿と一緒にステーキ皿の傍に並べた。
それから一度厨房に引っ込んで、オニオンスープを持って戻ってくる。
ξ゚⊿゚)ξ「はい、召し上がれ」
ハハ*ロ -ロ)ハ「イタダキマス!」
o川*゚ー゚)o「お先にいただきます」
いつの間にか、ステーキ組だけでなくすき焼き組もハローとキュートを注視していた。
11人分の視線を浴びながら、2人は添えられたわさびをフォークで掬うと、一口サイズに切られた肉に乗せ
その肉を小皿の醤油にちょんとつけて、ゆっくり口の中へ収めていった。
ハハ*ロ -ロ)ハ「……うう〜」
o川;*´ー`)o「ふあっ、お肉が甘……っ! やわらかっ」
瞬間、2人の顔がとろける。
早く次の肉を焼けと、しぃがクックルの腕にしがみつく。
それをやんわり抑えたクックルは、新たに2枚の肉を鉄板に乗せた。
今度はニュッとしぃの分。
-
なんでよりによってこの時間なんだよふざけんな
あああ肉くいたい…………
-
ハハ*ロ -ロ)ハ「デレ、デレ」
ζ(゚ー゚*ζ「はい?」
ハハ*ロ -ロ)ハ「アー」
ζ(゚ー゚*ζ「? あ、むぐ」
隣の席のハローから肩を叩かれ、そちらに顔を向ける。
大きく口を開ける彼女に合わせて口を開いてみれば、
素早くわさびと醤油を付けた肉を放り込まれた。
咄嗟に噛みつく。
ぎゅっ、ぎゅっ、と思いの外しっかりした歯応えが返されたかと思うと、
すぐに肉汁を溢れさせながらふんわりほぐれて、とろけるようにほどけていった。
ζ(´、`*ζ「んむ」
肉が舌に広がっていく。舌全体が旨味に覆われる。
甘い、と言ったキュートの感想を正しく理解した。とりわけ柔らかい脂の甘みだ。
-
ζ(´〜`*ζ「んんん」ジワジワーッ
焼くときに振りかけられた塩胡椒だけでも肉の味を充分に引き立てているが、
軽くつけられたわさび醤油もまた──
いや、役割が違うか。
塩胡椒は肉の元々の旨味を引き立てるためだが、
わさび醤油は、それを踏まえてもう一段変化させるためのものだ。
とにかく口の中を甘やかしてくる肉を、
わさびのぴりっとした辛さと醤油の風味がほんのり刺激的にさせる。
けれどもわさびと醤油だから、その刺激はさっぱりしたもので、後味もしつこくない。
-
ζ(´ー`*ζ「んへへ」シアワセー
ハハ*ロ -ロ)ハ「美味しいデショウ」
ζ(´ー`*ζ「美味しい……ありがとうハローさん」
付け合わせのフライドポテトも一切れもらう。
三日月のような形、いわゆるナチュラルカットだ。
皮つきのまま厚手にカットされたポテトは芋らしさが強くて、ほくほくもふもふ。
( ^ω^)「デレちゃん幸せそうに食べるおねー」
ξ゚⊿゚)ξ「ますますお腹が空いてくるわ」
-
腹が減るなあ
ショボンは大人しくしてるんですかねぇ
-
(;*´ー`)「うめ───!!」
( ^ν^)「んまい」モギュフワ
デレがじっくり味わっている間に、しぃとニュッの分も焼き上がっていたらしい。
席に着いた2人がさっそく舌鼓を打っていた。
ニュッはハローの向かい。デレの斜め前だ。
彼も今、この美味さを感じているのだなと思うとデレの胸が温かくなる。
(´・ω・`)「私デレちゃんよ、ニュッさん大好きだから一口ちょうだい」ヒョイパク
( ^ν^)「明日の朝一で死ね」
o川*゚ー゚)o「それデレちゃんの声真似ですか? すこぶる似てませんよ」
(´・ω・`)「うっわ何これすげえ」
直後、裏声で何事かほざくショボンがニュッの隣から手を伸ばして肉を一切れ持っていった。
もう一口いこうとする右手をニュッが叩き落とす。
ショボンもデレと同じく、すき焼き組だ。
-
川д川「そろそろすき焼きが食べ頃よお……」
ζ(゚ー゚*ζ「あ、はーい」
(´・ω・`)「あーいい匂い」
貞子に呼ばれ、デレとショボンは卓上の鍋に向き直った。
鍋は2つあり、テーブルの右側に座るデレ、モララー、でぃで一つ、
対面のショボン、貞子、デミタスでもう一つを共有する形だ。
自然、それぞれ3人は距離が近い。
すき焼きはいわゆる関東風で、野菜や豆腐、そしてスライスされた牛肉が
ぐつぐつと割り下で煮られている。
-
川д川「ご飯いる人……」
(*・∀・)ノ「はーい」
(´・ω・`)ノ「大盛りで」
(*゚;;-゚)ノ
ヽζ(゚ー゚*ζ「私も欲しいです、大盛りじゃなくて普通で」
テーブルの隅に置かれた炊飯器から、デミタスがご飯をよそう。
するとステーキ組からも何人かご飯のリクエストが飛んできた。
つやつや輝く炊きたての白米。
色の濃いすき焼きと対照的で、その対比が眩しい。
このご飯に割り下を染み込ませてやる。
-
(*・∀・)「もういいかな?」
川д川「そうね、いただきまあす……」
(´・ω・`)(*´・_ゝ・`)「いただきまーす」ζ(゚ー゚*ζ(・∀・*)
(*゚;;-゚)人 マース
具材は色々あるけれど。
やはりここは、肉から行くべきだろう。
考えることは皆おなじか、こちらの鍋の主導権を握るモララーが
菜箸で3人の取り皿に肉を一枚ずつ乗せていく。
向かい側でも、貞子が同様に肉を取り分けていた。
-
脂の乗った肉にわさびは最高だよな
いいなあちくしょう
-
ζ(゚ー゚*ζ(サーロインをすき焼きに……贅沢……)
まだ赤みを残す肉を見下ろし、ごくり、喉を鳴らす。
肉を丸めるように掴んで持ち上げ、少し冷まし、一口で頬張った。
(*・∀・)「ん!」ζ(゚ー゚*ζ
(*゚;;-゚) !
ステーキと違って薄くスライスされているから、
脂のとろける感触が、より早く舌に伝わる。
-
ζ(´、`*ζ ホー
先程は肉そのものの甘みを感じられたが、
こちらは別種の、割り下に含まれる砂糖の甘みが強い。
けれど勿論、肉も負けていない。というか勝ち負けなどない。調和する。
溶けた脂でコクを増した甘辛い割り下が、肉をますます濃厚にさせるのだ。
ζ(´ー`*ζ マロヤカ-
肉があっという間に口の中から消えてしまった。
けれど後味はしっかりと舌に残るから、口が寂しくならない。
菜箸をとり、肉をもう一枚と、他の具材をいくつか取り皿へ。
ζ(゚ー゚*ζ「ハローさん、お返し」
ハハ*ロ -ロ)ハ「ワーイ」
隣のハローに皿ごと手渡すと、彼女はまず椎茸とネギを一つずつ口にし、
肉を念入りに冷ましてから先のデレのように一気に頬張った。
-
ハハ*ロ -ロ)ハ「ふおお」モギモギ
(*´・_ゝ・`)「美味しいね」
川д川「こんないいお肉、滅多に食べられないから嬉しいわあ……」
滅多に、か。デレなど今生で最初にして最後であるかもしれない。しっかり堪能しなければ。
でろでろの笑顔で肉を飲み込んだハローが返してきた皿を受け取る。
ふと向かいを見れば、ニュッがショボンの皿から肉を奪っていた。
( ^ν^)「私デレちゃんよ、ショボンさんお肉ちょうだい。そしてくたばれ」
(´・ω・`)「マジかよデレちゃん最低だな」
ζ(゚ー゚*ζ「お肉奪うときに私に罪をなすりつけるのやめません?」
-
(*;∀;)「ご飯が進む……!」
(*゚ー゚)「美味くても泣くんかいモララー」
(*´;;-`)
(*^ω^)「うまーい!」
( ゚∋゚)「肉も美味いが付け合わせも美味いなあ」
ξ゚⊿゚)ξ「そうね。ポテトはキュートが揚げてくれたのよ、揚げ具合も塩加減も丁度いいわ」
( ゚∋゚)「美味いぞキュート」
o川*゚ー゚)o「あれ……私の心が穏やかだ……そうか、昼間のアレのおかげで麻痺しているんだ……」
気付けばステーキの方も行き渡ったようで、
全員が席に着いて各々食事を楽しんでいる。
-
その賑やかな様子に笑みを深めつつ、デレはネギを口に運んだ。
しゃきっとした外側に、少しとろっとした中心。
肉や他の具材の旨味が絡み、豊かな味わいを生んでいる。
椎茸は噛めば噛むほど出汁が染み出て割り下の味をまた別のものへと変化させるし、
豆腐は味の染み込んだ外側とさっぱりした内側の両方を楽しめるし、
えのき茸のこりこりとした食感や春菊のほろ苦さもまた歯や舌に嬉しい。
ζ(´ー`*ζ ムフー
さて。そろそろ、こいつの出番だろう。
用意されていた卵を手に取り、
殻を割って、その中身を皿へ落とす。
-
ζ(´ー`*ζ ウフフ
手早く掻き混ぜた卵液に肉をくぐらせて、
マイルドになった肉でご飯を包んで食べるのだ。
絶対に美味い。
黄金色に肉を浸す。
数秒後に訪れる幸福への期待から、デレの口は既に緩みきっていた。
*****
-
ζ(゚ー゚*ζ「──という感じで、みんな楽しく美味しく頂きました。ごちそう様でした」
デレがぺこりと頭を下げると、他の面々も一斉に「ごちそう様でした」と声を合わせた。
それからすぐに各々の会話へ戻る。
10名ものごちそう様コールを受けて、マニーは申し訳なさそうに頬を掻いていた。
¥・∀・¥「これほどの人数がいたなら、もっと大きな肉を送れば良かったな」
ハハ ロ -ロ)ハ「イエイエ、それじゃ恐縮しちゃッテあまり味わえなかったと思いマス」
ζ(゚ー゚*ζ「充分堪能できましたよ。あ、ハローさん、お肉ばっかりじゃなくてお野菜も食べないと」
言いながらデレはハローの器へ野菜をよそう。
──某日昼。図書館、1階。
少人数向けのテーブルセットがいくつか置かれた区画にて、
図書館メンバー10人、プラス、デレとマニーの計12名で「食事会」が行われていた。
食事会といっても、4人ずつで一つのテーブルを囲み、
それぞれ鍋をつついているだけなのだが。
-
¥・∀・¥「しかしいいのかな、私が混じってしまって」
ハハ ロ -ロ)ハ「イイんデス、今日は逆に食材余りそうだったカラ」
──本日は元々図書館メンバーだけで、昼に鍋を食べるつもりだった。らしい。
しかしそこへデレが来て、その少し後に改めて礼をしに来たマニーも加わって、
あれよあれよという間に、気付けばこうなっていた。
たしか12時半を回って、マニーが帰宅しようと立ち上がった瞬間に彼の腹が
ぐうと鳴ったのが最終的な切っ掛けだった気がする。
あの事件以降、現実でも普通に空腹感を自覚できるようになったのだと
マニーが嬉しそうに言うから。
食事がまた楽しく感じられるようになったと言うから、
その楽しさを共有したくなったハローが内藤に「食事会」を提案したのだ。
いや、内藤が牛肉のお返しに何かご馳走したいと言い出したのが先だったか。
まあどちらにせよ、名案だろうとデレは思う。
そういうわけで、今日は臨時休館日ということにして
食事会が開かれるに至ったのである。
-
¥・∀・¥「団欒の邪魔になっていないだろうか」
ハハ ロ -ロ)ハ「邪魔なんかジャありマセンヨ。寧ろ有名な作家とゴ飯を食べられて皆はしゃいでマス。ね、ニュッ君」
( ^ν^)「ん」
ζ(゚、゚*ζ「もー、ニュッさんもお野菜食べてくださいよ」
手前のテーブルセットは、デレとハローとマニーという、
今回の事件ですっかり馴染んだメンツにニュッが1人放り込まれた形だ。
そんな状況でも遠慮せず鶏団子やイワシのつみればかり取っていくニュッにも
デレは野菜を取り分けていった。
ハハ ロ -ロ)ハ「デレ、オ母サンみたい」
¥*・∀・¥「ははは」
ハローの呟きに、マニーが口元を押さえて笑う。
「夢」の最終日のことを思い出したのか、笑い声は少し長引いた。
心の底から楽しそうに笑う姿に、デレも 思わず微笑む。
-
¥・∀・¥『──さすがに、全て解消するにはまだ時間が必要だろうけど。
少しずつ、お互いに歩み寄っていけているよ』
¥・∀・¥『昔のように仲のいい親子……には、なれなくても。
たとえ、いくらかの距離が開いたままでも。
互いの罪悪感や恐怖なんかを無くせられればいいと、そう思ってるんだ』
彼は先程、デレとハローに語ってくれた。
すっきりしたような顔だった。
¥・∀・¥『この間、べっこう飴を作って母に渡したら、笑ってくれたんだよ』
母が作るより不恰好で、苦味も強くなってしまったけれど──
そう付け足したマニーの顔が、とても嬉しそうで。
瞳が優しくて。
ようやく、デレの胸に少しだけ残っていた憂いが完全に消え去った。
もう大丈夫。彼は、彼の母の、息子であり続けられるだろう。
-
ζ(゚ー゚*ζ「モララーさん、鶏団子まだ余ってませんか?」
( ・∀・)「たくさんあるよー」
(´・_ゝ・`)「こっちのテーブル、野菜と魚ばっかり食べてるからね」
( ゚∋゚)「持ってけ持ってけ」
川д川「代わりにホタテちょうだい……」
ζ(゚ー゚*ζ「どうぞー」
真後ろのモララーへ声をかけ、食材をトレードする。
パックを開け、鍋に鶏団子を補充した。卓上コンロの火力を調節する。
くつくつ、出汁と食材が揺れる音。
-
鍋は何でもありの寄せ鍋だ。
それゆえテーブルごとに好みが出ている。
こちらはニュッとハローにより肉の消費が激しいし、
モララー達のテーブルは野菜や魚介をメインにゆっくり進み、
内藤とツンと椎出姉妹のテーブルはバランス良く、しかしハイペースに食材を継ぎ足している。
出汁の味付けもまた違う。デレ達は塩ベースで、モララー達は味噌、内藤達は醤油だ。
たまにテーブルを移動して他所の味見をしている者もいる。
-
(*゚ー゚)「金井センセー食べてるー?」
(;^ω^)「お前は関わるな! うちの品位を疑われる!」
ξ゚⊿゚)ξ「さっきブーンが席を外した隙にセクハラし尽くしてたわよ」
( ^ω^)「本当に申し訳ありませんでした」
(;´;;-`)"人 ゴメンナサイ
¥・∀・¥「いえ。私の日常ではあまり見かけないような人で面白かった」
聖人か。内藤が呟き、眩しそうに顔を背ける。
デレもちょっと感動した。まさかしぃの狼藉を純粋な気持ちで受け止めてくれる人がいるとは。
こういうたちだからこそ、全てを抱え込むことになってしまったのかもしれないが。
-
( ゚∋゚)「珍しくデミタスが大きな声出してしぃを止めてたな」
(´・_ゝ・`)「好きな作家に無礼を働くのを見ていられなかった……」
(*゚ー゚)「正直興奮した」
川д川「金井さんみたいに黙ってにこにこ笑ってるだけの方が
しぃにはこたえたと思うんだけどお……」
( ・∀・)「いや、笑ってるだけだと普通に調子乗るよしぃは」
( ^ω^)「もう黙ってろなんて贅沢は言わない。言わないから頼む、
初対面の相手には大人しくしていてくれ」
ξ゚⊿゚)ξ「初対面の女子高生の胸を掴むような人に何を言っても無駄な気がするわ」
ζ(゚、゚;ζ「嫌なことを思い出してしまった」
(*゚ー゚)「出会って4秒でセクハラがモットーです!!!!!」
( ^ν^)「捨てろそんなモットー」
-
¥・∀・¥「賑やかで楽しい図書館だね」
ハハ ロ -ロ)ハ「ココにアト2人加わるとモットうるさいんデスヨ」
(#゚;;-゚)) コクコク
今日は生憎ショボンとキュートは来ていない。
だが彼らまで来ていたら、主にショボンのせいで地獄の闇鍋と化していた可能性があるので
今回はそれで良かったかもしれない。
しかし現段階でも楽しそうに笑っている──ハロー達が作家業をしていることを暴露したので
親近感により居心地よく感じているのかもしれない──マニーを見る限り、
あの変人探偵や対クックル奇行マシーン美少女型もしっかり受け入れられるのだろうけど。
-
ハローの発言に首肯しているでぃを見て、
ふと、夢の中でしか会ったことのない「彼女」を思い出した。
でぃに姿を似せていた、彼女。
¥・∀・¥『何だか前より、元気になったかな。
今度、母に会いに行くときに連れていってみようと思う』
びぃはどうしているかというハローの問いに、マニーはそう答えていた。
僅かにではあるけれど活発さを取り戻していて、
マニーや使用人が構えば以前よりも反応を返してくれるのだそうだ。
-
ζ(゚ー゚*ζ(良かった)
最初はどうなるかと思ったが、最終的には、「本」の事件があって良かったと考えている。
あれが無ければマニーは今も過去に触れられないまま母とも食事とも距離を取り続けていただろうし、
びぃも主人である彼のことを、胸を痛めて眺めるばかりだったろう。
──だからデレは、やっぱり、この図書館で生まれた本たちが好きだ。
人間では入り込めない領域にまで踏み込める「彼ら」だからこそ、
誰かの内面に寄り添って、新たな物語を作り出し、そして新たな結末への道も開いてくれる。
全てが上手く行くとは限らないけれど、デレが関わる以上は、精一杯頑張りたいと思う。
この図書館の仲間達と一緒に。
だってデレ1人だけでは、「夢」の最終日、ハローが現れる直前のように
誤った選択をしてしまうかもしれないから。
-
ハハ*ロ -ロ)ハ「ぼちぼち、シメに入りマスかネー」
¥・∀・¥「シメ?」
ζ(´ー`*ζ「今回は中華麺を入れるみたいですよー。
食材の旨味がたっぷり溶けたお出汁が麺に絡んで、美味しいラーメンになります」
¥*・∀・¥「おお……」
-
シメに入る前に、いくつかの具を改めて味わっておく。
ζ(´ー`*ζ ホカホカー
細かく刻んだネギや蓮根を混ぜ込んだ鶏団子は、
肉の中にしゃきしゃきという歯応えがあって楽しい。
にんにくと生姜のほのかな匂いまで美味い。
つみれはイワシのすり身と生姜汁、少量の調味料と繋ぎのみで出来ているようで
シンプルにイワシの味を前面に感じられる。
鶏団子より幾らかふわふわしていて、口の中でほろっと崩れた瞬間の香味がこの上ない。
-
ζ(´ー`*ζ モクモク
他にも、煮込まれて甘みを増したキャベツや人参などの野菜、
出汁の深みを一層強くするキノコ類、
塩ベースの出汁と相性のいい、さっぱりしつつ旨味の凝縮された魚介。
個性豊かな食材を寄せ集めた、雑多とさえ言える鍋。
賑やかで、温かくて、楽しくてほっとする。
-
ζ(´ー`*ζ「美味しいね、ニュッさん」
お腹がぽかぽかして堪らなくて、何となく隣のニュッに笑いかける。
完全に気の抜けたアホ丸出しの顔だったろうなと自覚できる程度には緩みきっていた。
( ^ν^)「そうだな」
また馬鹿にされるかと思ったが、デレの顔を見たニュッも少しばかり口元を緩めて頷いたので、
まあいいか、とそのまま鍋に目を戻す。
ツンから中華麺の袋を受け取ったハローも、マニーと顔を見合わせ笑っていた。
.
-
きっと、またすぐに「本」が起こす事件が舞い込んでくるだろう。
そうでなくても、少しでも情報があれば内藤やニュッ達は本を迎えに行かなければならない。
腹が減っては戦が出来ぬと言うし、
そのときに備えて、みんなと美味しいものを食べていよう。
.
-
「本」に関わり、図書館のみんなや自分と縁を持った人達に
素晴らしい結末を迎えてもらうために。
.
-
ζ(゚ー゚*ζ あな素晴らしや、生きた本 のようです
.
-
おつ
-
番外編 あな美味しや、ゴシック小説・完食
-
乙!!番外編もとても面白かった!!
現行から追ってた作品だったので、とても印象深い作品でした!!
でもこの時間に肉はやめてくださいホントご馳走様でした
あとダメだ並走してる就職案内読みながらだとニュッくんのキャラに思わず吹き出してしまう
-
( ^ν^)「ごちそうさん」
ζ(゚ー゚*ζ「おそまつさまでした」
-
これで終わり!!! です!!!
お付き合いいただき、ありがとうございました
あとは1000行くのを祈りつつ引っ込みます
本当にありがとうございました
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盛大に乙!
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滑り込みでリクエスト拾ってもらえて本当に嬉しいです( ;∀;)
>>984
ここの発言がこのスレ全体にかかっているように感じて感無量でした
つい最近本編も全て読み返しましたが改めて超名作だと感じました、最終話はいつも号泣してしまう
とっ散らかった感想で申し訳ありませんがこの1ヶ月半ほど本当に楽しませて頂きました、次回作も心の底から楽しみにしております
乙でした!
-
昨日はキムチ鍋でした
-
乙!
たいへん美味しゅうございました……
-
ごちそうさまでした
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